説明

観測・勾配磁場コイルおよび小動物用生体磁気測定装置

【課題】小動物の心磁や脳磁を測定しうると共に磁気共鳴撮像を行うことが出来る小動物用生体磁気測定装置を提供する。
【解決手段】磁気・電波シールド(1a)で囲繞され且つ小動物(A)を収容しうる測定室(1)内にSQUID(5)を設置した小動物用生体磁気測定装置(100)において、測定室(1)内に磁気共鳴撮像のための観測・勾配磁場コイル(7)および分極磁場コイル(8)を設置する。観測・勾配磁場コイル(7)は、平面自己シールド型として、小型化を図ると共に磁気・電波シールド(1a)での渦電流の悪影響を抑制する。
【効果】セッティングに手間が掛かる小動物を動かすことなく、機能情報である心磁や脳磁が得られると共に形態情報である磁気共鳴画像を得ることが出来る。観測磁場や勾配磁場に起因する渦電流の悪影響を抑制できるので、鮮明な磁気共鳴画像を得ることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観測・勾配磁場コイルおよび小動物用生体磁気測定装置に関する。さらに詳しくは、SQUIDを用いてネズミのような小動物の心磁や脳磁を測定する小動物用生体磁気測定装置において、その小型のシールドルーム内に好適に組み込むことが出来る磁気共鳴イメージングのためのコイル群であって且つそれらコイル群が発生する磁場に起因する渦電流の悪影響を抑制できるようにした観測・勾配磁場コイル、および、セッティングに手間が掛かる小動物を動かすことなく、機能情報である心磁や脳磁が得られると共に形態情報である磁気共鳴画像を得ることも出来る小動物用生体磁気測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、SQUIDを用いてネズミのような小動物の心磁や脳磁を測定する小動物用生体磁気測定装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
他方、小動物用ではないが、SQUIDを用いると共に地磁気などの外部磁場を遮蔽するためのシールド板を備えた磁気共鳴イメージング装置が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
さらに、小動物用でもなく、SQUIDを用いてもいないが、コイルが発生する磁場が外部に漏れるのを抑制するためのシールドコイルを備えた磁気共鳴イメージング装置が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−313152号公報
【特許文献2】特開2009−201545号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M Espy et al、“Ultra-low-field MRI for Detection of Liquid Explosives”、Superconductor Science and Technology, 23(2010) 034023
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微弱な生体磁気を測定するためには、地磁気などの外部磁場を遮蔽するためのシールドが必須であり、人の生体磁気を測定する装置では、人が入る部屋全体をシールドルーム化している。しかし、全体が大型になるため、設備負担が大きく且つ輸送・移動が困難であった。
【0008】
これに対して、特許文献1に記載の小動物用生体磁気測定装置では、小動物を収容できる程度の小型のシールドルームで済むため、設備負担が小さくなると共に輸送・移動も容易になった。
【0009】
しかし、磁気共鳴イメージングを行うことは出来なかったので、本願発明者らは、磁気共鳴イメージングのためのコイル群を組み込むことを考えた。そうすれば、セッティングに手間が掛かる小動物を動かすことなく、機能情報である心磁や脳磁が得られると共に形態情報である磁気共鳴画像を得ることも出来る。
【0010】
ところが、シールドルームが小型であるため、特許文献2や特許文献3に記載されたようなコイル群を組み込むことがスペース的に困難な問題点があった。
【0011】
