説明

触媒の製造方法及び触媒のオレフィン気相酸化のための使用

【課題】より小さいかさ密度を有し、例えばパイロジェニックSiOなどのパイロジェニック金属酸化物を基礎とし、金属、炭素、及びリンによる汚染が殆どなく、同時に高い強度を有し、既知の触媒に比較して改善された選択性及び高められた活性を有する触媒を提供する。
【解決手段】本発明は、結合剤の添加なしでパイロジェニック金属酸化物から製造される安定で高純度の成形体の上に触媒を生成する方法、及びオレフィン類の気相酸化のための触媒の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダーの添加なしに形成させたパイロジェニック金属酸化物(pyrogenen Metalloxiden)からなる安定な高純度の成形体上に触媒を製造するための方法及びオレフィン気相酸化における前記触媒の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
パイロジェニック金属酸化物は、極度に微細な粒子サイズ、高い比表面積、規定される表面化学を有する規定される球形の1次粒子、及び内部表面(細孔)がないことで傑出する。更にこれらは、非常に高い化学的純度を有する。
【0003】
上述した特性のために、触媒のための支持材として、例えばパイロジェニック二酸化珪素に対する関心がますます高まっている(非特許文献1)。
【0004】
しかし、パイロジェニック金属酸化物の粒子サイズがとりわけ微細なため、例えばこれらのパイロジェニック金属酸化物からできた触媒として又は触媒支持材として使用されるような成形体の製造は困難である。安定した成形体を得るため、金属酸化物粉からなる成形体は、一般に、バインダー及び潤滑剤を使用してプレス成形又は押出成形によって製造される。バインダー及び潤滑油は無機添加物又は有機添加物である。
【0005】
例えばステアリン酸マグネシウムなどの無機添加物は、製造される成形体中に、例えば酸化マグネシウムなどの無機化合物の形で残留する。有機添加物も、成形体の製造工程において炭素などの不純物となり得る。従って、製造される成形体においては、例えばパイロジェニックSiOなどの使用されるパイロジェニック金属酸化物に望まれる非常に高い純度が損なわれる。
【0006】
高い純度及び高い表面積の他に、可能な限り小さいかさ密度を維持することが、その他に望まれる特性である。
【0007】
これは、第1に将来触媒される反応における材料の輸送に好ましい効果を有し、第2に特定の反応器容量を満たすために必要とされる支持材料の質量を軽減できる。これは、支持材料の反応器容量に対する費用の比を改善し、この方法をより経済的にする。
【0008】
低いかさ密度は、例えば、少なくとも1つの通路が触媒を貫通するような触媒の形、例えば環状物によって達成できる。
【0009】
非常に薄い壁厚を有する環状体は、特に有用である。しかし、薄い壁厚は、機械的強度が触媒の調製及び反応器への充填の少なくともいずれかのためにはもはや十分ではなく、従って触媒支持体材料としては不適当である成形体をもたらす。
【0010】
触媒活性成分としては、中でも、パラジウム及びその化合物の少なくともいずれか並びにアルカリ金属化合物、そして追加として金及びその化合物の少なくともいずれか(Pd/アルカリ金属/Au系)又はカドミウム及びその化合物の少なくともいずれか(Pd/アルカリ金属/Cd系)又はバリウム及びその化合物の少なくともいずれか(Pd/アルカリ金属/Ba系)又はパラジウム、アルカリ金属化合物、並びに金、カドミウム、及びバリウムの少なくともいずれかの混合物を含む成分を使用することができる。
【0011】
従来技術は、金属酸化物からなる成形体上に触媒を製造する多数の可能な方法を記載している。これらにおいては、バインダー又は他の強化工程が後の強度を達成するために必要であり、得られる触媒支持材の表面積が触媒に高いかさ密度を要求する。
【0012】
特許文献1には、パイロジェニック金属酸化物、水、シリカゾル、及びプレス補助材の混合物からなるプレス成形品の製造が記載されている。多官能アルコール(例えばグリセロール)を補助材として請求している。
【0013】
特許文献2は、パイロジェニック二酸化珪素をカオリン及びグラファイトの少なくともいずれか、糖、澱粉、尿素、並びにワックスと共に水に混入することを開示している。プレス成形体は、パンチプレス、偏心プレス、押出成形機、ロータリープレス、及びコンパクタ(Kompaktoren)のいずれかを使用して製造できる。類似の方式が特許文献3で採用されているが、そこではパイロジェニック二酸化珪素の代わりに二酸化珪素/酸化アルミニウムのパイロジェニック混合酸化物が使用されている。
【0014】
特許文献4は、パイロジェニック二酸化珪素、メチルセルロース、ミクロワックス、ポリエチレングリコール、及び水からなるプレス成形体を製造するための方法を記載している。普通、プレス成形体は、50重量%〜90重量%の二酸化珪素、0.1重量%〜20重量%のメチルセルロース、0.1重量%〜15重量%のミクロワックス、及び0.1重量%〜15重量%のポリエチレングリコールからなる。
【0015】
特許文献5によれば、パイロジェニックシリカ及びアルコールアンモニア水溶液から安定した成形体を製造することが可能である。対照的に、純粋のアンモニア水溶液では、好結果は得られない。アルコールアンモニア水溶液を高比率で用いると、成形される混合物は強アルカリ性になる。アルコールの使用は、結果として生じる触媒支持材中に炭素による汚染をもたらす危険性を有している。特許文献6によれば、パイロジェニックシリカ及びアンモニア溶液から又はパイロジェニックシリカ及びアルカリ金属を含有するシリカゾルからは、安定した成形体は、成形体が水温処理にかけられたときだけ得ることができる。アンモニアの添加の場合、混合物は再び強いアルカリ性を示す。この過剰の塩基(pH>10)がSiOの部分溶解をもたらすことが知られている。
【0016】
特許文献7は、支持体外表面上の貴金属層が0.5mm以下の厚さを有する、表面に含浸処理したPd/Au触媒の製造について記載している。アルカリ金属珪酸塩が、可溶性貴金属化合物をそれぞれの貴金属水酸化物に変換するための基礎に使用され、この工程の間の12時間〜24時間、pHは、6.5〜9.5に調整される。10m/g〜800m/gの表面積を有する支持材を、これを基礎とするVAM触媒のための支持材料として使用する。
【0017】
特許文献4は、二酸化珪素がメチルセルロース、ミクロワックス、ポリエチレングリコール、及び添加の水と共にホモジナイズされた、パイロジェニック二酸化珪素を含むプレス成形体を製造するための方法を記載している。混合の後、80℃〜150℃で乾燥する。あらかじめ粉砕し得ているこの粉を成形し、プレス成形体を製造し、プレス成形体は、400℃〜1,200℃の間の温度で0.5時間〜8時間の間、加熱処理する。通常、塊をプレス成形する前の混合物は、50重量%〜90重量%の二酸化珪素、0.1重量%〜20重量%のメチルセルロース、0.1重量%〜15重量%のミクロワックス、及び0.1重量%〜15重量%のポリエチレングリコールからなる。実施例において記載されるプレス成形体は、0.71ml/g〜0.97ml/gの細孔容積で、120m/g〜210m/gのBET表面積を有する。その特許で請求される0.8mm〜20mmの外径と30m/g〜400m/gのBET表面積を有するプレス成形体は、0.5ml/g〜1.3ml/gの細孔容積を有する。少なくとも99.8重量%の二酸化珪素(他の構成物質<0.2重量%)からなる、350g/l〜750g/lのかさ密度を有する成形体が、5重量%未満の磨耗で、10N〜250Nの機械的強度を達成する。また、酢酸ビニルモノマーを調製するための触媒であって、触媒がこれらの支持材料を基礎にし、パラジウム、金、及びアルカリ金属酢酸塩を含む触媒を請求している。
【0018】
特許文献8は、パイロジェニック混合酸化物からなる成形体を基礎にする支持されたパラジウム触媒(Pd/Au/アルカリ金属系、Pd/Cd/アルカリ金属系、及びPd/Ba/アルカリ金属系のいずれか)を記載している。この触媒が基礎にする成形体は、0.8mm〜25mmの外径、5m/g〜400m/gのBET表面積、及び0.2ml/g〜1.8ml/gの細孔容積を有し、SiO/Alの組み合わせの混合酸化物を除外し、この混合酸化物以外の構成要素は1重量%未満である、SiO、Al、TiO、及びZrOからなる群から選択されるいかなる順番の少なくとも2種の酸化物から構成される。加えて、記載される支持材料は、5N〜350Nの圧縮強度と250g/l〜1,500g/lのかさ密度を有する。これらの支持材料を基礎にし、パラジウム、金、及びアルカリ金属化合物、又はパラジウム、カドミウム、及びアルカリ金属化合物、又はパラジウム、バリウム、及びアルカリ金属化合物を含有する触媒が請求されている。好ましい実施形態では、このアルカリ金属化合物は、酢酸カリウムである。この触媒は、例えば酢酸ビニルモノマーなどの不飽和エステルを気相において調製するために使用される。
【0019】
