説明

触媒層−電解質膜積層体の製造方法

【課題】燃料を効率的に電解質膜に供給することが可能であり、優れた電池性能を備えた触媒層−電解質膜積層体の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の触媒層−電解質膜積層体の製造方法は、クラックを有する触媒層が電解質膜の片面又は両面に2層以上積層されてなり、かつ触媒層の少なくとも一部が電解質膜に埋没されている触媒層−電解質膜積層体の製造方法であって、(1)触媒担持炭素粒子の水分散液、(2)水素イオン伝導性高分子電解質及び(3)粘度調整用の溶剤を含む触媒層形成用ペースト組成物を用いて転写基材上に触媒層を形成させて触媒層転写シートを得る第1工程、第1工程で得られた触媒層転写シートを電解質膜に熱プレスすることにより触媒層を電解質膜に積層させる第2工程、及び第2工程で得られた積層体の触媒層上に、さらに上記触媒層転写シートを熱プレスすることにより触媒層を積層させる第3工程、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層−電解質膜積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質膜の両面に触媒層を配置し、水素と酸素の電気化学反応により発電する発電するシステムであり、発電時に発生するのは水のみである。燃料電池は、従来の内燃機関と異なり、二酸化炭素等の環境負荷ガスを発生しないために、次世代のクリーンエネルギーシステムとして注目されている。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、電解質膜として水素イオン伝導性高分子電解質膜を用い、その両面に触媒層を配置し、次いでその両面に電極基材を配置し、更にこれをセパレータで挟んだ構造をしている。電解質膜の両面に触媒層を配置したものは触媒層−電解質膜積層体と、また、更にその両面に電極基材を配置したものは電極−電解質膜接合体と称されている。
【0004】
この触媒層−電解質膜積層体の性能は、燃料電池の電池性能に大きく影響を与えるものであり、特に重要視されている。この触媒層−電解質膜積層体の性能向上の対策として、(1)触媒層を厚膜化して白金担持量を増やす、(2)触媒層−電解質膜界面の表面積を増大させる等の対策が提案されている(特許文献1及び2)。
【0005】
特許文献1は、ガス拡散層と、当該ガス拡散層と高分子電解質膜との間に配置される複数の触媒層と、を備えており、触媒層に含有されているイオン交換樹脂のイオン交換容量が所定の条件を満たしている触媒層−電解質膜積層体を具備する固体高分子型燃料電池を開示している。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の触媒層−電解質膜積層体は、触媒層形成インクを2度塗り、噴霧等によって電解質膜上に2層以上を形成するものである。このような方法で積層体を製造する場合、最初に形成された触媒層の空隙及び細孔中に、触媒層形成インクが入り込み、空隙及び細孔が塞がれてしまう。その結果として、製造された積層体は、燃料ガスの供給を効率よく行うことができず、電池に高出力密度等の優れた電池性能を付与できない問題が生じる。
【0007】
特許文献2は、高分子電解質膜の片面又は両面に、微小突起を有する燃料電池用電解質膜を開示している。
【0008】
しかしながら、この燃料電池用電解質膜は、電解質膜表面の微小突起の形状等から、電解質膜上に触媒を担持する方法に制約を受けたり、触媒層と当該電解質膜との密着性が弱くなったりするため、多量の触媒を当該電解質膜上に形成することは困難であり、結果、高出力密度を達成できなくなる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−338654号公報
【特許文献2】特開2005−108822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明は、燃料を効率的に電解質膜に供給することが可能であり、優れた電池性能を備えた触媒層−電解質膜積層体及びその製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、このような実情に鑑み、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、特定の工程を備えた製造方法により製造された特定の構造を有する触媒層−電解質膜積層体を用いることにより、上記目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