また、本願発明者らは、シールドルーム内には人が入らず(スペース的に入れない)、シールドルーム外(人がいる)にはコイル群が発生する磁場が漏れることはないから、コイルが発生する磁場が外部に漏れるのを抑制するための特許文献3に記載されたようなシールドコイルは必要ないと考えた。
【0012】
ところが、本願発明者らは、実験を鋭意重ねているうちに、コイル群が発生する磁場により、シールドルームを形成するシールド板に渦電流が流れ、その渦電流による磁場が磁気共鳴イメージングのための磁場を乱すと共にSQUIDに対するノイズ源になるという問題点を発見した。
【0013】
そこで、本発明の目的は、SQUIDを用いてネズミのような小動物の心磁や脳磁を測定する小動物用生体磁気測定装置において、その小型のシールドルーム内に好適に組み込むことが出来る磁気共鳴イメージングのためのコイル群であって且つそれらコイル群が発生する磁場に起因する渦電流の悪影響を抑制できるようにした観測・勾配磁場コイル、および、セッティングに手間が掛かる小動物を動かすことなく、機能情報である心磁や脳磁が得られると共に形態情報である磁気共鳴画像を得ることも出来る小動物用生体磁気測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の観点では、本発明は、ある撮像空間を想定したときに、前記撮像領域に観測磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側観測磁場コイル及び右側観測磁場コイルと、前記撮像領域にx方向勾配磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側x方向勾配磁場コイル及び右側x方向勾配磁場コイルと、前記撮像領域にy方向勾配磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側y方向勾配磁場コイル及び右側y方向勾配磁場コイルと、前記撮像領域にz方向勾配磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側z方向勾配磁場コイル及び右側z方向勾配磁場コイルと、前記左側観測磁場コイル及び左側x方向勾配磁場コイル及び左側y方向勾配磁場コイル及び左側z方向勾配磁場コイル及び右側観測磁場コイル及び右側x方向勾配磁場コイル及び右側y方向勾配磁場コイル及び右側z方向勾配磁場コイルの周囲を囲繞する磁気・電波シールドを想定したときに、前記観測磁場及び前記x方向勾配磁場及び前記y方向勾配磁場及び前記z方向勾配磁場に起因して前記磁気・電波シールドに生じる渦電流の影響を抑制しうる抑制磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の4つの左側抑制磁場コイル及び4つの右側抑制磁場コイルとを具備し、前記左側観測磁場コイル及び左側x方向勾配磁場コイル及び左側y方向勾配磁場コイル及び左側z方向勾配磁場コイル及び4つの左側抑制磁場コイルが板状に積層され、前記右側観測磁場コイル及び右側x方向勾配磁場コイル及び右側y方向勾配磁場コイル及び右側z方向勾配磁場コイル及び4つの右側抑制磁場コイルが板状に積層されていることを特徴とする観測・勾配磁場コイルを提供する。
上記第1の観点による観測・勾配磁場コイルでは、磁気共鳴イメージングのためのコイル群を平面状にし且つ板状に積層しているので、SQUIDを用いてネズミのような小動物の心磁や脳磁を測定する小動物用生体磁気測定装置において、その小型のシールドルーム内に好適に組み込むことが出来る。また、観測磁場及び勾配磁場に起因して磁気・電波シールドに生じる渦電流の影響を抑制しうる抑制磁場を形成する抑制磁場コイルを備えているので、渦電流による磁場が観測・勾配磁場を空間的・時間的に乱すこともなく、撮像領域に必要十分な磁場均一性を確保できる。また、渦電流という不要な過渡的現象が抑制され、SQUIDのノイズを低減し、磁場分解能を向上できる。
【0015】
