説明

触媒組成物および不斉水素化のための方法

本発明は、不斉水素化反応を触媒するのに有効であり、酸活性化を必要とする触媒;触媒を活性化するのに有効な酸性物質;および、前記酸性物質の存在で、アセタール、ケタール、ヘミアセタールおよび/またはヘミケタールを形成しうる緩衝化合物または組成物を含む触媒組成物に係る。本発明は、また、このような触媒組成物を使用する不斉水素化法に;および、所望される不斉水素化生成物のエナンチオマー過剰を改善するためのこのような触媒組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不斉水素化触媒作用のための方法に関し、さらに詳しくは、酸活性化された水素化触媒を使用するこのような方法;および、このような方法に使用される触媒組成物に関する。
【0002】
不斉水素化反応は、広範な種々の化学プロセス、特に、医薬品中間体の製造にて使用されている。1つの特に有意な商業分野は、現在、いわゆるスタチンドラッグの製造にてであり、これらは、体内のコレステロールおよび/またはトリグリセリドレベルを低下させるために使用される。現在のスタチンドラッグの例としては、アトルバスタチン(LipitorTM)、フラバスタチン(LescolTM)およびロスバスタチン(CrestorTM)を挙げることができる。
【0003】
WO-A-98/04543は、(S)-3,4-O-イソプロピリジン-3,4-ジヒドロキシブタン酸のエステル;(S)-3,4-ジヒドロキシブタン酸の環状オルトエステル;および、炭水化物基質からの(S)-3-ヒドロキシブチロラクトンの製造および単離のためのワンポットプロセスが開示されている。
【0004】
US特許No.5,292,930は、グルコース源から3,4-ジヒドロキシブタン酸を製造するための方法を開示している。
有用な医薬品中間体は、β-ケトエステルのエナンチオ選択的な水素化によって形成することができる。水素化は、ハロゲン含有BINAP-Ru(II)錯体によって触媒される(Tetrahedron Letters,Vol.32,No.33,pp4163-4166,1991)。BINAPリガンド(2,2’-ビス(ジフェニルホスフィノ)-1,1’-ビナフチル)は、式(1):
【0005】
【化1】

【0006】
を有する:
US特許No.6162951は、不斉水素化反応を触媒するために使用するのに適したBINAP触媒の製造方法を開示している。エチル4-クロロアセトアセテートのエナンチオ選択的な水素化におけるRu(OCOCH3)2[(S)-BINAP]の使用は、Kitamura et alによりTetrahedron Letters,Vol.29,No.13,pp1555-1556,1988)にて報告されている。Kitamura et al.は、反応(スキームA)が5分以内に進行して、(R)-アルコールが97%エナンチオマー過剰で生ずることを報告している。同反応は、PavlovによりRussian Chemical Bulletin,Vol.49,No.4,April 2000,pp728-731にて調査検討されている。Pavlov et al.は、溶剤の性質;反応温度;圧力;酸の添加;および、反応生成物の収率およびエナンチオリッチに及ぼす試薬の比の効果を検討している。
【0007】
1,3-ジカルボニルシステムのルテニウム-ビアリールビスホスフィン触媒による還元に関する実質的な報告は、Ager and Lanemanによりなされ、Tetrahedron,Asymmetry,Vol.8,No.20,pp3327-3355,1997に報告されている。
【0008】
EP-A-0295109は、光学的に活性なアルコールを製造するための方法であって、触媒としてルテニウム光学活性ホスフィン錯体の存在で、β-ケト酸誘導体を不斉水素化する工程を含む方法を教示している。生ずるアルコールは、高い光学純度を有すると言われている。不斉水素化反応およびそのための触媒のその他の例は、米国特許Nos.5198561,4739085,4962242,5198562,4691037,4954644および4994590に開示されている。
【0009】
本発明者らの同時継続UK出願No.0211716.6は、β-ケトエステルのエナンチオ選択的な接触水素化のための連続法を開示している。本発明者らの同時継続UK出願No.0211715.8は、生ずる水素添加された物質のシアノ化のための連続法を開示している。
【0010】
概して、不斉水素化反応に関連し、かつ、特にβ-ケトエステルの不斉水素化に関連する1つの問題は、所望される不斉水素化生成物のその所望されないエナンチオマーに優るエナンチオマー過剰を最大とすることである。本発明の目的は、このような改良を提供することである。
【発明の開示】
【0011】
