説明

触媒によるヒドロキシ芳香族化合物の選択的オキシ臭素化方法

本発明は、ヒドロキシ芳香族化合物を選択的に臭素化する方法を提供する。ヒドロキシ芳香族化合物を酸素及び臭素源と、酸性溶媒中、周期律表の第IV族〜第VIII族遷移金属の化合物及び化合物の混合物からなる群から選択される触媒の存在下で接触させる。触媒として遷移金属化合物を用いる方法から得られるモノ臭素化生成物、主としてパラ位臭素化生成物の選択率は、他の触媒を用いる既知の方法のそれより格段に高い。したがって、望ましくない二臭素化及び多臭素化副生物の生成が格段に減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒作用によりヒドロキシ芳香族化合物を臭素化する方法に関し、特に反応生成物のパラ及びモノ選択性を高めるために遷移金属化合物触媒を使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキノンなどの単環ジヒドロキシ芳香族化合物や、4,4’−ジヒドロキシビフェニル(以下単に「ビフェノール」と記すこともある)などのジヒドロキシビフェニル類には、化学工業で様々な用途がある。例えば、これら両者の化合物ともポリマー製造に使用でき、具体的にはポリカーボネート、ポリスルホン及びポリイミド、特にポリエーテルイミドの製造に使用できる。
【0003】
ヒドロキノン及びビフェノールを製造するのに様々な方法がある。このような方法の例として、p−ブロモフェノールからヒドロキノン及びビフェノールを製造でき、加水分解によりヒドロキノンを製造でき、また貴金属触媒、塩基及び還元剤の存在下で還元カップリングによりビフェノールを製造できる。
【0004】
p−ブロモフェノールで代表されるような臭素化ヒドロキシ芳香族化合物は、ヒドロキシ芳香族化合物前駆物質とHBr、臭素元素又は種々の臭化物との反応により製造できる。本出願人に譲渡された係属中の米国特許出願第10/342,475号(2003年1月16日出願)に、p−ブロモフェノールなどの臭素化ヒドロキシ芳香族化合物を効率よく製造する手段が開示されている。この方法では、ヒドロキシ芳香族化合物を酸素及び臭化物源と、酸性溶媒中で触媒として銅元素もしくは銅化合物の存在下で接触させる。
【0005】
このアプローチにより他の既知の方法に比べて高い効率が得られるが、さらなる改良が引き続き求められている。特に、多臭素化副生物の形成を抑えることにより、主としてモノ臭素化生成物、特に、ヒドロキシ基に対してパラ位に置換があるモノ臭素化生成物を形成する反応の選択性を高めることができれば、有利である。さらに、酸性溶媒中での銅塩の腐食性が極端に高いので、ヒドロキシ芳香族化合物のオキシ臭素化に他の触媒を用いることができれば、有利である。
【特許文献1】米国特許出願第10/342475号明細書
【非特許文献1】K−J Lee et al., ”Bromination of Activated Arenes by Oxone and Sodium Bromide”, Bull. Korean Chem. Soc., 22 (5), 773−74 (2002)
【非特許文献2】R. Neumann and I. Assael, ”Oxybromination Catalysed by the Heteropolyanion Compound H5PMO10V2O40 in an Organic Medium: Selective para−Bromination of Phenol”, J. Chem. Soc., Chem. Commun., 1285−87 (1988)
【非特許文献3】U. Bora et al., ”Regioselective Bromination of Organic Substrates by Tetrabutylammonium Bromide Promoted by V2O5O2−H2O2: An Environmentally Favorable Synthetic Protocol”, Org. Lett., 2 (3), 247−49 (2000)
【非特許文献4】K. Krohn et al., ”Para−Selective Chlorination and Bromination of Phenols with tert−Butyl Hydroperoxide and TiX(OiPR)3”, J. Ptakt. Chem. 341 (1), 59−61 (1999)
