説明

触力覚的情報提示装置

【課題】視覚情報を活用しながら、緻密な操作を必要とする実作業を行う作業者の指に、作業性を低下させること無く触覚的に情報を提示する。
【解決手段】触力覚的情報提示装置は、対象物である被験者の生体組織に関する情報を検知するセンサと、センサによる検知結果を表す信号に基づいて、刺激信号を生成する刺激信号生成部と、刺激信号に基づいて振動刺激を生成する振動刺激部とを備えている。振動刺激部は、被験者の手に接触するよう配置され、道具を把持する複数の指の各々の筋肉の腱に振動刺激を与える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道具を使用するユーザの手指の指先に触力覚的に情報を提示する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手指へ触力覚的に情報を提示する方法には多数の方法が知られている。例えば非特許文献1では、ペン型デバイスの力と位置を制御することによって、仮想的な映像に合わせて手指に力覚情報を与える装置(商品名:ファントム)が紹介されている。
【0003】
また非特許文献2では、三次元のフレームの角部分に装着されたモータにより糸を巻き付ける機構を有した装置(商品名:スパイダー)が紹介されている。これはモータに接続された糸の先端部分の物体を把持し、把持物体を通して力覚的に情報を伝達するものである。この装置では把持した物体を回転させる動作にも対応しており、コンピュータ上など仮想上の物体を把持し、向きを揃えて並べるなどの作業に適している。
【0004】
以上は、主に関節で感じる力覚情報を提示する装置である。一方、非特許文献3では非特許文献2に示したスパイダーを応用した装置が開示されている。非特許文献3の方法は、力覚情報と共に、皮膚感覚情報を提示する技術であり、スパイダーの力覚情報を提示する把持部に、更に電磁モータ等を取り付け、操作者の指先に皮膚感覚に相当する触覚情報を提示する機能が付加されている。
【0005】
また非特許文献4には非設置型の触力覚提示装置が開示されている。非特許文献1〜3のような地面などに設置するタイプの装置では、移動範囲が制限され、操作者が自由に移動することができない。非特許文献4の方法は、操作者の手にグローブ状の触力覚的情報提示装置を装着させ、このグローブを装着した操作者にワイヤを通じてアクチュエータの力を提示する、操作の自由度を向上させた力覚提示装置(商品名:サイバーグラスプ)が紹介されている。
【0006】
あるいは非特許文献5では、物体に触れたような感覚を提示する、現実の力などを模擬した触力覚提示装置とは異なり、目の見えない人のための点字の代わりとなる、文字、あるいは図形情報などの形状情報を触力覚的に提示する装置が開示されている。これは多数のピンで形状を再現し、形状を触覚的に提示する装置(商品名:OUV3000)である。
【0007】
以上のように、従来から、多種多様の方法によって指先に触力覚情報を表示する方法が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】株式会社センサブル ホームページ http://sensable.jp/
【非特許文献2】株式会社アイネット ホームページ http://www.ddd.co.jp/product/spidar/pdf/spidar.pdf
【非特許文献3】野村ら,"振動スピーカーを用いた三次元触力覚提示システムの開発,"第15回日本バーチャルリアリティ学会論文集,pp.657-658, 2010/9.
【非特許文献4】株式会社ソリッドレイ ホームページ http://www.solidray.co.jp/product/hanryoku/cybergrasp_force.pdf
【非特許文献5】株式会社ユニプラン ホームページ http://uniplan.gr.jp/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、内視鏡、メス、鉗子、操作ハンドルなどの、作業に専用の道具を常に把持し、視覚と、指先の感覚を駆使して精密な作業を行う必要がある作業者に対して、作業性を妨げず、確実に情報を提示する方法がなかった。
【0010】
このような作業を行う作業者は、視覚、および道具を把持している指先(指腹部)の触覚の二つに意識を集中しており、作業者の認知容易性から、視覚または触覚のいずれかのチャネルを通した情報提供が、情報提示方法として適切であると考えられる。
【0011】
視覚的に情報を追加する方法は、元々視覚的に処理している情報が多く、また更に情報を提示することは、着目している視覚情報への注意を隠す、あるいは注意が散漫になる可能性があり、好ましくない。
【0012】
指腹部に情報を提示するには、先に述べたような、従来の方法では指先に触力覚的情報を提示するための道具を装着する必要があり、操作する道具との間に別の器具を挟むことになるため、操作性を損なう可能性があり、好ましくない。
【0013】
また操作する道具自体に、触力覚提示機能を搭載することは、道具の大型化、操作性の観点から好ましくない。
【0014】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、実作業に必要な専用の道具を把持し、かつ視覚を実作業に集中している作業者に対し、作業性や、操作性を低下させること無く、触力覚的に情報を提示することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による触力覚的情報提示装置は、対象物である被験者の生体組織に関する情報を検知するセンサと、前記センサによる検知結果を表す信号に基づいて、刺激信号を生成する刺激信号生成部と、前記刺激信号に基づいて振動刺激を生成する振動刺激部とを備えている。前記振動刺激部は、前記被験者の手に接触するよう配置され、道具を把持する複数の指の各々の筋肉の腱に前記振動刺激を与える。
【0016】
前記センサは、前記対象物と前記センサとの接触状態を検知する接触検知センサであり、前記刺激信号生成部は、前記接触状態の程度に応じた大きさの刺激信号を生成し、前記振動刺激部は、前記接触状態の程度に応じた大きさの振動刺激を生成してもよい。
【0017】
前記センサは前記対象物までの距離を検知する距離センサであり、前記触力覚的情報提示装置は、前記対象物の形状を変化させる前後で計測された前記対象物までの距離の変化量を示す情報を、前記対象物の変形量を示す情報に変換する第1の変換部と、対象物の変形量と対象物の硬さを示す値との対応関係を示すデータを予め保持し、前記対象物の変形量を示す情報を受け取って前記データを参照することにより、前記対象物の変形量を示す情報を前記対象物の硬さを示す値に変換する第2の変換部とをさらに備え、前記刺激信号生成部は、前記対象物の硬さを示す値に応じた大きさの刺激信号を生成し、前記振動刺激部は、前記対象物の硬さを示す値に応じた大きさの振動刺激を生成してもよい。
【0018】
前記センサは、超音波により対象物を検知する超音波センサであり、前記触力覚的情報提示装置は、前記超音波センサの検知結果に基づいて前記対象物の厚さを示す厚さデータを生成する厚さデータ生成部をさらに備え、前記刺激信号生成部は、前記対象物の厚さに応じた大きさの刺激信号を生成し、前記振動刺激部は、前記対象物の厚さに応じた大きさの振動刺激を生成してもよい。
【0019】
前記触力覚的情報提示装置は、前記複数の指が前記道具を把持する指と前記道具を把持しない指とを含むときにおいて前記道具を把持する指を検知する把持指検知部をさらに備え、前記振動刺激部は、前記把持指検知部によって検知された、前記道具を把持している指に前記振動刺激を与えてもよい。
【0020】
前記触力覚的情報提示装置は、前記被験者の手掌の向きを検知する手掌向き検知部をさらに備え、前記振動刺激部は、前記手掌向き検知部によって検知された前記被験者の手掌の向きに基づいて、前記複数の指のうち、上側になる指に与えられる振動刺激を、下側になる指に与えられる振動刺激よりも強くしてもよい。
【0021】
前記振動刺激部は、周波数が60〜120Hzの振動刺激を与えてもよい。
