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角層細胞の物性測定方法
説明

角層細胞の物性測定方法

【課題】低侵襲であると共に、角層細胞表面の物理的/化学的特性に影響を与えずに、角層細胞の物性を簡便、正確かつ客観的に測定する、角層細胞の物性測定方法を提供する。
【解決手段】片面に粘着層を有する、透孔を設けた支持体をヒトの皮膚に貼着し、前記支持体を皮膚から剥離して支持体に角層細胞を接合採取し、透孔内の角層細胞に対して支持体の非接合側から走査型プローブ顕微鏡観察を行い、角層細胞の物性を測定する、角層細胞の物性測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層細胞の物性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの皮膚の状態(特にヒトの肌のハリやなめらかさ)や、皮膚に対する剤処理による使用感や効果の評価、加齢に伴うヒトの皮膚の状態変化の評価は、これまで主に官能評価に頼ってきた。しかし、官能評価で出てくる曖昧な表現や個人差のあるような表現について、それらに関連するような物性を定量的に示すことは困難であった。
【0003】
経表皮水分喪失量(TEWL)測定は、非侵襲的に皮膚の状態、特に皮膚のバリア能を定量的に測定できる数少ない測定方法の1つであり、体表各部位の皮膚バリア能の相違を測定することができるため皮膚性状の評価方法として有用である(例えば、非特許文献1参照)。しかし、TEWL測定は間接的な測定方法である。
直接的に皮膚の物性を定量的に示すためには、ヒトの皮膚、具体的には角層細胞を採取する必要がある。角層細胞を採取する方法としては、バイオプシー(生検)が採用されている。しかし、バイオプシーは皮膚を切り出すため、侵襲的で被験者の負担が大きいという問題がある。
さらに、テープストリッピングにより角層細胞を採取する方法も知られている(特許文献1〜2参照)。テープストリッピングは低侵襲的だが、採取時に角層細胞の表面に粘着性テープの粘着面を押し付けるので、角層細胞の表面の物性を測定する際、角層表面を露出させるため溶媒を用いて粘着性テープの粘着剤を除去しなければならない。溶媒を用いて粘着剤を除去すると、粘着剤だけではなく、粘着性テープに付着する角層細胞の物理的/化学的特性に影響を及ぼすため、角層細胞の物性を正確に測定することができない。さらに、溶媒中から角層細胞を回収しなければならず、採取した角層細胞は非常に薄いものであり採取した角層細胞の表面と裏面とを区別することは困難なため、回収した角層細胞を扱うのは非常に難しく、熟練度を要する。
【0004】
上記問題点に対して、非特許文献2には、格子状のグリッドを用いて角層細胞を採取することが記載されている。しかし、非特許文献2には、採取した角層細胞について、透過型電子顕微鏡による細胞間脂質の構造解析を行っているだけであって、角層細胞の物性を測定することについて一切記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−105700号公報
【特許文献2】特開2007−3413号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.Tagami,International Journal of Cosmetic Science,30,p.413-434,2008
【非特許文献2】G.S.K.Pilgram et al.,Journal of Microscopy,189(1),p.71-78,1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上の点に鑑み、本発明は、低侵襲であると共に、角層細胞の物理的/化学的特性に影響を与えずに、角層細胞の物性を簡便、正確かつ客観的に測定する、角層細胞の物性測定方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決すべく、本発明者等は鋭意検討を行った。その結果、片面に粘着層を有する、透孔を設けた支持体を用いて角層細胞を採取し、粘着剤により接合採取した角層細胞を支持体上でしっかり固定して生体における皮膚の状態を再現/維持し、探針を用いた計測を行うことで、弾性力、摩擦力等の角層細胞の物性を簡便、正確かつ客観的に評価することができることを見い出した。本発明はこの知見に基づき完成するに至った。
【0009】
本発明は、片面に粘着層を有する、透孔を設けた支持体をヒトの皮膚に貼着し、前記支持体を皮膚から剥離して支持体に角層細胞を接合採取し、透孔内の角層細胞に対して支持体の非接合側から走査型プローブ顕微鏡観察を行い、角層細胞の物性を測定する、角層細胞の物性測定方法に関する。
