説明

親水性部材及び親水性部材の製造方法

【課題】各種基材との密着性が良好で、かつ基材表面に、耐水性、防曇性、防汚性、耐候性に優れる親水性表面を付与した組成傾斜構造を有する親水性部材を提供する。
【解決手段】基材と、該基材上に設けられ、下記材料1)及び材料2)を含む膜とを有する親水性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって材料1)の比率が大きくなり、かつ、材料2)の比率が小さくなるように、材料1)及び材料2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、親水性部材。
1)酸化チタンを含有する平均一次粒子径が5nm以上1μm以下の粒子、及びシロキサン化合物を含有する親水性材料
2)エチレン性不飽和二重結合を有する化合物に由来する樹脂を含有する樹脂材料

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性部材に関し、より詳細には、基材と、該基材上に親水性材料及び樹脂材料を含み、厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって親水性材料の比率が大きくなり、かつ、樹脂材料の比率が小さくなるように、親水性材料及び樹脂材料の組成が連続的に変化した組成傾斜膜とを有する親水性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂フィルム表面を有する製品・部材は、幅広い分野で用いられ、目的に応じ加工され機能を付与した上で使用されている。但しそれらの表面は、樹脂本来の特性から、疎水性・親油性を示すものが一般的である。従って、これらの表面に汚れ物質として、油分等が付着した場合、容易に除去することができず、また蓄積することにより、該表面を有する製品・部材の機能・特性を著しく低下させることがあった。そこで、防曇性、及び防汚性等の付与を目的として、各種基材上に表面親水性機能を有する親水性部材が種々提案されている。
親水性部材としては、基材上に、親水性を示す成分を含む膜を形成したものが提案されている。
親水性を示す成分としては、光照射により高い親水性を発現する光触媒である酸化チタンや、親水性ポリマーなどが用いられている。
親水性部材における基材としては、ガラス基板や樹脂基板など種々の材料が用いられるが、特にフレキシビリティの観点などから、樹脂基板が用いられる場合、樹脂基板は疎水性であり、親水性の膜との相性は悪く、界面での剥離が起こりやすいため、密着性を付与することが難しい。
【0003】
特許文献1には、シランカップリング剤等で表面を疎水化処理した酸化チタンと、シリコーンポリマー等のバインダー成分を含む層を樹脂板上に備えた部材であって、樹脂板の内部側から表面に向かって前記酸化チタンの濃度が高くなっている部材が記載されている。
特許文献2には、アクリルシリコン樹脂等の水系樹脂と、該水系樹脂より表面エネルギーが小さいオルガノシロキサンとを含有する組成物を基材に塗布することで、オルガノシロキサンが偏在化(自己傾斜化)することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−98629号公報
【特許文献2】特開2001−335690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、表面疎水処理された酸化チタンが、スプレーコートのような塗布でも、疎水性である空気界面へ濃縮偏在化することを利用し、膜内で濃度勾配が形成される膜形成方法を開示している。
特許文献1では、樹脂板の内部側から表面に向かって前記酸化チタンの濃度が高くなっているため、樹脂板の内部側にはバインダー成分の濃度が高くなり、密着性がある程度は改良されると考えられるが、一方で、最表面へ酸化チタンが濃縮されるため、濃度勾配が不均一となり、特に酸化チタンの濃度が高い部分と低い部分の界面での密着性が不十分であるとともに、極薄い表面でも破壊を受けると親水性が発現しなくなることや、酸化チタンが表面疎水処理されているので、光照射前は疎水性であり、太陽光や室内蛍光灯のような弱い露光条件では満足できる親水性が得られないという問題がある。
特許文献2では、そもそも水系樹脂より表面エネルギーが小さいオルガノシロキサンを用いているため、高い親水性、防曇性、及び防汚性は達成できない。
また、従来技術では、前述したように、基材と膜の界面での剥離による密着性低下の問題に加え、野外などの過酷な環境下における使用で性能が低下したり、長期にわたる性能維持が困難であるという問題もある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、各種基材との密着性が良好で、かつ基材表面に、耐水性、防曇性、防汚性、及び耐候性に優れる親水性表面を付与することが可能な、組成傾斜構造を有する親水性部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のとおりである。
【0008】
[1]
基材と、該基材上に設けられ、下記材料1)及び材料2)を含む膜とを有する親水性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって材料1)の比率が大きくなり、かつ、材料2)の比率が小さくなるように、材料1)及び材料2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、親水性部材。
1)酸化チタンを含有する平均一次粒子径が5nm以上1μm以下の粒子、及びシロキサン化合物を含有する親水性材料
2)エチレン性不飽和二重結合を有する化合物に由来する樹脂を含有する樹脂材料
[2]
前記組成傾斜膜の膜厚が1μm以上であり、
前記組成傾斜膜における、材料1)と材料2)の総質量に対する材料1)の質量が占める割合を、基材に最も近い側から膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも1%以上50%以下である、上記[1]に記載の親水性部材。
[3]
前記材料1)における酸化チタンが、アナターゼ型の結晶構造を有する、上記[1]又は[2]に記載の親水性部材。
[4]
前記材料1)における酸化チタンが、光触媒酸化チタンゾルから得られたものである、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の親水性部材。
[5]
前記材料2)において、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物が、N−ビニル誘導体である、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の親水性部材。
[6]
前記材料2)において、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物が、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、アリル化合物の誘導体、及びスチレン誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物と、N−ビニル誘導体とを含む、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の親水性部材。
[7]
前記N−ビニル誘導体が、N−ビニルラクタム類である、上記[5]又は[6]に記載の親水性部材。
[8]
前記材料1)が、更にコロイダルシリカを含有する、上記[1]〜[7]のいずれか1項に記載の親水性部材。
[9]
前記1)の親水性材料及び下記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物と、活性エネルギー線の照射により前記2)の樹脂材料となる下記硬化性材料2’)を含むインク組成物の少なくとも2種のインク組成物を、インクジェット法により前記基材上に吐出する工程、及び該インクジェット法により形成された層に活性エネルギー線を照射する工程を有する、上記[1]〜[8]のいずれか1項に記載の親水性部材の製造方法。
1’)酸化チタンを含有する平均一次粒子径が5nm以上1μm以下の粒子、及び加水分解性シリル化合物を含有する親水性材料形成用組成物
2’)エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有する硬化性材料
[10]
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物と、前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物とを用い、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物を含む第1のインクを、第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物を含む第2のインクを、第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、上記[9]に記載の親水性部材の製造方法。
[11]
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量が0.3〜100pLである、上記[10]に記載の親水性部材の製造方法。
[12]
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径が1〜300μmである、上記[10]又は[11]に記載の親水性部材の製造方法。
[13]
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物と、前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物とを用い、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物を含む第1のインクと、前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、を備える、上記[9]に記載の親水性部材の製造方法。
[14]
前記形成工程において、前記選択されたインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量が0.5〜150pLである、上記[13]に記載の親水性部材の製造方法。
[15]
前記形成工程において、前記選択されたインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径が2〜450μmである、上記[13]又は[14]に記載の親水性部材の製造方法。
[16]
前記形成工程において吐出された層を半乾燥又は半硬化させる工程を有する、上記[10]〜[15]のいずれか1項に記載の親水性部材の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、従来と全く異なる発想のもと、基材と、該基材上に設けられ、特定の親水性材料1)及び樹脂材料2)を含む膜とを有し、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって親水性材料1)の比率が大きくなり、かつ、樹脂材料2)の比率が小さくなるように、親水性材料1)及び樹脂材料2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である構成を採用することにより、明確な異種の界面が存在せず、親水性(基材から最も離れた側)と基材密着性(基材に最も近い側)を高いレベルで両立する親水性部材を得ることに成功した。
【0010】
すなわち、本発明によれば、各種基材との密着性が良好で、かつ基材表面に、耐水性、防曇性、防汚性、耐候性に優れる親水性表面を付与することが可能な、組成傾斜膜を有する親水性部材及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】組成傾斜膜を備える親水性部材の模式図
【図2】組成傾斜膜を備える親水性部材の模式図
【図3】組成傾斜膜作製装置の全体構成図
【図4】組成傾斜膜作製装置の描画部の概略図
【図5】描画混合法による組成傾斜膜形成を説明するための図
【図6】描画混合法の他の実施形態を説明するための図
【図7】インク混合法の実施形態に係る組成傾斜膜作製装置の全体構成図
【図8】インク混合法による組成傾斜膜形成を説明するための図
【図9】描画混合法における各インクの着弾位置を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、基材と、該基材上に設けられ、下記材料1)及び材料2)を含む膜とを有する親水性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって材料1)の比率が大きくなり、かつ、材料2)の比率が小さくなるように、材料1)及び材料2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、親水性部材に関する。
1)酸化チタンを含有する平均一次粒子径が5nm以上1μm以下の粒子、及びシロキサン化合物を含有する親水性材料
2)エチレン性不飽和二重結合を有する化合物に由来する樹脂を含有する樹脂材料
【0013】
[親水性材料]
(酸化チタンを含有する平均一次粒子径が5nm以上1μm以下の粒子)
本発明における親水性材料は、酸化チタンを含有する平均一次粒子径が5nm以上1μm以下の粒子(以下、「酸化チタン粒子」とも)を含有する。
【0014】
本発明における酸化チタンとしては、光照射によって励起され、結合が開裂し、親水性基(水酸基)を生成し、親水性を発現するものが好ましく、結晶型の酸化チタンであることが好ましい。結晶構造としては、アナターゼ型、又はルチル型を有する酸化チタンが好ましく、親水性発現の効率が高いという理由からアナターゼ型の酸化チタンであることがより好ましい。
酸化チタンは、その結晶中、少なくとも30質量%以上がアナターゼ型結晶構造であることが好ましく、50質量%以上がアナターゼ型結晶構造であることがより好ましい。
