説明

触媒材料を金属基質に接着させる熱噴霧方法

【課題】 金属基質に触媒材料の被膜を取り付ける方法の提供。
【解決手段】 Raが3またはそれ以上の表面粗さを有するアンダーコートが達成されるように、耐火性酸化物の粒子を該基質に熱噴霧で直接付着させることを伴う。次に、このアンダーコートを取り付けた基質に触媒材料を取り付けるが、この取り付けは如何なる通常様式で行われてもよい。特別な態様では、主にアルミナを含有するアンダーコートを取り付けるに先立って、上記金属基質をグリット−ブラスティングで処理する。この被覆基質は、排気ガス処理用触媒部材の組み立てで使用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒材料が上に位置している支持体基質を含む触媒部材の製造、より詳細には、アンダーコート(undercoat)を基質に取り付けてそのアンダーコートの上に触媒材料を付着させることに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車製造業者は、車の排気ガスラインに触媒コンバーターをすえ付けることで、内燃エンジン排気に関する政府の排出基準を満足させようとしている。一般的な形態の触媒コンバーターは触媒部材を含み、その触媒部材はハニカム型モノリス(honeycomb
monolith)から成っていて、その中にガス流通路が広がっている。このモノリスは、排気ガスに含まれる有害な成分(これには未燃焼の炭化水素、一酸化炭素およびNOが含まれ得る)を無害な物質に変えるに有効な触媒活性を示す材料の被膜を担持している。この担体基質にはセラミックまたは金属材料が含まれ得る。
【0003】
セラミック基質に触媒材料を付着させる処理は、一般に、その触媒材料が入っているウォッシュコートスラリー(wash−coat slurry)にハニカム担体を浸漬することで行われる。金属基質を用いる場合にも同様な技術が使用可能であるが、触媒ウォッシュコートはしばしばセラミック基質に付着するのと同様には金属基質に付着しない。従って、金属基質とその上に位置させる触媒材料の間の接着を向上させる方法が求められている。
【0004】
Gorynin他の特許文献1(1993年4月20日付け)には、排気ガス処理用触媒部材を製造するためのプラズマ噴霧(plasma spray)方法が開示されており、そこには、アルミナを含む触媒活性層を基質に塗布する前にその基質に接着性サブレイヤー(sublayer)を取り付ける必要があると教示されている。その接着性サブレイヤーの調製は、熱反応性金属粉末(コラム2の25行から41行参照)をプラズマ噴霧技術(コラム3の6行から15行参照)で基質に塗布して厚みが50ミクロン未満(コラム5の5行参照)の被膜を生じさせることで行われている。その熱反応性粉末にはニッケル、チタン、アルミニウム、および他に少なくとも2種類の金属(コラム2の29行から41行参照)が入っており、そしてその粉末はサイズが20−50ミクロン(コラム9の1行から10行参照)の粒子を構成し得る。プラズマチャンバで空気を用いると、上記金属の酸化物(アルミニウムの酸化物を含む)が生じる可能性はあるが、金属基質であるNiAlがその接着性層の好適な組成物である(コラム5の5行から7行−コラム6の19行参照)。その接着性層の厚みは実施例において少なくとも20ミクロンであり、その層の調製は、粒子サイズが20−50ミクロンのニッケル−アルミニウム複合粉末を用いて行われた。その触媒活性層は活性アルミナと触媒活性成分(コラム2の4行から25行参照)を含み、その層は、プラズマ噴霧技術を用いて上記接着性サブレイヤー上に取り付けられている(コラム3の15行から18行およびコラム6の23行から38行参照)。
【0005】
Ishida他の特許文献2(1984年6月19日付け)には、排気ガス処理用のNO還元触媒が開示されており、そこでは、溶融金属を圧縮空気の如き気体と一緒にノズルに通して噴霧して金属基質上に溶融金属の小滴を付着させることにより、その基質表面を粗くしている(コラム4の62行からコラム5の10行参照)。その基質へのNO還元触媒材料の塗布はペーストの形態で行われているか、或は触媒物質が入っているスラリーに金属板を浸すことで行われている(コラム5の24行から30行参照)。
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,204,302号
【特許文献2】米国特許第4,455,281号
【発明の開示】
