触媒及びその製造方法
【課題】反応の際の炭素の析出を抑制することができ、寿命が長い、触媒を提供する。
【解決手段】酸化物からなる担体1と、この担体1の表面上に形成された、遷移金属からなる触媒成分3と、担体1の表面上に形成された、アルカリ土類金属の酸化物4と、表面付近の担体1内に形成された、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層2とを含む触媒10を構成する。
【解決手段】酸化物からなる担体1と、この担体1の表面上に形成された、遷移金属からなる触媒成分3と、担体1の表面上に形成された、アルカリ土類金属の酸化物4と、表面付近の担体1内に形成された、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層2とを含む触媒10を構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスのガス化等の有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒及びその製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
有限な資源である化石燃料に代わる資源として、循環型エネルギー資源であるバイオマスが注目を集めている。
バイオマスの利用方法の1つとして、ガス化が挙げられる。
木材や家畜糞尿等のバイオマス(有機廃棄物)をガス化することにより、水素やメタン等の燃料ガスと、タールと、固体残渣(チャー)とが生成する。
【0003】
従来は、800℃以上、例えば1000℃〜1200℃の高温領域で、ガス化が行われていた。この場合、タールとしては、ベンゼンやナフタレン等の芳香族炭化水素が生成する。
【0004】
しかしながら、高温領域でガス化を行うためには、使用する熱処理炉に耐熱性が必要となるため、熱処理炉が高価になってしまう。また、ガス化して得られる燃料ガスの発熱量が小さいため、エネルギーの利用効率が低かった。
【0005】
そこで、触媒を使用することにより、500℃〜800℃でガス化を行うことが提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献2参照。)。
この場合、タールとしては、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素が生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−229548号公報
【特許文献2】特開2008−132458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載された方法では、触媒を構成する要素として、高価な金属であるセリウムを含むセリウム化合物が必須である。
前記特許文献2に記載された方法では、触媒を構成する要素として、高価な金属である白金を含む白金族化合物が必須である。
従って、いずれの方法も、コストや資源の面で問題がある。
【0008】
また、触媒を使用してガス化を行った場合には、ガス化の際に生じるタールによって、触媒の表面に炭素が析出することから、触媒が失活してしまう。
そのため、触媒の寿命が短くなるという問題がある。
【0009】
上述した問題の解決のために、本発明においては、反応の際の炭素の析出を抑制することができ、寿命が長い、触媒及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の触媒は、有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒成分を担体に担持させて成る触媒であって、酸化物からなる担体と、この担体の表面上に形成された、遷移金属からなる触媒成分と、担体の表面上に形成された、アルカリ土類金属の酸化物と、表面付近の担体内に形成された、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層とを含むものである。
【0011】
本発明の触媒の製造方法は、有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒成分を担体に担持させて成る触媒を製造する方法であって、酸化物からなる担体に、触媒成分の遷移金属を含む材料と、アルカリ土類金属を含む材料とを共に添加して、混合する工程と、混合物を700℃〜800℃で熱処理する工程と、その後、還元雰囲気中で熱処理して還元する工程とを含むものである。
【0012】
上述の本発明の触媒の構成によれば、担体の表面上に遷移金属からなる触媒成分が形成されていることにより、この触媒成分によって、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応を促進することができる。例えば、有機廃棄物をガス化して燃料ガスを生成させることができる。また、触媒成分の触媒作用によって、500℃〜700℃の低温領域でガス化を行うことが可能になる。
また、担体の表面上にアルカリ土類金属の酸化物が形成されていることにより、このアルカリ土類金属の酸化物を助触媒として作用させて、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際において触媒成分の遷移金属に炭素が析出し、触媒が失活することを抑制することができる。
また、表面付近の担体の内部に、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層が形成されていることにより、触媒の製造時や反応時等での熱処理で触媒成分の遷移金属が担体の内部に拡散することを抑制することができる。これにより、担体の表面の触媒成分の濃度を高く保つことができるため、充分な触媒活性が得られる。
【0013】
上述の本発明の触媒の製造方法によれば、酸化物からなる担体に、触媒成分の遷移金属を含む材料と、アルカリ土類金属を含む材料とを共に添加して、混合する工程と、混合物を700℃〜800℃で熱処理する工程(か焼工程)とにより、担体の表面上に、触媒成分の遷移金属の酸化物と、アルカリ土類金属の酸化物とが形成される。そして、アルカリ土類金属の酸化物が、酸化物からなる担体の内部に拡散して、表面付近の担体の内部に、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層が形成される。このバリア層によって、触媒成分の遷移金属が担体の内部に拡散することを抑制することができる。
また、その後の還元雰囲気中で熱処理して還元する工程(還元工程)によって、アルカリ土類金属の酸化物よりも遷移金属の酸化物が還元されやすいので、担体の表面に、触媒成分の遷移金属を金属の状態で形成することができる。これにより、担体の表面の触媒成分の濃度を高く保つことができるため、充分な触媒活性が得られる触媒を製造することができる。また、触媒の担体の表面に残ったアルカリ土類金属の酸化物により、このアルカリ土類金属の酸化物を助触媒として作用させて、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際において触媒成分の遷移金属に炭素が析出し、触媒が失活することを抑制することができる。
【0014】
上述の本発明の触媒及び本発明の触媒の製造方法において、さらに、触媒成分をニッケルとして、アルカリ土類金属をマグネシウムとすることができる。
これらの材料を使用することにより、高い触媒活性が得られると共に、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際における炭素の析出を少なくすることができる。また、低コストで触媒を製造することができ、安価な触媒を構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の触媒及びその製造方法によれば、500℃〜700℃の低温領域でガス化等の反応を行うことが可能になる。
そして、担体の表面にある触媒成分の遷移金属の濃度を高く保つことができるので、充分な触媒活性が得られる。
また、アルカリ土類金属の酸化物によって、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際において、触媒成分の遷移金属に炭素が析出して触媒が失活することを抑制することができるので、触媒の寿命を長くすることができる。
【0016】
従って、本発明により、低温領域でガス化等の反応を行うことができ、充分な触媒活性が得られると共に、寿命が長い触媒を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の触媒の一実施の形態の概略構成図である。
【図2】実施例及び比較例の各試料のXRD法の測定結果を示す図である。
【図3】図2の60度〜73度の部分を拡大した図である。
【図4】A〜D 実施例及び比較例の各試料のTEM像である。
【図5】実施例及び比較例の各試料のXPSによるNiの電子状態の測定結果である。
【図6】実施例及び比較例の各試料のXPSによるAlの電子状態の測定結果である。
【図7】実施例及び比較例の各試料のXPSによるOの電子状態の測定結果である。
【図8】実施例及び比較例の各試料のXPSによるMgの電子状態の測定結果である。
【図9】A〜C 比較例1の試料のか焼工程及び還元工程における状態の変化の模式図である。
【図10】A〜C 比較例2の試料のか焼工程及び還元工程における状態の変化の模式図である。
【図11】A〜D 比較例3の試料のか焼工程及び還元工程における状態の変化の模式図である。
【図12】A〜C 実施例1の試料のか焼工程及び還元工程における状態の変化の模式図である。
【図13】実施例1と比較例1の各試料に対してメタネーション反応を行ったときの温度とメタンの発生量との関係を示す図である。
【図14】実施例及び比較例の各試料の温度による質量の変化を示す図である。
【図15】A〜D 500℃の状態の実施例及び比較例の各試料のTEM像である。
【図16】A〜D 図15A〜図15DのTEM像をさらに倍率を上げたTEM像である。
【図17】A、B 炭素析出の際の比較例2の試料の触媒の状態の変化の模式図である。
【図18】A、B 炭素析出の際の比較例3の試料の触媒の状態の変化の模式図である。
【図19】A、B 炭素析出の際の実施例1の試料の触媒の状態の変化の模式図である。
【図20】Ni/Al2O3触媒にCa,Mg,Baをそれぞれ添加した場合と、無添加の場合とで、温度による質量の変化を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。
本発明の触媒においては、有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒成分を担体に担持させて成る触媒を、酸化物からなる担体と、この担体の表面上に形成された、遷移金属からなる触媒成分と、担体の表面上に形成された、アルカリ土類金属の酸化物と、表面付近の担体内に形成された、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層とを含んで構成する。
