説明

触媒、ならびに不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】 不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を高収率で製造できる触媒の提供。
【解決手段】 プロピレン、イソブチレン、tert−ブチルアルコール、又はメチル−tert−ブチルエーテルのいずれか1種以上を分子状酸素により気相接触酸化して、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に用いられ、以下の工程(1)〜(5):
(1)モリブデン、ビスマス及び鉄を含む粒子を製造する工程、
(2)前記工程(1)の粒子と該粒子と混合するための液体において、それぞれの物温を5〜20℃の範囲とする工程、
(3)前記工程(2)の状態の粒子と液体とを混合して、混練物を得る工程、
(4)前記工程(3)の混練物を押出成形し、成形品を得る工程、
(5)前記工程(4)の成形品を乾燥及び/又は焼成する工程、
によって製造される触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン、イソブチレン、tert−ブチルアルコール(以下、TBAという)、又はメチル−tert−ブチルエーテル(以下、MTBEという)を分子状酸素により気相接触酸化し、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に用いられる、少なくともモリブデン、ビスマス、及び鉄を含む触媒に関する。
また本発明は、この触媒を用いた、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、TBA、又はMTBEの気相接触酸化により、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を目的生成物として製造する際に使用される触媒としては、モリブデン、ビスマス、及び鉄を構成成分として含むものが知られている(特許文献1)。
【0003】
この目的生成物を工業的に生産する場合には、触媒が充填された反応管の圧力損失をできるだけ小さくする必要があるため、上記の触媒としては、特定の形状に成形された成形触媒が多く採用されている。
【0004】
この成形触媒としては、触媒の機械的強度の向上等を目的とする添加剤の配合も容易であることから、触媒を構成する原料と液体とを混練し、押出成形して製造される押出成形触媒が有用である(特許文献2)。
【0005】
さらに、この押出成形触媒の製造に際して、混練物を押出成形して成形品を得る工程と、成形品を乾燥及び/又は焼成する工程とともに、押出成形して得られた成形品を養生する工程を追加することによって、得られる触媒の活性や目的生成物の選択性が向上することが知られている(特許文献3)。
この養生工程を経て製造される、モリブデン、ビスマス、及び鉄を構成成分として含む触媒は、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸合成用触媒として、活性及び選択性に優れ、収率も高いものである。
しかしながら、この養生工程には比較的長時間を要するため、触媒の生産性に課題があった。
【0006】
【特許文献1】特開平07−016464号公報
【特許文献2】特開平09−052053号公報
【特許文献3】特開2003−201261号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を高収率で製造できる触媒を提供することである。
また、本発明の目的は、この触媒を用いた不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、プロピレン、イソブチレン、TBA、又はMTBEのいずれか1種以上を分子状酸素により気相接触酸化して、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に用いられ、
以下の工程(1)〜(5):
(1)モリブデン、ビスマス及び鉄を含む粒子を製造する工程、
(2)前記工程(1)の粒子と該粒子と混合するための液体において、それぞれの物温を5〜20℃の範囲とする工程、
(3)前記工程(2)の状態の粒子と液体とを混合・接触させ、混練物を得る工程、
(4)前記工程(3)の混練物を押出成形し、成形品を得る工程、
(5)前記工程(4)の成形品を乾燥及び/又は焼成する工程、
によって製造される触媒に関する。
【0009】
また、本発明は、上述の触媒の存在下で、プロピレン、イソブチレン、TBA、又はMTBEのいずれか1種以上を分子状酸素により気相接触酸化する、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の触媒は、プロピレン、イソブチレン、TBA、MTBEとの反応率が高く、これらのいずれか1種以上から不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸への選択率も高い。従って、本発明の触媒を用いることによって、目的生成物である不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0012】
本発明の触媒は、触媒成分として少なくともモリブデン、ビスマスおよび鉄を含み、反応原料のプロピレン、イソブチレン、TBAまたはMTBEを分子状酸素により気相接触酸化して不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を合成するために用いられるものである。反応原料は1種を用いても、これら2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
