説明

触媒層の製造方法

【課題】触媒粉体が規則的な配列構造を呈してなる触媒層を製造することができ、もって、十分な液水パスが確保され、プロトン伝導性に優れた触媒層を得ることのできる、触媒層の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の触媒層の製造方法は、触媒溶液を生成し、該触媒溶液から触媒粉体30を造粒する第1の工程、触媒粉体30を水面上に展開し、単粒子の触媒粉体30が並んでなる触媒粉体膜40を形成する第2の工程、基材50表面に触媒粉体膜40を移して乾燥させる第3の工程、触媒粉体30を水面上に新たに展開して別途の触媒粉体膜40を形成し、基材50表面上の触媒粉体膜40の表面に該別途の触媒粉体膜40を移して乾燥させることにより、触媒粉体膜40,…の積層体100からなる触媒層を製造する第4の工程、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の膜電極接合体を構成する、触媒層の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池の燃料電池セルは、イオン透過性の電解質膜と、該電解質膜を挟持するアノード側およびカソード側の各電極触媒層と、から膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)を成し、各電極触媒層の外側にガス流れの促進と集電効率を高めるためのガス拡散層(GDL)が設けられて電極体(MEGA:MEAとGDLの接合体)を成し、このガス拡散層の外側にセパレータが配されて燃料電池セルが形成されている。実際には、これらの燃料電池セルが発電性能に応じた基数だけ積層され、燃料電池スタックが形成されることになる。
【0003】
上記する従来の触媒層の製造方法は、たとえば、テフロンシート(テフロン:登録商標、デュポン社)等の基材表面に、触媒を担持した触媒担持担体、高分子電解質(アイオノマ)、分散溶媒を含んだ触媒溶液(触媒インク)を塗工し、次いで該触媒溶液表面をホットプレート等で乾燥させてその内部が可及的に均一構造(均一径の多孔構造)の触媒層を形成する湿式塗工法が一般に用いられている。なお、この塗工作業においては、スプレーで塗布する方法やドクターブレードを使用する方法などがある。なお、触媒担持担体とアイオノマからなる触媒層に関する従来の公開技術は多岐に亘っており、その一例として特許文献1,2に開示の触媒層およびこれを備えた電極を挙げることができる。
【0004】
上記する現状の触媒層の製造方法では、製造された触媒層のプロトン伝導性能、十分な液水パスの確保などが、生成された触媒溶液の性状や、最終の乾燥工程における乾燥条件等に大きく依存していることは否定できない。
【0005】
ところで、規制された構造を有する触媒層の製造は、その性能である、プロトン伝導性能、十分な液水パスの確保、計算モデルにおける検証材料等の構造設計の指針立案にとって極めて有用である。しかし、既述するように、現状の触媒層の製造方法が触媒溶液の性状や乾燥条件等に大きく依存していることから、規制された構造の触媒層を製造するに際し、造粒されたアイオノマと触媒担持担体からなる触媒粉体一個の厚みをもった単粒子層が、複数積層された規制構造(規則的な構造)の触媒層が製造できるのが好ましい、との知見に本発明者等は至っている。
【0006】
そこで、たとえば、触媒担持担体を水面上に展開して単粒子層を形成するといった方策が考えられるが、この方法では、展開された触媒担持担体表面に高分子電解質を被覆させることが極めて困難であり、さらには、この触媒担持担体は、せいぜい20nm程度の粒径の微粒子であることから、水面上ではその配列が乱された多層構造が形成され易い(したがって、規則的な構造とはならない)。また、仮に規則的な単粒子構造(単粒子層)が形成されたとしても、高分子電解質を被覆するための高分子溶液はその表面張力の高い溶媒であることから、単粒子構造にせん断力が作用し易く、もって当該単粒子構造が容易に破壊される可能性が極めて高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−24572号公報
