説明

触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルター、およびその製造方法

【課題】触媒性能を効果的に発現できる触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターを提供する。
【解決手段】触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターは、ディーゼルパティキュレートフィルター基材の表面に、第一の平均粒子径を有する第一の触媒粒子群から構成される第一の触媒コート層と、前記第一の触媒コート層の上層に前記第一の平均粒子径よりも大きい第二の平均粒子径を有する第二の触媒粒子群から構成される第二の触媒コート層とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルター(DPF(Diesel Particulate Filter):ディーゼル微粒子除去装置、以下、単に「DPF」ということがある)、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や鉄道、船舶等に用いられるディーゼル機関については、高い燃焼効率を実現できることが知られている。ディーゼル機関においては、主に煤(すす)から構成される微粒子状物質(以下、単に「PM」(Particulate Matter)ということがある)を含有する排気ガスが排出される。昨今、このようなPMを大気中に排出しないように、ディーゼル機関における排気ガスの排出において、排出する排気ガス中からPMを捕集するDPFが用いられている。
【0003】
DPFの多孔質体の構造によって、排気ガス中のPMを物理的に取り除くため、DPF内に排気ガスの中から捕集されたPMが蓄積されていく。捕集されたPMは、DPFの目詰まり防止等の観点から、定期的にDPFから除去する必要がある。この除去方法としては、例えば、DPFの外部から熱を加え、DPFに堆積されたPMを強制的に燃焼させ、除去する方法がある。
【0004】
この強制的な燃焼過程における加熱により触媒活性が低下するという問題があった。このため、本願出願人は、特許第4416830号(特許文献1)や特開2010−104981号公報(特許文献2)を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4416830号
【特許文献2】特開2010−104981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1または特許文献2で開示されている触媒では、PMの燃焼開始温度を低減させたり、耐熱性を改善したりすることができる。しかしながら、触媒そのものは低温での燃焼活性を有するものの、担体に担持し、実使用環境下に近い状態で使用しようとすると、燃焼活性が本来有する特性よりもかなり低い値を示すことがあった。
【0007】
そこで、本発明は、かような実使用状況下においても、高い触媒活性を示すようなDPF構造体を製造するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討したところ、触媒とPMの接触状態を改善するためにDPFに触媒を担持する方法を工夫することにより、触媒とPMの接触性が改善され、触媒性能が効果的に発現することを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明に係る触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターは、ディーゼルパティキュレートフィルター基材の表面に、第一の平均粒子径を有する第一の触媒粒子群からなる第一の触媒コート層と、第一の触媒コート層の上層に第一の平均粒子径よりも大きい第二の平均粒子径を有する第二の触媒粒子群からなる第二の触媒コート層とを備える。
【0010】
このような構成を有する触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターは、PMのうち、比較的粒子径の大きいPM粒子を上層の触媒層となる第二の触媒コート層で浄化、すなわち、接触除去し、上層で浄化されなかった微細なPM粒子を下層の触媒層となる第一の触媒コート層で浄化することができるようになる。従来であれば、一層の触媒層で大きなPM粒子と小さなPM粒子とを同時に処理するため、接触が不十分となる結果、十分な浄化性能が得られないことがあった。しかし、このように構成することにより、触媒の粒子とPMの粒子の大きさを比較的近くすることができるようになり、触媒の浄化性能を改善することができるようになる。したがって、触媒性能を効果的に発現させることができる。
