説明

角層の収縮状態を測定することによる肌マイクロレリーフ評価法

【課題】肌のマイクロレリーフの構造及びその機能に着目することにより、従来の肌理評価法よりも、より正確にマイクロレリーフの状態を評価することを可能にする評価法を確立することである。
【解決手段】角層の収縮状態を測定することによる。角層はマイクロレリーフの構成要素であり、角層の収縮状態を測定することにより、より正確にマイクロレリーフの状態を評価することが可能になった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層の収縮状態を測定することにより、肌のマイクロレリーフを評価する方法に関する。さらに、本発明は、角層の収縮状態を測定することによる、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング法にも関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚表面の皮溝と皮丘により構成されるマイクロレリーフは、皮膚表面上での光の散乱をもたらし、肌の若々しさや美しさに関与する。一般に乳幼児の皮膚には、細かい多数のマイクロレリーフがあり、乳幼児特有のすべすべ感や透明感を与えるが、年齢とともに小さなマイクロレリーフ構造が消失してマイクロレリーフ構造が大きくなり、また皮溝が流れて方向性が出ることによりシワや小ジワが生じる原因となる。この皮膚表面のマイクロレリーフを含めた皮膚表面形態の感覚的質感は、「肌理(キメ)」あるいは「スキンテキスチャー」ともよばれている。皮膚のマイクロレリーフが悪化した状態のことを、特に美容上では、「肌理(キメ)が粗い」あるいは「肌理(キメ)が乱れている」と表現される。逆に皮膚のマイクロレリーフが良好な状態のことを「肌理(キメ)が細かい」あるいは「肌理(キメ)が整っている」と表現される。
【0003】
したがって、皮膚のマイクロレリーフを保つことは美容上特に有用であり、さらにマイクロレリーフの状態を測定し、評価することは美容上、並びに美容に関わる商品の研究開発やサービス提供において重要である。これまでのところ、皮膚の表面を顕微鏡などで撮影し、皮溝や皮丘について情報処理を行うことにより肌理の状態を評価する方法(特許文献1)や、レプリカ法を用いて皮膚の肌理状態を評価する方法(特許文献2)、さらには音響システムを用いた皮膚の肌理の評価方法(特許文献3)などが開発されている。
【0004】
しかしながら、これまで知られている肌理の評価方法は、皮膚の表面状態を外部から計測することに基づいており、マイクロレリーフの構造や機能に着目して肌理を評価する方法は未だ開発されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-305184号
【特許文献2】特開2001-170028号
【特許文献3】特開2008−114067号
【特許文献4】特開2006−154633号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T.H.Cookら;Journal of the Society of Cosmetic Chemist、第36巻、第143頁〜第152頁(1985年刊)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明が解決すべき課題は、肌のマイクロレリーフの構造及びその機能に着目することにより、従来の肌理評価法よりも正確に肌理状態を評価することを可能にする評価法を確立することである。また、本発明が解決すべき課題として、確立した肌マイクロレリーフ評価法を用いることによる、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング方法を提供することも挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、皮膚の伸展と肌理との関係について鋭意研究を行った結果、皮膚が伸展する際にマイクロレリーフの皮溝部が開き、それによりひび割れを引き起こすことなく、皮膚に適度な伸展性を与えるという新たな知見を得た。そして、この知見に基づき、マイクロレリーフと皮膚の表面距離(皮膚表面の長さ)との関係について鋭意研究を行った結果、驚くべきことに肌のマイクロレリーフの状態が悪くなるのに伴って、皮膚の表面距離が短くなる傾向を有することを発見した。この発見に基づき、美容目的で行われる角層の収縮状態を指標とした肌のマイクロレリーフの状態の評価方法を確立した。