本発明に従えば、不斉水素化反応を触媒するのに有効であり、酸活性化を必要とする触媒;触媒を活性化するのに有効な酸性物質;および、前記酸性物質の存在で、アセタール、ケタール、ヘミアセタールおよび/またはヘミケタールを形成しうる緩衝化合物または組成物を含む触媒組成物が提供される。
【0012】
エナンチオ選択的な水素化に有効な多くの触媒は、酸活性化を必要とする。このような触媒としては、BINAPまたはその他のビスアリールビスホスフィン基体のリガンド触媒、例えば、[NH2Et2][RuCl{p-MeO-BINAP}2{μ-Cl}3]-、[NH2Et2]RuCl(p-MeO-BINAP)2(μ-Cl)3]、[RuI(p-シメン)(p-MeO-BINAP)]、[RuI(p-シメン)(p-Tol-BINAP]I、[RuI(p-シメン)(m-Tol-BINAP]I、[RuI(p-シメン)(3,5-(t-Bu)2-BINAP)]I、[RuI(p-シメン)(p-Cl-BINAP)]I、[RuI(p-シメン)(p-F-BINAP)]I、[RuI(p-シメン)(3,5-(Me)2-BINAP]I、[RuI(p-シメン)(H8-BINAP)]I、[RuI(p-シメン)(BIMOP)]I、[RuI(p-シメン)(FUMOP]I、[RuI(p-シメン)(BIFUP]I、[RuI(p-シメン)(BIPHEM)]I、[RuI(p-シメン)(MeOl-BIPHEP)]I、[RuCl2(テトラMe-BITIANP)(DMF)n]、[RuCl2(BITLANP)(DMF)n]、[RuBr2(BIPHEMP]、[RuBr2(MeO-BIPHEMP)]、[RuCl2(BINAP)]2(MeCN)、[RuCl2(p-TolBINAP)]2(MeCN)、[RuCl2(MeO-BIPHEP)]2(MeCN)、[RuCl2(BIPHEP)]2(MeCN)、[RuCl2(BIPHEMP)]2もしくは[Ru(3-2-Me-アリル)2(MeO-BIPHEP]またはこれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。
【0013】
しかし、不斉水素化における酸性条件は、所望される生成物のエナンチマー過剰を低下させる傾向がある。これについての可能な機構の説明は、添付の図面を参考とすることによって提供される:
図1を参照すると、基質上のβ-ケト基は、逐次、水素化され、第1の水素化工程は、BINAP触媒に配位された水素原子によって、または、酸平衡が達成されるので、酸溶液からの水素イオンによって達成されることが理解されるであろう。図2にて明らかに示されるように、第1の水素化の原点(origin)は、エナンチオ選択性に重要なインパクトを有する。第1の水素化が配位された水素によって達成される場合、1個のみの配位水素が残るので、エナンチオマー過剰が高くて、第2の水素化を達成する。第1の水素化が酸溶液中の水素イオンによって達成される場合、側面から攻撃することのできる2個の配位水素が残るので、エナンチオマー過剰は、低く、結果として、異なるエナンチオマーを生ずる。
【0014】
所望される生成物のエナンチオマー過剰は、反応混合物に緩衝化合物または組成物を均質配合することによって有意に改善される。これは、(図1にて示すように)、第1の水素化が配位された水素、好ましくは、酸溶液からの水素イオンによって達成されるように、前述の平衡を推進する効果を有する。
【0015】
本発明に従えば、また、水素化可能な基質のエナンチオ選択的な接触水素化のための方法であって、基質を水素と基質をエナンチオ選択的に水素化するのに有効な触媒とに接触させる工程を含み、その触媒が、基質のエナンチオ選択的水素化に有効な条件下、酸性物質の存在で酸活性化;および、酸性物質の存在で、アセタール、ケタール、ヘミアセタールおよび/またはヘミケタールを形成しうる緩衝化合物または組成物を必要とする方法も提供される。
【0016】
本発明に従い使用される緩衝化合物および組成物は、1つ以上のアルデヒドおよびケトンと1つ以上のアルコールとの混合物を含むのが適している。例としては、1つ以上のホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n-ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド、p-トルアルデヒド、サリチルアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、α-メチルバレルアルデヒド、β-メチルバレルアルデヒド、イソカプロアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルn-プロピルケトン、エチルケトン、メチルイソプロピルケトン、ベンジルメチルケトン、アセトフェノン、n-ブチロフェノンと、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコールおよびt-ブチルアルコールが挙げられるが、その他の組成物は、当業者であれば明らかであろう。1つの特に好ましい緩衝組成物は、アセトン/メタノールである。
