説明

触媒インクの調製方法

【課題】1層のアイオノマ層のみで被覆される部分をほとんど有さず、2層のアイオノマ層で被覆されている電極触媒を効率良く製造することができる触媒インクを得る手段を提供する。
【解決手段】第1のイオン伝導体と触媒とを混合して第1のインクを調製し、前記第1のインクを濃縮し、濃縮した前記第1のインクに第2のイオン伝導体を添加することを有する、触媒インクの調製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒インクの調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池のコスト低減の観点から、より少ない触媒量で高い出力性能が得られる燃料電池が求められている。この解決手段の一つとして、その周囲に異なる2種のアイオノマを被覆した触媒成分を有する燃料電池が提案されている。これは、触媒成分とアイオノマとの接触面積を増大させることにより、導電性担体中の細孔内部に存在する触媒を有効に利用し、触媒の性能を十分に引き出し、高い出力性能を得るというものである。
【0003】
かような燃料電池として、例えば特許文献1では、導電性炭素粒子の近傍に単位素片のサイズが小さい第1の水素イオン伝導性高分子電解質を配置する。そして、その外側に、単位素片のサイズが大きい第2の水素イオン伝導性高分子電解質を配置した電極触媒を有する燃料電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−281305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の電極触媒は、次のような製造方法により製造される。まず、触媒金属を担持した導電性炭素粒子に第1の水素イオン伝導性高分子電解質を分散した第1の分散液を付着させ乾燥する第1の工程を行う。その後、触媒粒子を粉砕し、さらに前記触媒粒子を第2の水素イオン伝導性高分子電解質を分散した第2の分散液と混合して、触媒層用インクを調製する第2の工程を行う。さらに、前記触媒層用インクを高分子電解質膜または支持シートに塗布、乾燥して触媒層を形成する第3の工程を行うというものである。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の製造方法においては、第1の工程後に行う触媒粒子の粉砕により、触媒粒子の表面の一部において、第1の水素イオン伝導性高分子電解質の被覆が取り除かれてしまう。したがって、最終的に得られる触媒粒子は、目的とする2層のアイオノマ層が形成されず、1層のアイオノマ層(第2の水素イオン伝導性高分子電解質の層)のみで被覆される部分を有することになる。その結果、触媒の性能が十分に引き出されず、高い出力性能を有する燃料電池が得られないという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、1層のアイオノマ層のみで被覆される部分をほとんど有さず、2層のアイオノマ層で被覆されている電極触媒を効率良く製造することができる触媒インクを得る手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を積み重ねた。その結果、第1のイオン伝導体と触媒とを混合して第1のインクを調製した後、前記第1のインクを濃縮する工程を有する触媒インクの調製方法により上記目的が達成できることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
濃縮により、第1のイオン伝導体中の溶媒量が減り、第1のイオン伝導体が触媒に定着し、後述の第2のイオン伝導体の添加時に前記第1のイオン伝導体の再溶解が起こりにくくなる。したがって、第1のイオン伝導体の触媒成分からの離脱が生じ難くなり、第2のイオン伝導体を添加した後、2層のアイオノマ層を有する触媒を効率良く得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】触媒インクにより得られる電極触媒の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
燃料電池のコスト低減の観点から、より少ない触媒量で高い出力性能が得られる燃料電池が求められており、この解決手段の一つとして、その周囲に異なる2種のアイオノマを被覆した触媒成分を有する燃料電池が提案されている。これは、触媒成分とアイオノマとの接触面積を増大させることにより、導電性担体中の細孔内部に存在する触媒を有効に利用し、触媒の性能を十分に引き出し、高い出力性能を得るというものである。
【0012】
このような燃料電池として、例えば、上記特許文献1では、導電性炭素粒子の近傍に単位素片のサイズが小さい第1の水素イオン伝導性高分子電解質を配置する。その外側に、単位素片のサイズが大きい第2の水素イオン伝導性高分子電解質を配置した電極触媒を有する燃料電池が提案されている。