【0007】
発明の要約
本発明は触媒材料を金属基質に接着させる方法に関する。この方法は、主に耐火性(refractory)酸化物から成る粒子を基質に直接熱噴霧(thermally sprayingすることでアンダーコートを取り付けた後そのアンダーコートに触媒材料の層を付着させることを包含する。
【0008】
本発明の1つの面に従い、本方法は、Ra粗さが3以上のアンダーコートを取り付けることを包含し、ここで、Ra=(1/L)(h+h+...+h)であり、そしてここで、hは、単位距離離れて位置する一連の地点各々で測定した、中心線より上の表面輪郭の高さ測定の絶対値であり、Lは、その単位で表されるサンプリング長(sampling length)であり、そして上記中心線は、この中心線の上の表面輪郭内の面積の総計がこの中心線の下の表面輪郭内の面積の総計と等しくなるように引いた線である。本方法は、Ra粗さが4に等しいか或はそれ以上のアンダーコートを基質に取り付けることを包含し得る。 本発明の別の面に従い、アンダーコートを、その厚みが上記粒子の平均直径サイズに少なくともほぼ等しくなるように取り付けてもよい。
【0009】
本発明の更に別の面に従い、本方法は、約13から約180ミクロンのサイズ範囲を有する耐火性粒子を噴霧することを包含し得る。
【0010】
本発明の更に別の面に従い、本方法は、主にアルミナから成る耐火性酸化物粒子を噴霧することを包含し得る。
【0011】
本方法は、任意に、アンダーコートを取り付ける前に基質の表面を粗くすることを包含し得る。このアンダーコートを取り付けた基質を触媒材料の粒子が入っているスラリーに浸漬することを通して、このアンダーコートの上に触媒材料を付着させてもよい。この触媒材料に支持体材料上に分散している触媒種を含める場合、支持体材料を含む層を上記アンダーコートの上に付着させた後、この支持体材料の上に触媒活性種を分散させることを通して、上記アンダーコートに触媒材料を付着させてもよい。
【0012】
基質に側面を2つ持たせてもよく、そして本方法に、上記基質の両側面にアンダーコートを取り付けて触媒材料を付着させることを含めてもよい。
【0013】
発明の詳細な説明および発明の好適な態様
本発明は、一般に、触媒材料の被膜と金属基質の接着を向上させる目的で金属基質を処理する方法に関する。この方法は、炭化水素、一酸化炭素および窒素酸化物を含む有害な汚染物が入っている排気ガスの処理で用いるに有効な触媒を含む触媒部材の製造で用いるに有用である。
【0014】
金属基質には、触媒材料の担体として用いるに適切な如何なる金属材料も含まれ得る。この基質は、好適には、排気ガスが触媒材料に接触する条件下において分解に抵抗する基質である。ステンレス鋼は酸化に抵抗することから、ステンレス鋼が適切な基質材料である。
【0015】
本発明に従い、少なくとも主に耐火性酸化物を含む粒子を基質に、直接、即ち金属粉末を噴霧することで作られる層を介在させないで、噴霧する熱噴霧方法(thermal spray process)を用いて、アンダーコートを金属基質の表面に直接取り付
ける。本技術分野で適切な熱噴霧方法がいろいろ知られている。1つの適切な熱噴霧技術はプラズマ噴霧技術であり、このような技術は、一般に、プラズマトーチ(plasma
torch)の炎の中に無機材料の粒子を通すことを含む。このプラズマは、電気アークを用いて燃焼性ガス混合物を発火させて高温炎を生じさせることで作られてもよい。他の適切な熱噴霧技術には、炎粉末噴霧(flame powder spraying)[粉末原料を酸素/燃料ガスの炎に吸い込ませ、その粉末を溶融させて、それを被加工物の所に運ぶ]、爆燃ガン噴霧(detonation gun spraying)[懸濁している粉末を燃料ガスと酸素が入っている管の中に供給して火花でその混合物を発火させて爆発させることにより、粒子が上記管から吹き出て基質に衝突する圧力を生じさせる]、および高速オキシ燃料噴霧(high velocity oxyfuel spraying)[高圧チャンバ内で粉末と燃料ガスと酸素を一緒にして発火させることで超音波粒子流れを生じさせる]が含まれる。本発明に従い、アンダーコートおよび触媒材料が基質に対して示す接着力は、他の方法、例えばウォッシュコートスラリーを直接塗布した後にそれの乾燥および焼成を行う方法などを用いて同様な金属基質に触媒層を直接取り付けた場合の接着力よりも優れている。このアンダーコートで用いる粒子には、耐火性酸化物、例えばアルミナ、セリア、シリカ、チタニア、酸化鉄、酸化マンガン、アルミナ−チタニア、アルミナ−シリカなどが含まれ得る。