【0011】
好ましくは、第一の平均粒子径は、0.05μm以上0.3μm以下であり、第二の平均粒子径は、0.5μm以上8.0μm以下とするのがよい。
【0012】
好ましくは、第一および第二の触媒粒子群の少なくともいずれか一方を構成する触媒は、CeO(酸化セリウム)を含む。
【0013】
さらに好ましくは、第一および第二の触媒粒子群の少なくともいずれか一方を構成する触媒は、CeOを母体とし、Zr(ジルコニウム)、Al(アルミニウム)、Y(イットリウム)、Si(ケイ素)、Bi(ビスマス)、Pr(プラセオジム)、およびTb(テルビウム)からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む。
【0014】
さらに好ましくは、第一および第二の触媒粒子群の少なくともいずれか一方を構成する触媒は、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、およびPd(パラジウム)からなる群から選択される少なくとも一つの白金族元素を含む。
【0015】
なお、第二の触媒粒子群を構成する触媒のみが、白金族元素を含むよう構成してもよい。
【0016】
また、第一の触媒粒子群の材質と、第二の触媒粒子群の材質とは、同じとすることが好ましい。
【0017】
また、触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターの製造方法は、ディーゼルパティキュレートフィルター基材の表面に、第一の平均粒子径を有する第一の触媒粒子群を付着させて、第一の触媒コート層を形成する第一の触媒コート層形成工程と、第一の触媒コート層形成工程の後に、第一の平均粒子径よりも大きい第二の平均粒子径を有する第二の触媒粒子群を付着させて、第二の触媒コート層を形成する第二の触媒コート層形成工程とを備える。
【0018】
この発明に係る製造方法で得られる触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターは、触媒とPMとの接触が十分となり、低温でのPM燃焼活性を十分に引き出すことができるようになる。
【発明の効果】
【0019】
このような構成を有する触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターは、PMのうち、比較的粒子径の大きいPM粒子を上層の触媒層となる第二の触媒コート層で浄化、すなわち、接触除去し、上層で浄化されなかった微細なPM粒子を下層の触媒層となる第一の触媒コート層で浄化することができるようになる。従来であれば、一層の触媒層で大きなPM粒子と小さなPM粒子とを同時に処理するため、接触が不十分となる結果、十分な浄化性能が得られないことがあった。しかし、このように構成することにより、触媒の粒子とPMの粒子の大きさを比較的近くすることができるようになり、触媒の浄化性能を改善することができるようになる。したがって、触媒性能を効果的に発現させることができる。
【0020】
このような製造方法で得られる触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターは、触媒とPMとの接触が十分となり、低温でのPM燃焼活性を十分に引き出すことができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の一実施形態に係る触媒担持型DPFの外観を概略的に示す概略斜視図である。
【図2】この発明の一実施形態に係る触媒担持型DPFの一部を拡大して概念的に示す図である。
【図3】この発明の一実施形態に係る触媒担持型DPFの製造方法において、代表的な工程を示すフローチャートである。
【図4】累積触媒利用度を示すグラフである。
【図5】温度と触媒利用率との関係を示すグラフである。
【図6】温度とCOの量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。まず、この発明の一実施形態に係る触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターの構成について説明する。
【0023】