【0022】
前記振動刺激部は、前記振動刺激の振動振幅を調整してもよい。
【0023】
前記振動刺激部は、前記対象物と前記センサとが接触する接触力の大きさに応じて、前記振動刺激の振動振幅を調整してもよい。
【0024】
前記振動刺激部は、前記対象物と前記センサとが一定の圧力値で接触し、かつ、接触する時間の長さが所定時間以上のときは、前記振動刺激の振動時間を調整してもよい。
【0025】
前記振動刺激部は、前記被験者の手指、および、腕に接触するよう配置され、前記複数の指の各々の筋肉の腱に前記振動刺激を与えてもよい。
【0026】
前記複数の指の少なくとも一つは第1指であり、前記振動刺激部は、短指母屈筋の腱に前記振動刺激を与えてもよい。
【0027】
前記複数の指の少なくとも一つは、第2指から第5指のいずれかであり、前記振動刺激部は、前記腕の浅指屈筋の腱に前記振動刺激を与えてもよい。
【発明の効果】
【0028】
運動錯覚による触力覚情報提示では、指先に触力覚提示用の装置を装着する必要がなく、また実際には指に力や変位が発生していないため、実作業を妨げること無く、触力覚的に情報提示を行うことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)は、骨100a、100bと、腱101a、101bと、筋肉102とを示す模式図であり、(b)は、腱101a、101bに刺激を与えた結果、筋肉102が収縮して、骨100a、100bが相対する部位(関節)が曲がった様子を示す図であり、(c)は、運動錯覚が発生したときに体感される、関節の状態を示す図である。
【図2】実施形態1による触力覚的情報提示装置1の使用態様を示す図である。
【図3】図2の触力覚的情報提示装置1の構成をより詳細に表したブロック図である。
【図4】(a)および(b)は、手掌および前腕における、指を屈曲させる筋肉の位置を模式的に示す図である。
【図5】(a)は、短指母屈筋52、浅指屈筋54、および虫様筋55の全てに振動刺激部11を装着したときの模式図であり、(b)は浅指屈筋54に装着した振動刺激部11の断面拡大図である。
【図6】接触検知センサ211を設けた内視鏡ヘッド21の模式図の一例を示す図である。
【図7】実施形態1にかかる刺激制御部12の構成を示すブロック図である。
【図8】把持指検知部6の配置例を示す図である。
【図9】生体組織の弾性率を算出するために必要な機能を持つ内視鏡ヘッド21aの構成の一例を示す図である。
【図10】実施形態2にかかる刺激制御部12の構成を示すブロック図である。
【図11】超音波診断装置311および超音波プローブ313を用いて、血管の弾性特性を計測する例を示す図である。
【図12】生体の組織を伝播する超音波ビームを模式的に示す図である。
【図13】超音波送受信機能を持つ内視鏡ヘッド21bの一例を示す図である。
【図14】実施形態3にかかる刺激制御部12の構成を示すブロック図である。
【図15】被検査者の断層像を形成可能な断層像形成部8を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、作業者が道具を把持している指先に運動錯覚を生じさせる。運動錯覚を所定の条件に応じて生じさせることにより、作業者への触力覚的な情報の提示を実現している。これにより、作業者へ効率よく情報提示を実現することが可能になる。
【0031】
以下、本願発明に関連して重要な概念である「運動錯覚」を説明し、その後、本発明の各実施形態を説明する。
【0032】
運動錯覚は、実際には関節が動いていないにもかかわらず、関節が動いた感触と似た感覚を得る現象である。運動錯覚は、筋肉の腱に振動刺激を与えた際に発生する反射収縮による動作が抑制された場合に発生する。そのとき、人は筋肉が収縮することによる運動方向と反対方向へ関節が動いたという感覚を持つ。このような運動感が運動錯覚である。
【0033】
以下、図1を参照しながら、具体的に説明する。
【0034】
図1(a)は、骨100a、100bと、腱101a、101bと、筋肉102とを示す模式図である。腱101a、101bは、筋肉102と骨100a、100bとをつないでいる。
【0035】
図1(b)は、腱101a、101bに刺激を与えた結果、筋肉102が収縮して、骨100a、100bが相対する部位(関節)が曲がった様子を示す。通常、腱101a、101bへの刺激によって筋肉102が収縮すると、図1(b)に示されるように関節は自由に曲がる。
【0036】
ところが、そのような筋肉102の収縮が発生しないよう、たとえば骨100a、100bが水平に維持されるよう、固定された状態で、腱101a、101bへ振動刺激を与える。このとき、運動錯覚が発生する。
【0037】
図1(c)は、運動錯覚が発生したときに体感される、関節の状態を示す。実際には図1(a)に示す状態であっても、運動錯覚が発生すると人は図1(c)に示すように、筋肉が収縮して発生する動きと逆方向の運動を感じる。これが運動錯覚である。
【0038】
運動錯覚は、反射収縮による動作が抑制されると発生する。したがって、たとえば図1(b)に示される状態において、関節がこれ以上曲がらないように固定した後、関節を曲げるための刺激を腱101a、101bに与えると、人は図1(b)に示す状態から関節が逆に開いていくような運動錯覚を感じる。
【0039】
よって、道具を把持した作業者の指の筋肉の腱に振動刺激を与えると、その作業者は、把持した道具が大きくなるような、指先が広がるように感じる。これが、実際には刺激していない指先で得られる感覚、運動錯覚である。
【0040】
この効果を用いると、運動錯覚の発生を情報として通知することができる。作業者は意識を集中している指先を通して情報を得ることが出来、実際には指が動いていないため、道具を用いた作業性が低下することがないという利点がある。
【0041】
また感覚は指先で感じる一方、指を動かす筋肉の腱は手掌や指の根元部分に存在するため、指先に感覚を提示する装置を配置する必要がない。これにより、道具を直接把持することが出来、操作性を低下させないという利点がある。
【0042】
本発明では指を屈曲させる筋の腱に振動刺激を与え、筋肉が収縮する事によって発生する指の屈曲運動が把持道具によって制限され、その逆方向の伸展錯覚が発生する現象を利用する。
【0043】
なお、指関節を伸展させる筋肉の腱に振動刺激を与えても運動錯覚を発生させることができる。しかしながら、そのような指関節の進展方向の運動錯覚を発生させるためには、指関節伸展方向の運動を抑制する必要がある。道具把持作業において、伸展方向の運動を妨げる機器を指関節に別途設けると、作業性を低下させる可能性がある。よって本実施形態では指関節伸展方向ではなく、屈曲方向の運動錯覚を用いることとした。
【0044】
以下、このような運動錯覚を利用した触力覚的情報提示装置の実施形態を具体的に説明する。以下の実施形態では、特に道具を把持して行う作業中に、作業性や操作性を損なうこと無く、作業者の指先に対して触力覚的に情報を提示する例を説明する。
【0045】
(実施形態1)
本実施形態では、道具を把持しながら、視覚情報を十分に活用して実施する作業として、内視鏡の挿入操作、および画像による検査・診断、特に上部消化管における診断を例に取って、本発明の詳細を説明する。
【0046】
図2は、本実施形態による触力覚的情報提示装置(以下、「情報提示装置」と呼ぶ。)1の使用態様を示す。情報提示装置1は、たとえば検査者3が内視鏡装置2を利用して被検査者4を検査する際に検査者3によって利用される。
【0047】
情報提示装置1は、振動刺激部11と、刺激制御部12とを有している。振動刺激部11は指の筋肉の腱に対して、振動刺激を与える。刺激制御部12は振動刺激部11に指示を送り、たとえば振動刺激の振動周波数、振動振幅、振動波形(振動特性)を制御する。
【0048】
図3は、図2の構成をより詳細に表したブロック図である。
【0049】
内視鏡装置2は、内視鏡ヘッド21と、内視鏡ワイヤ22と、内視鏡操作部23と、映像表示部24とを有している。
【0050】