【特許文献2】特開2006−147563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、燃料電池の膜電極接合体を構成する触媒層の製造方法に関し、触媒粉体が規則的な配列構造を呈してなる触媒層を製造することができ、もって、十分な液水パスが確保され、プロトン伝導性に優れた触媒層を得ることのできる、触媒層の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による触媒層の製造方法は、触媒担持担体と、高分子電解質と、分散溶媒と、から触媒溶液を生成し、該触媒溶液から触媒粉体を造粒する第1の工程、前記触媒粉体を水面上に展開し、単粒子の触媒粉体が並んでなる触媒粉体膜を形成する第2の工程、基材表面に前記触媒粉体膜を移して乾燥させる第3の工程、前記触媒粉体を水面上に新たに展開して別途の触媒粉体膜を形成し、基材表面上の前記触媒粉体膜の表面に該別途の触媒粉体膜を移して乾燥させることにより、触媒粉体膜の積層体からなる触媒層を製造する第4の工程、からなるものである。
【0010】
本発明の触媒層の製造方法では、まず、触媒溶液を生成後、たとえば適宜の造粒機等を使用して、触媒担持担体周りに高分子電解質(アイオノマ)が被覆されてなる触媒粉体を造粒する(第1の工程)。
【0011】
次に、この造粒された触媒粉体を、たとえば容器に収容された水中へ投入し、水面上に触媒粉体を展開させることで、単粒子の触媒粉体が面的に並んでなる触媒粉体膜を形成する(第2の工程)。この工程では、規則的に触媒粉体の単粒子が面的に並んだ層、すなわち、単粒子の厚みをもった触媒粉体膜を形成することができる。
【0012】
したがって、水面上に展開されるのは、既に造粒された触媒粉体であり、触媒粉体膜を構成する触媒担持担体周りには所望量のアイオノマが被覆した状態となっている。この一連の製造ステップにより、触媒担持担体のみを水面上に展開させ、その後工程でアイオノマを触媒担持担体周りに被覆するといった方向の際の課題、すなわち、アイオノマの被覆形成が極めて困難であるといった課題は生じ得ない。
【0013】
次に、水面上に形成された一層の触媒粉体膜を基材表面に移す(第3の工程)。この方法の一実施の形態としては、触媒粉体膜が形成された後に、適宜の基材を水槽へ引き下げることにより、もしくは、基材を水槽へ引き下げ、次いで水中から引き上げることにより、この引き上げもしくは引き下げの過程で触媒粉体膜を該基材表面に効果的に移すといった、極めて簡易な方法を挙げることができる。基材表面上に移された触媒粉体膜は所望に乾燥され、少なくともその形状を保持できるだけの剛性を備えた一層の膜が形成される。
【0014】
なお、より好ましくは、この基材の引き上げ等の際に、触媒粉体膜の一端辺を適宜の押出し部材で基材側へ押出してあげることで、触媒粉体膜をより一層効率的に基材表面に移すことが可能となる。
【0015】
次いで、触媒粉体を水面上に新たに展開して別途の触媒粉体膜を形成し、基材表面上の前記触媒粉体膜の表面に該別途の触媒粉体膜を移し、これを乾燥させることにより、触媒粉体膜の積層体が形成される(第4の工程)。
【0016】
ここで、この第4の工程は、所望する触媒粉体膜の積層数分だけ実施されるものであり、基材表面に移された触媒粉体膜上に別途の触媒粉体膜を移し、さらに別途の触媒粉体膜を移すことで、たとえば2層の触媒粉体膜の積層構造、3層以上の触媒粉体膜の積層構造等、所望する触媒粉体膜の多層構造からなる積層体を基材表面に形成することができる。なお、この第4の工程においては、各層ごとに単粒子の触媒粉体が面内方向で規則的に配されて触媒粉体膜を形成していること、さらに、それらの積層方向においても触媒粉体が規則的に配されること、により、結果として3次元的な規則的配列構造を有する積層体(触媒層)が得られる。
【0017】
上記する基材としては、支持フィルム(ポリマー素材であっても無機質素材であってもよく、樹脂素材、金属素材等)、電解質膜、ガス拡散層のいずれか一種、もしくは、これらのうちの2種以上の組み合わせ(たとえば支持ポリマーフィルムと電解質膜の積層体など)、などを挙げることができる。なお、基材に支持フィルムのみを使用した場合には、後工程において、支持フィルム表面の触媒層が電解質膜等に転写、ホットプレス等されることになる。
【0018】
