説明

角質細胞面積増大剤及びそれを含有するスキンケア化粧料

【課題】角質細胞の面積を増大させ、本質的なスキンケアを具現化する手段を提供する。
【解決手段】ポリ(N−メタクリロイルリジン)を角質細胞面積増大剤の有効成分として、化粧料に含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角質細胞面積増大剤及びそれを含有するスキンケア化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
スキンケア化粧料は肌を美しく、清浄に保つための化粧料であって、古くは、油性成分の閉塞によって、荒れた肌からの水分散逸を防ぐような形態から始まっている。基本は、角質細胞の不順によって生じた、肌の水分保持機能の喪失を如何に補完するかがこれまでの課題であり、NMFと呼ばれるアミノ酸類、ムコ多糖類を主とする保湿因子の補給、NEFと呼ばれる脂質を主とする閉塞保湿因子の補給、トレハロース、硫酸化トレハロースの塩、ヒアルロン酸の塩等の高抱水性成分の塗布による、角質細胞の機能不全を補完する方法が開発されている。又、角質細胞そのものへ働きかけて、肌を保全する方法として、フィトステサイドとステロイドを組み合わせて、角質細胞の交代周期を同調させる方法が開発されている。更に、機能不全を起こした角層から炎症性物質が侵入しないように、ポリメタクリロイルオキシエトキシホスホリルコリンなどの保護膜で防御する方法も開発されている。しかしながら、これらの方法の殆どは、フィトステサイドとステロイドの組合せを除いては、失われた機能の代替、補完という、対症的な対応であり、角層そのもの、言い換えれば角層の生理そのものを変えるものではない。又、フィトステサイドとステロイドの組合せについても、セルサイクルの同調と言うことから、効果発現までに要する期間が長い、或いは、化粧料では副作用の大きさ故に使用しにくいステロイドの使用が必須であるなどの欠点があり、実用的とは言い難い面があった。本来的には、皮膚機能の低下、肌荒れなどによって、角質細胞の面積が矮小化する現象が認められていること、所謂「敏感肌」と言われる諸刺激に過敏な人においては、角質細胞の面積が平均に比して小さいこと等が既に知られていることから、角質細胞の面積を増大させる手段があれば、本質的なスキンケアにつながることは、化粧品に携わるものであれば誰もが気がついていることであったが、その様な手段が全く見出されていないのが現状であった。
【0003】
一方、ポリ(N−メタクリロイルリジン)は、化粧料用の原料として市販されているものもある(商品名「PMリジン」;岐阜シェラック株式会社製)。ポリ(N−メタクリロイルリジン)は、ダメージを受けた皮膚や毛髪のダメージ部である、ペプチドの切断面のアニオンサイトに吸着し、ダメージ部を保護する作用を有し、皮膚保護化粧料用素材として有用なことは既に知られていたが、ダメージを受けたり或いは先天的な原因で角質細胞面積が小さくなっていて、化学物質に過敏になっている人に投与した場合、角質細胞の面積を増大させ、以て角層強化によるバリア機能の向上をなし得ることは全く知られていないことであった。
更に、ポリ(N−メタクリロイルリジン)を含有する、角層バリア機能向上用のスキンケア化粧料は全く知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、角質細胞の面積を増大させ、本質的なスキンケアを具現化する手段を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、角質細胞の面積を増大させ、本質的なスキンケアを具現化する手段を求めて、鋭意研究努力を重ねた結果、ポリ(N−メタクリロイルリジン)を化粧料に含有させて投与すると、角質細胞面積を増大させる作用を発揮することを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示す技術に関するものであ
る。
【0006】
(1)ポリ(N−メタクリロイルリジン)及び/又はその塩からなる、角質細胞面積増大剤。
(2)(1)に記載の角質細胞面積増大剤を含有する、スキンケア化粧料。
(3)ポリ(N−メタクリロイルリジン)及び/又はその塩の含有量が、0.01〜10重量%であることを特徴とする、(2)に記載のスキンケア化粧料。