内視鏡ヘッド21は被検査者4の口からその体内に挿入され、光源(図示せず)から放射された光を利用して消化管内部の映像を取得する。内視鏡ワイヤ22は、内視鏡ヘッドと内視鏡操作部23を接続し、内視鏡操作部からの信号、光源(図示せず)からの光などを伝達する。映像表示部24は、光源(図示せず)を有している。映像表示部24は、内視鏡ワイヤを通じて内視鏡ヘッド21に光を送り、内視鏡ヘッドによって取得された映像を受信して画面に表示する。
【0051】
本実施形態においては内視鏡ヘッド21の先端には、接触検知センサ211が設けられている。接触検知センサ211はたとえば圧力センサである。
【0052】
以下、本発明の情報提示装置1を説明する。
【0053】
内視鏡検査においては、内視鏡装置2を操作する検査者3は、複雑な構造をした被検査者4の消化管内部に内視鏡ヘッド21を挿入し、検査を実施する必要がある。このとき、被験者4の苦痛をなるべく発生させないよう、内視鏡ヘッド21と生体とを強く接触させず、かつ短時間に検査を終了させることが必要とされる。
【0054】
このような複雑な操作を適切に短時間に行うために内視鏡装置2を用いた検査者3は手掌、特に指先に意識を集中し、さらに同時に消化管壁の表面にある癌などの異常を発見するため、視点を検査画像に集中させている。そして、検査者3は検査中の被検査者4の状態を把握し、異常があった場合には、内視鏡検査を中止する、あるいはその他適切な処置を行う必要がある。
【0055】
本実施形態では、このような内視鏡装置2を用いた診断を行う検査者3に対し、内視鏡ヘッド21の挿入動作に伴って発生する微少な抵抗を検査者3の手元に提示し、挿入、診断操作を安全に、かつ迅速に行えるようサポートする役割としての情報提示装置1の活用について説明する。
【0056】
本発明の、情報提示装置1の詳細な説明を行う前に、指を動かす筋肉および腱を詳しく説明する。筋肉は通常その両端が腱を通じて骨と接続されている(たとえば図1参照)。
【0057】
本発明では、道具を把持した作業中に、運動錯覚を発生させることを想定しているため、物体を把持する指の屈曲する筋肉の腱に対して刺激を行う。
【0058】
指を伸展させる筋肉の腱に刺激を行うと、把持している道具を掴む力が緩む、あるいは離すといった、操作上の課題が発生する可能性がある。
【0059】
把持動作では、すくなくとも2指を用いる必要がある。2指のうち、一方は第1指(親指)であり、もう一方は第2指(人差し指)から第5指(小指)の少なくとも1つである。通常の把持作業では、第1指と、第2〜3指を用いることが多いが、大きな道具を用いる場合や、内視鏡のワイヤ部などの長さのあるものでは第4〜5指も利用する場合が多い。
【0060】
図4(a)および(b)は、手掌および前腕における、指を屈曲させる筋肉の位置を模式的に示している。図4(a)は手甲側にある指を屈曲させる筋肉の位置を示しており、図4(b)は手掌側にある指を屈曲させる筋肉の位置を示している。おおよそ破線によって囲まれた位置の筋肉が収縮して指を屈曲させる。なお、他にも指を屈曲させるのに関係する筋肉が知られているが、ここでは主なものだけを示す。
【0061】
具体的には、図4(a)および(b)には、長母指屈筋51、短母指屈筋52、深指屈筋53、浅指屈筋54、および虫様筋55の各位置が示されている。
【0062】
長母指屈筋51は前腕の手掌側にあり、親指の第一関節を屈曲させる筋肉である。比較的深いところにあり、外部からの刺激が困難であるため、本実施形態では運動錯覚を生じさせる筋肉として用いない。
【0063】
短指母屈筋52は、手掌の親指の付根の盛り上がった部分近傍にあり、親指の付根の関節を屈曲させる筋肉である。表皮から比較的近い所にあり、外部からの刺激が可能である。
【0064】
深指屈筋53は、前腕の手甲側にあり、人差し指(2指)から小指(5指)までの第一関節を屈曲させる筋肉である。浅指屈筋の下にあり、独立で刺激することは困難であり、本実施形態では用いない。
【0065】
浅指屈筋54は、前腕の手甲側にあり、第2〜5指の第二関節を屈曲させる筋肉である。 深指屈筋53より表皮側にあり、外部からの刺激が可能である。
【0066】
虫様筋55は、手甲の指の付根近傍にあり、第2〜5指の付根関節を屈曲させる筋肉である。対応する指の数だけ筋肉がある。また表皮から比較的浅いところにあり、外部から刺激することが可能である。
【0067】
本実施形態では、第1指への運動錯覚を与えるために短指母屈筋52を用いる。そして親指の付根関節への運動錯覚を誘発する。
【0068】
第2指から第5指への運動錯覚を与えるには、第2〜5指に対応した浅指屈筋54と、虫様筋55を用いる。
【0069】
浅指屈筋54を刺激した場合には、第2〜5指の第2関節に運動錯覚が発生し、虫様筋55を刺激した場合には、第2〜5指の付根関節に運動錯覚が発生する。
【0070】
再び図3を参照し、情報提示装置1を説明する。
【0071】
振動刺激を与える情報提示装置1の振動刺激部11は、ワイヤを持つ側の検査者3の手に装着されている。振動刺激部11は刺激信号を制御する刺激制御部12からの信号に従い、振動刺激を与える。
【0072】
通常、目的部位まで内視鏡ヘッドの挿入が完了した場合には、検査者3は内視鏡操作部23を両手で支える体勢で内視鏡の操作を行う。一方の手は、内視鏡ヘッド21の左右方向のアングルノブを保持し、もう一方の手は内視鏡操作部23全体を保持し、かつ左右方向のアングルノブを操作する。内視鏡操作部23では内視鏡ヘッドの向きの操作のほか、送水や、生検鉗子の操作などを行う。
【0073】
一方、目的部位まで内視鏡ヘッドを導入する際には、検査者3の一方の手は内視鏡操作部23を保持し、もう一方の手は内視鏡ヘッド21と内視鏡操作部23とをつなぐ内視鏡ワイヤ22部分を保持することが多い。これは長いワイヤで接続されている内視鏡ヘッド21をより適切に操作するためである。
【0074】
本実施形態では、内視鏡ヘッド21を目的部位まで挿入する操作における抵抗のフィードバック、言い換えると挿入操作に伴う抵抗感の提示を目的としている。よって、一方の手で内視鏡装置2の操作部23を持ち、一方の手で内視鏡のワイヤ22を保持している状態を想定する。このような使用状態においては、内視鏡ワイヤ22を保持する側の手が実際に操作を主体的に行う手であるため、違和感が少なく、好ましい。
【0075】
図5(a)は、短指母屈筋52、浅指屈筋54、および虫様筋55の全てに振動刺激部11を装着したときの模式図である。図5(b)は浅指屈筋54に装着した振動刺激部11の断面拡大図である。
【0076】
図5(a)および(b)には、アクチュエータ111と、固定具112と、刺激子113とが示されている。
【0077】
アクチュエータ111は、運動錯覚を発生させるため、指を動かす筋肉の腱に100Hz程度の振動刺激を与える。
【0078】
アクチュエータ111として、ボイスコイルモータや、ピエゾアクチュエータ、電磁ソレノイドなどを用いることが出来る。本実施形態では一例として、直径が3−5mm、長さ8−10mm程度の円筒ボイスコイルモータを用いる。このようなモータは3V程度の低電圧で、効率的に運動錯覚を誘発する6000rpm(100Hz)程度の振動を容易に発生することができるため好適である。
【0079】
固定具112はアクチュエータ111、および刺激子113を検査者3の指や前腕部にある被刺激部位に固定する。固定具112は、粘着テープや、面ファスナー付きベルトなどを好適に用いることが出来る。
【0080】
刺激子113は、アクチュエータ111の振動を目的の部位に伝達する。刺激子113は目的部位のみに振動を伝える。これにより、不要な感覚の誘起を防止する。一例として刺激子113は、片側がモータの円筒形状に合うようφ3−5mm程度で、長さが8−10mm程度のくぼみを持ち、反対側の面が先端部の幅が2mm程度の突起部を持つ形状とすることが出来る。
【0081】
刺激子113に突起部を持たせた理由は以下のとおりである。指を動かす筋肉は小さい筋肉が多く、また手掌および前腕には異なる機能を持つ筋肉が多い。それらは入り組んで配置されているため、目的の筋肉の腱のみに局所的に振動を与える必要がある。そのため、刺激子113は突起状に形成されることが好ましい。他の筋肉の腱に振動刺激を与えると、不要な感覚が誘起され、好ましくないためである。
