説明

触媒活性評価方法及びクラスター触媒

【課題】複数種の金属原子からなる多成分系クラスターの触媒活性を短時間で正確に評価する。
【解決手段】複数の特定元素を蒸発させて複数種のクラスターを生成させ、その質量スペクトルを測定して基スペクトルとし、複数種のクラスターに被吸着ガスを接触させた後の質量スペクトルを測定して測定スペクトルとし、基スペクトルのピーク面積強度に対する測定スペクトルのピーク面積強度の割合を各ピークについて算出して、割合が所定値以上であるピークに対応する特定クラスターの触媒活性を高いと評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数種の金属原子からなるクラスターの触媒活性を評価する方法と、その方法によって活性が高いと評価された排ガス浄化用触媒、燃料電池の電極触媒などのクラスター触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子固体電解質型燃料電池、ダイレクトメタノール型燃料電池などの燃料電池の電極触媒、あるいは自動車の排ガス浄化用触媒には、白金(Pt)が用いられている。例えば燃料電池の電極触媒にはPtのナノ粒子が用いられ、微細なPt粒子の表面に水素分子を吸着して、吸着点で分子から原子状態に解離させるので、低い温度でも反応が起きやすく室温でも動作可能である。
【0003】
高分子固体電解質型燃料電池やダイレクトメタノール形燃料電池の心臓部は電極であり、アノード極とカソード極からなる。この種の燃料電池では一般にカソード極の電極材料にPtを、アノード極の電極材料にPt−Ruを使用しているため、電池材料コストが高いという問題がある。また電池のオン・オフを繰り返すことによってPtが電解質層に溶出してしまい、その結果電池の起電力が低下してしまう「触媒の劣化」が大きな問題となっている。自動車の運転では車が走り出すときと止まるときにオン・オフを繰り返すことが必要なので、この問題の解決は燃料電池自動車が実現するためには重要な課題である。
【0004】
そこでPtの代替触媒が検討され、例えば特開2008−123810号公報には、Fe、Cu、Coなどの金属クラスターをフラーレンなどの炭素担体に担持した電極触媒が提案されている。触媒作用は触媒粒子の表面で進行することから、表面に出ている原子の割合が大きなクラスターは、触媒の基礎研究の対象として相応しいと考えられる。また複数種の金属原子からなる多成分系クラスターとすることで、Ptの欠点であるCO被毒による触媒能の低下が解消することも期待される。
【0005】
なお非特許文献1には、複数個のニオブ原子からなるクラスターと重水素(D2)との反応物を、飛行時間型質量分析にて分析することで、クラスターの原子数と重水素との反応性との関係を求めたことが記載されている。しかし、複数種の金属元素からなる多成分系クラスターと水素などのガスとの反応性に関する研究は、非特許文献2を除いて未だなされていない。
【特許文献1】特開2008−123810号公報
【非特許文献1】J.Chem.Phys.1988,88,3555-3560
【非特許文献2】Z.Phys.D.1991,19,357-359
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが触媒の候補となる複数の金属から多成分系クラスターを形成する場合、その種類と組成比との組み合わせは膨大な数となる。そのため、そのそれぞれについて触媒活性を評価するのは、現実的とは云えない。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、複数種の金属原子からなる多成分系クラスターの触媒活性を短時間で正確に評価することを目的とする。また本発明は、本発明の評価方法により触媒活性が高いと評価された多成分クラスター触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の触媒活性評価方法の特徴は、金属元素及び半金属元素から選ばれる複数種の特定元素の原子からなるクラスターの触媒活性を評価する方法であって、複数の特定元素を蒸発させて複数種のクラスターを生成させる工程と、複数種のクラスターの質量スペクトルを測定し基スペクトルとする工程と、複数種のクラスターに被吸着ガスを接触させた後の質量スペクトルを測定し測定スペクトルとする工程と、測定スペクトルと基スペクトルとを比較し被吸着ガスの接触前後における複数種のクラスターの量的変化を解析する解析工程と、量的変化が所定値以上であるクラスターの触媒活性を高いと評価し特定クラスターとして選別する選別工程と、からなることにある。
