説明

触媒の活性化の程度を判定する方法

【課題】水熱ガス化処理に使用する前の水熱ガス化触媒の活性化の程度を適切に判定する方法を提供する。
【解決手段】炭素担体に担持された触媒物質の活性化の程度を判定する方法が、触媒物質を担持する炭素担体が充填された反応容器4に、水素を含有する還元性ガスを流す還元工程と、還元工程中に反応容器4から流出するガス中の特定の監視対象ガスである上記還元性ガス及び炭素化合物ガスの内の一種以上のガスの量に基づいて触媒物質の活性化の程度を判定する判定工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素担体に担持された触媒物質の触媒の活性化の程度を判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコールやフェノールなどの有機化合物を含む工場廃水を処理する方法として、水熱ガス化処理が用いられている。この水熱ガス化処理では、触媒を用いて工場廃水に含まれているアルコールやフェノールなどの有機物がメタン等のガスに分解される。特許文献1には、水熱ガス化処理において、炭素担体に触媒物質が担持された水熱ガス化触媒を用いる例が記載されている。触媒物質としては、Co、Ni、Cu、Mn、Fe、Mo、Ru、Rh、Pd、Pt、Au、Ca、Mg、Na、K等が記載されている。
【0003】
一般的に、触媒に還元処理を施すことで、触媒を活性化することは行われている。従って、水熱ガス化触媒を水熱ガス化処理に用いるにあたり、触媒に還元処理を施すことで触媒を活性化することも考えられる。水熱ガス化触媒の活性化の程度は、触媒を工場廃水などの水熱ガス化処理に実際に用いて、そのときのTOC(Total Organic Carbon)分解率を調べることで判定できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−255685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、TOC分解率を調べることで触媒の活性化の程度を判定する方法では、実際に触媒を水熱ガス化処理に使用した後、即ち、事後的に触媒の活性化の程度を判定できるだけである。つまり、触媒を水熱ガス化処理に使用する前にその活性化の程度を判定できない。
【0006】
本願発明者らは、水熱ガス化処理に使用する前に触媒の活性化の程度を判定することを目的として、先ず、炭素担体に触媒物質が担持された水熱ガス化触媒を、還元処理等を行う前にX線回折によって分析した。その結果、炭素担体に触媒物質が担持された水熱ガス化触媒の表面に炭素(又は炭素化合物)及び硫黄(又は硫黄化合物)の構造を検知した。このため、水熱ガス化触媒の製造工程中に、その表面に炭素(又は炭素化合物)及び硫黄(又は硫黄化合物)が付着し、その付着した炭素及び硫黄の存在によって触媒の活性が低下しているという可能性が考えられた。
【0007】
例えば、水熱ガス化触媒は以下のような工程を経て製造される。
先ず、水にNiSO4・6H2Oを溶解させてNiSO4水溶液を調整した後、そのNiSO4水溶液にNH3水溶液を加える。その後、得られた溶液に陽イオン交換樹脂(ポリメタクリル酸)を加える。その結果、ポリメタクリル酸のカルボキシル基の水素とのイオン交換により、樹脂に高密度でNiイオンが結合する。このようなイオン交換を行った後、溶液と樹脂とを分離し、樹脂の表面に付着した溶液を純水にて洗浄する洗浄工程を実施する。そして、十分な洗浄を行った後、樹脂の予備乾燥を行い、乾燥させた樹脂を炉で焼成する焼成工程を実施する。焼成工程では、N2雰囲気中で樹脂を高温状態に保持し、樹脂の部分を炭化することにより、炭素(アモルファスカーボン)を担体としたNi担持触媒(水熱ガス化触媒)を得る。
【0008】
上述のような工程を経て水熱ガス化触媒を製造するとき、洗浄工程での樹脂の洗浄が不十分であると、樹脂の表面或いは内部にSO42-(硫酸イオン)が残る。そのため、その状態で乾燥及び焼成すると、触媒の硫黄被毒が発生する。これが、製造された水熱ガス化触媒の表面に硫黄が存在し、その結果、触媒の活性が低下することを説明する一つのメカニズムであると考えられる。
【0009】
また、焼成工程では、樹脂が分解することにより多量のタール分が煙状に発生するが、N2を炉の中に流通させることにより排出している。しかし、このタール分が触媒に凝縮した場合、或いは、十分な焼成が行われなかった場合等に、触媒の金属粒子がカーボンに被覆された状態になる可能性も考えられる。これが、製造された水熱ガス化触媒の表面に炭素が存在し、その結果、触媒の活性が低下することを説明する一つのメカニズムであると考えられる。