【0009】
皮膚表面のマイクロレリーフ構造の表面形態については、乾燥した肌の皮溝・皮丘のピーク数が減少する一方で、平均ピークサイズには差異が見られないことが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、皮膚の表面距離についてはこれまで着目されておらず、角層が収縮して皮膚の表面距離が短くなることについては分かっていなかった。
【0010】
本発明者らは、さらに肌マイクロレリーフ改善候補薬剤の投与前後の皮膚に対して肌理の評価法を用いることによる肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング方法を確立した。具体的には、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング方法であって、皮膚において角層の収縮状態を測定する工程、上記肌マイクロレリーフ改善候補薬剤を皮膚に投与する工程、上記肌マイクロレリーフ改善候補薬剤の投与後において同一又は対応する部位の角層の収縮状態を測定する工程、及び投与前の収縮状態に比較して、投与後の収縮状態が減少していた場合に、当該肌マイクロレリーフ改善候補薬剤が、肌マイクロレリーフ改善効果を有するとする工程を含んでなる、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング方法を確立した。このスクリーニング方法は、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤を皮膚に投与する工程の前に、肌理(や肌マイクロレリーフ)の悪化処理をする工程、及び悪化処理後の角層の収縮状態を測定する工程をさらに含んでもよい。
【0011】
本発明者らは、さらに、皮膚調製物に対する肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング方法を確立した。すなわち、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング方法であって、皮膚調製物において角層の収縮状態を測定する工程、上記皮膚調製物に対して肌理の悪化処理をする工程、悪化処理後の角層の収縮状態を測定する工程、上記肌マイクロレリーフ改善候補薬剤を上記皮膚調製物に投与する工程、上記肌マイクロレリーフ改善候補薬剤の投与後において同一部位の角層の収縮状態を測定する工程、及び肌マイクロレリーフ悪化処理工程の後の角層の収縮状態に比較して、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤の投与後の収縮状態が減少していた場合に、当該肌マイクロレリーフ改善候補薬剤が、肌マイクロレリーフ改善効果を有するとする工程を含んでなる、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング方法を確立した。
【0012】
より好ましくは、本発明において、角層の収縮状態は、皮膚の表面距離/平面距離、同一部位の角層の変化(角層収縮率)を測定することにより決定することができる。肌マイクロレリーフの評価方法は、測定した角層の収縮状態を角層の収縮状態の基準値と比較する工程を含む。
【0013】
角層の収縮状態は、レプリカ法により作成された肌レプリカにおいて、皮膚の表面距離/平面距離を測定することにより数値化することができる。別の方法では、角層の収縮状態は、角層シート法又はテープストリッピング角層法により取得された皮膚調製物を、顕微鏡下で撮影し、画像を重ね合わせることにより測定されてもよいし、皮膚調製物の表面距離/平面距離を測定することにより数値化されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
角層の収縮状態の測定は、肌理並びに肌マイクロレリーフを構成する重要な要素である角層の状態を直接測定することにより行われる。したがって、本願の肌マイクロレリーフの評価方法は、従来の肌理状態の測定方法に比べて正確かつ直接的に肌マイクロレリーフの構造を把握することができるため、結果として肌理の状態をより明確に把握することを可能にする点で利点を有する。また、肌マイクロレリーフの評価法に多面的なアプローチを提供する点で利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、SDS(Sodium dodecyl sulfate、ドデシル硫酸ナトリウム)処理前とSDS処理後の肌レプリカの拡大図を示す。SDS処理により、肌のマイクロレリーフの状態が悪化し、肌理が乱れた状態になる。