また、本発明の触媒の製造方法においては、酸化物からなる担体に、触媒成分の遷移金属を含む材料と、アルカリ土類金属を含む材料とを共に添加して、混合する工程と、混合物を700℃〜800℃で熱処理する工程(か焼工程)と、その後、還元雰囲気中で熱処理して還元する工程(還元工程)とを含んで、触媒を製造する。
【0019】
本発明の触媒において、酸化物からなる担体としては、アルミナ(Al2O3)やシリカ(SiO2)等を使用することができる。
アルミナとしては、γ−Al2O3が好適である。このγ−Al2O3は、比表面積が200m2/g程度であり、結晶構造が正方晶系(格子定数:a=7.95Å,c=7.79Å)であり、1200℃程度の熱処理でα−Al2O3に相転移する性質を有する。
【0020】
本発明の触媒において、遷移金属からなる触媒成分としては、Ni,Fe,Co等の遷移金属元素を1種又は2種以上使用することができる。特に、Niが好適である。触媒成分としてNiを使用することにより、高い触媒活性が得られ、また、安価な触媒を構成することができる。
【0021】
本発明の触媒において、アルカリ土類金属の酸化物としては、MgO,BaO,CaOを使用することができる。これらのうち、特にMgOを使用すると、500℃〜700℃の低温領域におけるガス化等の反応の際の炭素の析出を抑制する効果がより大きくなる。
【0022】
なお、本発明の触媒においては、上述した4つの成分(担体、触媒成分、アルカリ土類金属の酸化物、バリア層)以外の他の成分を含有していても構わない。他の成分の含有量は、触媒の活性を大きく低下させない範囲であれば良い。
【0023】
本発明の製造方法において使用する、触媒成分の遷移金属を含む材料及びアルカリ土類金属を含む材料としては、それぞれの金属を含む化合物を溶媒に溶解又は分散させたものを使用することができる。例えば、それぞれの金属塩の水溶液を使用することができる。
そして、酸化物からなる担体と、それぞれの金属を含む化合物を溶媒に溶解又は分散させたものとを混合した後に、好ましくは、乾燥や熱処理等により、溶媒を除去する。例えば、100℃で乾燥させて、水溶液の水分を除去する。
【0024】
本発明の触媒及び本発明の触媒の製造方法は、有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応の様々な反応に適用することができる。
例えば、有機廃棄物のガス化反応は、有機物の熱分解反応の1つとして挙げられる。
バイオマス(有機廃棄物)の低温領域におけるガス化反応は、500℃〜700℃で行われる。
本発明の触媒は、遷移金属からなる触媒成分を含むので、この低温領域においてガス化反応を行うことができる。
【0025】
本発明の触媒は、担体の表面上にアルカリ土類金属の酸化物が形成されている。これにより、このアルカリ土類金属の酸化物を助触媒として作用させて、有機廃棄物のガス化等の、有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の際において、触媒成分の遷移金属に炭素が析出して触媒が失活することを抑制することができる。
従って、触媒の寿命を長くすることができる。
【0026】
また、表面付近の担体の内部に、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層が形成されている。このバリア層によって、触媒の製造時や反応時等において、熱処理で触媒成分の遷移金属が担体の内部に拡散することを、抑制することができる。これにより、担体の表面の触媒成分の濃度を高く保つことができるため、充分な触媒活性が得られる。
【0027】
本発明の触媒の製造方法では、酸化物からなる担体に、触媒成分の遷移金属を含む材料と、アルカリ土類金属を含む材料とを共に添加して混合する。
このように、触媒成分の遷移金属とアルカリ土類金属とを同時に添加することにより、その後のか焼工程及び還元工程によって、前述した構成を有する本発明の触媒を製造することが可能になる。
即ち、か焼工程により、担体の表面上に、触媒成分の遷移金属の酸化物と、アルカリ土類金属の酸化物とが形成される。そして、アルカリ土類金属の酸化物が、酸化物からなる担体の内部に拡散して、表面付近の担体の内部に、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層が形成される。
また、その後の還元工程によって、アルカリ土類金属の酸化物よりも遷移金属の酸化物が還元されやすいので、担体の表面に、触媒成分の遷移金属を金属の状態で形成することができる。
【0028】
これに対して、触媒成分の遷移金属と、アルカリ土類金属とのうち、一方の金属を先に添加して、か焼工程を行ってから、他方の金属を添加して、か焼工程及び還元工程を行う製造方法も考えられる。この製造方法の場合、製造される触媒の構成が、本発明の触媒とは異なる。
例えば、触媒成分の遷移金属を先に添加して、か焼工程を行うと、触媒成分の遷移金属が担体の内部に拡散してしまうので、製造される触媒は、担体の表面の触媒成分の濃度が低くなり、その分触媒活性が低くなる。
例えば、アルカリ土類金属を先に添加して、か焼工程を行うと、アルカリ土類金属の酸化物が担体内に拡散してバリア層を形成するので、触媒成分の遷移金属が担体の内部に拡散することを抑制できる。しかしながら、製造される触媒において、担体の表面には触媒成分の遷移金属だけが形成されるので、ガス化等の有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応の際に、タールに起因して触媒成分の遷移金属に炭素が析出して、触媒が失活してしまう。
【0029】
ここで、市販されているNi/Al2O3触媒(Niを20質量%含有)を使用して、無添加の場合と、アルカリ土類金属のCa,Mg,Baのそれぞれを5質量%添加した場合とで、ガス化における炭素の析出挙動を調べた。
作製したそれぞれの試料について、n−ヘキサンと窒素の気流下で、0℃から1000℃まで10℃/分の昇温速度として、温度変化による質量の変化を調べた。
測定結果として、各試料の温度による質量の変化を、図20に示す。図20の縦軸は、0℃のときの質量を100%として、質量の変化分を%で示しており、100%で質量が2倍になったことを示している。
【0030】
図20より、無添加即ち無担持の試料では、500℃〜700℃の領域と、800℃〜1000℃の領域とのいずれにおいても、質量が増大しており、炭素が多く析出していると推測される。
Caを5質量%添加した試料では、500℃〜560℃付近と、870℃以上とにおいて、無担持の試料よりも若干質量増加が抑えられている。
Baを5質量%添加した試料では、500℃〜700℃の領域で、無担持の試料よりも質量増加が抑制されている。
Mgを5質量%添加した試料では、500℃〜700℃の領域で、無担持の試料よりも質量増加が抑制されており、Baを5質量%添加した試料よりもさらに抑制されている。
これらの結果から、3種類のアルカリ土類金属元素のうち、Mgを添加した場合に、500℃〜700℃の領域において最も炭素の析出が抑制されることがわかる。
【0031】
続いて、本発明の具体的な実施の形態を説明する。
本発明の触媒の一実施の形態の概略構成図を、図1に示す。
この触媒10は、有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒成分を担体に担持させたものであり、Al2O3からなる担体1と、担体1内の表面付近に形成されたMgAl2O4からなるバリア層2と、担体1の表面上に形成された触媒成分3であるNiと、担体1の表面上に形成されたアルカリ土類金属の酸化物4であるMgOとから構成されている。
MgAl2O4からなるバリア層2は、担体1の成分である酸化アルミニウムと、アルカリ土類金属の酸化物4の成分であるMg(アルカリ土類金属)とを含んでいる。
【0032】
本実施の形態の触媒10は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、Al2O3からなる担体1に、Niを含む化合物と、Mgを含む化合物とを、共に添加して、これらをよく混合する。
例えば、担体1としてγ−アルミナ(γ−Al2O3)の粉末を使用し、Niを含む化合物として硝酸ニッケル水溶液を使用し、Mgを含む化合物として硝酸マグネシウム水溶液を使用する。
その後、混合物を例えば100℃で乾燥させることにより、水分を除去する。
【0033】
次に、700℃〜800℃で熱処理することにより、か焼工程を行う。
これにより、硝酸塩水溶液からの二酸化窒素が除去されて、担体1の表面に、Ni及びMgがそれぞれ酸化物(NiO及びMgO)の状態で付着する。
さらに、担体1の表面に付着したMgOの一部が担体1の内部に拡散し、担体1と反応して、担体1内の表面付近にMgAl2O4からなるバリア層2が形成される。
【0034】
次に、水素雰囲気等の還元雰囲気で熱処理することにより、還元工程を行う。これにより、担体1の表面に付着したNiOが還元されて、触媒成分3である金属Niとなる。MgOは還元されないので、そのまま担体1上にアルカリ土類金属の酸化物(MgO)4として残る。
このようにして、図1に示した構成の触媒10を製造することができる。
【0035】
上述の本実施の形態の触媒10の構成によれば、担体1の表面上に形成されている触媒成分3のNiにより、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応を促進することができる。例えば、有機廃棄物をガス化して燃料ガスを生成させることができる。そして、この触媒成分3の触媒作用によって、500℃〜700℃の低温領域でガス化を行うことが可能になる。
また、担体1の表面上に形成されているアルカリ土類金属の酸化物4のMgOにより、このアルカリ土類金属の酸化物4を助触媒として作用させて、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際において触媒成分3のNiに炭素が析出し、触媒が失活することを抑制することができる。これにより、触媒10の寿命を長くすることができる。
また、担体1内の表面付近に形成されている、担体1の成分のAlとアルカリ土類金属の酸化物4の成分であるMgとを含む、MgAl2O4からなるバリア層2により、触媒10の製造時や反応時等での熱処理で触媒成分3のNiが担体1の内部に拡散することを抑制することができる。これにより、担体1の表面の触媒成分3の濃度を高く保つことができるため、充分な触媒活性が得られる。
【0036】
従って、本実施の形態の触媒10により、本発明により、低温領域でガス化を行うことができ、充分な触媒活性が得られると共に、寿命が長い触媒を実現することができる。
【0037】
また、上述した触媒10の製造方法によれば、担体1に、触媒成分3のNiを含む化合物と、アルカリ土類金属のMgを含む化合物とを共に添加して、これら混合した後に、700℃〜800℃で熱処理する、か焼工程を行っている。これにより、担体1の表面上に、触媒成分3のNiの酸化物(NiO)と、アルカリ土類金属のMgの酸化物(MgO)とが形成される。そして、MgOが、アルミナからなる担体1の内部に拡散して、表面付近の担体1の内部に、アルカリ土類金属のMgと担体1の成分のAlとを含有するバリア層2が形成される。このバリア層2によって、触媒成分3のNiが担体1の内部に拡散することを抑制することができる。
