説明

観察器械

【課題】 簡単な切替え操作で望遠鏡と顕微鏡の両方に使用できる、小型で軽量な観察器
械を提供する。
【解決手段】 物体側から順に、正の屈折力を有する対物レンズ系L1と、正の屈折力を
有する正立レンズ系L2と、正の屈折力を有する接眼レンズ系L3とを有し、望遠鏡とし
て使用される場合においては、対物レンズ系L1によって形成される物体像I1が、対物
レンズ系L1と正立レンズ系L2との間に位置し、顕微鏡として使用される場合において
は、対物レンズ系L1が物体像I1と正立レンズ系L2との間に移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、望遠鏡や顕微鏡等の観察器械に関し、特に簡単な切替え操作で望遠鏡と顕微
鏡の両方に使用できる、小型で軽量な観察器械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、望遠鏡と顕微鏡の両方に使用できる観察器械としては、プリズム式望遠鏡の対物
レンズの前に、顕微鏡用のアタッチメントレンズを付加して使用するものが知られている
(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−084231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アタッチメントレンズは着脱式であるため、望遠鏡として使用する場合
は、はずしたアタッチメントレンズの置き場所に困ったり、紛失したりするなどの問題が
あった。また、変倍できる構造にすると機構が複雑となり、小型で軽量な観察器械になり
にくいという問題もあった。
【0005】
本発明は、前述の課題を鑑みてなされたものであり、着脱構造がなく、簡単な切替え操
作で望遠鏡と顕微鏡の両方に使用できる、小型で軽量な観察器械を提供することを目的と
する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的達成のため、本発明を例示する態様に従えば、物体側から順に、正の屈
折力を有する対物レンズ系と、正の屈折力を有する正立レンズ系と、正の屈折力を有する
接眼レンズ系とを有し、望遠鏡として使用される場合においては、前記対物レンズ系によ
って形成される物体像が、前記対物レンズ系と前記正立レンズ系との間に位置し、顕微鏡
として使用される場合においては、前記対物レンズ系が前記物体像と前記正立レンズ系と
の間に移動する観察器械が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡単な切替え操作で望遠鏡と顕微鏡の両方に使用できる、小型で軽量
な観察器械を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態による観察器械の各レンズ系の配置を示す図であって、(A)は望遠鏡として使用される場合を、(B)は顕微鏡として使用される場合を示す。
【図2】本実施形態による観察器械の実施例の各レンズ系の配置を示す図であって、(A)は望遠鏡として使用される場合を、(B)は顕微鏡として使用される場合を示す。
【図3】実施例を望遠鏡として使用する場合の、低倍倍率における収差図である。
【図4】実施例を望遠鏡として使用する場合の、中間倍率における収差図である。
【図5】実施例を望遠鏡として使用する場合の、高倍倍率における収差図である。
【図6】実施例を顕微鏡として使用する場合の、低倍倍率における収差図である。
【図7】実施例を顕微鏡として使用する場合の、中間倍率における収差図である。
【図8】実施例を顕微鏡として使用する場合の、高倍倍率における収差図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態による観察器械を、添付の図面に基づいて説明する。図1は、本実施
形態による観察器械の各レンズ系の配置を示す図であって、(A)は望遠鏡として使用さ
れる場合を、(B)は顕微鏡として使用される場合を示している。図1の(A)に示すよ
うに、本実施形態による観察器械は、物体側から順に並んだ、正の屈折力を有する対物レ
ンズ系L1と、正の屈折力を有する正立レンズ系L2と、正の屈折力を有する接眼レンズ
