解析装置及び解析方法
【課題】 分光手段とマルチ検出器を用いたフローサイトメーターにおいて、リアルタイムの蛍光強度測定を行う前の最適な波長帯域設定を支援する。
【解決手段】 信号処理手段において、キャリブレーション試料を測定して得られた複数の波長帯域の強度を記憶し、前記複数の波長帯域ごとの強度の分布を算出、表示する。
【解決手段】 信号処理手段において、キャリブレーション試料を測定して得られた複数の波長帯域の強度を記憶し、前記複数の波長帯域ごとの強度の分布を算出、表示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローセル中の粒子(細胞も含む)の定量解析を行うフロー式粒子解析方法および装置に関する。特に後分光手段とマルチチャネル光検出手段を有したフロー式粒子解析方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フローセル中の粒子を定量解析する装置の一つにフローサイトメーターがある。フローサイトメーターは、蛍光標識した試料(細胞・粒子)をフロー中に流し、フローにレーザー光を当てて試料から発せられる散乱光や蛍光の強度を測定し、光強度から試料の性質を定量化する装置である。試料の蛍光標識は、細胞表面や細胞内部の特定対象物を標識することで、目的対象物の定量を行ったり、細胞の種類を判別したりするために行われる。通常、蛍光標識は単染色のみならず多重染色で行われる。多重染色を検出するための従来の装置構成例を図15に示す。蛍光染色された試料610は、シース液620で挟まれフローセル630内で細胞(粒子)を一つずつ一列に並べた試料の流れを形成する。試料610はレーザー光650により励起し、散乱光と蛍光を発生する。蛍光はダイクロイックミラー660で分割され、各々の蛍光の種類に合ったバンドパスフィルター670により、それぞれの蛍光として選択的に検出される。検出器にはPMT(Photo-Multiplier Tube:フォトマルチプライヤー)680等が用いられる。検出された光は、電気信号処理部640で電気的信号(電圧パルス)に変換後数値化され、専用ソフトウェア690でヒストグラム等の統計解析が行われる。しかしながら、この従来装置で、解析する蛍光色数を増加したい場合、フィルターセットと検出器を増設する必要があるので装置が大型、高価になる、ダイクロイックミラーによる蛍光強度の減衰が大きくなる、といった問題がある。また、蛍光数を増加しなくとも解析したい蛍光色を変更したい場合はそれに合わせたフィルターセットを新たに購入する必要があるといった問題もある。
【0003】
また近年、カルシウム等の細胞内イオンの濃度を測定できる蛍光色素を用いた細胞機能解析が広く行われている。これらの蛍光色素は、細胞の状態、例えばpHや温度によって蛍光の中心波長がシフトすることが知られている。しかしながら、上述した従来装置では検出できる蛍光波長帯域がフィルターによって制限されてしまい、また断続的なため、蛍光の中心波長(ピーク波長)のシフトを検出することが困難といった問題がある。
【0004】
これらの問題を考慮した装置構成が、特許文献1、特許文献2に開示されている。特許文献1は、マイクロタイタープレートリーダーに関するもの、特許文献2はレーザー顕微鏡に関するもので、いずれも従来装置のフィルターセットの代わりに回折格子やプリズム等の分光手段を用い、個々のPMTの代わりに多連PMTやCCD等のマルチ検出器を用いるといった装置構成が示されている。この構成により、フィルターの新規購入や交換等の作業が低減し、フィルターによる蛍光強度の減衰が抑えられるようになる。また、多重染色測定を行う場合、検出波長帯域を蛍光クロスオーバーの影響の少ない帯域に設定できるようになる。更に、検出幅が自由に設定できるので感度も自由に変えることができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005-513497
【特許文献2】特開2003-057555
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図16に3種類の蛍光色素の蛍光スペクトルと、検出に用いる波長帯域の関係を模式的に示す。縦軸700は蛍光強度を表し、横軸705は波長を表す。曲線710、720、730はそれぞれ3種類の蛍光色素1、2、3のスペクトルを表す。この例では、楕円で囲んだ領域740において蛍光色素3のスペクトル730が小さなピークを有している。従来方式による装置では、バンドパスフィルターの特性により、記号750に示す3個の帯状の領域が検出波長帯域であるとする。この場合、一番短い波長領域の検出波長帯は、スペクトル710のピーク、スペクトル730の小さなピーク、スペクトル720のピークの左側の裾野部分、を含んでいるため、3種類の蛍光色素の蛍光の全てに対し信号を検出することがわかる。すなわち、3種類の蛍光色素の蛍光の分離精度が悪くなる。
【0007】
これに対し、分光器とマルチ検出器を用いた場合には、一個の検出器が検出する波長帯域770を単位として、任意の帯域を設定可能となる。例えば記号760に示す3個の帯状の領域のような波長帯域の設定が可能となる。もっとも短い波長側の帯域を、スペクトル710のピークのみを含むように設定することが可能となり、従来に比べ高い精度で各蛍光色素の蛍光を分離することが可能となる。
しかし、回折格子のような分光手段とマルチ検出器を用いた装置構成にした場合、図16で示したように、試料を測定する前に、目的蛍光を検出するための波長帯域を予め設定する必要がある。
【0008】
特許文献1では、試料と同じ蛍光で標識した標準試料を用いて蛍光スペクトル画像を取得し、ユーザーがオーバーラップの影響の少ない波長帯域を選択することが開示されている。しかしながら、実試料の測定を行った際、どれくらいの精度で目的の蛍光強度が目的外の蛍光強度と分離できているのか、評価する方法はない。よって、フローサイトメーターに適用した場合、ユーザーは実試料の測定中に、再度波長帯域設定を繰り返す等、実試料測定中の作業負担が大きくなるといったことが考えられる。
【0009】
特許文献2では、初めに波長帯域を設定するのではなく、レーザー顕微鏡で画像を取得した後にユーザーが最適な波長帯域を選択することが開示してある。この方法はリアルタイムに試料の蛍光強度測定を行う必要のあるフローサイトメーターには適用できない。
【0010】
すなわち、分光手段とマルチ検出器を用いたフローサイトメーターにおいては、リアルタイムの蛍光強度測定を行う前に、いかに最適な波長帯域を設定するか、ということが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本解析システムは、光源と、光源からの光を受けて光を発する試料を流すフローセルと、試料から発せられた光を分光する分光手段と、分光手段から出力された光を異なる波長毎に検出する複数の検出器を備えた検出部と、検出部により検出された光の信号を信号処理する処理手段と、信号処理への指示入力を受け付ける入力手段と、信号処理された結果を格納する記憶部と、処理された結果を表示する出力部とを備え、記憶部は、複数の異なる試料について、検出された光信号を、前記複数の検出器毎に格納しており、当該光信号について複数の検出器における強度を、異なる試料毎に出力部に表示し、当該複数の検出器のうち少なくともひとつの検出器が検出する波長帯域を入力手段により設定させる帯域設定手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、解析方法として、光源と、試料を流すフローセルと、光源からの光によりフローセルを流れる試料から発せられる光を分光する分光手段と、分光手段から出力された光を異なる波長毎に検出する複数の検出器と、検出器により検出された光信号を処理する処理手段と、データの記憶手段と、処理手段への入力を行う入力手段と、処理結果を出力する出力部とを用いる。記憶部は、フローセルに流された複数の異なる試料それぞれについて検出された光信号を、複数の検出器毎に記憶している。そして、複数の検出器における光信号の強度を、異なる試料毎に出力部に表示する工程と、複数の検出器のうち少なくとも一つの検出器が検出する波長帯域を入力手段により設定させる工程と、設定された波長帯域を記憶部に格納する工程と、フローセルに流される検体からの光を検出器により検出する工程と、設定された波長帯域を用い、検体の信号を出力部に出力する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
キャリブレーション試料のスペクトルを算出し表示することにより、測定時の帯域を設定する際に、自家蛍光やピークシフトなどの影響を考慮した的確な帯域の設定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】フローサイトメーターの概要を示す図。
【図2】フローサイトメーターによる測定の手順を示すフロー図。
【図3】蛍光色素の蛍光スペクトルの例を示す模式図。
【図4】蛍光色素が発光する際の信号強度の分布を模式的に示す図。
【図5】測定チャネル決定支援情報提示の詳細な処理フローを示す図。
【図6】測定チャネル決定支援情報提示を実施する装置の構成を示す図。
【図7】キャリブレーション試料の蛍光スペクトル算出・表示処理の詳細な処理フローを示す図。
【図8】キャリブレーション試料の蛍光スペクトル表示画面の例を示す図。
【図9】波長帯域の測定強度情報算出・表示処理の詳細な処理フローを示す図。
【図10】平均帯域強度・標準偏差の表示画面の例を示す図。
【図11】測定精度評価情報算出・表示処理の詳細な処理フローを示す図。
【図12】分布の重なりの算出方法を説明する図。
【図13】分布の重なりの算出方法を説明する図。
【図14】測定精度評価情報の表示例を示す図。
【図15】フローサイトメーターの従来の装置構成例を示す図。
【図16】分光器とマルチ検出器を用いた場合の検出波長帯域の設定例を示す図。
【図17】帯域強度分布を表示する画面例を示す図。
【図18】測定精度評価情報算出・表示処理の詳細な処理フローを示す図。
【図19】測定精度評価情報の表示例を示す図。
【図20】キャリブレーション試料の帯域強度の、他のキャリブレーション試料の帯域強度分布主軸への射影成分の算出方法を説明する図。
【図21】検体の測定の処理フローを示す図。
【図22】蛍光補正後、検体中粒子の帯域強度分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
以下、フローサイトメーターに適用した実施の形態について図を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1はフローサイトメーターの概要を示す図である。予め蛍光標識された測定対象粒子を含む液体(以下検体と表現)は、フローセル102中を、図1の表から裏の方向へと一定の流速で通過する。フローセル102にはレーザー光源101より発せられるレーザー光が照射されている。フローセル102中を対象粒子が通過すると、蛍光色素がレーザー光により励起され、発光する。発光で生じた光は分光手段103により、複数の波長成分に分光され、分光された光は複数のPMTにより電気信号に変換される。PMT104から出力される電気信号は、A/D変換器105によりデジタル信号に変換され、信号処理手段106へ入力される。信号処理手段106では、各波長ごとに測定された蛍光の強度に基づき、検体中の粒子の分類や、粒子の成分、性質の分析などを行う。
【0017】
分光手段103は、集光のためのレンズと、回折格子により構成することが可能である。回折格子の代わりにプリズムを用いることも可能である。また、複数の光学フィルターとダイクロイックミラーにより構成してもよい。
【0018】
信号処理手段としては例えばキーボード、マウス、ディスプレイを備えたパーソナルコンピュータ(PC)を用いることができる。ただし、処理を高速化する場合にはPCの中、またはPCとA/D変換器105の間に高速演算用のボードを設置してもよい。また、PCでは無く全て専用ハードとして実現してもよい。ここでは、出力手段としてPCの画面上に表示すること、また、入力手段としてマウスやキーボードを用いた画面上の表示に対する指示入力を想定しているが、入出力できる形態であればこれに限られない。
【0019】
次に、図1に示すフローサイトメーターを利用して検体の測定を行う際の処理の流れを図2を参照して説明する。測定には複数の蛍光色素を用い、粒子の発する蛍光により、粒子の分析を行うものとする。
【0020】
測定を行うユーザーは、まず、検体の測定に先立ち、キャリブレーション用試料を準備する(ステップS101)。キャリブレーション用の試料とは、測定に用いる複数の蛍光色素の、1色ずつを用いて標識した試料である。例えばA、B、Cという3種類の色素を用いる場合、Aで標識した試料、Bで標識した試料、Cで標識した試料、の3種類の試料を用意する。キャリブレーション試料としては例えば予め標識されるように処理を行った微小なビーズを用いてもよいし、測定対象の検体の一部を用いてもよい。
【0021】
次に、キャリブレーション試料の蛍光スペクトルを測定する(ステップS102)。具体的には、キャリブレーション試料を図1に示すフローサイトメーターに流し、試料中の各粒子が発する蛍光の強度を図1に示す各PMTで電気信号に変換し、A/D変換器から出力された出力値を各チャネルごとに格納する。出力される値は信号処理装置(PC)106内の記憶装置に格納する。ここではPMTは全部で16個あるとする。この場合、各粒子ごとに16個のデータが得られ、これらを検出された粒子の分だけ格納する。以上の測定を、キャリブレーション試料の種類、すなわち用いる蛍光色素の種類の数と同じ回数分だけ行う。
【0022】
ここでは、説明を簡単にするため、上記のようにPMTは全部16個とし、各PMTで測定される光の波長はλ1〜λ16とする。また、用いる染色色素の種類はA、Bの2種類とする。また、蛍光色素は例えば図3に示すスペクトルを有するものとする。
【0023】
図3(A)は蛍光色素Aの、(B)は蛍光色素Bの、それぞれの蛍光スペクトルを模式的に示した図である。縦軸111は蛍光強度、横軸112は波長を表す。曲線113、114はそれぞれ蛍光色素A、Bの蛍光スペクトルを表す。また、横軸のλ1〜λ16は、16個のPMTによって計測される波長を表している。
【0024】
この2種類の蛍光色素を、測定する検体に添加した後測定を行う。検体中の粒子が発光する蛍光を測定することにより、A、Bそれぞれの蛍光色素がどれくらい結合しているかを推定し、粒子の性質の判別を行う。蛍光色素A、Bが図3(A)、(B)に示す蛍光スペクトルを有する場合、例えば波長λ3は蛍光色素Aの蛍光強度が非常に強く、蛍光色素Bによる蛍光はほとんど無い。逆に波長λ14は蛍光色素Bの蛍光強度が非常に強く、蛍光色素Aによる蛍光はほとんど無い。この時、波長λ3とλ14を検体の測定に用いると、粒子の発光強度のうちλ3の強度は蛍光色素Aの量を表し、λ14の強度は蛍光色素Bの量を表すことになる。すなわち波長λ3とλ14の強度を測定することにより、各粒子中の、蛍光色素Aにより標識された物質と、蛍光色素Bにより標識された物質の量が推定可能となる。