【0082】
また通常、アクチュエータ111は金属などで形成され、その形状は角を有することが多い。アクチュエータ111の硬さや、角部がヒトの痛覚に対して影響を与える事がある。また熱伝導率が良いため冷たく感じ、冷感刺激を与えるため、目的とする運動錯覚以外の情報が提示される可能性がある。
【0083】
このため、生体に対して、局所的に振動刺激を与え、かつ痛覚や冷感を与えにくい材質として刺激子113にはゴムなどが好適に用いられる。ゴムは熱伝導が低く、冷感を与えにくく、かつ硬さを広い範囲で選択可能なため、痛覚を誘起させずに、振動を局所的に伝達できる硬さを選択することが可能である。
【0084】
本実施形態では、例えば天然ゴム、シリコンゴムなどのゴム材質のうち、1〜10MPa程度の硬さを持つものを、被刺激領域のみを刺激できるよう突起状に、かつ先端がラウンドした刺激子を好適に用いることが出来る。
【0085】
アクチュエータ111と刺激子113とは接着剤などにより接合されている。
【0086】
図5(a)に示すように、第2〜5指の付根関節をそれぞれ指ごとに独立に刺激する場合には、4組のアクチュエータと接触子が必要となる。第2〜5指に別々の情報を送る必要がある場合には、このように構成する。一種の刺激で良い場合には一つのアクチュエータでよい。
【0087】
図3に示した内視鏡装置2は一般に知られた内視鏡装置と同じ構成である。ただし本実施形態においては、上述のように内視鏡装置2の内視鏡ヘッド21は、接触状態を検知する接触検知センサ211を有している。接触検知センサ211は、内視鏡装置2のヘッド21部分と被験者との接触状態を検知し、接触状態を示す情報を内視鏡装置2本体や、情報提示装置1に送信する。
【0088】
図6は、接触検知センサ211を設けた内視鏡ヘッド21の模式図の一例を示す。内視鏡ヘッド21は、円環状の接触検知センサ211と、観察窓212と、照明窓213と、処置具突出口214とを有している。接触検知センサ211は信号線(図示せず)を通じて内視鏡装置2本体と通信できるよう構成されている。
【0089】
接触検知センサ211としては抵抗膜式、圧電式、静電容量式など様々な方法が採用可能である。本実施形態では小型化が容易で、接触圧力をアナログ値として出力可能な圧電式センサを用いている。より具体的には、本実施形態では、圧電体として柔軟で、薄型化が容易なPVDFなどの高分子圧電体を円環状に加工し、その両面に電極を設けて接触検知センサ211を構成している。
【0090】
なお、接触検知センサ211を有しない内視鏡装置を用いた場合であっても、検査者は内視鏡の内視鏡ワイヤ部を通して間接的に接触を検知することができる。そのため、そのようにして得られた検知結果の情報を頼りにしてできる限り安全に挿入操作を行っている。
【0091】
しかし通常、被検査者の苦痛を和らげるため、内視鏡ヘッドや、内視鏡のワイヤ部は十分に細く、柔軟に形成されている。そのため、内視鏡ヘッドと消化管壁との接触の感触を、完全に検査者に伝達することは困難である。
【0092】
上述のように、本発明の内視鏡装置2の内視鏡ヘッド21の先端部には、柔軟な高分子圧電体からなる接触検知センサ211が設けられている。よって、内視鏡ヘッド21の先端部分において接触を確実に検知することが可能である。このように僅かな接触を検知し、検査者3に伝達することは内視鏡の挿入操作を迅速に行い、かつ被検査者に苦痛を与えないという点で効果的である。
【0093】
内視鏡ヘッド21は、情報提示装置1の刺激制御部12とも接続されており、相互に情報を通信できるように構成されている。
【0094】
なお、観察窓212、照明窓213および処置具突出口214については、本願発明の内容に特に関連しないため、それらの説明は省略する。
【0095】
ここで、情報提示装置1の刺激制御部12の構成を説明する。
【0096】
図7は、本実施形態にかかる刺激制御部12の構成を示すブロック図である。刺激制御部12は、接触状態送受信部121と、刺激信号生成部122と、データベース123と、刺激信号送信部124と、計測環境データ入力部125とを有している。
【0097】
図7に示されるように、刺激制御部12は、振動刺激部11のアクチュエータ111、および内視鏡ヘッド21の接触検知センサ211と接続されている。
【0098】
接触状態送受信部121は、接触検知センサ211から、検知結果を示す信号、具体的には接触状態を示す信号(接触信号)を受信し、圧力値に変換する。
【0099】
データベース123は、接触状態と、アクチュエータ刺激信号を対応させる対応表を複数保持している。
【0100】
計測環境データ入力部125は、内視鏡の直径や、検査部位などのデータを保持している。
【0101】
刺激信号生成部122は、接触状態送受信部121から圧力値の情報を受信し、その情報とデータベース123からの情報に基づいて、刺激信号を生成する。このとき、刺激信号生成部122はデータベース123に保持された複数の対応表のうちから、一例として検査を行っている部位毎の対応表を参照し、接触信号の強度、すなわち接触の強さに応じて、情報提示装置1で発生させる運動錯覚の強度が変化するよう、振動刺激の強度が変化する刺激信号を生成する。刺激信号送信部124は、アクチュエータ111を駆動させるための制御信号を出力する。
【0102】
次に、図3に示した情報提示装置1の動作を説明する。
【0103】
検査者3が内視鏡装置2を操作し、被検査者4の口や鼻を通して内視鏡ヘッドを被験者の消化管体腔内へ導入する。消化管体腔内へ挿入された内視鏡ヘッド21は、屈曲した消化管壁と接触する。
【0104】
接触検知センサ211で検知された接触信号は、内視鏡装置2本体を通じて、情報提示装置1の刺激制御部12に送信される。あるいは接触検知センサ211の信号は情報提示装置1に直接送られても良い。また、内視鏡装置2本体が接触検知センサ211からの信号を圧力値に変換し、刺激制御部12に送信してもよい。図7には、接触検知センサ211の信号が情報提示装置1の刺激制御部12に直接送るための構成例が示されている。
【0105】
本実施形態では、内視鏡ヘッド21の接触検知センサ211は、接触によって与えられた力(接触力)を検知し、接触力の大きさに応じた値を、例えばサンプリング周波数100Hzで接触状態送受信部121に送信する。
【0106】
情報提示装置1の刺激制御部12は、送信されてきた接触信号を接触情報送受信部121で受信し、刺激信号生成部122は、接触信号に基づいて、刺激信号を生成する。
【0107】
運動錯覚の強度は、主に筋肉の腱に加えられる振動周波数、振動振幅、振動時間に影響を受ける。
【0108】
振動周波数に関しては、100Hz近傍で最も運動錯覚強度が強くなり、それより低く、あるいは高くなる場合にも運動錯覚強度が弱くなる傾向にあることが知られている。本実施形態では効率的に運動錯覚を誘発できる100Hzに固定している。ただし、この周波数は一例である。たとえば周波数が60〜120Hzの振動刺激を与えられれば、適切な運動錯覚強度を確保できる。
【0109】
振動振幅は振幅が大きくなると錯覚強度が強くなる傾向にあり、振動時間は長くなると錯覚強度が強くなる傾向にある。
【0110】
一例として、接触検知センサが10mNと、100mNを検知した場合の振動刺激の与え方を説明する。
【0111】
本実施形態では、振動振幅を振動刺激に応じて変化させる方法を採用する。刺激時間によって運動錯覚の強度を変化させる方法は、ある程度、長い時間(5秒程度以上)一定の圧力値が観測される場合には適用可能である。しかしながら、挿入操作に伴う接触状態を通知する場合には接触状態が時々刻々と変化するため、その方法はあまり適していないと考えられる。本実施形態における作業の場合には、振動振幅を変化させる方法が適している。
【0112】
たとえば、刺激制御部12の刺激信号生成部122は、刺激信号送信部124を介して、アクチュエータ111が接触力10mNや100mNに基づいて動作するような刺激信号を生成する。なお、振動刺激の周波数は100Hzで、接触力によらず一定としている。
