説明

触媒材料

【課題】担持させるハニカム構造体を腐食させることなく、低温で煤の燃焼が可能な触媒材料を提供する。
【解決手段】外周壁21と、外周壁21の内側においてハニカム状に設けられた隔壁22と、隔壁22により仕切られていると共に少なくとも部分的に両端面23、24に貫通してなる複数のセル3とを有するセラミックハニカム構造体2において、セル3の内面である隔壁22には、内燃機関から排出される煤を燃焼するために用いられる触媒材料であって層状アルミナに銀を分散してなる触媒材料1が担持されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素を燃焼するために用いられる触媒材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディーゼルエンジン等において、エンジンから排出される煤が問題になっている。そこで、一般に、エンジンの排気管に白金アルミナ等よりなる触媒を有する浄化装置を介在させ、排ガス中の煤を除去することが行われている。この浄化装置においては、触媒材料を担持させたセラミックハニカム構造体が容器に収納されており、この容器に煤を含んだ排ガスを透過させることにより排ガス中の煤を除去することができる。
【0003】
また、一般に、セラミックハニカム構造体は、浄化装置内において再生利用される。即ち、排ガスの浄化に用いられたハニカム構造体には煤が蓄積する。そこで、再生過程において、過剰な燃料を燃やしてハニカム構造体の温度を上昇させることにより、ハニカム構造体にたまった煤を燃焼除去することができる。
【0004】
ところが、白金アルミナからなる従来の触媒材料を担持したハニカム構造体は、600℃以上という高温で加熱されなければ煤が燃焼除去されない。しかし、このような燃焼除去による再生過程においては、ハニカム構造体を高温にするためには、燃料を多く消費してしまうため、燃費が低下するという問題があった。
【0005】
そこで、再生時の燃焼温度の低下が可能なハニカム構造体に担持させる触媒材料の開発が要求されている。具体的には、例えばアルカリ元素を主成分とするアルカリ系触媒材料が提案されている(特許文献1参照)。かかる触媒材料を担持したハニカム構造体は、比較的低温にて、煤を燃焼させ、再生を行うことができるとされている。また、低温活性を示す材料として酸化銀が知られている(たとえば非特許文献1参照)。
【0006】
また、複数の異なる結晶型を有するデラフォサイト型酸化物が混在した混合層を有する結晶構造よりなる酸化物を、排ガス清浄触媒として用いることが提案されている(たとえば特許文献2参照)。しかしながら、この酸化物を煤の燃焼として、採用した場合には、この触媒が層間に吸蔵する酸素は酸素濃度を一定に保つ作用はあるものの、煤を低温燃焼させる活性は有していなかった。
【0007】
また、特許文献3には、ディーゼルエンジンのパティキュレートの燃焼を促進させる触媒に関して開示されている。しかし、その目的は、高温耐熱性にするれた触媒として、Baサイトの一部もしくは全てをAgに置換し、さらに、Alサイトの一部をCr等に置換したBaAl1219からなる触媒が記載されている。
【0008】
この触媒では、たとえ、Baの全てがAgに置換されたとしても、触媒内に含有されるAg量は極端に少ない。このことは、BaAl1219の化学式から明白である。このようなAg量では、高耐熱性には優れるかもしれないが、炭素を低温にて燃焼させることは困難である。
【0009】
また、特許文献4では、酸化触媒として良好なデラフォサイト型複合金属酸化物が記載されているが、具体的には、Aサイトに、Ag及び、BサイトにCr、Fe、Coからなる酸化触媒が示されているにすぎない。
【特許文献1】特開2001−271634号公報
【特許文献2】特開2000−25548号公報
【特許文献3】特開平2−261511号公報
【特許文献4】特許第1799698号公報
【非特許文献1】John P.A.Neeft et al.,FUEL77,No.3,pp.111−119,1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1に記載されているような触媒はアルカリ元素濃度が高くなればなるほど、煤を燃焼させる温度を低くすることができる。すなわち、アルカリ系触媒材料は、アルカリ元素濃度と活性温度との間に正負の相関がある。その一方、アルカリ元素濃度と水に対する触媒材料のアルカリ元素溶解量との関係には、正の関係がある。即ち、触媒中のアルカリ元素濃度が高濃度であればあるほど、水に溶出されやすくなる。
【0011】
これは、触媒が水と接触した時に、触媒中のアルカリ元素が水に溶出されやすくなることを意味する。そのため、触媒を担持させたハニカム触媒体が、被水すると、アルカリ元素が水に溶出する。その結果、ハニカム触媒体は、アルカリ元素に腐食されやすいため、アルカリ系触媒材料がハニカム構造体を腐食することとなる。
【0012】
さらにまた、アルカリ元素が溶出した後、触媒は、触媒自体の性能が劣化してしまい、そのため、排ガスの浄化が十分に行われなくなる。
【0013】
また、上記非特許文献1に記載されている酸化銀は、一度煤を燃焼させると自らの持つ酸素を放出して分解するために、容易には元の酸化物に戻らず、また分解した際に凝集してしまうために、大きく活性が低下する点や、硫黄が存在する環境で使用すると銀がむき出しとなっているために、硫化銀となって活性が失われる点が問題であった。
【0014】
また、上記特許文献4には、Aサイトに、Ag及び、BサイトにCr、Fe、Coからなる酸化触媒体として、酸化触媒として良好な結果を示している。しかしながら、本発明者は、この酸化触媒をパティキュレートの燃焼触媒としては、安定した触媒採用を確認することができなかった。
【0015】
本発明は、かかる従来の問題点を鑑みてなされたものであって、炭素を低温で適切に燃焼させることの可能な触媒材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
はじめに、上記特許文献4に示される、Aサイトの金属として、Agを選び、Bサイトの金属として、Cr、Fe、Coより選ばれた酸化触媒体がなぜ、炭素の低温燃焼触媒として、安定した作用を得ることができない理由を鋭意研究した。
【0017】
本発明者の鋭意研究によれば、その原因が、Bサイトに、Cr、Fe、Coのように遷移金属である点に原因があると判断した。
【0018】
即ち、上記特許文献4の酸化触媒では、遷移金属とAgとが酸素を介在させて結合されていると考えられる。このような構造である場合、触媒作用時、酸化触媒を構成するAgが還元されAgが酸素から切り離れる。この時、不安定になった酸素は、遷移金属からの電子の授受によって安定化され、酸素の遷移金属からの切り離れが高温側にシフトすると推定した。
【0019】
そのため、上記特許文献4の酸化触媒では、低温における触媒作用を得ることができなくなると判断された。
【0020】