【0025】
しかしながら、図1に示す構成の装置を用いた場合、各PMTに入る光の波長帯域は非常に狭いため、一個一個のPMTに入る光量は非常に少ない。そのため、各PMTの信号は非常に小さく、ノイズが多くなる。理想的には、蛍光色素Aが発光する際には、波長λ3の強度のみが現れ、λ14の強度は0となる。逆に蛍光色素Bが発光する際には波長λ3の強度は0となり、λ14の強度のみが現れる。しかしながら、上記理由によるノイズが発生するため、蛍光色素Aのみが発光する場合にもλ14の強度が現れ、蛍光色素Bのみが発光する場合にもλ3の強度が現れる。図4(A)にこの時の信号強度の分布を模式的に示す。横軸121は波長λ3の強度を、縦軸122は波長λ14の強度を表す。また、記号123は蛍光色素Aが発光した際に測定されるλ3、λ14の信号強度の分布を表し、記号124は蛍光色素Bが発光した際に測定されるλ3、λ14の信号強度の分布を表す。図4において、一個の記号(点)は試料中の一個の粒子が発する蛍光強度を表す。
【0026】
ノイズの無い、理想的な場合には色素Aが発光した際の信号強度は横軸の上に分布し、色素Bが発光した際の信号強度は縦軸の上に分布する。この場合には波長λ3の強度を蛍光色素Aの発光強度とし、波長λ14の強度を蛍光色素Bの発光強度とすることが可能である。しかしながらノイズが多い場合には、図4(A)に示すように、色素Aが発光した際の分布は、縦軸方向にも広がり、色素Bが発光した際の分布は横軸方向にも広がる。すなわち、波長λ3の強度を蛍光色素Aの発光強度とし、波長λ14の強度を蛍光色素Bの発光強度とすると、蛍光色素Aのみが発光した場合にも、あたかも蛍光色素Bも微弱に発光したかのような誤差が生じる。
【0027】
このような誤差を少なくするためには、蛍光色素Aのみが発光した際の信号強度の分布の縦軸方向の広がりと、蛍光色素Bのみが発光した際の信号強度の分布の横軸方向の広がりをなるべく小さくする必要がある。ノイズの影響を減らし、分布の広がりをなるべく小さくするためには、複数のPMTの信号を加算すればよい。
【0028】
例えば、図3において、波長λ1〜λ6の帯域をΛ1とし、この範囲の波長の強度を加算し、Λ1の強度とする。また、波長λ11〜λ16の帯域をΛ2とし、この範囲の波長の強度を加算しΛ2の強度とする。Λ1、Λ2は複数の信号の加算であるため、ランダムなノイズは相殺され、相対的にノイズは小さくなる。しかしながら、図3(A)に示す蛍光色素Aの蛍光スペクトルは、波長λ11近辺にもわずかながら強度を持っているため、蛍光色素Aのみが発光した際にも、Λ2の強度もわずかではあるが測定される。また、逆に図3(B)に示す蛍光色素Bの蛍光スペクトルは、波長λ6近辺にもわずかながら強度を持っているため、蛍光色素Bのみが発光した際にも、Λ1の強度もわずかではあるが測定される。
【0029】
図4(B)に、この時の信号強度の分布を模式的に示す。横軸125、縦軸126はそれぞれ波長帯域Λ1、Λ2の強度を表す。蛍光色素Aのみが発光した場合の信号強度の分布123は、Λ1の強度は大きく、Λ2の強度は小さいため、破線127の方向に広がった分布となる。蛍光色素Bのみが発光した場合の信号強度の分布124は、Λ1の強度は小さく、Λ2の強度は大きいため、破線128の方向に広がった分布となる。この時、測定された信号強度を破線127に射影した長さを蛍光色素Aの発光強度、破線128に射影した長さを蛍光色素Bの発光強度と考えることができる。Λ1、Λ2はそれぞれ複数の波長の信号強度の加算であるため、ノイズ成分が少なくなり、蛍光色素Aのみが発光した場合の信号強度の分布123の、破線127に直行する方向の広がりは、図4(A)の縦軸方向の広がりに比べ小さくなる。また、蛍光色素Bのみが発光した場合の信号強度の分布124の、破線128に直行する方向の広がりは、図4(A)の横軸方向の広がりに比べ小さくなる。しかしながら、分布123と分布124の中心間の距離は、図4(A)に比べ短くなる。
【0030】
以上のことより、測定に用いる波長帯域を狭く選ぶと2種類の蛍光色素A、Bの発光強度分布の広がりが大きくなり誤差が大きくなる。また、測定に用いる波長帯域を広く選ぶと、分布の広がりは小さくなるものの、2つの分布間の距離が小さくなることによる誤差の影響が出てくる。このように、図1によるフローサイトメーターにおいては、どのように測定に用いる波長帯域(PMTのチャネル)を選択するかが、測定精度に大きく影響する。そこで、図2のステップS103において、ユーザーが測定に用いるチャネルを決定する際に、チャネルの選択を支援する情報を提示するようにした。
【0031】
図2のステップS104ではユーザーが測定に用いるチャネルを決定し、ステップS105で実際の検体の測定を実施する。
【0032】
次に、図2のステップS103における、測定チャネル決定支援情報提示の詳細の処理の例を、図5、図6を参照して詳細に説明する。図5はステップS103の更に詳細な処理フローを表し、図6は図5の処理を実行するための装置の構成を示す。なお、図6に示す処理は図1における信号処理手段106で実行され、図5の構成は信号処理手段の中で専用のハードウェアとして実装してもよいし、ソフトウェアの処理ブロックとして実装してもよい。なお、図2のステップS102において、図6に示す蛍光スペクトルデータ取得手段220によりキャリブレーション試料中の粒子が発する蛍光スペクトルを測定し、測定された蛍光スペクトルは記憶手段210に記憶するものとする。
【0033】
まず、図5のステップS120において、スペクトル情報算出手段230が、キャリブレーション試料中の粒子が発する蛍光スペクトルを算出し、算出したスペクトルを表示手段240上に表示する。ステップS120で行う処理を、図7を用いて更に詳細に説明する。ここでは、キャリブレーション試料の種類をm種類、PMTのチャンネル数をnとし、j番目のチャンネルで測定される光の波長をλjとする。まずステップS121で、キャリブレーション試料の種類を示す変数iに1を代入し、初期化する。次のステップS122において、PMTのチャネルを表す変数jに1を代入し、初期化する。
【0034】
次にステップS123でキャリブレーション試料i中の粒子が発光した光のうち、PMTのj番目のチャネルで測定された、各粒子のλjの信号強度を記憶装置210より読み出し、平均値μijを算出する。同様にステップS124で各粒子のλjの標準偏差σijを計算する。ステップS125では、変数jをnと比較し、キャリブレーション試料iの全ての波長について平均値と標準偏差を計算したかどうかを判定する。全ての波長について計算を行った(j=n)場合には処理をステップS127へと移す。まだ残っている波長がある場合(j<n)には、ステップS126でjに1を加え、次の波長についてS123からの処理を実行する。ここでは、全ての波長について平均値と標準偏差を計算するようにしたが、解析対象に応じて必要な情報を選択するようにしてもよい。
【0035】
ステップS127では、iをmと比較することにより、全てのキャリブレーション試料について計算を実行したかどうかを判定する。もし、全てのキャリブレーション試料について計算を終了した場合(i=m)には、処理をステップS129へ移す。もし、処理を行っていないキャリブレーション試料がある場合(i<m)には、ステップS128でiに1を加え、次のキャリブレーション試料についてステップS122からの処理を実行する。
【0036】
ステップS129では、計算した各波長(PMTの各チャネル)の信号の強度の平均値μijと標準偏差σijを、記憶手段210に格納し、平均蛍光スペクトルとして表示手段240に表示する。表示手段240に表示する画面の例を図8に示す。
【0037】
平均蛍光スペクトルは、表示手段240上の、平均蛍光スペクトル表示エリア300中に表示する。図8では、キャリブレーション試料の数が3種類の場合の例を示しており、3種類のスペクトルを表示している。それぞれ縦軸111は蛍光強度を表し、横軸112は波長を表す。曲線301、302、303はそれぞれ試料1、試料2、試料3の、各波長の信号強度の平均値(μ1j、μ2j、μ3j、ただしj=1〜n)をプロットした曲線であり、各試料中の粒子の平均的な蛍光スペクトルを表す。また、平均蛍光スペクトル上に表示されている垂直なバー311は、その波長における信号強度の標準偏差を表している。
【0038】
用いる蛍光色素は固有のスペクトルを有しているが、試料に蛍光色素を添加して測定した場合、自家蛍光など、蛍光色素の蛍光以外の予期せぬ蛍光や、ピークシフトなどを生じることがあり、蛍光色素の固有スペクトルと異なる形状を示すことがある。上記の通り、平均蛍光スペクトルを計算、表示することにより、測定時のスペクトルが蛍光色素の固有スペクトルと異なる場合にも、予めそのスペクトル形状を確認することが可能となり、より的確な波長帯域の設定が可能となり、正確な測定を支援することができる。
【0039】
また、蛍光色素の固有スペクトルは、試料中の染色された粒子全てに共通して観測されるため、各波長のスペクトルのばらつきは、強度のばらつきを反映したものとなり、全波長でほぼ同じばらつきになる。これに対し、自家蛍光や、ピークシフトなどは、試料中の一部の粒子(細胞)のみで生じるため、これらが影響する波長の強度分布のばらつきは大きくなると考えられる。そのため、平均スペクトルの各波長において、標準偏差を計算し、表示することにより、自家蛍光やピークシフトがどの波長において生じているかの推定が容易となり、より的確な波長帯域の設定が可能となり、正確な測定を支援することができる。
【0040】
次に、図5のステップS130において、ユーザーが測定用の波長帯域を設定する。ユーザーは図8の均蛍光スペクトル表示エリア300の下部の帯域設定エリア320を用いて、測定に使用する波長の帯域幅を設定する。この図では、3種類の帯域(帯域1、2、3)を設定する例を示している。ユーザーは、該当する帯域の両端をマウスでクリックするか、あるいは一方の端から他方の端までマウスをドラッグ&ドロップすることにより、帯域を設定する。図8の矢印321、322、333はそれぞれ帯域1、2、3に対し設定された波長帯域の例を示している。なお、帯域設定エリア320の画面の制御や、ユーザーが設定した帯域情報の読み出しは帯域設定手段250が行う。また、ユーザーが設定した帯域は、記憶手段210に記憶する。
【0041】
次に、図5のステップS140において、波長帯域強度算出手段260が、キャリブレーション試料中の粒子の蛍光から、ステップS130において設定した各帯域の信号強度を計算し、それぞれの帯域における信号強度の平均値、標準偏差を算出し、算出した結果を記憶手段210に格納し、表示手段240上に表示する。ステップS140で行う処理を、図9を用いて更に詳細に説明する。ここでは、キャリブレーション試料の種類をm種類、ユーザーが設定した帯域の数をpとする。まずステップS201で、キャリブレーション試料の種類を示す変数iに1を代入し、初期化する。次のステップS202において、帯域番号を表す変数kに1を代入し、初期化する。
【0042】
次にステップS203でキャリブレーション試料i中の各粒子について、PMTの各チャンネルにより測定された信号から、ユーザーが設定した波長帯域kの信号強度を計算する。具体的には、例えば帯域1に入る波長(PMTのチャネル)の信号の総和を、その帯域の信号強度とする。例えば帯域1が波長λ1、λ2、λ3を含むものとし、ある粒子のλ1、λ2、λ3の強度がr1、r2、r3であったとする。この時、その粒子の、帯域1の強度をR1とすると、R1=r1+r2+r3により計算する。計算した各粒子の帯域kの信号強度は、記憶手段210に記憶する。
【0043】
ステップS203で計算した、帯域kの信号強度を利用し、ステップS204で帯域kの信号強度の平均値Mikを算出する。同様にステップS205で帯域kの信号強度の標準偏差Sikを計算する。ステップS206では、変数kをpと比較し、キャリブレーション試料iの全ての帯域について平均値と標準偏差を計算したかどうかを判定する。全ての帯域について計算を行った(k=p)場合には処理をステップS208へと移す。まだ残っている帯域がある場合(k<p)には、ステップS207でkに1を加え、次の帯域についてS203からの処理を実行する。
【0044】
ステップS208では、iをmと比較することにより、全てのキャリブレーション試料について計算を実行したかどうかを判定する。もし、全てのキャリブレーション試料について計算を終了した場合(i=m)には、処理をステップS210へ移す。もし処理を行っていないキャリブレーション試料がある場合(i<m)には、ステップS209でiに1を加え、次のキャリブレーション試料についてステップS202からの処理を実行する。
【0045】
ステップS210では、計算した各帯域における信号強度の平均値Mikと標準偏差Sikを、記憶手段210から読み出し、グラフ形式で表示手段240に表示する。表示手段240に表示する画面の例を図10に示す。
【0046】
帯域ごとの信号強度の平均値、標準偏差は、表示手段240上の、帯域強度情報表示エリア400中に表示する。図10では、キャリブレーション試料の数が3種類の場合の例を示しており、3種類のグラフを表示している。それぞれ縦軸401は各帯域の信号強度を表し、横軸402は帯域を表す。長方形状のバー411は各帯域の信号強度の平均値を表し、バー411上に線分で表示されているバー412は、その帯域における信号強度の標準偏差を表している。
【0047】
各蛍光色素による蛍光を高精度に分離するためには、各キャリブレーション試料について、その試料のみで強い信号強度を示し、他のキャリブレーション試料ではなるべく低い信号強度を示す帯域があること、また、各帯域における信号強度のばらつきが少ないこと、が必要条件となる。上記の通り、キャリブレーション試料ごとに、各帯域の信号強度とばらつき(標準偏差)を算出し、図10のように表示することにより、検体の測定を開始する前に、帯域の選択の良否を把握することが可能となる。ここでは、全ての帯域について平均帯域強度と標準偏差を計算するようにしたが、解析対象に応じて必要な情報を選択するようにしてもよい。
【0048】
図5に示すステップS150の例においては、ユーザーが図10に示す画面例により各帯域の信号強度、ばらつきを確認し、この帯域設定で測定を行うかを判断する。もし再設定が必要と判断した場合には、処理をステップS130に戻し、再度測定用の波長帯域を設定する。再設定が必要ない場合には、処理をステップS160に移す。
【0049】
なお、帯域強度情報表示エリア400は、平均蛍光スペクトル表示エリア300と同時に表示することが好ましい。同時に表示することにより、どこに帯域を設定したか、という情報と、その結果の良否を同時に把握することが可能になり、効率的に帯域の設定を行うことが可能となる。
【0050】