【0013】
上記特許文献1に記載の電極触媒は、以下のような製造方法により製造される。まず、触媒金属を担持した導電性炭素粒子に第1の水素イオン伝導性高分子電解質を分散した第1の分散液を付着させ乾燥する第1の工程を行う。その後、触媒粒子を粉砕し、さらに前記触媒粒子を第2の水素イオン伝導性高分子電解質を分散した第2の分散液と混合して、触媒層用インクを調製する第2の工程を行う。さらに、前記触媒層用インクを高分子電解質膜または支持シートに塗布、乾燥して触媒層を形成する第3の工程を行うというものである。
【0014】
しかしながら、特許文献1の製造方法においては、第1の工程後に行う触媒粒子の粉砕により、触媒粒子の表面の一部において、第1の水素イオン伝導性高分子電解質の被覆が取り除かれる。したがって、最終的に得られる触媒粒子は、目的とする2層のアイオノマ層が形成されず、1層のアイオノマ層(第2の水素イオン伝導性高分子電解質の層)のみで被覆される部分を有することになる。その結果、触媒の性能が十分に引き出されず、高い出力性能を有する燃料電池が得られないという問題があった。
【0015】
これに対し、以下で説明する触媒インクの調製方法においては、第1のイオン伝導体と触媒とを混合して第1のインクを調製した後、前記第1のインクを濃縮する。この濃縮により、第1のイオン伝導体中の溶媒量が減り、第1のイオン伝導体が触媒に定着し、後述の第2のイオン伝導体の添加時に前記第1のイオン伝導体の再溶解が起こりにくくなる。したがって、第1のイオン伝導体の触媒成分からの離脱が生じ難くなり、第2のイオン伝導体を添加した後、1層のアイオノマ層のみで被覆される部分をほとんど有さないか全く有さずに、2層のアイオノマ層で被覆されている触媒を効率良く得ることができる。
【0016】
以下、触媒インクの調製方法について、工程順にさらに詳細に説明する。
【0017】
[第1のインクの調製]
本工程では、第1のイオン伝導体および触媒を混合して、第1のインクを調製する。
【0018】
前記第1のイオン伝導体は、特に限定されるものではなく、アニオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマー、カチオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーのいずれも用いることができる。また、水およびガスの透過能を有するものであることが好ましい。
【0019】
アニオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アニオン(水酸化物イオン OH-)を移動させることのできる種々の樹脂を用いることができる。さらに具体的には、例えば、スチレン−ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム共重合体、N,N−ジアルキルアルキレンアンモニウム、ポリビニルベンジルトリアルキルアンモニウム(PVBTMA)、ポリビニルアルキルトリアルキルアンモニウム、アルキレン−ビニルアルキレントリアルキルアンモニウム共重合体等が挙げられる。その中でも、化学的安定性に優れるという理由から、スチレン−ビニルベンジルトリアルキルアンモニウム共重合体、PVBTMAを用いることが好ましい。
【0020】
カチオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーとしては、例えば、カチオン(水素イオン H+)を移動させることのできる種々の樹脂を用いることができる。さらに具体的には、例えば、スルホン酸樹脂、ホスホン酸樹脂、カルボン酸樹脂、イミド樹脂等が挙げられる。
【0021】
スルホン酸樹脂としては、例えば、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製)、アシプレックス(登録商標)(旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標)(旭硝子株式会社製)等として知られる四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテルスルホン酸共重合体、ポリスチレンスルホン酸、架橋ポリスチレンスルホン酸、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体−g−ポリスチレンスルホン酸、スルホン化ポリアリレーンエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリアリレーンエーテルスルホン、ポリトリフルオロスチレンスルホン酸、スルホン化ポリ(2,3−ジフェニル−1,4−フェニレンオキシド)樹脂、スルホン化ポリベンジルシラン樹脂、スルホン化ポリイミド樹脂、ポリビニルスルホン酸、スルホン化フェノール樹脂、スルホン化ポリアミド樹脂等を挙げることができる。
【0022】
