説明

触媒担持体および触媒担持ステンレス鋼材

【課題】煩雑な工程によらず簡単に触媒物質を担持させることができ、かつ、担持後も触媒活性を発揮させやすい多孔状の表面形態が容易に得られるようなステンレス鋼製触媒担持体を提供する。
【解決手段】クリプトンガス吸着法で測定される完全平滑面対する表面積増加率が3〜10であり、分解能0.01μmの走査型レーザー顕微鏡で一辺が50μm以上の矩形の表面領域を測定したときの面粗さSPaが0.3μm以上である電解粗面化表面を持つステンレス鋼材からなる触媒担持体。前記電解粗面化表面は、電解によって生じたピットによって構成されており、例えば塩化第二鉄水溶液中での交番電解によって形成されるものである。前記ステンレス鋼材としては、公知のオーステナイト系鋼種またはフェライト系鋼種が適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解粗面化表面を持つステンレス鋼材からなる触媒担持体、およびその表面に触媒物質を担持させた触媒担持ステンレス鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全対策として、触媒機能を利用した汚染物質の浄化が様々な分野で実施されている。たとえば、TiO2などの光触媒を利用して大気汚染を軽減する試みが多方面でなされている。また、大気汚染の一因となっているガソリン自動車の排ガスは、Pt触媒によって浄化されている。
【0003】
一方、環境におよぼす影響を考慮した動力源として、各種の燃料電池が開発されている。燃料電池の燃料として使用される水素を精製するために、メタンガス等をPt触媒によって改質する試みがなされている。
【0004】
使用される触媒物質の種類は、その用途によって様々であるが、Ptなどの貴金属を使用したり、貴金属でなくとも微細に調整した粉末を原料としたりすることから総じて高価なものとなる。そのため、使用する触媒の性能を最大限に利用するために、担持された触媒が反応物質に対して最大限に接触できるような工夫がなされている。
【0005】
一般に、触媒担持体は、セラミックス系の基体上にウオッシュコート層を形成させ、触媒粉末を担持している。たとえば500〜600℃位の高温で触媒機能を発揮するPt触媒用担持体には、アルミナ、シリカなどのセラミックス製のウオッシュコート層が形成される。担持体の原料である粉末を焼成し触媒担持体を形成する際にマイクロポアの存在する多孔質体とすることで触媒担持量を多くして、触媒活性を増大させている。また、近年、自動車の排ガス浄化用の触媒担持体としてステンレス鋼が使用されている。ステンレス鋼など金属製の触媒担持体は、耐衝撃性がセラミックス系の担持体より優れ薄肉化も可能であることから、軽量化やコンパクト化を図る上で有利であり、特に自動車などの移動体への搭載には好適である。
【0006】
【特許文献1】特開昭56−96726号公報
【特許文献2】特開昭57−71898号公報
【特許文献3】特開昭56−121641号公報
【特許文献4】特開昭58−177437号公報
【特許文献5】特開平7−323233号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、ステンレス鋼など金属製の触媒担持体は、触媒を担持するための表面積を、マイクロポアを有するセラミックス製の触媒担持体のように大きくすることができず、触媒活性が劣るといった問題点があった。
【0008】
金属製の触媒担持体においては、特にステンレス鋼は、高温での耐酸化性に優れることから、ステンレス鋼の箔をコルゲート加工してハニカム状のフレームを形成し、そのフレームに触媒物質を把持するためのアルミナ(γ−Al23)をコーティングして、乾燥焼結した後、触媒コーティングを施すことにより、触媒物質をステンレス鋼表面に担持させ、触媒コンバータを得ている。ところが上記ステンレス鋼製のフレームはアルミナとの密着性が必ずしも十分でなく、そのため、種々の改良が試みられている。
【0009】
例えば、その一例として、Alを3〜8質量%含有するAl含有ステンレス鋼を用い、このステンレス鋼を焼きなまし後にコルゲート加工し、成形後、更に熱処理して鋼中のAlを利用してステンレス鋼表面にα−Al23ウイスカー(針状結晶)を生成させ、その針状結晶の上にγ−Al23をコーティングする方法が知られている(特許文献1)。
