説明

触媒材料および該触媒材料の製造方法

【課題】触媒材料全体における触媒担持カーボン粒子の比表面積が広く、三相界面が多く形成されるような触媒材料を提供する。
【解決手段】
本発明の触媒材料は、カーボン粒子に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料である。この触媒材料のカーボン粒子は、炭素で形成されており、触媒金属が担持されている外殻部と、外殻部の内部に形成されている内部空間と、外殻部に複数形成されており、内部空間と連通している微細孔とを備えた多孔質且つ中空のカーボン粒子である。また、この触媒材料は、平均粒径が200nm以上10μm未満である触媒担持カーボン粒子で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン粒子に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料、及び該触媒材料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料は様々な分野で用いられている。例えば、当該触媒材料は、燃料電池の電極を構築する際に用いられる。当該燃料電池の一種である固体高分子形燃料電池(PEFC:polymer electrolyte fuel cell)では、アノード(負極・燃料極)に、触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料が用いられる。
【0003】
近年、種々の目的を達成するために、様々な形態の触媒担持カーボン粒子が作製されている。例えば、特許文献1には、無機成分からなるコア部と、該コア部の周囲に形成された周囲部とを備える複合触媒粒子が開示されている。特許文献1に開示されている複合触媒粒子の周囲部は、炭素成分と触媒活性粒子(触媒金属)を含んでおり、該触媒活性粒子は炭素成分に埋包されている。
また、特許文献2に記載の技術では、化学気相蒸着法を用いることによって、炭素ナノチューブの表面に白金ナノ粒子を担持させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−050319号公報
【特許文献2】特開2008−195599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、触媒担持カーボン粒子による触媒作用は、触媒金属と、カーボン粒子と、触媒作用の対象との界面が一同に会する三相界面において生じる。すなわち、上記触媒担持カーボン粒子において三相界面が形成されている箇所が多くなるほど触媒材料の触媒機能が高くなる。
上記触媒材料による触媒機能を向上させる方法の一つとして、触媒材料全体における触媒担持カーボン粒子の比表面積を増加させ、触媒金属とカーボン粒子とが触媒作用の対象に接触する機会を増やすという方法が考えられる。触媒担持カーボン粒子の比表面積を増加させるには、触媒担持カーボン粒子に複数の空隙を形成したり、平均粒径の小さな触媒担持カーボン粒子で触媒材料を構成したりするとよい。しかし、このような触媒材料は、製造することが難しく、好適な製造方法が確立されていないのが現状である。
【0006】
本発明は、上述の問題を鑑みてなされたものであり、触媒材料全体における触媒担持カーボン粒子の比表面積が広く、三相界面が多く形成されるような触媒材料、及び、そのような触媒材料の製造方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、本発明によって以下の構成の触媒材料が提供される。即ち、ここで開示される触媒材料は、カーボン粒子に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料である。この触媒材料のカーボン粒子は、炭素で形成されており、上記触媒金属が担持されている外殻部と、上記外殻部の内部に形成されている内部空間と、上記外殻部に複数形成されており、上記内部空間と連通している微細孔とを備えた多孔質且つ中空のカーボン粒子である。また、この触媒材料を構成する触媒担持カーボン粒子の平均粒径は、200nm以上10μm未満(より好ましくは500nm以上5μm以下)である。
なお、上記「触媒担持カーボン粒子の平均粒径」とは、触媒材料中の触媒担持カーボン粒子の粒度分布におけるD50(メジアン径)をいう。かかるD50は、例えば従来公知のレーザー回折方式、光散乱方式等に基づく粒度分布測定装置によって容易に測定することができる。
また、ここで開示される触媒材料の好ましい一態様では、触媒金属は、白金族に含まれる何れかの金属或いは該白金族に含まれる何れかの金属を主体とする合金である。
【0008】
ここで開示される触媒材料を構成する触媒担持カーボン粒子は、微細孔及び内部空間を有する多孔質且つ中空のカーボン粒子を備えており、該カーボン粒子の外殻部に触媒金属が担持されている。上記カーボン粒子は、多孔質且つ中空であるため、炭素質微粒子が単に凝集しているのみのカーボン粒子よりも表面積が広くなっている。このため、触媒金属を担持できる箇所が多くなっているとともに、触媒担持カーボン粒子が触媒作用の対象に接触する面積も増加している。さらに、ここで開示される触媒材料は、平均粒径が小さな(例えば200nm以上10μm未満の)触媒担持カーボン粒子で構成されているため、触媒材料全体における触媒担持カーボン粒子の比表面積が大きくなっている。
したがって、ここで開示される触媒材料は、広い表面積を有するとともに平均粒径が小さい触媒担持カーボン粒子で構成されているため、触媒作用の対象とカーボン粒子と触媒金属とが接触する機会が増加しており、これらの界面が一同に会する三相界面が形成される箇所が増加しているので高い触媒機能を発揮することができる。
【0009】
ここで開示される触媒材料の好ましい一態様では、上記微細孔の平均孔径が10nm以上500nm以下である。なお、「微細孔の平均孔径」は、SEM写真による触媒担持カーボン粒子の表面観察により測定することができる。
上記微細孔の平均孔径が大きすぎると、触媒担持カーボン粒子全体における空洞部分の割合が大きくなりすぎて、外殻部の占める割合が小さくなるため比表面積が小さくなるおそれがある。一方、微細孔の平均孔径が小さすぎると、触媒担持カーボン粒子が触媒対象に接触した際に、触媒対象が内部空洞まで到達しにくくなる。微細孔の平均孔径が上述の数値範囲内である場合、触媒対象が内部空洞まで好適に到達でき、適切な割合の外殻部が形成されているため、より高い触媒機能を発揮することができる。
【0010】
また、ここで開示される触媒材料の好ましい一態様では、上記触媒金属の平均粒径が1nm以上100nm以下である。なお、「触媒金属の平均粒径」は、TEM写真による触媒担持カーボン粒子の表面観察により測定することができる。
上記数値範囲内のように平均粒径の小さな触媒金属が担持されていると、触媒材料全体における触媒金属の比表面積が広くなるため、触媒金属の触媒機能をより効率よく発揮することができる。
【0011】
また、本発明は、他の側面として触媒材料を製造する方法を提供する。即ち、ここで開示される製造方法は、カーボン粒子に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造する方法である。この製造方法は、
上記カーボン粒子を形成するための炭素質微粒子と、上記炭素質微粒子とは異なる有機高分子化合物からなるポリマー粒子とが分散媒中に分散した分散液を用意すること;
上記分散液を霧状の液滴として加熱炉内に噴霧すること;
上記噴霧された液滴を上記加熱炉内で加熱することにより、上記分散媒を蒸発させて上記炭素質微粒子と上記ポリマー粒子との混合凝集体を形成すること;
上記混合凝集体をさらに加熱することにより、上記混合凝集体からポリマー成分を除去して多孔質かつ中空のカーボン粒子を得ること;
上記得られたカーボン粒子を、触媒金属元素を有する化合物を含む触媒金属溶液に分散させること;
上記カーボン粒子を分散させた触媒金属溶液を還元処理し、触媒金属を析出させることによって、上記カーボン粒子の表面に上記触媒金属を担持させること;