(4)角層バリア機能向上用であることを特徴とする、(2)又は(3)に記載のスキンケア化粧料。
(5)角質細胞面積が、標準値より小さい人に適用されることを特徴とする、(2)〜(4)の何れかに記載のスキンケア化粧料。
(6)標準値が500μm2であることを特徴とする、(5)に記載のスキンケア化粧料。
(7)敏感肌用であることを特徴とする、(2)〜(6)の何れかに記載の化粧料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、角質細胞の面積を増大させ、本質的なスキンケアを具現化する手段を提供することができる。
以下、本発明について更に詳細に説明を加える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(1)本発明の角質細胞面積増大剤
本発明の角質細胞面積増大剤は、ポリ(N−メタクリロイルリジン)からなることを特徴とする。また、ポリ(N−メタクリロイルリジン)は、N−メタクリロイルリジン以外にも、通常知られているモノマー類、例えば、ビニルアルコール、スチレン、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチルなどをともに用いてコポリマーにしたものでもよい。好ましい形態は、他のモノマーをN−メタクリロイルリジンの1割以下に抑えることであり、N−メタクリロイルリジンのみを重合して得られるポリマーが特に好ましい。かかるN−メタクリロイルリジンは、例えば、リジンとメタクリロイルクロリドを縮合することにより得ることができる。ポリ(N−メタクリロイルリジン)は、常法に従ってN−メタクリロイルリジンを重合し製造することができる。例えば、N−メタクリロイルリジンを溶媒中でアゾビスイソブチロニトリルや過酸化ベンゾイルなどの重合開始剤とともに加熱処理することにより製造することができる。かくして得られたポリ(N−メタクリロイルリジン)はそのまま使用することもできるし、酸或いはアルカリとともに塩として使用することもできる。塩としては、通常知られているものであれば特段の限定無く使用することができ、例えば、アルカリ塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩、トリエチルアミン塩等の有機アミン塩類、リジン塩、アルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩等が好ましく例示できる。又、酸の塩としては、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩などの鉱酸塩、クエン酸塩、蓚酸塩、酢酸塩等の有機酸塩、炭酸塩等が好ましく例示できる。かくして得られた、ポリ(N−メタクリロイルリジン)及び/又はその塩は、皮膚外用で皮膚に投与すると、標準より面積の小さい角質細胞に対して作用し、その面積を増大させる作用を発揮する。これにより、角層に於ける角質細胞の密集性が高まり、角質細胞が小さくなっていたが故に低下していたバリア機能を回復することができる。これが本発明の角質細胞面積増大剤の作用である。本発明のスキンケア化粧料に於ける、かかる角質細胞面積増大剤の好ましい含有量は、化粧料全量に対して、総量で0.01〜10重量%であり、更に好ましくは、0.1〜5重量%である。
【0009】
(2)本発明のスキンケア化粧料
本発明のスキンケア化粧料は、ポリ(N−メタクリロイルリジン)及び/又はその塩を
含有することを特徴とする。本発明のスキンケア化粧料は、角質細胞面積が小さくなり、これによって角層バリア能が低下し、肌が過敏になっている人に投与し、角質細胞の面積を増大させ、これにより、角層に於ける角質細胞の密集性が高まり、角質細胞が小さくなっていたが故に低下していたバリア機能を回復する為に用いることが好ましい。角質細胞面積については、多くのカウンセリング販売に於いて測定されている項目であり、その様な技術を応用することにより測定することができる。この様な技術としては、例えば、顔の頬などの部位より粘着テープなどを用いて、ストリッピングにより角質細胞を採取し、ゲンチアナバイオレット等の染色剤を用いて、角質細胞を染色し、角質細胞の境界を明確にし、角質細胞の面積を測定する技術が例示できる。この様な測定に於いて、平均500μm2を割り込むような人に本発明のスキンケア化粧料を適用することが好ましい。即ち、本発明のスキンケア化粧料は次のステップで選択された人に使用されることが好ましい。
