説明

解舒アーム付き糸条解舒用装置

【課題】ツバ付きボビンに捲かれた糸条をボビン軸方向に解舒するにあたって、例えば、エラストマーのような低強度であり、かつ比較的高い伸度を有する糸条に対しても解舒時に糸質の劣化に繋がるトラブルを生じることなく、スムーズに解舒することができる簡易な解舒用装置を提供する。
【解決手段】ツバ付きボビンに捲かれた糸条の解舒用装置であって、前記装置がボビン芯管に固定するための部位と解舒アームを付設した部位とからなり、前記解舒アームが糸条の引き出し張力の力で湾曲し、かつ該解舒アームの端部にある糸条誘導ガイドが前記ボビンの側面を周回しながらボビン捲き糸条を解舒することを特徴とする解舒アーム付き糸条解舒用装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツバ付ボビンに捲かれた糸条の解舒用装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ツバ付きボビンに捲かれた糸条の解舒方法(引出方法)は、捲き形状の上部から一定距離の位置に設けられた最初の定点誘導ガイドを通し、この定点誘導ガイドを支点として解舒するという方法が主として採用されていた。この解舒方法は、糸条のボビン軸方向(長手方向)に物性変化の少ない均一な糸条、例えば強度が2.0〜9.0cN/dtex、伸度が5〜50%以下のモノフィラメント、または繊度斑や毛羽の少ない糸条等においては、容易に解舒が可能であり、有効な手段である。
【0003】
また、チーズ捲き形状で捲かれていて、糸条長手方向にネップ、スラブ、ループ毛羽等を有する変化斑の大きい差別化糸条でも解舒可能な糸条の解舒方法に関しては、糸条の引き出し張力の力で周回するガイドピンを介して解舒する方法もある。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、これらの解舒法では、例えばエラストマーからなる糸条は強度が低く比較的高い伸度を有するため、特に解舒スピードが速い場合や解舒時に張力変動する場合等に、ツバ付きボビンのツバに接触し引っ掛かりやすく、また、ボビン軸方向へ引き出す際、捲き糸条上部と下部では、張力差が発生するため張力斑を生ずるという問題もあり、解舒がスムーズに行われず、十分に糸条解舒用装置としての役目を果たすことが出来なかった。
【0005】
また、スパンデックスを代表とするゴム状弾性糸条のボビン軸方向への解舒方法は、ボビンに捲かれた糸条に微振動を与えつつ糸条を解舒する方法がある。(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかしこれは、ボビンに捲かれた糸条を解舒する際に微振動を与える装置、設備を必要とするため、設置場所の確保が難しいこと、また設備が大掛りとなること、等から簡単に設置できるものではない。また、少々の微振動を与えた解舒法では、特許文献2のようなツバ無しボビンを使用するのに際しては有効だが、ツバ付きボビンでは引き出された糸条がボビンツバに接触し解舒がスムーズに行われず、糸条解舒用装置としての効果を十分に得ることはできない。そこで、振動を強くすることも考えられるが、振動を強くすることによりボビンに捲かれた糸条が型崩れしてしまう可能性もあり、こういった場合、さらに解舒がスムーズに行われないこととなる。
【特許文献1】特開平10−203726号公報
【特許文献2】特開平10−95568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決し、ツバ付きボビンに捲かれた糸条をボビン軸方向に解舒するにあたって、例えば、エラストマーのような低強度であり、かつ比較的高い伸度を有する糸条に対しても解舒時に糸質の劣化に繋がるトラブルを生じることなく、スムーズに解舒することができる簡易な解舒用装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意検討した結果、ツバ付きボビンに捲かれた糸条を解舒する装置において、解舒アームが糸条の引出し張力に応じて自在に湾曲できる構造を有し、解舒アームの端部にある糸条誘導ガイドがボビン側面を周回しながら解舒できる構造を有することで、例えば、エラストマーからなる低強度であり、かつ比較的高い伸度を有する糸条を、解舒する際の張力変動を抑えることができ、糸切れや糸条の太細等のトラブルを生じることなく効率的に解舒できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成を要旨とするものである。
