説明

角速度検出装置およびその製造方法

【課題】本発明は、角速度検出装置をパッケージ後であっても、振動子の強誘電体層に自発分極を生じさせるポーリング処理を容易に行なうことが可能な角速度検出装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、半導体基板の一領域に形成した振動子100と、振動子100が形成された領域とは異なる半導体基板の領域に形成した電子回路とを備える角速度検出装置1である。振動子100は、半導体基板上に形成した下部電極194と、下部電極194上に形成した圧電体(強誘電体層)142と、圧電体142上に形成した上部電極(第1駆動電極144など)とを有する。電子回路は、振動子100の上部電極と接続して、振動子100に駆動信号を印加または振動子からの電気信号を出力する増幅回路と、振動子100の下部電極194と接続し、圧電体142に自発分極を生じさせる程度の電圧を印加することが可能な電極端子44とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角速度検出装置およびその製造方法に関し、半導体基板に振動子と電子回路とが形成される角速度検出装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
角速度検出装置は、ジャイロセンサとも呼ばれ、撮像手段の手振れ検出やカーナビゲーションの方向検出に利用されている。角速度検出装置は、近年さらに需要が様々な分野に拡大すると共に、小型化、高性能化などの要求がなされている。
【0003】
このような小型化の要求のため、角速度検出装置は、角速度を検出する振動子と、振動子からの信号を処理する電子回路とを1つのパッケージとして形成される。特許文献1に開示してある角速度検出装置は、支持基板に、振動子と、振動子を制御する半導体部品と、振動子と半導体部品を電気的に接続する回路部品とを形成してある。さらに、特許文献1に開示してある角速度検出装置は、振動子、半導体部品および回路部品を形成した支持基板の一面を覆う蓋体を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−133486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示してある角速度検出装置は、支持基板と蓋体とで振動子、半導体部品および回路部品をパッケージするメタルセラミックパッケージを使用している。そのため、特許文献1に開示してある角速度検出装置は、製造コストが高価になり、さらに支持基板と蓋体とでパッケージする構成のため小型化することが困難であった。
【0006】
角速度検出装置の製造コストを安価にし、より小型化するためには、たとえばモールド樹脂によるパッケージがある。しかし、モールド樹脂で角速度検出装置をパッケージする場合、その製造工程において振動子が高温となるため、振動子を構成する強誘電体層の自発分極が消えることがあった。そのため、角速度検出装置をパッケージ後、振動子の強誘電体層に自発分極を生じさせるポーリング処理を容易に行なう必要があった。
【0007】
それゆえに、本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、角速度検出装置をパッケージ後であっても、振動子の強誘電体層に自発分極を生じさせるポーリング処理を容易に行なうことが可能な角速度検出装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る角速度検出装置は、半導体基板の一領域に形成した振動子と、振動子が形成された領域とは異なる半導体基板の領域に形成した電子回路とを備える角速度検出装置であって、振動子は、半導体基板上に形成した下部電極と、下部電極上に形成した強誘電体層と、強誘電体層上に形成した上部電極とを有し、電子回路は、振動子の上部電極と接続して、振動子に駆動信号を印加または振動子からの電気信号を出力する増幅回路と、振動子の下部電極と接続して、強誘電体層に自発分極を生じさせる程度の電圧を印加することが可能な電極端子とを有する。
【0009】
好ましくは、上部電極は、駆動電極と、検出電極とを有し、増幅回路は、第1の増幅回路と、第2の増幅回路とを有し、駆動電極は、第1のセレクタ回路を介して、駆動信号を増幅する第1の増幅回路に接続し、検出電極は、電気信号を増幅する第2の増幅回路に接続し、強誘電体層に自発分極を生じさせるポーリング処理を行なうとき、第1のセレクタ回路の入力を第1の増幅回路の出力からバイアス電圧に切替えて、振動子の下部電極に電圧を印加する。
