説明

解析装置、評価装置、解析方法および評価方法

【課題】溶接変形及び残留応力の解析が簡易で、かつ評価精度を向上する解析装置を提供する。
【解決手段】この解析装置1は、溶接部の部材の材料物性、溶接入熱、継手形状、溶接速度、開先形状、板厚、溶接パス数に基づいて溶接部の二次元熱弾塑性解析を行い、二次元モデルにおける前記溶接部の平面での第1固有ひずみの分布を求める解析手段2と、求めた二次元モデルにおける第1固有ひずみ分布を三次元モデルにおける溶接線中心で溶接線と直交する断面での第1固有ひずみ分布に変換する変換手段3と、変換した三次元モデルにおける第1固有ひずみの分布に基づいて溶接線長手方向の第2固有ひずみ分布を出力する出力手段4と、第1固有ひずみ分布と第2固有ひずみ分布とに基づいて固有ひずみ法を用いた三次元モデルの弾性解析を行い、構造物の溶接変形や残留応力を求める弾性解析手段5と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、構造物に発生する溶接変形や残留応力を解析、評価する解析装置、評価装置、解析方法および評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
解析方法としては、有限要素法(Finite Element Method:以下「FEM」という)を用いた熱弾塑性解析を行って、溶接時の構造物に発生する溶接変形や溶接後の構造物に残留する残留応力を評価するもの、また構造物の固有ひずみ等の概念を用いて弾性解析で簡易的に、溶接時の構造物に発生する溶接変形や溶接後の構造物に残留する残留応力を評価するものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−250829号公報
【特許文献2】特開平6−186141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、現状の装置では、構造物の溶接変形及び残留応力を評価することは現実的には困難であった。すなわち、このような装置では、三次元熱弾塑性解析を行うためにその計算量が多くなって構造物の溶接変形や残留応力の評価に多大な時間が必要になって、構造物の形状が複雑になるほど評価が困難になったり、また実際の構造物の固有ひずみ分布等を考慮せずに代表的な固有ひずみのみを用いた弾性解析を行うので、実際の構造物の評価精度が低くなって正しい評価が困難となっていた。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、溶接変形及び残留応力の解析が簡易で、かつ評価精度を向上することのできる解析装置、評価装置、解析方法および評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の解析装置は、入力される構造物の溶接部の被溶接部材および溶接部材の材料物性、溶接入熱、前記溶接部の継手形状、溶接速度、前記溶接部の開先形状、板厚、溶接パス数に基づいて、前記溶接部の二次元の熱弾塑性解析を行い、前記溶接部の溶接線方向に均一に入熱がある場合の二次元モデルにおける前記溶接部の平面での第1固有ひずみの分布を求める二次元熱弾塑性解析手段と、前記求められた二次元モデルにおける前記第1固有ひずみの分布を、前記溶接線の中心で入熱がある場合の三次元モデルにおける前記溶接線の中心で前記溶接線と直交する断面での第1固有ひずみの分布に変換する固有ひずみ変換手段と、前記変換された三次元モデルにおける前記第1固有ひずみの分布に基づいて、前記溶接部の溶接線の長手方向の第2固有ひずみの分布を出力する固有ひずみ分布出力手段と、前記求められた第1固有ひずみの分布と前記出力された第2固有ひずみの分布とに基づいて、固有ひずみ法を用いた三次元モデルの固有ひずみ法弾性解析を行い、前記構造物の溶接変形や残留応力を求める固有ひずみ法弾性解析手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
また、実施形態の評価装置は、上記記載の解析装置と、入力された構造物の拘束の強さ、溶接部の被溶接部材および溶接部材の材料物性、溶接パス数、継手形状、板厚、入熱、開先形状、溶接材料に基づいて、構造物の溶接変形や残留応力を評価する評価手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、実施形態の解析方法は、二次元熱弾塑性解析手段が、入力される前記構造物の溶接部の被溶接部材および溶接部材の材料物性、溶接入熱、前記溶接部の継手形状、溶接速度、前記溶接部の開先形状、板厚、溶接パス数に基づいて、前記溶接部の二次元の熱弾塑性解析を行い、前記溶接部の溶接線方向に均一に入熱がある場合の二次元モデルにおける前記溶接部の平面での第1固有ひずみの分布を求めるステップと、固有ひずみ変換手段が、前記求められた二次元モデルにおける前記第1固有ひずみの分布を、前記溶接線の中心で入熱がある場合の三次元モデルにおける前記溶接線の中心で前記溶接線と直交する断面での第1固有ひずみの分布に変換するステップと、固有ひずみ分布出力手段が、前記変換された三次元モデルにおける前記第1固有ひずみの分布に基づいて、前記溶接部の溶接線の長手方向の第2固有ひずみの分布を出力するステップと、固有ひずみ法弾性解析手段が、前記求められた第1固有ひずみの分布と前記出力された第2固有ひずみの分布とに基づいて、固有ひずみ法を用いた三次元モデルの固有ひずみ法弾性解析を行い、前記構造物の溶接変形や残留応力を求めるステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、実施形態の評価方法は、二次元熱弾塑性解析手段が、入力される前記構造物の溶接部の被溶接部材および溶接部材の材料物性、溶接入熱、前記溶接部の継手形状、溶接速度、前記溶接部の開先形状、板厚、溶接パス数に基づいて、前記溶接部の二次元の熱弾塑性解析を行い、前記溶接部の溶接線方向に均一に入熱がある場合の二次元モデルにおける前記溶接部の平面での第1固有ひずみの分布を求めるステップと、固有ひずみ変換手段が、前記求められた二次元モデルにおける前記第1固有ひずみの分布を、前記溶接線の中心で入熱がある場合の三次元モデルにおける前記溶接線の中心で前記溶接線と直交する断面での第1固有ひずみの分布に変換するステップと、固有ひずみ分布出力手段が、前記変換された三次元モデルにおける前記第1固有ひずみの分布に基づいて、前記溶接部の溶接線の長手方向の第2固有ひずみの分布を出力するステップと、固有ひずみ法弾性解析手段が、前記求められた第1固有ひずみの分布と前記出力された第2固有ひずみの分布とに基づいて、固有ひずみ法を用いた三次元モデルの固有ひずみ法弾性解析を行い、前記構造物の溶接変形や残留応力を求めるステップと、評価手段が、入力された前記構造物の拘束の強さ、前記溶接部の被溶接部材および溶接部材の材料物性、溶接パス数、継手形状、板厚、入熱、開先形状、溶接材料に基づいて、前記構造物の溶接変形や残留応力を評価するステップと、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶接変形及び残留応力の解析が簡易で、かつ評価精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態の溶接変形、溶接残留応力の解析装置の概念を説明するための概念図である。