図1は、この発明の一実施形態に係る触媒担持型DPFの外観を概略的に示す概略斜視図である。図1を参照して、この発明の一実施形態に係る触媒担持型DPF11は、略円柱状である。略円柱状の触媒担持型DPF11は、外部側に位置し、略円筒状の筐体となる筐体部12と、筐体部12の内部に設けられ、主にPMを捕集するフィルター部13とを備える構成である。触媒担持型DPF11については、一方側端部14から他方側端部15に至るまで、ディーゼル機関(図示せず)で発生した排気ガス等のガスを通過させることができるように構成されている。具体的には、一方側端部14が、ディーゼルエンジン(図示せず)側に配置され、他方側端部15が、排気側に配置されるように取り付けられ、所定の圧力により、一方側端部14側から他方側端部15側に向かって、排気ガスが流される。
【0024】
フィルター部13の外形形状は、筐体部12の内形形状に沿うように加工されて形成されている。フィルター部13には、略薄板状の基材16が、フィルター部13内の空間を形成するように、縦横方向に規則的に所定の間隔を開けて設けられている。フィルター部13については、基材16で仕切られ、隣り合う空間において、一方側端部14側の開口が交互となるように設けられている。また、他方側端部15の開口についても、交互となるように設けられている(ウォールフロー方式)。このような構成においては、一方側端部14側から触媒担持型DPF11内に流された排気ガスが、少なくとも一箇所、上下方向に基材16を通過しなければ他方側端部15側から排出されない構成であり、触媒担持型DPF11におけるフィルターとしてのPMの捕集効率を上げることができる。
【0025】
触媒担持型DPF11内の排気ガスの通過により、基材16には、PMが捕集される。基材16には無数の孔が開いており、この無数の孔の径については、おおよそPMが引っ掛る程度の大きさである。このようにして、基材16にPMが捕集される。
【0026】
基材16に捕集されたPMは、外部に存在する図示しない加熱装置によって、定期的に加熱され、強制的に燃焼されて、除去される。完全燃焼したPMは、COとなって、触媒担持型DPF11外に排出される。
【0027】
基材16には、PMの燃焼を助ける触媒が担持される。具体的には、基材16の表面において、複数の触媒粒子が付着するようにして固定されている。この触媒により、捕集したPMの燃焼時における燃焼開始温度の低減等を図ることができる。この触媒の担持形態については、後述する。
【0028】
(触媒の組成)
ここでまず、担持される触媒の組成について説明する。触媒の組成としては、PMと触媒とが接触することによって効果を奏するような触媒を用いる。具体的には、ペロブスカイト型複合酸化物やCeO(酸化セリウム)系触媒が挙げられる。ここで、触媒の組成の選択について、本願発明者の検討によれば、蛍石型の構造を有する酸化セリウム系触媒であることが好ましい。酸化セリウム系触媒が好ましい理由としては、その構造を崩さず、調整した範囲内で所望の特性を生じさせるための種々の元素を導入しやすいことにある。例えば、ビスマス(Bi)などによる置換によれば、燃焼開始温度を低下させることができるようになり、また、ランタノイドなどによる置換によれば、触媒そのものの耐熱性を向上させることができるようになる。
【0029】
ビスマス(Bi)およびランタノイド(R)を含む酸化セリウム系触媒において、セリウム(Ce)をビスマス(Bi)およびランタノイド(R)で置換する場合、その置換量については、以下のようにするとよい。すなわち、Ce、Bi、およびランタノイド(R)のモル比をCe:Bi:R=(1−x−y):x:yで表すとき、0<x≦0.4、および0<y<1とすればよい。
【0030】
また、さらに、第4元素としてR’(ランタノイドとアクチノイドを除く3族、4族、13族から選択された1種以上の元素)で置換する場合、その置換量については、以下のようにするとよい。すなわち、Ce、Bi、Pr、および第4元素としてのR’のモル比をCe:Bi:Pr:R’=(1−x−y−z):x:y:zで表すとき、0<x+y+z≦0.5とすることが好ましく、さらには、0<x≦0.1、0<y≦0.25、および0<z≦0.3とすることが好ましい。
【0031】
なお、このような酸化セリウム系触媒には、白金族(Pt、Rh、Pdなど)を加えて、排気ガス中に含まれる窒素酸化物(NO)や残留炭化水素(HC)をそれぞれ転化させることが好ましい。すなわち、NOの転化によって生成したNO2によるPM燃焼の促進効果や、HCの転化によって生じた燃焼熱により、触媒の活性化に必要な熱エネルギーを補うことができる。白金族の担持方法としては、例えば、白金族を含むアルミナやチタニアを上述の酸化セリウム系触媒に担持する方法を採用してもよい。