【0010】
好ましくは、検出電極は、第2のセレクタ回路を介して、電気信号を増幅する第2の増幅回路に接続し、ポーリング処理を行なうとき、第2のセレクタ回路の出力を第2の増幅回路の入力からバイアス電圧に切替え、振動子の下部電極に電圧を印加する。
【0011】
好ましくは、駆動電極および検出電極に対向するそれぞれの下部電極は、互いに電気的に接続されている。
【0012】
好ましくは、下部電極と接続する電極端子は、電極パッドとして半導体基板上に形成してある。
【0013】
好ましくは、振動子は、片持ち梁型振動子であり、半導体基板に形成される基部と、基部から延設され第1の幅を有する幅広部と、幅広部から延設され第1の幅よりも幅が小さな第2の幅を有する幅狭部とを有し、幅広部を振動させるための駆動信号を印加する駆動電極を幅広部に形成し、強誘電体層に生じるコリオリ力に応じた電気信号を検出する検出電極を幅広部に形成する。
【0014】
好ましくは、振動子は、音叉型振動子であり、半導体基板に形成される基部と、基部から延設され第1の幅を有する第1幅広部と、第1幅広部と並行して設けられ基部から延設される第2幅広部と、第1幅広部から延設し第1の幅よりも小さな第2の幅を有する第1幅狭部と、第2幅広部から延設し第2の幅を有する第2幅狭部とを有し、第1幅広部および第2幅広部を振動させるための駆動信号を印加する駆動電極を第1幅広部および第2幅広部に形成し、第1幅広部に形成され強誘電体層に生じるコリオリ力に応じた電気信号を検出する第1の検出電極を第1幅広部に形成し、第2幅広部に形成され強誘電体層に生じるコリオリ力に応じた電気信号を検出する第2の検出電極を第2幅広部に形成する。
【0015】
好ましくは、半導体基板は、振動子を形成した領域上にキャップを載置し、キャップおよび電子回路をモールド樹脂で覆う。
【0016】
本発明に係る角速度検出装置の製造方法は、半導体基板の一領域に形成した振動子と、振動子が形成された領域とは異なる半導体基板の領域に形成した電子回路とを備え、振動子は、半導体基板上に形成した下部電極と、下部電極上に形成した強誘電体層と、強誘電体層上に形成した上部電極とを有し、電子回路は、振動子の上部電極と接続して、振動子に駆動信号を印加または振動子からの電気信号を出力する増幅回路と、振動子の下部電極と接続し、強誘電体層に自発分極を生じさせる程度の電圧を印加することが可能な電極端子とを有する角速度検出装置の製造方法であって、振動子を形成した領域上にキャップを載置した後、キャップおよび電子回路をモールド樹脂で覆い、電極端子に電圧を印加して、強誘電体層に自発分極を生じさせるポーリング処理を行なう。
【0017】
好ましくは、上部電極は、駆動電極と、検出電極とを有し、増幅回路は、第1の増幅回路と、第2の増幅回路とを有し、駆動電極は、第1のセレクタ回路を介して、駆動信号を増幅する第1の増幅回路に接続し、検出電極は、電気信号を増幅する第2の増幅回路に接続し、ポーリング処理を行なうとき、第1のセレクタ回路は、入力を第1の増幅回路の出力からバイアス電圧に切替える。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る角速度検出装置、または角速度検出装置の製造方法では、振動子の下部電極と接続した電極端子を備えるので、角速度検出装置をパッケージ後であっても、電極端子に電圧を印加して振動子の強誘電体層に自発分極を生じさせるポーリング処理を容易に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態に係る角速度検出装置の振動子の構成を示す平面図である。
【図2】図1に示す振動子の切断線に沿った断面図を示す。
【図3】図1に示す振動子の各駆動電極に供給する電圧を模式的に示した波形図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る角速度検出装置において、圧電体に自発分極を生じさせるポーリング処理が可能な構成を示す概略図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る角速度検出装置のモールド樹脂で覆う前の構造を示す平面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る角速度検出装置のモールド樹脂で覆う前の構造を示す断面図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る角速度検出装置のモールド樹脂で覆った後の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る角速度検出装置の振動子の構成を示す平面図である。図1にはX方向、Y方向、およびZ方向を示す記号が併記されている。なお、X方向は、振動子100の幅方向に相当し、Y方向は、振動子100の長さ方向に相当する。また、Z方向は、振動子100の高さ方向に対応し、紙面の奥側から手前側に向かう方向である。