ここで、「不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸」とは、具体的には、反応原料がプロピレンの場合にはアクロレイン及び/又はアクリル酸を指し、それ以外の反応原料の場合にはメタクロレイン及び/又はメタクリル酸を指す。なお、触媒組成や反応条件によっては不飽和アルデヒドまたは不飽和カルボン酸のいずれかのみが生成する場合もあるが、本発明はこのような場合も含む。
【0014】
本発明の触媒は、前述の通り、以下の工程(1)〜(5):
(1)モリブデン、ビスマス及び鉄を含む粒子を製造する工程、
(2)前記工程(1)の粒子と該粒子と混合するための液体において、それぞれの物温を5〜20℃の範囲とする工程、
(3)前記工程(2)の状態の粒子と液体とを混合・接触させ、混練物を得る工程、
(4)前記工程(3)の混練物を押出成形し、成形品を得る工程、
(5)前記工程(4)の成形品を乾燥及び/又は焼成する工程、
によって製造されるものである。
本発明の触媒(触媒成分を含む粒子)は、モリブデン、ビスマス、及び鉄を含む金属元素の複合酸化物と推定されるものである。
【0015】
本発明の触媒は、工程(1)によって、モリブデン、ビスマスおよび鉄を触媒成分として含有するが、これ以外に、ケイ素、コバルト、ニッケル、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル、亜鉛、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン、チタン、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、タリウム等を含有してもよい。
【0016】
本発明における工程(1)としては、例えば、少なくともモリブデン、ビスマスおよび鉄を含む水性スラリーを乾燥する工程である。さらに、必要に応じて、この乾燥物を粉砕し、粒子状にすることもできる。
この水性スラリーを製造する方法は、特に限定されるものではなく、成分の著しい偏在を伴わない限り、従来からよく知られている沈殿法、酸化物混合法等の種々の方法を採用することができる。
【0017】
水性スラリーの原料としては、触媒成分となる各元素の酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、アンモニウム塩、ハロゲン化物等を使用することができる。例えば、モリブデン原料としてはパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン等が挙げられる。これら原料は、各元素に対して1種を用いても、2種以上を用いてもよい。
【0018】
水性スラリーを乾燥して粒子状にする方法としては、例えば、スプレー乾燥機を用いて乾燥する方法、スラリードライヤーを用いて乾燥する方法、ドラムドライヤーを用いて乾燥する方法、蒸発乾固して塊状の乾燥物を粉砕する方法等を挙げることができる。
これらは必要に応じて適宜選択して使用することができるが、中でも、乾燥と同時に粒子が得られる点や、得られる粒子の形状が本発明に好適な整った球形である点から、スプレー乾燥機を用いるのが好ましい。
水性スラリーの乾燥条件は、採用する乾燥方法により異なるが、スプレー乾燥機を用いる場合、入口温度は通常100〜500℃の範囲であり、出口温度は通常100℃以上、好ましくは105〜200℃の範囲である。
【0019】
この乾燥によって得られた粒子は、さらに焼成(熱処理)することによって、触媒としての機能を得ることができる。
しかし、この乾燥後の粒子には、原料等に由来する硝酸等の塩を含んでいる場合があるため、この粒子をそのまま成形した後に焼成すると、この塩の分解によって、成形品の強度が低下する場合がある。
従って、この焼成は、この成形前の工程(1)において、乾燥後の粒子の状態で実施するのが好ましい。
この焼成の条件は特に限定されるものではなく、特に焼成時間は目的とする触媒によって適宜選択されるものであるが、焼成温度は、通常、200〜600℃の範囲である。
【0020】
また、工程(1)で得られる粒子の平均粒子直径は、10μm以上とするのが好ましい。これは、平均粒子直径を10μm以上とすることによって、この粒子を成形して得られる触媒に大きな空隙、すなわち大きな細孔が形成され、これが触媒の選択率向上に寄与する傾向があるためである。より好ましくは20μm以上であり、さらに好ましくは45μm以上である。
さらに、工程(1)で得られる粒子の平均粒子直径は、150μm以下とするのが好ましい。これは、平均粒子直径を150μm以下とすることによって、単位体積当たりの粒子同士の接触点が増加するので、得られる触媒成形品の機械的強度が向上する傾向があるためである。より好ましくは100μm以下であり、さらに好ましくは65μm以下である。
なお、この粒子の平均粒子直径は、例えば、レーザー回折粒度分布測定装置によって、測定することができる。
【0021】
また、工程(1)で得られる粒子の嵩比重は、粉塵の発生が抑制される等によって、取り扱い性が向上する傾向にあることから、0.5kg/L以上とするのが好ましい。より好ましくは、0.8kg/L以上である。
さらに、この嵩比重は、粒子内に形成される細孔が増え、触媒の選択率向上に寄与する傾向があることから、1.8kg/L以下とするのが好ましい。より好ましくは、1.2kg/L以下である。
【0022】
また、工程(1)で得られる粒子は、粒子強度を9.8×10−4N以上とするのが好ましい。これは、成形時に粒子が破壊されにくくなり、成形して得られる触媒に形成される細孔が閉塞されにくくなる傾向にあるためである。
さらに、この粒子強度は、9.8×10−2N以下とするのが好ましい。これは、成形して得られる触媒の選択率が良好になる傾向にあるためである。
なお、この粒子強度は、例えば、微小圧縮試験機によって、測定することができる。
【0023】