【図2】図2は、SDS処理前とSDS処理後における肌レプリカの同一の2点間の断面図を示す。SDS処理により、平面距離がわずかに長くなる一方で、表面距離が短くなる。
【図3】図3は、SDS処理後に、グリセリン又はグリセリン+ポリオキシエチレン(14)ポリオキシプロピレン(7)ジメチルエーテル(AQ)の処理を行うことにより、SDS処理により悪化した肌理が回復したことを示す。
【図4】図4は、SDS処理後に、グリセリン又はグリセリン+ポリオキシエチレン(14)ポリオキシプロピレン(7)ジメチルエーテル(AQ)の処理を行った場合の、2点間の表面距離/平面距離の変化を示す図である。グリセリン+ポリオキシエチレン(14)ポリオキシプロピレン(7)ジメチルエーテル(AQ)の処理により、SDS処理前と同等のレベルにまで表面距離/平面距離が回復したことを示す。
【図5】図5は、SDS処理後にグリセリン又はグリセリン+ポリオキシエチレン(14)ポリオキシプロピレン(7)ジメチルエーテル(AQ)を処理した後の角層収縮率を示すグラフである。グリセリンやグリセリン+ポリオキシエチレン(14)ポリオキシプロピレン(7)ジメチルエーテル(AQ)の処理が、SDS処理による角層の収縮を有意にやわらげた。
【図6】図6は、テープストリップにより得られた角層をSDS処理及び乾燥処理の前後で蛍光顕微鏡で撮影した画像を重ね合わせた図である。SDS処理及び乾燥処理前に撮影した画像(上段)を緑色で表し、SDS処理及び乾燥処理後に撮影した画像(中段)を赤色で表し、それぞれの画像を重ね合わせた画像が下段に表されている。上段の画像と中段の画像が重なっている部分が黄色で示される。SDS処理及び乾燥処理によってテープストリップにより得られた角層細胞の一つ一つが収縮したため、下段の画像において緑色の部分が縁状に示される(矢印で示す)。なお、図6のカラー写真を本出願と同日付けで提出した上申書に添付した。
【図7】図7は、テープストリップにより得られた角層を、乾燥処理の前後で走査型電子顕微鏡により撮影した画像を重ね合わせた図である。乾燥処理前に撮影された画像(上段)を緑色で表し、乾燥処理後に撮影された画像(中段)を赤色で表し、それぞれの画像を重ね合わせた画像が下段に表されている。上段の画像と中断の画像が重なっている部分が黄色で示される。乾燥処理によって角層が収縮したため、下段の画像において緑色の部分が縁状に示される(矢印で示す)。なお、図7のカラー写真を本出願と同日付けで提出した上申書に添付した。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、角層の収縮状態を指標とした肌マイクロレリーフの評価方法に関する。肌マイクロレリーフの改善処理の前後で角層の収縮状態を指標として肌マイクロレリーフの状態を評価することにより、肌マイクロレリーフの改善処理の効果を調べることができる。肌マイクロレリーフを改善することにより、肌理が細かく整った状態である美容上美しい肌を実現しうる。肌マイクロレリーフ改善処理としては、保湿、スキンケア用品の使用、マッサージなどのスキンケアが挙げられるが、肌のマイクロレリーフの改善を意図したものであればこれらに限定されるものではない。なお、本発明のマイクロレリーフの評価方法を用いて、さらに感覚的な質感である肌理状態を評価することも可能である。
【0017】
本発明の肌マイクロレリーフ評価方法は、美容的、診断的又は治療的な目的のために行われるものである。その中でも特に、美容的な目的、例えば美容に関わる商品の研究開発やサービス提供において実施されることが好ましい。このような美容的な目的で行われる肌マイクロレリーフ評価方法は、非診断的かつ非治療的な目的で行われるものであり、美容師や一般人により実施されるものである。
【0018】
より好ましくは、当該肌マイクロレリーフの評価方法は、測定した角層の収縮状態を角層の収縮状態の基準値と比較する工程を含む。基準値は、様々な年齢の被験者群に対して特定の部位、例えば顔、腕など、特に頬などの部位について角層の収縮状態を測定することにより算出することができる。例えば、各年齢における平均の角層の収縮状態を基準値とすることができる。
【0019】