本発明の親水性部材は、光開裂型酸化チタンを用いることで、例えばオイル汚れなどに対しても優れた防汚性を示し、更に長期にわたってその性能を持続させることができる。
【0015】
酸化チタンは、粒子形状を有していることが好ましく、光照射による表面親水化が行なわれやすいという観点から、平均一次粒子径が5nm以上1μm以下の粒子であり、5nm以上500nm以下が好ましく、5nm以上100nm以下であることがより好ましい。
【0016】
酸化チタンは、粉体又はゾル分散液の形態で用いることが好ましい。これらは市販品として入手でき、例えば、石原産業(株)、チタン工業(株)、境化学(株)、日本アエロジル(株)、日産化学工業(株)などから提供される製品が挙げられる。
【0017】
本発明において、酸化チタンとしては、粉体ではなくゾル分散液の形態であるものを使用することが好ましく、光触媒機能を発現する酸化チタンのゾル分散液(光触媒酸化チタンゾル)であることがより好ましい。
粉体の場合は、一次粒子が凝集して二次粒子を形成するため、光開裂する表面積が小さくなることがあるが、ゾルの場合、酸化チタンの粒子は凝集しないことが多く、親水性の発現性に優れるとともに、分散安定性、インクジェット法による吐出性の観点で優れる。
ここで、ゾルとは、酸化チタンの粒子が水及び/又は有機溶媒中に、好ましくは0.01〜70質量%の範囲内で一次粒子及び/又は二次粒子として分散されたものであり、より好ましくは0.1〜50質量%の範囲内で一次粒子及び/又は二次粒子として分散されたものである。
【0018】
酸化チタンゾルに使用される有機溶媒としては、例えばエチレングリコール、ブチルセロソルブ、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エタノール、メタノール等のアルコール類、トルエンやキシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等のアミド類、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化合物類、ジメチルスルホキシド、ニトロベンゼン等、更にはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0019】
酸化チタンゾル中の酸化チタンの含有率は、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下であり、更に好ましくは0.1質量%以上30質量%以下である。
【0020】
また、本発明における酸化チタン粒子は、酸化チタン以外に、他の金属元素又はその酸化物を含有してもよい。ここで、「含有」とは、粒子の表面及び/又は内部に被覆したり担持したり、あるいはドープしたりすることを含める。
【0021】
含有してもよい金属元素としては、例えば、Si、Mg、V、Mn、Fe、Sn、Ni、Mo、Ru、Rh、Re、Os、Cr、Sb、In、Ir、Ta、Nb、Cs、Pd、Pt、Au等が挙げられる。具体的には、特開平7−228738号、同7−187677号、同8−81223号、同8−257399号、同8−283022号、同9−25123号、同9−71437号、同9−70532号などに記載されている。
【0022】
本発明における酸化チタン粒子は、全固形分中、酸化チタンを90質量%以上含有することが好ましく、95質量%以上含有することがより好ましい。
【0023】
酸化チタン粒子が、光照射により表面が親水性に変換する現象の詳細は、例えば、渡辺俊也、セラミックス、31(No.10)、837(1966)などに記載されている。
照射する光としては、波長150nm以上600nm以下の光を含むことが好ましく、200nm以上500nm以下の光を含むことがより好ましい。また、照射エネルギーとしては、10mJ/h以上5000mJ/h以下が好ましく、50mJ/h以上3000mJ/h以下がより好ましい。光源としては、ブラックライト、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプを用いることもできるが、太陽光や室内蛍光灯でもよい。
【0024】
親水性材料における、酸化チタン粒子の含有率は、光触媒反応による親水化及び有機物の分解の観点から、親水性材料の全固形分中、10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上70質量%以下であることがより好ましく、30質量%以上60質量%以下であることが更に好ましい。
【0025】
(シロキサン化合物)
本発明における親水性材料は、シロキサン化合物を含有する。
シロキサン化合物としては、ケイ素原子が酸素原子を介して繋がったシロキサン結合を含有するポリシロキサン樹脂が好ましい。ポリシロキサン樹脂を用いることによって、特にゾル−ゲル法を利用して成膜することにより、膜の強度、及び前記酸化チタン粒子の均一分散性に優れる。
【0026】
ポリシロキサン樹脂は、好ましくは加水分解性シリル化合物からゾル−ゲル法で形成され、より好ましくは下記一般式(I)で示されるシリル化合物からゾル−ゲル法で形成される。
一般式(I):(RSi(Y)4−n
一般式(I)中、Rは炭化水素基又はヘテロ環基を表す。Yは水素原子、ハロゲン原子、−OR、−OCOR、又は、−N(R)(R)を表す(R、Rは、各々炭化水素基を表し、R、Rは同じでも異なってもよく、水素原子又は炭化水素基を表す)。nは0、1、2又は3を表す。
【0027】
一般式(I)中のRは、好ましくは、炭素数1〜12の置換されていてもよい直鎖状もしくは分岐状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等;これらの基に置換される基としては、ハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子、臭素原子)、ヒドロキシ基、チオール基、カルボキシ基、スルホ基、シアノ基、エポキシ基、−OR′基(R′は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘプチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、2−ヒドロキシエチル基、3−クロロプロピル基、2シアノエチル基、N,N−ジメチルアミノエチル基、2−ブロモエチル基、2−(2−メトキシエチル)オキシエチル基、2−メトキシカルボニルエチル基、3−カルボキシプロピル基、ベンジル基、等を示す)、−OCOR″基(R″は、前記R′と同一の内容を表す)、−COOR″基、−COR″基、−N(R’’’)(R’’’)(R’’’は、水素原子又は前記R′と同一の内容を表し、各々同じでも異なってもよい)、−NHCONHR″基、−NHCOOR″基、−Si(R″)基、−CONHR’’’基、−NHCOR″基、等が挙げられる。これらの置換基はアルキル基中に複数置換されていてもよい)、炭素数2〜12の置換されていてもよい直鎖状又は分岐状のアルケニル基(例えば、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基、ドデセニル基等、これらの基に置換される基としては、前記アルキル基に置換される基と同一の内容のものが挙げられる)、炭素数7〜14の置換されていてもよいアラルキル基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、3−フェニルプロピル基、ナフチルメチル基、2−ナフチルエチル基等;これらの基に置換される基としては、前記アルキル基に置換される基と同一の内容のものが挙げられ、又複数置換されていてもよい)、炭素数5〜10の置換されていてもよい脂環式基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−シクロヘキシルエチル基、2−シクロペンチルエチル基、ノルボニル基、アダマンチル基等、これらの基に置換される基としては、前記アルキル基の置換基と同一の内容のものが挙げられ、又複数置換されていてもよい)、炭素数6〜12の置換されていてもよいアリール基(例えばフェニル基、ナフチル基で、置換基としては前記アルキル基に置換される基と同一の内容のものが挙げられ、又、複数置換されていてもよい)、又は、窒素原子、酸素原子、イオウ原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含有する縮環してもよいヘテロ環基(例えば該ヘテロ環としては、ピラン環、フラン環、チオフェン環、モルホリン環、ピロール環、チアゾール環、オキサゾール環、ピリジン環、ピペリジン環、ピロリドン環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノリン環、テトラヒドロフラン環等で、置換基を含有してもよい。置換基としては、前記アルキル基中の置換基と同一の内容のものが挙げられ、又複数置換されていてもよい)を表わす。
【0028】
Yは、好ましくは、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子を表わす)、−OR 基、−OCOR基又は−N(R)(R)基を表わす。−OR 基において、R は炭素数1〜10の置換されていてもよい脂肪族基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブトキシ基、ヘプチル基、ヘキシル基、ペンチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘプテニル基、ヘキセニル基、オクテニル基、デセニル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−メトキシエチル基、2−(メトキシエチルオキソ)エチル基、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル基、2−メトキシプロピル基、2−シアノエチル基、3−メチルオキサプロピル基、2−クロロエチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロオクチル基、クロロシクロヘキシル基、メトキシシクロヘキシル基、ベンジル基、フェネチル基、ジメトキシベンジル基、メチルベンジル基、ブロモベンジル基等が挙げられる)を表す。
【0029】
−OCOR基において、Rは、Rと同一の内容の脂肪族基又は炭素数6〜12の置換されていてもよい芳香族基(芳香族基としては、前記R中のアリール基で例示したと同様のものが挙げられる)を表す。また、−N(R)(R)基において、R、Rは、互いに同じでも異なってもよく、各々、水素原子又は炭素数1〜10の置換されていてもよい脂肪族基(例えば、前記の−OR基のRと同様の内容のものが挙げられる)を表す。より好ましくは、RとRの炭素数の総和が16個以内である。一般式(I)で示されるシラン化合物の具体例としては、以下のものが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0030】
メチルトリクロルシラン、メチルトリブロムシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリt−ブトキシシラン、エチルトリクロルシラン、エチルトリブロムシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリt−ブトキシシラン、n−プロピルトリクロルシラン、n−プロピルトリブロムシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、n−プロピルトリイソプロポキシシラン、n−プロピルトリt−ブトキシシラン、n−ヘキシルトリクロルシラン、n−ヘキシルトリブロムシラン、n−へキシルトリメトキシシラン、n−へキシルトリエトキシシラン、n−へキシルトリイソプロポキシシラン、n−へキシルトリt−ブトキシシラン、n−デシルトリクロルシラン、n−デシルトリブロムシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、n−デシルトリイソプロポキシシラン、n−デシルトリt−ブトキシシラン、n−オクタデシルトリクロルシラン、n−オクタデシルトリブロムシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリイソプロポキシシラン、n−オクタデシルトリt−ブトキシシラン、フェニルトリクロルシラン、フェニルトリブロムシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリt−ブトキシシラン、テトラクロルシラン、テトラブロムシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、ジメチルジクロルシラン、ジメチルジブロムシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジクロルシラン、ジフェニルジブロムシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、フェニルメチルジクロルシラン、フェニルメチルジブロムシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、トリエトキシヒドロシラン、トリブロムヒドロシラン、トリメトキシヒドロシラン、イソプロポキシヒドロシラン、トリt−ブトキシヒドロシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリブロムシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリt−ブトキシシラン、トリフルオロプロピルトリクロルシラン、トリフルオロプロピルトリブロムシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリイソプロポキシシラン、トリフルオロプロピルトリt−ブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリt−ブトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メタアクリロキシプロピルトリt−ブトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−アミノプロピルトリt−ブトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリイソプロポキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリt−ブトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、等が挙げられる。