【0010】
尚、現状では、炭素担体に触媒物質が担持された水熱ガス化触媒の表面の組成を分析したとしても、検出された炭素が、触媒の活性に影響を及ぼさない担体を構成する炭素を示しているのか、或いは、触媒の活性に悪影響を及ぼす原因となり得る炭素(即ち、触媒物質の表面を汚染している炭素)を示しているのかの判断ができない。つまり、担体と触媒表面の汚染物質とが同一の元素を含むため、その元素の存在を検出できても、それが触媒の活性を低下させるように作用するのか否かを判定できない。即ち、水熱ガス化処理に使用する前の水熱ガス化触媒の表面状態を分析しても、触媒の活性を正確に判断することはできなかった。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、水熱ガス化処理に使用する前の水熱ガス化触媒の活性化の程度を適切に判定する方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る炭素担体に担持された触媒物質の活性化の程度を判定する方法の特徴構成は、
触媒物質を担持する炭素担体が充填された反応容器に、水素を含有する還元性ガスを流す還元工程と、
前記還元工程中に前記反応容器から流出するガス中の特定の監視対象ガスの量に基づいて前記触媒物質の活性化の程度を判定する判定工程と、を含む点にある。前記監視対象ガスはメタンであってもよい。前記監視対象ガスは水素であってもよい。
【0013】
上記特徴構成によれば、還元工程中に反応容器から流出するガスには、触媒物質においてどのような化学反応があったのかが現れるため、還元工程中に反応容器から流出するガス中の特定の監視対象ガスの量に基づいて触媒物質の活性化の程度を判定することが可能となる。例えば、監視対象ガスが炭素由来の化合物ガスとしてのメタン(炭化水素ガス)である場合、還元工程中に反応容器から流出するメタンの量が多ければ、多量の水素(還元性ガス)がメタンの生成を伴う化学反応(ここでは触媒物質の還元反応)に有効に用いられていること、即ち、触媒物質の活性化の程度が高い状態になっていると判定できる。或いは、監視対象ガスが還元性ガスとしての水素である場合、還元工程中に反応容器から流出する水素の量が多ければ、多量の水素(還元性ガス)が触媒物質の還元に用いられずにそのまま排出されていること、即ち、触媒物質の活性化の程度が低い状態であると判定できる。
従って、水熱ガス化処理に使用する前の水熱ガス化触媒の活性化の程度を適切に判定する方法を提供できる。
【0014】
本発明に係る炭素担体に担持された触媒物質の活性化の程度を判定する方法の別の特徴構成は、前記判定工程において、前記還元工程の開始後の所定タイミングにおける前記監視対象ガスの量に基づいて前記触媒物質の活性化の程度を判定する点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、触媒物質の還元反応が活発に発生していれば、還元工程の開始後の所定タイミングにおいて、例えば、監視対象ガスとしてのメタンは多く検出され、水素は少なく検出される。つまり、還元工程の開始後の所定タイミングにおける監視対象ガスの量に基づいて、触媒物質の活性化の程度を判定できる。
【0016】
本発明に係る炭素担体に担持された触媒物質の活性化の程度を判定する方法の更に別の特徴構成は、前記判定工程において、前記還元工程中に前記反応容器から流出する前記監視対象ガスの量の推移に基づいて前記触媒物質の活性化の程度を判定する点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、触媒物質の還元反応が活発に発生していれば、還元工程の開始後、例えば、監視対象ガスとしてのメタンの量は大きな傾きで増加し、水素の量は小さな傾きで増加する。つまり、還元工程中に反応容器から流出する監視対象ガスの量の推移に基づいて触媒物質の活性化の程度を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】触媒の活性評価試験システムの構成を示す図である。
【図2】還元工程中の出口ガス量(メタン:CH4)の推移を示すグラフである。
【図3】還元工程中の出口ガス量(水素:H2)の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して本発明に係る触媒の活性化の程度を判定する方法について説明する。