さらに、その後の還元工程によって、MgOよりもNiOの方が還元されやすいので、担体1の表面に、触媒成分3のNiを金属の状態で形成することができる。これにより、担体1の表面の触媒成分3の濃度を高く保つことができるため、充分な触媒活性が得られる触媒10を製造することができる。また、触媒10の担体1の表面に残ったMgOにより、このMgOを助触媒として作用させて、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際において触媒成分3のNiに炭素が析出することを抑制することができる。
【0038】
さらにまた、触媒成分3としてNiを使用し、アルカリ土類金属としてMgを使用していることにより、高い触媒活性が得られると共に、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際における炭素の析出を少なくすることができる。また、低コストで触媒を製造することができ、安価な触媒を構成することができる。
【0039】
上述の実施の形態では、Al2O3からなる担体1と、MgAl2O4からなるバリア層2と、触媒成分3であるNiと、アルカリ土類金属の酸化物4であるMgOとから触媒10が構成されていた。
本発明において、担体1とバリア層2と触媒成分3とアルカリ土類金属の酸化物4とは、これらの材料の組み合わせに限定されるものではなく、それぞれの材料として、先に説明した他の材料を使用することも可能である。
【実施例】
【0040】
続いて、実際に触媒を作製して、本発明の触媒の構成と、類似の他の触媒の構成とについて、特性等の比較を行った。
【0041】
(実施例1;Ni−Mg/Al2O3)
以下に説明するようにして、図1に示した構成の触媒10の試料を作製した。
まず、担体1のγ−Al2O3の粉末に、硝酸ニッケル水溶液及び硝酸マグネシウム水溶液を添加して、これらを混合した。添加する量は、Al2O3100質量%に対して、Niが20質量%、Mgが5質量%となるようにした。
次に、混合物を100℃で乾燥させることにより、溶媒を除去して、触媒前駆体を作製した。
次に、触媒前駆体を熱処理炉内に入れて、熱処理炉内で750℃まで10℃/分で昇温させて、750℃で1時間保持することにより、か焼工程を行った。
その後、室温まで冷却し、熱処理炉から取り出した。
次に、水素雰囲気とした熱処理炉内で、650℃まで20℃/分で昇温させて、650℃で1時間保持することにより、還元工程を行った。
その後、室温まで冷却し、熱処理炉から取り出した。
このようにして、触媒10の試料を作製して、実施例1の試料とした。
【0042】
(比較例1;Ni/Al2O3)
担体のγ−Al2O3の粉末に、硝酸ニッケル水溶液を添加して、これらを混合した。添加する量は、Al2O3100質量%に対して、Niが20質量%となるようにした。
その後、実施例1と同様にして、か焼工程と還元工程とを行い、触媒の試料を作製して、比較例1の試料とした。
【0043】
(比較例2;Mg/Ni/Al2O3)
担体のγ−Al2O3の粉末に、硝酸ニッケル水溶液を添加して、これらを混合した。添加する量は、Al2O3100質量%に対して、Niが20質量%となるようにした。
次に、熱処理炉内で、750℃まで10℃/分で昇温させて、1時間保持することにより、か焼工程を行った。
その後、室温まで冷却し、熱処理炉から取り出して、硝酸マグネシウム水溶液を添加して、混合した。添加する量は、最初の担体のAl2O3100質量%に対して、Mgが5質量%となるようにした。
次に、熱処理炉内で750℃まで10℃/分で昇温させて、1時間保持することにより、か焼工程を行った。
その後、実施例1と同様にして、還元工程を行い、触媒の試料を作製して、比較例2の試料とした。
【0044】
(比較例3;Ni/Mg/Al2O3)
担体のγ−Al2O3の粉末に、硝酸マグネシウム水溶液を添加して、これらを混合した。添加する量は、Al2O3100質量%に対して、Mgが5質量%となるようにした。
次に、熱処理炉内で750℃まで10℃/分で昇温させて、1時間保持することにより、か焼工程を行った。
その後、室温まで冷却し、熱処理炉から取り出して、硝酸ニッケル水溶液を添加して、混合した。添加する量は、最初の担体のAl2O3100質量%に対して、Niが20質量%となるようにした。
次に、熱処理炉内で、750℃まで10℃/分で昇温させて、1時間保持することにより、か焼工程を行った。
その後、実施例1と同様にして、還元工程を行い、触媒の試料を作製して、比較例3の試料とした。
【0045】
(比較例4;γ−Al2O3)
XRD(粉末X線回折)法による構造の比較を行うために、担体のγ−Al2O3に対して、か焼工程と同様の熱処理を行った試料を作製した。
担体のγ−Al2O3の粉末を、熱処理炉内で750℃まで10℃/分で昇温させて、1時間保持した。
その後、室温まで冷却し、熱処理炉から取り出して、比較例4の試料とした。
【0046】
(XRD測定)
まず、実施例1及び比較例1〜比較例4の各試料について、XRD(粉末X線回折)法により、測定を行った。
各試料の測定結果を上下に並べて、図2に示す。また、図2の2θ=60度〜73度の部分を拡大して、図3に示す。図2において、金属Niのピーク及びMgOのピークを、それぞれ破線と印で示している。
【0047】
図2及び図3に示すように、実施例1のNi−Mg/Al2O3では、MgOのピークが現れているが、他の試料では現れていない。
また、図3に示すように、比較例4のγ−Al2O3と比較して、他の例ではAl2O3のピークが低角側にシフトしている。このことから、これらの例では、複合酸化物であるNiAl2O4やMgAl2O4が形成されたことが推測できる(例えば、K. Y. Koo,J. Hydrogen Energy,33,(2008),2036や、Z. Xua,J. Catal.,A 210,(2001),45等の文献を参照)。
【0048】
図2の51度付近のNiのピークから、Niの結晶子径を求めることができる。このピークから求めた、各例のNiの結晶子径を、表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1の結果から、触媒の作製方法によって、Niの結晶子径の大きさが異なっていることがわかる。比較例1のNi/Al2O3と比較例2のMg/Ni/Al2O3は、8nm程度と小さくなっている。比較例3のNi/Mg/Al2O3と実施例1のNi−Mg/Al2O3は、11.8nm,10.0nmと大きくなっている。
【0051】
(TEM観察)
実施例1及び比較例1〜比較例3の各試料について、TEM(透過型電子顕微鏡)により状態を観察した。各試料のTEM像を、図4A〜図4Dに示す。図4Aは比較例1のNi/Al2O3であり、図4Bは比較例2のMg/Ni/Al2O3であり、図4Cは比較例3のNi/Mg/Al2O3であり、図4Dは実施例1のNi−Mg/Al2O3である。
【0052】
また、図4A〜図4Dの線で囲った部分において、金属粒子の粒径を調べた。
その結果、図4Aの比較例1のNi/Al2O3は8nm〜10nm、図4Bの比較例2のMg/Ni/Al2O3は8nm〜10nm、図4Cの比較例3のNi/Mg/Al2O3は10nm〜12nm、図4Dの実施例1のNi−Mg/Al2O3は8nm〜11nmであった。
比較例3のNi/Mg/Al2O3は、他の3つの試料よりも、凝集が進んでいた。また、金属粒子の粒径の結果は、XRDにより得られたNi結晶子の結果と、傾向が一致していた。
Niの分散性は、Niを担持させたときの担体の表面の状態によって異なると考えられる。即ち、比較例3の場合、Niを添加したときの担体の表面の状態が、他の試料とは異なることが推測される。
【0053】
(細孔特性)
次に、実施例1及び比較例1〜比較例4の各試料について、細孔特性を調べた。具体的には、BET法による比表面積SBETと、メソ孔容積Vmesoと、ミクロ孔容積Vmicroとを測定した。
測定結果を、表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2の結果から、3つの測定値とも、担体のみの状態から、Ni又はMgを添加することにより減少していることがわかる。
また、比較例1のNi/Al2O3と実施例1のNi−Mg/Al2O3は、比較例2のMg/Ni/Al2O3と比較例3のNi/Mg/Al2O3よりも、やや値が大きくなっている。このことから、担持されるNiやMgのうち、担体であるγ−Al2O3の細孔の内部に担持される割合が少なくなり、担体の表面に担持される割合が増えていると推測される。
【0056】
(EDS及びXPS測定)
実施例1及び比較例1〜比較例3の各試料について、EDS(エネルギー分散型X線分光法)による元素組成分析、XPS(X線光電子分光分析法)による各元素(Ni,Al,O,Mg)の電子状態の測定及び元素組成分析を、それぞれ行った。
各試料のXPSによる各元素の電子状態の測定結果を、図5〜図8に示す。図5はNi、図6はAl、図7はO、図8はMgの、各測定結果である。なお、図8では、Mgが入っていない比較例1は示していない。
また、EDSによる元素組成分析の測定結果を表3に示し、XPSによる元素組成分析の結果を表4に示す。表3は触媒全体の組成を示しており、表4は担体の表面付近の組成を示している。
【0057】
【表3】
【表4】
【0058】
図5〜図8より、実施例1のNi−Mg/Al2O3は、他の試料よりも、NiとMgのピークの強度が大きくなっている。
表3では、各例の組成に大きな差は見られない。Niの濃度に差がないので、担体に担持されたNiの濃度がほぼ同じ程度であることがわかる。
表4では、各例とも、表3の全体の組成と比較して、Ni及びAlが減って、O及びMgが増えている。また、比較例1のNi/Al2O3と比較例2のMg/Ni/Al2O3とが、表面のNiの量が他の例よりも少なくなっている。これらのことから、表面ではMgがMgOの状態で存在し、比較例1及び比較例2ではNiが表面から担体の内部に拡散していることが推測される。
【0059】
以上の結果を考慮して、実施例1及び比較例1〜比較例3について、か焼工程及び還元工程における状態の変化を推測して、以下に模式図として示す。
【0060】
まず、比較例1のNi/Al2O3の場合を、図9A〜図9Cに示す。
図9Aに示すように、か焼工程において、二酸化窒素が抜けて、NiがNiOの状態で担体のAl2O3の表面に付着し、この状態から図中矢印で示すようにNiが拡散していく。
そして、図9Bに示すように、担体のAl2O3の内部の表面付近に、NiAl2O4層が形成される。
さらに、還元工程では、図9Cに示すように、NiAl2O4層が還元されて、担体のAl2O3の表面に金属Niが析出する。
この場合、担体の表面の金属Niの濃度は低くなるので、その分触媒活性が低くなる。
【0061】