【0021】
本発明の実施の形態に係る角速度検出装置は、振動子100の他に、振動子100を駆動する自励発振回路、および振動子100からの検出出力に基づいて角速度信号を処理する信号処理回路などを備えるが、説明の便宜上これらの回路は図示していない。また、振動子100は、音叉型振動子である。
【0022】
振動子100は、圧電体142が形成されたT字状の基部110を有する。基部110は振動子100が作り込まれる図示しない半導体基板の一部で固定されている。基部110の頂部から第1振動腕120と第2振動腕130が並行して設けられる。圧電体142は、基部110だけではなく、第1振動腕120、および第2振動腕130の一主面を覆って設けられている。第1振動腕120と第2振動腕130の形状および大きさはほぼ同じである。2つの振動腕は中心線C1−C1を境にして互いに線対称になるよう形成されている。
【0023】
第1振動腕120は細長い短冊状の第1幅広部140と、これよりも幅の細い短冊状の第1幅狭部150を有し、これらはそれぞれの長手方向が連なるように連続して形成されている。第1幅広部140の一部であって、これと第1幅狭部150との境界部145の近傍には比較的広い面積の圧電体142が露呈している。なお、圧電体142は基部110、第1振動腕120、および第2振動腕130の一主面上に連続して設けられる。すなわち、第1振動腕120と第2振動腕130は圧電体142を共有する。
【0024】
第2振動腕130は第1振動腕120とほぼ同形状を成す。すなわち、第2振動腕130は、細長いいわゆる短冊状の第2幅広部160と、これよりも幅の細い短冊状の第2幅狭部170とが互いの長手方向が連なるように連続して形成されている。第2幅広部160の一部であって、これと第2幅狭部170との境界部165の近傍には比較的広い面積の圧電体142が露呈している。
【0025】
第1振動腕120の第1幅広部140には、電気信号を入力するための第1駆動電極144、第2駆動電極146、および電気信号を出力するための第1検出電極148が各別に形成される。第1幅狭部150にはモニタ電極152,154が第1幅広部140と第1幅狭部150の境界部145から第1幅狭部150の長手方向に沿って延びるように形成されている。なお、モニタ電極152,154は第1幅狭部150の長手方向のほぼ中央部まで設けたものを図示したが、中央部よりもさらに先端側まで延設してもよい。いずれにしてもモニタ電極152,154の長手方向の長さは、境界部145から第1幅狭部150の長手方向に沿って随時設定すればよい。また、モニタ電極152,154は、第1幅狭部150に設けるだけでなく、第1幅狭部150の一部から境界部145を越えて第1幅広部140の一部に延設させてもよい。
【0026】
第2振動腕130の第2幅広部160には、電気信号を入力するための第3駆動電極164、第4駆動電極166、および電気信号を出力するための第2検出電極168が各別に形成される。これらの各電極は第1振動腕120の第1幅広部140に形成された各駆動電極、検出電極のものとほぼ同じ形状であり、かつ、それらの大きさもほぼ同じである。なお、第4駆動電極166は基部110側第2駆動電極146と共通に接続され共通駆動電極156を成している。
【0027】
第2幅狭部170にはモニタ電極172,174が、第2幅広部160と第2幅狭部170の境界部165から第2幅狭部170の長手方向に沿って延びるように形成される。なお、モニタ電極172,174は第2幅狭部170の長手方向のほぼ中央部まで設けたものを図示したが、中央部よりもさらに先端側まで延設してもよく、長手方向の中央部までは設けずに境界部165から第2幅狭部170の長手方向にわずかに延びるように配設してもかまわない。いずれにしてもモニタ電極172,174の長手方向の長さは、境界部165から第2幅狭部170の長手方向に沿って随時設定すればよい。また、モニタ電極172およびモニタ電極174は、第2幅狭部170の一部から境界部165を越えて第2幅広部160の一部に延設させるようにしてもかまわない。
