説明

触媒活性評価装置及びそれを使用した触媒活性評価方法

【課題】触媒の活性を評価する際に実反応を行わずに、発熱反応型の反応に使用する触媒の性能を、迅速かつ簡易に評価、比較することを可能とする触媒活性評価装置、およびそれを使用した触媒活性評価方法を提供する。
【解決手段】発熱反応型の触媒の活性を簡易評価するための触媒活性評価装置であって、外管と触媒を収容する反応管(内管)との二重管で構成されてなり、触媒の温度変化を測定する熱電対とデータロガーが備えられていることを特徴とする触媒活性評価装置。およびそれを使用した発熱反応型の触媒の活性を簡易評価する方法であって、触媒の触媒作用により反応する溶媒を該触媒に含有させ、その際の該触媒の温度変化を測定することを特徴とする触媒活性評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒活性を簡易に評価することが可能な触媒活性評価装置及びそれを使用した触媒活性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の化学反応において触媒が使用されているが、最適触媒を見つけることは容易な事ではない。従来の触媒探索は試行錯誤に頼るところが大きく、実際に触媒反応を行っていたのでは評価できる触媒の数が限られるため、多大な時間と労力を要してきた。また、複数の触媒を完全に同一な条件にて簡易に評価することができなかった。
【0003】
例えば、PCB分解に使用する触媒は、高価であるため、再生して使用するのが経済的であるが、最適な再生方法を見出すためには再生した触媒を都度PCB分解反応に供して触媒活性を評価しなければならず、再生方法を見出すのも容易ではなかった。しかも、多孔質の触媒であるため、細孔内に入り込んだ副生物や異物の除去も容易ではなく、細孔内を元通りに復活させることが触媒再生における重要課題と考えられていた。この多孔質の触媒作用によるPCB分解反応は、反応溶媒が触媒に吸着することにより発熱する吸着熱からくる、発熱反応である。
【0004】
反応熱に着目した触媒活性の評価方法として、エチルベンゼンを脱水素してスチレンを合成するのに用いられる触媒を反応管に充填して触媒層を形成し、この反応管を電気炉に収容して、反応管とヒーターブロックの間に断熱材を入れ、反応管側の温度とヒーターブロック側の温度の差を0としつつ、ヒーターブロックを加熱しながら触媒の性能を評価する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この反応装置は断熱反応型の実プラントでの触媒性能を予測する方法として有効ではあるが、利用範囲は吸熱反応に限られる。
【特許文献1】特開2004−286552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、発熱反応型の反応に使用する触媒の性能を、迅速かつ簡易に評価、比較することを可能とする触媒活性評価装置、およびそれを使用した触媒活性評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、発熱反応型の反応に使用する触媒に、該触媒の触媒作用により反応する溶媒を触媒に添加するとその吸着熱により触媒温度が上昇することに着目し、そのときの発生熱を温度変化として捕え、測定することにより迅速に、かつ簡便に触媒活性を評価できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)発熱反応型の触媒の活性を簡易評価するための触媒活性評価装置であって、外管と触媒を収容する反応管(内管)との二重管で構成されてなり、触媒の温度変化を測定する熱電対とデータロガーが備えられていることを特徴とする触媒活性評価装置。
【0008】
(2)発熱反応型の触媒の活性を簡易評価する方法であって、触媒の触媒作用により反応する溶媒を該触媒に含有させ、その際の該触媒の温度変化を測定することを特徴とする触媒活性評価方法。
(3)触媒が多孔質触媒である前記(2)に記載の触媒活性評価方法。
(4)触媒作用により反応する溶媒の沸点が60〜200℃である前記(2)または(3)に記載の触媒活性評価方法。
(5)溶媒がアルコール類である前記(4)に記載の触媒活性評価方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の触媒活性評価装置および方法を採用することにより、同一条件で迅速かつ簡便に、対象触媒の比較、活性の評価を行うことが可能となる。触媒はごく少量で評価可能であり、多くの触媒を試作し評価する場合でも、触媒の試作量は少なく済むため、省力化、コスト低減が期待できる。
【0010】
