説明

触媒担持基体およびその製造方法、膜電極接合体ならびに燃料電池

【課題】本発明は、高い質量活性および高い耐久性を有する触媒担持基体およびその製造方法、膜電極接合体ならびに燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】実施形態に係る触媒担持基体は、複数の空孔を含む触媒層が基体上に担持されてなる。前記触媒を厚さ方向に切断したときの前記空孔の断面の平均径が5nm〜400nmであり、前記空孔の断面の長辺:短辺の比が平均で1:1〜10:1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、触媒担持基体およびその製造方法、膜電極接合体ならびに燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の固体高分子形燃料電池(PEFC)の電極触媒における白金使用量は、燃料電池自動車(FCV)用で約1gPt/kWであり、定置用で5−8gPt/kWである。このことは、現在の白金の市場価格を考慮すると、FCVの電極触媒の白金地金のコストとして数十万円/台を要することを意味する。2015〜2020年に予定されているFCV普及初期までに、白金使用量を現在の1/10程度、すなわち自動車用で0.1g/kW以下、定置用で1g/kW程度とすることが目標となっており、質量活性(A/g)、すなわち単位質量当りの白金から取り出しうる電流量の更なる向上が求められている。
【0003】
また、FCVに使用される触媒としてカーボン担持触媒を使用する場合、起動および停止に伴うカーボン担持触媒のカーボン担体の腐食が激しく、それによって触媒層、さらには膜電極接合体の劣化が促進される。そのため、触媒層の改善による耐久性、特にサイクル耐久性の大幅向上が求められている。
【0004】
スパッタ法または蒸着法によって触媒層を形成する方法が存在する。このような電極では、カーボン担持触媒を用いた電極と比較して、より高い耐久性が得られる。具体的には、ウィスカー基板に白金触媒材料をスパッタされる。この方法によれば、高い耐久性を得られるとともに、白金の使用量を抑えることができる。しかしながら、この方法では、数十nmの白金触媒の塊が形成され、触媒材料の利用効率の点で不十分である。
【0005】
また、造孔材料を混合した触媒材料を用いて触媒層を形成し、その後、造孔材料を溶解除去することにより、触媒層内に空孔を形成する方法が存在する。具体的には、スパッタにより触媒材料と造孔材料との混合層および造孔材料層を形成し、その後、混合層内の造孔材料および造孔材料層を溶解除去することにより、触媒凝集層および空隙層を含む積層構造を形成し、高い触媒利用効率を達成しようとしている。しかしながら、耐久性等の点で不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−33759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高い質量活性および高い耐久性を有する触媒担持基体およびその製造方法、膜電極接合体ならびに燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る触媒担持基体は、複数の空孔を含む触媒層が基体上に担持されてなる。前記触媒を厚さ方向に切断したときの前記空孔の断面の平均径が5nm〜400nmであり、前記空孔の断面の長辺:短辺の比が平均で1:1〜10:1である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態に係る触媒担持基体の断面の一部の顕微鏡写真。
【図2】空孔の径および長辺:短辺の比の測定方法の一例を示す図。
【図3】空孔の径および長辺:短辺の比の測定方法の別の例を示す図。
【図4】実施形態に係る触媒担持基体の断面の一部の顕微鏡写真。
【図5】実施形態に係る触媒担持基体の堆積層を形成する工程の概略を示す断面図。
【図6】実施形態に係る触媒担持基体の堆積層を熱処理する工程の概略を示す断面図。
【図7】実施形態に係る触媒担持基体の堆積層から第2材料を除去する工程の概略を示す断面図。
【図8】実施形態に係る膜電極接合体を模式的に示す断面図。
【図9】耐久性試験の概略を示す図。
【図10】実施形態に係る燃料電池の一例を概略的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
図1は、実施形態に係る触媒担持基体の断面の一部を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)により観察した像を示す図である。図示されるように、触媒担持基体では、基体11上に触媒層1が担持されている。