【0010】
この他、α−Al23ウイスカーの生成を促進するため上記Al含有ステンレス鋼を予めCO2雰囲気等で加熱処理する方法(特許文献2)、あるいはステンレス鋼の成分にZr、Y等を添加し、機械的強度や高温クリープ特性を改善する方法(特許文献3、4)等が知られている。
【0011】
ところが、ステンレス鋼を用いて触媒コンバータのフレームを形成する上記従来方法は、何れも高Al含有ステンレス鋼を用い、ステンレス鋼の加熱処理により鋼中のAlを利用して鋼表面にα−Al23を生成させるものであり、製造工程が煩雑である。
【0012】
また、特許文献5には鉄基合金箔からなるハニカムをγ−Al23またはγ−Al23とα−Al23をベースとするAl拡散剤またはAl−Cr複合拡散剤に埋没させ、700〜950℃で4〜20時間、無酸化雰囲気中で熱処理することにより、AlまたはAl−Crの複合拡散浸透処理と波板/平板の接合を行い、かつ多孔質なハニカム表面を得る方法が開示されている。しかし、この方法においても拡散剤に基材を埋没させて長時間加熱することが必要であり、工程が煩雑である。
【0013】
本発明はこのような現状に鑑み、煩雑な工程によらず簡単に触媒物質を担持させることができ、かつ、担持後も触媒活性を発揮させやすい多孔状の表面形態が容易に得られるようなステンレス鋼製触媒担持体を提供することを目的とする。また、この触媒担持体に触媒物質を担持させた合理的な構成の触媒担持ステンレス鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、クリプトンガス吸着法で測定される完全平滑面対する表面積増加率が3〜10であり、分解能0.01μmの走査型レーザー顕微鏡で一辺が50μm以上の矩形の表面領域を測定したときの面粗さSPaが0.3μm以上である電解粗面化表面を持つステンレス鋼材からなる触媒担持体によって達成される。前記電解粗面化表面は、電解によって生じたピットによって構成されており、例えば塩化第二鉄水溶液中での交番電解によって形成されるものである。前記ステンレス鋼材としては、JIS G4305に規定される公知のオーステナイト系鋼種またはフェライト系鋼種が適用できる。
【0015】
ここで、「完全平滑面に対する表面積増加率」とは、粗面化表面の一定の測定領域についてクリプトンガス吸着法によって測定される表面積Sと、その測定領域の面積S0の比の値、S/S0を意味する。「面粗さSPa」は、JIS B0601−2001に規定される断面曲線の算術平均高さPaを一定面積の表面領域について測定し、その平均値をとったものである。具体的には、SPaは走査型レーザー顕微鏡により測定される三次元表面プロファイルのデータを解析することにより求まる面粗さパラメータの1つであり、断面曲面の平均面に対する断面曲面の標高の絶対値の平均値を意味する。三次元表面プロファイルを測定する表面領域は、一辺が50μm以上の矩形の表面領域とする。すなわち50μm×50μm以上の測定面積を確保する。
【0016】
また本発明では、上記の触媒担持体の粗面化表面を構成しているピット壁に、触媒物質を付着させることにより、触媒物質を担持させた状態の粗面化表面を形成した触媒担持ステンレス鋼材が提供される。具体的には、
(i)Ptめっきを施すことにより、Pt触媒を担持させた状態の粗面化表面を形成した触媒担持ステンレス鋼材、
(ii)TiO2をコーティングすることにより、TiO2光触媒を担持させた状態の粗面化表面を形成した触媒担持ステンレス鋼材、
を挙げることができる。
【0017】
「ピット壁」は、粗面化表面を構成している個々のピットの表面であり、開口部が隣接するピットの間に形成される「稜」の部分もピット壁の一部とみなされる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、触媒物質の担持を容易な工程で行うことができるステンレス鋼製の触媒担持体が提供された。この触媒担持体は、従来のステンレス鋼製触媒担持体と比べ、担持面積が格段に増大しているため、担持後の触媒性能が大幅に向上する。また、ステンレス鋼材を基材とするものであるから、セラミックス製のものに比べ振動や衝撃に対する耐久性が高い。さらにコスト面でも、従来のステンレス鋼製ハニカム担持体やセラミックス担持体に対して有利であると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