【非特許文献5】T. Oberhauser, ”A New Bromination Methods for Phenols and Anisoles: NBS/HBF4−Et2O in CH3CN”, J. Org. Chem. 62, 4504−06 (1997)
【非特許文献6】N. Narender et al., ”Liquid phase bromination of phenols using potassium bromide and hydrogen peroxide over zeolites”, Molec. Catalysis A: Chem. 192, 73−77 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ヒドロキシ芳香族化合物を選択的に臭素化してモノ置換生成物を形成し、この際ジブロモフェノール及び多臭素化副生物の形成を最小限に抑える、効率よいモノ置換生成物の形成方法を提供する。さらに、本発明の方法は、パラ臭素化ヒドロキシ芳香族化合物を、オルト臭素化生成物に対して高い選択率で生成する。本発明の方法は、オキシ臭素化反応に触媒作用する第IV族〜第VIII族遷移金属の化合物を用いて、高い選択率のみならず、全体として高いプロセス収率を達成する。さらに、腐食性の銅触媒を用いる必要がない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、第一の態様では、本発明は、臭素化ヒドロキシ芳香族化合物の製造方法に関する。本方法は、ヒドロキシ芳香族化合物を酸素及び臭化水素、臭素元素、イオン性臭素塩及びこれらの混合物からなる群から選択される臭素化合物と、酸性溶媒中、周期律表の第IV族〜第VIII族遷移金属の化合物及び化合物の混合物からなる群から選択される触媒の存在下で接触させる工程を含む。
【0008】
別の態様では、本発明が提供する4−ブロモフェノール、4−ブロモ−o−クレゾール又は4−ブロモ−m−クレゾールの製造方法は、フェノール、o−クレゾール又はm−クレゾールを空気及び臭化水素と、酸性溶媒中、周期律表の第IV族〜第VIII族遷移金属の化合物及び化合物の混合物からなる群から選択される触媒の存在下で接触させる工程を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、ヒドロキシ芳香族化合物の選択的オキシ臭素化に触媒作用をなす、第IV族〜第VIII族遷移金属の化合物及び錯体の新規な使用に関する。予期せざることには、生成物はほとんどモノ臭素化化合物であり、しかも主としてp−ブロモ化合物であり、微量のo−ブロモ化合物が存在する。これらの触媒を使用することで、多臭素化副生物の形成は、従来の方法と比較して著しく減少する。
【0010】
本発明の方法により得られる生成物すべての共通な初期反応物質は、ヒドロキシ芳香族化合物、例えば単環式モノヒドロキシ芳香族化合物である。ヒドロキシ芳香族化合物を酸素及び臭素化合物と、周期律表の第IV族〜第VIII族遷移金属の化合物又は化合物の混合物である触媒の存在下で接触させる。臭素化反応は、約20〜150℃の範囲の温度で行うことができるが、通常約60〜100℃の温度である。
【0011】
ここで用いる用語(臭素化生成物への)「選択率」又は選択性は、特定の臭素化生成物のモル数を消費されたヒドロキシ芳香族化合物のモル数に対するパーセントとして表示することを意味する。さらに、「モノ選択率」は、形成されるパラ臭素化及びオルト臭素化生成物のモル数を、形成されるパラ臭素化生成物、オルト臭素化生成物、二臭素化生成物及び多臭素化生成物のモル数に対するパーセントとして表示することで定義される。p−臭素化生成物への選択率、即ち「パラ選択率」は、パラ位が臭素化されたモノ臭素化生成物の(残りがオルト臭素化化合物である全体に対する)パーセントとして定義される。
【0012】
ヒドロキシ芳香族反応物質は、非置換ヒドロキシ芳香族化合物、例えばフェノールであっても、4位が非置換で臭素化に供しうるならば、置換化合物であってもよい。当業者によく知られているように、ヒドロキシ基に結合した炭素に対して2位、3位及び4位は、それぞれオルト、メタ及びパラとしても知られ、ここではそう表記する。さらに、o−はオルトを、m−はメタを、p−はパラを指す。なお、置換基は1位又は4位炭素以外のアリール環のどの位置にあってもよい。置換基(1以上)の例としては、アルキル基、特にC1−4アルキル基がある。具体的な化合物には、次式で表されるものがある。
【0013】
【化1】

式中、Rは各々独立に水素又は置換基、好ましくはC1−4アルキルである。
【0014】
