説明

触媒体、その製造方法及び水素発生方法

【課題】 触媒体に例えば水素発生剤を接触させて水素を発生させる方法において、水素発生剤と接触する触媒体の表面積を大きくし、高い効率で触媒反応を進行させる。また水素発生剤と触媒体との触媒反応の安定化を図る。
【解決手段】 金属基材の表面にニッケル系合金を溶融一体化して被覆してなる触媒体を得る。このように金属基材の表面に触媒金属であるニッケル系合金を溶融一体化させることで、触媒金属の表面に細かい多くの亀裂が生じて表面が粗れ、このことにより水素発生剤と接触する触媒金属の表面積が大きくなるので、高い効率で水素発生剤を反応させることができる。また金属基板から触媒金属の剥離が起らないので、水素発生剤との触媒反応が長時間安定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水素発生用として用いられる触媒体、その製造方法及びこの触媒体を用いて水素を発生させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラヒドロホウ酸塩などの金属水素錯化合物を溶解したアルカリ水溶液から、触媒金属を用いて水素を発生させる方法は一般的に知られている。例えば特許文献1には、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)などの金属またはマグネシウム−ニッケル(Mg−Ni)系合金などの水素吸蔵合金あるいはこれらのフッ素化処理物を触媒金属として用い、これらの触媒金属を機械的に粉砕して粉体にしたものを金属水素錯化合物を溶解したアルカリ水溶液に浸漬させて水素を発生させる方法が提案されている。
【0003】
また、工業的に水素を連続で発生させる装置内では、一般に金属基材に触媒金属を担持させた触媒体に金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を通流させる方法が有用である。このように金属基材に触媒金属を担持させた触媒体は、例えば棒状、板状、円柱状、多孔質状、多孔質ブロック状、網状あるいは発泡体状などの所定形状を有する支持体である金属基材例えばニッケルなどの表面に、触媒金属例えば白金などを充填、塗布、焼付け、吹付け、メッキあるいは溶射などの方法により被覆して製造される(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
さらに、例えば特許文献3には、水素吸蔵合金の粉末を焼結して板状に成形し、これを水素発生用の触媒体として用いることが記載されている。
【0005】
このような背景の下で、本発明者は、金属水素錯化合物のアルカリ水溶液を接触させて水素を発生させるのに好適な水素吸蔵合金として、Mg2Niに注目し、研究を行ってきた。このMg2Niは、特許文献1では、粉体として用いられており、例えば網状の袋の中に、市販されているMg2Ni粉末を入れて、金属水素錯化合物のアルカリ水溶液が入った反応容器の中に浸漬させた場合、粉体の粒子の大きさが25〜45μmと小さいため、網状の袋から粉体が流出してしまうという問題がある。
【0006】
また、特許文献2では、金属基材であるニッケル発泡体の表面に充填、付着、メッキ及びCVDの方法により触媒金属であるMg2Niを被覆させた触媒体が記載あるいは示唆されているが、触媒体の表面では水素ガスの発生が極めて激しいため、充填、付着及びメッキの方法では、支持体である金属基材から触媒金属が剥離または脱落し易いという問題がある。特に付着及びメッキの方法では、金属基材のエッジ部分の金属被膜と金属基材との境で被膜表面より激しく水素発生が起るため、このことにより金属基材のエッジ部分の金属被膜がめくれ、一旦めくれが生じるとこのめくれ面の裏側でも水素発生が起り、剥離が進行することを確認している。また、CVD法も示唆されているが、当該触媒体を製造するための装置が大掛かりであり、それに加えてニッケル発泡体の多孔部分内部まで触媒金属を蒸着することができるのか疑問である。
【0007】
また、溶射法によりニッケル発泡体の表面に触媒金属であるMg2Niを被覆する場合には、Mg2Niを融点600℃以上に加熱しなければならないので、その表面が平滑化するため、金属水素錯化合物と接触する触媒金属の反応表面積が小さくなり、触媒活性が損なわれるという問題がある。
【0008】