第2の観点では、本発明は、小動物収容空間を有し且つ開閉しうる扉を有し且つ前記扉を閉じると前記小動物収容空間が磁気・電波シールドで囲繞される測定室と、前記測定室の外部に設置されたデュワと、前記デュワから延びて前記測定室の壁を突き抜けて前記測定室の内部に突出したセンサ管と、前記センサ管の先端部に設置されたSQUIDと、前記SQUIDの近傍の撮像領域に観測磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側観測磁場コイル及び右側観測磁場コイルと、前記撮像領域にx方向勾配磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側x方向勾配磁場コイル及び右側x方向勾配磁場コイルと、前記撮像領域にy方向勾配磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側y方向勾配磁場コイル及び右側y方向勾配磁場コイルと、前記撮像領域にz方向勾配磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側z方向勾配磁場コイル及び右側z方向勾配磁場コイルと、前記観測磁場及び前記x方向勾配磁場及び前記y方向勾配磁場及び前記z方向勾配磁場に起因して前記磁気・電波シールドに生じる渦電流の影響を抑制しうる抑制磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の4つの左側抑制磁場コイル及び4つの右側抑制磁場コイルと、前記撮像領域に分極磁場を形成しうるように前記撮像領域の前後に設置された円筒状の前側分極磁場コイルおよび後側分極磁場コイルとを具備し、前記左側観測磁場コイル及び左側x方向勾配磁場コイル及び左側y方向勾配磁場コイル及び左側z方向勾配磁場コイル及び4つの左側抑制磁場コイルが板状に積層され、前記右側観測磁場コイル及び右側x方向勾配磁場コイル及び右側y方向勾配磁場コイル及び右側z方向勾配磁場コイル及び4つの右側抑制磁場コイルが板状に積層されていることを特徴とする小動物用生体磁気測定装置を提供する。
上記第2の観点による小動物用生体磁気測定装置では、セッティングに手間が掛かる小動物を動かすことなく、機能情報である心磁や脳磁が得られると共に形態情報である磁気共鳴画像を得ることも出来る。さらに、前記第1の観点による観測・勾配磁場コイルを用いているので、鮮明な磁気共鳴画像を得ることが出来る。
【発明の効果】
【0016】
本発明の観測・勾配磁場コイルによれば、SQUIDを用いてネズミのような小動物の心磁や脳磁を測定する小動物用生体磁気測定装置において、その小型のシールドルーム内に磁気共鳴イメージングのためのコイル群を好適に組み込むことが出来る。また、コイル群が発生する磁場に起因する渦電流の悪影響を抑制することが出来る。
本発明の小動物用生体磁気測定装置によれば、セッティングに手間が掛かる小動物を動かすことなく、機能情報である心磁や脳磁が得られると共に形態情報である磁気共鳴画像を得ることも出来る。さらに、鮮明な磁気共鳴画像を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例に係る小動物用生体磁気測定装置を示す正面図である。
【図2】実施例に係る小動物用生体磁気測定装置の制御部を示すブロック図である。
【図3】実施例に係る観測・勾配磁場コイルを示す斜視図である。
【図4】実施例に係る観測磁場コイルの巻線パターンを示す模式図である。
【図5】実施例に係るx方向勾配磁場コイルの巻線パターンを示す模式図である。
【図6】実施例に係るy方向勾配磁場コイルの巻線パターンを示す模式図である。
【図7】実施例に係る観測抑制磁場コイルの巻線パターンを示す模式図である。
【図8】実施例に係るx方向抑制磁場コイルの巻線パターンを示す模式図である。
【図9】実施例に係るy方向抑制磁場コイルの巻線パターンを示す模式図である。
【図10】4個のコイルからなる平面自己シールドコイルの説明図である。
【図11】実施例に係る観測磁場の均一領域を示す概念図である。
【図12】実施例に係るx方向勾配磁場の均一領域を示す概念図である。
【図13】実施例に係るy方向勾配磁場の均一領域を示す概念図である。
【図14】実施例に係る分極磁場コイルを示す一部破断側面図である。
【図15】実施例に係る磁気共鳴信号の測定シーケンスを示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0019】
図1は、実施例に係る小動物用生体磁気測定装置100を示す構成図である。
