説明

触媒床の前に保護床が使用されるアルキレングリコールの調製方法

水を用いるアルキレンオキシドの加水分解によるアルキレングリコールの製造のための方法が記載されており、少なくとも1つの反応供給物が、加水分解触媒を含む触媒床に入る前にまず保護床を通る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接触加水分解によるアルキレングリコールの調製のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキレングリコール、特にモノアルキレングリコールは、商業的関心が確立されているものである。例えば、モノアルキレングリコールは不凍組成物中で、溶媒としておよび例えば繊維またはボトル用のポリアルキレンテレフタレートの基礎原料として使用されている。
【0003】
アルキレンオキシドの液相加水分解によるアルキレングリコールの製造は知られている。この加水分解は、一般に大過剰の水、例えばアルキレンオキシド1モル当たり20〜25モルの水を加えることによって実行される。反応は、求核置換反応と考えられており、その際水が求核剤として働いてアルキレンオキシド環の開裂が起こる。主として形成されるモノアルキレングリコールも求核剤として働くので、通例モノアルキレングリコール、ジアルキレングリコールおよびより高級なアルキレングリコールの混合物が形成される。モノアルキレングリコールの選択率を高めるためには、一次生成物とアルキレンオキシドの間の二次反応を抑えることが必要である。
【0004】
二次反応を抑えるための1つの有効な手段は、反応混合物中に存在する水の相対的な量を増すことである。この手段は、選択性をモノアルキレングリコール生成に向けて改善するが、製品を取り出すためには大量の水を除去しなければならないという点で問題を生じる。
【0005】
大過剰の水を使用する必要なく反応の選択率を高めるための代わりの手段を見出すために、相当な努力がなされてきた。アルキレンオキシドのアルキレングリコールへの加水分解は、触媒系の中では、より少ない過剰量の水で実行することができる。したがって、これらの努力は通常、より活性の高い加水分解触媒の選定に重点を置いてきており、さまざまな触媒が文献中で開示されてきた。
【0006】
酸とアルカリ両方の加水分解触媒が研究されてきたが、これによれば、酸触媒の使用は選択性に顕著な影響を及ぼすことなく反応速度を高めるが、アルカリ触媒を使用することによっては、一般にモノアルキレングリコールについてより低い選択性しか得られないようである。
【0007】
低下させた水のレベルにおいてモノアルキレングリコールへの高い選択性を達成させる接触法は知られている(例えば、EP−A−0156449、US−A−4982021、US−A−5488184、US−A−6153801およびUS−A−6124508)。こうした触媒は、一般に強塩基性(アニオン)交換樹脂で、しばしば第四級アンモニウムまたは第四級ホスホニウムの陽性錯化部位を有し、1つまたは複数のアニオン(例えば、メタレート(metalate)、ハロゲン、炭酸水素塩、重亜硫酸塩、またはカルボキシレート)と配位しているものを含み、一般に高温度で使用する場合に最も有効であるものを含む。
【0008】
しかし、アニオン交換樹脂に共通の欠点は、これらの限られた耐熱性およびこれらが膨潤しやすいことである。国際特許明細書WO02/098828においては、この膨潤の原因は触媒樹脂の熱劣化およびこの樹脂のEOとの反応であるとしている。
【0009】
触媒の膨潤は、反応器を通過する反応剤の流れを遅くしたり、阻止したりすることがあるので、問題がある。したがって、熱膨潤を軽減する方法を開発するために努力されてきた。
【0010】
従来技術において、加水分解触媒の熱膨潤を軽減する方法が開示されている。
【0011】
US−A−6137015には、例えばUS−A−5488184に記載されているようなアニオン交換樹脂を含む方法が、特に95℃を超える温度において、如何に望ましくない膨潤に悩まされるかが記載されている。この文書はさらに、反応混合物に二酸化炭素およびpHを5.0〜9.0の間に維持するに足る量の塩基を添加することを含む、かかる膨潤を最小限に抑える方法を記載している。
【0012】
EP−A−1140749には、塩基性イオン交換樹脂の安定性を、比較的少量の酸性イオン交換樹脂を添加することによって高めることが、触媒の膨潤を軽減することを開示している。
【0013】
US−A−6160187は、断熱反応器を使用することによってアニオン交換樹脂の膨潤を最小限に抑える方法を提案している。