さらに、本発明は、前記角層細胞の物性測定方法を用いた、皮膚性状の評価方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の角層細胞の物性測定方法は、低侵襲であると共に、角層細胞の物理的/化学的特性に影響を与えずに、角層細胞の物性を簡便、正確かつ客観的に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1−1】本発明に用いられる支持体の一例を模式的に示す説明図であり、(a)は正面図、(b)はA−A断面図を示す。
【図1−2】図1−1に示す支持体をヒトの皮膚に貼着する工程を模式的に示す説明図である。
【図1−3】採取した角層細胞を支持体上に固定した様子を模式的に示す説明図である。
【図1−4】採取した角層細胞に対して走査型プローブ顕微鏡観察を行う工程を模式的に示す説明図である。
【図2】透孔の形状が他の部分とは異なる透孔を設けた支持体の光学顕微鏡写真(表示倍率:250倍)を示す図である。
【図3】実施例1における、支持体の透孔の形状、及び粘着面を有する前記支持体を用いて採取した角層細胞の光学顕微鏡写真を示す図である。
【図4】図4(a)は、実施例1におけるヒト前腕部の角層細胞の形状像を示す図である。図4(b)は、実施例1におけるヒト前腕部の角層細胞の弾性率像を示す図である。
【図5】実施例1における、ヒト前腕部の角層細胞の弾性率分布を示す図である。
【図6】実施例1における、ヒト前腕部及び頬部の角層細胞の弾性率を示す図である。
【図7】図7(a)は、実施例2におけるヒト前腕部の角層細胞の形状像を示す図である。図7(b)は、実施例2におけるヒト前腕部の角層細胞の摩擦力像を示す図である。
【図8】実施例2における、探針の先端部の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図9】比較例における、探針の先端部の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【図10】図10(a)は、比較例におけるヒト前腕部の角層細胞の形状像を示す図である。図10(b)は、比較例におけるヒト前腕部の角層細胞の摩擦力像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の角層細胞の物性測定方法は、片面に粘着層を有する、透孔を設けた支持体をヒトの皮膚に貼着し、前記支持体を皮膚から剥離して支持体に角層細胞を接合採取し、透孔内の角層細胞に対して支持体の非接合側から走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope、本明細書において「SPM」ともいう)観察を行い、角層細胞の物性を測定することを特徴とする。
本発明の角層細胞の表面の物性測定方法によれば、角層細胞表面の物理的/化学的特性に影響を与えずに、皮膚の物性を簡便、正確かつ客観的に評価することができる。従って、剤の使用前後の物性変化に基づく剤開発における処方設計指針の提案や、皮膚の物性の部位差や加齢の影響等の測定/評価が容易となる。
【0013】
本発明を図面に基づき詳細に説明する。しかし、本発明はこれに制限するものではない。
【0014】
図1−1は、本発明に用いられる支持体の一例を模式的に示す説明図であり、(a)は正面図、(b)はA−A断面図である。
本発明に用いる支持体の材質に特に制限はないが、物性測定の際に採取した角層細胞を生体と同じ状態で再現/維持するために伸縮性が小さく、ヒトの皮膚表面の凹凸に適合を有するためのある程度の柔軟性を有し、使用する粘着剤と親和性が高い材質が好ましい。例えば、金、白金、ニッケル、アルミニウム、チタン、モリブデン、ステンレス、銅などが挙げられる。本発明では、銅、金、又はニッケルが好ましい。
本発明において、支持体1の厚さは特に制限はないが、採取した角層細胞を支持体上で固定し、SPM観察を行う観点から、1〜20μmが好ましく、3〜10μmがより好ましい。
支持体1の大きさは特に制限はないが、2〜25mm2が好ましく、5〜10mm2がより好ましい。
【0015】
本発明において用いる支持体1には透孔2が設けられている。透孔2の平面形状に特に制限はなく、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形等が挙げられる。また、透孔2の大きさも特に制限はないが、30〜2500μm2が好ましく、100〜900μm2がより好ましい。
支持体1には透孔2が複数設けられていることが好ましい。
【0016】
