説明

触媒被膜およびその製造方法

【課題】従来技術の欠点が解消され、電極上で使用する際、例えば塩素アルカリ電解において塩素を発生させるために低い過電圧を可能にする、酸化ルテニウムおよび酸化チタンに基づく電気触媒活性成分を含んでなる改良された触媒被膜を提供する。
【解決手段】酸化ルテニウムおよび酸化チタンに基づく電気触媒活性成分および任意に1種以上のドーピング金属元素を含んでなる触媒被膜であって、酸化ルテニウムおよび酸化チタンがルチル型のRuOおよびTiOとして主に存在し、RuOおよびTiOが混合酸化物相として主に存在している触媒被膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に塩素を調製するための塩素アルカリ電解において使用する、酸化ルテニウムおよび酸化チタンに基づく電気触媒活性成分を含んでなる改良された触媒被膜に関する。本発明は更に、触媒被膜の製造方法、および新規な電極を提供する。
【0002】
本発明は特に、金属支持体上にTiO−RuO混合酸化物層を電気化学的に析出させる方法、および塩素を調製するための電気分解における電解触媒としてのその使用も記載する。
【背景技術】
【0003】
本発明は、触媒活性成分、特に酸化ルテニウムおよび酸化チタンに基づく電気触媒活性成分を含んでなる触媒被膜で被覆された導電性支持体を通常含んでなる、自体既知の電極および電極被膜から出発している。
【0004】
チタン上に適用された、二酸化チタン(TiO)および二酸化ルテニウム(RuO)からなる金属酸化物被膜は、塩素を調製するための電気分解のための安定な電解触媒として以前から知られている。
【0005】
金属酸化物被膜は通常、浸漬、刷毛塗りまたは噴霧によってチタン基材に適用したルテニウム塩およびチタン塩の水溶液または有機溶液を熱分解することによって製造する。個々の適用工程の後、焼成する。電極に所望通り触媒を担持させるためには、複数の適用/焼成工程が一般に必要とされる。この多段階法は非常に複雑であり、複数の焼成工程は、熱膨張の結果としてチタン基材の変形をもたらす。それ故に必要とされる関連の後処理は、支持体に対する被膜の接着性を損なうことがある。チタン基材自体が熱処理の結果として酸化物層を形成することもあり、この層はオーム抵抗を上昇させ、従って過電圧をもたらす。
【0006】
チタン支持体上にTiO−RuO混合酸化物層を製造する別の方法は、ゾル−ゲル合成法である。同方法では一般に、有機前駆体溶液をチタンに適用する。熱分解法と同様に、この方法も複数の複雑な焼成工程を必要とする。非常に高価な有機前駆体塩を使用することも、ゾル−ゲル合成法の欠点である。
【0007】
より少ない焼成工程しか必要としない別の方法は、電気化学的析出である。陰極電着において、金属イオンは、電解生成塩基を介して溶液から電極上に非晶質の酸化物または水酸化物として析出する。続く熱処理により、非晶質前駆体を結晶性酸化物に転化する。このとき、2つの異なった化学的経路である、対応するペルオキソ錯体からの電着と前駆体としてのヒドロキソ錯体からの電着とは区別される。先に記載した2つの方法とは異なり、この前駆体は固相なので、1回の析出工程でより多量の酸化物を電極上にロードすることでき、必要とされる焼成工程数を低減することができる。
【0008】
純TiO層および純RuO層を製造するための電気化学的析出方法は既に知られている。
【0009】
US 2010290974(A1)は、Ti(III)イオン、硝酸イオンおよび亜硝酸イオンを含有する電解液からの、TiOの陰極電着を記載している。
【0010】
Electrochimica Acta, 2009, 54, 第4045〜4055頁において、P. M. DziewonskiおよびM. Grzeszczukは、サイクリックボルタンメトリーによる純TiO層の電気化学的析出を記載している。ペルオキソ錯体およびオキサラト錯体から析出させている。
【0011】
純TiO層の陽極電着および純RuO層の陰極電着は、C. D. Lokhande, B.-O. Park, K.-D.JungおよびO.-S. Joo, Ultramicroscopy, 2005, 105, 第267〜274頁に記載されている。
【0012】
水溶液からの純RuO層の電着は、WO 2005/050721(A1)並びにI. ZhitomirskyおよびL. Gal-Or, Material Letters, 1997, 31, 第155〜159頁に記載されている。
【0013】
サイクリックボルタンメトリーによる純RuO層の電着も知られており、C.-C. HuおよびK.-H. Chang, Journal of the Electrochemical Society, 1999, 146, 第2465〜2471頁に記載されている。C.-C.HuおよびK.-H. Chang, Electrochimica Acta, 2000, 45, 第2685〜2696頁によれば、この方法では、二酸化イリジウム(IrO)を共析出させることも可能である。
【0014】
CN 101525760(A)には、パルス析出によるRuO層の電着が記載されている。
【0015】
TiO−RuO複合層を析出させるための様々な電気化学的製造方法も知られている。
【0016】
Material Letters, 1998, 33, 第305〜310頁において、I. Zhitomirskyは、純TiO層および純RuO層の交互電着による、TiO−RuO複合材料の電着を記載している。
【0017】
Journal of the Electrochemical Society, 2004, 151, 第C38〜C44頁において、S. Z. Chu, S. Inoue, K. WadaおよびS. Hishitaは、2つの成分を同時に析出させることによる、TiO−RuO複合材料の電着を記載している。同文献によれば、それぞれの析出機構は互いに独立して進行する。TiOは、Tiペルオキソ錯体から前駆体として析出する。ルテニウムは金属として析出し、続く焼成によりRuOに転化する。
【0018】
Huaxue Xuebao, 2010, 68, 第590〜593頁において、L. Zhang, J. Wang, H. ZhangおよびW. Caiは、球状TiOナノ粒子上にRuOを陰極電着させることにより電気化学的に得られるTiO−RuO複合材料を記載している。TiOナノ粒子には予め、回転塗布により酸化インジウムスズ(ITO)が適用されている。
【0019】
