説明

観測信号処理装置

【課題】観測装置と物標の間に相対速度が有る場合でも、良好なコヒーレント積分を行うことの出来る観測信号処理装置を提供する。
【解決手段】1探査当たり複数回の搬送波で変調されたパルス信号を探査信号として順次送出し、物標で反射された反射信号と、パルス信号の遅延変調パルス信号に基づいて複数の観測値を得、該得られた観測値をコヒーレント積分して積分値を外部に対して出力することの出来る装置であって、観測すべき領域に応じたコヒーレント積分回数を格納するメモリ、観測すべき領域に応じたコヒーレント積分回数分のパルス信号を探査信号として送出する手段、送出されたパルス信号の反射波を補足し観測値として蓄積する手段、概算相対速度を格納するメモリ、物標の概算相対速度に基づいて位相補正量を演算する手段、演算された位相補正量に基づいて、観測値について位相重み付きコヒーレント積分を行って外部に出力する手段から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶、車両、航空機などに搭載される、ソナー、レーダなど、パルス信号を送出して物標からの当該パルス信号の反射信号を補足することで物標を検出することの出来る物標観測装置に適用するに好適な、観測信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の物標観測装置においては、例えば、非特許文献1に示すように、物標からの反射信号から得られる観測値を加算平均することで、信号雑音比(SNR)を改善する、コヒーレント積分と言われる手法がよく知られている。
【0003】
即ち、観測値が独立同一分布の場合、観測値をNUMCI回加算平均すると、中心極限定理から、加算平均後の出力値のSNRはNUMCI倍になるという、統計的性質を利用した信号処理である。この場合、入力信号と出力信号のSNR比である、プロセスゲインは、
プロセスゲイン
=(出力SNR)/(入力SNR)
で、NUMCI倍となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Rader Systems Analysis andDesign Using MATLAB® SecondEdition 4.4.1〜4.4.2: Bassem R. Mahafza 2005刊 Chapman & Hall/CRC Taylor& Francis Group ISBN-10: 1-58448-532-7 ISBN-13: 978-1-58488-532-0
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この手法は、観測装置と物標の間の相対速度が0の場合には、良好な結果をもたらすが、観測装置と物標の間に相対速度がある場合には、物標からの反射波に対して、コヒーレント積分を行うと、相対速度の影響により、信号成分の劣化が生じ、プロセスゲインが静止物標の場合に比べ劣化する不都合がある。
【0006】
そこで、本発明は、反射波に対してコヒーレント積分を行う際に、観測装置と物標の間に相対速度が有る場合でも、良好なコヒーレント積分を行うことの出来る観測信号処理装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、観測すべき領域に対して、1探査当たり複数回の搬送波(CW)で変調されたパルス信号を探査信号(TX)として送信アンテナ(16)から、前記領域に対して順次送出し、前記探査信号の一部が前記物標でそれぞれ反射され受信アンテナ(22)で複数の反射信号(RX)として補足され、該補足された反射信号と搬送波(CW)で変調された前記パルス信号を遅延させた遅延変調パルス信号(LOI、LOQ)に基づいて相関検波することで、前記1探査当たり複数の観測値(x)を得、前記観測値は、前記物標との相対距離の情報を位相に含み、物標との相対距離と物標の反射断面積の情報を振幅に含むものであり、該得られた観測値をコヒーレント積分することで、前記1探査当たり、所定のコヒーレント積分値を積分出力yとして外部に対して出力することの出来る観測信号処理装置(1)であって、該観測信号処理装置は、
前記観測すべき領域に応じた前記コヒーレント積分回数(NUMCI)を格納する第1のメモリ(12)を有し、
前記観測すべき領域に応じた前記コヒーレント積分回数(NUMCI)を前記第1のメモリから読み出し、該読み出された前記コヒーレント積分回数分の前記パルス信号を前記探査信号(TX)として前記送信アンテナ(16)から送出する探査信号送出手段(7,14,15)、
前記送出された前記コヒーレント積分回数分の前記パルス信号の反射波を前記反射信号として前記受信アンテナ(22)で補足し、前記観測値(X(0)〜X(NUMCI−1))として蓄積する観測データメモリ手段(5,6)、
前記探査についての概算相対速度(V)を格納する第2のメモリ(12)、
前記物標の前記概算相対速度(V)を前記第2のメモリ手段(12)から読み出して、該読み出された概算相対速度に基づいて位相補正量(φ)を演算する位相補正量演算手段(10)、
前記演算された位相補正量に基づいて、前記コヒーレント積分回数分の観測値について位相重み付きコヒーレント積分を行って、得られた積分出力(y)を外部に出力する、位相重み付きコヒーレント積分手段(11)、
から構成される。
【0008】