本発明の触媒により、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を高収率で合成するためには、工程(3)の前に、工程(1)で得られる粒子と該粒子と混合するための液体に対して、それぞれの物温を5〜20℃の範囲で保持するための工程(2)が必要である。
これは、それぞれの物温が5℃未満であると、特に工程(3)〜(4)における粒子と液体との接触時間が5時間以下である場合において、製造される触媒の活性が低下する傾向にあるためである。好ましくは、8℃以上である。
また、それぞれの物温が20℃を超えると、特に工程(3)〜(4)における粒子と液体との接触時間が5時間以下である場合において、製造される触媒の選択性が低下する傾向にあるためである。好ましくは、17℃以下である。
【0024】
ここで、工程(1)で得られる粒子と混合するために使用される液体としては、水やアルコールが好ましい。このアルコールとしては、例えば、エタノール、メチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の低級アルコールが挙げられる。中でも、経済性と取り扱い性の点から、水が特に好ましい。これらの液体は1種を用いても、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0025】
この工程(2)における、上述の粒子と液体の物温差は、製造ロット間の触媒活性が変動しにくくなる傾向にあることから、なるべく小さくしておくのが好ましい。この温度差は5℃以下であることがより好ましく、温度差が実質的にないのがさらに好ましい。
【0026】
上述の粒子と液体を混合した状態で長時間放置しておくと、粒子が崩れたり、その形状が変化したりする可能性があるので、工程(2)における粒子と液体の物温の調整は、粒子と液体を混合せずに別々の状態で行う。
【0027】
工程(2)における物温の調整方法は、とくに限定されるのものではなく、
例えば、上記範囲の雰囲気温度に調節された恒温室内で保持する方法等を挙げることができる。
粒子と液体それぞれの保持方法についても、特に限定されるものではないが、工程(3)で混練するために事前に計量された粒子と液体のそれぞれをプラスチック製コンテナ等の容器に収納した後、これらを前記恒温室内等で一定時間以上保持することによって、これらの物温をより均一にするのが、本発明の目的を達成する上で好ましい。
この保持時間は、粒子と液体の温度をより均一にすることができることから3時間以上であることが好ましく、6時間以上であることがより好ましい。
さらに、この保持中においては、物温をより短い時間で均一にするために、粒子と液体のそれぞれを必要に応じて連続あるいは断続的に攪拌することができる。
【0028】
また、本発明の触媒の製造時に、上述の粒子と液体以外の物質を添加剤として使用し、これを工程(3)での混合・混練に供する場合には、この添加剤も5〜20℃の範囲となるように、個別に保持しておくのが好ましい。
【0029】
工程(3)は、工程(2)の状態の粒子と液体とを混合・接触させ、混練物を得るための工程である。
ここでは、上述の粒子と液体とが混練され、必要に応じて上述の添加剤も混練される。
【0030】
この工程における、粒子と液体の比率は、粒子の種類や大きさ、液体の種類等によって適宜選択されるが、通常、上述の粒子100質量部に対して、上述の液体を10〜70質量部の範囲とするのが好ましい。
これは、液体の使用量を10質量部以上とすることによって、得られる触媒に大きな空隙、すなわち大きな細孔が形成され、これが触媒の選択率向上に寄与する傾向があるためである。より好ましくは20質量部以上であり、さらに好ましくは30質量部以上であり、特に好ましくは35質量部以上である。
また、液体の使用量を70質量部以下とすることによって、得られる混練物の付着性が抑えられることにより、工程(4)における押出成形時の取り扱い性が向上するとともに、得られる触媒の機械的強度が向上する傾向にあるためである。より好ましくは60質量部以下であり、さらに好ましくは50質量部以下であり、特に好ましくは45質量部以下である。
【0031】
工程(3)で必要に応じて使用される添加剤としては、例えば、成形助剤を挙げることができ、これによって、工程(4)おける混練物の成形性の向上によって生産性が向上するとともに、成形品の強度を向上させることができる。
【0032】
このような成形助剤としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。これらの成形助剤は1種を用いても、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0033】
これら成形助剤を使用する場合は、その使用量を上述の粒子100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲とするのが好ましい。
これは、成形助剤の使用量を0.1質量部以上とすることによって、上述の添加剤としての効果を充分に得ることができる傾向にあるためである。より好ましくは2質量部以上である。
また、成形助剤の使用量を10質量部以下とすることによって、これを工程(5)で分解除去させる場合における、この分解処理が容易になる傾向にあるためである。より好ましくは6質量部以下である。
【0034】
また、工程(3)で使用できる添加剤としては、従来から触媒に使用されているものを必要に応じて適宜選択して使用することができる。
例えば、グラファイトやケイソウ土などの無機化合物、ガラス繊維、セラミックファイバーや炭素繊維などの無機ファイバー等は、触媒の機械的強度向上を目的として使用することができる。
【0035】
