説明

角膜知覚回復剤

本発明は、角膜手術後の角膜知覚の回復やドライアイの症状を改善する新規な医薬を提供し、この医薬は、Rhoタンパク阻害剤を含有することにより、白内障手術後、LASIK手術後、PRK手術後、角膜移植手術後、神経麻痺性角膜症、角膜潰瘍、糖尿病性角膜症などの角膜神経変性に伴う角膜知覚低下、ドライアイ症状の改善に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はRhoタンパク阻害剤を含有する角膜神経突起形成促進剤、および角膜神経突起形成促進による角膜知覚の回復、改善、並びにドライアイの治療剤に関する。
【背景技術】
レーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)、レーザー角膜切削形成術(レーシック;LASIK)、角膜移植などの角膜手術後には、角膜神経が切断されるため、通常約3週間から1年間角膜知覚機能の低下症状が起きるといわれている。例えば、LASIK後には明らかに角膜神経が切断されていること(Tuuli U.Linna et al.,Experimental Eye Research 66:755−763,1998)、また、LASIK後に神経像が認められないか、あるいは神経線維束が短く連結していない角膜領域において、角膜知覚が低下することが報告されている(Tuuli U.Linna et al.,Investigative Ophthalmology & Visual Sciences,41:393−397,2000)。
PRKおよびLASIK後における角膜知覚の低下は涙腺応答低下、涙液減少の原因であることが示唆されている(Ang,Robert T.et al.,Current Opinion in Ophthalmology 12:318−322,2001)。そしてこの角膜知覚機能低下のため角膜手術後の患者では瞬目回数が減少しドライアイ症状が認められることが問題となっている。一方、ドライアイ患者では、涙液機能の低下が角膜知覚の低下をもたらし、この角膜知覚の低下がさらに涙液機能の低下を悪化させ、角膜表面の症状を重篤化させることが問題となっている。
しかし、現在角膜手術後の角膜知覚の回復は自然回復に委ねられ、またドライアイの治療においても角膜知覚を回復させるための積極的治療は施されていないのが現状である。
また、神経麻痺性角膜症、角膜潰瘍、糖尿病性角膜症などの角膜神経変性を伴う疾患でも角膜知覚低下が引き起こされる。
RhoタンパクはRhoファミリー(Rho、Rac、Cdc42などを含む)に包含される低分子Gタンパクであり、アクチン細胞骨格形成や、神経突起退縮反応に関係することが知られている。
例えば、Rhoタンパク阻害剤であるC3酵素は3T3線維芽細胞の細胞突起を伸展させることが知られており(Hirose,M.et al.,The Journal of Cell Biology,141:1625−1636,1998)、Rhoタンパク阻害剤の有効量を患者に投与することによって中枢神経軸索成長を促進する方法が開示されている(特表2001−515018号公報、欧州特許出願公開第1,011,330号明細書)。また、Rhoタンパクのエフェクター分子の一つであるRhoキナーゼの阻害剤が網膜神経節細胞の軸索伸展作用を有し、視神経細胞の再生促進作用を有することが知られている(国際公開第02/83175号パンフレット、欧州特許出願公開第1,142,585号明細書)。国際公開第03/020281号パンフレットでは、LASIKなどの手術後の角膜神経傷害に起因する病態を治療する目的に神経再生または神経突起伸展を促進する化合物が使えるとされており、それら化合物の例として神経栄養性因子刺激物質であるネオトロフィンなどの化合物が例示されているが、Rhoタンパク阻害剤の記載はなく、またそれらを示唆する記載もない。
三叉神経に対しては、ラット三叉神経組織培養(trigeminal tract in whole mount cultures)系において、神経成長因子(NGF)などの神経栄養因子誘発神経軸索伸展がRho活性化剤(リゾホスファチジン酸)で阻害され、ドミナントネガティブRhoを細胞に導入することで促進されることが報告されている(Ozdinler,P.Hande et al.,The Journal of Comparative Neurology,438:377−387,2001)。その一方、神経栄養因子非存在下では、Rhoが三叉神経軸索伸展に有効かどうかについては分からないとの記載があり、Rhoタンパク阻害剤の三叉神経に対する効果についても未だ判明していない。
一方、Rho活性化作用を有する化合物が角膜上皮伸展作用を有し、Rhoタンパク阻害剤であるC3酵素によってその角膜上皮の伸展が抑制されることから、Rho活性化作用を有する化合物が、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、角膜炎などの角膜障害に有用であることが開示されている(特開2000−264847号公報、欧州特許出願公開第1,142,585号明細書)。
【発明の開示】
レーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)、レーザー角膜切削形成術(レーシック;LASIK)、角膜移植などの角膜手術後などの角膜知覚機能低下や、ドライアイ患者における角膜知覚低下を回復させる医薬を提供することである。