系L3とを有し、望遠鏡として使用される場合においては、対物レンズ系L1により形成
される遠方にある物体の倒立した物体像I1は、正立レンズ系L2により正立像I2に再
結像され、接眼レンズ系L3により拡大観察され、望遠鏡としての機能を果たす。
【0010】
また、図1の(B)に示すように、本実施形態による観察器械が顕微鏡として使用され
る場合においては、対物レンズ系L1が、前記物体像I1と、正立レンズ系L2との間に
移動する。顕微鏡として拡大観察される標本Oは、対物レンズ系L1に関して、正立レン
ズ系L2とは反対側に配置され、対物レンズ系L1による標本Oの虚像が、前記物体像I
1と合致するように配置される。このとき、標本Oの虚像は、標本の拡大像となり、顕微
鏡倍率を上げるのに寄与する。この虚像は正立レンズ系L2により、望遠鏡として使用さ
れる場合の正立像I2に再結像される。正立像I2は、接眼レンズ系L3により拡大観察
され、顕微鏡としての機能を果たす。但し、顕微鏡として使用される場合において、正立
像I2は、標本Oの倒立像となる。
【0011】
望遠鏡として使用される場合と、顕微鏡として使用される場合とでは、対物レンズ系L
1の位置が変化するのみであり、正立レンズ系L2と接眼レンズ系L3の位置は変化しな
い。このため、対物レンズ系L1の移動という簡単な切替え操作だけで、望遠鏡と顕微鏡
の両方に使用できる観察器械を提供することが可能となる。
【0012】
正立レンズ系L2と、望遠鏡として使用される場合における物体像I1の正立レンズ系
L2により再結像される正立像I2との間に、絞りSを配置することが望ましい。この絞
りSは、顕微鏡として使用される場合において、光学系を過大な光束が通過して、結像性
能が劣化することを防止するのに大変有効である。
【0013】
正立レンズ系L2を固定されたレンズ群で構成し、倍率を一定にすることで単純な構造
とすることも可能であるが、正立レンズ系L2を2群のレンズ群で構成し、これらのレン
ズ群の相互の間隔を変化させることで倍率を変化させると、さらに有用な観察器械を得る
ことができる。また、正立レンズ系L2を3群以上のレンズ群で構成し、これらのレンズ
群の相互の間隔を変化させることで、変倍比を拡大させることも可能である。
【0014】
望遠鏡として使用される場合において、対物レンズ系L1の焦点距離をf1とし、対物
レンズ系L1によって形成される物体像I1と正立レンズ系L2によって再結像される正
立像I2との距離をdとするとき、次の条件式(1)を満足することが望ましい。
【0015】
f1<d …(1)
【0016】
条件式(1)は、望遠鏡と顕微鏡との切替えにおいて、対物レンズ系L1を移動させる
機構に関するものである。図1の(A)及び(B)に示されるように、対物レンズ系L1
を移動させる一つの機構として、対物レンズ系L1を支持する部材C1が、正立レンズ系
L2を内包する部材C2の外側を、スライドする2重構造の沈胴方式の機構が考えられる
。この方式を採用したとき、条件式(1)を満足しない場合には、望遠鏡として使用する
ために伸張させたときに、対物レンズ系L1側の部材C1が正立レンズ系L2側の部材C
2から抜けてしまったり、あるいは、顕微鏡として使用するために沈胴させたときに、対
物レンズ系L1側の部材C1と接眼レンズ系L3を支持する部材C3とが機械的干渉を起
こしたりする等の機構上の不都合が生じる恐れがある。
【0017】
また、望遠鏡として使用される場合の望遠鏡倍率をTとし、顕微鏡として使用される場
合の顕微鏡倍率をMとするとき、次の条件式(2)を満足することが望ましい。
【0018】
2<M/T≦20 …(2)
【0019】
条件式(2)は、位置だけが異なる同一の光学系で、望遠鏡と顕微鏡の両方を実現する
ために必要な条件である。望遠鏡として使用される場合において、正立レンズ系L2によ
る物体像I1から正立像I2への再結像倍率をβ2(但し、β2>0とする)とし、接眼
レンズ系の焦点距離をf3とするとき、望遠鏡倍率Tは次の条件式(3)を満足する。
【0020】
T=f1・β2/f3 …(3)
【0021】
また、顕微鏡として使用される場合において、対物レンズ系L1による標本Oから虚像
への倍率をβ1とするとき、顕微鏡倍率Mは次の条件式(4)を満足する。ここで、25