【0032】
具体的な一例としては、以下のような方法が挙げられる。アルミナを用いて白金族を担持する場合には、アルカリ性に調整した水溶液中に、白金族元素の塩およびAl(アルミニウム)の塩の溶液に対して、予め準備しておいた酸化セリウム系複合酸化物を添加する。このとき、白金族元素の塩が溶媒に溶解しない場合には、酸を使用して溶解させてもよい。また、場合によっては、酸化セリウム系複合酸化物が分散した液に対して、水溶性アルカリを添加してアルカリ性とし、白金族とアルミニウムとが共に溶解した液を添加する方法を採用することもできる。このとき、白金族とアルミニウムとが共に溶解した液については、ゲル状になっていることが好ましい。このように構成することにより、触媒粒子の表面をアルミナで被覆することが容易となる。
【0033】
(触媒の担持)
ここで、上述した触媒の基材16への担持については、以下のように構成する。触媒担持型DPF11は、ディーゼル機関(図示せず)から排出された排気ガスの中からPMを捕集する基材16と、基材16の表面に担持され、第一の平均粒子径を有する第一の触媒粒子群から構成される第一の触媒コート層と、第一の触媒粒子群の上層に第一の平均粒子径よりも大きい第二の平均粒子径を有する第二の触媒粒子群から構成される第二の触媒コート層とを備える。
【0034】
図2は、基材16の表面の一部を拡大した状態を示す図である。図1および図2を参照して、基材16の表面17には、第一の触媒粒子群18から構成される第一の触媒コート層20が形成されている。すなわち、第一の触媒粒子群18が付着され、層状となって基材16の表面17に固定されている。この場合、第一の触媒粒子群18については、その平均粒子径が、0.3μm以下で構成されていることがよい。
【0035】
そして、第一の触媒粒子群18の上層には、第二の触媒粒子群19から構成される第二の触媒コート層21が形成されている。すなわち、第二の触媒粒子群19が付着され、層状となって第一の触媒コート層20の上側に固定されている。この場合、第二の触媒粒子群19については、その平均粒子径が、0.5μm以上で構成されていることがよい。
【0036】
このような触媒担持型DPF11は、基材16の上、具体的には基材16の表面17に、平均粒子径が相対的に小さい第一の触媒粒子群18を形成し、その後、形成した第一の触媒粒子群18の上層に、平均粒子径が相対的に大きい第二の触媒粒子群19の層を形成しているため、基材16における排気ガスの流路を確保しながら、PMと触媒粒子とが適切に接触されやすい状態となるように触媒粒子を基材16に担持させることができる。したがって、触媒性能を効果的に発現することができる。
【0037】
なお、この場合において、第一の触媒コート層20を構成する第一の触媒粒子群18の上に、第二の触媒コート層21を構成する第二の触媒粒子群19が完全に全て固定されておらず、小さい領域で、直接基材16の表面17に第二の触媒粒子群19を構成する触媒粒子が固定されていてもよい。また、第一の触媒粒子群18を構成する触媒粒子の上側に第二の触媒粒子群19を構成する触媒粒子がなく、第一の触媒粒子群18を構成する触媒粒子が上側に露出する状態となっているものが少し存在してもよい。すなわち、ほとんどの領域において、第一の触媒コート層20の上側に第二の触媒コート層21が形成されている状態であればよい。
【0038】
ここで、第一の触媒粒子群18の平均粒子径については、0.3μm以下が好適で、好ましくは、0.2μm以下、さらに好ましくは、0.1μm以下とすればよい。平均粒子径が小さいほど、後の工程に触媒を基材16に固定させる加熱を行う際に、基材16との接触性が十分に担保され、また、下層側に位置する触媒粒子と上層側に位置する触媒粒子とが強く結合され、触媒粒子と基材16との接着性の向上を図ることができるからである。
【0039】
また、第二の触媒粒子群19の平均粒子径については、0.5μm以上が好適で、好ましくは、2μm以上、さらに好ましくは、8.0μm以上とすればよい。0.5μm以上であれば、下層側となる第一の触媒粒子群18の平均粒子径である0.3μm以下の触媒粒子との差別化を明確に図ることができる。そして、このように上層側となる第二の触媒粒子群19の平均粒子径を0.5μm以上とすることにより、DPF11の表面、第一の触媒粒子群18および第二の触媒粒子群19から構成される触媒層の表面は、形状的に凹凸を形成することができ、PMと触媒との接触面積が増大し、結果としてPMと触媒との接触性が良好になる。