【0016】
本発明の特別な態様では、主にアルミナから成る粉末を基質に熱噴霧することでアンダーコートの取り付けを行う。いろいろな市販形態のアルミナが使用可能である。
【0017】
この耐火性酸化物粉末の粒子サイズを、好適には、上記熱噴霧付着方法の効率が最大限になりかつ噴霧ガンのノズルを通る流れが遮断されないように選択する。本発明では約13から約180ミクロンの平均粒子サイズを有する粉末が有用である。アンダーコート層の取り付けは、基質表面の充分な被覆を確保する厚みが得られるように行うべきである。これには、典型的に、上記酸化物粒子の平均粒子サイズに少なくともほぼ等しい厚みが必要がある。
【0018】
3M(商標)プラズマガンを3.5から4.5インチ離して用い、これを500アンペアおよび34キロワットで運転し、主要ガスとしてアルゴンを用いそして副次的ガスとして水素を用いて、アルミナ粉末を1時間当たり7から8ポンドの割合で噴霧することにより、有効なプラズマ噴霧手順を得た。
【0019】
本明細書に記述するようにして酸化物粒子を基質表面に取り付けると、後で塗布する触媒ウォッシュコートが優れて(酸化物粒子が入っている水スラリーを基質上に分散させた後にその被覆した基質の乾燥および焼成を行うことで作られたアンダーコートに比較して)接着し得るアンダーコートが得られる。
【0020】
従来技術の教示とは対照的に、基質に直接付着させる熱噴霧コート
(thermal spray coat)に熱反応性金属粉末を入れる必要はない。むしろ、上記アンダーコートを形成する粉末は、主にか或は全体が、耐火性酸化物、例えばアルミナなどから成っていてもよい。
【0021】
本発明者らは、触媒材料が基質に接着する能力にアンダーコートの粗さが有意な影響を与えることを見い出した。Raで表示する量で粗さを量化することができ、これを数学的にRa=(1/L)(h+h+...+h)として定義し、ここで、hは、単位距離離れて位置する一連のn個から成る地点各々で測定した、中心線より上または下の表面輪郭の高さの絶対値であり、そしてLは、その単位で表されるサンプリング長である。従って、高さの測定をミクロンで行う場合、Lミクロンの長さに渡って、1ミクロンの間隔を開けて測定を行う。上記中心線は、この線の上の測定値の総計がこの線の下の測定値
の総計に等しくなるように引いた線である。粗さは、プロフィロメーター(profilometer)、例えばTaylor−Houbson Companyが販売しているSutronic 3Pプロフィロメーターなどを用いて測定可能である。アンダーコートを取り付けた基質から触媒材料が失われる度合をいろいろな表面粗さで比較することによって、粗さが触媒材料の接着力に対して示す効果を知ることができる。本発明に従い、Ra粗さが少なくとも約2.5またはそれ以上、好適には4以上であると、一般に、触媒材料と基質の接着が向上する。
【0022】
本出願者らはまたアンダーコートの厚みに伴って表面の粗さが増すことも見い出した。例えば、アンダーコートの厚みを1ミル(24.5ミクロン)にするとRa粗さは約4.5から5.0になり、同じアンダーコート用粉末を用いてアンダーコートを厚みが6ミクロン(152.4ミクロン)になるように取り付けるとRa粗さは約6.5から7.0になる。加うるに、より大きな粒子を含有するアンダーコート用粉末を用いると、より粗いアンダーコート表面が生じる。このように、ガンマアルミナとシータアルミナの混合物に約60ミクロンの平均粒子サイズを持たせてこの混合物から作成したアンダーコートは7.0から7.5のRa粗さを示す一方、約30ミクロンの平均サイズを持たせたアルファ−アルミナ粒子を用いて作成したアンダーコートの場合のRa粗さは4.5から5.5であった。
【0023】
好適には、本発明に従ってアンダーコートを金属基質に取り付ける前に、その基質の表面を粗くしておくことでアンダーコートと基質の間の接着を向上させる。基質の表面を粗くするに好適な方法は、その表面にグリット−ブラスティング(grit−blasting)工程を受けさせる方法である。グリット−ブラスティングは、ブラスティングガンと基質の間を8インチ離して120メッシュのアルミナを25psiで放出させることで適切に実施可能である。
【0024】
熱噴霧でアンダーコートを金属基質に取り付けた後の触媒材料の取り付けは如何なる通常様式で行われてもよく、例えば上記アンダーコートを取り付けた基質に触媒材料をウォッシュコートスラリーの形態で塗布しそしてその塗布した基質の乾燥および焼成を行うことなどで実施可能である。