ほとんどの場合にフェノールが特に好ましく、以下の説明ではしばしば具体的な例としてフェノールに言及する。しかし、所望に応じて、フェノールの代わりにo−及びm−クレゾールなどの同族化合物を用いてもよい。
【0015】
酸素は化学量論的過剰量で使用し、純酸素でもよいし、空気や酸素濃縮空気の形態で使用してもよい。接触は酸素もしくは空気流れと行っても、圧力下、代表的には約100気圧以下の酸素もしくは空気と行ってもよい。
【0016】
臭素化合物としては、臭化水素、臭素元素(Br)及び臭素塩などが適当である。臭素化合物の混合物も使用できる。臭化水素は任意の形態で使用でき、例えば気体状HBr、HBr水溶液(臭化水素酸)、HBrの極性有機溶剤(代表的には後述の溶剤の一つ)への溶液がある。大抵の場合、出発反応溶媒は無水である。臭素塩には、アルカリ金属臭化物、例えば臭化ナトリウム及び臭化カリウム、アルカリ土類金属臭化物、例えば臭化カルシウム及び臭化マグネシウムがある。
【0017】
接触は酸性溶媒中で行う。一般にブロンステッド酸を含有する、特に硫酸、リン酸及びトリフルオロメタンスルホン酸を含有する水性酸性溶媒を使用できる。或いは、臭素化合物として臭化水素酸を使用する場合には、臭化水素酸が酸性溶媒としても役立つ。極性溶剤が存在してもよい。極性溶剤には、極性非プロトン性溶剤、例えばアセトニトリル、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、酢酸エチル及びo−ジクロロベンゼン、並びにプロトン性溶剤、例えば水、酢酸、プロピオン酸及び過剰のヒドロキシ芳香族化合物がある。多くの場合、酢酸が好ましい。これらの溶剤の混合物を使用してもよい。前述したように、多くの場合、反応溶媒は無水である。
【0018】
通常、無水条件下の酢酸中の臭化水素又は臭化水素酸が臭素源/酸性溶媒として好ましい。臭化水素酸は、市販の48%又は62%(容量)水溶液を含めて、どのような濃度のものを使用してもよい。臭化水素酸を用いる場合、酢酸も添加することがしばしばある。
【0019】
イオン性臭化物とヒドロキシ芳香族化合物とのモル比は、ジブロモ及び多臭素化化合物への転化を最小限に抑えるために、1:1未満とするのが好ましく、代表的にはモル比を約0.2〜0.9:1の範囲とする。しかし、臭素化合物として臭素元素を用いる場合には、Brとヒドロキシ芳香族化合物とのモル比は、やはり副生物の形成を最小限に抑えるために、1:2未満とするのが好ましく、代表的には約0.2〜0.9:2とする。本出願の元出願と同日付けで出願された米国特許出願「ヒドロキシ芳香族化合物の臭素化」(出願代理人整理番号No.134997)に開示されているように、1モルの臭素が1モルのフェノールと反応して1モルのp−ブロモフェノール及び1モルのHBrを生成し、得られたHBrが次に酸素及び触媒の存在下で別の1モルのフェノールと反応して別の1モルのp−ブロモフェノールを生成する。したがって、本明細書に記載の触媒の使用により、安価な酸素、例えば空気中の酸素を酸化体として使用する臭素化反応に用いる臭素のすべてを消費することができる。
【0020】
本発明のオキシ臭素化反応は、第IV族〜第VIII族遷移金属の化合物又は錯体の1種以上からなる触媒の存在下で行われる。ヒドロキシ芳香族化合物と触媒とのモル比を約1:1〜約500:1の範囲とすることで、生成物のジブロモ及び多臭素化化合物への転化が最小限に抑えられる。代表的には200:1のモル比から、優れたモノ選択率で高い生成物収率が実現される。
【0021】
触媒化合物に用いるのに適当な第IV族〜第VIII族遷移金属には、例えば、バナジウム、チタン、モリブデン、タングステン及び鉄がある。しかし、本発明はこれらの金属の化合物に限定されない。バナジウムに関しては、陽イオン塩、陰イオン塩及び中性錯体を含むバナジウム源のいずれも、フェノール類の選択的オキシ臭素化用の触媒として用いることができる。バナジウム酸塩、例えば化学式NaVOで表されるメタバナジウム酸ナトリウムを用いるのが好ましい。このような臭素化反応に有用であると確認された他の触媒には、例えば、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム、ビス(アセチルアセトナト)オキソチタン、酸化モリブデンナトリウム二水和物(NaMoO・2HO)、臭化鉄(FeBr)及びタングステン酸(HWO・xHO)がある。ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウムの化学式はVO(CHCOCHCOCHで、この式はしばしばVO(acac)と省略される。同様に、ビス(アセチルアセトナト)オキソチタンの化学式はTiO(CHCOCHCOCHで、この式もTiO(acac)と省略される。しかし、本発明はこれらの触媒の使用に限定されず、他の配位子及び塩が当業者に自明である。