【0113】
接触力10mNの接触検知を受けたアクチュエータ111は、一例として振動モータ(図示せず)に対して振幅値0.3Vの正弦波を連続して送る。0.3Vの駆動電圧で、振動モータは約30μm程度の振幅の振動が発生する。また100mNの接触力検知を受けた場合には、3.0Vの正弦波を送る。3.0Vの駆動電圧では約300μmの振幅の振動が発生する。
【0114】
振幅1mm以下程度の小さい範囲では、振動振幅と運動錯覚を感じる感覚強度は、ほぼ線形に比例している。接触力と振動振幅をリニアの関係で変化させると、計測した接触力と感じる感覚が近いため適切である。
【0115】
上述のように、接触力は接触検知センサ211から、例えばサンプリング周波数100Hzで送信されて来ている。刺激信号生成部122は同じタイミングでアクチュエータ111の駆動電圧を変化させ、内視鏡ヘッド21と、消化管壁の接触状態に応じた運動錯覚を発生させる信号を送信する。
【0116】
このように、本実施形態の情報提示装置1によれば、内視鏡ヘッド21と生体とが接触した際にその接触力を検知し、これを検査者3の指に運動錯覚を発生させ、接触が発生したことおよび接触力の強さを通知する。これにより検査者3は、従来の内視鏡では感じることの出来ない弱い接触であっても知ることができる。このとき、検査者3は内視鏡ワイヤ22から手を放す必要はなく、また映像表示部24に表示された画像から目を離す必要もない。画像診断を妨げること無く、内視鏡の挿入操作時に接触が発生したことを検査者に通知することが可能となるため、より適切な挿入操作が可能となる。
【0117】
本実施形態における、より具体的な運動錯覚の発生メカニズムと感触を説明する。
【0118】
手掌に取り付けた振動刺激部11が動作すると、指が屈曲する反射的な運動が発生する。検査者3は内視鏡のワイヤ部22を把持しているため、実際には指がそれ以上屈曲することは無い。反射収縮が制限された検査者は屈曲の反対方向の運動である伸展方向の錯覚を知覚することとなる。これは道具を把持している第1指と、第2〜5指の指先の間が開いていく、あるいは指先で把持している内視鏡ワイヤ22が太くなったような感覚として知覚される。
【0119】
刺激制御部12によって、この指が開く感覚と、接触力の大きさとが対応付けられることにより、検査者は接触している事実とその接触力の大きさとを知ることができる。検査者3は注意を集中している指先から情報を得ることができるため、時々刻々と変わる接触状態を瞬時に認識し、適切な対応によって被検査者の負担が少なくなるよう内視鏡を挿入することができる。
【0120】
また運動錯覚による感覚は、現実の感覚とは本質的に異なる感覚として知覚可能であるため、内視鏡の操作を妨げる事はなく、内視鏡ヘッド部の接触情報として検査者が他の感覚と独立に認識することが可能である。
【0121】
通常、内視鏡の操作中に内視鏡を操作する手を入れ替えたり、指を変えたりすることは少ないが、操作する手を入れ替えたり、把持する指を変えた場合にも次のような構成で、対応することが可能である。
【0122】
図8は、把持指検知部6の配置例を示す。把持指検知部6は、道具を把持する指を検知する機能を有し、自動的に運動錯覚を発生させるべき指を決定する。図8における場合は、一方の手における指の選択の場合を示している。なお、図8には、手掌向き検知部7も併記されているが、手掌向き検知部7の詳細は後述する。
【0123】
把持指検知部6は、把持している道具と実際に接触している指を検知し、検知された指にのみ振動刺激が与えられるよう、たとえば刺激信号送信部124に指示する。これにより、検知された指にのみ刺激信号が与えられる。
【0124】
把持指の具体的な検知方法としては、たとえば指の爪にひずみゲージを設ける方法を採用することが出来る。爪側に歪みゲージを配置しても、把持道具と指腹部の間には物体が存在しないため、操作感を妨げることがない。把持している指と物体との接触力によって爪が変形するため、その変形に基づいて把持指を検知することができる。把持している指の情報は、たとえばひずみゲージと共に形成されているアンテナから無線によって刺激制御部12に送信される。
【0125】
こうして把持している指を検知しながら振動刺激を与えると、不要な指への振動刺激を与える必要がないため、不要な感触を発生させることがない。また不要なエネルギーを使うことがないため、効果的に運動錯覚を発生させることができる。
【0126】
把持指の検知の別の方法として、カメラなどを利用する方法も考えられる。この方法は把持している指の爪の色のパターンが圧迫効果によって変化することを利用する。すなわち、カメラにて爪の色をモニタし、爪の色のパターンが変化したとき、これを画像的に検知すれば把持している指を特定できる。この場合には、手を外部から観察するカメラなどが必要になるものの、検査者3の指に装着する必要がないという利点がある。
【0127】
以上のように、把持指検知部6を設けると、作業に伴って道具を把持する指を変えた場合にも、把持する指のみに適切に運動錯覚を発生させる信号を送信することが可能である。
【0128】
上述の説明では、一方の手の指の選択の場合を例に説明を行ったが、両手に把持指検知部6を設けて、手を入れ替えるなどの作業にも対応した情報提示装置とすることができる。
【0129】
また手の向きによらず、接触力を同じ運動錯覚の強度として感じさせるため手掌の向きを検知し、振動刺激量を補正することが有効である。
【0130】
内視鏡ワイヤを把持する指のうち、ワイヤの下になり荷重を主に受ける指と、上でワイヤを保持する指では、下になり主な荷重を受ける指に振動がかかりやすい。これは同じ振動を受けても、把持物体の下になる指は強い振動を受けるため、結果として強い運動錯覚を得ることになる。
【0131】
これを補正するため、手掌の向きを検知する機構を設けることが有効である。図8は、手掌の向きを検知する手掌向き検知部7を設けた例を示す。手掌向き検知部7は3軸の加速度センサである。そのようなセンサを手首や、手掌、あるいは手の甲などに装着することで、加速度の変化から手掌の向きを検知することが可能である。現在、多種多様な加速度センサが知られている。本実施形態において好適な加速度センサは薄型で小型であればよい。たとえばMEMSによるものが好適に用いることができる。なお、加速度センサに限らず、手掌の向きを検知できるものならよく、地磁気センサなどを利用することも可能である。
【0132】
このようなセンサを手掌に設けて重力方向と手の向きの関係を検知し、上側になる指への振動強度を下になる指より強くすることによって、把持指の方向や、把持する手掌の向きによらず一定の感触を提示することが可能である。
【0133】
また上述の説明では、図6に示すように接触検知センサ211を一つとした場合を述べたが、図6に示す接触検知センサ211を分割して、それぞれが独立に動作するように形成してもよい。
【0134】
例えば内視鏡ヘッドの先端部分の径方向に4分割し、それぞれが独立に接触状態を検知できるようにすると、接触方向が検知できるため、より適切な内視鏡の挿入操作を行う上で補助になる。
【0135】
さらに、本実施形態においては、内視鏡ヘッド21の先端部に接触検知センサ211が設けられているとした。しかしながら、追加的に内視鏡ワイヤ22にも同様のセンサを1以上設けてもよい。少なくとも1つのセンサによって内視鏡ワイヤ22と生体器官とが接触し、かつ、その接触力が一定値以上になったことが検出されたときに、検査者3に運動錯覚を生じさせればよい。
【0136】
内視鏡ヘッドと消化管壁の接触方向の検査者3への提示は、一例として次のように行うことが可能である。
【0137】
接触検知センサ211を円周方向に4個を設けた場合を説明する。内視鏡ヘッドの4方向のいずれかで生体と接触し、その接触力の情報が内視鏡の本体部を介して、刺激制御部12に送信される。4つの接触検知センサ211を、虫様筋を刺激する4つの刺激子と一対一に対応付ける。
【0138】
