説明

触媒の寿命推定方法

【課題】短時間で容易且つ確実に触媒の寿命を推定する。
【解決手段】本発明は、触媒層に充填される触媒であって、前記触媒層に供給される原料との間で所定の化学反応を行う触媒の寿命推定方法において、(A)前記触媒層における触媒の充填率を変化させた複数の試験体a,b,c,dに対して定常条件下でそれぞれ化学反応試験を行う工程と、(B)各試験体a,b,c,dの化学反応試験の結果から各試験体a,b,c,dの寿命データをそれぞれ取得する工程と、(C)各試験体a,b,c,dの触媒の充填率と各試験体a,b,c,dの寿命データとの相関を示す近似直線5を取得する工程と、(D)該近似直線5から前記触媒の充填率が100%の時の推定寿命を取得する工程とを備えていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、供給された原料との間で所定の化学反応を行う触媒の寿命推定方法に関し、特に、触媒の充填率を変化させた複数の試験体についてそれぞれ取得した各寿命データに基づき、該触媒の充填率が100%の時の推定寿命を取得する触媒の寿命推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の改質器等の各種反応装置において、触媒層に供給された原料との間での化学反応を促進するため、触媒が広く使用されている。そして、この触媒は、使用時間が経過するに従って次第に劣化し、最終的には活性を失い、所定の機能を発揮しなくなる。したがって、触媒は、その活性を失う前に、再生や交換を行う必要があり、そのためには触媒の寿命を推定することが必要である。
【0003】
従来、この触媒の寿命を推定する方法としては、例えば、触媒層に対する原料の入口と出口の間の複数点の温度を測定し、温度分布のピーク点が出口近傍に表れたことを検出することによって触媒全体が劣化したと推定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭60−147226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した特許文献1に記載された方法により触媒の寿命を推定するためには、触媒全体が劣化するまで化学反応試験を継続して行う必要があった。そのため、触媒の寿命推定作業に非常に手間と時間が掛かり、極めて不経済であった。
【0005】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、短時間で確実に効率良く行うことができる触媒の寿命推定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、触媒層に充填される触媒であって、前記触媒層に供給される原料との間で所定の化学反応を行う触媒の寿命推定方法において、(A)前記触媒層における触媒の充填率を変化させた複数の試験体に対して定常条件下でそれぞれ化学反応試験を行う工程と、(B)前記各試験体の化学反応試験の結果から該各試験体の寿命データをそれぞれ取得する工程と、(C)前記各試験体の触媒の充填率と該各試験体の寿命データとの相関を示す近似直線を取得する工程と、(D)該近似直線から前記触媒の充填率が100%の時の推定寿命を取得する工程とを備えていることを特徴とする。
【0007】
そして、前記(A)工程は、前記触媒層においてアルミナボールを前記触媒に混合し、該触媒の充填率を30〜60%の間で変化させることを含んでいてもよい。
【0008】
また、前記触媒は、燃料電池用改質器の触媒層に充填されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、触媒の充填率が低く、寿命の短い試験体に基づき、触媒全体の寿命を推定することができるため、触媒全体が劣化するまで化学反応試験を継続して行う必要がなく、短時間で確実に効率良く触媒の寿命を推定することができる等、種々の優れた効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る触媒の寿命推定方法について説明する。なお、以下の説明では、本発明を、燃料電池用改質器の触媒層に充填される触媒に適用した場合について例示して説明する。
【0011】
燃料電池は、改質ガス(水素)と酸化剤ガス(空気)を電気化学的に反応させて燃料の有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するものであり、天然ガス等、炭化水素を主成分とする原料を改質ガス(水素)に改質するため、改質器を備えている。この改質器には、触媒が充填される触媒層が設けられており、該触媒層に充填された触媒と前記原料との間で所定の化学反応が行われるようになっている。
【0012】
そして、本実施の形態に係る触媒の寿命推定方法によってこの触媒の寿命を推定する場合、先ず、前記触媒層に充填される触媒の充填量(100%)に対する割合(以下「充填率」と言う。)がそれぞれ、60%,50%,40%,30%のペレット触媒と、該ペレット触媒と同一形状のアルミナボールとを均一に混合して構成した試験体a,b,c,dを前記触媒層に充填する。
【0013】