【図2】構造物の二次元熱弾塑性解析モデルの一例を示す図である。
【図3】構造物の三次元有限要素モデルを示す図である。
【図4】本発明の一実施形態の溶接変形、溶接残留応力の解析装置の構成を示す構成ブロック図である。
【図5】溶接線の中心からのX−Y方向の断面の固有ひずみ分布の一例を示す図である。
【図6】溶接部の継手形状、溶接入熱、溶接部の板厚、溶接速度、溶接パス数の組み合わせに基づく補正係数の一例を示す図である。
【図7】分布DBに記憶された溶接部の溶接線方向の中心での固有ひずみ分布の一例を示す図である。
【図8】固有ひずみ分布抽出部によって抽出された固有ひずみ値の分布データの一例を示す図である。
【図9】三次元固有ひずみ法弾性解析の結果を示す図である。
【図10】解析装置による溶接変形や残留応力の解析を説明するためのフローチャートである。
【図11】本発明の実施形態2の溶接変形、溶接残留応力の解析装置の概念を説明するための概念図である。
【図12】実施形態2における溶接線の中心からのX軸方向の固有ひずみ分布の一例を示す図である。
【図13】本発明の実施形態3の溶接変形、溶接残留応力の解析装置の概念を説明するための概念図である。
【図14】実施形態3における溶接線の長手方向の固有ひずみ分布の一例を示す図である。
【図15】解析された溶接変形、溶接残留応力を評価する評価装置の概念を説明するための概念図である。
【図16】評価装置による溶接変形や残留応力の評価を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態の概念)
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態の溶接変形、溶接残留応力の解析装置の概念を説明するための概念図である。図2は、構造物の二次元熱弾塑性解析モデルの一例を示す図である。図3は、構造物の三次元有限要素モデルを示す図である。
【0013】
まず、図1〜図3を用いて実施形態の概念について説明する。
図1に示すように、この解析装置1は、FEMを用いた解析を行う二次元熱弾塑性解析手段2、二次元の固有ひずみを三次元の固有ひずみに変換する固有ひずみ変換手段3、三次元の固有ひずみ分布を出力する固有ひずみ分布出力手段4、固有ひずみ法を用いた解析を行う三次元固有ひずみ法弾性解析手段5、三次元の溶接変形や残留応力を出力する溶接変形・残留応力出力手段6とから構成されている。
【0014】
図2に示すように、二次元熱弾塑性解析モデル20は、構造物の溶接部21と母材22,22を有限要素モデルとしてモデル化しており、要素として一般化平面ひずみ要素を用いる。このような有限要素モデルは、X軸−Y軸(以下、「X−Y」という)平面上にモデル化されており、Z軸方向は入熱が均一あると仮定されている。
【0015】
すなわち、一般化平面ひずみ要素は、図3に示す溶接線Z0方向に十分に長い三次元弾性解析モデル30で考えた場合、溶接部21の溶接線Z0の中心で溶接線Z0と直交する平面31での応力・ひずみ状態に近いものとなる。二次元熱弾塑性解析手段2は、この溶接線Z0の中心Sで溶接線Z0と直交する平面31に発生する固有ひずみとほぼ等しいX−Y方向の断面の固有ひずみを得るものである。なお、入熱は、溶接線Z0の中心Sに行った場合である。
【0016】
さらに、この二次元熱弾塑性解析で得られた固有ひずみを、固有ひずみ変換手段3が三次元解析用の固有ひずみの基本データ(以下、「基本固有ひずみ」という)に変換し、この基本固有ひずみの分布をもとに、固有ひずみ分布出力手段4が溶接線Z0の長手方向の三次元弾性解析用の固有ひずみ(以下、「溶接線固有ひずみ」という)分布を求める。
【0017】
そして、この求めた三次元解析用の基本固有ひずみ分布と溶接線固有ひずみ分布をもとに、三次元固有ひずみ法弾性解析手段5が三次元の固有ひずみ法弾性解析を行って、構造物の溶接変形や残留応力を求め、溶接変形・残留応力出力手段6がこの求めた溶接変形の変位成分や残留応力の応力成分を出力するものである。
【0018】
ここで、X−Y断面の基本固有ひずみ分布、Z軸方向の溶接線固有ひずみ分布が三次元的に得られたので、三次元固有ひずみ法弾性解析手段5においては、この三次元的分布を有する固有ひずみを弾性ひずみとして三次元弾性解析モデルの初期条件に入力して弾性解析を行う。このように、固有ひずみを弾性ひずみとして弾性解析モデルに与える計算手法には、例えば固有ひずみ法がある。この固有ひずみ法を用いた三次元固有ひずみ法弾性解析手段5により求められた弾性解析結果は、溶接変形・残留応力出力手段6によって溶接変形の変位成分や残留応力の応力成分として出力される。
【0019】
(実施形態1)
図4は本発明の一実施形態の溶接変形、溶接残留応力の解析装置10の構成を示す構成ブロック図である。
【0020】
図4に示すように、構造物の溶接変形や残留応力を解析、評価する解析装置10は、データ入力を行うデータ入力部11、FEMによる二次元熱弾塑性解析を行う二次元熱弾塑性解析部12、後述する条件のデータに基づく分布データを記憶する分布データベース(以下、「分布DB」という)13、後述する条件のデータに基づく補正係数を記憶する補正係数データベース(以下、「補正係数DB」という)14、補正係数DB14から所定の補正係数を抽出する補正係数抽出部15、二次元の固有ひずみを三次元の固有ひずみに変換する固有ひずみ変換部16、三次元弾性解析用の固有ひずみを抽出する固有ひずみ分布抽出部17、固有ひずみ法を用いた三次元固有ひずみ法弾性解析を行う三次元弾性解析部18、解析された溶接変形や残留応力を出力する出力部19、溶接変形の変位成分や残留応力の応力成分を表示する表示部25を備える。
【0021】
この実施形態の解析装置10は、分布DB13、補正係数DB14に記憶されたデータに基づいて解析対象となる構造物の溶接変形や残留応力を解析する。
なお、解析対象としては、たとえばガスタービン機器のケーシング部およびロータの溶接部などの他、一般の構造物の溶接部等も対象とする。
【0022】