【0025】
このアンダーコートに付着させてもよい触媒材料には、排気ガスに含まれる有害な成分の変換で活性を示す如何なる材料も含まれ得る。この目的で用いるに有用な触媒材料は、典型的に、耐火性無機酸化物支持体材料上に分散している触媒活性種を含有する。幅広く多様な触媒活性種および支持体材料が知られている。しかしながら、内燃エンジンから出て来る排気ガスの処理で用いるに有用な典型的触媒材料は、アルミナ、セリア、ジルコニアおよび/または他の耐火性無機酸化物およびそれらの組み合わせの1種以上を含む支持体材料上に分散している白金、パラジウムおよびロジウムの1種以上を含有する。触媒活性を示す他の遷移金属、例えばクロム、鉄、ニッケル、マンガンなどを白金族金属と一緒にか或はそれらの代わりに支持体材料上に分散させることも可能である。支持体材料への触媒活性種の分散は如何なる通常様式で行われてもよく、例えば活性種の可溶塩を水溶液に溶解させそしてその溶液を支持体材料の粒子に含浸させることなどで実施可能である。次に、この含浸を受けさせた粒子に乾燥および焼成を受けさせることにより、水を除去しかつ上記種を触媒活性形態に変化させる。次に、スリーウエイ変換触媒(three−way conversion catalysts)製造技術分野の技術者によく知られている技術を用いて、上記粉末と追加的無機酸化物からスラリーを作成する。次に、このスラリーを上記アンダーコートを取り付けた基質に塗布する。塗布は、基質をウォッシュコートスラリーに浸漬しそして過剰量の触媒材料を除去するか或はウォッシュコートスラリーを基質に所望量で噴霧することで達成可能である。その後、この塗布を受けさせた基質に乾燥および焼成を受けさせる。このスラリーの固体含有量が35%以上で粘度が10
センチポイズ以上でありそして噴霧を20から25psi下0.3から0.5立方フィート/分で実施するならば、乾燥段階を省いてもよい。
【0026】
また、このアンダーコートを取り付けた基質に触媒活性種を付着させるに先立って、このアンダーコート付き基質に支持体材料を取り付けてもよい。次に、触媒活性種の塩が1種以上入っている溶液で上記基質を湿らせそしてその湿らせた基質の乾燥および焼成を行うことで上記触媒活性種を支持体材料上に分散させることにより、上記触媒活性種を上記支持体材料に付着させてもよい。この後者の技術を用いると、基質上に位置させる触媒活性種の充填量を正確に調節することが可能になる。任意に、上記アンダーコート付き基質に触媒材料の層を複数取り付けてもよい(1つの層をもう1つの層の上に)。
【0027】
担体基質上に位置させる触媒材料の適切な充填量が定められている場合、完成触媒部材単位体積当たりの触媒活性種量が所望量になるように計画した量で触媒活性種を支持体材料に付着させる。例えば、触媒材料が自動車の排気ガス処理で用いられ、それに白金族金属を活性種として含有させることと基質上のウォッシュコート充填率が1立方インチ当たり約0.25から約4.0グラムであると定められている場合、典型的には、白金族金属を耐火性無機支持体材料に、その量が触媒部材1立方フィート当たり約0.1から約600グラムになるに充分な量で付着させる。触媒材料の熱膨張率がアンダーコートの熱膨張率と実質的に同じになるように、アンダーコートの粒子の組成とほぼ同じ組成を有する耐火性酸化物支持体材料から作られた触媒材料を用いるのが有利である。このようにすると、完成した触媒部材が熱ショックを受けた時に遭遇する応力が最小限になる。
【0028】
この被覆基質からフロースルー触媒部材(flow−through catalyst member)を製造する場合、アンダーコートを取り付ける前または後の基質に物理的改質を受けさせて製造に便利または有利な形態にしてもよい。例えば、この基質を波形金属シートの形態にしてもよく、これを平らなセパレーターシート(separator sheets)の間に挟んで、そのシートを上記基質に波形の山の所で周期的に接触させる。このようにして波形シートとセパレーターシートの間にガスフローチャンネル(gas flow channels)を限定する。この様式で上記基質を多数重ねることにより、適切なハニカム型担体を製造することができる。
【0029】