そこで、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、炭素を燃焼するために用いられる触媒材料であって、銀とアルミナを構成要素とする触媒においてダンベル状のO−Ag−Oの構造を有することを特徴とする。本発明は、実験検討の結果、得られたものであり、このような構造を有する触媒材料であれば、炭素を低温で適切に燃焼させることが可能となる。
【0021】
また、請求項2に記載の発明では、炭素を燃焼するために用いられる触媒材料であって、層状アルミナに銀を分散してなることを特徴とする。ここで、分散とは、例えば、銀が単独粒子として存在せず、層状アルミナと面状の界面を形成している状態をいう。
【0022】
さらに、請求項3に記載の発明のように、層状アルミナに銀を分散してなるとは、アルミナと銀とが層状構造をなすことをいい、ここで、層状構造とは、請求項4に記載の発明のように、当該触媒材料の結晶内にて構成されたものであり、たとえば、薄片が互いに積層した構造をいう。
【0023】
また、ここで、薄片が互いに積層とは、例えば、厚さが10nm以下のアルミナ及び銀がそれぞれ交互に積層される構造体を意味する。
【0024】
さらに、好ましくは、これらアルミナと銀との交互の積層が50nm以上の厚さを有する構造体を意味する。
【0025】
請求項2に記載の発明は、本発明者の検討の結果、実験的に得られたものであり、層状アルミナに銀を分散してなる触媒材料によれば、たとえば300℃〜400℃からといった従来よりも低温で炭素の燃焼を開始させることができる(後述の図2参照)。
【0026】
また、本触媒材料は、アルカリ系ではないので上記したハニカム構造体などの担体の腐食が防止され、さらには耐硫黄被毒性にも優れる。
【0027】
また、請求項5のように、請求項1または請求項2の触媒材料においては、金属銀あるいは銀イオンとアルミナとが交互に積層しており、その積層周期が10nm以下であるものにできる。
【0028】
ここで、このような触媒材料としては、請求項6に記載の発明のように、当該触媒材料のラマンスペクトルを測定したとき、少なくとも200〜400cm-1、600〜800cm-1、1000〜1200cm-1の3つのピークを有するものを採用できる。このようなラマンピークを有するものであれば、上記低温燃焼の効果が発揮される。
【0029】
また、このようなラマンピークを有する触媒材料としては、請求項7の発明のように、デラフォサイト型AgAlO2が挙げられる。
【0030】
また、上記低温燃焼の効果を発揮する触媒材料としては、請求項8の発明のように、Cu−Kαを用いたX線回折において少なくとも14.5°、29.2°、36.1°、37.2°、41.6°に回折ピークを有する3Rの対称性を有するX線回折スペクトルを有するものが挙げられる。
【0031】
また、上記各触媒材料におけるアルミナとしては、請求項9の発明のように、Ag−ベータアルミナであってもよい。
【0032】
また、請求項10に記載の発明は、セラミックスからなるハニカム構造体に担持させて内燃機関から排出される煤を燃焼するために用いられる触媒材料であって、層状アルミナに銀を分散してなることを特徴とする。この場合も、炭素を低温で適切に燃焼させることの可能な触媒材料を提供できる。
【0033】
また、請求項12に記載の発明のように、上記各触媒材料においては、銀のアルミニウムに対する元素比は0.25以上であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、本発明の実施の形態について説明する。本実施形態の触媒材料としては、まず、アルミナと銀が層状構造をなすものが挙げられる。アルミナ−銀界面の密度が上がると(なお、最も密度が高いのはデラフォサイト構造のAgAlO2である。)、煤の燃焼温度が低くなるため、層状アルミナの酸素と銀の界面構造により、活性が高くなると考えられる。そのため、本実施形態の触媒材料は、たとえば300℃〜400℃程度の低温で煤などの炭素の燃焼を開始させることができる。
【0035】
このような銀が分散された層状アルミナとしては、ラマンスペクトルを測定したとき、少なくとも200〜400cm-1、600〜800cm-1、1000〜1200cm-1の3つのピークを有するものを採用できる。200〜400cm-1のピークは層状構造の層の面内方向の振動に帰属され、層状構造を有していることを示すものである。600〜800cm-1のピークはO−Ag−Oの振動によるものであることが分かっており、界面に酸化銀が存在していることを示すものである。1000〜1200cm-1のピークについては現時点で明確には分かっていないが、C−Oの振動である可能性があり、炭素に対する酸化能力を示すものと考えている。
【0036】
つまり、本実施形態の触媒材料としては、銀とアルミナを構成要素とする触媒においてO−Ag−Oの構造を有するものであればよいといえる。このO−Ag−Oの構造は、これら3原子が直線状に結合したもので、いわゆるダンベル状をなすものである。
【0037】
また、アルミナと銀とが層状構造をなすことについては、当該触媒材料の結晶内にて当該層状構造が構成されているが、具体的には、金属銀あるいは銀イオンとアルミナとが交互に積層しており、その積層周期が10nm以下であるものにできる。また、アルミナについては、当該アルミナ自身にも銀が入り込んだもの、すなわちAg−ベータアルミナであってもよい(後述の実施例10参照)。
【0038】
また、Cu−Kαを用いたX線回折において少なくとも14.5°、29.2°、36.1°、37.2°、41.6°に回折ピークを有する3Rの対称性を有するX線回折スペクトルを有するものが挙げられる。このようなラマンスペクトルやX線回折スペクトルを有するものとしては、典型的には、デラフォサイト型AgAlO2を採用できる。
【0039】
デラフォサイト型AgAlO2は、アルミニウムを中心とした酸素八面体が稜共有でつながったアルミナシートのシート間に銀イオンが配位した、デラフォサイト構造を有するもので、硫黄被毒処理を行っても300℃の低温から煤燃焼が可能である。これは、われわれ発明者らにおいては、以下のように考えられている。
【0040】
すなわち、デラフォサイト型AgAlO2においては、銀がアルミナシートに守られ、亜硫酸ガス等が存在する酸化雰囲気中では表面には銀が存在しないため、硫黄成分から保護され、デラフォサイトには煤のような還元物質が表面に付着することで活性化され、活性を示すと推定される。
【0041】
ここで、デラフォサイト型AgAlO2は、NaAlO2とAg2Oとを水熱処理して、Ag化合物を含有するデラフォサイト型AgAlO2を得て、これをNH3水で洗浄する方法(第1の水熱合成法)や、NaAlO2とAgの低温溶融塩(たとえば硝酸銀カリウムなど)との混合物を加熱した後、これを水洗することにより、β型AgAlO2を得て、これを水熱処理する方法(第2の水熱合成法)により、製造される。なお、上記水熱処理の温度は、含有される不純物の低減の観点から150℃以上が望ましい(後述の実施例4参照)。
【0042】