ホスホン酸樹脂としては、例えば、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテルホスホン酸共重合体、ポリスチレンホスホン酸、架橋ポリスチレンホスホン酸、ポリビニルベンジルホスホン酸、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体−g−ポリスチレンホスホン酸、ホスホン酸化ポリアリレーンエーテルエーテルケトン、ホスホン酸化ポリアリレーンエーテルスルホン、ポリトリフルオロスチレンホスホン酸、ホスホン酸化ポリ(2,3−ジフェニル−1,4−フェニレンオキシド)樹脂、ホスホン酸化ポリベンジルシラン樹脂、ホスホン酸化ポリイミド樹脂、ポリビニルホスホン酸、ホスホン酸化フェノール樹脂、ホスホン酸化ポリアミド樹脂、ポリベンズイミダゾールりん酸複合樹脂等を挙げることができる。
【0023】
カルボン酸樹脂としては、例えば、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテルカルボン酸共重合体、ポリビニル安息香酸、架橋ポリビニル安息香酸、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体−g−ポリビニル安息香酸、カルボン酸化ポリアリレーンエーテルエーテルケトン、カルボン酸化ポリアリレーンエーテルスルホン、ポリトリフルオロスチレンカルボン酸、カルボン酸化ポリ(2,3−ジフェニル−1,4−フェニレンオキシド)樹脂、カルボン酸化ポリベンジルシラン樹脂、カルボン酸化ポリイミド樹脂等を挙げることができる。
【0024】
イミド樹脂としては、例えば、四フッ化エチレン−パーフルオロビニルエーテルスルホンイミド酸共重合体、ポリスチレントリフルオロメチルスルホンイミド等を挙げることができる。
【0025】
これらの中でも、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製)、アシプレックス(登録商標)(旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標)(旭硝子株式会社製)が好ましい。
【0026】
カチオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーは、電解質膜に用いる樹脂と同種であることが好ましい。電解質膜と同種の樹脂を燃料電池用電極に配置することで、燃料電池用電極と電解質膜との接合性が良好となり、特に水素イオンの伝導性が向上する。よって、カチオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーは、使用する電解質膜の種類を考慮して、適宜選択することが好ましい。
【0027】
次に、触媒成分について説明する。
【0028】
アノード側触媒層に用いられる触媒成分は、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、カソード側触媒層に用いられる触媒成分もまた、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。具体的には、白金、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、タングステン、鉛、鉄、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウム等の金属、およびそれらの合金等などから選択される。ただし、その他の材料が用いられてもよいことは勿論である。これらのうち、触媒活性、一酸化炭素等に対する耐被毒性、耐熱性などを向上させるために、少なくとも白金を含むものが好ましく用いられる。前記合金の組成は、合金化する金属の種類にもよるが、白金が30〜90原子%、合金化する金属が10〜70原子%とするのがよい。カソード側触媒として合金を使用する場合の合金の組成は、合金化する金属の種類などによって異なり、当業者が適宜選択できるが、白金が30〜90原子%、合金化する他の金属が10〜70原子%とすることが好ましい。なお、合金とは、一般に金属元素に1種以上の金属元素または非金属元素を加えたものであって、金属的性質をもっているものの総称である。合金の組織には、成分元素が別個の結晶となるいわば混合物である共晶合金、成分元素が完全に溶け合い固溶体となっているもの、成分元素が金属間化合物または金属と非金属との化合物を形成しているものなどがあり、本願ではいずれであってもよい。この際、アノード触媒層に用いられる触媒成分およびカソード触媒層に用いられる触媒成分は、上記の中から適宜選択できる。本明細書の説明では、特記しない限り、アノード触媒層およびカソード触媒層用の触媒成分についての説明は、両者について同様の定義であり、一括して、「触媒成分」と称する。しかしながら、アノード触媒層およびカソード触媒層の触媒成分は同一である必要はなく、上記したような所望の作用を奏するように、適宜選択される。
【0029】