【0014】
US−A−2002/082456は、アニオン交換樹脂に基づく触媒を収容している反応器からの生成物を同じ反応器に戻して通過させることによって、アニオン交換樹脂に基づく触媒の膨潤速度を低下させる方法を記載している。
【0015】
このように文献に見られる努力は、これまで触媒の膨潤の主因であると教示されてきた熱膨潤を軽減する手段に集中していた。しかし、上記の諸提案にもかかわらず、触媒の膨潤の軽減の問題は適切には解決されず、触媒の膨潤は依然として、首尾よく行えるイオン交換樹脂を使用する商業的規模の接触加水分解法の提供に対する重大な障害である。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、アルキレングリコールを、対応するアルキレンオキシドの接触加水分解によって調製する方法を提供し、この方法は、
i)最初に、アルキレンオキシドの熱加水分解からの生成物流を含む少なくとも1つの供給物を、触媒の膨潤を誘起させる痕跡量の化合物を捕捉する能力がある固体化合物を含む独立した保護床に通すステップ、および
ii)次いで、処理された供給物および場合により少なくとも1つの他の供給物を、イオン交換樹脂に基づく加水分解触媒を含む触媒床に通すステップ
を含む。
【0017】
やはり本発明によって提供されるのは、アルキレングリコールを、対応するアルキレンオキシドの接触加水分解によって調製する方法であり、この方法は、
i)最初に、アルキレンオキシドを含む少なくとも1つの供給物を、触媒の膨潤を誘起させる痕跡量の化合物を捕捉する能力がある固体化合物を含む独立した保護床に通すこと、および
ii)次いで、処理された供給物および水を含む少なくとも1つの他の反応供給物を、イオン交換樹脂に基づく加水分解触媒を含む触媒床に通すステップ
を含む。
【0018】
本発明はさらに、アルキレングリコールを、対応するアルキレンオキシドの接触加水分解によって調製する方法を提供し、この方法は、
i)最初に、少なくとも1つの反応供給物を、触媒の膨潤を誘起させる痕跡量の化合物を捕捉する能力がある固体化合物を含む2つ以上の独立した保護床の1つに通し、この保護床は並列に配置された2つ以上の独立した容器に収容されており、前記容器は運転中に供給が容器間で切り替えられるような付随する切り替え手段を有しているステップ、および
ii)次いで、前記処理された供給物および場合により少なくとも1つの他の反応供給物を、イオン交換樹脂に基づく加水分解触媒を含む触媒床に通すステップ
を含み、反応供給物の少なくとも1つはアルキレンオキシドを含み、所定の時点で供給物は2つ以上の独立した保護床の他の1つを通るように切り替えられる。
【0019】
本発明はさらに、アルキレンオキシドを対応するアルキレングリコールへ加水分解する方法における、触媒の膨潤を誘起させる痕跡量の化合物を捕捉するための保護床材料としてのイオン交換樹脂の使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明者らは今では、意外にも、アルキレンオキシドのアルキレングリコールへの加水分解における他の種類の触媒樹脂膨潤を確認しており、これは従来からの商業反応供給物中の不純物によって引き起こされるものと考えている。これらの痕跡量の化合物が、極端で指数関数的な触媒材料の膨潤と劣化を引き起こすものと思われる。触媒樹脂の膨潤がこうした不純物によって引き起こされる可能性があることは、これまでには認識されていなかった。
【0021】
したがって、本発明においては、望まれない化合物を捕捉する能力がある固体化合物を含む保護床を、加水分解触媒を含む触媒床と直列に使用して、少なくとも1つの反応供給物を、加水分解触媒を含む触媒床(以後「触媒床」と呼ぶ)に入る前に、この保護床に通す。アルキレンオキシドの加水分解における保護床の使用は、加水分解触媒の膨潤を、特に市販供給物を用いるときに、かなりの程度軽減し、この種の膨潤に由来する工程の妨害をすべて軽減することが見出された。
【0022】
本明細書において使用する「保護床」は、触媒床と直列に前記触媒床の上流にあって、接触加水分解反応供給物から触媒の安定性または活性に対して有害な化合物を除去する能力がある手段を含む、反応床を意味する。本発明において、保護床は触媒の極端で指数関数的な膨潤をもたらす化合物を捕捉する能力がある固体化合物を含む。当業者は、使用するとイオン交換樹脂加水分解触媒の指数関数的な膨潤を排除または軽減する、適当な固体化合物を容易に特定することができる。
【0023】