項1.クラックを有する触媒層が電解質膜の片面又は両面に2層以上積層されてなり、かつ触媒層の少なくとも一部が電解質膜に埋没されている触媒層−電解質膜積層体の製造方法であって、
(1)触媒担持炭素粒子の水分散液、(2)水素イオン伝導性高分子電解質及び(3)粘度調整用の溶剤を含む触媒層形成用ペースト組成物を用いて転写基材上に触媒層を形成させて触媒層転写シートを得る第1工程、
第1工程で得られた触媒層転写シートを電解質膜に熱プレスすることにより触媒層を電解質膜に積層させる第2工程、及び
第2工程で得られた積層体の触媒層上に、さらに上記触媒層転写シートを熱プレスすることにより触媒層を積層させる第3工程、
を備えた触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【0013】
項2.前記触媒層の少なくとも1層が前記電解質膜に埋没されている、項1に記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【0014】
項3.各触媒層のクラック同士が互いに重なり合っておらず、触媒層全体としてはクラックが厚み方向に実質的に貫通していない、項1又は2に記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【0015】
項4.触媒担持炭素粒子に担持している触媒が白金又は白金化合物である、項1〜3のいずれかに記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【0016】
項5.各触媒層に含まれる白金の担持量が、それぞれ0.1mg/cm〜1.3mg/cmである、項4に記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【0017】
項6.前記各触媒層の厚みが、それぞれ1μm〜80μmである、項1〜5のいずれかに記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【0018】
(A)触媒層−電解質膜積層体
本発明の触媒層−電解質膜積層体は、
触媒担持炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を含み、かつクラックを有する触媒層が、電解質膜の片面又は両面に2層以上積層されてなる触媒層−電解質膜積層体であって、
当該触媒層の少なくとも一部が当該電解質膜に埋没されている、ことを特徴とする。
【0019】
触媒層
本発明の触媒層は、触媒担持炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質を含み、かつクラックを有する。
【0020】
本発明の触媒層は、実質的に触媒担持炭素粒子及び水素イオン伝導性高分子電解質からなる。
【0021】
触媒粒子としては、例えば白金及び白金化合物等が挙げられる。白金化合物としては、例えば、ルテニウム、パラジウム、ニッケル、モリブデン、イリジウム、鉄等からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属と白金との合金等が挙げられる。
【0022】
担持体である炭素粒子としては、例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、フラーレン等を使用できる。
【0023】
炭素粒子の比表面積は限定的でなく、通常は50m/g〜1500m/g程度、より好ましくは500m/g〜1300m/g程度である。この範囲とすることにより、触媒活性を向上させ、より一層高い出力密度の電池が得ることができる。
【0024】
一般的には、カソード触媒層として用いられる場合の触媒粒子は白金であり、アノード触媒層として用いられる場合の触媒粒子は上述した合金である。
【0025】
水素イオン伝導性高分子電解質としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系のフッ素イオン交換樹脂等が挙げられる。電気陰性度の高いフッ素原子を導入する事で化学的に非常に安定し、スルホン酸基の乖離度が高く、高いイオン導電性が実現できる。このような水素イオン伝導性高分子電解質の具体例としてはデュポン社製の「Nafion」、旭硝子(株)製の「Flemion」、旭化成(株)製の「Aciplex」、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」等が挙げられる。
【0026】
水素イオン性高分子電解質の配合割合は、触媒担持炭素粒子1重量部に対して、通常0.3〜3重量部程度、好ましくは0.4〜2重量部である。
【0027】
本発明の各触媒層は、クラックを有する。各触媒層のクラックは実質的に触媒層の厚み方向に貫通してなる。クラックは、触媒層平面方向に連続又は不連続であってもよい。