0(mm)は、顕微鏡倍率の定義に使用される明視の距離である。
【0022】
M=250・β1・β2/f3 …(4)
【0023】
したがって、顕微鏡倍率Mの望遠鏡倍率Tに対する比の値M/Tは、次の条件式(5)
を満たすことになる。
【0024】
M/T=250・β1/f1 …(5)
【0025】
また、観察器械全体の大きさや光学性能を考慮すると、次の条件式(6)を満足するこ
とが望ましく、これにより上述の条件式(2)が導かれる。
【0026】
25mm≦f1≦125mm,1<β1≦2 …(6)
【0027】
したがって、条件式(6)を満足しない場合は、小型で軽量な観察器械を得ることが困
難になったり、望遠鏡と顕微鏡の結像性能を良好に両立させることが困難になり、対物レ
ンズ系L1や正立レンズ系L2のレンズ構成が複雑になることが避けられなくなったりす
る。
【実施例】
【0028】
以下、本実施形態による実施例を、添付の図面に基づいて説明する。
【0029】
(実施例)
図2は、本実施形態による観察器械の実施例の各レンズ系の配置及び低倍倍率側から高
倍倍率側まで変倍させたときの移動軌跡を示す図であって、(A)は望遠鏡として使用さ
れる場合を、(B)は顕微鏡として使用される場合を示している。図2の(A)及び(B
)に示すように、本実施形態による観察器械の実施例は、物体側から順に並んだ、正レン
ズと負レンズの貼合わせからなる正の屈折力を有する対物レンズ系L1と、負レンズと正
レンズの貼合わせからなり、正の屈折力を有する前群L2Fと、負レンズと正レンズの貼
合わせからなり、正の屈折力を有する後群L2Rからなり、全体として正の屈折力を有す
る正立レンズ系L2と、負レンズと正レンズからなる貼合わせレンズと正レンズからなり
、全体として正の屈折力を有する接眼レンズ系L3とを有し、望遠鏡として使用される場
合においては、対物レンズ系L1によって形成される物体像I1が、対物レンズ系L1と
正立レンズ系L2との間に位置し、顕微鏡として使用される場合においては、前記対物レ
ンズ系L1が、前記物体像I1と前記正立レンズ系L2との間に移動する。
【0030】
また、本実施形態による観察器械の実施例は、正立レンズ系L2の後群L2Rと正立像
I2との間に絞りSを有し、変倍に際しては後群L2Rと一緒に移動する。
【0031】
以下の表1に、本実施形態の実施例の諸元の値を示す。表中、[レンズデータ]におい
て、「面番号」は光線の進行する方向に沿った物体側からの光学面の順序を、「曲率半径
」は各光学面の曲率半径を、「面間隔」は各光学面から次の光学面までの光軸上の距離を
、「n(d)」はd線(波長587.6nm)に対する屈折率を、「νd」はd線を基準とする
アッベ数を示す。なお、曲率半径の「∞」は平面を示す。[可変間隔データ]において、
Di(但し、iは整数)は第i面の可変の面間隔を示す。[条件式]において、上記の条
件式(1)及び(2)に対応する値を示す。
【0032】
表中の曲率半径、面間隔、その他の長さの単位は「mm」である。但し、光学系は、比例
拡大又は比例縮小しても同等の光学性能が得られるので、単位は「mm」に限定されること
なく、他の適当な単位を用いることが可能である。
【0033】
(表1)
[レンズデータ]
面番号 曲率半径 面間隔 n(d) νd
(D0) 1.00000
1 40.560 3.000 1.51680 64.10
2 -15.700 1.000 1.62004 36.27
3 -41.511 (D3) 1.00000
4 ∞ (D4) 1.00000 (物体像)
5 37.000 1.000 1.64831 33.75
6 10.000 2.500 1.51680 64.10
7 -17.606 (D7) 1.00000
8 23.000 1.000 1.64831 33.75
9 10.500 2.200 1.51680 64.10
10 -28.417 12.000 1.00000
11 ∞ (D11) 1.00000 (絞り)
12 ∞ 7.630 1.00000 (正立像)
13 -70.000 1.000 1.71736 29.46
14 10.400 4.000 1.51680 64.10
15 -10.400 0.200 1.00000
16 13.000 2.600 1.51680 64.10