第1の水熱合成法について、具体的に述べる。固相合成されたNaAlO2とAg2Oとを、好ましい条件である150〜190℃、24時間にて水熱処理して、NaOHとAg2O/α−AgAlO2(ここでα−はデラフォサイト型を示す)との混合物を得て、これを水洗し、Ag化合物を含有するデラフォサイト型AgAlO2としてAg2O/α−AgAlO2を得る。そして、これをNH3水で洗浄することで酸化銀のみを選択除去して、α−AgAlO2を得る。
【0043】
第2の水熱合成法について、具体的に述べる。NaAlO2とAgK(NO32との混合物を加熱して、NaK(NO32とβ−AgAlO2との混合物を得た後、これを水洗することにより、β型AgAlO2を得る。そして、これを好ましい条件である150〜190℃、24時間にて水熱処理することで、α−AgAlO2を得る。ここでは、Agの低温溶融塩を使って金属銀の析出を抑制する。
【0044】
また、デラフォサイト型AgAlO2の製造方法としては、次の第3〜第7の水熱合成法を用いてもよい。
【0045】
第3の水熱合成法について述べる。NaOHと遷移アルミナとAg2Oとを、好ましい条件である150〜190℃、24時間にて水熱処理し、これを水洗して、Ag化合物を含有するデラフォサイト型AgAlO2を得る。そして、このAg化合物を含有するデラフォサイト型AgAlO2をNH3水で洗浄することで過剰なAg化合物を除去する。それにより、α−AgAlO2を得る(後述の実施例8参照)。
【0046】
第4の水熱合成法について述べる。NaOHと水酸化アルミナとAg2Oとを、好ましい条件である150〜190℃、24時間にて水熱処理し、これを水洗して、Ag化合物を含有するデラフォサイト型AgAlO2を得る。そして、このAg化合物を含有するデラフォサイト型AgAlO2をNH3水で洗浄することで過剰なAg化合物を除去する。それにより、α−AgAlO2を得る(後述の実施例9参照)。
【0047】
第5の水熱合成法について述べる。遷移アルミナとAg2Oとを酢酸存在下で150℃以上で水熱処理して、ゾル状のAg−ベーマイト混合物を得て、これを焼成する。それにより、たとえば、AgとAg−βアルミナとの積層構造よりなる触媒材料を得る。
【0048】
この触媒材料は、後述の実施例10に示されるように、約300℃〜400℃までの低温から炭素微粉末を燃焼させることができるものである。そして、このようなゾル状のAg−ベーマイト混合物を焼成してなる触媒材料の合成法としては、次の第6、第7の水熱合成法があげられる。
【0049】
第6の水熱合成法は、NaAlO2とAg2Oとを酢酸存在下で150℃以上で水熱処理して、ゾル状のAg−ベーマイト混合物を得て、これを焼成するものである(後述の実施例11参照)。また、第7の水熱合成法は、酢酸ナトリウムと遷移アルミナとAg2Oとを150℃以上で水熱処理して、ゾル状のAg−ベーマイト混合物を得て、これを焼成するものである(後述の実施例12参照)。
【0050】
また、本実施形態の触媒材料としては、上記ラマンスペクトルの4ピークを有するものであれば、たとえば、デラフォサイト型AgAlO2を熱分解したもの(後述の実施例6参照)でもよい。あるいは、銀とアルミニウムの混合塩を複分解して銀−アルミナ混合物を得るものでもよく、たとえば複合硝酸塩AgAl(NO34を熱分解したものなどであってもよい(後述の実施例7参照)。
【0051】
また、上記触媒材料は、粒径が0.1〜20μmの粒子からなることが好ましい。粒径が上記の範囲から外れる場合には、ハニカム構造体に担持させることが困難になるおそれがある。
【0052】
具体的には、粒径が0.1μm未満の場合には、例えば上記触媒材料を多孔質のハニカム構造体に担持して用いる際に、その細孔内に触媒が入り込むことにより、圧損が増加してしまうおそれがある。一方、粒径が20μmを越える場合には、上記触媒材料をハニカム構造体等の基材に担持して用いる際に、上記触媒材料の粒子が基材から脱落するおそれがある。
【0053】
上記触媒材料は、例えばディップコートなどによりセラミックスハニカム構造体等の担体に担持させて用いることができる。セラミックスハニカム構造体は、例えば外周壁と、該外周壁の内側においてハニカム状に設けられた隔壁と、該隔壁により仕切られていると共に少なくとも部分的に両端面に貫通してなる複数のセルとを有する。
【0054】
ここで、セルが両端面に貫通しているとは、当該セルがセラミックハニカム構造体の両端部にて開口し、当該両端部間を貫通する孔としてセルが構成されていることである。そして、複数のセルのすべてが当該構造体の両端面にて開口していてもよい。また、複数のセルのうち一部のセルについては、当該両端面の部分が栓材等により閉塞されていてもよい。
【0055】
そして、上記触媒材料は、このセラミックハニカム構造体におけるセルの内面として、上記隔壁に担持される。このような本実施形態のハニカム構造体においては、銀が分散された層状アルミナを触媒材料としているため、上記特許文献1に記載されているようなアルカリ元素を主成分とするアルカリ系触媒材料のように、ハニカム構造体を腐食させることはなく、低温で煤の燃焼が可能となる。なお、上記触媒材料は、特に、コージェライト結晶よりなるハニカム体に有効である。
【実施例】
【0056】
次に、本発明を限定するものではないが、本発明の実施例について、図を用いて、より具体的に説明する。
【0057】
(実施例1)
本例は、触媒材料としてデラフォサイト型AgAlO2を作製し、その触媒特性を評価する例である。本例の触媒材料の製造方法は、上記第1の水熱合成法であり、母材合成、水熱合成、水洗、アンモニア洗浄、水洗、乾燥を行うことにより触媒材料を作製する。
【0058】
まず、母材合成においては、アルカリ塩(たとえば硝酸ナトリウムなど)とアルミニウム塩(たとえば硝酸アルミニウムなど)の均一混合体を800〜1000℃で熱分解することで、母材であるアルミン酸ナトリウム(NaAlO2)を合成する。
【0059】
次に、合成された母材と酸化銀(Ag2O)とを圧力容器に封入して150〜180℃で水熱処理をすることでAg化合物を含有するデラフォサイト型AgAlO2を得る。そして、これを水洗した後、アンモニア水で洗浄、水洗し、乾燥することにより、触媒材料を得る。
【0060】
より具体的に、本例の水熱合成法について述べる。まず、硝酸アルミニウムと酢酸ナトリウムを1:1で溶解した水溶液を調製する。これを攪拌しながら加熱して蒸発乾固させた後、800℃で4時間焼成してアルミン酸ナトリウムを得た。
【0061】
次いで、アルミン酸ナトリウムのナトリウムと等量の銀を含んだ酸化銀とともにイオン交換水中に分散させた。たとえば、NaAlO2を8.1g、Ag2Oを11.6g、イオン交換水100mlに分散させた。そして、この分散液を、テフロン(登録商標)製の内容器を備えた圧力容器中に封入した。175℃で48時間、水熱処理した後、水洗、ろ過を3回繰り返した。上澄み液を乾燥して分析した結果、炭酸ナトリウムであることを確認した。
【0062】
一方、ろ過物は黒灰色であり、XRD(X線回折)の結果、デラフォサイト型のAgAlO2と酸化銀であった。以下、これを本実施例1における水洗後のデラフォサイト型AgAlO2として、試料A0という。
【0063】
