説明

観察装置

【課題】信号取得レートが低い検波器を用いる場合であっても移動している対象物の像を高速に高感度で得ることができる観察装置を提供することを目的とする。
【解決手段】観察装置1は、信号発生部SG、回折波発生部10、検出部20、および演算部30を備える。回折波発生部10は、移動している対象物2に音波を照射して回折波を発生させる。検出部20は、検波面上の各位置に到達した音波のドップラーシフト量に応じた周波数で時間的に変化するデータのv方向についての総和を表すデータを、u方向の各位置について各時刻に出力する。演算部30は、検出部20の出力に基づいて対象物2の像を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の像を観察する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、対象物に音波を照射して、対象物から生じる回折波に基づいて、対象物を観察する装置が知られている。例えば、対象物の音響インピーダンス像を観察する技術として、特許文献1には、複数のエレメント(振動子)を備える探触子から超音波を対象物に送信し、各エレメントで受信したエコー信号に、被検部位から各エレメントまでの到達時間差に応じた補正を加えた後、加算することにより、精度の高いエコー信号を得て、生体の内部組織の音響インピーダンスの差異を画像化する超音波診断装置が開示されている。この装置では、物理的に異なる位置のエレメントに到達する音波の時間差を補正することで、疑似的に複数エレメントが同一点に存在するようにした上で、受波した結果を得ている。また、特許文献1には、得られたエコー信号に疑似雑音信号を加味した後、エコー信号を加算手段により加算する方法が開示されている。特許文献1では,各エレメントの超音波発射時刻に僅かな時間差をつけることによって、一定方向に向かって収束する超音波ビームを走査することで2次元像を得る方法が開示されている。
【0003】
また、特許文献2および非特許文献1には、複数の角度から平面音波を対象物に全面照射し、その回折波を空間的に異なる位置において検波して得られた複数の回折分布または回折像からフーリエ回折定理(Fourier Diffraction Theorem)を用いることにより、3次元または2.5次元の対象物内の速度分布や減衰率分布を断層像として得る超音波CT(Computed Tomography)に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−56943公報
【特許文献2】特開2004−141447号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C. Pintavirooj, ”Ultrasonic Diffraction Tomography,” Internationaljournal of applied biomedical engineering, 1, 34, (2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、遅延手段によりエコー信号に時間遅延を与えた後に加算することを特徴としている。しかし、一旦加算された信号を分離する手段は開示されていない。また、特許文献1では、疑似雑音信号の1周期の間におけるエコー信号が一定であることが必要である。すなわち、対象物の移動によるエコー信号の変化が十分小さいと見なせる時間内に、疑似雑音信号の1周期分をエコー信号に加算する必要がある。また、上記特許文献2および非特許文献1に記載された技術を用いた観察装置では、対象物は静止している状態か、静止していると見なせる時間内に複数の角度から平面波を照射して複数の回折像を得る必要がある。これらの装置で、SNを向上させつつ、移動している対象物からの回折像を得るには、受信アレイエレメントからの信号の取得レートが高い検波器を用いて、対象物が静止していると見做し得る期間に複数枚の画像を得ることが必要である。しかし、対象物が十分静止していると見做し得る時間内に複数回撮影するには、高周波回路が必要となり、回路規模が大きくなるという問題がある。文献1,2および非特許文献1では、いずれも対象物が移動することによるドップラーシフト効果による信号変化が十分無視できる時間内に疑似雑音信号を加算するか、または信号取得を完了することが前提となっている。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、信号取得レートが低い検波器を用いる場合であっても、移動している対象物の像(音響インピーダンス分布、減衰率分布、速度分布)を得ることができる観察装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の観察装置は、所定の周波数の信号を生成する信号発生部と、所定の周波数の信号を入力して音波を生成する音源を有し、移動している対象物へ音波を照射する回折波発生部と、音源による音波照射により対象物で生じた回折波のうち所定平面に到達した音波において対象物の移動に因るドップラーシフト効果が一定となる所定平面上の方向であって、対象物の移動方向に垂直な方向を第1方向とし、この第1方向に直交する所定平面上の方向であって、対象物の移動方向に平行な方向を第2方向としたときに、所定平面上の各位置に到達した音波のドップラーシフト量に応じた周波数で時間的に変化するデータの、第2方向についての総和を表すデータを、第1方向の各位置について各時刻に出力する検出部と、検出部から出力された所定平面上の第1方向の位置および時刻を変数とするデータについて、時刻変数に関する1次元フーリエ変換、周波数に関する1次元フーリエ変換、および第1方向に関する1次元フーリエ変換を行って、これらの1次元フーリエ変換により得られたデータを対象物の像として得る演算部と、を備えることを特徴とする。ここで第1方向は、対象物の移動方向に垂直な方向であり、第2方向は対象物の移動方向に平行な方向である。
【0009】
本発明の観察装置では、移動している対象物は、音源により音波が照射されて、回折波を発生させる。その回折波は、散乱方向に応じた量のドップラーシフトを受ける。その回折波は、検出部により検波される。所定平面に到達した音波において対象物の移動に因るドップラーシフト効果が一定となる所定平面上の方向であって、対象物の移動方向に垂直な方向を第1方向とし、この第1方向に直交する所定平面上の方向であって、対象物の移動方向に平行な方向を第2方向とする。所定平面上の各位置に到達した音波のドップラーシフト量に応じた周波数で時間的に変化するデータの第2方向についての総和を表すデータが、第1方向の各位置について各時刻に検出部から出力される。演算部では、検出部から出力された所定平面上の第1方向の位置および時刻を変数とするデータについての時刻変数に関する1次元フーリエ変換と、周波数に関する1次元フーリエ変換と、第1方向に関する1次元フーリエ変換と、が行われて得られたデータが対象物の像として得られる。
【0010】
本発明の観察装置では、検出部が、所定平面に検波面を有し、該検波面において音波を受波して電気信号に変換する複数のマイクロフォンを備え、複数のマイクロフォンが、第1方向および第2方向に並設され、第2方向のマイクロフォンは、その出力側で電気的に接続されてもよい。
【0011】
本発明の観察装置では、検出部が、所定平面に検波面を有し、該検波面において音波を受波して電気信号に変換する複数のマイクロフォンを備え、複数のマイクロフォンが、第1方向および第2方向に並設され、演算部が、第2方向のマイクロフォンの出力の総和を得る各出力総和器を備えてもよい。
【0012】
本発明の観察装置では、検出部が、所定平面に検波面を有し、該検波面において音波を受波して電気信号に変換するマイクロフォンを備え、マイクロフォンは、入力された音波により振動する振動板と、振動板と所定の間隔を有して配置される固定板と、レーザー光源と、ビームスプリッタと、光強度を電気信号に変換するフォトセルとを含み、フォトセルは、第1方向および第2方向に並設され、第2方向についての総和を表すデータを、第1方向の各位置について各時刻に出力することとしてもよい。
【0013】
本発明の観察装置では、信号発生部から所定の周波数の信号を入力して、その入力した信号から第1参照音波を生成する第1参照音波発生部を更に備え、検出部が、検波面において、対象物で生じた回折波と第1参照音波とをヘテロダイン干渉させてもよい。
【0014】
本発明の観察装置では、信号発生部から所定の周波数の信号を入力して、その入力した信号から第1参照信号を生成する第1参照信号発生部を更に備え、検出部が、第2方向のマイクロフォンの出力の総和と第1参照信号とをヘテロダイン干渉させてもよい。
【0015】
本発明の観察装置では、対象物で生じた回折波のうち、対象物のフランフォーファー回折像の中心に現れる音波を入力して、その入力した音波を電気信号に変換したのちに、該電気信号から第2参照信号を生成する第2参照信号発生部を更に備え、検出部が、第2方向のマイクロフォンの出力の総和と第2参照信号とをヘテロダイン干渉させてもよい。
【0016】
本発明の観察装置では、対象物で生じた回折波のうち、対象物のフランフォーファー回折像の中心に現れる音波を入力して、その入力した音波を電気信号に変換したのちに、該電気信号から第2参照音波を生成する第2参照音波発生部を更に備え、検出部が、検波面において、対象物で生じた回折波と第2参照音波とをヘテロダイン干渉させてもよい。
【0017】
本発明の観察装置では、演算部が、時刻変数に関する1次元フーリエ変換により得られたデータのうち、所定の周波数を中心として最大ドップラーシフト周波数を前後に含む領域のデータについて、周波数に関する1次元フーリエ変換、および第1方向に関する1次元フーリエ変換を行うこととしてもよい。
【0018】
本発明の観察装置では、演算部が、時刻変数に関する1次元フーリエ変換により得られたデータのうち、前記所定の周波数の信号を変調器で変調した信号の周波数を中心として最大ドップラーシフト周波数を前後に含む領域のデータについて、周波数に関する1次元フーリエ変換、および第1方向に関する1次元フーリエ変換を行うこととしてもよい。
【0019】
本発明の観察装置では、対象物の移動速度を検出する速度検出部を更に備え、演算部が、速度検出部により検出された対象物の速度に基づいて、フーリエ変換の際に対象物の速度変化に関する補正を行うこととしてもよい。
【0020】
本発明の観察装置では、回折波発生部が、広帯域の音波を生成する音源を有することとしてもよい。また、回折波発生部が、前記音波としてパルス波を生成することとしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、信号取得レートが低い検波器を用いる場合であっても、移動している対象物の像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態の観察装置による対象物の像の取得の原理を説明する図である。
【図2】第1実施形態に係る観察装置の構成を示す図である。
【図3】第1実施形態に係る観察装置の演算部の演算器構成を示す図である。
【図4】第2実施形態に係る観察装置の演算部の演算器構成の一例を示す図である。
【図5】第2実施形態に係る観察装置の演算部の演算器構成の別の一例を示す図である。
【図6】第2実施形態に係る観察装置の演算部の演算器構成の別の一例を示す図である。
【図7】第2実施形態に係る観察装置の演算部の演算器構成の別の一例を示す図である。
【図8】第2実施形態に係る観察装置の演算部の演算器構成の別の一例を示す図である。
【図9】第3実施形態に係る観察装置の構成を示す図である。
【図10】第4実施形態に係る観察装置の構成を示す図である。
【図11】乗算器を用いたヘテロダイン検波器の構成を示す図である。
【図12】第5実施形態に係る観察装置の構成を示す図である。
【図13】静電型マイクの原理を説明する図である。
【図14】動電型マイクの原理を説明する図である。
【図15】光学式マイクの原理を説明する図である。
【図16】光学式マイクの原理を説明する図である。
【図17】光学式マイクの原理を説明する図である。
【図18】第6実施形態に係る観察装置に用いられる光学式マイクの構成を説明する図である。
【図19】第7実施形態に係る観察装置の演算部の演算器構成を示す図である。
【図20】第7実施形態に係る観察装置の演算部の演算器構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0024】
本実施形態の観察装置は、移動している対象物に音波が照射された際に生じるドップラーシフト効果を利用し、特に、対象物で生じた回折波の進行方向とドップラーシフト量との間に一定の関係が存在することを利用して、対象物の像を取得するものである。初めに、図1を用いて、本実施形態の観察装置による対象物の像の取得について原理的な事項について説明する。
【0025】
図1は、本実施形態の観察装置による対象物の像の取得の原理を説明する図である。この図には、ξη座標系およびuv座標系が示されている。ξ軸およびu軸は、互いに平行である。η軸およびv軸は、互いに平行である。観察対象である対象物2はξη平面上に存在する。
【0026】
対象物2はξη平面上で−η方向に移動しているものとする。ξη平面に垂直な方向に進む音波L0が対象物2に照射されるとする。この音波L0は例えば平面波である。対象物2に音波L0が照射されることにより生じる回折波L1〜L3は、様々な方向に進み、また、対象物2の移動によりドップラーシフトを受ける。対象物2の移動方向と同じ方向に散乱方向ベクトル成分を有する回折波L1は、周波数が高くなる。対象物2の移動方向に散乱方向ベクトル成分を有しない回折波L2は、周波数が変化しない。対象物2の移動方向と逆の方向に散乱方向ベクトル成分を有する回折波L3は、周波数が低くなる。これらの回折波L1〜L3は、uv平面に到達する。
【0027】
速度ベクトルVで移動する対象物2に周波数ωをもつ音波を照射したときに、対象物2で生じる回折波を静止観測点で観測すると、ドップラー効果によるドップラーシフト周波数ωが加わった回折波の周波数は、下記(1)式で表される。(1)式では、対象物2への入射単位ベクトルをsとし、対象物2で生じた回折波の散乱方向を示す散乱単位ベクトルをsとしている。
【0028】
【数1】