Journal of Materials Science, 1999, 34, 第2441〜2447頁において、I. Zhitomirskyは初めて、TiOとRuOとの同時の電気化学的析出(2つの成分は混合酸化物として析出する)を記載した。同様の合成は、他の文献(I. Zhitomirsky, Journal of the European Ceramic Society, 1999, 19, 第2581〜2587頁、およびI. Zhitomirsky, Advances in Colloid and Interface Science, 2002, 97, 第279〜317頁)にも見られる。
【0020】
この電気的合成法では、メタノール、水、塩化ルテニウム(III)(RuCl)、塩化チタン(IV)(TiCl)および過酸化水素(H)からなる浴を使用する。TiO−RuO層は、−20mA/cmの陰極電流密度で、多層として順次析出する(I. Zhitomirsky, Journal of Materials Science, 1999, 34, 第2441〜2447頁)。同文献によれば、2つの金属成分は、2つの異なった化学的経路を介して(チタンはペルオキソ錯体を介して、ルテニウムは前駆体としてのヒドロキソ錯体を介して)同時に析出する(Journal of Materials Science, 1999, 34, 第2441〜2447頁、およびMaterial Letters, 1998, 33, 第305〜310頁)。
【0021】
異なった化学的経路を介した析出は、2つの成分の均質な混合にとって、従って混合酸化物の形成にとって不利になることがある。TiOおよびRuOは同形であるが、それらの異なった物理的性質(半導体としてのTiOおよび金属導体としてのRuO)の故に容易に結合することはできない。2つの酸化物がRuの約20〜80mol%の範囲に混和性ギャップを有し、この範囲では準安定混合酸化物しか生じないことも知られている(K. T. JacobおよびR. Subramanian, Journal of Phase Equilibra and Diffusion, 2008, 29, 第136〜140頁)。Material Letters, 1998, 33, 第305〜310頁において、I. Zhitomirskyは、チタン成分とルテニウム成分が合成中に異なった析出機構を介して電極で析出するので、複数のルチル相への相分離が生じることを記載している。チタン成分は、中間体としてのペルオキソ錯体を介して析出し、ルテニウム成分はヒドロキソ中間体を介して析出する。従って、2つの析出過程は互いに独立して進行する。Zhitomirsky(Journal of Materials Science, 1999, 34, 第2441〜2447頁)により記載された合成を再現することにより、これらの記載を確認することができる(実施例1b参照)。
【0022】
しかしながら、TiOおよびRuOの混合酸化物の良好な形成は、塩素を製造するための電気分解における陽極安定性にとって重要であることが知られている。純RuOは、塩素の発生を伴う陽極での酸素発生による腐蝕に対して敏感である。RuOおよびTiOの混合酸化物だけが形成されると、十分な安定性が確保される。電極安定性に対する混合酸化物形成の影響は、V. M. Jovanovic, A. Dekanski, P. Despotov, B. Z. NikolicおよびR. T. Atanasoski, Journal of Electroanalytical Chemistry 1992, 339, 第147〜165頁に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】US 2010290974(A1)
【特許文献2】WO 2005/050721(A1)
【特許文献3】CN 101525760(A)
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】P. M. DziewonskiおよびM. Grzeszczuk, Electrochimica Acta, 2009, 54, 第4045〜4055頁
【非特許文献2】C. D. Lokhande, B.-O. Park, K.-D.JungおよびO.-S. Joo, Ultramicroscopy, 2005, 105, 第267〜274頁
【非特許文献3】I. ZhitomirskyおよびL. Gal-Or, Material Letters, 1997, 31, 第155〜159頁
【非特許文献4】C.-C. HuおよびK.-H. Chang, Journal of the Electrochemical Society, 1999, 146, 第2465〜2471頁
【非特許文献5】C.-C.HuおよびK.-H. Chang, Electrochimica Acta, 2000, 45, 第2685〜2696頁
【非特許文献6】I. Zhitomirsky, Material Letters, 1998, 33, 第305〜310頁
【非特許文献7】S. Z. Chu, S. Inoue, K. WadaおよびS. Hishita, Journal of the Electrochemical Society, 2004, 151, 第C38〜C44頁
【非特許文献8】L. Zhang, J. Wang, H. ZhangおよびW. Cai, Huaxue Xuebao, 2010, 68, 第590〜593頁
【非特許文献9】I. Zhitomirsky, Journal of Materials Science, 1999, 34, 第2441〜2447頁
【非特許文献10】I. Zhitomirsky, Journal of the European Ceramic Society, 1999, 19, 第2581〜2587頁
【非特許文献11】I. Zhitomirsky, Advances in Colloid and Interface Science, 2002, 97, 第279〜317頁
【非特許文献12】K. T. JacobおよびR. Subramanian, Journal of Phase Equilibra and Diffusion, 2008, 29, 第136〜140頁
【非特許文献13】V. M. Jovanovic, A. Dekanski, P. Despotov, B. Z. NikolicおよびR. T. Atanasoski, Journal of Electroanalytical Chemistry 1992, 339, 第147〜165頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明の目的は、これまでに知られている被膜の先に記載した欠点が解消され、電極上で使用する際、例えば塩素アルカリ電解において塩素を発生させるために低い過電圧を可能にする、酸化ルテニウムおよび酸化チタンに基づく電気触媒活性成分を含んでなる改良された触媒被膜を提供することである。