本発明者らは、角膜術後の角膜知覚回復やドライアイにおける角膜知覚症状を改善する新しいタイプの医薬を提供することを目的に検討を行ったところ、Rhoタンパク阻害剤が三叉神経(以後、角膜神経ということもある。)細胞の神経突起形成促進効果を有することを初めて見出し、これらの知見に基づいてさらに研究をすすめ、Rhoタンパク阻害剤を角膜知覚回復などの医薬として利用する本発明を完成した。
すなわち、本発明は、
(1)Rhoタンパク阻害剤を含有する角膜神経突起形成促進剤;
(2)Rhoタンパク阻害剤を含有する角膜神経軸索伸展促進剤;
(3)Rhoタンパク阻害剤を含有する角膜知覚回復剤;
(4)Rhoタンパク阻害剤を含有する、ドライアイ治療剤;
(5)Rhoタンパク阻害剤を含有する角膜神経突起形成促進用組成物;
(6)Rhoタンパク阻害剤を含有する角膜神経軸索伸展促進用組成物;
(7)Rhoタンパク阻害剤を含有する角膜知覚回復用組成物;
(8)Rhoタンパク阻害剤を含有するドライアイ治療用組成物;
(9)角膜神経突起形成促進用組成物を製造するためのRhoタンパク阻害剤の使用;
(10)角膜神経軸索伸展促進用組成物を製造するためのRhoタンパク阻害剤の使用;
(11)角膜知覚回復用組成物を製造するためのRhoタンパク阻害剤の使用;
(12)ドライアイ治療用組成物を製造するためのRhoタンパク阻害剤の使用;
(13)角膜神経の神経突起形成促進が必要とされる対象にRhoタンパク阻害剤の有効量を投与することによる角膜神経の神経突起形成を促進する方法;
(14)角膜神経の軸索伸展促進が必要とされる対象にRhoタンパク阻害剤の有効量を投与することによる角膜神経の軸索伸展を促進する方法;
(15)角膜知覚の回復が必要とされる対象にRhoタンパク阻害剤の有効量を投与することによる角膜知覚を回復する方法;
(16)ドライアイに罹患した対象にRhoタンパク阻害剤の有効量を投与することによるドライアイを治療する方法
に関するものである。
【図面の簡単な説明】
図1は試験例1におけるウサギ培養三叉神経細胞の蛍光顕微鏡像を示す。AはC3酵素無添加培養液で24時間培養したウサギ三叉神経細胞を、BはC3酵素を最終濃度2μg/mLになるよう添加した培養液で24時間培養した細胞を示す。
図2は試験例1における神経突起形成細胞の全細胞数に対する比率(%)を示す。縦軸は全細胞に対する神経突起形成細胞の割合を示す。各値は3例の平均値±標準誤差を示す。図中*はコントロールに対する有意差(p<0.05)を示す。
図3は試験例2における培養ウサギ三叉神経細胞の蛍光顕微鏡像を示す。Aは被験物質無添加培養液、Bは化合物1添加(最終濃度10μM)培養液、Cは化合物2添加(最終濃度10μM)培養液、Dは化合物3添加(最終濃度1μM)培養液、Eは化合物4添加(最終濃度10μM)培養液で48時間培養した細胞を示す。
図4は試験例2におけるカウントした全細胞数に対する神経突起形成細胞の比率(%)を示すグラフである。各値は3例の平均値±標準誤差を示す。図中*は無添加群に対する有意差p<0.05を、**は無添加群に対する有意差p<0.01を示す。
図5は試験例3において、ウサギ角膜(C)と三叉神経節(T)におけるROCK IおよびROCK IIウェスタンブロッティングの結果を示す。
発明の詳細な説明
本明細書中において、「Rhoタンパク阻害剤」とは、不活性型のGDP結合型Rhoタンパク質が活性型のGTP結合型Rhoタンパク質へと活性化されるのを阻害する全ての阻害剤、およびRhoタンパクまたはRhoタンパクフラグメントに対する抗体など、並びにRhoタンパクの作用を伝達するエフェクター分子、例えばRhoキナーゼ(ROCK)の働きを阻害するすべての阻害剤などをも包含するものである。「角膜神経」とは、知覚神経である三叉神経の支配をうけ角膜周囲に形成される輪状神経叢、角膜実質に網目上に分布する実質内神経叢、ボーマン膜直下で形成される上皮下神経叢、ボーマン膜を貫通したところで形成される基底細胞神経叢および神経線維をいう。本発明における「神経突起」とは、ニューロン(神経細胞)の細胞体から出る突起(樹状突起および軸索)をいい、「形成」とは細胞体から前記神経突起が生成または/および伸展することをいう。どの程度の神経突起形成をもって促進されている状態というかは、当業者には明らかである。神経突起形成の促進は、例えば、神経細胞を蛍光染色し、蛍光顕微鏡を用いて細胞の状態を観察することにより確認することができる。また、蛍光顕微鏡での観察結果を画像解析ソフトなどを用いて解析してもよい。さらに、その結果を統計学的処理することにより神経突起形成の状態を数値化することも可能である。さらに別の方法として、神経細胞体および神経突起を構成するもの、例えばニューロフィラメントを認識する抗体、およびこれと反応する西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗体で標識した後、HRPを発色させて吸光度を測定することによりニューロフィラメント量を測定し、神経突起形成の指標とすることもできる。
Rhoタンパク阻害剤としては、例えばC3細胞外酵素(Exoenzyme C3、本明細書においては単にC3酵素ということもある。)、トキシンA(Toxin A)およびトキシンB(Toxin B)並びにRhoキナーゼ阻害剤が挙げられる。