本発明の第2の観点は、前記位相補正量演算手段(10)は、探査の際に想定される前記物標との相対速度の領域の中心値を、前記概算相対速度として決定すること、
を特徴として構成される。
【0009】
本発明の第3の観点は、前記観測信号処理装置(1)は、車両に搭載され、
前記位相補正量演算手段は、前記観測信号処理装置が搭載される車両の動作状態に応じて、前記概算相対速度を決定すること、
を特徴として構成される。
【0010】
本発明の第4の観点は、前記位相補正量演算手段は、探査すべき物標との間の距離に応じて前記概算相対速度を決定すること、
を特徴として構成される。
【0011】
本発明の第5の観点は、前記観測信号処理装置は、移動体に搭載され、
第2のメモリ手段は、負の概算相対速度を格納しており、
前記位相補正量演算手段は、前記物標が前記移動体に向かって進行してくる際に、前記第2のメモリ手段から、前記負の概算相対速度を読み出して、前記位相補正量を演算すること、
を特徴として構成される。
【0012】
本発明の第6の観点は、前記位相補正量演算手段は、同一の前記物標について、複数の前記概算相対速度を前記第2のメモリ手段(12)から読み出し、該読み出された複数の概算相対速度について、それぞれ位相補正量を演算し、
前記位相重み付きコヒーレント積分手段は、前記演算された位相補正量のそれぞれに基づいて、前記コヒーレント積分回数の観測値について位相重み付きコヒーレント積分をそれぞれ行ない、得られた積分出力のうち、絶対値の大きな方の積分出力を外部に出力すること、
を特徴として構成される。
【0013】
本発明の第7の観点は、前記位相補正量演算手段は、同一の前記物標について、正負の前記概算相対速度を前記第2のメモリ手段から読み出し、該読み出された正負の概算相対速度について、それぞれ位相補正量を演算すること、
を特徴として構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、物標の概算相対速度に基づいて位相補正量(φ)を演算し、演算された位相補正量に基づいて、コヒーレント積分回数の観測値について位相重み付きコヒーレント積分を行って、得られた積分出力(y)を外部に出力するので、観測装置と物標の間に相対速度が有る場合でも、物標との間の相対速度を考慮した形で、良好なプロセスゲインを持ったコヒーレント積分を行うことの出来る。
【0015】
また、概算相対速度は、探査の際に想定される物標との相対速度の領域の中心値や、観測信号処理装置が搭載される車両の動作状態、探査すべき物標との間の距離、負の概算相対速度など各種の要素に基づいて演算決定することが出来る。
【0016】
更に、同一の物標について、複数の概算相対速度を第2のメモリ手段(12)から読み出し、読み出された複数の概算相対速度について、それぞれ位相補正量を演算し、演算された位相補正量のそれぞれに基づいて、コヒーレント積分回数の観測値について位相重み付きコヒーレント積分をそれぞれ行ない、得られた積分出力のうち、絶対値の大きな方の積分出力を外部に出力するようにすると、プロセスゲインの大きな方のコヒーレント積分出力を得ることが出来、観測すべき物標に応じた最適な位相補正量でコヒーレント積分を行うことが可能となる。
【0017】
なお、括弧内の番号等は、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による観測信号処理装置の一例を示すブロック図。
【図2】観測装置の一例を示すブロック図。
【図3】本発明と従来手法における、コヒーレント積分回数とプロセスゲインの関係の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面に基づき、本発明の実施例を説明する。
【0020】
ソナーやレーダを構成する観測信号処理装置1は、図1に示すように、主制御部2を有しており、主制御部2にはバス線3を介して観測装置5、観測データメモリ6,観測制御装置7,観測プログラムメモリ9、位相補正量演算部10,図示しない物標検出部などに接続された位相補正重み付きコヒーレント積分部11及びパラメータメモリ12などが接続している。観測信号処理装置1は、図1に示す以外にも、多くの構成要素が接続しているが、図1では、本発明に関連する部分のみを図示し、それ以外の部分の図示を省略している。
【0021】
また、観測装置5は、図2に示すように、遅延器13を有しており、遅延器13にはパルス列発生器14及びミキサ17が接続している。パルス列発生器14には、発信アンテナ16に接続されたミキサ15が接続され、更に、ミキサ15には、ミキサ17に接続された搬送波発信器19が接続している。ミキサ17には、90゜位相遅延器20及び、受信アンテナ22に接続されたミキサ21が接続しており、ミキサ21には、ローパスフィルタ23を介してA/D変換器25が接続している。
【0022】
図1に示す観測信号処理装置1は、実際にはコンピュータが、図示しないメモリに格納された所定の制御プログラムなどを読み出して、実行することで、図示しないCPUやメモリが、マルチタスクにより時分割的に動作し、図1に示す各ブロックに示された機能を実行してゆくこととなる。しかし、観測信号処理装置1を、各ブロックに対応したハードウエアで構成することも可能であり、また各ブロックを各ブロックに分散的に設けられたCPU又はMPUにより制御するように構成することも可能である。
【0023】