また、温度変化量の測定結果は、触媒比表面積と相関が見られたことより、比表面積の指標として活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の触媒活性評価装置を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明に係る触媒活性評価装置の好ましい一例を示す概略説明図である。触媒活性評価装置は、外管1と、触媒を収容する反応管(内管)2との二重管で構成されてなり、触媒の温度変化を測定する熱電対3とデータロガー4が備えられている。データロガー4をパーソナルコンピュータ5に接続すると、データの収集測定と測定データの比較が容易である。データロガーとしては、市販のデジタル・マルチメータ(例えば、岩通計測(株))などを使用すると簡易に測定でき、PCレコーダーでもよい。
【0012】
外管および反応管は、厚さが1mm程度のガラス、耐熱性プラスチックなど透明な材料で構成し、外側から反応管内の触媒を観察できるようにするのがよい。反応管だけで構成すると外熱の影響を受けるおそれがあるが、外管と反応管との二重管で構成することにより、反応管に対する外熱の影響を排除することができる。
【0013】
次に、本発明に係る触媒活性評価装置を使用した触媒評価方法を説明する。
先ず、所定量の発熱反応型の触媒(試料)を、反応管2の中に入れ静置する。次いで、静置した触媒のほぼ真中に熱電対を挿入し、温度が安定するのを待つ。温度が安定したら、該触媒の触媒作用により反応する溶媒を、マイクロピペットで所定量を量り取り、反応管内の触媒に注入する。溶媒を注入することによる温度上昇変化は、熱電対により測定しデータロガーにて収録する。触媒表面状態が試料によって多少ばらつくおそれがあるため、温度変化の測定は、1試料につき、複数回実施すると精度が向上する。測定は常温下で行えばよいが、必要に応じて恒温槽などで25℃程度に調整して測定することにより、温度変化が分かり易くなる。温度上昇がなくなった時点で、測定を終了する。
【0014】
触媒(試料)は、発熱反応型の多孔質触媒に適用すると触媒活性の比較、評価の精度が高い。かかる触媒は特に限定されるものではないが、好ましい例として、ゼオライト等の複合金属酸化物;鉄、銀、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム等の金属を担持した金属担持炭素化合物(例えば、Pd/C、Ru/C、Pt/C);鉄、銀、白金、ルテニウム、パラジウム、ロジウム等の金属を担持したSiO、TiO、ZrO、Ai、ZnO、Cr、MgO等の金属担持酸化物あるいは金属担持複合金属酸化物等を挙げることができる。
【0015】
触媒(試料)の形態は、微粉末、粗粒子、球状や円柱状などの成形品、ペレットなど種々の形態であってよいが、比較対象となる触媒(試料)は同じ形態でできるだけ粒径が近いものを使用することが好ましい。
【0016】
上記触媒の触媒作用により反応する溶媒としては、アルコール類、例えば、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、s−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノール、3−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール等の脂肪族アルコール、シクロプロピルアルコール、シクロブチルアルコール、シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、シクロヘプチルアルコール、シクロオクチルアルコール等の脂環式アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、デカリンジオール等の多価アルコール等が挙げられる。用いられる溶媒の沸点は60〜200℃のものが好ましく、60〜100℃のものが特に好ましい。これらの反応は殆んどが発熱反応であるが、反応の前後において熱収支があるものであれば、本発明において用いることができる。
【0017】
触媒(試料)に溶媒を含有させるには、例えば反応管の中に入れた溶媒に触媒を浸漬したり、同様に触媒に溶媒を含浸させた後混合することも可能であるが、反応管の中に静置して温度が安定した触媒に溶媒を添加して静置する方が、触媒が空気に接触した際の発熱量の影響を排除して触媒の細孔内に入り込んだ溶媒の吸着熱を正確に測定することができる。このようにして、溶媒添加前の触媒温度と、溶媒添加後の触媒温度との差を、温度変化量として求めることができる。
【0018】
測定は通常、常温(室温)で行うため、溶媒の沸点が低すぎると反応熱によって溶媒が蒸発して触媒活性を正確に測定できないことがあり、一方溶媒の沸点が高すぎると溶媒の反応が抑制されて触媒活性を正確に測定できないことがある。