ステップS160は、ユーザーがカットオフ値を設定する例である。カットオフ値とは、ノイズレベルのことであり、この値以下の信号はノイズとして棄却するための設定値である。カットオフ値の設定は図10に示す帯域強度情報表示エリア400上で行う。カットオフ値は帯域ごとに異なる値を設定可能とし、各帯域の信号強度の平均値を示す長方形のバー411上の、カットオフ値を設定したいポイントをクリックすることにより、その値が設定される。設定されたカットオフ値の位置には、破線413を表示する。どれか一つのグラフ上でカットオフ値を設定すると、他のグラフの同じ位置にもカットオフ値を示す破線413が表示されるようにするとよい。これらのカットオフ値の設定のための画面制御、ユーザーにより設定されたカットオフ値の読み込みはカットオフ値設定手段280が行い、設定されたカットオフ値は記憶手段210に記憶する。
【0051】
カットオフ値は、ノイズ成分をできるだけ棄却するとともに、計測したい信号はなるべく棄却しないように設定する必要がある。上記のようにキャリブレーション試料ごとに、各帯域の強度の平均値、ばらつき(標準偏差)をグラフ形式で表示し、このグラフ上でのカットオフ値設定を可能とすることにより、最適なカットオフ値設定を支援することが可能となる。
【0052】
次にステップS170において、測定精度評価情報を算出し、結果を表示手段240に表示する。 各キャリブレーション試料の各粒子の、各帯域の強度は、ある範囲をもって分布する。この時、前述のように各キャリブレーション試料の帯域強度分布は、分布の広がりが小さく、かつ分布の中心間の距離が短いほど測定時の誤差は小さくなる。そこで、キャリブレーション試料の帯域強度分布を確率分布とみなし、各分布間の重なりの大きさを精度評価情報として算出する。分布間の重なりが小さいほど、精度の高い測定を行うことができる。
【0053】
分布間の重なりを計算する原理を図12、13を用いて説明する。図12において、横軸501、縦軸502はそれぞれ帯域1、2の強度を表す。また、一点鎖線503、504はそれぞれ帯域1、2の強度に設定されたカットオフ値を表す。また、楕円505、506はそれぞれキャリブレーション試料1、2に含まれる粒子の蛍光から算出された、各帯域の強度分布の広がりを表す。この時、分布の重なりの領域は、楕円505、506の重なりから、カットオフ値により棄却される領域を除いた領域507となる。
【0054】
実際に重なりの大きさを計算する際には、楕円505、506で示した領域を、確率分布として表現する。説明を簡単にするために、帯域を1種類(例えば帯域1を選択)とした場合の2つの分布の確率分布の重なる様子を図13に示す。横軸501は帯域1の強度を表し、縦軸510は確率を表す。曲線511、512はそれぞれキャリブレーション試料1、2の確率分布を表し、一点鎖線513は帯域1の強度に設定されたカットオフ値を表す。この時、この2つの分布の重なりとして、2つの分布が重なる領域から、カットオフ値により棄却される領域を除いた領域514の面積を求める。実際には多次元分布であるため、多次元の体積を求める。
【0055】
上記原理に基づく、ステップS180における詳細な処理の例を、図11を参照して説明する。なお、図11に示す処理は図6における測定精度評価情報算出手段270が行う。なお、以下ではm種類のキャリブレーション試料を使用するものとして説明する。
【0056】
ステップS301〜S305の処理では、キャリブレーション用の各試料について、帯域強度の分布を表す確率分布を求めると共に、棄却率を求める。棄却率とは、カットオフ値により、ノイズとして棄却される粒子の割合である。まず、ステップS301で、キャリブレーション試料の種類を表す変数iに1を代入し初期化する。ステップS302では、キャリブレーション試料iの粒子の蛍光から得られる各帯域の強度分布を、確率分布に当てはめるためのパラメータを算出する。例えば確率分布として多次元正規分布を用いる場合には、分散共分散行列を求める。ただし、ここで用いる確率分布は正規分布に限定されない。その他の様々な確率分布を利用可能である。複数の確率分布を利用可能とし、ユーザーが選択できるようにしてもよい。なお、ここで算出したパラメータは、記憶手段210に記憶する。
【0057】
次にステップS303において、棄却率を計算する。棄却率はキャリブレーション試料で測定された実際のデータから、全粒子に対するカットオフ値により棄却される粒子の割合として計算することができる。また、S302で求めた確率分布を利用し、各帯域強度のカットオフ値以上の領域の、確率分布の積分値として求めてもよい。ここで求めた棄却率は記憶手段210に記憶する。
【0058】
ステップS304では、iをmと比較することにより、全てのキャリブレーション試料に関しS302、S303の処理を実施したかを判定する。全てのキャリブレーション試料について処理が終了した(i=m)場合には処理をステップS306に移す。処理が終了していない(i<m)場合には、ステップS305においてiに1を加えた後、ステップS302以降の処理を実行する。
【0059】
ステップS306〜ステップS312では、2種類のキャリブレーション試料間の、確率分布の重なりの大きさを計算する。ステップS306では、重なりを計算するための一方のキャリブレーション試料の種類を表す変数iに1を代入し、初期化する。また、ステップS307でもう一方のキャリブレーション試料の種類を表す変数jにi+1を代入し初期化する。
【0060】
ステップS308では、ステップS302で求めた確率分布を用い、図12、図13を用いて説明した原理によりキャリブレーション試料iとjの強度分布の重なりの大きさを計算する。計算結果は記憶手段210に記憶する。ステップS309では、jとmを比較することにより、キャリブレーション試料iに対するステップS308の全処理を終了したかどうかを判断する。全処理を終了した(j=m)場合、処理をステップS311に移す。まだ処理が残っている(j<m)場合、ステップS310でjに1を加えた後、ステップS308以降の処理を実行する。
【0061】
ステップS311では、iをm−1と比較することにより、キャリブレーション試料の全ての組み合わせについて分布の重なりを求める処理を実施したかどうかを判断する。もし全ての処理を実施した(i=m−1)場合には、処理をS313に移す。もし処理が残っている場合には、ステップS312でiに1を加えた後、ステップS307以降の処理を実行する。
【0062】
ステップS313では、算出した分布間の重なり、棄却率を測定精度評価情報として表示手段240に表示する。測定精度評価情報の表示例を図14に示す。マトリックス形式の表示となっており、「試料i」の行と、「試料j」の列が交差するセルの値は、試料iとjとの確率分布の重なりの大きさを表す。また、最下行には棄却率を表示する。
【0063】
次に、図5のステップS180において、ユーザーが測定精度評価情報を参照し、カットオフ値を再設定するかどうかを検討する。もし、再設定が必要と判断した場合には、ステップS160に戻り、カットオフ値を再設定する。カットオフ値を再設定しない場合には、ステップS190において、波長帯域の再設定が必要かどうかを検討する。もし、再設定が必要と判断した場合には、ステップS130に戻り帯域を再設定する。再設定の必要が無い場合には、ステップS104で測定用の波長帯域を決定する。
【0064】
なお、測定精度評価情報は、好ましくは平均蛍光スペクトル表示エリア300、帯域強度情報表示エリア400と同時に表示手段240に表示する。測定精度評価情報を表示することにより、ユーザーは帯域の設定の良否を、分布の重なりとして定量的に把握することが可能となり、正確な測定のための最適な帯域の設定を支援する。
【0065】
これらの図5に示すステップにおいては、ユーザが測定の条件や必要とされる精度に従って、各ステップを選択できるようにしておけばよい。また、各ステップで計算対象とする蛍光や検出器の選択、また、計算手法についても、ユーザの測定条件や精度にしたがって、選択できるようにしておけばよい。
【0066】
次にステップS105における検体の測定における処理フローを、図21を参照して詳細に説明する。検体の測定を行う際には、まず予め蛍光標識が行われた検体をユーザーが装置にセットし、測定の開始を指示する。測定開始の指示は、例えば信号処理手段106に接続されたキーボードを用いて行う。測定開始が指示されると、信号処理手段106がA/D変換器から出力されるPMTの信号強度データを読み込み(ステップS505)、蛍光の検出の有無を判断する(ステップS510)。例えばPMTの全チャネルに対し、予め閾値を設定しておき、少なくともひとつのチャンネルの出力値が閾値よりも大きかった場合に、蛍光が検出されたと判断する。蛍光が検出されなかった場合には処理をステップS505に戻し、再度PMTの信号強度を読み込む。
【0067】
ステップS510で蛍光が検出された場合には、ステップS515で、信号強度を帯域強度へ変換する。具体的には、ステップS104でユーザーが設定した帯域を記憶手段210より読み込み、設定内容に従い、複数のチャンネルの信号強度を加算し帯域強度とする。また、この時、ステップS160でユーザーが設定したカットオフ値を記憶手段210より読み込み、全ての帯域強度がカットオフ値より小さい粒子を棄却してもよい。そのような棄却を行う場合にはステップS520以降の処理を行わず、再度ステップS505から処理を行う。また、カットオフ値を用いた棄却処理を行わなくてもよい。この場合には、記憶手段に各粒子の帯域強度を記憶しておき、測定終了後に別のソフトウェアを用いてカットオフ値による棄却処理や蛍光補正処理を行うようにしてもよい。
【0068】
ステップS520では、ステップS515で算出した帯域強度に対し、蛍光補正処理を行う例を示す。ステップS515で算出した帯域強度と、実際の検体中の粒子の強度分布の関係は例えば図20(A)に示すようになる。すなわち、同一の検体中の粒子の帯域強度分布は、帯域強度を軸とする空間中で、ある傾きを持って分布する。ステップS520の蛍光補正では、この傾き方向を新たな軸とする変換を行う。具体的には多変量解析により、各分布の広がり方向を求め、この方向を軸とする座標変換処理を行う。この時、変換後の座標系で表される各粒子の帯域強度が負の数とならないよう、各座標軸の平行移動も行う。
【0069】
蛍光補正後の、試料中の2種類の粒子の帯域強度の分布の模式図を図22に示す。横軸1001、縦軸1002はそれぞれ蛍光補正後の新たな帯域強度Λ1’とΛ2’を表す。記号1003、1004はそれぞれ検体中に含まれる異なる種類の粒子が発する蛍光の帯域強度を表す。
このように、蛍光補正を行い,図22の状態にすると,(帯域Λ1’の強度)=(試料1(蛍光色素1)の発光強度)とすることができ、一種類の蛍光色素の発光を一つの強度で代表させることができる。
【0070】
本発明により、最適なチャンネル選択、カットオフ値の設定が可能となり、異なる種類の帯域強度の分布の重なる領域を小さくなる。その結果、高精度の測定が可能となる。
【0071】
ステップS525では測定終了か否かを判定し、測定を続行する場合には処理をステップS505に戻す。なお、測定終了の判断は、開始からの経過時間で判定し、開始から一定時間が経過した場合に測定を終了する。また、検体の残量をモニタし、残量が一定値以下になった時に終了してもよい。また、測定した検体の量をモニタし、測定した検体量が予め設定した量を超えた場合に測定を終了してもよい。
【0072】
以上述べたフローサイトメーターでは、キャリブレーション試料のスペクトルを算出し表示することにより、測定時の帯域を設定する際に、自家蛍光やピークシフトなどの影響を考慮した的確な帯域の設定が可能となる。また、設定した帯域について、帯域ごとの信号強度の分布に関する情報を算出、提示することにより、検体の測定を行う前に、測定精度についての情報を得ることが可能となり、目的に合致した最適な帯域の選択、およびカットオフ値の設定を支援することが可能となる。更に、設定した帯域について、キャリブレーション試料の分布の重なりを計算し、提示することにより、ユーザーは測定時の精度を定量的に把握することが可能となり、最適な帯域の選択の支援が可能となる。
【実施例2】
【0073】
実施例2では、実施例1で説明した図5のステップS140における波長帯域の測定強度情報の算出・表示方式の別の実施の形態について説明する。その他の処理は実施例1と同一であるため、説明は省略する。
【0074】
ステップS140において、キャリブレーション試料ごとに、検出された全粒子について、設定した各帯域の強度を算出する。各帯域の強度は、帯域に含まれる波長の強度(PMTの1チャネルで測定される強度)の和として計算する。計算した各帯域の強度は記憶手段210に記憶する。
【0075】
次に、表示手段240の帯域強度情報表示エリア400に、図17に示す画面を表示する。この画面では、任意の2種類の帯域を縦軸、横軸とする座標平面上に、選択したキャリブレーション試料の帯域強度の分布を記憶装置210から読み出して表示する。
【0076】
803は横軸に設定する帯域の番号を選択するリストボックスであり、804は縦軸に設定する帯域の番号を選択するリストボックスである。ユーザーはリストボックス803、804により、分布を確認したい帯域強度の番号を選択する。図17に示す例では、横軸801には帯域1が、縦軸802には帯域2が設定されている。807は座標上に分布を表示するキャリブレーション試料の番号を選択するチェックボックスである。ユーザーはマウスをクリックすることにより、分布を確認したいキャリブレーション試料を選択する。図17に示す例では、試料1と試料2が選択されている。
【0077】
以上の操作により、座標上には、選択した試料の帯域強度の分布が表示される。図17に示す例では、横軸801を帯域1の強度、縦軸802を帯域2とする座標上に、キャリブレーション試料1の帯域強度の分布805と、試料2の分布806が表示されている。
【0078】
また、本実施例においては、図5のステップS160におけるカットオフ値の設定は、図17に示す画面上で行う。ユーザーは横軸801、縦軸802のカットオフ値を設定したい位置をクリックすることにより、その位置の値がカットオフ値として設定される。更に、設定したカットオフ値に相当する線が、座標上に表示される。図17に示す例では、一点鎖線809が帯域1の強度に設定されたカットオフ値を表し、一点鎖線810が帯域2の強度に設定されたカットオフ値を表している。
【0079】
以上述べた第2の実施例では、座標軸上に帯域強度の分布を表示することにより、各キャリブレーション試料の帯域強度分布の形状や広がり、他の試料の分布との重なり、等を視覚的に把握することが可能となり、設定した帯域の良否が容易に判定できると共に、カットオフ値の設定も容易となる。
【実施例3】
【0080】
実施例3では、実施例1で説明した図5のステップS170における測定精度評価情報算出・表示方式の別の実施の形態について説明する。その他の処理は実施例1と同一であるため、説明は省略する。
【0081】