このうち、Rhoキナーゼ阻害剤(以後、ROCK阻害剤ということもある。)としては、例えば、特開昭61−227581号公報(米国特許第4,678,783号明細書)に記載の化合物、例えば、塩酸ファスジルなどで代表されるイソキノリンスルホニル誘導体;国際公開第00/57914号パンフレットおよび特開2000−44513号公報に記載の化合物、例えば、エタクリン酸および4−[2−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)アクリロイル]桂皮酸などのRhoキナーゼ阻害剤;国際公開第02/076977号パンフレット(欧州特許公開第1,370,552号明細書、同第1,370,553号明細書)記載の化合物、例えば、2−クロロ−6,7−ジメトキシ−N−[5−1H−インダゾリル]キナゾリン−4−アミンなどのRhoキナーゼ阻害剤;および国際公開第02/100833号パンフレットに記載の化合物、例えば、N−(1−ベンジル−4−ピペリジニル)−1H−インダゾール−5−アミン・2塩酸塩・1水和物などのRhoキナーゼ阻害剤が挙げられる。
なお、以下の説明において、本発明で用いるRhoタンパク阻害剤を含有する薬剤および組成物をまとめて、「本発明の医薬」ということもある。
本発明の医薬は、哺乳動物(例えばヒト、ラット、マウス、ウサギ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコなど)における角膜神経が障害、切断または欠損した、例えばPRKやLASIK後の低下した角膜知覚回復のための治療薬として、あるいは神経麻痺性角膜症、角膜潰瘍、糖尿病性角膜症などの角膜神経変性に伴う角膜知覚低下や角膜知覚の低下したドライアイの治療薬として有用である。
本発明の医薬は全身的または局所的に投与される。全身的には、経口投与に加え、静脈内注射、皮下注射、筋肉内注射など非経口的にも投与される。局所的には、眼に投与される。
本発明の医薬の製剤形態としては、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、坐剤などの固形剤、およびシロップ剤、注射剤、点眼剤などの液剤などが挙げられる。
本発明の医薬を顆粒および錠剤として製造する場合には、例えば賦形剤(乳糖、白糖、ブドウ糖、デンプン、結晶セルロースなど)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウムなど)、崩壊剤(デンプン、カルメロースナトリウム、炭酸カルシウムなど)、結合剤(デンプン糊液、ヒドロキシプロピルセルロース液、カルメロース液、アラビアゴム液、ゼラチン液、アルギン酸ナトリウム液など)などを用いることにより任意の剤形を製造することができる。また、顆粒剤および錠剤には、適当なコーティング剤(ゼラチン、白糖、アラビアゴム、カルナバロウなど)、腸溶性コーティング剤(例えば酢酸フタル酸セルロース、メタアクリル酸コポリマー、ヒドロキシプロピルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロースなど)などで剤皮を施してもよい。
本発明の医薬をカプセル剤として製造する場合には、適当な賦形剤、例えば流動性と滑沢性を向上させるためのステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、軽質無水ケイ酸など、また加圧流動性のための結晶セルロースや乳糖などの他、上記崩壊剤などを適宜添加したものを均等に混和または粒状もしくは粒状としたものに適当なコーティング剤で剤皮を施したものを充填するか、適当なカプセル基剤(ゼラチンなど)にグリセリンまたはソルビトールなどを加えて塑性を増したカプセル基剤で被包成形することもできる。これらカプセル剤には必要に応じて、着色剤、保存剤[二酸化イオウ、パラベン類(パラオキシ安息香酸メチル、エチル、プロピルエステル)]などを加えることができる。カプセル剤は通常のカプセルの他、腸溶性コーティングカプセル、胃内抵抗性カプセル、放出制御カプセルとすることもできる。腸溶性カプセルとする場合、腸溶性コーティング剤でコーティングした化合物、または化合物に上記の適当な賦形剤を添加したものを、通常のカプセルに充填または、カプセル自身を腸溶性コーティング剤でコーティング、もしくは腸溶性高分子を基剤として成形することができる。
本発明の医薬を坐剤として製造する場合には、坐剤基剤(例えばカカオ脂、マクロゴールなど)を適宜選択して使用することができる。
本発明の医薬をシロップ剤として製造する場合、例えば安定剤(エデト酸ナトリウムなど)、懸濁化剤(アラビアゴム、カルメロースなど)、矯味剤(単シロップ、ブドウ糖など)、芳香剤などを適宜選択して使用することができる。
本発明の医薬を注射剤または点眼剤として製造する場合、医薬上許容される添加物、例えば等張化剤(塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン、マンニトール、ソルビトール、ホウ酸、ホウ砂、ブドウ糖、プロピレングリコールなど)、緩衝剤(リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス緩衝液、グルタミン酸緩衝液、イプシロンアミノカプロン酸緩衝液など)、保存剤(パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂など)、増粘剤(ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなど)、安定化剤(亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエンなど)、pH調整剤(塩酸、水酸化ナトリウム、リン酸、酢酸など)などを適宜添加した溶液に溶解または分散することによって製造することができる。