「独立した保護床」は、加水分解触媒からは分離されており、これと一体ではない触媒床が意図されている。
【0024】
本明細書で使用する「痕跡量の化合物を捕捉する」は、化合物の反応および化合物の吸収を含むが、これらだけには限定されない化学的または物理的方法によって、反応供給物から化合物を除去すること、を意味する。
【0025】
本発明の一実施形態においては、保護床は、分離しており簡単に取り外せる触媒の上部区分、または加水分解触媒床の上にある分離した保護床を、加水分解反応器内部に含む。
【0026】
本発明の好ましい実施形態においては、保護床は、触媒床を収容している反応容器と直列の独立した反応容器内に収容されている。
【0027】
本発明の他の好ましい実施形態においては、保護床は、並列に配置された2つ以上の、例えば4つの、独立した容器が、工程を容器間で切り替えて、それによって工程の連続的な操作を維持することを可能にするように、付随する切り替え手段を有しているものを含む。この配置は保護床中の固体化合物が運転中に消耗することを考慮している。この実施形態において使用可能な適当な切り替え手段は、熟練者には知られている。供給物は、触媒の膨潤を誘起させる痕跡量の化合物を捕捉する能力がある固体化合物が消耗した時点または他の所定の時点で、並列の保護床容器間で切り替えればよい。所定の時点は、可能な限り長い間連続工程の操作が確実に行える任意の適当な時間であり、当然、工程の条件、例えば保護床材料の性格および量、工程温度、その他によって変動することがある。最大限としては、所定の時点は、この触媒床が消耗した時点であり、所定の時点はこの時間の一部分であることもある。あるいは、所定の時点は加水分解触媒が消耗して交換が必要な時点であることもある。
【0028】
本発明の好ましい実施形態においては、保護床中の固体化合物は、炭酸水素塩、塩化物、水酸化物、硫酸塩、およびチオ硫酸塩形態を含む強塩基性イオン交換樹脂、例えばLEWATIT M 500 WS、AMBERJET 4200、DOWEX MSA−1、MARATHON−A、MARATHON−MSAおよびReilex HPQの商標で知られているもの;弱塩基性イオン交換樹脂、例えばDUOLITE A 368、AMBERLYST A−21、AMBERLITE IRS−67、AMBERLITE IRA−94、AMBERLITE IRA−96、DOWEX 66、DIAION WA10、DIAION WA20、DIAION WA21J、DIAION WA30、PUROLITE A 100、PUROLITE 103、LEWATIT S 100 MBおよびLEWATIT S 100 G1の商標で知られているもの;弱酸性イオン交換樹脂、例えばAMBERLITE IRC−50、AMBERLITE GC−50、AMBERLITE IRP−64、AMBERLITE IRP−88、AMBERLITE IRC−86、AMBERLITE IRC−76、IMAC HP 336およびLEWATIT CNP 80の商標で知られているもの;強酸性イオン交換樹脂、例えばAMBERLYST 15、AMBERJET 1500H、AMBERJET 1200H、DOWEX MSC−1、DIANON SK1B、LEWATIT VP OC 1812、LEWATIT S 100MBおよびLEWATIT S 100 G1の商標で知られているもの;活性炭;固体担体上のチオ硫酸塩;モレキュラーシーブ、ゼオライト;シリカゲル;および固体担体上の1つまたは複数の金属、例えばモノリス担体上のMn/Cu、固体鉄促進アルミナ担体またはカーボン上のK/Ptから選択される。
【0029】
本発明の方法の触媒床中で使用できる触媒は、当技術分野において知られている。好ましい触媒は固体支持体としてイオン交換樹脂含むものである。より好ましくは、触媒は固体支持体として塩基性イオン交換樹脂、特に強塩基性(アニオン)イオン交換樹脂であり、この塩基性基は第四級アンモニウムまたは第四級ホスホニウムである。
【0030】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、保護床および触媒床の両方が強塩基性イオン交換樹脂を含む。大いに適切な例は炭酸水素アニオンを有する第四級アンモニウムイオン交換樹脂、AMBERJET 4200である。
【0031】
「反応供給物」または「供給物」は、反応の間に触媒床に通す、あらゆる化合物または化合物の混合物を包含するものとする。本発明においては、商業プラントから得た1つまたは複数の反応供給物を、何の処理または精製もすることなく直接使用することができる。
【0032】