この小動物用生体磁気測定装置100は、小動物Aを収容する空間である測定室1と、測定室1の上に設置されたデュワ室2と、デュワ室2内に設置されたデュワ3と、デュワ3から垂下し測定室1の天壁を突き抜けて測定室1の内部中央付近まで突出した外径35mmのセンサ管4と、センサ管4の下端部に設置されたSQUID5と、SQUID5の近傍の撮像領域6に観測磁場および勾配磁場を形成するための観測・勾配磁場コイル7と、撮像領域6に分極磁場を形成するための分極磁場コイル8と、測定室1の下に設置され且つSQUID5を駆動する電子回路を収容した基台10と、全体を制御する制御部20とを具備している。
【0020】
測定室1は、開閉しうる右扉9Rおよび左扉9Lを有している。それら扉9R,9Lを閉じると、測定室1が磁気・電波シールド1aで囲繞される。
磁気・電波シールド1aは、2層のパーマロイと1層の銅板の積層材からなる。
【0021】
デュワ室2も、1層のパーマロイと1層のアルミ板の積層材からなる磁気・電波シールドで囲繞されている。
センサ管4は、フッ素樹脂製であり、可撓性を有している。
【0022】
図示しないが、測定室1の天井もしくは壁面には、撮像領域6を撮影するためのカメラ及び照明のためのLEDが設置されている。左扉9Lおよび右扉9Rを閉じて、小動物Aの心磁や脳磁を測定している間や小動物Aを磁気共鳴撮像している間の小動物をモニタしたり、記録することが出来る。
【0023】
図2に示すように、制御部20は、SQUID5を駆動する電子回路からの信号をデジタル化するデータ収集装置11と、観測・勾配磁場コイル7と分極磁場コイル8に電流パルスを供給するドライバー12と、データ収集装置11およびドライバー12の動作を制御するシーケンサ13と、シーケンサ13に情報及び指令を送ると共にデータ収集装置11からの信号を処理するコンピュータ14と、コンピュータ14を操作するためのコンソール15とを具備している。
【0024】
図3に示すように、観測・勾配磁場コイル7は、撮像領域6に観測磁場を形成しうるように撮像領域6の左右に設置された平面状の左側観測磁場コイルLBm及び右側観測磁場コイルRBmと、撮像領域6にx方向勾配磁場を形成しうるように撮像領域6の左右に設置された平面状の左側x方向勾配磁場コイルRGx及び右側x方向勾配磁場コイルRGxと、撮像領域6にy方向勾配磁場を形成しうるように撮像領域6の左右に設置された平面状の左側y方向勾配磁場コイルLGy及び右側y方向勾配磁場コイルRGyと、撮像領域6にz方向勾配磁場を形成しうるように撮像領域6の左右に設置された平面状の左側z方向勾配磁場コイルLGz及び右側z方向勾配磁場コイルRGzと、観測磁場に起因して磁気・電波シールド1aに渦電流が生じるのを抑制するための抑制磁場を形成しうるように撮像領域6の左右に設置された平面状の左側観測抑制磁場コイルLSBm及び右側観測抑制磁場コイルRSBmと、x方向勾配磁場に起因して磁気・電波シールド1aに渦電流が生じるのを抑制するための抑制磁場を形成しうるように撮像領域6の左右に設置された平面状の左側x方向抑制磁場コイルLSGx及び右側x方向抑制磁場コイルRSGxと、y方向勾配磁場に起因して磁気・電波シールド1aに渦電流が生じるのを抑制するための抑制磁場を形成しうるように撮像領域6の左右に設置された平面状の左側y方向抑制磁場コイルLSGy及び右側y方向抑制磁場コイルRSGyと、z方向勾配磁場に起因して磁気・電波シールド1aに渦電流が生じるのを抑制するための抑制磁場を形成しうるように撮像領域6の左右に設置された平面状の左側z方向抑制磁場コイルLSGz及び右側z方向抑制磁場コイルRSGzとを具備している。
【0025】
そして、左側観測磁場コイルLBm及び左側x方向勾配磁場コイルLGx及び左側y方向勾配磁場コイルLGy及び左側z方向勾配磁場コイルLGz及び左側観測抑制磁場コイルLSBm及び左側x方向抑制磁場コイルLSGx及び左側y方向抑制磁場コイルLSGy及び左側z方向抑制磁場コイルLSGzが板状に積層されている。
また、右側観測磁場コイルRBm及び右側x方向勾配磁場コイルRGx及び右側y方向勾配磁場コイルRGy及び右側z方向勾配磁場コイルRGz及び右側観測抑制磁場コイルRSBm及び右側x方向抑制磁場コイルRSGx及び右側y方向抑制磁場コイルRSGy及び右側z方向抑制磁場コイルRSGzが板状に積層されている。
【0026】