を包含する。
【0012】
上記構成の製造方法では、炭素質微粒子とポリマー粒子とが分散した分散液を噴霧した液滴から分散媒を蒸発させることによって、炭素質微粒子とポリマー粒子とが凝集した混合凝集体を形成する。次に、この混合凝集体をさらに加熱して混合凝集体中のポリマー成分を除去することによって、多孔質且つ中空のカーボン粒子を得る。そして、このカーボン粒子に触媒金属を担持させることによって、多孔質且つ中空であり、表面積が広い触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造することができる。
また、上記構成の製造方法では、噴霧された液滴を乾燥させることにより混合凝集体を形成するため、炭素質微粒子同士が必要以上に凝集してカーボン粒子の粒径が大きくなることを防止できる。このため、比較的平均粒径の小さい(例えば200nm以上10μm未満の)触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造することができる。
以上のように、上記構成の製造方法によれば、広い表面積を有するとともに平均粒径が小さい触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造することができる。
【0013】
また、上記構成の製造方法では、カーボン粒子を触媒金属溶液に分散させ、該触媒金属溶液から触媒金属を析出させることによって、カーボン粒子に触媒金属を担持させている。これによって、比較的に粒径の小さな(典型的には1nm以上100nm以下、好ましくは1nm以上25nm以下、より好ましくは1nm以上15nm以下、例えば3nm以上10nm以下の)触媒金属をカーボン粒子に担持させることができるため、触媒機能を効率よく発揮できる高品質の触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造することができる。
【0014】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記還元処理後に、上記カーボン粒子を分散させた触媒金属溶液を攪拌させながら6時間〜24時間保持する。
これによって、触媒金属同士の凝集を防止しつつ、触媒金属を析出させることができるため、より粒径の小さな触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。
【0015】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記炭素質微粒子の平均粒径が20nm以上100nm以下である。
平均粒径が20nm以上の炭素質微粒子を用いることによって、混合凝集体における炭素質微粒子の配置が密になりすぎて、ポリマー成分が除去されにくくなり、微細孔が形成されづらくなるといった事態を防止することができる。また、平均粒径100nm以下の炭素質微粒子を用いることによって、粒径のより小さな触媒担持カーボン粒子を作製できる。すなわち、上記数値範囲内の平均粒径を有した炭素質微粒子を用いると、微細孔が好適に形成され、且つ、より粒径の小さな触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造できる。
【0016】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記ポリマー粒子の平均粒径が100nm以上600nm以下である。
平均粒径100nm以上のポリマー粒子を用いることによって、炭素質微粒子とポリマー粒子とが凝集する際に、ポリマー粒子が混合凝集体の内側に配置されやすくなる。ポリマー粒子が内側に配置された混合凝集体は、ポリマー成分が除去された後に、好適な形状の内部空間が形成されやすい。
また、平均粒径600nm以下のポリマー粒子を用いることによって、平均粒径の小さな触媒担持カーボン粒子を容易に作製できる。すなわち、上記数値範囲内の平均粒径を有したポリマー粒子を用いると、粒径が小さく、且つ、好適な形状の内部空間が形成された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を容易に製造することができる。
【0017】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記分散液を平均粒径1μm以上10μm以下の液滴になるように上記加熱炉内に噴霧する。
これによって、粒径の小さな触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を容易に製造できる。
【0018】
また、ここで開示される製造方法の好ましい一態様では、上記触媒金属溶液が界面活性剤をさらに含む。また、上記界面活性剤は、上記触媒金属溶液に分散される上記カーボン粒子100質量部に対して5質量部以上20質量部以下の割合で上記触媒金属溶液に含まれるとより好ましい。
界面活性剤を触媒金属溶液に添加すると、該溶液中で粒子を好適に分散させることができるようになる。これによって、該溶液中に分散している粒子(例えば、触媒担持カーボン粒子、カーボン粒子)同士の凝集を防止し、平均粒径の小さな触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を容易に製造できる。また、上記界面活性剤は、触媒金属の粒成長を抑制する働きも有しているため、粒径の小さな触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子を作製することが容易になる。
また、上記界面活性剤は、析出した金属触媒粒子同士が凝集することも防止できるため、カーボン粒子の全体に亘って金属触媒粒子を均質に担持させることができる。特に、カーボン粒子100質量部に対して5質量部以上20質量部以下の割合で界面活性剤を添加した場合、非常に粒径の小さな(例えば1nm以上15nm以下の)触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。
【0019】
本発明によって提供される触媒材料は、広い表面積を有するとともに平均粒径が小さい触媒担持カーボン粒子で構成されており、三相界面が形成される箇所が増加しているため、高い触媒機能を発揮できる。例えば、この触媒材料を、高分子電解質型の燃料電池(PEFC)におけるアノード及び/又はカソードに用いることによって高性能のPEFCを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る触媒材料の一例を撮影したSEM写真。
【図2】本発明に係る触媒材料を構成する触媒担持カーボン粒子の外殻部の一部を破壊した状態を撮影したSEM写真。
【図3】サンプル1の触媒担持カーボン粒子を撮影したSEM写真。
【図4】サンプル1の触媒担持カーボン粒子の表面を拡大して撮影したSEM写真。
【図5】サンプル2の触媒担持カーボン粒子を撮影したSEM写真。
【図6】サンプル2の触媒担持カーボン粒子の表面を拡大して撮影したSEM写真。
【図7】カーボン粒子を分散させた溶液に添加されたポリビニルアルコール(PVA)の量(横軸:質量%)と、触媒担持カーボン粒子に担持されている白金粒子の平均粒径(縦軸:nm)との関係を示すグラフ。
【図8】本発明に係る触媒材料の製造方法を好適に実施するための装置の一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0022】
<触媒材料の構成>
以下、図1〜図6を参照しながら、本発明の一実施形態にかかる触媒材料について説明する。図1は、複数の触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料のSEM写真である。また、図2は、外殻部の一部を破壊した触媒担持カーボン粒子のSEM写真である。なお、図3〜6は、後述の実施例において作製した触媒材料を構成する触媒担持カーボン粒子のSEM写真である。
【0023】