本発明は反応供給物が水およびアルキレンオキシドを含む場合のアルキレンオキシドの接触加水分解のために使用することができる。これはまた、反応供給物が熱アルキレンオキシド加水分解反応器からのアルキレングリコールおよび水の生成物流を、必要に応じて、直接酸化法から得られた追加の対応するアルキレンオキシドと共に、含む場合の方法にも適用されることができる。
【0033】
本発明のアルキレンオキシド供給物は、精製されたアルキレンオキシドを含んでいてもよい。このアルキレンオキシドは、他の反応物(例えば、水)と混合されていてもよい。さらに、本発明のアルキレンオキシド供給物は、商業的アルキレンオキシドプラントから得たアルキレンオキシドを、さらなる精製はしなくても、またはさらに1つまたは複数の、例えば蒸留による、精製処理をされた後でも、含むことができる。
【0034】
本発明においては、1つまたは複数の反応供給物は、触媒床に入る前に、保護床に通す。
【0035】
本発明の一実施形態においては、アルキレンオキシドを含む供給物は、触媒床に入る前に、保護床に通す。このとき、水を含む少なくとも1つの他の供給物も触媒床に供給する。本発明の一実施形態においては、少なくとも1つの他の供給物は、対応するアルキレンオキシドの熱加水分解から得たアルキレングリコールおよび水の生成物流を含むことができる。
【0036】
本発明の他の一実施形態においては、対応するアルキレンオキシドの熱加水分解から得たアルキレングリコールおよび水の生成物流を含む供給物は、触媒床に入る前に、保護床に通す。かかる供給物はさらに、十分な未処理のアルキレンオキシドを、アルキレングリコールへの転化のために含有することができる。しかし、補充のオキシドが必要とされる場合には、アルキレンオキシドを含むもう1つの反応供給物を同じまたは異なる保護床に通してもよく、あるいは、初めに保護床に通すことなく、触媒床内に通してもよい。
【0037】
本発明の方法において出発原料として使用するアルキレンオキシドには慣例的な定義があり、すなわちこれらは分子内に隣接オキシド(エポキシ)基を有する化合物である。
【0038】
特に適当であるのは一般式、
【0039】
【化2】

[式中、R〜Rは独立に、水素原子または、場合により置換された、1〜6個の炭素原子を有するアルキル基を表す。]のアルキレンオキシドである。R、R、Rおよび/またはRによって表される任意のアルキル基は、好ましくは1〜3個の炭素原子を有する。置換基としては、ヒドロキシ基などの不活性部分が存在し得る。好ましくは、R、RおよびRは水素原子を表し、Rは無置換のC〜C−アルキル基を表し、より好ましくは、R、R、RおよびRはすべて水素原子を表す。
【0040】
したがって、適当なアルキレンオキシドの例は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタンおよびグリシドールなどである。本発明において最も好ましいアルキレンオキシドはエチレンオキシドである。
【0041】
アルキレンオキシドの調製は当業者には周知である。エチレンオキシドの場合、これは周知のエチレンの直接酸化、すなわち銀系触媒およびしばしば有機調節剤、例えば有機ハライドも使用する空気酸化または酸素酸化によって調製することができる。しかし、商業的プラントから得られる任意のエチレンオキシド原料が適当である。
【0042】
アルキレンオキシドの加水分解を過剰量の水を使用しないで行うことが有利である。本発明による方法においては、接触加水分解反応器中の水の量は、アルキレンオキシドの1モル当たり1〜15モルの範囲が、かなり適当であり、同じ基準で1〜6の範囲の量が好ましい。本発明の方法においては、モノアルキレングリコールに関する高い選択性は、アルキレンオキシド1モル当たりに水を4〜5モルだけ供給する場合にしばしばすでに達成される。
【0043】
本発明のある実施形態においては、接触反応器に二酸化炭素を添加することが有益である。こうした二酸化炭素は、好都合には直接反応器に添加すればよく、または保護床の前か後のいずれか一方の反応供給物に添加することもできる。二酸化炭素を添加する場合には、他の反応パラメーター、特に使用する触媒の種類との関係において、添加する二酸化炭素の量を変化させて最適の性能を得ることができる。しかし、添加量は接触反応器中の反応物の全量に対して好ましくは0.1重量%未満、より好ましくは0.01重量%未満である。反応混合物中では、反応器出口での含有量として判定して、二酸化炭素の含有量は適当には最大30ppm、きわめて適当には最大25ppmである。反応混合物中に存在する最小限の量は、好都合には二酸化炭素が1〜2ppm程度である。