【0026】
本発明の特定の目的は、既知の方法と比べて改良された特性を示すTiO−RuO混合酸化物層の電気化学的製造方法を開発することである。
【0027】
本発明の別の目的は、従来の合成法または他の既知の方法と比べて、必要な焼成工程数を少なくすることである。本発明の方法は、従来の方法においても使用されている無機のルテニウム塩およびチタン塩からなる安価な出発物質に基づくべきである。従来の方法および既知の電気化学的合成法と比べて、本発明の方法は、貴金属含量を少なくすることができるように、触媒活性について改良された特性を示すべきである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明の態様は、酸化ルテニウムおよび酸化チタンに基づく電気触媒活性成分および任意に1種以上のドーピング金属元素を含んでなる触媒被膜であって、酸化ルテニウムおよび酸化チタンがルチル型のRuOおよびTiOとして主に存在し、RuOおよびTiOが混合酸化物相として主に存在している触媒被膜である。
【0029】
本発明の別の態様は、1種以上のドーピング金属元素がイリジウム、スズ、アンチモンおよびマンガンからなる群から選択される前記触媒被膜である。
【0030】
本発明の別の態様は、ルテニウムが、触媒活性成分中の金属の総量に基づいて10〜21mol%の量で存在する前記触媒被膜である。
【0031】
本発明の別の態様は、RuOおよびTiOの少なくとも75重量%が混合酸化物相として存在する前記触媒被膜である。
【0032】
本発明の更に別の態様は、触媒被膜を層として導電性支持材料に適用する工程を含む、酸化ルテニウムおよび酸化チタンに基づく電気触媒活性成分および任意に1種以上のドーピング金属元素を含んでなる触媒被膜の電気化学的製造方法であって、
a)少なくともルテニウム塩およびチタン塩を含有する酸性水溶液からRuおよびTiをヒドロキソ前駆体として析出させることによる、支持体を陰極として接続した電気化学的方法によって、層を支持体に適用し、
b)次いで、ヒドロキソ化合物を含んでなる層を少なくとも300℃の温度で熱処理に付して、触媒被膜を形成する方法である。
【0033】
本発明の別の態様は、支持体が金属チタンまたはタンタルに基づいている前記方法である。
【0034】
本発明の別の態様は、工程a)における塩溶液が3.5以下のpHを有する前記方法である。
【0035】
本発明の別の態様は、工程a)における塩溶液を希塩酸によって酸性に維持する前記方法である。
【0036】
本発明の別の態様は、水と低級アルコールとの混合物を、工程a)における塩溶液のための溶媒として使用する前記方法である。
【0037】
本発明の別の態様は、工程a)における析出中、少なくとも30mA/cmの電流密度(絶対値)を維持する前記方法である。
【0038】
本発明の別の態様は、工程a)における塩溶液を20℃以下の温度で維持する前記方法である。
【0039】
本発明の別の態様は、金属酸化物のヒドロキソ前駆体の析出が、電極表面での局所的な塩基形成によって起こる前記方法である。
【0040】
本発明の別の態様は、工程b)における熱処理を少なくとも10分間実施する前記方法である。
【0041】
本発明の更に別の態様は、前記触媒被膜を含んでなる電極である。
【0042】
本発明の別の態様は、混合酸化物相が、X線回折反射において、少なくとも27.54°の角度への、27.477°(CuKα回折スペクトルにおける純TiOルチル相の2θ値)のシフトによって認識できる前記触媒被膜である。
【0043】
本発明の別の態様は、1種以上のドーピング金属元素がイリジウムである前記触媒被膜である。
【0044】
本発明の別の態様は、1種以上のドーピング金属元素が20mol%までの量で存在する前記触媒被膜である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1a】電着により形成した、18mol%のRuを含有するTiO−RuO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図1b】電着により形成した、18mol%のRuを含有するTiO−RuO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2a】熱分解法により形成した、31.5mol%のRuを含有するTiO−RuO/Ti(実施例1c、比較試料)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2b】熱分解法により形成した、31.5mol%のRuを含有するTiO−RuO/Ti(実施例1c、比較試料)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】電着により形成した、18mol%のRuを含有するTiO−RuO/Ti被膜のX線回折パターンである。
【図4a】(実施例1bによる)Zhitomirsky比較試料の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4b】(実施例1bによる)Zhitomirsky比較試料の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】25%Ru浴組成物を用いてZhitomirsky法によって得たTiO−RuOのX線回折パターンである。
【図6】40%Ru浴組成物を用いてZhitomirsky変法によって得たTiO−RuOのX線回折パターンである。
【図7】53%Ru浴組成物を用いてZhitomirsky変法によって得たTiO−RuOのX線回折パターンである。