観測信号処理装置1は以上のような構成を有するので、主制御部2は、物標の観測に際しては、観測プログラムメモリ9に格納された観測プログラムOPRを読み出して、この読み出された観測プログラムOPRに基づいて、物標の観測作業を実行するように、観測制御装置7に対して指令する。これを受けて観測制御装置7は、観測プログラムOPRに基づいて、これから観測すべき物標が存在するであろう領域、即ち物標を探査すべき領域を指定する領域信号DSを観測装置5の遅延器13及びA/D変換器25に対して出力する。この領域は、例えば、送信アンテナ16(及び受信アンテナ22)から探査すべき物標までの距離を指定することで指定する。同時に、観測制御装置7は、観測装置5のパルス列発生器14に対して、測定用パルス信号発生させるトリガーとなるトリガー信号TRを適宜なタイミングで出力する。
【0024】
観測装置5では、搬送波発信器19が所定周波数の搬送波CWを発生させてミキサ15,17に出力する。ミキサ15では、搬送波発信器19から出力された搬送波CWと、パルス列発生器14から、トリガー信号TRによって発生させられたパルス信号PLをミキシングして、搬送波CWで変調されたパルス信号PLが含まれた探査信号TXを生成し、送信アンテナ16から射出する。送信アンテナ16から射出された探査信号TXは、物標で反射され、その一部が反射信号RXとして受信アンテナ22に補足され、ミキサ21に入力される。
【0025】
一方、遅延器13では、観測制御装置7から入力された領域信号DSに示された、物標を探査すべき距離に応じた時間だけ、パルス列発生器14から出力されるパルス信号PLに対して対して遅延をかけ、遅延パルス信号DPLを生成してミキサ17に出力する。ミキサ17では、搬送波発信器19から出力された搬送波CWと遅延パルス信号DPLをミキシングして、搬送波CWで変調された領域遅延信号LOIとして、ミキサ21及び90゜位相遅延器20に出力する。
【0026】
90゜位相遅延器20は、入力された領域遅延信号LOIの位相を90°ずらせた直交領域遅延信号LOQを生成して、ミキサ21に出力する。ここで、便宜上、位相の90°異なる、信号LOIとLOQを区別するために、信号LOIを「I相」、信号LOQを「Q相」と称する。ミキサ21では、受信アンテナ22に補足された反射信号RXに対して、物標を探査すべき領域、即ち距離に応じた時間だけ遅延された遅延変調パルス信号である領域遅延信号LOI及び直交領域遅延信号LOQをそれぞれミキシングして相関検波することで、I相混合信号MXI及びQ相混合信号MXQを生成して、ローパスフィルタ23を介してA/D変換器25に出力に出力する。A/D変換器25では、それぞれI相混合信号MXI及びQ相混合信号MXQを、領域信号DS、即ち物標を探査すべき距離に応じて遅延させたタイミングでデジタル変換して、I相のサンプル出力Ispl及びQ相のサンプル出力Qsplを得る。
【0027】
こうして得られたI相のサンプル出力Ispl及びQ相のサンプル出力Qsplは、観測制御装置7により観測データメモリ6内に、観測された反射信号RX毎に、x=Ispl+j・Qsplとして格納される。なお、物標の探査に際して、所定の領域に対する1回の探査で観測制御装置7からのトリガー信号TRによりパルス列発生器14を介して該領域(物標)に向けて射出されるべきパルス信号PLの数、従って受信すべき、当該領域に存在する物標からの反射信号RXの数は、当該領域で求められる処理信号のプロセスゲインにより決定され、これは、位相補正重み付きコヒーレント積分部11から出力されるコヒーレント積分値のプロセスゲインに対応する。通常、この値は、位相補正重み付きコヒーレント積分部11が処理するコヒーレント積分回数NUMCIと対応している。このコヒーレント積分回数NUMCIは、デフォルト値として観測信号処理装置1のパラメータメモリ12に、物標を探査すべき領域(距離)毎に格納されており、観測制御装置7は物標を探査(観測)すべき領域が観測プログラムOPRにより決定されると、それに対応したコヒーレント積分回数NUMCIをパラメータメモリ12から読み出して、該読み出されたコヒーレント積分回数に基づいて、1回の探査で送信アンテナ16から射出すべきパルス信号PLの数(=コヒーレント積分回数NUMCI)を決定し、観測装置5のパルス列発生器14、送信アンテナ16などを介して、当該コヒーレント積分回数NUMCI分のパルス信号PLを物標を探査すべき領域に、探査信号TXとして送出する。探査すべき領域に物標が存在した場合には、該物標で探査信号TXの一部が反射され、反射信号RXとして受信アンテナ22に受信される。受信アンテナ22では、探査信号を構成する、パルス信号PLの数と等しい、コヒーレント積分回数NUMCI分の反射信号RXが補足される。
【0028】
観測データメモリ6内に、1回の探査分の反射信号RXの観測値、即ち、少なくともパラメータメモリ12から読み出されたコヒーレント積分回数NUMCI分の反射信号RXの観測値X(0)〜X(NUMCI−1)が蓄積された時点で、主制御部2は、観測プログラムOPRに基づいて位相補正重み付きコヒーレント積分部11に対して、当該観測値X(0)〜X(NUMCI−1)をコヒーレント積分するように指令する。
【0029】
観測データメモリ6に格納される、1回の探査分の観測値が、コヒーレント積分回数NUMCIに対応するNUMCI回であるとすると、NUMCI個のサンプルが観測値として得ることが出来る。ここで、
i=0回目のサンプルのモデルを、(1)、(2)式で表す。
【0030】
【数1】