【0028】
第1幅狭部150および第2幅狭部170に設けた各モニタ電極152,154,172,174には振動子100の振動状態に応じた電気信号が取出され、該電気信号は図示しない自励発振回路にフィードバックされる。モニタ電極152,154,172,174は角速度検出装置の振動子、すなわち、第1振動腕120および第2振動腕130のX方向、すなわち幅方向の共振周波数をモニタリングするために用意されている。モニタ電極172から取出した電気信号は図示しないバンドパスフィルタを介して増幅され、第4駆動電極166に帰還され、モニタ電極174から取出した電気信号は図示しないバンドパスフィルタを介して増幅され、第3駆動電極164に帰還される。同様にモニタ電極152から取出した電気信号は図示しないバンドパスフィルタを介して増幅され、第2駆動電極146に帰還され、モニタ電極154から取出した電気信号は図示しないバンドパスフィルタを介して増幅され、第1駆動電極144に帰還される。バンドパスフィルタでは電気信号が最も大きくなる周波数成分が取出される。仮にモニタ電極152,154,172,174を用意しなければ、第1振動腕120および第2振動腕130を所期の共振周波数で振動させることが期待できなくなる。第1検出電極148および第2検出電極168は振動子100のコリオリ力による振動変位を検出する。
【0029】
図1に示した振動子100は、幅x100、長さy100の大きさで示されている。幅x100の大きさはたとえば60μmであり、長さy100の大きさはたとえば500μm〜600μmである。したがって、長さy100は幅x100のほぼ10倍の大きさである。また、第1幅広部140および第2幅広部160の幅W1の大きさは、共に等しくたとえば24μmであり、第1幅狭部150および第2幅狭部170の幅W2の大きさは共に等しくたとえば10μmにそれぞれ設定される。
【0030】
第1駆動電極144および第3駆動電極164の幅は共に等しく幅x102で示される。幅x102の大きさは、たとえば2μmである。第2駆動電極146および第4駆動電極166の幅は共に等しく幅x104で示される。幅x104の大きさは、幅x102と等しいたとえば2μmである。
【0031】
第1幅広部140に設けられた第1検出電極148、および第2幅広部160に設けられた第2検出電極168の幅は共に等しく幅x106で示される。幅x106の大きさはたとえば16μmである。また第1駆動電極144と第1検出電極148との離間距離および、第3駆動電極164と第2検出電極168との離間距離x108は共に等しくたとえば1μmである。また第1検出電極148と第2駆動電極146との離間距離、および第2検出電極168と第4駆動電極166との離間距離x110は共に等しくたとえば1μmである。
【0032】
図1に示したものは振動腕を2つ有する振動子100、すなわち、音叉型振動子であった。しかし、本発明にかかる技術的思想は振動腕が1つのもの、すなわち、片持ち梁型振動子にも適用することもできる。したがって、本発明にかかる角速度検出装置を片持ち梁型振動子に適用する場合には第1振動腕120又は第2振動腕130のいずれか1つの構成要素を用意すれば足りる。
【0033】
図2は、図1に示す振動子100の切断線2A−2Aに沿った断面図を示す。図2に示す断面図は、第1幅広部140および第2幅広部160の断面図である。第1幅広部140および第2幅広部160には圧電体142が形成される。圧電体142の厚みはたとえば1.0μmである。第1幅広部140における圧電体142の第1主面142aには、紙面左側からみて第1駆動電極144、第1検出電極148、および第2駆動電極146がこの順序で所定の間隔を保って形成される。同様に、第2幅広部160における圧電体142の第1主面142aには、紙面右側からみて第3駆動電極164、第2検出電極168、および第4駆動電極166がこの順序で所定の間隔を保って形成される。これらの各電極の厚みは共に等しい。なお、図示していないが、これらの各電極上にはシリコン酸化物、たとえば二酸化シリコン膜(SiO)からなる堆積膜を形成してもよい。
【0034】
圧電体142の第2主面142bには下部電極194、半導体基板196がこの順序で形成されている。下部電極194は、第1駆動電極144、第1検出電極148、および第2駆動電極146のそれぞれに対向して個別に形成されているが、圧電体142の第2主面142bに一体として形成してもよい。同様に、下部電極194は、第3駆動電極164、第2検出電極168、および第4駆動電極166のそれぞれに対向して個別に形成されているが、圧電体142の第2主面142bに一体として形成してもよい。