【0012】
この触媒担持基体において、触媒層1は、触媒2と、その間に存在する大きさおよび形状の異なる複数の空孔3とを含み、スポンジ状の形状を有している。これに対し、従来の触媒担持基体では、触媒層は、偏平な空孔が厚さ方向に複数重なった構造を有する。
【0013】
このような触媒担持基体の構造は、SEMを用いて断面を観察することで容易に確認することができる。SEMは、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)に比べて試料の奥行きの特徴を把握しやすいため、触媒層1の構造を確認するには好ましい手段である。
【0014】
実施形態に係る触媒担持基体がスポンジ状の形状を有することは、触媒層1を厚さ方向に切断したときの空孔3の断面の形状に基づいて表現することができる。すなわち、触媒層1を厚さ方向に切断したときの空孔3の断面の平均径は、5nm〜400nmである。また、触媒層1を厚さ方向に切断したときの空孔3の断面の長辺:短辺の比は、平均で1:1〜10:1である。
【0015】
このような空孔3の断面の形状は、次のように、断面写真の作成、空孔の選択および空孔の測定により決定することができる。
【0016】
まず、触媒層を厚さ方向に切断し、断面写真を得る。切断は、例えば、ブロードに照射されるアルゴンイオンビームを用いたクロスセクションポリッシャ法(CP法)により行うことができる。これにより、切断の操作に起因した構造の変化を極力抑えることができ、本来の状態に近い断面構造を観察することができる。CP法で用いるArイオンは2〜6kVと低エネルギーであり、断面に対し平行に近い状態で試料に照射するため、試料が複合材であっても選択的なエッチングが起こりにくく、イオンダメージの少ない平滑な断面が得られる。断面を、SEMを用いて例えば20万倍の拡大率により観察し、断面写真を取得する。切断は、触媒層の平面方向のほぼ中央部で行なうことが好ましい。
【0017】
次に、得られた断面写真から測定を行うための空孔3を選択する。1つの触媒層1に対して5つの空孔3を任意に選択する。1つの画像において選択できる空孔3が5つに満たない場合、異なる視野を観察した断面写真を用いて選択する。測定の対象とする空孔3は、断面上で、空孔3と触媒2との境界が閉じているものを選択する。例えば、図1に示される断面写真によれば、断面よりも奥に位置する空孔の構造を見ることができるが、測定に際してこのような構造は無視し、断面上に形成された境界のみを測定の対象とする。また、図1の断面写真によれば、空孔3と触媒2との境界が断面写真の外に続いている空孔3が存在するが、このような空孔3も測定の対象から除外する。
【0018】
最後に、選択した空孔3について、径および長辺:短辺の比をそれぞれ測定する。図2には、空孔の径および長辺:短辺の比の測定方法の一例を示す。まず、図2(a)に示されるように、断面写真において、空孔3を包含する最小の円を描く。そのような円は、図2(a)に示すように空孔3の輪郭と2つの点AおよびBで接するか、または、空孔3の輪郭と3つ以上の点で接する。ここでは、先の円は、2つの点AおよびBで空孔3の輪郭と接していることとする。次に、図2(b)に示されるように、接点AおよびBを通る直線Lを引く。次に、図2(c)に示されるように、直線Lと平行な直線の内、空孔3の輪郭上を通り、この輪郭によって囲まれた領域を横切らない直線を引く。図2(c)では、点Cにて空孔3と接する直線Mおよび点Dにて空孔3と接する直線Nが描かれている。ここで、点AおよびB間の距離を<AB>と定義し、直線MおよびN間の距離を<MN>と定義する。そして、先の円が2つの点AおよびBで空孔3の輪郭と接している場合、<AB>を空孔3の径および空孔3の長辺と定義し、<MN>を空孔3の短辺と定義する。さらに、得られた長辺および短辺から、長辺:短辺の比を算出する。そして、1つの触媒層1から得られた5つの測定結果について平均径および比の平均を求める。また、空孔3内に酸化物、窒化物または合金が存在する場合、それらを無視し、触媒2と空孔3との境界のみに基づいて径および比を求める。
【0019】
図3のように、空孔3の輪郭と円との接点が3点以上である場合、接点間の距離を全て測定し、最も長い距離を示す接点の組を選び、それらを通る直線Lを引く。例えば、図3に示される空孔3は接点A’、B’およびC’を有する。この場合、点A’と点B’との距離、点B’と点C’との距離および点C’と点A’との距離をそれぞれ算出して互いに比較する。その結果、点B’と点C’との距離が最も長いため、点B’およびC’を通る直線Lを引く。これ以降の手順は図2と同様に行う。なお、<AB>と<MN>とが等しい場合は、長辺:短辺の比は1:1であるとする。