図1に示すように、ここで開示される触媒材料は、複数の触媒担持カーボン粒子で構成されている。この触媒担持カーボン粒子は、多孔質且つ中空のカーボン粒子に触媒金属が担持されることによって形成されている。
上記触媒担持カーボン粒子の典型的な形状は略球形状である。ここで、本明細書における「略球形状」とは、球状、ラグビーボール状、多角体状などを含む形状であり、その長径/短径が好ましくは2/1〜1/1、典型的には1.5/1〜1/1であり、真球(長径/短径=1/1)に近い形状をとり得る。
ここで開示される触媒材料を構成する触媒担持カーボン粒子の平均粒径は、200nm以上10μm未満、好ましくは500nm以上5μm以下、より好ましくは1μm以上5μm以下である。ここで開示される触媒材料は、上記数値範囲のように粒径の小さな触媒担持カーボン粒子で構成されているため、触媒材料全体における触媒担持カーボン粒子の比表面積が広くなっている。
【0024】
1.カーボン粒子
カーボン粒子は、外殻部と内部空間と微細孔とを備えた多孔質且つ中空のカーボン粒子である。
【0025】
1−1.外殻部
カーボン粒子の外殻部は炭素で形成されている。外殻部は、例えば、炭素系材料が集合することで形成されており、典型的には、微細な炭素質微粒子の凝集体である。外殻部には、後述の触媒金属が担持されている。上記外殻部を構成する炭素系材料は、触媒金属の担体として用いられ得るものであればよく、その具体的な構造は本発明を限定するものではない。例えば、外殻部は、カーボンブラック、活性炭、活性炭素繊維、カーボンナノチューブ、フラーレンなどから構成されているとよい。
また、図2に示すように、外殻部は、後述の内部空間を内部に有する殻状部材であり、その厚み(電子顕微鏡観察に基づいて計算される平均値。)は、20nm以上1000nm以下、好ましくは40nm以上600nm以下、より好ましくは40nm以上500nm以下であるとよい。
【0026】
1−2.内部空間
図2に示すように、外殻部の内部には内部空間が形成されている。かかる内部空間の形状は、例えば、略球形状である。内部空間の形状が略球形状である場合、内部空間の径(電子顕微鏡観察に基づいて計算される平均値。)は、例えば、50nm以上9μm以下、好ましくは100nm以上5μm以下、より好ましくは3±0.5μmであるとよい。
【0027】
1−3.微細孔
また、図2〜図6に示すように、上記外殻部には、上記内部空間と外界とを連通させる微細孔が複数形成されている。この微細孔が形成されている数は、触媒担持カーボン粒子1つあたりに、概ね2個以上250個以下、典型的には10個以上200個以下、例えば50個以上100個以下であるとよい。また、微細孔の平均孔径は、10nm以上500nm以下、好ましくは20nm以上400nm以下、より好ましくは75nm以上150nm以下であるとよい。微細孔の平均孔径が上記数値範囲内である場合、触媒対象が内部空洞まで好適に到達でき、適切な割合の外殻部が形成されているため、より高い触媒機能を発揮することができる。
【0028】
2.触媒金属
図4、図6に示すように、上記カーボン粒子の外殻部には、触媒金属が担持されている。触媒金属の種類は、本発明を限定するものではないが、白金族に含まれる何れかの金属、或いは該白金族に含まれる何れかの金属を主体とする合金などを好ましく用いることができる。上記白金族に含まれる金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)が挙げられる。これらの中でも、製造コストと触媒機能の高さを考慮すると、上記白金族元素の中でも白金(Pt)を特に好ましく用いることができる。また、白金族に含まれる金属を主体とする合金としては、例えば、白金(Pt)と遷移金属との合金(典型的には、白金ニッケル合金(Pt−Ni合金)、白金コバルト合金(Pt−Co合金)等)が好ましく用いられる。また、上述した白金族の金属以外にも、金(Au)や銀(Ag)等も触媒金属として用いることができる。なお、上記触媒金属は、酸素などと結合した化合物の状態であっても、触媒対象に触媒機能を発揮させることができればよい。
当該触媒金属の形状は、略粒径であると好ましい。かかる略粒径の触媒金属の平均粒径は、0.1nm以上、1nm以上、2nm以上、3nm以上、4nm以上であり、200nm以下、100nm以下、50nm以下、25nm以下、20nm以下、15nm以下、10nm以下であるとよい。触媒金属の平均粒径が小さいと、触媒材料全体における触媒金属の比表面積が広くなるため、より高い触媒機能を発揮することができる。後に詳述するが、ここで開示される製造方法によると、比較的粒径の小さい(典型的には平均粒径が100nm以下、好ましくは10nm以下、例えば3〜10nm)触媒金属微粒子をカーボン粒子の表面に担持させることができる。
【0029】
また、本発明を特に限定するものではないが、上記触媒金属は、比表面積の増加という観点から上記外殻部の全体に亘って均一に担持されていると好ましい。なお、上記触媒金属は、特定の部位に集まって担持されていてもよいし、上記触媒金属の一部が上記外殻部に埋包されていてもよい。
【0030】
ここで開示される触媒材料は、微細孔及び内部空間を有したカーボン粒子の外殻部に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子で構成されている。かかる触媒担持カーボン粒子のカーボン粒子は、多孔質且つ中空であるため、炭素質微粒子が単に凝集しているのみのカーボン粒子よりも表面積が広くなっている。このため、触媒金属を担持できる箇所が増加しているとともに、触媒作用の対象に接触できる面積が増加している。さらに、ここで開示される触媒材料は、平均粒径が小さな(例えば200nm以上10μm未満の)触媒担持カーボン粒子で構成されているため、触媒材料全体における触媒担持カーボン粒子の比表面積が大きくなっている。このように、ここで開示される触媒材料によれば、広い表面積を有するとともに平均粒径が小さい触媒担持カーボン粒子で構成されているため、三相界面が形成される箇所が増加しており、高い触媒機能を発揮することができる。
【0031】
<触媒材料の製造方法>
次に、ここで開示される触媒材料を製造する方法の好ましい一態様について説明する。ここで説明する製造方法は、「a.分散液の用意」、「b.分散液の噴霧」、「c.混合凝集体の形成」、「d.ポリマー成分の除去」、「e.カーボン粒子分散液の調製」、「f.還元処理」のステップを経て触媒材料を製造する。以下、上記ステップのそれぞれについて説明する。
【0032】
a.分散液の用意
ここで開示される製造方法では、先ず、炭素質微粒子とポリマー粒子とが分散媒中に分散した分散液を用意する。当該分散液を用意するにあたっては、例えば、上記材料を混合することで分散液を調製してもよいし、上記材料が予め調製されている分散液を購入してもよい。以下、分散液を調製する場合について説明する。
【0033】
a−1.炭素質微粒子
上記炭素質微粒子は、触媒担持カーボン粒子のカーボン粒子(外殻部)を形成するための材料である。上記炭素質微粒子として用いられ得る材料は、上記「1−1.外殻部」の項で既に説明しているため、ここでの説明を省略する。なお、上記分散液に分散させる炭素質微粒子の平均粒径は、100nm以下(典型的には1nm以上100nm以下、好ましくは20nm以上100nm以下、より好ましくは20nm以上40nm以下)であるとよい。平均粒径が小さな炭素質微粒子を用いて上記カーボン粒子(外殻部)を作製することにより、平均粒径の小さな触媒担持カーボン粒子を得ることが容易になる。
【0034】
a−2.ポリマー粒子