【0022】
さらに、第IV族〜第VIII族遷移金属触媒化合物は単独で使用しても、組み合わせて使用してもよい。例えば、上記触媒の任意のものの混合物を使用できる。1実施態様では、バナジウム化合物とモリブデン化合物の混合物を触媒として使用する。別の実施態様では、触媒がバナジウム化合物とタングステン化合物との混合物である。一般に、第IV族〜第VIII族遷移金属化合物の混合物は、しばしば反応の臭素化生成物への選択率及びパラ選択率を改良する。さらに臭素化生成物の収率が通常、反応の速度と同じく、著しく増加する。バナジウム化合物と他の金属化合物とのモル比は約1:0.5〜約1:6の範囲にある。このような組合せの例には、メタバナジウム酸ナトリウム(NaVO)と酸化モリブデンナトリウム二水和物(NaMoO・2HO)もしくはタングステン酸(HWO・xHO)との混合物がある。
【0023】
本発明の別の実施態様では、硝酸塩、例えば硝酸ナトリウムを触媒に添加して、触媒の性能と活性を改良することができる。硝酸塩の添加により、モノ臭素化生成物の収率及び反応速度が上昇し、そして場合によっては、臭素化生成物への選択率及びパラ選択率も向上する。硝酸塩と第IV族〜第VIII族遷移金属触媒化合物とのモル比は、約1:1〜約1:4の範囲とするのが好ましい。しかし、約1:2のモル比が代表的である。しばしば、硝酸ナトリウムをバナジウム化合物と組み合わせて使用して反応を促進する。
【0024】
反応が無水条件下で行われているときに、反応混合物に水を添加すると、触媒作用による臭素化(接触臭素化とも言う)に影響がある。少量の水の添加は、代表的にはモノ選択率を上げるが、反応速度とブロモフェノール収率がかなり低下する。一般に、臭素源が無水HBr又は無水イオン性臭素塩である場合、水と臭素源とのモル比を約0.1:1〜約2:1とするのが有効である。
【0025】
前述したように、接触臭素化反応の生成物はほとんどモノ臭素化化合物で、主としてパラ位が臭素化された化合物で、オルト位が臭素化された化合物が微量存在する。本発明で記載した第IV族〜第VIII族遷移金属触媒を用いることで、二臭素化及び多臭素化生成物の形成は低減する。臭素化フェノール生成物への選択率は通常79%より高く、代表的には、バナジウム触媒を使用した場合、94〜100%の範囲にある。さらに、100%のモノ選択率もよく見られるが、多くの場合、使用した反応物質、触媒及び反応条件に応じて、モノ選択率は96〜100%の範囲である。しかし、モノ選択率は、70%より高いければ許容範囲である。さらに、p−臭素化生成物への選択率、即ち「パラ選択率」は通常80%以上であり、しばしば90%より高い。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を示して、本発明を具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。本明細書に記載のオキシ臭素化反応に用いる試薬、反応物質及び触媒は、簡単に入手できる材料である。このような材料は、標準的な製造法にしたがって調製するか、商業的供給元から入手できる。ここで、用語「BrPhOHへの選択率」は、フェノールの接触臭素化後のモノ臭素化フェノールへの選択率を意味する。「BrPhOHの収率」は、モノ臭素化フェノール生成物の収率を意味する。
【0027】
実施例1〜6は、第IV族〜第VIII族遷移金属の化合物を触媒として用いることにより、溶剤中でフェノールを水性HBr/Oで接触臭素化(触媒作用による臭素化)する例を示す。
【0028】
実施例1
攪拌子を備える3ドラムのバイアルに、1.5g(15.9mmol)のフェノール、2.95gの水性HBr(48wt%)(17.5mmol)、1.5gの酢酸及び0.250g(1.0mmol)のVO(acac)を仕込んだ。バイアルを、反応中に空気が流れるように孔をあけたキャップで密封し、アルミニウムブロック内に配置した。ブロックを標準1ガロンオートクレーブ反応器(Autoclave Engineers)に入れ、空気で34.0気圧に加圧し、100℃に2時間加熱した。次にブロックを室温まで冷却し、圧力解除した。得られた混合物を、気相クロマトグラフィにより分析した。結果を表1に示す。
【0029】
実施例2
実施例1の手順を繰り返したが、本例ではバイアルに、1.5g(15.9mmol)のフェノール、1.47gの水性HBr(48wt%)(8.72mmol)、2.5gの酢酸及び0.250g(1.0mmol)のVO(acac)を仕込んだ。結果を表1に示す。
