説明

角層細胞の重層剥離度の鑑別方法

【課題】より簡便でかつより正確に角層細胞の重層剥離度を鑑別する方法を提供する。
【解決手段】テープストリップ法により皮膚から採取した角層細胞をヘマトキシリン・エオシン染色またはエオシン染色し、当該染色像をRGBで表現される画像に変換し、当該RGB画像からG(グリーン)を取り出し、取り出したG(グリーン)の画像を基に閾値を決定し、背景部、角層細胞の重層部及び角層細胞の重層していない部分の3領域の画像を抽出し、得られた画像の物理量を測定することを特徴とする角層細胞の重層剥離度の鑑別方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角層細胞の重層剥離度の鑑別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肌荒れ、皮膚の乾燥状態等の肌の状態は、季節、天気、体調等の要因により変化し、その肌の状態に合わせて化粧料を選択することは、肌の健康上極めて重要である。そのような肌の状態の把握には、角層細胞の状態を分析する手法が広く用いられており、角層細胞の分析手段には、1)角層細胞の面積の測定、2)角層細胞の配列規則性の分析、3)角層細胞の重層剥離度の測定、4)有核細胞量の測定等が行われている(非特許文献1)。
【0003】
このうち、重層剥離度は、テープストリップ法で採取された角層細胞中の重層的に剥離される角層細胞の相対的な量であり、これは皮膚の乾燥状態(水分量の低下)、肌荒れ等と相関することがわかっている(非特許文献1)。当該重層剥離度の測定方法としては、採取された角層細胞の輝度分布を計測し、高輝度部位を抽出して粒子解析する方法(特許文献1)、採取された角層細胞を撮影して得た画像をモノクロ画像とし、背景部、重層部及び非重層部の3領域の画像を抽出し、該画像の物理量を測定する方法(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−131323号公報
【特許文献2】特開2006−95218号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】皮膚科診療プラクティス「5.スキンケアの実際」第31〜33頁(文光堂)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2記載の方法では、輝度やモノクロ画像を解析するため、その精度は低く、正確な角層の重層剥離を判定することは困難であった。
従って、本発明の課題は、より簡便でかつより正確に角層細胞の重層剥離度を鑑別する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、角層細胞をヘマトキシリン・エオシン染色またはエオシン染色した画像を、モノクロ画像ファイルに変換することなく、RGBで表現される画像ファイルに変換し、そのRGB画像ファイルからG(グリーン)を取り出した。取り出したG(グリーン)の画像を基に閾値を決定し、背景部、重層部及び非重層部の3領域の画像を抽出し、重層部の割合を測定すれば、カラー画像のデータに基づく解析ができることから、正確かつ簡便に角層細胞の重層剥離度が鑑別できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、テープストリップ法により皮膚から採取した角層細胞をヘマトキシリン・エオシン染色またはエオシン染色し、当該染色像をRGBで表現される画像ファイルに変換し、当該RGB画像ファイルからG(グリーン)を取り出し、取り出したG(グリーン)の画像を基に閾値を決定し、背景部、角層細胞の重層部及び角層細胞の重層していない部分の3領域の画像を抽出し、得られた画像の物理量を測定することを特徴とする角層細胞の重層剥離度の鑑別方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、ヘマトキシリン・エオシン染色またはエオシン染色により得られたカラー画像に基づく情報を、正確に反映できるため、重層剥離度が従来法に比べてより正確に鑑別できる。また、RGB画像ファイルへの変換は通常のデジタルカメラで容易に行えるし、G(グリーン)の取り出し、閾値の決定等はコンピュータにより自動処理できるため、操作も簡便である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】HE染色像を示す。
【図2】元画像と閾値別の2値化画像を示す。
【図3】得られた物理量と目視判定との相関性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明方法で用いる被検対象角層細胞は、テープストリップ法により皮膚から採取した角層細胞である。テープストリップ法は、粘着体を皮膚に貼り付け、はがすことにより角層細胞を採取する手段である。ここで、皮膚をストリップする粘着体としては、例えばセロハンテープなどの粘着透明テープやポリエチレンテレフタレート板に粘着剤を塗工した粘着ディスクなどが用いられる。この内、入手が容易な粘着テープである。かかる粘着体で皮膚をストリップして得た角層細胞はそのまま染色することもできるし、再度粘着体に接触させて転写させて使用することもできる。
【0012】
次に得られた角層細胞をヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)またはエオシン染色する。HE染色は、ヘマトキシリンとエオシンの2種の色素により組織を染色する方法であり、ヘマトキシリンにより細胞核、石灰部、軟骨組織、細菌、粘液が青藍色〜淡青色に染色され、エオシンにより細胞質、間質、各種線維、赤血球、角化細胞が赤〜濃赤色に染色される。HE染色は、常法に従って行えばよく、ヘマトキシン及びエオシン染色液を用い、そのプロトコールに従って行えばよい。またエオシン染色はエオシン色素により組織を染色する方法である。
【0013】
得られたHE染色像またはエオシン染色像をRGBで表現される画像ファイルに変換し、当該RGB画像ファイルからG(グリーン)を取り出す。この工程は、例えばHE染色像またはエオシン染色像をデジタルカメラ等で撮像し、得られたデジタル画像ファイルを画像解析ソフトでRGB分割し、そのRGB画像からG(グリーン)のみを取り出すことにより容易に行うことができる。ここで、デジタル画像としてはすべての画像形式が使用できるが通常用いられる画像形式は、JPEG形式、TIFF形式、Photoshop形式、RAW形式である。RGB分割するための解析ソフトとしてはフォトショップ(登録商標)、ImageJ等を使用することができる。例えばフォトショップの場合、モードをRGBに設定し、ウィンドウのチャンネルを開き、G(グリーン)を選択すればよい。