【0035】
下部電極194、圧電体142、および第4駆動電極166(第3駆動電極164)までの厚みはたとえば約1.4μmである。なお、圧電体142の第1主面142aに設けられた第3駆動電極164、第4駆動電極166、および第2検出電極168は共に同じ厚みで形成される。また下部電極194の厚みは、第3駆動電極164、第4駆動電極166、および第2検出電極168のそれらと同じ厚みで形成される。なお、第1振動腕120に形成される各駆動電極、各検出電極の厚みも第2振動腕130側と同じ大きさである。
【0036】
ここで、下部電極194には、たとえば白金(Pt)/チタン(Ti)の積層膜などを用いることが可能であり、上部電極である第1駆動電極144(第2駆動電極146、第1検出電極148、第3駆動電極164、第4駆動電極166、および第2検出電極168)には、たとえば酸化イリジウム(IrO)/イリジウム(Ir)の積層膜や金(Au)膜などを用いることが可能である。圧電体142は、強誘電体層であり、たとえばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜やランタンドープジルコン酸チタン酸鉛(PLZT)膜などを用いることが可能である。なお、PZT層やPLZT層はゾルゲル法等により形成される。
【0037】
図3は、図1に示す振動子100の各駆動電極に供給する電圧を模式的に示した波形図である。図3(a)に示す供給電圧V1は、所定の振幅に設定され第1駆動電極144および第3駆動電極164に供給する交流電圧を示す。図3(b)に示す供給電圧V2は、第2駆動電極146および第4駆動電極166、すなわち、共通駆動電極156に供給する交流電圧を示す。供給電圧V1とV2の振幅はほぼ等しく、かつ位相は互いに180度ずれた、いわゆる位相反転の関係にある。図3(c)に示す供給電圧V3は、下部電極194に供給される直流電圧を示す。供給電圧V3は例えば0ボルトに設定される。
【0038】
ここで、図2に示す圧電体142であって、第1駆動電極144と下部電極194とに挟まれる部分には、第1駆動電極144に供給される供給電圧V1と下部電極194に供給される供給電圧V3による電位差が生じる。すなわち、圧電体142であって第1駆動電極144と下部電極194とに挟まれる部分には電位が(V1−V3)である電圧Vs1が印加されることになる。電圧Vs1が印加される圧電体142の該部分は電圧Vs1により圧縮・伸長変形し、第1伸縮運動を行う。
【0039】
一方、圧電体142であって、第2駆動電極146と下部電極194とに挟まれる部分には、第2駆動電極146に供給される供給電圧V2と下部電極194に供給される供給電圧V3による電位差が生じる。すなわち、圧電体142であって第2駆動電極146と下部電極194とに挟まれる部分には電位が(V2−V3)である電圧Vs2が印加されることになる。したがって電圧Vs2が印加される圧電体142の該部分は電圧Vs2により伸長・圧縮変形し、上記第1伸縮運動とは逆位相の第2伸縮運動を行う。
【0040】
第1伸縮運動および第2伸縮運動により振動子100の第1幅広部140(第2幅広部160)はX方向に互いに離間および互いに接近する方向、すなわち、横方向の横振動を行う。
【0041】
第1幅広部140(第2幅広部160)が横振動することにより第1幅狭部150(第2幅狭部170)も該横振動と同周期で振動する。ここで、第1幅狭部150(第2幅狭部170)に設けられたモニタ電極152(モニタ電極172)により、第1幅狭部150(第2幅狭部170)が該横振動をすることにより発生する電気信号を取出し、図示しない自励発振回路を介して第2駆動電極146(第4駆動電極166)に供給する。
【0042】
さらに、第1幅狭部150(第2幅狭部170)に設けられたモニタ電極154(モニタ電極174)により、第1幅狭部150(第2幅狭部170)が該横振動をすることにより発生する電気信号を取出し、図示しない自励発振回路を介して第1駆動電極144(第3駆動電極164)に供給する。
【0043】