【0031】
一般式(I)で示されるシリル化合物からゾル−ゲル法で形成されるポリシロキサン樹脂としては、例えば、下記一般式(II)で示される様なシロキサン成分の結合を有するものが挙げられる。
【0032】
【化1】

【0033】
一般式(II)中、R01〜R03は、各々独立に、一般式(I)中の記号のRから選ばれた有機残基を表す。*は結合位置を表す。
【0034】
一般式(I)で示されるシラン化合物とともに、Ti、Zn、Sn、Zr、Al等のゾル−ゲル法で成膜可能な金属化合物を併用することができる。用いられる金属化合物として、例えば、Ti(OR(Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)、TiCl、Zn(OR、Zn(CHCOCHCOCH、Sn(OR、Sn(CHCOCHCOCH、Sn(OCOR、SnCl、Zr(OR、Zr(CHCOCHCOCH、Al(OR等が挙げられる。
【0035】
併用してもよい金属化合物は、シラン化合物に対して20モル%以内、好ましくは10モル%以内である。この範囲においてゾル−ゲル法によって作成される膜の均一性、強度等が充分に保持される。
【0036】
ポリシロキサン樹脂は、好ましくはゾル−ゲル法によって作成されるが、これは従来公知のゾル−ゲル法を用いて行なうことができる。具体的には、作花済夫「ゾル−ゲル法の科学」(株)アグネ承風社(刊)(1988年)、平島碩「最新ゾル−ゲル法による機能性薄膜作成技術」総合技術センター(刊)(1992年)等の成書等に詳細に記述の方法に従って作成できる。
【0037】
親水性材料における、シロキサン化合物の含有率は、膜強度保持と表面の親水性保持の観点から、親水性材料の全固形分中、10質量%以上70質量%以下であることが好ましく、20質量%以上60質量%以下であることがより好ましく、20質量%以上50質量%以下であることが更に好ましい。
【0038】
また、親水性材料における、前記酸化チタン粒子とシロキサン化合物の含有比は、表面親水性と膜強度両立の観点から、酸化チタン粒子/シロキサン化合物の質量比が、1/1以上4/1以下であることが好ましく、1/1以上3/1以下であることがより好ましく、1/1以上2/1以下であることが更に好ましい。
【0039】
(無機微粒子)
本発明における親水性材料は、親水性の向上や、皮膜のひび割れ防止、膜強度向上のために、無機微粒子を含有してもよい。無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、炭酸マグネシウム、アルギン酸カルシウム又はこれらの混合物が好適に挙げられる。
無機微粒子は、平均粒径が5nm〜10μmであるのが好ましく、0.5〜3μmであるのがより好ましい。上記範囲内であると、親水層中に安定に分散して、親水層の膜強度を十分に保持し、耐久性の高い親水性に優れる組成傾斜膜を形成することができる。
上述したような無機微粒子の中で、特にコロイダルシリカ分散物が好ましく、市販品として容易に入手することができる。
無機微粒子の含有量は、親水性材料の全固形分に対して、80質量%以下であるのが好ましく、50質量%以下であるのがより好ましい。
【0040】
(その他の成分)
親水性材料には、必要に応じて種々の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、高分子化合物、抗菌剤等が挙げられる。
【0041】
〔樹脂材料〕
(エチレン性不飽和二重結合を有する化合物に由来する樹脂)
本発明における樹脂材料は、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物に由来する樹脂を含有する。
【0042】
本発明における「エチレン性不飽和二重結合を有する化合物」は、活性エネルギー線により硬化可能な化合物(モノマー)であることが好ましく、「エチレン性不飽和二重結合を有する化合物に由来する樹脂」は、前記モノマーの重合体である、オリゴマー若しくはポリマー化合物を表す。
本発明における樹脂材料は、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有する硬化性材料2’)に対して、活性エネルギー線を照射することにより形成されることが好ましい。
【0043】
本発明におけるオリゴマーとは、限定的ではないが、例えば、分子量1,000〜5,000の重合体のことをいう。一方で、ポリマーとは、例えば、分子量5,000以上の重合体のことをいい、好ましくは分子量5,000〜10,000の化合物のことをいう。
【0044】
本発明でいう「活性エネルギー線」とは、その照射により開始種を発生させうるエネルギーを付与することができるものであれば、特に制限はなく、広くα線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線などを包含するものである。中でも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点からは、紫外線及び電子線が好ましく、特に紫外線が好ましい。従って、本発明に用いる硬化可能なモノマーとしては、活性エネルギー線として、紫外線を照射することにより硬化可能なモノマーであることが好ましい。
【0045】
エチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物であればどのようなものでもよく、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の化学形態を持つものが含まれる。エチレン性不飽和二重結合を有する化合物は1種のみ用いてもよく、また、目的とする特性を向上するために任意の比率で2種以上を併用してもよい。好ましくは2種以上併用して用いることが、反応性、物性などの性能を制御する上で好ましい。
【0046】
本発明においては、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、N−ビニル誘導体(好ましくはN−ビニルラクタム類)、不飽和カルボン酸(例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等)及びそれらの塩、エチレン性不飽和基を有する無水物、アクリロニトリル、スチレン、不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等のラジカル重合性化合物が好ましい。
エチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、N−ビニル誘導体、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、アリル化合物の誘導体、スチレン誘導体(好ましくはジビニルベンゼン)などがより好ましく、N−ビニル誘導体を用いることが更に好ましく、N−ビニルラクタム類を用いることが特に好ましい。その理由は、N−ビニルラクタム類は、硬化により基材との密着性が良好な樹脂を形成することに加えて、親水性材料と水素結合による相互作用で強靭なポリマーブレンド膜を形成することができると共に、硬化後生成するオリゴマー及びポリマーの柔軟性が高く、外部の衝撃や変形力に対してエネルギー緩和できるからである。
N−ビニルラクタム類の好ましい例として、下記一般式(A)で表される化合物が挙げられる。
【0047】
【化2】

【0048】
一般式(A)中、nは1〜5の整数を表す。
硬化した後の柔軟性、基材との密着性、及び、原材料の入手性の観点から、nは2〜4の整数であることが好ましく、nが2又は4の整数であるN−ビニルピロリドン又はN−ビニルカプロラクタムがより好ましく、nが4であるN−ビニルカプロラクタムであることが特に好ましい。N−ビニルカプロラクタムは安全性に優れ、汎用的で比較的安価に入手でき、特に良好な硬化性材料2’)の硬化性、及び硬化膜の基材への密着性が得られるので好ましい。
【0049】
また、上記N−ビニルラクタム類はラクタム環上にアルキル基、アリール基等の置換基を有していてもよく、飽和又は、不飽和環構造を連結していてもよい。
【0050】
硬化性材料2’)中におけるN−ビニルラクタム類の含有量は、硬化性材料2’)の全質量に対して、10質量%以上含有することが好ましい。N−ビニルラクタム類を硬化性材料2’)全体の10質量%以上含有することで、硬化性、硬化膜柔軟性、硬化膜の基材密着性に優れる硬化性材料2’)が提供できるので好ましい。硬化性材料2’)中におけるN−ビニルラクタム類のより好ましい含有量としては、30質量%以上80質量%以下の範囲内である。N−ビニルラクタム類は比較的融点が高い化合物である。80質量%以下の含有率にて、0℃以下の低温下でも良好な溶解性を示し、硬化性材料2’)の取り扱い可能温度範囲が広くなり好ましい。より好ましくは、50質量%以上80質量%以下の範囲内である。
上記N−ビニルラクタム類は硬化性材料2’)中に1種のみ含有されていてもよく、複数種含有されていてもよい。
【0051】
また、他のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物の例としては、具体的には、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、カルビトールアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、ネオペンチルグリコールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、エポキシアクリレート、フェノキシエチルアクリレート等のアクリル酸誘導体、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等のメタクリル酸誘導体、その他、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物の誘導体、ジビニルベンゼン、スチレン、ビニルトルエン、クロロメチルスチレン等のスチレン誘導体などが挙げられ、更に具体的には、山下晋三編、「架橋剤ハンドブック」、(1981年大成社);加藤清視編、「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」、79頁、(1989年、シーエムシー);滝山栄一郎著、「ポリエステル樹脂ハンドブック」、(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品若しくは業界で公知のラジカル重合性乃至架橋性のモノマー、オリゴマー、及びポリマーを用いることができる。
【0052】
本発明では、密着性の観点から、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物として、上記N−ビニルラクタム類と、N−ビニルラクタム類以外の化合物を併用することも好ましく、N−ビニルラクタム類と、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、アリル化合物の誘導体、及びジビニルベンゼンから選ばれる少なくとも1種の化合物とを併用することがより好ましく、N−ビニルラクタム類とアクリレート化合物とを併用することが更に好ましい。この場合、硬化性材料2’)中におけるN−ビニルラクタム類とそれ以外のエチレン性不飽和二重結合を有する化合物との比率(質量比)は、30:70〜70:30が好ましく、40:60〜60:40がより好ましく、55:45〜45:55が更に好ましい。
【0053】
また、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物としては、例えば、特開平7−159983号、特公平7−31399号、特開平8−224982号、特開平10−863号、特開平9−134011号等の各公報に記載されている光重合性組成物に用いられる光硬化型の重合性化合物材料が知られており、これらも本発明における硬化性材料2’)に適用することができる。
【0054】
更に、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物として、ビニルエーテル化合物を用いることも好ましい。好適に用いられるビニルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヒドロキシエチルモノビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−O−プロピレンカーボネート、ジエチレングリコールモノビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。
これらのビニルエーテル化合物のうち、硬化性、密着性、表面硬度の観点から、ジビニルエーテル化合物、トリビニルエーテル化合物が好ましく、特に、ジビニルエーテル化合物が好ましい。ビニルエーテル化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0055】
基材との密着性、膜の強度向上の観点からは、上記の化合物のうち、多官能アクリレートモノマー又は多官能アクリレートオリゴマーを用いることも好ましい。
【0056】
酸化チタン粒子は脱水縮合による架橋構造を形成し、エチレン性不飽和基の付加重合反応により架橋構造を形成することから、それぞれの架橋構造形成反応が全く別様式のため相互進入網目構造(IPN構造)を形成する。これにより、膜強度及び耐久性が向上するため好ましい。