上記シロップ剤、注射剤および点眼剤における添加剤の添加量は、添加する添加剤の種類、用途などによって異なるが、添加剤の目的を達成し得る濃度を添加すればよく、等張化剤は、通常、浸透圧が約229〜約343mOsmとなるよう、約0.5〜約5.0w/v%を添加する。また、緩衝剤は約0.01〜約2.0w/v%程度、増粘剤は約0.01〜約1.0w/v%程度、安定化剤は約0.001〜約1.0w/v%程度になるように添加する。pH調整剤は、適宜添加し、通常pH約3〜約9、好ましくは約4〜約8になるように添加する。
特に本発明の医薬を点眼剤として使用する場合、本発明の医薬に含まれるRhoタンパク阻害剤の濃度は、通常下限は約0.00001w/v%、好ましくは約0.00005w/v%、より好ましくは約0.0001w/v%であり、上限は約0.1w/v%、好ましくは約0.05w/v%、より好ましくは約0.01w/v%、さらに好ましくは約0.005w/v%、なおさらに好ましくは約0.001w/v%に調製される。
本発明の医薬の投与量は対象となる疾患、症状、投与対象、Rhoタンパク阻害剤の種類、投与方法などにより異なるが、例えばPRK手術後の角膜知覚回復剤として成人の眼に局所的に使用する場合には、例えばC3酵素約0.001w/v%含有する点眼液を、あるいは、N−(1−ベンジル−4−ピペリジニル)−1H−インダゾール−5−アミン・2塩酸塩・1/2水和物などのRhoタンパク阻害剤を約0.003w/v%含有する点眼液を、1回約20〜約50μL、1日数回点眼するのがよい。
また、本発明の医薬をLASIK手術後の角膜知覚回復剤として成人に経口投与する場合、例えば、4−[2−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)アクリロイル]桂皮酸などのRhoタンパク阻害剤を約10mg含有する錠剤を1日1回ないし2回服用するのがよい。
【実施例】
本発明を以下の試験例及び実施例に従いさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
試験例1 培養ウサギ三叉神経細胞の神経突起形成促進作用
1)使用動物
福崎養兎組合より購入した日本白色種ウサギ(生後2〜3日)を使用した。
2)被験物質
C3酵素〔upstate社製;Exoenzyme C3(recombinant enzyme expressed in E.coli);Catalog #13−118,Lot #23330〕
3)試験方法
細胞培養:三叉神経細胞の単離はChanらの報告(Chan,Kwan Y.and Haschke,Richard H.,Exp.Eye Res.,41:687−699,1985)を参考にして行った。すなわち、ウサギをエーテル麻酔下、生理食塩水で心臓を灌流後、三叉神経節を切り出し、神経分散液(住友ベークライト社製)を用いて、三叉神経節を分散させた後、ポリリジンでコートした8ウェルカルチャースライド(BECTON DICKINSON社製)に細胞を播種した。細胞数は1ウェルあたり約3×10細胞とし、培養条件は5%CO、95%空気下、湿度100%、37℃とした。細胞培養にはニューロベーサル培養液(GIBCO社製)にB27 Supplement(GIBCO社製;0.02mL/mL培養液)およびL−グルタミン酸(GIBCO社製;最終濃度1mM)を添加した培養液を用い、細胞播種直後にC3酵素(2μg/mL最終濃度)を添加して24時間培養した。
免疫染色:培養24時間後に、細胞を4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で2時間固定し、神経細胞に特異的な中間径フィラメントであるニューロフィラメントを特異的に認識する抗ニューロフィラメント200抗体(Sigma社製)およびこれと反応する蛍光二次抗体(Molecular Probes社製)を用いて神経細胞体および神経突起を蛍光染色した。染色細胞は蛍光顕微鏡からコンピュータに画像(1画像:1.83mm×1.36mm)として取り込み、画像中の全細胞数(t)をカウントすると共に、画像解析ソフト(MacSCOPE,MITANI CO.社製)を用いて細胞の神経突起の長さを測定し、細胞体の直径の2倍以上長さの神経突起を持つ細胞を神経突起形成細胞(a)としてカウントした。各画像中の全細胞数の合計(t+t+…+t=Σt)が約100以上となるまで複数の画像を取り込んだ。その時の総神経突起形成細胞数(a+a+…+a=Σa)の全細胞数合計(Σt)に対する比率(%)を計算した。この比率について、C3酵素添加群と無添加群(コントロール群)とを比較するために、t−testにより検定して危険率5%未満を有意であると判定した。
4)試験結果
図1は培養ウサギ三叉神経細胞の蛍光顕微鏡像を示している。図1中、AはC3酵素無添加培養液で24時間培養したコントロール群の細胞を、BはC3酵素を最終濃度2μg/mL添加した培養液で24時間培養した細胞を、図2は各群の全細胞数に対する神経突起形成細胞数の比率を示す。
神経突起形成細胞の比率はコントロール群では全細胞の約21%、C3酵素添加群では全細胞の約46%であり、C3酵素添加により突起形成細胞数の有意な増加が認められた(図2)。
以上のことから、Rho阻害活性を有するC3酵素は三叉神経細胞の突起形成を促進することが分かった。
試験例2 培養ウサギ三叉神経の突起形成促進作用
1)使用動物
北山ラベス社より購入した日本白色種ウサギ(生後2〜3日)を使用した。