【0029】
例えば、音源が、静止している観測者に向かって速度Vで移動している場合を考える。この場合、移動物体自体から音波を発しているため、入射ベクトルsは0としてよい。また散乱単位ベクトルsと速度ベクトルVとがなす角度は0度であるから、散乱単位ベクトルsと速度ベクトルVの内積は単に速さ|V|となる。したがって、この場合、(1)式は(2)式で表すことができ、観測者は、元の周波数ωよりも(|V|/c)ωだけ高い周波数を観測することとなる。
【0030】
【数2】

【0031】
また、(1)式において、音波の速さcに比べて速さ|V|は十分小さい場合、(3)式が導かれる。(3)式において、λは音波の波長を表す。(3)式はドップラーシフト量ωは、(s−s)と移動物体の速度ベクトルVの内積に比例することを表している。
【0032】
【数3】

【0033】
(3)式より、速度Vと入射ベクトルsが一定の場合、ある位置で観測される回折波のドップラーシフト周波数は散乱角と一対一で対応することがわかる。したがって、そのドップラーシフト周波数での波の複素振幅値は、回折波のその散乱角における複素振幅値を与える。回折波の最大検波角をθmaxとすれば、得られるドップラーシフト周波数の最大値は±Bである。Bを(4)式に示す。
【0034】
【数4】

【0035】
ところで、回折波の検波面を無限遠方においたときに得られる回折波パターンが対象物の角度スペクトルとして得られる。これは無限遠方での第1次ボルン近似式である(5)式により確かめられる。
【0036】
【数5】

【0037】
上記(5)式において、f(s,s)は散乱強度(scattering amplitude)であり、Fは散乱ポテンシャルである。ベクトルKは2π(s−s)/λである。λは音波の波長を表す。(5)式は散乱ポテンシャルFをベクトルr空間でフーリエ変換された結果がK空間での散乱強度fになることを表している。K空間とは角度スペクトルまたは空間周波数Kそのものである。音波の場合、対象物外での音速をc、対象物内の音速分布をc(r)とすれば、散乱ポテンシャルFは以下の(6)式で表される。
【0038】
【数6】

【0039】
すなわち物体の空間周波数Kが、フランフォーファー回折面に現れる。また空間周波数Kは、速度Vとの内積によりドップラーシフト周波数ωに変換される。以上、2つのことから、対象物の空間周波数スペクトルは、ドップラーシフト周波数スペクトルに現れることがわかる。
【0040】
(第1実施形態)
本実施形態の観察装置1は、以上に説明した原理に基づいて、対象物2の像を取得するものである。図2は、第1実施形態の観察装置1の構成を示す図である。本実施形態の観察装置1は、図2に示すように、信号発生部SG、回折波発生部10、検出部20、および演算部30を備える。
【0041】
信号発生部SGは、音波を発生させるための信号を生成する手段であり、周波数ωの正弦波sin(ωt)の信号を回折波発生部10に出力する。
【0042】
回折波発生部10は、信号発生部SGから信号を入力して音波を生成し、対象物2へ音波を照射して回折波を発生させる手段である。回折波発生部10は、トランスデューサ12を備える。トランスデューサ12は、信号発生部SGから信号を入力して音波を生成し、移動している対象物へ音波を照射する。トランスデューサ12は、複数のスピーカから構成され、各スピーカに信号発生部SGからの信号が入力される。各スピーカに入力される信号は、対象物2に平面波が入射されるように位相関係が所定の量に保たれている。トランスデューサ12は、複数のスピーカにより平面波を出力し、この平面波を対象物2へ照射する。本実施形態では、各スピーカに同一の位相を有する正弦波が入力される。このため、トランスデューサから出力される音波は、図2に示すZ軸方向に進行する平面波となる。なお、隣り合うスピーカに入力される信号の位相差が一定量の場合、Z軸に対して、位相差の量に応じた角度を有する平面波が出射される。なお、本明細書において、ξ軸方向、u軸方向、X軸方向、第1方向は互いに平行な向きであり、η軸方向、v軸方向、Y軸方向、第2方向は、互いに平行な向きである。
【0043】
トランスデューサ12は、この平面波を対象物2へ照射する。平面波が対象物2に照射されると、対象物2において様々な方向に散乱する回折波が生じる。対象物2で生じた回折波は、検出部20に到達する。
【0044】
対象物2はξη平面上で−η方向(図2における−Y方向)に移動しているものとすると、検出部20に到達した回折波において対象物2の移動に因るドップラーシフト周波数が一定となる第1方向は、ξ軸に平行なu方向(図2におけるX方向)である。この第1方向に直交する第2方向は、η軸に平行なv方向(図2におけるY方向)である。検出部20は、検波面上の各位置に到達した音波のドップラーシフト量に応じた周波数で時間的に変化するデータの第2方向(v方向)についての総和を表すデータを、第1方向(u方向)の各位置について各時刻に出力することができる。
【0045】
検出部20は、複数のY方向に延在するトランスデューサdにより構成される。トランスデューサdは、検出部20に到達した音波を受波し、電気信号に変換する手段である。検出部20では、X方向に向かってN個のトランスデューサd(n=1,2,…,N)が並設されている。図2では、そのうち一つのトランスデューサdを示している。各トランスデューサは、物理的にはY方向に向かって並設されるM個のマイクロフォンd(m)(m=1,2,…,M)により構成されている。すなわち、マイクロフォンd(m)は、第1方向(X方向)および第2方向(Y方向)に並設されている。各マイクロフォンd(m)は、音波を受波して電気信号に変換する。各マイクロフォンd(m)が検出部20の1つの画素に相当し、各マイクロフォンd(m)が検波面を形成する。本実施形態では、検出部20の検波面は、対象物2のフランフォーファー回折像面または結像面のいずれでもないフレネル回折像面に配置されている。
【0046】
Y方向に向かって並設されるM個のマイクロフォンd(m)は、出力側で電気的に接続されている。各トランスデューサdは、各マイクロフォンd(m)からの出力信号i(m)(t)を電気的な接続により合波し、時刻毎に変数mについて1からMまで総和された信号i(t)を出力する。すなわち、本実施形態では、マイクロフォンd(m)が2次元に配置されているが、各マイクロフォンd(m)のY軸方向の電気的接続により、Y軸方向に長尺なトランスデューサdが、X軸方向に並設された1次元トランスデューサと同様の構成を有する。各トランスデューサdにおいて出力される信号i(t)を(7)式に示す。
【0047】
【数7】