【0057】
(光重合開始剤)
エチレン性不飽和二重結合を有する化合物の重合において、光重合開始剤を用いることが好ましい。すなわち、活性エネルギー線の照射により硬化して樹脂材料となる硬化性材料2’)には、光重合開始剤が含まれることが好ましい。
光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類、2,3−ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、ロフィンダイマー類、オニウム塩類、ボレート塩類、活性エステル類、活性ハロゲン類、無機錯体、クマリン類などが挙げられる。光重合開始剤については、特開2008−134585号公報の段落[0141]〜[0159]にも記載されており、本発明においても同様に好適に用いることができる。
【0058】
「最新UV硬化技術」{(株)技術情報協会}(1991年)、p.159、及び、「紫外線硬化システム」加藤清視著(平成元年、総合技術センター発行)、p.65〜148にも種々の例が記載されており本発明に有用である。
【0059】
市販の光開裂型の光ラジカル重合開始剤としては、BASFジャパン製の「イルガキュア651」、「イルガキュア184」、「イルガキュア819」、「イルガキュア907」、「イルガキュア1870」(CGI−403/Irg184=7/3混合開始剤)、「イルガキュア500」、「イルガキュア369」、「イルガキュア1173」、「イルガキュア2959」、「イルガキュア4265」、「イルガキュア4263」、「イルガキュア127」、“OXE01”等;日本化薬(株)製の「カヤキュアーDETX−S」、「カヤキュアーBP−100」、「カヤキュアーBDMK」、「カヤキュアーCTX」、「カヤキュアーBMS」、「カヤキュアー2−EAQ」、「カヤキュアーABQ」、「カヤキュアーCPTX」、「カヤキュアーEPD」、「カヤキュアーITX」、「カヤキュアーQTX」、「カヤキュアーBTC」、「カヤキュアーMCA」など;サートマー社製の“Esacure(KIP100F,KB1,EB3,BP,X33,KTO46,KT37,KIP150,TZT)”等、及びそれらの組み合わせが好ましい例として挙げられる。
【0060】
光重合開始剤は、重合性基を有する有機成分100質量部に対して、0.1〜15質量部の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。
【0061】
光重合開始剤に加えて、光増感剤を用いてもよい。光増感剤の具体例として、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン、ミヒラーケトン及びチオキサントンなどを挙げることができる。更にアジド化合物、チオ尿素化合物、メルカプト化合物などの助剤を1種以上組み合わせて用いてもよい。
【0062】
市販の光増感剤としては、日本化薬(株)製の「カヤキュアー(DMBI,EPA)」、BASF製の「Lucirin TPO」などが挙げられる。
【0063】
(その他の成分)
その他、樹脂材料に含ませることのできる種々の添加剤としては、親水性材料に含ませることのできる上述のその他の成分が挙げられる。
【0064】
[基材]
本発明に用いられる基材は、特に限定されないが、ガラス、プラスチック、金属、セラミックス、木、石、セメント、コンクリート、繊維、布帛、紙、皮革、それらの組合せ、それらの積層体が、いずれも好適に利用できる。さらに好ましい基材は、ガラス基板又はプラスチック基板であり、特に好ましい基材は、プラスチック基板である。
ガラス基板としては、ソーダガラス、鉛ガラス、硼珪酸ガラスなどの何れのガラスを使用しても良い。また目的に応じ、フロート板ガラス、型板ガラス、スリ板ガラス、網入ガラス、線入ガラス、強化ガラス、合わせガラス、複層ガラス、真空ガラス、防犯ガラス、高断熱Low−E複層ガラスを使用することができる。また素板ガラスのまま、前記親水層を塗設できるが、必要に応じ、親水層の密着性を向上させる目的で、片面又は両面に、酸化法や粗面化法等により表面親水化処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、グロー放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられる。粗面化法としては、サンドブラスト、ブラシ研磨等により機械的に粗面化することもできる。
【0065】
本発明に用いられるプラスチック基板としては、特に制限はないが、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルフォン、ポリエーテルケトン、アクリル、ナイロン、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン等のフィルムもしくはシートを挙げることができる。その中でも特にポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステフィルムが好ましい。なお、光学的には、透明性に優れている方が好ましい場合が多いが、用途によっては半透明、あるいは、印刷されたものも用いられる。
【0066】
基材の厚さは通常25μm〜1000μm程度のものを用いることができるが、好ましくは25μm〜250μmであり、30μm〜90μmであることがより好ましい。
基材の幅は任意のものを使うことができるが、ハンドリング、得率、生産性の点から通常は1000mm以下のものが用いられ、800mm以下であることが好ましく、600mm以下であることが更に好ましい。基材はロール形態の長尺で取り扱うことができ、通常200m以内、好ましくは100m以内のものである。
基材の表面は平滑であることが好ましく、平均粗さRaの値が1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることが好ましく、0.7μm以下であることが更に好ましい。
【0067】
[組成傾斜膜]
本発明の親水性部材は、基材上に設けられ、前記親水性材料1)及び前記樹脂材料2)を含む膜であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって親水性材料1)の比率が大きくなり、かつ、樹脂材料2)の比率が小さくなるように、親水性材料1)及び樹脂材料2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜を有する。
【0068】
本発明における組成傾斜膜の膜厚は、特に限定されることはないが、1μm以上が好ましく、1μm〜20μmがより好ましく、3μm〜10μmが更に好ましい。この範囲であれば、良好な親水性を示す親水性部材を得ることができる。
本発明の親水性部材は、前記組成傾斜膜の表面の水滴接触角が、5°以下であることが好ましく、3°以下であることがより好ましく、1°以下であることが更に好ましい。
【0069】
図1に、本発明で形成される親水性部材に含まれる組成傾斜膜の断面を模式的に示す。
本発明に係る親水性部材1は、基材2上に組成傾斜膜3からなるパターンを有する。組成傾斜膜3は、その厚み方向において基材2に最も遠い側Aから基材2に最も近い側Bに向かって(即ち、図1中の矢印の方向に)、親水性材料1)から樹脂材料2)に連続的に組成が変化している。
ここで、「厚み方向」とは組成傾斜膜3の「膜厚方向」を意味する。
「厚み方向において親水性材料1)から樹脂材料2)に連続的に組成が変化する」とは、厚み方向に組成傾斜膜をある厚み(例えば、0.1〜5μm)の領域毎に区切り、各領域での樹脂材料2)と親水性材料1)の総質量に対する樹脂材料2)の質量が占める割合(以下、「樹脂の含有率」ともいう。)を測定したときに、隣接する領域間の樹脂の含有率の差が50%以下、好ましくは30%以下であることを意味する。隣接する領域間の樹脂の含有率の差が50%以下になると、樹脂の含有率の変化が段階的ではなくなり、高い密着性及び親水性を得ることができる。なお、ある2つの隣接する領域間の樹脂の含有率の差が0%であってもよい。
組成傾斜膜3の基材に最も遠い側Aにおける樹脂の含有率(例えば、Aから厚み0.1〜5μmまでの領域における樹脂の含有率)は、高い親水性を得る観点から、0〜50%であることが好ましく、0〜30%であることがより好ましく、実質的に0%(0〜0.2%)であることが更に好ましい。また、基材から最も近い側Bにおける樹脂の含有率(例えば、Bから厚み0.1〜5μmまでの領域における樹脂の含有率)は、高い密着性を得る観点から、50〜100%であることが好ましく、70〜100%であることがより好ましく、実質的に100%(99〜100%)であることが更に好ましい。
【0070】
本発明の組成傾斜膜における、樹脂材料2)と親水性材料1)の総質量に対する樹脂材料2)の質量が占める割合を、基材側より膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも1%以上50%以下であることが好ましく、1%以上40%以下であることがより好ましく、1%以上30%以下であることが更に好ましい。また、親水性材料1)の質量が占める割合についても、上記と同様である。
【0071】
各領域における樹脂の含有率は、例えば、XPSの深さ方向プロファイルにより求めることができる。
【0072】
組成傾斜膜3の構成は、上記のように樹脂の含有率の連続的変化があれば、特に限定されないが、図2に示すような樹脂の含有率の異なる複数の層が積層した構成を好ましい例として挙げられる。
図2に示す親水性部材1aは、基材2上に組成傾斜膜3を有し、該組成傾斜膜3は、樹脂の含有率の異なる複数の層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5を有する。層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5は、基材2に最も遠いA側の層3−5から基材2に最も近いB側の層3−1に向かって(即ち、図2中の矢印の方向に)、樹脂の含有率が0%〜100%の範囲内で連続的に大きくなっている。
良好な密着性及び親水性を得る上で、層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5のうち、隣り合う2層の樹脂の含有率の差は50%以下であり、好ましくは30%以下である。また、基材2に最も遠いA側の層3−5の樹脂の含有率は0%〜20%であることが好ましく、0%〜15%であることがより好ましい。基材2に最も近いB側の層3−1の樹脂の含有率は80%〜100%であることが好ましく、85%〜100%であることがより好ましい。
図2では、層3−1、3−2、3−3、3−4、3−5の5層を積層して組成傾斜膜3を形成しているが、積層する層の数は特に限定されない。好ましくは3〜10層であり、より好ましくは3〜7層である。また、各層の厚みは0.1μm〜5μmが好ましく、0.3μm〜3μmがより好ましい。各層の厚みは実質的に等しい(厚みの誤差が±0.5μmの範囲)ことが好ましい。
なお、層間の界面が明確でない場合には、組成傾斜膜3の厚み方向において厚み0.1μm〜5μmで区切った領域を「層」とみなしてもよい。
各領域における樹脂の含有率は、例えば、XPSの深さ方向プロファイルにより求めることができる。
【0073】
〔親水性部材の製造方法〕
本発明は、前記1)の親水性材料及び下記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物と、活性エネルギー線の照射により前記2)の樹脂材料となる下記硬化性材料2’)を含むインク組成物の少なくとも2種のインク組成物を、インクジェット法により前記基材上に吐出する工程、及び該インクジェット法により形成された層に活性エネルギー線を照射する工程を有する、親水性部材の製造方法にも関する。
1’)酸化チタンを含有する平均一次粒子径が5nm以上1μm以下の粒子、及び加水分解性シリル化合物を含有する親水性材料形成用組成物
2’)エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有する硬化性材料
上記1’)の親水性材料形成用組成物は、基材上に吐出された後に、加水分解性シリル化合物が、ゾル−ゲル法などにより加水分解、縮合を経て、シロキサン化合物となるため、前記1)の親水性材料となる。
以下、本発明で使用するインクについて説明する。
【0074】
(インク組成物)
本発明で使用するインク組成物は、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含有するインク組成物と、前記2’)の硬化性材料を含有するインク組成物とに大別される。インク組成物は、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種、前記2’)の硬化性材料以外に、溶媒、バインダー成分、その他の添加剤を含んでもよい。
当該インク組成物は単独でインクとして使用してもよく、2種以上のインク組成物を混合しインクとして使用してもよい。
【0075】
(インク)
本発明で使用するインクとして、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含有するインク組成物を含むインク(「親水性インク」ともいう。)と、前記2’)の硬化性材料を含有するインク組成物を含むインク(「樹脂インク」ともいう。)とを、それぞれ独立した2種以上のインクとして使用してもよいし、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含有するインク組成物を含むインクと、前記2’)の硬化性材料を含有するインク組成物を含むインクとを、混合してなる混合インクとして使用してもよい。
該インクは、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種、前記2’)の硬化性材料以外に、溶媒、バインダー成分、その他の添加剤を含んでもよい。
【0076】
(溶媒)
本発明に係るインク組成物は、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種、前記2’)の硬化性材料と溶媒とを混合して調製する。