【0014】
取り出したG(グリーン)画像の閾値の決定方法は、画像を見ながら、手動で決定する方法、及び自動閾値設定方法がある。このうち、自動閾値設定方法が自動化できる点で好ましく、当該自動閾値設定方法としては、P−タイル法、モード法、判別分析法(大津法)が挙げられる。ここで、P−タイル法は、画像内で対象物の占める画像の濃度ヒストグラムが全体のp%となるところを閾値とする方法である。モード法は、画像の濃度ヒストグラムが背景と対象からなる2つのピークを持つことから、ピークの谷にあたる濃度を閾値とする方法である。判別分析法(大津法)は、背景部と対象部における色情報の分散が共に最大値を示す値を閾値とする方法であり、ヒストグラムに関係なく閾値を選定できる方法である。これらの閾値の自動設定方法は、いずれも市販のソフトウェアを使用して自動的に設定することができる。このうち、判別分析法が好ましく、この方法はアイエムソフト社のImageFactoryで自動設定可能である。
【0015】
次に得られた閾値を元に、RGB画像を背景部、角層細胞の重層部(以下、単に重層部ともいう)及び角層細胞の重層していない部分(非重層部)の3領域の画像を抽出する。この操作は例えば、前記の設定で得られた閾値と、その閾値の1.2倍〜3倍、好ましくは1.5倍〜2倍の値を元に3領域の画像を抽出すればよい。
【0016】
得られた3領域の画像から、画像の物理量を測定すれば、正確な重層剥離度が計算できる。
【0017】
3領域の画像を抽出した後に、それぞれの抽出領域の画像計測を行い、角層細胞1個当りの面積、その面積のバラツキ、細胞の形状等の物理量を得る。最も良好な指標は、画像全体での角層剥離部の面積に対する重層剥離部比率である。これらの物理量はそのまま使用することもできるし、扱いやすい形に変換した後使用することもできる。かかる変換としては、変域を変えるための対数変換、或いは、多変量解析による変換等が好ましく例示できる。特に好ましいものは、多変量解析による変換である。
【0018】
得られた物理量は、被検角層細胞中の重層部の割合、すなわち重層剥離度を正確に反映している。すなわち、得られた重層剥離度と熟練者による目視判定による結果とは、良好な相関性がある。
従って、本発明方法によれば、重層剥離度が正確かつ簡便に鑑別可能である。重層剥離度が正確に鑑別できれば、その肌の乾燥度合、肌の荒れ具合等が正確に判定できる。
【実施例】
【0019】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0020】
実施例1
(1)角層の採取方法
角層細胞は、顔面頬部よりセロハンテープ(商品名、ニチバン製)にて採取した。
【0021】
(2)角層の染色方法
角層細胞を採取したセロハンテープをスライドガラスに貼付し、キシレンにて一晩浸漬した。一晩浸漬後セロテープを剥離し、スライドガラスを新しいキシレンに1時間浸漬した後、乾燥させた。
乾燥後、ヘマトキシリンに15分間浸漬し、核を染色する。染色後、流水にて15分間水洗しエオシンに30分間浸漬し細胞質を染色する。染色後、流水にて10秒間水洗した後、脱水、透徹工程を経て、カナダバルサムにて封入し、標本とする。
【0022】
(3)角層画像の取り込み方法
得られた標本を倒立型リサーチ顕微鏡IX71(オリンパス株式会社)の対物レンズ4倍で、顕微鏡用デジタルカメラDP70(オリンパス株式会社)にて画像をjpeg形式で取り込み、その後パソコンへ取り込んだ。
得られたHE染色像を図1に示す。
【0023】
(4−1)閾値決定及び3領域の画像の抽出
画像解析をプログラミング上で表現する手段としてはMATLABソフトウェアを用い、RGBのG(グリーン)の値を取り出し、この数値に大津の方法を適用して閾値を算出した。
図2に元の画像と閾値別の2値化画像を示す。図2から閾値1と1.5を設定して抽出するのが好ましいことが判明した。
【0024】
(4−2)物理量(面積)の測定
大津の方法を適用して得られた閾値を境界として2値化し一方を背景部(A)とし、他の一方を重層部及び非重層部(B)とし、面積を算出した。
また、大津の方法を適用して得られた閾値を1.5倍した数値を境界として2値化し一方を背景部及び非重層部(C)とし、他の一方を重層部(D)とし、面積を算出した。
以下の式より重層剥離度を得た。
重層剥離度=(D)/(B)
得られた結果と、熟練者による目視判定との相関性を示す(図3)。
なお、本比較は、女性751名(平均年齢44.1歳)を対象に顔面頬部より得た角層細胞を対象に、熟練者の目視判定は9段階で行った結果である。
その結果、本発明により得られた重層剥離度と熟練者による目視判定とは、良好な相関性が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープストリップ法により皮膚から採取した角層細胞をヘマトキシリン・エオシン染色またはエオシン染色し、当該染色像をRGBで表現される画像ファイルに変換し、当該RGB画像からG(グリーン)を取り出し、取り出したG(グリーン)の画像を基に閾値を決定し、背景部、角層細胞の重層部及び角層細胞の重層していない部分の3領域の画像を抽出し、得られた画像の物理量を測定することを特徴とする角層細胞の重層剥離度の鑑別方法。
【請求項2】
前記閾値の決定が、取り出したG(グリーン)を判別分析法で2値化して閾値を決定するものである請求項1記載の重層剥離度の鑑別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−164051(P2011−164051A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29959(P2010−29959)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セロテープ
【出願人】(000166959)御木本製薬株式会社 (66)
【出願人】(502285457)学校法人順天堂 (64)
【Fターム(参考)】