【0009】
解析工程では基スペクトル中のピーク面積強度に対する測定スペクトル中のピーク面積強度の割合を各ピークについてそれぞれ算出し、選別工程では割合が所定値以上であるクラスターを特定クラスターとして選別することができる。この場合、選別工程では各ピークに対応するクラスターにおける複数種の特定元素の組成と前記割合との関係をマップに作成して行うことが好ましい。
【0010】
また本発明のクラスター触媒の特徴は、本発明の触媒活性評価方法によって触媒活性が高いと評価されたクラスター触媒であって、金属元素及び半金属元素から選ばれる複数の特定元素の原子からなり、特定クラスターは複数の特定元素の組成が特定の範囲にあることにある。
【0011】
そして特定元素がNbとVであり、被吸着ガスとして水素を用いて本発明の触媒活性評価方法を行った場合には、特定クラスターを構成するNbの原子数nとVの原子数mとの合計が4〜6の範囲にあることが好ましく、5であることが望ましい。この特定クラスターからなるクラスター触媒は、水素の吸着特性に優れる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の触媒活性評価方法によれば、複数種の特定元素の各原子が種々の組成で含まれる複数種のクラスターのうち、被吸着ガスの吸着特性に優れた特定クラスタを容易かつ正確に選別することができる。すなわち複数種の特定元素の各原子が種々の組成で含まれる複数種のクラスターを、被吸着ガスの吸着特性の程度に応じて選別することができる。例えば被吸着ガスとして水素を用いれば、燃料電池の電極触媒として利用可能な特定クラスターを容易かつ正確に選別することができる。
【0013】
そして複数種の特定元素の組成が特定の範囲にある特定クラスターからなる本発明のクラスター触媒は、被吸着ガスの吸着特性に優れている。例えば特定元素がNbとVであり、被吸着ガスとして水素を用いた場合には、特定クラスターを構成するNbの原子数nとVの原子数mとの合計が5の範囲にあるクラスター触媒とすることで、水素の吸着特性に優れ、Ptに替わる燃料電池の電極触媒として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の触媒活性評価方法は、金属元素及び半金属元素から選ばれる複数種の特定元素の原子からなるクラスターの触媒活性を評価する方法である。ここで金属元素とは室温で自由電子をもつ元素をいい、半金属元素とは加熱時に自由電子が生成する元素をいう。金属元素としては周期表の1A族〜7A族、8族、1B〜3B族、ランタノイド、アクチノイドから選ばれる元素が挙げられ、半金属元素としては周期表の4B族、5B族から選ばれる元素が挙げられる。
【0015】
特定元素は、金属元素及び半金属元素から選ばれる二種以上の複数種からなる。その組み合わせは多岐にわたり、触媒の用途や目的に応じて種々選択することができる。
【0016】
本発明の触媒活性評価方法では、先ず複数種の特定元素を蒸発させて複数種のクラスターを生成させる。例えば金属Aと金属Bとをそれぞれ蒸発源とし、レーザー光を照射するなどして蒸発させる。あるいは金属Aと金属Bとの合金を蒸発源としてもよい。蒸発は真空中で行うことが望ましいが、不活性ガスの存在下で行うことも可能である。また複数の蒸発源から同時に蒸発させることが望ましいが、先ず金属Aを蒸発させ次いで金属Bを蒸発させることもできる。
【0017】
蒸発した複数種の特定元素を冷却することで、各原子どうしが種々の比率で凝集した複数種のクラスターが生成するので、複数種のクラスターの質量スペクトルを測定し、基スペクトルとする。複数種のクラスターの質量スペクトルを測定するには、生成したクラスターを加速電極で加速して質量分析計へ送ることで測定することができる。質量分析計としては、飛行時間型質量分析計が用いられる。
【0018】
質量分析計では、加速されたクラスターをリフレクトロン電極で折り返してMCP(Micro Channel Plate)で検出することが望ましい。リフレクトロンを用いることで、質量分解能(m/Δm)を1000程度に高めることができ、質量差が小さなクラスターも分離して検出することが可能となる。