単一路(single−pass)触媒部材の場合、上記波形基質とセパレーターシート基質両方の両側を同じ材料で被覆してもよい。単一路触媒部材の代替形態がKanniainen他の米国特許第4,741,082号に示されており、それの開示は引用することによって本明細書に組み入れられる。簡単に再び述べると、上記特許には、波形金属シート上に平らな金属を位置させそしてその層状シートを中心軸の回りに巻き付けることを通してハニカム型モノリスを生じさせることができることが教示されている。次に、この巻き物を貫通させるシャフトを上記モノリスの各末端の所で挿入することにより、この巻き物を一緒に固定する。
【0030】
また、他の物理的形態を有する基質断片、例えば穴が開いている基質板または発泡金属基質シートなどから触媒部材を組み立てることも可能である、即ちシートに一連の切れ目を入れそしてその切れ目に力をかけてそれを広げることでフロースルー通路を生じさせてもよい。以前は平らであった基質の物理的形態を波形、穴開き形態または他の形態に変えると、そのような変形で触媒部材の中を流れるガスの層状流れが乱れることから、一般に、触媒性能が向上する。そのようないくつかのフロースルー触媒部材の製造が、例えば上述した米国特許第4,455,281号のコラム4の1行から35行および図3から13に記述されており、それらは引用することによって本明細書に組み入れられる。
【0031】
典型的なハニカム担体は、ガスフローチャンネルの数が断面1平方インチ当たり約30
0から約600であるような寸法および形態のものである。
【0032】
他方、本技術分野で知られているように、平らなセパレーターシートと波形シートを交互に用いそして各シートの波形が交差様式、例えば直角に位置する、即ち隣接する波形シートの波形に対して直角に位置するように波形シートの方向を変えることにより、クロスフロー(crossflow)担体を構築することも可能である。このようなケースでは、配列しているシートの波形が、触媒部材の中を通る複数の第一ガスフローチャンネルを限定し、そして他の波形シートの波形が、上記複数の第一フローチャンネルに対して交差様式で位置する複数の第二ガスフローチャンネルを限定する。このようなモノリスの構造は、一般に、このモノリス内に存在する1組の複数チャンネルの中を流れるガスがもう1組の複数チャンネルの中に染み込む、即ち流れ込むことができないような構造になっている。
【0033】
複数の第一チャンネルを形成する基質に取り付ける触媒材料を複数の第二チャンネルを形成する基質に取り付ける触媒材料と異ならせるのが望ましい可能性があり、そしてセパレーターシートを被覆しないまま残すか或は各側を異なる様式で被覆するのが望ましい可能性がある。このようなクロスフローモノリスは、入り口と出口を有していてこの入り口を通って流れ込むガスが複数の第一チャンネルに続いて複数の第二チャンネルを通った後に上記出口を通って出て行くような寸法および形態のハウジング内に配置可能である。排気ガスが複数の第一ガスフローチャンネル内で出会う触媒材料と複数の第二ガスフローチャンネル内で出会う触媒材料は、触媒部材の性能が向上するならば、同じであってもよいか或は異なっていてもよい。加うるに、このような構造の触媒部材を熱交換器として用いることも可能であり、その結果として、複数の第一チャンネルに入る高温ガスが触媒材料に熱を与えることができ、従って、複数の第二チャンネルが示す触媒活性を向上させることができる。任意に、複数の第一チャンネルおよび第二チャンネルの一方に吸着材を触媒材料の代わりに入れることにより、触媒材料が排気ガスをより良く浄化し得るような時期になるまで、排気ガスに含まれる有害な成分を上記吸着材に吸着させることも可能である。波形シートと平らなシートを用いてクロスフローモノリスを構築することは、例えばChapmanの米国特許第3,929,419号(1975年12月30日付けで、これの開示は引用することによって本明細書に組み入れられる)に示されているように本技術分野で公知である。上記Chapmanの特許にはまた複数の第一通路に続いて複数の第二通路を通るガスの流れを適切に調節するに適したハウジングも示されている。
【0034】
以下に示す実施例で例示するように、本発明に従って基質に取り付けた触媒材料の被膜は、他の方法を用いて同様に取り付けられた被膜に比較して、基質に対して優れた接着力を示す。このような優れた性能は、熱噴霧方法を単にアンダーコートで利用することで達成可能であり、従って特殊な装置を用いる必要性は最小限のみである。この触媒材料は剥離で失われることも他の過程(熱サイクルを繰り返した後の基質から触媒材料を吹き飛ばす可能性がある)で失われることもないであろう。