本発明の製造方法によって得られた触媒層は、既述するように、多数の触媒粉体が3次元的に規則的に配された、触媒粉体の規則構造体となっている。したがって、このように触媒粉体が規則的に配列されてなる触媒層は、その性能に繋がる燃料ガスや酸化剤ガス、液水のパスの確保、計算モデルの検証など、触媒層を構造設計する上での指針立案に極めて有用なものとなる。
【0019】
なお、本発明者等の検証によれば、上記する本発明の触媒層の製造方法にて得られた触媒層を具備する膜電極接合体(燃料電池セル)は、特に1.6A/cm以上の高密度電流域(高負荷時)において、優れた発電性能を発揮できるものであることが実証されている。
【0020】
したがって、本発明の製造方法にて製造された触媒層は、近時その生産が拡大しており、車載機器に一層の高性能を要求している、電気自動車やハイブリッド車用の燃料電池に好適である。
【発明の効果】
【0021】
以上の説明から理解できるように、本発明の触媒層の製造方法によれば、面内方向および積層方向に触媒粉体が規則的に配された構造の触媒層を形成することができ、特に、高密度電流域において優れた発電性能を奏する燃料電池セルの製造に資するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の触媒層の製造方法を説明したフロー図である。
【図2】本発明の製造方法の第2の工程(ステップS2)を説明した模式図であって、(a)はその縦断面図であり、(b)は(a)のb−b矢視図である。
【図3】(a)は、本発明の製造方法の第3の工程(ステップS3)を説明した模式図であり、(b)は第3の工程で形成された基材表面上の触媒粉体膜を示した模式図である。
【図4】(a)は、本発明の製造方法の第4の工程(ステップS4)を説明した模式図であり、(b)は、第4の工程で形成された基材表面上の触媒粉体膜の積層体(触媒層)を示した模式図である。
【図5】本発明の製造方法にて製造された触媒層を有する膜電極接合体の放電試験結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、図示する触媒層は、2層の触媒粉体膜が積層してなるものであるが、3層以上の触媒粉体膜の積層体からなるものであってもよいことは勿論のことである。
【0024】
図1は、本発明の触媒層の製造方法を説明したフロー図であり、図2は、本発明の製造方法の第2の工程(ステップS2)を説明した模式図であって、図2aはその縦断面図であり、図2bは図2aのb−b矢視図である。また、図3aは、本発明の製造方法の第3の工程(ステップS3)を説明した模式図であり、図3bは、第3の工程で形成された基材表面上の触媒粉体膜を示した模式図である。さらに、図4aは、本発明の製造方法の第4の工程(ステップS4)を説明した模式図であり、図4bは、第4の工程で形成された基材表面上の触媒粉体膜の積層体(触媒層)を示した模式図である。
【0025】
まず、触媒溶液の生成材料となる、触媒担持担体10、高分子電解質20および分散溶媒を用意し、触媒担持担体10と高分子電解質20を分散溶媒内に投入し、混合攪拌しながら触媒溶液を生成する。
【0026】
ここで、触媒溶液(触媒インク)を形成する高分子電解質20は、プロトン伝導性ポリマーである、有機系の含フッ素高分子を骨格とするイオン交換樹脂、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸樹脂、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質などを挙げることができる。なお、市販素材としては、ナフィオン(Nafion)(登録商標、デュポン社製)やフレミオン(Flemion)(登録商標、旭硝子株式会社製)などを挙げることができる。また、分散溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、プロピレンカーボネート、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、芳香族系あるいはハロゲン系の種々の溶媒を挙げることができ、さらには、これらを単独で、もしくは混合液として使用することができる。
【0027】