【0048】
演算部30は、検出部20から出力された信号i(t)について所定の演算を行って対象物2の像を得る。この演算内容について以下に説明する。
【0049】
演算部30は、各トランスデューサdから出力される信号i(t)を取得し、(8)式に示すように、この信号i(t)について時刻変数tに関する1次元フーリエ変換を行う。(8)式においてωは時間周波数を表す変数であり、FTは、時刻変数tに関するフーリエ変換の演算を表す記号である。
【0050】
【数8】

【0051】
検出部20の各トランスデューサdには、種々の周波数を有する散乱波が入射する。したがって、検出部20において検出される音波は、種々の周波数成分を含むものとなる。ここで、(8)式のように、信号i(t)を時刻変数tに関して1次元フーリエ変換すると、検出部20の検波面がフラウンフォーファ回折像面に配置された場合に得られる周波数分布と同様の周波数分布が得られる。すなわち、フレネル面に配置される検出部20により検出された不規則な周波数分布が、信号i(t)が時刻変数tに関する1次元フーリエ変換により、規則的な周波数分布に変換される。
【0052】
以降、信号I(ω)をI(n,ω)と表記する。変数nは、トランスデューサdの第1方向の位置を表す。(8)式により得られた信号I(n,ω)には、トランスデューサ12から出射された音波の周波数ωを中心にドップラースペクトルが含まれている。演算部30は、信号I(n,ω)から時間周波数ωを中心に最大ドップラーシフト周波数B((4)式)を前後に含むように周波数領域を切り出し((9)式)、位置nにおけるドップラーシフト周波数スペクトルI(n,ω)を得る。なお、(9)式は、右辺のI(n,ω−ω)を周波数[−B〜B]の範囲で切り出す操作を表している。
【0053】
【数9】

【0054】
ドップラーシフト周波数スペクトルI(n,ω)は、対象物2のY方向の空間周波数スペクトルを表す。対象物2のフランフォーファー回折像をGと表記すると、(9)式は(10)式のように表すことができる。
【0055】
【数10】

【0056】
(10)式において、FTは変数nに関するフーリエ変換を表す。またH(x)はX方向の2次位相(Quadratic phase)である。ここで、xは第1方向と平行な方向であり、フランフォーファー回折像面上の座標を表す。2次位相Hは、検出部20の配置される位置により決まる値であり、検出部20の検波面が対象物2のフランフォーファー回折像面(x−y面)に配置された場合には、2次位相H(x)は1となる。本実施形態では、検出部20の検波面は、フランフォーファー回折像面または結像面のいずれでもない位置に配置される。この場合、像のボケがこの2次位相H(x)として現れる。この2次位相H(x)は、対象物2を測定する前にあらかじめ測定して得ることができる値である。
【0057】
演算部30は、(11)式に示すように、(10)式の左辺を2次位相H(x)で除算した後に、位置変数x、および時間周波数変数ωにてフーリエ変換することにより、対象物2の複素振幅像gを得る。(11)式において、FT(x,ωd)は、位置変数xおよび時間周波数変数ωに関するフーリエ変換を表している。
【0058】
【数11】

【0059】
図3は、以上のような演算処理を行う本実施形態における演算部30の構成を示す図である。演算部30は、第1フーリエ変換部31と、特定領域切出部34と、第2フーリエ変換部32と、第3フーリエ変換部33とを備える。第1フーリエ変換部31は、uv平面上の位置uおよび時刻tを変数とする信号i(t)について時刻変数tに関する1次元フーリエ変換(上記(8)式)を行う。特定領域切出部34は、この1次元フーリエ変換で得られた信号I(n,ω)から時間周波数ωを中心に最大ドップラーシフト周波数B(上記(4)式)を前後に含むように周波数領域を切り出す(上記(9)式)。第2フーリエ変換部32は、この切り出したデータについて時間周波数ωに関する1次元フーリエ変換(上記(11)式の時間周波数ωに関するフーリエ変換)を行う。第3フーリエ変換部33は、第1の第4フーリエ変換部33A、2次位相除算部36、及び第2の第4フーリエ変換部33Bを備えている。第1の第4フーリエ変換部33A及び第2の第4フーリエ変換部33Bは、変数xに関するフーリエ変換(上記(11)式の変数xに関するフーリエ変換)、又は変数xに関する逆フーリエ変換を行う。2次位相除算部36は、(11)式に示すように、第1の第4フーリエ変換部33Aから出力されるデータを2次位相H(x)で除算する。フーリエ変換部に着目すると、本実施例では、演算部30が時刻変数に関する1次元フーリエ変換を行う第1フーリエ変換部31と、周波数に関する1次元フーリエ変換を行う第2フーリエ変換部32と、第1方向に関する1次元フーリエ変換を行う第3フーリエ変換部33とを備えている。なお、第2フーリエ変換部32、第1の第4フーリエ変換部33Aおよび第2の第4フーリエ変換部33Bの位置は入れ替えても良い。第2フーリエ変換部32と第3フーリエ変換部33は、時間周波数ωおよび変数xに関する2次元フーリエ変換部を構成する。
【0060】
以上のような構成により、本実施形態の観察装置1は、信号取得レートが低い検出部20を用いる場合であっても移動している対象物2の像を高感度に得ることができる。たとえば、Y方向にM個、X方向にN個の画素を有する2次元検出器に比べM倍の速度で高速に、移動している対象物2の像を得ることができる。また、本実施形態の観察装置1では、Y方向に向かって並設されるM個のマイクロフォンの出力側が電気的に接続されていても、個々のマイクロフォンが検波する信号を分離することができる。その結果、照射音波を走査することなく2次元回折像を得ることができる。
【0061】
(第2実施形態)
第2実施形態の観察装置1Aは、第1実施形態の観察装置1と比較しての検出部および演算部の構成が異なる。それ以外の点は第1実施形態と同じ構成を備える。
【0062】
本実施形態に係る検出部は、所定平面に検波面を有し、該検波面において音波を受波して電気信号に変換する複数のマイクロフォンを備え、複数のマイクロフォンが、第1方向および第2方向に並設される。具体的には、検出部は、M個のマイクロフォンd(m)がY方向(第2方向)に並んで構成される。第2方向に並んだm番目のマイクロフォンd(m)は、各位置において検出されたデータを各時刻に出力する。本実施形態に係る検出部では、Y方向に向かって並設されるM個のマイクロフォンd(m)は、出力側で電気的に接続されていない。
【0063】
演算部30Aは、第1フーリエ変換部31と、特定領域切出部34と、第2フーリエ変換部32と、第3フーリエ変換部33とに加え、Y方向にM個並んだ検出部の出力を入力し、第1から第Mまでの第2方向のマイクロフォンd(m)の出力の総和を出力する演算器である各出力総和器35を備える。各出力総和器35は、様々な位置に配置することができる。演算部30Aの演算器構成の一例を図4に示す。図4に示すように、各出力総和器35が、第1フーリエ変換部31の前段に配置される場合、各出力総和器35は、M個のマイクロフォンd(m)が出力するM個の信号を所定の時間間隔で取得し、所定の時間間隔毎にM個の信号の総和を算出し、結果を第1フーリエ変換部31に出力する。その後段は、第1実施形態の演算部30と同じ演算器構成となるため、説明は省略する。
【0064】
各出力総和器35が第1フーリエ変換部31と第2フーリエ変換部32との間に配置される場合の演算部30Aの演算器構成を図5および図6に示す。図5に示すように各出力総和器35が第1フーリエ変換部31と特定領域切出部34との間に配置される場合、演算部30Aでは、M個のマイクロフォンd(m)からの出力について時刻変数tに関する1次元フーリエ変換を行うM個の第1フーリエ変換部311〜31Mが配置され、第1フーリエ変換部311〜31Mの後段に第1フーリエ変換部311〜31Mからの出力の総和を出力する各出力総和器35が配置される。その後段に配置される特定領域切出部34以降は、第1実施形態の演算部30と同じ演算器構成となるため、説明は省略する。
【0065】
図6に示すように各出力総和器35が特定領域切出部34と第2フーリエ変換部32との間に配置される場合、演算部30Aでは、M個の第1フーリエ変換部311〜31Mからの出力について周波数の切り出しを行うM個の特定領域切出部341〜34Mが配置され、特定領域切出部341〜34Mの後段に特定領域切出部341〜34Mからの出力の総和を出力する各出力総和器35が配置される。その後段に配置される第2フーリエ変換部32以降は、第1実施形態の演算部30と同じ演算器構成となるため、説明は省略する。
【0066】
各出力総和器35が第2フーリエ変換部32の後段に配置される場合の演算部30Aの演算器構成を図7および図8に示す。図7に示すように各出力総和器35が第2フーリエ変換部32と第3フーリエ変換部33との間に配置される場合、演算部30Aでは、M個の特定領域切出部341〜34Mからの出力について時間周波数ωに関する1次元フーリエ変換を行うM個の第2フーリエ変換部321〜32Mが配置され、第2フーリエ変換部321〜32Mの後段に第2フーリエ変換部321〜32Mからの出力の総和を出力する各出力総和器35が配置される。その後段に配置される第3フーリエ変換部33は、第1実施形態の演算部30と同じ演算器構成となるため、説明は省略する。
【0067】
図8に示すように各出力総和器35が第3フーリエ変換部33の後段に配置される場合、演算部30Aでは、M個の第3フーリエ変換部331〜33Mの後段に第3フーリエ変換部331〜33Mからの出力の総和を出力する各出力総和器35が配置される。
【0068】
次に、各出力総和器35の出力について説明する。各出力総和器35が第1フーリエ変換部31と第2フーリエ変換部32の間にある場合、各出力総和器35は、(12)式に示すように、時間周波数ω(=ω+ω)毎にM個の前段の演算器からの出力の総和を得る。ここでI(m)(ω)は、第1フーリエ変換部31のY方向にm番目に配置されたマイクロフォンd(m)の出力データi(m)(t)を時刻変数tに関してフーリエ変換した第1フーリエ変換部31の出力信号を表している。フーリエ変換の線形性により(12)式中辺のフーリエ演算子FTは、総和演算子Σと交換可能であることから、(12)式最右辺を得る。
【0069】
【数12】