【実施例1】
【0035】
火を着けたプラズマトーチの流れの中に、アルミナが99.47%でNaOが0.39%でシリカが0.05%でFeが0.03%の粉末をサイズ範囲が約13から51ミクロンで平均粒子サイズが約27ミクロンの六角小板(hexagonal platelet)粒子状態で入れて、Allegheny Ludlum Steel Companyから商標Alpha−4RMの下で入手可能なステンレス鋼合金で出来ている寸法が6インチx6インチの板に噴霧することで、この板にプラズマ噴霧過程を受けさせることにより、この板の上に厚みが1.0ミルのアンダーコートを取り付けた。このアンダーコートを取り付けた板および比較の未被覆合金板(6.5インチx4.25インチの寸法)の両方を、アルミナ含有耐火性無機支持体粒子上に位置する白金族金属を含む触媒
材料が入っているスラリーで被覆した。このスラリーは固体を49%含有し、235cpsの粘度を示し、そしてpHは4.7であり、このスラリーをエアガン(このエアガンは空気を20psiの圧力下約0.3から0.5立方フィート/時で吹き出す)で上記板に塗布した。上記プラズマ被覆を受けさせた板(E−1と表示する)の全触媒材料充填量は1.7グラムであり、これは61.0mg/平方インチに相当する一方、上記未処理板(C−1と表示する)の触媒材料充填量は0.8グラムであり、これは22.0mg/平方インチに相当する。これらの板に熱ショックを受けさせたが、ここでは、温度を10分かけて1000℃にまで上昇させた後、その板を冷却した。このような熱ショックを上記板に連続して5回受けさせた。次に、25psiのエアガンを用いて空気を上記板から4インチ離れた所から120立方フィート/時で上記板に吹き付けることにより、触媒材料被膜の一体性を試験した。エアガンで処理する前と後に板の重量測定を行って重量損失を記録した。エアガンによって上記プラズマ処理板E−1から除去された触媒材料の量は0.004グラムである一方、上記未処理板C−1から失われた触媒材料の量は0.042グラムであった。このことは、本発明に従って調製した触媒基質はそれに熱ショックを受けさせた後でもそれと触媒材料の接着を優秀に維持することを示している。
【実施例2】
【0036】
この上の実施例1に記述したのと同様なプラズマ被覆を受けさせた板(寸法が6インチx6インチ)を2枚調製したが、但しここでは、1つの板(E−2と表示する)にはアルミナアンダーコートを1.0ミルの厚みで持たせる一方、もう1つの板(E−3と表示する)には厚みが0.5ミルのアルミナアンダーコートを取り付けた。E−2板に触媒材料を22.0mg/平方インチの被覆重量(板上の全重量は0.8グラム)で取り付けた。E−3板上の触媒材料充填率を28.0mg/平方インチにした(全充填量は1.0グラム)。E−2板上の触媒材料に乾燥と焼成を受けさせると、この触媒材料は上記板に良好に接着する一方、E−3板上の触媒材料の場合、こすって剥がすことができた。これらの板の断面を撮った走査電子顕微鏡写真により、E−2板上の触媒材料被膜はアルミナアンダーコートと同様に均一な厚みを有することが示された。E−3板を撮った同様な写真により、アルミナアンダーコートおよび触媒材料の被膜は両方とも斑点を有していて不規則であることが示された。アルミナ粒子の平均粒子サイズは27ミクロンであり、この実施例は、満足される被膜を達成するにはアンダーコートの厚みを平均的粒子とほぼ等しくすべきであることを示している。
【実施例3】
【0037】
実施例1に従って試験板E−4を調製し、そしてクロムを10−20%およびアルミニウム合金を1−5%含有していて残りが鉄であるFeCrAlloyとして知られる合金のプラズマ噴霧被膜を上記板に1ミルの厚みで取り付けることにより、比較板C−2の調製を行った。使用した金属はステンレス鋼Alpha−4(商標)合金で波形であった。上記板に触媒材料をpHが4.1で固体濃度が48.6で粘度が500cpsのスラリーとしてスプレーコートした(spraycoated)。E−4板(寸法が3 1/2インチx2 7/8インチ)上の触媒材料充填率は80.0mg/平方インチである一方、C−2板(寸法が4 3/16インチx3 1/4インチ)上の触媒材料充填率は91.0mg/平方インチであった。乾燥と焼成を受けさせた後のE−4板上の触媒材料は滑らかである一方、C−2板上の触媒材料被膜は目で見て明らかに亀裂を有していた。エアガンを用いて空気を上記板に吹き付けることで触媒材料の接着力を試験した結果、E−4板の場合に失われた触媒材料は0.5%である一方、C−2板の場合には触媒材料の10%が吹き飛ばされた。