次に、図4は、本発明の実施の形態に係る角速度検出装置において、圧電体142に自発分極を生じさせるポーリング処理が可能な構成を示す概略図である。図4に示す角速度検出装置1は、振動子100の上部電極と接続し、振動子100に駆動信号を印加または振動子100からの電気信号を出力する電子回路を有している。具体的に、電子回路には、第1幅広部140の第1駆動電極144および第2駆動電極146のそれぞれに接続する増幅回路(たとえば信号処理回路のドライバ)41、第1幅広部140の第1検出電極148に接続する増幅回路(たとえば検出回路の初段のオペアンプ)42などを含んでいる。
【0044】
また、増幅回路41の出力は、第1駆動電極144および第2駆動電極146にセレクタ回路43を介して接続されている。そのため、ポーリング処理を行なうときに、セレクタ回路43の入力を増幅回路41の出力からバイアス電圧(BIAS)に切替えることができる。なお、セレクタ回路43は、レジスタにより制御することで、入力を切替えることができる。
【0045】
増幅回路42の入力がオペアンプの反転入力端子の場合、オペアンプの仮想接地特性により、正転入力端子に印加している電圧(バイアス電圧(BIAS))と同等の電圧が、増幅回路42の入力に印加される。そのため、セレクタ回路を介すことなく増幅回路42の入力を第1検出電極148に直接接続しても、ポーリング処理を行なうとき、第1検出電極148にバイアス電圧(BIAS)を印加することができる。
【0046】
下部電極194は、圧電体142に自発分極を生じさせる程度の電圧を印加することが可能な電極端子44と接続している。そのため、ポーリング処理を行なうときに、当該電極端子44と外部電源とを接続して、下部電極194にたとえば−18.5V〜−28.5V程度の電圧を印加することができる。
【0047】
バイアス電圧(BIAS)がたとえば1.5Vであれば、ポーリング処理を行なうとき、圧電体142に20V〜30Vの電圧を印加することができ、角速度検出装置1は、圧電体142に自発分極を生じさせる程度の電圧を印加することができる。なお、角速度検出装置1は、ポーリング処理終了後、セレクタ回路43の入力を戻して、増幅回路41の出力を第1駆動電極144および第2駆動電極146に接続し、下部電極194のバイアス電圧(BIAS)の端子、またはGND端子に接続することで、通常の動作が可能になる。
【0048】
なお、図4に示す角速度検出装置1では、第1幅広部140のみ図示してあるが、第2幅広部160も同じように構成することができるので詳細な説明を繰返さない。また、図4に示す角速度検出装置1では、セレクタ回路を介すことなく増幅回路42の入力を第1検出電極148に直接接続してあるが、これに限定されるものではなく、増幅回路42の入力と第1検出電極148との間にセレクタ回路を設けてもよい。増幅回路42の入力と第1検出電極148との間にセレクタ回路を設けることで、オペアンプの仮想接地特性を用いることなく、第1検出電極148にバイアス電圧(BIAS)を確実に印加することができる。
【0049】
さらに、図4に示す角速度検出装置1では、セレクタ回路43を介して、増幅回路41の出力を、第1駆動電極144および第2駆動電極146に接続してあるが、これに限定されるものではなく、セレクタ回路を介すことなく増幅回路41の出力を、第1駆動電極144および第2駆動電極146に直接接続してもよい。なお、この場合、自発分極を生じさせる程度の電圧が圧電体142に印加されるように、増幅回路41が出力する電圧に応じて、電極端子44から下部電極194に印加する電圧を調節する必要がある。
【0050】
次に、本発明の実施の形態に係る角速度検出装置1の構造について説明する。図5は、本発明の実施の形態に係る角速度検出装置1のモールド樹脂で覆う前の構造を示す平面図である。図6は、本発明の実施の形態に係る角速度検出装置1のモールド樹脂で覆う前の構造を示す断面図である。
【0051】
図5および図6に示す角速度検出装置1は、半導体基板の一領域に振動子100を形成した振動子チップ51を、振動子が形成された領域とは異なる半導体基板の領域に電子回路を形成したASIC(Application Specific Integrated Circuit)52に積層し、振動子チップ51の電極パッドと、ASIC52の電極パッドとをワイヤ53で接続してある。なお、ASIC52と外部機器とを接続するための電極パッド55は、振動子チップ51を積層したASIC52の面と反対の面に設けてある。当該面に設けた電極パッド55に、電極端子44と電気的に接続するパッドを割当てることで、後述するように、振動子チップ51を積層したASIC52の面をモールド樹脂で覆っても、ポーリング処理を容易に行なうことができる。