【0020】
実施形態に係る触媒担持基体では、触媒層1の平均厚さは、例えば0.05μm〜3μmとすることができる。この平均厚さは、例えば、次のように求めることができる。CP法を用いて触媒層を厚さ方向に切断する。その断面を、SEMを用いて5万倍の拡大率により観察し、断面写真を取得する。図4には、5万倍に拡大された断面写真が示される。このような断面写真に基づいて、任意の点において、触媒層1の上表面から触媒層1と基体11との界面までの距離を測定する。この測定を5点で測定し、その平均値を触媒層1の平均厚さとする。
【0021】
実施形態に係る触媒担持基体において、触媒層1の材料としては、既知のものを使用できる。特に、優れた触媒活性、導電性および安定性を達成できる材料を使用することが望ましい。例えば、触媒層1は、貴金属系触媒とすることができる。貴金属系触媒とは、Pt、Ru、Rh、Os、Ir、PdおよびAuなどの貴金属元素を少なくとも1つ含む触媒である。特に、貴金属系触媒は、これらの貴金属元素と他の元素との合金、またはこれらの貴金属元素の複合酸化物であることが好ましい。あるいは、触媒層1は、酸化物系触媒、窒化物系触媒、カーバイド系触媒等であってよい。
【0022】
実施形態に係る触媒担持基体において、触媒層1は、Pt、Ru、Rh、Os、Ir、Pd、Au、Zr、Ti、Ta、Si、Al、Sn、Hf、Ge、Ga、In、Ce、Nb、W、Mo、Cr、Ni、Co、Mn、Cu、Fe、Zn、BおよびVから成る群から選択される元素の単体金属、複数の前記元素から成る合金、または前記元素を少なくとも1つ含む酸化物から成ってよい。
【0023】
また、実施形態に係る触媒担持基体において、触媒層1は、アモルファス触媒または結晶触媒の集合体であってもよい。また、触媒層1内部には一定量以下の粒子状触媒が存在してもよい。触媒層1を多孔質基板の上に直接作製してよいが、この場合、粒子状触媒が形成されることがある。但し、粒子状触媒が多すぎる場合、実施形態に係る触媒担持基体の効果が低減するため、粒子状触媒の存在量は触媒層1に対して40%未満であることが好ましい。特に、粒子状触媒の存在量は触媒層1に対して35%以下であることが好ましく、さらには30%以下であることが好ましい。粒子状触媒の存在量は、上述した空孔3の形状の決定方法に倣って測定することができる。すなわち、断面写真を取得し、その断面写真から粒子状触媒の量を測定することができる。
【0024】
実施形態に係る触媒担持基体において、空孔3の内部に、Ni、Mn、Sn、Al、Cu、FeおよびZnから成る群から選択される少なくとも1つの元素を含む酸化物または窒化物が存在してもよい。これらの酸化物または窒化物は粒子状であってよい。このような酸化物または窒化物などのセラミック粒子は、平均直径が50nm以下であることが好ましい。50nmを超えると触媒層1の抵抗が大きくなり、十分なセル特性が得られない可能性がある。また、空孔3の内部に、異なる酸化物を複数存在させてもよい。また、上述の酸化物の他に、空孔3の内部に、固体酸性を導入しやすい酸化物、例えば、Zr、Ti、Ru、Si、Al、Sn、Hf、Ge、Ga、In、Ce、Nb、W、Mo、Cr、BおよびVから選択される少なくとも1つの元素の酸化物などの粒子を存在させてもよい。実施形態に係る触媒担持基体では、粒子を構成する金属元素に対する酸素元素の比率が5%以上の場合、その粒子は酸化物からなると定義される。
【0025】
空孔3内部における酸化物の存在は、例えば次のように確認することができる。触媒層1をウルトラミクロトームなどで箔切し、厚さ数十nmのTEM観察用薄膜を作製する。60万倍〜100万程度の倍率でTEM観察を行い、触媒層1および空孔3を確認し、さらに空孔3内に存在する粒子の有無を確認する。粒子が存在する場合、エネルギー分散X線分光法(Energy Dispersive x−ray Spectroscopy:EDS、EDX)などの手段を用い、マッピングにより粒子の同定を行い、粒子を構成する金属元素および酸素元素のスペクトルを得る。
【0026】