支持体1は、その片面に粘着層3を有する。図1−3に示すように、粘着層3は透孔2周辺の接合採取した角層細胞5と接触する部位になる。粘着層3が透孔2を閉塞すると、SPM観察において接合採取した角層細胞と探針(カンチレバー)との間に粘着層が位置することになる。SPM観察の際に粘着層により閉塞された透孔を観察すると、探針の先端に粘着剤が付着し、角層細胞の物性の定量的な測定ができなくなる場合がある。したがって、角層細胞の接合採取前に、粘着層による閉塞がなくSPM観察可能な透孔の位置を確認することが好ましい。確認方法としては特に制限はなく、目視で確認してもよいし、光学顕微鏡等を用いて確認してもよい。なお、図2に示すような、透孔の形状が他の部分とは異なる透孔を設けた支持体を用いると、当該部分が目印となりSPM観察可能な透孔の特定が容易となる。
【0017】
皮膚から角層細胞を採取でき、支持体上で採取した角層細胞を生体と同じ状態で(そのままの状態で)再現/維持できる限り、粘着層3の材料に特に制限はなく通常の粘着剤を用いて形成することができる。具体例としては、アニオン性樹脂(例えば、酢酸ビニル−クロトン酸共重合体、クロトン酸−酢酸ビニル−ネオデカン酸ビニル共重合体、クロトン酸−酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸モノブチル−アクリル酸イソボロニル共重合体、アクリル酸オクチルアミド−アクリル酸エステル共重合体、N−ビニルピロリドン−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸エステル共重合体であるアクリル樹脂アルカノールアミン液、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル−ジアセトンアクリルアミド−メタクリル酸共重合体、メチルビニルエーテル−マレイン酸モノアルキル共重合体)、カチオン性樹脂(例えば、ヒドロキシエチルセルロースジメチルジアリルアンモニウムクロリド、塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロース、N−ビニルピロリドン−メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、ビニルイミダゾリウムトリクロリド−N−ビニルピロリドン共重合体、N−ビニルピロリドン−メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、N−ビニルピロリドン−アクリル酸アミノアルキル−N−ビニルカプロラクタム共重合体、N−ビニルピロリドン−メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド共重合体、N−アルキルアクリルアミド−アクリル酸−N−(アルキルアミノ)アルキルアクリルアミド−ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリ塩化ジメチルメチレンピペリジニウム液、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド−アクリルアミド共重合体、カチオン化グアーガム等)、ノニオン性樹脂(例えば、ポリビニルアルコール、ポリ(N−ビニルピロリドン)、N−ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、N−ビニルピロリドン−酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、N−ビニルピロリドン−酢酸ビニル−アミノアルキルアクリレート共重合体、酢酸ビニル−N−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン共重合体、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルホルムアミド、ポリビニルアセトアミド等)、両性樹脂(例えば、アクリル酸オクチルアミド−アクリル酸ヒドロキシプロピル−メタクリル酸ブチルアミノエチル共重合体、N−メタクリロイルオキシエチル−N,N−ジメチルアンモニウム−α−N−メチルカルボキシベタイン−メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−メタクリル酸−アクリル酸2−ヒドロキシプロピル−メタクリル酸ジメチルアミノエチル−メタクリル酸エチル−ジアセトンアクリルアミド−N−ビニルピロリドン共重合体及びそのアルカノールアミン液等)等が挙げられる。これらは、単独又は二種以上を併用して用いることができる。
【0018】
図1−2に示すように、支持体1に設けた粘着層3がヒトの皮膚4に接触するように、前記支持体1をヒトの皮膚4に貼着する。なお、実際の皮膚表面は微小な凸凹や曲面が存在するが、図1−2においては説明の便宜上粘着層3と接触する部分を平面的に示している。
支持体1上に皮膚から角層細胞を採取するため、支持体1を皮膚4に貼着させた後、一定時間放置してもよいし、支持体1を皮膚4に押し付けてもよい。
【0019】