上記炭素質粒子と共に分散媒に分散させるポリマー粒子は、上記炭素質微粒子とは異なる有機高分子化合物からなる粒子である。このポリマー粒子は、加熱によって分解・蒸発するものが好ましく用いられる。上記ポリマー粒子としては、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンオキシド、或いはその他にポリオレフィン系高分子化合物(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン)などからなる粒子を好ましく用いることができる。この種の微細なポリマー粒子としては、所定の分散媒に分散した系(ラテックス)で提供されるいわゆるラテックス粒子を好適に使用することができる。ラテックス粒子は、一般にほぼ球形状であり粒度分布が小さいため、本発明に係る製造方法の適用する材料(ポリマー粒子)として好ましく使用することができる。なかでも、ポリスチレンからなるラテックス粒子(ポリスチレンラテックスビーズともいう。以下、「PSL」と称する。)を好ましく用いることができる。また、使用するポリマー粒子の平均粒径は、使用する炭素質微粒子よりも大きい径のものが好ましく、具体的には、100nm以上600nm以下(好ましくは150nm以上550nm以下、より好ましくは200nm以上500nm以下、例えば300±50nm)であるとよい。炭素質微粒子よりも大きい径のポリマー粒子を用いた場合、後述の混合凝集体が形成された際に、ポリマー粒子が内側に炭素質微粒子が外側に配置されやすくなる。これによって、好適な形状の内部空洞と微細孔が形成された触媒担持カーボン粒子を容易に作製することができる。
【0035】
a−3.分散媒
上記炭素質微粒子と上記ポリマー粒子とを分散させる分散媒は、炭素質微粒子とポリマー粒子とを適切に分散させることができるものであればよく、本発明を特に限定するものではない。また、上記ポリマー粒子が溶解しないような液体が特に好ましく用いられる。ここで、分散媒の一例としては、水、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどを挙げられる。これらの中でも、上記各粒子の分散性や製造コストを考慮すると、水が特に好ましく用いられる。
【0036】
a−4.分散液の調製
分散液を調製する際には、所定量の炭素質微粒子とポリマー粒子を分散媒に添加して十分に混合する混合処理が行われる。この混合処理には、液体を混合するために用いられる従来公知の装置を用いることができ、例えば、攪拌混合やポットミリングなどが用いられる。特に攪拌混合を用いた場合、粒子が均質に分散した分散液を調製できるため好ましい。
また、炭素質微粒子とポリマー粒子を分散媒に添加する量は、目的とする触媒担持カーボン粒子の粒径や内部空洞の径、外殻部の厚みなどに応じて、適宜調整することができる。特に限定するものではないが、分散媒中における炭素質微粒子(C)に対して使用するポリマー粒子(P)の重量比(P/C)が0.5〜12(好ましくは1〜10、より好ましくは1〜6、例えば1.3)程度になるようにこれら粒子材料を混合することが好ましい。
【0037】
b.分散液の噴霧
次に、上記「a.分散液の用意」で得た分散液を霧状の液滴として加熱炉内に噴霧する。分散液を霧状の液滴に噴霧する具体的な方法は、本発明を限定するものではないが、例えば2流体ノズル、超音波噴霧器などを用いることができる。これらの機器を用いることによって、分散液をサブマイクロ〜マイクロオーダーの微細な液滴を霧状に噴霧させるができる。噴霧された液滴の液滴径の一例を挙げると、0.1μm以上15μm以下、好ましくは1μm以上10μm以下、更に好ましくは2μm以上7μm以下である。この場合、粒径の小さな触媒担持カーボン粒子の作製がより容易になる。
【0038】
c.混合凝集体の形成
次に、上記「b.分散液の噴霧」で噴霧された液滴を加熱炉内で加熱することにより分散液中の分散媒を蒸発させる。これによって、液滴中に分散していた炭素質微粒子、ポリマー粒子が凝集する。この際、比較的に粒径の大きいポリマー粒子の表面に上記炭素質微粒子が付着しながら凝集するため、中心部分に主としてポリマー粒子、その外側に主として炭素質微粒子が配置された混合凝集体が形成される。
混合凝集体を形成する際の加熱温度は、分散液中の液体成分(分散媒)が蒸発し、且つ、混合凝集体中からポリマー成分が取り除かれない程度の温度域(好ましくは100℃以上300℃以下、より好ましくは150℃以上250℃以下、例えば200℃程度)に設定すると好ましい。これによって、ポリマー粒子の表面に複数の炭素質微粒子が好適に付着した混合凝集体が得られる。また、この加熱処理を実施する時間は、0.5分以上20分以下、好ましくは1分以上10分以下、例えば5分程度に設定するとよい。上述の範囲内の時間で分散液の液滴を加熱すると、好適な形状の混合凝集体を形成することができる。
【0039】
d.ポリマー成分の除去
次に、上記得られた混合凝集体をさらに加熱することにより、混合凝集体からポリマー成分を除去する。ここで、かかるポリマー成分の除去の態様としては、例えば、ポリマー成分の蒸発による除去、ポリマー成分の分解による除去、加熱に伴う燃焼による除去などが例として挙げられる。なお、かかる除去の態様は上述の例に限られるものではない。
混合凝集体中からポリマー成分を除去するための加熱処理を行うと、当該ポリマー成分が気体になり、気体となったポリマー成分の圧力によってポリマー粒子の表面に付着していた炭素質微粒子の凝集体に微細な穴が開く。当該微細な穴を通って、気体となったポリマー成分が混合凝集体の外部へ抜け、混合凝集体におけるポリマー粒子が配置されていた部分(中心部分)が空洞化する。このときに空洞化した中心部分が上記内部空洞になり、炭素質微粒子の凝集体が外殻部となる。これによって、微細孔と内部空間を有した多孔質且つ中空のカーボン粒子が形成される。
【0040】
上記ポリマー成分を除去するための加熱処理は、ポリマー粒子のポリマー成分を除去(蒸発・分解など)でき、且つ、炭素質微粒子が酸化しないように行うことが好ましい。このように加熱処理を行うには、加熱温度や加熱環境を調整するとよい。例えば、加熱温度については、100℃以上1100℃以下、好ましくは200℃以上900℃以下、より好ましくは200℃〜600℃に調整するとよい。
ここでの加熱温度を比較的に高温域(例えば500℃以上1100℃以下、好ましくは500℃以上900℃以下)に設定した場合には、加熱処理を不活性ガス(例えば、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)の雰囲気下で行うとよい。この場合、加熱による炭素質微粒子の酸化を防止しながらポリマー成分を除去することができるので、品質に優れた触媒担持カーボン粒子を製造することができる。
一方、加熱温度を比較的低温域(例えば200℃以上600℃以下、好ましくは500℃以上600℃以下)に設定した場合には、加熱処理を酸化性ガス(例えば、酸素含有ガス(特に好ましくは空気))の雰囲気下で行うとよい。この場合、酸化性ガスがポリマー成分の除去(蒸発・分解)を補助するため、比較的低温域でもポリマー成分を適切に除去することができる。加熱処理を比較的低温域で行うメリットとしては、加熱炉の耐久性低下の防止、温度上昇に要する燃料費の低減など、低コストでの製造が可能になることが挙げられる。さらに、酸化性ガスとして空気を用いた場合には、キャリアガスのコストを低減させることができるので、製造コストを更に低減させることができる。
【0041】
また、上記ポリマー成分を除去する際の加熱温度を変更すると、炭素質微粒子に対するポリマー粒子の重量比(P/C)の好適な値にも影響を与える。例えば、ポリマー成分を除去する際の加熱温度を比較的高温域(例えば500℃以上1100℃以下)に設定した場合、炭素質微粒子に対するポリマー粒子の重量比(P/C)が比較的少なく(0.5〜2、好ましくは1〜1.5)なるように分散液を調製するとよい。
一方、加熱温度を比較的低温域(200℃以上600℃以下)に設定した場合、炭素質微粒子に対するポリマー粒子の重量比(P/C)が比較的多く(1以上10以下、好ましくは1以上5以下)なるように分散液を調製するとよい。
【0042】
また、上記ポリマー成分の除去における加熱処理の時間は、0.5分以上20分以下、好ましくは1分以上10分以下、例えば5分程度に設定するとよい。上述の範囲内の時間で混合凝集体を加熱すると、好適なカーボン粒子を形成することができる。このように、ここで開示される製造方法では、従来よりも大幅に短い時間で、多孔質且つ中空のカーボン粒子が得られる。