次に、比較例2のMg/Ni/Al2O3の場合を、図10A〜図10Cに示す。
図10Aに示すように、図9A及び図9Bに示したと同様に変化して、担体のAl2O3の内部の表面付近に、NiAl2O4層が形成される。
次に、Mgを添加してか焼工程を行うことにより、図10Bに示すように、MgがMgOの状態で担体の表面に付着する。
さらに、還元工程では、図10Cに示すように、NiAl2O4層が還元されて、担体のAl2O3の表面に金属Niが析出するが、Niの表面がMgOで被覆される。
この場合、MgOによってNiが被覆されるので、比較例1の場合よりもさらに表面の金属Niの濃度が低下する。
【0062】
次に、比較例3のNi/Mg/Al2O3の場合を、図11A〜図11Dに示す。
図11Aに示すように、か焼工程において、二酸化窒素が抜けて、MgがMgOの状態で担体のAl2O3の表面に付着し、この状態から図中矢印で示すようにMgが拡散していく。
そして、図11Bに示すように、担体のAl2O3の内部の表面付近に、MgAl2O4層(バリア層)が形成される。
次に、Niを添加してか焼工程を行うことにより、図11Cに示すように、NiがNiOの状態で担体の表面に付着する。
さらに、還元工程では、図11Dに示すように、担体の表面のNiOが還元されて、金属Niとなる。
この場合、担体の内部にNiが拡散していないので、表面の金属Niの濃度が高くなり、触媒活性が高くなる。
【0063】
次に、実施例1のNi−Mg/Al2O3の場合を、図12A〜図12Cに示す。
図12Aに示すように、か焼工程において、NiがNiOの状態で担体のAl2O3の表面に付着し、MgがMgOの状態で担体のAl2O3の表面に付着する。この状態から、図中矢印で示すようにMgが拡散していくが、Niは拡散しない。これは、Mgの方がNiよりも担体内に拡散しやすく、Mgが拡散することによりNiの拡散が抑制されるためである。
そして、図12Bに示すように、担体のAl2O3の内部の表面付近に、MgAl2O4層(バリア層)が形成される。
さらに、還元工程では、図12Cに示すように、担体の表面のNiOが還元されて、金属Niとなる。担体の表面のMgOは還元されないでMgOのままである。これはNiOの方がMgOよりも還元されやすいので、MgOの還元が抑制されるためである。
この場合、担体の内部にNiが拡散していないので、表面の金属Niの濃度が高くなり、触媒活性が高くなる。また、担体の表面にMgOが形成される。
なお、実際に、NiO+Al2O3→NiAl2O4、及び、MgO+Al2O3→MgAl2O4の各反応について、ギブス自由エネルギーの温度による変化を、計算によって求めた。その結果、か焼工程の温度領域(室温〜750℃)において、NiAl2O4よりもMgAl2O4の方が、ギブス自由エネルギーが大きい負の値を示した。このことから、NiOとMgOがAl2O3上に共に存在するとき、MgAl2O4の生成が、より自発的に起こりやすいと言える。
【0064】
(触媒活性の比較)
実施例1及び比較例1の触媒の試料を使用して、触媒活性の比較を行った。
まず、各試料を20mg採取して、キャリアガスをHeガスとして、水素流通下で、650℃まで10℃/分で昇温させた後に、650℃で30時間保持させた。
その後、100℃まで冷却して、100℃の状態で保持して安定化させた。
次に、メタネーション反応を行った。具体的には、体積比がHe:H2:CO=18:24:8で合計50mlとなるようにした混合ガス雰囲気中で、100℃から700℃まで10℃/分で昇温させた。
このときの反応は、以下の化学反応式で表わされる。
CO+3H2→CH4+H2O
即ち、一酸化炭素と水素との反応により、メタンと水が発生する。
【0065】
実施例1のNi−Mg/Al2O3と、比較例1のNi/Al2O3とについて、メタネーション反応における、温度とメタンCH4の発生量との関係を、図13に示す。図13の縦軸の発生量は任意単位である。
図13より、実施例1のNi−Mg/Al2O3は、比較例1のNi/Al2O3と比較して、同程度のメタンが発生しており、同程度の触媒活性を示している。
なお、表4より実施例1と比較例1とでは表面のNi濃度に違いがあったが、触媒活性が同程度であることから、表面のNi濃度と触媒活性とには相関が得られていないことがわかる。
【0066】
(炭素析出量の比較)
次に、実施例1及び比較例1〜比較例3の触媒の各試料を使用して、触媒への炭素の析出量を比較した。なお、触媒へ炭素を析出させる原因物質である、タールのモデル物質として、n−ヘキサンを用いた。
【0067】
TG(熱重量測定)装置の石英セルに、各試料を充填した。
また、n−ヘキサンを入れた容器を恒温槽内に入れて、窒素ガスボンベからの配管と弁を介して接続すると共に、リボンヒーターを通してTG装置に窒素ガスとn−ヘキサンガスとが供給されるように配管を接続した。
そして、恒温槽を33℃に保ち、n−ヘキサンが蒸気圧200mmHgとなるようにして、窒素ガスとn−ヘキサン蒸気とをTG装置に供給すると共に、カーテンガスとしてHeガスをTG装置に供給した。
この状態で、TG装置の加熱部によって、室温から10℃/分で昇温させながら、TG装置によって試料の質量を測定した。
【0068】
測定結果として、各試料の温度による質量の変化を、図14に示す。炭素の析出量が多いものほど、質量変化が大きくなる。
図14より、実施例1のNi−Mg/Al2O3は、比較例1のNi/Al2O3と比較して、質量変化が小さくなっており、4つの試料のうちで、最も質量変化が小さくなっている。即ち、炭素の析出量が最も抑制されていると考えられる。また、550℃までは質量増加が起こっておらず、優れた炭素析出抑制効果を示した。
一方、比較例3のNi/Mg/Al2O3は、質量変化が大きくなっており、炭素の析出量が多くなっていると考えられる。
比較例2のMg/Ni/Al2O3は、比較例1のNi/Al2O3と比較して、質量変化がやや小さくなっている。
【0069】
500℃の状態の各試料について、TEM像を観察した。各試料のTEM像を、図15A〜図15Dに示す。図15Aは比較例1のNi/Al2O3であり、図15Bは比較例2のMg/Ni/Al2O3であり、図15Cは比較例3のNi/Mg/Al2O3であり、図15Dは実施例1のNi−Mg/Al2O3である。
図15Cに示すように、比較例3のNi/Mg/Al2O3は、カーボンナノファイバーが形成されている。他の3つの試料では、カーボンナノファイバーの形成がほとんど見られない。
【0070】
さらに倍率を上げたTEM像を、図16A〜図16Dに示す。図16Aは比較例1のNi/Al2O3であり、図16Bは比較例2のMg/Ni/Al2O3であり、図16Cは比較例3のNi/Mg/Al2O3であり、図16Dは実施例1のNi−Mg/Al2O3である。
図16Cに示すように、比較例3のNi/Mg/Al2O3の試料では、ヘリングボーン構造のカーボンナノファイバーが形成されている。比較例1のNi/Al2O3及び比較例2のMg/Ni/Al2O3の各試料では、シェル構造が形成されている。これに対して、実施例1のNi−Mg/Al2O3の試料では、図14の質量変化において500℃では全く炭素析出が起こっていなかったのと同様に、TEM像においてもシェル構造が観察されず、炭素析出が起きていないと考えられる。
【0071】
これらの結果に基づいて、炭素析出の際の各試料の触媒の状態の変化を推測して、以下に模式図として示す。
比較例2のMg/Ni/Al2O3の場合を、図17A〜図17Bに示す。
図17Aに示すように、担体のAl2O3の表面のNiのうち、多くのNiがMgOで覆われている。この状態にn−ヘキサン(C6H14)の蒸気を加えると、図17Bに示すように、MgOに覆われていなかった金属Niの周囲だけにシェル構造が形成される。MgOがNiを被覆しているので、炭素の析出が少ない。
【0072】
次に、比較例3のNi/Mg/Al2O3の場合を、図18A〜図18Bに示す。
図18Aに示すように、担体のAl2O3の表面に、金属Niが露出している。この状態にn−ヘキサン(C6H14)の蒸気を加えると、図18Bに示すように、担体の表面にカーボンナノファイバーCNTが形成される。
【0073】
次に、実施例1のNi−Mg/Al2O3の場合を、図19A〜図19Bに示す。
図19Aに示すように、担体のAl2O3の表面に、金属NiとMgOとが付着している。この状態にn−ヘキサン(C6H14)の蒸気を加えると、図19Bに示すように、金属Niの周囲にシェル構造が形成されるが、MgOの存在によりシェル構造の形成が抑制される。
【0074】
以上の結果から、実施例1のNi−Mg/Al2O3、即ちNiとMgとを同時に添加した場合に、充分な触媒活性が得られると共に、炭素析出が抑制されることがわかる。
炭素析出の程度は、触媒の表面のNi濃度に依存するが、実施例1のNi−Mg/Al2O3は、表面のNi濃度が高いにもかかわらず、炭素析出が抑制されていた。この実施例1のNi−Mg/Al2O3では、MgOが形成されていることが確認でき、このMgOが助触媒として作用し、炭素析出が抑制されたと考えられる。
【0075】
実施例1のNi−Mg/Al2O3等の、本発明の触媒は、ガス化等の反応の際の炭素析出を抑制する触媒として有望である。
【0076】
本発明は、上述の実施の形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【符号の説明】
【0077】
1 担体、2 バリア層、3 触媒成分(遷移金属)、4 アルカリ土類金属の酸化物、10 触媒
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスのガス化等の有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒及びその製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
有限な資源である化石燃料に代わる資源として、循環型エネルギー資源であるバイオマスが注目を集めている。
バイオマスの利用方法の1つとして、ガス化が挙げられる。
木材や家畜糞尿等のバイオマス(有機廃棄物)をガス化することにより、水素やメタン等の燃料ガスと、タールと、固体残渣(チャー)とが生成する。
【0003】
従来は、800℃以上、例えば1000℃〜1200℃の高温領域で、ガス化が行われていた。この場合、タールとしては、ベンゼンやナフタレン等の芳香族炭化水素が生成する。
【0004】
しかしながら、高温領域でガス化を行うためには、使用する熱処理炉に耐熱性が必要となるため、熱処理炉が高価になってしまう。また、ガス化して得られる燃料ガスの発熱量が小さいため、エネルギーの利用効率が低かった。
【0005】
そこで、触媒を使用することにより、500℃〜800℃でガス化を行うことが提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献2参照。)。
この場合、タールとしては、n−ヘキサン等の脂肪族炭化水素が生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−229548号公報