また、特許文献3では、触媒金属であるMg2Niの粉末を焼結により板状に成形し、この板状のMg2Niを金属基材として使用する場合においても、やはりMg2Niの粉末を融点600℃以上に加熱しなければならず、その表面が平滑化するため同様な問題が生じる。
【0009】
また、触媒体の活性は金属水素錯化合物と接触する触媒金属の反応表面積によても決まってくるが、ニッケル発泡体自体は表面積がそれ程大きくないことから、大きな水素発生速度が得られないという課題もある。
【0010】
【特許文献1】特開2001−19401(請求項2、4、5、段落009、0010、0012、0013)
【特許文献2】特開2002−29702(請求項1、段落0009、0013、0017、0018、0024)
【特許文献3】特開2002−68701(請求項1、段落00014)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、表面積が大きく、且つ物理的に安定している例えば水素発生用の触媒として好適な触媒体を提供することにある。また、他の目的は、このような触媒体を製造する好適な方法を提供することにある。さらにまた、他の目的は、この触媒体が好適に用いられる水素発生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の触媒体は、金属基材の表面に、ニッケル系合金を溶融一体化して被覆してなることを特徴とする。前記ニッケル系合金は、ニッケル系水素吸蔵合金であることが好ましい。このニッケル水素吸蔵合金としては例えばMg2Ni合金、Mg2NiとMgとの共晶合金のようなMg2Ni系合金、ZrNi2系合金、ZrNi2系合金、LaNi5系合金が用いられるが、この中でもマグネシウム−ニッケル系水素吸蔵合金例えばMg2Niであることが好ましい。ここで金属基材の形状としては、例えば板状、棒状、ブロック状、円筒状、円柱状、円錐状、角柱状及びロッド状が用いられ、あるいは多孔質体(発泡体)をこれら形状に成形したものを用いてもよい。この金属基材は従来技術に記載されているような粉体を含むものではなく、その金属基材を例えば直径10mmの丸穴を通過させようとしたときに、どの方向に向けても通過できない、またはある方向に向けたときに通過できない場合があるものをいう。例えば金属基材を横に向けると前記丸穴を通過することができるが、縦に向けると通すことができない場合があるという意味である。さらにまた、金属基材1個の重量は取り扱いの容易さから0.6g以上のものが好ましい。また、前記金属基材としてはニッケル基材を用いてもよいし、それ以外の金属であってもよい。
【0013】
本発明の触媒体の製造方法は、ニッケル基材の表面にマグネシウムを被覆する工程と、次いで、前記ニッケル基材をMg2Niの共晶温度以上に加熱する工程と、を備えたことを特徴とする。このMg2Niを製造する他の方法としては、金属基材の表面に、ニッケルを溶融一体化して被覆する工程と、次いで、前記金属基材を被覆しているニッケルの表面に、マグネシウムを被覆する工程と、その後、Mg2Niの共晶温度以上に加熱する工程と、を備えた方法であってもよいし、金属基材の表面に、マグネシウムとニッケルとを被覆する工程と、次いで、Mg2Niの共晶温度以上に加熱する工程と、を備えた方法であってもよい。本発明の触媒体の好適な使用方法としては、例えば水素発生装置に適用して、金属水素錯化合物のアルカリ水溶液と接触させて水素ガスを発生させる方法を挙げることができる。この場合、金属水素錯化合物は、テトラヒドロホウ酸塩が好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明における触媒体によれば、金属基材の表面に触媒金属であるニッケル系合金を溶融一体化させることで、触媒金属の表面に細かい多くの亀裂が生じて表面が粗れ、このことにより触媒の表面積が大きくなるので、高い効率で触媒反応を進行させることができる。また、金属基材例えばニッケル基材から触媒金属の剥離が起らないあるいは起こり難いので、例えば金属水素錯化合物との触媒反応が長時間安定する。
【0015】
また、ニッケル系合金として例えばMg2Niを用いれば、ニッケルとマグネシウムとをMg2Niの共晶温度以上に加熱することにより当該触媒体が得られる。即ち、この方法によればMg2Niの融点まで加熱しなくも触媒が得られるのでMg2Niの粉体を融点以上まで加熱することで焼結体を得る場合に比べて大きな表面積が得られる。従って、この触媒体を水素発生装置に適用すれば、大きな水素の発生速度が得られ、制御し易く、また連続的な水素発生を安定して行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(第1の実施の形態)