ここでは虫様筋に配置されている4つの振動刺激部11を用いて、接触方向と接触力を提示する。虫様筋は第2指〜第5指の付根の関節を動かす筋肉であり、それぞれ別々に機能することも可能である。
【0139】
一例として、内視鏡ヘッドに設けた4つの接触検知センサ211をそれぞれ第2指から第5指に対応させ、接触検知センサ211で検知された圧力を、振動振幅に対応させて提示することが可能である。
【0140】
この場合、内視鏡ヘッドのどの方向にどのような力で接触したか容易に認知することが可能となるため、その情報を用いて、内視鏡ヘッドと生体との接触方向が分かるため、接触を回避する方向が瞬時に分かり、より適切な操作が可能となる。
【0141】
以上のように、本実施形態にかかる情報提示装置によれば、内視鏡の挿入操作にともなって発生する微小な接触を検知し、これを意識の集中している指先に、画像診断を妨げずに提示することが可能になる。これにより、被検査者負担が少なく、また画像診断の妨げとなることのない、内視鏡診断を行うことが可能となる。
【0142】
(実施形態2)
本実施形態においては、実施形態1にかかる内視鏡ヘッドと異なる内視鏡ヘッドを有する情報提示装置を説明する。より具体的には、本実施形態にかかる内視鏡ヘッドは、その先端に非接触で硬さ計測が可能な硬さセンサを搭載し、内視鏡で観察している部分の硬さを検知することが可能である。
【0143】
本実施形態の情報提示装置によれば、表面画像による検査だけでなく、生体の硬さに基づいた診断を行うことが可能となる。よってより多くの情報から総合的な判断が可能となる。
【0144】
以下、本実施形態にかかる情報提示装置を説明する。なお、説明の簡略化のため、実施形態1の構成との相違点のみを説明する。特に言及しない場合には、構成は実施形態1にかかる情報提示装置1と同じである。
【0145】
生体の硬さと異常組織との間には、多くの異常部位が正常な組織に対して硬くなるという関係があることが知られている(たとえば”組織弾性イメージングの理論と実際”、新田ら、MEDICAL IMAGING TECHNOROGY、Vol.21、No.2、2003/3)。このため、硬さの情報が診断のために役立つ可能性がある。
【0146】
本実施形態では通常の内視鏡画像を観測しながら、非接触に生体の硬さを計測し、これを検査者に通知することによって、画像による診断と共に、硬さによる情報を提示する。この際、画像診断の精度を落とさずに硬さを通知する。
【0147】
非接触的に硬さを計測する方法として、”非接触硬さイメージャ”、金子ら、電子情報通信学会誌、Vol.90、No.10、2007に開示されている空気噴流とレーザ変位計を用いた方法を用いることが出来る。この方法によれば、空気噴流で変形した生体組織の変形量を計測することにより、その生体組織の弾性率を算出することができる。
【0148】
図9は、生体組織の弾性率を算出するために必要な機能を持つ内視鏡ヘッド21aの構成の一例を示す。内視鏡ヘッド21aは、観察窓212と、照明窓213と、処置具突出口214と、空気噴出口215と、測距レーザ216とを有している。このうち、観察窓212と、照明窓213と、処置具突出口214については、本願発明の内容に特に関連しないため、それらの説明は省略する。
【0149】
空気噴出口215は、所定の圧力の空気を噴出する。
【0150】
測距レーザ216は、対象物までの距離を計測するために利用されるレーザ光を放射する。後述の処理から明らかなように、測距レーザ216は距離センサとして機能する。
【0151】
図10は、本実施形態にかかる刺激制御部12の構成を示すブロック図である。この刺激制御部12は、実施形態1にかかる刺激制御部12(図2、図3、図7)に代えて利用すればよい。
【0152】
刺激制御部12は、刺激信号生成部122と、データベース123と、刺激信号送信部124と、空気噴流制御部126と、タイミング信号発生部127と、レーザ制御部128と、変形データ変換部129と、硬さデータ変換部130とを有している。
【0153】
実施形態1においては、刺激信号生成部122は、接触状態送受信部121からの接触状態を示す信号を受信するとした。本実施形態では、刺激信号生成部122は、後述の硬さデータ変換部130から出力された硬さデータを受け取り、その硬さに応じて検査者3に運動錯覚を生じさせ、硬さの情報を提示する。
【0154】
空気噴流制御部126は、空気噴出口の空気吹き出し量や、噴出時間を制御した空気を空気噴出口215から噴出させる。
【0155】
タイミング信号発生部127は、空気噴流の吹き出しタイミングと、レーザによる計測のタイミングを制御し、空気噴流による変形時に、レーザが計測されるようにする。
【0156】
レーザ制御部128は、測距レーザ216の駆動を制御してレーザ光を放射させ、またその放射を停止させる。この結果、測距レーザ216は、レーザ光を放射するとともに、対象物である生体組織からの反射光を受けて、生体組織までの距離を計測する。
【0157】
変形データ変換部129は、距離センサとして機能する測距レーザ216から、空気を噴出させる前に計測した生体組織までの距離の情報、および、空気を噴出させた後に計測した生体組織までの距離の情報を受け取る。そして変形データ変換部129は、空気を噴出させる前後で変化した距離の変化量を、生体組織の変形量に変換する。
【0158】
硬さデータ変換部130は、生体組織の変形量と硬さを示す値との対応関係を示すデータを予め保持している。硬さデータ変換部130は、変形データ変換部129から生体組織の変形量のデータを受け取ると、その対応関係を示すデータを参照して生体組織の硬さを示す値を求める。これにより、硬さデータ変換部130は、生体組織の変形量を、生体組織の硬さを示す値に変換することができる。
【0159】
空気噴出口から噴出した空気による変形量を216の測距レーザ216で計測し、空気の圧力と、対象物の変形量から弾性率(硬さ)を非接触で推定することができる。
【0160】
通常の内視鏡画像検査を行いながら、このような装置で計測した硬さを、検査者3の手にフィードバックすることで、画像診断への注意を削ぐこと無く、観察領域の硬さを検査者3に提示することが可能となる。
【0161】
以下、より具体的に説明する。
【0162】
刺激信号生成部122は、硬さデータと、データベースからの情報に基づいて、刺激信号を生成する。基本的には硬さに比例した刺激信号を生成するが、データベースには正常部と異常部の特徴的な硬さが保持されており、この情報に基づいて、異常部に相当する硬さデータが計測された場合には、触覚刺激をより強めるようなこともできる。刺激信号生成部で作られた刺激信号は刺激信号送信部からアクチュエータへと伝達される。
【0163】
通常生体の組織の弾性率は50−100kPa程度である。一方、硬くなるタイプの癌の弾性率は200kPa以上となる。このような硬さの差が検査者に知覚できるよう、運動錯覚による方法で検査者の指腹部に提示する。
【0164】
提示方法の一例は以下のとおりである。物体を把持した状態で感じる運動錯覚は、先に述べたように把持している物体が大きくなる、あるいは指が開いていく感覚である。指が開いていく感触、あるいは把持物体が大きくなる感触は、柔軟な物体を把持している感覚に近いと感じる例が多い。そこで、正常な部分では、振動刺激を強くして運動錯覚の強度を強める。そして通常より硬い、異常の可能性のある部分では、振動刺激を弱めて運動錯覚の強度を弱め、硬い感覚を誘起させる。このように直感的な感覚と近いため、分かりやすく操作性の上で有利である。
【0165】
また、別の提示方法で提示することも可能である。上述の提示方法の場合、生体の殆どの部分を占める柔らかい正常部分で、振動刺激が強くなるよう制御することが必要であるため、常にアクチュエータを動作させる必要がある。つまり、電力消費が大きいなどの問題がある。
【0166】
電力が潤沢に供給できない、例えば、ポータブルタイプの場合などでは、硬さの関係と、運動錯覚を誘起する信号強度の関係を反対にしても良い。ただし、この場合には、感覚と提示される情報が反対になる可能性があり、事前に検査者がこの関係を理解しておくことが必要である。
【0167】