なお、XRD測定によるX線回折スペクトルを求める方法として、以下の方法を採用した。
【0064】
すなわち、装置としては、リガクRINT2000(理学電機(株)製)を用い、条件としては、線源:Cu−Kα、管電圧:50kV、管電流:100mA、DS:(1/2)°、SS:1°、RS:0.3mm、モノクロメータ、0.02°ステップスキャン、積分時間:0.5secとして、測定を行った。
【0065】
図1は、本実施例1および後述の比較例1による生成物A0、A1、A2、B1、B2のXRDによるX線回折スペクトルを示す図である。図1では、酸化銀のピークにはクロスマークを付してあり、試料A0は、酸化銀を含有するデラフォサイト型AgAlO2であることが確認される。
【0066】
次に、この酸化銀を含有するデラフォサイト型AgAlO2を、10%のアンモニア水に分散させたところ、色は灰色に変化した。これを十分水洗して、乾燥した。以下、これをアンモニア処理後のデラフォサイト型AgAlO2として試料A1という。
【0067】
この試料A1を、XRDにより確認したところ、図1に示されるように、デラフォサイト型AgAlO2のみが残存して酸化銀は除去されていた。こうして、アンモニア水で処理することにより、X線回折で確認できるような過剰な銀塩が存在しない本実施例1のデラフォサイト型AgAlO2が得られる。
【0068】
(比較例1)
上記実施例1においてアンモニア水による洗浄を省略した以外は同様にして、本例の触媒材料として試料B1を合成した。この試料B1のX線回折スペクトルは、図1に示されるように、上記試料A0と同様であり、酸化銀を含有するデラフォサイト型AgAlO2である。
【0069】
(比較例2)
硝酸銀水溶液に含まれる硝酸銀と等モルのチオ硫酸ナトリウムを溶解させ、超音波を1時間印加することで得られた黒色沈殿を、ろ過、水洗、乾燥して本例の試料Cを得た。XRDの結果、試料Cは、硫化銀であることを確認した。
【0070】
また、耐硫黄被毒性を確認するために、上記試料A1、B1について、比較例2と同様のチオ硫酸ナトリウムによる硫黄被毒処理を行った試料を合成した。試料A1について当該被毒処理を行ったものを試料A2、試料B1について当該被毒処理を行ったものを試料B2という。
【0071】
図1に示されるように、アンモニア洗浄されたデラフォサイト型AgAlO2としての試料A2は、被毒処理の前後で結晶構造の変化が見られなかったが、アンモニア洗浄されていないデラフォサイト型AgAlO2としての試料B2は、被毒処理の前後で結晶構造こそ変わらないものの、若干茶色への変色が見られた。
【0072】
次に、上記実施例1および比較例1、2において作製した上記の各試料A1、A2、B2、Cについて、その排ガス浄化用触媒としての特性の評価を行った。この評価は、各触媒材料を炭素微粉と共に加熱したときの炭素微粉の重量変化と熱収支とを、示差熱熱重量同時測定装置により測定することによって行った。
【0073】
具体的には、まず、各試料100重量部と炭素微粉5重量部とを乳鉢で混合した。次いで、この混合粉を加熱し、加熱時の加熱温度と重量変化を、示差熱熱重量同時測定装置を用いて測定した。示差熱熱重量同時測定装置は、(株)エスエスアイナノテクノロジー製のEXSTAR6000 TG/DTAを用いた。
【0074】
この測定は、10vol%のO2ガスと90Vol%のN2ガスとからなる混合ガスを、100ml/minで上記混合粉にフローさせながら、昇温速度10℃/minで混合粉を加熱することによって行った。その結果を図2に示す。図2は、上記実施例1および上記比較例1、2の各触媒材料(試料A1、A2、B2、C)についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。ここで、重量変化は燃焼率として示してある。
【0075】
図2に示される上記実施例1の試料A1(図中、実線にて図示)、試料A2(図中、破線にて図示)のデータからわかるように、実施例1によれば、硫黄被毒処理前だけでなく当該処理後においても、約300℃〜400℃までの低温から600℃までの広範囲で炭素微粉末を燃焼させることができている。
【0076】
上記比較例1、2の試料B2(図中、一点鎖線にて図示)では、硫化銀である試料C(図中、二点鎖線にて図示)に比べれば低温活性ではあるが、立ち上がりが400℃以上と実施例1に比べると高く、狭い温度域でしか炭素微粉末を燃焼しなかった。この詳細は不明であるが、マクロ的には全く同じ組成ながら、このような差異が出るのはアルミナ構造の違いと、混在するデラフォサイト以外の銀化合物の有無によると考えられる。
【0077】
(実施例2)
本例は、上記実施例1で作製した触媒材料(試料A1)を担持させたセラミックスハニカム構造体を作製する例である。
【0078】
ここで、図3は、本実施例2に係るセラミックスハニカム構造体2の斜視図であり、図4は、本実施例2に係るセラミックハニカム構造体2の長手方向の断面図であり、図5は、本実施例2に係るセラミックハニカム構造体2内を排ガス10が通過する様子を示す図である。
【0079】
これら図3〜図5に示すごとく、本例のセラミックハニカム構造体2は、外周壁21と、該外周壁21の内側においてハニカム状に設けられた隔壁22と、該隔壁22により仕切られた複数のセル3とを有する。
【0080】
セル3は、セラミックハニカム構造体2の両端面23、24に部分的に開口している。即ち、一部のセル3は、ハニカム構造体2の両端面23、24に開口し、残りのセル3は、両端面23、24に形成された栓部32によって閉塞している。
【0081】
図3及び図4に示すように、本例においては、セル3の端部を開口する開口部31と、セル3の端部を閉塞する栓部32とは交互に配置されており、いわゆる市松模様を形成している。そして、隔壁22には、上記実施例1で作製した試料Aである触媒材料1が担持されている。
【0082】
また、図5に示すごとく、本例のセラミックハニカム構造体2においては、排ガス10の入口側となる上流側端面23及び排ガス10の出口となる下流側端面24に位置するセル3の端部は、栓部32が配置された部分と配置されていない部分とをそれぞれ交互に有している。また、隔壁22には多数の空孔が形成され、排ガス10が通過できるようになっている。
【0083】
また、本例のセラミックハニカム構造体2の全体サイズは、直径160mm、長さ100mmであり、セルサイズは、セル厚さ3mm、セルピッチ1.47mmである。また、セラミックハニカム構造体2はコーディエライトからなり、そのセル3は、断面が四角形状のものを採用した。セル3は、その他にも例えば、三角形、六角形等の様々な断面形状を採用することができる。
【0084】
次に、本例のセラミックハニカム構造体2の製造方法につき、説明する。まず、タルク、溶融シリカ、及び水酸化アルミニウムを所望のコーディエライト組成となるように秤量し、造孔剤、バインダー、水等を加え、混合機にて混合撹拌した。そして、得られた粘土質のセラミック材料を成形機にて押出成形し、ハニカム状の成形体を得た。
【0085】