【0028】
本発明の各触媒層のクラック率(開口率)は、通常2〜50%程度であり、好ましくは3〜40%程度である。クラックが上記範囲にあると、触媒層に一定の強度を付与できると共に、触媒層へ燃料が浸透し易くなり、高い出力密度の電池が得られる。
【0029】
なお、本発明のクラック率とは、触媒層を写真に取り込み、2値化(白/黒)し、触媒層部分及びクラック部分の面積率(%)を算出して下記式(1)によって決定されるものである。2値化は写真の色彩を255段階に分割し、0〜50までを触媒層部、51〜255までの触媒層のない部分(クラック部分)と判断するものである。
【0030】
[クラック率]=[クラック部分]÷[触媒層全面積] (1)
クラックの平均最大幅は限定的でないが、燃料を浸透し易くする観点から、通常0.5μm〜15μm程度とすればよい。
【0031】
触媒層の厚さは限定的でないが、それぞれ通常1μm〜80μm程度、好ましくは10μm〜60μm程度である。
【0032】
各触媒層の白金の担持量は、それぞれ通常0.1mg/cm〜1.3mg/cm程度である。これにより、より一層高い出力密度を達成できる。
【0033】
電解質膜
使用される電解質膜は、公知のものである。電解質膜の膜厚は、通常20μm〜250μm程度、好ましくは20μm〜80μm程度である。電解質膜の具体例としては、デュポン社製の「Nafion」膜、旭硝子(株)製の「Flemion」膜、旭化成(株)製の「Aciplex」膜、ゴア(Gore)社製の「Gore Select」膜等が挙げられる。
【0034】
触媒層−電解質膜積層体
本発明の触媒層−電解質膜積層体は、上記触媒層が、上記電解質膜の片面又は両面に2層以上積層されてなり、かつ上記触媒層の少なくとも一部が上記電解質膜に埋没している。本発明の触媒層−電解質膜積層の断面図の一例を図1に示す。
【0035】
片面あたりに積層される触媒層の数は、2層以上であればよく、好ましくは3〜6層である。
【0036】
本発明の触媒層−電解質膜積層体は、複数の触媒層が積層されてなるため、触媒層全体としてクラック(空隙)が実質的に貫通していない。すなわち、個々の触媒層のクラックは実質的に貫通しているが、この触媒層が複数積層されることにより、触媒層全体としてはクラックが貫通していない構成となっている。これにより、クロスオーバー(燃料極に供給された燃料が電解質膜をすり抜けて酸化極で反応することにより、燃料極での発電を打ち消してしまう現象)をより効果的に防止できる。また、燃料に改質ガスを用いた場合には、改質ガスによる発生する一酸化酸素が触媒層内に侵入することを防ぐことができ、触媒層の触媒活性の劣化をより効果的に防止できる。
【0037】
本発明の触媒層の少なくとも一部は、電解質膜に埋没している。すなわち、複数の触媒層のうち少なくとも一つの触媒層の一部が電解質膜内に入り込み、当該層のクラックに電解質膜の一部が充填されている。このような構成を取ることにより、アノード触媒層とカソード触媒層との距離(プロトン伝導パス)が短くなり、電気抵抗が減少し、電圧の向上が見込める。また、クラックの側壁部分も電解質と接触するため、触媒層−電解質膜の接触面積が増大し出力密度が向上する。さらに、埋没されている触媒層によって固定されているため、電解質膜の膨潤及び収縮を防止し、ひいては電解質膜の劣化を防止する。
【0038】
電解質膜に埋没されている触媒層の厚みは限定的ではないが、複数積層されている触媒層のうち最も電解質膜側に位置する触媒層(すなわち、最初に埋没される触媒層を示す。以下、この層を「第1触媒層」ともいう。)は通常1/2程度以上埋没されている。触媒層全体(複数の触媒層全部)の厚みからみると、通常1/5〜1/2程度埋没されている。それ以下の埋没であると、上記電圧向上及び高出力密度が達成できなくなるおそれがある。それ以上厚く埋没すると、長期運転時における電解質膜の耐久性が低減するおそれがある。また、電解質膜が薄くなり過ぎ、長期稼動時の触媒層−電解質膜積層体の劣化が加速するおそれがある。
【0039】
本発明では、特に、積層されている2層以上の触媒層のうち、少なくとも1層が埋没されていることが好ましい。すなわち、第1触媒層が完全に埋没されていることが好ましい。埋没されている触媒層の上限は限定的でないが、通常3層程度である。1層以上埋没させることにより、第1触媒層のクラック部分から電解質が浸透し、次に位置する触媒層(第2触媒層)の電解質側面にも電解質が接する。このため、第1触媒層のクラックの側壁部分以外にも触媒層−電解質膜の接触面積が増大することとなり、より一層出力密度を向上させることができる。
【0040】
電極−電解質膜接合体