本発明の別の態様では、本発明は、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング方法に関する。当該スクリーニング方法は、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤の投与前後において同一又は対応する部位の角層の収縮状態を測定する工程を含む。投与前の角層の収縮状態に比較して、投与後の角層の収縮状態が緩和していた場合に、当該肌マイクロレリーフ改善候補薬剤が、肌マイクロレリーフ改善効果を有すると評価することができる。肌マイクロレリーフ改善候補薬剤の投与の代わりに、肌マイクロレリーフ改善処理を行い、肌マイクロレリーフ改善処理が有効であるか否かを評価することもできる。
【0020】
本発明の肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング方法は、好ましくは、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤の投与前にあらかじめマイクロレリーフの悪化処理を行い、マイクロレリーフの状態(肌理状態)を悪化させる工程を含む。この工程により、あらかじめ悪化されたマイクロレリーフに対する肌マイクロレリーフ改善候補薬剤の効果の評価が容易になる。悪化処理のみを行った対照に比べて、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤を投与した場合に角層の収縮状態が有意に改善した場合、当該肌マイクロレリーフ改善候補薬剤が肌マイクロレリーフ改善効果を有すると評価することができる。肌マイクロレリーフ改善候補薬剤は、悪化処理の開始前、悪化処理と同時、又は悪化処理の開始後に投与されてもよいが、好ましくは、悪化処理の開始後、特に悪化処理の終了後に投与される。肌マイクロレリーフ改善候補薬剤の投与の代わりに、肌マイクロレリーフ改善処理を行い肌マイクロレリーフ改善処理が肌マイクロレリーフの改善に有効であるか否かを評価することもできる。肌マイクロレリーフ悪化処理としては、例えば、SDSのような界面活性剤類、アセトンのような有機溶媒類、オレイン酸のような脂肪酸類の溶液の塗布、炎症促進剤の投与、乾燥、摩擦などが挙げられるが、肌のマイクロレリーフや肌理の状態を悪化することができればこれらに限られるものではない。
【0021】
角層の収縮状態は、皮膚の表面距離/平面距離を測定することにより数値化することができる。マイクロレリーフ状態が優れている場合、皮溝が深くかつ多くなるため表面距離/平面距離が大きくなるが、マイクロレリーフ状態が悪化すると、表面距離/平面距離が小さくなる。表面距離/平面距離は、皮膚の部位に応じて異なるが、例えば1.2以上、1.3以上、1.4以上、1.5以上、1.6以上、1.7以上、1.8以上、1.9以上、又は2.0以上の場合にマイクロレリーフ状態が優れていると判断される。反対に、1.18以下、1.15以下、1.12以下、1.08以下、又は1.05以下の場合にマイクロレリーフ状態が悪いと判断される。
【0022】
また、各処理前の表面距離と処理後の表面距離を、以下の式に当てはめて、角層収縮率を求めることもできる。これを肌マイクロレリーフ改善候補薬剤の効果の指標とすることができる。
角層収縮率(%)=[1−(処理後の表面距離/処理前の表面距離)]×100
角層収縮率が1%以上、好ましくは2%以上、特に3%以上、4%以上、又は5%以上の場合に肌理状態が悪化したと判断される。角層収縮率が0%未満、好ましくは−1%以下、又は−2%以下の場合に肌理状態が改善したと判断される。
【0023】
肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング方法の別の実施態様では、哺乳動物から調製した皮膚調製物に対して肌マイクロレリーフ改善候補薬剤が投与される。皮膚調製物を用いることにより、大規模スクリーニングを行うことができる点で利点がある。皮膚調製物は、皮膚の表皮、特に角層を単離した調製物であり、角層シート法やテープストリッピング角層法などの方法により調製することができる。皮膚調製物についての角層の収縮状態は、顕微鏡を用いて皮膚調製物を撮影し、画像を重ね合わせることにより測定することができる。顕微鏡としては、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡、共焦点顕微鏡を用いることができる。