【0017】
図3を参照すると、アセトン/メタノール混合物の緩衝活性についての可能な機構的説明が示されている。(本発明の範囲は、このような説明によって限定されるとは考えないが)混合物の緩衝作用は、水素化触媒を活性化するのに溶液中に十分な水素イオンを許容とするが、“モッピングアップ(mopping up)”にて、過剰の水素イオンは、図1に示した平衡を(すなわち、図1の底部に示した中間体から)エナンチオ選択的な水素化ルートに有利なように推進する。
【0018】
本発明の方法は、バッチ式または連続式のいずれとしても操作するのに適している。反応温度は、好ましくは、少なくとも約75℃、さらに好ましくは、少なくとも約90℃、なおさらに好ましくは、少なくとも約100℃に維持される。本発明に従う1つの好ましい方法にて、反応温度は、約100〜約150℃である。
本発明で使用するのに適した緩衝化合物または組成物は、水素化可能な基質のための溶剤として作用するようである。
【0019】
本発明に従う1つの好ましい方法にて、β-ケトエステルのエナンチオ選択的な接触水素化のための連続法であって、
(a) β-ケトエステルの接触水素化に有効な温度と圧力の下に維持された接触水素化域を用意し;
(b) 水素化されるβ-ケトエステル;酸活性化を必要とし、β-ケトエステルのエナンチオ選択的水素化に有効な触媒;触媒の活性化に有効な酸性物質;酸性物質の存在で、アセタール、ケタール、ヘミアセタールおよび/またはヘミケタールを形成しうる緩衝化合物または組成物;および、水素を含む基質を接触水素化域に連続的に供給し;
(c) β-ケトエステルの少なくとも一部エンチオ選択的接触水素化に有効な滞留時間、水素化域で、基質、触媒および水素を接触させ;
(d) エナンチオ選択的に水素化されたβ-ケトエステル、未反応β-ケトエステル、触媒および水素を含む反応生成物混合物を水素化域から連続的に取出し;
(e) 反応生成物混合物を分離域に供給し、エナンチオ選択的に水素化されたβ-ケトエステルの少なくとも幾分かを反応生成物混合物から分離し;
(f) 分離されたエナンチオ選択的に水素化されたβ-ケトエステルを生成物として取出し;
(g) 場合によっては、分離域から水素化域まで残りの物質の少なくとも一部を供給する;
各工程を含む方法が提供される。
【0020】
β-ケトエステルは、好ましくは、エチル-4-クロロアセトアセテートであるが、式(2):
【0021】
【化2】

【0022】
[式中、X、RおよびR’は、水素;場合によっては、置換されたアルキル、アリール、アリールアルキルまたはアルカリール基;または、場合によっては、置換されたシクロアルキル基から独立に選択され;Xは、あるいは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、メシレート、トシレート、スルホネートエステル;テトラアルキルアンモニウムおよびその他の適した脱離基から選択されていてもよく;nは、1〜4である。]
で表すのが適当である。
【0023】
β-ケトエステルは、1〜4のケト基を有してもよく、例えば、β、δ-ジケトエステルであってもよい。
好ましくは、水素化域は、少なくとも約75bar、さらに好ましくは、少なくとも約90bar、なおさらに好ましくは、少なくとも約100barの圧力に維持される。本発明に従う1つの好ましい方法にて、水素化域は、約100〜約150barの条件下に維持される。
【0024】
概して、不斉水素化の基質、特に、β-ケトエステルの製造にて鍵となる要件は、所望されるエナンチオマーの所望されないエナンチオマーに優る、生成物における、いわゆる、“エナンンチオマー過剰”である。本発明の方法にて、生成物におけるエナンチオマー過剰は、好ましくは、約95%より大、さらに好ましくは、約96%より大、なおさらに好ましくは、約97%より大、最も好ましくは、約98%より大、例えば、約99%以上である。
【0025】
本発明に従い、酸活性化を必要とする有効な触媒の存在;および、そのような活性化を達成しうる酸性物質の存在で;基質の不斉接触水素化プロセスにおける緩衝化合物または組成物の使用であり、その緩衝化合物または組成物が、酸性物質の存在で、アセタール、ケタール、ヘミアセタールおよび/またはヘミケタールを形成する能力を有し、所望される不斉水素化された生成物のエナンチオマー過剰を改善する使用もまた提供される。
【0026】
さて、以下の実施例を参考としつつ、本発明を、さらに詳しく、説明しよう。
【実施例】
【0027】
実施例1(比較例)