溶媒としては、水、有機溶媒から適宜選択して用いることができ、沸点が50℃以上の液体であることが好ましく、沸点が60℃〜300℃の範囲の有機溶媒であることがより好ましい。
溶媒は、インク組成物中の固形分濃度が1〜70質量%となる割合で用いることが好ましい。更には、5〜60質量%が好ましい。この範囲において、得られるインクは作業性良好な粘度の範囲となる。
【0077】
溶媒としては、水、アルコール類、ケトン類、エステル類、ニトリル類、アミド類、エーテル類、エーテルエステル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類等が挙げられる。
具体的には、アルコール(例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノアセテート、クレゾール等)、ケトン(例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等)、エステル(例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、蟻酸エチル、蟻酸プロピル、蟻酸ブチル、乳酸エチル等)、脂肪族炭化水素(例えばヘキサン、シクロヘキサン)、ハロゲン化炭化水素(例えばメチレンクロライド、メチルクロロホルム等)、芳香族炭化水素(例えばトルエン、キシレン等)、アミド(例えばジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、n−メチルピロリドン等)、エーテル(例えばジオキサン、テトラハイドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル等)、エーテルアルコール(例えば、メトキシエタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、エチルセルソルブ、メチルカルビノール等)、フルオロアルコール類(例えば、特開平8−143709号公報 段落番号[0020]、同11−60807号公報 段落番号[0037]等に記載の化合物)が挙げられる。
これらの溶媒は、それぞれ単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0078】
親水性インクにおける溶媒としては、相溶性、揮発性、インクジェット適合性の観点から、水、アルコール類、ケトン類、エステル類、ニトリル類、アミド類、エーテル類、エーテルエステル類が好ましく、アルコール類がより好ましく、アルコール、エーテルアルコールが特に好ましい。
【0079】
樹脂インクにおける溶媒としては、樹脂溶解性、揮発性、インクジェット適合性の観点から、アルコール類、ケトン類、エステル類、ニトリル類、アミド類、エーテル類、エーテルエステル類、炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類が好ましく、アミド類がより好ましい。
樹脂インクにおいては、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物が溶媒の役割を果たすことができる場合は、溶媒を用いなくてもよい。
【0080】
(添加剤)
本発明に係るインク組成物には、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種、前記2’)の硬化性材料の他、表面張力調整剤、防汚剤、耐水性付与剤、耐薬品性付与剤等の他の添加剤を含むことができる。
【0081】
(インク物性)
本発明に係るインクの粘度は、成膜時の均一性、インクジェット吐出時の安定性、インクの保存安定性の観点から、5〜40cPが好ましく、5〜30cPがより好ましく、8〜20cPが更に好ましい。
また、インクの表面張力は、成膜時の均一性、インクジェット吐出時の安定性、インクの保存安定性の観点から、10〜40mN/mが好ましく、15〜35mN/mがより好ましく、20〜30mN/mが更に好ましい。
【0082】
(インクジェット法による組成傾斜膜の作成)
以下、本発明のインクジェット法による組成傾斜膜の作成について説明する。
本発明においては、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含有するインク組成物を含むインクと、前記2’)の硬化性材料を含有するインク組成物を含むインクとをそれぞれ独立した2種以上のインクとしてをインクジェット法により基材上に吐出するか、親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと、硬化性材料2’)を含有するインク組成物を含むインクとを混合してなる混合インクをインクジェット法により基材上に吐出する。
インクジェット法を用いることで、厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって親水性材料1)の比率が大きくなり、かつ、樹脂材料2)の比率が小さくなるように、親水性材料1)及び樹脂材料2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜を形成することができる。特に、インクジェット法によれば、組成傾斜膜の厚み方向において親水性材料1)及び樹脂材料2)の濃度勾配が均一になるように(厚み方向に一定の比率の濃度勾配を持つように)制御することができる。例えば、空気界面側の表面に酸化チタンが濃縮するなどの、濃度勾配が不均一となる場合は、その不均一な箇所から剥離などが起こることが考えられるが、本発明においては、インクジェット法により組成傾斜膜を形成するため、密着性、耐水性、耐候性などを更に向上させることができると考えられる。
【0083】
インクジェット法としては、インクジェットプリンターにより画像記録を行う方法であれば、インクジェットの記録方式に制限はなく、公知の方式、例えば静電誘引力を利用してインク組成物を吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインク組成物に照射して放射圧を利用してインク組成物を吐出させる音響インクジェット方式、及びインク組成物を加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット(バブルジェット(登録商標))方式等に用いられる。
インクの液滴の制御は主にプリントヘッドにより行われる。例えばサーマルインクジェット方式の場合、プリントヘッドの構造で打滴量を制御することが可能である。すなわち、インク室、加熱部、ノズルの大きさを変えることにより、所望のサイズで打滴することができる。またサーマルインクジェット方式であっても、加熱部やノズルの大きさが異なる複数のプリントヘッドを持たせることで、複数サイズの打滴を実現することも可能である。ピエゾ素子を用いたドロップオンデマンド方式の場合、サーマルインクジェット方式と同様にプリントヘッドの構造上打滴量を変えることも可能であるが、ピエゾ素子を駆動する駆動信号の波形を制御することによっても、同じ構造のプリントヘッドで複数のサイズの打滴を行うことができる。
【0084】
インクの基材上への吐出方法(描画方法)としては、親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと樹脂材料を含有するインク組成物を含むインクとを別々のインクジェットヘッドに供給し、両者の吐出量の比率を調節しながら、同時に吐出させて基材上で混合させる描画混合法が挙げられる。また、それとは別の方法としては、予めインクを親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと樹脂材料を含有するインク組成物を含むインクとを混合させた混合インクで両者の比率が異なるものを複数種類調製したものをインクジェットヘッドに供給し、ヘッドを順番に選択して、親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと、樹脂材料を含有するインク組成物を含むインクとの比率が異なる混合インクを順次吐出させて描画する混合インク法が挙げられる。
【0085】
(インクの調製)
後述する描画混合法に用いられる、親水性材料を含有するインク組成物を含むインクと、樹脂材料を含有するインク組成物を含むインクの調製について説明する。
前記インクは、各材料を混合することで調製することができる。各材料を混合する際には攪拌機により攪拌してもよい。攪拌時間は特に限定されないが、通常30分〜60分であり、30分〜40分が好ましい。また混合する際の温度は、通常10℃〜40℃であり、20℃〜35℃が好ましい。
後述するインク混合法においては、上述のように調製したインクを混合して用いることができる。
【0086】
〜描画混合法〜
本発明の方法としては、基材と、該基材上に設けられ、前記親水性材料1)及び樹脂材料2)を含む膜とを有する親水性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ、2)の比率が小さくなるように、1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、本発明の親水性部材の形成方法であって、
前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物と、前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物の少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出する、親水性部材の形成方法において、
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物と、前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物とを用い、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物を含む第1のインクを、第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物を含む第2のインクを、第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する方法が好ましい。
【0087】
上記描画法によれば、第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの吐出量と第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの吐出量との比率を決定し、決定された比率にしたがってインクを吐出させて1つの層を形成する工程を繰り返して基材上に複数の層を積層し、この複数の層が上層にいくほど前記第1のインクの吐出量の比率が大きい層であって前記第2のインクの吐出量の比率が小さい層となるようにすることで、インクジェット方式の技術を用いて組成傾斜膜を製造することができる。
なお、本発明は、上記描画法によって形成される親水性部材にも関する。
【0088】
〜描画混合法による実施形態〜
図3は、描画混合法に係る組成傾斜膜作製装置100の全体構成図であり、図4は、組成傾斜膜作製装置100の描画部10の概略図である。これらの図に示すように、組成傾斜膜作製装置100は、描画部10を含んで構成され、描画部10は、フラットベッドタイプのインクジェット描画装置が用いられている。詳細には、描画部10は、基材である基材が載置されるステージ30、ステージ30に載置された基材を吸着保持するための吸着チャンバー40、基材20に向けて各インクを吐出するインクジェットヘッド50A(以下、インクジェットヘッド1)及びインクジェットヘッド50B(以下、インクジェットヘッド2)を含み構成されている。
【0089】
ステージ30は、基材20の直径よりも広い幅寸法を有しており、図示しない移動機構により水平方向に自在に移動可能に構成されている。移動機構としては、例えばラックアンドピニオン機構、ボールネジ機構等を用いることができる。ステージ制御部43(図4では不図示)は、移動機構を制御することにより、ステージ30を所望の位置に移動させることができる。
【0090】
また、ステージ30の基材保持面には多数の吸引穴31が形成されている。ステージ30下面には吸着チャンバー40が設けられており、この吸着チャンバー40がポンプ41(図4では不図示)で真空吸引されることによって、ステージ30上の基材20が吸着保持される。また、ステージ30はヒータ42(図4では不図示)を備え、ヒータ42によりステージ30に吸着保持された基材20を加熱することが可能である。
【0091】
インクジェットヘッド1及び2は、インクタンク60A(以下、インクタンク1)及びインクタンク60B(以下、インクタンク2)から供給されるインクを基材20の所望の位置に対して吐出するものであり、ここではピエゾ方式のアクチュエータを持つヘッドを用いている。インクジェットヘッド1と2とは、図示しない固定手段により、それぞれができるだけ近づけて配置されて固定されている。
【0092】
インクタンク1及び2からインクジェットヘッド1及び2に供給されるインクを、それぞれインク1、インク2とする。本発明においては、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含有するインク組成物を含むインクをインク1とし、前記2’)の硬化性材料を含有するインク組成物を含むインクをインク2とする。
【0093】
〔描画混合法による組成傾斜膜の作成〕
このように構成された組成傾斜膜作製装置100を用いた組成傾斜膜の作成について、図5を用いて説明する。
【0094】
まず、窒素雰囲気中に置かれた描画部10のステージ30上に、基材20を載置する。基材20は、裏面がステージ30に接するように載置される。そして、吸着チャンバー40により、基材20のステージ30への吸着及び加熱を行う。ここでは、基材20を70℃に加熱することが好ましい。
【0095】