特許文献9は、触媒を通り抜ける少なくとも1mmの内径を有する少なくとも1つの通路を有し、パラジウム及びその化合物の少なくともいずれかを1g/l〜20g/lの量で含有し、及びもし適切ならば、金及びそれらの化合物の少なくともいずれかを0.1g/l〜10g/lの量で含有する触媒を記載している。パラジウム、金及びそれらの化合物の少なくとも95%が、表面から支持材(表面含浸触媒又は被覆触媒)の表面下0.5mmまでの間の領域に存在する。この触媒は、オレフィン(例えばエテン)と有機カルボン酸(例えば酢酸)及び気相中の酸素とを反応させて、不飽和エステル(例えば酢酸ビニル)を調製するために使用される。この例においては、還元剤としてヒドラジン水和物が使用されている。
【0020】
従来技術の文書が示すところによれば、今まで、安定した成形体の製造は、押出補助材、細孔形成剤、若しくはゾルなどの無機添加物若しくは有機添加物、又は追加の強化工程なしでは可能でなかった。更に、従来技術の触媒は、好ましくないかさ密度及び低活性を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】欧州特許出願公開第72390号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第327722号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第327815号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第807615号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第4142898号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第4142902号明細書
【特許文献7】米国特許第4048096号明細書
【特許文献8】欧州特許第997192B1号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第464633号明細書
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】D.Koth,H.Ferch,Chem.Ing.Techn.(1980)52巻,628.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、従来技術を改良し、より小さいかさ密度を有し、例えばパイロジェニックSiOなどのパイロジェニック金属酸化物を基礎とし、金属、炭素、及びリンによる汚染が殆どなく、同時に高い強度を有し、既知の触媒に比較して改善された選択性及び高められた活性を有する触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、オレフィン類の気相酸化のための触媒を製造する方法であって、
(I)少なくとも1つのパイロジェニック金属酸化物を溶媒中に懸濁する工程と、
(II)分散装置及び湿式粉砕の少なくともいずれかによって微細に砕かれた懸濁液を製造することによって金属酸化物を活性化状態に変換する工程と、
(III)前記懸濁液を凝固させペースト状の塊にする工程と、
(IV)前記凝固懸濁液を成形体に変換する工程と、
(V)前記成形体を乾燥する工程と、
(VI)得られる成形体をか焼(Kalzinierung)する工程と、
(VII)1つ以上の触媒活性化合物、又は次の工程において1つ以上の触媒活性化合物に変換できる1つ以上の前駆化合物及び1つ以上のプロモーター化合物の少なくともいずれかを塗布することによって、前記成形体を活性触媒に変換する工程とを含むことを特徴とする方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
パイロジェニック金属酸化物粉は、水素/酸素炎中での金属酸化物前駆体の火炎加水分解又は火炎酸化から得られる。略球形の1次粒子が最初に形成され、これらは反応の間に共に焼結しアグリゲート(Aggregate)を形成する。このアグリゲートは、その後、共に凝集してアグロメレート(Agglomeraten)を形成できる。エネルギーを導入することによって一般的に比較的容易にアグリゲートに分離できるアグロメレートとは対照的に、このアグリゲートの更なる粉砕は、仮にできたとしてもエネルギーの徹底的な導入によってのみ可能となる。
【0026】
パイロジェニック金属酸化物としては、酸化珪素(Si)、酸化アルミニウム(Al)、酸化チタン(Ti)、酸化ジルコニウム(Zr)、酸化セリウム(Ce)及びこれらの金属酸化物の混合物のいずれかを使用することが可能である。好ましくは酸化珪素を使用し、特に好ましくは二酸化珪素(SiO)(WACKER HDK(登録商標)T40)を使用する。
【0027】
懸濁液を製造するために、パイロジェニック金属酸化物粉及び様々な金属酸化物粉の混合物のいずれかを、溶媒(好ましくは水)中に撹拌しながら徐々に導入する。早すぎるゲル化を回避するために、これは好ましくは5分〜90分以内に行う。
【0028】
使用する金属酸化物を活性化するために、これらを、粉砕(Vermahlung)によって又は分散装置によって高エネルギー状態にする。これは、好ましくは処理の間に放出される熱を除去する溶媒(好ましくは水)の存在下に行われる。有機溶媒類を使用することも可能であるが、これらは、後にできる触媒支持材が炭素で汚染される危険を招く。例えば、文献からの既知の方法によって得ることができる又は市販品から得ることができるような高純度型(Fe<2ppb)の水を使用することが特に好ましい。18メガオーム・cm以上の抵抗を有する特別に精製した水の使用が好ましい。
【0029】
活性な、微細に砕かれた懸濁液を製造するためには、例えば環状ギャップミルなどの摩擦ミルにおいて成分を粉砕することが有利であることが見出されている。環状ギャップミルにおいては、中央に搭載されるミリングコーンが、ベル形中空コーン中を回転する。粉砕される材料は、底部でミルに投入され、ハウジングの内壁とミリングコーンの間の環状ギャップ中で粉砕され、ベルミルとも呼ばれるミルの上部においてミルから放出される。得られる懸濁液は、容器に収集され、ミルのインレットから再循環させることができる。環状ギャップミルの代わりに、当業者に既知であり、例えば直立又は水平の撹拌ボールミル(stehende oder liegende Ruhrwerkskugelmuhle)などの湿式粉砕のために適当な全ての他の種類のミルを使用することも可能である。全てのセクションにおいて循環させることによって、溶媒は、好ましくは室温に保たれる。加えて、起こり得る温度勾配を除去するために、内部冷却回路をミル中に設けることができる。
【0030】
代わりに、懸濁液を、例えば溶解機又は遊星溶解機など、様々な分散装置によっても活性化することができる。ここで、金属酸化物粉は、水中で溶解機ディスクによって分散させられ、更に少なくとも25分間、少なくとも8m/sの周速度、好ましくは少なくとも12m/sの周速度で分散させられる。粒子サイズ、アグリゲートサイズ、及びアグロメレートサイズを調節するために、懸濁液を、溶解機、超音波分散機(Ultraschalldispergierer)、遊星溶解機(Planetendissolver)、高エネルギーミル(Hochenergiemuhle)、及び高度清浄ボールミル(hochrein ausgefuhrter Kugelmuhle)のいずれかによって少なくとも25分間細かく分散する。
【0031】
金属酸化物を液体中に予め懸濁し、次にこの懸濁液を活性化する過程を2つの別個の工程で行う代わりに、この固体(金属酸化物及び種々の金属酸化物の混合物の少なくともいずれか)を、活性化工程の間に溶媒へ添加することもできる。この固体を予め導入するか、活性化工程の間に導入するかに関わりなく、この処理は、好ましくは固体の添加が終了した後0.5時間〜4時間続けられる。
【0032】
活性化された金属酸化物懸濁液を粉砕によって製造するために、当業者に既知の、鋼鉄、ガラス、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、珪酸ジルコニウム、炭化珪素、窒化珪素及び他の材料のいずれかでできたビーズなどの粉砕メディアを使用することが可能である。材料は好ましくは、珪酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム、及び窒化珪素からなり、特に好ましくは窒化珪素からなる。粉砕ビーズの直径は、通常0.8mm〜2.0mmである。
【0033】
懸濁液の製造においては、非常に均質な懸濁液が製造されるべきである。本発明の目的のためには、懸濁液が実質的にアグロメレートを含まなければ、均質な懸濁液となる。アグロメレートは、例えば触媒支持材としてなどのそれぞれの使用に供される、将来できるセラミックミクロ構造物中に不均一性を与える。アグロメレートの除去を確かにするために、分散工程の終わりに篩にかけることによって懸濁液から残留アグロメレートを除去することもできる。
【0034】
低粘度(例えば2Pa・s未満)かつ低流制限(Eine niedrige Viscositaet und Fliessgrenze)を有することは、懸濁液の均一性を最適にするために重要である。これらは、pHを変更することによって達成できる。パイロジェニック二酸化珪素の場合は、これは酸の添加によって生じさせることができる。