このように各試験体a,b,c,dを前記触媒層にそれぞれ充填した状態で、ガス流量、スチーム・カーボン比、SV値等を同一に設定し、定常条件の下、前記各触媒層に前記原料を供給し、該原料と各試験体a,b,c,dとの間で化学反応試験を行わせる。この各化学反応試験の結果を、図1に示すように、x軸を試験時間(h)、y軸を水素(H)濃度(mol%)にとり、各試験体a,b,c,d別に水素(H)濃度の経時変化を表わす。そして、この図1より、充填率が60%の場合の近似直線1、y=−0.0002x+52.213、充填率が50%の場合の近似直線2、y=−0.0008x+51.405、充填率が40%の場合の近似直線3、y=−0.001x+51.863、充填率が30%の場合の近似直線3、y=−0.0031x+52.087をそれぞれ取得する。
【0014】
このように各試験体a,b,c,dが前記原料と化学反応をする時、触媒が熱的に劣化し、活性が低下する、所謂シンタリングという現象は、使用時間の経過に従って、前記触媒層の原料の入口から出口に向かって移動する。前記図1において、前記触媒層の出口から流出する水素(H)濃度(mol%)が、初期性能値の所定割合(X%)まで低下した時を、各試験体a,b,c,dの寿命とみなし、各試験体a,b,c,dの近似直線1,2,3,4に基づき、前記化学反応試験の開始から性能X%低下時までの試験時間(h)を各試験体a,b,c,dの寿命データとしてそれぞれ取得する。
【0015】
次いで、図2に示すように、x軸を充填率(%)、y軸を性能X%低下時間(h)にとり、各試験体a,b,c,d別に前記各寿命データを表わす。そして、この図2により、各試験体a,b,c,dの触媒の充填率と各試験体a,b,c,dの寿命データとの間の相関を示す近似直線5を取得する。この時、触媒の充填率が低い試験体ほど、前記触媒層の原料の入口から出口へのシンタリングの移動が早くなるため、この近似直線5は、触媒の充填率が低い試験体ほど、性能X%低下時間が短くなり、比例直線となる。
【0016】
その後、この近似直線5を右斜め上方に延長し、前記触媒の充填率が100%の時の推定寿命を取得し、この推定寿命を前記触媒の寿命時間とする。これにより、この触媒の寿命時間が目標寿命時間(本実施の形態の場合には、図2に示すように、40,000時間)を達成するかどうかを評価することができる。
【0017】
このように、上記した実施の形態に係る触媒の寿命推定方法によれば、触媒の充填率が低く、寿命の短い試験体a,b,c,dに基づき、触媒全体の寿命を推定することができるため、触媒全体が劣化するまで化学反応試験を行う必要がなく、短時間で確実に効率良く触媒の寿命を推定することができる。
【0018】
なお、上記した本発明の実施の形態においては、触媒の充填率を60%,50%,40%,30%に設定して試験を行っているが、これは単なる例示に過ぎず、触媒の充填率は、化学反応試験に必要な最小限の量の触媒を確保できれば、任意に設定可能である。
【0019】
また、その時の試験体の数は、上記した4個に限定されるものではなく、少なくとも2個以上あれば、任意に設定可能である。
【0020】
さらに、上記した実施の形態では、燃料電池用改質器の触媒層に充填される触媒の寿命を推定する場合について説明したが、これは単なる例示に過ぎず、本発明は、脱硝装置等、他の反応装置の触媒層に充填される触媒に対しても適用可能であることは言う迄もない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る触媒の寿命推定方法において、試験体別に水素(H)濃度の経時変化を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る触媒の寿命推定方法において、各試験体の触媒の充填率と各試験体の寿命データとの間の相関を示す図である。
【符号の説明】
【0022】
a 触媒の充填率が60%の試験体
b 触媒の充填率が50%の試験体
c 触媒の充填率が40%の試験体
d 触媒の充填率が30%の試験体
5 近似直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒層に充填される触媒であって、前記触媒層に供給される原料との間で所定の化学反応を行う触媒の寿命推定方法において、
(A)前記触媒層における触媒の充填率を変化させた複数の試験体に対して定常条件下でそれぞれ化学反応試験を行う工程と、
(B)前記各試験体の化学反応試験の結果から該各試験体の寿命データをそれぞれ取得する工程と、
(C)前記各試験体の触媒の充填率と該各試験体の寿命データとの相関を示す近似直線を取得する工程と、
(D)該近似直線から前記触媒の充填率が100%の時の推定寿命を取得する工程と、
を備えていることを特徴とする触媒の寿命推定方法。
【請求項2】
前記(A)工程は、前記触媒層においてアルミナボールを前記触媒に混合し、該触媒の充填率を30〜60%の間で変化させることを含んでいる請求項1に記載の触媒の寿命推定方法。
【請求項3】
前記触媒は、燃料電池用改質器の触媒層に充填される請求項1又は2に記載の触媒の寿命推定方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−212207(P2007−212207A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−30594(P2006−30594)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000222484)株式会社ティラド (289)
【Fターム(参考)】