【図8a】電着により形成した、16mol%のRuおよび2.6mol%のIrを含有するTiO−RuO−IrO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図8b】電着により形成した、16mol%のRuおよび2.6mol%のIrを含有するTiO−RuO−IrO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9a】熱分解法(実施例1d参照)により形成した、17mol%のRuおよび8.7mol%のIrを含有するTiO−RuO−IrO/Ti被膜(比較試料)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図9b】熱分解法(実施例1d参照)により形成した、17mol%のRuおよび8.7mol%のIrを含有するTiO−RuO−IrO/Ti被膜(比較試料)の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10a】電着により形成した、16.2mol%のRuおよび11mol%のSnを含有するTiO−RuO−SnO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図10b】電着により形成した、16.2mol%のRuおよび11mol%のSnを含有するTiO−RuO−SnO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】電着により形成した、14mol%のRuおよび6mol%のSbを含有するTiO−RuO−SbO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図12】電着により形成した、15mol%のRuおよび6mol%のMnを含有するTiO−RuO−MnO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【図13】電着により形成した、11.5mol%のRu、9.5molのSnおよび5.5mol%のSbを含有するTiO−RuO−SnO−SbO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
先に記載した目的は、本発明によれば、酸化ルテニウムおよび酸化チタンに基づく、選択された触媒被膜であって、RuOおよびTiOが混合酸化物層相として主に存在する触媒被膜を使用することによって達成される。
【0047】
本発明は、酸化ルテニウムおよび酸化チタンに基づく電気触媒活性成分および任意に1種以上の、特に遷移金属群からのドーピング金属元素を含んでなる触媒被膜であって、成分である酸化ルテニウムおよび酸化チタンがルチル型のRuOおよびTiOとして主に存在し、RuOおよびTiOが、X線回折反射において、特に少なくとも27.54°の角度への、27.477°(CuKα回折スペクトルにおける純TiOルチル相の2θ値)のシフトによって認識できる混合酸化物相として主に存在する触媒被膜を提供する。
【0048】
意外なことに、チタンもヒドロキソ錯体として電気化学的に析出できることが見出された。従って、チタンおよびルテニウムはいずれも、同じ化学的経路を介して析出でき、これによって、2つの成分の混合均質性は改良される。この変化した析出機構により、層の成長機構も変化し、特有の表面形態が得られる。
【0049】
RuOおよびTiOの少なくとも75重量%が、触媒被膜において混合酸化物相として存在することが好ましい。
【0050】
本発明に従って製造される混合酸化物は、他の方法とは異なった層成長を示し、従って特有の表面形態を形成することを特徴としており、この表面形態では、非常に幅の広いクラックを有し、更に表面に球状構造物も有する亀甲割れ(泥割れ)構造が形成される。
【0051】
この特有の表面形態により、明らかに、電極触媒反応に利用できる活性表面積は増大する。従って、触媒活性は向上し、貴金属含量を低減することができる。
【0052】
電気化学的に製造したTiO−RuO混合酸化物の場合、例えば、幅約10〜20μmの島(孤立部分)および約5〜10μmのクラックを有する亀甲割れ表面が得られる(図1aおよび1b)。約0.1〜2μmの直径を有する球状構造物が島表面上に存在する(図1aおよび1b)。従来の方法で製造したTiO−RuO比較試験片は、幅約5〜10μmの島および約1μmのより狭いクラック幅を示す(図2aおよび2b)。
【0053】
球状構造物を有するこの特有の表面形態は、熱分解法またはゾル−ゲル合成法のような他の製造方法によって得ることはできない。Journal of Materials Science, 1999, 34, 第2441〜2447頁に記載されており、後に比較例として記載するI. Zhitomirskyの混合酸化物の電気化学的合成法もまた、球状構造物を伴わない滑らかな表面形態を示す。
【0054】
貴金属は一般に、電着によってナノ結晶状に製造するとき、球状成長(カリフラワー構造)を示す。サイクリックボルタンメトリーによって製造した非晶質RuO−IrO層のような貴金属酸化物層についての球状構造物は、既に報告されている(C.-C. HuおよびK.-H. Chang, Electrochimica Acta 2000, 45, 第2685〜2696頁)。RuOおよびIrOは同形であり、酷似した格子定数を有するので、混合酸化物を非常に容易に形成する。また、いずれも金属導体である。半導体TiOまたはTiO含有混合酸化物について、このタイプの成長はこれまで報告されていない。同文献の実施例(図1および9〜14参照)は、70〜82mol%のTiO含量で球状成長を示している。
【0055】
本発明は更に、酸化ルテニウムおよび酸化チタンに基づく電気触媒活性成分および任意に1種以上の、特に遷移金属群からのドーピング金属元素を含んでなる触媒被膜の電気化学的製造方法であって、触媒被膜を導電性支持材料に適用し、
a)少なくともルテニウム塩およびチタン塩を含有する酸性水溶液からRuおよびTiをヒドロキソ前駆体として析出させることによる、支持体を陰極として接続した電気化学的方法によって、層を支持体に適用し、
b)次いで、形成されたヒドロキソ化合物含有層を、少なくとも300℃、好ましくは少なくとも400℃の温度で熱処理に付して、触媒被膜を形成する方法を提供する。
【0056】
混合酸化物は、1回のみの焼成工程によって製造できるので、先行技術から知られているような複雑な多段階工程を回避できる。
【0057】
特に、複雑な形状を有する金属基材(例えばエキスパンドメタル)を被覆することもできる。
【0058】
好ましい方法は、支持体が金属チタンまたはタンタル、好ましくはチタンに基づいていることを特徴とする。
【0059】
工程a)において、好ましいルテニウム塩およびチタン塩として、塩化ルテニウムおよび塩化チタンを使用する。
【0060】
TiO−RuO二元混合酸化物を含んでなる触媒被膜を製造するために、特に好ましい方法では、出発物質として、塩化チタン(IV)(TiCl)、塩化ルテニウム(III)(RuCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩酸(HCl)、イソプロパノール(i−PrOH)および水(HO)を使用する。