【0035】
予め行う懸濁の間及び活性化工程の間の両方で、pHは、2.0〜4.0の範囲、好ましくは2.5〜3.5の範囲に保たれる。これは、酸又は塩基を適宜添加することによって達成できる。酸又は塩基としては、後に成形体中に不純物を残さない、又はごくわずかな量の不純物しか残さない、当業者に既知の全ての鉱物又は非鉱物の酸又は塩基を使用することが可能である。酸としては塩酸及び硝酸のいずれかが好適に使用され、塩基としてはアンモニア、好ましくはアンモニア水溶液が好適に使用される。
【0036】
金属酸化物懸濁液の固形成分含有量は、好ましくは5重量%〜40重量%、より好ましくは10重量%〜30重量%、及び特に好ましくは15重量%〜25重量%である。これは、金属酸化物懸濁液が2つの別個の工程で製造されているか、金属酸化物粉が活性化工程の間のみで添加されているかに依存しない。
【0037】
凝固工程においては、活性化金属酸化物を含有する懸濁液は、pH変化及び1つ以上の金属酸化物の更なる添加のいずれかによって、その均一な安定した流体状態から懸濁液が凝固、濃厚化しペースト状の塊を与える状態へと変換される。この凝固状態は、粘弾性固体と見なすことができる。即ちその貯蔵弾性率G′が、その損失弾性率G″の数倍となる。
凝固工程のために添加される金属酸化物は、予め行う懸濁工程及び活性化工程の少なくともいずれかにおいて添加される金属酸化物とは異なり得る。
【0038】
ペースト状の塊を形成させる凝固工程を、微粉の金属酸化物又は種々の金属酸化物の混合物を懸濁液中へ更に混入撹拌することによって行う場合、これには、適切ならば、ゲル化過程を促進するための例えばアンモニア水溶液などの塩基の添加の追加も伴わせることができる。
【0039】
更なる微粉の金属酸化物の添加が終了するまで、pHは、例えば塩酸などの酸を適宜添加することによって2〜4の範囲に保つことができる。この添加量の固体の追加が終了した後、適切ならば、pHを、撹拌しながら例えばアンモニア水溶液などの塩基を滴下することによって、4〜10の範囲に、特に好ましくは5〜8の範囲に調整することができる。ここでは、pHの変化及び1つ以上の金属酸化物の添加の少なくともいずれかがレオロジーを変える。ゲル状成形組成物が、液体懸濁液から形成される。追加で添加される微粉の金属酸化物の懸濁液中に存在する金属酸化物に対する量の比は、通常、1:1から微粉金属酸化物1部に対し懸濁液中の金属酸化物2部の割合のまでである。混入撹拌する間、確実に、導入する金属酸化物が最初に活性化されている金属酸化物懸濁液中に非常に均一に分配され、ペースト状の塊において不均一にさせられないように注意しなければならない。高いせん断力を使用して懸濁液中に金属酸化物粉を混合するのは、避けるべきである。それは、さもなければ、その後の成形工程のために適切な塊の可塑性が再び失われ、塊が液状になり過ぎるからである。液状になりすぎた懸濁液は、より長い時間(数時間〜数日)放置することで、後の成形工程のために必要とされる適切な可塑特性を取り戻すことができる。
【0040】
代わりに、凝固工程を、pHの変更だけによって行うこともできる。本発明のこの実施形態においては、更なる金属酸化物は追加されない。ここでは、懸濁液の凝固は、酸及び塩基のいずれかによるpHの変更によってのみもたらされる。二酸化珪素の場合では、pHは、好ましくはNaOH、KOH、NH及びこれらの水溶液のいずれかなどの塩基の助けを借りて調節される。これらは、活性化懸濁液に徐々に添加、好ましくは滴下されて、最終的には4〜10の範囲、特に好ましくは、5〜8の範囲の値を与える。ここでは、NHを使用することが特に好ましい。懸濁液は、NHの添加によって、その均一な安定した流体の範囲から懸濁液が凝固し、濃厚化する範囲へと変換できる。
【0041】
驚くべきことに、懸濁液が好ましくは僅かのNHの添加によって成形に特に適切になることが見つかっている。そのままで3.9〜4.5のpHを有するパイロジェニック二酸化珪素の1%NH溶液に対する典型的な比は、45:1である。安定した成形体は、懸濁液のpHを5.6〜6.9、好ましくは6.0〜6.4にする場合、形成可能となる。このように、結果として生じる懸濁液のpHは、7.0の中性値の直下にある。上記のpHに調節された後、懸濁液は、数分以内に凝固し粘弾性挙動を示す成形可能塊を形成する。
【0042】
粘弾性挙動とは、振動における流動学的歪の実験において、貯蔵弾性率G′が損失弾性率G″よりも大きくなることを意味する。弾性率G′及びG″は、方程式
τ=γ(t)×(G′sinωt+G″cosωt)に従って決定でき、上記式中でτは、最大振幅をγ、角速度をωとしたときの歪の時間変化γ(t)(即ちγ(t)=γ×sinωt)に応じた応力応答(Spannungsantwort)である。G′及びG″の合計値は、貯蔵弾性率G′のプラトー領域において求められる。貯蔵弾性率G′は、本発明の目的のためには、少なくとも10,000Pa、好ましくは少なくとも50,000Paであるべきで、比G″/G′は1未満、好ましくは0.55未満、そしてなお特に好ましくは0.25未満であるべきである。各々の弾性率は、1.5mmのせん断間隙又は別の実施形態では2mmのせん断間隙を有する平板−平板構造を用いて23℃の温度で測定されている。
【0043】
本発明の塊の本発明による使用は、その粘弾性挙動の特に優れた長期の安定性を示している。これは、閉鎖容器中に室温で1週間貯蔵した後、1.5mmのせん断間隙又は別の実施形態では2.0mmのせん断間隙を有する平板−平板構造を用いて23℃の温度で測定される貯蔵弾性率G′が、初期値のせいぜい70%にしか、好ましくは初期値のせいぜい90%にしか減少していないことを意味する。
【0044】
塊の混合が不十分である場合、成形組成物内の不均一性は、後の成形工程に好ましくない影響を及ぼし得る。この場合、比較的低い機械的安定性を有する成形体又は成形のために絶対的に不適当な塊が形成される。成形組成物中の固形金属酸化物の割合は、例えばパイロジェニックSiOに基づく支持材料の場合では、10重量%〜40重量%である。
【0045】
成形工程として後に錠剤化を行う場合は、明らかにより高い固形成分含有量を選択することが有利である。沈殿させた金属酸化物粒子をパイロジェニック金属酸化物粒子に加えて混合する場合、例えば沈殿させたシリカの場合、分散液の固形成分含有量を40重量%から最大60重量%まで増加させることが可能である。
【0046】
塊の成形は、例えば押出成形、錠剤化、及びプレス成形のいずれかによってもたらし得る。成形触媒体は、好ましくは、押出成形によって製造される。ここでは、当業者に既知の全ての装置、例えば押出成形機、スクリュー押出成形機、タブレット成形機、連続プレス、及びラム押出機(Kolbenstrangpresse)などを想定することができる。成形組成物のために使用する場合、組成物の液状化及び成形組成物の相分離をもたらし得るせん断力を更には与えないか少量しか与えないラム押出機を使用することが好ましい。
【0047】
成形触媒体の構造は、それぞれの場合に選択される成形手段によって決定される。例えば、環状物、小粒、円筒、車輪、及び球などの構造を製造することが可能である。環状物及び小粒の長さは、成形の後に切断装置を直接使用することで画定される。成形体は、当業者に既知の方法(乾燥器、赤外線加熱(IR−Heizung)、及びマイクロ波)によって乾燥する。乾燥は、25℃〜200℃、好ましくは30℃〜100℃、特に好ましくは40℃〜80℃の範囲の温度で行う。乾燥時間は、金属酸化物の水に対する比に依存するが、0.5時間〜50時間、好ましくは2時間〜30時間の範囲である。
成形触媒体の乾燥は、なお重大であり、過度に急速な乾燥(例えば高すぎる温度及び低すぎる大気湿度のいずれかによる)は、なお存在する水蒸気が材料から細孔を経由して十分に速く脱出するのを許容せず、それゆえ成形体中にひびを形成させる。
【0048】
乾燥された後成形触媒体は、か焼される。当業者に既知の全ての通例のか焼方法が可能である。か焼は、大気中の炉の中で行うことが好ましく、このとき酸素含有量を変化させることができ更なる気体を空気に混入することができる。ここでは、種々の保護ガスの使用が可能である。適切な保護ガスとしては、当業者に既知の全ての保護ガスが挙げられ、特に好ましいのは、窒素、アルゴン、及びヘリウムのいずれかである。空気は、同じく保護ガスによって完全に置き換えることができる。か焼は、500℃〜1,250℃、好ましくは700℃〜1,100℃、及び特に好ましくは850℃〜1,000℃の範囲の温度で行う。焼結時間は、0.5時間〜20時間の範囲内であり;典型的な焼結時間は2時間〜10時間の範囲内である。か焼は、大気圧下及び減圧下のいずれかで行うことができる。本発明の方法は、従来技術において通例使用されるものより低いか焼温度で、等価な強度を達成することを可能にする。
【0049】
か焼工程は、触媒過程のための重要なパラメーターである触媒支持材の表面積を減少させる。しかし、本発明による支持材料は、その優れた均一性のために、か焼処理なし又は低い温度でのか焼処理によってでさえも申し分のない安定性を示すので、従来技術の支持材よりも高い純度のみならず従来技術の支持材よりも著しく大きな支持材表面積及び細孔容積を有することができる。