本発明に係る触媒体の製造方法の第1の実施の形態について説明する。例えば
板状の金属基材であるニッケル基材の表面に平均粒径25μm以下のマグネシウム粉末を接着剤である例えばメチルセルロースと共にニッケル基材の表面に塗布して被覆し、加熱炉においてMg2Niの共晶温度506℃以上に加熱して、ニッケル基材とマグネシウム粉末とを融合し、合金化(溶融一体化)させてMg2Niを得る。この場合、共晶温度以上に加熱すればよいので必要以上に加熱する意味はなく、従ってこの加熱温度は当然にMg2Niの融点よりも低い温度である。なお、Mg2Niを生成した後、ニッケル基材の表面に未反応のマグネシウム粉末が多く残存する場合には、例えばサンドペーパーなどで削って除去してもよい。ニッケル金属の表面にマグネシウムを塗布して被覆する方法は、マグネシウムをニッケル基材の表面に溶射する方法を採用してもよいし、あるいは、マグネシウムをスパッタしてその粒子をニッケル基材の表面に沈着させる方法を採用してもよい。
【0017】
前記金属基材の形状としては、板状に限らず、棒状、ブロック状、円筒状、円柱状、円錐状、角柱状及びロッド状の金属基材を用いてもよいし、あるいは多孔質体(発泡体)をこれら形状に成形したものを用いてもよいが、触媒の流出を防止するためには、その重量が0.6g以上であることが好ましい。
【0018】
このような製造方法によれば、金属基材であるニッケル基材の表面に触媒金属であるMg2Niが生成される。
【0019】
このような実施の形態により製造された触媒体によれば、金属基材であるニッケル基材の表面に触媒金属であるMg2Niが溶融一体化しているので、ニッケル基材からMg2Niが剥離するおそれがない、従って例えば後述のように水素発生装置に適用した場合、水素錯化合物との触媒反応が長時間安定する。また、当該ニッケル基材をMg2Niの共晶温度506℃以上に加熱することで、Mg2Niの表面に細かい多くの亀裂が生じて表面が粗れ、またMg2Niの粉体を融点以上に加熱しなくてよいので、粗状表面の平滑化が避けられ、結果として表面積の大きな触媒体が得られる。
【0020】
また、この触媒体を例えば後述する水素発生装置に適用した場合、この触媒体は、金属基材であるニッケルそのものの表面に触媒金属であるMg2Niが溶融一体化して形成されているので、後述の実施例から裏付けされているように触媒金属の剥離及び脱落が実質起こり得ないことから触媒活性の低下が抑えられ、連続的な水素発生を安定に行うことができる。さらにまた、触媒体の形態の自由度が大きいことから適用箇所に応じた形態(例えば形状、大きさ)について適宜作成することができ、そのため反応装置の設計の自由度も大きくなり、取り扱いも便利になるといった効果もある。
【0021】
(第2の実施の形態)
本発明に係る触媒体の製造方法の第2の実施の形態について説明する。先ず、例えば板状の鉄からなる金属基材の表面にニッケル(Ni)粉末を接着剤である例えばメチルセルロースと共に金属基材の表面に塗布して被覆し、加熱炉においてニッケルの融点の温度まで加熱して、金属基材にニッケルを溶融一体化し、ニッケルで被覆された金属基材を得る。続いて、この金属基材の表面に例えば平均粒径25μm以下のマグネシウム(Mg)粉末を接着剤である例えばメチルセルロースと共にニッケルの表面に塗布して被覆し、加熱炉においてMg2Niの共晶温度506℃以上に加熱して、Mg2Ni合金を得る。なお、Mg2Niを生成した後、ニッケル基材の表面に未反応のマグネシウム粉末が多く残存する場合には、例えばサンドペーパーなどで削って除去してもよい。また、金属基材の表面にニッケル粉末を被覆させる方法あるいはニッケルの表面にマグネシウム粉末を被覆させる方法は、既述のように溶射法またはスッパッタリング法などを採用してもよい。
【0022】
前記金属基材としては、鉄(Fe)の他、コバルト(Co)、銅(Cu)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)及びジルコニウム(Zr)、あるいは、それらの合金などから選択して用いられる。また、ニッケル−鉄及びニッケル−コバルトなどのニッケル系合金を用いてもよい。なお、金属基材の形状としては、第1の実施の形態で述べた金属基材の形状を用いることができる。