本発明の電極−電解質膜接合体は、上記の触媒層−電解質膜積層体の両面に電極基材を配置し、加圧することにより製造される。
【0041】
電極基材は、公知であり、燃料極、空気極を構成する各種のカーボンペーパー、カーボンクロスなどを使用できる。
【0042】
加圧レベルは、通常0.1Mpa〜100Mpa程度、好ましくは5Mpa〜15Mpa程度がよい。この加圧操作の際に加熱するのが好ましく、加熱温度は通常120〜150℃程度でよい。この際、触媒層に積層した導電層が電極基材と触媒層を電気的に接続する。また、電極基材は、フラッディングを防止するため撥水性の高いものが望ましく導電層の材料も撥水カーボンなどが望ましい。
【0043】
(B)触媒層−電解質膜積層体の製造方法
本発明の触媒層−電解質膜積層体の製造方法は、
クラックを有する触媒層が電解質膜の片面又は両面に2層以上積層されてなり、かつ触媒層の少なくとも一部が電解質膜に埋没されている触媒層−電解質膜積層体の製造方法であって、
(1)触媒担持炭素粒子の水分散液、(2)水素イオン伝導性高分子電解質及び(3)粘度調整用の溶剤を含む触媒層形成用ペースト組成物を用いて転写基材上に触媒層を形成させて触媒層転写シートを得る第1工程、
第1工程で得られた触媒層転写シートを電解質膜に熱プレスすることにより触媒層を電解質膜に積層させる第2工程、及び
第2工程で得られた積層体の触媒層上に、さらに上記触媒層転写シートを熱プレスすることにより触媒層を積層させる第3工程、
を備えることを特徴とする。
【0044】
第1工程
本発明の第1工程は、(1)触媒担持炭素粒子の水分散液、(2)水素イオン伝導性高分子電解質及び(3)粘度調整用の溶剤を含む触媒層形成用ペースト組成物を用いて転写基材上に触媒層を形成させて触媒層転写シートを得る工程である。
【0045】
触媒層転写シートは、(1)触媒担持炭素粒子の水分散液、(2)水素イオン伝導性高分子電解質及び(3)粘度調整用の溶剤を含む触媒層形成用ペースト組成物を用いて転写基材上に触媒層を形成したものである。
【0046】
(1)触媒担持炭素及び(2)水素イオン伝導性高分子電解質は、上述したものが使用できる。
【0047】
(3)粘度調整用の溶剤としては、例えば、各種アルコール類、各種エーテル類、各種ジアルキルスルホキシド、水又はこれらの混合物が挙げられる。これらの溶剤の中でも、アルコールが好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール等の炭素数1〜4の一価アルコール、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等の各種の多価アルコール等が挙げられる。これらの溶剤は単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
本発明の触媒層形成用ペースト組成物中に含まれる上記(1)〜(3)成分の割合は、限定されるものではなく、広い範囲内で適宜選択され得る。
【0049】
例えば、本発明の触媒層形成用ペースト組成物中に、(1)の触媒担持炭素粒子を1重量部に対して、(2)成分が0.3〜3重量部(好ましくは0.4〜2重量部、(3)成分が5〜50重量部程度(好ましくは10〜25重量部)含まれているのがよく、残りが水である。水の割合は、通常、触媒担持炭素粒子に対して、等重量〜10倍重量である。
【0050】
触媒層形成用ペースト組成物は、上記(1)〜(3)成分を混合することにより、製造される。(1)〜(3)成分の混合順序は、特に制限されない。例えば、(1)成分、(2)成分、及び(3)成分を順次又は同時に混合し、分散させることにより、触媒層形成用ペースト組成物を調製できる。混合には、公知の混合手段を広く適用できる。
【0051】
転写基材としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリパルバン酸アラミド、ポリアミド(ナイロン)、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン等の高分子フィルムを挙げることができる。また、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の耐熱性フッ素樹脂を用いることもできる。
【0052】
更に、転写基材は、高分子フィルム以外に、アート紙、コート紙、軽量コート紙等の塗工紙、ノート用紙、コピー用紙等の非塗工紙等の紙であってもよい。
【0053】
転写基材の厚さは、取り扱い性及び経済性の観点から、通常6μm〜100μm程度、好ましくは10μm〜35μm程度、より好ましくは10μm〜25μm程度とするのがよい。
【0054】