図1は、触媒の活性評価試験システムの構成を示す図である。この活性評価試験システムSは、水熱ガス化触媒の活性化の程度を判定する方法を実施するために利用でき、及び、水熱ガス化触媒を用いて水熱ガス化処理を実施するためにも利用できる。本発明において用いる水熱ガス化触媒は、炭素担体に触媒物質を担持させたものである。
【0020】
以下に、触媒物質としてNiを用いた場合の水熱ガス化触媒の製造工程を説明する。
先ず、水にNiSO4・6H2Oを溶解させてNiSO4水溶液を調整した後、そのNiSO4水溶液にNH3水溶液を加える。その後、得られた溶液に陽イオン交換樹脂(ポリメタクリル酸)を加える。その結果、ポリメタクリル酸のカルボキシル基の水素とのイオン交換により、樹脂に高密度でNiイオンが結合する。このようなイオン交換を行った後、溶液と樹脂とを分離し、樹脂の表面に付着した溶液を純水にて洗浄する洗浄工程を実施する。そして、十分な洗浄を行った後、樹脂の予備乾燥を行い、乾燥させた樹脂を炉で焼成する焼成工程を実施する。焼成工程では、N2雰囲気中で樹脂を高温状態に保持し、樹脂の部分を炭化することにより、炭素(アモルファスカーボン)を担体としたNi担持触媒(水熱ガス化触媒)を得る。
【0021】
活性評価試験システムSは、触媒物質を担持する炭素担体が充填された反応容器4と、反応容器4の内部に流体を流入させることのできる流入路10と、反応容器4の内部から流体を流出させることのできる流出路11と、を備える。本実施形態では、反応容器4に対して、原料タンク1に貯留された原料液(工場からの廃液等)が流入路10aを介して供給される場合と、水素及び窒素が流入路10bを介して供給される場合とがある。
【0022】
反応容器4の温度は、加熱装置3によって調節可能である。具体的には、加熱装置3は、ヒータ3aと、そのヒータ3aによって加熱される流動砂浴3bとを備える。反応容器4は加熱装置3の流動砂浴3bに囲まれて配置され、その結果、加熱装置3による反応容器4の加熱が行われる。
【0023】
反応容器4よりも下流側の流出路11には、冷却器5、タンク6、気液分離器7が順に設けられている。タンク6は保圧弁4の上流側に設けられている。タンク6は保圧弁4の上流側の流出路11の圧力を緩和するように作用し、その圧力は圧力センサP2で計測可能である。冷却器5を作動させると、反応容器4から流出した流体の冷却が行われ、冷却器5の下流側では気液二相流となる。そして、冷却器5の下流側に気液二相流が流れている場合、気液分離器7で気体と液体とに分離される。ガスは、流出路11aから取り出すことができ、液は、流出路11bから取り出すことができる。ガスの流量はメータMで計測可能である。
【0024】
〔水熱ガス化触媒の活性化の程度を判定する方法〕
図1の活性評価試験システムSは、水熱ガス化触媒の活性化の程度を判定する方法を実施するために利用できる。具体的には、活性評価試験システムSを用いて、触媒物質を担持する炭素担体が充填された反応容器4に、水素を含有する還元性ガスを流す還元工程と、還元工程中に反応容器4から流出するガス中の特定の監視対象ガスである還元性ガス及び炭素由来の化合物ガスの内の一種以上のガスの量に基づいて触媒物質の活性化の程度を判定する判定工程と、が行われる。
以下に、上記還元工程及び上記判定工程の詳細について説明する。尚、上記判定工程の詳細を説明する前に、還元工程を施す前後の水熱ガス化触媒を実際に水熱ガス化処理に用いた場合の例を参考として説明する。
【0025】
[還元工程]
還元工程では、先ず、弁V3が開弁されて窒素が流入路10(10b)を通って反応容器4に導入される。このときの窒素の流量は2NL/hである。反応容器4の容積は13mLであり、反応容器4の内部に上述した水熱ガス化触媒(触媒物質(Ni)を担持する炭素担体)が充填されている。このとき、弁V2は閉弁され、および、弁V1は閉弁され、および、昇圧ポンプ2は停止されている。そして、反応容器4に窒素を導入しながら加熱装置3を加熱作動させ、約30分の間で反応容器4の温度を約450℃に上昇させる。反応容器4の温度は、反応容器44の上流側に設けられた温度センサT1及び反応容器44の下流側に設けられた温度センサT2によって検出できる。そして、30分間、反応容器4の温度を約450℃に維持する。