触媒の形状や大きさは、特に制限されず公知の触媒と同様の形状および大きさが使用できるが、触媒は、粒状であることが好ましい。この際、触媒粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜30nm、より好ましくは1.5〜20nm、さらに好ましくは2〜10nm、特に好ましくは2〜5nmである。触媒粒子の平均粒子径がかような範囲内の値であると、電気化学反応が進行する有効電極面積に関連する触媒利用率と担持の簡便さとのバランスが適切に制御されうる。なお、本発明における「触媒粒子の平均粒子径」は、X線回折における触媒成分の回折ピークの半値幅より求められる結晶子径や、透過型電子顕微鏡像より調べられる触媒成分の粒子径の平均値として測定されうる。
【0030】
導電性担体は、上述した触媒成分を担持するための担体、および触媒成分との電子の授受に関与する電子伝導パスとして機能する。
【0031】
導電性担体としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電子伝導性を有しているものであればよく、主成分がカーボンである炭素系材料であることが好ましい。具体的には、カーボンブラック、黒鉛化処理したカーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンおよびカーボンフィブリル構造体などからなるカーボン粒子が挙げられる。なお、「主成分がカーボンである」とは、主成分として炭素原子を含むことをいい、炭素原子のみからなる、実質的に炭素原子からなる、の双方を含む概念である。場合によっては、燃料電池の特性を向上させるために、炭素原子以外の元素が含まれていてもよい。なお、「実質的に炭素原子からなる」とは、2〜3質量%程度以下の不純物の混入が許容されうることを意味する。
【0032】
導電性担体のBET窒素比表面積は、触媒成分を高分散担持させるのに充分な比表面積であればよいが、好ましくは20〜1600m2/g、より好ましくは80〜1200m2/gである。導電性担体の比表面積がかような範囲内の値であると、導電性担体上での触媒成分の分散性と触媒成分の有効利用率とのバランスが適切に制御されうる。
【0033】
導電性担体のサイズについても特に限定されないが、担持の簡便さ、触媒利用率、電極触媒層の厚みを適切な範囲で制御するなどの観点からは、平均粒子径を5〜200nm、好ましくは10〜100nm程度とするとよい。
【0034】
電極触媒において、触媒成分の担持量は、電極触媒の全量に対して、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。触媒成分の担持量がかような範囲内の値であると、導電性担体上での触媒成分の分散度と触媒性能とのバランスが適切に制御されうる。なお、触媒成分の担持量は、誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)によって測定されうる。
【0035】
また、担体への触媒成分の担持は公知の方法で行うことができる。例えば、含浸法、液相還元担持法、蒸発乾固法、コロイド吸着法、噴霧熱分解法、逆ミセル(マイクロエマルジョン法)などの公知の方法が使用できる。
【0036】
電極触媒は市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、田中貴金属工業株式会社製、エヌ・イー・ケムキャット株式会社製、E−TEK社製、ジョンソンマッセイ社製などの電極触媒が使用できる。これらの電極触媒は、カーボン担体に、白金や白金合金を担持(触媒種の担持濃度、20〜70質量%)したものである。上記において、カーボン担体としては、ケッチェンブラック、バルカン、アセチレンブラック、ブラックパール、予め高温で熱処理した黒鉛化処理カーボン担体(例えば、黒鉛化処理ケッチェンブラック)、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンファイバー、メソポーラスカーボンなどがある。
【0037】
本工程で用いられる装置の具体的な例としては、例えば、超音波粉砕機、ホモジナイザー、自転および公転ミキサー式シンキーミキサー(株式会社シンキー製)、薄膜旋回型高速ミキサー、スプレイドライヤー、ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル、サンドミルなどの公知の装置が挙げられる。これらの中でも、ボールミル、遊星ボールミル、ビーズミル、サンドミルを用いることが好ましい。
【0038】
これらの好ましい装置は、触媒および第1のイオン伝導体の混合と触媒の粉砕とが同時に行われる。混合と粉砕とが同時に行われることによって、触媒成分に第1のイオン伝導体が被覆されていない部位がほとんど生じないか、まったく生じることがなく、目的とする2層のアイオノマ層を有する触媒を効率良く得ることができる。
【0039】