以上のように、本発明によれば、内視鏡の画像検査の操作性を損なわずに、診断に寄与する可能性のある組織の硬さ情報を検査者3の指腹部へ提示することが可能となるため、より効率的な診断が可能となる。
【0168】
(実施形態3)
本発明における情報提示装置では、内視鏡ヘッドに設けられた超音波検査部からの情報に基づいて運動錯覚信号を生成する。
【0169】
本実施形態は通常の画像による内視鏡検査とともに、消化管壁の厚さや内部構造を取得可能な超音波検査機能を併用し、内視鏡による画像検査を行いながら、超音波検査で取得した情報を内視鏡の検査者3に提示する場合を説明する。
【0170】
これは例えば粘膜下腫瘍などのような、表面の画像観察だけでは判断が困難な症例の発見に役に立つ。粘膜下腫瘍には幾つかのタイプがあるが、特に管外発育型の粘膜下腫瘍には、消化管内壁にほとんど変化を及ぼさないものがあるため、通常の内視鏡検査で発見が困難な場合がある。
【0171】
粘膜下腫瘍の特徴として、消化管壁の厚さが増大することが挙げられる。すなわち消化管壁の厚さを計測することによって、粘膜下腫瘍などの、表面の画像観測からは認知困難な疾病を発見する助けとなる可能性がある。
【0172】
理解の便宜のため、一般的な超音波検査を説明する。
【0173】
図11は、超音波診断装置311および超音波プローブ313を用いて、血管の弾性特性を計測する例を示している。
【0174】
一般に、超音波プローブ313は被験者の体表302に密着するよう支持される。超音波プローブ313は、アレイ状に配列された複数の超音波振動素子(超音波振動素子群)を内蔵している。超音波プローブ313は、1または複数の超音波振動子を利用して血管外組織301および血管303を含む体組織内部へ超音波(音響線)を送信する。血管外組織301は脂肪や筋肉等により構成される。
【0175】
超音波振動子は例えば圧電体によって構成される。圧電体を駆動することにより、超音波を送信し、また、超音波を圧電体が受けることによって超音波を電気信号に変換することができる。
【0176】
図12は、生体の組織を伝播する超音波ビームを模式的に示す。超音波プローブ313から出射した超音波送信波は、ある有限の幅を持つ超音波ビーム367としてz軸方向に進行し、生体組織の血管外組織301および血管303中を伝播する。そして、伝播の過程において血管外組織301および血管303によって反射または散乱した超音波の一部が超音波プローブ313へ戻り、超音波反射波として受信される。超音波反射波は時系列信号として検出され、超音波プローブ313に近い組織から得られる反射の時系列信号ほど、時間軸上で原点近くに位置する。
【0177】
上述したように超音波反射波は血管外組織301、血管303、および血液305より生じる。音響線366上に位置する血管前壁の複数の測定対象位置Pn(P1、P2、P3、Pk・・・Pn、nは3以上の自然数)は、ある一定間隔で超音波プローブ313に近い順にP1、P2、P3、Pk・・・Pnと配列されている。図12の上方を正、下方を負とする座標軸を深さ方向に設け、測定対象位置P1、P2、P3、Pk・・・Pnの座標をそれぞれZ1、Z2、Z3、Zk、・・・Znとすると、測定対象位置Pkからの反射は、時間軸上でtk=2Zk/cに位置することになる。ここでcは体組織内での超音波の音速を示す。反射波信号(時系列信号)は測定対象位置の状態を表す情報として利用される。
【0178】
超音波診断装置311は、反射波信号の解析および演算を行う。超音波診断装置11は、たとえば特開平10−5226号公報に開示されている方法によって、検波信号の振幅および位相の両方を用い、制約付最小二乗法によって対象の瞬時の位置を決定し、高精度な(位置変化量の測定精度は±0.2ミクロン程度)位相トラッキングを行う。これにより、超音波診断装置311は、血管外組織301や血管303の運動情報、たとえば血管303の壁における微小部位の位置および厚さの時間変化を十分な精度で測定することができる。
【0179】
本実施形態にかかる内視鏡ヘッドは、上述した超音波の送受信機能を有している。また、上述の超音波診断装置311の機能は、情報提示装置1の刺激制御部12によって実現される。
【0180】
図13は超音波送受信機能を持つ内視鏡ヘッド21bの一例を示している。内視鏡ヘッド21bは、観察窓212と、照明窓213と、処置具突出口214と、超音波送受信部217と、水導入口218とを有している。このうち、観察窓212と、照明窓213と、処置具突出口214については、本願発明の内容に特に関連しないため、それらの説明は省略する。
【0181】
上述のように、超音波送受信部217は一例として圧電体を用いて超音波を発生させ、超音波の反射波の受信を行うことができる。圧電体前面には超音波を集束させるシリコンゴムなどからなる音響レンズを設けることが、計測精度の点からの望ましい。超音波送受信部217は、対象物である消化管壁を検知する超音波センサとして機能する。
【0182】
本実施形態における超音波検査の際には、被験者の体表ではなく、体内から超音波を送信することになる。情報提示装置1は画像計測と超音波計測とを並行して行う。
【0183】
なお、消化管内の空気を通して超音波の送受信を行うことも可能であるが、この場合、体内の空孔部分と生体の間、また超音波送受信部と体腔の間での超音波の反射が大きいため、十分な感度を得るためには強力な超音波を発生させる必要がある。このように十分な超音波の強度が得られない場合、あるいは生体の安全性を高く確保するために、ヘッドを直接消化管壁に押し付けるか、あるいは超音波検査ヘッド21bと生体の間を水で満たして計測することが有効である。上述の水導入口218は、超音波検査ヘッド21bと生体の間を満たす水を放出するために利用される。
【0184】
超音波は生体と生体内の空気との間で反射が大きいため、以上のようにして計測することが好ましい。生体壁に直接、超音波検査機を接触させると、超音波検査の性能が向上するが、生体との接触することによる生体へのダメージや、画像検査の操作性が悪くなるため、本実施形態では、超音波検査の感度を高めるため水を満たした消化管壁の検査を行う。水で満たした消化管壁の中でも充填水は透明であるため画像計測は十分に可能である。
【0185】
ここで、情報提示装置1の刺激制御部12の構成を説明する。
【0186】
図14は、本実施形態にかかる刺激制御部12の構成を示すブロック図である。この刺激制御部12は、実施形態1にかかる刺激制御部12(図2、図3、図7)に代えて利用すればよい。
【0187】
刺激制御部12は、刺激信号生成部122と、データベース123と、刺激信号送信部124と、超音波信号解析部131と、厚さデータ生成部132とを有している。
【0188】
実施形態1においては、刺激信号生成部122は、接触状態送受信部121からの接触状態を示す信号を受信するとした。
【0189】
本実施形態では、刺激制御部12は、画像計測を行いながら、同時に超音波計測によって生体臓器の厚さを計測し、この情報を検査者3の指に提示する。超音波計測は生体の断層像が取得可能なため、生体組織の厚さや、層構造などが検知可能である。ここでは厚さ情報を触覚的に提示する方法を説明する。
【0190】
超音波信号解析部131は、たとえば制約付き最小二乗法を用いて反射波信号の振幅と位相を解析する。これにより、測定対象を高精度でトラッキングすることができる。この技術は位相差トラッキング法と呼ばれる。
【0191】
データベース123には、生体の標準音速データ、粘膜下腫瘍の特徴的な厚さや大きさなどの形状パターンも保持している。
【0192】
厚さデータ生成部132は、超音波信号解析部131からのデータと、データベース123に保持されている、生体の標準音速データから対象の厚さデータを生成する。
【0193】
上述のデータベース123、厚さデータ生成部132を用いて刺激信号生成部122は、刺激信号を生成する。具体的には、刺激信号生成部122は、厚さデータ生成部132で生成された厚さデータと、データベース123に保持されている粘膜下腫瘍の特徴的なパターンを参照し、特に危険度が高い場合に触覚刺激を強くする。このように生成された刺激信号は、刺激信号送信部からアクチュエータ111へ送信される。