【0030】
実施例3
実施例1の手順を繰り返したが、本例ではバイアルに、1.5g(15.9mmol)のフェノール、2.0gの水性HBr(48wt%)(11.9mmol)、1.5gの酢酸及び0.175g(0.7mmol)のVO(acac)を仕込んだ。結果を表1に示す。
【0031】
実施例4
実施例1の手順を繰り返したが、本例ではバイアルに、1.5g(15.9mmol)のフェノール、2.0gの水性HBr(48wt%)(11.9mmol)、1.35gの酢酸エチル及び0.175g(0.7mmol)のVO(acac)を仕込んだ。結果を表1に示す。
【0032】
実施例5
実施例1の手順を繰り返したが、本例ではバイアルに、1.5g(15.9mmol)のフェノール、2.0gの水性HBr(48wt%)(11.9mmol)、1.35gの酢酸エチル及び0.107g(0.5mmol)のFeBrを仕込んだ。結果を表1に示す。
【0033】
実施例6
実施例1の手順を繰り返したが、本例ではバイアルに、1.5g(15.9mmol)のフェノール、2.5gの水性HBr(48wt%)(14.8mmol)、2.5gの酢酸及び0.155g(0.7mmol)のNaMoO・2HOを仕込んだ。また、バイアルを空気で34.0気圧ではなく6.8気圧に加圧した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

表1から分かるように、第IV族〜第VIII族遷移金属の化合物及び錯体はフェノールの主としてp−ブロモフェノールへのオキシ臭素化反応に選択的な触媒作用を発揮した。さらに、水性HBr及び酢酸を含有するシステムでは、フェノールの臭素化生成物への転化率が、「BrPhOHへの選択率」で示されるように非常に高い。予期せざることには、臭素化フェノールは全量モノ臭素化物で、パラ−ブロモフェノール又はオルト−ブロモフェノールであった。ジブロモフェノールや多臭素化副生物は生成しなかった。パラ選択率は79.3〜86.1%の範囲であった。
【0035】
実施例7〜15は、第IV族〜第VIII族遷移金属の化合物を触媒として用いることにより、溶剤中でフェノールを無水HBr/Oで接触臭素化する例を示す。
【0036】
実施例7
実施例1の手順を繰り返したが、本例ではバイアルに、1.5g(15.9mmol)のフェノール、4gのHBrの30%酢酸溶液(14.8mmol)及び0.174g(0.7mmol)のVO(acac)を仕込んだ。さらに反応を100℃で、2時間ではなく1時間行った。。結果を表2に示す。
【0037】
実施例8
実施例7の手順を繰り返したが、本例では0.108g(0.5mmol)のFeBrを触媒として添加した。結果を表2に示す。
【0038】
実施例9
実施例7の手順を繰り返したが、本例では0.131g(0.5mmol)のTiO(acac)を触媒として添加した。結果を表2に示す。
【0039】
実施例10
実施例7の手順を繰り返したが、本例では0.155g(0.7mmol)のNaMoO・2HOを触媒として添加した。また、バイアルを空気で34.0気圧ではなく6.8気圧に加圧した。結果を表2に示す。
【0040】
実施例11
実施例7の手順を繰り返したが、本例では0.188g(0.7mmol)のHWO・xHOを触媒として添加した。また、バイアルを空気で34.0気圧ではなく6.8気圧に加圧した。結果を表2に示す。
【0041】
実施例12
実施例7の手順を繰り返したが、本例では0.155g(0.7mmol)のNaMoO・2HOを触媒として添加した。また、反応を、100℃で1時間ではなく、65℃で2時間行った。結果を表2に示す。
【0042】
実施例13
実施例12の手順を繰り返したが、本例では0.188g(0.7mmol)のHWO・xHOを触媒として添加した。結果を表2に示す。
【0043】
実施例14
実施例12の手順を繰り返したが、本例では0.174g(0.7mmol)のVO(acac)を触媒として添加した。結果を表2に示す。
【0044】
実施例15
実施例12の手順を繰り返したが、本例では0.026g(0.1mmol)のVO(acac)を触媒として添加した。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

この場合も、表2に示すように、無水HBrを酢酸及び酸素と共に用いるフェノール臭素化システムに本発明の触媒を用いることにより、臭素化フェノールのモノ選択率は極めて高かった。
【0046】
