説明

解体紛じん飛散抑止方法

【課題】解体作業性を損なう事が無く解体粉じんの飛散を抑止でき、また、散水への粉じん飛散抑制剤の添付による洗い落としや集塵吸引を行う事をせずに、空気中に漂う粉じんの回収を行うことが可能な解体粉じん飛散抑止方法を提供する。
【解決手段】解体対象建屋6の周囲をボイド8を存して仮囲い7で囲繞し、かつ、仮囲い7の高さを解体対象建屋6をある程度超える高さとして、上端を風の取入れ開口9として形成し、開口9からボイド内に誘引流を引き込み、建屋の解体に伴い発生した粉じんを誘引流によりボイド内に留める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設分野において、建築物解体工事の際に発生する粉じん飛散抑止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既存建設物の解体工事を行う場合、通常、屋上部分からの解体となるが、図6に示すように、粉じんが発生する。
【0003】
この既存建設物の解体工事に伴い発生する粉じんを抑制する手段として、従来、以下の技術が適用されている。
(1)放水銃による通常散水
一般的な粉じん発生抑制手法で、表土や解体部材を湿らせる事で粉じんの飛散を抑える。
下記特許文献もその一つであり、図7に示すように、圧砕機1の旋回軸受中心部に配置しているスイベルジョイント2にその内部を通る給水通過穴を開穿し、またその給水通過穴の下流側端部に散水ノズル3を配置し、給水源からの水を上記給水通過穴及び散水ノズル3を通じて圧砕機1の内側より圧砕機1用ロッカビーム周辺に向けて散水せしめるようにした。また、散水の開始及び停止を操作するストップバルブ4の操作部を建設機械の運転室5内部に配置した。
【特許文献1】実開平5−58758号公報
【0004】
この特許文献1によれば、散水ノズル3から放出する水を、圧砕機1が圧砕を行う箇所に対し自動的に追随して、確実な散水を行うことができる。また散水の開始及び停止を操作するストップバルブ4の操作部を運転室内部に配置したので、運転者が運転室に居て判断し、所要に応じて操作できるから非常に便利である。したがって圧砕作業時における省力と粉じん発生防止に十分な効果を発揮することができる。
【0005】
(2)霧状散水
霧状に散水する事により、粉じんとの接触面積を増やし、洗い落とし効果を向上させる。
【0006】
(3)防塵ネット
ネットによる空気抵抗により風速を減速させ、堆積粉じんが舞い上がる量を低減する。
下記特許文献は、このような防塵ネットの使用した飛散防止装置として、建物の構造部分に支持され前記建物の側面に沿って前記建物の上端よりも上方に突出するように配置される複数のネット保持部と、前記建物の上端よりも上方の位置において前記複数のネット保持部に保持され、前記建物の上面を覆う防護ネットと、を備え、前記複数のネット保持部は、互いに独立して前記建物に対して鉛直方向に移動可能であることを特徴とするものである。
【特許文献2】特開2011−17230号公報 この特許文献2によれば、建物の工事中において上面側からの飛散物を防護ネットによって防止することができ、また、ネット保持部は鉛直方向に移動可能であるので、建物上面から上方の防護ネットまでの高さを調整することができ、建物上面における工事作業空間の高さを適切に調整することができる。また、領域毎の工事の進行状況に合わせて、こまめに各領域の防護ネットの高さ調整作業を行うことができる。
【0007】
(4)粉じん凝固剤の散布
堆積粉じんや土砂の表面を凝固させ、風による舞い上がりを抑制する。
(5)粉じん飛散抑制剤の散水への添加
界面活性剤等を散水に添加する事により、水と粉じんとのなじみを向上させ、洗い落とし性能の向上をはかるものである。
(6)解体作業空間の密閉化
仮設パネル等で作業空間を密閉化させる事で、敷地外への粉じん飛散を最小限化させる。
(7)集塵機
粉じん発生箇所付近に集塵機ないし吸気ダクトを設置する事により、発生した粉じんを飛散する前に回収する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記(1)〜(7)の従来の手段では次のような問題がある。
(1)放水銃による通常散水では、表土や解体部材を湿らせる事で堆積粉じんの飛散を抑制する事は出来るが、コンクリートなどの部材を解体させる時は、中まで水が染み込まない為に粉じん発生は免れず、強風時には部材まで届かない可能性がある。洗い落とし効果は、粉じんとの接触面が限られる事から殆ど期待できない。