【0070】
(12)式において、最右辺の時刻変数tに関する1次元フーリエ変換演算子FTが作用する項は、M個のマイクロフォンd(m)が出力する波形i(m)(t)の1〜Mまでの総和i(t)を表している。すなわち、演算部30Aが備える各出力総和器35は、第1実施形態における検出部20が出力する信号を時間変数tに関してフーリエ変換した信号を出力する。したがって、第2実施形態は、第1実施形態に示す、Y方向の総和を各時刻に出力する検出部20の一部を演算部30Aに含む構成であるといえる。
【0071】
一方、各出力総和器35が第2フーリエ変換部32より後段にある場合、各出力総和器35は、(13)式に示すように、時刻毎にM個の前段の演算器からの出力の総和を得る。ここでi(m)(t)は、第mの第2フーリエ変換部32mの出力を表している。また、i(m)(t)の時刻変数tに関する1次元フーリエ変換は、I(m)(ω)と表す。(13)式の右辺の1次元フーリエ変換演算子FTω−1が作用する項は、第2フーリエ変換部32mの出力である。したがって、特定領域切出部34の入力は(14)式左辺に示される周波数ωだけ周波数シフトした信号I(m)(ω+ω)である。さらに(14)式の最右辺は、M個の検出部が出力する波形i(m)(t)の1〜Mまでの時刻毎の総和を表している。すなわち、演算部30Aに設けた各出力総和器35の出力は、第1実施形態における検出部20が出力する信号と一致することから、第2実施形態は、第1実施形態の第2方向の総和を表すデータを各時刻に出力する検出部20の一部を演算部30Aに含む構成であるといえる。
【0072】
【数13】

【0073】
【数14】

【0074】
また、各出力総和器35が、第1フーリエ変換部31の前段にある場合は、(15)式に示すように、時刻毎にM個の前段の検出部20Aからの出力の総和を得る。ここで、i(m)(t)は、Y方向に並んだM個の検出部20Aのうち、Y方向にm番目に並んだ出力を表している。(15)式の右辺は、M個の検出部が出力する波形i(m)(t)の1〜Mまでの総和を表している。すなわち、演算部30Aが備える各出力総和器35の出力は、第1実施形態における検出部20が出力する信号と一致することから、第2実施形態は、第1実施形態のY方向の総和を表すデータを各時刻に出力する検出部20の一部を、演算部30Aに含む構成であるといえる。
【0075】
【数15】

【0076】
(第3実施形態)
【0077】
第1、2実施形態では、対象物2で生じた回折波を直接検出部20、20Aで検波する構成を示した。第3実施形態は、ヘテロダイン計測を用いて、対象物2で生じた回折波を検波する構成について説明する。ヘテロダイン計測とは、対象物2の情報を含んだ回折波に既知の参照波を乗算器で乗算した信号を検波する方法である。特に、乗算後の出力に含まれる差周波数成分を用いることが多い。差周波数成分は、物体波と参照波との差の周波数成分である。このような、差周波数成分を用いることで、低周波数領域において演算を行うことができるので、アナログ的にもデジタル的にも信号処理が容易になるという利点がある。またヘテロダイン計測は、物体波と参照波との差信号を得ることから、対象物による変調成分のみを強調するという作用があり、微小信号変化の検波にも利用される計測方法である。
【0078】
図9に、第3実施形態の観察装置1Bの構成を示す。観察装置1Bは、信号発生部SG、回折波発生部10、検出部20B、演算部30B、および参照音波発生部40(第1参照音波発生部)を備えている。信号発生部SG、および回折波発生部10は、第1または第2実施形態で説明した構成と同じである。
【0079】
検出部20Bは、複数のY方向に延在するトランスデューサdに加え、自乗検波器21とローパスフィルタ22を備えている。また、演算部30Bの構成は、第1実施形態で説明した演算部30とほぼ同様の構成であるが、特定領域切出部34が切り出す中心周波数が、ωでなくΩである点で演算部30と異なる。
【0080】
参照音波発生部40は、信号発生部SGから所定の周波数の信号を入力して、その入力した信号を変調器で変調した後に、当該変調後の信号から参照音波(第1参照音波)を生成する。参照音波発生部40は、信号発生部SGが出力する正弦波を信号r(t)として取得する。参照音波発生部40は、周波数シフター41とトランスデューサ42とを備える。周波数シフター41は周波数ωのサイン波を周波数ω+Ωへと遷移させる。
【0081】
トランスデューサ42は、周波数シフター41から出力される周波数ω+Ωの正弦波を取得し、音波を発生させる。トランスデューサ42は、回折波発生部10が備えるトランスデューサ12と同様なものであり、複数のスピーカから構成され、対象物2に平面波が入射するように各スピーカへの入力信号の位相関係が所定の量に保たれている。本実施形態では、各スピーカに同一の位相を有する正弦波が入力されている。このため、トランスデューサ42から出力される音波は、平面波となる。なお、各スピーカに入力される信号の位相差が一定量の場合、Z軸に対して位相差の量に応じた角度を有する平面波が出射される。
【0082】
以上のように構成された観察装置1Bでは、検出部20Bが、回折波発生部10において対象物2から生じた回折音波と、参照音波発生部40からの参照音波を受波する。回折音波は、ドップラー効果の影響を受けることにより、ドップラーシフト周波数ωだけ遷移し、周波数ω+ωを有する。この回折音波の信号はsin(ω+ω)tとする。これを第1の波と呼ぶ。一方、参照音波発生部40から発せられる音波は、周波数ω+Ωを有する。この参照音波の信号を、sin(ω+Ω)tとする。これを第2の波と呼ぶ。このような第1の波と第2の波とが検出部20Bに入力されることにより、これらの波の重ね合わせた信号が検出部20Bのトランスデューサdから出力される。
【0083】
検出部20Bのトランスデューサdの後段には自乗検波器21と、ローパスフィルタ22が設けられている。自乗検波器21は、(16)式のように、第1の波と第2の波の和を自乗して、出力する。(16)式右辺の第3項は、(17)式のように分解することができる。よって、自乗検波器21の出力は、第1の波および第2の波の和周波差2ω+Ω+ωと、第1の波および第2の波の差周波数Ω−ωを含む項に分解することができる。ローパスフィルタ22は、自乗検波器21の出力のうち、差周波成分のみを抜き出して演算部30Bへ出力する。ローパスフィルタ22から出力される信号i(t)は、周波数Ωを中心としてドップラーシフト周波数ωを前後に含む。このようにして、検出部20Bが、検波面において、対象物2で生じた回折波と参照音波とをヘテロダイン干渉させる。
【0084】
【数16】