【0050】
更に、本発明の方法から得られる成形触媒体は、例えば、押出補助材、細孔形成剤、及びゾルのいずれかなどの補助材/添加物の通例の添加なしで製造される。補助材なしで済ませることによって、(例えばパイロジェニック)金属酸化物の化学的純度を高く維持することが可能になる。支持材料の形は、本発明の方法にとっては重大でない。活性成分を、成形工程の前にペースト状の塊に添加し、従って成形工程の後には支持材料上に既に多かれ少なかれ微細に分配されるようにするか、例えば含浸によって触媒支持材の最終製造の後に初めてその後の処理工程として塗布するかは、同様に本発明にとって重大ではない。
【0051】
高純度の出発粉及び高純度製造方法のために、高純度金属酸化物を別の高純度金属酸化物でターゲットドーピングすることが可能である。例えば、パイロジェニックSiOをパイロジェニックAlでドーピングすることによって酸性触媒支持材を製造することが挙げられる。このドーピングは、SiO中にルイス酸部位を作りだす。この原理によれば、高純度混合酸化物を、SiO、Al、ZrO、及びTiOなどの高純度酸化物から製造することができる。
【0052】
製造された非ドープ成形体の純度は、高いので、非ドープ成形体を他の無機ドーパントでドーピングすることも可能となる。条件は、不純物が、即ち使用される金属酸化物M又は種々の金属酸化物の混合物を除いた全ての元素、例えば二酸化珪素を使用する場合にはSi及びOの合計が常に400ppm未満、好ましくは100ppm未満、特に好ましくは20ppm未満になるようにすることである。本発明の方法によって、不純物(全ての金属並びにリン、硫黄、及び炭素も含む)の合計が、10ppm未満、理想的な場合は1ppm未満でさえある成形体を製造することができる。ドーパントとしては、無機金属塩を選択することが可能である。これらは、例えば、ハロゲン化物、酸化物、硝酸塩、亜硝酸塩、珪酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、アルミン酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジウム酸塩、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、チタン酸塩及びジルコン酸塩のいずれかであり得る。原理的には、この陰イオン成分の対イオンとして任意の陽イオン種を使用することが可能である。この対イオンは、好ましくはアルカリ金属及びアルカリ土類金属イオンからなる群から選択される陽イオンである。なお特に好ましくは、アルカリ金属陽イオンが使用される。
【0053】
微細に砕かれた酸化物の本発明による使用は、非常に高い表面積を有する成形触媒体の形成をもたらす。達成されるBET表面積は、30m/g〜500m/g、好ましくは150m/g〜450m/g、及び特に好ましくは250m/g〜400m/gの範囲内にある。微細に砕かれた酸化物は、0.5ml/g〜1.3ml/g、好ましくは0.7ml/g〜1.25ml/g、及び特に好ましくは0.9ml/g〜1.2ml/gの範囲の高細孔容積を有する成形体の製造ももたらす。
【0054】
微細な細孔を有する成形体を、微細に砕かれた金属酸化物から焼結によって形成することができる。10nm〜20nmの範囲の直径を有する細孔の割合は、通常60%を超える割合、好ましくは70%を超える割合、及びなお特に好ましくは80%を超える割合である。
【0055】
成形体の活性触媒への変換は、1つ以上の触媒活性化合物、又は次の工程において1つ以上の触媒活性化合物に変換できる1つ以上の前駆化合物及び1つ以上のプロモーター化合物の少なくともいずれかを塗布することによって達成される。ここでは、オレフィンの気相酸化のための触媒をもたらす当業者に既知の全ての方法が使用できる。本発明による高純度且つ高表面積支持体の使用は、従って、連合させられる高次触媒活性と共に、以前は達成不能であった高表面積化及び貴金属部位の非常に微細な分配を達成可能にする。
【0056】
1つ以上のプロモーター化合物の添加を、成形体の触媒への変換の後の別個の工程で、行うこともできる。
【0057】
1つ以上のプロモーター化合物と共に1つ以上の触媒活性化合物又は1つ以上の前駆化合物を1つの工程で塗布する代わりに、1つ以上のプロモーター化合物の塗布を、1つ以上の触媒活性化合物の塗布又は1つ以上の前駆化合物の塗布に先行する又は続く工程において別個に行うことができる。
【0058】
製造が完了した触媒は、活性(空間−時間収率(Raum−Zeit−Ausbeute))、選択性(2次反応、即ち、エテンの燃焼による二酸化炭素の生成及びより少量の酢酸エチルの生成(Ethenverbrennung zu Kohlendioxid und niedrigere Ethylacetat−Bildungsrate)の低減)、及び基礎とする新規な高表面積支持材料のもたらす長期の安定性の少なくともいずれかに関して有利点を有する。
【0059】
成形体を被覆するための触媒成分として、本発明の方法においては好ましくは、Pd/Au/アルカリ金属化合物、Pd/Cd/アルカリ金属化合物、及びPd/Ba/アルカリ金属化合物からなる群から選択される1つ以上の系が使用される。
【0060】
ここで上述の成分の1つ以上は、Pd金属化合物、Au金属化合物、Cd金属化合物、及びBa金属化合物の内の少なくともいずれかの支持材上への含浸、スプレー、蒸着、ディッピング、及び沈殿のいずれかによって塗布される。適切ならば、これらの成分は、適切な順序では、支持体に塗布した還元可能金属化合物の還元及び存在する任意の塩化物を除去する洗浄の少なくともいずれかと、アルカリ金属酢酸塩又は酢酸ビニルモノマーの製造の反応条件下でアルカリ金属酢酸塩に完全に若しくは部分的に変換されるアルカリ金属化合物の含浸とによっても塗布できる。
【0061】
アルカリ金属化合物としては、酢酸カリウムなどのカリウム化合物を使用することが好ましい。当業者に既知である、触媒活性及び触媒の選択性の少なくともいずれかを促進する全ての更なる成分及びプロモーターの少なくともいずれかを使用することが同様に可能である。
【0062】
本発明の方法の被覆工程を以下により詳細に、支持化触媒の製造についてPd/アルカリ金属/Au系を例にとり、説明する。
本発明の1つの実施形態によれば、特に中空の円筒の形態(環状押出物)の成形体に、パラジウム及び金の少なくともいずれかを含有する溶液を含浸する。この溶液及び貴金属を含有する溶液のいずれかの含浸と同時に又は任意の順序で連続させて、使用される支持材料に1つ以上の塩基性化合物を含有できる塩基性溶液を含浸できる。塩基性化合物は、パラジウム化合物及び金化合物をその水酸化物に変換する働きをする。
【0063】
種々の貴金属化合物の塗布は、1つの工程でか、複数の連続した工程で行うことができる。これらの工程の間で、中間乾燥工程、か焼工程、及び1つ以上の還元工程の少なくともいずれかを行うことも可能である。
【0064】
貴金属を含有する溶液の塗布の後に塩基を添加する代わりに、塩基の添加を貴金属を含有する溶液の塗布と同時に行うこともできる。
【0065】
更なる実施形態においては、成形体には、貴金属を含有する1つ以上の溶液が添加される前に、最初に1つ以上の塩基性化合物を塗布することができる。
【0066】
中間乾燥工程を、1つ以上の塩基性化合物の塗布と貴金属の塗布の間に行うことができる。
【0067】
塩基性溶液中の化合物は、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属珪酸塩、及びこれらの物質の混合物のいずれかで構成され得る。好ましくは、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、及びメタ珪酸ナトリウムの少なくともいずれかを使用する。貴金属を含有する溶液を調製するためには、例えば、パラジウム塩として、塩化パラジウム、塩化パラジウムナトリウム若しくは塩化パラジウムカリウム、酢酸パラジウム、及び硝酸パラジウムのいずれかを使用することが可能である。適切な金塩としては、塩化金(III)及び四塩化金(III)酸が挙げられる。塩化パラジウムカリウム、塩化パラジウムナトリウム、及び四塩化金酸の少なくともいずれかを使用することが好ましい。
【0068】
塩基性溶液を用いた触媒支持材への含浸は、触媒支持材上の貴金属の沈殿に影響する。この塩基性溶液は、貴金属溶液と、貴金属溶液の前か同時に、又は貴金属塩の塗布の後に接触させることができる。この2つの溶液を触媒支持材に連続的に含浸する場合は、中間乾燥、還元、及びか焼の少なくともいずれかを最初の含浸工程の後に行うことができる。
【0069】
表面シェルの厚さは、支持材料に塗布される塩基性化合物の量の望まれる貴金属の量
に対する比によって影響され得る。この比が高いほど、形成されるシェルの厚さは薄くなる。望まれるシェル厚のために必要とされる塩基性化合物の貴金属化合物に対する比は、支持材料の性質並びに選択される塩基性化合物及び貴金属化合物に依存し得る。この必要とされる比は、数回の予備テストによって有利に決定される。得られるシェル厚は、触媒粒子を切り開く単純な仕方で決定できる。
【0070】