図4に示すデータ入力部11は、たとえばユーザによって設定された図示しない構造物の溶接部の被溶接部材(例えば図2の母材22,22に相当)および溶接部材(例えば図2の溶接部材23に相当)の材料物性、溶接入熱、溶接部の継手形状、溶接速度、溶接部の開先形状、板厚、溶接パス数の解析に必要な条件のデータを入力する。なお、このデータ入力とは、コンピュータ支援設計システム(computer aided design:CAD)を用いて上記のデータからなる図2および図3のモデルをコンピュータ内に作成処理して設計することも含まれる。
【0023】
ここで、材料物性とは、母材22,22および溶接部材23の弾性係数、熱伝導率、熱膨張係数などのデータである。
溶接入熱とは、溶接部の溶接を行うレーザのレーザ出力である。
溶接部の継手形状とは、たとえば突合せ継手、T継手、十字継手などの継手形状の条件である。
溶接速度とは、レーザ光の移動速度である。
開先形状とは、たとえばV形、I形などの溶接を行う母材22,22間に設ける溝の形状である。
板厚は、母材22,22の厚さ(図2のY軸方向の厚さ)である。
溶接パスとは、例えば多層溶接等で溶接部21に溶接される溶接部材23の積層数である。
【0024】
図4に示す二次元熱弾塑性解析部12は、データ入力部11から入力した溶接部21の被溶接部材22,22および溶接部材23の材料物性、溶接入熱、溶接部21の継手形状の条件、溶接速度、溶接部21の開先形状、板厚、溶接パス数の組み合わせに基づいて、FEMによる二次元熱弾塑性解析を行って、二次元のX−Y方向の固有ひずみ値(図3に示す溶接線Z0方向と直交し、溶接線Z0の中心を含む平面31に発生する二次元の固有ひずみ値)の分布を算出する。
データ入力部11および二次元熱弾塑性解析部12は、図1に示した二次元弾塑性解析手段2を構成する。
【0025】
図5は、溶接線Z0の中心からのX−Y方向の断面の固有ひずみ分布の一例を示す図であり、◆印が三次元熱弾塑性解析を行った場合を示し、◇印が二次元熱弾塑性解析を行った場合を示す。
【0026】
図5では、横軸が入熱した溶接線Z0の中心S(図3参照)からの距離(X軸方向)を示す。縦軸がある構造物に対する二次元熱弾塑性解析と三次元熱弾塑性解析とによる固有ひずみ値を示し、溶接線Z0の中心Sの固有ひずみ値、◆印では「1」、◇印では「0.9」を基準とした比で固有ひずみの分布を表している。なお、図5では、入熱した溶接線Z0の中心SからのX軸のプラス(例えば図2に示した紙面の右)方向の距離での固有ひずみの分布データを示したが、マイナス(例えば図2に示した紙面の左)方向の距離での固有ひずみの分布データも同様の値の分布をしている。
【0027】
この図5の固有ひずみ分布は代表例であるが、相対的に二次元熱弾塑性解析と三次元熱弾塑性解析との固有ひずみ分布は分布の形状がほぼ同様で、溶接線Z0の中心Sに近づくほど一定の割合で固有ひずみ値の差が大きくなる傾向にある。
【0028】
そこで、二次元熱弾塑性解析部12で算出された固有ひずみ分布に所定の補正係数を乗算することで、二次元熱弾塑性解析の固有ひずみ分布を三次元熱弾塑性解析の固有ひずみ分布に一致させることが可能となる。
また、この補正係数を決定するデータとしては、入力データのうちの溶接部の継手形状、溶接入熱、溶接部の板厚、溶接速度、溶接パス数の組み合わせが上述した条件のデータとなるものである。
【0029】
図4に示す補正係数DB14は、上述した条件のデータ、すなわち上記の入力データのうちの溶接部の継手形状、溶接入熱、溶接部の板厚、溶接速度、溶接パス数の組み合わせに基づく補正係数を記憶する。
【0030】
図6は、この溶接部の継手形状、溶接入熱、溶接部の板厚、溶接速度、溶接パス数の組み合わせに基づく補正係数の一例を示す図である。この図6では、溶接部の継手形状が「突合せ継手」で、溶接入熱が「800(J/cm)」で、溶接部の板厚dが「15(mm)」で、溶接速度が「5(mm/s)」で、溶接パス数が「3」の組み合わせの時の補正係数が「1.2」であることを示している。
【0031】
なお、継手形状の種類としては、例えば「突合せ継手」、「T継手」が設定されている。また、入熱の種類としては、例えば「500(J/cm)」から100(J/cm)おきに「1500(J/cm)」までが設定されている。また、板厚の種類としては、例えば「5(mm)」から5(mm)おきに「50(mm)」までが設定されている。また、溶接速度の種類としては、例えば「1(mm/s)」から1(mm/s)おきに「10(mm/s)」までが設定されている。また、溶接パス数の種類としては例えば「1」、「3」、「6」、「10」が設定されている。補正係数DB14には、これらのデータの組み合わせに基づいて予め設定された補正係数が記憶されている。
【0032】
図4に示す補正係数抽出部15は、データ入力部11から入力した溶接部の継手形状、溶接入熱、溶接部の板厚、溶接速度、溶接パス数の組み合わせに基づいた補正係数を補正係数DB14から抽出することができる。
【0033】
図4に示す固有ひずみ変換部16は、二次元熱弾塑性解析部12で解析された二次元の固有ひずみ値(図5参照)に、補正係数抽出部15で抽出された補正係数を乗算することで、二次元の固有ひずみ値の分布データを三次元の基本固有ひずみ値の分布データに変換している。
補正係数DB14、補正係数抽出部15および固有ひずみ変換部16は、図1に示した固有ひずみ変換手段3を構成する。
【0034】
図4に示す分布DB13は、固有ひずみ変換部16で変換された三次元の基本固有ひずみ値、溶接部の継手形状、溶接長、溶接方向および拘束の度合いの条件のデータの組み合わせに基づいた溶接線Z0の長手方向の三次元弾性解析用の溶接線固有ひずみ値の分布データを複数記憶するデータベースである。これら三次元弾性解析用の固有ひずみ値の分布データとしては、三次元の固有ひずみ値(図5参照)、溶接部の継手形状、溶接長、溶接方向および拘束の度合いの条件のデータの組み合わせに基づく、固有ひずみ値の分布の変化を求め、この求めた固有ひずみ値の分布データをデータベース化しておく。
【0035】
図7は、分布DB13に記憶された溶接部の溶接線Z0の長手方向(図3参照)の三次元弾性解析用の溶接線固有ひずみ分布の一例を示す図であり、◆印がマイナス(図中、−1000(mm))方向からプラス(図中、+1000(mm))方向に溶接を行った場合の固有ひずみ分布を示し、◇印がプラス(図中、+1000(mm))方向からマイナス(図中、−1000(mm))方向に溶接を行った場合の固有ひずみ分布を示す。また、縦軸は、溶接線中心Sの固有ひずみ値、◆印、◇印ともに「1」を基準とした比で固有ひずみの分布を表している。
【0036】