【0085】
【数17】

【0086】
演算部30Bは、検出部20Bの出力に対して、所定の演算を行うことにより対象物2の像を得る。すなわち、演算部30Bは、第1フーリエ変換部31により時間波形i(t)を時刻変数tに関してフーリエ変換してI(ω)を出力する。特定領域切出部34は、周波数Ωを中心に最大ドップラーシフト周波数B(上記(4)式)を前後に含む周波数領域を切り出す。この処理を数学的に表すと、(18)式のようになる。
【0087】
【数18】

【0088】
特定領域切出部34の後段において行われる演算、および演算器構成は、上記第1、第2実施形態と同様であるため、説明は省略する。以上のような演算を行うことにより、対象物2の像を得ることができる。
【0089】
なお、本実施形態では、検出部20Bのトランスデューサdは、第1実施形態と同様のものを用いた。すなわち、検出部20Bは、Y方向に延在するトランスデューサdがX軸方向に並設された1次元トランスデューサを備えるものとして説明した。ただし、検出部20Bは、このような構成に限定されるものではない。例えば、検出部20Bのトランスデューサdは、第2実施形態で説明したM個のマイクロフォンd(m)がY方向(第2方向)に並んで構成され、Y方向に向かって並設されるM個のマイクロフォンd(m)は、出力側で電気的に接続されていないものであってもよい。この場合、演算部30Bは、第2実施形態で説明した演算部30A(図4〜8)のように、1〜Mまでの総和を得る各出力総和器35を備える必要がある。
【0090】
(第4実施形態)
第3実施形態では、参照音波発生部40で生成された参照音波を第2の波として検出部20Bに入力した。本実施形態は、音波とは異なる波を検出部に入力するものである。
【0091】
図10に、第4実施形態の観察装置1Cの構成を示す。本実施形態の観察装置1Cは、第3実施形態の観察装置1Bが備える検出部20B、参照音波発生部40に代えて、検出部20C、第1参照信号発生部40Cを備えている。検出部20Cは、入力信号の和を計算する和算器23をトランスデューサdと自乗検波器21の間に備えている。検出部20Cおよび第1参照信号発生部40C以外の構成は、第3実施形態の観察装置1Bと同じである。
【0092】
第1参照信号発生部40Cは、周波数シフター41を備えるが、トランスデューサ42を備えていない点で、第3実施形態の参照音波発生部40と異なる。第1参照信号発生部40Cは、信号発生部SGが出力する正弦波を信号r(t)として入力し、入力した信号を周波数シフター41で変調して第1参照信号を生成する。周波数シフター41は周波数ωの正弦波を周波数ω+Ωへと遷移させる。周波数ω+Ωをもつ第1参照信号r’(t)を第2の波として生成し、検出部20Cに出力する。
【0093】
回折波発生部10において対象物から生じた回折波は、第1の波として検出部20Cに出力される。一方、第1参照信号r’(t)は、第2の波として検出部20Cの和算器23に出力される。和算器23は、第1の波と第2の波を時刻毎に和算し、その結果を時刻毎に自乗検波器21に出力する。すなわち、和算器23は、第3実施形態において、マイクロフォンdで第1の波と第2の波が合波することと同等の作用を有する。検出部20Cにおいて、和算器23の後段に配置される自乗検波器21以降の処理は、第3実施形態と同じである。このように、検出部20Cは、第2方向のマイクロフォンの出力の総和と第1参照信号r’(t)とをヘテロダイン干渉させている。
【0094】
なお、和算器23、自乗検波器21およびローパスフィルタ22をまとめてヘテロダイン検波器24と称する。ヘテロダイン検波器24は、図11に示すように乗算器21Aおよびローパスフィルタ22から構成でもよい。この構成の場合、第1の波および第2の波r’(t)が乗算器21Aに入力される。乗算器において、(17)式に示す第1と第2の波の和周波数および差周波数が現れる。すなわち乗算器21Aは、和算器23と自乗検波器21をあわせたものと同等の役割を果たす。その結果、乗算器21Aおよびローパスフィルタ22から構成されるヘテロダイン検波器24(図11)は、和算器23、自乗検波器21およびローパスフィルタ22から構成されるヘテロダイン検波器24(図10)と、同じ信号を出力する。
【0095】
なお、本実施形態では、検出部20Cのトランスデューサdは、第1実施形態と同様のものを用いた。すなわち、検出部20Cは、複数のY方向に延在するトランスデューサdとして説明した。ただし、検出部20Cは、このような構成に限定されるものではない。例えば、検出部20Cのトランスデューサdは、第2実施形態で説明したM個のマイクロフォンd(m)がY方向(第2方向)に並んで構成され、Y方向に向かって並設されるM個のマイクロフォンd(m)は、出力側で電気的に接続されていないものであってもよい。この場合、演算部30Cは、第2実施形態で説明した演算部30A(図4〜8)のように、1〜Mまでの総和を得る各出力総和器35を備える必要がある。
【0096】
(第5実施形態)
第3、4実施形態では、信号発生部SGが生成する正弦波を参照信号源として、参照音波発生部40、参照信号発生部40Cがそれぞれ参照音波、参照信号を生成し、出力する構成を示した。第5実施形態の観察装置1Dは、回折波を参照信号の信号発生源とする点で、第3、4実施形態と異なる。それ以外の点は、第3、4実施形態と同じである。
【0097】
対象物2の無限遠方または無限遠方とみなされるほど十分離れた位置で対象物2から生じる回折波を観察すれば、対象物2のフランフォーファー回折像を得る。フランフォーファー回折像における像の中心の波は、0次回折波と呼ばれる。フランフォーファー回折像の中心には散乱の影響を受けなかった波または散乱の影響が少ない波が現れる。したがって0次回折波および0次回折波とみなされる回折波は、対象物2による散乱の影響を受けなかった波または散乱の影響が少ない波である。このような、対象物2による散乱の影響を受けなかった波または散乱の影響が少ない波を略0次回折波と呼ぶこととする。
【0098】
略0次回折波とは、散乱方向の単位ベクトルsと対象物2の速度ベクトルVが略直交するとき、(3)式に示すドップラーシフト周波数ωが略0となる散乱単位ベクトルsを持つ回折波のことである。上記第3実施形態および第4実施形態で説明した第2の波は、対象物2に照射されていない波であるため、ドップラーシフト周波数ωが0の波であるといえる。したがって、略0次回折波は、参照波である第2の波として利用できる。
【0099】
図12に、第5実施形態の観察装置1Dの構成を示す。観察装置1Dでは、回折波発生部10および検出部20との間にマイクロフォンdを備えている。第4実施形態では、参照音波発生部40Cが信号発生部SGからの信号を入力しているのに対し、本実施形態では、第2参照信号発生部40Dがマイクロフォンdからの信号を入力する点で、第4実施形態と異なる。それ以外の点は、第4実施形態と同じである。
【0100】
つまり、第2参照信号発生部40Dは、対象物2のフランフォーファー回折像の中心に現れる音波を入力して、その入力した音波を電気信号に変換したのちに周波数シフター41で変調した信号である第2参照信号を生成する。そして、検出部20において、第2方向のマイクロフォンの出力の総和と第2参照信号とをヘテロダイン干渉させる。以下、具体的に説明する。