【特許文献2】特開2008−132458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載された方法では、触媒を構成する要素として、高価な金属であるセリウムを含むセリウム化合物が必須である。
前記特許文献2に記載された方法では、触媒を構成する要素として、高価な金属である白金を含む白金族化合物が必須である。
従って、いずれの方法も、コストや資源の面で問題がある。
【0008】
また、触媒を使用してガス化を行った場合には、ガス化の際に生じるタールによって、触媒の表面に炭素が析出することから、触媒が失活してしまう。
そのため、触媒の寿命が短くなるという問題がある。
【0009】
上述した問題の解決のために、本発明においては、反応の際の炭素の析出を抑制することができ、寿命が長い、触媒及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の触媒は、有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒成分を担体に担持させて成る触媒であって、酸化物からなる担体と、この担体の表面上に形成された、遷移金属からなる触媒成分と、担体の表面上に形成された、アルカリ土類金属の酸化物と、表面付近の担体内に形成された、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層とを含むものである。
【0011】
本発明の触媒の製造方法は、有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒成分を担体に担持させて成る触媒を製造する方法であって、酸化物からなる担体に、触媒成分の遷移金属を含む材料と、アルカリ土類金属を含む材料とを共に添加して、混合する工程と、混合物を700℃〜800℃で熱処理する工程と、その後、還元雰囲気中で熱処理して還元する工程とを含むものである。
【0012】
上述の本発明の触媒の構成によれば、担体の表面上に遷移金属からなる触媒成分が形成されていることにより、この触媒成分によって、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応を促進することができる。例えば、有機廃棄物をガス化して燃料ガスを生成させることができる。また、触媒成分の触媒作用によって、500℃〜700℃の低温領域でガス化を行うことが可能になる。
また、担体の表面上にアルカリ土類金属の酸化物が形成されていることにより、このアルカリ土類金属の酸化物を助触媒として作用させて、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際において触媒成分の遷移金属に炭素が析出し、触媒が失活することを抑制することができる。
また、表面付近の担体の内部に、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層が形成されていることにより、触媒の製造時や反応時等での熱処理で触媒成分の遷移金属が担体の内部に拡散することを抑制することができる。これにより、担体の表面の触媒成分の濃度を高く保つことができるため、充分な触媒活性が得られる。
【0013】
上述の本発明の触媒の製造方法によれば、酸化物からなる担体に、触媒成分の遷移金属を含む材料と、アルカリ土類金属を含む材料とを共に添加して、混合する工程と、混合物を700℃〜800℃で熱処理する工程(か焼工程)とにより、担体の表面上に、触媒成分の遷移金属の酸化物と、アルカリ土類金属の酸化物とが形成される。そして、アルカリ土類金属の酸化物が、酸化物からなる担体の内部に拡散して、表面付近の担体の内部に、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層が形成される。このバリア層によって、触媒成分の遷移金属が担体の内部に拡散することを抑制することができる。
また、その後の還元雰囲気中で熱処理して還元する工程(還元工程)によって、アルカリ土類金属の酸化物よりも遷移金属の酸化物が還元されやすいので、担体の表面に、触媒成分の遷移金属を金属の状態で形成することができる。これにより、担体の表面の触媒成分の濃度を高く保つことができるため、充分な触媒活性が得られる触媒を製造することができる。また、触媒の担体の表面に残ったアルカリ土類金属の酸化物により、このアルカリ土類金属の酸化物を助触媒として作用させて、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際において触媒成分の遷移金属に炭素が析出し、触媒が失活することを抑制することができる。
【0014】
上述の本発明の触媒及び本発明の触媒の製造方法において、さらに、触媒成分をニッケルとして、アルカリ土類金属をマグネシウムとすることができる。
これらの材料を使用することにより、高い触媒活性が得られると共に、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際における炭素の析出を少なくすることができる。また、低コストで触媒を製造することができ、安価な触媒を構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の触媒及びその製造方法によれば、500℃〜700℃の低温領域でガス化等の反応を行うことが可能になる。
そして、担体の表面にある触媒成分の遷移金属の濃度を高く保つことができるので、充分な触媒活性が得られる。
また、アルカリ土類金属の酸化物によって、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際において、触媒成分の遷移金属に炭素が析出して触媒が失活することを抑制することができるので、触媒の寿命を長くすることができる。
【0016】
従って、本発明により、低温領域でガス化等の反応を行うことができ、充分な触媒活性が得られると共に、寿命が長い触媒を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の触媒の一実施の形態の概略構成図である。
【図2】実施例及び比較例の各試料のXRD法の測定結果を示す図である。
【図3】図2の60度〜73度の部分を拡大した図である。
【図4】A〜D 実施例及び比較例の各試料のTEM像である。
【図5】実施例及び比較例の各試料のXPSによるNiの電子状態の測定結果である。
【図6】実施例及び比較例の各試料のXPSによるAlの電子状態の測定結果である。
【図7】実施例及び比較例の各試料のXPSによるOの電子状態の測定結果である。
【図8】実施例及び比較例の各試料のXPSによるMgの電子状態の測定結果である。
【図9】A〜C 比較例1の試料のか焼工程及び還元工程における状態の変化の模式図である。
【図10】A〜C 比較例2の試料のか焼工程及び還元工程における状態の変化の模式図である。
【図11】A〜D 比較例3の試料のか焼工程及び還元工程における状態の変化の模式図である。
【図12】A〜C 実施例1の試料のか焼工程及び還元工程における状態の変化の模式図である。
【図13】実施例1と比較例1の各試料に対してメタネーション反応を行ったときの温度とメタンの発生量との関係を示す図である。
【図14】実施例及び比較例の各試料の温度による質量の変化を示す図である。
【図15】A〜D 500℃の状態の実施例及び比較例の各試料のTEM像である。
【図16】A〜D 図15A〜図15DのTEM像をさらに倍率を上げたTEM像である。
【図17】A、B 炭素析出の際の比較例2の試料の触媒の状態の変化の模式図である。
【図18】A、B 炭素析出の際の比較例3の試料の触媒の状態の変化の模式図である。
【図19】A、B 炭素析出の際の実施例1の試料の触媒の状態の変化の模式図である。
【図20】Ni/Al2O3触媒にCa,Mg,Baをそれぞれ添加した場合と、無添加の場合とで、温度による質量の変化を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明の具体的な実施の形態の説明に先立ち、本発明の概要について説明する。
本発明の触媒においては、有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒成分を担体に担持させて成る触媒を、酸化物からなる担体と、この担体の表面上に形成された、遷移金属からなる触媒成分と、担体の表面上に形成された、アルカリ土類金属の酸化物と、表面付近の担体内に形成された、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層とを含んで構成する。
また、本発明の触媒の製造方法においては、酸化物からなる担体に、触媒成分の遷移金属を含む材料と、アルカリ土類金属を含む材料とを共に添加して、混合する工程と、混合物を700℃〜800℃で熱処理する工程(か焼工程)と、その後、還元雰囲気中で熱処理して還元する工程(還元工程)とを含んで、触媒を製造する。
【0019】
本発明の触媒において、酸化物からなる担体としては、アルミナ(Al2O3)やシリカ(SiO2)等を使用することができる。
アルミナとしては、γ−Al2O3が好適である。このγ−Al2O3は、比表面積が200m2/g程度であり、結晶構造が正方晶系(格子定数:a=7.95Å,c=7.79Å)であり、1200℃程度の熱処理でα−Al2O3に相転移する性質を有する。
【0020】
本発明の触媒において、遷移金属からなる触媒成分としては、Ni,Fe,Co等の遷移金属元素を1種又は2種以上使用することができる。特に、Niが好適である。触媒成分としてNiを使用することにより、高い触媒活性が得られ、また、安価な触媒を構成することができる。
【0021】
本発明の触媒において、アルカリ土類金属の酸化物としては、MgO,BaO,CaOを使用することができる。これらのうち、特にMgOを使用すると、500℃〜700℃の低温領域におけるガス化等の反応の際の炭素の析出を抑制する効果がより大きくなる。
【0022】
なお、本発明の触媒においては、上述した4つの成分(担体、触媒成分、アルカリ土類金属の酸化物、バリア層)以外の他の成分を含有していても構わない。他の成分の含有量は、触媒の活性を大きく低下させない範囲であれば良い。
【0023】
本発明の製造方法において使用する、触媒成分の遷移金属を含む材料及びアルカリ土類金属を含む材料としては、それぞれの金属を含む化合物を溶媒に溶解又は分散させたものを使用することができる。例えば、それぞれの金属塩の水溶液を使用することができる。
そして、酸化物からなる担体と、それぞれの金属を含む化合物を溶媒に溶解又は分散させたものとを混合した後に、好ましくは、乾燥や熱処理等により、溶媒を除去する。例えば、100℃で乾燥させて、水溶液の水分を除去する。
【0024】
本発明の触媒及び本発明の触媒の製造方法は、有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応の様々な反応に適用することができる。
例えば、有機廃棄物のガス化反応は、有機物の熱分解反応の1つとして挙げられる。