この図7の溶接線固有ひずみ分布は代表例であるが、相対的に溶接部の溶接線Z0の長手方向での固有ひずみ分布は、分布の形状が同様の逆U字形状になる傾向にある。
この弾性解析用の溶接線固有ひずみ値の分布データは、予め上記条件のデータの組み合わせで複数計測された三次元の分布データを、分布DB13にそれぞれ上記条件の組み合わせに基づいて求め、この条件の組み合わせに対応させて記憶させている。
【0037】
なお、この三次元弾性解析用の溶接線固有ひずみ値の分布データは、縦軸が固有ひずみ値で、横軸が溶接線Z0(図3参照)の中心Sからの距離で、入熱された溶接線Z0の中心Sを「0」として、溶接方向がプラス(例えば図3に示した紙面の前)方向とマイナス(例えば図3に示した紙面の後)方向を示している。この弾性解析用の固有ひずみ値の分布データでは、同じ溶接部の継手形状、溶接長、溶接方向および構造物の拘束の強さの条件のデータの組み合わせでも、図7に示すように、溶接方向が、マイナス方向からプラス方向に溶接した場合と、プラス方向からマイナス方向に溶接した場合とでは、固有ひずみ値の分布が異なるので、この溶接方向が異なる両方の場合を予め求めて分布DB13にそれぞれ記憶させておく。
【0038】
ここで、溶接長とは、レーザのレーザ光によって溶接部に溶接を行う長さである。
溶接方向とは、上述した溶接線Z0を「0」としてプラス方向からマイナス方向に溶接を行う場合と、マイナス方向からプラス方向に溶接を行う場合を示すものである。
構造物の拘束の強さとは、例えば図3に示した母材22,22を1箇所で固定するか、数箇所で固定するか等の強さを示すものである。
【0039】
これらの条件のデータは、データ入力部11によって入力指示されている。なお、これらの条件データは、上述した材料物性等の条件のデータとともに、解析の開始時に入力されてもよいし、固有ひずみ値の分布データ抽出時に入力されてもよい。
図4に示す固有ひずみ分布抽出部17は、三次元の固有ひずみ値(図5参照)、溶接部の継手形状、溶接長、溶接方向および拘束の強さの条件のデータの組み合わせに基づいて、分布DB13から対応する分布データを抽出している。すなわち、この実施形態では、このような条件のデータ(パラメータ)の違いを考慮した固有ひずみ値の分布データを求めることができる。分布DB13および固有ひずみ分布抽出部17は、図1に示した固有ひずみ分布出力手段4を構成する。
【0040】
図8は、固有ひずみ分布抽出部17によって抽出された溶接部の溶接線Z0方向(図3参照)の中心で入熱がある場合の溶接線Z0方向の中心での三次元の弾性解析用の固有ひずみ値の分布データの一例を示す図である。
図8に示す分布データは、縦軸が固有ひずみ値で、横軸が溶接線Z0(図3参照)の中心Sからの距離で、例えば溶接線Z0の中心Sをプラス(例えば図3に示した紙面の前)方向からマイナス(例えば図3に示した紙面の後)方向へと溶接する場合の分布データである。この例の分布データは、溶接線の中心で溶接始点(距離1000(mm))の固有ひずみ値を約0.25とし、距離約400(mm)〜−400(mm)間の固有ひずみ値を1とし、溶接終点(−1000(mm))の固有ひずみ値を0.1とする逆U字形状に示されている。
【0041】
図4に示す三次元弾性解析部18は、固有ひずみ変換部16で変換された三次元の基本固有ひずみ値と、固有ひずみ分布抽出部17で抽出された三次元の溶接線固有ひずみ値(図8参照)に基づいて、FEMでの三次元固有ひずみ法弾性解析を行って構造物の溶接変形や溶接残留応力を求める。三次元弾性解析部18は、図1に示した三次元固有ひずみ法弾性解析手段5を構成する。
【0042】
図9は、三次元固有ひずみ法弾性解析の結果を示す図である。この図9は、解析結果を三次元有限要素モデル30として表している。
図4に示す溶接変形・残留応力出力部19は、三次元固有ひずみ法弾性解析の結果から三次元有限要素モデル30を生成して出力する。すなわち、溶接変形・残留応力出力部19は、解析結果である構造物の溶接変形の変位成分や溶接残留応力の応力成分による三次元有限要素モデル30(図9参照)を生成して出力する。なお、この三次元有限要素モデル30では、溶接に伴って溶接部21に発生した残留応力により、母材22,22のそれぞれの端部(溶接線Z0の中心から紙面の右側と左側の母材の端部)がY軸の矢印方向に曲がり、くの字に変形した状態を示している。
【0043】
表示部25は、一般的な液晶ディスプレイ等からなり、溶接変形・残留応力出力部19から出力される三次元有限要素モデル30を表示し、ユーザによる構造物の溶接変形や残留応力の認識を可能にする。溶接変形・残留応力出力部19および表示部25は、図1に示した溶接変形・残留応力出力手段6を構成する。
【0044】
図10は、解析装置10の溶接変形や残留応力の解析を説明するためのフローチャートである。
図10に示すように、まず、データ入力部11から解析に必要な条件のデータ(構造物の溶接部の被溶接部材22,22および溶接部材23の材料物性、溶接入熱、溶接部の継手形状、溶接速度、溶接部の開先形状、板厚、溶接パス数、溶接長、溶接方向および拘束の強さ)が入力される(ステップS101)。
【0045】
次に、二次元熱弾塑性解析部12がこの条件のデータのうち、構造物の溶接部の被溶接部材22,22および溶接部材23の材料物性、溶接入熱、溶接部の継手形状、溶接速度、溶接部の開先形状、板厚、溶接パス数の組み合わせに基づいて、FEMによる二次元熱弾塑性解析を行って二次元の固有ひずみ値の分布データを算出する(ステップS102)。
【0046】
さらに、補正係数抽出部15が上記溶接部の継手形状、溶接入熱、溶接速度、板厚、溶接パス数の組み合わせに基づいて、補正係数DB14から対応する補正係数を抽出し(ステップS103)、固有ひずみ変換部16がステップS102で算出された二次元の固有ひずみ値の分布データにステップS103で抽出された補正係数を乗算して三次元の基本固有ひずみ値の分布データに変換する(ステップS104)。
【0047】
次に、固有ひずみ分布抽出部17がこの変換された三次元の基本固有ひずみ値、溶接部の継手形状、溶接長、溶接方向、および拘束の強さの組み合わせに基づいて、分布DB13から弾性解析用の溶接線固有ひずみの分布データを抽出する(ステップS105)。この一連の解析動作により、図3のX−Y平面における三次元の基本固有ひずみ値の分布データ(図5中の実線の分布データと同様)と、図3の溶接線Z0の長手方向(Z軸方向)の三次元の溶接線固有ひずみ値の分布データ(図8の分布データ)とを得ることができる。
【0048】
次に、この基本固有ひずみ値と溶接線固有ひずみ値の分布データに基づいて、固有ひずみ法を用いた三次元の固有ひずみ法弾性解析を行って、溶接変形や残留応力を求め(ステップS106)、さらにこの解析結果は、溶接変形・残留応力出力部19において、溶接変形の変位成分や溶接残留応力の応力成分による三次元有限要素モデル30(図9参照)が生成され、表示部25に表示される(ステップS107)。