【0101】
マイクロフォンdは、対象物2から十分離れた面に配置される。マイクロフォンdは、回折波発生部10から出力された回折音波を受信し、電気信号に変換した出力信号r(t)を出力する。マイクロフォンdは、対象物2の音波によるフランフォーファー回折像またはフランフォーファー回折像面とみなせる位置であって、その像の中心に配置されているため、マイクロフォンdが検波する波は略0次回折波とみなすことができる。したがって、マイクロフォンdが出力する波形r(t)は、第2の波として利用可能である。マイクロフォンdは、出力信号r(t)を第2参照信号発生部40Dに出力する。第2参照信号発生部40Dは、周波数シフター41により周波数ω-の正弦波を周波数ω+Ωへと遷移させたうえで、周波数ω+Ωをもつ第2参照信号r’(t)を第2の波として、検出部20に出力する。検出部20以降の処理は、第4実施形態と同じであるため、説明は省略する。
【0102】
上記のように、本実施形態では、マイクロフォンdで受信した回折音波を電気信号に変換し、検出部20へ第2の波として出力している。ここで、マイクロフォンdで受信した回折音波を周波数シフター(第2参照音波発生部)により周波数ω-の正弦波を周波数ω+Ωへと遷移させたうえで、マイクロフォンにより音波(第2参照音波)に変換し、音波として第2の波を検出部20のトランスデューサdに出力してもよい。この場合、第3実施形態と同様に、第1の波と第2の波とが検出部20に入力されることにより、これらの波の重ね合わせた信号が検出部20のトランスデューサdから出力される。この場合、検出部20以降の処理は、第3実施形態と同じであるため、説明は省略する。
【0103】
以上のように、本実施形態に係る観察装置1Dでは、ヘテロダイン計測において参照信号源を信号発生部SGから得るのでなく、物体からの回折波のうちドップラー周波数偏移を受けていない略0次回折波を信号r(t)として利用している。このように、略0次回折波を参照波として用いることにより、第3および第4実施形態と同様にヘテロダイン計測を行うことができる。
【0104】
(第6実施形態)
以上では、検出部20は、X方向およびY方向に並設される2次元のマイクロフォンd(m)を備えた構成について説明した。また、音波を電気信号に変換するトランスデューサをマイクロフォンという一般名称で述べた。本実施形態の観察装置では、マイクロフォンd(m)の構成が異なる。まず、音波を電気信号に変換するマイクロフォンの原理について説明する。
【0105】
マイクロフォンには種々の原理により音圧変化を電気信号に変換する方法が存在する。例えば、マイクロフォンとしては、静電型マイク、動電型マイク、光学式マイク等が知られている。静電型マイクの原理を図13を参照して説明する。図13に示す静電型マイクM1は振動板51、固定板52、および電圧計53を備えている。振動板51および固定板52は、所定の間隔dを有して平行に配置されており、コンデンサーを構成する。コンデンサーを構成する振動板51と固定板52(固定電極)の間にあらかじめ電荷を蓄えておき、音圧が振動板51に当たることで、振動板51と固定板52の距離が変化する。これにより、コンデンサーの静電容量が変化することで、電圧計53で検出される電圧値変化が音圧変化として得られるものである。
【0106】
次に、動電型マイクの原理を図14を参照して説明する。図14に示す動電型マイクM2は、永久磁石棒61、コイル62、および振動板63とを備えている。動電型マイクM2は、固定された永久磁石棒61にコイル62を巻きつけて構成される。ここで、永久磁石棒61は静電型マイクM1でいう固定板に相当し、コイル62は静電型マイクM1でいう振動板に相当する。音波が入力されると、コイルと振動板63が連結されているため、振動板63の振動がコイル62を左右に振動させる。その結果、電磁誘導が生じ、コイル間の電圧変化が出力され、音圧変化として得られるものである。
【0107】
次に、光学式マイクの原理を図15〜17を参照して説明する。光学式マイクは、音圧によるにより生じる振動板と固定板との間隙dの微少変動を光干渉計測で計測するものである。
【0108】
以下に、光学式マイクの構造を静電型マイクと比較して説明する。図15は、光学式マイクの構成の一例である。図15に示す光学式マイクM3は、ミラー71、ハーフミラー72、レーザー光源74、ビームスプリッタ75、およびフォトダイオード(フォトセル)76を備えている。光学式マイクM3において、ミラー71は振動板に相当し、ハーフミラー72は固定板に相当する。光学式マイクM3では、レーザー光源74からレーザービームを出力し、このレーザービームがビームスプリッタ75を介してミラー71およびハーフミラー72に入射する。その入射光は、ハーフミラー72により一部が透過してミラー71に到達する。残りの一部は、ハーフミラー72で反射して、ビームスプリッタ75に到達する。ミラー71に到達した光は反射してビームスプリッタ75に到達する。これらビームスプリッタ75に到達した光のうち、一部はフォトダイオード76に到達し、光強度が電気信号へと変換される。このとき、音波がミラーに当たり、ミラー71の位置が変わることにより、ミラー71とハーフミラー72との間隙dが変化する。この間隙dとフォトダイオード76が出力する電気信号Iには、その変化量に所定の関係が存在する。したがって、入射した音波の音圧が光学式マイクM3で計測できる。
【0109】
図16は、光学式マイクの構成の別の一例である。図16に示す光学式マイクM4は、光学式マイクM3において固定板であるハーフミラー72を90度折り返して配置し、ハーフミラー72をミラー72Aに置き換えた構造である。光学式マイクM4において、ミラー71は振動板に相当し、ミラー72Aは固定板に相当する。光学式マイクM4では、レーザー光源74からレーザービームを出力し、このレーザービームがビームスプリッタ75を介してミラー71およびミラー72Aに入射する。ミラー71、72Aから反射された光は、ふたたびビームスプリッタ75に到達する。これらの光の一部はフォトダイオード76に到達し、光強度が電気信号へと変換される。このとき、振動板に相当するミラー71の位置が音圧により光軸方向に変位することにより、ミラー71とビームスプリッタ75との距離lとミラー72Aとビームスプリッタとの距離lとの差d=|l−l|が変化する。この差dとフォトダイード76が出力する電気信号Iには所定の関係が存在する。したがって、入射した音波の音圧が光学式マイクM4で計測できる。
【0110】
図17は、光学式マイクの構成の別の一例である。図17に示す光学式マイクM5は、光学式マイクM3と比較してミラーの反射率が異なる。光学式マイクM3では、ハーフミラー72の反射率が50%程度であるのに対し、光学式マイクM5のミラー71およびミラー72Bは、いずれも95%以上の反射率を有する。ここで、ミラー71とミラー72Bとの間隙dと波長との間に、(19)式の関係があるときに、透過強度が最大になることが知られている。(19)式において、mは任意の整数であり、λは波長である。ミラー71とミラー72Bから構成される光学素子はファブリペロー干渉計として知られている。
【0111】
【数19】