これを乾燥した後、所望の長さに切断し、外周壁41と、その内側においてハニカム状に設けられた隔壁42と、隔壁42により仕切られていると共に両端面43、44に貫通してなる複数のセル3とを有する成形体4を作製した。図6は、この成形体4の外観斜視図である。
【0086】
次いで、この成形体4を温度1400〜1450℃で2〜10時間加熱することにより仮焼して、仮焼体4を得た。この仮焼体4は、図6に示される成形体4と実質的な形状は同じものである。以下、この仮焼体4をハニカム構造体4ということにする。
【0087】
図7は、本実施例2に係るハニカム構造体4の端面43にマスキングテープ5を配置する様子を示す斜視図であり、図8は、本実施例2に係るマスキングテープ5に貫通穴を形成する様子を示す斜視図であり、図9は、本実施例2に係るマスキングテープ5に貫通穴321を形成した状態を示すハニカム構造体4の断面図である。
【0088】
次に、図7に示すごとく、ハニカム構造体4の両端面43、44全体を覆うようにマスキングテープ5を貼り付けた。そして、図8および図9に示すごとく、レーザ発射手段501を備えた貫通穴形成装置50と用いて、セラミックハニカム構造体4の両端面43、44の栓詰めすべき部分325に対応するマスキングテープ5に、レーザ光500を順次照射し、マスキングテープ5を溶融又は焼却・除去して貫通穴321を形成した。
【0089】
これにより、セル3の端部における栓部32により栓詰めすべき部分325が貫通穴321により開口し、セル3の端部におけるその他の部分がマスキングテープ5で覆われた状態のセラミックハニカム構造体4を得た。
【0090】
なお、本例においては、セル3の両端面43、44に貫通穴321とマスキングテープ5で覆われた部分とが交互に配置するように、マスキングテープ5に貫通穴321を形成した。また、本例では、マスキングテープ5として、厚さ0.1mmの樹脂フィルムを用いた。
【0091】
次に、栓部32の材料である栓材の主原料となるタルク、溶融シリカ、アルミナ、及び水酸化アルミニウムを、所望の組成となるように秤量し、バインダー、水等を加え、混合機にて混合撹拌することにより、スラリー状の栓材を作製した。このとき、必要に応じて造孔材を添加することもできる。
【0092】
図10は、本実施例2に係るハニカム構造体4を栓材320に浸漬する様子を示す図である。この図10に示すごとく、スラリー状の栓材320を入れた容器329を準備した後、上記穴開け工程後のハニカム構造体4の端面43を浸漬した。これにより、マスキングテープ5の貫通穴321からセル3の端部に栓材320を適量浸入させた。
【0093】
また、ハニカム構造体4のもう一方の端面44についても、図10と同様の工程を行った。このようにして、栓詰めすべきセル3の部分325内に栓材320が配置されたハニカム構造体4を得た。
【0094】
次に、ハニカム構造体4とその栓詰めすべき部分325に配置した栓材320とを同時に約1400〜1450℃で焼成した。これにより、マスキングテープ5は焼却除去され、上記図4に示すごとく、セル3の両端に、その端部を開口する複数の開口部31と、セル3の端部を閉塞する複数の栓部32とが形成されたセラミックハニカム構造体2を作製した。
【0095】
図11は、本実施例2に係るセラミックハニカム構造体2に触媒材料1を担持させる様子を示す図である。図11に示すごとく、上記実施例1で作製した触媒材料1を水に分散させて触媒分散液6を作製した。この触媒分散液6中にセラミックハニカム構造体2を浸漬させた後、乾燥させた。
【0096】
さらに浸漬と乾燥を繰り返すことにより、触媒材料1をセラミックハニカム構造体2に担持させた。このようにして、上記図4及び図5に示すごとく、触媒材料1を担持したセラミックハニカム構造体2を得た。
【0097】
本例のセラミックハニカム構造体2は、上記実施例1の触媒材料1をセル3の内面すなわち隔壁22に担持している。そのため、触媒材料1の優れた特徴を生かして、セラミックハニカム構造体2においては、腐食することなく、低温で煤を燃焼させることが可能となる。
【0098】
(実施例3)
本実施例3では、上記実施例1で作製したデラフォサイト型AgAlO2としての試料A1と同じくデラフォサイト型のCuAlO2との燃焼温度を比較した。この比較は、これら両試料について、上記図2と同様に、各触媒材料を炭素微粉と共に加熱したときの炭素微粉の重量変化と熱収支とを、示差熱熱重量同時測定装置により測定することによって行った。
【0099】
図12は、デラフォサイト型AgAlO2(試料A1)とデラフォサイト型CuAlO2とについての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。デラフォサイト型CuAlO2は、酸化銅と硝酸アルミニウムとの混合物を1100℃で4時間焼成することで作製した。図12から、デラフォサイト型CuAlO2では、上記実施例1のような低温かつ広範囲の燃焼性能が得られないことがわかる。
【0100】
このように上記特許文献3においては、酸化触媒として良好であると記載されている触媒組成であるCu―Alの組み合わせは、パティキュレートの低温燃焼には何ら効果がなく、Ag−Alの組成にてはじめて良好な作用効果が得られることを見出した。
【0101】
上記特許文献3では、一群のデラフォサイトでCO、HCなどの酸化活性が高いとされているが、これらの実施例は特許文献3には記載されておらず、図12に示されるように、上記特許文献3でCO、HCに対して活性とされるCuAlO2と本実施例のAgAlO2において煤に対する酸化活性は熱重量分析の結果で活性温度は300℃の差があり、AgAlO2の特異な活性であることは明白である。
【0102】
(実施例4)
本実施例4では、上記第1の水熱合成法によりデラフォサイト型AgAlO2を作製するにあたって、ロットや熱履歴の異なるものを作製した。ロット1として水熱処理温度を175℃としたもの、さらにこのロット1を800℃で熱処理したもの、ロット2として水熱処理温度を150℃としたものを、それぞれ作製し、各サンプルについてラマンスペクトルを測定した。
【0103】
ラマンスペクトルの測定条件は、次の通りである。評価装置:HORIBA JOBIN YVON社製HR−800、評価条件:532nm、50mW、100μmホール、D2スリット、600gr/mm。測定結果を図13、図14、図15に示す。図13は本実施例のロット1、図14はこのロット1を800℃で熱処理したもの、図15は本実施例のロット2についてのラマンスペクトルを示す図である。
【0104】
いずれのサンプルも、図13〜図15中の矢印に示すように、200〜400cm-1、600〜800cm-1、1000〜1200cm-1の3つのピークを有している。そして、各サンプルについては、約300℃〜400℃までの低温から600℃までの広範囲で炭素微粉末を燃焼できることが、上記同様に確認されている。
【0105】
(実施例5)
本実施例5では、上記第1の水熱合成法について、水熱処理温度を種々変えたものを作製し、各サンプルについて、上記同様の測定条件にてX線回折スペクトルを測定した。その結果を図16〜図20に示す。
【0106】