2)被験物質
ROCK阻害剤として、2−クロロ−6,7−ジメトキシ−N−[5−1H−インダゾリル]キナゾリン−4−アミン、N−(1−ベンジル−4−ピペリジニル)−1H−インダゾール−5−アミン・2塩酸塩、4−[2−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)アクリロイル]桂皮酸および塩酸ファスジルを使用した。
2−クロロ−6,7−ジメトキシ−N−[5−1H−インダゾリル]キナゾリン−4−アミン(以下、化合物1と記載する。)は参考例1に従い合成したものを使用した。N−(1−ベンジル−4−ピペリジニル)−1H−インダゾール−5−アミン・2塩酸塩・1/2水和物(以下、化合物2と記載する。)は参考例2に従い合成したものを使用した。4−[2−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)アクリロイル]桂皮酸(以下、化合物3と記載する。)は参考例3に従い合成したものを使用した。塩酸ファスジル(以下、化合物4と記載する。)は市販の塩酸ファスジル水和物注射液「エリル注30mg」(旭化成株式会社製)を使用した。
3)細胞培養
ウサギ三叉神経細胞の単離は試験例1と同様に行った。細胞培養にはニューロベーサル培養液(GIBCO社製)にB27 Supplement(GIBCO社製;最終濃度2%v/v)およびL−グルタミン(GIBCO社製;最終濃度1mM)を添加した培養液を用い、24ウェルプレートの各ウェルにポリリジン/ラミニンコーティング済み円形カバーグラス(直径12mm;住友ベークライト社製)を入れ、そのカバーグラス上に約3×10細胞/ウェルとなるように細胞を播種した。細胞がカバーグラスに接着後(約2時間)、上記培養液をそれぞれの被験物質添加培養液(化合物1,最終濃度10μM;化合物2,最終濃度10μM;化合物3,最終濃度1μM;化合物4,最終濃度10μM)に交換し、48時間培養した。培養条件は、5%CO、95%空気下、湿度100%、温度37℃で行った。
4)免疫染色
培養48時間後の細胞を4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で2時間固定した。
神経細胞に特異的な中間径フィラメントであるニューロフィラメントを認識する抗ニューロフィラメント200抗体(Sigma社製)およびこれと反応する蛍光二次抗体(Molecular Probes社製)を用いて固定した標本を蛍光染色し、蛍光顕微鏡を用いて染色された細胞を検出した。染色像は、コンピュータに画像1画像:1.83mm×1.36mmとして取り込んだ。画像中の全細胞数(t)をカウントすると共に、画像解析ソフト(MacSCOPE,MITANI CO.)を用いて細胞の神経突起長および細胞体直径を測定し、細胞体直径の2倍以上長さの神経突起を有する細胞を神経突起形成細胞(a)としてカウントした。各画像中の全細胞数の合計(t+t+…+t=Σt)が約100以上となるまで画像を取り込んだ。その時の総神経突起形成細胞数(a+a+…+a=Σa)の全細胞数(Σt)に対する比率(%)を計算した。
5)統計学的処理
神経突起形成細胞比率について、無添加群(コントロール)と被験物質添加群との比較をDunnett’s多重比較検定法により行ない、危険率5%未満を有意であると判定した。
6)試験結果
図3に培養ウサギ三叉神経細胞の蛍光顕微鏡像を示す。
図3Aは、被験物質無添加培養液で48時間培養した細胞を、図3Bは化合物1を添加した培養液で48時間培養した細胞を、図3Cは化合物2を添加した培養液で48時間培養した細胞を、図3Dは化合物3を添加した培養液で48時間培養した細胞を、図3Eは化合物4を添加した培養液で48時間培養した細胞を示している。
図4は、全細胞数に対する無添加群およびそれぞれ被験物質添加群の神経突起形成細胞数の比率を示している。全細胞に対する神経突起形成細胞の比率は、無添加群で約31%、化合物1添加群で約41%、化合物2添加群で約57%、化合物3添加群で約51%、化合物4添加群で約70%であり、被験物質添加群では神経突起形成細胞比率の有意な増加あるいは増加傾向が認められた。
以上の結果からROCK阻害剤は、三叉神経細胞の神経突起形成を促進する作用を有することが明らかとなった。
参考例1 2−クロロ−6,7−ジメトキシ−N−[5−1H−インダゾリル]キナゾリン−4−アミンの合成(国際公開第02/076977号パンフレット、実施例1)
2,4−ジクロロ−6,7−ジメトキシキナゾリン(8.6g,64.58mmol)、5−アミノインダゾール(4.8g,36.04mmol)および酢酸カリウム(7.351g,74.91mmol)をテトラヒドロフラン/精製水(138mL/62mL)中に加え、一晩室温下で攪拌した。混合物に精製水(130mL)を加え、結晶を析出させた。析出した結晶は精製水で洗浄し、DMF−水から再結晶し目的とする2−クロロ−6,7−ジメトキシ−N−[5−1H−インダゾリル]キナゾリン−4−アミンの微黄色粉末を得た。
mp 278.7−283.8℃. H−NMR(300MHz,DMSO)δ3.93(s,3H),3.96(s,3H),7.16(s,1H),7.60(m,2H),7.90(s,1H),8.03(s,1H),8.12(s,1H),9.94(s,1H),13.13(br s,1H). Anal.Calcd.for C1715Cl・1/2HO:C,55.97,H,4.14,N,19.20. Found:C,56.05,H,4.46,N,19.22.