前述したように、生成物収率、パラ選択率、反応速度及び臭素化生成物への選択率は、第IV族〜第VIII族遷移金属触媒の混合物を用いることで、格段に改善される。例えば、バナジウム化合物触媒は、モリブデンもしくはタングステン系触媒に添加されると、その性能を改善する。実施例16〜17は、溶剤中でのフェノールの無水HBr/Oでのオキシ臭素化反応を促進するために、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(VO(acac))と酸化モリブデンナトリウム二水和物(NaMoO・2HO)の混合物、又はビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム(VO(acac))とタングステン酸(HWO・xHO)の混合物を用いる例を示す。しかし、当業者に明らかなように、本発明はこれらの特定の触媒の混合物に限定されない。
【0047】
実施例16
実施例12の手順を繰り返したが、本例では0.026g(0.1mmol)のVO(acac)及び0.155g(0.7mmol)のNaMoO・2HOを触媒として添加した。結果を表3に示す。
【0048】
実施例17
実施例12の手順を繰り返したが、本例では0.026g(0.1mmol)のVO(acac)及び0.188g(0.7mmol)のHWO・xHOを触媒として添加した。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】

表2に示した実施例12の結果と比較すると、表3に示した実施例18の結果は、モリブデン化合物触媒にバナジウム化合物触媒を添加することにより、反応のパラ選択率が約7%だけ有意に増加したことを示している。さらに、臭素化生成物への選択率は99.2%に増加し、また臭素化生成物の収率は、反応速度と同様、2倍以上になった。表2に示す実施例13の結果と表3に示す実施例19の結果を比較すると、バナジウム化合物触媒をタングステン酸触媒に添加することにより、反応のパラ選択率が約8%だけ増加し、臭素化生成物への選択率が30%以上だけ(即ち99.4%に)増加したことが分かる。さらに、臭素化生成物の収率は、反応速度と同様、3倍以上になった。
【0050】
硝酸塩を遷移金属触媒に添加することにより、水性HBrを臭素化剤として使用する場合、実施例18〜19に示すように、収率が向上し、反応速度が増加する。溶剤中の無水HBrを用いる場合、実施例20〜24に示すように、臭素化フェノールへの選択率及びパラ選択率も向上する。
【0051】
実施例18
攪拌子を備える3ドラムのバイアルに、1.5g(15.9mmol)のフェノール、1.90gの水性HBr(48wt%)(11.3mmol)、1.4gの酢酸及び0.041g(0.3mmol)のNaVOを仕込んだ。バイアルを、反応中に空気が流れるように孔をあけたキャップで密封し、アルミニウムブロック内に配置した。ブロックを標準1ガロンオートクレーブ反応器(Autoclave Engineers)に入れ、空気で34.0気圧に加圧し、100℃に1時間加熱した。次にブロックを室温まで冷却し、圧力解除した。得られた混合物を、気相クロマトグラフィにより分析した。結果を表4に示す。
【0052】
実施例19
実施例18の手順を繰り返したが、本例では0.045g(0.5mmol)のNaNOを触媒とともに添加した。結果を表4に示す。
【0053】
実施例20
攪拌子を備える3ドラムのバイアルに、1.5g(15.9mmol)のフェノール、4gのHBrの30%酢酸溶液(14.8mmol)及び0.104g(0.9mmol)のNaVOを仕込んだ。バイアルを、反応中に空気が流れるように孔をあけたキャップで密封し、アルミニウムブロック内に配置した。ブロックを標準1ガロンオートクレーブ反応器(Autoclave Engineers)に入れ、空気で34.0気圧に加圧し、65℃に1時間加熱した。次にブロックを室温まで冷却し、圧力解除した。得られた混合物を、気相クロマトグラフィにより分析した。結果を表5に示す。
【0054】
実施例21
実施例20の手順を繰り返したが、本例では触媒が0.074g(0.6mmol)のNaVOであり、0.044g(0.5mmol)のNaNOを反応混合物に添加した。結果を表5に示す。
【0055】
実施例22
実施例20の手順を繰り返したが、本例では触媒が0.089g(0.35mmol)のVO(acac)であり、0.047g(0.55mmol)のNaNOを反応混合物に添加した。結果を表5に示す。
【0056】
実施例23