なお、ポリマー成分を除去するための加熱処理は、混合凝集体を上記「c.混合凝集体の形成」で使用した加熱炉内に滞留させたまま、該加熱炉の温度を上昇させることによって実施してもよいし、混合凝集体を一度捕集して設定温度の異なる別の加熱炉で加熱してもよい。例えば、混合凝集体を「c.混合凝集体の形成」で使用した加熱炉内に滞留させたまま、「d.ポリマー成分の除去」を実施する場合には、段階的に昇温するように加熱温度が設定された筒状の加熱炉内に分散液を噴霧させ、温度の低い側から高い側に向かって当該分散液を流動させるとよい。これによって、一つの加熱炉で「c.混合凝集体の形成」と「d.ポリマー成分の除去」を実施することができる。
【0043】
e.カーボン粒子分散液の調製
次に、ここで開示される製造方法では、上記「d.ポリマーの除去」によって得られたカーボン粒子を、触媒金属元素を有する化合物を含む触媒金属溶液に分散させる。
【0044】
e−1.触媒金属溶液
ここで、上記カーボン粒子を分散させる触媒金属溶液について説明する。この触媒金属溶液には、上述のとおり、触媒金属元素を有する化合物が含まれている。
上記触媒金属元素を有する化合物としては、上記「2.触媒金属」の項で述べた触媒金属の塩や錯体などを好ましく用いることができる。上記触媒金属の塩としては、例えば、塩化物、臭化物、ヨウ化物などのハロゲン化物や、水酸化物、硫化物、硫酸塩、硝酸塩、さらには、カリウム複合酸化物、アンモニウム複合酸化物、ナトリウム複合酸化物などの複合酸化物などを用いることができる。また、上記貴金属の錯体としては、アンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体などを用いることができる。上記触媒金属として白金(Pt)を用いた場合の触媒金属化合物を例示すると、六塩化白金酸(HPtCl)、塩化白金六水和物(H(PtCl)・6HO)、白金(IV)塩化物、白金(II)臭化物、白金(II)ヨウ化物、白金(IV)硫化物、テトラクロロ白金(II)酸カリウム、テトラクロロ白金(II)酸アンモニウム、ヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム六水和物、白金(II)ヘキサフルオロアセチルアセトナト錯体、白金(II)アセチルアセトナト錯体、などが挙げられる。
また、触媒金属溶液全体に対して上記化合物が含まれる量は、1質量%〜30質量%、好ましくは1質量%〜20質量%、より好ましくは10±5質量%に設定するとよい。これによって、適切な量の触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。
【0045】
なお、触媒金属溶液の溶媒としては、上述の触媒金属元素を有する化合物を好適に溶解できるような液体を用いるとよく、使用する化合物に応じて適宜選択するとよい。また、この溶媒は、カーボン粒子を好適に分散できるような液体であるとよい。例えば、上記触媒金属元素を有する化合物としてヘキサクロロ白金(IV)酸ナトリウム六水和物を用いる場合、かかる化合物を溶解させる溶媒として水が好適である。
【0046】
e−2.界面活性剤
また、触媒金属溶液には、界面活性剤がさらに含まれていると好ましい。これによって、触媒金属溶液中でカーボン粒子を好適に分散させることができるため、カーボン粒子に触媒金属を均質に担持させることができる。また、界面活性剤が含まれている場合、後述の「f.還元処理」において触媒金属溶液から析出する触媒金属の粒成長も防止することができるため、カーボン粒子に担持される触媒金属の粒径を小さくすることもできる。界面活性剤の添加量は、上記触媒金属溶液に分散させるカーボン粒子100質量部に対して1質量部以上50質量部以下(好ましくは5質量部以上20質量部以下、より好ましくは、10±2質量部)に設定すると好ましい。これによって、より好適にカーボン粒子を溶液中で分散させることができる。
【0047】
上記界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤などを用いることができる。これらの中でも非イオン界面活性剤を好ましく用いることができる。かかる非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、オレイン酸ジエタノールアミド(1:1型)、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールヤシアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコール牛脂アミン、ポリエチレングリコール牛脂プロピレンジアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ジメチルステアリルアミンオキサイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリットの脂肪酸エステル、ソルビットの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、砂糖の脂肪酸エステルなどが挙げられる。上述の非イオン界面活性剤の中でも、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンを特に好ましく用いることができ、これらを用いることによって比較的に粒径の小さな触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。
【0048】
f.還元処理
次に、この製造方法では、上記カーボン粒子を分散させた触媒金属溶液を還元処理する。これによって、上記触媒金属溶液中の触媒金属元素が触媒金属として析出し、触媒金属溶液中に分散しているカーボン粒子の表面に付着する。これによって、カーボン粒子の表面に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子が得られる。
この還元処理では、上記カーボン粒子を分散させた溶液を攪拌しながら、還元剤を添加するとよい。かかる還元剤の具体的な種類は、本発明を限定するものでなく、一般的な還元剤を用いることができる。例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、水素、チオ硫酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、ホルムアルデヒド、エチレン、一酸化炭素などが好ましく用いられる。これらの中でも、水素化ホウ素ナトリウムやヒドラジンは、比較的に還元力が弱く、イオン化傾向の小さい触媒金属を選択的に還元することができるため、特に好ましく用いることができる。
また、還元処理において溶液を攪拌させることによって、触媒金属の粒成長を抑制させながら該触媒金属をカーボン粒子の表面に析出させることができる。上記還元処理において溶液を攪拌させる速度は、300rpm〜700rpmであるとより好ましい。
また、還元処理後に、カーボン粒子を分散させた触媒金属溶液を攪拌しながら所定時間保持し続けるとより好ましい。これによって、触媒金属同士の凝集・粒成長を防止しつつ、触媒金属を析出させることができるため、より粒径の小さな(例えば1nm以上15nm以下)触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。上記溶液を保持する時間としては、例えば、1時間〜48時間、好ましくは6時間〜24時間、例えば12時間程度であると好ましい。たとえば、カーボン粒子100質量部に対して10質量部の界面活性剤を添加した触媒金属溶液を還元処理した後に12時間保持した場合、平均粒径4nm程度の触媒金属を担持させることができる。
【0049】
g.その後の処理
上記「f.還元処理」によって、触媒担持カーボン粒子が溶液中に分散した状態で得られる。この触媒担持カーボン粒子を溶液中から取り出すには、従来公知の種々の方法を用いることができる。例えば、上記触媒担持カーボン粒子が分散している溶液を濾過し、得られた固形物を洗浄し、乾燥させることによって触媒担持カーボン粒子を含む触媒材料が得られる。