次に、吸着・加熱された基材20上に、インクジェットヘッド2から供給されるインク(インク2)を1層若しくは数層分積層して24−1を形成する。このインク2の積層は、図5(a)に示すように、移動機構によりステージ30を移動させながら(図では左方向に移動)、インクジェットヘッド2によりインク2を吐出する。ここでは、インクジェットヘッド1からはインクの吐出を行わない。
【0096】
(乾燥工程、活性エネルギー線を照射する工程)
このように形成したインク2の層24−1を、インク2中の溶媒成分を完全には蒸発しない程度に乾燥(半乾燥・半硬化)させることが好ましい。具体的には、通常に乾燥させるとき(全乾燥・全硬化)に与えるエネルギーよりも少ないエネルギーで乾燥を行う。
なお、本明細書において、「半乾燥」及び「全乾燥」には、本発明に係るインクとしてゾルゲル硬化型組成物など硬化型組成物を用いた場合の「半硬化」及び「全硬化」の意も含むものとする。
半硬化状態では、樹脂インクに含まれるエチレン性不飽和二重結合を有する化合物が十分に硬化していない状態となる。
すなわち、前記形成工程において吐出された層を半硬化させる工程を有することが好ましく、半硬化させるためには、活性エネルギー線の照射例えばメタルハライドランプ使用)は、、積算露光量が50〜1000mJ/cmが好ましく、100〜750mJ/cmがより好ましい。
本発明においては、上記のとおり、前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有することが好ましく、半乾燥させるためには、例えば、インク吐出終了後、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。
【0097】
次に、半乾燥状態となったインク2の層24−1の上に、インク1とインク2との混合層24−2を形成する。この混合層24−2の形成は、図5(b)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド1によりインク1を吐出し、同時にインクジェットヘッド2によりインク2を吐出して行う。このとき、インク1の吐出量とインク2の吐出量を、所望の比率に調整する。ここでは、インク2の吐出量が75%、インク1の吐出量が25%となるように、インクジェットヘッド1と2の各ノズルの吐出量を調整して吐出している。なお、本明細書におけるインクの「吐出量」とは、各層を形成するために吐出されるインクの全量を意味する。一方、後述する、インクジェットヘッドより吐出されるインク滴の「液滴量」は1つのインク液滴の量である。
【0098】
なお、インクジェットヘッド1及び2からのインクの吐出量の比率の調整は、描画のドットピッチ密度によって調整してもよい。例えば、インクジェットヘッド1と2の各ノズルの吐出量を一定としたまま、インクを吐出するノズルの数をインクジェットヘッド1と2とを25:75となるように制御することにより、吐出量の比率の調整を行うことも可能である。
【0099】
インク吐出後、図5(c)に示すように、それぞれの吐出量で吐出されたインク1とインク2とを拡散混合することにより、混合層24−2が積層される。インク1の層24−1は半乾燥状態となっているため、その上に形成された混合層24−2のインクの溶媒はインク1の層24−1に受容されて、極端にぬれ広がることがない。即ち、ヒータ42による加熱温度は、インクの蒸発のしやすさにより調整する必要がある。溶媒の種類によっては、前述した70℃より低い温度、例えば基板の温度を50℃程度にして描画してもよい。
すなわち、前記形成工程において、吐出された前記第1のインクと前記第2のインクを拡散混合させる工程を有することが好ましい。拡散混合させる方法としては、加熱による対流を利用する方法や超音波を利用する方法などが挙げられる。
【0100】
また、2つのインクジェットヘッドはできるだけ近づけて配置されており、一方のインクだけが乾燥して両インクの層内での混合が不十分になることが防止されている。なお、2つのインクを同時に吐出する際、インクジェットヘッド1から吐出されるインク1の液滴とインクジェットヘッド2から吐出されるインク2の液滴とを、飛翔中に空中で衝突させ、混合させてから着弾するようにしてもよい。
【0101】
更に、詳細は後述するが、2つのインクジェットヘッドはそれぞれの幅を対象基材の幅(短い方)よりも大きく構成し、1回の走査で1つの層を形成することが好ましい。これにより、インク1とインク2とが混ざりやすくなる。
【0102】
また、インクの混合を促進するために、ステージ30を制御して基材20を超音波処理してもよい。このとき、超音波による節が発生しにくくなるように、超音波の周波数をスイープさせたり、基材20の位置を変更しながら行うことが好ましい。
【0103】
このように形成した混合層24−2を、インク2の層24−1と同様に半乾燥状態にすると、混合層24−2は量の比率が75:25で、インク2に含まれる硬化性材料とインク1に含まれる親水性材料とが混合して積み重なっている状態となる。
【0104】
次に、混合層24−2の上に混合層24−3を形成する。この混合層24−3の形成についても、図5(d)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド1とインクジェットヘッド2とにより同時にインクを吐出する。ここでは、インク1、インク2をともに50%の吐出量の比率で吐出している。
【0105】
混合層24−2についても半乾燥状態となっているため、その上に形成された混合層24−3のインクの溶媒は、混合層24−2に受容される。インク吐出後、図5(e)に示すように、2つのインクを拡散混合することにより、混合層24−3が積層される。
【0106】
更に、混合層24−3についてもインク2の層24−1と同様に半乾燥させる。混合層24−3は量の比率が50:50で、インク2に含まれる硬化性材料とインク1に含まれる親水性材料とが混合して積み重なっている状態となる。
【0107】
このように、インク1とインク2の吐出量の比率を段階的に(傾斜するように)変更しながら各混合層を形成し、最後にインク1の吐出量が100%の層を形成する。
【0108】
全ての層の形成終了後、各層の拡散が進み、段階的に形成した層が連続的になる。その結果、図1に示すように、組成成分比が膜厚方向において、B側からA側にかけてインク2が100%からインク1が100%となる組成傾斜膜3が形成される。
【0109】
このように、下の層を半乾燥状態として上の層を形成することにより、その上下の層において、拡散がある程度進むようにしておく。このとき、上下の層の界面が無くなり、完全に混合して上下層の区別が無くなるような状態とはならないようにすることが好ましい。
【0110】
なお、各層の形成が終わったあとに、組成傾斜膜の機能していない領域にダミーパターンを積層し、レーザを用いた光学式変位センサ等によりダミーパターンの高さを測定してもよい。乾燥が進んでおらず、溶媒が残っている状態では、膜厚が高くなることから、ダミーパターンの高さにより乾燥状態を検出することができる。
【0111】
以上説明したように、インクジェットヘッドを用いて組成傾斜膜を形成することができる。また、本実施形態の描画混合法によれば、形成する層の数にかかわらず、インクの種類とインクジェットヘッドの個数が少なくて済むという利点がある。インク1とインク2との混合層は、それぞれのインクの混合比率が段階的に傾斜されるように形成されれば、何層積層してもよい。
【0112】
また、各層の形成工程において、第1のインクジェットヘッド及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量は膜厚制御及び細線形成性の観点から、0.3〜100pLとすることが好ましく、0.5〜80pLがより好ましく、0.7〜70pLが更に好ましい。
各層の形成工程において、第1のインクジェットヘッド及び第2のインクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径は膜厚制御及び細線形成性の観点から、1〜300μmとすることが好ましく、5〜250μmがより好ましく、10〜200μmが更に好ましい。
更に、各層の形成工程において、第1のインクと第2のインクのうち吐出量の比率が小さい方のインクについて、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液適量及び液滴径の少なくとも一方を前記比率が大きなインクより小さくすることが好ましい。例えば、前記比率が小さなインクのインク滴が0.3〜60pLであり、前記比率が大きなインクのインク滴が1〜100pLであることが好ましい。これにより、拡散混合する時間を短くしたり、混合の均一性を向上することができる。
なお、インク滴の「液滴径」とは、液滴直径の長さを意味し、インクジェット吐出時の飛翔状態写真から測定することができる。
【0113】
本実施形態では、B側からA側にかけてインク2が100%からインク1が100%となる組成傾斜膜3を形成したが、B側又はA側においてインク2又はインク1が100%となるよう製膜する必要性は必ずしもなく、組成傾斜膜3が得られる範囲のものであれば、B側又はA側におけるインク2又はインク1の比率を任意に変更することができる。
上記B側又はA側にけるインク2又はインク1の比率は、得ようとする組成傾斜膜の密着性や親水性等の特性により、適宜調節することが可能である。
【0114】
また、本実施形態では、インクジェットヘッド1とインクジェットヘッド2とにおいて同時にインクを吐出して各層を形成したが、順に吐出してもよい。
【0115】
例えば、混合層24−2を形成する場合に、図6(a)に示すように、まずインクジェットヘッド2によりインク2層24−1の上の全面にインク2を吐出する。次に、図6(b)に示すように、インクジェットヘッド1によりインク1を全面に吐出する。その後、図6(c)に示すように、それぞれのインクを拡散混合することで、同様に混合層24−2を形成することができる。
【0116】
このように、それぞれのインクを順に吐出して1つの層を形成する場合であって、2つのインクの吐出量に差がある場合、即ち2つのインクの吐出量の比率が50%ずつでない場合は、吐出量の多い方のインクを先に吐出するように構成してもよい。特に、先に吐出するインクの乾燥が激しい場合等は、量が少ないほど乾燥が早まるため、多い方のインクを先に吐出することが好ましい。これにより、2種類のインクの混合をスムーズに進ませることができる。
【0117】
更にこの場合、後から吐出することになる吐出量の少ない方のインクについては、小さい液滴(液適量が少ない又は液滴径が小さい)によってドットピッチ密度を高くして吐出してもよい。これにより、拡散混合する時間を短くすることができる。
【0118】
また、先に吐出したインクを着弾させた位置に、後から吐出するインクを重ねて着弾させるようにしてもよい。特に間歇打ちを行ってドットとドットが離れている場合に、同じ位置に乾燥させる前に着弾させると、それぞれのインクの混合がしやすくなる。
【0119】
例えば、混合層24−2を形成する際に、1回目の走査でインクジェットヘッド2によりインク2を間歇打ちにより吐出したとする。図9(a)は、インク1層24−1上に着弾したインク2(24−2−B−1)を示す。
【0120】
次に、2回目の走査でインクジェットヘッド1によりインク1を間歇打ちにより吐出する。このとき、インクジェットヘッド1は、図9(b)に示すように、吐出されたインク1(24−2−A−1)が、1回目の走査で着弾されているインク2(24−2−B−1)と同じ位置に重ねて着弾するように吐出する。
【0121】
更に、3回目の走査でインクジェットヘッド2によりインク2が間歇打ちされる。図9(c)は、インク2(24−2−B−1)の間に着弾されたインク2(24−2−B−2)を示す。
【0122】
その後、4回目の走査では、インクジェットヘッド1により、インク1がインク2(24−2−B−2)と同じ着弾位置に重ねて着弾されるように吐出される。図9(d)に示すように、吐出されたインク1(24−2−A−2)が、2回目の走査で着弾されているインク2(24−2−B−2)と同じ位置に重ねて着弾するように吐出する。
【0123】
以後同様に、インク1の層24−1の全面にインクを吐出し、その後拡散混合させる。
このように吐出することにより、混合層24−2を形成する際の拡散混合の時間を短縮することができる。
【0124】
また、一方のインクの乾燥が速い場合は、そのインクを後から吐出するようにしてもよい。
【0125】
また、本実施形態では、インク1とインク2の2つの純インクを用いて各混合層を形成したが、これらを混合したインクを併用してもよい。例えば、2つの純インクと、インク1とインク2との混合比率が50:50の混合インクとの3種類のインクを同時に用いて混合層を形成することが考えられる。混合インクの分だけインクジェットヘッドの数が増加するが、混合インクは予め2つの純インクが十分混合されているため、インク吐出後の拡散混合に要する時間を短縮することができる。
【0126】
〜インク混合法〜
本発明の方法としては、基材と、該基材上に設けられ、前記親水性材料1)及び樹脂材料2)を含む膜とを有する親水性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって1)の比率が大きくなり、かつ、2)の比率が小さくなるように、1)及び2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、本発明の親水性部材の形成方法であって、
前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物と、前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物の少なくとも2種のインク組成物をインクジェット法により前記基材上に吐出する、親水性部材の形成方法において、
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物と、前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物とを用い、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物を含む第1のインクと、前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、を備える方法が好ましい。