上述の通り、工程(3)では、上述の工程(2)の状態の粒子や液体等が混練されるが、この混練で使用される装置は特に限定されるものではなく、例えば、双腕型の攪拌羽根を使用するバッチ式の混練機、軸回転往復式やセルフクリーニング型等の連続式の混練機等を使用することができる。中でも、混練物の状態を確認しながら混練を行うことができる点から、バッチ式の混練機が好ましい。
【0036】
ここで、上述の添加剤を使用する場合は、まず、上述の粒子とともに混練機に投入し、充分に乾式混合した上で、上述の液体を投入するのが好ましい。これにより、均一な混練物を得ることができる傾向にある。
【0037】
この工程(3)における混練は、5〜30℃の範囲の雰囲気下で行うことが好ましい。これは、5℃以上とすることによって、得られる触媒の活性が高まる傾向にあるためである。より好ましくは10℃以上である。また、30℃以下とすることによって、得られる触媒の目的生成物の選択性が向上する傾向にあるためである。より好ましくは25℃以下であり、さらに好ましくは20℃以下である。
【0038】
この雰囲気温度は、工程(3)において必ずしも一定である必要はなく、上記範囲内での温度変動は許容される。しかし、製造ロット間での触媒性能の変動を少なくするためには、工程(3)の雰囲気温度は、できるだけ一定となるようにするのが好ましい。
また、この変動を少なくするためには、工程(2)から供給される粒子や液体等の物温と、この雰囲気温度との差をできるだけ少なくするのが好ましい。
さらに、この物温の製造ロット間での変動も、できるだけ少なくするのが好ましい。
このような混練は、例えば、空調機等で気温が5〜30℃の範囲になるように調節された室内に、上述の混練機を設置することで実施することができる。
さらに、上述の混練機の周囲をジャケットで覆い、このジャケットに液体を循環させることによって、混練機周辺の雰囲気を5〜30℃の範囲とする調節をより確実に実施することができる。
【0039】
工程(3)における混練終了直後の混練物の物温は、10〜35℃の範囲とするのが好ましい。これは、10℃以上とすることによって、得られる触媒の活性が向上する傾向にあるためである。より好ましくは15℃以上である。
また、35℃以下とすることによって、得られる触媒の目的生成物の選択性が向上する傾向にあるためである。より好ましくは30℃以下である。
【0040】
この工程(3)における混練の終点は、工程(4)における混練物の成形性や、得られる触媒の性能とのバランス等を考慮して決定されるものであり、混練時間、目視、または手触りによって判断することができる。
【0041】
工程(4)は、工程(3)で得られた混練物を押出成形し、成形品を得るための工程である。
【0042】
この押出成形は、最終的な目的形状に成形できるのであれば、そのための成形条件や使用する装置等は適宜選択することができ、特に限定されるものではない。例えば、工程(3)の混練物の製造と工程(4)の押出成形は、連続的に実施することができ、それに適する一体型の装置を使用することもできるが、1次成形工程と2次成形工程とを有するのが生産性の点で好ましい。
【0043】
この1次成形の方法は特に限定されないが、例えば、スクリュー式押出機等を使用した押出成形が可能である。
【0044】
1次成形工程による成形物(以下、「1次成形品」という)の形状は特に限定されるものではないが、例えば、円柱状、直方体状、立方体状を選択することができる。1次成形品の大きさについても特に限定されないが、ある程度以上の大きさとすることによって、得られる触媒の活性及び選択性の再現性が向上する傾向がある。例えば、この最も薄い部分を10mm以上とするのが好ましく、30mm以上とするのがさらに好ましい。
【0045】
また、2次成形工程では、1次成形品が最終的な目的形状に成形されるものである。
この2次成形の方法は特に限定されないが、例えば、オーガー式押出成形機、ピストン式押出成形機等を使用した押出成形が可能である。
【0046】
2次成形工程による成形品の形状は特に限定されるものではなく、例えば、リング状、円柱状、星型状を選択することができるが、特に直径15mm以下のリング状とすることによって、本発明の触媒の選択性がさらに向上する傾向にあり好ましい。なお、ここで「リング状」とは、別名「中空円筒状」と呼ばれるものである。
【0047】
また、1次成形工程及び2次成形工程においては、細孔容積の減少による触媒性能の低下を抑えることができるので、混練物や成形物の減圧脱気を行わないことが好ましい。
【0048】
この工程(4)における押出成形は、5〜30℃の範囲の雰囲気下で行うことが好ましい。これは、5℃以上とすることによって、得られる触媒の活性が高まる傾向にあるためである。より好ましくは10℃以上である。また、30℃以下とすることによって、得られる触媒の目的生成物の選択性が向上する傾向にあるためである。より好ましくは25℃以下であり、さらに好ましくは20℃以下である。
【0049】
この雰囲気温度は、工程(4)において必ずしも一定である必要はなく、上記範囲内での温度変動は許容される。しかし、製造ロット間での触媒性能の変動を少なくするためには、工程(4)の雰囲気温度は、できるだけ一定となるようにするのが好ましい。
また、この変動を少なくするためには、工程(3)から供給される混練物の物温と、この雰囲気温度との差をできるだけ少なくするのが好ましい。
さらに、この物温の製造ロット間での変動も、できるだけ少なくするのが好ましい。
【0050】
工程(4)は、工程(3)の場合と同様に、例えば、空調機等で気温が5〜30℃の範囲になるように調節された室内に、上述の成形機を設置することで実施することができる。
【0051】
工程(3)から工程(4)の間では、工程(1)の粒子と該粒子と混合するための液体とが接触した状態となっているが、この接触物を特定条件下で一定時間保持する(以下、「養生」という)ことによって、得られる触媒の活性や選択率を高めることができる。この養生は、必要に応じて適宜採用することができる。
【0052】