【0040】
第一の触媒粒子群および第二の触媒粒子群のような所定の平均粒子径を有する触媒粒子を得る方法の一つとしては、例えば、湿式による触媒粒子の分散がある。この湿式の分散の際に、ポリアクリル酸アンモニウムや酢酸などの凝集体の分散を助ける効果をもつ薬品を添加すれば、第一の触媒粒子の平均粒子径に到達しやすいので、第一の触媒粒子群を得る場合に、好ましい。
【0041】
なお、触媒の組成については、第一の触媒粒子群の材質と、第二の触媒粒子群の材質とは、同じであるように構成することが好ましい。このように構成することにより、加熱処理を行った際に、第一の触媒粒子群を形成する層と、第二の触媒粒子群を形成する層との親和性が高くなり、第一の触媒粒子群を形成する層と第二の触媒粒子群を形成する層との間における結合が強固になり、特に、上層側となる第二の触媒粒子群を形成する層の剥離や離脱のおそれを大きく低減することができる。
【0042】
また、触媒の組成については、触媒層深部への排気ガスの拡散性の観点から、開放側に相当する触媒粒子、すなわち、第二の触媒粒子にのみ、白金族元素を担持させるよう構成してもよい。
【0043】
次に、上記した図1および図2に示す触媒担持型DPFの製造方法について説明する。図3は、この発明の一実施形態に係る触媒担持型DPFの製造方法において、代表的な工程を示すフローチャートである。
【0044】
図1〜図3を参照して、まず、第一の触媒コート層形成工程として、基材16の表面17に、第一の触媒粒子群18を付着させる。この場合、第一の触媒粒子18を溶剤に分散させ、塗料として基材16に塗布し、その後の乾燥により付着させるようにしてもよい。このようにして、基材16の表面17に第一の触媒粒子群18を付着させる。その後、基材16を加熱し、基材16に第一の触媒粒子群を固定させる。このようにして、第一の平均粒子径を有する第一の触媒粒子群からなる第一の触媒コート層を形成する(図3(A))。
【0045】
次いで、第二の触媒コート層形成工程として、第一の触媒粒子群を固定した後に、第二の触媒粒子群19を付着させる。ここでは、基材16の表面17に第一の触媒粒子群18の層が形成された上に第二の触媒粒子群19の層が形成されることになる。この場合も、第二の触媒粒子群19を溶剤に分散させ、塗料として基材16に塗布し、その後の乾燥により付着させるようにしてもよい。このようにして、第一の触媒粒子群18の層の上に、第二の触媒粒子群19を付着させる。その後、基材16を加熱し、基材16に第二の触媒粒子群を固定させる。このようにして、第二の平均粒子径を有する第二の触媒粒子群からなる第二の触媒コート層を形成する(図3(B))。このようにして、本発明に係る触媒担持型DPFを製造する。
【0046】
すなわち、本発明に係る触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターの製造方法は、ディーゼルパティキュレートフィルター基材の表面に、第一の平均粒子径を有する第一の触媒粒子群を付着させて、第一の触媒コート層を形成する第一の触媒コート層形成工程と、第一の触媒コート層形成工程の後に、第一の平均粒子径よりも大きい第二の平均粒子径を有する第二の触媒粒子群を付着させて、第二の触媒コート層を形成する第二の触媒コート層形成工程とを備える。
【0047】
このような触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターの製造方法により得られた触媒担持型DPFは、ディーゼル燃料の燃焼によって粒径にばらつきのあるPMに対して効率よく燃焼させることができるようになる。したがって、触媒性能を十分に引き出すことができる。
【0048】
用いられる溶剤としては、極性溶剤であってもよいし、無極性溶剤であってもよい。基材の上に塗布した後、すばやく乾燥させるためには、沸点の低い溶剤の方が好ましい。また、取扱い性を向上させるためには、水系の溶剤を用いてもよい。具体的には、水、イソプロピルアルコール、テルピネオール、2−オクタノール、ブチルカルビトールアセテート等が好適に用いられる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
スラリーAを用いて触媒を32g/l(リットル)、DPFに担持させた後に、スラリーBを用いて触媒を40g/l担持させて、実施例1に係る触媒担持型DPFを得た。以下に詳細を説明する。
【0051】
(原料の調製)