図4は、左側観測磁場コイルLBmの導線パターンの例示図である。
左側観測磁場コイルLBmの導線パターンは同心円状になる。
なお、図は概念的なものであり、実際には、各ターンは一部が切れており、その切れ目で隣接するターンと導線で接続され、全ターンが直列になっている。また、最外周ターンおよび最内周ターンには、引出し導線が接続される。
右側観測磁場コイルRBmの導線パターンは、左側観測磁場コイルLBmの導線パターンと対称形になる。
【0027】
図5は、左側x方向勾配磁場コイルLGxの導線パターンの例示図である。
左側x方向勾配磁場コイルLGxの導線パターンは対称な2つの同心環状になる。
なお、図は概念的なものであり、実際には、各ターンは一部が切れており、その切れ目で隣接するターンと導線で接続され、それぞれ同心環を構成する全ターンが直列になっている。また、2つの同心環状の最内周ターン同士が接続され、2つの同心環状の最外周ターンには引出し導線が接続される。
右側x方向勾配磁場コイルRGxの導線パターンは、左側x方向勾配磁場コイルLGxの導線パターンと対称形になる。
【0028】
図6は、左側y方向勾配磁場コイルLGyの導線パターンの例示図である。
左側y方向勾配磁場コイルLGyの導線パターンは同心円状になる。
なお、図は概念的なものであり、実際には、各ターンは一部が切れており、その切れ目で隣接するターンと導線で接続され、全ターンが直列になっている。また、最外周ターンおよび最内周ターンには、引出し導線が接続される。
右側y方向勾配磁場コイルRGyの導線パターンは、左側y方向勾配磁場コイルLGyの導線パターンと対称形になる。
【0029】
左側z方向勾配磁場コイルLGzの導線パターンは、左側x方向勾配磁場コイルLGxの導線パターンを90度回転させたものとなる。
右側z方向勾配磁場コイルRGzの導線パターンは、右側x方向勾配磁場コイルRGxの導線パターンを90度回転させたものとなる。
【0030】
図7は、左側観測抑制磁場コイルLSBmの導線パターンの例示図である。
左側観測抑制磁場コイルLSBmの導線パターンは同心円状になる。
なお、図は概念的なものであり、実際には、各ターンは一部が切れており、その切れ目で隣接するターンと導線で接続され、全ターンが直列になっている。また、最外周ターンおよび最内周ターンには、引出し導線が接続される。
右側観測抑制磁場コイルRSBmの導線パターンは、左側観測抑制磁場コイルLSBmの導線パターンと対称形になる。
【0031】
図8は、左側x方向抑制磁場コイルLSGxの導線パターンの例示図である。
左側x方向抑制磁場コイルLSGxの導線パターンは対称な2つの同心環状になる。
なお、図は概念的なものであり、実際には、各ターンは一部が切れており、その切れ目で隣接するターンと導線で接続され、それぞれ同心環を構成する全ターンが直列になっている。また、2つの同心環状の最内周ターン同士が接続され、2つの同心環状の最外周ターンには引出し導線が接続される。
右側x方向抑制磁場コイルRSGxの導線パターンは、左側x方向抑制磁場コイルLSGxの導線パターンと対称形になる。
【0032】
図9は、左側y方向抑制磁場コイルLSGyの導線パターンの例示図である。
左側y方向抑制磁場コイルLSGyの導線パターンは同心円状になる。
なお、図は概念的なものであり、実際には、各ターンは一部が切れており、その切れ目で隣接するターンと導線で接続され、全ターンが直列になっている。また、最外周ターンおよび最内周ターンには、引出し導線が接続される。
右側y方向抑制磁場コイルRSGyの導線パターンは、左側y方向抑制磁場コイルLSGyの導線パターンと対称形になる。
【0033】
左側z方向抑制磁場コイルLSGzの導線パターンは、左側x方向抑制磁場コイルLSGxの導線パターンを90度回転させたものとなる。
右側z方向抑制磁場コイルRSGzの導線パターンは、右側x方向抑制磁場コイルRSGxの導線パターンを90度回転させたものとなる。
【0034】
ここで、ターゲットフィールド法による平面自己シールドコイルの設計について説明する。
図10において、y=−bに左側主コイルLを配置し、y=bに右側主コイルRを配置し、y=−dに左側シールドコイルLSを配置し、y=dに右側シールドコイルRSを配置し、これら4枚のコイルL,R,LS,RSの平面電流分布を、
【数1】