養生の対象である接触物は、工程(3)で得られる混練物でも良いし、工程(4)で得られる成形品でも良いが、養生の効果がより高くなる傾向にあることから、上述の1次成形品とするのが好ましい。
養生の方法は特に限定されるものではないが、対象物からの液体の蒸発を抑制した状態で、所定温度で所定時間放置することによって行うことができる。
この養生に際しては、上述の1次成形品のような対象物をプラスチックフィルム(シート)等で隙間なく包み、充分に密封するのが好ましい。また、この密封物を密閉容器に入れて、さらに密封するのがより好ましい。
【0053】
この養生のための温度は、5〜20℃の範囲とするのが好ましい。これは、養生温度を5℃以上することによって、得られる触媒の活性をより高めることができる傾向にあるためである。より好ましくは10℃以上である。
また、養生温度を20℃以下とすることによって、目的生成物の選択性がより向上する傾向にあるためである。より好ましくは15℃以下である。
さらに、この養生温度は、養生中に適宜変更することができる。
【0054】
この触媒性能向上の効果を得るためには、養生時間を少なくとも0.5時間以上とすることが好ましい。より好ましくは、1時間以上である。
養生時間を長くするほど、その効果はより顕著となるが、触媒の生産性は低下する傾向にある。
しかし、本発明では、工程(2)や上述の雰囲気温度の条件によって、短時間(例えば、4時間以下)の養生でも触媒性能を充分に向上させることができる。
【0055】
また、上述の通り、工程(3)から工程(4)の間においては、工程(1)の粒子と該粒子と混合するための液体とが接触した状態となっており、この状態時における雰囲気温度は、5〜30℃の範囲であることが好ましいが、この状態となっている時間(以下、「接触時間」という)の50%以上において、上述の雰囲気温度が5〜20℃の範囲となっているのがより好ましい。これによって、上述の触媒の選択性向上がより顕著となる傾向にあるためである。さらに好ましくは、接触時間の60%以上である。
【0056】
この条件は、例えば、工程(3)における混練を5〜20℃の範囲の雰囲気温度で実施するとともに、工程(4)における押出成形を5〜30℃の範囲の雰囲気温度で実施し、工程(3)における接触時間を工程(4)における接触時間より長くすることで実施可能である。
また、このような混練条件と押出成形条件の採用が困難な場合であっても、上述の養生を適宜採用することによって、接触時間の50%以上における雰囲気温度を5〜20℃の範囲とすることが可能である。
【0057】
さらに、工程(3)から工程(4)の間においては、上述の粒子と液体、混練物、及び成形品の物温が、5〜30℃の範囲であることが好ましい。
これは、これらの物温を5℃以上とすることによって、得られる触媒の活性が高まる傾向にあるためである。より好ましくは10℃以上である。また、物温を30℃以下とすることによって、得られる触媒の目的生成物の選択性が向上する傾向にあるためである。より好ましくは25℃以下であり、さらに好ましくは20℃以下である。
【0058】
工程(3)から工程(4)の間における、混練、押出成形、及び養生等からなる、上述の粒子と液体との接触時間は、得られる触媒の活性が向上し、安定した触媒性能が得られる傾向にあることから、1時間以上とするのが好ましい。より好ましくは、2時間以上である。
一方、本発明においては、上述のように、短時間の養生も可能であることから、上述の粒子と液体との接触時間を5時間以下としても、優れた性能の触媒を得ることができる。すなわち、工程(3)と工程(4)に要する時間を短縮することができ、生産性との両立が可能となる。
【0059】
工程(5)は、工程(4)で得られた成形品を乾燥及び/又は焼成する工程である。
本発明の触媒は、工程(4)で得られた成形品を乾燥後、焼成することによって得ることができるが、例えば、工程(1)にて粒子を既に焼成しており、かつ、成形品への添加剤として有機バインダー等を使用していない場合には、乾燥後の焼成を省略することも可能である。
【0060】
この成形品の乾燥方法は、特に限定されるものではなく、熱風乾燥、湿度乾燥、遠赤外線乾燥、マイクロ波乾燥等の方法を任意に用いることができる。
また、乾燥条件は、事前に設定される成形品の含水率に応じて、適宜選択することができる。
この成形品の焼成は、通常、200〜600℃の範囲で行われるが、焼成時間等の条件は、特に限定されるものではなく、適宜選択することができる。
【0061】
上記工程(1)〜(5)によって製造される、本発明の触媒は、少なくともモリブデン、ビスマスおよび鉄を含むものであるが、下記一般式(I)で表される組成を有することが好ましい。
MoaBibFecdefgSihi(I)
【0062】
式(I)中、Mo、Bi、Fe、SiおよびOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素および酸素を示し、Mはコバルトおよびニッケルからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Xはクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタルおよび亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Yはリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモンおよびチタンからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示し、Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を示す。
【0063】