触媒活性を大きくするためには、反応に供する物質と接触する触媒の面積を大きくすることが必要である。一方で触媒物質を有効に利用するためには、触媒担持体の表面全面に薄く均一に担持する必要がある。触媒のコーティング面積を大きくするためには、触媒担持体の実表面積を大きくすることが重要である。
【0020】
金属製の触媒担持体の場合は、表面を粗面化することによって実表面積を増大させることができる。ただし、微細なピットを高密度で形成したものでなければ、実表面積を増大させるメリットに乏しい。
【0021】
種々検討の結果、ステンレス鋼を基材として、その表面を塩化第二鉄水溶液中での交番電解により粗面化した場合に、触媒担持体として極めて有効な実表面積の増大効果が得られることが確認された。
【0022】
〔ステンレス鋼〕
本願において「ステンレス鋼」は、Cr含有量が10.5質量%以上の鋼をいう(JIS G0203の番号4201)。触媒担持体としては、用途に応じて既存鋼種の中から適切な耐食性レベルの鋼種を選択することができる。例えばJIS G4305に規定されるオーステナイト系鋼種またはフェライト系鋼種に相当するものを選択することができる。具体的にはオーステナイト系鋼種としてはSUS304系の汎用鋼種の他、SUS310系、SUS315系、SUS316系、SUS317系等の鋼種が挙げられる。フェライト系鋼種としてはSUS430系の汎用鋼種の他、SUS436系、SUS444、SUS445系等の鋼種が挙げられる。
【0023】
また、JIS G4305に規定されるオーステナイト系鋼種またはフェライト系鋼種をベースとして、用途に応じて、Al:5質量%以下、Ti:1質量%以下、Nb:1質量%以下、V:1質量%以下、B:1質量%以下、Ca:0.1質量%以下、Mg:0.1質量%以下、Y:0.1質量%以下、REM(希土類元素):0.1質量%以下の1種以上を含有させた組成のステンレス鋼を採用することができる。
【0024】
〔粗面化表面〕
本発明の触媒担持体においては、粗面化表面の第1の要件として、クリプトンガス吸着法で測定される完全平滑面に対する表面積増加率が3〜10であることが要求される。この規定は、粗面化形態を表面積の観点から捉えたものである。触媒担持体では反応に供する物質と接触する触媒物質の面積が、反応の促進に大きく影響するからである。発明者らの検討の結果、上記の完全平滑面に対する表面積増加率(以下、単に「表面積増加率」ということがある)が3未満の場合は、触媒性能を向上させるのに不十分であり、また粗面化処理に要する工程やコストを考慮するとメリットに乏しい。一方、電解処理によって表面積増加率が10を超えるような粗面化表面を得るには困難を伴うことが多い。また、そのような非常に高い表面積増加率の電解粗面化表面では開口径の小さい極めて微細なピットが高密度に形成されている状態となる。この場合、触媒物質の担持によって占領されるピット内部の体積割合が増大するので、ピット内部に残される空隙の割合が減少することになり、却って反応に供する物質と触媒物質との接触が阻害される傾向が大きくなることも懸念される。
【0025】
粗面化表面の第2の要件として、分解能0.01μmの走査型レーザー顕微鏡で一辺が50μm以上の矩形の表面領域を測定したときの面粗さSPaが0.3μm以上であることが要求される。面粗さSPaはピットの深さ方向の形状を大きく反映したパラメータである。概念的にはSPaが大きいほど、深いピットが数多く形成されていることになる。発明者らは種々検討の結果、上述の表面積増加率が前記規定範囲であるとともに、SPaが0.3μm以上となるような形態の電解粗面化表面を形成することが、触媒担持後に優れた触媒活性を発揮せるうえで極めて有効であることを見出した。表面積増加率が上記範囲を満たす大きな値をとるにも拘わらずSPaが0.3μmを下回るような場合には、比較的浅いピットによって大きな表面積が確保されていることを意味し、つまりそのときのピット形状は非常に微細な状態となっていると考えられる。このような粗面化形態では触媒物質を担持させた状態でピット内部に残される空隙の割合が減少してしまい、触媒活性を十分に発揮させることが難しくなる。なお、SPaの上限は電解粗面化によって実現可能な範囲に必然的に制約されるので、特に規定する必要はないが、SPaが概ね1μm以下の範囲で良好な結果が得られることが確認されている。