図18に、本実施例によるステップS170の詳細な処理フローを示す。なお、図18に示す処理は図6における測定精度評価情報算出手段270が行う。なお、以下ではm種類のキャリブレーション試料を用いることとして説明を行う。
【0082】
ステップS401〜S405の処理では、キャリブレーション用の各試料について、帯域強度の分布の主軸を求めると共に、棄却率を求める。棄却率とは、カットオフ値により、ノイズとして棄却される粒子の割合である。まず、ステップS401で、キャリブレーション試料の種類を表す変数iに1を代入し初期化する。ステップS402では、キャリブレーション試料iの粒子の蛍光から得られる各帯域の強度分布の主軸を求める。主軸とは、強度分布を多次元正規分布とみなした場合の、もっとも広がりを持つ方向を示す直線であり、多変量解析により求めることができる。求めた主軸は、記憶手段210に記憶する。
【0083】
次にステップS403において、棄却率を計算する。棄却率はキャリブレーション試料で測定された実際のデータから、全粒子に対するカットオフ値により棄却される粒子の割合として計算することができる。ここで求めた棄却率は記憶手段210に記憶する。
【0084】
ステップS404では、iをmと比較することにより、全てのキャリブレーション試料に関しS402、S403の処理を実施したかを判定する。全てのキャリブレーション試料について処理が終了した(i=m)場合には処理をステップS406に移す。処理が終了していない(i<m)場合には、ステップ405においてiに1を加えた後、ステップS402以降の処理を実行する。
【0085】
ステップS406〜ステップS412では、あるキャリブレーション試料の強度が、他のキャリブレーション試料の強度値に及ぼす影響を計算する。ステップS406では、重なりを計算するための一方のキャリブレーション試料の種類を表す変数iに1を代入し、初期化する。また、ステップS407でもう一方のキャリブレーション試料の種類を表す変数jに1を代入し初期化する。
【0086】
ステップS408では、ステップS402で求めた主軸を用い、キャリブレーション試料iの帯域強度分布の、キャリブレーション試料jの強度分布の主軸方向への射影成分を計算し、射影成分の分布を求める。例えば射影成分の平均値と標準偏差を求める。射影成分の算出の原理を図20に示す。横軸901と縦軸402はそれぞれ帯域1、2の強度を表す。図20(A)で、記号903は試料iの各粒子が発する蛍光の帯域1、2の強度を表し、記号904は試料jの各粒子の蛍光強度を表す。また、直線905はステップS402で求めた試料iの帯域強度分布の主軸を表し、直線906が試料jの帯域強度分布の主軸を表す。この時、図20(B)に示すように、試料iの帯域強度分布の各点から、試料jの強度分布の主軸906へ降ろした垂線907の足が射影成分を表す。すなわち、垂線と主軸906との交点と原点との距離が、射影成分となる。試料iの各粒子について主軸906の射影成分を算出、得られた射影成分の分布を求める。曲線908は求めた分布の形状を表す。例えばこの分布の平均値と標準偏差を求める。
【0087】
計算結果は記憶手段210に記憶する。ステップS409では、jとmを比較することにより、キャリブレーション試料iに対するステップS408の全処理を終了したかどうかを判断する。全処理を終了した(j=m)場合、処理をステップS411に移す。まだ処理が残っている(j<m)場合、ステップS410でjに1を加えた後、ステップS408以降の処理を実行する。
【0088】
ステップS411では、iをmと比較することにより、キャリブレーション試料の全ての組み合わせについて分布の重なりを求める処理を実施したかどうかを判断する。もし全ての処理を実施した(i=m)場合には、処理をS413に移す。もし処理が残っている場合には、ステップS412でiに1を加えた後、ステップS407以降の処理を実行する。
【0089】
ステップS413では、算出した主軸への射影分布、棄却率を測定精度評価情報として表示手段240に表示する。測定精度評価情報の表示例を図19に示す。マトリックス形式の表示となっており、「試料i」の行と、「試料j」の列が交差するセルの値は、試料iの強度分布の、試料jの分布主軸への射影の分布形状を表す。例えば、平均値±標準偏差、という形式で射影成分の分布形状を表示する。また、最下行には棄却率を表示する。
【0090】
キャリブレーション試料の強度分布の、主軸方向の成分は、その試料に添加した蛍光色素の発光強度を表す。そのため、他のキャリブレーション試料の強度分布の、同じ方向の成分は、多重染色による測定時においては蛍光強度の誤差成分として影響する。本実施例では、キャリブレーション相互の射影成分への影響を定量的に把握でき、多重染色で測定をする際の相互の誤差を予め見積もることが可能となる。よって、測定開始前の、最適な帯域の選択を支援することが可能となる。
【符号の説明】
【0091】
101:レーザー光源
102:フローセル
103:分光手段
104:フォトマルチプライヤー(PMT)
105:A/D変換器
106:信号処理手段
111:蛍光強度を表す軸
112:波長を表す軸
113:蛍光スペクトルを表す曲線
114:蛍光スペクトルを表す曲線
115:周波数範囲Λ1
116:周波数範囲Λ2
121:波長λ3の強度を表す軸
122:波長λ14の強度を表す軸
123:蛍光色素Aが発光した際に測定される信号の分布を表す記号
124:蛍光色素Bが発光した際に測定される信号の分布を表す記号
125:波長帯域Λ1の強度を表す軸
126:波長帯域Λ2の強度を表す軸
127:蛍光色素Aが発光した際に測定される信号の分布が広がる方向を示す破線
128:蛍光色素Bが発光した際に測定される信号の分布が広がる方向を示す破線
210:記憶手段
220:蛍光スペクトルデータ取得手段
230:スペクトル情報算出手段
240:表示手段
250:帯域設定手段
260:波長帯域強度算出手段
270:測定精度評価情報算出手段
280:カットオフ値設定手段
300:平均蛍光スペクトル表示エリア
301:試料1中の粒子の平均蛍光スペクトル
302:試料2中の粒子の平均蛍光スペクトル
303:試料3中の粒子の平均蛍光スペクトル
311:標準偏差を表すバー
320:帯域設定エリア
321:帯域1の範囲を表す矢印
322:帯域2の範囲を表す矢印
323:帯域3の範囲を表す矢印
400:帯域強度情報表示エリア
401:各帯域の蛍光強度を表す軸
402:帯域を表す軸
411:各帯域における蛍光強度の平均値を表すバー
412:各帯域における蛍光強度の標準偏差を表すバー
413:カットオフ値を表す破線
501:帯域1の信号強度を表す軸
502:帯域2の信号強度を表す軸
503:帯域1の強度に設定されたカットオフ値を示す一点鎖線
504:帯域2の強度に設定されたカットオフ値を示す一点鎖線
505:キャリブレーション試料1の帯域強度分布範囲を示す楕円
506:キャリブレーション試料2の帯域強度分布範囲を示す楕円
507:分布の重なりを示す領域。
510:確率を表す軸
511:キャリブレーション試料1の確率分布
512:キャリブレーション試料2の確率分布
513:帯域1の強度に設定されたカットオフ値を示す一点鎖線。
514:分布の重なりを示す領域。
610:蛍光染色された試料
620:シース液
630:フローセル
640:電気信号処理部
650:レーザー光
660:ダイクロイックミラー
670:バンドパスフィルター
680:フォトマルチプライヤー(PMT)
690:専用ソフトウェア
700:蛍光強度を表す軸
705:波長を表す軸
710:蛍光スペクトルを示す曲線
720:蛍光スペクトルを示す曲線
730:蛍光スペクトルを示す曲線
740:蛍光スペクトルの重なりを示す領域
750:従来方式で設定される検出波長帯域
760:分光器とマルチ検出器を用いて設定される検出波長帯域
770:一個の検出器で検出される波長帯域
801:帯域強度を表す軸
802:帯域強度を表す軸
803:帯域の番号を選択するリストボックス
804:帯域の番号を選択するリストボックス
805:試料1の帯域強度の分布を表す記号
806:試料2の帯域強度の分布を表す記号
807:試料の種類を選択するチェックボックス
809:カットオフ値を表す一点鎖線
810:カットオフ値を表す一点鎖線
901:帯域1の信号強度を表す軸。
902:帯域2の信号強度を表す軸。
903:試料1の帯域強度の分布を表す記号
904:試料2の帯域強度の分布を表す記号
905:試料1の信号強度分布の主軸
906:試料2の信号強度分布の主軸
907:試料1の信号強度から、試料2の信号強度分布主軸へ降ろした垂線
908:試料1の信号強度の、試料2の信号強度分布主軸への射影成分の分布形状を表す曲線
1001:蛍光補正後の帯域強度を表す軸
1002:蛍光補正後の帯域強度を表す軸
1003:検体中の粒子が発する蛍光の、蛍光補正後の帯域強度分布を表す記号
1004:検体中の粒子が発する蛍光の、蛍光補正後の帯域強度分布を表す記号
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローセル中の粒子(細胞も含む)の定量解析を行うフロー式粒子解析方法および装置に関する。特に後分光手段とマルチチャネル光検出手段を有したフロー式粒子解析方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フローセル中の粒子を定量解析する装置の一つにフローサイトメーターがある。フローサイトメーターは、蛍光標識した試料(細胞・粒子)をフロー中に流し、フローにレーザー光を当てて試料から発せられる散乱光や蛍光の強度を測定し、光強度から試料の性質を定量化する装置である。試料の蛍光標識は、細胞表面や細胞内部の特定対象物を標識することで、目的対象物の定量を行ったり、細胞の種類を判別したりするために行われる。通常、蛍光標識は単染色のみならず多重染色で行われる。多重染色を検出するための従来の装置構成例を図15に示す。蛍光染色された試料610は、シース液620で挟まれフローセル630内で細胞(粒子)を一つずつ一列に並べた試料の流れを形成する。試料610はレーザー光650により励起し、散乱光と蛍光を発生する。蛍光はダイクロイックミラー660で分割され、各々の蛍光の種類に合ったバンドパスフィルター670により、それぞれの蛍光として選択的に検出される。検出器にはPMT(Photo-Multiplier Tube:フォトマルチプライヤー)680等が用いられる。検出された光は、電気信号処理部640で電気的信号(電圧パルス)に変換後数値化され、専用ソフトウェア690でヒストグラム等の統計解析が行われる。しかしながら、この従来装置で、解析する蛍光色数を増加したい場合、フィルターセットと検出器を増設する必要があるので装置が大型、高価になる、ダイクロイックミラーによる蛍光強度の減衰が大きくなる、といった問題がある。また、蛍光数を増加しなくとも解析したい蛍光色を変更したい場合はそれに合わせたフィルターセットを新たに購入する必要があるといった問題もある。
【0003】
また近年、カルシウム等の細胞内イオンの濃度を測定できる蛍光色素を用いた細胞機能解析が広く行われている。これらの蛍光色素は、細胞の状態、例えばpHや温度によって蛍光の中心波長がシフトすることが知られている。しかしながら、上述した従来装置では検出できる蛍光波長帯域がフィルターによって制限されてしまい、また断続的なため、蛍光の中心波長(ピーク波長)のシフトを検出することが困難といった問題がある。
【0004】
これらの問題を考慮した装置構成が、特許文献1、特許文献2に開示されている。特許文献1は、マイクロタイタープレートリーダーに関するもの、特許文献2はレーザー顕微鏡に関するもので、いずれも従来装置のフィルターセットの代わりに回折格子やプリズム等の分光手段を用い、個々のPMTの代わりに多連PMTやCCD等のマルチ検出器を用いるといった装置構成が示されている。この構成により、フィルターの新規購入や交換等の作業が低減し、フィルターによる蛍光強度の減衰が抑えられるようになる。また、多重染色測定を行う場合、検出波長帯域を蛍光クロスオーバーの影響の少ない帯域に設定できるようになる。更に、検出幅が自由に設定できるので感度も自由に変えることができるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005-513497
【特許文献2】特開2003-057555
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図16に3種類の蛍光色素の蛍光スペクトルと、検出に用いる波長帯域の関係を模式的に示す。縦軸700は蛍光強度を表し、横軸705は波長を表す。曲線710、720、730はそれぞれ3種類の蛍光色素1、2、3のスペクトルを表す。この例では、楕円で囲んだ領域740において蛍光色素3のスペクトル730が小さなピークを有している。従来方式による装置では、バンドパスフィルターの特性により、記号750に示す3個の帯状の領域が検出波長帯域であるとする。この場合、一番短い波長領域の検出波長帯は、スペクトル710のピーク、スペクトル730の小さなピーク、スペクトル720のピークの左側の裾野部分、を含んでいるため、3種類の蛍光色素の蛍光の全てに対し信号を検出することがわかる。すなわち、3種類の蛍光色素の蛍光の分離精度が悪くなる。
【0007】
これに対し、分光器とマルチ検出器を用いた場合には、一個の検出器が検出する波長帯域770を単位として、任意の帯域を設定可能となる。例えば記号760に示す3個の帯状の領域のような波長帯域の設定が可能となる。もっとも短い波長側の帯域を、スペクトル710のピークのみを含むように設定することが可能となり、従来に比べ高い精度で各蛍光色素の蛍光を分離することが可能となる。
しかし、回折格子のような分光手段とマルチ検出器を用いた装置構成にした場合、図16で示したように、試料を測定する前に、目的蛍光を検出するための波長帯域を予め設定する必要がある。
【0008】
特許文献1では、試料と同じ蛍光で標識した標準試料を用いて蛍光スペクトル画像を取得し、ユーザーがオーバーラップの影響の少ない波長帯域を選択することが開示されている。しかしながら、実試料の測定を行った際、どれくらいの精度で目的の蛍光強度が目的外の蛍光強度と分離できているのか、評価する方法はない。よって、フローサイトメーターに適用した場合、ユーザーは実試料の測定中に、再度波長帯域設定を繰り返す等、実試料測定中の作業負担が大きくなるといったことが考えられる。
【0009】
特許文献2では、初めに波長帯域を設定するのではなく、レーザー顕微鏡で画像を取得した後にユーザーが最適な波長帯域を選択することが開示してある。この方法はリアルタイムに試料の蛍光強度測定を行う必要のあるフローサイトメーターには適用できない。
【0010】