600mlのステンレススチールParr反応器に、エタノール(340ml)およびエチル-4-クロロアセトアセテート(53g)を装填した。反応器攪拌機を始動させ、速度を600rpmに設定した。窒素を使用して、反応器を7barに加圧し、攪拌を5分間継続した。5分後、反応器を周囲圧力まで緩やかに排気し、加圧/脱圧サイクルを合計5回繰り返して、溶解した酸素を完全に除去した。最後のサイクルの終了時に、反応器設定温度を95℃に調節した。(R)-[RuCl2(BINAP)]n触媒を正確に秤量して(23mg)、触媒移し容器に移し、ついで、窒素を使用して5分間、その容器をパージした。Parr反応器に取り付けた100mlのステンレススチール注入ボンベに、脱酸素した溶剤を使用して、移し容器から触媒をフラッシュした。Parr反応器温度が95℃と100℃との間になったら、水素を使用して、注入ボンベを100barまで加圧した。適当なバルブを開放して、触媒混合物および水素を反応器に移した。反応器の内容物を600rpmで30分間攪拌してから、30℃未満まで冷却した。ついで、反応器を緩やかに周囲圧力まで排気した。反応器内容物を1リットルロータリーフィルムエバポレータフラスコに移し、減圧を印加し、加熱水浴を使用することによって、混合物を恒量まで蒸発させた。残渣を減圧下ポットツーポット(pot to pot)蒸留に賦すと、エチル(S)-(-)-4-クロロ-3-ヒドロキシブチレートの透明無色なオイル状液体生成物を、>98%収率、>98%純度および94%エナンチオマー過剰で与えた。
【0028】
実施例2
600mlのステンレススチールParr反応器に、エタノール(170ml)、アセトン(170ml)およびエチル-4-クロロアセトアセテート(53g)を装填した。反応器攪拌機を始動させ、速度を600rpmに設定した。窒素を使用して、反応器を7barに加圧し、攪拌を5分間継続した。5分後、反応器を周囲圧力まで緩やかに排気し、加圧/脱圧サイクルを合計5回繰り返して、溶解した酸素を完全に除去した。最後のサイクルの終了時に、反応器設定温度を95℃に調節した。(R)-[RuCl2(BINAP)]n触媒を正確に秤量して(23mg)、触媒移し容器に移し、ついで、窒素を使用して5分間、その容器をパージした。Parr反応器に取り付けた100mlのステンレススチール注入ボンベに、脱酸素した溶剤を使用して、移し容器から触媒をフラッシュした。Parr反応器温度が95℃と100℃との間になったら、水素を使用して、注入ボンベを100barまで加圧した。適当なバルブを開放して、触媒混合物および水素を反応器に移した。反応器の内容物を600rpmで30分間攪拌してから、30℃未満まで冷却した。ついで、反応器を周囲圧力まで緩やかに排気した。反応器内容物を1リットルロータリーフィルムエバポレータフラスコに移し、減圧を印加し、加熱水浴を使用することによって、混合物を恒量まで蒸発させた。残渣を減圧下ポットツーポット(pot to pot)蒸留に賦すと、エチル(S)-(-)-4-クロロ-3-ヒドロキシブチレートの透明無色なオイル状液体生成物を、>98%収率、>99%純度および98%エナンチオマー過剰で与えた。
【0029】
実施例3(比較例)
600mlステンレススチールParr反応器に、エタノール(340ml)および6-クロロ-3,5-ジオキソ-ヘキサン酸t-ブチルエステル(76g)を装填した。反応器攪拌機を始動させ、速度を600rpmに設定した。窒素を使用して、反応器を7barに加圧し、攪拌を5分間継続した。5分後、反応器を周囲圧力まで緩やかに排気し、加圧/脱圧サイクルを合計5回繰り返して、溶解した酸素を完全に除去した。最後のサイクルの終了時に、反応器設定温度を95℃に調節した。(R)-[RuCl2(BINAP)]n触媒を正確に秤量して(23mg)、触媒移し容器に移し、ついで、窒素を使用して5分間、その容器をパージした。Parr反応器に取り付けた100mlのステンレススチール注入ボンベに、脱酸素した溶剤を使用して、移し容器から触媒をフラッシュした。Parr反応器温度が95℃と100℃との間になったら、水素を使用して、注入ボンベを100barまで加圧した。適当なバルブを開放して、触媒混合物および水素を反応器に移した。反応器の内容物を600rpmで30分間攪拌してから、30℃未満まで冷却した。ついで、反応器を緩やかに周囲圧力まで排気した。反応器内容物を1リットルロータリーフィルムエバポレータフラスコに移し、減圧を印加し、加熱水浴を使用することによって、混合物を恒量まで蒸発させた。残渣を減圧下ポットツーポット(pot to pot)蒸留に賦すと、3R,5S-(6-クロロメチル-2,2-ジメチル-[1,3]ジオキシン-4-イル)-酢酸t-ブチルエステルの透明無色なオイル状液体生成物を、>90%収率、>88%純度および92%エナンチオマー過剰で与えた。
【0030】
実施例4