(2)霧状散水は洗い落とし効果を向上させる事が出来るが、放水銃以上に風の影響を受けやすく、また放水銃と同様に常に操作者が解体箇所に放水し続けなければならない。
(3)防塵ネットは堆積粉じんが舞い上がる量を低減する事は可能であるが、一度発生した粉じんを敷地内に留まらせる効果は殆ど無く、破壊作業等で空気中に飛散した粉じんに対しては効果が低い。
(4)粉じん凝固剤の散布は、堆積粉じんの飛散防止にはなるが、コンクリート等の破壊作業では粉じん発生を抑制出来ない。
(5)粉じん飛散抑制剤の散水への添加は、洗い落とし性能の向上を図る事が出来るが設備投資のコスト上昇を招く。また、他の散水と同様、強風時には効果が低くなる。
(6)解体作業空間の密閉化は、敷地外への粉じん飛散を最小限化させる事が出来るが、コストの向上や使用する重機の大きさの制約、密閉化による作業環境の悪化を招く。
(7)集塵機や吸気ダクトの場合、送気とは違い吸気面全面から空気を吸う為に、粉じん発生源ごく近傍に吸気口を設置しないと意味がなく、また装置が大掛かりになる傾向にあり解体現場では装置の取り回しに大きな制約が生じる。
【0009】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、解体作業性を損なう事が無く解体粉じんの飛散を抑止でき、また、散水への粉じん飛散抑制剤の添付による洗い落としや集塵吸引を行う事をせずに、空気中に漂う粉じんの回収を行うことが可能な解体粉じん飛散抑止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、請求項1記載の本発明は、解体対象建屋の周囲をボイドを存して仮囲いで囲繞し、かつ、仮囲いの高さを解体対象建屋をある程度超える高さとして、上端を風の取入れ開口として形成し、開口からボイド内に誘引流を引き込み、建屋の解体に伴い発生した粉じんを誘引流によりボイド内に留めることを要旨とするものである。
【0011】
請求項1記載の本発明によれば、解体対象建屋と仮囲いの間に「ボイド(隙間)」を設ける形で建屋周囲を覆い、かつ仮囲いの高さを建屋ある程度超える形で設置する事で、ボイド内で通風可能な状態を作る。その際、周囲のボイド間を開口で接続し通風可能な状態にする。
【0012】
建屋高さ近傍で風が吹く事により、建屋上部から貼り出した仮囲いの風上で正圧、風下で負圧となる圧力差が生じる。その結果、建屋の風下側でボイド内に流れを引き込む誘引流が生じる。建屋の解体に伴い発生した粉じんは、風下側の誘引流によりボイド内に引き込まれ、敷地内に留まる形となる。
【0013】
建屋高さ位置に吹く風が強い場合はボイド内への誘引流が強まるため、風の乱れによる敷地外への飛散に対抗する形となり、風速によらず安定的な「ボイド内への誘引効果」が期待出来る。
【0014】
基本的には従来の仮囲いの形状を工夫すれば良く、これにより解体作業性を損なう事は無い。また、散水への粉じん飛散抑制剤の添付による洗い落としや集塵吸引を行う事無く、空気中に漂う粉じんの回収を行う事が出来る。
【0015】
請求項2記載の本発明は、仮囲い上端に開口内側に向け、張り出し部を形成することを要旨とするものである。
【0016】
請求項2記載の本発明によれば、張り出し部と解体対象建家の屋上高さとの間に2〜3m程度の「風受け」空間を設けることができ、これにより、確実に風を引き込み、誘引流を惹起させることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように本発明の解体粉じん飛散抑止方法は、解体作業性を損なう事が無く解体粉じんの飛散を抑止でき、また、散水への粉じん飛散抑制剤の添付による洗い落としや集塵吸引を行う事をせずに、空気中に漂う粉じんの回収を行うことが可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の解体粉じん飛散抑止方法の1実施形態を示す縦断側面図、図2は同上平面図、図3は同上斜視図で、図中6は解体対象建屋を示す。
【0019】
解体対象建屋6の周囲を仮囲い7で囲繞するが、その際、仮囲い7と解体対象建屋6との間に2〜3m程度のボイド(隙間)8を建屋周囲に設ける。仮囲い7を形成する部材自体には特別な工夫は必要無く、ボイド8を設定出来るものであれば、パネルやシートでも問題無い。
【0020】