【0061】
金属酸化物の電気化学的合成法において困難なことは、酸化物を、電解液中ではなく、もっぱら電極上に析出させなければならないことである。そうでなければ、析出浴が不安定になる。また、純貴金属が副反応として陰極析出する場合がある。これらの問題は特に、特定の浴組成、析出温度、析出電流パラメータ、および場合により流動条件によって解決される。
【0062】
好ましい方法では、工程a)における塩溶液は、3.5以下のpHを有する。
【0063】
工程a)における塩溶液は特に好ましくは、希塩酸によって酸性に維持する。
【0064】
工程a)における塩溶液のための特に好ましい溶媒として、水と低級アルコール(C〜Cアルコール)、特にイソプロパノールとの混合物を使用する。
【0065】
新規な方法の更に好ましい態様では、工程a)における析出中、少なくとも30mA/cmの電流密度(絶対値)を維持する。
【0066】
新規な方法の別の好ましい態様は、工程a)における塩溶液を20℃以下、好ましくは10℃以下、特に好ましくは5℃以下の温度で維持する。
【0067】
新規な方法の特に好ましい態様では、金属酸化物のヒドロキソ前駆体の析出は、電極表面での局所的な塩基形成によって起こる。
【0068】
新規な方法の工程b)における熱処理は、特に好ましくは少なくとも10分間実施する。
【0069】
チタン塩およびルテニウム塩の比較的高い濃度の結果、2つの成分は非選択的に析出し、均質な混合酸化物を良好に形成することができる。析出浴に過酸化物は存在しないので、両成分はヒドロキソ錯体を介して析出する。共通の化学的経路を介した析出により、混合酸化物の形成は明らかに促進される。
【0070】
析出浴の安定性は特に好ましくは、塩酸(HCl)による酸性化および5℃の低い反応温度によって確保する。安定性を確保するために、浴全体のpHを一定に保つことが望ましい。従って、析出中の電解液容積は特に、局所的なpH変化が補償されるように選択しなければならない。即ち、適切な量のHClを追加しなければならない。
【0071】
多元混合酸化物は、好ましいことに、新規な方法の工程a)において、ドーパントのような別の金属塩(例えば、塩化イリジウム(III)(IrCl)、塩化スズ(IV)(SnCl)、塩化アンチモン(III)(SbCl)および塩化マンガン(II)(MnCl))を溶液に代替添加することによって得ることもできる。得られる混合酸化物の化学量論は、電解液組成および電流密度に依存し、従って、制御することができる。TiO−RuOに基づく三元および多元混合酸化物への電気化学的合成経路の例は、これまで公にされていない。
【0072】
本発明はまた、先に記載したような新規な触媒被膜を有する新規な電極を供給する。
【0073】
先に記載したような新規な方法から得た新規な触媒被膜を有する電極が好ましい。
【0074】
本発明は更に、塩酸またはアルカリ金属塩化物溶液、特に塩化ナトリウム溶液から塩素を電気化学的に製造するための、新規な電極の使用を提供する。
【0075】
図面の簡単な説明
本発明を、以下において、図および実施例を参照して説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
図1aおよび1b:異なった倍率で撮影した、電着により形成した、18mol%のRuを含有するTiO−RuO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真
図2aおよび2b:異なった倍率で撮影した、熱分解法により形成した、31.5mol%のRuを含有するTiO−RuO/Ti(実施例1c、比較試料)の走査型電子顕微鏡写真
【0076】
図3:電着により形成した、18mol%のRuを含有するTiO−RuO/Ti被膜のX線回折パターン。X線回折パターンは、基準線補正し、内部基準としてのチタンの(002)反射を加味して2θ軸上で補正したものである。
【0077】
【表1】

【0078】
図4aおよび4b:異なった倍率で撮影した、(実施例1bによる)Zhitomirsky比較試料の走査型電子顕微鏡写真
【0079】
図5:25%Ru浴組成物を用いてZhitomirsky法によって得たTiO−RuOのX線回折パターン
【0080】
【表2】

【0081】
図6:40%Ru浴組成物を用いてZhitomirsky変法によって得たTiO−RuOのX線回折パターン
【0082】
【表3】

【0083】
図7:53%Ru浴組成物を用いてZhitomirsky変法によって得たTiO−RuOのX線回折パターン
【0084】
【表4】

【0085】
図8aおよび8b:異なった倍率で撮影した、電着により形成した、16mol%のRuおよび2.6mol%のIrを含有するTiO−RuO−IrO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真
図9aおよび9b:異なった倍率で撮影した、熱分解法(実施例1d参照)により形成した、17mol%のRuおよび8.7mol%のIrを含有するTiO−RuO−IrO/Ti被膜(比較試料)の走査型電子顕微鏡写真
図10aおよび10b:異なった倍率で撮影した、電着により形成した、16.2mol%のRuおよび11mol%のSnを含有するTiO−RuO−SnO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真
図11:電着により形成した、14mol%のRuおよび6mol%のSbを含有するTiO−RuO−SbO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真
図12:電着により形成した、15mol%のRuおよび6mol%のMnを含有するTiO−RuO−MnO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真
図13:電着により形成した、11.5mol%のRu、9.5molのSnおよび5.5mol%のSbを含有するTiO−RuO−SnO−SbO/Ti被膜の走査型電子顕微鏡写真
【0086】
後に記載する実施例では、X線回折パターンを測定するために、PANalytical B.V.製回折計モデルX’Pert Pro MPを使用した。回折計はCuKαX線を用いて作動した。機器の制御および得られたデータの記録には、X’Pert Data Collectorソフトウェアを用いた。0.0445°/sの走査速度および0.0263°の刻み幅で測定した。
【0087】