まず、Ce(セリウム)源として、硝酸セリウム六水和物(Ce(NO・6HO)、Bi(ビスマス)源として、硝酸ビスマス五水和物(Bi(NO・5HO)、Zr(ジルコニウム)源として、硝酸ジルコニウム(Zr(NO)を用意した。また、希土類成分としては、Pr(プラセオジム)を選択し、Pr源として酸化プラセオジムの硝酸酸性の水溶液を準備した。
【0052】
(複合酸化物の調製)
上述の原料を、Ce、Bi、Pr、およびZrのそれぞれの元素のモル比について、Ce:Bi:Pr:Zr=0.795:0.005:0.150:0.050となる配合比率で混合した。そして、Ce、Bi、Pr、およびZrの合計濃度が、0.20mol/l(モル/リットル)になるように純水を加えて、原料溶液を得た。
【0053】
沈殿剤として、アンモニア(NH)水溶液を、攪拌しながら上記原料溶液へ添加し、反応液の液温を50℃として、水酸化物を形成した。その後、液中の混合水酸化物に空気を吹き込み、酸化して安定化した。
【0054】
得られた沈殿物をろ過、水洗し、125℃で15時間乾燥して、乾燥粉末とした。得られた粉末を、前駆体という。次に、この前駆体を、大気雰囲気下において、800℃で2時間焼成した。このようにして、CeとBiとPrとZrからなる複合酸化物であり、PMの燃焼開始温度低減触媒となる複合酸化物を得た。
【0055】
(被着処理液の調製)
まず、硝酸アルミニウム九水和物Al(NO・9H2Oを1.13g、Pd(パラジウム)溶液(濃度:0.83重量%)18.07g、Pt(NH(NO(濃度:8.477重量%)1.77gを、純水200mlに溶解または混合することにより、アルミニウムとパラジウム、白金が混合された被着処理液を調製した。
【0056】
(触媒粒子の作製)
水酸化ナトリウムによりpH11のアルカリ性に調整したNaOH水溶液800ml(ミリリットル)を、1l(リットル)ビーカーに注ぎ、液温を40℃に保ちながら攪拌を行った。
【0057】
NaOH水溶液に対して、被着処理液を一度に添加し、30分間混合することにより、水酸化アルミニウムのゲル内にパラジウムと白金とが担持混合された沈殿物を形成した。
【0058】
その後、上述の方法で作製した複合酸化物20gを添加して、30分間混合することにより、複合酸化物の表面にパラジウムと白金とが担持混合された水酸化アルミニウムのゲルを付着させた。
【0059】
そうして得られた複合酸化物、すなわち、パラジウムと白金とが混合された水酸化アルミニウムのゲルで粉末表面を被覆した複合酸化物をろ過し、水洗した。その後、得られた物質を回収し、大気中100℃(125℃)で6時間乾燥することにより、アルミニウムとパラジウムと白金との混合物で被覆された複合酸化物乾燥物を得た。
【0060】
上記の乾燥物を、大気中において800℃で2時間処理して、粒子表面が少なくとも一部がアルミナ(Al)により被覆され、アルミナにパラジウムと白金とが分散保持されている本願発明に係る触媒粒子を得た。
【0061】
得られた触媒粒子については、アルミニウムの含有量が0.34質量%であり、パラジウムの含有量が0.75質量%であり、白金が0.69質量%である粒子であることが確認された。この粒子については、白金族/(アルミニウム+白金族)比は、0.81であった。
【0062】
前記触媒粒子に対し、燃焼開始温度を確認したところ、360℃であり、低温でも燃焼開始が発生するような活性の高いものであった。また、模擬排気ガスに対する物性を評価したところ、200℃におけるCO(一酸化炭素)転化率が61.9%、C転化率が31.2%と、それぞれ高い値を示した。
【0063】
(基材への塗布)
前記触媒粒子を粉砕処理することで、含まれる触媒の粒度分布が異なる触媒スラリーを作製した。なお、未処理時の触媒粒子は、凝集状態であって、6.0μm程度の大きさを示すものとなっている。
【0064】
具体的な処理手法としては、ステンレスポットに触媒粉末を51g、分散剤としてポリアクリル酸アンモニウム(第一工業製薬製、セラモD−134)を23.18g、溶媒として純水を53.32g、粉砕媒体として直径1mmのジルコニアボール484.5gを投入した。湿式粉砕装置であるサンドグラインダーを用いて、解砕速度を1500rpm、解砕時間を2時間として、触媒が分散されたスラリーを得た。以降、このようにして得られたスラリーをスラリーAという。
【0065】
凝集物が多い触媒スラリーを得るために、触媒の量、分散剤の量、溶媒の量、ジルコニアボールの量は全て同じとし、解砕速度を500rpm、解砕時間を30分間とした以外は、上記手法を踏襲してスラリーを作製した。以降、このようにして得られたスラリーを、スラリーBという。
【0066】