バイオマス(有機廃棄物)の低温領域におけるガス化反応は、500℃〜700℃で行われる。
本発明の触媒は、遷移金属からなる触媒成分を含むので、この低温領域においてガス化反応を行うことができる。
【0025】
本発明の触媒は、担体の表面上にアルカリ土類金属の酸化物が形成されている。これにより、このアルカリ土類金属の酸化物を助触媒として作用させて、有機廃棄物のガス化等の、有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の際において、触媒成分の遷移金属に炭素が析出して触媒が失活することを抑制することができる。
従って、触媒の寿命を長くすることができる。
【0026】
また、表面付近の担体の内部に、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層が形成されている。このバリア層によって、触媒の製造時や反応時等において、熱処理で触媒成分の遷移金属が担体の内部に拡散することを、抑制することができる。これにより、担体の表面の触媒成分の濃度を高く保つことができるため、充分な触媒活性が得られる。
【0027】
本発明の触媒の製造方法では、酸化物からなる担体に、触媒成分の遷移金属を含む材料と、アルカリ土類金属を含む材料とを共に添加して混合する。
このように、触媒成分の遷移金属とアルカリ土類金属とを同時に添加することにより、その後のか焼工程及び還元工程によって、前述した構成を有する本発明の触媒を製造することが可能になる。
即ち、か焼工程により、担体の表面上に、触媒成分の遷移金属の酸化物と、アルカリ土類金属の酸化物とが形成される。そして、アルカリ土類金属の酸化物が、酸化物からなる担体の内部に拡散して、表面付近の担体の内部に、アルカリ土類金属と担体の成分とを含有するバリア層が形成される。
また、その後の還元工程によって、アルカリ土類金属の酸化物よりも遷移金属の酸化物が還元されやすいので、担体の表面に、触媒成分の遷移金属を金属の状態で形成することができる。
【0028】
これに対して、触媒成分の遷移金属と、アルカリ土類金属とのうち、一方の金属を先に添加して、か焼工程を行ってから、他方の金属を添加して、か焼工程及び還元工程を行う製造方法も考えられる。この製造方法の場合、製造される触媒の構成が、本発明の触媒とは異なる。
例えば、触媒成分の遷移金属を先に添加して、か焼工程を行うと、触媒成分の遷移金属が担体の内部に拡散してしまうので、製造される触媒は、担体の表面の触媒成分の濃度が低くなり、その分触媒活性が低くなる。
例えば、アルカリ土類金属を先に添加して、か焼工程を行うと、アルカリ土類金属の酸化物が担体内に拡散してバリア層を形成するので、触媒成分の遷移金属が担体の内部に拡散することを抑制できる。しかしながら、製造される触媒において、担体の表面には触媒成分の遷移金属だけが形成されるので、ガス化等の有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応の際に、タールに起因して触媒成分の遷移金属に炭素が析出して、触媒が失活してしまう。
【0029】
ここで、市販されているNi/Al2O3触媒(Niを20質量%含有)を使用して、無添加の場合と、アルカリ土類金属のCa,Mg,Baのそれぞれを5質量%添加した場合とで、ガス化における炭素の析出挙動を調べた。
作製したそれぞれの試料について、n−ヘキサンと窒素の気流下で、0℃から1000℃まで10℃/分の昇温速度として、温度変化による質量の変化を調べた。
測定結果として、各試料の温度による質量の変化を、図20に示す。図20の縦軸は、0℃のときの質量を100%として、質量の変化分を%で示しており、100%で質量が2倍になったことを示している。
【0030】
図20より、無添加即ち無担持の試料では、500℃〜700℃の領域と、800℃〜1000℃の領域とのいずれにおいても、質量が増大しており、炭素が多く析出していると推測される。
Caを5質量%添加した試料では、500℃〜560℃付近と、870℃以上とにおいて、無担持の試料よりも若干質量増加が抑えられている。
Baを5質量%添加した試料では、500℃〜700℃の領域で、無担持の試料よりも質量増加が抑制されている。
Mgを5質量%添加した試料では、500℃〜700℃の領域で、無担持の試料よりも質量増加が抑制されており、Baを5質量%添加した試料よりもさらに抑制されている。
これらの結果から、3種類のアルカリ土類金属元素のうち、Mgを添加した場合に、500℃〜700℃の領域において最も炭素の析出が抑制されることがわかる。
【0031】
続いて、本発明の具体的な実施の形態を説明する。
本発明の触媒の一実施の形態の概略構成図を、図1に示す。
この触媒10は、有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒成分を担体に担持させたものであり、Al2O3からなる担体1と、担体1内の表面付近に形成されたMgAl2O4からなるバリア層2と、担体1の表面上に形成された触媒成分3であるNiと、担体1の表面上に形成されたアルカリ土類金属の酸化物4であるMgOとから構成されている。
MgAl2O4からなるバリア層2は、担体1の成分である酸化アルミニウムと、アルカリ土類金属の酸化物4の成分であるMg(アルカリ土類金属)とを含んでいる。
【0032】
本実施の形態の触媒10は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、Al2O3からなる担体1に、Niを含む化合物と、Mgを含む化合物とを、共に添加して、これらをよく混合する。
例えば、担体1としてγ−アルミナ(γ−Al2O3)の粉末を使用し、Niを含む化合物として硝酸ニッケル水溶液を使用し、Mgを含む化合物として硝酸マグネシウム水溶液を使用する。
その後、混合物を例えば100℃で乾燥させることにより、水分を除去する。
【0033】
次に、700℃〜800℃で熱処理することにより、か焼工程を行う。
これにより、硝酸塩水溶液からの二酸化窒素が除去されて、担体1の表面に、Ni及びMgがそれぞれ酸化物(NiO及びMgO)の状態で付着する。
さらに、担体1の表面に付着したMgOの一部が担体1の内部に拡散し、担体1と反応して、担体1内の表面付近にMgAl2O4からなるバリア層2が形成される。
【0034】
次に、水素雰囲気等の還元雰囲気で熱処理することにより、還元工程を行う。これにより、担体1の表面に付着したNiOが還元されて、触媒成分3である金属Niとなる。MgOは還元されないので、そのまま担体1上にアルカリ土類金属の酸化物(MgO)4として残る。
このようにして、図1に示した構成の触媒10を製造することができる。
【0035】
上述の本実施の形態の触媒10の構成によれば、担体1の表面上に形成されている触媒成分3のNiにより、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応を促進することができる。例えば、有機廃棄物をガス化して燃料ガスを生成させることができる。そして、この触媒成分3の触媒作用によって、500℃〜700℃の低温領域でガス化を行うことが可能になる。
また、担体1の表面上に形成されているアルカリ土類金属の酸化物4のMgOにより、このアルカリ土類金属の酸化物4を助触媒として作用させて、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際において触媒成分3のNiに炭素が析出し、触媒が失活することを抑制することができる。これにより、触媒10の寿命を長くすることができる。
また、担体1内の表面付近に形成されている、担体1の成分のAlとアルカリ土類金属の酸化物4の成分であるMgとを含む、MgAl2O4からなるバリア層2により、触媒10の製造時や反応時等での熱処理で触媒成分3のNiが担体1の内部に拡散することを抑制することができる。これにより、担体1の表面の触媒成分3の濃度を高く保つことができるため、充分な触媒活性が得られる。
【0036】
従って、本実施の形態の触媒10により、本発明により、低温領域でガス化を行うことができ、充分な触媒活性が得られると共に、寿命が長い触媒を実現することができる。
【0037】
また、上述した触媒10の製造方法によれば、担体1に、触媒成分3のNiを含む化合物と、アルカリ土類金属のMgを含む化合物とを共に添加して、これら混合した後に、700℃〜800℃で熱処理する、か焼工程を行っている。これにより、担体1の表面上に、触媒成分3のNiの酸化物(NiO)と、アルカリ土類金属のMgの酸化物(MgO)とが形成される。そして、MgOが、アルミナからなる担体1の内部に拡散して、表面付近の担体1の内部に、アルカリ土類金属のMgと担体1の成分のAlとを含有するバリア層2が形成される。このバリア層2によって、触媒成分3のNiが担体1の内部に拡散することを抑制することができる。
さらに、その後の還元工程によって、MgOよりもNiOの方が還元されやすいので、担体1の表面に、触媒成分3のNiを金属の状態で形成することができる。これにより、担体1の表面の触媒成分3の濃度を高く保つことができるため、充分な触媒活性が得られる触媒10を製造することができる。また、触媒10の担体1の表面に残ったMgOにより、このMgOを助触媒として作用させて、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際において触媒成分3のNiに炭素が析出することを抑制することができる。
【0038】
さらにまた、触媒成分3としてNiを使用し、アルカリ土類金属としてMgを使用していることにより、高い触媒活性が得られると共に、有機物の熱分解反応や有機物の接触的合成反応の際における炭素の析出を少なくすることができる。また、低コストで触媒を製造することができ、安価な触媒を構成することができる。
【0039】
上述の実施の形態では、Al2O3からなる担体1と、MgAl2O4からなるバリア層2と、触媒成分3であるNiと、アルカリ土類金属の酸化物4であるMgOとから触媒10が構成されていた。
本発明において、担体1とバリア層2と触媒成分3とアルカリ土類金属の酸化物4とは、これらの材料の組み合わせに限定されるものではなく、それぞれの材料として、先に説明した他の材料を使用することも可能である。
【実施例】
【0040】
続いて、実際に触媒を作製して、本発明の触媒の構成と、類似の他の触媒の構成とについて、特性等の比較を行った。
【0041】
(実施例1;Ni−Mg/Al2O3)
以下に説明するようにして、図1に示した構成の触媒10の試料を作製した。
まず、担体1のγ−Al2O3の粉末に、硝酸ニッケル水溶液及び硝酸マグネシウム水溶液を添加して、これらを混合した。添加する量は、Al2O3100質量%に対して、Niが20質量%、Mgが5質量%となるようにした。
次に、混合物を100℃で乾燥させることにより、溶媒を除去して、触媒前駆体を作製した。
次に、触媒前駆体を熱処理炉内に入れて、熱処理炉内で750℃まで10℃/分で昇温させて、750℃で1時間保持することにより、か焼工程を行った。
その後、室温まで冷却し、熱処理炉から取り出した。