上記洗浄処理では、中性付近(pH6〜pH8)の純水(より好ましくは超純水)で上記固形物を洗浄するとよい。この洗浄処理によって、触媒担持カーボン粒子に付着している不純物を除去することができる。
乾燥処理では、上記洗浄処理後の固形物を所定の温度(例えば50℃以上100℃以下)で加熱するとよい。また、この際の加熱時間は10分間以上60分間以下に設定するとよい。なお、この乾燥処理を真空条件下で行うと、触媒担持カーボン粒子の酸化を防止できるため好ましい。乾燥処理が完了すると、触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料が得られる。
また、上記乾燥処理後の触媒材料に対して、さらに高温での加熱処理を行ってもよい。かかる加熱処理では、加熱温度を200℃以上400℃以下に、加熱時間を10分間以上60分間以下に設定するとよい。なお、この加熱処理は、不活性ガス(例えばNガス)雰囲気下で行うと、触媒担持カーボン粒子の酸化を防止できるため好ましい。この加熱処理を行うと、上記触媒担持カーボン粒子の表面に残存した不純物(例えば、残存したポリマー粒子や界面活性剤など)を好適に除去することができる。
なお、触媒材料は、その用途によっては触媒担持カーボン粒子が溶液中に分散した状態で使用することもできる。
【0050】
以上、ここで開示される触媒材料を製造する方法の好ましい一態様について説明した。この製造方法では、多孔質且つ中空のカーボン粒子を作製した後に、かかるカーボン粒子の表面に触媒金属を析出させることによって、広い表面積を有するとともに平均粒径が小さい触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造することができる。
また、この製造方法では、予め作成したカーボン粒子を分散させた触媒金属溶液を還元処理させることにより、粒成長を抑制しながら触媒金属を析出させることができるため、図4に示すような粒径の小さな(例えば、平均粒径が1nm〜25nm、好ましくは3nm〜10nm)触媒金属をカーボン粒子に担持させることができる。したがって、この製造方法によれば、触媒機能の高い高品質な触媒材料を製造できる。
【0051】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。上述した触媒材料の製造方法は、例えば、図8で模式的に示すような装置100を用いて実施することができる。この装置100は、大まかに言って、分散液L1を噴霧する噴霧部10と、該噴霧された分散液L1の液滴L2を加熱する加熱炉20と、形成された混合凝集体を捕集する捕集部30と、捕集部30で捕集した混合凝集体をさらに加熱する二次加熱炉40とから構成されている。
【0052】
I.噴霧部
噴霧部10は分散液L1を霧状の液滴L2として加熱炉20内に噴霧するための部材である。図8で示す噴霧部10は、分散液L1とともにキャリアガスを高圧で吹き出すことで、霧状の液滴として噴霧する二流体ノズル12と、当該二流体ノズル12にキャリアガスを供給するガス供給ユニット14とから構成されている。二流体ノズル12は、従来公知の装置を用いることができる。この二流体ノズル12の先端の径は、100μm〜1000μm(例えば700μm)であると好ましい。
ガス供給ユニット14は、例えば、流速3L/min〜10L/minでキャリアガスを供給することができるものが好ましい。また、ガス供給ユニット14から供給されるキャリアガスは、不活性ガス(例えば、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)若しくは酸化性ガス(例えば、酸素ガス(特に好ましくは空気))を用いることができる。噴霧部10は、二流体ノズル12で噴霧された液滴L2を加熱炉20内に供給できるように加熱炉20に接続されている。
【0053】
II.加熱炉
加熱炉20は、噴霧された液滴L2を内部にて加熱するための部材である。図8に示す加熱炉20は、内部空洞を有した筒状の部品であり、長手方向における一端が上記二流体ノズル12に接続されており、他端が後述の捕集部30に接続されている。特に限定するものではないが、加熱炉20は、全体で0.4L〜3L程度の容量を有しているものが適当であり、例えば0.9L程度の容量を有しているものを好ましく用いることができる。また、加熱炉20の径は、5mm〜20mm程度が適当であり、13mm程度であるとより好ましい。
【0054】
また、上記加熱炉20の内部には加熱されたキャリアガスが供給される。ここでは、加熱炉20にガス供給ライン22が取り付けられている。ガス供給ライン22は、上述のガス供給ユニット14に接続されている。図8に示すように、ガス供給ユニット14を二流体ノズル12に接続するラインと、上記ガス供給ライン22とは別のラインであり、加熱炉20は、ガス供給ライン22を介して、ガス供給ユニット14に直接接続されている。また、ガス供給ライン22には、ヒータ24が取り付けられている。これによって、ガス供給ライン22を通過するキャリアガスは、ヒータ24によって加熱されてから加熱炉20内に供給される。ヒータ24には従来公知の電気加熱装置などを用いることができる。このヒータ24は、キャリアガスを100℃〜400℃(典型的には100℃〜300℃、例えば200℃)に加熱することができる。
【0055】
III.捕集部
さらに、ここで開示される装置100では、加熱炉20の下流に捕集部30が設けられている。捕集部30は、集塵装置32と、ドレン分離器34とから構成されている。集塵装置32は、加熱炉20内で形成された混合凝集体のうち、比較的に粒径の小さなものA2を捕集するために設けられている。例えば、集塵装置32としては、遠心分離器や電気集塵装置などを用いることができる。一方、ドレン分離器34は、上記混合凝集体のうち、比較的に粒径の大きなものA1を捕集するために設けられている。ここで開示される装置100では、上記集塵装置32、ドレン分離器134にて捕集された混合凝集体がそれぞれ容器32a,34a内に貯蔵される。
【0056】
IV.二次加熱炉
二次加熱炉40は、上記捕集部30で得られた混合凝集体をさらに加熱するための部材である。二次加熱炉40は、混合凝集体を内部に収容して加熱する。このときの二次加熱炉40の温度は、ポリマー成分を除去でき、且つ、炭素質微粒子(若しくは触媒金属)が酸化しない程度の温度域(例えば400℃以上1100℃以下)に設定するとよい。また、二次加熱炉40は、加熱ガス供給ユニット42と接続されており、該加熱ガス供給ユニット42から供給される加熱ガスの種類によって、二次加熱炉40内の雰囲気を調整することができる。当該加熱ガスとしては、不活性ガス(例えば、窒素(N)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)など)若しくは酸化性ガス(例えば、酸素ガス(空気など))を用いることができる。これらの中でも、窒素ガスが特に好ましく用いることができる。
【0057】
上記装置100を用いて上述の製造方法を実施する手順を説明する。まず、噴霧部10の二流体ノズル12へ分散液L1とキャリアガスを供給する。これによって、二流体ノズル12内で高圧のキャリアガスに分散液L1が衝突して、霧状の液滴L2として加熱炉20内に噴霧される。このとき、加熱炉20内には、ヒータ24によって加熱された高温のキャリアガスが、ガス供給ライン22を通じて供給されている。これによって、分散液の液滴L2は、高温のキャリアガスに加熱されながら加熱炉20内を通過する。これにより、分散液の液滴L2に含まれる液体成分(分散媒)が除去されて混合凝集体が形成される。混合凝集体は、加熱炉20内を滞留しながら、捕集部30へ移送される。そして、形成された混合凝集体のうち、粒径の大きなものA1がドレン分離器34によって捕集され、粒径の小さなものA2が集塵装置32によって捕集される。