(粒度分布の測定)
触媒スラリーA、スラリーB中の触媒粒子の粒径については、レーザー回折散乱法粒度分布測定器LS−230(ベックマンコールター社製)を用いて測定した。上記スラリーA、スラリーBの粒度分布の測定結果を、表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
このようにして得られた触媒スラリーに純水を添加して攪拌し、触媒粒子が10質量%含有された処理用触媒スラリーを調製した。調製したスラリー中にDPFを浸漬し、DPFにスラリーを吸水させた。
【0069】
その後、DPFをスラリー中から引き上げ、ペーパータオルに押し付けることで水分を除去した。液体窒素中に水分を除去したDPFを浸漬し、凍結させた。その後、25℃に設定した乾燥機(FDU−2100:東京理化機器株式会社製)を用い、3時間乾燥させた。乾燥後のDPFは、マッフル炉中で大気中において、800℃で2時間の焼成作業の後に、DPFに固定した。設定した担持重量になるまで、触媒の担持、凍結乾燥、および焼成を繰り返して、表面に触媒が担持されたDPFを得た。
【0070】
スラリーBについても、スラリーAと同様の操作で、触媒をDPFに担持させた。得られたDPFに後述する方法にてPMを捕集し、電気炉中で加熱し、COおよびCOガスの検出の総量を測定した。なお、COについては、上述の式により算出した累積触媒利用度を、図4に示す。図4中、縦軸は、累積触媒利用度(ppm・l/g)を示し、横軸は、サンプル温度(℃)を示す。また、温度と触媒利用率との関係を、図5に示す。図5中、縦軸は、変化率(%)を示し、横軸は、サンプル温度(℃)を示す。なお、温度とCOの量の関係を、図6に示す。図6中、縦軸は、COの量(ppm)を示し、横軸は、サンプル温度(℃)を示す。
【0071】
(PM燃焼活性評価)
PMに対する触媒活性については、以下のようなPM燃焼温度を用いることで評価できる。ディーゼル機関による発電機の排気ガスを通過させることで、PMを1時間捕集する。PMの捕集量は、約3g/L(リットル)である。こうして、実使用条件下に近似した接触状態でPMが捕集されているDPFを、電気炉にて加熱し、PM由来であるCO(一酸化炭素)ガスおよびCO(二酸化炭素)ガスの発生を、IR(Infrared Spectrometer)にて検出し、モニタリングを行った。このようにして、PMが酸化される状態の評価を行った。
【0072】
触媒性能の違いを評価するため、60〜500℃における触媒性能の比較を行った。触媒性能の指標として累積触媒利用度を算出した。累積触媒利用度は、後述する式のように、該当する温度までのCOガス捕集量の総和を、触媒のコート量で除して得られる値である。すなわち、この値が高い方が、触媒を効率的に利用できているということを示すものである。
【0073】
累積触媒利用度(ppm・l/g)=(その温度までの累積CO発生量(ppm))/触媒コート量(l/g)
また、後述する式のように、60〜500℃におけるCOガス発生量の総和(ppm)と、60℃からその温度までに発生したCOガス発生量の累積値(ppm)とを比較して、PM燃焼率(%)を算出し、これをもって触媒性能の違いを評価した。
【0074】
PM燃焼率(%)=(60(℃)〜その温度までの累積COガス発生量(ppm))/(60(℃)〜500(℃)間における累積CO発生量の総和(ppm)×100
【実施例2】
【0075】
スラリーAを用いて触媒を33g/l、DPFに担持させた後に、スラリーBを用いて触媒を67g/l担持させて、実施例2に係るDPFを得た。得られたDPFにPMを捕集し、電気炉中で加熱し、COおよびCOガスの検出の総量を測定した。得られた結果については、実施例1と共に、図4〜図6に示す。
【比較例1】
【0076】
実施例1において、スラリーBの被覆処理を行わなかった以外は、同様にして、比較例1に係るDPFを得た。得られたDPFにPMを捕集し、電気炉中で加熱し、COおよびCOガスの検出の総量を測定した。得られた結果については、実施例1、実施例2と共に、図4〜図6に示す。
【比較例2】
【0077】
実施例2において、スラリーBの被覆処理を行う代わりに、スラリーAの被覆処理を行った以外は、同様にして、比較例2に係るDPFを得た。得られたDPFにPMを捕集し、電気炉中で加熱し、COおよびCOガスの検出の総量を測定した。得られた結果については、実施例1、実施例2、および比較例1と共に、図4〜図6に示す。
【0078】