次に、水素雰囲気とした熱処理炉内で、650℃まで20℃/分で昇温させて、650℃で1時間保持することにより、還元工程を行った。
その後、室温まで冷却し、熱処理炉から取り出した。
このようにして、触媒10の試料を作製して、実施例1の試料とした。
【0042】
(比較例1;Ni/Al2O3)
担体のγ−Al2O3の粉末に、硝酸ニッケル水溶液を添加して、これらを混合した。添加する量は、Al2O3100質量%に対して、Niが20質量%となるようにした。
その後、実施例1と同様にして、か焼工程と還元工程とを行い、触媒の試料を作製して、比較例1の試料とした。
【0043】
(比較例2;Mg/Ni/Al2O3)
担体のγ−Al2O3の粉末に、硝酸ニッケル水溶液を添加して、これらを混合した。添加する量は、Al2O3100質量%に対して、Niが20質量%となるようにした。
次に、熱処理炉内で、750℃まで10℃/分で昇温させて、1時間保持することにより、か焼工程を行った。
その後、室温まで冷却し、熱処理炉から取り出して、硝酸マグネシウム水溶液を添加して、混合した。添加する量は、最初の担体のAl2O3100質量%に対して、Mgが5質量%となるようにした。
次に、熱処理炉内で750℃まで10℃/分で昇温させて、1時間保持することにより、か焼工程を行った。
その後、実施例1と同様にして、還元工程を行い、触媒の試料を作製して、比較例2の試料とした。
【0044】
(比較例3;Ni/Mg/Al2O3)
担体のγ−Al2O3の粉末に、硝酸マグネシウム水溶液を添加して、これらを混合した。添加する量は、Al2O3100質量%に対して、Mgが5質量%となるようにした。
次に、熱処理炉内で750℃まで10℃/分で昇温させて、1時間保持することにより、か焼工程を行った。
その後、室温まで冷却し、熱処理炉から取り出して、硝酸ニッケル水溶液を添加して、混合した。添加する量は、最初の担体のAl2O3100質量%に対して、Niが20質量%となるようにした。
次に、熱処理炉内で、750℃まで10℃/分で昇温させて、1時間保持することにより、か焼工程を行った。
その後、実施例1と同様にして、還元工程を行い、触媒の試料を作製して、比較例3の試料とした。
【0045】
(比較例4;γ−Al2O3)
XRD(粉末X線回折)法による構造の比較を行うために、担体のγ−Al2O3に対して、か焼工程と同様の熱処理を行った試料を作製した。
担体のγ−Al2O3の粉末を、熱処理炉内で750℃まで10℃/分で昇温させて、1時間保持した。
その後、室温まで冷却し、熱処理炉から取り出して、比較例4の試料とした。
【0046】
(XRD測定)
まず、実施例1及び比較例1〜比較例4の各試料について、XRD(粉末X線回折)法により、測定を行った。
各試料の測定結果を上下に並べて、図2に示す。また、図2の2θ=60度〜73度の部分を拡大して、図3に示す。図2において、金属Niのピーク及びMgOのピークを、それぞれ破線と印で示している。
【0047】
図2及び図3に示すように、実施例1のNi−Mg/Al2O3では、MgOのピークが現れているが、他の試料では現れていない。
また、図3に示すように、比較例4のγ−Al2O3と比較して、他の例ではAl2O3のピークが低角側にシフトしている。このことから、これらの例では、複合酸化物であるNiAl2O4やMgAl2O4が形成されたことが推測できる(例えば、K. Y. Koo,J. Hydrogen Energy,33,(2008),2036や、Z. Xua,J. Catal.,A 210,(2001),45等の文献を参照)。
【0048】
図2の51度付近のNiのピークから、Niの結晶子径を求めることができる。このピークから求めた、各例のNiの結晶子径を、表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1の結果から、触媒の作製方法によって、Niの結晶子径の大きさが異なっていることがわかる。比較例1のNi/Al2O3と比較例2のMg/Ni/Al2O3は、8nm程度と小さくなっている。比較例3のNi/Mg/Al2O3と実施例1のNi−Mg/Al2O3は、11.8nm,10.0nmと大きくなっている。
【0051】
(TEM観察)
実施例1及び比較例1〜比較例3の各試料について、TEM(透過型電子顕微鏡)により状態を観察した。各試料のTEM像を、図4A〜図4Dに示す。図4Aは比較例1のNi/Al2O3であり、図4Bは比較例2のMg/Ni/Al2O3であり、図4Cは比較例3のNi/Mg/Al2O3であり、図4Dは実施例1のNi−Mg/Al2O3である。
【0052】
また、図4A〜図4Dの線で囲った部分において、金属粒子の粒径を調べた。
その結果、図4Aの比較例1のNi/Al2O3は8nm〜10nm、図4Bの比較例2のMg/Ni/Al2O3は8nm〜10nm、図4Cの比較例3のNi/Mg/Al2O3は10nm〜12nm、図4Dの実施例1のNi−Mg/Al2O3は8nm〜11nmであった。
比較例3のNi/Mg/Al2O3は、他の3つの試料よりも、凝集が進んでいた。また、金属粒子の粒径の結果は、XRDにより得られたNi結晶子の結果と、傾向が一致していた。
Niの分散性は、Niを担持させたときの担体の表面の状態によって異なると考えられる。即ち、比較例3の場合、Niを添加したときの担体の表面の状態が、他の試料とは異なることが推測される。
【0053】
(細孔特性)
次に、実施例1及び比較例1〜比較例4の各試料について、細孔特性を調べた。具体的には、BET法による比表面積SBETと、メソ孔容積Vmesoと、ミクロ孔容積Vmicroとを測定した。
測定結果を、表2に示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2の結果から、3つの測定値とも、担体のみの状態から、Ni又はMgを添加することにより減少していることがわかる。
また、比較例1のNi/Al2O3と実施例1のNi−Mg/Al2O3は、比較例2のMg/Ni/Al2O3と比較例3のNi/Mg/Al2O3よりも、やや値が大きくなっている。このことから、担持されるNiやMgのうち、担体であるγ−Al2O3の細孔の内部に担持される割合が少なくなり、担体の表面に担持される割合が増えていると推測される。
【0056】
(EDS及びXPS測定)
実施例1及び比較例1〜比較例3の各試料について、EDS(エネルギー分散型X線分光法)による元素組成分析、XPS(X線光電子分光分析法)による各元素(Ni,Al,O,Mg)の電子状態の測定及び元素組成分析を、それぞれ行った。
各試料のXPSによる各元素の電子状態の測定結果を、図5〜図8に示す。図5はNi、図6はAl、図7はO、図8はMgの、各測定結果である。なお、図8では、Mgが入っていない比較例1は示していない。
また、EDSによる元素組成分析の測定結果を表3に示し、XPSによる元素組成分析の結果を表4に示す。表3は触媒全体の組成を示しており、表4は担体の表面付近の組成を示している。
【0057】
【表3】
【表4】
【0058】
図5〜図8より、実施例1のNi−Mg/Al2O3は、他の試料よりも、NiとMgのピークの強度が大きくなっている。
表3では、各例の組成に大きな差は見られない。Niの濃度に差がないので、担体に担持されたNiの濃度がほぼ同じ程度であることがわかる。
表4では、各例とも、表3の全体の組成と比較して、Ni及びAlが減って、O及びMgが増えている。また、比較例1のNi/Al2O3と比較例2のMg/Ni/Al2O3とが、表面のNiの量が他の例よりも少なくなっている。これらのことから、表面ではMgがMgOの状態で存在し、比較例1及び比較例2ではNiが表面から担体の内部に拡散していることが推測される。
【0059】
以上の結果を考慮して、実施例1及び比較例1〜比較例3について、か焼工程及び還元工程における状態の変化を推測して、以下に模式図として示す。
【0060】
まず、比較例1のNi/Al2O3の場合を、図9A〜図9Cに示す。
図9Aに示すように、か焼工程において、二酸化窒素が抜けて、NiがNiOの状態で担体のAl2O3の表面に付着し、この状態から図中矢印で示すようにNiが拡散していく。
そして、図9Bに示すように、担体のAl2O3の内部の表面付近に、NiAl2O4層が形成される。
さらに、還元工程では、図9Cに示すように、NiAl2O4層が還元されて、担体のAl2O3の表面に金属Niが析出する。
この場合、担体の表面の金属Niの濃度は低くなるので、その分触媒活性が低くなる。
【0061】
次に、比較例2のMg/Ni/Al2O3の場合を、図10A〜図10Cに示す。
図10Aに示すように、図9A及び図9Bに示したと同様に変化して、担体のAl2O3の内部の表面付近に、NiAl2O4層が形成される。
次に、Mgを添加してか焼工程を行うことにより、図10Bに示すように、MgがMgOの状態で担体の表面に付着する。
さらに、還元工程では、図10Cに示すように、NiAl2O4層が還元されて、担体のAl2O3の表面に金属Niが析出するが、Niの表面がMgOで被覆される。
この場合、MgOによってNiが被覆されるので、比較例1の場合よりもさらに表面の金属Niの濃度が低下する。
【0062】
次に、比較例3のNi/Mg/Al2O3の場合を、図11A〜図11Dに示す。
図11Aに示すように、か焼工程において、二酸化窒素が抜けて、MgがMgOの状態で担体のAl2O3の表面に付着し、この状態から図中矢印で示すようにMgが拡散していく。
そして、図11Bに示すように、担体のAl2O3の内部の表面付近に、MgAl2O4層(バリア層)が形成される。
次に、Niを添加してか焼工程を行うことにより、図11Cに示すように、NiがNiOの状態で担体の表面に付着する。
さらに、還元工程では、図11Dに示すように、担体の表面のNiOが還元されて、金属Niとなる。
この場合、担体の内部にNiが拡散していないので、表面の金属Niの濃度が高くなり、触媒活性が高くなる。
【0063】
次に、実施例1のNi−Mg/Al2O3の場合を、図12A〜図12Cに示す。
図12Aに示すように、か焼工程において、NiがNiOの状態で担体のAl2O3の表面に付着し、MgがMgOの状態で担体のAl2O3の表面に付着する。この状態から、図中矢印で示すようにMgが拡散していくが、Niは拡散しない。これは、Mgの方がNiよりも担体内に拡散しやすく、Mgが拡散することによりNiの拡散が抑制されるためである。
そして、図12Bに示すように、担体のAl2O3の内部の表面付近に、MgAl2O4層(バリア層)が形成される。
さらに、還元工程では、図12Cに示すように、担体の表面のNiOが還元されて、金属Niとなる。担体の表面のMgOは還元されないでMgOのままである。これはNiOの方がMgOよりも還元されやすいので、MgOの還元が抑制されるためである。
この場合、担体の内部にNiが拡散していないので、表面の金属Niの濃度が高くなり、触媒活性が高くなる。また、担体の表面にMgOが形成される。