【0049】
このように、この実施形態では、三次元熱弾塑性解析を行うことなく、X−Y平面における三次元の固有ひずみ値の分布データとZ軸方向の三次元の固有ひずみ値の分布データを求め、これらの分布データに基づいて、三次元の固有ひずみ法弾性解析を行い溶接変形や残留応力を求めるので、溶接変形や残留応力の解析が簡易で、かつ評価精度を向上することができる。
【0050】
また、この実施形態では、様々な条件によって変化する固有ひずみ値の分布を考慮することによって、高精度に溶接方向、構造物の拘束の強さの影響を考慮した溶接変形や残留応力の解析を行うことができる。
【0051】
(実施形態2)
図11は、本発明の実施形態2の溶接変形、溶接残留応力の解析装置1の概念を説明するための概念図である。
この解析装置1は、図1と同様、FEMを用いた解析を行う二次元熱弾塑性解析手段2、二次元の固有ひずみを三次元の固有ひずみに変換する固有ひずみ変換手段3、三次元の固有ひずみ分布を出力する固有ひずみ分布出力手段4、FEMを用いた解析を行う三次元固有ひずみ法弾性解析手段5、三次元の溶接変形や残留応力を出力する溶接変形・残留応力出力手段6を備え、固有ひずみ変換手段3は応力三軸度の比を算出する溶接部応力三軸度計算部7を有する。
【0052】
この溶接部応力三軸度計算部7は、図2に示した二次元弾性解析モデルの溶接部21の溶接線Z0の応力三軸度T(以下、「T(2d)」という)と、図3に示した三次元弾性解析モデルの溶接線Z0の中心Sでの溶接部21の応力三軸度T(以下、「T(3d)」という)をそれぞれ求め、これらの比である係数T(3d)/T(2d)を計算する。
【0053】
ここで、溶接部の応力三軸度Tは、当該溶接部に働く応力によって、構造物が拘束される度合いを示すもので、以下のように求めることができる。
σm=(σ123)/3 …(1)
σeq={[(σ12)2+(σ23)2+(σ31)2]/2}1/2 …(2)
T=σmeq …(3)
なお、σ1、σ2、σ3はそれぞれ弾性熱応力の応力成分であり、σmはこれら応力成分の平均値であり、σeqはこれら応力成分の相当応力(応力差の2乗和)である。
【0054】
また、(3)式からT(2d)とT(3d)は、
T(2d)=σm(2d)/σeq(2d)
T(3d)=σm(3d)/σeq(3d)
である。
【0055】
したがって、比[T(3d)/T(2d)]は、
T(3d)/T(2d)=(σm(3d)/σeq(3d))/(σm(2d)/σeq(2d)) …(4)
となる。
【0056】
なお、実施形態の概念でも述べたように、二次元熱弾塑性解析モデル20は、構造物の溶接部21と母材22,22を有限要素モデルとしてモデル化しており、要素として一般化平面ひずみ要素を用いる。このような有限要素モデルは、X−Y平面上にモデル化されており、Z軸方向は十分長さがあると仮定されている。このように平面ひずみ要素を用いた二次元熱弾塑性解析モデルは、「平面ひずみ状態」にある。
【0057】
この平面ひずみ状態のときは、物体(溶接部)は以下のような応力σ1、σ2、σ3を受ける。
σ1=[E/(1+ν)] [ε1+ν(ε1+ε2) /(1−2ν)]
σ2=[E/(1+ν)] [ε2+ν(ε1+ε2) /(1−2ν)]
σ3=[E/(1+ν)] [ν(ε1+ε2) /(1−2ν)]
なお、Eは弾性係数、νはポアソン比、ε1、ε2は解析で求められるひずみである。
【0058】
このように、この実施形態では、溶接部の応力三軸度Tを求めるために、図2に示した二次元モデルの溶接部(図3の溶接線Z0に相当する位置)および図3に示した三次元モデルの溶接部(溶接線Z0の中心Sの位置)に任意の一定温度を与えて、FEMによる弾性熱応力解析をそれぞれ行い、発生した弾性熱応力の応力成分(第1、第2、第3主応力σ1、σ2、σ3)を用いて式(1)〜式(3)の計算を行い、求めた応力三軸度Tの比を計算する。なお、任意の一定温度とは、例えば図3に示した母材22,22および溶接部材23の融点以下の一定温度に溶接線Z0の中心Sを昇温又は降温することで、この一定温度の時に発生する二次元と三次元の熱応力を求め、さらに式(4)から比[T(3d)/T(2d)]を計算する。
【0059】
このようにして求めた応力三軸度の比[T(3d)/T(2d)]を、固有ひずみ変換手段3の係数として用いる。すなわち、この実施形態では、固有ひずみ変換手段3が、二次元熱弾塑性解析手段2によって得られた固有ひずみ値(図2に示すX−Y方向の断面の固有ひずみ値)に、応力三軸度の比である係数[T(3d)/T(2d)]を乗算することによって、基本データである三次元解析用の基本固有ひずみ値に変換する。そして、この基本固有ひずみ値をもとに、固有ひずみ分布出力手段4が三次元弾性解析用の溶接線固有ひずみ分布を求めて出力する。
【0060】
さらに、この求められた基本固有ひずみ分布と溶接線固有ひずみ分布とをもとに、三次元固有ひずみ法弾性解析手段5が三次元の固有ひずみ法弾性解析を行って、構造物の溶接変形や残留応力を求め、溶接変形・残留応力出力手段6がこの求めた溶接変形の変位成分や残留応力の応力成分を出力するものである。
【0061】
図12は、溶接線Z0の中心S(図3参照)からのX軸方向の固有ひずみ分布の一例を示す図であり、◆印が三次元熱弾塑性解析を行った場合の固有ひずみ分布を示し、◇印が二次元熱弾塑性解析によって得られた固有ひずみ値に上記係数[T(3d)/T(2d)]を乗算した場合の固有ひずみ分布を示す。
【0062】
図12では、横軸が溶接線Z0の中心S(図3参照)からの距離(X方向)を示し、縦軸がある構造物に対する二次元熱弾塑性解析と係数[T(3d)/T(2d)]により求めた固有ひずみ値と、三次元熱弾塑性解析による固有ひずみ値とをそれぞれ示す。なお、図12では、溶接線中心からのX軸のプラス(例えば図2に示した紙面の右)方向の距離での固有ひずみの分布データを示したが、マイナス(例えば図2に示した紙面の左)方向の距離での固有ひずみの分布データも同様の分布をしている。
【0063】
この図12から、二次元熱弾塑性解析によって得られた固有ひずみ値に係数[T(3d)/T(2d)]を乗算した場合の基本固有ひずみ分布は、三次元熱弾塑性解析を行った場合の固有ひずみ分布とほぼ一致することが分かる。
【0064】
なお、この図12の固有ひずみ分布は代表例であるが、相対的に二次元熱弾塑性解析によって得られた固有ひずみ値に係数[T(3d)/T(2d)]を乗算した場合の固有ひずみ分布と、三次元熱弾塑性解析を行った場合の固有ひずみ分布とは、分布の形状がほぼ同様になる。