(1)皮膚より角質細胞を採取する。
(2)前記角質細胞の面積を測定する。
(3)平均的な角質細胞面積(角質細胞面積の標準値)と比較する。簡易的には標準値として500μm2を用いる。
(4)角質細胞面積が小さいと判定された人を本発明のスキンケア化粧料の対象者とする。
【0010】
本発明のスキンケア化粧料としては、通常スキンケア化粧料で使用されている剤形のものであれば特段の限定無く使用することができる。例えば、化粧水、エッセンス、フォーム状パック、ピールオフパック、乳液、クリーム、ジェル等が好ましく例示できる。又、本発明のスキンケア化粧料に於いては、通常化粧料で使用される任意成分を含有することができる。この様な任意成分としては、例えば、ワセリンやマイクロクリスタリンワックス等のような炭化水素類、ホホバ油やセチルイソオクタネート等のエステル類、オリーブ油等のトリグリセライド類、オクタデシルアルコールやオレイルアルコール等の高級アルコール類、グリセリンや1,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、イソプレングリコール、ジプロピレングリコール、1,2−ヘキシレングリコール等の多価アルコール類、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、エタノール、カーボポール等の増粘剤、防腐剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤類等が例示できる。これらの内、好ましい形態としては、1,2−ヘキシレングリコールを4〜10重量%含有する形態及び/又はフェノキシエタノールを0.2〜1重量%含有する形態が例示できる。又、従来より知られているポリメタクリロイルオキシエトキシホスホリルコリン等の角層バリア機能補強剤、NMF、NEFと言ったスキンケア成分を含むことも好ましい。本発明のスキンケア化粧料は、必須成分と任意の成分とを常法に従って処理することにより、製造することができる。
【実施例】
【0011】
以下に実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がかかる実施例にのみ限定されないことは言うまでもない。
【0012】
<実施例1>
以下に示す処方に従って、本発明のスキンケア化粧料である化粧水(ローション)を作製した。即ち、処方成分を90℃で加熱攪拌可溶化し、攪拌冷却し、ローション(PMLローション)を得た。同時にポリ(N−メタクリロイルリジン)(「PMリジン」)を水に置換した比較例のローション(ベースローション)を作製し、パネラー1群10名計20名を用いて使用テストを行った。使用テスト開始直前にパネラーの頬部よりテープストリッピングにより角質細胞を採取し、ゲンチアナバイオレットで染色し平均面積を測定した。1群はPMLローションで、もう1群はベースローションで、1日朝晩2回処置し、これを1ヶ月間続けた。最後の処置の24時間後に再度角質細胞面積を測定し、(処置後
の面積)/(処置前の面積)で面積変化率を求めた。この結果を図1に示す。これより、本発明の化粧料で処置した群は有意に角質細胞の面積が増加していることがわかる。これより、本発明の角質細胞面積増大剤である、ポリ(N−メタクリロイルリジン)の作用が証明された。
(PMLローション処方)
「PMリジン」 1 重量部
グリセリン 3 重量部
1,2−ヘキシレングリコール 5 重量部
エタノール 5 重量部
水 86 重量部
【0013】
<実施例2>
実施例1のPMLローションとベースローションを用いて、角質細胞面積の小さい人を対象に、1ヶ月間の使用テストを行った。即ち、パネラー候補者40名を集め、角質細胞の面積を測定し、500μm2以下の人14名を選別した。バラツキの無いようにこの14名を7人づつの2群に分け、1群はPMLローションで、もう1群はベースローションで、1日朝晩2回処置し、これを1ヶ月間続けた。その後、化粧料による肌の調子の改善度を、スコア5:明瞭に改善、スコア4:やや改善、スコア3:改善せず、スコア2:やや悪化、スコア1:明瞭に悪化の基準で判定してもらった。判定結果を出現例数として、表1に示す。これより、本発明のスキンケア化粧料である、PMLローションが角質細胞面積の小さい人に優れた効果をもたらすことがわかる。