図16、図17、図18、図19、図20は、水熱処理温度をそれぞれ、125℃×48時間、140℃×48時間、150℃×48時間、175℃×48時間、190℃×6時間としたもののX線回折スペクトルを示す図である。また、図21は、無機結晶構造データベース(ICSD)におけるICSD♯300020の2H型デラフォサイト(アルミナの積層がABAB・・・)の原子間距離を使って、3R型(アルミナの積層がABCABC・・・)のスペクトルを計算したものであり、デラフォサイト型3R−AgAlO2のX線回折スペクトルを示す。
【0107】
図16〜図21からわかるように、125℃〜190℃の温度で水熱処理を行えば、デラフォサイト型AgAlO2を製造できるが、図16、図17に示されるように、150℃未満では、含有される不純物が顕著に現れる。その点、150℃以上ならば、このような不純物を極力含まないデラフォサイト型AgAlO2を製造できる。
【0108】
また、図16〜図20の各サンプルについて、上記同様の条件にて、排ガス浄化用触媒としての特性の評価を、示差熱熱重量同時測定装置によって行った。その結果を図22〜図26に示す。
【0109】
図22、図23、図24、図25、図26は、水熱処理温度をそれぞれ、125℃×48時間、140℃×48時間、150℃×48時間、175℃×48時間、190℃×6時間で合成したとしたデラフォサイト型AgAlO2についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。
【0110】
図22〜図26に示されるように、いずれの水熱処理温度で合成されたサンプルにおいても、約300℃〜400℃までの低温から600℃までの広範囲で炭素微粉末を燃焼させることができている。
【0111】
(実施例6)
本実施例6では、上記水熱合成法で製造したデラフォサイト型AgAlO2を、1000℃、4時間で熱処理することにより、熱分解した。
【0112】
図27は、このデラフォサイト型AgAlO2の熱分解品のXRDによるX線回折スペクトルを示す図である。測定条件は上記同様である。図27に示されるように、X線では銀しか確認できないが、組成はAg:Al=1:1の比を有するものである。
【0113】
また、図28は、この熱分解品のラマンスペクトルを示す図である。測定条件は上記同様である。図28中の矢印に示すように、200〜400cm-1、600〜800cm-1、1000〜1200cm-1の3つのピークを有している。また、この熱分解品を電子顕微鏡で観察した。図29は、この熱分解品の電子顕微鏡による顕微鏡写真を示す図であり、本品は層状構造をなしていることが確認された。
【0114】
また、この熱分解品について、上記同様の条件にて、排ガス浄化用触媒としての特性の評価を、示差熱熱重量同時測定装置により行った。その結果を図30に示す。図30は、本例の熱分解品についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。これからわかるように、本品においても、約300℃〜400℃までの低温から炭素微粉末を燃焼させることができている。
【0115】
(実施例7)
本実施例7では、複合硝酸塩を熱分解したものを作製した。具体的には、硝酸銀と硝酸アルミニウムを等モル水に溶かした物(AgAl(NO34)を850℃まで昇温することで熱分解した。
【0116】
図31は、この複合硝酸塩の熱分解品のXRDによるX線回折スペクトルを示す図である。測定条件は上記同様である。図31に示されるように、X線では銀と若干のαアルミナしか確認できないが、組成はAg:Al=1:1の比を有するものである。
【0117】
また、図32は、この複合硝酸塩の熱分解品のラマンスペクトルを示す図である。図32では、比較例として、αアルミナにAl:Ag=1:1となるようにAgNO3を含浸担持して850℃で熱分解したものについてのラマンスペクトルも示してある。測定条件は上記同様である。
【0118】
図32に示すように、本実施例の複合硝酸塩の熱分解品も、200〜400cm-1、600〜800cm-1、1000〜1200cm-1の3つのピークを有している。また、この熱分解品を電子顕微鏡で観察した。図33は、この熱分解品の電子顕微鏡による顕微鏡写真を示す図であり、本品も層状構造をなしていることが確認された。
【0119】
また、この熱分解品について、上記同様の条件にて、排ガス浄化用触媒としての特性の評価を、示差熱熱重量同時測定装置により行った。その結果を図34に示す。図34は、本例の複合硝酸塩の熱分解品についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。これからわかるように、本品においても、約300℃〜400℃までの低温から炭素微粉末を燃焼させることができている。
【0120】
(実施例8)
本例は、上記第3の水熱合成法により、触媒材料としてデラフォサイト型AgAlO2を作製した例である。
【0121】
まず、NaOHを4g、遷移アルミナを5.0g、Ag2Oを11.6g、イオン交換水100mlに分散させた。そして、この分散液を、テフロン(登録商標)製の内容器を備えた圧力容器中に封入した。175℃で48時間、水熱処理した後、水洗、ろ過を3回繰り返した。ろ過物は黒灰色であり、XRD(X線回折)の結果、デラフォサイト型のAgAlO2と酸化銀であった。
【0122】
その後、この酸化銀を含有するデラフォサイト型AgAlO2を、10%のアンモニア水に分散させ、続いて、これを十分水洗して、乾燥した。こうして、本例においても、上記実施例1と同様のデラフォサイト型AgAlO2が得られた。
【0123】
(実施例9)
本例は、上記第4の水熱合成法により、触媒材料としてデラフォサイト型AgAlO2を作製した例である。
【0124】
まず、NaOHを4g、水酸化アルミナを7.8g、Ag2Oを11.6g、イオン交換水100mlに分散させた。そして、この分散液を、テフロン(登録商標)製の内容器を備えた圧力容器中に封入した。175℃で48時間、水熱処理した後、水洗、ろ過を3回繰り返した。ろ過物は黒灰色であり、XRD(X線回折)の結果、デラフォサイト型のAgAlO2と酸化銀であった。
【0125】
その後、この酸化銀を含有するデラフォサイト型AgAlO2を、10%のアンモニア水に分散させ、続いて、これを十分水洗して、乾燥した。こうして、本例においても、上記実施例1と同様のデラフォサイト型AgAlO2が得られた。
【0126】
(実施例10)
本例は、上記第5の水熱合成法により、触媒材料としてAgとAg−βアルミナとの積層構造よりなる触媒材料を作製した例である。
【0127】
酸化銀11g、遷移アルミナとしてθアルミナ5gをイオン交換水100ml中に分散させて、そこに、酢酸6gを加え攪拌した後、圧力容器に封入して、175℃で48時間、水熱処理した。
【0128】
これにより得られたスラリーを遠心分離機によって固液分離して、固形分について、上記同様の条件にてX線回折測定を行った。その結果は図35中の破線にて示されるX線回折スペクトル(焼成前)に表される。これにより、上記固形分はベーマイトと銀の混合物であることがわかった。
【0129】