(a)ツバ付きボビンに捲かれた糸条の解舒用装置であって、前記装置がボビン芯管に固定するための部位と解舒アームを付設した部位とからなり、前記解舒アームが糸条の引き出し張力の力で湾曲し、かつ該解舒アームの端部にある糸条誘導ガイドが前記ボビンの側面を周回しながらボビン捲き糸条を解舒することを特徴とする解舒アーム付き糸条解舒用装置。
(b)前記ボビンが、強度0.01〜2.0cN/dtex、伸度50〜700%、ヤング率0.1〜5.0cN/dtex、繊度500〜20000dtexの糸条が捲かれたツバ付きボビンであることを特徴とする(a)記載の解舒アーム付き糸条解舒用装置。
(c)解舒アームに用いる熱可塑性樹脂のデュロメータ硬さがD70〜A70であることを特徴とする(a)または(b)記載の解舒アーム付き糸条解舒用装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の解舒アーム付き糸条解舒用装置は、解舒される糸条の引出し張力の力で自在に湾曲できる程度に柔軟な解舒アームを有しているため、糸条のボビン軸方向(長手方向)に変化の少ない均一な糸条や伸度が5〜50%の糸条、または繊度斑や毛羽の少ない糸条等に限らず、例えばエラストマー等のような糸条方向での伸縮度や引張り弾性の異なる糸条に対しても、その張力の変動を解舒アームの湾曲度の変化で吸収することができるため、糸切れ等のトラブルを生じることなく効率的に、かつ安定的に解舒することが可能となる。
【0011】
本発明の解舒アーム付き糸条解舒用装置は、解舒アームが糸条の張力によりボビンの側面方向に湾曲することが可能であると共に、解舒アームの先端についた糸条誘導ガイドが、ボビン側面を周回しながら糸条を解除するため、低強度かつ高伸度を有する糸条に対しても、糸切れ等のトラブルを生じることなく効果的に解舒することができる。さらに、これらの効果は、ツバ付きボビンに巻かれた糸条をボビン軸方向に解舒するに際して、ボビンツバに接触する事や張力変動による解舒不良を起こすことなく安定解舒する事が可能となり、より好適に発現される。
【0012】
さらに、ツバ付きボビンの芯管自体に固定して使用できるため、コンパクトな構造であり、大きな付属装置や広い設置場所等を必要とせず、簡易に設置したり移動させたりすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下の例に限らない。
図1に本発明の糸条解舒用装置の実施態様の一例を示す。
本発明の解舒アーム付き糸条解舒用装置(以下、本発明の糸条解舒用装置と略記することがある。)は、ボビンの芯管に固定するための部位A(以下、部位Aと略記することがある。)と、解舒アームが付設された部位B(以下、部位Bと略記することがある。)からなる。(図2)
本発明の糸条解舒用装置における部位Aとしては、ボビンの芯管に固定するにあたって、幾つかの形状を選択することができる。例えば、ボビン芯管に挿入することで固定する場合、部位Aの先端部に円柱形状を有することもできるし、また三角柱またはそれ以上の多角形の柱状形態をなすこともできる。これらの場合、ボビン芯管の内壁に接する円柱形状の円周部や多角柱状の凸部は、芯管への挿入時にはスムーズに挿入でき、糸条の解舒時には芯管内で回転したり抜けたりしないように十分に固定できるように工夫されていることが必要であり、そのために例えば、芯管内壁と上記凸部との間に好適なクリアランスを持たせるように設計したり、静摩擦係数が十分高くなるように微細な凹凸を持たせたり、あるいは、挿入部の一部に芯管内壁面に向けて締め付ける力が働くバネを付設するなどの方法が選択できる。
【0014】
本発明の糸条解舒用装置における部位Bとしては、部位Aと連結した形態を有するものであり、その一部に解舒アームを付設した形態を有する。解舒アームが付設される位置としては、部位Bの側面にあってボビン軸と垂直となるように付設されることが好ましい(図2)。また、解舒アームの端部には糸条誘導ガイド3が設けられている。ここで、解舒アームが部位Bの側面に付設される場合、図3に示されるように、解舒アームは部位Bの垂直軸の周りを自由回転できるように設計されていることが必要である。
【0015】