次に、弁V3を閉弁し、弁V2を開弁して、水素を流入路10(10b)を通して反応容器4に導入する。このときの水素の流量は2NL/hである。そして、120分間、反応容器4の温度を約450℃に維持する。この水素導入期間に水熱ガス化触媒の還元が行われる。
その後、弁V2を閉弁し、弁V3を開弁して、窒素を流入路10(10b)を通して反応容器4に導入すると共に、加熱装置4の動作を制御して反応容器4の温度を降下させる。
【0026】
上記還元工程の実施中、冷却器5は作動されておらず、弁V4は開弁され、弁V5は閉弁されており、反応容器4の下流側の流出路11aからはガスが流出する。そして、流出路11aから流出するガスをサンプリングして、上述した判定工程が行われる。判定工程の詳細については後述する。
【0027】
〔水熱ガス化処理の実施〕
図1の活性評価試験システムSは、水熱ガス化触媒を用いて水熱ガス化処理を実施するために利用できる。
水熱ガス化処理では、温度が270℃に維持された反応容器4に対して、弁V1を開弁して原料タンク1に貯留されている原料液が昇圧ポンプ2によって昇圧されて流入される。このとき、圧力センサP1での検出圧力は8.8MPaGとなるように、昇圧ポンプ2の動作が制御される。また、この圧力は、反応容器4の下流側の流出路11に設けられる保圧弁V4によって保たれる。上述したように反応容器4の容積は13mLである。また、原料液の液量は130ml/hであり、通液空間速度SVは10h-1である。原料タンク1に貯留されている原料液のTOCは15000mg−C/Lである。具体的には、原料液は、フェノール(12090mg/L)、イソプロピルアルコール(5570mg/L)、メチルエチルケトン(3890mg/L)、NaOH(20830mg/L)を含む。
【0028】
表1は、還元工程を施す前後の水熱ガス化触媒を実際に水熱ガス化処理に用いた場合のTOC分解率を示す表である。触媒A〜触媒Hの何れも、上述した製造方法によって製造した、炭素(アモルファスカーボン)を担体としたNi担持触媒(水熱ガス化触媒)である。
【0029】
【表1】

【0030】
還元工程を実施することにより、触媒A〜触媒GはTOC分解率が非常に高くなっている。還元工程後の触媒A〜触媒GのTOC分解率は88.2%〜98.9%の範囲に分布しているが、それらの中で最も低い還元工程後の触媒GのTOC分解率(88.2%)でも十分に高いと言える。つまり、還元工程後の触媒A〜触媒Gはほぼ同等レベルにまで活性化されていると判定してよい。
一方で、触媒HのTOC分解率は、還元工程前で2.2%であり、還元工程後では0.7%である。つまり、触媒Hに対しては、還元工程が有効に作用しなかったことが分かる。
【0031】
以上のように、還元工程が触媒の活性化に有効に作用すれば、還元工程後のTOC分解率は非常に高くなる。逆に、還元工程が触媒の活性化に有効に作用しなければ、還元工程後のTOC分解率は非常に低い。つまり、還元工程の実施中又は実施後の段階で、還元工程が触媒に対して有効に作用していることが分かれば、その段階で(即ち、実際に水熱ガス化処理に用いなくても)、水熱ガス化触媒の活性の程度を判定できると言える。
【0032】
[判定工程]
図2は、還元工程中に流出路から流出されるガス中の特定の監視対象ガス(メタン:CH4)の量の推移を示すグラフである。図3は、還元工程中に流出路から流出されるガス中の特定の監視対象ガス(水素:H2)の量の推移を示すグラフである。図2及び図3において、横軸は水素還元時間であり、上記還元工程において水素を流し始めた時刻を零としている。そして、水素を120分間流している間に流出路11aから流出する出口ガス量をガスクロマトグラフなどの分析装置を用いて監視している。
【0033】
図2は、メタンを監視対象ガスとした場合の結果である。触媒A〜触媒Gの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用した場合)、何れも水素還元時間が60分以上になると、メタンの流出量が急激に上昇している。これに対して、触媒Hの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用しなかった場合)、水素による還元中、メタンの流出量は非常に少ないままである。
【0034】