【0026】
〔電解粗面化〕
電解粗面化に供するステンレス鋼材としては、一般的な酸洗仕上げ材や調質圧延仕上げ材などが適用可能である。電解粗面化処理に供する際には、前処理として通常の電解脱脂を行うことが好ましく、あるいは更に必要に応じて塩酸酸洗を実施することができる。
【0027】
上記のような粗面化形態を得るためには、塩化第二鉄水溶液中での交番電解処理が好適に適用できる。その粗面化メカニズムを簡単に説明する。電解液中でステンレス鋼板を交番電解するとまず、アノード電解によりピットが形成され、次のカソード電解でH2が発生する。このとき電解液中に、Fe3+が含まれていると、まだピットが形成されていないフラットな表面部に比べてピット内部では、一時的にFe3++3OH-→Fe(OH)3の反応が起こる領域までpHが上昇し、この時にピット内壁は、Fe(OH)3に覆われ保護される。このため、次のアノード電解では、ピット内部よりもH2発生により活性化されているフラットな表面が優先的に溶解され、この繰り返しによって、比較的短時間に微細なピットがステンレス鋼表面にほぼ形成される。
【0028】
電解液のエッチング力が弱いと浅めのピットが形成されやすく、エッチング力が増すにつれて半球状あるいは、鍵穴状といったピット開口部の割には深さのあるピットが形成されるようになる。これはエッチング力を強めるとステンレス鋼板の不動態化作用が低下し、深さ方向へのピット成長が促進されるためと考えられる。
【0029】
Fe3+を含まない塩化第一鉄、硝酸、塩酸、硫酸などの電解液中では、上記メカニズムを利用した電解粗面化が行われない。さらに本発明では、ステンレス鋼を対象とするので、電解液中にはステンレス鋼の酸化作用を促進するNO3―、SO42-といったイオンが含まれていないことも、孔食、すなわちピットの形成を容易にさせ、粗面化処理時間を短時化するために重要となる。このような観点から、電解液としては、Fe3+を含む塩化第二鉄溶液を使用するのが好ましい。
【0030】
電解液の濃度や電解条件は、ステンレス鋼種に応じて上述の粗面化形態が得られる適正範囲に設定する必要がある。例えば、フェライト系ステンレス鋼の場合、Fe3+濃度5〜50g/Lの塩化第二鉄水溶液中で、アノード電解時の電流密度1.0〜10.0kA/m2、カソード電解時の電流密度0.1〜2.0kA/m2とした0.5〜5Hzの交番電解を10〜120秒間施す条件範囲において、最適条件を定めるとよい。一方、オーステナイト系ステンレス鋼の場合は、Fe3+濃度40〜120g/Lの塩化第二鉄溶液中で、アノード電解時の電流密度1.0〜10.0kA/m2、カソード電解時の電流密度0.3〜2.0kA/m2とした0.5〜5Hzの交番電解を10〜120秒間施す条件範囲において、最適条件を定めるとよい。
【0031】
〔触媒物質の担持〕
本発明の触媒担持体の粗面化表面を構成しているピット壁に、触媒物質を付着させることにより、触媒物質を担持させた状態の粗面化表面を形成した触媒担持ステンレス鋼材を得ることができる。触媒担持方法としては、触媒を分散させた水溶液中に担持体を浸漬し引上げる方法、触媒を分散させた水溶液に混合して、スプレーで触媒担持体に塗布後、乾燥固化する方法、触媒を電気めっき液中に混合し、電気めっき法で触媒担持体に触媒を析出させる方法、気相法により触媒金属または化合物を触媒担持体に蒸着する方法等がある。
【0032】
上記いずれの方法においても触媒物質は、極薄くコーティングすることが好ましい。コーティング量が過剰に多くなると、余剰の触媒は効力を発揮せず無駄となるばかりでなく、電解粗面化処理によって形成した凹凸が緩和され、かえって触媒反応効率が低下する。したがって、触媒担持体の粗面化表面を構成しているピット壁に必要最小限の触媒物質を薄く付着させ、付着後にもピット形状が残存して、反応に供する物質との接触面積が十分に確保されるようにすることが理想的である。
【0033】
自動車排ガスの浄化触媒をはじめ、種々の用途に適用される代表的な触媒物質として、Pt(白金)が挙げられる。本発明の触媒担持体は金属であるから、電気めっき法によりその粗面化表面に効率良くPt触媒をコーティングすることが可能である。
【0034】