とする。
【0035】
この各電流成分のフーリエ変換対を、
【数2】

と表すと、電流の連続方程式は、
【数3】

となる。
【0036】
4枚のコイルL,R,LS,RSの平面電流による軸方向の磁場は、シールドコイルLS,RSの外部 (|y|>d) で、
【数4】

である。
【0037】
対称コイルの場合は、
【数5】

であるので、これを[数4]に代入して、シールドコイルLS,RSの外部の任意の点で磁場を零とするシールド条件を求めると、
【数6】

となる。
【0038】
これを用いると、主コイルL,Rのの間 (|y|<b ) の磁場は、
【数7】

となる。
【0039】
同じく、この電流密度分布が発生する磁気エネルギーは、
【数8】

となる。
【0040】
これから、ラグランジュの未定常数法によるインダクタンス最小のコイルの設計公式を導く。ここで、目標の磁場分布として、N個の磁場設定点における磁場、
【数9】

を与える。
【0041】
この制約条件を付けた磁気エネルギー汎関数は、
【数10】

で定義できる。ここで、
【数11】

は、ラグランジュの未定常数である。
【0042】
[数10]を
【数12】

で微分した結果を零とすると、
【数13】

を得る。
【0043】
ラグランジュの未定常数は、[数13]を[数7]に代入して、N個の磁場設定点に適用した行列方程式、
【数14】

から決定する。
【0044】
観測磁場コイルLBm,RBmおよび観測抑制磁場コイルLSBm,RSBmは、y方向の均一磁場分布なので、対称コイルで構成できる。8個の磁場設定点を与えて、設計公式から電流分布のフーリエ変換対を求め、これを逆変換して電流分布を求め、電流分布を積分して流れ関数を求め、流れ関数の一定ステップ毎の等高線を作り、コイル面内の巻線パターンを得ることが出来る。さらに、観測磁場の軸対称性から円形コイルで作れるので、円柱座標系を使って設計公式を簡略化できる。
観測磁場コイルLBm,RBm間の間隔を14cmとし、観測抑制磁場コイルLSBm,RSBm間の間隔を18cmとし、直径35cmの円内に収まる大きさとなるように計算した巻線パターンの例が図4および図7である。
図11は、設計公式から計算した観測磁場の均一領域である。撮像領域6は0.2%以下の均一領域に入る。
【0045】
x方向勾配磁場コイルLGx,RGxおよびx方向抑制磁場コイルLSGx,RSGxは、対称コイルで構成できる。4個の磁場設定点を与えて、設計公式から電流分布のフーリエ変換対を求め、これを逆変換して電流分布を求め、電流分布を積分して流れ関数を求め、流れ関数の一定ステップ毎の等高線を作り、コイル面内の巻線パターンを得ることが出来る。
x方向勾配磁場コイルLGx,RGx間の間隔を13cmとし、x方向抑制磁場コイルLSGx,RSGx間の間隔を17cmとし、直径35cmの円内に収まる大きさとなるように計算した巻線パターンの例が図5および図8である。
図12は、設計公式から計算したx方向勾配磁場の均一領域である。撮像領域6は0.2%以下の均一領域に入る。
【0046】
z方向勾配磁場コイルLGz,RGzおよびz方向抑制磁場コイルLSGz,RSGzは、基本的には図5や図8に示した巻線パターンを90°回転させたものであるが、z方向勾配磁場コイルLGz,RGz間の間隔を12cmとし、z方向抑制磁場コイルLSGz,RSGz間の間隔を16cmとし、同じ計算により巻線パターンを決定した。
【0047】
y方向勾配磁場コイルLGy,RGyおよびy方向抑制磁場コイルLSGy,RSGyは、反対称コイルで構成することになり、各数式におけるcoshをsinhで置換した式になる。なお、y方向磁場の軸対称性から観測磁場コイルと同様に円形コイルで作れるので、設計公式を簡略化できる。
y方向勾配磁場コイルLGy,RGy間の間隔を11cmとし、y方向抑制磁場コイルLSGy,RSGy間の間隔を15cmとして計算した巻線パターンの例が図6および図9である。
図13は、設計公式から計算したy方向勾配磁場の均一領域である。撮像領域6は0.2%以下の均一領域に入る。
【0048】