【0019】
このようにして測定された温度上昇試験の結果は、触媒細孔内への吸着熱が大きく影響を与えていると考えられるため、比表面積や細孔容積が大きい程、温度変化量も大きくなる。すなわち、比表面積や細孔容積が大きい触媒は温度変化量が大きく、逆に比表面積や細孔容積が小さい触媒は温度変化量が小さい。したがって、温度変化量を触媒活性の強さの指標とすることができる。例えば、PCB分解反応に使用した触媒を再生した再生触媒としては、本発明の装置および方法を用いて測定した温度変化量すなわち温度上昇が高く、できるだけ未使用触媒の測定結果に近い触媒を選択すればよい。
【実施例】
【0020】
次に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
図1に示した触媒活性評価装置を作製した。外管1は内径38mmφのガラス管、反応管(内管)2は内径13mmφの10ml容ガラス管を使用した。データロガー4は、NR−600システム、KEYENCE製を使用した。
【0022】
触媒として、PCB分解反応用のPd担持炭素化合物を使用した。溶媒は、イソプロピルアルコール(IPA)を使用した。
【0023】
反応管2の中に、触媒(試料)6を1gを入れ、静置した。触媒に熱電対3を挿入し温度が安定するのを待った。温度が安定したら、イソプロピルアルコール(溶媒)7をマイクロピペットで5ml量り、反応管内の触媒に注入した。イソプロピルアルコール注入による温度上昇変化は熱電対によりデータロガー4(サンプリング速度100msec)にて収録し、接続したパーソナルコンピュータ5にてデータ処理した。
温度変化の測定は1試料につき5回実施し、5回の平均値をとった。
【0024】
上記の方法により、未使用触媒、PCB分解反応使用後の触媒、PCB分解反応使用後の触媒を再生した再生触媒A〜Fの評価を行った。その結果を、触媒性状と併せて表1に示した。各触媒における、測定時間と温度変化量(ΔT)との関係を図2に、温度変化量と比表面積との関係を図3に示した。
【0025】
【表1】

【0026】
表1および図2の結果から、未使用触媒は最も活性が高く、次いで再生触媒Fの活性が高く、使用後触媒は活性が極めて低いことが分かる。
【0027】
また、比表面積および細孔容積分析の結果から、図3にも示したように比表面積が大きい程温度変化量も大きくなり、温度変化量と比表面積との間に相関関係があることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る触媒活性評価装置およびそれを使用した触媒評価方法によれば、極めて迅速に、簡易な操作で触媒の活性を評価することができるため、各種の発熱反応における触媒の評価、探索に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の触媒活性評価装置の概略説明図である。
【図2】本発明の触媒活性評価装置を使用した触媒の温度変化量を示すグラフである。
【図3】本発明の触媒活性評価装置を使用した触媒の温度変化量と比表面積との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 外管
2 反応管(内管)
3 熱電対
4 データロガー
5 パ−ソナルコンピュータ
6 触媒(試料)
7 溶媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱反応型の触媒の活性を簡易評価するための触媒活性評価装置であって、外管と触媒を収容する反応管(内管)との二重管で構成されてなり、触媒の温度変化を測定する熱電対とデータロガーが備えられていることを特徴とする触媒活性評価装置。
【請求項2】
発熱反応型の触媒の活性を簡易評価する方法であって、触媒の触媒作用により反応する溶媒を該触媒に含有させ、その際の該触媒の温度変化を測定することを特徴とする触媒活性評価方法。
【請求項3】
触媒が多孔質触媒である請求項2に記載の触媒活性評価方法。
【請求項4】
触媒作用により反応する溶媒の沸点が60〜200℃である請求項2または3に記載の触媒活性評価方法。
【請求項5】
溶媒がアルコール類である請求項4に記載の触媒活性評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−210492(P2009−210492A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−55671(P2008−55671)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】