前記触媒と前記第1のイオン伝導体とを混合する際に用いられる混合溶媒は、特に制限されない。例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、N,N'−ジメチルアセトアミド、N,N'−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の極性溶媒、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類などが挙げられる。これらは単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。これらの中でも作業環境等の観点から、水、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールの単独もしくは2種以上の溶媒の混合物が好ましい。
【0040】
前記触媒成分および前記第1のイオン伝導体の混合の順序は、特に制限されない。しかしながら、安全上の観点から、水または水を含む混合溶媒中に触媒成分を分散させた分散液を得た後に、第1のイオン伝導体または第1のイオン伝導体を水もしくは水を含む混合溶媒中に分散させた分散液を加えることが好ましい。
【0041】
混合時間は特に制限されないが、1〜240分であることが好ましい。混合温度も特に制限されないが、0〜50℃であることが好ましい。
【0042】
混合後、必要に応じて、ボール、ビーズ、などのメディアをインクに加え、解砕を行ってもよい。メディアによる解砕を行った後は、傾斜ろ過などにより、メディアをインクから分離し回収する。
【0043】
本工程で得られる第1のインクの固形分濃度(第1のイオン伝導体と触媒との合計)は、1〜35質量%であることが好ましく、3〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0044】
[第1のインクの濃縮]
本工程では、上記の混合工程で得られた第1のインクを濃縮する。これにより、第1のイオン伝導体中の溶媒量が減り、第1のイオン伝導体が触媒に定着し、後述の第2のイオン伝導体の添加時に前記第1のイオン伝導体の再溶解が起こりにくくなる。したがって、第1のイオン伝導体の触媒成分からの離脱が生じ難くなり、目的とする2層のアイオノマ層を有する触媒を効率良く得ることができる。
【0045】
ここで、本工程で行う濃縮とは、上記の混合工程で得られた第1のインク中の固形分濃度を、乾燥させることなく(固形分濃度を93質量%以上にすることなく)高くすることを意味する。さらに具体的には、濃縮後の第1のインクの固形分濃度が25〜90質量%となるように処理することが好ましい。このような固形分濃度の範囲であれば、第1のイオン伝導体の触媒への定着が十分に行われ、この後、触媒を溶媒に再分散させることによって行う触媒インクの調製が、より容易に行われる。固形分濃度が25質量%未満の場合、第1のイオン伝導体の触媒への定着が不十分となる場合がある。一方、固形分濃度が90質量%を超える場合、第2のイオン伝導体を含む分散液への再分散が難しくなり、第2のイオン伝導体が均一に被覆することができない場合がある。濃縮後の第1のインクの固形分濃度は、より好ましくは30〜50質量%、さらに好ましくは31〜38質量%である。
【0046】
濃縮の方法は特に制限されず、例えば、吸引ろ過、減圧留去、加熱留去、遠心分離、沈殿分離、透析分離など従来公知の方法が用いられる。また、濃縮の際に用いる装置も特に制限されず、例えば、吸引ろ過装置、ロータリーエバポレーター、遠心分離装置、透析装置など従来公知の装置が用いられる。
【0047】
[第2のイオン伝導体の添加]
本工程では、濃縮した前記第1のインクに第2のイオン伝導体を添加し、2層のアイオノマ層で被覆された触媒を含む触媒インクを得る。
【0048】
第2のイオン伝導体を添加する前に、濃縮した前記第1のインクを、前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の体積平均径および前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の面積平均径の少なくとも一方が、濃縮工程前の前記第1のインクと同じかまたは小さくなる条件下で攪拌することが好ましい。あるいは、第2のイオン伝導体を添加した後に、濃縮した前記第1のインクと前記第2のイオン伝導体とを、前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の体積平均径、および前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の面積平均径の少なくとも一方が、濃縮工程前の前記第1のインクと同じかまたは小さくなる条件下で攪拌することが好ましい。あるいは、第2のイオン伝導体と溶媒とを添加した後に、濃縮した前記第1のインクと前記第2のイオン伝導体とを、前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の体積平均径、および前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の面積平均径の少なくとも一方を濃縮工程前の前記第1インクと同じかまたは小さくなる条件下で攪拌することが好ましい。このような操作を行うことにより、第1のイオン伝導体が被覆されていない触媒表面が露出することを抑制しながら、濃縮により凝集した触媒の粒子径を凝集前の粒子径と同等か小さくすることができ、触媒に対する第1のイオン伝導体の被覆状態を一定に保つことができる。