【0065】
このように、この実施形態では、二次元熱弾塑性解析によって得られた固有ひずみ値に係数[T(3d)/T(2d)]を乗算した場合の固有ひずみ分布を用いれば、三次元熱弾塑性解析を行わず、かつ補正係数DB14(図4参照)を構築せずに、三次元熱弾塑性解析を行った場合と同等の固有ひずみ分布を得ることができる。
【0066】
なお、この実施形態では、構造物が拘束される度合いを示す応力三軸度Tから二次元弾性解析によって得られた固有ひずみ値の係数を求めたが、これに限らず、応力三軸度以外の構造物が拘束される度合いの解析から係数を設定してもよい。
【0067】
(実施形態3)
図13は、本発明の実施形態3の溶接変形、溶接残留応力の解析装置1の概念を説明するための概念図である。なお、この実施形態では、実施形態2と同様に、二次元熱弾塑性解析モデルと三次元弾性解析モデルの応力三軸度の比である係数[T(3d)/T(2d)]を計算するものとする。
【0068】
この解析装置1は、図11と同様、FEMを用いた解析を行う二次元熱弾塑性解析手段2、係数を算出する溶接部応力三軸度計算部7、二次元の固有ひずみを三次元の固有ひずみに変換する固有ひずみ変換手段3、三次元の固有ひずみ分布を出力する固有ひずみ分布出力手段4、FEMを用いた解析を行う三次元固有ひずみ法弾性解析手段5、三次元の溶接変形や残留応力を出力する溶接変形・残留応力出力手段6を備え、固有ひずみ分布出力手段4は溶接部の溶接線Z0(図3参照)の各部での溶接部の応力三軸度T(Z)と、溶接部21の溶接線Z0の中心S(図3の参照)での溶接部の応力三軸度T(C)との比[T(Z)/T(C)]を計算する溶接部応力三軸度計算部8を有する。
【0069】
この溶接部応力三軸度計算部8は、発生した弾性熱応力の応力成分(第1、第2、第3主応力σ1、σ2、σ3)を用いて実施形態2で示した式(1)〜式(3)の計算を行い、求めた応力三軸度Tの比を計算する。
【0070】
ここでは、構造物が拘束されている度合いを示す、溶接部の応力三軸度を求めるために、実施形態2と同様、図3に示した三次元弾性解析モデルの溶接部(溶接線Z0の中心Sの位置)に任意の一定温度を与えて、FEMによる弾性熱応力解析を行い、発生した弾性熱応力の応力成分(第1、第2、第3主応力σ1、σ2、σ3)を用いて上記式(1)〜式(3)の計算を行い、求めた応力三軸度Tの比[T(Z)/T(C)]を計算する。
【0071】
すなわち、(3)式から[T(C)とT(Z)]は、
T(C)=σm(C)/σeq(C)
T(Z)=σm(Z)/σeq(Z)
である。
【0072】
したがって、応力三軸度の比[T(Z)/T(C)]は、
T(Z)/T(C)=(σm(Z)/σeq(Z))/(σm(C)/σeq(C))
…(5)
となる。
【0073】
このようにして求めた応力三軸度の比[T(Z)/T(C)]を、三次元弾性解析用の固有ひずみ分布出力手段4の係数として用いる。すなわち、この実施形態では、固有ひずみ変換手段3によって得られた三次元解析用の基本固有ひずみ値に、この係数[(T(Z)/T(C)]を乗算することによって、溶接線Z0の溶接線固有ひずみ分布を求めることができる。
【0074】
さらに、この求められた基本固有ひずみ分布と溶接線固有ひずみ分布とをもとに、三次元固有ひずみ法弾性解析手段5が三次元の固有ひずみ法弾性解析を行って、構造物の溶接変形や残留応力を求め、溶接変形・残留応力出力手段6がこの求めた溶接変形の変位成分や残留応力の応力成分を出力するものである。
【0075】
図14は、実施形態3における溶接線Z0の長手方向の固有ひずみ分布の一例を示す図であり、◆印が三次元熱弾塑性解析を行った場合の固有ひずみ分布を示し、◇印が求められた弾性解析用の基本固有ひずみ値に係数[T(Z)/T(C)]を乗算した場合の固有ひずみ分布を示す。
【0076】
図14では、横軸が溶接線Z0の中心S(図3参照)からの距離(X方向)を示し、縦軸がある構造物に対する二次元熱弾塑性解析と係数[T(3d)/T(2d)]により求めた固有ひずみ値と、三次元熱弾塑性解析による固有ひずみ値とをそれぞれ示す。なお、図14に示す分布データは、縦軸が固有ひずみ値で、横軸が溶接線Z0(図3参照)の中心Sからの距離で、例えば溶接線Z0の中心Sをプラス(例えば図3に示した紙面の前)方向からマイナス(例えば図3に示した紙面の後)方向へと溶接する場合の分布データである。
【0077】
この図14から、弾性解析用の基本固有ひずみ値に係数[T(Z)/T(C)]を乗算した場合の固有ひずみ分布は、三次元熱弾塑性解析を行った場合の固有ひずみ分布とほぼ一致することが分かる。
【0078】
なお、この図14の固有ひずみ分布は代表例であるが、相対的に固有ひずみ分布出力手段4から得られた弾性解析用の基本固有ひずみ値に係数[T(Z)/T(C)]を乗算した場合の固有ひずみ分布と、三次元熱弾塑性解析を行った場合の固有ひずみ分布とは、分布の形状がほぼ同様となる。
【0079】
このように、この実施形態では、実施形態2と同様の効果が得られるとともに、固有ひずみ分布出力手段4によって得られた基本固有ひずみ値に係数[T(Z)/T(C)]を乗算した場合の固有ひずみ分布を用いれば、三次元熱弾塑性解析を行わず、かつ溶接線固有ひずみ値の分布データを記憶する分布DB13(図4参照)を構築せずに、三次元熱弾塑性解析を行った場合と同等の固有ひずみ分布を得ることができる。
【0080】
すなわち、この実施形態によれば、三次元熱弾塑性解析を行うことなく、かつ、様々な条件によって変化する固有ひずみ分布を考慮することによって高精度に、溶接順序や方向、構造物の拘束の強さの影響を考慮した溶接変形及び残留応力の解析装置を提供することができる。
【0081】
なお、この実施形態では、応力三軸度から固有ひずみ分布出力手段4によって得られた基本固有ひずみ値の係数を求めたが、これに限らず、応力三軸度以外の構造物が拘束される度合いの解析から係数を設定してもよい。
【0082】
(実施形態4)
図15は、解析された溶接変形、溶接残留応力を評価する評価装置40の概念を説明するための概念図である。
図15に示すように、この評価装置40は、図1に示したFEMを用いた解析を行う二次元熱弾塑性解析手段2、二次元の固有ひずみを三次元の固有ひずみに変換する固有ひずみ変換手段3、三次元の固有ひずみ分布を出力する固有ひずみ分布出力手段4、FEMを用いた解析を行う三次元固有ひずみ法弾性解析手段5、三次元の溶接変形や残留応力を出力する溶接変形・残留応力出力手段6を備えるとともに、プロセス最適化計算手段41、最適溶接条件出力手段42を備える。
【0083】