a、b、c、d、e、f、g、hおよびiは各元素の原子比率を表し、a=12のときb=0.01〜3、c=0.01〜5、d=1〜12、e=0〜8、f=0〜5、g=0.001〜2、h=0〜20であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。
【0064】
本発明の触媒の存在下で、プロピレン、イソブチレン、TBA、又はMTBEのいずれか1種以上と分子状酸素とを含む原料ガスを気相接触酸化することによって、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造することができる。
この気相接触酸化反応は、通常、触媒を反応管に充填した固定床で行う。触媒層は1層としても、2層以上としてもよい。
【0065】
この際、反応管内において、触媒はシリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、シリコンカーバイト、チタニア、マグネシア、セラミックボールやステンレス鋼等の不活性担体で希釈されていてもよい。これらの不活性担体は、工程(3)の混練時において、添加剤として使用することもできる。
【0066】
原料ガス中の反応原料であるプロピレン、イソブチレン、TBAまたはMTBEの濃度は、広い範囲で変えることができるが、1〜20容量%が好ましい。
分子状酸素源としては空気を用いることが経済的であるが、必要ならば純酸素で富化した空気等を用いてもよい。原料ガス中の反応原料と酸素のモル比(容量比)は1:0.5〜1:3の範囲が好ましい。
原料ガスは反応原料と分子状酸素以外に水を含んでいることが好ましく、また窒素、二酸化炭素等の不活性ガスで希釈して用いることが好ましい。原料ガス中の水の濃度は、1〜45容量%が好ましい。
【0067】
反応圧力は大気圧から数100kPaまでが好ましい。反応温度は通常200〜450℃の範囲で選ぶことができるが、250〜400℃の範囲が好ましい。反応ガスの接触時間は1.5〜15秒が好ましい。
【実施例】
【0068】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。
実施例および比較例中の「部」は質量部である。また、混練にはバッチ式の双腕型の攪拌羽根を備えた混練機を使用した。原料ガスおよび反応ガスの分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。触媒組成は触媒原料の仕込み量から求めた。
【0069】
実施例および比較例中の原料である、プロピレン、イソブチレン、TBA、又はMTBEの反応率(以下、反応率という)と、生成する不飽和アルデヒド又は不飽和カルボン酸の選択率、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の合計収率は次式により算出した。
反応率(%)=A/B×100
不飽和アルデヒドの選択率(%)=C/A×100
不飽和カルボン酸の選択率(%)=D/A×100
合計収率(%)=(C+D)/B×100
ここで、Aは反応した原料である、プロピレン、イソブチレン、TBA、又はMTBEのモル数、Bは供給した原料である、プロピレン、イソブチレン、TBA又はMTBEのモル数、Cは生成した不飽和アルデヒドのモル数、Dは生成した不飽和カルボン酸のモル数である。
【0070】
<実施例1>
純水1000部に、パラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム12.4部、硝酸セシウム23.0部、三酸化アンチモン27.4部、及び三酸化ビスマス33.0部を加え、加熱攪拌した(A液)。別に、純水1000部に、硝酸第二鉄209.8部、硝酸ニッケル75.5部、硝酸コバルト453.3部、硝酸鉛31.3部、及び85%リン酸水溶液5.6部を順次加え、溶解した(B液)。A液にB液を加えて水性スラリーとした後、この水性スラリーをスプレー乾燥機を用いて平均粒子直径60μmの乾燥球状粒子とした。そして、この乾燥球状粒子を300℃で1時間、510℃で3時間焼成を行い、触媒焼成物とした。このようにして得られた触媒焼成物の粒子強度は1.3×10−2N、かさ密度は0.95kg/Lであった。
【0071】
このようにして得られた触媒焼成粉500部、メチルセルロース15部、及び純水180部のそれぞれを15℃の恒温室内で8時間保管した。この時の触媒焼成粉、メチルセルロース、及び純水の物温は、それぞれ15℃に保持されていた。
【0072】
室温18℃に調節された成形室内に設置され、15℃の水が循環するジャケットで覆われた混練機に、上記触媒焼成物(15℃)を投入し、さらに上記メチルセルロース(15℃)を加え、乾式混合した。ここに上記純水(15℃)を混合し、混練り機で粘土状物質になるまで混合(混練)した。
混練開始から終了までの時間は45分であり、混練終了直後の混練物の物温は25℃であった。
【0073】
この成形室内に設置されたスクリュー式押出成形機(雰囲気温度18℃)を用いて、得られた不定形の混練物(25℃)を押出成形し、直径45mm、長さ280mmの円柱状の1次成形品を得た。なお、成形の際には減圧脱気を行わなかった。
この1次成形工程に要した時間は24分であり、成形直後の1次成形品の物温は24℃であった。
【0074】
次いで、この1次成形品を水分が蒸発しないようにプラスチックフィルムで包んで密封し、さらに密閉容器に入れて15℃の恒温槽で2時間15分養生した。
【0075】
養生後の1次成形品(物温15℃)を上記の成形室内に設置されたピストン式押出し成形機(雰囲気温度18℃)を用いて押出成形し、外径5mm、内径2mm、長さ5mmのリング状の触媒成形品(2次成形品)を得た。なお、成形の際には減圧脱気を行わなかった。
この2次成形工程に要した時間は36分であり、成形直後の2次成形品の物温は15℃であった。
【0076】