最小限必要な塩基性化合物の量は、パラジウム及び金をその水酸化物に変換するのに必要とされる化学量論的に計算される水酸化物イオンの量から導き出せる。ガイドラインとしては、1.0mmまでのシェル厚に対しては塩基性化合物は、1倍〜10倍だけ化学量論的に過剰に使用するべきである。
【0071】
前記貴金属塩及び前記塩基性化合物は、触媒支持材に細孔容積含浸の方法によって塗布することもできる。中間乾燥を用いる場合、この2つの溶液の容積は、それぞれが触媒支持材の吸収容量の90%〜100%に相当するように選択することができる。中間乾燥を省略する場合は、この2つの含浸溶液の個々の容積の合計を上記の条件に一致させなければならず、個々の容積の比は1:9〜9:1までの値をとり得る。3:7〜7:3、特に1:1の容積比を使用することが好ましい。両方の場合で、溶媒として水を使用するのが好ましい。しかし、適切な有機溶媒及び水溶性有機溶媒のいずれかを使用することも可能である。
【0072】
不溶性貴金属化合物を生成する貴金属塩溶液と塩基性溶液との反応は徐々に起こり得、調製方法に依存するが、一般に1時間〜24時間後に初めて終了する。この水不溶性貴金属化合物は、次に還元剤で処理される。湿式還元、例えば水溶性ヒドラジン水和物及びホルムアルデヒドのいずれかを使用したもの、又は例えば水素、エテン、及び水素/窒素混合物を使用した気相還元を行うことが可能である。還元は、窒素などの不活性ガスの添加に適切ならば、室温又は高温で、及び大気圧又は超大気圧下で行い得る。
【0073】
貴金属化合物の還元の前及び/又は後に、支持材上に存在するいかなる塩化物も徹底的な洗浄によって取り除かれ得る。触媒の洗浄は、水、特に好ましくは塩基性水溶液(pH>7)、なお特に好ましくはpH8〜pH12の溶液を使用して行われる。洗浄後の触媒の塩化物含有量は、好ましくは500ppm未満、特に好ましくは200ppm未満である。
【0074】
還元の後に得られる触媒前駆体に、乾燥処理を、及び最終的に、アルカリ金属酢酸塩の又は酢酸ビニルモノマーの製造の反応条件下でアルカリ金属酢酸塩に完全に若しくは部分的に変換されるアルカリ金属化合物の含浸を行うことができる。酢酸カリウムを含浸するのが好ましい。再びここで、細孔容積含浸を好適に使用し得る。これは、必要とされる量の酢酸カリウムが、提示されている支持材料が溶媒全体について示す吸収容量(der Aufnahmekapazitaet des vorgelegten Traegermaterials fur das gesamte Loesungsmittel)にほぼ一致する容積の好ましくは水などの溶媒に溶解されることを意味する。この容積は、支持材料の全細孔容積にほぼ一致する。
【0075】
完了した触媒は、残留水分含量が5%未満となるまで乾燥され得る。乾燥は、空気中で、適切ならば不活性ガスとしての窒素中で行うことができる。
【0076】
以下により詳細に本発明の方法の被覆工程を、支持触媒の製造について、Pd/アルカリ金属/Ba系及びPd/アルカリ金属/Cd系を例にとり、説明する。
【0077】
Pd/アルカリ金属/Ba触媒及びPd/アルカリ金属/Cd触媒の製造においては、金属塩を、含浸、スプレー、蒸着、ディッピング、及び沈澱のいずれかなどの既知の方法によって塗布できる。適切な支持材料上に支持されたPd/アルカリ金属/Cd系及びPd/アルカリ金属/Ba系触媒の製造の詳細が、米国特許第4,093,559号明細書(Pd/Cd)及び欧州特許第565952号明細書(超音波噴霧を使用しないPd/Ba)に記載されており、これらを本明細書において参考として援用する。
【0078】
酢酸ビニルモノマーの合成については、触媒は、それぞれの場合使用される支持材の重量に基づいて、パラジウムを0.1重量%〜5.0重量%、及び金を0.2重量%〜3.5重量%、又はカドミウムを0.1重量%〜3.5重量%、又はバリウムを0.1重量%〜3.5重量%、及びカリウムを0.5重量%〜15重量%含むことが有利である。負荷は、使用される触媒系(Pd/Au系、Pd/Cd系、及びPd/Ba系のいずれか)によって変化させ得る。例えば500g/lのかさ密度を有する触媒支持材の場合、濃度数値は、パラジウムが0.5g/l〜25g/l、及び金が1.0g/l〜17.5g/l、又はカドミウムが0.5g/l〜17.5g/l、又はバリウムが0.5g/l〜17.5g/l、及びカリウムが2.5g/l〜75g/lの容積ベース濃度に相当する。
【0079】
触媒負荷は、詳細には:
Pd/アルカリ金属/Au触媒のパラジウム含有量が、0.2重量%〜3.5重量%、好ましくは0.3重量%〜3.0重量%である。
Pd/アルカリ金属/Au触媒の金含有量が、0.2重量%〜3.5重量%、好ましくは0.3重量%〜3.0重量%である。
Pd/アルカリ金属/Au触媒のカリウム含有量が、0.5重量%〜15重量%、好ましくは1.0重量%〜12重量%である。
Pd/アルカリ金属/Cd触媒又はPd/アルカリ金属/Ba触媒のパラジウム含有量が、0.1重量%〜5.0重量%、好ましくは0.2重量%〜4.5重量%である。
Pd/アルカリ金属/Cd触媒のカドミウム含有量が、0.1重量%〜3.5重量%、好ましくは0.2重量%〜3.0重量%である。
Pd/アルカリ金属/Ba触媒のバリウム含有量が、0.1重量%〜3.5重量%、好ましくは0.2重量%〜3.0重量%である。
このBa含有量は、好ましくは、Cd系のCd含有量と同じ範囲である。
Pd/アルカリ金属/Cd触媒又はPd/アルカリ金属/Ba触媒のカリウム含有量が、0.3重量%〜10重量%、好ましくは0.5重量%〜9重量%である。
【0080】
含浸溶液を調製するために、適切な量のパラジウム化合物及び金化合物を、提示されている支持材料が示す水の吸収容量(Wasseraufnahmekapazitaet des vorgelegten Traegermaterials)のおよそ10%〜100%に相当する量の水に溶解することができる。塩基性溶液も類似の方法で調製できる。
【0081】
本発明による成形体は、低圧ドロップ、低かさ密度、大きな反応容器単位容積当たりの外表面積、良好な物質/熱輸送、並びに特に既知の中空円筒及び例えばハチの巣状支持材料などの他の支持材形態に比較した場合の著しく促進された破壊強度及び耐摩耗性を、示す又は可能にする。
【0082】
本発明の触媒における高表面積支持材料の使用によって、貴金属の量を一定とした場合には触媒活性貴金属部位をお互いにより離れて分布させる(同一の活性でより長期の安定性を得る)こと、又はお互いの間隔を同じにした場合にはより多くの貴金属を充填する(同一の長期間の安定性でより高い活性を得る)ことが可能になる。しかし、触媒活性金属(Pd/Au、Pd/Cd、及びPd/Baのいずれか)の濃度が高すぎると、触媒は過剰に高い最高温度を達成し、相応じて望ましくない副産物をより多く形成するので、触媒組成は、支持材料に調和させ反応器の構造に釣り合わせなければならない(熱除去)。
【0083】
本発明の支持触媒は、気相でオレフィン、有機酸、及び酸素から不飽和エステルを調製するために使用できる。特に、本発明の支持触媒は、酢酸ビニルモノマーを製造するのに使用できる。この目的のために、本発明の支持触媒の存在下に気相で、エテン、酢酸、及び分子酸素又は空気が、適切ならば不活性ガスの添加と共に、100℃〜250℃の温度で、例えば1bar〜25barの大気圧及び超大気圧の下で、反応させられる。通常、触媒リットル当たり時間当たり1,000〜5,000の標準リットルの気相ガス混合物空間速度が実現される。
【0084】
酢酸ビニルモノマーの調製方法においては、反応物は、最初に低空間速度で触媒上を通される。この準備段階の間、触媒の活性は、増加し、通常数日又は数週間の後に初めて最終レベルに到達する。本発明の支持触媒は、活性の増加及び選択性の改善の少なくともいずれかのために、著しく改善された生成物収率を達成する。
【0085】
本発明の触媒はプロペンなどのオレフィンのアセトキシル化のためにも使用できる。次の例で、中空円筒(環状押出物)に基づく本発明による支持触媒のパフォーマンスを例示する。特に、パイロジェニック二酸化珪素に基づく環状押出物を詳細に説明する。
【0086】
示されるかさ密度は、33mmの内径を有するチューブに充填することで測定された。
【0087】
以下の実施例及び比較例での触媒の活性及び選択性は、最高で200時間までの期間にわたって測定された。触媒は、油冷流反応器(反応器長:1,200mm;内径:19mm)中で、9.5barの絶対圧力下で、3,500標準m/(m×h)の空間速度(GHSV)を用い、以下のガス組成物を使用してテストされた:60容量%のエテン、19.5容量%の二酸化炭素、13容量%の酢酸、及び7.5容量%の酸素。触媒は、触媒床において測定される温度が130℃〜180℃の範囲で試験された。
反応生成物は、反応器の出口でオンラインガスクロマトグラフィーによって分析された。時間当たり触媒リットル当たりの生成酢酸ビニルモノマーのグラム数(g(VAM)/(lcat×h))で表される触媒の空間−時間収率を、触媒活性の一つの指標として測定した。特にエテンの燃焼によって形成される二酸化炭素を同様に測定し、触媒の選択性を評価するために使用した。