【0014】
【表1】

【0015】
<実施例3>
実施例2と同様に、角質細胞の面積が500μm2以上の人30名を用いて検討を行ったが、角質細胞面積の小さい人ほどは効果の差が見られなかった。
【0016】
【表2】

【0017】
<参考例1>
以下に示す処方に従って、化粧水(ローション)を作製した。即ち、処方成分を90℃で加熱攪拌可溶化し、攪拌冷却し、ローション(PMGローション)を得た。パネラー1群10名を用いて使用テストを行った。使用テスト開始直前にパネラーの頬部よりテープストリッピングにより角質細胞を採取し、ゲンチアナバイオレットで染色し平均面積を測定した。(処置後の面積)/(処置前の面積)で表される面積変化率は1.03であり、ポリ(N−メタクリロイルグリシン)の角質細胞面積増大作用が確認された。
(PMGローション処方)
ポリ(N−メタクリロイルグリシン) 1 重量部
グリセリン 3 重量部
1,2−ヘキシレングリコール 5 重量部
エタノール 5 重量部
水 86 重量部
【0018】
<参考例2>
以下に示す処方に従って、化粧水(ローション)を作製した。即ち、処方成分を90℃で加熱攪拌可溶化し、攪拌冷却し、ローション(PMAローション)を得た。パネラー1群10名を用いて使用テストを行った。使用テスト開始直前にパネラーの頬部よりテープストリッピングにより角質細胞を採取し、ゲンチアナバイオレットで染色し平均面積を測定した。(処置後の面積)/(処置前の面積)で表される面積変化率は1.03であり、ポリ(N−メタクリロイルアラニン)の角質細胞面積増大作用が確認された。
(PMAローション処方)
ポリ(N−メタクリロイルアラニン) 1 重量部
グリセリン 3 重量部
1,2−ヘキシレングリコール 5 重量部
エタノール 5 重量部
水 86 重量部
【0019】
<実施例4>
以下に示す処方に従って、本発明のスキンケア化粧料を作製した。即ち、イ、ロの成分を80℃で加熱し、イに徐々にロを加えて中和して、攪拌冷却して、エッセンスを得た。イ
カルボキシビニルポリマー1%水溶液 6 重量部
カーボポール1382の1%水溶液 5 重量部
(アクリル酸・メタクリル酸(C10−30)アルキル)
マルメロエキス 0.1重量部
1,3−ブタンジオール 3 重量部
1,2−ヘキシレングリコール 3 重量部
「PMリジン」 2 重量部
水 75.4重量部

水酸化カリウム10%水溶液 5.5重量部
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(N−メタクリロイルリジン)及び/又はその塩からなる、角質細胞面積増大剤。
【請求項2】
請求項1に記載の角質細胞面積増大剤を含有する、スキンケア化粧料。
【請求項3】
ポリ(N−メタクリロイルリジン)及び/又はその塩の含有量が、0.01〜10重量%であることを特徴とする、請求項2に記載のスキンケア化粧料。
【請求項4】
角層バリア機能向上用であることを特徴とする、請求項2又は3に記載のスキンケア化粧料。
【請求項5】
角質細胞面積が、標準値より小さい人に適用されることを特徴とする、請求項2〜4の何れか一項に記載のスキンケア化粧料。
【請求項6】
標準値が500μm2であることを特徴とする、請求項5に記載のスキンケア化粧料。
【請求項7】
敏感肌用であることを特徴とする、請求項2〜6の何れか一項に記載の化粧料。

【図1】
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【公開番号】特開2007−302699(P2007−302699A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213276(P2007−213276)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【分割の表示】特願2002−178356(P2002−178356)の分割
【原出願日】平成14年6月19日(2002.6.19)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】