実施例20の手順を繰り返したが、本例では触媒が0.050g(0.2mmol)のFeBrであり、0.044g(0.5mmol)のNaNOを反応混合物に添加した。結果を表5に示す。
【0057】
実施例24
実施例20の手順を繰り返したが、本例では触媒が0.067g(0.25mmol)のTiO(acac)であり、0.043g(0.5mmol)のNaNOを反応混合物に添加した。結果を表5に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
【表5】

実施例25〜27は、第IV族〜第VIII族遷移金属化合物触媒の存在下で無水HBrを臭素化剤として使用する場合に、少量の水をオキシ臭素化反応混合物に添加すると、生成物のモノ選択率及びパラ選択率が高くなることを具体的に示す。しかし、反応速度及びブロモフェノール収率は減少する。
【0060】
実施例25
攪拌子を備える3ドラムのバイアルに、1.5g(15.9mmol)のフェノール、4gのHBrの30%酢酸溶液(14.8mmol)及び0.250g(1.0mmol)のVO(acac)を仕込んだ。バイアルを、反応中に空気が流れるように孔をあけたキャップで密封し、アルミニウムブロック内に配置した。ブロックを標準1ガロンオートクレーブ反応器(Autoclave Engineers)に入れ、空気で34.0気圧に加圧し、100℃に2時間加熱した。次にブロックを室温まで冷却し、圧力解除した。得られた混合物を、気相クロマトグラフィにより分析した。結果を表6に示す。
【0061】
実施例26
実施例25の手順を繰り返したが、本例では水をHO1モル:HBr1モルの比で添加した。結果を表6に示す。
【0062】
実施例27
実施例25の手順を繰り返したが、本例では水をHO2モル:HBr1モルの比で添加した。結果を表6に示す。
【0063】
【表6】

実施例28〜30は、触媒として第IV族〜第VIII族遷移金属化合物の存在下で、酢酸及び空気中、o−クレゾールを水性HBrでオキシ臭素化する具体例を示す。モノ選択率は100%で、パラ選択率は90%超であった。
【0064】
実施例28
攪拌子を備える3ドラムのバイアルに、1.75g(16.2mmol)のo−クレゾール、2gの水性HBr(48wt%)(11.8mmol)、1.25gの酢酸及び0.1g(0.4mmol)のVO(acac)を仕込んだ。バイアルを、反応中に空気が流れるように孔をあけたキャップで密封し、アルミニウムブロック内に配置した。ブロックを標準1ガロンオートクレーブ反応器(Autoclave Engineers)に入れ、空気で34.0気圧に加圧し、100℃に1時間加熱した。次にブロックを室温まで冷却し、圧力解除した。得られた混合物を、気相クロマトグラフィにより分析した。結果を表7に示す。
【0065】
実施例29
実施例28の手順を繰り返したが、本例では触媒として0.225g(0.9mmol)のVO(acac)を添加した。結果を表7に示す。
【0066】
実施例30
実施例28の手順を繰り返したが、本例では触媒として0.35g(1.4mmol)のVO(acac)を添加した。結果を表7に示す。
【0067】
【表7】

以上、代表的な実施態様を具体的な説明を目的として記載したが、上記説明及び実施例は本発明の範囲を限定するものと考えるべきではない。したがって、当業者には、本発明の要旨から逸脱することなく、種々の変更、改変及び置き換えが想起できるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシ芳香族化合物を酸素及び臭化水素、臭素元素、イオン性臭素塩及びこれらの混合物からなる群から選択される臭素化合物と、酸性溶媒中、周期律表の第IV族〜第VIII族遷移金属の化合物及び化合物の混合物からなる群から選択される触媒の存在下で接触させる工程を含む、臭素化ヒドロキシ芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
前記第IV族〜第VIII族遷移金属がバナジウム、チタン、モリブデン、タングステン及び鉄からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記触媒が、メタバナジウム酸ナトリウム、ビス(アセチルアセトナト)オキソバナジウム、ビス(アセチルアセトナト)オキソチタン、酸化モリブデンナトリウム二水和物、臭化鉄(FeBr)、タングステン酸(HWO・xHO)及びこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記触媒が、中性錯体、陽イオン塩又は陰イオン塩の形態のバナジウムの化合物を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記触媒が、バナジウム化合物とモリブデンもしくはタングステン化合物との混合物を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