次に、ドレン分離器34及び/又は集塵装置32によって捕集された混合凝集体(A1,A2)を二次加熱炉40内に収容する。そして、加熱ガス供給ユニット42から二次加熱炉40内に加熱ガスを供給しながら、内部に収容した混合凝集体をさらに加熱する。これによって、混合凝集体からポリマー成分が除去されて結果物が得られる。なお、集塵装置32によって捕集された混合凝集体A2のみを用いれば、さらに平均粒径の小さな触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料が得られる。
この装置100を用いた場合には、上記結果物として多孔質且つ中空のカーボン粒子が得られる。当該得られたカーボン粒子に対して、上述した「e.カーボン粒子分散液の調製」以降のステップを実施することで、触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料が得られる。このように、上記構成の装置100を用いれば、ここで開示される触媒材料の製造方法を実施することができる。
【0058】
次に、本発明に関する実施例を説明するが、以下の実施例は本発明を限定することを意図したものではない。
【0059】
<実施例1:触媒材料の製造例>
次に、上述した製造方法を実施して、触媒材料(サンプル1)を作製した。
ここでは、先ず、炭素質微粒子とポリマー粒子を分散媒に分散させた分散液を調製した。具体的には、炭素質微粒子として粒径40nm以下のカーボンブラックと、ポリマー粒子として粒径300nm以下のPSLとを用意し、これらを分散媒(水)に懸濁させて分散液L1を調製した。このときの分散液L1全体に対するカーボンブラックの質量割合を0.224質量%、PSLの質量割合を0.3質量%に設定した。また、PSLとカーボンブラックとの質量比(P/C)は1.3であった。
【0060】
次に、図8に示す構成の装置100を用いて、上記分散液L1から触媒担持カーボン粒子を作製した。具体的には、噴霧部10の二流体ノズル12(BUCHI社製:spray dryer B-290)の一方のノズルから上記分散液L1を噴出させ、他方のノズルからキャリアガス(空気:流速8L/min)を噴出させた。これによって、分散液L1を霧状の液滴L2として加熱炉20内に噴霧した。
加熱炉20内に噴霧された液滴L2は、キャリアガスによって、加熱炉20の上流側から下流側(噴霧部10側から捕集部30側)に向かって流動される。この際、ヒータ24で200℃に加熱されたキャリアガスを加熱炉20内に供給することによって加熱炉20内の液滴L2を加熱した。このとき、噴霧された液滴L2が加熱炉20内で1mlあたり1.3分間加熱されるように、上記キャリアガスの流速を調整した。上記加熱処理の結果、加熱炉20内の液滴L2の分散媒が蒸発し、カーボンブラックとPSLが凝集することによって混合凝集体Aが得られた。そして、この混合凝集体Aを捕集部30で捕集した。
【0061】
次に、混合凝集体Aをさらに加熱した。具体的には、捕集部30の集塵装置32で捕集した混合凝集体A2のみを二次加熱炉40内に収容し、二次加熱炉40内で加熱を行った。この加熱処理は、加熱温度を600℃、加熱時間を5分間に設定し、加熱ガスとしてNガスを用いた。これによって、混合凝集体A2からポリマー成分を除去が除去され、多孔質且つ中空のカーボン粒子が得られた。
【0062】
次に、上記カーボン粒子を、触媒金属元素を有する化合物を含む触媒金属溶液に分散させた。具体的には、界面活性剤を含む溶媒(水)100gに、100mgのカーボン粒子を分散させた。そして、この分散液に、2.5gあたりに0.2gの白金を含む六塩化白金酸(HPtCl)を添加した。ここでは、上記界面活性剤としてポリビニルアルコール(PVA:polyvinyl alcohol)を用い、上記カーボン粒子100質量部に対してPVAを10質量部の割合で溶媒に溶解させた。また、上記六塩化白金酸は、溶媒全体に対して10質量%の割合で添加した。
【0063】
上記カーボン粒子を分散させた触媒金属溶液を還元処理した。ここでは、上記触媒金属溶液を攪拌しながら、還元剤である1Mホウ化水素ナトリウム水溶液10mlを添加し、攪拌を継続しながら3時間保持した。この還元処理によって、上記触媒金属溶液から六塩化白金酸由来の白金が析出した。析出した白金がカーボン粒子の外殻部の表面に担持され、触媒担持カーボン粒子が得られた。
【0064】
そして、上記触媒担持カーボン粒子を含む溶液を濾過した後に、触媒担持カーボン粒子に付着したアルカリ塩や界面活性剤を除去するために超純水(pH7)で洗浄し、乾燥処理(加熱温度:80℃、加熱時間:30分間、真空雰囲気下)を実施した。そして、乾燥した結果物を、Nガス雰囲気下、300℃、30分の条件で再加熱することで触媒担持カーボン粒子の表面に残存した界面活性剤などの不純物を除去した。これによって、多孔質且つ中空であるカーボン粒子に白金が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を得た。このようにして得られた触媒材料をサンプル1と称する。
【0065】
(サンプル2)
また、ここでは、サンプル1とは異なる界面活性剤を用いてなる触媒材料(サンプル2)も作製した。具体的には、上記触媒金属溶液に添加する界面活性剤として、ポリビニルアルコールの代わりにポリビニルピロリドン(PVP:poly vinyl pyrrolidone)を用いた。なお、ポリビニルピロリドンを用いたこと以外は、上記サンプル1と同様の手順で触媒材料を作製した。
【0066】
<実施例2:サンプル1,2の形状観察>
ここでは、上記実施例1で得られたサンプル1,2に係る触媒材料の形状を観察するために、各サンプルを走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いた。このときの観察結果を図3〜図6に示す。図3は、サンプル1の触媒担持カーボン粒子のSEM写真であり、図4は図3に示す触媒担持カーボン粒子の表面をさらに拡大したものである。図5は、サンプル2の触媒担持カーボン粒子のSEM写真であり、図6は図5に示す触媒担持カーボン粒子の表面をさらに拡大したものである。
【0067】
図3〜図6に示されるように、サンプル1,2の何れにおいても、多孔質且つ中空のカーボン粒子が形成されており、該カーボン粒子の外殻部に触媒金属である白金粒子が担持されていた。また、何れのサンプルでも、平均粒径の小さい(10μm未満の)触媒担持カーボン粒子で触媒材料が構成されていた。このことから、サンプル1,2を作製した何れの方法でも、多孔質且つ中空であり、且つ、平均粒径の小さな触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を作製できることがわかった。
【0068】
また、サンプル1では、図4に示すように、非常に粒径の小さな(平均粒径が4nm程度の)白金粒子がカーボン粒子に担持されていた。このことから、多孔質且つ中空のカーボン粒子を作製した後に、還元処理によって白金粒子をカーボン粒子に担持させると、平均粒径の小さな白金粒子をカーボン粒子に担持できることが分かった。このため、ここで開示される製造方法で触媒材料を作製すると、触媒機能を効率よく発揮できる高性能の触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を作製できると解される。
【0069】
また、図6に示すように、サンプル2では、概ね良好な粒径(10nm程度)の白金粒子が担持されていた。このことから、ポリビニルピロリドンを界面活性剤として用いた場合でも、好適に触媒担持カーボン粒子を作製できることが分かった。しかし、サンプル2では、一部分に白金粒子の凝集体が確認されたため、サンプル2において用いたポリビニルアルコールの方が触媒金属溶液に添加する界面活性剤として好適であると解される。
【0070】
<実施例3:触媒能力の評価>
この実施例3では、サンプル1の触媒能力を評価するために、サンプル1と比較例(サンプル3)の触媒機能を、回転ディスク電極およびサイクリックボルタンメトリーを用いて得られた電流−電圧曲線(サイクリックボルタモグラム)から算出した値に基づいて評価した。電流−電圧曲線に基づく算出値を表1に示す。