上記の混練から押出成形の工程において、触媒成分を含む粒子と水との接触時間は4時間であった。また、この接触時間の全てを通じて、雰囲気温度は5〜20℃の範囲であり、物温は5〜30℃の範囲であった。
【0077】
次いで、得られた2次成形品を110℃に設定された熱風乾燥機を用いて充分に乾燥した後、さらに、400℃の焼成を3時間行い、本発明の触媒を得た。
【0078】
この触媒の酸素以外の元素の組成は、
Mo120.2Bi0.6Fe2.2Sb0.8Ni1.1Co6.6Pb0.40.2Cs0.5
であった。
【0079】
この触媒成形品をステンレス製反応管に充填し、イソブチレン5%、酸素12%、水蒸気10%および窒素73%(容量%)の原料ガスを用い、大気下、接触時間3.6秒、反応温度340℃で反応させた。その反応結果は、イソブチレンの反応率97.5%、メタクロレインの選択率90.2%、メタクリル酸の選択率3.9%であった。
【0080】
<実施例2〜6、比較例1〜4>
表1の条件とする以外は、実施例1と同様の条件で触媒を製造し、反応を行った。この反応成績を表2に記載した。
なお、実施例3、4及び6においては、恒温室内での保管中に触媒焼成粉を30分毎に攪拌した。
実施例4においては、1段階目の養生(養生温度9℃、養生時間1.5時間)に引き続いて2段階目の養生(養生温度15℃、養生時間1.5時間)を行った。
比較例1〜4においては、混練開始前の触媒焼成粉、メチルセルロース及び純水の恒温室内での保管は実施せず、混練時におけるジャケットの水の循環も実施しなかった。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
<実施例7>
純水1000部に、パラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム6.2部、硝酸セシウム23.0部、三酸化アンチモン27.5部、及び三酸化ビスマス33.0部を加え、加熱攪拌した(A液)。別に、純水1000部に、硝酸第二鉄190.7部、硝酸ニッケル68.6部、硝酸コバルト446.4部、硝酸鉛23.5部、及び85%リン酸水溶液1.4部を順次加え、溶解した(B液)。A液にB液を加えて水性スラリーとした後、この水性スラリーをスプレー乾燥機を用いて平均粒子直径55μmの乾燥球状粒子とした。そして、この乾燥球状粒子を300℃で1時間、510℃で3時間焼成を行い、触媒焼成物とした。このようにして得られた触媒焼成物の粒子強度は1.8×10−2N、かさ密度は0.97kg/Lであった。
【0084】
このようにして得られた触媒焼成粉500部、ヒドロキシプロピルセルロース15部、及び純水180部のそれぞれを13℃の恒温室内で10時間保管した。この時の触媒焼成粉、メチルセルロース、及び純水の物温は、それぞれ13℃に保持されていた。
【0085】
室温24℃に調節された成形室内に設置され、13℃の水が循環するジャケットで覆われた混練機に、上記触媒焼成物(13℃)を投入し、さらに上記ヒドロキシプロピルセルロース(13℃)を加え、乾式混合した。ここに上記純水(13℃)を混合し、混練り機で粘土状物質になるまで混合(混練)した。
混練開始から終了までの時間は50分であり、混練終了直後の混練物の物温は22℃であった。
【0086】
この成形室内に設置されたスクリュー式押出成形機(雰囲気温度24℃)を用いて、得られた不定形の混練物(22℃)を押出成形し、直径45mm、長さ280mmの円柱状の1次成形品を得た。なお、成形の際には減圧脱気を行わなかった。
この1次成形工程に要した時間は24分であり、成形直後の1次成形品の物温は22℃であった。
【0087】
次いで、この1次成形品を水分が蒸発しないようにプラスチックフィルムで包んで密封し、さらに密閉容器に入れて13℃の恒温槽で1時間10分養生した。
【0088】
養生後の1次成形品(物温13℃)を上記の成形室内に設置されたピストン式押出し成形機(雰囲気温度24℃)を用いて押出成形し、外径5mm、内径2mm、長さ5mmのリング状の触媒成形品(2次成形品)を得た。なお、成形の際には減圧脱気を行わなかった。
この2次成形工程に要した時間は36分であり、成形直後の2次成形品の物温は15℃であった。
【0089】
上記の混練から押出成形の工程において、触媒成分を含む粒子と水との接触時間は3時間であった。また、この接触時間の67%(2時間)において、接触時の雰囲気温度が5〜20℃の範囲であり、この接触時間の全てを通じて、物温は5〜30℃の範囲であった。
【0090】
次いで、得られた2次成形品を110℃に設定された熱風乾燥機を用いて充分に乾燥した後、さらに、400℃の焼成を3時間行い、本発明の触媒を得た。
【0091】
この触媒の酸素以外の元素の組成は、
Mo120.1Bi0.6Fe2Sb0.2Ni1Co6.5Pb0.30.05Cs0.5
であった。
【0092】
この触媒成形品をステンレス製反応管に充填し、TBA5%、酸素12%、水蒸気10%および窒素73%(容量%)の原料ガスを用い、常圧下、接触時間3.6秒、反応温度340℃で反応させた。その反応結果は、TBAの反応率100%、メタクロレインの選択率88.5%、メタクリル酸の選択率2.4%であった。
【0093】
<比較例5>
表3の条件とする以外は、実施例7と同様の条件で触媒を製造し、反応を行った。この反応成績を表4に記載した。
比較例5においては、混練開始前の触媒焼成粉、ヒドロキシプロピルセルロース及び純水の恒温室内での保管は実施せず、混練時におけるジャケットの水の循環も実施しなかった。
【0094】
【表3】

【0095】
【表4】

【0096】
<実施例8>