【0023】
このような製造方法によっても、金属基材の表面に触媒金属であるMg2Niを溶融一体化して被覆してなる触媒体を得ることができる。
【0024】
このような実施の形態により製造された触媒体によれば、例えば板状の鉄からなる金属基材の表面にニッケルが溶融一体化し、そしてこのニッケルとマグネシウムとが合金化されているので、金属基材からMg2Niが剥離するおそれがなく、水素錯化合物との触媒反応が長時間安定する。また、Mg2Niの共晶温度506℃以上で加熱することによりMg2Niからなる触媒体が得られるので、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0025】
また、この実施の形態の製造方法の他の例として、先ず、例えば板状の鉄からなる金属基材の表面にマグネシウム(Mg)粉末を接着剤である例えばメチルセルロースと共に金属基材の表面に塗布して被覆し、加熱炉においてマグネシウムの融点の温度まで加熱して、金属基材にマグネシウムを溶融一体化し、マグネシウムで被覆された金属基材を得る。続いて、この金属基材の表面に例えば平均粒径25μm以下のニッケル(Ni)粉末を接着剤である例えばメチルセルロースと共にマグネシウムの表面に塗布して被覆し、加熱炉においてMg2Niの共晶温度506℃以上に加熱して、Mg2Ni合金を得る。このようにしても、金属基材の表面に上述と同様なMg2Niを形成させることができる。
【0026】
(第3の実施の形態)
本発明に係る触媒体の製造方法の第3の実施の形態について説明する。例えば板状の鉄からなる金属基材の表面に平均粒径25μm以下のニッケル粉末と平均粒径25μm以下のマグネシウム粉末とが1:2のモル比で混合されている混合粉を接着剤である例えばメチルセルロースと共に金属基材の表面に塗布して被覆し、加熱炉においてMg2Niの共晶温度506℃以上に加熱して、金属基材と混合粉とを融合し、合金化(溶融一体化)させる。ニッケル粉末とマグネシウム粉末との混合比が1:2のモル比から外れてニッケル又はマグネシウムのいずれかが過剰状態になると、ニッケル又はマグネシウムの単金属が生成したMg2Niに多数混在することになるため、結果的にMg2Ni触媒の触媒活性が劣る懸念があるため、前記混合比はできるだけ1:2に近づけることが好ましい。なお、金属基材としては、第2の実施の形態で述べた金属基材を用いることができ、金属基材の形状としては、第1の実施の形態で述べた金属基材の形状を用いることができる。
【0027】
このような製造方法によっても、金属基材の表面に触媒金属であるMg2Niを溶融一体化して被覆してなる触媒体を得ることができ、先の実施の形態と同様の効果が得られる。
【0028】
(触媒体の適用例)
次に、上述のようにして製造された触媒体を用いた水素発生装置の一例について図1を用いて簡単に説明する。図1は、水素発生装置の一例を示す平面図であって、この図において、水素発生剤は、原料貯蔵部1から調整バルブ2及び原料供給管3を経て、水素発生部4の中の配置された本発明の例えば板状の触媒体5の上端部51に供給される。ここで供給する水素発生剤としては、テトラヒドロホウ酸塩などの金属水素錯化合物を溶解したアルカリ水溶液が用いられる。例えば金属水素錯化合物である水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)をアルカリ水溶液である水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液に溶解したものが用いられる。この水素発生剤は通常ではアルカリ中で水素化ホウ素ナトリウムの性状が安定しているため水素ガスは発生せず、前記触媒体5に接触すると下記の(1)式に示すような化学反応を起こして水素ガスが発生する。
【0029】
NaBH4+2H2O→NaBO2+4H2……(1)
供給された水素発生剤は、触媒体5の両面に沿って流展し、薄膜を形成しながら流下し、触媒体5の下端部52に達し、この間に金属水素錯化合物は上記の(1)式に示した加水分解反応を行い、水素ガスを発生し、この水素ガスは水素ガス取出口6から外部に取り出される。また、金属水素錯化合物は、この間に酸化されて酸化物に変化し、この酸化物を含んだアルカリ水溶液は回収部7に捕集される。図中8は、原料貯蔵部1と水素発生部4とを連結するためのフランジであり、9は原料供給管3の支持用ロッド、91はその吊り具である。