バナジウム化合物とモリブデンもしくはタングステン化合物とのモル比が約1:0.5〜約1:6である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
硝酸塩を触媒に添加する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記硝酸塩が硝酸ナトリウムである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記触媒がバナジウム化合物である、請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記硝酸塩と触媒とのモル比が約1:1〜約1:4である、請求項7記載の方法。
【請求項11】
前記溶媒が無水である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記臭素化合物が無水臭化水素又は無水イオン性臭素塩であり、水も存在し、水と無水臭化水素又は無水イオン性臭素塩とのモル比が約0.1:1〜約2:1である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記ヒドロキシ芳香族化合物が次式で表される、請求項1記載の方法。
【化1】

式中、Rは各々独立に水素又はC1−4アルキルである。
【請求項14】
前記ヒドロキシ芳香族化合物がフェノール、o−クレゾール又はm−クレゾールである、請求項1記載の方法。
【請求項15】
前記臭素化合物が臭化水素である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記臭素化合物が式Brで表される臭素元素である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記酸素を空気として供給する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
加圧下の酸素を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項19】
酸素流れを使用する、請求項1記載の方法。
【請求項20】
極性有機溶剤も存在する、請求項1記載の方法。
【請求項21】
前記溶剤が、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、クロロホルム、o−ジクロロベンゼン、酢酸エチル、水、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、プロピオン酸又は酢酸である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記溶剤が酢酸である、請求項20記載の方法。
【請求項23】
約20〜150℃の範囲の温度を用いる、請求項1記載の方法。
【請求項24】
前記臭素化合物がイオン性臭素塩であり、イオン性臭素塩とヒドロキシ芳香族化合物とのモル比が1:1未満である、請求項1記載の方法。
【請求項25】
前記臭素化合物が臭素元素であり、臭素元素とヒドロキシ芳香族化合物とのモル比が1:2未満である、請求項1記載の方法。
【請求項26】
前記ヒドロキシ芳香族化合物と触媒とのモル比が約1:1〜約500:1である、請求項1記載の方法。
【請求項27】
フェノール、o−クレゾール又はm−クレゾールを空気及び臭化水素と、酸性溶媒中、周期律表の第IV族〜第VIII族遷移金属の化合物及び化合物の混合物からなる群から選択される触媒の存在下で接触させる工程を含む、4−ブロモフェノール、4−ブロモ−o−クレゾール又は4−ブロモ−m−クレゾールの製造方法。

【公表番号】特表2007−521319(P2007−521319A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524643(P2006−524643)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2004/021999
【国際公開番号】WO2005/023739
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】