参考例2 N−(1−ベンジル−4−ピペリジニル)−1H−インダゾール−5−アミン・2塩酸塩・1/2水和物の合成(国際公開第02/100833号パンフレット、実施例1)
1−ベンジル−4−ピペリドン(14.21g,75.1mmol,13.92mL)の1,2−ジクロロエタン(80mL)溶液中に、室温にて5−アミノインダゾール(10.0g,75.10mmol)、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(11.5g,52.6mmol)、酢酸(4.29mL,75.1mmol)を加え、室温にて終夜攪拌した。次に、反応液を1N−水酸化ナトリウム水溶液に注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄してから、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して得られた残渣をメタノールから再結晶することにより、N−(1−ベンジル−4−ピペリジニル)−1H−インダゾール−5−アミン(7.8g,34%)を得た。
mp 150.1−152.2℃. H−NMR(300MHz,DMSO−d)δ1.39(m,2H),1.94(m,2H),2.08(t,2H,J=10.8),2.79(d,2H,J=11.4),3.19(m,1H),3.47(s,3H),5.11(d,1H,J=7.8),6.68(br s,1H),6.83(dd,1H,J=8.9,1.7),7.20−7.37(m,6H),12.58(br s,1H). Anal.Calcd.for C1922:C,74.48,H,7.24,N,18.29. Found:C,74.42,H,7.27,N,18.37
得られたN−(1−ベンジル−4−ピペリジニル)−1H−インダゾール−5−アミン(6.0g,19.58mmol)のテトラヒドロフラン(60mL)溶液中に、室温にて1N−塩酸/エーテル溶液(38mL)および4N−塩酸/酢酸エチル溶液(13mL)を加え、室温にて30分間攪拌した。析出した固体を濾取し、メタノールから再結晶することにより、N−(1−ベンジル−4−ピペリジニル)−1H−インダゾール−5−アミン・2塩酸塩・1/2水和物(4.32g,56%)を得た。
mp 193.0−194.6℃. H−NMR(300MHz,DMSO−d)δ2.18(m,1.75H),2.51(m,0.25H),2.98(m,1.5H),3.17(m,0.5H),3.41(m,2H),3.68(m,0.75H),3.90(m,0.25H),4.25(m,1.5H),4.46(m,0.5H),7.40−7.64(m,6H),7.59(m,1H),7.70(m,1H),7.92(m,1H),8.20(s,1H),11.02(br s,0.75H),11.53(br s,0.25H). Anal.Calcd.for C19222HCl 1/2HO:C,58.76,H,6.49,N,14.43. Found:C,58.49,H,6.48,N,14.45.
参考例3 4−[2−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)アクリロイル]桂皮酸の合成(特開2000−44513号公報、実施例8)
工程1
窒素雰囲気下、ドライアイスで冷却しながら、イソブテン(27mL)に(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)酢酸(20g,93.5mol)、エーテル(7mL)および濃硫酸(0.5mL)を加え、耐圧管中、室温で3日間撹拌した。10%炭酸水素ナトリウム水溶液と氷との混合物に、ドライアイスで冷却した反応液を加え撹拌した。エーテルを加えて抽出し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮し、(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)酢酸 t−ブチルエステル(24.4g,97%)を得た。
工程2
4−ホルミル安息香酸(20g,0.133mol)のピリジン(138mL)溶液にマロン酸エチルモノカリウム塩(46g,0.270mol)、p−トルエンスルホン酸・1水和物(50g,0.263mol)およびピペリジン(2.0mL)を加え、混合液を徐々に加熱したのち120℃で1.5時間撹拌した。氷冷下、反応液に2N塩酸を加えて酸性とし、析出物を濾取することにより4−カルボキシ桂皮酸 エチルエステル(26.58g,91%)を結晶として得た。
工程3
窒素雰囲気下、4−カルボキシ桂皮酸 エチルエステル(5.0g,22.7mmol)のクロロホルム(15mL)溶液に塩化チオニル(8.4mL)を滴下したのち、ジメチルホルムアミド(1滴)を加え30分間加熱還流した。反応液を減圧濃縮し酸クロライドを得た。
窒素雰囲気下、工程1で得た(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)酢酸 t−ブチルエステル(6.35g,23.5mmol)のテトラヒドロフラン(100mL)溶液に、ドライアイスで冷却しながらリチウムビス(トリメチルシリル)アミドの1Mトルエン溶液(26mL)を滴下した。5分後、さらに工程2で得た酸クロライドのテトラヒドロフラン(100mL)溶液を滴下した。滴下終了20分後に、室温で1.5時間撹拌した。反応液に5%クエン酸水溶液(120mL)を加え、エーテルで抽出した。有機層を水、飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後減圧濃縮した。得られる残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、4−[(2RS)−2−(t−ブトキシカルボニル)−2−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)アセチル]桂皮酸 エチルエステル(4.83g,44%)を結晶として得た。