【0030】
図2は、原料供給管3と板状の触媒体5との接触部分を示す部分側面図であり、支持用ロッド9に吊り具91を介して支持された原料供給管3の先端部の両側壁の間に触媒体5の上部が若干の隙間を保って挿入され、水素発生剤は、この隙間を通って触媒体5の両表面に流下するようになっている。
【0031】
前記触媒体5は、既述のように大きな表面積を確保することができるので、水素発生速度が大きくなると共に触媒金属の剥離及び脱落が実質起こり得ないことから触媒活性が低下することもなく、連続的な水素発生を安定に行うことができる。
【0032】
また、本発明の触媒体を用いた他の様態としては、所定量の金属水素錯化合物のアルカリ水溶液が入った反応容器に例えば板状の触媒体を所定の間隔を空けて複数枚並べ立てて設置し、この反応容器内において、金属水素錯化合物が触媒体に接触することで加水分解反応により水素ガスを発生させてもよい。このように触媒体を所定の間隔を空けて設けることにより、触媒体と触媒体との間に発生した水素ガスが抜け易くなる。
【実施例】
【0033】
次に本発明の効果を確認するために行った実験について述べる。
【0034】
A.実験例
〔触媒体の製造〕
(実施例1)
金属基材であるスポンジ状のニッケル発泡体(20mm×30mm)0.24gの表面に、粒径25μm以下のマグネシウム粉末0.19gを接着剤であるメチルセルロースと混合させて塗布し、被覆させた。このニッケル発泡体をアルゴン雰囲気下にある加熱炉において昇温速度5℃/minで660℃まで昇温させ、30分間の加熱により、表面のNiと被覆したMgとを合金化させた。その後、自然冷却して金属基材であるニッケル発泡体の表面にマグネシウムを溶融一体化して被覆し、Mg2Niからなる触媒体を得た。この触媒体を実施例1とする。
【0035】
(実施例2)
実施例1で得た触媒体を0.6重量%のHF液と0.06重量%のKF液との混合液に浸漬して、触媒体の表面をフッ化処理した。この触媒体を実施例2とする。
【0036】
(比較例1)
市販されている粒径25〜45μmのMg2Ni粉末2.0gを網状の袋の中に入れて触媒体とした。この触媒体を比較例1とする。
【0037】
(比較例2)
溶射基板:SUS304(45mm×75mm×2mm)の表面に、触媒金属である平均粒径75μm以下のMg2Niの溶射物を大気プラズマ方式により溶射温度600℃で、溶射基板に向けて溶射し、溶射基板の表面にMg2Niを被覆した触媒体を得た。この触媒体を比較例2とする。
【0038】
〔X線回折法による結晶構造解析〕
図3の(a)は、X線回折法により市販されているMg2Ni粉末(比較例1)の結晶構造を解析したものであり、縦軸にX線計数値(cps)を取り、横軸に波数(cm−1)を取り、この結晶構造の特徴をスペクトルとして表した特性図である。図3の(b)は、X線回折法により触媒体1の結晶構造を解析したものであり、縦軸にX線計数値(cps)を取り、横軸に波数(cm−1)を取り、この結晶構造の特徴をスペクトルとして表した特性図である。図3の(b)では、2000cm−1、4000cm−1及び7200cm−1に図3の(a)と同じピークを確認することができる。従って実施例1において、Ni発泡体の表面にMg2Niが生成していることが理解できる。
【0039】
〔水素発生及び比表面積〕
10重量%の水酸化ナトリウム水溶液90mlに10gの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を溶解して調整した水溶液50mlが入った3つの反応容器において、実施例1、実施例2及び比較例1の触媒体を各反応容器内に夫々浸漬させて、反応温度80℃で発生する水素発生速度を測定した。また実施例1、実施例2及び比較例1の触媒体の1g当りの物質の表面積の和である比表面積を、X線回折法から得た回折ピーク半値幅からScherrerの式を用いて各粒径を計算することで求めた。図4にその結果を示す。図4から分かるように、比較例1よりも実施例1の方が水素発生の能力が大きいことが理解できる。これは比表面積の結果から推測すると、実施例1の触媒体は、ニッケル発泡体の表面にMgが合金化されてMg2Niが形成されているので、Mg2Ni表面に細かい多くの亀裂が生じて表面が粗れ、このことによってMg2Ni粉末を用いる場合よりも大きな表面積を確保することができ、その結果、水溶液と接触する反応面積が大きくなり水素発生の能力が大きくなったと推察される。