【0127】
上記方法によれば、第1のインクと第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクをそれぞれのインクジェットヘッドに供給し、第1のインクの比率の低い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に混合インクを吐出させて各層を形成し、基材上に複数の層を積層するようにしたので、インクジェット方式の技術を用いて組成傾斜膜を製造することができる。
なお、本発明は、上記描画法によって形成される親水性部材にも関する。
【0128】
〜インク混合法による実施形態〜
【0129】
図7は、第2の実施形態に係る組成傾斜膜作製装置101の全体構成図である。同図に示すように、本実施形態に係る組成傾斜膜作製装置101は描画部11を備え、描画部11は、5種類のインクを貯蔵するインクタンク60−1〜60−5と、各インクタンクからインクが供給されるインクジェットヘッド50−1〜50−5を備えている。各インクジェットヘッド50−1〜50−5は、各インクタンク60−1〜60−5から供給されるインクを基材20に対して吐出する。
【0130】
各インクタンク60−1〜60−5から各インクジェットヘッド50−1〜50−5に供給されるインクは、インク1とインク2との混合比率がそれぞれ0:100、25:75、50:50、75:25、100:0となっている。即ち、インクタンク60−1からはインク2の純インクが、インクタンク60−5からはインク1の純インクが、60−2〜60−4からはインク1とインク2とが所定の比率で混合された混合インクが供給される。
【0131】
〔インク混合法による組成傾斜膜の作成〕
描画混合法による実施形態と同様に、ステージ30上に基材20を載置し、吸着及び加熱を行う。
【0132】
次に、吸着・加熱された基材上に、インク2を1層若しくは数層分積層してインク2の層28−1を形成する。このインク2の積層は、図8(a)に示すように、移動機構によりステージ30を移動させながら(図では左方向に移動)、インクジェットヘッド50−1により基材に対してインクタンク60−1から供給されるインク(インク1とインク2との混合比率が0:100のインク)を吐出する。このとき、その他のインクジェットヘッド50−2〜50−5からはインクの吐出を行わない。
【0133】
したがって、このように形成されたインク2の層28−1は、図5に示すインク2の層24−1と同様の層となる。ここで、インク2中の溶媒が蒸発する程度に乾燥(半乾燥・半硬化)させると、インク1に含まれる親水性材料が積み重なっている状態となる。
インク混合法においても、前記形成工程において吐出された層を半乾燥させる工程を有することが好ましく、半乾燥させるためには、例えば、インク吐出終了後、40〜120℃の環境温度に一定時間保持することが好ましく、50〜100℃の環境温度に一定時間保持することが好ましい。該保持する時間としては、10〜120秒が好ましく、20〜90秒がより好ましい。
【0134】
次に、インク2の層28−1の上に、インクジェットヘッド50−2によりインクタンク60−2から供給される混合インク(インク1とインク2との混合比率が25:75の混合インク)を吐出して、混合層28−2を形成する。
【0135】
混合層28−2の形成は、図8(b)に示すように、ステージ30を移動させながら、インクジェットヘッド50−2により混合インクを吐出する。描画混合法による実施形態と同様に、インク2の層28−1が半乾燥状態であるため、その上に形成された混合層28−2のインクの溶媒がインク2の層28−1に受容されて、極端にぬれ広がることがない。したがって、加熱温度はインクの蒸発のしやすさにより調整する必要がある。
【0136】
この混合層28−2についても半乾燥させることで、混合層28−2は、インク1に含まれる親水性材料及び、インク2に含まれる硬化性材料が積み重なっている状態となる。
【0137】
更に、混合層28−2の上に、インクジェットヘッド50−3(図8には不図示)によりインクタンク60−3から供給される混合インク(インク1とインク2との混合比率が50:50の混合インク)を吐出して、混合層28−3を形成する。
【0138】
混合層28−2が半乾燥状態であるため、その上に形成された混合層28−3のインクの溶媒は、混合層28−2に受容される。更に、混合層28−3についても半乾燥させる。
【0139】
このように、各混合インクをインク2の混合比率が多い順(インク1の混合比率が少ない順)に吐出して各混合層(28−2〜28−4)を積層し、最後にインクジェットヘッド50−5によりインクタンク60−5から供給されるインク1(インク1とインク2との混合比率が100:0のインク)を吐出して、インク1が100%の層28−5(インク1の層)を形成する(図8(c))。
【0140】
全ての層を形成終了後、図1に示すように、組成成分比が膜厚方向において、B側からA側にかけてインク2が100%からインク1が100%の組成成分比を有する組成傾斜膜3が形成される。
【0141】
また、各層の形成工程において、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴の量は安定吐出の観点から、0.5〜150pLとすることが好ましく、0.7〜130pLがより好ましく、1〜100pLが更に好ましい。
各層の形成工程において、インクジェットヘッドから吐出するインク滴の液滴径は良好な膜形成性の観点から、2〜450μmとすることが好ましく、5〜350μmがより好ましく、10〜250μmが更に好ましい。
【0142】
以上説明したように、混合インクを用いて、組成傾斜膜を形成することができる。本実施形態のインク混合法によれば、インクの段階で充分に混合されているため、親水性傾斜の変化の精度が高い組成傾斜膜を作成することができる。また、描画混合法による実施形態と比較すると、2種類のインクを拡散混合する時間が不要となるため、プロセス時間が短くて済むという利点がある。
【0143】
本実施形態では、インク1とインク2との混合層を3層形成したが、層の数はこれに限定されるものではなく、それぞれのインクの混合比率が傾斜されるように積層できれば何層でもよい。なお、形成する層の数だけインクタンクとインクジェットヘッドを用意する必要がある。
【0144】
さらに、本実施形態では、インク2が100%からインク1が100%の組成成分比を有する組成傾斜膜3を形成したが、インク2が100%又はインク1が100%の組成成分比を採用する必要性は必ずしもなく、組成傾斜膜3が得られる範囲のものであれば、上記組成成分比を任意に変更することができる。
上記組成成分比は、得ようとする組成傾斜膜の密着性や親水性等の特性により適宜調節することが可能である。
【実施例】
【0145】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれによっていささかも限定して解釈されるものではない。
【0146】
<実施例1>
【0147】
(親水性材料形成用組成物を含むインク(親水性インク)の作成)
〜親水性インクA1〜
・光触媒酸化チタンゾル1:アナターゼ型、平均一次粒子径7nm、30質量%水分散体、STS−01(石原産業(株)製) 167g
・コロイダルシリカ:20質量%水分散体、スノーテックスC(日産化学工業(株)製) 50g
・メチルトリメトキシシラン(東京化成(株)製) 50g
・イソプロピルアルコール 100g
・メトキシエタノール 185g
【0148】
上記素材を1Lの容器へ投入し、マグネチックスターラーにて室温で1時間攪拌し、その後シルバーソン高速攪拌機にて液温35℃以下を保ち、10分攪拌した。その後、2μmのフィルターにて濾過し、親水性インクA1を作成した。親水インクA1を、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置 LA−920(堀場製作所(株)製)にて測定したところ、酸化チタンの平均粒子径は7nmであった。
【0149】
(硬化性材料を含むインク(樹脂インク)の作成)
〜樹脂インクB1〜
N−ビニルカプロラクタム(SIGMA−ALDRICH製) 50g
ジプロピレングリコールジアクリレート(Akcros社製) 40g
IRGACURE184(BASFジャパン製 4g
Lucirin TPO(BASF製) 6g
【0150】
上記素材を1Lの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温35℃以下に保ち、20分攪拌した。その後、2μmのフィルターにて濾過し、樹脂インクB1を作成した。
【0151】
(組成傾斜膜を有する親水性部材の作成)
透明PET基材(膜厚150μm、富士フイルム製)上に、下記インクジェット描画法Aにより、厚さ10μmの組成傾斜膜を有する親水性部材を形成し、該組成傾斜膜の基材との密着性、親水性、耐水性、防曇性、防汚性、耐候性を評価した。
【0152】
〜インクジェット描画法A〜
図3に示すようなインクタンク1、インクタンク2に親水性インクA1、樹脂インクB1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド1、インクジェットヘッド2に供給されるインクは、それぞれ親水性インクA1、樹脂インクB1である。
はじめに、インクジェットヘッド2からの吐出されるインク滴の液適量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御し、窒素ガス雰囲気中でインクジェットヘッド2から樹脂インクB1を吐出させた。ここで、インクジェットヘッド1からは親水性インクA1を吐出させないで(即ち、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量とインクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)が100:0)としてインク層1を形成し、80℃30秒間乾燥し、半硬化させた。具体的には、全硬化に与えるエネルギーよりも少ないエネルギー(メタルハライドランプ使用で、積算露光量1000mJ/cm)で硬化を行った。
続いて、インクジェットヘッド2から吐出するインクの吐出量と、インクジェットヘッド1から吐出するインクの吐出量の比(質量%)を75:25(インク層2)、50:50(インク層3)、25:75(インク層4)、0:100(インク層5)と変化させて積層と半硬化を繰り返し、最終的に全硬化(メタルハライドランプ使用で、積算露光量5000mJ/cm)させ、組成傾斜膜を有する親水性部材を作製した。
ここで、インク層2形成時のインクジェットヘッド1から吐出させる親水性インクA1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとし、インクジェットヘッド2から吐出させる樹脂インクB1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。
インク層3形成時には、親水性インクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、樹脂インクB1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。
インク層4形成時には、親水性インクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとし、樹脂インクB1のインク滴の液適量は5pL、液滴径を20μmとした。
インク層5形成時には、親水性インクA1のインク滴の液適量は10pL、液滴径を30μmとした。
また、全硬化後のインク層1〜5の膜厚はそれぞれ2μmとなるようにした。
【0153】
(評価)
<密着性>
作成した親水性部材に対し、クロスハッチテスト(EN ISO2409)を実施した。評価基準については、ISO2409に準拠し、結果は0〜5点の点数評価で示した。
上記評価基準においては、0点が最も密着性が高く、5点が最も密着性が低い評価である。
【0154】
<親水性>
協和界面科学株式会社製DropMaster500を用いて、親水性部材の組成傾斜膜表面における空中水滴接触角を測定した。
【0155】
<耐水性>
120cmサイズの親水性部材を水中で加重2kgをかけてスポンジ往復20回こすり処理を行い、その前後の質量変化から残膜率を測定した。
【0156】
<防曇性>
80℃のお湯を入れたポリカップに組成傾斜膜表面に湯気があたるようにして親水性部材をかぶせ、曇り具合を下記基準により目視判定した。
○:曇が観察されない。
△:部分的に曇が観察される。
×:表面全体が曇っている。
【0157】
<防汚性>
カーボンブラック(FW−200、デクサ社製)5gを水95gに懸濁させたスラリーを調製し、親水性部材の表面に、全体が均一になるようにスプレーコートしたあと、60℃1時間乾燥させた。該サンプルを流水で流しながら、ガーゼで洗浄し、乾燥させた後のカーボンブラックの付着状況を透過率(%)で測定した(日立分光光度計U3000使用)。
【0158】
<耐候性>
サンシャインカーボンアーク灯式促進耐候性試験機内に親水性部材を500時間曝露し、密着性、親水性、耐水性、防曇性、防汚性について前述の方法に従い評価した。下記基準により判定した。
○:全ての項目において曝露前と同等の性能
△:1つの項目が曝露前に劣る
×:2つ以上の項目が曝露前に劣る
【0159】
実施例1で作成した親水性部材の評価結果を、下記表1に示す。
【0160】
<実施例2>
実施例1で用いた樹脂インクB1と親水性インクA1とを混合したインクG1(混合比(質量%)B1:A1=75:25)、G2(混合比(質量%)B1:A1=50:50)、G3(混合比(質量%)B1:A1=25:75)を作成し、B1及びA1を含めた5種のインクをそれぞれ計5個のプリントヘッドを用い、透明PET基材(膜厚150μm、富士フイルム製)上にB1(最下層)、G1、G2、G3、A1(最上層)の順にて、下記のインクジェット描画法Bにより膜厚が10μmの組成傾斜膜を有する親水性部材を形成し、該組成傾斜膜の基材との密着性、親水性、耐水性、防曇性、防汚性、耐候性を評価した。結果を下記表1に示す。