【0052】
角速度検出装置1は、振動子チップ51をモールド樹脂で覆うため、振動子100を形成した領域にモールド樹脂が侵入しないように、シリコンキャップ54が設けてある。このように、本発明の実施の形態に係る角速度検出装置1は、振動子100がチップ形状(振動子チップ51)であり、振動子チップ51の振動子100を形成した領域にシリコンキャップ54を設けるので、メタルセラミックパッケージを使用することなく、製造コストが安価で、より小型化することが可能な、モールド樹脂によりパッケージが可能となる。
【0053】
図7は、本発明の実施の形態に係る角速度検出装置1のモールド樹脂で覆った後の構造を示す断面図である。図7に示す角速度検出装置1は、ASIC52の一面に、振動子チップ51を積層し、振動子チップ51の振動子100を形成した領域上にシリコンキャップ54を載置し、さらにモールド樹脂56で覆ってパッケージしている。また、角速度検出装置1は、振動子チップ51の電極パッドと、ASIC52の電極パッドとをワイヤ53で接続することで、振動子100とASIC52に形成した電子回路とを電気的に接続することができる。
【0054】
前述したように、モールド樹脂56で角速度検出装置1をパッケージする場合、モールド樹脂56で振動子チップ51を覆う際、振動子100が高温(たとえば250℃)となるため、振動子100を構成する圧電体142の自発分極が消えることがある。そのため、角速度検出装置1は、モールド樹脂56でパッケージをした後、レジスタを制御して、図4で示したセレクタ回路43をバイアス電圧(BIAS)に切替え、電極パッド55に外部電源を接続して下部電極194にたとえば−18.5V〜−28.5V程度の電圧を印加することで、圧電体142に自発分極を生じさせるポーリング処理を行なう。
【0055】
以上のように、本発明の実施の形態に係る角速度検出装置1は、モールド樹脂56でパッケージをした後であっても、振動子100の下部電極194と接続し、圧電体142に自発分極を生じさせる程度の電圧を印加することが可能な電極パッド(電極端子44と電気的に接続してあるパッド)55を備えているので、ポーリング処理を容易に行なうことができる。なお、本発明の実施の形態に係る角速度検出装置1は、モールド樹脂56でパッケージしているが、これに限られずメタルセラミックパッケージなどの他のパッケージであっても同様に、ポーリング処理を容易に行なうことができる。
【0056】
また、本発明の実施の形態に係る角速度検出装置1は、振動子100を形成した振動子チップ51と、電子回路を形成したASIC52とが異なる半導体基板に形成されているが、これに限定されるものではなく、振動子チップ51とASIC52とが同じ半導体基板に形成されてもよい。
【0057】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
1 角速度検出装置、41,42 増幅回路、43 セレクタ回路、44 電極端子、51 振動子チップ、53 ワイヤ、54 シリコンキャップ、55 電極パッド、56 モールド樹脂、100 振動子、110 基部、120 第1振動腕、130 第2振動腕、140 第1幅広部、142 圧電体、142a 第1主面、142b 第2主面、144 第1駆動電極、145,165 境界部、146 第2駆動電極、148 第1検出電極、150 第1幅狭部,170 第2幅狭部、152,154,172,174 モニタ電極、156 共通駆動電極、160 第2幅広部、164 第3駆動電極、166 第4駆動電極、168 第2検出電極、194 下部電極、196 半導体基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の一領域に形成した振動子と、
前記振動子が形成された領域とは異なる前記半導体基板の領域に形成した電子回路と
を備える角速度検出装置であって、
前記振動子は、前記半導体基板上に形成した下部電極と、前記下部電極上に形成した強誘電体層と、前記強誘電体層上に形成した上部電極とを有し、
前記電子回路は、前記振動子の前記上部電極と接続して、前記振動子に駆動信号を印加または前記振動子からの電気信号を出力する増幅回路と、
前記振動子の前記下部電極と接続して、前記強誘電体層に自発分極を生じさせる程度の電圧を印加することが可能な電極端子とを有する、角速度検出装置。
【請求項2】
前記上部電極は、駆動電極と、検出電極と有し、
前記増幅回路は、第1の増幅回路と、第2の増幅回路とを有し、