【0044】
本発明の方法はバッチ操作で行うことができる。しかし、特に大規模の実施形態のためには、本方法は連続的に操作することが好ましい。
【0045】
本発明のかかる連続法は、上向流または下向流で操作する固定床反応器中で行うことが可能である。下向流操作が好ましい。
【0046】
本発明の反応器は、等温、断熱または混成の条件下に維持すればよい。等温反応器は一般にシェルアンドチューブ反応器、ほとんどは多管型であり、管内に触媒が収容され冷却剤が管外を通過する。断熱反応器は冷却されず、これらを出る生成物流は独立した熱交換器中で冷却される。
【0047】
本発明の方法では、EOの接触転化は不完全なことがあり、この状況では残っているEOが反応器の触媒床の下のデッドスペース中で熱的に加水分解される可能性がある。この熱加水分解は、MEGに向かう特異性がより低いので、反応器内の液ホールドアップを最小限に抑えることが好ましい。これは、反応器の出口部分をインターナルまたは不活性充填物で満たしてその容積を減らすこと、および/または反応器供給混合物に窒素などの不活性ガスを加えて反応器をいわゆる細流(滴下流)状態で操作することによって達成することが可能である。
【0048】
適切な時間−収量値を得るためには、本方法を高められた温度および圧力条件下で実行することが推奨される。
【0049】
接触加水分解のために適当な反応温度は、一般に70〜200℃の範囲内であり、80〜150℃の範囲内の温度が好ましい。
【0050】
保護床中に収容されている、痕跡量の化合物を捕捉する能力がある固体化合物、および処理される反応供給物にも依存して、保護床の適当な反応温度は0℃〜200℃の範囲内である。保護床は適当には固体化合物が熱的に分解しない温度で操作される。したがって、イオン交換樹脂触媒の場合は、好ましくは反応温度は120℃を超えてはならず、ゼオライト触媒の場合は、反応温度はこれを超えることが可能である。保護床によって処理される反応供給物がアルキレンオキシドを含む場合は、ずっと低い温度範囲が最も有用である。
【0051】
好ましい実施形態においては、アルキレンオキシドの熱加水分解から得たアルキレングリコールおよび水の生成物流を含む反応供給物は、触媒床に入る前に、強塩基性イオン交換樹脂を含む保護床に通し、保護床は70〜120℃の範囲内の温度で操作する。
【0052】
さらに好ましい実施形態においては、少なくとも1つの反応供給物は、触媒の膨潤を誘起させる痕跡量の化合物を捕捉する能力がある固体化合物を含む独立した保護床に通し、次いで前記処理された供給物および場合により少なくとも1つの他の反応供給物は、イオン交換樹脂に基づく加水分解触媒を含む触媒床に通し、この際反応供給物の少なくとも1つはアルキレンオキシドを含み、触媒床に入る前に、強塩基性のイオン交換樹脂を含み0〜60℃の範囲内、好ましくは20〜60℃の範囲内の温度で操作されている保護床に通す。
【0053】
すべての反応器中の反応圧力は、通常200〜3000kPaの範囲内で選択され、好ましくは200〜2000kPaの範囲内である。本方法のバッチ操作については、選択された反応圧力は窒素などの不活性ガスを用いて加圧することによって好都合に得られる。所望とあれば、混合ガス、例えば二酸化炭素と窒素の混合物が特定の事例において好都合である。
【0054】
反応のLHSVは、触媒および反応温度に依存性である。個々の反応器についての最適のLHSVは、反応器の大きさならびに前記反応器を含むプラントの規模および能力にも依存する。反応のLHSVは、好ましくは0.5〜20l/l.hの範囲内である。
【0055】
依然として運転中に起こり得る触媒の熱膨潤に対応するためには、反応器の容量が中の触媒が占める容積よりも、例えば10〜70容積%、大きいと好都合である。
【0056】
エチレンオキシドが加水分解されている特定の方法において時々起こる1つの問題は、生成物流中の不純物としてアミンおよび/またはホスフィンが少量存在することである。触媒アニオンの固体担体として強塩基性アニオン交換樹脂を使用する場合、その塩基性基は第四級アンモニウム基または第四級ホスホニウム基を含む。運転中に、樹脂からアミンまたはホスフィンが少量、生成物流中に滲出することが見出された。さらに、生成物流中のアミンは、工程において使用される水に添加された腐食防止剤にも由来する。最終製品に到達するこうしたアミンまたはホスフィン汚染物の量は一般に非常に少ないが、これらは最終製品の品質に影響することがあり、その量を製品の品質に影響しないように可能な限り低いところまで減少させることが望ましいことがある。例えば、トリメチルアミン(TMA)および/またはジメチルアミン(DMA)は10ppmまでの量で最終製品に到達するが、TMAの魚のような臭いは1ppbという低い量でも感知することができる。