気相における反応生成物の測定に加えて、液体反応生成物を15℃に冷却した容器に収集し、得られる濃縮物をガスクロマトグラフィーによって分析し、液体副産物(例えば、酢酸エチル)を測定した。形成される液体副産物の量は、常に酢酸ビニルモノマーに対する比として、例えばmg(酢酸エチル)/g(VAM)で表わされる酢酸エチルの形成として記録された。
【0088】
BET表面積は、窒素を使用し、DIN66131に準拠して測定された。
細孔分布は、水銀ポロシメーターによって測定された。細孔容積の測定は、ドイツ工業規格DIN66134(ラングミュア、p/p=0.9995)に準拠して行った。強度は、1kNの公称力を有するロードセルを取り付けたZwick Z 010材料試験機(モデルII)(Zwick Z 010 Materialprufmaschine)を使用して測定した。
【実施例】
【0089】
(実施例1)(粉砕及び金属酸化物の添加による支持材の製造)
パイロジェニックシリカ(WACKER HDK(登録商標) T40)を10kg、40kgの脱イオン水中に入れてかき混ぜ、窒化珪素粉砕ビーズ(粉砕ビーズの直径:2.0mm、充填度:70容量%)を使用した撹拌ボールミル(Ruhrwerkskugelmuhle)中で2時間循環させかつ粉砕した。粉砕工程の間の角速度は11m/sであった。粉砕の終了後、5kgの微粉のパイロジェニックシリカ(WACKER HDK(登録商標) T40)を、ペーストのようなゲル状塊が形成されるまで、分散液中に入れてかき混ぜた。この塊は、適切な工具を通してラム押出機から押出されて望ましい形に成形され、そして成形体に望まれる長さに適宜切断された。得られた成形体、この場合5.5mmの長さと、5.5mmの外径と、2.5mmの穴を有する環状物を、85℃の温度及び75%の大気湿度で24時間乾燥し、そして次に900℃で8時間か焼した。本発明による支持環は、290m/gの表面積(BET表面積)及び1.2ml/gの細孔容積を有していた。この環状物の横方向の機械的強度は、10Nであった。かさ密度は320g/lであった。
【0090】
(実施例2)(粉砕及びpH調節による支持材の製造)
パイロジェニックシリカ(WACKER HDK(登録商標) T40)を4kg、35kgの脱イオン水中に入れてかき混ぜた。塩酸の添加によってpHを2.8に調整し、一定に保った。連続的に撹拌しながら、更に4.5kgのパイロジェニックシリカ(WACKER HDK(登録商標) T40)を入れてかき混ぜた。金属酸化物粉の添加が終了した後、混合物を更に10分間ホモジナイズし、その後懸濁液を窒化珪素粉砕ビーズ(粉砕ビーズの直径:2.0mm、充填度:70容量%)を使用した撹拌ボールミル中で、更なる塩酸の添加によってpHを2.8に一定に保ちつつ、45分間粉砕した。粉砕工程の間の角速度は11m/sであった。粉砕の終了後、連続的に撹拌しながら、pHが6.2になりその時点で塊のゲル化が生じるまでアンモニア水溶液を懸濁液に添加した。得られた塊は、適切な工具を通してラム押出機から押出されて望ましい形に成形され、そして成形体に望ましい長さに適宜切断された。得られた成形体、この場合5.5mmの長さと、5.5mmの外径と、2.5mmの穴を有する環状物を、85℃の温度及び70%の大気湿度で24時間乾燥し、そして次に900℃で2時間か焼した。本発明による支持環は、260m/gの表面積(BET表面積)及び1.1ml/gの細孔容積を有していた。この環状物の横方向の機械的強度は、10Nであった。かさ密度は280g/lであった。
【0091】
(実施例3)(粉砕及びpH調節なしの支持材の製造)
2回蒸留水を1,155g、4リットルプラスチックビーカーに入れた。345gのパイロジェニック二酸化珪素(WACKER HDK(登録商標) T40)をプラスチック被覆溶解機を使用して1,000rpmで撹拌した。この混合物を、次に8,000rpmで更に30分間撹拌した。このスリップを2つのプラスチック被覆ビーム撹拌器(Balkenruhrern)を有する遊星混合機に移した。100rpmで混合しながら、7.5gの濃度1%(重量%)のアンモニア水溶液を滴下した。滴下が終了した後、混合物を更に10分間撹拌した。この混合物を次にラム押出機に導入した。サンプルの流動学的特性及びpHを並行して測定した:G′=200,000、G″=25,000、pH=6.1。
この塊は、適切な工具を通してラム押出機上で押出されて望ましい形に成形され、そして成形体に望ましい長さに切断された。得られた成形体、この場合6mmの長さと、6mmの外径と、3mmの穴を有する環状物を、85℃の温度及び70%の大気湿度で24時間乾燥した。本発明による支持環は、350m/gの表面積(BET表面積)及び1.1ml/gの細孔容積を有していた。この環状物の機械的強度は、17Nであった。かさ密度は340g/lであった。このようにして製造された成形体は、以下の不純物を含んでいた(全ての数値の単位はppm):Cu(0.03)、Fe(2)、Ti(0.05)、Al(0.3)、Ca(0.4)、Mg(0.3)、Na(0.3)、K(0.2)、Ni(0.5)、Cr(0.03)、P(0.06)、C及びSは、検出できなかった。
【0092】
(実施例4)
実施例1で製造したSiO支持材料(500g)に、27.60gの濃度41.8%(重量%)の四塩化金酸溶液及び42.20gの濃度20.8%(重量%)の四塩化パラジウム酸溶液を含む水溶液600mlを含浸した。2時間後、次の工程においてこの触媒を80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。蒸留水364mlと共に1モル炭酸ナトリウム溶液236mlを次に塗布した。2時間後、この触媒を80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。次にこの触媒を、0.25重量%のアンモニア含有量を有するアンモニア水溶液で45時間洗浄した。この触媒を、水素/窒素混合物(Nが95%/Hが5%)を用いて、200℃の温度で5時間還元した。次に触媒に、酢酸含有酢酸カリウム溶液(600mlの酢酸に71.65gの酢酸カリウムを溶解したもの)を含浸し、最後に80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。製造が完了した触媒は、パラジウムを1.6重量%(5.1g/l)、金を2.1重量%(6.7g/l)、及びカリウムを5.2重量%(16.6g/l)の濃度で含有していた。
本発明によるこの触媒を、反応器中で上記の条件で試験したところ、90.5%のエテンの選択性で800g(VAM)/(lcat×h)(156g(VAM)/(gPd×h))の活性を達成することができた。形成される酢酸ビニル1kg当たり0.35gの酢酸エチルが形成されていた。
【0093】
(実施例5)
実施例1で製造したSiO支持材料(500g)を、実施例4と類似の方式だが、製造が完了した触媒が、パラジウムを2.0重量%(6.4g/l)、金を2.0重量%(6.4g/l)、及びカリウムを6.5重量%(20.8g/l)の濃度で含有するように濃度を選択した含浸溶液を用いる点だけが違う方式で、含浸し、実施例5の触媒を調製した。
本発明によるこの触媒を、反応器中で上記の条件で試験したところ、92.5%のエテンの選択性で930g(VAM)/(lcat×h)(145g(VAM)/(gPd×h))の活性を達成することができた。形成される酢酸ビニル1kg当たり0.35gの酢酸エチルが形成されていた。
【0094】
(実施例6)
実施例2で製造したSiO支持材料(80g)に、4.43gの濃度41.6%(重量%)の四塩化金酸溶液及び7.03gの濃度20.0%(重量%)の四塩化パラジウム酸溶液を含む水溶液88mlを含浸した。2時間後、次の工程においてこの触媒を80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。蒸留水50mlと共に1モル炭酸ナトリウム溶液37.8mlを次に塗布した。2時間後、この触媒を80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。次にこの触媒を、0.25重量%のアンモニア含有量を有するアンモニア水溶液で30時間洗浄した。この触媒を、水素/窒素混合物(Nが95%/Hが5%)を用いて、200℃の温度で5時間還元した。次に触媒に、酢酸含有酢酸カリウム溶液(88mlの酢酸に11.46gの酢酸カリウムを溶解したもの)を含浸し、最後に80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。製造が完了した触媒は、パラジウムを1.6重量%(4.5g/l)、金を2.1重量%(5.9g/l)、及びカリウムを5.2重量%(14.6g/l)の濃度で含有していた。
本発明によるこの触媒を、反応器中で上記の条件で試験したところ、90.5%のエテンの選択性で750g(VAM)/(lcat×h)(167g(VAM)/(gPd×h))の活性を達成することができた。形成される酢酸ビニル1kg当たり0.55gの酢酸エチルが形成されていた。
【0095】
(実施例7)
