説明

触媒担体、触媒担体用エレクトレット、触媒反応系の製造方法、及び、触媒担体用エレクトレットの製造方法

【課題】外部からの電源供給が無くてもNEMCA効果を発現できる、触媒担体、それに用いるエレクトレット、触媒反応系の製造方法、及び、触媒担体用エレクトレットの製造方法を提供する。
【解決手段】触媒担体としては、エレクトレットに蓄積した静電気を用いて触媒を活性化するものであり、触媒担体用エレクトレットとしては、イオン伝導体、圧電体を含む誘電体表面に直流電界処理により安定静電荷を付与したものである。触媒反応系の製造方法としては、触媒および/または集電体に静電場効果が導入されるように該触媒と集電体を担持させることよりなり、触媒担体用エレクトレットの製造方法としては、イオン伝導体、圧電体を含む誘電体表面に直流電界処理を施して安定静電荷を付与するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体、触媒担体用エレクトレット、触媒反応系の製造方法、及び、触媒担体用エレクトレットの製造方法に関し、特に、外部からの電源供給が無くてもNEMCA効果を発現できる、触媒担体と、それに用いるエレクトレット、触媒反応系の製造方法、及び、触媒担体用エレクトレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
NEMCA(Non-faradaic electrochemical modification of catalytic activity:非ファラデー電気化学的触媒活性化)効果とは、イオン伝導体(固体電解質)上に形成したアノードおよびカソードと、電極上に形成した酸化還元触媒からなる系に対して電圧を印加することで触媒反応が活性化する現象である。
有機化合物の酸化還元反応やSO、NOのような排ガス浄化反応にこのNEMCA効果を利用する技術が、例えば特許文献1や特許文献2において既に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−80490号公報
【特許文献2】特開2009−113003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、NEMCA効果の発現には外部回路からの連続的な電圧印加が必要であることから、その応用範囲が限定されており、特に、発電デバイスの電極触媒に適用することが検討された例はなかった。
【0005】
本発明は、外部からの電源供給が無くてもNEMCA効果を発現できる、触媒担体、それにもちいるエレクトレット、触媒反応系の製造方法、及び、触媒担体用エレクトレットの製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、外部から供給する「動電気」ではなく、エレクトレットと呼ばれる材料を触媒担体とすることで、内的に保持させた「不揮発性静電気」によって触媒および/または集電体周囲に空間電荷層を形成し、外部電源フリーなNEMCA効果の発現を実現させようとするものである。
発明者らは、発電デバイスへも適用可能なNEMCA効果を備える触媒反応系の構築を試み、鋭意検討の結果、触媒担体として、静電気を半永久的に保持し得る材料である「エレクトレット」を利用し、エレクトレットの持つ表面電場空間を反応場とすることで、外部電源を必要としない「ワイアレスNEMCA効果」を発現させることが可能であることを見出した。
さらに、本発明者は、イオン伝導性、圧電性を有する無機単結晶またはセラミックスの直流電界処理により安定静電荷を付与したエレクトレットを触媒担体とし、これに触媒と集電体とを担持させた触媒反応系において、水溶液を含む湿潤環境や有機溶媒中においてもエレクトレット表面の電荷が不可逆に消費されない、持続的な「ワイアレスNEMCA効果」を発現させることが可能であることを見出した。
また、本発明者は、水溶液中における酸素還元反応を対象として、直流電界処理によって表面に安定静電荷を付与したイットリア安定化ジルコニアセラミックス(YSZエレクトレット)を触媒担体とした系における静電荷の極性と触媒活性の相関を調べ、この系は「不揮発性静電気」が形成する静電場によるNEMCA効果の発現に有用であることを見出した。
【0007】
本発明は、本発明者が見出した上記の知見に基づき成されるに至った。
本発明は以下の態様により具現化することができる。
エレクトレットに蓄積した静電気を用いて触媒を活性化する触媒担体。
エレクトレットと、前記エレクトレットに担持された触媒と集電体とを備え、前記触媒および/または集電体に前記エレクトレットによる静電場効果を付与することのできる触媒担体。
前記触媒および/または集電体周囲に空間電荷層が形成されている上述触媒担体。
イオン伝導体、圧電体を含む誘電体表面に直流電界処理により安定静電荷を付与した触媒担体用エレクトレット。
前記誘電体がイオン伝導性、圧電性を有する無機単結晶またはセラミックスである上述触媒担体用エレクトレット。
前記誘電体がYSZセラミックスである上述触媒担体用エレクトレット。
触媒および/または集電体に静電場効果が導入されるように該触媒と集電体とを担持させることよりなる触媒反応系の製造方法。
前記静電場効果は、前記触媒および/または集電体周囲に空間電荷層が形成されることにより導入される上述触媒反応系の製造方法。
イオン伝導体、圧電体を含む誘電体の表面に直流電界処理により安定静電荷を付与してエレクトレットを形成し、前記エレクトレットに触媒を担持させる触媒反応系の製造方法であって、前記触媒および/または集電体に静電場効果が導入された状態で前記触媒と集電体が担持された触媒反応系の製造方法。
イオン伝導体、圧電体を含む誘電体表面に直流電界処理を施して安定静電荷を付与する触媒担体用エレクトレットの製造方法。
前記誘電体がイオン伝導性、圧電性を有する無機単結晶またはセラミックスである上述触媒担体用エレクトレットの製造方法。