【0057】
本発明の方法を含めて、一般にエチレンオキシドが加水分解されるどの方法の生成物流中にも存在する可能性がある、アミンおよび/またはホスフィンを除去する効果的な手段は、アミンおよびホスフィンを効果的に捕捉する強酸性イオン交換樹脂を収容している後段反応器床の使用であることが分かっている。強酸性イオン交換樹脂は、スルホン酸型のものでよい。市販されている例は、AMBERLYST 15,AMBERJET 1500H、AMBERJET 1200H、DOWEX MSC−1、DOWEX 50W、DIANON SK1B、LEWATIT VP OC 1812、LEWATIT S 100MBおよびLEWATIT S 100 G1の商標で知られているものである。こうした強酸性イオン交換樹脂は、H型でおよびNa型などの塩型で入手できる。強酸性イオン交換樹脂のH+型だけを後段反応器保護床中で使用する場合は、これを通った後の生成物流は酸性になることがある。強酸性イオン交換樹脂のH型および塩型の混合物を使用することには、生成物流のpHが中性に近いままに留まるという利点がある。
【0058】
強酸性後段反応器床のもう1つの利点は、まだ生成物流中に存在することがあるアルキレンオキシドがすべてアルキレングリコールに、モノアルキレングリコールへの選択性は低いながらも、加水分解されることである。
【0059】
運転中の強酸性イオン交換樹脂の消耗を考慮するためには、後段反応器床を2つ以上の独立した容器で操作し、2つの容器間で工程を切り替えられるようにして連続操作を維持することが有利である。
【0060】
消耗した強酸性イオン交換樹脂は、HClおよびHSOなどの樹脂マトリックス中のスルホン酸基よりも強い酸で処理することによって再生することが可能である。0.1〜2Nの熱硫酸が有効であると分かっている。
【0061】
以下の実施例は本発明を例示する。
【実施例】
【0062】
以下の4つの固定床反応器を使用した。
反応器1(独立した保護床)には、触媒(AMBERJET 4200/炭酸水素塩−Rohm and Haas)30mLを充填した。
反応器2(接触反応器−独立した保護床反応器1と直列)には、触媒(AMBERJET 4200/炭酸水素塩−Rohm and Haas)30mLを充填した。
反応器3(接触反応器−独立した保護床なし)には、触媒(AMBERJET 4200/炭酸水素塩−Rohm and Haas)30mLを充填した。
反応器4(後段反応器)には、アミンを捕捉しEOの最後の痕跡量をEGに転化させるために酸性樹脂(IRC−86−Rohm and Haas)30mLを充填した。IRC−86は、残留EOの転化において乏しい活性を示したので、2500時間後にAMBERLYST 15(Rohm and Haas)で置き換えた。
【0063】
反応器は図の反応器配列の略図において示した通りに接続した。実施例1においては、エチレングリコール/水の供給物5およびCO/水の供給物6は、保護床反応器1に通し、次いで得られた反応器供給物8を、エチレンオキシド供給物7と一緒に触媒反応器2に加えた。実施例2においては、反応器3がエチレングリコール/水、CO/水およびエチレンオキシドの供給物5、6および7を独立した保護床を使用せずに受け入れた。両実施例において使用された反応器4は、触媒反応器2および3からの生成物流9および10からアミンを除去し、EOの最後の痕跡量を転化するための後段反応器床を収容していた。
【0064】
精製エチレンオキシド(EO)供給物7を使用した。
【0065】
CO/水の供給物6を加えて2つのEO転化反応器2および3の生成物流9および10中のCOを20ppmとした。
【0066】
大規模熱EO加水分解反応器から得たエチレングリコール/水の供給物5は、実験を通じて精製せずに使用し、実験は表1に示した操作条件で行った。操作300時間までは、EOの流量は10g/hであり、これは操作300時間で、反応器2および3内の触媒反応器床の全体をEOに曝すために7g/hに調節した。
【0067】
【表1】

週1回、サンプルを採り、膨潤を測定した。
【0068】
反応器3(独立した保護床なし)は操作1500時間および3000時間で閉塞し、この時点で触媒を約11〜12%除去してから反応を続けた。反応器3は操作5246時間でまた閉塞し、実験を停止した。
【0069】