実施形態に係る触媒担持基体は、触媒層1に複数の空孔3が存在し、いわゆるスポンジ状構造を有していることにより、従来の触媒と比較して高い質量活性を有する。一般に、触媒の利用効率は触媒の比表面積に比例することが知られているが、実施形態に係る触媒担持基体の触媒層1では、同じ組成を有する従来の粒子状触媒(例えば、粒子径が2nm〜5nmのナノ触媒粒子)に比べて、比表面積が小さいものの、高い質量活性を有する。この理由は明らかとはなっていないものの、触媒活性に強く影響する表面構造の違いに起因すると考えられる。すなわち、実施形態に係る触媒担持基体の触媒層1は、従来のものとは異なる表面構造を有しており、表面に存在する高い活性を有する活性サイトの割合が従来のものより大きいためと考えられる。
【0027】
また、実施形態に係る触媒担持基体の空孔3内部に上述したような酸化物または窒化物が存在することで、プロトン伝導性を促進したり、触媒同士の凝集および触媒の成長を抑制したりすることにより、触媒の利用効率および耐久性を向上させることができ、さらに、触媒層1の構造の維持、燃料拡散などの物質移動の促進といった各種効果を得ることができる。さらに、空孔3内部に異なる酸化物が複数存在する場合、酸化物間に特殊な界面構造が形成されプロトン伝導性を促進する固体酸性を有する可能性が高く、プロトン伝導パスを形成し、電極触媒反応を促進し、更に高い触媒材料の利用効率および耐久性を得ることができる。また、固体酸性を導入しやすい酸化物を空孔3内部に存在させることで、プロトン伝導性をさらに向上させることができる。
【0028】
図5から6に、実施形態に係る触媒担持基体の製造方法の概略を示す。
【0029】
実施形態に係る触媒担持基体の製造方法は、触媒活性を有する第1材料のスパッタまたは蒸着と、第1材料と比較して、酸性溶液、アルカリ溶液または電解法を用いた溶解処理による溶解を生じやすい第2材料のスパッタまたは蒸着とを、基体に対して同時にまたは交互に繰り返し行い、第1材料および第2材料を含んだ堆積層を形成する工程と、堆積層に対して熱処理を行い、第1材料中に第2材料を拡散させる工程と、溶解処理により熱処理後の堆積層から第2材料の少なくとも一部を除去して、複数の空孔を含んだ触媒層を得る工程とを含む。
【0030】
各工程について、以下に説明する。
【0031】
図5には、堆積層を形成する工程の概略を示す断面図が示される。この工程では、基板11上に、触媒活性を有する第1材料と、酸性溶液、アルカリ溶液または電解法により溶解可能な第2材料とを交互に堆積する。
【0032】
基板11としては、導電性および安定性に優れる担体を使用することができる。触媒層1を拡散層として用いる場合には、導電性基体あるいはプロトン伝導性基体を用いることが好ましく、特に導電性多孔質基体を用いることが好ましい。導電性多孔質基体としては、通気性あるいは通液性を有する材料から形成されたものを使用することができる。例えば、カーボンクロス、カーボンペーパーなどのカーボン材料の多孔質ペーパーや多孔質クロスを使用することができる。この他に、基体11として、導電性を持つセラミックス多孔質基体なども使用することができる。
【0033】
第1材料12の堆積は、例えば、Pt、Ru、Rh、Os、Ir、Pd、Au、Zr、Ti、Ta、Si、Al、Sn、Hf、Ge、Ga、In、Ce、Nb、W、Mo、Cr、Ni、Co、Mn、Cu、Fe、Zn、BおよびVから成る群から選択される少なくとも1つの元素を含む材料をターゲットとして用いてスパッタすることで、または上記金属を蒸着といった成膜手段により行う。
【0034】
第2材料13の堆積は、第2材料13を含む材料をターゲットとして用いてスパッタすることで、または第2材料を蒸着することで行うことができる。第2材料13としては、後述する除去の工程において、酸洗浄、アルカリ洗浄等により溶解して除去できるものであれば、任意の組成を有した任意の材料を使用することができる。例えば、第2材料13として、金属または金属酸化物を使用することができる。特に、金属の使用は、短時間で形成および除去が可能であり、プロセス上の作業容易性、コスト等の観点から好ましい。好ましくは、第2材料13として、Mn、Fe、Co、Ni、Zn、Sn、AlおよびCuから選択される少なくとも1つの金属が使用される。
【0035】
第1材料12の堆積および第2材料13の堆積は、交互に行うことができる。これにより、図5に示されるように、基体11上に、第1材料12と第2材料13とが交互に積層されてなる堆積層14を形成することができる。触媒層1として十分な触媒量を確保するため、第1材料12の層の数は3から500であることが好ましい。
【0036】
図6には、堆積層を熱処理する工程の概略を示す断面図が示される。堆積層を形成する工程において形成された堆積層14に対して熱処理を行うことで、図6のように、第1材料12中に第2材料13を拡散させることができる。第1材料12および第2材料13がそれぞれ金属を含む場合、熱処理によってこれらの合金が形成される可能性がある。