皮膚調製物についての角層の収縮状態の変化を評価するために、処理の前後の画像において角層の細胞の面積を算出し、任意の画像処理ソフトを用いて角層の細胞の面積に基づく収縮率を測定することができる(細胞の面積に基づく収縮率=(処理前の細胞面積−処理後の細胞面積)/処理前の細胞面積×100)。乾燥処理やSDS処理を行うと、細胞の面積に基づく収縮率が、5%以上、好ましくは10%以上になる。乾燥処理やSDS処理の間に肌改善候補薬剤を投与することにより、改善候補薬剤を投与していない対照に比較して、収縮率が低くなる場合、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤が、肌マイクロレリーフの改善に有効であると示される。
【0024】
本発明において「マイクロレリーフ」とは、皮膚の表面に存在する皮丘及び皮溝からなる凹凸から構成される三次元の物理的な立体構造のことをいう。一方、本願における肌理とは、肌の表面にあるマイクロレリーフを含む肌表面の形態からなる、肌の感覚的な質感のことをいう。マイクロレリーフを構成する皮丘部は、皮溝により取り囲まれており、多くは三角形の形状をとるが、多角形の形状をとるものもある。マイクロレリーフがよい状態とは、形の整った細かい三角形状の皮丘や皮溝の数が多い状態を云い、マイクロレリーフの状態がよい場合、感覚的な質感である肌理については「肌理がよい」、「肌理が細かい」、又は「肌理が整っている」と評価される。加齢とともに、皮溝及び皮丘が不鮮明になり、皮溝の数や密度が減少し、皮溝の長さが増加する傾向を有し、このような状態をマイクロレリーフの状態が悪いといい、このような場合感覚的な質感である肌理については「肌理が悪い」、「肌理が粗い」、又は「肌理が乱れている」などと評価される。本願発明に関する研究により、マイクロレリーフは、体表が伸展する際に、肌理の皮溝部が開くことにより、皮膚の柔軟な伸展性に寄与しているという知見が得られた。したがって顔においては豊かな表情を作り出す上でマイクロレリーフは重要な役割を果たす。
【0025】
肌のマイクロレリーフを測定する部位としては、任意の部位が使用することができるが、好ましくは非可動領域の部位が使用することができる。特に頬、額などの顔の皮膚、手の甲や腕の皮膚の非可動領域が好ましい。対応する部位の皮膚とは、例えば左頬の皮膚に対する右頬の皮膚のことをいい、実質的にマイクロレリーフの状態が同一であることを期待される部位の皮膚のことをいう。
【0026】
「レプリカ法」とは、肌レプリカを用いて肌の状態を測定する方法である。肌レプリカは、レプリカ剤を肌に塗布し、レプリカ剤が乾燥した後に肌から剥離させて採取したものである。具体的な肌レプリカの製造方法については特許文献4を参照のこと。レプリカ法は、肌の凹凸状態を表すのに有効な方法であり、肌の凹凸状態は、美容や化粧等にとって極めて重要な情報である。採取した肌レプリカを、共焦点顕微鏡を用いて撮影し、三次元構造を再構築することにより、任意に定めた二点間の平面距離と、二点間の表面距離(道のり)を測定することができる。二点間の平面距離に対する皮膚の表面距離を測定することにより、角層の収縮状態を測定することができる。
【0027】
「表面距離」とは、任意に定めた二点間における皮膚表面の延べ長さ(道のり)のことをいう。一方、「平面距離」とは任意に定めた二点間の直線距離をいう。任意に定めた二点間の表面距離及び平面距離を測定し、平面距離に対する表面距離(表面距離/平面距離)を、角層の収縮状態を表す指標として用いることができる。
【0028】
「角層シート法」とは、皮膚組織の表皮をとりわけ、さらにトリプシンを処理して皮膚調製物である角層シートを取得する方法である。皮膚組織は、任意の哺乳動物から取得することができ、特にダイエット手術の際に得られる余剰皮膚の断片を用いることもできる。得られた角層シートに対して、種々の処理(保湿、乾燥、SDS処理など)を行い、顕微鏡、例えば光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、走査型電子顕微鏡などを用いて角層シートの変化を測定することで、各処理の影響を調べることができる。より具体的に、各処理前後において角層シートをフルオレセインナトリウムで染色した角層を蛍光顕微鏡を用いて撮影し、処理の前後で画像を重ね合わせることにより、処理により生じた収縮状態の変化を評価することができる。
【0029】