【0019】
次いで本発明では、複数種のクラスターに被吸着ガスを接触させた後の質量スペクトルを測定し測定スペクトルとする。被吸着ガスは、触媒の用途に応じて決定される。例えば燃料電池の電極触媒を評価する場合には水素(H2)が用いられ、NOx浄化触媒を評価する場合にはNO2などが用いられる。またHC吸着浄化触媒を評価する場合には、メタン、エタンなどの炭化水素を用いることができる。
【0020】
複数種のクラスターに被吸着ガスを接触させるには、蒸発源から複数種の特定元素を蒸発させて複数種のクラスターを生成した後に、系内へ被吸着ガスを供給する。すると被吸着ガスを吸着可能なクラスターは、被吸着ガスが吸着することで質量が増加するため、その質量スペクトルでは質量大側にピークが生成し、元のピークは縮小あるいは消滅して基スペクトルと異なるものとなるので、これを測定スペクトルとする。なお質量スペクトルの測定は、上記と同様に行うことができる。
【0021】
そして本発明の触媒活性評価方法では、測定スペクトルと基スペクトルとを比較し、被吸着ガスの接触前後における複数種のクラスターの量的変化を解析する解析工程を行う。この解析工程は、複数種のクラスターに対応する基スペクトル中のピーク全てについて行うことが望ましい。
【0022】
例えば、解析工程では、基スペクトル中のピーク面積強度に対する測定スペクトル中のピーク面積強度の割合を各ピークについて算出する。基スペクトルの中で、あるピークに対応する質量をもつクラスターに被吸着ガスが吸着すると、その分質量が増大するため、測定スペクトルではピークの位置が質量大側へずれ、基スペクトルのピーク位置に対応する位置のピーク面積強度は減少する。そのピーク面積強度の減少程度は、被吸着ガスの吸着量が多いほど大きくなるので、割合が所定値以上であるピークに対応する特定クラスターを特定クラスターとして選別する。
【0023】
すなわち特定クラスターは、被吸着ガスを多く吸着できるクラスターであるので、触媒活性が高いと評価することができる。
【0024】
このようにして触媒活性が高いと評価された特定クラスターは、複数種の特定元素の原子数比が特定の範囲にあることがわかっている。例えばNbとVを特定元素とする二元系のクラスターはNbnmと表されるが、本発明の触媒活性評価方法で触媒活性が特に高いと評価される特定クラスターは、nとmの和が4〜6の範囲にある場合に水素をよく吸着することが明らかとなり、n+m=5のクラスターが特に水素吸着性が高いことが明らかとなった。
【0025】
したがってNbnmからなりn+m=4〜6の組成の特定クラスターを燃料電池の電極触媒として用いれば、水素を吸着し易く、従来のPtの代替として用いることができる可能性がある。これにより安価な触媒となるとともに、劣化やCO被毒などの問題も解消する可能性がある。
【0026】
特定クラスターを触媒として利用するには、本発明の触媒活性評価方法で生成した複数種のクラスターから特定クラスターを分離して触媒化することができる。あるいは特定クラスターを構成する複数種の特定元素の可溶性塩を特定元素の組成が特定の範囲になるように混合し、それをポリビニルピロリドンとエタノールと純水からなる溶液に溶解し、還流してコロイド溶液を調製した後、活性アルミナなどの担体粉末を混合し、十分に吸水させた後に溶媒を除去して焼成し有機成分を除去することで、触媒粉末を調製することができる。また、複数種の特定元素のアルコキシドを特定元素の組成が特定の範囲になるように混合し、それを担体上で加水分解した後に焼成して触媒粉末を調製してもよい。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0028】
(実施例1)
図1に、本実施例で用いた実験装置の概要を示す。この実験装置は、クラスター生成部100と、飛行時間型質量分析部(TOF-MS)200とからなる。
【0029】
クラスター生成部100は、有底筒状のメインチャンバー1と、メインチャンバー1内に配置された成長管2とからなる。成長管2の上流側には、蒸発源である金属Nbからなる直径5mmの棒状のNbロッド20と、金属Vからなる直径5mmの棒状のVロッド21とが回転可能に保持されている。また成長管2には、Heガスが供給されるHe供給口22と、H2ガスが供給されるH2供給口23が形成されている。He供給口22はNbロッド20及びVロッド21の上流側で成長管2の軸方向にHeを供給可能に形成され、H2供給口23はNbロッド20及びVロッド21の下流側で成長管2の軸方向に対して垂直方向にH2を供給可能に形成されている。