実施例3で製造したSiO支持材料(80g)に、5.14gの濃度41.6%(重量%)の四塩化金酸溶液及び8.47gの濃度20.0%(重量%)の四塩化パラジウム酸溶液を含む水溶液88mlを含浸した。2時間後、次の工程においてこの触媒を80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。蒸留水43.5mlと共に1モル炭酸ナトリウム溶液44.5mlを次に塗布した。2時間後、この触媒を80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。次にこの触媒を、0.25重量%のアンモニア含有量を有するアンモニア水溶液で30時間洗浄した。この触媒を、水素/窒素混合物(Nが95%/Hが5%)を用いて、200℃の温度で5時間還元した。次に触媒に、酢酸含有酢酸カリウム溶液(88mlの酢酸に13.43gの酢酸カリウムを溶解したもの)を含浸し、最後に80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。製造が完了した触媒は、パラジウムを1.9重量%(6.5g/l)、金を2.4重量%(8.2g/l)、及びカリウムを6.0重量%(20.4g/l)の濃度で含有していた。
本発明によるこの触媒を、反応器中で上記の条件で試験したところ、90.2%のエテンの選択性で800g(VAM)/(lcat×h)(124g(VAM)/(gPd×h))の活性を達成することができた。形成される酢酸ビニル1kg当たり0.45gの酢酸エチルが形成されていた。
【0096】
(比較例1)
ベントナイト(KA−120、Sud Chemieから入手;かさ密度:540g/l)に基づく直径6mmの球状支持材料(60g)に、0.80gの塩化金及び2.0gの酢酸パラジウムを含む水溶液36mlを含浸した。2時間後、次の工程においてこの触媒を80℃の温度で減圧下4時間乾燥した。蒸留水8mlと共に1モル炭酸カリウム溶液28.2mlを次に塗布した。2時間後、この触媒を80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。次にこの触媒を、0.25重量%のアンモニア含有量を有するアンモニア水溶液で60時間洗浄した。この触媒を、水素/窒素混合物(Nが95%/Hが5%)を用いて、200℃の温度で5時間還元した。次に触媒に、酢酸含有酢酸カリウム溶液(36mlの酢酸に3.30gの酢酸カリウムを溶解したもの)を含浸し、最後に80℃の温度で減圧下4時間乾燥した。製造が完了した触媒は、パラジウムを1.5重量%(8.1g/l)、金を0.7重量%(3.8g/l)、及びカリウムを2.1重量%(11.3g/l)の濃度で含有していた。
本発明によるこの触媒を、反応器中で上記の条件で試験したところ、89.0%のエテンの選択性で680g(VAM)/(lcat×h)(84g(VAM)/(gPd×h))の活性を達成することができた。形成される酢酸ビニル1kg当たり1.90gの酢酸エチルが形成されていた。
【0097】
(実施例8)(Pd/Cd系)
実施例1で製造したSiO支持材料(100g)に、5.17gの酢酸カドミウム、6.02gの酢酸カリウム、8.74gの酢酸パラジウム、及び1.33gの酢酸マンガンを含む酢酸含有溶液120mlを含浸した。2時間後、この触媒を80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。製造が完了した触媒は、パラジウムを3.8重量%(12.2g/l)、カドミウムを2.0重量%(6.4g/l)、カリウムを2.2重量%(7.0g/l)、及びマンガンを0.25重量%(0.8g/l)の濃度で含有していた。
本発明によるこの触媒を、反応器中で上記の条件で試験したところ、92.8%のエテンの選択性で900g(VAM)/(lcat×h)(74g(VAM)/(gPd×h))の活性を達成することができた。形成される酢酸ビニル1kg当たり0.70gの酢酸エチルが形成されていた。
【0098】
(比較例2)(Pd/Cd系)
ベントナイト(KA−120、Sud Chemieから入手;かさ密度:540g/l)に基づく直径6mmの球状支持材料(100g)に、4.55gの酢酸カドミウム、5.34gの酢酸カリウム、5.17gの酢酸パラジウム、及び0.36gの酢酸マンガンを含む酢酸含有溶液60mlを含浸した。2時間後、この触媒を80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。製造が完了した触媒は、パラジウムを2.3重量%(12.4g/l)、カドミウムを1.8重量%(9.7g/l)、カリウムを2.0重量%(10.8g/l)、及びマンガンを0.07重量%(0.4g/l)の濃度で含有していた。
本発明によるこの触媒を、反応器中で上記の条件で試験したところ、92.8%のエテンの選択性で560g(VAM)/(lcat×h)(45g(VAM)/(gPd×h))の活性を達成することができた。形成される酢酸ビニル1kg当たり1.30gの酢酸エチルが形成されていた。
【0099】
(実施例9)(粉砕なしかつpH調節なしだがドーパントの添加を使用した支持材の製造)
2回蒸留水を1,155g、4リットルプラスチックビーカーに入れた。345gのパイロジェニック二酸化珪素(WACKER HDK(登録商標) T40)をプラスチック被覆溶解機を使用して1,000rpmでかき混ぜた。この混合物を、次に14m/sの周速度で40分間撹拌した。このスリップを2つのプラスチック被覆ビーム撹拌器を有する遊星混合機に移した。100rpmで混合しながら、8.5gの濃度1%のNH溶液を滴下した。この結果生じた塊のpHは、6.4であった。次に、45mgのNaSiOを添加した。添加が終了した後、混合物を更に5分間撹拌した。この混合物を次にラム押出機に導入した。サンプルの流動学的特性を並行して測定した:G′=320,000、G″=35,000。
この塊は、適切な工具を通してラム押出機上で押出されて望ましい形に成形され、そして成形体に望まれる長さに切断された。得られた成形体、この場合6mmの長さと、6mmの直径を有する環状物を、85℃の温度で24時間乾燥した。この成形体は、次に850℃で焼結された。本発明による成形体は、205m/gの表面積(BET表面積)及び0.75ml/gの細孔容積を有していた。この環状物の機械的強度は、45Nであった。かさ密度は370g/lであった。このようにして製造された成形体は、以下の不純物を含んでいた(全ての数値の単位はppm):Cu(0.03)、Fe(4)、Ti(0.05)、Al(1.1)、Ca(1.2)、Mg(0.3)、Na(49)、K(4)、Ni(0.5)、Cr(0.3)、P(0.06)、C及びSは、検出できなかった。
【0100】
(実施例10)
実施例9で製造したSiO支持材料(500g)に、27.60gの濃度41.8%(重量%)の四塩化金酸溶液及び42.20gの濃度20.8%(重量%)の四塩化パラジウム酸溶液を含む水溶液375mlを含浸した。2時間後、次の工程においてこの触媒を80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。蒸留水139mlと共に1モル炭酸ナトリウム溶液236mlを次に塗布した。2時間後、この触媒を80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。次にこの触媒を、0.25重量%のアンモニア含有量を有するアンモニア水溶液で45時間洗浄した。この触媒を、水素/窒素混合物(Nが95%/Hが5%)を用いて、200℃の温度で5時間還元した。次に触媒に、酢酸含有酢酸カリウム溶液(375mlの酢酸に71.65gの酢酸カリウムを溶解したもの)を含浸し、最後に80℃の温度で減圧下5時間乾燥した。製造が完了した触媒は、パラジウムを2.0重量%(7.4g/l)、金を2.0重量%(7.4g/l)、及びカリウムを6.5重量%(24.1g/l)の濃度で含有していた。
本発明によるこの触媒を、反応器中で上記の条件で試験したところ、92.4%のエテンの選択性で870g(VAM)/(lcat×h)(118g(VAM)/(gPd×h))の活性を達成することができた。形成される酢酸ビニル1kg当たり0.35gの酢酸エチルが形成されていた。
【0101】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン類の気相酸化のための触媒を製造する方法であって、
(I)少なくとも1つのパイロジェニック金属酸化物(pyrogenen Metalloxiden)を溶媒中に懸濁する工程と、
(II)分散装置及び湿式粉砕(Nassvermahlung)の少なくともいずれかによって微細粒子の懸濁液を製造することによって金属酸化物を活性状態に変換する工程と、
(III)前記懸濁液を凝固させペースト状の塊にする工程と、
(IV)前記凝固懸濁液を成形体に変換する工程と、
(V)前記成形体を乾燥する工程と、
(VI)得られる成形体をか焼(Kalzinierung)する工程と、
(VII)1つ以上の触媒活性化合物、又は次の工程において1つ以上の触媒活性化合物に変換できる1つ以上の前駆化合物及び1つ以上のプロモーター化合物の少なくともいずれかを塗布することによって、前記成形体を活性触媒に変換する工程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