「テープストリッピング角層法」とは、セロハンテープなどのテープを用いて角層を剥離して皮膚調製物を取得する方法である。角層をテープごと又はテープから分離して種々の処理(保湿、乾燥、SDS処理など)にかけ、顕微鏡、例えば光学顕微鏡、蛍光顕微鏡、走査型電子顕微鏡、共焦点顕微鏡などを用いて角層の変化を測定することで、各処理の影響を調べることができる。より具体的に、各処理後のテープ剥離角層をフルオレセインナトリウムで染色して蛍光顕微鏡を用いて撮影し、処理の前後の画像を重ね合わせることにより、処理により生じた収縮状態の変化を評価することができる。また、テープ剥離角層をそのまま染色せずに共焦点顕微鏡で撮影した画像を用いることもできる。
【0030】
本明細書において使用される「投与」という語句には、経皮投与、経口投与、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、腹腔内投与などが含まれるが、これらに限られるものではない。好ましくは、薬剤は、経皮投与、皮下投与、又は皮内投与により投与される。さらに好ましくは、薬剤は、パッチテスト用絆創膏を用いた閉塞塗布により投与される。さらに別の態様では、投与には、採取した表皮シートや角層に対する塗布も含まれる。
【実施例】
【0031】
実施例1:レプリカ法を用いた角層収縮状態の測定
肌理の悪化処理として、5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液400μlを、直径2.5cmのパッチテスト用絆創膏に染みこませて、この絆創膏を健常男性の前腕部に接触させて15分間の閉塞塗布を行った。このSDS閉塞塗布を連続3日間行い、肌理状態を悪化させた。SDS処理前(1日目)及びSDS最終処理の翌日(試験開始日より数えて4日目)に、同一被験部位の肌レプリカを作成した。肌レプリカは、Silfo(Flexico developments、Potters Bar、UK)を使用して作成した。 マイクロレリーフ状態の悪化は肌レプリカの拡大画像から明らかであった(図1)。
【0032】
次に共焦点顕微鏡を用いて肌レプリカの三次元形態の解析を行った。同一ポイントとなる2つの点を1日目と4日目で設定し、肌レプリカの三次元構造から2点間の断面図を作成した(図2)。この断面図から、2点間の平面距離と表面距離をそれぞれ算出した。SDS処理前の平面距離(1492μm)は、SDS処理後の平面距離(1543μm)と差が少なかったが、SDS処理前の表面距離(1828μm)は、SDS処理後の表面距離(1718μm)よりかなり長かった。表面距離/平面距離を計算すると、SDS処理前は1.23であるのに対し、SDS処理後は1.11に低下した。この値を肌マイクロレリーフ状態の評価の指標とすることができる(図2)。
【0033】
また、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤をスクリーニングすることを目的として、SDS閉塞塗布後、1日3回肌マイクロレリーフ改善候補薬剤を塗布した。ここでは、10人の健常男性の前腕部に対して、SDS処理後に肌理を改善する既知の薬剤として、グリセリン、グリセリン+ポリオキシエチレン(14)ポリオキシプロピレン(7)ジメチルエーテル(AQ)を塗布した。対照はSDS処理後に薬剤塗布を行わなかった。SDS処理前(1日目)と、SDS処理後の候補薬剤塗布の翌日(試験開始日より数えて4日目)に、同一被験部位の肌レプリカを1日目と4日目で作成した。肌レプリカは、Silfo(Flexico developments、Potters Bar、UK)を使用して作成した。SDS処理により肌マイクロレリーフ状態は悪化するものの、その後の肌マイクロレリーフ改善候補薬剤であるグリセリン、グリセリン+ポリオキシエチレン(14)ポリオキシプロピレン(7)ジメチルエーテルの処理により肌マイクロレリーフ状態が回復したことが、レプリカの拡大画像から明らかになった(図3)。
【0034】
次に共焦点顕微鏡を用いて肌レプリカの三次元形態の解析を行った。同一ポイントとなる2つの点を1日目と4日目で設定し、肌レプリカの三次元構造から2点間の断面図を作成し、この断面図から、2点間の平面距離と表面距離をそれぞれ算出した。SDS処理前(1日目)と、候補薬剤塗布日の翌日(試験開始日より数えて4日目)の表面距離/平面距離を計算してグラフを得た(図4)。さらに4日目における表面距離を1日目における表面距離で割った値を1から引いた値を算出し、皮膚表面の収縮率を求めた。これを薬剤の効果の指標とした(角層収縮率(%)=[1−(4日目の表面距離/1日目の表面距離)]×100、図5)。グリセリンは保湿効果を発揮し、ポリオキシエチレン(14)ポリオキシプロピレン(7)ジメチルエーテルは肌マイクロレリーフ改善効果を有する薬剤であることが知られている。したがって、上記の肌マイクロレリーフ改善候補薬剤をスクリーニング法において、表面距離/平面距離を計算することにより、又は角層収縮率を指標とすることにより、肌マイクロレリーフ改善効果を有する肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニングが可能となる。