工程4
工程3で得た4−[(2RS)−2−(t−ブトキシカルボニル)−2−(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)アセチル]桂皮酸 エチルエステル(5.6g,11.6mmol)のジオキサン(24ml)溶液を耐圧管に入れ、濃塩酸(24ml)を加えた。130℃に加熱しながら4時間撹拌した。反応液を氷冷して析出物を濾取し、4−[(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)アセチル]桂皮酸(3.7g,90%)を結晶として得た。この4−[(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)アセチル]桂皮酸(2.03g,5.7mmol)のジオキサン(115mL)溶液を耐圧管に入れ、パラホルムアルデヒド(0.7g)、ジメチルアミン塩酸塩(1.86g,22.8mmol)、酢酸(10滴)および無水硫酸マグネシウム(8g)を加えて130℃に加熱しながら一晩撹拌した。氷冷下、反応液に0.1N塩酸を加えて酸性とし酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥後減圧濃縮した。析出物を濾取し、標記化合物1.46g(93%)を結晶として得た。
mp 214.0−217.0℃. H−NMR(300MHz,CDCl)δ6.25(s,1H),6.30(s,1H),6.46(d,1H,J=16.2),7.57(d,2H,J=8.4),7.64(d,1H,J=15.9),7.78(d,2H,J=8.4)
試験例3 ウサギ三叉神経節および角膜組織におけるROCK I,ROCK IIのタンパク質発現
1)使用動物
日本白色種雄性ウサギを北山ラベス社より購入して実験に使用した。
2)組織可溶性タンパク質の調製
動物を安楽死させた後、三叉神経節および角膜を摘出した。摘出した組織は氷冷したリン酸緩衝生理食塩水(Invitrogen社製)中に移して洗浄し、氷冷した0.1%のTriton X−100(Pharmacia Biotech社製)および1tablet/10mlのProtease inhibitor cocktail(complete,Mini;Roche社製)を含む20mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)中に移して超音波破砕をおこなった。超音波破砕処理により得られた各組織由来の細胞粗破砕液を遠心分離(10,000×g,15分,4℃)し、上清を回収して組織可溶性タンパク質溶液を得た。溶液中のタンパク質量はBCAプロテインアッセイリージェント(PIERCE社製)を用いて定量した。
3)ウェスタンブロッティング法を用いたROCK I,ROCK IIの検出
調製した組織可溶性タンパク質に含まれるROCK I,ROCK IIをウェスタンブロッティング法を用いて検出した。25μgのタンパク質を含む調製溶液を8%のSDSポリアクリルアミドゲル(TEFCO社製)を用いて電気泳動法により分離し、ゲル内に分離されたタンパク質をPVDF膜(Immobilon−P;Millipore)上に電気的に転写した。タンパク質の転写された膜を5%のスキムミルクでブロッキングした後、ヤギ抗ROCK I抗体あるいはヤギ抗ROCK II抗体(ともにSANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY社製)と反応させ、アルカリフォスファターゼ(AP)結合抗ヤギIgG抗体(バイオラッド社製)を用いて二次標識した。抗原の免疫検出はAP発色キット(バイオラッド社製)を用いておこなった。
4)試験結果
図5にウェスタンブロッティングの結果を示した。ROCK IおよびROCK IIともにウサギ三叉神経節および角膜組織の可溶性タンパク質中にタンパク質レベルで発現していることが確認できた。
実施例1 錠剤
C3酵素 10 mg
乳糖 80 mg
デンプン 17 mg
ステアリン酸マグネシウム 3 mg
結晶セルロース 10 mg
以上の成分を1錠分の材料として、常法により錠剤を成形する。錠剤は必要に応じて通常用いられる腸溶性コーティング剤(例えばフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、糖衣およびフィルム(例えばエチルセルロース)を適用してもよい。主薬成分であるC3酵素を、化合物1、2、3又は4に変えてもよい。また添加剤との配合比を変えることにより、主薬の成分量が20mg、5mg、1mg、0.5mg、0.1mg/錠の錠剤を調製しうる。
実施例2 カプセル剤
C3酵素 50 mg
マンニトール 75 mg
デンプン 17 mg
ステアリン酸カルシウム 3 mg
以上の成分を1カプセル分の材料として均一に混合し、常法により顆粒状とし、硬カプセルに充填する。充填前に必要に応じて、通常用いられる腸溶性コーティング剤(例えばフタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、糖衣またはフィルム(例えばエチルセルロース)を顆粒に適用してもよい。主薬成分であるC3酵素を、化合物1、2、3又は4に変えてもよい。また添加剤との配合比を変えることにより、主薬の成分量が20mg、10mg、5mg、1mg、0.5mg、0.1mg/カプセルのカプセル剤を調製しうる。