17 -30.759 1.00000

[可変間隔データ]
望遠鏡として使用した場合 顕微鏡として使用した場合
D0 ∞ 5.091
D3 46.603 -8.693

低倍倍率 中間倍率 高倍倍率
望遠鏡倍率 4× 8× 12×
顕微鏡倍率 24× 48× 72×
D4 28.242 17.261 16.868
D7 28.558 17.577 5.809
D11 16.796 38.758 50.920

[条件式]
(1) f=48、d=92.3
(2) M/T=6
【0034】
表1に示す諸元の表から、実施例による観察器械は、上記条件式(1)及び(2)を満
たすことが分かる。
【0035】
図3〜図5は、実施例の観察器械を望遠鏡として使用する場合の各収差図(球面収差図
、非点収差図、歪曲収差図)を示し、それぞれ、低倍倍率、中間倍率、高倍倍率に対応し
ている。図3〜図5の各収差図において、Hは入射光線の光軸からの高さを、ωは実視界
の半分を表す。図6〜図8は、実施例の観察器械を顕微鏡として使用する場合の各収差図
を示し、それぞれ、低倍倍率、中間倍率、高倍倍率に対応している。図6〜図8の各収差
図において、Yは標本の光軸からの距離を表す。また、各収差図において、dはd線(波
長587.56nm)、CはC線(波長656.27nm)、FはF線(波長486.13nm)を示す。非点収差
図において、実線Sはサジタル像面を、破線Mはメリディオナル像面を示す。
【0036】
各収差図から明らかなように、実施例による観察器械では、望遠鏡として使用する場合
でも、顕微鏡として使用する場合でも、ともに諸収差が良好に補正され、高い結像性能が
確保されていることが分かる。
【符号の説明】
【0037】
L1 対物レンズ系
L2 正立レンズ系
L2F 正立レンズ系の前群
L2R 正立レンズ系の後群
L3 接眼レンズ系
I1 物体像
I2 正立像
O 顕微鏡の観察標本
S 絞り
C1 対物レンズ系の支持部材
C2 正立レンズ系の内包部材
C3 接眼レンズ系の支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に、正の屈折力を有する対物レンズ系と、正の屈折力を有する正立レンズ
系と、正の屈折力を有する接眼レンズ系とを有し、
望遠鏡として使用される場合においては、前記対物レンズ系によって形成される物体像
が、前記対物レンズ系と前記正立レンズ系との間に位置し、
顕微鏡として使用される場合においては、前記対物レンズ系が、前記物体像と前記正立
レンズ系との間に移動することを特徴とする観察器械。
【請求項2】
前記正立レンズ系と、望遠鏡として使用される場合における前記物体像の前記正立レン
ズ系により再結像される正立像との間に、絞りを配置したことを特徴とする請求項1に記
載の観察器械。
【請求項3】
前記正立レンズ系は、複数のレンズ群から構成され、前記レンズ群の相互の間隔を変化
させることにより変倍することを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の観察器
械。
【請求項4】
以下の条件式を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の観察器
械。
f1<d
但し、
f1:望遠鏡として使用される場合の前記対物レンズ系の焦点距離、
d:前記対物レンズ系によって形成される前記物体像と、前記正立レンズ系によって
再結像される前記正立像との距離。
【請求項5】
以下の条件式を満足することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の観察器
械。
2<M/T≦20
但し、
T:望遠鏡として使用される場合の望遠鏡倍率、
M:顕微鏡として使用される場合の顕微鏡倍率。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−25279(P2013−25279A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162841(P2011−162841)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】