【0035】
実施例2:テープストリッピング角層解析法
健常男性の肌より、セロハンテープを用いて表面の角層を剥離した。このテープを角層の付着した剥離面を上にしてスライドグラス上に両面テープで貼付した。この角層をフルオレセインナトリウム水溶液(0.1%)で染色し、蛍光顕微鏡で観察した。その後、1%SDS水溶液を角層の上に滴下し、5分間室温で静置した。これを水でよく洗浄してSDSを除去したのち、室温で乾燥させ蛍光顕微鏡で同一部位を観察した。SDS+乾燥処理後の角層細胞の大きさを処理前と比較し、収縮状態を測定した(図6)。それぞれの画像を撮影し、任意の細胞の面積について画像処理ソフト(Winroof(三谷商事)を用いて計測した結果、細胞の面積に基づく収縮率は10〜20%であった。
【0036】
実施例3:テープストリッピング角層解析法
健常男性の肌より、ポストイット(登録商標)(3M社)を用いて表面の角層を剥離した。走査型電子顕微鏡(SEM)台のカーボンテープに転写し、SEMで撮影した。次に乾燥処理を行い(乾燥処理、時間などを明確に)再度SEMにより撮影した。乾燥前の撮影画像と乾燥後の撮影画像とを重ね合わせた(図7)。この細胞の面積について画像処理ソフト(Winroof)を用いて計測した結果、細胞の面積に基づく収縮率は約10%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
美容目的で行われる角層の収縮状態を指標とした肌マイクロレリーフの評価方法。
【請求項2】
前記角層の収縮状態が、皮膚の表面距離/平面距離を測定することにより数値化される、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記皮膚の表面距離/平面距離の測定が、レプリカ法を用いて得られた肌レプリカにおいて測定される、請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング方法であって、
皮膚調製物において角層の収縮状態を測定する工程、
上記皮膚調製物に対して肌理の悪化処理をする工程、及び
悪化処理後の角層の収縮状態を測定する工程
上記肌マイクロレリーフ改善候補薬剤を上記皮膚調製物に投与する工程、
上記肌マイクロレリーフ改善候補薬剤の投与後において同一部位の角層の収縮状態を測定する工程、及び
肌理悪化処理工程の後の角層の収縮状態に比較して、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤の投与後の収縮状態が減少していた場合に、当該肌マイクロレリーフ改善候補薬剤が、肌マイクロレリーフ改善効果を有するとする工程
を含んでなる、肌マイクロレリーフ改善候補薬剤のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記皮膚調製物が、角層シート法又はテープストリッピング角層法により取得される、請求項4に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記収縮状態が顕微鏡下で皮膚調製物の画像を取得することにより測定され、かつ前記比較が取得された画像を重ね合わせることにより行われる、請求項4又は5に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
前記収縮状態の比較が、顕微鏡下で細胞の面積に基づく収縮率を算出することによる、請求項4〜6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−202969(P2012−202969A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70959(P2011−70959)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】