本発明の糸条解舒用装置における解舒アームとしては、解舒される糸条の引出し張力で湾曲することが可能であり、柔軟な素材で構成されるものである。具体的には、熱可塑性樹脂等が好ましく用いられる。また、解舒アームの柔軟性や湾曲性を好適に発現させるために、解舒アームに用いる熱可塑性樹脂のデュロメータ硬さがD70〜A70の範囲にあることが好ましい。これにより、より容易に、引出し張力の変動を解舒アームが湾曲することで軽減することができ、その結果、ツバ付きボビンに巻かれた糸条をボビン軸方向に解舒するのに際しても、糸条がボビンツバ部に接して糸切れ等を起こしたりすることなく、より安定して解舒することができる。ここで、熱可塑性樹脂のデュロメータ硬度とは、JIS K 6325法により、米国ショアー社製のスプリング式硬さ試験器(デュロメータ)のタイプA及びタイプDを使用し、厚さ6mmの試験片を用いて測定したものである。
【0016】
また、本発明の糸条解舒用装置における解舒アームの湾曲度としては、図3に示すようにボビンの上部ツバ位置での水平方向の延長線X1と湾曲した解舒アームとの間の角度θを指標として表すことができる。上記θは、解舒アームの湾曲度に応じて、0〜90度の間で可変可能であるが、本発明においてより安定な解舒張力を得るために30〜60度であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の糸条解舒用装置における解舒アームの長さとしては、ボビンの長手方向の長さと、ツバ半径との和を1とした場合、0.35〜1.5であることが好ましく、0.4〜1.0であることがより好ましい。
【0018】
本発明の糸条解舒用装置における糸条誘導ガイド3の位置としては、ボビンツバ上部をX1としてボビン下部をX2とすると、解舒張力(糸条の引出し張力とも記す)に応じてX1〜X2間にあることが必要である。また、糸条誘導ガイド3の位置は、X1〜X2間の中点をセンターとして上下に、X1〜X2間距離の1/4以内の範囲にあることが好ましく、上下1/5以内の範囲にあることがより好ましい。この範囲内で糸条誘導ガイドがボビン側面を周回しながら解舒すれば、より均一に安定した解舒張力を得ることができる。
【0019】
本発明の糸条解舒用装置における解舒アームとしては、ボビン軸の延長線上の軸を中心にして、自由回転できる。これにより、上述の糸条誘導ガイドが、解舒アームの湾曲できる事と相まってボビン側面の位置で、糸条の解舒に伴い自由に周回できることとなり、例えば、エラストマーのような低強度かつ高伸度な糸条に対しても、糸切れや糸条品位の劣化を起こすことなく、安定して解舒することが可能となる。
【0020】
本発明の糸条解舒用装置で解舒される糸条としては、通常の、例えば強度が2.0〜9.0cN/dtex、伸度が5〜50%の範囲にあるものに対しても適用できる。さらに、本発明の糸条解舒装置の機能をより好適に発現させるものとして、本発明の糸条解舒用装置によって解舒される糸条としては、従来の糸条解舒用装置では適用できなかった、例えば、強度が0.01〜2.0cN/dtex、伸度が50〜700%、ヤング率が0.1〜5.0cN/dtex、繊度が500〜20000dtexの範囲にある糸条に対して好適に適用できる。したがって、本発明におけるボビンとしては、強度が0.01〜2.0cN/dtex、伸度が50〜700%、ヤング率が0.1〜5.0cN/dtex、繊度が500〜20000dtexの糸条が捲かれたツバ付きボビンであることが好ましい。
【実施例】
【0021】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における解舒糸条の張力測定は以下の方法で行った。
(a)糸条の解舒方法
糸条が捲かれたツバ付きボビン(ボビン長223mm、ツバ半径101.5mm)を長手方向が垂直になるようにして床面に設置し、本発明の糸条解舒用装置を備え付け(図1)、解舒アームの長さを130mm、解舒アームに用いた熱可塑性樹脂のデュロメータ硬さをD50とし、これに糸条誘導ガイドを固定した。ツバ付きボビンから解舒される糸条は、解舒アームに誘導され、解舒アームと解舒アームと一定の位置にある糸条誘導ガイドを通し、ボビンの長手方向の上方に固定した定点誘導ガイドを経て、ローラーで巻き取った。なお、ローラーによる解舒速度は20m/minで行った。
この時、下記の張力測定及び糸条巻取り解舒性、並びにθ測定を行い、評価した。
【0022】
(b)張力(g/y)
定点誘導ガイドとローラー間について、張力計を用い測定し、その最大張力と最低張力の平均値をTとした。Tが100(g/y)以下で、Tと張力の最大値(又は最小値)との差が50以下である場合を合格とした。張力計はROTHSCHILD社製 CH−8002を用いて測定した。