次に、皮膚4に貼着させた支持体1を皮膚4から剥離し、図1−3に示すように、角層細胞5を支持体1に接合採取する。ここで、接合採取された角層細胞5は、支持体1の粘着層3によりしっかりと固定され、生体と同じ状態が(そのままの状態で)再現/維持される。従って、SPM観察により、角層細胞の物性を正確に測定することができる。さらに、SPM観察は探針を用いた計測方法であるが、採取した角層細胞5は支持体1にしっかりと固定されているので、SPM観察中において角層細胞がずれることがなく角層細胞の物性を正確に測定することができる。
【0020】
本発明において、採取する角層細胞の厚さに特に制限はないが、200〜700nmが好ましい。
【0021】
図1−4に示すように、支持体1をSPMの試料台8に載せSPM観察を行う。SPM観察を行う際に試料台8上の支持体1がずれないように固定することが好ましい。例えば、図1−4に示すように、両面に粘着性を有するテープ(両面粘着物7)等により支持体1をSPMの試料台8に固定することがより好ましい。
【0022】
接合採取する角層細胞は非常に薄く、角層細胞を採取する部位の皮膚面状も部位によって異なるので、接合採取した角層細胞が支持体の透孔全体に存在しない場合がある。この場合、接合採取した角層細胞が存在しない支持体の透孔部分でSPM観察を行うと、SPMの探針がSPMの試料台又は支持体1をSPMの試料台上に固定するための両面粘着物7を構成する粘着剤に接触する。その結果、角層細胞の物性を正確に測定できないばかりか、SPMの探針が損傷する場合がある。さらに、先端に粘着剤が付着したままの探針を用いてSPM観察を行うと、得られるデータの正確性が損なわれる場合がある。測定対象物と測定装置とが直接接触しない透過型電子顕微鏡観察とは異なり、測定対象物と測定装置の一部とが直接接触する摩擦力等を測定するSPM観察では探針を測定対象物に確実に接触させなければならない。さらに、角層細胞が存在しない支持体の透孔部分で一旦SPM観察を行うと、角層細胞が存在しないと判断してから別の透孔でSPM観察を行わなければならず、測定時間が長くなる。
そこで、本発明では、SPM観察を行う前に、上述のような粘着層の閉塞がなくSPM観察可能な透孔において、角層細胞に対して確実に測定を行うために支持体における接合採取した角層細胞の存在箇所を確認し、多数の透孔からSPM観察を行う透孔を選択することが好ましい。これにより、探針が汚染されることなく、角層細胞の物性を正確かつ迅速に測定することができる。確認方法としては特に制限はなく、目視で確認してもよいし、光学顕微鏡等を用いて確認してもよい。なお、図2に示すような、透孔の形状が他の部分とは異なる透孔を設けた支持体を用いると、当該部分が目印となり測定箇所の特定が容易となる。
【0023】
角層細胞の物性を測定するには、一定面積の接合採取した角層細胞に対してSPM観察を行う必要がある。さらに、支持体1に接触することによる探針6の損傷を防止するため、探針6の走査を透孔2の中央付近で行う必要がある。従って、角層細胞により透孔の中央付近が覆われ、かつ一定面積以上覆われている支持体の透孔を選択してSPM観察を行うことが好ましい。本発明において、SPM観察を行う透孔を選択するための指標としては、支持体1の厚さ、透孔2の大きさ、探針6の太さ等を考慮して適宜決定することができるが、接合採取した角層細胞により50%〜100%(好ましくは80%〜100%)覆われている支持体の透孔を、SPM観察を行う透孔として選択することが好ましい。
【0024】
接合採取した角層細胞に対して、図1−4に示すように、支持体1の非接合側から探針6を透孔2に侵入させ、SPM観察を行い、角層細胞の物性を測定する。
本発明では、透孔2を設けた支持体1の粘着層3を皮膚4に貼着し、皮膚4から支持体1を剥がす。従って、支持体1の接合側の粘着層3とは反対側の非接合側に、接合採取した皮膚(角層細胞)の表面が露出している。よって、本発明の角層細胞の物性測定方法において、図1−4に示すように、支持体1の非接合側から透孔2内の角層細胞5に対してSPM観察を行うことで、正確に角層細胞表面の物性を測定することができる。
【0025】
本発明の方法により、皮膚のハリの指標となる弾性率や、皮膚のなめらかさの指標となる摩擦力等の物性を測定することができる。SPMのうち、弾性力を測定するには原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope、本明細書において「AFM」ともいう)を、摩擦力を測定するには摩擦力顕微鏡(Friction Force Microscope、本明細書において「FFM」ともいう)を用いる。
【0026】