なお、上記サンプル1に対する比較例として用意したサンプル3は、一般的な白金担持カーボン粒子からなる市販の触媒材料である。サンプル3におけるカーボン粒子は、炭素質微粒子の単なる凝集体であり、多孔質粒子でもなければ、中空粒子でもない。また、サンプル3の触媒材料を構成する白金担持カーボン粒子の平均粒径は、2μm程度である。
【0071】
【表1】

【0072】
上記表1に示すように、サンプル1は、白金粒子1mgに対する活性(mass activity)も、白金粒子の比表面積1cmに対する活性(specific activity)もサンプル3を大きく上回った。すなわち、多孔質且つ中空のカーボン粒子に白金粒子が担持された触媒担持カーボンからなる触媒材料は、従来の触媒材料に比べて高い触媒機能を発揮することができることが分かった。
【0073】
<実施例4:製造方法の条件検討>
この実施例4では、ここで開示される製造方法における最適な条件を調べるために、実施例1において行った「触媒材料の製造例」の条件を変更して、サンプル4〜12を作製した。具体的には、サンプル4〜12では、触媒金属溶液に添加する「界面活性剤の濃度」及び/又は「還元処理後の保持時間」が上記サンプル1と異なっている。上記サンプル4〜12の作製条件を下記表2に示す。また、得られたサンプル4〜12における白金粒子の平均粒径をFE−SEMとTEMによって測定した。測定結果を、表2及び図7に示す。なお、図7における「Aging process」とは保持時間を12時間に設定し、該保持時間中攪拌を継続したサンプル4〜8を指し、「N0 Aging process」とは保持時間を設けなかった(保持時間:0時間)のサンプル9〜12を指すものである。
【0074】
【表2】

【0075】
上記表2および図7に示すように、界面活性剤の添加量や還元処理後の保持時間は、触媒担持カーボン粒子に担持される白金粒子の粒径に影響を与えることが分かった。例えば、カーボン粒子100質量部に対して10質量部程度のポリビニルアルコールを金属触媒溶液に添加すると、白金粒子の粒径が最も小さくなることが分かった。
さらに、還元処理後の保持時間を12時間に設定すると、保持時間を設定しなかった場合(保持時間:0時間)よりも白金粒子の粒径が小さくなる傾向がある。特に、保持時間を12時間に設定すると、ポリビニルアルコールの添加量が5質量部を超えたあたりから白金粒子の粒径が急激に小さくなり、添加量が10質量部のときに4nmという非常に小さな粒径の白金粒子が得られた(サンプル6)。このことから、他の作製条件にも影響を受けるとは思われるが、界面活性剤をカーボン粒子100質量部に対して10質量部程度添加し、還元処理後に12時間攪拌しながら保持することによって、最も粒径の小さな白金粒子をカーボン粒子に担持させることができると解される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
ここで開示される触媒材料は、触媒金属やカーボン粒子の比表面積が広く、触媒対象が供給された際に三相界面が形成されやすいため、高い触媒能力を発揮することができる。したがって、例えば、高分子電解質型の燃料電池(PEFC)における触媒層を形成する際に用いることによって高性能のPEFCの構築を実現することができる。
【符号の説明】
【0077】
10 噴霧部
12 二流体ノズル
14 ガス供給ユニット
20 加熱炉
22 輸送管
24 ヒータ
24a〜24b ヒータ部
30 捕集部
32 集塵装置
34 排気装置
100 装置
L1 分散液
L2 液滴
A 混合凝集体
P 結果物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン粒子に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料であって、
前記カーボン粒子は、
炭素で形成されており、前記触媒金属が担持されている外殻部と、
前記外殻部の内部に形成されている内部空間と、
前記外殻部に複数形成されており、前記内部空間と連通している微細孔と
を備えた多孔質且つ中空のカーボン粒子であり、
前記触媒担持カーボン粒子の平均粒径が200nm以上10μm未満である、触媒材料。
【請求項2】
前記触媒担持カーボン粒子の平均粒径が500nm以上5μm以下である、請求項1に記載の触媒材料。
【請求項3】
前記微細孔の平均孔径が10nm以上500nm以下である、請求項1又は2に記載の触媒材料。
【請求項4】
前記触媒金属の平均粒径が1nm以上100nm以下である、請求項1〜3の何れか一項に記載の触媒材料。
【請求項5】
前記触媒金属が、白金族に含まれる何れかの金属或いは該白金族に含まれる何れかの金属を主体とする合金である、請求項1〜4の何れか一項に記載の触媒材料。
【請求項6】
カーボン粒子に触媒金属が担持された触媒担持カーボン粒子からなる触媒材料を製造する方法であって、
前記カーボン粒子を形成するための炭素質微粒子と、前記炭素質微粒子とは異なる有機高分子化合物からなるポリマー粒子とが分散媒中に分散した分散液を用意すること;
前記分散液を霧状の液滴として加熱炉内に噴霧すること;
前記噴霧された液滴を前記加熱炉内で加熱することにより、前記分散媒を蒸発させて前記炭素質微粒子と前記ポリマー粒子との混合凝集体を形成すること;
前記混合凝集体をさらに加熱することにより、前記混合凝集体からポリマー成分を除去して多孔質かつ中空のカーボン粒子を得ること;
前記得られたカーボン粒子を、触媒金属元素を有する化合物を含む触媒金属溶液に分散させること;
前記カーボン粒子を分散させた触媒金属溶液を還元処理し、触媒金属を析出させることによって、前記カーボン粒子の表面に前記触媒金属を担持させること;
を包含する、製造方法。
【請求項7】
前記還元処理後に、前記カーボン粒子を分散させた触媒金属溶液を攪拌させながら6時間〜24時間保持する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記炭素質微粒子の平均粒径が20nm以上100nm以下である、請求項6〜7の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ポリマー粒子の平均粒径が100nm以上600nm以下である、請求項6〜8の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記分散液を平均粒径1μm以上10μm以下の液滴になるように前記加熱炉内に噴霧する、請求項6〜9の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記触媒金属溶液が界面活性剤をさらに含む、請求項6〜10の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記界面活性剤は、前記触媒金属溶液に分散される前記カーボン粒子100質量部に対して5質量部以上20質量部以下の割合で前記触媒金属溶液に含まれる、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
多孔質構造を有しており、燃料が供給されるアノードと、
酸化物イオン伝導体で構成されている緻密構造の固体電解質と、
多孔質構造を有しており、酸素含有ガスが供給されるカソードと
からなる積層構造を備えた燃料電池であって、
ここで、前記アノード及び/又は前記カソードに、請求項1〜5の何れか一項に記載の触媒材料若しくは請求項6〜12の何れか一項に記載の製造方法によって得られた触媒材料が含まれていることを特徴とする、燃料電池。


【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−85988(P2013−85988A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226198(P2011−226198)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】