パイロジェニック金属酸化物としてSi、Al、Ti、Zr、及びCeからなる群から選択される1つ以上の化合物を使用する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
パイロジェニック金属酸化物としてSiOを使用する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
溶媒として水を使用する請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
摩擦ミル(Reibmuhle)、環状ギャップミル(Ringspaltmuhle)、及び撹拌ボールミル(Ruehrwerjskugelmuhle)のいずれかで活性化を行う請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
溶解機、超音波分散機、及び遊星溶解機(Planetendissolver)からなる群から選択される1つ以上の分散装置によって活性化が行われる請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
溶媒に金属酸化物を前懸濁させる工程を省略し、前記金属酸化物の溶媒への添加を活性化工程の間に行う請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
懸濁液を0.5時間〜4時間の時間をかけて活性化する請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ミル粉砕メディア(Mahlwerkzeuge)として鋼鉄、ガラス、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、珪酸ジルコニウム、炭化珪素、及び窒化珪素でできたビーズからなる群から選択される1つ以上の補助手段を使用する請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前懸濁工程及び活性化工程の間のpHが2.0〜4.0の範囲にある請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
pHを塩酸、硝酸、アンモニア、及びアンモニア水溶液のいずれかで制御する請求項10に記載の方法。
【請求項12】
活性化金属酸化物懸濁液の固形成分含有量が5重量%〜40重量%である請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
pHの変更及び更なる1つ以上の金属酸化物の添加の中から選択される1つ以上の手段によって懸濁液の凝固が行われる請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
pHを4〜10の範囲の値に設定することによって活性化金属酸化物を含有する懸濁液の凝固を行う請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
1つ以上の金属酸化物を更に添加することによって活性化金属酸化物を含有する懸濁液の凝固を行う請求項1から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
pHの調節及び更なる金属酸化物の添加の少なくともいずれかが活性化懸濁液のレオロジー変化をもたらす請求項13から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
成形工程が押出、錠剤化、及びプレス成形からなる群から選択される1つ以上の手段によって行われる請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
成形体が環形、小粒形、円筒形、車輪形、及び球形のいずれかである請求項1から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
得られた成形体が25℃〜200℃の範囲の温度で乾燥させられる請求項1から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
酸素含有量を適宜変化させることができ更なる気体を空気に適宜添加することができる空気雰囲気下でか焼が行われる請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
か焼が500℃〜1,250℃の範囲の温度で行われる請求項1から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
形成された成形触媒体(Katalysatoformkoerper)が、30m/g〜500m/gの範囲のBET表面積を有する請求項1から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
1つ以上のプロモーター化合物の添加が、成形体の触媒への変換後の別の工程において行われる請求項1から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
1つ以上のプロモーター化合物と共に1つ以上の触媒活性化合物又は1つ以上の前駆化合物を1つの工程で塗布する代わりに、1つ以上のプロモーター化合物の塗布を1つ以上の触媒活性化合物の塗布又は1つ以上の前駆化合物の塗布に先行する又は続く工程において別に行う請求項1から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
成形体が、Pd/Au/アルカリ金属化合物、Pd/Cd/アルカリ金属化合物、及びPd/Ba/アルカリ金属化合物からなる群から選択される1つ以上の系で被覆される請求項1から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
上述の成分が、適切な順序では、Pd金属化合物、Au金属化合物、Cd金属化合物、及びBa金属化合物の内の少なくともいずれかの支持材上への含浸、スプレー、蒸着、ディッピング、及び沈殿からなる群から選択される1つ以上の処理、支持体に塗布した還元可能金属化合物の還元、存在する任意の塩化物を除去する洗浄、アルカリ金属酢酸塩化合物又はアルカリ金属化合物の含浸によって塗布される請求項25に記載の方法。
【請求項27】
アルカリ金属化合物としてカリウム化合物を使用する請求項26に記載の方法。
【請求項28】
いろいろな貴金属化合物の塗布が1つの工程又は複数の連続する工程で行われ、中間乾燥、か焼、及び還元からなる群から選択される1つ以上の工程が任意にこれらの工程の間で行われる請求項1から27のいずれかに記載の方法。
【請求項29】
支持材上に存在する任意の塩化物を貴金属化合物の還元の前及び後の少なくともいずれかで洗浄によって除去する請求項1から28のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
触媒の洗浄を水又は7を超えるpH値を有する塩基性水溶液によって行う請求項29に記載の方法。
【請求項31】
得られる触媒が、使用される支持材重量に基づいて、0.1重量%〜5.0重量%のパラジウム、0.2重量%〜3.5重量%の金、0.1重量%〜3.5重量%のカドミウム、0.1重量%〜3.5重量%のバリウム、及び0.5重量%〜15重量%のカリウムからなる群から選択される1つ以上の成分を含む請求項1から28のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
貴金属濃度が支持体内で一定である請求項1から31のいずれかに記載の方法。
【請求項33】
貴金属濃度が、到達可能な外表面から支持材の内部の方向に向かって減少する請求項1から32のいずれかに記載の方法。
【請求項34】
触媒中の全ての不純物の合計が400ppm未満である請求項1から33のいずれか
に記載の方法。
【請求項35】
請求項1から34のいずれかに記載の方法によって得ることができることを特徴とする触媒。
【請求項36】
成形体の不純物(他の全ての金属並びに炭素及びリン及び硫黄)の合計が400ppm未満である請求項35に記載の触媒。
【請求項37】
化学反応における触媒としての請求項35及び36のいずれかに記載の触媒の使用。
【請求項38】
オレフィン及び有機酸の少なくともいずれかから不飽和エステルを調製するための支持された触媒としての請求項35及び36のいずれかに記載の触媒の使用。
【請求項39】
酢酸ビニルモノマーの製造のための支持された触媒としての請求項35及び36のいずれかに記載の触媒の使用。
【請求項40】
オレフィンのアセトキシル化のための請求項35及び36のいずれかに記載の触媒の使用。

【公表番号】特表2010−512985(P2010−512985A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−540720(P2009−540720)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際出願番号】PCT/EP2007/063380
【国際公開番号】WO2008/071610
【国際公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】