図3は、水素を監視対象ガスとした場合の結果である。触媒Hの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用しなかった場合)、水素還元時間が30分以上となる辺りから、水素の流出量が急激に上昇し、水素による還元の最終時点(水素還元時間が120分の時点)において検出される水素量も非常に多い。これに対して、触媒A〜触媒Gの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用した場合)、何れも水素還元時間が60分以上になると、触媒Hの場合に比べると少ないものの、水素の流出量が上昇し始める。
【0035】
図2の結果及び図3の結果を考え合わせると、触媒A〜触媒Gの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用した場合)、還元工程中において、水熱ガス化触媒の製造時に触媒物質の表面に付着していた汚染物質(この場合は炭素又は炭素化合物)が水素によってメタン化されて流出路11aから流出していると考えられる。その結果、汚染物質としての炭素又は炭素化合物の除去が効果的に行われ、触媒物質の活性が高まったと考えられる。つまり、還元工程中において、汚染物質の除去に伴う、水素による炭素又は炭素化合物のメタン化が多く発生しているため、メタンの流出量が急激に上昇し、且つ、水素の流出量が比較的少ないという結果に現れていると考えられる。
これに対して、触媒Hの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用しなかった場合)、還元工程中において、水素による炭素又は炭素化合物のメタン化がほとんど発生していないため、メタンの流出量が上昇せず、且つ、水素の流出量が非常に多いという結果に現れていると考えられる。つまり、水熱ガス化触媒の製造時に触媒物質の表面に付着していた汚染物質の除去がほとんど行われず、触媒物質の活性が高まることは無かったと考えられる。
【0036】
以上のように、還元工程中に反応容器4から流出するガス中の特定の監視対象ガスである還元性ガス(例えば水素)及び炭素由来の化合物ガス(例えばメタンなどの炭化水素ガス)の内の一種以上のガスの量に基づいて触媒物質の活性化の程度を判定する判定工程を行うことで、還元工程が触媒の活性化に有効に作用しているか否かを判定できる、即ち、水熱ガス化触媒の活性の程度を判定できると言える。
【0037】
具体的には、判定工程において、還元工程の開始後の所定タイミングに反応容器4から流出する監視対象ガスの量が、当該監視対象ガスの判定基準値以上のとき触媒物質の活性化の程度が高いと判定し、及び、判定基準値未満のとき触媒物質の活性化の程度が低いと判定できる。例えば、還元工程において水素還元を開始してから90分後、120分後等のタイミングでの監視対象ガスの量が判定基準値以上であるか、又は、判定基準値未満かに応じて、触媒物質の活性化の程度を判定できる。
【0038】
図2に示したメタンの結果例において判定基準値を0.1NL/hとした場合、還元工程において水素還元を開始してから90分後において、触媒A〜触媒Gの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用した場合)は出口メタンガス量は0.1NL/h以上となっているが、触媒Hの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用しなかった場合)は出口メタンガス量は0.1NL/h未満となっている。
図3に示した水素の結果例において判定基準値を0.8NL/hとした場合、還元工程において水素還元を開始してから90分後において、触媒A〜触媒Gの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用した場合)は出口水素ガス量は0.8NL/h未満となっているが、触媒Hの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用しなかった場合)は出口メタンガス量は0.8NL/h以上となっている。
以上のように、判定基準値を用いた比較によって、触媒物質の活性化の程度を判定できる。
【0039】
或いは、判定工程において、還元工程中に反応容器4から流出する監視対象ガスの量の推移に基づいて触媒物質の活性化の程度を判定できる。例えば、還元工程において水素還元を開始してから30分後から90分後までの間の監視対象ガスの変化量(即ち、推移)が基準変化量以上であるか、又は、基準変化量未満であるかに応じて、触媒物質の活性化の程度を判定できる。
【0040】