【0038】
この実施例は、主にアルミナを含有させたアンダーコートをプラズマで取り付ける方が金属合金を含有させたアンダーコートをプラズマで取り付けるよりも優れていることを実証している。
【実施例4】
【0039】
本発明に従い、1平方インチ当たり400個のセルに相当する波形を有するAlpha−4(商標)ステンレス鋼合金製波形シートを用いて、これの上に、この上に記述したプラズマ噴霧方法でアルミナアンダーコートを1.0ミル取り付けることにより、触媒部材E−5の調製を行った。アルミナ含有粒子に付着している白金族金属を含む触媒材料を分散させてpHが3.0で固体濃度が45%で粘度が75cpsのスラリーにし、これを上記試験板に塗布した。この板上の最終触媒材料充填率は78mg/平方インチであり、これはアルミナアンダーコートに対して良好な接着力を示した。
【0040】
上記板にアルミニウムをメッキしそしてこの粒状層に酸化を受けさせて板上に2000−3000オングストロームの厚みを有するアルミナの層を生じさせることでアルミナの被膜を取り付けることにより、比較平板C−3の調製を行った。この比較板に上記触媒材料を38mg/平方インチの充填率で塗布した。この触媒材料に乾燥と焼成を受けさせたが、この触媒材料はE−5板と同様にはC−3板に接着しなかった。
【実施例5】
【0041】
最初に基質板の表面を120メッシュのアルミナでグリット−ブラスティング(25psiで、8インチ離して)することで表面を粗くすることにより、基質板を3枚調製した。いろいろなアンダーコート材料を用いて、この上で粗くした板各々に、約1ミルのアンダーコート厚が得られるようにアンダーコートを取り付けた。E−6板では、Praxair Companyから商標LA−6の下で商業的に入手可能なアルミナ材料を用いてアンダーコートを取り付け、E−7板では、Metro Companyから商標105
SFPの下で商業的に入手可能なアルミナを用いてアンダーコートを取り付け、そしてE−8板では、E−1板で用いたアルミナ材料を用いてこれの被覆を行った。各アンダーコートの粗さをSutronic 3Pプロフィロメーターで測定した。このアンダーコートを取り付けた板および未被覆板に触媒材料の被膜を取り付け、乾燥と焼成を受けさせた後、エアガンを用いて上記板を試験して、触媒材料の重量損失を触媒材料充填量のパーセントとして測定した。その結果を表Iに示す。
【0042】
表I

Ra粗さ 触媒材料損失
サンプル (ミクロン) パーセント
未被覆板 0.5 >10
E−6 2.5−3.0 4.8
E−7 4.0−4.5 0.5
E−8 4.5−5.5 0.4
【0043】
表Iのデータは、アンダーコートの粗さが大きくなればなるほど触媒材料の接着力が良好になる(これは損失パーセントが低いとして示される)ことを示している。特に、Ra粗さが3.0以上、特別にはRaが4.0に等しいか或はそれ以上の時、優れた接着力が達成される。
【0044】
本発明を本発明の好適な特定態様に関して詳細に記述してきたが、本分野の技術者はこの上に示した説明を読むことでこの開示した特定態様に対する変形を思い浮かべる可能性があり、そのような変形を本添付請求の範囲の範囲内に包含させることを意図することは理解されるであろう。
【0045】
以下に本発明の主な特徴と態様を列挙する。
1. 触媒材料を金属基質に接着させる方法であって、
主に耐火性酸化物を含む粒子を該基質に直接熱噴霧することでアンダーコートを取り付けた後、
該アンダーコートに該触媒材料の層を付着させる、
ことを含む方法。
2. 該アンダーコートの取り付けが、3以上のRa粗さを有するアンダーコートを取り付けることを含み、ここで、Ra=(1/L)
(h+h+...+h)であり、そしてここで、hは、単位距離離れて位置する一連のn地点各々で測定した、中心線より上の表面輪郭の高さ測定の絶対値であり、Lは、その単位で表されるサンプリング長であり、そして該中心線は、この中心線の上の表面輪郭内の面積の総計がこの中心線の下の表面輪郭内の面積の総計と等しくなるように引いた線である、第1項の方法。
3. 4に等しいか或はそれ以上のRa粗さを有するアンダーコートを該基質に取り付けることを含む第2項の方法。
4. 該アンダーコートを該粒子の平均直径サイズに少なくともほぼ等しい厚みになるように取り付けることを含む第1項または第2項の方法。