【0194】
先に説明したように内視鏡ヘッド21bへ繋がる内視鏡ワイヤ22を持つ指に振動刺激を与えると、指が開いていく、あるいはワイヤが太くなったような感覚が得られる。刺激信号生成部122は、生体組織の厚さに合わせて振動刺激を与え、検査者3に運動錯覚による厚さ感覚を提示する。これにより、画像検査を行いながら、画像では検知しづらい疾病を発見できる可能性が高まる。
【0195】
本実施形態では、内視鏡の先端に超音波計測機能を設けてその計測出力にもとづいて、振動刺激を決定したが、一例として図15に示すように生体の外側から、生体の断層像を計測可能なX線CT、MRI等を用いて、生体の各部分の厚さを計測し、これを内視鏡画像と合わせて提示しても良い。図15には、被検査者の断層像を形成可能な断層像形成部8が示されている。なお、断層像形成部8であるX線CT装置またはMRI装置の構成は公知であるため、その説明は省略する。
【0196】
この場合には、内視鏡で取得した画像が、断層像のどの位置の画像であるかが分かるように、生体の断層像と共に、内視鏡のヘッド位置を観測、および向きを検知するため、内視鏡ヘッド部にジャイロセンサ、3軸の加速度センサを設けて、内視鏡画像の注目領域における厚さを提示することが好ましい。
【0197】
上述の実施形態1〜3においては、それぞれ独立した情報提示装置を説明した。しかしながら、これらの機能を組み合わせた情報提示装置を設けてもよい。たとえば実施形態1および2の機能を備えた情報提示装置、実施形態1および3の機能を備えた情報提示装置、実施形態2および3の機能を備えた情報提示装置、実施形態1、2および3の機能を備えた情報提示装置である。複数の実施形態の構成を1つの情報提示装置に設ける場合には、いずれか1つの実施形態に対応する機能でその情報提示装置を動作させるための切り換えスイッチを設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0198】
本発明にかかる情報提示装置は、視覚情報を活用しながら、緻密な操作を必要とする実作業を行う作業者の指に、作業性を低下させること無く触覚的に情報を提示することが可能である。同様の環境における作業を行う、医療行為(たとえば内視鏡検査や、医療手術)、あるいは自動車、フォークリフトなどの運転作業、あるいは工場における組立作業のような、道具を把持し、指先の感覚と、視覚を実作業に集中している作業者に対して、作業性を損なわずに、情報を通知する方法に関する。
【符号の説明】
【0199】
1 触力覚的情報提示装置
2 内視鏡装置
3 検査者
4 被検査者
5 手掌および前腕
6 把持指検知部
7 手掌向き検知部
8 断層像形成部
11 振動刺激部
12 刺激制御部
21、21a、21b 内視鏡ヘッド
22 内視鏡ワイヤ
23 内視鏡操作部
24 光源兼画像表示部
51 長指母屈筋
52 短指母屈筋
53 深指屈筋
54 浅指屈筋
55 虫様筋
111 アクチュエータ
112 固定具
113 刺激子
121 接触状態送受信部
122 刺激信号生成部
123 データベース
124 刺激信号送信部
125 計測環境データ入力部
126 空気噴流制御部
127 タイミング信号発生部
128 レーザ制御部
129 変形データ変換部
130 硬さデータ変換部
131 超音波信号解析部
132 厚さデータ生成部
211 接触検知センサ
212 観察窓
213 照明窓
214 処置具突出口
215 空気噴出口
216 測距レーザ(距離センサ)
217 超音波送受信部(超音波センサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物である被験者の生体組織に関する情報を検知するセンサと、
前記センサによる検知結果を表す信号に基づいて、刺激信号を生成する刺激信号生成部と、
前記刺激信号に基づいて振動刺激を生成する振動刺激部と
を備え、
前記振動刺激部は、前記被験者の手に接触するよう配置され、道具を把持する複数の指の各々の筋肉の腱に前記振動刺激を与える、触力覚的情報提示装置。
【請求項2】
前記センサは、前記対象物と前記センサとの接触状態を検知する接触検知センサであり、
前記刺激信号生成部は、前記接触状態の程度に応じた大きさの刺激信号を生成し、
前記振動刺激部は、前記接触状態の程度に応じた大きさの振動刺激を生成する、請求項1に記載の触力覚的情報提示装置。
【請求項3】
前記センサは前記対象物までの距離を検知する距離センサであり、
前記触力覚的情報提示装置は、
前記対象物の形状を変化させる前後で計測された前記対象物までの距離の変化量を示す情報を、前記対象物の変形量を示す情報に変換する第1の変換部と、
対象物の変形量と対象物の硬さを示す値との対応関係を示すデータを予め保持し、前記対象物の変形量を示す情報を受け取って前記データを参照することにより、前記対象物の変形量を示す情報を前記対象物の硬さを示す値に変換する第2の変換部とをさらに備え、
前記刺激信号生成部は、前記対象物の硬さを示す値に応じた大きさの刺激信号を生成し、
前記振動刺激部は、前記対象物の硬さを示す値に応じた大きさの振動刺激を生成する、請求項1に記載の触力覚的情報提示装置。
【請求項4】
前記センサは、超音波により対象物を検知する超音波センサであり、
前記触力覚的情報提示装置は、前記超音波センサの検知結果に基づいて前記対象物の厚さを示す厚さデータを生成する厚さデータ生成部をさらに備え、
前記刺激信号生成部は、前記対象物の厚さに応じた大きさの刺激信号を生成し、
前記振動刺激部は、前記対象物の厚さに応じた大きさの振動刺激を生成する、請求項1に記載の触力覚的情報提示装置。
【請求項5】
前記複数の指が前記道具を把持する指と前記道具を把持しない指とを含むときにおいて、前記道具を把持する指を検知する把持指検知部をさらに備え、
前記振動刺激部は、前記把持指検知部によって検知された、前記道具を把持している指に前記振動刺激を与える、請求項1に記載の触力覚的情報提示装置。
【請求項6】
前記触力覚的情報提示装置は、前記被験者の手掌の向きを検知する手掌向き検知部をさらに備え、
前記振動刺激部は、前記手掌向き検知部によって検知された前記被験者の手掌の向きに基づいて、前記複数の指のうち、上側になる指に与えられる振動刺激を、下側になる指に与えられる振動刺激よりも強くする、請求項1に記載の触力覚的情報提示装置。
【請求項7】
前記振動刺激部は、周波数が60〜120Hzの振動刺激を与える、請求項1に記載の触力覚的情報提示装置。
【請求項8】
前記振動刺激部は、前記振動刺激の振動振幅を調整する、請求項2に記載の触力覚的情報提示装置。
【請求項9】
前記振動刺激部は、前記対象物と前記センサとが接触する接触力の大きさに応じて、前記振動刺激の振動振幅を調整する、請求項8に記載の触力覚的情報提示装置。
【請求項10】
前記振動刺激部は、前記対象物と前記センサとが一定の圧力値で接触し、かつ、接触する時間の長さが所定時間以上のときは、前記振動刺激の振動時間を調整する、請求項2に記載の触力覚的情報提示装置。
【請求項11】
前記振動刺激部は、前記被験者の手指、および、腕に接触するよう配置され、前記複数の指の各々の筋肉の腱に前記振動刺激を与える、請求項1に記載の触力覚的情報提示装置。
【請求項12】
前記複数の指の少なくとも一つは第1指であり、
前記振動刺激部は、短指母屈筋の腱に前記振動刺激を与える、請求項11に記載の触力覚的情報提示装置。
【請求項13】
前記複数の指の少なくとも一つは、第2指から第5指のいずれかであり、
前記振動刺激部は、前記腕の浅指屈筋の腱に前記振動刺激を与える、請求項11に記載の触力覚的情報提示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−52046(P2013−52046A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191260(P2011−191260)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】