【0037】
熱処理の温度は例えば300℃〜600℃とすることができる。この温度とすることで、第1材料12中に第2材料13が十分に拡散可能となり、偏り無く拡散する。熱処理を300℃未満の温度にて行うと拡散が不十分となり、600℃を超える温度にて行うと基体11から堆積層が剥離する可能性が高まる。また、熱処理の時間は、例えば30分から2時間とすることができる。
【0038】
熱処理は、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気または酸素雰囲気中で行うことができる。酸素雰囲気にて熱処理を行う場合、空孔3により多くの酸化物を形成させることができる。あるいは、熱処理をフォームガス(水素と窒素の混合ガス)雰囲気で行い、可能な限り酸化物の形成を抑えることも可能である。
【0039】
図7には、堆積層から第2材料を除去する工程の概略を示す断面図が示される。熱処理を受けた堆積層14から、第2材料13の少なくとも一部を除去することで、図7に示されるような、複数の空孔3を有したスポンジ状の構造を得ることができる。
【0040】
第2材料13の除去は、酸性溶液を用いた洗浄、アルカリ溶液を用いた洗浄または電解法により行うことができる。酸性溶液を用いた洗浄を行う場合、例えば、熱処理を受けた堆積層14を、硝酸、塩酸、硫酸またはこれらの任意の混合液中に5分〜50時間程度浸漬し、混合層21から第2材料13を溶解させて流し出すことができる。このとき、50〜100℃程度に加熱してもよい。また、溶解を促進するためにバイアス電圧を加えてよい。さらに、後処理として熱処理等を行ってもよい。
【0041】
除去の工程における第1材料12の流出を抑制するため、基板11に第1材料12を固定する処理を行ってもよい。例えば、除去に先立ち、混合層21に、Nafion(デュポン社、登録商標)といったポリマー溶液を含浸させることができる。また、除去後において、プロトン伝導を促進するために、または触媒層1と他部材との密着性を促進するために、Nafion(デュポン社)などのポリマー溶液をスプレーするかまたは含浸させてよい。
【0042】
実施形態に係る製造方法において、空孔3に酸化物もしくは窒化物または合金を存在させるための処理を行ってもよい。例えば、第1材料12および第2材料13として、酸化物もしくは窒化物または合金を形成する材料を使用することができる。例えば、第2材料13として、WおよびTaといった高融点金属を含む材料を用いることで、これら金属の酸化物を粒子状態として存在させることができる。異なる酸化物および/または窒化物が形成するよう、同時スパッタまたは順次スパッタすることも可能である。このスパッタまたは蒸着法における雰囲気に酸素を導入することによって、酸化物の構造、安定性を調整することが可能である。この場合は雰囲気の酸素分圧を20%未満にすることが好ましい。
【0043】
図8に、実施形態に係る膜電極接合体(MEA)20を模式的に示す断面図を示す。実施形態に係る膜電極接合体は、実施形態に係る触媒担持基体を少なくとも一方が含んだ第1及び第2電極と、第1及び第2電極間に介在した電解質とを含む。
【0044】
図8に示されるように、膜電極接合体20は、燃料極(アノード)31と空気極(カソード)32との間に高分子電解質膜33が挟持された構造を有する。高分子電解質膜33は水素イオン伝導性を有する。燃料極31は、拡散層と、その上に積層されたアノード触媒層とから成る。燃料極31には水素が供給される。空気極32は、拡散層と、その上に積層されたカソード触媒層とから成る。空気極32には酸素が供給される。実施形態に係る触媒担持基体の触媒層1は、アノード触媒層またはカソード触媒層の少なくともいずれか一方として使用される。一方、基体11は、拡散層として用いられる。
【0045】
基体11は、撥水剤を含むことが好ましい。これにより撥水性が高まるため、発電によって生成する水が触媒層1の内部から排出されずに水詰まりを起こすフラッディング現象を防ぐことができる。撥水剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)といったフッ素系の高分子材料を使用できる。撥水剤は、触媒層1の形成後に基体11に導入される。
【0046】
高分子電解質膜33はプロトン伝導性物質を含む。プロトン伝導性物質としては、プロトンを伝達できる材料を使用することができる。例えば、ナフィオン(デュポン社製)、フレミオン(旭化成社製)、アシブレック(旭硝子社製)といったスルホン酸基を有するフッ素樹脂、タングステン酸およびリンタングステン酸といった無機物等を使用することができる。