また、触媒担持担体10に関し、その導電性担体11としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができ、その触媒12(金属触媒)としては、たとえば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウムなどのうちのいずれか一種を使用することができ、好ましくは白金または白金合金を使用するのがよい。さらに、この白金合金としては、たとえば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を挙げることができる。この触媒担持担体10は、攪拌された導電性担体11に対して白金等の金属触媒12をスパッタリング等することで、所望する担持密度の触媒担持担体10が得られる。
【0028】
さらに、分散溶媒としては、エタノール、プロピレングリコール、イソプロパノールなどのいずれか一種、もしくはその混合液や、これらと水との混合液が使用できる。
【0029】
触媒溶液が生成されたら、この触媒溶液に対してスプレー造粒機等を使用することで、触媒担持担体10とその周りを被覆する高分子電解質20と、からなる触媒粉体30を造粒する(ステップS1)。なお、この触媒粉体30は、その径が2μm以下程度に調整できる。
【0030】
次に、造粒された触媒粉体30を、水槽T内に収容された水W内に投入し、水面上で多数の触媒粉体30,…を展開させる。
【0031】
ここで、展開された触媒粉体30,…は、図2a,bで示すように、面内方向に規則的に配され、かつ、その厚みが単粒子である触媒粉体30の厚みである、一層の触媒粉体膜40を形成している(ステップS2)。
【0032】
次に、電解質膜50aと、その一側面に配された、樹脂素材もしくは金属素材であって基材全体に剛性を付与するための板材50bと、からなる基材50を、水槽T内に収容し、これを引き上げながら(図3のX方向)、水面上に展開された触媒粉体膜40を電解質膜50aの側面に移し取る。基材50表面に移し取られた触媒粉体膜40を、たとえば温風乾燥等することにより、少なくともその形状を保持できるだけの剛性を備えた触媒粉体膜40が形成される(ステップS3)。
【0033】
ここで、電解質膜50aは、たとえば、スルホン酸基やカルボニル基を持つフッ素系イオン交換膜、置換フェニレンオキサイドやスルホン化ポリアリールエーテルケトン、スルホン化ポリアリールエーテルスルホン、スルホン化フェニレンスルファイドなどの非フッ素系のポリマーなどから形成される。
【0034】
なお、触媒粉体膜を移し取る基材は図示例に限定されるものではなく、電解質膜のみからなる基材、燃料電池セルの電極構成部材であるガス拡散層(GDL)からなる基材、さらには、有機素材もしくは無機素材の支持フィルムのみからなる基材、この支持フィルムの表面に電解質膜が配されてなる基材などであってもよい。
【0035】
このステップS3においては、図3で示すように、適宜の押出し部材60を使用して、触媒粉体膜40の端部を基材50側に押出してやることで(Y方向)、触媒粉体膜40の電解質膜50aへの移し取りがスムースに実行できる。
【0036】
次に、水槽T内にあらためて触媒粉体30を投入し、水面上で多数の触媒粉体30,…を展開させ、一層の触媒粉体膜40を形成する。
【0037】
この触媒粉体膜40が水面上に形成された水槽T内に、ステップS3で得られた、触媒粉体膜40をその一側面に備えた基材50を浸漬し、ステップS3と同様にこれを引き上げる(図4aのX方向)。この引き上げ過程において、今度は、既に基材50表面に形成されている触媒粉体膜40の表面に、水面上に展開される触媒粉体膜40が移し取られる。なお、この2回目の移し取りにおいても、押出し部材60を使用して、触媒粉体膜40の端部を基材50側に押出してやるのがよい。
【0038】
基材50の表面に移された2層目の触媒粉体膜40を温風乾燥等することで、図4bで示すような、面内で規則的に触媒粉体30が配列してなる触媒粉体膜40が積層方向に並んだ、したがって、触媒粉体30が面内および積層方向の3次元的に規則的に配列された積層体からなる触媒層100が形成される(ステップS4)。
【0039】
なお、3層以上の触媒粉体膜を積層させて触媒層を形成する場合には、所望する積層基数分だけ上記ステップS4を繰り返せばよい。
【0040】
[本発明の製造方法にて製造された触媒層を有する膜電極接合体の放電試験とその結果]