【数2】

また、i=1回目のサンプルのモデルを、(3)、(4)式で表す。
【0031】
【数3】

【数4】

同様に、i=k回目のサンプルのモデルを、(5)、(6)式で表す。
【0032】
【数5】

【数6】

即ち、各観測値(サンプル)は、物標との相対距離の情報を位相に含み、物標の相対距離と物標の反射断面積の情報を振幅に含むこととなる。
【0033】
次に、得られたNUMCI回分のサンプル(観測値)をコヒーレント積分するのであるが、その際、位相補正重み付きコヒーレント積分部11は、位相補正量演算部10に対して、観測値をコヒーレント積分する際の位相補正量を決定するように要求する。これを受けて、位相補正量演算部10は、検出すべき物標について予め設定された概算相対速度Vをパラメータメモリ12から読み出して、式(7)に基づいて位相補正量φを演算決定する。
【数7】

概算相対速度Vは、観測信号処理装置1と探査すべき物標との間の想定される相対速度であり、その値は、
1)探査の際に想定される物標との相対速度の領域の中心値、
2)観測信号処理装置1が搭載される車両などの動作モード(動作状態)、例えば、オートクルージングモード、プリクラッシュセーフティ、フロントコリジョンウオーニング、レーンチェンジオウオーニング等の動作モードに応じた適切な値、
3)探査すべき物標との間の距離に対応した値、
4)負の相対速度値(即ち、観測信号処理装置1が搭載された車両などの移動体に向かって進行してくる物標の持つ相対速度値)、
など、各種の決定要素に基づいて、パラメータメモリ12内に1)〜4)の各要素別にデフォルト値として格納されている。従って、位相補正量演算部10は、観測プログラムOPRに基づいて、それら各種の決定要素1)〜4)のうち、現在の車両の状態など、現在の観測信号処理装置1の探査状態に対応した概算相対速度をパラメータメモリ12から読み出し、位相補正量を決定するために使用する概算相対速度Vを決定する。
【0034】
概算相対速度Vから位相補正量演算部10により式(7)で位相補正量φが決定されたところで、位相補正重み付きコヒーレント積分部11は、1回の探査分として得られたNUMCI個の観測値を式(8)に示すようにコヒーレント積分する。
【0035】
【数8】