【0047】
高分子電解質膜33の厚さは、膜電極接合体20の特性を考慮して適宜決定することができる。例えば、5〜300μmとすることができ、好ましくは10μm〜150μmとできる。特に、高分子電解質膜33の厚さは、成膜時の強度および膜電極接合体20作動時の耐久性の観点から5μm以上であることが好ましく、膜電極接合体20作動時の出力特性の観点から300μm以下であることが好ましい。
【0048】
高分子電解質膜33と燃料極31および空気極33との接合は、加熱および加圧することができる装置を用いて行われる。例えば、ホットプレス機を用いて行うことができる。その際、プレス温度は、電極と電解質膜との結着剤として使用する高分子電解質のガラス転移温度以上であれば良く、例えば100℃〜400℃とすることができる。プレス圧は、使用する電極の硬さに依存するが、例えば5kg/cm〜200kg/cmとすることができる。
【0049】
図10に、実施形態に係る燃料電池40の一例を概略的に示す。
【0050】
実施形態に係る燃料電池40は、実施形態に係る膜電極接合体20と、膜電極接合体20を収容した筐体34とを含む。筐体34は、MEA20と、MEA20を挟んで対向するように設置された第1セパレータ43及び第2セパレータ44とを含んでよい。第1セパレータ43及び第2セパレータ44は、それぞれ、空気及び燃料をMEA20に供給するための流路を含んでよい。また、膜電極接合体20と燃料電池流路板との間に多孔質燃料拡散層を含んでよい。
【0051】
燃料電池40は、一般的に、このMEA20と2つのセパレータとを含む単セル42を積み重ね、直列に繋いで作製される。このように複数のMEA20を使用することにより、より高い起電力を得ることができる。燃料電池40の形状は、特に限定されず、所望する電圧などの電池の特性に応じて適宜選択される。ここでは、燃料電池40は、図10に示すようにスタック構造を有しているものとして説明したが、例えば、平面配置構造を有していてもよい。
【0052】
燃料電池の形状は、特に限定されず、所望する電圧などの電池特性が得られるように適宜決定してよい。
【0053】
使用される燃料としては、水素、改質ガス、メタノール、エタノールおよび蟻酸から成る群から選択される燃料、またはこれらから選択される1以上の燃料を含む水溶液等を使用することができる。
【実施例】
【0054】
(実施例1から21の触媒担持基体の作製)
下記の表1に記載される条件に沿って実施例1から21に係る触媒担持基体を作製した。具体的には、次のように製造した。
【0055】
基体としてカーボンペーパー(東レ社製、商品名:Toray060)を用意した。この基体は、その表面に厚さが5〜50μmの炭素層を有する。この基体に対して、実施例ごとに表1に示される組成を有する第1材料をスパッタリングした。さらに、その上から、実施例ごとに表1に示される組成を有する第2材料をスパッタリングした。この第1材料のスパッタリングおよび第2材料のスパッタリングを、実施例ごとに表1に示されるローディング量および触媒層の厚さとなるまで繰り返した。なお、0.2mg/cmのPtローディング量は、約100nmのPt平均厚さに相当する。このようにして、基体上に堆積層を形成した。
【0056】
形成された堆積層に対し、実施例ごとに表1に示す条件にしたがって、窒素雰囲気、酸素雰囲気またはフォームガス(水素と窒素の混合ガス)雰囲気の下で、記載される温度で、1時間熱処理した。これにより、第2材料を第1材料中に拡散させて、混合層を形成した。
【0057】
形成された混合層に対し、80℃の10重量%硫酸水溶液に2時間浸漬する酸処理を行った。その後、純水によって洗浄し、乾燥させ、本発明の各実施例に係る触媒担持基体を得た。
【0058】
(比較例1の触媒担持基体の作製)
比較例1に係る触媒担持基体を、下記の表2に記載される条件に沿って作製した。すなわち、基体としてウィスカー基板(有機顔料ピグメントレッド149、平均直径が50nm)を用意した。その上に、白金をスパッタリングした。このとき白金のローディング量を0.20mg/cmとした。
【0059】
(比較例2から6の触媒担持基体の作製)
比較例2から6に係る触媒担持基体を、表2に記載される条件に沿ってそれぞれ作製した。カーボンペーパー(東レ社製、商品名:Toray060)上に、表2に記載される第1材料および第2材料をスパッタリングした。このスパッタリングを、比較例ごとに表2に示されるローディング量および触媒層の厚さとなるまで繰り返した。その後、比較例2では、80℃の10重量%硫酸水溶液に2時間浸漬する酸処理を行った。一方、比較例3から6では、表2に記載される雰囲気および温度にて熱処理を行った後、80℃の10重量%硫酸水溶液に2時間浸漬する酸処理を行った。