【0030】
またメインチャンバー1には、Nbロッド20及びVロッド21にそれぞれ対向する位置に一対の窓部10、11が形成され、Nd:YAGレーザーが窓部10、11を介してNbロッド20及びVロッド21にそれぞれ照射可能に配置されている。
【0031】
成長管2の下流側には、スキマー24とイオンレンズ25がそれぞれ配置され、その下流側には、メインチャンバー1からその軸方向に対して垂直方向に分岐してメインチャンバー1と連通する飛行管12を有している。飛行管12の内部には、加速電極26とポテンシャルスイッチ27が列設され、ポテンシャルスイッチ27のさらに下流側には偏向板28が配置されている。
【0032】
飛行時間型質量分析部200は、飛行管12に連通する副チャンバー3を備える。副チャンバー3の内部には、偏向板28の下流側に偏向電極30が配置され、その下流側にはリフレクトロン31が配置されている。そしてリフレクトロン31に対向する部位には、MCP(Micro Channel Plate)32が配置されている。
【0033】
以下、上記実験装置を用いてNbとVからなる二成分系クラスターを生成し、質量分析により各クラスターの組成を同定した。先ず図示しないターボ分子ポンプとロータリーポンプを用い、メインチャンバー1、飛行管12、副チャンバー3の排気を行った。装置内の真空度は、メインチャンバー1内で1.3×10-1Pa〜1.3×10-3Paであり、飛行管12と副チャンバー3の内部では1.3×10-3Pa〜1.3×10-4Paである。
【0034】
次いでNd:YAGレーザーの第二高調波(532nm、10mJ/pulse)を10Hzのパルスで窓部10、11を介してNbロッド20及びVロッド21に照射し、Nb及びVを蒸発させるとともに、He供給口22からHeをキャリアガスとして0.9MPaの背圧で供給し、蒸気を冷却・凝集させることによってクラスターを生成した。
【0035】
生成したクラスター(正イオン)は、スキマー24とイオンレンズ25を通過してクラスタービームとなり、加速電極26によって加速されながら飛行管12に入り、ポテンシャルスイッチ27によって電位が0Vまで引き上げられた後、偏向板28で偏向されて飛行時間型質量分析部200に入る。
【0036】
飛行時間型質量分析部200では、クラスターがMCP32に到達するまでの時間を検出する。すなわち、クラスターが受け取るエネルギーは電荷量が等しければ一定であるため、質量電荷比が大きいものほど飛行速度が遅くなり、MCP32に到達するまで時間がかかる。この到達時間差を検出することで質量を割り出すことができる。
【0037】
クラスタービームは偏向電極30を通過する際に流れ方向が曲げられ、リフレクトロン31で折り返されてMCP32に到達する。MCP32で観測された基スペクトルを図2の上段(a)に示す。NbとVからなる正イオンクラスターは、m/z<1200程度まで観測できた。同図からわかるように、Nb-V二成分クラスターの組成をNbnm=(n,m)と表記すると、n+m≦10の組成において数多くの組成のクラスターが観測された。
【0038】
次に、さらにH2供給口23から水素ガスを300KPaの圧力で供給したこと以外は上記と同様に行い、MCP32で観測された測定スペクトルを図2の下段(b)に示す。同図からわかるように、測定スペクトルには基スペクトルとは異なるピークが存在し、基スペクトルには存在しているが測定スペクトルでは消滅したピークもある。基スペクトルとは異なるピークは、Nbnmクラスターに水素が吸着したものであり、Nbnmk=(n,m,k)と表記している。
【0039】
なお水素原子数で「2k」とあるのは、水素原子が2の倍数で複数吸着していることを示す。また水素原子数で「2」とあるのは、水素原子が2個のみ吸着していることを示す。すなわちクラスターがH2ガスと接触したことで水素を吸着し、それによって基スペクトルに存在していたピーク面積強度が減少するとともに質量大側に新たなピークが生成しているので、ピーク面積強度の変化度合いを水素の吸着性の指標とすることができる。
【0040】