【0161】
〜インクジェット描画法B〜
図7に示すようなインクタンク60−1〜60−5にインクB1、G1、G2、G3、A1をそれぞれ充填した。インクジェットヘッド50−1〜50−5に供給されるインクは、それぞれインクB1、G1、G2、G3、A1である。
はじめにインクジェットヘッド50−1よりインクB1を、インクジェットヘッドから吐出されるインク滴の液滴量を10pL、液滴径が30μmとなるように制御しながら、窒素ガス雰囲気中で吐出させた。
このように形成したインクB1層を、80℃30秒間乾燥し、半硬化させた。具体的には、全硬化に与えるエネルギーよりも少ないエネルギー(メタルハライドランプ使用で、積算露光量1000mJ/cm)で硬化を行った。
次に、インクジェットヘッド50−2から同様にインクG1を吐出し、インクG1層を積層、半硬化させた。これを、インクG2、G3、A1についても繰り返し、積層と半硬化を繰り返し、最終的に全硬化(メタルハライドランプ使用で、積算露光量5000mJ/cm)させることで組成傾斜膜を作成した。
なお、全硬化後のインク層B1、G1、G2、G3、A1の膜厚はそれぞれ2μmとなるようにした。
【0162】
<実施例3〜12>
親水性インク及び樹脂インクが含有する光触媒酸化チタンゾル及び硬化性モノマーを下記表1に記載のものに置き換え、その他は実施例1と同様の方法で、膜厚が10μmの組成傾斜膜を有する親水性部材を形成し、該組成傾斜膜の基材との密着性、親水性、耐水性、防曇性、防汚性、耐候性を評価した。結果を下記表1及び2に示す。
【0163】
実施例3、及び4は実施例1で用いた「光触媒酸化チタンゾル1」を、それぞれ、「光触媒酸化チタンゾル2:アナターゼ型、STS−100(20質量%水分散体)石原産業(株)製[平均一次粒子径:5nm]」、及び、「光触媒酸化チタンゾル3:アナターゼ型、MPT−427(20質量%水分散体)石原産業(株)製[平均一次粒子径:90nm]」に置き換えた以外は、実施例1と同様な方法で作成した。
上記光触媒酸化チタンゾル2、及び光触媒酸化チタンゾル3の光触媒酸化チタンゾルを含む親水性インクは、それぞれA2及びA3に相当する。親水インクA2、及びA3を、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置 LA−920(堀場製作所(株)製)にて測定したところ、酸化チタンの平均粒子径は、それぞれ、5nm、及び90nmであった。
【0164】
<比較例1>
実施例1で用いた親水性インクA1のみを用いて、透明PET基材(膜厚150μm、富士フイルム製)上に、1層のみから構成される膜厚が10μmの親水性膜をインクジェット描画により作成し、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表2に示す。
【0165】
<比較例2>
水性エポキシ樹脂塗料(水性弾性サーフエポ、エスケー化研社製)を透明PET基材(膜厚150μm、富士フイルム製)上にバーコート塗布(膜厚2μm)した基材上に、実施例1で用いた親水性インクA1を用いて、1層のみから構成される膜厚が10μmの親水性膜をインクジェット描画により作成し、実施例1と同様に評価を実施した。結果を下記表2に示す。
【0166】
<比較例3>
実施例1の親水インクA1を下記親水インクA4に置き換えた以外は、実施例1同様に親水性部材を作成し、評価を実施した。
(親水性インクの作成)
〜親水インクA4〜
・光触媒酸化チタン粉体4:アナターゼ型、STS−41(石原産業(株)製)、平均一次粒子径:200nm 50g
・コロイダルシリカ:20質量%水分散体、スノーテックスC(日産化学工業(株)製) 50g
・メチルトリメトキシシラン(東京化成(株)製) 50g
・イソプロピルアルコール 100g
・メトキシエタノール 185g
・イオン交換水 117g
【0167】
上記素材を1Lの容器へ投入し、シルバーソン高速攪拌機にて液温35℃以下を保ち、30分攪拌した。その後、5μmのフィルターにて濾過し、親水性インクA4を作成した。親水インクA4を、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置 LA−920(堀場製作所(株)製)にて測定したところ、酸化チタンの平均粒子径は1.2μmであった。
【0168】
【表1】

【0169】
【表2】

【0170】
実施例1〜12は基材との密着性、親水性、耐水性、防曇性、防汚性、耐侯性が良好であり、各種インクジェット法A(描画混合法)及びB(インク混合法)により作成した傾斜機能構造を有す親水性膜が実用上も有効であることが示され、2種のインクジェット法での効果の差は無く、どちらの方法でも十分な機能を有す親水性膜が形成可能である。また、硬化性モノマー種間での性能差異はほとんど見られないが、密着性に関してはN−ビニルラクタム類を含有するインクがその他の硬化性モノマーのみを含有するインクより良好な性能を示した。これは硬化性モノマーが基材の一部を溶解し、界面が混合することで密着性が良化したことに加え、モノマー間の水素結合相互作用により傾斜膜内の凝集力が向上し強固な膜が形成されていると考えられる。
比較例1のように、本発明に用いた親水性材料のみのインクを用い通常のインクジェット描画により成膜した場合、親水性膜のため疎水性の樹脂基材との密着が発現せず、すぐに剥離した。また、比較例2では親水性材料と硬化性材料を積層しているため、親水性と疎水性という異種界面が存在するために、十分な基材への密着が発現せず、耐久性の指標である耐侯性の問題が顕著になった。更に、比較例3では光触媒酸化チタン粒子の平均粒子径が1μmを超えるとインクジェット法での吐出が困難になり、親水部材の形成ができなかった。
実施例1〜12において、形成した膜をXPSの深さ方向プロファイルにより、親水性材料と樹脂材料の総質量に対する親水性材料の質量、及び樹脂材料の質量が占める割合を、基材に最も近い側から膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したところ、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも2%以上7%以下であった。
【符号の説明】
【0171】
1 親水性部材
2 基材
3 組成傾斜膜
10 描画部
100 組成傾斜膜作製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に設けられ、下記材料1)及び材料2)を含む膜とを有する親水性部材であって、該膜が膜の厚み方向において前記基材に最も近い側から最も遠い側に向かって材料1)の比率が大きくなり、かつ、材料2)の比率が小さくなるように、材料1)及び材料2)の組成が連続的に変化する組成傾斜膜である、親水性部材。
1)酸化チタンを含有する平均一次粒子径が5nm以上1μm以下の粒子、及びシロキサン化合物を含有する親水性材料
2)エチレン性不飽和二重結合を有する化合物に由来する樹脂を含有する樹脂材料
【請求項2】
前記組成傾斜膜の膜厚が1μm以上であり、
前記組成傾斜膜における、材料1)と材料2)の総質量に対する材料1)の質量が占める割合を、基材に最も近い側から膜の厚み方向に0.1μmの厚みごとに測定したときに、隣り合う測定位置での上記割合の差がいずれも1%以上50%以下である、請求項1に記載の親水性部材。
【請求項3】
前記材料1)における酸化チタンが、アナターゼ型の結晶構造を有する、請求項1又は2に記載の親水性部材。
【請求項4】
前記材料1)における酸化チタンが、光触媒酸化チタンゾルから得られたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水性部材。
【請求項5】
前記材料2)において、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物が、N−ビニル誘導体である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水性部材。
【請求項6】
前記材料2)において、エチレン性不飽和二重結合を有する化合物が、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、アリル化合物の誘導体、及びスチレン誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物と、N−ビニル誘導体とを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水性部材。
【請求項7】
前記N−ビニル誘導体が、N−ビニルラクタム類である、請求項5又は6に記載の親水性部材。
【請求項8】
前記材料1)が、更にコロイダルシリカを含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の親水性部材。
【請求項9】
前記1)の親水性材料及び下記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物と、活性エネルギー線の照射により前記2)の樹脂材料となる下記硬化性材料2’)を含むインク組成物の少なくとも2種のインク組成物を、インクジェット法により前記基材上に吐出する工程、及び該インクジェット法により形成された層に活性エネルギー線を照射する工程を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の親水性部材の製造方法。
1’)酸化チタンを含有する平均一次粒子径が5nm以上1μm以下の粒子、及び加水分解性シリル化合物を含有する親水性材料形成用組成物
2’)エチレン性不飽和二重結合を有する化合物を含有する硬化性材料
【請求項10】
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物と、前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物とを用い、
前記インクジェット法が、少なくとも第1のインクジェットヘッドと第2のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物を含む第1のインクを、第1のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物を含む第2のインクを、第2のインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記第1のインクジェットヘッドから吐出される第1のインクの量と前記第2のインクジェットヘッドから吐出される第2のインクの量との比率を決定する制御工程と、
前記決定された比率に従って、前記第1のインクジェットヘッド及び前記第2のインクジェットヘッドの少なくとも一方から前記第1のインク又は前記第2のインクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、を備え、
前記制御工程において、前記複数層の厚み方向において前記基材に最も近い層から最も遠い層に向かって、前記第1のインクの比率が大きくなり、かつ前記第2のインクの比率が小さくなるように前記比率を決定する、請求項9に記載の親水性部材の製造方法。
【請求項11】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量が0.3〜100pLである、請求項10に記載の親水性部材の製造方法。
【請求項12】
前記形成工程において、前記第1及び第2のインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径が1〜300μmである、請求項10又は11に記載の親水性部材の製造方法。
【請求項13】
前記少なくとも2種のインク組成物として、少なくとも、前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物と、前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物とを用い、
前記インクジェット法が、複数のインクジェットヘッドを用いるものであり、
前記1)の親水性材料及び前記1’)の親水性材料形成用組成物から選ばれる少なくとも1種を含むインク組成物を含む第1のインクと、前記2’)の硬化性材料を含むインク組成物を含む第2のインクとが混合された混合インクであって、それぞれ異なる比率で混合された複数の混合インクを前記複数のインクジェットヘッドそれぞれのインクジェットヘッドに供給する工程と、
前記複数のインクジェットヘッドから1つのインクジェットヘッドを順に選択する選択工程であって、前記第2のインクの比率の高い混合インクが供給されるインクジェットヘッドから順に選択する選択工程と、
前記選択されたインクジェットヘッドから混合インクを吐出させて1つの層を形成する形成工程と、
前記形成工程を繰り返して前記基材上に前記層を複数層積層して組成傾斜膜を得る積層工程と、を備える、請求項9に記載の親水性部材の製造方法。
【請求項14】
前記形成工程において、前記選択されたインクジェットヘッドから吐出する液滴のインク量が0.5〜150pLである、請求項13に記載の親水性部材の製造方法。
【請求項15】
前記形成工程において、前記選択されたインクジェットヘッドから吐出する液滴の液滴径が2〜450μmである、請求項13又は14に記載の親水性部材の製造方法。
【請求項16】
前記形成工程において吐出された層を半乾燥又は半硬化させる工程を有する、請求項10〜15のいずれか1項に記載の親水性部材の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−107254(P2013−107254A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253215(P2011−253215)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】