実施例3 注射剤
C3酵素 750 mg
カルボキシメチルセルロースナトリウム 500 mg
注射用水 全量 100 mL
以上の成分を常法により無菌的に混和して注射剤を調製する。主薬成分であるC3酵素を、化合物1、2、3又は4に変えてもよい。また添加剤の配合比を変えることにより、主薬の成分量が1000mg、500mg、200mg、100mg/100mLである注射剤を調製することができる。
実施例4 点眼剤
C3酵素 5 mg
ホウ酸 700 mg
ホウ砂 適量(pH7.0)
塩化ナトリウム 500 mg
ヒドロキシメチルセルロース 0.5 g
エデト酸ナトリウム 0.05 mg
塩化ベンザルコニウム 0.005mg
滅菌精製水 全量 100 mL
滅菌精製水80mLを約80℃まで加温し、ヒドロキシメチルセルロースを加えて攪拌し、液温を室温まで戻す。この液にC3酵素、塩化ナトリウム、ホウ酸、エデト酸ナトリウムおよび塩化ベンザルコニウムを加えて溶解する。ホウ砂を適量加えてpHを7に調整する。滅菌精製水を加えて100mLまでメスアップする。主薬成分であるC3酵素を、化合物1、2、3又は4に変えてもよい。また添加剤の配合比を変えることにより、主薬の濃度が1w/v%、0.5w/v%、0.3w/v%、0.1w/v%、0.05w/v%、0.03w/v%、0.01w/v%、0.003w/v%、0.001w/v%である点眼剤を調製することができる。
実施例5 点眼剤
C3酵素 10 mg
D−マンニトール 4.5 g
リン酸二水素ナトリウム 0.1 g
水酸化ナトリウム 適量(pH 7.0)
滅菌精製水 全量 100 mL
滅菌精製水80mLにC3酵素、D−マンニトール、リン酸二水素ナトリウムを加えて溶解する。水酸化ナトリウムを適量加えてpHを5.0に調整する。滅菌精製水を加えて100mLまでメスアップする。調製した点眼剤をメンブランフィルターで滅菌ろ過後、ディスポーザブル(ユニットドーズ)容器に充填、密封する。主薬成分であるC3酵素を、化合物1、2、3又は4に変えてもよい。また添加剤の配合比を変えてもよい。また添加剤の配合比を変えることにより、主薬の濃度が1w/v%、0.5w/v%、0.3w/v%、0.1w/v%、0.05w/v%、0.03w/v%、0.005w/v%、0.003w/v%、0.001w/v%である点眼剤を調製することができる。
【産業上の利用可能性】
本発明のRhoタンパク阻害剤を含有する医薬は三叉神経細胞の神経突起形成促進作用を有することから、角膜神経の損傷などに伴う角膜知覚機能低下の改善および角膜知覚機能低下に伴うドライアイ症状の改善に有用である。具体的には、Rhoタンパク阻害剤を適用することにより、白内障手術後やLASIK手術後の角膜知覚の低下、神経麻痺性角膜症、角膜潰瘍、糖尿病性角膜症などの角膜神経変性に伴う角膜知覚低下やドライアイ症状の改善効果が期待できる。
以上、本発明の具体的な態様のいくつかを詳細に説明したが、当業者であれば示された特定の態様には、本発明の教示と利点から実質的に逸脱しない範囲で様々な修正と変更をなすことは可能である。従って、そのような修正および変更も、すべて後記の特許請求の範囲で請求される本発明の精神と範囲内に含まれるものである。
本出願は、日本で出願された特願2003−114819および特願2003−273177を基礎としており、それらの内容は本出願にすベて包含されるものである。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rhoタンパク阻害剤を含有する角膜神経突起形成促進剤。
【請求項2】
Rhoタンパク阻害剤を含有する角膜神経軸索伸展促進剤。
【請求項3】
Rhoタンパク阻害剤を含有する角膜知覚回復剤。
【請求項4】
Rhoタンパク阻害剤を含有するドライアイ治療剤。
【請求項5】
Rhoタンパク阻害剤を含有する角膜神経突起形成促進用組成物。
【請求項6】
Rhoタンパク阻害剤を含有する角膜神経軸索伸展促進用組成物。
【請求項7】
Rhoタンパク阻害剤を含有する角膜知覚回復用組成物。
【請求項8】
Rhoタンパク阻害剤を含有するドライアイ治療用組成物。
【請求項9】
角膜神経突起形成促進用組成物を製造するためのRhoタンパク阻害剤の使用。
【請求項10】
角膜神経軸索伸展促進用組成物を製造するためのRhoタンパク阻害剤の使用。
【請求項11】
角膜知覚回復用組成物を製造するためのRhoタンパク阻害剤の使用。
【請求項12】
ドライアイ治療用組成物を製造するためのRhoタンパク阻害剤の使用。
【請求項13】
角膜神経の神経突起形成促進が必要とされる対象にRhoタンパク阻害剤の有効量を投与することによる角膜神経の神経突起形成を促進する方法。
【請求項14】
角膜神経の軸索伸展促進が必要とされる対象にRhoタンパク阻害剤の有効量を投与することによる角膜神経の軸索伸展を促進する方法。
【請求項15】
角膜知覚の回復が必要とされる対象にRhoタンパク阻害剤の有効量を投与することによる角膜知覚を回復する方法。
【請求項16】
ドライアイに罹患した対象にRhoタンパク阻害剤の有効量を投与することによるドライアイを治療する方法。

【国際公開番号】WO2004/091662
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−505467(P2005−505467)
【国際出願番号】PCT/JP2004/005456
【国際出願日】平成16年4月16日(2004.4.16)
【出願人】(000199175)千寿製薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】