図2に示したメタンの結果例において、還元工程において水素還元を開始してから30分後から90分後までの間の監視対象ガス(メタン)の基準変化量を0.1NL/hとした場合、触媒A〜触媒Gの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用した場合)は変化量が0.1NL/h以上となっているが、触媒Hの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用しなかった場合)は変化量が0.1NL/h未満となっている。
図3に示した水素の結果例において、還元工程において水素還元を開始してから30分後から90分後までの間の監視対象ガス(水素)の基準変化量を0.8NL/hとした場合、触媒A〜触媒Gの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用した場合)は変化量0.8NL/h未満となっているが、触媒Hの場合(還元工程が触媒の活性化に有効に作用しなかった場合)は変化量が0.8NL/h以上となっている。
以上のように、監視対象ガスの量の推移の比較によって、触媒物質の活性化の程度を判定できる。
【0041】
<別実施形態>
<1>
上記実施形態では、触媒表面の汚染物質としての炭素又は炭素化合物に着目し、監視対象ガスとしてメタン及び水素を例示したが、他の汚染物質に着目し及び他のガスを監視対象ガスとしてもよい。どのような汚染物質であっても、その汚染物質が還元工程において水素と反応するのであれば、監視対象ガスを適切に選択することで、汚染物質が触媒表面から除去されたか否か(即ち、還元工程が触媒の活性化に有効に作用したか否か)を判定できる。
【0042】
<2>
上記実施形態では、図1に例示したような活性評価試験システムSを用いて上記還元工程及び上記判定工程を実施したが、他の構成のシステムを用いて上記還元工程及び上記判定工程を実施してもよい。
【0043】
<3>
上記実施形態では、水熱ガス化触媒として、炭素を担体としたNi担持触媒を例示したが、触媒物質としてはNi以外の金属を利用可能である。例えば、Co、Cu、Mn、Fe、Mo、Ru、Rh、Pd、Pt、Au、Ca、Mg、Na、K等を触媒物質として利用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、水熱ガス化処理に使用する前に触媒の活性化の程度を判定するために利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 原料タンク
2 昇圧ポンプ
3 加熱装置
3a ヒータ
3b 流動砂浴
4 反応容器
5 冷却器
6 タンク
7 気液分離器
10(10a、10b) 流入路
11(11a、11b) 流出路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素担体に担持された触媒物質の活性化の程度を判定する方法であって、
触媒物質を担持する炭素担体が充填された反応容器に、水素を含有する還元性ガスを流す還元工程と、
前記還元工程中に前記反応容器から流出するガス中の特定の監視対象ガスである前記還元性ガス及び炭素由来の化合物ガスの内の一種以上のガスの量に基づいて前記触媒物質の活性化の程度を判定する判定工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記判定工程において、前記還元工程の開始後の所定タイミングにおける前記監視対象ガスの量に基づいて前記触媒物質の活性化の程度を判定する請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記判定工程において、前記還元工程中に前記反応容器から流出する前記監視対象ガスの量の推移に基づいて前記触媒物質の活性化の程度を判定する請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記監視対象ガスはメタンである請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記監視対象ガスは水素である請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−212580(P2011−212580A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82983(P2010−82983)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】