従って、転写基材としては、安価で入手が容易な高分子フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート等がより好ましい。
【0055】
ペースト組成物を転写基材に形成する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷等の一般的な塗布方法を適用できる。
【0056】
斯かるペーストを塗布した後、乾燥することにより、本発明の触媒層が形成される。乾燥温度は、ワックスの融点以下であることが望ましく、通常40〜100℃程度、好ましくは60〜80℃ 程度である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常5分〜2時間程度、好ましくは30分〜1時間程度である。これらの乾燥温度、時間及び上記ペースト組成物の溶媒等を適宜変更することにより、触媒層に形成されるクラックを適宜調節することができる。
【0057】
また、転写基材の少なくとも一方面に離型層を介して触媒層が形成されていてもよい。離型層は、例えば、ワックスから構成される。ワックスとしては、具体的には、石油系ワックス、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、合成系ワックス等を挙げることができる。本発明で用いられるワックスには、例えば、C16〜C32の脂肪酸とアルコールとのエステルが包含される。本発明において、これらワックスは、1種単独で又は2種以上混合して使用される。
【0058】
本発明で用いられるワックスは、好ましくは融点が60〜140℃、より好ましくは融点が60〜100℃の範囲にあるのがよい。
【0059】
本発明において、好ましいワックスは植物系ワックスであり、より好ましいワックスはカルナウバワックス、カンデリラワックス等である。
【0060】
離型層は、公知のフッ素系樹脂でコーティングされたプラスチックフィルム(例えば、ポリエチレンテレフタレート等のフィルム)からなっていてもよい。
【0061】
離型層の厚さは、通常0.1μm〜3μm程度、好ましくは0.5μm〜1μm程度がよい。
【0062】
転写基材上に離型層を形成させるに当たっては、所望の層厚になるように、上記ワックスを公知の方法に従い塗布するのがよい。
【0063】
第2工程
本発明の第2工程は、第1工程で得られた触媒層転写シートを電解質膜に熱プレスすることにより、触媒層を電解質膜に積層させる工程である。
【0064】
具体的には、触媒層転写シートの触媒層面が電解質膜面に対面するように転写シートを配置し、熱プレスした後、当該転写シートの転写基材を剥離すればよい。
【0065】
作業性を考慮すると、触媒層面を電解質膜の両面に同時に積層するのがよい。この場合には、例えば、上記触媒層転写シートの触媒層面が電解質膜の両面に対面するように転写シートを配置し、加圧した後、当該転写シートの転写基材を剥離すればよい。
【0066】
熱プレスは、常法に従って行うことができる。加圧レベルは、転写不良を避けるために、通常0.5Mpa〜20Mpa程度、好ましくは1Mpa〜10Mpa程度がよい。また、この加圧操作の際に、さらに転写不良を避けるために、加圧面を加熱するのが好ましい。加熱温度は、電解質膜の破損、変性等を避けるために、通常200℃以下、好ましくは150℃以下がよい。これら条件を適宜変更することにより、電解質膜に埋没する触媒層の深さを適宜調節することができる。
【0067】
第3工程
本発明の第3工程は、第2工程で得られた積層体の触媒層上に、さらに上記触媒層転写シートを熱プレスすることにより触媒層を積層させる工程である。この工程を得ることにより、上記した本発明の触媒層−電解質膜積層体を製造することができる。
【0068】
触媒層転写シートは、上気した第1工程で得られた触媒層転写シートである。
【0069】
熱プレスする条件等は、第2工程と同様であり、これらの条件を適宜変更することにより、電解質膜に埋没する触媒層の深さを適宜調節することができる。
【0070】
3層以上触媒層を積層させたい場合は、この第3工程を1回又は複数回繰り返せばよい。
【発明の効果】
【0071】
本発明によれば、触媒層は適度な大きさのクラックを有するため、触媒層全体に効率よく燃料を供給できる。その結果として、本発明の触媒層−電解質膜積層体を用いた燃料電池は、高出力密度等の優れた電池性能を発揮できる。
【0072】