図14に示すように、分極磁場コイル8は、撮像領域6に分極磁場を形成しうるように撮像領域6の前後に設置された円筒状の前側分極磁場コイル8Fおよび後側分極磁場コイル8Bを具備している。
これら前側分極磁場コイル8Fおよび後側分極磁場コイル8Bの巻数を多くすると共に、比較的大きな電流パルスを印加して、x方向の分極磁場を発生させ、y方向の観測磁場と直交させて、SQUID5でz方向の磁束に比例した信号を検出する。
【0049】
図15は、実施例に係る測定シーケンスの説明図である。
この測定シーケンスでは、y方向の観測磁場Bmを一定に保ち、x方向の分極磁場Bpを一定時間tpo印加して、分極磁場パルスに起因する過渡的現象が低減する時間tde待って、SQUID5を駆動するFLL (Flux Locked Loop) 回路をロックさせて核磁気共鳴信号を測定する。
数10mTの分極磁場Bmを緩和時間T1より長い時間印加することで、超低磁場(数10μTから数100μT)の観測磁場における熱平衡磁化より千倍以上大きな磁化をx方向に発生することが出来る。
発生した磁化は、直交するy方向の観測磁場の強さで決まる数kHzのラーモア周波数ωLで歳差運動を始める。
磁化の歳差運動から発生するz方向の磁場を、磁気分解能に優れたSQUID5で検出する。
分極磁場パルスとSQUID5を使うことにより、超低磁場の核磁気共鳴信号を高感度に観測することが可能となる。さらに、公知の撮像手法に基づいて3方向の勾配磁場パルスを観測磁場に重畳すれば、エコー信号に位置情報をエンコードすることが出来るので、得られた一連のエコー信号から画像再構成により磁気共鳴画像を得ることが出来る。
【0050】
実施例の観測・勾配磁場コイル7は、SQUID5を用いてネズミのような小動物Aの心磁や脳磁を測定する小動物用生体磁気測定装置100において、磁気・電波シールドされた小型の測定室1内に好適に組み込むことが出来る。また、観測コイルLBm,RBmが発生する観測磁場や勾配磁場コイルLGx,RGx,LGy,RGy,LGz,RGzが発生する勾配磁場に起因する渦電流の悪影響を抑制することが出来る。
【0051】
また、実施例の小動物用生体磁気測定装置100によれば、セッティングに手間が掛かる小動物Aを動かすことなく、機能情報である心磁や脳磁が得られると共に形態情報である磁気共鳴画像を得ることが出来る。さらに、観測コイルLBm,RBmが発生する観測磁場や勾配磁場コイルLGx,RGx,LGy,RGy,LGz,RGzが発生する勾配磁場に起因する渦電流の悪影響を抑制することが出来るので、鮮明な磁気共鳴画像を得ることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0052】
例えばネズミのような小動物あるいは摘出組織・培養細胞等の被検体から発せられる生体磁場を測定するのと共に超低磁場における磁気共鳴信号を検出したり撮像するのに利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 測定室
1a 磁気・電波シールド
2 デュワ室
3 デュワ
4 センサ管
5 SQUID
6 撮像領域
7 観測・勾配磁場コイル
8 分極磁場コイル
9L,9R 左扉,右扉
10 基台
11 データ収集装置
12 ドライバー
13 シーケンサ
14 コンピュータ
15 コンソール
20 制御部
100 小動物用生体磁気測定装置
A 小動物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある撮像空間を想定したときに、前記撮像領域に観測磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側観測磁場コイル及び右側観測磁場コイルと、前記撮像領域にx方向勾配磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側x方向勾配磁場コイル及び右側x方向勾配磁場コイルと、前記撮像領域にy方向勾配磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