前記駆動電極は、第1のセレクタ回路を介して、前記駆動信号を増幅する前記第1の増幅回路に接続し、
前記検出電極は、前記電気信号を増幅する前記第2の増幅回路に接続し、
前記強誘電体層に自発分極を生じさせるポーリング処理を行なうとき、前記第1のセレクタ回路の入力を前記第1の増幅回路の出力からバイアス電圧に切替え、前記振動子の前記下部電極に電圧を印加する、請求項1に記載の角速度検出装置。
【請求項3】
前記検出電極は、第2のセレクタ回路を介して、前記電気信号を増幅する前記第2の増幅回路に接続し、
前記ポーリング処理を行なうとき、前記第2のセレクタ回路の出力を前記第2の増幅回路の入力から前記バイアス電圧に切替えて、前記振動子の前記下部電極に電圧を印加する、請求項2に記載の角速度検出装置。
【請求項4】
前記駆動電極および前記検出電極に対向するそれぞれの前記下部電極は、互いに電気的に接続されている、請求項2または請求項3に記載の角速度検出装置。
【請求項5】
前記下部電極と接続する前記電極端子は、電極パッドとして前記半導体基板上に形成してある、請求項2〜請求項4のいずれか1項に記載の角速度検出装置。
【請求項6】
前記振動子は、片持ち梁型振動子であり、
前記半導体基板に形成される基部と、
前記基部から延設され第1の幅を有する幅広部と、
前記幅広部から延設され前記第1の幅よりも幅が小さな第2の幅を有する幅狭部と
を有し、前記幅広部を振動させるための前記駆動信号を印加する前記駆動電極を前記幅広部に形成し、前記幅広部に形成された前記強誘電体層に生じるコリオリ力に応じた前記電気信号を検出する前記検出電極を前記幅広部に形成する、請求項2〜請求項5のいずれか1項に記載の角速度検出装置。
【請求項7】
前記振動子は、音叉型振動子であり、
前記半導体基板に形成される基部と、
前記基部から延設され第1の幅を有する第1幅広部と、
前記第1幅広部と並行して設けられ前記基部から延設される第2幅広部と、
前記第1幅広部から延設し前記第1の幅よりも小さな第2の幅を有する第1幅狭部と、
前記第2幅広部から延設し前記第2の幅を有する第2幅狭部と
を有し、前記第1幅広部及び前記第2幅広部を振動させるための前記駆動信号を印加する前記駆動電極を前記第1幅広部及び前記第2幅広部に形成し、前記第1幅広部に形成された前記強誘電体層に生じるコリオリ力に応じた前記電気信号を検出する第1の前記検出電極を前記第1幅広部に形成し、前記第2幅広部に形成された前記強誘電体層に生じるコリオリ力に応じた前記電気信号を検出する第2の前記検出電極を前記第2幅広部に形成する、請求項2〜請求項5のいずれか1項に記載の角速度検出装置。
【請求項8】
前記半導体基板は、前記振動子を形成した領域上にキャップを載置し、前記キャップおよび前記電子回路をモールド樹脂で覆う、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の角速度検出装置。
【請求項9】
半導体基板の一領域に形成した振動子と、
前記振動子が形成された領域とは異なる前記半導体基板の領域に形成した電子回路と
を備え、前記振動子は、前記半導体基板上に形成した下部電極と、前記下部電極上に形成した強誘電体層と、前記強誘電体層上に形成した上部電極とを有し、
前記電子回路は、前記振動子の前記上部電極と接続して、前記振動子に駆動信号を印加または前記振動子からの電気信号を出力する増幅回路と、
前記振動子の前記下部電極と接続して、前記強誘電体層に自発分極を生じさせる程度の電圧を印加することが可能な電極端子とを有する角速度検出装置の製造方法であって、
前記振動子を形成した領域上にキャップを載置した後、前記キャップおよび前記電子回路をモールド樹脂で覆い、
前記電極端子に電圧を印加して、前記強誘電体層に自発分極を生じさせるポーリング処理を行なう、角速度検出装置の製造方法。
【請求項10】
前記上部電極は、駆動電極と、検出電極とを有し、
前記増幅回路は、第1の増幅回路と、第2の増幅回路とを有し、
前記駆動電極は、第1のセレクタ回路を介して、前記駆動信号を増幅する前記第1の増幅回路に接続し、
前記検出電極は、前記電気信号を増幅する前記第2の増幅回路に接続し、
前記ポーリング処理を行なうとき、前記第1のセレクタ回路の入力を前記第1の増幅回路の出力からバイアス電圧に切替える、請求項9に記載の角速度検出装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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