なお、実際に、NiO+Al2O3→NiAl2O4、及び、MgO+Al2O3→MgAl2O4の各反応について、ギブス自由エネルギーの温度による変化を、計算によって求めた。その結果、か焼工程の温度領域(室温〜750℃)において、NiAl2O4よりもMgAl2O4の方が、ギブス自由エネルギーが大きい負の値を示した。このことから、NiOとMgOがAl2O3上に共に存在するとき、MgAl2O4の生成が、より自発的に起こりやすいと言える。
【0064】
(触媒活性の比較)
実施例1及び比較例1の触媒の試料を使用して、触媒活性の比較を行った。
まず、各試料を20mg採取して、キャリアガスをHeガスとして、水素流通下で、650℃まで10℃/分で昇温させた後に、650℃で30時間保持させた。
その後、100℃まで冷却して、100℃の状態で保持して安定化させた。
次に、メタネーション反応を行った。具体的には、体積比がHe:H2:CO=18:24:8で合計50mlとなるようにした混合ガス雰囲気中で、100℃から700℃まで10℃/分で昇温させた。
このときの反応は、以下の化学反応式で表わされる。
CO+3H2→CH4+H2O
即ち、一酸化炭素と水素との反応により、メタンと水が発生する。
【0065】
実施例1のNi−Mg/Al2O3と、比較例1のNi/Al2O3とについて、メタネーション反応における、温度とメタンCH4の発生量との関係を、図13に示す。図13の縦軸の発生量は任意単位である。
図13より、実施例1のNi−Mg/Al2O3は、比較例1のNi/Al2O3と比較して、同程度のメタンが発生しており、同程度の触媒活性を示している。
なお、表4より実施例1と比較例1とでは表面のNi濃度に違いがあったが、触媒活性が同程度であることから、表面のNi濃度と触媒活性とには相関が得られていないことがわかる。
【0066】
(炭素析出量の比較)
次に、実施例1及び比較例1〜比較例3の触媒の各試料を使用して、触媒への炭素の析出量を比較した。なお、触媒へ炭素を析出させる原因物質である、タールのモデル物質として、n−ヘキサンを用いた。
【0067】
TG(熱重量測定)装置の石英セルに、各試料を充填した。
また、n−ヘキサンを入れた容器を恒温槽内に入れて、窒素ガスボンベからの配管と弁を介して接続すると共に、リボンヒーターを通してTG装置に窒素ガスとn−ヘキサンガスとが供給されるように配管を接続した。
そして、恒温槽を33℃に保ち、n−ヘキサンが蒸気圧200mmHgとなるようにして、窒素ガスとn−ヘキサン蒸気とをTG装置に供給すると共に、カーテンガスとしてHeガスをTG装置に供給した。
この状態で、TG装置の加熱部によって、室温から10℃/分で昇温させながら、TG装置によって試料の質量を測定した。
【0068】
測定結果として、各試料の温度による質量の変化を、図14に示す。炭素の析出量が多いものほど、質量変化が大きくなる。
図14より、実施例1のNi−Mg/Al2O3は、比較例1のNi/Al2O3と比較して、質量変化が小さくなっており、4つの試料のうちで、最も質量変化が小さくなっている。即ち、炭素の析出量が最も抑制されていると考えられる。また、550℃までは質量増加が起こっておらず、優れた炭素析出抑制効果を示した。
一方、比較例3のNi/Mg/Al2O3は、質量変化が大きくなっており、炭素の析出量が多くなっていると考えられる。
比較例2のMg/Ni/Al2O3は、比較例1のNi/Al2O3と比較して、質量変化がやや小さくなっている。
【0069】
500℃の状態の各試料について、TEM像を観察した。各試料のTEM像を、図15A〜図15Dに示す。図15Aは比較例1のNi/Al2O3であり、図15Bは比較例2のMg/Ni/Al2O3であり、図15Cは比較例3のNi/Mg/Al2O3であり、図15Dは実施例1のNi−Mg/Al2O3である。
図15Cに示すように、比較例3のNi/Mg/Al2O3は、カーボンナノファイバーが形成されている。他の3つの試料では、カーボンナノファイバーの形成がほとんど見られない。
【0070】
さらに倍率を上げたTEM像を、図16A〜図16Dに示す。図16Aは比較例1のNi/Al2O3であり、図16Bは比較例2のMg/Ni/Al2O3であり、図16Cは比較例3のNi/Mg/Al2O3であり、図16Dは実施例1のNi−Mg/Al2O3である。
図16Cに示すように、比較例3のNi/Mg/Al2O3の試料では、ヘリングボーン構造のカーボンナノファイバーが形成されている。比較例1のNi/Al2O3及び比較例2のMg/Ni/Al2O3の各試料では、シェル構造が形成されている。これに対して、実施例1のNi−Mg/Al2O3の試料では、図14の質量変化において500℃では全く炭素析出が起こっていなかったのと同様に、TEM像においてもシェル構造が観察されず、炭素析出が起きていないと考えられる。
【0071】
これらの結果に基づいて、炭素析出の際の各試料の触媒の状態の変化を推測して、以下に模式図として示す。
比較例2のMg/Ni/Al2O3の場合を、図17A〜図17Bに示す。
図17Aに示すように、担体のAl2O3の表面のNiのうち、多くのNiがMgOで覆われている。この状態にn−ヘキサン(C6H14)の蒸気を加えると、図17Bに示すように、MgOに覆われていなかった金属Niの周囲だけにシェル構造が形成される。MgOがNiを被覆しているので、炭素の析出が少ない。
【0072】
次に、比較例3のNi/Mg/Al2O3の場合を、図18A〜図18Bに示す。
図18Aに示すように、担体のAl2O3の表面に、金属Niが露出している。この状態にn−ヘキサン(C6H14)の蒸気を加えると、図18Bに示すように、担体の表面にカーボンナノファイバーCNTが形成される。
【0073】
次に、実施例1のNi−Mg/Al2O3の場合を、図19A〜図19Bに示す。
図19Aに示すように、担体のAl2O3の表面に、金属NiとMgOとが付着している。この状態にn−ヘキサン(C6H14)の蒸気を加えると、図19Bに示すように、金属Niの周囲にシェル構造が形成されるが、MgOの存在によりシェル構造の形成が抑制される。
【0074】
以上の結果から、実施例1のNi−Mg/Al2O3、即ちNiとMgとを同時に添加した場合に、充分な触媒活性が得られると共に、炭素析出が抑制されることがわかる。
炭素析出の程度は、触媒の表面のNi濃度に依存するが、実施例1のNi−Mg/Al2O3は、表面のNi濃度が高いにもかかわらず、炭素析出が抑制されていた。この実施例1のNi−Mg/Al2O3では、MgOが形成されていることが確認でき、このMgOが助触媒として作用し、炭素析出が抑制されたと考えられる。
【0075】
実施例1のNi−Mg/Al2O3等の、本発明の触媒は、ガス化等の反応の際の炭素析出を抑制する触媒として有望である。
【0076】
本発明は、上述の実施の形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【符号の説明】
【0077】
1 担体、2 バリア層、3 触媒成分(遷移金属)、4 アルカリ土類金属の酸化物、10 触媒
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒成分を担体に担持させて成る触媒であって、
酸化物からなる前記担体と、
前記担体の表面上に形成された、遷移金属からなる前記触媒成分と、
前記担体の表面上に形成された、アルカリ土類金属の酸化物と、
表面付近の前記担体内に形成された、前記アルカリ土類金属と前記担体の成分とを含有するバリア層とを含む
触媒。
【請求項2】
前記触媒成分がニッケルであり、前記アルカリ土類金属がマグネシウムである請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記担体が、アルミナである請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒成分を担体に担持させて成る触媒を製造する方法であって、
酸化物からなる前記担体に、前記触媒成分の遷移金属を含む材料と、アルカリ土類金属を含む材料とを共に添加して、混合する工程と、
混合物を700℃〜800℃で熱処理する工程と、
その後、還元雰囲気中で熱処理して還元する工程とを含む
触媒の製造方法。
【請求項5】
前記触媒成分としてニッケルを使用し、前記アルカリ土類金属としてマグネシウムを使用する請求項4に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
前記担体としてアルミナを使用する請求項4に記載の触媒の製造方法。
【請求項1】
有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒成分を担体に担持させて成る触媒であって、
酸化物からなる前記担体と、
前記担体の表面上に形成された、遷移金属からなる前記触媒成分と、
前記担体の表面上に形成された、アルカリ土類金属の酸化物と、
表面付近の前記担体内に形成された、前記アルカリ土類金属と前記担体の成分とを含有するバリア層とを含む
触媒。
【請求項2】
前記触媒成分がニッケルであり、前記アルカリ土類金属がマグネシウムである請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記担体が、アルミナである請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
有機物の熱分解反応又は有機物の接触的合成反応用の触媒成分を担体に担持させて成る触媒を製造する方法であって、
酸化物からなる前記担体に、前記触媒成分の遷移金属を含む材料と、アルカリ土類金属を含む材料とを共に添加して、混合する工程と、
混合物を700℃〜800℃で熱処理する工程と、
その後、還元雰囲気中で熱処理して還元する工程とを含む
触媒の製造方法。
【請求項5】
前記触媒成分としてニッケルを使用し、前記アルカリ土類金属としてマグネシウムを使用する請求項4に記載の触媒の製造方法。
【請求項6】
前記担体としてアルミナを使用する請求項4に記載の触媒の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図4】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図4】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−240621(P2010−240621A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95171(P2009−95171)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年10月9日 社団法人日本エネルギー学会発行の「第45回石炭科学会議発表論文集」に発表
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年10月9日 社団法人日本エネルギー学会発行の「第45回石炭科学会議発表論文集」に発表
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】
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