【0060】
(比較例7の触媒担持基体の作製)
比較例7として、Pt標準電極を作製した。秤量した2gのPt触媒、5gの純水、5gの20%ナフィオン(デュポン社製)溶液および20gの2−エトキシエタノールを良く攪拌し、分散させた後、スラリーを作製した。得られたスラリーを、撥水処理したカーボンペーパー(350μm、東レ社製)にコントロールコータで塗布し、乾燥させた。これにより、Pt触媒のローディング密度が0.2mg/cmのPt標準電極を作製した。なお、Pt標準電極についてSEMによる観察を行ったが、実施形態に係る触媒担持基体が有するような触媒層は確認できなかった。
【0061】
(触媒層の観察)
作製した実施例1から21および比較例2から6の触媒担持基体について、厚さ方向に切断し、その断面をSEM観察した。その結果、実施例1〜21および比較例3〜6では、内部に空孔を有する触媒層が形成されていた。さらに、実施例1〜21、比較例2〜3および比較例5〜6の空孔の径および長辺:短辺の比を求めた。なお、比較例2では、シート状触媒と空隙層との層状構造を有する触媒層が形成されていた。また、700℃で熱処理を行った比較例4では、触媒層内部の空孔が崩壊しており、径を計測できなかった。以上の結果を表1および2に示す。
【0062】
さらに、切断面をTEMにより観察し、EDXで元素マッピングすることにより、空孔に存在する酸化物の有無を確認した。実施例1〜21および比較例2〜6について、それぞれTEM像から得られた空孔のうち、任意の20個について元素マッピングを行い、酸化物が確認された空孔が20個の内2つ以下だったものを△、5つ以下だったものを○、6つ以上だった確認されたものを◎として表1および2に示した。
【0063】
(MEAおよび燃料電池の作製)
実施例1から21および比較例1から7のそれぞれについて、膜電極接合体(MEA)および燃料電池を作製した。各触媒担持基体について、電極面積が約12cmとなるように、3×4cmの長方形に切り取り、カソードとして用いた。一方、アノードとして、比較例7のPt標準電極を用いた。これらの電極で高分子電解質膜としてのナフィオン(デュポン社製、商品名)を挟み、125℃で5分間、30kg/cmの圧力で熱圧着して、MEAを作製した。
【0064】
このようにして作製したMEAと流路板とを用いて、単セルの高分子電解質型燃料電池を作製した。
【0065】
(電圧および耐久性の測定)
まず、作製した各々の燃料電池について、電圧を測定した。各々の燃料電池において、アノードに対して、燃料として水素を流量20ml/分で供給し、カソードに対して、空気を流量100ml/分で供給した。燃料電池を65℃に維持しながら、0.2A/cmの電流密度で放電させ、10時間後のセル電圧(V)を測定した。結果を表1および表2に示す。
【0066】
次に、耐久性試験を行った。各々の燃料電池において、アノードに対して、燃料として水素を流量40ml/分で供給し、カソードに対して、窒素を流量40ml/分で供給した。燃料電池を70℃に維持しながら、(1)電圧を0.6Vで20秒間維持すること、および(2)電圧を1.0Vで20秒間維持することから成る電位サイクルを、10000サイクル繰り返した。このサイクルの概略を図8に示す。なお、0.6Vの区間は燃料電池を停止させた状態を想定しており、1.0Vの区間は燃料電池を作動させた状態を想定している。10000サイクル後に測定した電圧を、10時間後の電圧と比較し、10時間後の電圧に対する低下率が10%以下の場合、耐久性としては◎とし、10%超〜25%未満の場合○とし、25%以上の場合△として表1および2に示した。
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
(評価)
表1および2から、ローディング量の等しい実施例1から4および7から21と比較例1から4および7とを比較した場合、実施例1から4および7から21は、高い電圧および耐久性を示し、燃料電池としての性能が高いことがわかる。
【0069】
実施例1、3および4と比較例3および4との比較から、熱処理の最適温度は、300℃から600℃であること、特に400℃〜600℃がより最適であることが分かる。
【0070】
実施例1と2との比較、および実施例3と8と10との比較から、酸素雰囲気下で熱処理することにより、空孔に酸化物が多く存在することがわかり、それに対応して電圧が向上していることが示唆される。
【0071】