これにより、コヒーレント積分出力yは、位相補正量φにより重み付けられる形で積分される。
【0036】
このとき、(1)〜(6)式のサンプル値のモデルに基づけば、yの信号成分ysは式(9)のように、yのノイズ成分は式(10)のようになる。
【数9】

【数10】

信号成分ysは、式(11)に示すように、整理される。
【0037】
【数11】

従って、│ys│は、式(12)に示すものとなる。
【0038】
【数12】

n(k)を、式(13)のような複素白色ガウス性雑音と仮定する。
【0039】
【数13】

このとき、yのノイズ成分は中心極限定理より、式(14)に示すものとなる。
【数14】

以上の式を変形すると、yのSNRは式(15)に示すものとなる。
【数15】

従って、上式より、コヒーレント積分出力yのプロセスゲインは、式(16)で示すものとなる。
【数16】

こうして得られたコヒーレント積分出力yは、図1示すように、位相補正重み付きコヒーレント積分部11より、外部に出力され、図示しない公知の物標検出手段などで、解析演算され、物標の速度、位置などが求められる。
【0040】
本発明の有効性を検証するために、観測値に対して位相補正量φによる重み付けを行ってコヒーレント積分を行った場合と、単純に観測値をコヒーレント積分した場合について、比較した例を、図3に示す。ここでは、ω=2π×29×10[rad/s]、PRI=500[ns]とした。図3の場合、相対速度が−100km/hで移動してくる(観測信号処理装置1に向かって100km/hで移動してくる)物標について、観測値を単純にコヒーレント積分した場合、「単純CI:−100kmhの物標」に示すように、コヒーレント積分回数が200回程度以上になると、急速にプロセスゲインが低下してくる。しかし、本発明のように、例えば概算相対速度Vを−55kmhに設定して、同様に、相対速度が−100km/hで移動してくる(観測信号処理装置1に向かって100km/hで移動してくる)物標について、位相補正量φによる重み付けを行ってコヒーレント積分を行った場合、「提案手法:−100kmh物標、V_0=−55kmh」で示すように、コヒーレント積分回数が200回以上となっても、プロセスゲインの低下は観測されず、全回数範囲に渡り上昇傾向のみを示した。
【0041】
ここで、重要な点は、図3の例に示すように、概算相対速度Vが、実際の観測すべき物標の相対速度とかなり相違した形で設定されていたとしても、得られるコヒーレント積分結果は、概算相対速度Vによる位相補正量φによって重み付けを行ってコヒーレント積分を行った方が、明らかに高いプロセスゲインを得られるといることである。
【0042】
従って、仮に、観測信号処理装置1から遠ざかる物標及び観測信号処理装置1に対して近づいてくる物標を想定し、それら物標について、それぞれ正負の異なる(3つ以上の概算相対速度Vでも可能)概算相対速度V(3つ以上の概算相対速度Vでも可能)をパラメータメモリ12に設定しておき、位相補正量演算部10で観測すべき同一の物標に対して、該パラメータメモリ12から複数の概算相対速度Vを読み出し、それら読み出された複数の概算相対速度Vについての位相補正量を当該同一の物標に関してそれぞれ演算する。そして、位相補正重み付きコヒーレント積分部11で、観測データメモリ6に蓄積された1回の探査を構成するコヒーレント積分回数NUMCI回の観測値(サンプル)について、それら位相補正量による重み付けをしたコヒーレント積分を、各位相補正量についてそれぞれ行う。位相補正重み付きコヒーレント積分部11は、得られたコヒーレント積分出力のうち、絶対値の大きな方のコヒーレント積分出力を位相補正重み付きコヒーレント積分部11の出力yとして、外部に出力するようにすると、観測すべき物標に応じた適当な位相補正量でコヒーレント積分を行うことが可能となり、観測信号処理装置1が搭載された車両、艦船などに対して相対速度を持った物標の反射波をコヒーレント積分する際にも、高いSNRのコヒーレント積分値を得ることが可能となる。
【符号の説明】
【0043】
1……観測信号処理装置
5……観測装置
6……観測データメモリ手段(観測データメモリ)
10……位相補正量演算手段(位相補正量演算部)
7……探査信号送出手段(観測制御装置)
11……位相重み付きコヒーレント積分手段(位相重み付きコヒーレント積分部)
14……探査信号送出手段(パルス列発生器)
15……探査信号送出手段(ミキサ)
12……第1のメモリ(パラメータメモリ)
16……送信アンテナ
22……受信アンテナ
CW……搬送波
LOI……遅延変調パルス信号(領域遅延信号)
LOQ……遅延変調パルス信号(直交領域遅延信号)