すなわち、分光手段とマルチ検出器を用いたフローサイトメーターにおいては、リアルタイムの蛍光強度測定を行う前に、いかに最適な波長帯域を設定するか、ということが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本解析システムは、光源と、光源からの光を受けて光を発する試料を流すフローセルと、試料から発せられた光を分光する分光手段と、分光手段から出力された光を異なる波長毎に検出する複数の検出器を備えた検出部と、検出部により検出された光の信号を信号処理する処理手段と、信号処理への指示入力を受け付ける入力手段と、信号処理された結果を格納する記憶部と、処理された結果を表示する出力部とを備え、記憶部は、複数の異なる試料について、検出された光信号を、前記複数の検出器毎に格納しており、当該光信号について複数の検出器における強度を、異なる試料毎に出力部に表示し、当該複数の検出器のうち少なくともひとつの検出器が検出する波長帯域を入力手段により設定させる帯域設定手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、解析方法として、光源と、試料を流すフローセルと、光源からの光によりフローセルを流れる試料から発せられる光を分光する分光手段と、分光手段から出力された光を異なる波長毎に検出する複数の検出器と、検出器により検出された光信号を処理する処理手段と、データの記憶手段と、処理手段への入力を行う入力手段と、処理結果を出力する出力部とを用いる。記憶部は、フローセルに流された複数の異なる試料それぞれについて検出された光信号を、複数の検出器毎に記憶している。そして、複数の検出器における光信号の強度を、異なる試料毎に出力部に表示する工程と、複数の検出器のうち少なくとも一つの検出器が検出する波長帯域を入力手段により設定させる工程と、設定された波長帯域を記憶部に格納する工程と、フローセルに流される検体からの光を検出器により検出する工程と、設定された波長帯域を用い、検体の信号を出力部に出力する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
キャリブレーション試料のスペクトルを算出し表示することにより、測定時の帯域を設定する際に、自家蛍光やピークシフトなどの影響を考慮した的確な帯域の設定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】フローサイトメーターの概要を示す図。
【図2】フローサイトメーターによる測定の手順を示すフロー図。
【図3】蛍光色素の蛍光スペクトルの例を示す模式図。
【図4】蛍光色素が発光する際の信号強度の分布を模式的に示す図。
【図5】測定チャネル決定支援情報提示の詳細な処理フローを示す図。
【図6】測定チャネル決定支援情報提示を実施する装置の構成を示す図。
【図7】キャリブレーション試料の蛍光スペクトル算出・表示処理の詳細な処理フローを示す図。
【図8】キャリブレーション試料の蛍光スペクトル表示画面の例を示す図。
【図9】波長帯域の測定強度情報算出・表示処理の詳細な処理フローを示す図。
【図10】平均帯域強度・標準偏差の表示画面の例を示す図。
【図11】測定精度評価情報算出・表示処理の詳細な処理フローを示す図。
【図12】分布の重なりの算出方法を説明する図。
【図13】分布の重なりの算出方法を説明する図。
【図14】測定精度評価情報の表示例を示す図。
【図15】フローサイトメーターの従来の装置構成例を示す図。
【図16】分光器とマルチ検出器を用いた場合の検出波長帯域の設定例を示す図。
【図17】帯域強度分布を表示する画面例を示す図。
【図18】測定精度評価情報算出・表示処理の詳細な処理フローを示す図。
【図19】測定精度評価情報の表示例を示す図。
【図20】キャリブレーション試料の帯域強度の、他のキャリブレーション試料の帯域強度分布主軸への射影成分の算出方法を説明する図。
【図21】検体の測定の処理フローを示す図。
【図22】蛍光補正後、検体中粒子の帯域強度分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0015】
以下、フローサイトメーターに適用した実施の形態について図を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1はフローサイトメーターの概要を示す図である。予め蛍光標識された測定対象粒子を含む液体(以下検体と表現)は、フローセル102中を、図1の表から裏の方向へと一定の流速で通過する。フローセル102にはレーザー光源101より発せられるレーザー光が照射されている。フローセル102中を対象粒子が通過すると、蛍光色素がレーザー光により励起され、発光する。発光で生じた光は分光手段103により、複数の波長成分に分光され、分光された光は複数のPMTにより電気信号に変換される。PMT104から出力される電気信号は、A/D変換器105によりデジタル信号に変換され、信号処理手段106へ入力される。信号処理手段106では、各波長ごとに測定された蛍光の強度に基づき、検体中の粒子の分類や、粒子の成分、性質の分析などを行う。
【0017】
分光手段103は、集光のためのレンズと、回折格子により構成することが可能である。回折格子の代わりにプリズムを用いることも可能である。また、複数の光学フィルターとダイクロイックミラーにより構成してもよい。
【0018】
信号処理手段としては例えばキーボード、マウス、ディスプレイを備えたパーソナルコンピュータ(PC)を用いることができる。ただし、処理を高速化する場合にはPCの中、またはPCとA/D変換器105の間に高速演算用のボードを設置してもよい。また、PCでは無く全て専用ハードとして実現してもよい。ここでは、出力手段としてPCの画面上に表示すること、また、入力手段としてマウスやキーボードを用いた画面上の表示に対する指示入力を想定しているが、入出力できる形態であればこれに限られない。
【0019】
次に、図1に示すフローサイトメーターを利用して検体の測定を行う際の処理の流れを図2を参照して説明する。測定には複数の蛍光色素を用い、粒子の発する蛍光により、粒子の分析を行うものとする。
【0020】
測定を行うユーザーは、まず、検体の測定に先立ち、キャリブレーション用試料を準備する(ステップS101)。キャリブレーション用の試料とは、測定に用いる複数の蛍光色素の、1色ずつを用いて標識した試料である。例えばA、B、Cという3種類の色素を用いる場合、Aで標識した試料、Bで標識した試料、Cで標識した試料、の3種類の試料を用意する。キャリブレーション試料としては例えば予め標識されるように処理を行った微小なビーズを用いてもよいし、測定対象の検体の一部を用いてもよい。
【0021】
次に、キャリブレーション試料の蛍光スペクトルを測定する(ステップS102)。具体的には、キャリブレーション試料を図1に示すフローサイトメーターに流し、試料中の各粒子が発する蛍光の強度を図1に示す各PMTで電気信号に変換し、A/D変換器から出力された出力値を各チャネルごとに格納する。出力される値は信号処理装置(PC)106内の記憶装置に格納する。ここではPMTは全部で16個あるとする。この場合、各粒子ごとに16個のデータが得られ、これらを検出された粒子の分だけ格納する。以上の測定を、キャリブレーション試料の種類、すなわち用いる蛍光色素の種類の数と同じ回数分だけ行う。
【0022】
ここでは、説明を簡単にするため、上記のようにPMTは全部16個とし、各PMTで測定される光の波長はλ1〜λ16とする。また、用いる染色色素の種類はA、Bの2種類とする。また、蛍光色素は例えば図3に示すスペクトルを有するものとする。
【0023】
図3(A)は蛍光色素Aの、(B)は蛍光色素Bの、それぞれの蛍光スペクトルを模式的に示した図である。縦軸111は蛍光強度、横軸112は波長を表す。曲線113、114はそれぞれ蛍光色素A、Bの蛍光スペクトルを表す。また、横軸のλ1〜λ16は、16個のPMTによって計測される波長を表している。
【0024】
この2種類の蛍光色素を、測定する検体に添加した後測定を行う。検体中の粒子が発光する蛍光を測定することにより、A、Bそれぞれの蛍光色素がどれくらい結合しているかを推定し、粒子の性質の判別を行う。蛍光色素A、Bが図3(A)、(B)に示す蛍光スペクトルを有する場合、例えば波長λ3は蛍光色素Aの蛍光強度が非常に強く、蛍光色素Bによる蛍光はほとんど無い。逆に波長λ14は蛍光色素Bの蛍光強度が非常に強く、蛍光色素Aによる蛍光はほとんど無い。この時、波長λ3とλ14を検体の測定に用いると、粒子の発光強度のうちλ3の強度は蛍光色素Aの量を表し、λ14の強度は蛍光色素Bの量を表すことになる。すなわち波長λ3とλ14の強度を測定することにより、各粒子中の、蛍光色素Aにより標識された物質と、蛍光色素Bにより標識された物質の量が推定可能となる。
【0025】
しかしながら、図1に示す構成の装置を用いた場合、各PMTに入る光の波長帯域は非常に狭いため、一個一個のPMTに入る光量は非常に少ない。そのため、各PMTの信号は非常に小さく、ノイズが多くなる。理想的には、蛍光色素Aが発光する際には、波長λ3の強度のみが現れ、λ14の強度は0となる。逆に蛍光色素Bが発光する際には波長λ3の強度は0となり、λ14の強度のみが現れる。しかしながら、上記理由によるノイズが発生するため、蛍光色素Aのみが発光する場合にもλ14の強度が現れ、蛍光色素Bのみが発光する場合にもλ3の強度が現れる。図4(A)にこの時の信号強度の分布を模式的に示す。横軸121は波長λ3の強度を、縦軸122は波長λ14の強度を表す。また、記号123は蛍光色素Aが発光した際に測定されるλ3、λ14の信号強度の分布を表し、記号124は蛍光色素Bが発光した際に測定されるλ3、λ14の信号強度の分布を表す。図4において、一個の記号(点)は試料中の一個の粒子が発する蛍光強度を表す。
【0026】
ノイズの無い、理想的な場合には色素Aが発光した際の信号強度は横軸の上に分布し、色素Bが発光した際の信号強度は縦軸の上に分布する。この場合には波長λ3の強度を蛍光色素Aの発光強度とし、波長λ14の強度を蛍光色素Bの発光強度とすることが可能である。しかしながらノイズが多い場合には、図4(A)に示すように、色素Aが発光した際の分布は、縦軸方向にも広がり、色素Bが発光した際の分布は横軸方向にも広がる。すなわち、波長λ3の強度を蛍光色素Aの発光強度とし、波長λ14の強度を蛍光色素Bの発光強度とすると、蛍光色素Aのみが発光した場合にも、あたかも蛍光色素Bも微弱に発光したかのような誤差が生じる。
【0027】
このような誤差を少なくするためには、蛍光色素Aのみが発光した際の信号強度の分布の縦軸方向の広がりと、蛍光色素Bのみが発光した際の信号強度の分布の横軸方向の広がりをなるべく小さくする必要がある。ノイズの影響を減らし、分布の広がりをなるべく小さくするためには、複数のPMTの信号を加算すればよい。
【0028】
例えば、図3において、波長λ1〜λ6の帯域をΛ1とし、この範囲の波長の強度を加算し、Λ1の強度とする。また、波長λ11〜λ16の帯域をΛ2とし、この範囲の波長の強度を加算しΛ2の強度とする。Λ1、Λ2は複数の信号の加算であるため、ランダムなノイズは相殺され、相対的にノイズは小さくなる。しかしながら、図3(A)に示す蛍光色素Aの蛍光スペクトルは、波長λ11近辺にもわずかながら強度を持っているため、蛍光色素Aのみが発光した際にも、Λ2の強度もわずかではあるが測定される。また、逆に図3(B)に示す蛍光色素Bの蛍光スペクトルは、波長λ6近辺にもわずかながら強度を持っているため、蛍光色素Bのみが発光した際にも、Λ1の強度もわずかではあるが測定される。
【0029】
図4(B)に、この時の信号強度の分布を模式的に示す。横軸125、縦軸126はそれぞれ波長帯域Λ1、Λ2の強度を表す。蛍光色素Aのみが発光した場合の信号強度の分布123は、Λ1の強度は大きく、Λ2の強度は小さいため、破線127の方向に広がった分布となる。蛍光色素Bのみが発光した場合の信号強度の分布124は、Λ1の強度は小さく、Λ2の強度は大きいため、破線128の方向に広がった分布となる。この時、測定された信号強度を破線127に射影した長さを蛍光色素Aの発光強度、破線128に射影した長さを蛍光色素Bの発光強度と考えることができる。Λ1、Λ2はそれぞれ複数の波長の信号強度の加算であるため、ノイズ成分が少なくなり、蛍光色素Aのみが発光した場合の信号強度の分布123の、破線127に直行する方向の広がりは、図4(A)の縦軸方向の広がりに比べ小さくなる。また、蛍光色素Bのみが発光した場合の信号強度の分布124の、破線128に直行する方向の広がりは、図4(A)の横軸方向の広がりに比べ小さくなる。しかしながら、分布123と分布124の中心間の距離は、図4(A)に比べ短くなる。
【0030】
以上のことより、測定に用いる波長帯域を狭く選ぶと2種類の蛍光色素A、Bの発光強度分布の広がりが大きくなり誤差が大きくなる。また、測定に用いる波長帯域を広く選ぶと、分布の広がりは小さくなるものの、2つの分布間の距離が小さくなることによる誤差の影響が出てくる。このように、図1によるフローサイトメーターにおいては、どのように測定に用いる波長帯域(PMTのチャネル)を選択するかが、測定精度に大きく影響する。そこで、図2のステップS103において、ユーザーが測定に用いるチャネルを決定する際に、チャネルの選択を支援する情報を提示するようにした。
【0031】
図2のステップS104ではユーザーが測定に用いるチャネルを決定し、ステップS105で実際の検体の測定を実施する。
【0032】
次に、図2のステップS103における、測定チャネル決定支援情報提示の詳細の処理の例を、図5、図6を参照して詳細に説明する。図5はステップS103の更に詳細な処理フローを表し、図6は図5の処理を実行するための装置の構成を示す。なお、図6に示す処理は図1における信号処理手段106で実行され、図5の構成は信号処理手段の中で専用のハードウェアとして実装してもよいし、ソフトウェアの処理ブロックとして実装してもよい。なお、図2のステップS102において、図6に示す蛍光スペクトルデータ取得手段220によりキャリブレーション試料中の粒子が発する蛍光スペクトルを測定し、測定された蛍光スペクトルは記憶手段210に記憶するものとする。
【0033】
まず、図5のステップS120において、スペクトル情報算出手段230が、キャリブレーション試料中の粒子が発する蛍光スペクトルを算出し、算出したスペクトルを表示手段240上に表示する。ステップS120で行う処理を、図7を用いて更に詳細に説明する。ここでは、キャリブレーション試料の種類をm種類、PMTのチャンネル数をnとし、j番目のチャンネルで測定される光の波長をλjとする。まずステップS121で、キャリブレーション試料の種類を示す変数iに1を代入し、初期化する。次のステップS122において、PMTのチャネルを表す変数jに1を代入し、初期化する。
【0034】