本発明の角層細胞の物性測定方法によれば、角層細胞の物性を正確かつ客観的に測定することができる。したがって、本発明の方法により、被験者の皮膚角質細胞の物性値を正常な皮膚又は異常な皮膚の角層細胞の物性値と比較することにより被験者の皮膚性状の評価が可能となる。さらに、本発明の方法により、化粧料、皮膚用剤、浴用剤及び内服剤等の各種剤及び組成物の使用前後における皮膚角質細胞の物性値を比較することにより、各種剤及び組成物の皮膚に与える影響を評価することもできる。さらに、本発明の方法により、被験者の皮膚の部位差を評価することもできる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
実施例1 角層細胞の弾性率の測定
ヒトの皮膚の角層細胞の物性(弾性率)測定方法を図1−1〜図1−4に則して説明する。
粘着剤(コスメディ製薬社製、商品名:MASCOS08K)を酢酸エチルで30wt%に希釈した。図1−1に示す支持体1として、図2に示すような透孔の形状を有する透過型電子顕微鏡(TEM)観察用の銅グリッド(商品名:G600HH、日新EM製、直径3mmΦ、六角形の透孔2の大きさ30μm)を濾紙に置き、希釈した粘着剤を1滴滴下し、表面をシリコーン加工処理したシール台紙(KOKUYO社製タックタイトル(商品名))で上から強く押すことにより余剰な粘着剤を除去した。銅グリッドからシール台紙を剥がし、グリッドの透孔が粘着剤で閉塞していないことを光学顕微鏡(商品名:ECLIPSE E600 POL、Nikon社製)で確認し、支持体1の透孔2周辺に粘着剤を用いて図1−1(b)に示すような粘着層3を形成した(粘着層3の厚さ:数μm)。なお、支持体1には多数の透孔があるため、支持体1の透孔2の形状が他とは異なる中央部分(以下、「中央の目印」ともいう)付近の透孔が粘着層で閉塞されないように粘着層を形成させた支持体1を作製した。粘着層の溶剤を揮発させるために、減圧下で支持体1を一晩放置した。
【0029】
図1−2に示すように支持体1の粘着層3を被験者(29才男性)の皮膚4(前腕又は頬)に貼着し、金属ヘラで押さえつけた後、支持体1を剥がし、図1−3に示すように支持体1に角層細胞5(厚さ:約500nm)を接合採取した。光学顕微鏡で観察したところ、接合採取した角層細胞5はフィルム状であり、支持体1上でしっかり固定されていて、たるみがなく、生体における皮膚の状態を再現/維持されていた。
【0030】
支持体1における採取した角層細胞5の存在箇所を光学顕微鏡(商品名:ECLIPSE E600 POL、Nikon社製)で確認し(図3参照)、多数の透孔から、接合採取した角層細胞5により中央付近が覆われ、かつ角層細胞5により50%以上覆われている透孔を選択し、選択した透孔が前記中央の目印に対してどの位置にあるかを確認し、測定箇所を決定した。
【0031】
角層細胞5の表面が上側、支持体の粘着面3が下側になるように、原子間力顕微鏡(商品名:NanoScope Dimension V、Veeco Instruments社製)の試料台に支持体1を置き、両面粘着物7で固定した。
図1−4に示すように、支持体1の非接合側から選択した透孔2内に探針6を侵入させ、角層細胞5の表面をトレースし、AFM測定を行い、角層細胞の表面の形状像及び弾性率を測定した(Scan rate:形状測定時:0.5Hz、弾性率像測定時:3.26Hz)。なお、AFM測定における解像度は、512×512ピクセルとした。さらに、Force Volumeモードでナノインデンテーション・マッピング(弾性率イメージング)を行った。解像度は、64×64ピクセルとした。
【0032】
前腕部の角層細胞の形状像及び弾性率像を図4に示し、前記弾性率像から算出したヒストグラム(64×64ピクセル分の弾性率)を図5に示す。
弾性率測定の結果、前腕部の弾性率は0.59±0.16GPaであった。
【0033】
前腕部及び頬部それぞれ3箇所の角層細胞について前記と同様に弾性率を測定した。その結果を図6に示す。
図6の結果から、前腕の方が頬に比べて弾性率の平均値が高い傾向が得られた。さらに、角層細胞の弾性率に部位差があることもわかった。
【0034】
実施例2 角層細胞の摩擦力の測定
実施例1と同様にして、片面に粘着層3を有する、透孔2を設けた支持体1を作製し、被験者(29才男性)の皮膚4(前腕)から角層細胞5(厚さ:約500nm)を接合採取した。光学顕微鏡で観察したところ、接合採取した角層細胞5はフィルム状であり、支持体1上でしっかり固定されていて、たるみがなく、生体における皮膚の状態を再現/維持されていた。
【0035】
支持体1における採取した角層細胞5の存在箇所を光学顕微鏡(商品名:ECLIPSE E600 POL、Nikon社製)で確認し、多数の透孔から、接合採取した角層細胞5により中央付近が覆われ、かつ角層細胞5により50%以上覆われている透孔を選択し、選択した透孔が前記中央の目印に対してどの位置にあるかを確認し、測定箇所を決定した。
【0036】
角層細胞5の表面が上側、すなわち支持体の粘着面3が下側になるように、摩擦力顕微鏡(商品名:Veeco Dimension 3000、Veeco Instruments社製)の試料台に支持体1を置き、両面粘着物7で固定した。