【0112】
光学式マイクM5では、上記以外の条件のときには反射光が強くなる。このような干渉計を用いれば、音圧によりミラー71が光軸方向に変位することでミラー71およびミラー72Bの間隙dが変位することで反射光強度が変化する。その強度変化をフォトダイオード76でとらえ、電気信号に変換する。すなわち間隙dとフォトダイオード76が出力する電気信号Iには所定の関係が存在する。したがって、入射した音波の音圧が光学式マイクM5で計測できる。
【0113】
上記の3種類の光学式マイクを、基本画素として2次元アレイ化するには、振動板、固定板、ビームスプリッタ、レーザー光源、およびフォトダイオードを単純に並列して2次元アレイ配置すればよい。一方、図18に示すように、振動板71、固定板72、レーザー光源74、ビームスプリッタ75は1つだけ配置し、フォトダイオード76のみを2次元アレイ化するように配置してもよい。図18に示すような構成にすることで、効率的な2次元画素化ができる。
【0114】
このような構成では、振動板71および固定板72の大きさを、例えば10x10mm四方とする。レーザー光源74から出力するレーザービームの断面大きさは、振動板71および固定板72の全体を覆う程度の大きさであるようにしても良い。ビームスプリッタ75は、レーザービームの大きさを2つに分波できる程度の大きさであるようにしても良い。レンズ81およびレンズ82は4f光学系をなしており、振動板71からの反射光を2次元アレイ化したフォトダイオード76の受光面に結像する。なお、4f光学系とは、レンズ81の後焦点面とレンズ82の前焦点面が一致し、かつレンズ81の前焦点面が振動板71の面に一致し、レンズ82の後焦点面が2次元フォトダイオード76の受光面と一致する構成のことをいう。図18に示す光学式マイクM6では、Y−Z平面に存在する複数のフォトダイオード76が配列されている様子を示している。実際にはX軸方向にも、これらのフォトダイオード76が並んでいる。光学式マイクM6は、複数のフォトダイオード76のY方向の総和を表すデータを各時刻に出力する。
【0115】
以上のように、本実施形態では、振動板71、固定板72、レーザー光源74、ビームスプリッタ75は1つだけ配置し、フォトダイオード76のみを2次元アレイ化して配置し、複数のフォトダイオード76のY方向の総和を表すデータを各時刻に出力するマイクロフォンについて説明した。つまり、本実施形態のマイクロフォンは、入力された音波により振動する振動板71と、振動板と所定の間隔を有して配置される固定板72と、レーザー光源74と、ビームスプリッタ75と、光強度を電気信号に変換するフォトダイオード76とを含み、フォトダイオード76は、第1方向および第2方向に並設され、第2方向についての総和を表すデータを、第1方向の各位置について各時刻に出力する。第1〜第5実施形態に係る検出部20では、X方向およびY方向に並設される2次元のマイクロフォンd(m)を備えたが、このような複数のマイクロフォンd(m)に代えて、本実施形態で説明したマイクロフォンを第1〜第5実施形態の検出部20に適用してもよい。また光学式マイクM1〜M6の場合,光ヘテロダイン干渉法により検出感度を向上させてもよい。
【0116】
(第7実施形態)
上記第1〜第6実施形態では、検出部の検波面が、対象物2のフレネル回折像面に配置されている場合について説明した。本実施形態では、検出部の検波面が、対象物2のフレネル回折像面とは異なる面に配置されている場合の演算器構成を、検出部の検波面が、対象物2のフレネル回折像面に配置されている第1実施形態の演算器30と比較して説明する。なお、音波を反射する反射板を用いた反射レンズ(ミラーレンズ)を用いることにより、検出部の検波面に形成される対象物2の像を、フレネル回折像、フランフォーファー回折像、物体像に相互に変換することが可能である。
【0117】
検出部の検波面が、対象物2のフレネル回折像面とは異なる面に配置されている場合には、上記第1〜第6実施形態と比較して演算器の構成が異なる。図19は、検出部の検波面が、対象物2のフランフォーファー回折像面に配置されている場合の演算器構成を示している。この場合の演算器30Fは、図19に示すように、第1実施形態における演算器30と比較して、第3フーリエ変換部33が、第1の第4フーリエ変換部33Aのみにより構成される点で異なり、その他の構成は同じである。この第1の第4フーリエ変換部33Aは、変数xに関するフーリエ変換(上記(11)式の変数xに関するフーリエ変換)を行う。
【0118】
図20は、検出部の検波面が、対象物2の結像面に配置されている場合の演算器構成を示している。この場合の演算器30Gは、図20に示すように、第3フーリエ変換部33が、第1の第4フーリエ変換部33A、2次位相除算部36、及び第2の第4フーリエ変換部33Bを備えている。すなわち、この演算器30Gの構成は、第1実施形態における演算器30と等しい。第1の第4フーリエ変換部33A及び第2の第4フーリエ変換部33Bは、変数xに関するフーリエ変換(上記(11)式の変数xに関するフーリエ変換)、又は変数xに関する逆フーリエ変換を行う。2次位相除算部36は、(10)式に示すように、第1の第4フーリエ変換部33Aから出力されるデータを2次位相H(x)で除算する。
【0119】
フーリエ変換部に着目すると、演算部30F,30Gのいずれにおいても、時刻変数に関する1次元フーリエ変換を行う第1フーリエ変換部31と、周波数に関する1次元フーリエ変換を行う第2フーリエ変換部32と、第1方向に関する1次元フーリエ変換を行う第3フーリエ変換部33とを備えている。なお、第2フーリエ変換部32と第3フーリエ変換部33の位置は入れ替えても良い。対象物2のフレネル回折像面とは異なる面に配置されている場合には、本実施形態の演算器構成を、第2〜6実施形態に適用することができる。例えば、検出部の検波面が、対象物2のフランフォーファー回折像面に配置されている場合、第2実施形態の演算部30Aの第3フーリエ変換部33(図4〜8)に代えて、本実施形態の演算部30Fの第3フーリエ変換部33(図19)を用いることとしてもよい。同様に、検出部の検波面が、対象物2の結像面に配置されている場合、第2実施形態の演算部30Aの第3フーリエ変換部33(図4〜8)に代えて、本実施形態の演算部30Gの第3フーリエ変換部33(図20)を用いることとしても良い。
【0120】
なお、検出部の検波面が、対象物2の結像面に配置されている場合、式(11)中の2次位相H(x)は実質1と見なすことができる。また、第1の第4フーリエ変換部33A及び第2の第4フーリエ変換部33Bが互いに打ち消しあう演算を行うことから、実質的には、演算部30Gの第3フーリエ変換部33では演算が行われていないこととなる。しかしながら、検出部の検波面が、対象物2の結像面に配置されていることにより、検出部において得られる像は、空間的に第1方向に関する1次元フーリエ変換が行われたものである。観察装置全体としてみれば第1方向に関する1次元フーリエ変換が行われているといえる。
【0121】
このような構成により、本実施形態の観察装置においても、信号取得レートが低い検出部を用いる場合であっても移動している対象物2の像を高感度に得ることができる。また、本実施形態の観察装置では、Y方向に向かって並設されるM個のマイクロフォンの出力側が電気的に接続されていても、個々のマイクロフォンが検波する信号を分離することができる。その結果、照射音波を走査することなく2次元回折像を得ることができる。たとえば、Y方向にM個、X方向にN個の画素を有する2次元検出器に比べM倍の速度で高速に、移動している対象物2の像を得ることができる。更に、検出部の検波面が、対象物2のフレネル回折像面とは異なる面に配置されている場合においても、対象物2の像を適切に得ることができる。
【0122】
(変形例)
以上説明した、第1〜第7実施形態の観察装置では、検出部の検波面が、第1方向と第2方向とで同じ種類の回折像面に配置される実施形態について説明した。しかし、検出部の検波面は、第1方向と第2方向に作用の異なる反射板を用いた反射レンズ(ミラーレンズ)により、第1方向と第2方向とで異なる種類の回折像面が形成された面に配置されてもよい。この場合、観察装置では、第1方向に形成される回折像面に対応した演算器が用いられる。
【0123】
例えば、検出部の検波面が、第1方向において対象物2のフレネル回折像が形成される面であって、第2方向において対象物のフランフォーファー回折像が形成される面に配置された場合、第1実施形態の演算器30を用いることで、対象部2の像を得ることができる。また、検出部の検波面が、第1方向において対象物2のフランフォーファー回折像が形成される面であって、第2方向において対象物のフレネル回折像が形成される面に配置された場合、第7実施形態の演算器30Fを用いることで、対象部2の像を得ることができる。したがって、検出部の検波面が、第1方向と第2方向に作用の異なる反射板を用いた反射レンズ(ミラーレンズ)により、第1方向と第2方向とで異なる種類の回折像面が形成された面に配置された場合であっても、以上で説明した、演算部30,30F,30Gにより、対象部2の像を得ることができる。
【0124】
以上説明した、第1〜第7実施形態の観察装置では、対象物2の速度が変化するとドップラー信号に周波数変調が生じて、最終的に得られる対象物2の像が流れ方向に伸縮する。このような伸縮を補正するために、本実施形態の観察装置は、対象物2の移動速度を検出する速度検出部を更に備えることとしても良い。そして、演算部は、速度検出部により検出された対象物2の速度に基づいて、時間方向の1次元フーリエ変換または2次元フーリエ変換の際に対象物2の速度変化に関する補正を行うこととしても良い。または、速度検出部より検出された対象物2の速度に基づいて、検出部の撮影タイミングを図ってもよい。
【0125】