実施例において示されている回折パターンは、バックグラウンドに対して補正したものである。また、内部基準としてのチタン基材の(002)基準ピークに基づいて、高度のエラー補正を実施した。
【0088】
JEOL製モデルJxA-840A機器を用いて走査型電子顕微鏡法(SEM)を実施した。
【0089】
Princeton Applied Research/BioLogic Science Instruments製16倍マルチチャンネルポテンシオスタット/ガルバノスタット(モデルVMP3)を用いて、電気化学実験を実施した。実験は、EC-Labソフトウェアを用いてコンピューター制御しながら実施した。測定した電位を、セルにおけるオーム電圧降下に対して補正した(これは、IR補正として知られている)。
【0090】
誘導結合プラズマ(ICP−OES)を用いた発光スペクトル分析による測定は、Varian製モデル720-ES分光計を用いて実施した。試料を調製するために、電着膜を基材から分離し、得られた懸濁液を、王水の添加および加熱によって溶解した。
【実施例】
【0091】
実施例1a
15mmの直径および2mmの厚さを有する板状チタン電極を、サンドブラストおよび酸洗い(10%濃度のシュウ酸中、80℃で2時間)によって前処理した。
【0092】
析出浴は、イソプロパノール(i−PrOH)および水(体積比9:5)、63mmol/Lの塩化チタン(IV)(63mM/LのTiCl)、15mmol/Lの塩化ルテニウム(III)(15mM/LのRuCl)、20mmol/Lの塩酸(20mM/LのHCl)、および12mmol/Lの塩化ナトリウム(12mM/LのNaCl)を含有していた。(実施例において示したアルコール/水の比は、塩および酸の全てを添加した後に得られた最終的な比である。)
【0093】
一室セルにおいて三電極系で電着を実施した。作用電極と対電極を、40mm離して平行に配置した。参照電極は、作用電極の上方約2mmに配置した。−56mA/cmの一定カソード電流密度、5℃で、穏やかに撹拌しながら、作用電極で陰極電着させた。60分間の析出時間で、2.1mgのロード量が析出した。
【0094】
対電極は、電気化学的に被覆されたTiO−RuO−Tiメッシュ(4×4cm)からなっていた。参照電極はAg/AgClであった。
【0095】
次いで、析出層を、熱処理により結晶性酸化物に転化した。空気中450℃で焼成した。これは、電極を1時間かけて室温から450℃に加熱し、450℃の一定温度で90分間熱処理することにより実施した。
【0096】
誘導結合プラズマ(ICP−OES)を用いた発光スペクトル分析による分析から、18mol%のRuを含有するRuTi組成物が得られたことがわかった。電解液中のRu含量濃度を変えることにより、他の組成物も得られた(表5参照)。
【0097】
【表5】

【0098】
図3は、18mol%のRuを含有するTiO−RuO混合酸化物のX線回折パターンを示す。TiO−RuO混合酸化物の形成を説明するために、27°〜29°の2θ範囲を評価した。ルチル混合酸化物相は、この範囲において(110)反射として見られ、純TiOルチル相および純RuOルチル相の基準の間に明らかに位置していた。純TiOおよび純RuOの基準に対する(110)ルチル反射におけるシフトは、混合酸化物の形成を明らかに示した。
【0099】
Scherrer法による結晶サイズの推定から、結晶サイズは18nmであることがわかった。
【0100】
図1aおよび1bは、18mol%のRuを含有するTiO−RuO混合酸化物の走査型電子顕微鏡写真を示す。これは、亀甲割れ表面および球状構造物からなる特定の表面構造を示している。
【0101】
分極曲線を記録することによって、塩素発生についての電気化学的活性を、チタン電極(直径15mm、厚さ2mm)について実験室規模で測定した。熱分解により従来通りに製造した比較試料(実施例1cおよび1d)またはZhitomirskyの合成法に従った電着により製造した比較試料(実施例1b)を用いて、データを評価した。結果を表6に示す。
【0102】
実験パラメータ:80℃、100ml/分の流量、200g/LのNaCl(pH3)中で測定;電流を設定するたびに5分間の定電流;Ag/AgClに対して測定し、標準水素電極(SHE)に対して変換した電位;IR補正した電位値;対電極は白金めっきチタンエキスパンドメタル。
【0103】
【表6】

【0104】
熱分解により従来通りに製造した標準的な試料(実施例1cおよび実施例1d)と比較すると、電気化学的に製造したTiO−RuO混合酸化物は、より少ない貴金属ロード量で、より低い塩素電位、即ちより高い触媒活性を示した。同じルテニウム絶対ロード量を有する比較試料は、電着によりZhitomirskyの合成法によっても製造された(比較試料の製造については実施例1bを参照)。この試料との比較でも、本発明の方法がより高い触媒活性をもたらし、従って、従来技術より優れていることが示された。
【0105】
図4aおよび4bは、Zhitomirsky法によって製造した比較試料の走査型電子顕微鏡写真を示す。この試料の表面形態は、従来通り製造した標準的な試料(実施例1cの試料、図2aおよび2b)と酷似しており、本発明の方法により製造した試料(図1aおよび1b)とは全く異なっていた。
【0106】
実施例1b
実施例:文献に記載されたTiO−RuO/Ti被膜合成方法の再現
文献に記載された実施例に従った、チタン上でのTiO−RuO混合酸化物の製造
Journal of Materials Science, 1999, 34, 第2441〜2447頁、I. Zhitomirskyは、TiOおよびRuOを同時に電気化学的に析出させ、2つの成分を混合酸化物として析出させることを初めて記載した。同合成方法は、別の文献(I. Zhitomirsky, Journal of the European Ceramic Society, 1999, 19, 第2581〜2587頁およびI. Zhitomirsky, Advances in Colloid and Interface Science, 2002, 97, 第279〜317頁)にも記載されている。
【0107】
メタノール、水、塩化ルテニウム(III)(RuCl)、塩化チタン(IV)(TiCl)および過酸化水素(H)からなる浴を、この電気的合成法において使用した。−20mA/cmのカソード電流密度で、TiO−RuO層を多層として順次析出させた(I. Zhitomirsky, Journal of Materials Science, 1999, 34, 第2441〜2447頁)。
【0108】
直径15mmおよび厚さ2mmを有する板状チタン電極を、サンドブラストおよび酸洗い(10%濃度のシュウ酸中、80℃で2時間)によって前処理した。