次にステップS123でキャリブレーション試料i中の粒子が発光した光のうち、PMTのj番目のチャネルで測定された、各粒子のλjの信号強度を記憶装置210より読み出し、平均値μijを算出する。同様にステップS124で各粒子のλjの標準偏差σijを計算する。ステップS125では、変数jをnと比較し、キャリブレーション試料iの全ての波長について平均値と標準偏差を計算したかどうかを判定する。全ての波長について計算を行った(j=n)場合には処理をステップS127へと移す。まだ残っている波長がある場合(j<n)には、ステップS126でjに1を加え、次の波長についてS123からの処理を実行する。ここでは、全ての波長について平均値と標準偏差を計算するようにしたが、解析対象に応じて必要な情報を選択するようにしてもよい。
【0035】
ステップS127では、iをmと比較することにより、全てのキャリブレーション試料について計算を実行したかどうかを判定する。もし、全てのキャリブレーション試料について計算を終了した場合(i=m)には、処理をステップS129へ移す。もし、処理を行っていないキャリブレーション試料がある場合(i<m)には、ステップS128でiに1を加え、次のキャリブレーション試料についてステップS122からの処理を実行する。
【0036】
ステップS129では、計算した各波長(PMTの各チャネル)の信号の強度の平均値μijと標準偏差σijを、記憶手段210に格納し、平均蛍光スペクトルとして表示手段240に表示する。表示手段240に表示する画面の例を図8に示す。
【0037】
平均蛍光スペクトルは、表示手段240上の、平均蛍光スペクトル表示エリア300中に表示する。図8では、キャリブレーション試料の数が3種類の場合の例を示しており、3種類のスペクトルを表示している。それぞれ縦軸111は蛍光強度を表し、横軸112は波長を表す。曲線301、302、303はそれぞれ試料1、試料2、試料3の、各波長の信号強度の平均値(μ1j、μ2j、μ3j、ただしj=1〜n)をプロットした曲線であり、各試料中の粒子の平均的な蛍光スペクトルを表す。また、平均蛍光スペクトル上に表示されている垂直なバー311は、その波長における信号強度の標準偏差を表している。
【0038】
用いる蛍光色素は固有のスペクトルを有しているが、試料に蛍光色素を添加して測定した場合、自家蛍光など、蛍光色素の蛍光以外の予期せぬ蛍光や、ピークシフトなどを生じることがあり、蛍光色素の固有スペクトルと異なる形状を示すことがある。上記の通り、平均蛍光スペクトルを計算、表示することにより、測定時のスペクトルが蛍光色素の固有スペクトルと異なる場合にも、予めそのスペクトル形状を確認することが可能となり、より的確な波長帯域の設定が可能となり、正確な測定を支援することができる。
【0039】
また、蛍光色素の固有スペクトルは、試料中の染色された粒子全てに共通して観測されるため、各波長のスペクトルのばらつきは、強度のばらつきを反映したものとなり、全波長でほぼ同じばらつきになる。これに対し、自家蛍光や、ピークシフトなどは、試料中の一部の粒子(細胞)のみで生じるため、これらが影響する波長の強度分布のばらつきは大きくなると考えられる。そのため、平均スペクトルの各波長において、標準偏差を計算し、表示することにより、自家蛍光やピークシフトがどの波長において生じているかの推定が容易となり、より的確な波長帯域の設定が可能となり、正確な測定を支援することができる。
【0040】
次に、図5のステップS130において、ユーザーが測定用の波長帯域を設定する。ユーザーは図8の均蛍光スペクトル表示エリア300の下部の帯域設定エリア320を用いて、測定に使用する波長の帯域幅を設定する。この図では、3種類の帯域(帯域1、2、3)を設定する例を示している。ユーザーは、該当する帯域の両端をマウスでクリックするか、あるいは一方の端から他方の端までマウスをドラッグ&ドロップすることにより、帯域を設定する。図8の矢印321、322、333はそれぞれ帯域1、2、3に対し設定された波長帯域の例を示している。なお、帯域設定エリア320の画面の制御や、ユーザーが設定した帯域情報の読み出しは帯域設定手段250が行う。また、ユーザーが設定した帯域は、記憶手段210に記憶する。
【0041】
次に、図5のステップS140において、波長帯域強度算出手段260が、キャリブレーション試料中の粒子の蛍光から、ステップS130において設定した各帯域の信号強度を計算し、それぞれの帯域における信号強度の平均値、標準偏差を算出し、算出した結果を記憶手段210に格納し、表示手段240上に表示する。ステップS140で行う処理を、図9を用いて更に詳細に説明する。ここでは、キャリブレーション試料の種類をm種類、ユーザーが設定した帯域の数をpとする。まずステップS201で、キャリブレーション試料の種類を示す変数iに1を代入し、初期化する。次のステップS202において、帯域番号を表す変数kに1を代入し、初期化する。
【0042】
次にステップS203でキャリブレーション試料i中の各粒子について、PMTの各チャンネルにより測定された信号から、ユーザーが設定した波長帯域kの信号強度を計算する。具体的には、例えば帯域1に入る波長(PMTのチャネル)の信号の総和を、その帯域の信号強度とする。例えば帯域1が波長λ1、λ2、λ3を含むものとし、ある粒子のλ1、λ2、λ3の強度がr1、r2、r3であったとする。この時、その粒子の、帯域1の強度をR1とすると、R1=r1+r2+r3により計算する。計算した各粒子の帯域kの信号強度は、記憶手段210に記憶する。
【0043】
ステップS203で計算した、帯域kの信号強度を利用し、ステップS204で帯域kの信号強度の平均値Mikを算出する。同様にステップS205で帯域kの信号強度の標準偏差Sikを計算する。ステップS206では、変数kをpと比較し、キャリブレーション試料iの全ての帯域について平均値と標準偏差を計算したかどうかを判定する。全ての帯域について計算を行った(k=p)場合には処理をステップS208へと移す。まだ残っている帯域がある場合(k<p)には、ステップS207でkに1を加え、次の帯域についてS203からの処理を実行する。
【0044】
ステップS208では、iをmと比較することにより、全てのキャリブレーション試料について計算を実行したかどうかを判定する。もし、全てのキャリブレーション試料について計算を終了した場合(i=m)には、処理をステップS210へ移す。もし処理を行っていないキャリブレーション試料がある場合(i<m)には、ステップS209でiに1を加え、次のキャリブレーション試料についてステップS202からの処理を実行する。
【0045】
ステップS210では、計算した各帯域における信号強度の平均値Mikと標準偏差Sikを、記憶手段210から読み出し、グラフ形式で表示手段240に表示する。表示手段240に表示する画面の例を図10に示す。
【0046】
帯域ごとの信号強度の平均値、標準偏差は、表示手段240上の、帯域強度情報表示エリア400中に表示する。図10では、キャリブレーション試料の数が3種類の場合の例を示しており、3種類のグラフを表示している。それぞれ縦軸401は各帯域の信号強度を表し、横軸402は帯域を表す。長方形状のバー411は各帯域の信号強度の平均値を表し、バー411上に線分で表示されているバー412は、その帯域における信号強度の標準偏差を表している。
【0047】
各蛍光色素による蛍光を高精度に分離するためには、各キャリブレーション試料について、その試料のみで強い信号強度を示し、他のキャリブレーション試料ではなるべく低い信号強度を示す帯域があること、また、各帯域における信号強度のばらつきが少ないこと、が必要条件となる。上記の通り、キャリブレーション試料ごとに、各帯域の信号強度とばらつき(標準偏差)を算出し、図10のように表示することにより、検体の測定を開始する前に、帯域の選択の良否を把握することが可能となる。ここでは、全ての帯域について平均帯域強度と標準偏差を計算するようにしたが、解析対象に応じて必要な情報を選択するようにしてもよい。
【0048】
図5に示すステップS150の例においては、ユーザーが図10に示す画面例により各帯域の信号強度、ばらつきを確認し、この帯域設定で測定を行うかを判断する。もし再設定が必要と判断した場合には、処理をステップS130に戻し、再度測定用の波長帯域を設定する。再設定が必要ない場合には、処理をステップS160に移す。
【0049】
なお、帯域強度情報表示エリア400は、平均蛍光スペクトル表示エリア300と同時に表示することが好ましい。同時に表示することにより、どこに帯域を設定したか、という情報と、その結果の良否を同時に把握することが可能になり、効率的に帯域の設定を行うことが可能となる。
【0050】
ステップS160は、ユーザーがカットオフ値を設定する例である。カットオフ値とは、ノイズレベルのことであり、この値以下の信号はノイズとして棄却するための設定値である。カットオフ値の設定は図10に示す帯域強度情報表示エリア400上で行う。カットオフ値は帯域ごとに異なる値を設定可能とし、各帯域の信号強度の平均値を示す長方形のバー411上の、カットオフ値を設定したいポイントをクリックすることにより、その値が設定される。設定されたカットオフ値の位置には、破線413を表示する。どれか一つのグラフ上でカットオフ値を設定すると、他のグラフの同じ位置にもカットオフ値を示す破線413が表示されるようにするとよい。これらのカットオフ値の設定のための画面制御、ユーザーにより設定されたカットオフ値の読み込みはカットオフ値設定手段280が行い、設定されたカットオフ値は記憶手段210に記憶する。
【0051】
カットオフ値は、ノイズ成分をできるだけ棄却するとともに、計測したい信号はなるべく棄却しないように設定する必要がある。上記のようにキャリブレーション試料ごとに、各帯域の強度の平均値、ばらつき(標準偏差)をグラフ形式で表示し、このグラフ上でのカットオフ値設定を可能とすることにより、最適なカットオフ値設定を支援することが可能となる。
【0052】
次にステップS170において、測定精度評価情報を算出し、結果を表示手段240に表示する。 各キャリブレーション試料の各粒子の、各帯域の強度は、ある範囲をもって分布する。この時、前述のように各キャリブレーション試料の帯域強度分布は、分布の広がりが小さく、かつ分布の中心間の距離が短いほど測定時の誤差は小さくなる。そこで、キャリブレーション試料の帯域強度分布を確率分布とみなし、各分布間の重なりの大きさを精度評価情報として算出する。分布間の重なりが小さいほど、精度の高い測定を行うことができる。
【0053】
分布間の重なりを計算する原理を図12、13を用いて説明する。図12において、横軸501、縦軸502はそれぞれ帯域1、2の強度を表す。また、一点鎖線503、504はそれぞれ帯域1、2の強度に設定されたカットオフ値を表す。また、楕円505、506はそれぞれキャリブレーション試料1、2に含まれる粒子の蛍光から算出された、各帯域の強度分布の広がりを表す。この時、分布の重なりの領域は、楕円505、506の重なりから、カットオフ値により棄却される領域を除いた領域507となる。
【0054】
実際に重なりの大きさを計算する際には、楕円505、506で示した領域を、確率分布として表現する。説明を簡単にするために、帯域を1種類(例えば帯域1を選択)とした場合の2つの分布の確率分布の重なる様子を図13に示す。横軸501は帯域1の強度を表し、縦軸510は確率を表す。曲線511、512はそれぞれキャリブレーション試料1、2の確率分布を表し、一点鎖線513は帯域1の強度に設定されたカットオフ値を表す。この時、この2つの分布の重なりとして、2つの分布が重なる領域から、カットオフ値により棄却される領域を除いた領域514の面積を求める。実際には多次元分布であるため、多次元の体積を求める。
【0055】
上記原理に基づく、ステップS180における詳細な処理の例を、図11を参照して説明する。なお、図11に示す処理は図6における測定精度評価情報算出手段270が行う。なお、以下ではm種類のキャリブレーション試料を使用するものとして説明する。
【0056】
ステップS301〜S305の処理では、キャリブレーション用の各試料について、帯域強度の分布を表す確率分布を求めると共に、棄却率を求める。棄却率とは、カットオフ値により、ノイズとして棄却される粒子の割合である。まず、ステップS301で、キャリブレーション試料の種類を表す変数iに1を代入し初期化する。ステップS302では、キャリブレーション試料iの粒子の蛍光から得られる各帯域の強度分布を、確率分布に当てはめるためのパラメータを算出する。例えば確率分布として多次元正規分布を用いる場合には、分散共分散行列を求める。ただし、ここで用いる確率分布は正規分布に限定されない。その他の様々な確率分布を利用可能である。複数の確率分布を利用可能とし、ユーザーが選択できるようにしてもよい。なお、ここで算出したパラメータは、記憶手段210に記憶する。
【0057】
次にステップS303において、棄却率を計算する。棄却率はキャリブレーション試料で測定された実際のデータから、全粒子に対するカットオフ値により棄却される粒子の割合として計算することができる。また、S302で求めた確率分布を利用し、各帯域強度のカットオフ値以上の領域の、確率分布の積分値として求めてもよい。ここで求めた棄却率は記憶手段210に記憶する。
【0058】
ステップS304では、iをmと比較することにより、全てのキャリブレーション試料に関しS302、S303の処理を実施したかを判定する。全てのキャリブレーション試料について処理が終了した(i=m)場合には処理をステップS306に移す。処理が終了していない(i<m)場合には、ステップS305においてiに1を加えた後、ステップS302以降の処理を実行する。
【0059】
ステップS306〜ステップS312では、2種類のキャリブレーション試料間の、確率分布の重なりの大きさを計算する。ステップS306では、重なりを計算するための一方のキャリブレーション試料の種類を表す変数iに1を代入し、初期化する。また、ステップS307でもう一方のキャリブレーション試料の種類を表す変数jにi+1を代入し初期化する。
【0060】
ステップS308では、ステップS302で求めた確率分布を用い、図12、図13を用いて説明した原理によりキャリブレーション試料iとjの強度分布の重なりの大きさを計算する。計算結果は記憶手段210に記憶する。ステップS309では、jとmを比較することにより、キャリブレーション試料iに対するステップS308の全処理を終了したかどうかを判断する。全処理を終了した(j=m)場合、処理をステップS311に移す。まだ処理が残っている(j<m)場合、ステップS310でjに1を加えた後、ステップS308以降の処理を実行する。
【0061】
ステップS311では、iをm−1と比較することにより、キャリブレーション試料の全ての組み合わせについて分布の重なりを求める処理を実施したかどうかを判断する。もし全ての処理を実施した(i=m−1)場合には、処理をS313に移す。もし処理が残っている場合には、ステップS312でiに1を加えた後、ステップS307以降の処理を実行する。
【0062】
ステップS313では、算出した分布間の重なり、棄却率を測定精度評価情報として表示手段240に表示する。測定精度評価情報の表示例を図14に示す。マトリックス形式の表示となっており、「試料i」の行と、「試料j」の列が交差するセルの値は、試料iとjとの確率分布の重なりの大きさを表す。また、最下行には棄却率を表示する。