600mlのステンレススチールParr反応器に、エタノール(170ml)、アセトン(170ml)および6-クロロ-3,5-ジオキソ-ヘキサン酸t-ブチルエステル(76g)を装填した。反応器攪拌機を始動させ、速度を600rpmに設定した。窒素を使用して、反応器を7barに加圧し、攪拌を5分間継続した。5分後、反応器を周囲圧力まで緩やかに排気し、加圧/脱圧サイクルを合計5回繰り返して、溶解した酸素を完全に除去した。最後のサイクルの終了時に、反応器設定温度を95℃に調節した。(R)-[RuCl2(BINAP)]n触媒を正確に秤量して(23mg)、触媒移し容器に移し、ついで、窒素を使用して5分間、その容器をパージした。Parr反応器に取り付けた100mlのステンレススチール注入ボンベに、脱酸素した溶剤を使用して、移し容器から触媒をフラッシュした。Parr反応器温度が95℃と100℃との間になったら、水素を使用して、注入ボンベを100barまで加圧した。適当なバルブを開放して、触媒混合物および水素を反応器に移した。反応器の内容物を600rpmで30分間攪拌してから、30℃未満まで冷却した。ついで、反応器を緩やかに周囲圧力まで排気した。反応器内容物を1リットルロータリーフィルムエバポレータフラスコに移し、減圧を印加し、加熱水浴を使用することによって、混合物を恒量まで蒸発させた。残渣を減圧下ポットツーポット(pot to pot)蒸留に賦すと、3R,5S-(6-クロロメチル-2,2-ジメチル-[1,3]ジオキシン-4-イル)-酢酸t-ブチルエステルの透明無色なオイル状液体生成物を、>95%収率、>95%純度および>98%エナンチオマー過剰で与えた。
【0031】
実施例5
供給タンクに、1.8リットルのアセトンと1.8リットルの溶剤とを装填した。窒素で7barに加圧しつつ、スプレーノズルを通して溶剤をポンプ輸送し、ついで、制御された速度でニードルバルブを通して脱圧することによって、溶剤を脱酸素した。加圧/脱圧サイクルを3回繰返し、PLC基体の制御システムを使用して、全プロセスを自動化した。同様に、第2の供給タンクに、エチル-4-クロロアセトアセテート(3.6リットル)を装填し、上記したプロトコルと同様のプロトコルを使用して脱酸素した。触媒(R)-[RuCl2(BINAP)]n(149mg)を移し容器に装填し、窒素を使用して容器をパージしてからその触媒を溶剤供給タンクに移した。触媒溶液は、濃度52.2mg/Kgを有した。
【0032】
2つの高圧ポンプを介して、2つの供給システムを連続水素化反応器システムに連結した。連続水素化反応器システムは、Hastalloy 276製であり、多数のインライン静電ミキサーによって構成され、滞留時間30〜35秒を生じた。静電ミキサーは、また、プロセス流の良好な混合と水素の迅速な吸収とを確実とした。反応器システムは、リサイクリルポンプとインラインバルブとを備え、これらは、プラグフロー反応器(PFR,バルブ閉鎖)かまたは連続ループ反応器(CLR,バルブ開放)のいずれかとして操作可能であった。システムは、ガス/液体分離機と、示差圧力センサーを使用して制御される分離機の内側の液体レベルとを備え、これにより、出口流制御バルブが操作された。反応器システムは、PLC基体の制御システムを使用して制御した。水素化反応器は、水素を使用して加圧され、2.7g/hの速度でマス流量制御器を通して水素を連続的に供給することによって、圧力を90〜100barに維持する。反応液は、ポンプを使用する熱交換機を通過させ、プロセス温度を102℃〜105℃に維持した。
【0033】
上記システムは、プラグフロー反応器として操作した。エチル-4-クロロアセトアセテートの流速は、2.6ml/分に設定され、触媒溶液の流速は、8.9ml/分に設定された。これらの流は、プロセス濃度30%w/wと基質対触媒比20,000:1とを与えた。
【0034】
一連の連続試験にわたって、各々は、4〜8時間で変化させ、反応器は、ばらつくことなく、>99%エチル-4-クロロアセトアセテートから(S)-エチル-4-クロロ-3-ヒドロキシブチレートに変換され、蒸発によって溶剤を除去した後に単離されて、化学的な収率>98%およびエナンチオマー過剰99%より大を与えた。
【0035】
実施例6
それを連続ループ反応器として操作した以外は、実施例5におけるように、反応器を設定した。エチル-4-クロロアセトアセテートの流速を2.55ml/分に設定し、アセトン/メタノール触媒溶液の流速を触媒濃度45.8mg/kgで6.60ml/分に設定した。これらの流は、プロセス濃度37%w/wと基質対触媒比65,000:1を与えた。
【0036】
一連の連続試験にわたって、各々は、4〜8時間で変化させ、反応器は、ばらつくことなく、>99%エチル-4-クロロアセトアセテートから(S)-エチル-4-クロロ-3-ヒドロキシブチレートに変換され、蒸発によって溶剤を除去した後に単離されて、化学的な収率>98%およびエナンチオマー過剰99%より大を与えた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、BINAP触媒の存在でのエチル-4-クロロアセトアセテートの不斉水素化についての可能な機構を示す。