そこで基スペクトルに存在する各ピークについて、基スペクトルにおけるピーク面積強度に対する測定スペクトルにおけるピーク面積強度の割合を算出し、そのピークに対応するNbnmクラスターのnとmの値について整理した結果を図3に示す。図3では、横軸にNbの原子数(n)をとり、縦軸にVの原子数(m)をとり、算出された割合を表1に示すように1〜13の数値に換算して示している。数値が大きいほど割合が小さく(ピークの変化度合いが大きく)水素の吸着特性に優れていることが示されている。
【0041】
【表1】

【0042】
図3から、n+mの値が4〜6の範囲にある特定クラスターが水素の吸着特性に優れていることがわかり、破線で示したn+m=5の範囲にある特定クラスターが特に水素の吸着性が高いことが明らかである。したがってn+m=5の範囲にあるNbnmクラスターを燃料電池の電極触媒に用いれば、微細なクラスターの表面に水素分子を吸着して、吸着点で分子から原子状態に解離させる可能性があるので、低い温度でも反応が起きやすく室温でも動作可能であり、Ptの代替触媒としてきわめて有用である。
【0043】
(実施例2)
Nbロッドに代えて金属TaからなるTaロッドを用いたこと以外は実施例1と同様にして基スペクトルと測定スペクトルを測定し、実施例1と同様にして基スペクトルにおけるピーク面積強度に対する測定スペクトルにおけるピーク面積強度の割合を算出し、そのピークに対応するTanmクラスターのnとmの値について実施例1と同様に整理した。結果を図4に示す。
【0044】
図4から、n+mの値が5の範囲にある特定クラスターが水素の吸着特性に優れていることが明らかである。したがってn+m=5の範囲にあるTanmクラスターを燃料電池の電極触媒に用いれば、微細なクラスターの表面に水素分子を吸着して、吸着点で分子から原子状態に解離させるので、低い温度でも反応が起きやすく室温でも動作可能であり、Ptの代替触媒としてきわめて有用である。
【0045】
(実施例3)
Vロッドに代えて金属TaからなるTaロッドを用いたこと以外は実施例1と同様にして基スペクトルと測定スペクトルを測定し、実施例1と同様にして基スペクトルにおけるピーク面積強度に対する測定スペクトルにおけるピーク面積強度の割合を算出し、そのピークに対応するTanNbmクラスターのnとmの値について実施例1と同様に整理した。結果を図5に示す。
【0046】
図5から、n+mの値が4の範囲にある特定クラスターが水素の吸着特性に優れていることが明らかである。したがってn+m=4の範囲にあるTanNbmクラスターを燃料電池の電極触媒に用いれば、微細なクラスターの表面に水素分子を吸着して、吸着点で分子から原子状態に解離させるので、低い温度でも反応が起きやすく室温でも動作可能であり、Ptの代替触媒としてきわめて有用である。
【0047】
なお実施例1〜3では、周期表第5族元素から二元素を選択して二成分系クラスターを形成したが、いずれも原子数の合計が4〜6の範囲にある特定クラスターが水素の吸着特性に優れている。
【0048】
(実施例4)
Vロッドに代えて金属CoからなるCoロッドを用いたこと以外は実施例1と同様にして、基スペクトルと測定スペクトルを測定した。結果を図6に示す。そして実施例1と同様にして基スペクトルにおけるピーク面積強度に対する測定スペクトルにおけるピーク面積強度の割合を算出し、そのピークに対応するNbnComクラスターのnとmの値について実施例1と同様に整理した。結果を図7に示す。なおCo5とNb3Oの質量が等しいので、Co原子数が5の場合を図7から除外している。
【0049】
図7から、Nb原子数(n)値が3以上でCo原子数(m)値が2以下の範囲にある特定クラスターが水素の吸着特性に優れる傾向が認められる。これは実施例1〜3の結果とは傾向を異にし、異族元素どうしのクラスターは同族元素どうしのクラスターとは異なる特性を示すようである。しかし特定クラスターは、複数種の特定元素の組成が特定の範囲にあることには変わりがない。
【0050】
(実施例5)
Vロッドに代えて金属AuからなるAuロッドを用いたこと以外は実施例1と同様にして基スペクトルと測定スペクトルを測定し、実施例1と同様にして基スペクトルにおけるピーク面積強度に対する測定スペクトルにおけるピーク面積強度の割合を算出し、そのピークに対応するAunNbmクラスターのnとmの値について実施例1と同様に整理した。結果を図8に示す。
【0051】