純水1000部に、パラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム6.2部、硝酸カリウム1.4部、三酸化アンチモン27.5部、及び三酸化ビスマス66.0部を加え、加熱攪拌した(A液)。別に、純水1000部に、硝酸第二鉄114.4部、硝酸コバルト295.3部、及び硝酸亜鉛35.1部を順次加え、溶解した(B液)。A液にB液を加えて水性スラリーとした後、この水性スラリーをスプレー乾燥機を用いて平均粒子直径60μmの乾燥球状粒子とした。そして、この乾燥球状粒子を300℃で1時間、510℃で3時間焼成を行い、触媒焼成物とした。このようにして得られた触媒焼成物の粒子強度は1.0×10−2N、かさ密度は0.91kg/Lであった。
【0097】
このようにして得られた触媒焼成粉500部、メチルセルロース15部、及び純水180部のそれぞれを16℃の恒温室内で8時間保管した。この時の触媒焼成粉、メチルセルロース、及び純水の物温は、それぞれ16℃に保持されていた。
【0098】
室温22℃に調節された成形室内に設置され、16℃の水が循環するジャケットで覆われた混練機に、上記触媒焼成物(16℃)を投入し、さらに上記メチルセルロース(16℃)を加え、乾式混合した。ここに上記純水(16℃)を混合し、混練り機で粘土状物質になるまで混合(混練)した。
混練開始から終了までの時間は40分であり、混練終了直後の混練物の物温は25℃であった。
【0099】
この成形室内に設置されたスクリュー式押出成形機(雰囲気温度22℃)を用いて、得られた不定形の混練物(25℃)を押出成形し、直径45mm、長さ280mmの円柱状の1次成形品を得た。なお、成形の際には減圧脱気を行わなかった。
この1次成形工程に要した時間は24分であり、成形直後の1次成形品の物温は25℃であった。
【0100】
次いで、この1次成形品を水分が蒸発しないようにプラスチックフィルムで包んで密封し、さらに密閉容器に入れて16℃の恒温槽で3時間20分養生した。
【0101】
養生後の1次成形品(物温16℃)を上記の成形室内に設置されたピストン式押出し成形機(雰囲気温度22℃)を用いて押出成形し、外径5mm、内径2mm、長さ5mmのリング状の触媒成形品(2次成形品)を得た。なお、成形の際には減圧脱気を行わなかった。
この2次成形工程に要した時間は36分であり、成形直後の2次成形品の物温は17℃であった。
【0102】
上記の混練から押出成形の工程において、触媒成分を含む粒子と水との接触時間は5時間であった。また、この接触時間の80%(4時間)において、接触時の雰囲気温度が5〜20℃の範囲であり、この接触時間の全てを通じて、物温は5〜30℃の範囲であった。
【0103】
次いで、得られた2次成形品を110℃に設定された熱風乾燥機を用いて充分に乾燥した後、さらに、400℃の焼成を3時間行い、本発明の触媒を得た。
【0104】
この触媒の酸素以外の元素の組成は、
Mo120.1Bi1.2Fe1.2Sb0.8Co4.3Zn0.50.06
であった。
【0105】
この触媒成形品をステンレス製反応管に充填し、プロピレン5%、酸素12%、水蒸気10%および窒素73%(容量%)の原料ガスを用い、常圧下、接触時間3.6秒、反応温度310℃で反応させた。その反応結果は、プロピレンの反応率98.1%、アクロレインの選択率91.4%、アクリル酸の選択率6.6%であった。
【0106】
<比較例6>
表5の条件とする以外は、実施例8と同様の条件で触媒を製造し、反応を行った。この反応成績を表6に記載した。
比較例6においては、混練開始前の触媒焼成粉、メチルセルロース及び純水の恒温室内での保管は実施せず、混練時におけるジャケットの水の循環も実施しなかった。
【0107】
【表5】

【0108】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン、イソブチレン、tert−ブチルアルコール、又はメチル−tert−ブチルエーテルのいずれか1種以上を分子状酸素により気相接触酸化して、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に用いられ、
以下の工程(1)〜(5):
(1)モリブデン、ビスマス及び鉄を含む粒子を製造する工程、
(2)前記工程(1)の粒子と該粒子と混合するための液体において、それぞれの物温を5〜20℃の範囲とする工程、
(3)前記工程(2)の状態の粒子と液体とを混合・接触させ、混練物を得る工程、
(4)前記工程(3)の混練物を押出成形し、成形品を得る工程、
(5)前記工程(4)の成形品を乾燥及び/又は焼成する工程、
によって製造される触媒。
【請求項2】
前記工程(3)終了時の混練物の物温が、10〜35℃の範囲である、請求項1記載の触媒。
【請求項3】
前記工程(3)〜(4)における粒子と液体との接触を5〜30℃の雰囲気温度下で実施するとともに、該接触時間の50%以上の雰囲気温度を5〜20℃の範囲とする、請求項1又は2記載の触媒。
【請求項4】
前記工程(3)から前記工程(4)の間において、前記混練物及び/又は成形品を5〜20℃の雰囲気温度下で養生する工程を有する、請求項1〜3のいずれかに記載の触媒。
【請求項5】
前記工程(3)〜(4)における、粒子と液体、混練物、及び成形品の物温が5〜30℃の範囲である、請求項1〜4のいずれかに記載の触媒。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の触媒の存在下で、プロピレン、イソブチレン、tert−ブチルアルコール、又はメチル−tert−ブチルエーテルのいずれか1種以上を分子状酸素により気相接触酸化する、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2010−264358(P2010−264358A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−116409(P2009−116409)
【出願日】平成21年5月13日(2009.5.13)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】