また、仮囲い7の高さを解体対象建屋6をある程度超える高さ、例えば建屋高さから3メートル程度張り出す状態として、上端を風の取入れ開口9として形成した。
【0021】
仮囲い7の上端には、1m程度の横向きの庇状の張り出し部10を開口9内側に向けて形成して、張り出し部10と解体対象建家6の屋上高さとの間に2〜3m程度の「風受け」空間を設ける。
【0022】
なお、通風を確保する為、解体対象建屋6の各側面にある前記ボイド(隙間)8は区切らない。
【0023】
このようにして、解体対象建屋6と仮囲い7の間のボイド(隙間)8は、通風可能な状態となり、建屋高さ近傍で風が吹く事により、建屋上部から貼り出した仮囲い7の風上で正圧、風下で負圧となる圧力差が生じ、その結果、建屋の風下側でボイド8内に流れを引き込む誘引流が生じる。
【0024】
この誘引流はボイド8により解体対象建屋6の周囲の循環流となって下降するが、建屋の解体に伴い発生した粉じんは、風下側の誘引流によりボイド8内に引き込まれ、敷地内に留まる。
【0025】
建屋高さ位置に吹く風が強い場合はボイド8内への誘引流が強まるため、風の乱れによる敷地外への飛散に対抗する形となり、風速によらず安定的な「ボイド内への誘引効果」が期待出来る。
【0026】
仮囲い7は従来の形状を工夫すれば良く、また、仮囲い7を設けることで解体作業性を損なう事は無い。
【0027】
また、基本的には仮囲い7に粉じんを溜まらせるような強い循環流が生じることで粉じんを沈降させるので、散水への粉じん飛散抑制剤の添付による洗い落としや集塵吸引を行う事無く、空気中に漂う粉じんの回収を行う事が出来る。
【0028】
さらに他の実施形態として、図4に示すように、仮囲い7の中部ないし下部にて水11を噴霧させてもよく、この水11の噴霧により効果的に除去することが出来る。
【0029】
これは、ボイド内では粉じんの循環経路が長い故に粉じんがよく混合する為で、通常の散水より洗い落とし性能が高まる。
【0030】
また、図4に示すように、仮囲い7の下部に集じん機12を置いても効果的に粉じんを回収できる。
【0031】
図5は、CFD(数値流体力学)解析による粉じん飛散抑制ボイドの効果検討を示すもので、下記表1の結果が得られた。
【表1】

【0032】
上記表1からもわかるように、粉じん飛散抑制ボイドの適用によって、一般的な風速条件において48〜74%の粉じんが敷地内に溜まる結果が得られた。
【0033】
このように、解体作業に伴いその粉じんが、風によって建屋下流に運ばれ、「ボイド」内へ誘引される。その結果、敷地外への飛散量が、通常の仮囲いと比較してある程度の割合(場合によっては7割以上)で抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の解体粉じん飛散抑止方法の1実施形態を示す縦断側面図である。
【図2】本発明の解体粉じん飛散抑止方法の1実施形態を示す平面図である。
【図3】本発明の解体粉じん飛散抑止方法の1実施形態を示す斜視図である。
【図4】本発明の解体粉じん飛散抑止方法の他の実施形態を示す斜視図である。
【図5】本発明の解体粉じん飛散抑止方法の効果検討結果を示す説明図である。
【図6】解体粉じん発生の説明図である。
【図7】従来例の1つを示す説明図である。
【符号の説明】
【0035】
1…圧砕機 2…スイベルジョイント
3…散水ノズル 4…ストップバルブ
5…運転室 6…解体対象建屋
7…仮囲い 8…ボイド(隙間)
9…開口 10…張り出し部
11…水 12…集じん機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
解体対象建屋の周囲をボイドを存して仮囲いで囲繞し、かつ、仮囲いの高さを解体対象建屋をある程度超える高さとして、上端を風の取入れ開口として形成し、開口からボイド内に風を誘引流として引き込み、建屋の解体に伴い発生した粉じんを、誘引流によりボイド内に留めることを特徴とした解体粉じん飛散抑止方法。
【請求項2】
仮囲い上端に開口内側に向け、張り出し部を形成する請求項1記載の解体粉じん飛散抑止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−79507(P2013−79507A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219115(P2011−219115)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】