反応器2(独立した保護床付き)は1回だけ操作5314時間で閉塞し、実験を停止した。2つの実験の終了時に、接触加水分解反応器2および3双方から触媒を取り出してさらに分析した。
【0070】
反応器3(独立した保護床なし)中の全膨潤は92.2%であり、反応器2(独立した保護床付き)についての全膨潤は74.8%であった。触媒の約11〜12%を操作1500時間および3000時間で取り出してでさえ(したがって、このサンプル部分は、実験の最後の部分の間は膨潤しなかった。)、反応器3の全膨潤は反応器2の全膨潤よりも大きかった。
【0071】
本発明者らはイオン交換樹脂の膨潤の研究を行って、熱劣化およびこれに続くエチレンオキシドの取り込みの結果としての膨潤は経時的に直線的な速度で起こることを見出した。最大の膨潤は反応器の底の方で見出された。しかし、商業反応供給物に曝された場合は、意外にも第2の種類の膨潤を、膨潤の性格および膨潤した触媒粒子の特徴によって、区別することができ、この膨潤は供給物中の痕跡量の不純物の結果として起こったと考えられている。
【0072】
供給物中の痕跡量の不純物によって引き起こされる膨潤の速度は時間にわたって指数関数的な性格を有する傾向がある。最大の膨潤は一般に反応供給物が最初に触媒に接触する場所である反応器の上端で起こる。
【0073】
反応器2(独立した保護床付き)中の触媒は、触媒の熱劣化によって引き起こされる膨潤を示唆する一定の、1.4%/100hの直線的膨潤を経験した。さらに、反応器2(独立した保護床付き)からの使用済み触媒の分析は、最も膨潤した部分は反応器中の下の方の部分であったことを示して、やはり触媒の熱劣化を示唆した。
【0074】
反応器3(独立した保護床なし)中の触媒は、反応器2(独立した保護床)と比較して増加した速度で膨潤し、反応器2の閉塞が1回も起こらないうちに、触媒の膨潤が原因で3回閉塞した。分析は、最大の膨潤が反応器の上端で起こったことを示して、供給物中の痕跡量の不純物による大きな膨潤寄与を示唆した。
【0075】
(グリコールの取り込みについて修正された)選択性は、実験を通じて両方の反応器において高く留まった。転化レベルも高く留まり、実験の終了近くで極端な触媒劣化条件下でだけ低下した。
【0076】
結論として、独立した保護床の使用が、接触EO加水分解反応器における供給物中の痕跡量の不純物に起因するとされる膨潤を大幅に軽減することが示された。
【0077】
反応器3においては、触媒の取り出された小部分は保護床として働いてはいたが、頻繁な停止、触媒床の開放、および次いで膨潤した触媒床上部の取り出しは、商業規模の操作においては実用的でなく、また取り出した量は、いずれにしても、短時間後の再度の閉塞を防止するには不十分であった。さらに、膨潤した触媒を取り出すことによって、触媒の大きく減少した触媒量で加水分解反応を実行することも、商業的な操作においては大いに望ましくない。
【0078】
しかし、接触加水分解反応器内部の加水分解触媒の上方に、触媒の分離した簡単に取り出せる上方部分、または独立した保護床を置くことは、実現可能であり、本発明の範囲の内部で熟考されている。
【0079】
商業的規模のシステムのために最も好ましいシステムは、反応器2と共に使用されたもののような独立した保護床システムであり、これは1つまたは複数の追加の保護床反応器と共にタンデムで、例えばスイング反応器システムとして操作することができ、触媒の能力消耗の後供給物を1つの保護床からもう1つの保護床へ切り替えることによって、工程を「ダウン」すなわち停止時間なしで継続することを可能にする。消耗した保護床触媒は、次いで以後の使用のために取り替えるか再生することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例において使用する反応器の配列を示す略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)最初に、アルキレンオキシドの熱加水分解からの生成物流を含む少なくとも1つの供給物を、触媒の膨潤を誘起させる痕跡量の化合物を捕捉する能力を有する固体化合物を含む独立した保護床に通すステップ、および
ii)次いで、処理された供給物および場合により少なくとも1つの他の反応供給物を、イオン交換樹脂に基づく加水分解触媒を含む触媒床に通すステップ
を含む、アルキレングリコールを対応するアルキレンオキシドの接触加水分解によって調製する方法。
【請求項2】
少なくとも1つの他の反応供給物がアルキレンオキシドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