この固形物を大気中600℃で焼成した。図35中の実線にて示されるX線回折スペクトルは、この焼成後の焼成物のスペクトルであり、これから銀が確認されたが、アルミナの形態は不明であった。
【0130】
そこで、断面TEM観察および電子線回折を行った。図36は、断面TEM観察結果による本例の焼成物の模式的な断面図である。
【0131】
図36示されるように、銀の層700とアルミナの層701とが交互に積層しており、その積層周期が10nm以下である。なお、銀は金属銀あるいは銀イオンとして存在するものであるが、その厚さについては、図36に示されるように、1層の中で厚い部分と薄い部分とが存在する場合もある。
【0132】
また、アルミナについては、電子線回折の結果、アルミナの層701中にAgの存在が確認された。つまり、本例では、アルミナはアルミナ中にAgが入り込んでいるAg−βアルミナであり、本例の触媒材料は、AgとAg−βアルミナとの積層構造よりなる触媒材料であることが確認された。
【0133】
ここで、上記実施例4などに示されるデラフォサイト型AgAlO2や、上記実施例6に示されるデラフォサイト型AgAlO2の熱分解品や、上記実施例7に示される複合硝酸塩の熱分解品についても、同様の断面TEM観察により、図36のような銀とアルミナとの積層構造を有する触媒材料であることを確認している。各例の積層周期の一例をあげると、上記実施例4、実施例6、実施例7では、それぞれ0.6nm、5nm、10nmである。
【0134】
また、本例においても、上記実施例4と同様にラマンスペクトル測定を行ったところ、上記各実施例の触媒材料と同様に、600〜800cm-1のピークが確認され、O−Ag−Oの構造を有することが確認された。
【0135】
この本例の触媒材料について、上記同様の条件にて、排ガス浄化用触媒としての特性の評価を、示差熱熱重量同時測定装置により行った。その結果を図37に示す。図37は、本例の触媒材料についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。これからわかるように、本例においても、約300℃〜400℃までの低温から炭素微粉末を燃焼させることができている。
【0136】
(実施例11)
本例は、上記第6の水熱合成法により、触媒材料としてAgとAg−βアルミナとの積層構造よりなる触媒材料を作製した例である。上記実施例10において、θアルミナの代わりに、NaAlO2を8g使用したこと以外は、上記実施例10と同様にして触媒材料を製造した。
【0137】
本例によっても、上記実施例10と同様に、AgとAg−βアルミナとの積層構造よりなる触媒材料が得られ、また、排ガス浄化用触媒としての特性評価を行ったところ、約300℃〜400℃までの低温から炭素微粉末を燃焼させることができた。
【0138】
(実施例12)
本例は、上記第7の水熱合成法により、触媒材料としてAgとAg−βアルミナとの積層構造よりなる触媒材料を作製した例である。上記実施例10において、酢酸の代わりに、酢酸ナトリウムを8g使用し、且つ酢酸を用いないこと以外は、上記実施例10と同様にして触媒材料を製造した。
【0139】
本例によっても、上記実施例10と同様に、AgとAg−βアルミナとの積層構造よりなる触媒材料が得られ、また、排ガス浄化用触媒としての特性評価を行ったところ、約300℃〜400℃までの低温から炭素微粉末を燃焼させることができた。
【0140】
(実施例13)
また、層状銀アルミナ積層体において銀のアルミナに対する元素比は0.25以上であることが好ましいが、本実施例13では、この元素比に規定することについての根拠を述べる。当該根拠は、以下のような本発明者の行った実験結果に基づく。
【0141】
イオン交換水100mL当たり、シータアルミナを1.5g、酸化銀をそれぞれ0.35g(x=0.1)、0.70g(0.2)、0.88g(0.25)、1.75g(0.5)、2.63g(0.75)、酢酸をそれぞれ0.18g(x=0.1)、0.36g(0.2)、0.45g(0.25 ) 、0.9g(0.5)、1.35g(0.25)を加え、圧力容器中175℃で40時間加熱した。得られたゾルをそのまま乾固、600℃で5時間焼成して試料を得た。つまり、本実施例では、上記第5の水熱合成法により、各試料を作製した。
【0142】
ここで、酸化銀および酢酸における上記重量に対する括弧内の値xは、それぞれAl原子に対するAg原子、酢酸の元素比である。できあがった各試料の組成は、銀のアルミニウムに対する元素比xを用いて、xAg/[0.5(Al23)]にて表される。
【0143】
つまり、本実施例では、シータアルミナに対して酸化銀およびそれに伴う酢酸の量を変えることにより、銀のアルミニウムに対する元素比xがそれぞれ、0.1、0.2、0.25、0.5、0.75である試料を作製した。そして、これら元素比xの異なる各試料について、5wt%の煤を混合し、上記同様の要領で熱重量分析を行った。この熱重量分析の結果を図38に示す。
【0144】
図38では、横軸に温度(単位:℃)、縦軸に重量減少率(任意単位)を示しており、銀のアルミニウムに対する元素比xを変えたものについて、温度と重量減少率との関係を示している。この図38に示される結果から、銀のアルミニウムに対する元素比xが0.25以上であるならば、300〜400℃にて大きな重量減少率が得られ、低温で良好な燃焼が実現できることが確認された。
【0145】
(他の実施形態)
なお、上記実施例2に示したセラミックハニカム構造体において、上記実施例3〜12の触媒材料を隔壁22に担持させてもよい。その担持方法は上記実施例2と同様である。また、触媒材料を隔壁22に担持するにあたっては、当該隔壁22の全体に担持してもよいし、部分的に担持してもよい。また、触媒材料を含むスラリーを用い、吸引などによりハニカム構造体に担持させるようにしてもよい。
【0146】
また、セラミックハニカム構造体としては、内燃機関から排出される煤を燃焼するための触媒材料が担持されるものであるならば、上記図3〜図5に示したものに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0147】
【図1】本発明の実施例1および比較例1による生成物のXRDによるX線回折スペクトルを示す図である。
【図2】本発明の実施例1および比較例1、2に係る触媒材料についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。
【図3】本発明の実施例2に係るセラミックスハニカム構造体の斜視図である。
【図4】上記実施例2に係るセラミックハニカム構造体の長手方向の断面図である。
【図5】上記実施例2に係るセラミックハニカム構造体内を排ガスが通過する様子を示す図である。
【図6】上記実施例2に係る成形体の外観斜視図である。
【図7】上記実施例2に係るハニカム構造体の端面にマスキングテープを配置する様子を示す斜視図である。
【図8】上記実施例2に係るマスキングテープに貫通穴を形成する様子を示す斜視図である。
【図9】上記実施例2に係るマスキングテープに貫通穴を形成した状態を示すハニカム構造体の断面図である。