実施例8と実施例12、13または、19との比較から、第1材料として白金と白金以外の金属とを含む多元系合金を用いることで、電圧が向上することが分かる。
【0072】
実施例5および6から、ローディング量が低い場合であっても、高い電圧および耐久性を示し、燃料電池としての性能が高いことがわかる。
【0073】
比較例5は、高い電圧を得ることができていない。
【0074】
比較例6は、一見すると高い電圧と耐久性を得ているが、ローディング量が高く、また厚さも厚くする必要がある。このことから高い触媒活性を得ていないことが明らかである。また、厚さが厚いことによりガスの拡散が不十分とり、ローディング量が高いにもかかわらずその電圧は向上していない。
【0075】
以上の結果より、熱処理工程を行って触媒層に複数の空孔を形成することにより、燃料電池の特性が向上することが確認され、さらに、空孔に酸化物を存在させることによって、触媒活性を更に向上し、サイクル特性を更に改善できることが確認された。
【符号の説明】
【0076】
1…触媒層、2…触媒、3…空孔、11…基体、12…第1材料、13…第2材料、14…堆積層、20…膜電極接合体、31…燃料極(アノード)、32…空気極(カソード)、33…高分子電解質膜、40…燃料電池、41…筐体、42…単セル、43…第1セパレータ、44…第2セパレータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体に担持され、複数の空孔を含んだ触媒層とを具備し、前記触媒層のその厚さ方向に断面において、前記空孔は、平均径が5nm〜400nmであり、長辺:短辺の比が平均で1:1〜10:1である触媒担持基体。
【請求項2】
前記触媒層の平均厚さが0.05μm〜3μmである請求項1に記載の触媒担持基体。
【請求項3】
前記触媒層は、Pt、Ru、Rh、Os、Ir、Pd、Au、Zr、Ti、Ta、Si、Al、Sn、Hf、Ge、Ga、In、Ce、Nb、W、Mo、Cr、Ni、Co、Mn、Cu、Fe、Zn、BおよびVから成る群から選択される元素の単体金属、複数の前記元素から成る合金、または前記元素を少なくとも1つ含む酸化物から成る請求項1または2に記載の触媒担持基体。
【請求項4】
前記空孔内部に、Ni、Mn、Sn、Al、Cu、FeおよびZnから成る群から選択される少なくとも1つの元素の単体金属、複数の前記元素から成る合金、前記元素を少なくとも1つ含む酸化物または前記元素を少なくとも1つ含む窒化物が存在する請求項1から3の何れか1項に記載の触媒担持基体。
【請求項5】
触媒活性を有する第1材料のスパッタまたは蒸着と、前記第1材料と比較して、酸性溶液、アルカリ溶液または電解法を用いた溶解処理による溶解を生じやすい第2材料のスパッタまたは蒸着とを、基体に対して交互に繰り返し行い、前記第1材料および前記第2材料を含んだ堆積層を形成する工程と、
前記堆積層に対して熱処理を行い、前記第1材料中に前記第2材料を拡散させる工程と、
前記溶解処理により前記熱処理後の前記堆積層から前記第2材料の少なくとも一部を除去して、複数の空孔を含んだ触媒層を得る工程と
を含む触媒担持基体の製造方法。
【請求項6】
前記溶解処理は酸性溶液を用いて行われる請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記第2材料は、Ni、Mn、Sn、Al、Cu、FeおよびZnから成る群から選択される少なくとも1つの金属を含んだ請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理において、前記堆積層を300℃以上600℃以下の温度に加熱する請求項5から7の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1から4の何れか1項に記載の触媒担持基体または請求項3から8の何れか1項に記載の製造方法により製造される触媒担持基体を少なくとも一方が含んだ第1及び第2電極と、
前記第1及び第2電極間に介在した電解質と
を具備した膜電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の膜電極接合体と、
前記膜電極接合体を収容した筐体と
を具備した燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−73695(P2013−73695A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209858(P2011−209858)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】