5. 該耐火性粒子に約13から180ミクロンのサイズ範囲を持たせる第4項の方法。
6. 該耐火性酸化物粒子が主にアルミナを含む第1項または第2項の方法。
7. 該アンダーコートを取り付けるに先立って該基質の表面を粗くしておくことを更に含む第1項または第2項の方法。
8. 触媒材料を金属基質に接着させる方法であって、
(a)約13から180ミクロンのサイズ範囲を有するアルミナを主に含む粒子を該基質に該粒子の平均粒子サイズに少なくとも等しい厚みになるように直接熱噴霧して少なくとも約3のRa粗さ[ここで、Ra=(1/L)(h+h+...+h)であるとしてRaを定義し、ここで、hは、単位距離離れて位置する一連のn地点各々で測定した、中心線より上の表面輪郭の高さ測定の絶対値であり、Lは、その単位で表されるサンプリング長であり、そして該中心線は、この中心線の上の表面輪郭内の面積の総計がこの中心線の下の表面輪郭内の面積の総計と等しくなるように引いた線である]を有するアンダーコートを得ることにより、アンダーコートを取り付け、そして
(b)該アンダーコートを取り付けた基質に該触媒材料の層を付着させる、
ことを含む方法。
9. 該アンダーコートを取り付けるに先立って該金属基質の前処理を行ってその表面を粗くしておくことを更に含む第8項の方法。
10. 前処理が該基質のグリット−ブラスティングを行うことを含む第9項の方法。
11. 段階(b)が該触媒材料の粒子が入っているスラリーに該アンダーコートを取り付けた基質を浸漬することを含む第8項の方法。
12. 該触媒材料が、支持体材料上に分散している触媒活性金属種を含み、そして段階(b)が、該支持体材料を含む層を該アンダーコート上に付着させそして該支持体材料上に該触媒活性種を分散させることを含む第8項の方法。
13. 該基質に側面を2つ持たせ、そして該方法が、該基質の両側面に該アンダーコートを取り付けて該触媒材料を付着させることを含む第1項または第8項の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の耐火性酸化物から本質的に成る粒子を金属基質に直接熱噴霧することでアンダーコートを取り付けた後、
該アンダーコートに、耐火性無機酸化物支持体材料の粒子上に分散している触媒活性種を含有する触媒材料の層を付着させる、
ことを含む、触媒材料を金属基質に接着させる方法であって、
該アンダーコートの取り付けが、3以上のRa粗さを有するアンダーコートを取り付けることを含み、ここで、Ra=(1/L)(h+h+...+h)であり、そしてここで、hは、単位距離離れて位置する一連のn地点各々で測定した、中心線より上の表面輪郭の高さ測定の絶対値であり、Lは、その単位で表されるサンプリング長であり、そして該中心線は、この中心線の上の表面輪郭内の面積の総計がこの中心線の下の表面輪郭内の面積の総計と等しくなるように引いた線であり、そして熱噴霧された耐火性酸化物粒子と耐火性酸化物無機支持体材料が同じ組成を有する、上記方法。
【請求項2】
4に等しいか或はそれ以上のRa粗さを有するアンダーコートを該基質に取り付けることを含む請求項1の方法。
【請求項3】
該アンダーコートを該粒子の平均直径サイズに少なくとも等しい厚みになるように取り付けることを含む請求項1または2の方法。
【請求項4】
該耐火性粒子が13から180ミクロンのサイズ範囲を有する請求項3の方法。
【請求項5】
該耐火性酸化物粒子が主にアルミナを含む請求項1または2の方法。
【請求項6】
該アンダーコートを取り付けるに先立って該基質の表面を粗くしておくことを更に含む請求項1または2の方法。
【請求項7】
該基質に側面を2つ持たせ、そして該方法が、該基質の両側面に該アンダーコートを取り付けて該触媒材料を付着させることを含む請求項1の方法。
【請求項8】
該耐火性酸化物をアルミナ、セリア、シリカ、チタニア、酸化鉄、酸化マンガン、アルミナ−チタニアおよびアルミナ−シリカから成る群から選択する請求項1の方法。

【公開番号】特開2008−200675(P2008−200675A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62536(P2008−62536)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【分割の表示】特願平8−521908の分割
【原出願日】平成8年1月17日(1996.1.17)
【出願人】(308009565)バスフ・カタリスツ・エルエルシー (10)
【Fターム(参考)】