図8から、Au原子数(n)値が5以下でNb原子数(m)値が3〜5の範囲にある特定クラスターが水素の吸着特性に優れる傾向が認められ、Au原子数(n)値が2〜4でNb原子数(m)値が3の範囲にある特定クラスターが特に好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の触媒活性評価方法は、触媒特性を示すと考えられる複数の金属元素から、最適な組み合わせを容易に選別できる。したがって資源の枯渇化が懸念されている高価な貴金属触媒に代わる触媒を素早く発見することができ、触媒の分野における進歩に大きく貢献するものである。
【0053】
また本発明のクラスター触媒は、燃料電池の電極触媒としてきわめて有用であるが、水素吸蔵触媒として排ガス浄化用触媒の分野にも用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施例で用いた実験装置の説明図である。
【図2】本発明の一実施例で測定された基スペクトルと測定スペクトルを示す質量スペクトルである。
【図3】Nbnmクラスターにおける組成と水素吸着能との関係を示すマップ図である。
【図4】Tanmクラスターにおける組成と水素吸着能との関係を示すマップ図である。
【図5】TanNbmクラスターにおける組成と水素吸着能との関係を示すマップ図である。
【図6】本発明の第4の実施例で測定された基スペクトルと測定スペクトルを示す質量スペクトルである。
【図7】NbnComクラスターにおける組成と水素吸着能との関係を示すマップ図である。
【図8】AunNbmクラスターにおける組成と水素吸着能との関係を示すマップ図である。
【符号の説明】
【0055】
1:メインチャンバー 2:成長管
20:Nbロッド(蒸発源) 21:Vロッド(蒸発源)
27:ポテンシャルスイッチ 31:リフレクトロン
32:MCP 100:クラスター生成部
200:飛行時間型質量分析部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素及び半金属元素から選ばれる複数種の特定元素の原子からなるクラスターの触媒活性を評価する方法であって、
複数種の該特定元素の金属を蒸発させて複数種のクラスターを生成させる工程と、
複数種の該クラスターの質量スペクトルを測定し基スペクトルとする工程と、
複数種の該クラスターに被吸着ガスを接触させた後の質量スペクトルを測定し測定スペクトルとする工程と、
該測定スペクトルと該基スペクトルとを比較し該被吸着ガスの接触前後における複数種の該クラスターの量的変化を解析する解析工程と、
該量的変化が所定値以上であるクラスターの触媒活性を高いと評価し特定クラスターとして選別する選別工程と、からなることを特徴とする触媒活性評価方法。
【請求項2】
前記解析工程では前記基スペクトル中のピーク面積強度に対する前記測定スペクトル中のピーク面積強度の割合を各ピークについてそれぞれ算出し、前記選別工程では該割合が所定値以上であるクラスターを前記特定クラスターとして選別する請求項1に記載の触媒活性評価方法。
【請求項3】
前記選別工程では、各ピークに対応するクラスターにおける複数種の前記特定元素の組成と前記割合との関係をマップに作成して行う請求項2に記載の触媒活性評価方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒活性評価方法によって触媒活性が高いと評価されたクラスター触媒であって、
金属元素及び半金属元素から選ばれる複数種の特定元素の原子からなり、前記特定クラスターは複数種の該特定元素の組成が特定の範囲にあることを特徴とするクラスター触媒。
【請求項5】
前記特定元素はNbとVであり、前記特定クラスターを構成するNbの原子数nとVの原子数mとの合計が4〜6の範囲にあり水素の吸着特性に優れる請求項4に記載のクラスター触媒。
【請求項6】
前記特定クラスターを構成するNbの原子数nとVの原子数mとの合計が5である請求項5に記載のクラスター触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−32438(P2010−32438A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196854(P2008−196854)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(598014814)株式会社コンポン研究所 (24)
【Fターム(参考)】