本発明者等は、以下の方法で触媒層を形成し、この触媒層を具備する膜電極接合体を製造してその放電性能を検証した。
【0041】
まず、カーボン担体、白金触媒からなる触媒担持担体(触媒担持率は30%)、ナフィオンからなる高分子電解質I/C(導電性担体の質量(C)に対する高分子電解質の質量(I)の比)が0.75、固形分濃度が3%の触媒溶液を用意し、スプレー造粒機(スプレードライヤ入口温度が70℃、混合ガスに窒素ガスを使用)にて、単粒子の粒径が2μm以下の触媒粉体を造粒した。
【0042】
次に展開溶媒にヘキサンを使用して、水面上で多数の触媒粉体を展開させ、該水面上で触媒粉体膜を形成した。
【0043】
シリコン素材もしくは硝子素材の基板の表面に電解質膜が配された基材を用意し、この基材を水面上から水面内へ引き下げながら、表面圧:5〜10mN/m程度で基材の電解質膜表面に触媒粉体膜を移し取った。
【0044】
基材表面に触媒粉体膜が移し取られたら、これを電解質膜が劣化しない程度の温度である、130℃以下の温度で乾燥させた。これを複数回実施して、電解質膜表面に所定数の触媒粉体膜が積層してなる触媒層を製造した。なお、この乾燥工程では、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で乾燥させるのが望ましい。
【0045】
次に、製造された触媒層から電解質膜を剥がし、アノード極を転写法にて作成して膜電極接合体を製造し、これを用いて放電試験を実施した。なお、この放電試験においては、膜電極接合体に提供されるガスの温度が80℃、アノード極、カソード極の露点はともに70℃、背圧が40kPa、冷却水は70℃で0.5リットル/分とした。放電試験結果を図5に示している。
【0046】
同図より、従来構造の膜電極接合体に対して、特に、1.6(A/cm)以上の高密度電流域において、その出力向上が確認されている。
【0047】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0048】
10…触媒担持担体、11…担体、12…触媒、20…高分子電解質(アイオノマ)、30…触媒粉体、40…触媒粉体膜、50…基材、50a…電解質膜、50b…板材、60…押出し部材、100…触媒粉体膜の積層体(触媒層)、T…水槽、W…水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒担持担体と、高分子電解質と、分散溶媒と、から触媒溶液を生成し、該触媒溶液から触媒粉体を造粒する第1の工程、
前記触媒粉体を水面上に展開し、単粒子の触媒粉体が並んでなる触媒粉体膜を形成する第2の工程、
基材表面に前記触媒粉体膜を移して乾燥させる第3の工程、
前記触媒粉体を水面上に新たに展開して別途の触媒粉体膜を形成し、基材表面上の前記触媒粉体膜の表面に該別途の触媒粉体膜を移して乾燥させることにより、触媒粉体膜の積層体からなる触媒層を製造する第4の工程、からなる、触媒層の製造方法。
【請求項2】
前記第4の工程において、3以上の触媒粉体膜が積層してなる前記積層体が形成される、請求項1に記載の触媒層の製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程および前記第4の工程では、水槽に収容された水の水面上に前記触媒粉体膜が展開されるものであり、
前記第3の工程および前記第4の工程では、前記水槽に収容された前記基材を該水槽から引き上げる、もしくは引き下げる際に、基材表面、もしくは、既に基材表面に形成されている触媒粉体膜表面に別途の触媒粉体膜が移されるものである、請求項1または2に記載の触媒層の製造方法。
【請求項4】
前記基材が、支持フィルム、電解質膜、ガス拡散層のいずれか一種、もしくは、これらのうちの2種以上の組み合わせからなる、請求項1〜3のいずれかに記載の触媒層の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−60557(P2011−60557A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−208515(P2009−208515)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】