【0049】
ここで、前記の「前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の体積平均径および前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の面積平均径の少なくとも一方が、濃縮する前の前記第1のインクと同じかまたは小さくなる条件下で攪拌する」とは、攪拌後の前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の体積平均径および前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の面積平均径の少なくとも一方が、上記の濃縮工程前の前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の体積平均径および前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の面積平均径の少なくとも一方と同じかまたは小さくなる条件下で攪拌することを意味する。より好ましくは、攪拌後の前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の体積平均径および前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の面積平均径の少なくとも一方が、濃縮工程前の前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の体積平均径および前記第1のイオン伝導体が被覆された触媒の粒子径の分布の面積平均径の少なくとも一方よりも小さくなることである。
【0050】
なお、本明細書において、上記濃縮工程前の触媒の粒子径の分布および上記攪拌工程後の触媒の粒子径の分布は、レーザー回折散乱法による同一型式の測定装置を用いて、同じ測定手順により求めた値を採用する。上記濃縮工程前の触媒インクと上記攪拌工程後の触媒インクとは、同じ溶媒を用いて同じ固形分濃度に希釈した触媒インクとするかまたは希釈しない触媒インクとしてもよい。上記溶媒は、水、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールの単独または2種以上の溶媒の混合物などを用いることができる。
【0051】
さらに、前記体積平均径は、体積で重みづけされた平均径のことであり、具体的には、下記数式1により算出された値を採用するものとする。
【0052】
【数1】

【0053】
さらに、前記面積平均径は、面積で重みづけされた平均径のことであり、具体的には、下記数式2により算出された値を採用するものとする。
【0054】
【数2】

【0055】
このような攪拌を行うより具体的な方法としては、例えば、まず、前記第1のインクを濃縮して得られた固形分に溶媒を添加し、その後、ホモジナイザー、薄膜旋回型高速ミキサーなどの装置を用いて攪拌(メディアレス攪拌)を行う方法が挙げられる。
【0056】
攪拌する前に添加する溶媒の種類は特に制限されないが、第1のイオン伝導体と第2のイオン伝導体との組み合わせによって、適宜選択することが好ましい。例えば、第1のイオン伝導体および第2のイオン伝導体が共にカチオン伝導性である場合の用いる溶媒の例としては、水、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールの単独または2種以上の溶媒の混合物などが挙げられる。例えば、第1のイオン伝導体がアニオン伝導性であり第2のイオン伝導体がカチオン伝導性である場合の用いる溶媒の例としては、水、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等の低級アルコールの単独もしくは2種以上の溶媒の混合物などが挙げられる。
【0057】
溶媒を添加する量は特に制限されないが、濃縮後の第1のインクの質量の300〜3000%であることが好ましい。
【0058】
攪拌時間は特に制限されないが、15〜30分であることが好ましい。また、攪拌中のインク温度も特に制限されないが、5〜15℃であることが好ましい。
【0059】