【0063】
次に、図5のステップS180において、ユーザーが測定精度評価情報を参照し、カットオフ値を再設定するかどうかを検討する。もし、再設定が必要と判断した場合には、ステップS160に戻り、カットオフ値を再設定する。カットオフ値を再設定しない場合には、ステップS190において、波長帯域の再設定が必要かどうかを検討する。もし、再設定が必要と判断した場合には、ステップS130に戻り帯域を再設定する。再設定の必要が無い場合には、ステップS104で測定用の波長帯域を決定する。
【0064】
なお、測定精度評価情報は、好ましくは平均蛍光スペクトル表示エリア300、帯域強度情報表示エリア400と同時に表示手段240に表示する。測定精度評価情報を表示することにより、ユーザーは帯域の設定の良否を、分布の重なりとして定量的に把握することが可能となり、正確な測定のための最適な帯域の設定を支援する。
【0065】
これらの図5に示すステップにおいては、ユーザが測定の条件や必要とされる精度に従って、各ステップを選択できるようにしておけばよい。また、各ステップで計算対象とする蛍光や検出器の選択、また、計算手法についても、ユーザの測定条件や精度にしたがって、選択できるようにしておけばよい。
【0066】
次にステップS105における検体の測定における処理フローを、図21を参照して詳細に説明する。検体の測定を行う際には、まず予め蛍光標識が行われた検体をユーザーが装置にセットし、測定の開始を指示する。測定開始の指示は、例えば信号処理手段106に接続されたキーボードを用いて行う。測定開始が指示されると、信号処理手段106がA/D変換器から出力されるPMTの信号強度データを読み込み(ステップS505)、蛍光の検出の有無を判断する(ステップS510)。例えばPMTの全チャネルに対し、予め閾値を設定しておき、少なくともひとつのチャンネルの出力値が閾値よりも大きかった場合に、蛍光が検出されたと判断する。蛍光が検出されなかった場合には処理をステップS505に戻し、再度PMTの信号強度を読み込む。
【0067】
ステップS510で蛍光が検出された場合には、ステップS515で、信号強度を帯域強度へ変換する。具体的には、ステップS104でユーザーが設定した帯域を記憶手段210より読み込み、設定内容に従い、複数のチャンネルの信号強度を加算し帯域強度とする。また、この時、ステップS160でユーザーが設定したカットオフ値を記憶手段210より読み込み、全ての帯域強度がカットオフ値より小さい粒子を棄却してもよい。そのような棄却を行う場合にはステップS520以降の処理を行わず、再度ステップS505から処理を行う。また、カットオフ値を用いた棄却処理を行わなくてもよい。この場合には、記憶手段に各粒子の帯域強度を記憶しておき、測定終了後に別のソフトウェアを用いてカットオフ値による棄却処理や蛍光補正処理を行うようにしてもよい。
【0068】
ステップS520では、ステップS515で算出した帯域強度に対し、蛍光補正処理を行う例を示す。ステップS515で算出した帯域強度と、実際の検体中の粒子の強度分布の関係は例えば図20(A)に示すようになる。すなわち、同一の検体中の粒子の帯域強度分布は、帯域強度を軸とする空間中で、ある傾きを持って分布する。ステップS520の蛍光補正では、この傾き方向を新たな軸とする変換を行う。具体的には多変量解析により、各分布の広がり方向を求め、この方向を軸とする座標変換処理を行う。この時、変換後の座標系で表される各粒子の帯域強度が負の数とならないよう、各座標軸の平行移動も行う。
【0069】
蛍光補正後の、試料中の2種類の粒子の帯域強度の分布の模式図を図22に示す。横軸1001、縦軸1002はそれぞれ蛍光補正後の新たな帯域強度Λ1’とΛ2’を表す。記号1003、1004はそれぞれ検体中に含まれる異なる種類の粒子が発する蛍光の帯域強度を表す。
このように、蛍光補正を行い,図22の状態にすると,(帯域Λ1’の強度)=(試料1(蛍光色素1)の発光強度)とすることができ、一種類の蛍光色素の発光を一つの強度で代表させることができる。
【0070】
本発明により、最適なチャンネル選択、カットオフ値の設定が可能となり、異なる種類の帯域強度の分布の重なる領域を小さくなる。その結果、高精度の測定が可能となる。
【0071】
ステップS525では測定終了か否かを判定し、測定を続行する場合には処理をステップS505に戻す。なお、測定終了の判断は、開始からの経過時間で判定し、開始から一定時間が経過した場合に測定を終了する。また、検体の残量をモニタし、残量が一定値以下になった時に終了してもよい。また、測定した検体の量をモニタし、測定した検体量が予め設定した量を超えた場合に測定を終了してもよい。
【0072】
以上述べたフローサイトメーターでは、キャリブレーション試料のスペクトルを算出し表示することにより、測定時の帯域を設定する際に、自家蛍光やピークシフトなどの影響を考慮した的確な帯域の設定が可能となる。また、設定した帯域について、帯域ごとの信号強度の分布に関する情報を算出、提示することにより、検体の測定を行う前に、測定精度についての情報を得ることが可能となり、目的に合致した最適な帯域の選択、およびカットオフ値の設定を支援することが可能となる。更に、設定した帯域について、キャリブレーション試料の分布の重なりを計算し、提示することにより、ユーザーは測定時の精度を定量的に把握することが可能となり、最適な帯域の選択の支援が可能となる。
【実施例2】
【0073】
実施例2では、実施例1で説明した図5のステップS140における波長帯域の測定強度情報の算出・表示方式の別の実施の形態について説明する。その他の処理は実施例1と同一であるため、説明は省略する。
【0074】
ステップS140において、キャリブレーション試料ごとに、検出された全粒子について、設定した各帯域の強度を算出する。各帯域の強度は、帯域に含まれる波長の強度(PMTの1チャネルで測定される強度)の和として計算する。計算した各帯域の強度は記憶手段210に記憶する。
【0075】
次に、表示手段240の帯域強度情報表示エリア400に、図17に示す画面を表示する。この画面では、任意の2種類の帯域を縦軸、横軸とする座標平面上に、選択したキャリブレーション試料の帯域強度の分布を記憶装置210から読み出して表示する。
【0076】
803は横軸に設定する帯域の番号を選択するリストボックスであり、804は縦軸に設定する帯域の番号を選択するリストボックスである。ユーザーはリストボックス803、804により、分布を確認したい帯域強度の番号を選択する。図17に示す例では、横軸801には帯域1が、縦軸802には帯域2が設定されている。807は座標上に分布を表示するキャリブレーション試料の番号を選択するチェックボックスである。ユーザーはマウスをクリックすることにより、分布を確認したいキャリブレーション試料を選択する。図17に示す例では、試料1と試料2が選択されている。
【0077】
以上の操作により、座標上には、選択した試料の帯域強度の分布が表示される。図17に示す例では、横軸801を帯域1の強度、縦軸802を帯域2とする座標上に、キャリブレーション試料1の帯域強度の分布805と、試料2の分布806が表示されている。
【0078】
また、本実施例においては、図5のステップS160におけるカットオフ値の設定は、図17に示す画面上で行う。ユーザーは横軸801、縦軸802のカットオフ値を設定したい位置をクリックすることにより、その位置の値がカットオフ値として設定される。更に、設定したカットオフ値に相当する線が、座標上に表示される。図17に示す例では、一点鎖線809が帯域1の強度に設定されたカットオフ値を表し、一点鎖線810が帯域2の強度に設定されたカットオフ値を表している。
【0079】
以上述べた第2の実施例では、座標軸上に帯域強度の分布を表示することにより、各キャリブレーション試料の帯域強度分布の形状や広がり、他の試料の分布との重なり、等を視覚的に把握することが可能となり、設定した帯域の良否が容易に判定できると共に、カットオフ値の設定も容易となる。
【実施例3】
【0080】
実施例3では、実施例1で説明した図5のステップS170における測定精度評価情報算出・表示方式の別の実施の形態について説明する。その他の処理は実施例1と同一であるため、説明は省略する。
【0081】
図18に、本実施例によるステップS170の詳細な処理フローを示す。なお、図18に示す処理は図6における測定精度評価情報算出手段270が行う。なお、以下ではm種類のキャリブレーション試料を用いることとして説明を行う。
【0082】
ステップS401〜S405の処理では、キャリブレーション用の各試料について、帯域強度の分布の主軸を求めると共に、棄却率を求める。棄却率とは、カットオフ値により、ノイズとして棄却される粒子の割合である。まず、ステップS401で、キャリブレーション試料の種類を表す変数iに1を代入し初期化する。ステップS402では、キャリブレーション試料iの粒子の蛍光から得られる各帯域の強度分布の主軸を求める。主軸とは、強度分布を多次元正規分布とみなした場合の、もっとも広がりを持つ方向を示す直線であり、多変量解析により求めることができる。求めた主軸は、記憶手段210に記憶する。
【0083】
次にステップS403において、棄却率を計算する。棄却率はキャリブレーション試料で測定された実際のデータから、全粒子に対するカットオフ値により棄却される粒子の割合として計算することができる。ここで求めた棄却率は記憶手段210に記憶する。
【0084】
ステップS404では、iをmと比較することにより、全てのキャリブレーション試料に関しS402、S403の処理を実施したかを判定する。全てのキャリブレーション試料について処理が終了した(i=m)場合には処理をステップS406に移す。処理が終了していない(i<m)場合には、ステップ405においてiに1を加えた後、ステップS402以降の処理を実行する。
【0085】
ステップS406〜ステップS412では、あるキャリブレーション試料の強度が、他のキャリブレーション試料の強度値に及ぼす影響を計算する。ステップS406では、重なりを計算するための一方のキャリブレーション試料の種類を表す変数iに1を代入し、初期化する。また、ステップS407でもう一方のキャリブレーション試料の種類を表す変数jに1を代入し初期化する。
【0086】
ステップS408では、ステップS402で求めた主軸を用い、キャリブレーション試料iの帯域強度分布の、キャリブレーション試料jの強度分布の主軸方向への射影成分を計算し、射影成分の分布を求める。例えば射影成分の平均値と標準偏差を求める。射影成分の算出の原理を図20に示す。横軸901と縦軸402はそれぞれ帯域1、2の強度を表す。図20(A)で、記号903は試料iの各粒子が発する蛍光の帯域1、2の強度を表し、記号904は試料jの各粒子の蛍光強度を表す。また、直線905はステップS402で求めた試料iの帯域強度分布の主軸を表し、直線906が試料jの帯域強度分布の主軸を表す。この時、図20(B)に示すように、試料iの帯域強度分布の各点から、試料jの強度分布の主軸906へ降ろした垂線907の足が射影成分を表す。すなわち、垂線と主軸906との交点と原点との距離が、射影成分となる。試料iの各粒子について主軸906の射影成分を算出、得られた射影成分の分布を求める。曲線908は求めた分布の形状を表す。例えばこの分布の平均値と標準偏差を求める。
【0087】
計算結果は記憶手段210に記憶する。ステップS409では、jとmを比較することにより、キャリブレーション試料iに対するステップS408の全処理を終了したかどうかを判断する。全処理を終了した(j=m)場合、処理をステップS411に移す。まだ処理が残っている(j<m)場合、ステップS410でjに1を加えた後、ステップS408以降の処理を実行する。
【0088】
ステップS411では、iをmと比較することにより、キャリブレーション試料の全ての組み合わせについて分布の重なりを求める処理を実施したかどうかを判断する。もし全ての処理を実施した(i=m)場合には、処理をS413に移す。もし処理が残っている場合には、ステップS412でiに1を加えた後、ステップS407以降の処理を実行する。
【0089】
ステップS413では、算出した主軸への射影分布、棄却率を測定精度評価情報として表示手段240に表示する。測定精度評価情報の表示例を図19に示す。マトリックス形式の表示となっており、「試料i」の行と、「試料j」の列が交差するセルの値は、試料iの強度分布の、試料jの分布主軸への射影の分布形状を表す。例えば、平均値±標準偏差、という形式で射影成分の分布形状を表示する。また、最下行には棄却率を表示する。
【0090】
キャリブレーション試料の強度分布の、主軸方向の成分は、その試料に添加した蛍光色素の発光強度を表す。そのため、他のキャリブレーション試料の強度分布の、同じ方向の成分は、多重染色による測定時においては蛍光強度の誤差成分として影響する。本実施例では、キャリブレーション相互の射影成分への影響を定量的に把握でき、多重染色で測定をする際の相互の誤差を予め見積もることが可能となる。よって、測定開始前の、最適な帯域の選択を支援することが可能となる。
【符号の説明】
【0091】
101:レーザー光源
102:フローセル
103:分光手段
104:フォトマルチプライヤー(PMT)
105:A/D変換器
106:信号処理手段
111:蛍光強度を表す軸
112:波長を表す軸
113:蛍光スペクトルを表す曲線
114:蛍光スペクトルを表す曲線
115:周波数範囲Λ1
116:周波数範囲Λ2
121:波長λ3の強度を表す軸
122:波長λ14の強度を表す軸
123:蛍光色素Aが発光した際に測定される信号の分布を表す記号
124:蛍光色素Bが発光した際に測定される信号の分布を表す記号
125:波長帯域Λ1の強度を表す軸
126:波長帯域Λ2の強度を表す軸
127:蛍光色素Aが発光した際に測定される信号の分布が広がる方向を示す破線
128:蛍光色素Bが発光した際に測定される信号の分布が広がる方向を示す破線
210:記憶手段
220:蛍光スペクトルデータ取得手段
230:スペクトル情報算出手段
240:表示手段
250:帯域設定手段
260:波長帯域強度算出手段
270:測定精度評価情報算出手段
280:カットオフ値設定手段
300:平均蛍光スペクトル表示エリア
301:試料1中の粒子の平均蛍光スペクトル
302:試料2中の粒子の平均蛍光スペクトル
303:試料3中の粒子の平均蛍光スペクトル
311:標準偏差を表すバー
320:帯域設定エリア
321:帯域1の範囲を表す矢印
322:帯域2の範囲を表す矢印
323:帯域3の範囲を表す矢印
400:帯域強度情報表示エリア
401:各帯域の蛍光強度を表す軸
402:帯域を表す軸
411:各帯域における蛍光強度の平均値を表すバー
412:各帯域における蛍光強度の標準偏差を表すバー
413:カットオフ値を表す破線
501:帯域1の信号強度を表す軸