【0109】
文献(I. Zhitomirsky, Journal of Materials Science, 1999, 34, 第2441〜2447頁)に記載されている方法に従って、1℃でチタン原液(A)とルテニウム原液(B)を混合することにより、析出浴を調製した。
【0110】
チタン原液(A)は、5mmol/Lの塩化チタン(IV)(5mM/LのTiCl)および10mmol/Lの過酸化水素(10mM/LのH)をメタノール中に含有していた。
【0111】
ルテニウム原液(B)は、5mmol/Lの塩化ルテニウム(III)(5mM/LのRuCl)を水中に含有していた。
【0112】
チタン原液(A)とルテニウム原液(B)は、3:1の体積比で混合した。
【0113】
一室セルにおいて三電極系で電着を実施した。作用電極と対電極を、40mm離して平行に配置した。参照電極は、作用電極の上方約2mmに配置した。対電極は、電気化学的に被覆したTiO−RuO−Tiメッシュ(4×4cm)からなっていた。参照電極はAg/AgClであった。
【0114】
−20mA/cmの一定カソード電流密度および1℃で撹拌せずに、作用電極上に陰極析出させた。既知の方法に従い、それぞれの場合において10分間の析出時間にわたって、被膜を多層として順次析出させた。このとき、それぞれの場合において、約0.8mgのロード量が析出した。
【0115】
次いで、熱処理により、析出層を結晶性酸化物に転化した。各析出工程の後、空気中450℃で10分間焼成した。所望の酸化物ロード量に達した後、最後の焼成を空気中450℃で実施した。この焼成では、電極を1時間かけて室温から450℃に加熱し、450℃の一定温度で90分間熱処理した。
【0116】
誘導結合プラズマ(ICP−OES)を用いた発光スペクトル分析による測定から、9mol%のRuを含有するRuTi組成物が得られたことがわかった。
【0117】
増加したRuO含量を有する混合酸化物を得るための実験も同様に実施した。このために、添加するRuClの量を単純に増やした。メタノール/水の比は一定のままであった。得られた層をX線回折によって分析した。
【0118】
回折パターンは全て、内部基準としてのチタンの(002)反射を加味して2θ軸上で補正した。
【0119】
−20mA/cmおよび析出時間20分間、その後の450℃での焼成で、異なったRu含量を有する浴から得られた層は、異なったパターンを示した。析出浴は全て、析出の数分前に新たに調製した。
【0120】
25%のRu浴組成物を使用し、Zhitomirsky法により製造したTiO−RuO被膜の回折パターンを、図5に示す。TiO−RuO混合酸化物の形成を説明するために、27°〜29°の2θ範囲を評価した。純TiOルチル基準上に実質的に全て位置するルチル相は、この範囲に存在した。
【0121】
40%のRu浴組成物を使用し、Zhitomirsky変法により製造したTiO−RuO被膜の回折パターンを、図6に示す。増加したRuCl含量を使用した、このZhitomirsky合成法では、析出速度が、通常のZhitomirsky法と比べて著しく低下した。同じ析出時間で得られた層は、通常のZhitomirsky法から得られたロード量の1/5にすぎなかった。回折パターンは、27.48°(±0.08°)で、純TiO基準に完全に位置するルチル相であることを示した。従って、RuOによるルチル相の富化は見られなかった。更に、割り当てることのできない多くの異種相が生じていた。
【0122】
53%のRu浴組成物を使用し、Zhitomirsky変法により製造したTiO−RuO被膜の回折パターンを、図7に示す。RuCl濃度を更に増加させた場合、析出速度はやはり低かった。回折パターンは、27.5°で、複数のルチル相の重ね合わせを明らかに示す不均質なルチルピークを示した。この場合も、割り当てることのできない異種相が生じていた。
【0123】
要約すると、RuCl含量を更に増やすと、析出速度が低下し、劣った混合酸化物が生じるということが、回折パターンに基づいて言える。
【0124】
実施例1c:
熱分解によって製造したTiO−RuO混合酸化物
熱分解により被膜を製造するために、2.00gの塩化ルテニウム(III)水和物(Ru含量:40.5重量%)、21.56gのn−ブタノール、0.94gの濃塩酸、および5.93gのテトラブチルチタネート(Ti−(O−Bu))を含有する被覆溶液を調製した。被覆溶液の一部を、あらかじめ10重量%濃度のシュウ酸中、約90℃で0.5時間酸洗いしたチタン板に、刷毛で適用した。被覆剤を適用した後、空気中、80℃で10分間乾燥し、次いで空気中、470℃で10分間処理した。この手順(溶液の適用、乾燥、熱処理)を合計8回実施した。続いて、板を空気中、520℃で1時間処理した。ルテニウム領域のロード量を、被膜溶液の消費量から測定し、31.5mol%のRuOおよび68.5mol%のTiOの組成で16.1g/mであることがわかった。
【0125】
実施例1d:
熱分解によって製造したTiO−RuO−IrO混合酸化物
熱分解によって被膜を製造するために、0.99gの塩化ルテニウム(III)水和物(Ru含量:40.5重量%)、0.78gの塩化イリジウム(III)水和物(Ir含量:50.9重量%)、9.83gのn−ブタノール、0.29gの濃塩酸、および5.9gのテトラブチルチタネート(Ti−(O−Bu))を含有する被覆溶液を調製した。被覆溶液の一部を、あらかじめ10重量%濃度のシュウ酸中、90℃で0.5時間酸洗いしたチタン板に、刷毛で適用した。被覆剤を適用した後、空気中、80℃で10分間乾燥し、次いで空気中、470℃で10分間処理した。この手順(溶液の適用、乾燥、熱処理)を合計8回実施した。続いて、板を空気中、470℃で1時間処理した。ルテニウム領域のロード量を、重量増加から測定し、17.0mol%のRuO、8.7mol%のIrOおよび74.3mol%のTiOの組成で5.44g/mであることがわかった。イリジウム領域のロード量は、対応する方法により、17.0mol%のRuO、8.7mol%のIrOおよび74.3mol%のTiOの組成で5.38g/mであることがわかった(総貴金属ロード量:10.83g/m)。
【0126】
実施例2:
チタン上でのTiO−RuO−IrO混合酸化物の製造
チタン電極(直径15mmおよび厚さ2mmを有する板)の前処理を、実施例1に記載したように実施した。
【0127】