【0040】
また、実施例2の水素発生速度の結果から、実施例1の触媒体をフッ化処理することで、さらに水素を発生させる能力を向上させることができる。これも実施例2の比表面積が大きくなっていることからフッ化処理することでMg2Niの表面がさらに粗れ、水溶液と接触する反応面積が大きくなり水素発生の能力がさらに大きくなったと推察される。また比較例2の触媒体を10重量%の水酸化ナトリウム水溶液90mlに10gの水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を溶解して調整した水溶液50mlが入った反応容器内に浸漬して、水素発生によるMg2Niの剥離及び脱落を目視により観測した。この結果、触媒体を投入して直ぐに水素発生反応を示した。数十分後、溶射基板のエッジ部分がめくれ上がるように剥離し始め、当該反応容器を一晩放置した後再び観察すると、溶射基板のエッジ部分が剥離していることを確認した。しかし中心部分は全くはがれる様子はなかった。このことから溶射基板のエッジ部分では溶射被膜の付着力が低下しているのではないかと推測される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る触媒体を実施するのに用いられる装置の一例を示す平面図である。
【図2】図1の原料供給管と例えば板状の触媒体との接触部分を示す部分側面図である。
【図3】X線回折法により各触媒体の結晶構造を解析した特性図である。
【図4】各触媒体の水素発生速度及び比表面積の結果を示した図である、
【符号の説明】
【0042】
1 原料貯蔵部
2 調節バルブ
3 原料供給管
4 水素発生部
5 触媒体
51 触媒体5の上端部
52 触媒体5の下端部
6 水素ガス取出口
7 回収部
8 フランジ
9 支持用ロッド
91 吊り具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面に、ニッケル系合金を溶融一体化して被覆してなることを特徴とする触媒体。
【請求項2】
前記ニッケル系合金は、ニッケル系水素吸蔵合金であることを特徴とする請求項1記載の触媒体。
【請求項3】
前記ニッケル系水素吸蔵合金は、マグネシウム−ニッケル系水素吸蔵合金であることを特徴とする請求項2記載の触媒体。
【請求項4】
前記マグネシウム−ニッケル系水素吸蔵合金は、Mg2Niであることを特徴とする請求項3記載の触媒体。
【請求項5】
金属基材は、ニッケル基材であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一に記載の触媒体。
【請求項6】
ニッケル基材の表面にマグネシウムを被覆する工程と、
次いで、前記ニッケル基材をMg2Niの共晶温度以上に加熱する工程と、を備えたことを特徴とする触媒体の製造方法。
【請求項7】
金属基材の表面に、ニッケルを溶融一体化して被覆する工程と、
次いで、前記金属基材を被覆しているニッケルの表面に、マグネシウムを被覆する工程と、
その後、Mg2Niの共晶温度以上に加熱する工程と、を備えたことを特徴とする触媒体の製造方法。
【請求項8】
金属基材の表面に、マグネシウムとニッケルとを被覆する工程と、
次いで、Mg2Niの共晶温度以上に加熱する工程と、を備えたことを特徴とする触媒体の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし5のいずれかに記載の触媒体を、金属水素錯化合物のアルカリ水溶液と接触させて水素ガスを発生させることを特徴とする水素発生方法。
【請求項10】
金属水素錯化合物は、テトラヒドロホウ酸塩であることを特徴とする請求項9記載の水素発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−820(P2006−820A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182747(P2004−182747)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(595155978)株式会社水素エネルギー研究所 (10)
【Fターム(参考)】