本発明の触媒層−電解質膜積層体は、複数の触媒層が積層され、かつ触媒層全体として実質的にクラックが貫通していない構造を有するため、クロスオーバーをより効果的に防止できる。また、燃料に改質ガスを用いた場合には、一酸化酸素による触媒層の触媒活性の劣化をより効果的に防止できる。さらに、埋没されている触媒層によって固定されているため、電解質膜の膨潤及び収縮を防止し、ひいては電解質膜の劣化を防止する。これらにより、本発明の触媒層−電解質膜積層体を用いた燃料電池は、高耐久性等の優れた電池性能を有する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、本発明の触媒層−電解質膜積層体の断面図の一例を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0074】
以下に実施例及び比較例を掲げて、本発明をより一層明らかにする。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0075】
実施例1
(1)アノード触媒層用ペースト組成物Aの調製
白金ルテニウム触媒担持カーボン(Pt:29.7%、Ru:23.1%、田中貴金属工業製、「TEC61V54」、(炭素粒子:「バルカンXC-72R」、Cabot社製、比表面積254m/g)1.00g及び水10.00gを分散機にて攪拌混合して、白金ルテニウム担持カーボンの水分散液を調製した。この調製された水分散液に5wt%ナフィオン溶液(DE521、デュポン社製)6.00g及びプロピレングリコール0.30gを配合し、攪拌混合することにより、アノード触媒層用ペースト組成物Aを調製した。
(2)カソード触媒層用ペースト組成物の調製
白金触媒担持カーボン(Pt:46.7%、田中貴金属工業製、TEC10E50E)1.00g及び水10.00gを分散機にて攪拌混合して、白金担持カーボンの水分散液を調製した。この調製された水分散液に5wt%ナフィオン溶液(DE521、デュポン社製)4.00g、n−ブタノール4.00g及びt−ブタノール4.00gを配合し、攪拌混合することにより、カソード触媒層用ペースト組成物を調製した。
(3)触媒層転写シートの作製
上記アノード触媒層用ペースト組成物及びカソード触媒層用ペースト組成物をそれぞれPETフィルム(E3120、東洋紡績(株)製、厚さ13μm)上にドクターブレードにより乾燥後の厚さが50μmとなるように塗布及び乾燥して、それぞれアノード触媒層転写シートA及びカソード触媒層転写シートを得た。これらの触媒層の白金担持量及びクラック率はそれぞれアノード触媒層では0.9mg/cm、35%であり、カソード触媒層では1.0mg/cm、39%であった。
(4)触媒層−電解質膜積層体の作製
このアノード触媒層転写シートA及びカソード触媒層転写シートの間に電解質膜Nafion115(デュポン社製)を挟んで熱プレス(加圧レベル6Mpa、加圧時間2.5分)することにより、電解質膜の両面にそれぞれアノード触媒層及びカソード触媒層を形成した。
【0076】
この操作をアノード触媒層側においてのみさらに2回繰り返した。これにより、アノード触媒層側の白金担持量が2.7mg/cm、カソード触媒層側の白金担持量が1.0mg/cmである触媒層-電解質膜積層体(アノード触媒層A/アノード触媒層A/アノード触媒層A/電解質膜/カソード触媒層)を得た。
【0077】
この積層体の断面をSEMで観察すると、アノード触媒層及びカソード触媒層のいずれの第1触媒層(第1回目の熱プレスで積層させた触媒層)も完全に電解質膜に埋没していた。
【0078】
実施例2
(1)アノード触媒層用ペースト組成物Bの調製
実施例1の白金ルテニウム担持炭素をTEC61V54(Pt:29.7%、Ru23.1%、田中貴金属工業製、(炭素粒子:「バルカンXC-72R」、Cabot社製、比表面積254m/g))1.00gの代わりに、TEC61E54(Pt:30.3%、Ru:23.1%、田中貴金属工業製、(炭素粒子:「ケッチェンブラック」、AKUZO社製、比表面積800m/g))1.00gとした以外は、実施例1と同様にして、アノード触媒層用ペースト組成物Bを調製した。
(2)カソード触媒層用ペースト組成物
実施例1のカソード触媒層用ペースト組成物を用いた。
(3)アノード触媒層転写シートBの作製
アノード触媒層用ペーストBをPETフィルム(E3120、東洋紡績(株) 製、厚さ13μm)上にドクターブレードにより乾燥後の厚さが50μmとなるように塗布及び乾燥することにより、アノード触媒層転写シートBを得た。このフィルムBの白金担持量及びクラック率はそれぞれ1.1mg/cm、37%であった。
(4)触媒層−電解質膜積層体の作製
まず、このアノード触媒層転写シートA及びカソード触媒層転写シートの間に電解質膜Nafion115(デュポン社製)を挟んで熱プレス(加圧レベル6Mpa、加圧時間2.5分)することにより、電解質膜の両面にそれぞれアノード触媒層及びカソード触媒層を形成した。
【0079】