【図2】図2は、図1のエナンチオマー的に重要な水素化工程を詳細に示す。
【図3】図3は、アセトン/メタノール混合物の緩衝活性についての可能な機構の説明を与える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不斉水素化反応を触媒するのに有効であり、酸活性化を必要とする触媒;触媒を活性化するのに有効な酸性物質;および、前記酸性物質の存在で、アセタール、ケタール、ヘミアセタールおよび/またはヘミケタールを形成しうる緩衝化合物または組成物を含む触媒組成物。
【請求項2】
触媒が、BINAPまたはその他のビアリールビスホスフィン基体のリガンド触媒である、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
触媒が、β-ケトエステルのエナンチオ選択的水素化を触媒するのに有効である、請求項1または請求項2に記載の触媒組成物。
【請求項4】
酸性物質が、触媒に補助される不斉水素化に適した基質を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項5】
基質が、エチル-4-クロロアセトアセテートである、請求項4に記載の触媒組成物。
【請求項6】
緩衝化合物または組成物がアセトンおよびメタノールを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項7】
緩衝化合物または組成物が、触媒組成物の存在で行われる不斉水素化反応における溶剤または溶剤システムとして使用するのに適した、請求項1〜6のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項8】
水素化可能な基質のエナンチオ選択的な接触水素化のための方法であって、基質を水素と基質をエナンチオ選択的に水素化するのに有効な触媒とに接触させる工程を含み、その触媒が、基質のエナンチオ選択的水素化に有効な条件下、酸性物質の存在で酸活性化;および、酸性物質の存在で、アセタール、ケタール、ヘミアセタールおよび/またはヘミケタールを形成しうる緩衝化合物または組成物を必要とする方法。
【請求項9】
触媒が、BINAPまたはその他のビアリールビスホスフィン基体リガンド触媒である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
触媒が、β-ケトエステルのエナンチオ選択的な水素化を触媒するのに有効である、請求項9または請求項10に記載の方法。
【請求項11】
酸性物質が、触媒に補助される不斉水素化に適した基質を含む、請求項8〜10のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項12】
基質が、エチル-4-クロロアセトアセテートである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
緩衝化合物または組成物がアセトンおよびメタノールを含む、請求項8〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
緩衝化合物または組成物が、不斉水素化反応における溶剤または溶剤システムとして使用するのに適した、請求項8〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
酸活性化を必要とする有効な触媒の存在;および、そのような活性化を達成しうる酸性物質の存在で;基質の不斉接触水素化プロセスにおける緩衝化合物または組成物の使用であり、その緩衝化合物または組成物が、酸性物質の存在で、アセタール、ケタール、ヘミアセタールおよび/またはヘミケタールを形成する能力を有し、所望される不斉水素化された生成物のエナンチオマー過剰を改善する使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−502710(P2007−502710A)
【公表日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530469(P2006−530469)
【出願日】平成16年4月26日(2004.4.26)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001755
【国際公開番号】WO2004/103560
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(502132634)フェニックス・ケミカルズ・リミテッド (9)
【Fターム(参考)】