図1−4に示すように、支持体1の非接合側から選択した透孔2内に探針6(商品名D-NP-S(Si3N4lever)、NANOSENSOR社製、バネ定数0.12N/m)を侵入させ、探針6の先端部を角層細胞5に当接させ、FFM測定を行い、角層細胞の表面の形状像及び摩擦力を測定した(Scan rate:1.0Hz(2μm四方)、Scan angle:90°)。なお、FFM測定における解像度は、512×512ピクセルとした。
【0037】
前腕部の角層細胞の形状像及び摩擦力像を図7に示す。摩擦力測定の結果、前腕部の摩擦力は0.61mVであった。
なお、FFM測定後の探針6の先端部の走査型電子顕微鏡写真を図8に示す。図8の結果から、上述の通り角層採取前に粘着層による閉塞がない透孔の位置を確認し、粘着剤で覆われなかった透孔に採取された角層を測定したので、FFM測定後の探針6の先端部には粘着剤は全く付着していなかった。
【0038】
比較例
実施例2で用いたものと同じ探針を用いて、FFM測定の前に、両面粘着物7を走査した。その後、探針6の先端部の走査型電子顕微鏡で観察した。結果を図9に示す。図9からわかるように、探針6の先端部には粘着剤が付着していた。
その後、実施例2においてFFM測定を行った部位と同じ部位について、前記の先端部に粘着剤が付着した探針6を用いて、実施例2と同様にFFM測定を行った。その結果を図10に示す。図10から明らかなように、先端部に粘着剤が付着した探針を用いたため、摩擦力像が全体的にぼやけて観察された。
さらに、図7(b)及び図10(b)の画像において、同位置の50ピクセル×50ピクセルの画像5枚について摩擦力の平均値を算出し、有意差検定を行った。その結果、図7(b)及び図10(b)の画像から算出した摩擦力の平均値には有意差があり(P<0.05)、探針6の先端部の汚染が皮膚表面の物性の測定結果に影響を及ぼすことは明らかであった。
【0039】
実施例2では、SPM測定前に支持体における接合採取した角層細胞の存在箇所を確認したので、角層細胞の物性を正確に測定することができた。これに対し、角層細胞の存在箇所をあらかじめ確認せずにSPM測定を行った場合、粘着剤を走査する危険性がある。粘着剤を走査した場合、探針の先端部に粘着剤が付着する可能性が高く、粘着剤が付着すると試料表面と探針の接触面積の変化や走査時に探針に作用する力が変化するため、角層細胞の物性を正確に測定することができない。
従って、SPM測定前に支持体における接合採取した角層細胞の存在箇所を確認したうえで、支持体の透孔内の角層細胞に対してSPM測定を行うことで、探針先端部への粘着剤の付着を防止できるため角層細胞の物性を正確に測定することができ、さらに、角層細胞の物性測定に要する時間も短縮することができる。
【0040】
以上の結果から、本発明によれば、採取した角層細胞を粘着剤で格子状の支持体に固定し、そのままSPM測定に用いるので、物理的/化学的特性に影響を及ぼすことなく、皮膚の物性を簡便、正確かつ客観的に評価することができる。さらに、本発明の角層細胞の物性測定方法は前腕部と頬部等角層細胞の物性の相違(部位差)を評価することもでき、皮膚性状の評価方法として有用である。
【符号の説明】
【0041】
1 支持体
2 透孔
3 粘着層
4 皮膚
5 角層細胞
6 探針
7 両面粘着物
8 試料台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面に粘着層を有する、透孔を設けた支持体をヒトの皮膚に貼着し、前記支持体を皮膚から剥離して支持体に角層細胞を接合採取し、透孔内の角層細胞に対して支持体の非接合側から走査型プローブ顕微鏡観察を行い、角層細胞の物性を測定する、角層細胞の物性測定方法。
【請求項2】
角層細胞の接合採取前に、粘着層による閉塞がない透孔の位置を確認する、請求項1記載の角層細胞の物性測定方法。
【請求項3】
支持体における接合採取した角層細胞の存在箇所を確認し、多数の透孔から走査型プローブ顕微鏡観察を行う透孔を選択する、請求項1又は2記載の角層細胞の物性測定方法。
【請求項4】
角層細胞の表面の弾性率又は摩擦力を測定する、請求項1〜3のいずれか記載の角層細胞の物性測定方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載の角層細胞の物性測定方法を用いた、皮膚性状の評価方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−93144(P2012−93144A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239111(P2010−239111)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】