さらに、この操作をアノード触媒層転写シートAで2回、アノード触媒層転写シートBで1回繰り返す事により、アノード側の白金担持量3.8mg/cm、カソード側の白金担持量1.0mg/cmの触媒層−電解質膜積層体(アノード触媒層B/アノード触媒層A/アノード触媒層A/アノード触媒層A/電解質膜/カソード触媒層)を得た。
【0080】
この積層体の断面をSEMで観察すると、アノード触媒層及びカソード触媒層のいずれの第1触媒層(第1回目の熱プレスで積層させた触媒層)も全て電解質膜に埋没していた。
【0081】
比較例1
実施例1で用いたアノード触媒層用ペースト組成物AをPETフィルムに乾燥後の厚さが80μmとなるように塗布し、乾燥することにより、比較例1のアノード触媒用転写シートA’を作製した。また、実施例1で用いたカソード触媒層用ペースト組成物をPETフィルムに乾燥後の厚さが50μmとなるように塗布し、乾燥することにより比較例1のカソード触媒層転写シートを作製した。
【0082】
この比較例1のアノード触媒層転写シートA’及びカソード触媒層転写シートの間に電解質膜Nafion115(デュポン社製)を挟んで熱プレス(加圧レベル6Mpa、加圧時間2.5分)することにより、電解質膜の両面にそれぞれアノード触媒層及びカソード触媒層を形成し、比較例1の触媒層−電解質膜積層体を作製した。
【0083】
アノード触媒層側の白金担持量は3.0mg/cm、クラック率は48%であった。カソード触媒層側の白金担持量は、1.2mg/cm、クラック率は45%であった。
【0084】
試験例
実施例1、2及び比較例1で得た触媒層−電解質膜積層体を用いて、単電池を組み立てた。カソード極に合成空気(カソード流量200ml/min)、アノード極に3%メタノール(アノード流量4ml/min)を導入し、電池性能(セル温度60℃)を測定した。
【0085】
結果を下表1に示す。耐久性の試験において、100時間後の出力密度が測定初期の90%以上である場合を「○」と、100時間後の出力密度が測定初期の90%以下である場合を「×」と評価した。
【0086】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラックを有する触媒層が電解質膜の片面又は両面に2層以上積層されてなり、かつ触媒層の少なくとも一部が電解質膜に埋没されている触媒層−電解質膜積層体の製造方法であって、
(1)触媒担持炭素粒子の水分散液、(2)水素イオン伝導性高分子電解質及び(3)粘度調整用の溶剤を含む触媒層形成用ペースト組成物を用いて転写基材上に触媒層を形成させて触媒層転写シートを得る第1工程、
第1工程で得られた触媒層転写シートを電解質膜に熱プレスすることにより触媒層を電解質膜に積層させる第2工程、及び
第2工程で得られた積層体の触媒層上に、さらに上記触媒層転写シートを熱プレスすることにより触媒層を積層させる第3工程、
を備えた触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【請求項2】
前記触媒層の少なくとも1層が前記電解質膜に埋没されている、請求項1に記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【請求項3】
各触媒層のクラック同士が互いに重なり合っておらず、触媒層全体としてはクラックが厚み方向に実質的に貫通していない、請求項1又は2に記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【請求項4】
触媒担持炭素粒子に担持している触媒が白金又は白金化合物である、請求項1〜3のいずれかに記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【請求項5】
各触媒層に含まれる白金の担持量が、それぞれ0.1mg/cm〜1.3mg/cmである、請求項4に記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法。
【請求項6】
前記各触媒層の厚みが、それぞれ1μm〜80μmである、請求項1〜5のいずれかに記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−23044(P2012−23044A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184686(P2011−184686)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【分割の表示】特願2005−377577(P2005−377577)の分割
【原出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】