(c)解舒性
ツバ付きボビンから解舒された糸条のツバへの引っ掛かりの有無、糸条の伸び、糸切れ、毛羽立ち等を確認した。
(d)θ(度)
ツバ付きボビンを水平方向から遠隔的に眺め、ボビン側面高さで垂直方向に固定された分度器を床面に設置して視覚的に測定した。
【0023】
(実施例1)
ツバ付きボビンを、糸径0.3mmφ、強度0.29cN/dtex、伸度371.2%、ヤング率2.8cN/dtex、繊度1080dtexの糸条が捲かれたボビンとし、上記(a)で記載された方法で解舒した。
(実施例2)
ツバ付きボビンを、糸径0.65mmφ、強度0.07cN/dtex、伸度614%、ヤング率0.36cN/dtex、繊度6374dtexの糸条が捲かれたボビンとし、実施例1と同様にして解舒した。
【0024】
この場合、解舒性は良好であった。
【0025】
(比較例1)
実施例2と同様の糸条を用い、解舒アームを用いずに直接ボビン軸上方の定点誘導ガイドに通し、ローラー速度20m/minで解舒した。この解舒概略図を図4に示す。
(比較例2)
実施例2と同様の糸条を用い、金属性の解舒アーム、即ち、ボビン軸を中心にして周回できるがツバ付きボビンより上方で一定の高さ位置に固定されている解舒アーム(解舒アームの長さは実施例1と同じ)を用い、ボビン軸上方の誘導ガイドを通し、ローラー速度20m/minで解舒した。この解舒概略図を図5に示す。
以下に、実施例、比較例で得られた結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
表1の結果から分かるように、本発明による解舒アームを用いた場合、実施例1、2のいずれにおいても、解舒張力の変動も少なく、ボビンツバへの引っ掛かりもなく、解舒性は良好であった。
【0028】
一方、比較例1では、解舒するに際し糸条のボビンツバへの接触が見られ、引っ掛かりが発生し張力変動差も大きく、安定解舒ができないものであった。また、比較例2では、解舒アームは有しているものの、ボビンツバ上方位置のままで湾曲せず固定されているため、捲き糸条の解舒位置がX1近傍とX2近傍の間で変遷する間、張力ムラが大きく、また解舒アームの回転もスムーズではなかったため、安定解舒ができないものであった。





【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の糸条解舒用装置の実施態様を示す概略図である。
【図2】本発明の糸条解舒用装置の模式図である。
【図3】本発明の糸条解舒用装置における解舒アームとθとの関係を示した模式図である。
【図4】比較例1の糸条解舒用装置の実施態様を示す概略図である。
【図5】比較例2の糸条解舒用装置の実施態様を示す概略図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ツバ付きボビン
2 解除アーム
3 糸条誘導ガイド
4 定点誘導ガイド
5 巻取りローラー
6 部位A
7 部位B
8 回転部(ベアリング)






【特許請求の範囲】
【請求項1】
ツバ付きボビンに捲かれた糸条の解舒用装置であって、前記装置がボビン芯管に固定するための部位と解舒アームを付設した部位とからなり、前記解舒アームが糸条の引き出し張力の力で湾曲し、かつ該解舒アームの端部にある糸条誘導ガイドが前記ボビンの側面を周回しながらボビン捲き糸条を解舒することを特徴とする解舒アーム付き糸条解舒用装置。
【請求項2】
前記ボビンが、強度0.01〜2.0cN/dtex、伸度50〜700%、ヤング率0.1〜5.0cN/dtex、繊度500〜20000dtexの糸条が捲かれたツバ付きボビンであることを特徴とする請求項1記載の解舒アーム付き糸条解舒用装置。
【請求項3】
解舒アームに用いる熱可塑性樹脂のデュロメータ硬さがD70〜A70であることを特徴とする請求項1または2記載の解舒アーム付き糸条解舒用装置。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−83617(P2010−83617A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254232(P2008−254232)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】