前記誘電体がYSZセラミックスである上述触媒担体用エレクトレットの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の触媒担体は、静電気を蓄積させたエレクトレットを用いて触媒を活性化することにより、外部からの電源供給が無くてもNEMCA効果を発現させることができ、発電を行うデバイスに適用することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例2における、陽極接触下で分極処理されたエレクトレット表面(N面)上の触媒層と、非帯電および陰極接触下で分極処理された表面(それぞれ、0面およびP面)上の触媒層との、活性化支配電流の比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の触媒担体、それにもちいるエレクトレット、触媒反応系の製造方法、及び、触媒担体用エレクトレットの製造方法について、実施例等を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例等に限定されるものではない。
【0011】
〔実施例1〕
市販の3 mol%Y2O3-ZrO2粉末(TZ-3Y、東ソー株式会社)を180 MPaの一軸加圧とそれに続く470 MPaの冷間等方加圧により圧粉体とした後、大気中、1450 ℃で120分間熱処理して焼結体ディスク(φ10 mm×1 mm)とした。このディスクの両面に、大気中、850 ℃で金電極(集電体)を焼付けた後、これを白金対向電極に矜持した状態で200〜300 ℃まで昇温、0〜720分間、250 Vcm-1の直流電界を印加して分極状態を誘起し、さらに電界を保持したまま室温まで冷却することでYSZセラミックエレクトレット作成した。
得られた試料の帯電状態は、室温から850 ℃の温度範囲における熱誘起脱分極電流(TSDC)測定により評価した。
【0012】
TSDC測定の結果、得られたYSZセラミックエレクトレットは、汎用ポリマーエレクトレットと比較して103〜107倍、代表的圧電体の最大残留分極値と比較して101〜105倍に上る超高密度電荷を表面に保持していることが確認された。また、各試料の25 ℃における分極緩和時間は、最も早く緩和する分極モードであっても103〜105年以上であると見積もられ、YSZセラミックエレクトレット内に高密度蓄積された電荷が極めて高い安定性を有していることが示唆された。
以降、電界処理時に陽極と接していた面をN面、陰極と接していた面をP面、また未処理面を0面と称する。
【0013】
〔実施例2〕
鏡面研磨を施したYSZセラミックディスク(φ10 mm×1 mm)に、大気中、850 ℃で金電極(集電体)を焼き付けたのち、300 ℃で480分、250 Vcm-2の条件で分極処理を行うことでYSZエレクトレット基板を作成した。純水で十分に洗浄した各面の金電極上に、50 wt%イソプロパノール水溶液を溶媒として0.8 g/lに調整した白金-カーボン系酸素還元反応(ORR)触媒(Pt= 50 wt%; TEC10E50E、田中貴金属株式会社)懸濁液を滴下し、イソプロパノール雰囲気下、3時間かけて溶媒を徐々に蒸発させることにより触媒層を形成した。懸濁液の滴下量は、φ10 mmのディスクに対して9.8 μlとしたが、これは、乾燥後の触媒層が原子一層分となることを想定して算出した値である。
触媒担持YSZディスクはガスバブリング下のHClO4水溶液中にて回転ディスク電極(RDE)測定に供し、得られた結果よりORRの活性化支配電流Ikを算出、これを指標として、触媒の酸素還元反応活性に及ぼす帯電担体の影響を評価した。
図1に、N、Pおよび0の各面に形成した金電極/触媒層における酸素還元反応に対するRDE 測定結果より見積もったIkを、掃引電位に対してプロットしたものを示す。0.80〜0.85 Vの範囲において、N面に塗布した触媒上のIkが、他の面と比して有意に大きくなっていることが分かる。
【0014】
上述のとおり、イットリア安定化ジルコニアの酸化物イオン伝導特性を利用することにより、汎用ポリマーエレクトレットと比較して103〜107倍に上る超高密度電荷を103〜105年以上の長期にわたって保持する新たなセラミックエレクトレットの創生に成功した。
また、得られたエレクトレットを担体とする白金-カーボン触媒/金集電体層の酸素還元反応評価により、負に帯電したエレクトレット表面(N面)に形成した触媒層で、非帯電および正に帯電した表面(それぞれ、0面およびP面)上の触媒層と比して有意に高い活性化支配電流が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトレットに蓄積した静電気を用いて触媒を活性化する触媒担体。
【請求項2】
エレクトレットと、前記エレクトレットに担持された触媒と集電体とを備え、前記触媒および/または集電体に前記エレクトレットによる静電場効果を付与することのできる触媒担体。
【請求項3】
イオン伝導体、圧電体を含む誘電体表面に直流電界処理により安定静電荷を付与した触媒担体用エレクトレット。
【請求項4】
触媒および/または集電体に静電場効果が導入されるように該触媒と集電体を担持させることよりなる触媒反応系の製造方法。
【請求項5】
イオン伝導体、圧電体を含む誘電体の表面に直流電界処理により安定静電荷を付与してエレクトレットを形成し、前記エレクトレットに触媒と集電体とを担持させる触媒反応系の製造方法であって、前記触媒および/または集電体に静電場効果が導入された状態で前記触媒と集電体が担持された触媒反応系の製造方法。
【請求項6】
イオン伝導体、圧電体を含む誘電体表面に直流電界処理を施して安定静電荷を付与する触媒担体用エレクトレットの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−56331(P2013−56331A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196205(P2012−196205)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】