側y方向勾配磁場コイル及び右側y方向勾配磁場コイルと、前記撮像領域にz方向勾配磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側z方向勾配磁場コイル及び右側z方向勾配磁場コイルと、前記左側観測磁場コイル及び左側x方向勾配磁場コイル及び左側y方向勾配磁場コイル及び左側z方向勾配磁場コイル及び右側観測磁場コイル及び右側x方向勾配磁場コイル及び右側y方向勾配磁場コイル及び右側z方向勾配磁場コイルの周囲を囲繞する磁気・電波シールドを想定したときに、前記観測磁場及び前記x方向勾配磁場及び前記y方向勾配磁場及び前記z方向勾配磁場に起因して前記磁気・電波シールドに生じる渦電流の影響を抑制しうる抑制磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の4つの左側抑制磁場コイル及び4つの右側抑制磁場コイルとを具備し、前記左側観測磁場コイル及び左側x方向勾配磁場コイル及び左側y方向勾配磁場コイル及び左側z方向勾配磁場コイル及び4つの左側抑制磁場コイルが板状に積層され、前記右側観測磁場コイル及び右側x方向勾配磁場コイル及び右側y方向勾配磁場コイル及び右側z方向勾配磁場コイル及び4つの右側抑制磁場コイルが板状に積層されていることを特徴とする観測・勾配磁場コイル。
【請求項2】
小動物収容空間を有し且つ開閉しうる扉を有し且つ前記扉を閉じると前記小動物収容空間が磁気・電波シールドで囲繞される測定室と、前記測定室の外部に設置されたデュワと、前記デュワから延びて前記測定室の壁を突き抜けて前記測定室の内部に突出したセンサ管と、前記センサ管の先端部に設置されたSQUIDと、前記SQUIDの近傍の撮像領域に観測磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側観測磁場コイル及び右側観測磁場コイルと、前記撮像領域にx方向勾配磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側x方向勾配磁場コイル及び右側x方向勾配磁場コイルと、前記撮像領域にy方向勾配磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側y方向勾配磁場コイル及び右側y方向勾配磁場コイルと、前記撮像領域にz方向勾配磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の左側z方向勾配磁場コイル及び右側z方向勾配磁場コイルと、前記観測磁場及び前記x方向勾配磁場及び前記y方向勾配磁場及び前記z方向勾配磁場に起因して前記磁気・電波シールドに生じる渦電流の影響を抑制しうる抑制磁場を形成しうるように前記撮像領域の左右に設置された平面状の4つの左側抑制磁場コイル及び4つの右側抑制磁場コイルと、前記撮像領域に分極磁場を形成しうるように前記撮像領域の前後に設置された円筒状の前側分極磁場コイルおよび後側分極磁場コイルとを具備し、前記左側観測磁場コイル及び左側x方向勾配磁場コイル及び左側y方向勾配磁場コイル及び左側z方向勾配磁場コイル及び4つの左側抑制磁場コイルが板状に積層され、前記右側観測磁場コイル及び右側x方向勾配磁場コイル及び右側y方向勾配磁場コイル及び右側z方向勾配磁場コイル及び4つの右側抑制磁場コイルが板状に積層されていることを特徴とする小動物用生体磁気測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−222(P2012−222A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137055(P2010−137055)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【特許番号】特許第4811751号(P4811751)
【特許公報発行日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】