大気浄化、脱臭、抗菌、浄水等の目的で使用される代表的な触媒物質として、光触媒であるTiO2(酸化チタン)が挙げられる。この場合は、TiO2粒子を分散させた水溶液中に触媒担持体を浸漬し引上げる方法などによって、比較的容易に粗面化表面にTiO2触媒をコーティングすることが可能である。
【実施例1】
【0035】
市販のSUS430(18Cr)フェライト系ステンレス鋼板、板厚0.25mm、2D仕上げ材を用意した。この鋼板から切り出したサンプルについて、前処理として、濃度5質量%、液温60℃のオルソケイ酸ナトリウム溶液に上記サンプルを浸漬し、電流密度0.5kA/m2で10秒間アノード電解する方法で電解脱脂を行った。
【0036】
電解脱脂後のサンプルについて、塩化第二鉄水溶液中での交番電解による粗面化処理を種々の条件で施した。電解条件は表1中に示してある。比較材として電解粗面化処理を施していないもの(電解脱脂ままの表面肌のもの)も用意した。これらの電解粗面化処理材および電解処理を施していない比較材(以下、これらを「供試材」と呼ぶ)について、以下に示す方法で表面積増加率、および面粗さSPaを求めた。また、供試材を触媒担持体として用いて以下に示す方法でPt触媒を担持させ、触媒性能を調べた。
【0037】
図1に、本発明例の触媒担持体における電解粗面化表面のSEM写真を例示する。これは表1のNo.1の例である。
【0038】
(表面積増加率の測定)
全自動ガス吸着量測定装置(オートソーブ−1−C/VP/TCD/MS(ユアサアイオニクス製)を用いて、クリプトンガス吸着法による定容法にて供試材の粗面化表面の表面積Sを測定した。これを測定領域の面積S0で除することにより完全平滑面に対する表面積増加率を求めた。表面積Sの測定は120℃真空下で60分間脱気後に行った。結果を表1中に示す。
【0039】
(面粗さSPaの測定)
走査型レーザー顕微鏡(オリンパス株式会社製;OLS1200)を用いて、供試材の粗面化表面における51μm×51μmの表面領域について、分解能0.01μmにて面粗さSPaを測定した。具体的には、対物レンズ100倍(深さ方向分解能:0.01μm)、ズーム2.5倍の倍率に設定し、51μm×51μm視野の粗面化表面の画像を取り込んだ後、ピークノイズ除去および画像輝度平均化の画像処理を行うことによって三次元表面プロファイルを求め、そのデータに基づいて算出される面粗さSPaを求めた。結果を表1中に示す。
【0040】
(Pt触媒の担持)
供試材の粗面化ステンレス鋼板を、濃度5質量%、液温60℃のオルソケイ酸ナトリウム溶液に上記鋼板を浸漬し、電流密度0.5kA/m2でアノード電解する方法で電解脱脂を行った。次いで、下地処理として、NiSO4・6H2O:400g/L、Na2SO4:100g/Lを含む液温55℃、pH=1.5のNiめっき浴を用い、電流密度0.5kA/m2で12秒間電気めっきを行う方法にて、粗面化表面上にNi下地めっきを施した。その後、Pt濃度6g/L、液温45℃のPtめっき液を用い、電流密度0.1kA/m2でPtめっきを施した。
【0041】
図2に、本発明例におけるPt触媒を担持させた状態の粗面化表面のSEM写真を例示する。これは図1に示したNo.1の電解粗面化表面にPt触媒を担持させたものである。他の発明例、比較例についても同様のSEM観察を行っている。観察の結果、本発明例のPt触媒を担持させた状態の粗面化表面には、全域においてほぼ均一に、ピット壁にPtがコーティングされていることが確認された。
【0042】
(触媒性能)
上記のようにしてPt触媒を担持させた触媒担持粗面化ステンレス鋼材を300℃に加熱し、この状態で触媒を担持させた表面に20molのシクロヘキサンを噴霧した後、揮発成分を捕捉し、冷却により液化させて回収し、液体クロマトグラフィーによりシクロヘキサンからベンゼンに変換された転化率を求めた。転化率が高いほど触媒性能に優れる。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1からわかるように、表面積増加率および面粗さSPaが適正範囲にある触媒担持体を用いた本発明例のものは、比較例のものに比べ、顕著に高い触媒性能が発揮された。
【実施例2】
【0045】
市販のSUS304(18Cr−8Ni)オーステナイト系ステンレス鋼板、板厚0.25mm、2D仕上げ材を用意した。この鋼板から切り出したサンプルについて、前処理として、濃度5質量%、液温60℃のオルソケイ酸ナトリウム溶液に上記サンプルを浸漬し、電流密度0.5kA/m2で10秒間アノード電解する方法で電解脱脂を行った。