【図10】上記実施例2に係るハニカム構造体を栓材に浸漬する様子を示す図である。
【図11】上記実施例2に係るセラミックハニカム構造体に触媒材料を担持させる様子を示す図である。
【図12】本発明の実施例3に係るデラフォサイト型AgAlO2とデラフォサイト型CuAlO2とについての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。
【図13】本発明の実施例4におけるロット1のサンプルについてのラマンスペクトルを示す図である。
【図14】上記実施例4におけるロット1を800℃で熱処理したサンプルについてのラマンスペクトルを示す図である。
【図15】上記実施例4におけるロット2のサンプルについてのラマンスペクトルを示す図である。
【図16】水熱処理温度:125℃で製造したデラフォサイト型AgAlO2のX線回折スペクトルを示す図である。
【図17】水熱処理温度:140℃で製造したデラフォサイト型AgAlO2のX線回折スペクトルを示す図である。
【図18】水熱処理温度:150℃で製造したデラフォサイト型AgAlO2のX線回折スペクトルを示す図である。
【図19】水熱処理温度:175℃で製造したデラフォサイト型AgAlO2のX線回折スペクトルを示す図である。
【図20】水熱処理温度:190℃で製造したデラフォサイト型AgAlO2のX線回折スペクトルを示す図である。
【図21】ICSD♯300020の2H型デラフォサイトの原子間距離を使って計算された、デラフォサイト型3R−AgAlO2のX線回折スペクトルを示す図である。
【図22】水熱処理温度:125℃で製造したデラフォサイト型AgAlO2についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。
【図23】水熱処理温度:140℃で製造したデラフォサイト型AgAlO2についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。
【図24】水熱処理温度:150℃で製造したデラフォサイト型AgAlO2についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。
【図25】水熱処理温度:175℃で製造したデラフォサイト型AgAlO2についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。
【図26】水熱処理温度:190℃で製造したデラフォサイト型AgAlO2についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。
【図27】本発明の実施例6におけるデラフォサイト型AgAlO2の熱分解品のXRDによるX線回折スペクトルを示す図である。
【図28】上記実施例6の熱分解品のラマンスペクトルを示す図である。
【図29】上記実施例6の熱分解品の電子顕微鏡による顕微鏡写真を示す図である。
【図30】上記実施例6の熱分解品についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。
【図31】本発明の実施例7における複合硝酸塩の熱分解品のXRDによるX線回折スペクトルを示す図である。
【図32】上記実施例7の熱分解品のラマンスペクトルを示す図である。
【図33】上記実施例7の熱分解品の電子顕微鏡による顕微鏡写真を示す図である。
【図34】上記実施例7の熱分解品についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。
【図35】本発明の実施例8における生成物のX線回折スペクトルを示す図である。
【図36】上記実施例8における焼成物の模式的な断面図である。
【図37】上記実施例8における焼成物についての重量変化と加熱温度との関係を示す線図である。
【図38】上記実施例13における熱重量分析の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0148】
1 触媒材料
2 セラミックハニカム構造体
3 セル
21 外周壁
22 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を燃焼するために用いられる触媒材料であって、
銀とアルミナを構成要素とする触媒においてダンベル状のO−Ag−Oの構造を有することを特徴とする触媒材料。
【請求項2】
炭素を燃焼するために用いられる触媒材料であって、
層状アルミナに銀を分散してなることを特徴とする触媒材料。
【請求項3】
前記層状アルミナに銀を分散してなるとは、前記アルミナと前記銀とが層状構造をなすことを特徴とする請求項2に記載の触媒材料。
【請求項4】
前記層状構造とは、当該触媒材料の結晶内にて構成されたものであることを特徴とする請求項3に記載の触媒材料。
【請求項5】
当該触媒材料は金属銀あるいは銀イオンとアルミナとが交互に積層しており、その積層周期が10nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の触媒材料。
【請求項6】
当該触媒材料のラマンスペクトルを測定したとき、少なくとも200〜400cm-1、600〜800cm-1、1000〜1200cm-1の3つのピークを有するものであることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の触媒材料。
【請求項7】
当該触媒材料はデラフォサイト型AgAlO2であることを特徴とする請求項6に記載の触媒材料。
【請求項8】
Cu−Kαを用いたX線回折において少なくとも14.5°、29.2°、36.1°、37.2°、41.6°に回折ピークを有する3Rの対称性を有するX線回折スペクトルを有することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の触媒材料。
【請求項9】
前記アルミナがAg−ベータアルミナであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の触媒材料。
【請求項10】
セラミックスからなるハニカム構造体に担持させて内燃機関から排出される煤を燃焼するために用いられる触媒材料であって、
層状アルミナに銀を分散してなることを特徴とする触媒材料。
【請求項11】
前記層状アルミナは、デラフォサイト型AgAlO2であることを特徴とする請求項10に記載の触媒材料。
【請求項12】
銀のアルミニウムに対する元素比は0.25以上であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1つに記載の触媒材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2009−219970(P2009−219970A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65361(P2008−65361)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】