この速度検出部は、任意のものが用いられ得るが、移動速度とドップラーシフト量との間の関係を利用して、検波面の回折波到達位置における信号の周波数を検出することでも対象物2の移動速度を求めることができる。この場合、速度検出部は、例えば、検出部の検波面の一部に対象物2の移動速度を求めるためのマイクロフォンが独立して設けられていてもよい。
【0126】
以上の説明では、ξη平面上で対象物2が一方向に移動する場合について説明した。本発明は、ξη平面に垂直なζ方向に対象物2が往復移動する場合にも適用可能である。この場合、検波面において径方向にドップラーシフトが生じるので、周方向に画素構造を有し各画素が放射状に延在する検出器が用いられる。
【0127】
以上の説明では、対象物の像を、入射波と同じ方向に回折する透過波を検出部で取得する実施形態を主に示したが、入射波の方向と反対方向に回折する波である反射波で取得してもよいことは、明らかである。音源として、ドップラーシフト量を感度よく検出する上では、単一周波数を有する音波の利用が考えられるが、これに限定されない。例えば、広帯域周波数を含む音波を用いることで、位相物体の深さに関する情報も取得可能となる。各周波数成分のドップラーシフトを計測するためには、広帯域の音波として、各周波数成分間の位相関係が一定であるものを用いることが考えられる。このような音源として、例えばパルス波を用いることができる。
【0128】
上記第1〜第7実施形態では、入射波ベクトルsは、Z軸に平行であり、速度Vとの内積が0であるから、(8)式はω=k・Vと表した。ただし、入射波ベクトルsはZ軸に平行ではなくてもよい。この場合、種々の入射方向sにて波を入力し、その回折波を検出部で取得し、演算部にて入射方向s毎のI(n,ω)を得て、フーリエ回折定理(Fourier diffraction theorem)やフーリエ断層定理(Fourier slice theorem)により3次元像複素振幅を復元することもできる。入射波sの入射角の制御は回折波発生部のトランスデューサを構成する複数のスピーカからの位相を制御することで、平面波の入射角を変化させることができる。
【0129】
上記実施形態の観察装置によれば、信号取得レートが低い検出部を用いる場合であっても移動している対象物2の像を高感度に得ることができる。たとえば、Y方向にM個、X方向にN個の画素を有する2次元検出器に比べM倍の速度で高速に、移動している対象物2の像を得ることができる。またY方向に向かって並設されるM個のマイクロフォンの出力側が電気的に接続されていても,個々のマイクロフォンが検波する信号を分離することができ、照射音波を走査することなく結果2次元回折像を得ることができる。
このとき、変調周波数に対応した画像が直接得られるため、画像を実時間表示することも可能となる。さらに、チップ内演算機能カメラを用いれば、速度の再構成画像を検出器から直接出力することも可能である。
【0130】
上記実施形態の観察装置によれば、対象物2の移動方向のセンサーアレイ数を減らすことができ、システムの安価小型化が実現するのと同時に、受音後のアナログ−デジタル変換の際の量子化ノイズ、オペアンプ等のノイズ重畳の低減が図ることができる。そのため、精度のよくイメージングを行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0131】
1,1B,1C,1D…観察装置、10…回折波発生部、12…トランスデューサ、20,20B,20C…検出部、21…自乗検波器、21A…乗算器、22…ローパスフィルタ、23…和算器、24…ヘテロダイン検波器、30,30A,30B,30C…演算部、31…第1フーリエ変換部、32…第2フーリエ変換部、33…第3フーリエ変換部、33A,33B…第4フーリエ変換部、34…特定領域切出部、35…各出力総和器、36…2次位相除算部、40…参照音波発生部、40C…第1参照信号発生部、40D…第2参照信号発生部、41…周波数シフター、42…トランスデューサ、71…振動板、72…固定板、74…レーザー光源、75…ビームスプリッタ、76…フォトダイード、81,82…レンズ、M6…光学式マイク、SG…信号発生部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数の信号を生成する信号発生部と、
前記所定の周波数の信号を入力して音波を生成する音源を有し、移動している対象物へ前記音波を照射する回折波発生部と、
前記音源による音波照射により前記対象物で生じた回折波のうち所定平面に到達した音波において前記対象物の移動に因るドップラーシフト効果が一定となる前記所定平面上の方向であって、前記対象物の移動方向に垂直な方向を第1方向とし、この第1方向に直交する前記所定平面上の方向であって、前記対象物の移動方向に平行な方向を第2方向としたときに、前記所定平面上の各位置に到達した音波のドップラーシフト量に応じた周波数で時間的に変化するデータの、前記第2方向についての総和を表すデータを、前記第1方向の各位置について各時刻に出力する検出部と、
前記検出部から出力された前記所定平面上の前記第1方向の位置および時刻を変数とするデータについて、時刻変数に関する1次元フーリエ変換、周波数に関する1次元フーリエ変換、および前記第1方向に関する1次元フーリエ変換を行って、これらの1次元フーリエ変換により得られたデータを前記対象物の像として得る演算部と、
を備えることを特徴とする観察装置。
【請求項2】
前記検出部が、前記所定平面に検波面を有し、該検波面において前記音波を受波して電気信号に変換する複数のマイクロフォンを備え、
前記複数のマイクロフォンが、前記第1方向および前記第2方向に並設され、前記第2方向のマイクロフォンは、その出力側で電気的に接続されている
請求項1に記載の観察装置。
【請求項3】
前記検出部が、前記所定平面に検波面を有し、該検波面において前記音波を受波して電気信号に変換する複数のマイクロフォンを備え、
前記複数のマイクロフォンが、前記第1方向および前記第2方向に並設され、
前記演算部が、前記第2方向のマイクロフォンの出力の総和を得る各出力総和器を備える
請求項1に記載の観察装置。
【請求項4】
前記検出部が、前記所定平面に検波面を有し、該検波面において前記音波を受波して電気信号に変換するマイクロフォンを備え、
前記マイクロフォンは、入力された音波により振動する振動板と、前記振動板と所定の間隔を有して配置される固定板と、レーザー光源と、ビームスプリッタと、前記レーザー光源からの光の強度を電気信号に変換するフォトセルとを含み、
前記フォトセルは、前記第1方向および前記第2方向に並設され、前記第2方向についての総和を表すデータを、前記第1方向の各位置について各時刻に出力する
請求項1に記載の観察装置。
【請求項5】
前記信号発生部から前記所定の周波数の信号を入力して、その入力した信号から第1参照音波を生成する第1参照音波発生部を更に備え、
前記検出部が、前記検波面において、前記対象物で生じた回折波と前記第1参照音波とをヘテロダイン干渉させる
請求項2〜4の何れか1項に記載の観察装置。
【請求項6】
前記信号発生部から前記所定の周波数の信号を入力して、その入力した信号から第1参照信号を生成する第1参照信号発生部を更に備え、
前記検出部が、前記第2方向のマイクロフォンの出力の総和と前記第1参照信号とをヘテロダイン干渉させる
請求項2〜4の何れか1項に記載の観察装置。
【請求項7】
前記対象物で生じた回折波のうち、前記対象物のフランフォーファー回折像の中心に現れる音波を入力して、その入力した音波を電気信号に変換したのちに、該電気信号から第2参照信号を生成する第2参照信号発生部を更に備え、
前記検出部が、第2方向のマイクロフォンの出力の総和と前記第2参照信号とをヘテロダイン干渉させる
請求項2〜4の何れか1項に記載の観察装置。
【請求項8】
前記対象物で生じた回折波のうち、前記対象物のフランフォーファー回折像の中心に現れる音波を入力して、その入力した音波を電気信号に変換したのちに、該電気信号から第2参照音波を生成する第2参照音波発生部を更に備え、
前記検出部が、前記検波面において、前記対象物で生じた回折波と前記第2参照音波とをヘテロダイン干渉させる
請求項2〜4の何れか1項に記載の観察装置。
【請求項9】
前記演算部が、前記時刻変数に関する1次元フーリエ変換により得られたデータのうち、前記所定の周波数を中心として最大ドップラーシフト周波数を前後に含む領域のデータについて、前記周波数に関する1次元フーリエ変換、および前記第1方向に関する1次元フーリエ変換を行う、
請求項1〜4の何れか1項に記載の観察装置。
【請求項10】
前記演算部が、前記時刻変数に関する1次元フーリエ変換により得られたデータのうち、前記所定の周波数の信号を変調器で変調した信号の周波数を中心として最大ドップラーシフト周波数を前後に含む領域のデータについて、前記周波数に関する1次元フーリエ変換、および前記第1方向に関する1次元フーリエ変換を行う、
請求項5〜8の何れか1項に記載の観察装置。
【請求項11】
前記対象物の移動速度を検出する速度検出部を更に備え、
前記演算部が、前記速度検出部により検出された前記対象物の速度に基づいて、前記フーリエ変換の際に前記対象物の速度変化に関する補正を行う、
請求項1〜10の何れか1項に記載の観察装置。
【請求項12】
前記回折波発生部が、広帯域の音波を生成する音源を有することを特徴とする請求項1〜11の何れか1項に記載の観察装置。
【請求項13】
前記回折波発生部が、前記音波としてパルス波を生成することを特徴とする請求項1〜12の何れか1項に記載の観察装置。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−94498(P2013−94498A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241529(P2011−241529)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】