【0046】
電解脱脂後のサンプルについて、塩化第二鉄水溶液中での交番電解による粗面化処理を種々の条件で施した。電解条件は表2中に示してある。比較材として電解粗面化処理を施していないもの(電解脱脂ままの表面肌のもの)も用意した。これらの電解粗面化処理材および電解処理を施していない比較材(以下、これらを「供試材」と呼ぶ)について、実施例1と同様の方法で表面積増加率、および面粗さSPaを求めた。また、供試材を触媒担持体として用いて以下に示す方法でTiO2触媒を担持させ、触媒性能を調べた。
【0047】
(TiO2触媒の担持)
供試材の粗面化ステンレス鋼板を、ディップコーター装置にセットし、TiO2粒子を混合した溶液に浸せきした後、引上げ速度2mm/secで引上げた。その後、乾燥固化させた。
【0048】
図3に、本発明例におけるTiO2触媒を担持させた状態の粗面化表面のSEM写真を例示する。これは表2のNo.1の例である。他の発明例、比較例についても同様のSEM観察を行っている。観察の結果、本発明例のTiO2触媒を担持させた状態の粗面化表面には、全域においてほぼ均一に、ピット壁にTiO2触媒がコーティングされていることが確認された。
【0049】
(触媒性能)
上記のようにしてTiO2触媒を担持させた触媒担持粗面化ステンレス鋼材を内容積約50Lのチャンバーに入れて、NOxガスを濃度が約500ppmになるまで注入した。そして、試験片に紫外線をブラックライトで3時間照射して、照射後のNOx濃度を測定し、NOx分解率を算出した。分解率が高いほど触媒性能に優れる。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2からわかるように、表面積増加率および面粗さSPaが適正範囲にある触媒担持体を用いた本発明例のものは、比較例のものに比べ、顕著に高い触媒性能が発揮された。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明例の触媒担持体の電解粗面化表面を例示したSEM写真。
【図2】Pt触媒を担持させた状態の粗面化表面を例示したSEM写真。
【図3】TiO2触媒を担持させた状態の粗面化表面を例示したSEM写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリプトンガス吸着法で測定される完全平滑面に対する表面積増加率が3〜10であり、分解能0.01μmの走査型レーザー顕微鏡で一辺が50μm以上の矩形の表面領域を測定したときの面粗さSPaが0.3μm以上である電解粗面化表面を持つステンレス鋼材からなる触媒担持体。
【請求項2】
前記電解粗面化表面は塩化第二鉄水溶液中での交番電解によって形成されるものである請求項1に記載の触媒担持体。
【請求項3】
前記ステンレス鋼材は、JIS G4305に規定されるオーステナイト系鋼種またはフェライト系鋼種に相当するものである請求項1または2に記載の触媒担持体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒担持体の粗面化表面を構成しているピット壁に、触媒物質を付着させることにより、触媒物質を担持させた状態の粗面化表面を形成した触媒担持ステンレス鋼材。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒担持体の粗面化表面を構成しているピット壁に、Ptめっきを施すことにより、Pt触媒を担持させた状態の粗面化表面を形成した触媒担持ステンレス鋼材。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒担持体の粗面化表面を構成しているピット壁に、TiO2をコーティングすることにより、TiO2光触媒を担持させた状態の粗面化表面を形成した触媒担持ステンレス鋼材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−213985(P2009−213985A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58802(P2008−58802)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】