NUMCI……コヒーレント積分回数
RX……反射信号
TX……探査信号
……概算相対速度
x……観測値
y……積分出力
φ……位相補正量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測すべき領域に対して、1探査当たり複数回の搬送波で変調されたパルス信号を探査信号として送信アンテナから、前記領域に対して順次送出し、前記探査信号の一部が前記物標でそれぞれ反射され受信アンテナで複数の反射信号として補足され、該補足された反射信号と前記搬送波で変調された前記パルス信号を遅延させた遅延変調パルス信号に基づいて相関検波することで、前記1探査当たり複数の観測値を得、前記観測値は、前記物標との相対距離の情報を位相に含み、物標との相対距離と物標の反射断面積の情報を振幅に含むものであり、該得られた観測値をコヒーレント積分することで、前記1探査当たり、所定のコヒーレント積分値を積分出力として外部に対して出力することの出来る観測信号処理装置であって、該観測信号処理装置は、
前記観測すべき領域に応じた前記コヒーレント積分回数を格納する第1のメモリを有し、
前記観測すべき領域に応じた前記コヒーレント積分回数を前記第1のメモリから読み出し、該読み出された前記コヒーレント積分回数分の前記パルス信号を前記探査信号として前記送信アンテナから送出する探査信号送出手段、
前記送出された前記コヒーレント積分回数分の前記パルス信号の反射波を前記反射信号として前記受信アンテナで補足し、前記観測値として蓄積する観測データメモリ手段、
前記探査についての概算相対速度を格納する第2のメモリ、
前記物標の前記概算相対速度を前記第2のメモリ手段から読み出して、該読み出された概算相対速度に基づいて位相補正量を演算する位相補正量演算手段、
前記演算された位相補正量に基づいて、前記コヒーレント積分回数分の観測値について位相重み付きコヒーレント積分を行って、得られた積分出力を外部に出力する、位相重み付きコヒーレント積分手段、
から構成されることを特徴とする、観測信号処理装置。
【請求項2】
前記位相補正量演算手段は、探査の際に想定される前記物標との相対速度の領域の中心値を、前記概算相対速度として決定すること、
を特徴として構成される、請求項1記載の観測信号処理装置。
【請求項3】
前記観測信号処理装置は、車両に搭載され、
前記位相補正量演算手段は、前記観測信号処理装置が搭載される車両の動作状態に応じて、前記概算相対速度を決定すること、
を特徴として構成される、請求項1記載の観測信号処理装置。
【請求項4】
前記位相補正量演算手段は、探査すべき物標との間の距離に応じて前記概算相対速度を決定すること、
を特徴として構成される、請求項1記載の観測信号処理装置。
【請求項5】
前記観測信号処理装置は、移動体に搭載され、
第2のメモリ手段は、負の概算相対速度を格納しており、
前記位相補正量演算手段は、前記物標が前記移動体に向かって進行してくる際に、前記第2のメモリ手段から、前記負の概算相対速度を読み出して、前記位相補正量を演算すること、
を特徴として構成される、請求項1記載の観測信号処理装置。
【請求項6】
前記位相補正量演算手段は、同一の前記物標について、複数の前記概算相対速度を前記第2のメモリ手段から読み出し、該読み出された複数の概算相対速度について、それぞれ位相補正量を演算し、
前記位相重み付きコヒーレント積分手段は、前記演算された位相補正量のそれぞれに基づいて、前記コヒーレント積分回数の観測値について位相重み付きコヒーレント積分をそれぞれ行ない、得られた積分出力のうち、絶対値の大きな方の積分出力を外部に出力すること、
を特徴として構成される、請求項1記載の観測信号処理装置。
【請求項7】
前記位相補正量演算手段は、同一の前記物標について、正負の前記概算相対速度を前記第2のメモリ手段から読み出し、該読み出された正負の概算相対速度について、それぞれ位相補正量を演算すること、
を特徴として構成される、請求項6記載の観測信号処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−133406(P2011−133406A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−294290(P2009−294290)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(502324066)株式会社デンソーアイティーラボラトリ (332)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】