502:帯域2の信号強度を表す軸
503:帯域1の強度に設定されたカットオフ値を示す一点鎖線
504:帯域2の強度に設定されたカットオフ値を示す一点鎖線
505:キャリブレーション試料1の帯域強度分布範囲を示す楕円
506:キャリブレーション試料2の帯域強度分布範囲を示す楕円
507:分布の重なりを示す領域。
510:確率を表す軸
511:キャリブレーション試料1の確率分布
512:キャリブレーション試料2の確率分布
513:帯域1の強度に設定されたカットオフ値を示す一点鎖線。
514:分布の重なりを示す領域。
610:蛍光染色された試料
620:シース液
630:フローセル
640:電気信号処理部
650:レーザー光
660:ダイクロイックミラー
670:バンドパスフィルター
680:フォトマルチプライヤー(PMT)
690:専用ソフトウェア
700:蛍光強度を表す軸
705:波長を表す軸
710:蛍光スペクトルを示す曲線
720:蛍光スペクトルを示す曲線
730:蛍光スペクトルを示す曲線
740:蛍光スペクトルの重なりを示す領域
750:従来方式で設定される検出波長帯域
760:分光器とマルチ検出器を用いて設定される検出波長帯域
770:一個の検出器で検出される波長帯域
801:帯域強度を表す軸
802:帯域強度を表す軸
803:帯域の番号を選択するリストボックス
804:帯域の番号を選択するリストボックス
805:試料1の帯域強度の分布を表す記号
806:試料2の帯域強度の分布を表す記号
807:試料の種類を選択するチェックボックス
809:カットオフ値を表す一点鎖線
810:カットオフ値を表す一点鎖線
901:帯域1の信号強度を表す軸。
902:帯域2の信号強度を表す軸。
903:試料1の帯域強度の分布を表す記号
904:試料2の帯域強度の分布を表す記号
905:試料1の信号強度分布の主軸
906:試料2の信号強度分布の主軸
907:試料1の信号強度から、試料2の信号強度分布主軸へ降ろした垂線
908:試料1の信号強度の、試料2の信号強度分布主軸への射影成分の分布形状を表す曲線
1001:蛍光補正後の帯域強度を表す軸
1002:蛍光補正後の帯域強度を表す軸
1003:検体中の粒子が発する蛍光の、蛍光補正後の帯域強度分布を表す記号
1004:検体中の粒子が発する蛍光の、蛍光補正後の帯域強度分布を表す記号
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を受けて光を発する試料を流すフローセルと、
前記試料から発せられた光を分光する分光手段と、
前記分光手段から出力された光を異なる波長毎に検出する複数の検出器を備えた検出部と、
前記検出部により検出された光の信号を信号処理する処理手段と、
前記信号処理への指示入力を受け付ける入力手段と、
前記信号処理された結果を格納する記憶部と、
処理された結果を表示する出力部と、を備え、
前記記憶部は、複数の異なる試料について、検出された光信号を、前記複数の検出器毎に格納しており、前記光信号について前記複数の検出器における強度を、前記異なる試料毎に前記出力部に表示し、前記複数の検出器のうち少なくともひとつの検出器が検出する波長帯域を前記入力手段により設定させる帯域設定手段と、を有することを特徴とする解析装置。
【請求項2】
前記帯域設定手段により設定された波長帯域の光信号の強度を算出し、前記複数の異なる試料毎に前記記憶部に格納する波長帯域強度算出手段を有することを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項3】
前記波長帯域強度算出手段により記憶装置に格納された前記複数の異なる試料毎の前記波長帯域の光信号の強度を前記出力部に出力し、一定の強度以下の信号を棄却するための強度値を前記入力手段により設定させ、設定された強度値を前記記憶部に格納するカットオフ値設定手段を有することを特徴とする請求項2記載の解析装置。
【請求項4】
前記カットオフ値設定手段による設定によって棄却された率を算出して前記記憶部に格納し、前記帯域設定手段により設定された波長帯域について、前記波長帯域の棄却部分を除き、前記複数の異なる試料のうちの第1の試料と第2の試料における帯域強度分布の重なりを算出し前記出力部に出力する測定精度評価算出手段を有することを特徴とする請求項3記載の解析装置。
【請求項5】
前記入力手段は、前記帯域設定手段により設定された波長帯域から2つを選択させる波長帯域選択手段と、前記複数の異なる試料のうち少なくとも1つを選択させる試料選択手段とを有し、前記波長帯域選択手段と前記試料選択手段により選択された波長帯域における試料の光信号の強度を前記記憶部から取り出し、前記強度の前記波長帯域における分布を前記出力部に表示することを特徴とする請求項2記載の解析装置。
【請求項6】
前記処理手段は、前記複数の異なる試料のうち第1の試料の主軸を算出し、前記複数の異なる試料のうち第2の試料の帯域強度分布の前記第1の試料の主軸方向への射影成分の分布を算出して前記記憶部に格納し、前記出力部は、前記射影成分の分布を出力することを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項7】
前記試料は、同じ色素により標識された複数の粒子であり、前記処理手段は、複数の粒子からの光の信号の平均スペクトルと標準偏差を算出して、前記出力部に表示することを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項8】
前記複数の異なる試料は、異なる色素によりそれぞれ標識された試料であることを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項9】
前記試料は、粒子であることを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項10】
前記試料は、細胞又はビーズであることを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項11】
光源と、試料を流すフローセルと、前記光源からの光により前記フローセルを流れる試料から発せられた光を分光する分光手段と、前記分光手段から出力された光を異なる波長毎に検出する複数の検出器と、前記検出器により検出された光信号を処理する処理手段と、データの記憶部と、前記処理手段への入力を行う入力手段と、処理結果を出力する出力部とを用いた解析方法であって、
前記記憶部は、フローセルに流された複数の異なる試料それぞれについて検出された光信号を、前記複数の検出器毎に記憶しており、
前記複数の検出器における光信号の強度を、前記異なる試料毎に前記出力部に表示する工程と、
前記複数の検出器のうち少なくとも一つの検出器が検出する波長帯域を入力手段により設定させる工程と、
前記設定された波長帯域を前記記憶部に格納する工程と、
前記フローセルに流される検体からの光を前記検出器により検出する工程と、
前記設定された波長帯域を用い、前記検体の信号を前記出力部に出力する工程と、
を有することを特徴とする解析方法。
【請求項12】
前記複数の異なる試料毎に、前記設定された波長帯域における光信号の強度を出力部に出力する工程と、
出力された光信号において、一定強度以下の信号を棄却するための強度値を入力手段により入力させて前記記憶部に記憶する工程とを有する請求項11記載の解析方法。
【請求項13】
前記処理手段は、前記一定強度以下の信号を棄却するための強度値により棄却された率を算出し、前記設定された波長帯域について、前記波長帯域の棄却部分を除き、複数の異なる試料の第1の試料と第2の試料における帯域強度分布の重なりを算出して前記出力部に出力する工程と有することを特徴とする請求項12記載の解析方法。
【請求項14】
前記複数の異なる試料のうち第1の試料の主軸を算出し、前記複数の異なる試料のうち第2の試料の帯域強度分布の前記第1の試料の主軸方向への射影成分の分布を算出して前記記憶部に格納する工程と、前記射影成分の分布を前記出力部に出力することを特徴とする請求項11記載の解析方法。
【請求項15】
前記試料は、同じ色素により標識された複数の粒子であり、前記処理手段は、前記複数の粒子からの光の信号の平均スペクトルと標準偏差を算出する工程と、前記平均スペクトルと標準偏差を前記出力部に表示する工程とを有することを特徴とする請求項11記載の解析方法。
【請求項1】
光源と、
前記光源からの光を受けて光を発する試料を流すフローセルと、
前記試料から発せられた光を分光する分光手段と、
前記分光手段から出力された光を異なる波長毎に検出する複数の検出器を備えた検出部と、
前記検出部により検出された光の信号を信号処理する処理手段と、
前記信号処理への指示入力を受け付ける入力手段と、
前記信号処理された結果を格納する記憶部と、
処理された結果を表示する出力部と、を備え、
前記記憶部は、複数の異なる試料について、検出された光信号を、前記複数の検出器毎に格納しており、前記光信号について前記複数の検出器における強度を、前記異なる試料毎に前記出力部に表示し、前記複数の検出器のうち少なくともひとつの検出器が検出する波長帯域を前記入力手段により設定させる帯域設定手段と、を有することを特徴とする解析装置。
【請求項2】
前記帯域設定手段により設定された波長帯域の光信号の強度を算出し、前記複数の異なる試料毎に前記記憶部に格納する波長帯域強度算出手段を有することを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項3】
前記波長帯域強度算出手段により記憶装置に格納された前記複数の異なる試料毎の前記波長帯域の光信号の強度を前記出力部に出力し、一定の強度以下の信号を棄却するための強度値を前記入力手段により設定させ、設定された強度値を前記記憶部に格納するカットオフ値設定手段を有することを特徴とする請求項2記載の解析装置。
【請求項4】
前記カットオフ値設定手段による設定によって棄却された率を算出して前記記憶部に格納し、前記帯域設定手段により設定された波長帯域について、前記波長帯域の棄却部分を除き、前記複数の異なる試料のうちの第1の試料と第2の試料における帯域強度分布の重なりを算出し前記出力部に出力する測定精度評価算出手段を有することを特徴とする請求項3記載の解析装置。
【請求項5】
前記入力手段は、前記帯域設定手段により設定された波長帯域から2つを選択させる波長帯域選択手段と、前記複数の異なる試料のうち少なくとも1つを選択させる試料選択手段とを有し、前記波長帯域選択手段と前記試料選択手段により選択された波長帯域における試料の光信号の強度を前記記憶部から取り出し、前記強度の前記波長帯域における分布を前記出力部に表示することを特徴とする請求項2記載の解析装置。
【請求項6】
前記処理手段は、前記複数の異なる試料のうち第1の試料の主軸を算出し、前記複数の異なる試料のうち第2の試料の帯域強度分布の前記第1の試料の主軸方向への射影成分の分布を算出して前記記憶部に格納し、前記出力部は、前記射影成分の分布を出力することを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項7】
前記試料は、同じ色素により標識された複数の粒子であり、前記処理手段は、複数の粒子からの光の信号の平均スペクトルと標準偏差を算出して、前記出力部に表示することを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項8】
前記複数の異なる試料は、異なる色素によりそれぞれ標識された試料であることを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項9】
前記試料は、粒子であることを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項10】
前記試料は、細胞又はビーズであることを特徴とする請求項1記載の解析装置。
【請求項11】
光源と、試料を流すフローセルと、前記光源からの光により前記フローセルを流れる試料から発せられた光を分光する分光手段と、前記分光手段から出力された光を異なる波長毎に検出する複数の検出器と、前記検出器により検出された光信号を処理する処理手段と、データの記憶部と、前記処理手段への入力を行う入力手段と、処理結果を出力する出力部とを用いた解析方法であって、
前記記憶部は、フローセルに流された複数の異なる試料それぞれについて検出された光信号を、前記複数の検出器毎に記憶しており、
前記複数の検出器における光信号の強度を、前記異なる試料毎に前記出力部に表示する工程と、
前記複数の検出器のうち少なくとも一つの検出器が検出する波長帯域を入力手段により設定させる工程と、
前記設定された波長帯域を前記記憶部に格納する工程と、
前記フローセルに流される検体からの光を前記検出器により検出する工程と、
前記設定された波長帯域を用い、前記検体の信号を前記出力部に出力する工程と、
を有することを特徴とする解析方法。
【請求項12】
前記複数の異なる試料毎に、前記設定された波長帯域における光信号の強度を出力部に出力する工程と、
出力された光信号において、一定強度以下の信号を棄却するための強度値を入力手段により入力させて前記記憶部に記憶する工程とを有する請求項11記載の解析方法。
【請求項13】
前記処理手段は、前記一定強度以下の信号を棄却するための強度値により棄却された率を算出し、前記設定された波長帯域について、前記波長帯域の棄却部分を除き、複数の異なる試料の第1の試料と第2の試料における帯域強度分布の重なりを算出して前記出力部に出力する工程と有することを特徴とする請求項12記載の解析方法。
【請求項14】
前記複数の異なる試料のうち第1の試料の主軸を算出し、前記複数の異なる試料のうち第2の試料の帯域強度分布の前記第1の試料の主軸方向への射影成分の分布を算出して前記記憶部に格納する工程と、前記射影成分の分布を前記出力部に出力することを特徴とする請求項11記載の解析方法。
【請求項15】
前記試料は、同じ色素により標識された複数の粒子であり、前記処理手段は、前記複数の粒子からの光の信号の平均スペクトルと標準偏差を算出する工程と、前記平均スペクトルと標準偏差を前記出力部に表示する工程とを有することを特徴とする請求項11記載の解析方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
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【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−21863(P2012−21863A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159279(P2010−159279)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】
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