図15に示すプロセス最適化計算手段41は、構造物の拘束の強さ、溶接部の被溶接部材および溶接部材の材料物性、溶接パス数、溶接部の継手形状、構造物の板厚、入熱、開先形状、溶接材料などをパラメータとし、溶接変形あるいは残留応力の低減を目的とした最適化探索機能により繰り返し計算を行うものである。このプロセス最適化計算手段41には、例えばCADなどのエンジニアリング・プロセスにおいて、目標とする利用環境への統合を可能とするための最適化プロセスを提供するソフトウェアであるIsight(登録商標)などがある。
【0084】
最適溶接条件出力手段42は、プロセス最適化計算手段41で溶接変形、あるいは、残留応力が設定した目標値以下となった場合に、その時の最適な溶接プロセス条件を出力する
【0085】
図16は、評価装置による溶接変形や残留応力の評価を説明するためのフローチャートである。
図10に示すように、まず、データ入力部11から解析に必要な条件のデータ(構造物の溶接部の被溶接部材22,22および溶接部材23の材料物性、溶接入熱、溶接部の継手形状、溶接速度、溶接部の開先形状、板厚、溶接パス数、溶接長、溶接方向および拘束の強さ)が入力されるとともに、目標とする溶接変形または残留応力が入力されると(ステップS101)、二次元熱弾塑性解析手段2がこの条件のデータのうち、構造物の溶接部の被溶接部材22,22および溶接部材23の材料物性、溶接入熱、溶接部の継手形状、溶接速度、溶接部の開先形状、板厚、溶接パス数の組み合わせに基づいて、FEMによる二次元熱弾塑性解析を行って二次元の固有ひずみ値の分布データを算出する(ステップS102)。
【0086】
次に、固有ひずみ変換手段3が、上記溶接部の継手形状、溶接入熱、溶接速度、板厚、溶接パス数の組み合わせに基づいて、補正係数DB14から対応する補正係数を抽出し(ステップS103)、ステップS102で算出された二次元の固有ひずみ値の分布データにステップS103で抽出された補正係数を乗算して三次元の基本固有ひずみ値の分布データに変換する(ステップS104)。
【0087】
次に、固有ひずみ分布出力手段4が、この変換された三次元の基本固有ひずみ値、溶接部の継手形状、溶接長、溶接方向、および拘束の強さの組み合わせに基づいて、分布DB13から弾性解析用の溶接線固有ひずみの分布データを抽出する(ステップS105)。この一連の解析動作により、図3のX−Y平面における三次元の基本固有ひずみ値の分布データ(図5中の実線の分布データと同様)と、図3の溶接線Z0の長手方向(Z軸方向)の三次元の溶接線固有ひずみ値の分布データ(図8の分布データ)とを得ることができる。
【0088】
次に、三次元固有ひずみ法弾性解析手段5が、この基本固有ひずみ値と溶接線固有ひずみ値の分布データに基づいて、固有ひずみ法を用いた三次元の固有ひずみ法弾性解析を行って、溶接変形や残留応力を求め(ステップS106)、さらにこの解析結果は、溶接変形・残留応力出力手段6において、溶接変形の変位成分や溶接残留応力の応力成分がプロセス最適化計算手段41に出力する(ステップS107)。
【0089】
プロセス最適化計算手段41では、入力する溶接変形の変位成分や溶接残留応力の応力成分が、設定した目標値以下となったか否か判断し(ステップS108)、設定した目標値以下でない場合(ステップS108のNoの場合)、構造物の拘束の強さ、材料物性、溶接パス数、継手形状、構造物の板厚、入熱、開先形状、溶接材料などをパラメータの少なくとも1つを変更する(ステップS109)。ステップS101では、変更されたパラメータの入力が行われ、上記解析動作を繰り返す。
【0090】
また、入力する溶接変形の変位成分や溶接残留応力の応力成分が、設定した目標値以下となった場合(ステップS108のYesの場合)、最適溶接条件出力手段42が、この溶接変形の変位成分や溶接残留応力の応力成分による三次元有限要素モデル30(図9参照)を生成して表示する(ステップS110)。
【0091】
このように、この実施形態では、実施形態1と同様の効果が得られるとともに、三次元熱弾塑性解析を行うことがないために、最適化の条件探索のための繰り返し計算が可能であり、合理的に最適溶接プロセス条件を得ることができる。
【0092】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形してもよい。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより、種々の発明を構成できる。例えば実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1…解析装置、2…二次元熱弾塑性解析手段、3…固有ひずみ変換手段、4…固有ひずみ分布出力手段、5…固有ひずみ法弾性解析手段、6…溶接変形・残留応力出力手段、7,8…溶接部応力三軸度計算部、10…解析装置、11…データ入力部、12…二次元熱弾塑性解析部、13…分布DB、14…補正係数DB、15…補正係数抽出部、16…固有ひずみ変換部、17…固有ひずみ分布抽出部、18…三次元弾性解析部、19…溶接変形・残留応力出力部、20…二次元熱弾塑性解析モデル、21…溶接部、22,22…被溶接部材(母材)、23…溶接部材、25…表示部、30…三次元弾性解析モデル(三次元有限要素モデル)、31…平面、40…評価装置、41…プロセス最適化計算手段、42…最適溶接条件出力手段、S…溶接線中心、Z0…溶接線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力される構造物の溶接部の被溶接部材および溶接部材の材料物性、溶接入熱、前記溶接部の継手形状、溶接速度、前記溶接部の開先形状、板厚、溶接パス数に基づいて、前記溶接部の二次元の熱弾塑性解析を行い、前記溶接部の溶接線方向に均一に入熱がある場合の二次元モデルにおける前記溶接部の平面での第1固有ひずみの分布を求める二次元熱弾塑性解析手段と、
前記求められた二次元モデルにおける前記第1固有ひずみの分布を、前記溶接線の中心で入熱がある場合の三次元モデルにおける前記溶接線の中心で前記溶接線と直交する断面での第1固有ひずみの分布に変換する固有ひずみ変換手段と、
前記変換された三次元モデルにおける前記第1固有ひずみの分布に基づいて、前記溶接部の溶接線の長手方向の第2固有ひずみの分布を出力する固有ひずみ分布出力手段と、
前記求められた第1固有ひずみの分布と前記出力された第2固有ひずみの分布とに基づいて、固有ひずみ法を用いた三次元モデルの固有ひずみ法弾性解析を行い、前記構造物の溶接変形や残留応力を求める固有ひずみ法弾性解析手段と、
を備えることを特徴とする解析装置。
【請求項2】
前記固有ひずみ変換手段は、
前記溶接部の継手形状、溶接入熱、板厚、溶接速度、溶接パス数の組み合わせに対応する補正係数を記憶する記憶部と、