なお、実施例1、実施例2、比較例1、および比較例2における触媒のコート量をまとめたものを表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
図4〜図6を参照して、実施例1については、サンプル温度が100℃の時点から、累積触媒利用率は6ppm・l/gを示し、温度が高くなるにつれ、次第に累積触媒利用度の値が高くなっている。300℃においては、45ppm・l/gである。実施例2についても、累積触媒利用率の傾向は、同様である。これに対し、比較例1については、300℃で2ppm・l/gである、累積触媒利用率の値が低い。比較例2についても、累積触媒利用率の傾向は、同様である。つまり、実施例1および実施例2は、比較例1および比較例2に比べ、触媒利用率が高いことを示す。
【0081】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明に係る触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターおよびその製造方法によれば、実際のディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる煤成分を主体としたPMに適応した構成となるため、実用性に富んだものとすることができる。
【符号の説明】
【0083】
11 DPF、12 筐体部、13 フィルター部、14,15 端部、16 基材、17 表面、18,19 触媒粒子群、20,21 触媒コート層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルパティキュレートフィルター基材の表面に、第一の平均粒子径を有する第一の触媒粒子群から構成される第一の触媒コート層と、前記第一の触媒コート層の上層に前記第一の平均粒子径よりも大きい第二の平均粒子径を有する第二の触媒粒子群から構成される第二の触媒コート層とを備える、触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルター。
【請求項2】
前記第一の平均粒子径は、0.05μm以上0.3μm以下であり、
前記第二の平均粒子径は、0.5μm以上8.0μm以下である、請求項1に記載の触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルター。
【請求項3】
前記第一および前記第二の触媒粒子群の少なくともいずれか一方を構成する触媒は、CeO(酸化セリウム)を含む、請求項1または2に記載の触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルター。
【請求項4】
前記第一および前記第二の触媒粒子群の少なくともいずれか一方を構成する触媒は、CeOを母体とし、Zr(ジルコニウム)、Al(アルミニウム)、Y(イットリウム)、Si(ケイ素)、Bi(ビスマス)、Pr(プラセオジム)、およびTb(テルビウム)からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルター。
【請求項5】
前記第一および前記第二の触媒粒子群の少なくともいずれか一方を構成する触媒は、Pt(白金)、Rh(ロジウム)、およびPd(パラジウム)からなる群から選択される少なくとも一つの白金族元素を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルター。
【請求項6】
前記第二の触媒粒子群を構成する触媒のみが、白金族元素を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルター。
【請求項7】
ディーゼルパティキュレートフィルター基材の表面に、第一の平均粒子径を有する第一の触媒粒子群を付着させて、第一の触媒コート層を形成する第一の触媒コート層形成工程と、
前記第一の触媒コート層形成工程の後に、前記第一の平均粒子径よりも大きい第二の平均粒子径を有する第二の触媒粒子群を付着させて、第二の触媒コート層を形成する第二の触媒コート層形成工程とを備える、触媒担持型ディーゼルパティキュレートフィルターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−17992(P2013−17992A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89025(P2012−89025)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】