添加する前記第2のイオン伝導体としては、カチオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではないが、カチオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマーであることが好ましい。また、水およびガスの透過能を有するものであることが好ましい。さらに具体的な例は、上記[第1のインクの調製]の項で説明した通りであるので、ここでは説明を省略する。
【0060】
第2のイオン伝導体の添加量は、触媒担体の質量に対して10〜130質量%であることが好ましく、20〜90質量%であることがより好ましく、30〜60質量%であることがさらに好ましい。
【0061】
なお、第2のイオン伝導体または第2のイオン伝導体を水もしくは水を含む混合溶媒中に分散させた分散液の添加時、および前記第2のイオン伝導体または第2のイオン伝導体を水もしくは水を含む混合溶媒中に分散させた分散液を添加した後においては、必要に応じて攪拌を行ってもよい。この際の攪拌は、メディアレス攪拌であることが好ましい。メディアレス攪拌で用いる装置の例は上述と同様であるので、ここでは説明を省略する。この際の攪拌時間、攪拌温度は特に制限されず、一例を挙げれば、攪拌時間は5〜10分の範囲が好ましく、攪拌中のインク温度は5〜15℃の範囲が好ましい。
【0062】
上記メディアレス攪拌後、必要に応じて溶媒を追加添加してもよい。
【0063】
上記触媒インクの調製方法により得られた触媒インクを用いることにより、電極触媒を含む電極触媒層を得ることができる。この電極触媒を含む電極触媒層の製造は、従来公知の知見を適宜採用することができる。一例を挙げれば、触媒インクを、固体高分子電解質膜にスプレー法、転写法、ドクターブレード法、ダイコーター法などの従来公知の方法を用いて塗布し、乾燥する方法が挙げられる。
【0064】
触媒インクの塗布量は、電極触媒が電気化学反応を触媒する作用を十分発揮できる量であれば特に制限されないが、単位面積あたりの触媒成分の質量が0.05〜1mg/cm2となるように塗布することが好ましい。また、塗布する触媒インクの厚さは、乾燥後に5〜30μmとなるように塗布することが好ましい。なお、上記の触媒インクの塗布量および厚さは、アノード側およびカソード側で同じである必要はなく、適宜調整することができる。
【0065】
図1は、上記触媒インクにより得られる電極触媒の一例を示す概略図である。図1に示すように、電極触媒は、触媒粒子2を導電性担体4に担持して成る触媒成分と、該触媒成分を被覆するアニオン伝導性を有する第1のイオン伝導体6およびカチオン伝導性を有する第2のイオン伝導体8と、を含む電極材10を含有するものである。
【0066】
また、第1のイオン伝導体6が触媒粒子2を被覆するように配置されており、且つ第2のイオン伝導体8が第1のイオン伝導体6および導電性担体4の露出部分を被覆するように配置されている。
【0067】
さらに、上記電極触媒層を有する燃料電池も製造方法は特に制限されず、燃料電池の分野においての従来公知の知見を適宜参照することにより製造が可能である。
【0068】
燃料電池としては、高分子電解質型燃料電池、アルカリ型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池、マイクロ燃料電池などが挙げられ、上記電極触媒を含む電極触媒層はいずれの電池にも適用されうる。
【符号の説明】
【0069】
2 触媒粒子、
4 導電性担体、
6 第1のイオン伝導体、
8 第2のイオン伝導体、
10 電極材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のイオン伝導体と触媒とを混合して第1のインクを調製し、
前記第1のインクを濃縮し、
濃縮した前記第1のインクに第2のイオン伝導体を添加することを有する、触媒インクの調製方法。
【請求項2】
前記第1のインクの濃縮は、固形分濃度が25〜90質量%になるように行う、請求項1に記載の調製方法。
【請求項3】
前記第2のイオン伝導体を添加する前に、濃縮した前記第1のインクを、前記第1のイオン伝導体が被覆された前記触媒の粒子径の分布の体積平均径および前記第1のイオン伝導体が被覆された前記触媒の粒子径の分布の面積平均径の少なくとも一方を、濃縮工程前の前記第1のインクと同じかまたは小さくなる条件下で攪拌する、請求項1または2に記載の調製方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の調製方法により得られる触媒インクを用いる、電極触媒の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−69614(P2013−69614A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208709(P2011−208709)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】