入力する前記溶接部の継手形状、溶接入熱、板厚、溶接速度、溶接パス数の組み合わせに基づいて、前記対応する補正係数を前記記憶部から抽出する補正係数抽出部と、
前記二次元熱弾塑性解析手段で求められた前記二次元モデルの第1固有ひずみの分布と前記抽出された補正係数とを乗算して前記三次元モデルの第1固有ひずみの分布に変換する変換部と、
を有することを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項3】
前記固有ひずみ分布出力手段は、
前記三次元モデルの第1固有ひずみの分布データ、前記溶接部の継手形状、溶接長、溶接方向および拘束の強さの組み合わせに対応する前記第2固有ひずみの分布データを記憶する記憶部と、
入力する前記三次元モデルの第1固有ひずみの分布、前記溶接部の継手形状、溶接長、溶接方向および拘束の強さの組み合わせに基づいて、前記対応する前記第2固有ひずみの分布データを前記記憶部から抽出する分布抽出部と、
を有することを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項4】
前記求められた構造物の溶接変形や残留応力に基づいて、前記構造物の三次元有限要素モデルを生成して出力する溶接変形・残留応力出力手段を、
さらに備えることを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項5】
前記固有ひずみ変換手段は、
前記二次元モデルの前記溶接部に一定温度を加えたときの弾性熱応力解析を行うとともに、前記三次元モデルの前記溶接線の中心の前記溶接部に前記一定温度を加えたときの弾性熱応力解析を行って、弾性熱応力の応力成分をそれぞれ求め、かつこの求めた前記弾性熱応力の応力成分から前記二次元モデルの前記溶接部での応力三軸度と前記三次元モデルの前記溶接部での応力三軸度とその比を算出する応力成分算出部と、
前記二次元熱弾塑性解析手段で求められた前記二次元モデルの第1固有ひずみの分布と前記算出された応力三軸度の比とを乗算して、前記二次元モデルの第1固有ひずみの分布を前記三次元モデルの第1固有ひずみの分布に変換する変換部と、
を有することを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項6】
前記固有ひずみ分布出力手段は、
前記二次元モデルの前記溶接部に一定温度を加えたときの弾性熱応力解析を行うとともに、前記三次元モデルの前記溶接線の中心の前記溶接部に前記一定温度を加えたときの弾性熱応力解析を行って、弾性熱応力の応力成分をそれぞれ求め、かつこの求めた前記弾性熱応力の応力成分から前記二次元モデルの前記溶接部での応力三軸度と前記三次元モデルの前記溶接部での応力三軸度とその比を算出する応力成分算出部と、
前記固有ひずみ変換手段で変換された三次元の第1固有ひずみの分布と前記算出された前記応力三軸度の比とを乗算して、前記溶接線の長手方向の前記溶接部の第2固有ひずみの分布を求める分布算出部と、
を有することを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項7】
請求項1記載の解析装置と、
入力された前記構造物の拘束の強さ、前記溶接部の被溶接部材および溶接部材の材料物性、溶接パス数、継手形状、板厚、入熱、開先形状、溶接材料に基づいて、前記構造物の溶接変形や残留応力を評価する評価手段と、
を備えることを特徴とする評価装置。
【請求項8】
前記評価された構造物の溶接変形や残留応力に基づいて、前記構造物の三次元有限要素モデルを生成して出力する溶接変形・残留応力出力手段を、
さらに備えることを特徴とする請求項7記載の評価装置。
【請求項9】
二次元熱弾塑性解析手段が、入力される前記構造物の溶接部の被溶接部材および溶接部材の材料物性、溶接入熱、前記溶接部の継手形状、溶接速度、前記溶接部の開先形状、板厚、溶接パス数に基づいて、前記溶接部の二次元の熱弾塑性解析を行い、前記溶接部の溶接線方向に均一に入熱がある場合の二次元モデルにおける前記溶接部の平面での第1固有ひずみの分布を求めるステップと、
固有ひずみ変換手段が、前記求められた二次元モデルにおける前記第1固有ひずみの分布を、前記溶接線の中心で入熱がある場合の三次元モデルにおける前記溶接線の中心で前記溶接線と直交する断面での第1固有ひずみの分布に変換するステップと、
固有ひずみ分布出力手段が、前記変換された三次元モデルにおける前記第1固有ひずみの分布に基づいて、前記溶接部の溶接線の長手方向の第2固有ひずみの分布を出力するステップと、
固有ひずみ法弾性解析手段が、前記求められた第1固有ひずみの分布と前記出力された第2固有ひずみの分布とに基づいて、固有ひずみ法を用いた三次元モデルの固有ひずみ法弾性解析を行い、前記構造物の溶接変形や残留応力を求めるステップと、
を含むことを特徴とする解析方法。
【請求項10】
二次元熱弾塑性解析手段が、入力される前記構造物の溶接部の被溶接部材および溶接部材の材料物性、溶接入熱、前記溶接部の継手形状、溶接速度、前記溶接部の開先形状、板厚、溶接パス数に基づいて、前記溶接部の二次元の熱弾塑性解析を行い、前記溶接部の溶接線方向に均一に入熱がある場合の二次元モデルにおける前記溶接部の平面での第1固有ひずみの分布を求めるステップと、
固有ひずみ変換手段が、前記求められた二次元モデルにおける前記第1固有ひずみの分布を、前記溶接線の中心で入熱がある場合の三次元モデルにおける前記溶接線の中心で前記溶接線と直交する断面での第1固有ひずみの分布に変換するステップと、
固有ひずみ分布出力手段が、前記変換された三次元モデルにおける前記第1固有ひずみの分布に基づいて、前記溶接部の溶接線の長手方向の第2固有ひずみの分布を出力するステップと、
固有ひずみ法弾性解析手段が、前記求められた第1固有ひずみの分布と前記出力された第2固有ひずみの分布とに基づいて、固有ひずみ法を用いた三次元モデルの固有ひずみ法弾性解析を行い、前記構造物の溶接変形や残留応力を求めるステップと、
評価手段が、入力された前記構造物の拘束の強さ、前記溶接部の被溶接部材および溶接部材の材料物性、溶接パス数、継手形状、板厚、入熱、開先形状、溶接材料に基づいて、前記構造物の溶接変形や残留応力を評価するステップと、
を含むことを特徴とする評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−36902(P2013−36902A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174264(P2011−174264)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)