i)最初に、アルキレンオキシドを含む少なくとも1つの供給物を、触媒の膨潤を誘起させる痕跡量の化合物を捕捉する能力を有する固体化合物を含む独立した保護床に通すステップ、および
ii)次いで、処理された供給物および水を含む少なくとも1つの他の反応供給物を、イオン交換樹脂に基づく加水分解触媒を含む触媒床に通すステップ
を含む、アルキレングリコールを対応するアルキレンオキシドの接触加水分解によって調製する方法。
【請求項4】
少なくとも1つの他の反応供給物がアルキレンオキシドの熱加水分解からの生成物流を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記独立した保護床が、前記加水分解触媒を含む第2の反応器容器と直列に操作される第1の反応器容器内に収容されている、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
i)最初に、少なくとも1つの反応供給物を、触媒の膨潤を誘起させる痕跡量の化合物を捕捉する能力を有する固体化合物を含む、2つ以上の独立した保護床の1つに通し、この保護床は並列に配置された2つ以上の独立した容器に収容されており、およびここで前記容器は運転中に供給が容器間で切り替えられるような付随する切り替え手段を有するステップ、および
ii)次いで、前記処理された供給物および場合により少なくとも1つの他の反応供給物を、イオン交換樹脂に基づく加水分解触媒を含む触媒床に通し、およびここで反応供給物の少なくとも1つはアルキレンオキシドを含み、ならびに所定の時点で供給物は2つ以上の独立した保護床の他の1つを通るように切り替えられるステップ
を含む、アルキレングリコールを対応するアルキレンオキシドの接触加水分解によって調製する方法。
【請求項7】
ステップi)の少なくとも1つの反応供給物が、アルキレンオキシドを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1つの他の反応供給物も触媒の膨潤を誘起させる痕跡量の化合物を捕捉する能力を有する固体化合物を含む保護床に通す、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
固体化合物が、強塩基性イオン交換樹脂、弱塩基性イオン交換樹脂、酸性イオン交換樹脂、活性炭、固体担体上のチオ硫酸塩、ゼオライト、シリカゲルおよび固体担体上の1つ以上の金属から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
固体化合物が強塩基性イオン交換樹脂である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アルキレンオキシドを含む反応供給物を、0から60℃の範囲内の温度において、強塩基性イオン交換樹脂を含む保護床に通す、請求項2から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
対応するアルキレングリコールおよび水の混合物を含む反応供給物を、70から120℃の範囲内の温度において、強塩基性イオン交換樹脂を含む保護床に通す、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
アルキレンオキシドが、一般式
【化1】

[式中、RからRは、独立に、水素原子または1から6個の炭素原子を有する、場合により置換されたアルキル基を表す。]を有し、好ましくはエチレンオキシドである、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
アルキレンオキシドの対応するアルキレングリコールへの加水分解のための方法における、触媒の膨潤を誘起させる痕跡量の化合物を捕捉するための保護床材料としてのイオン交換樹脂の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2008−525382(P2008−525382A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−547545(P2007−547545)
【出願日】平成17年12月23日(2005.12.23)
【国際出願番号】PCT/EP2005/057151
【国際公開番号】WO2006/067231
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(590002105)シエル・インターナシヨナル・リサーチ・マートスハツペイ・ベー・ヴエー (301)
【Fターム(参考)】