析出浴は、イソプロパノール(i−PrOH)および水(体積比9:5)、63mmol/Lの塩化チタン(IV)(63mM/LのTiCl)、15mmol/Lの塩化ルテニウム(III)(15mM/LのRuCl)、5mmol/Lの塩化イリジウム(III)(5mM/LのIrCl)、40mmol/Lの塩酸(40mM/LのHCl)、および12mmol/Lの塩化ナトリウム(12mM/LのNaCl)を含んでいた。(実施例において示したアルコール/水の比は、塩および酸の全てを添加した後に得られた最終的な比である。)
【0128】
実施例1に記載したものと同じ装置を用い、析出時間50分間および10分間の二工程で、−80mA/cmの一定カソード電流密度および5℃で、穏やかに撹拌しながら電着を実施した。1.8mgのロード量が析出した。
【0129】
次いで、析出層を結晶性酸化物に転化するために熱処理した。2つの析出工程の間に、試料を30分かけて室温から450℃に加熱し、450℃で10分間焼成した。析出後、試料をもう一度焼成した。焼成は、空気中、450℃で実施した。この焼成では、電極を1時間かけて室温から450℃に加熱し、450℃の一定温度で90分間熱処理した。
【0130】
被膜組成の浴組成への依存を表7に示す。
【0131】
【表7】

【0132】
分極曲線を記録することによって、塩素発生についての電気化学的活性を、チタン電極(直径15mm、厚さ2mm)について実験室規模で測定し、従来通りに製造した標準的な試料と比較した。結果を表8に示す。
【0133】
実験パラメータ:80℃、100ml/分の流量、200g/LのNaCl(pH3)中で測定;電流を設定するたびに5分間の定電流;Ag/AgClに対して測定し、標準水素電極(SHE)に対して変換した電位;IR補正した電位値;対電極は白金めっきチタンエキスパンドメタル。
【0134】
電気化学的に製造したTiO−RuO−IrO混合酸化物は、より少ない貴金属ロード量で、標準的な試料と比べてより低い塩素電位、従ってより高い触媒活性を示した。
【0135】
【表8】

【0136】
電気化学的に製造したTiO−RuO−IrO試料の表面形態を、図8aおよび8bに、走査型電子顕微鏡写真で示す。この場合も、実施例1a(図1aおよび1b)と同様に、球状構造物と組み合わさった亀甲割れ表面が観察された。従来通り製造したTiO−RuO−IrOの標準的な試料(実施例1d)は、これらの球状構造物を示さなかった(図9aおよび9b)。
【0137】
実施例3:
チタン上でのTiO−RuO−SnO混合酸化物の製造
チタン電極(直径15mmおよび厚さ2mmを有する板)の前処理を、実施例1に記載したように実施した。
【0138】
析出浴は、イソプロパノール(i−PrOH)および水(体積比9:5)、63mmol/Lの塩化チタン(IV)(63mM/LのTiCl)、15mmol/Lの塩化ルテニウム(III)(15mM/LのRuCl)、3.7mmol/Lの塩化スズ(IV)(3.7mM/LのSnCl)、20mmol/Lの塩酸(20mM/LのHCl)、および12mmol/Lの塩化ナトリウム(12mM/LのNaCl)を含んでいた。(実施例において示したアルコール/水の比は、塩および酸の全てを添加した後に得られた最終的な比である。)
【0139】
実施例1に記載したものと同じ装置を用い、析出時間60分間および20分間の二工程で、−56mA/cmの一定カソード電流密度および5℃で、穏やかに撹拌しながら電着を実施した。2.1mgのロード量が析出した。
【0140】
析出層を結晶性酸化物に転化するための熱処理を、実施例2のように実施した。被膜組成の浴組成への依存を表9に示す。
【0141】
【表9】

【0142】
電気化学的に製造したTiO−RuO−SnO試料の表面形態を、図10aおよび10bに、走査型電子顕微鏡写真で示す。この場合も、実施例1a(図1aおよび1b)と同様に、球状構造物と組み合わさった亀甲割れ表面が観察された。
【0143】
実施例4:
チタン上でのTiO−RuO−SbO混合酸化物の製造
チタン電極(直径15mmおよび厚さ2mmを有する板)の前処理を、実施例1に記載したように実施した。
【0144】
析出浴は、イソプロパノール(i−PrOH)および水(体積比9:1)、56mmol/Lの塩化チタン(IV)(56mM/LのTiCl)、13mmol/Lの塩化ルテニウム(III)(13mM/LのRuCl)、3.7mmol/Lの塩化アンチモン(III)(3.7mM/LのSbCl)、20mmol/Lの塩酸(20mM/LのHCl)、および11mmol/Lの塩化ナトリウム(11mM/LのNaCl)を含んでいた。(実施例において示したアルコール/水の比は、塩および酸の全てを添加した後に得られた最終的な比である。)
【0145】
実施例1に記載したものと同じ装置を用い、析出時間30分間および20分間の二工程で、−28mA/cmの一定カソード電流密度および5℃で、穏やかに撹拌しながら電着を実施した。1.8mgのロード量が析出した。
【0146】
析出層を結晶性酸化物に転化するための熱処理を、実施例2のように実施した。被膜組成の浴組成への依存を表10に示す。
【0147】
【表10】

【0148】
電気化学的に製造したTiO−RuO−SbO試料の表面形態を、図11に、走査型電子顕微鏡写真で示す。この場合も、実施例1a(図1aおよび1b)と同様に、球状構造物と組み合わさった亀甲割れ表面が観察された。
【0149】
実施例5:
チタン上でのTiO−RuO−MnO混合酸化物の製造
チタン電極(直径15mmおよび厚さ2mmを有する板)の前処理を、実施例1に記載したように実施した。
【0150】
析出浴は、イソプロパノール(i−PrOH)および水(体積比9:5)、63mmol/Lの塩化チタン(IV)(63mM/LのTiCl)、15mmol/Lの塩化ルテニウム(III)(15mM/LのRuCl)、3mmol/Lの塩化マンガン(II)(3mM/LのMnCl)、20mmol/Lの塩酸(20mM/LのHCl)、および12mmol/Lの塩化ナトリウム(12mM/LのNaCl)を含んでいた。(実施例において示したアルコール/水の比は、塩および酸の全てを添加した後に得られた最終的な比である。)
【0151】
実施例1に記載したものと同じ装置を用い、析出時間40分間および10分間の二工程で、−80mA/cmの一定カソード電流密度および5℃で、穏やかに撹拌しながら電着を実施した。3.8mgのロード量が析出した。
【0152】
析出層を結晶性酸化物に転化するための熱処理を、実施例2のように実施した。被膜組成の浴組成への依存を表11に示す。
【0153】
【表11】

【0154】
電気化学的に製造したTiO−RuO−MnO試料の表面形態を、図12に、走査型電子顕微鏡写真で示す。この場合も、実施例1a(図1)と同様に、球状構造物と組み合わさった亀甲割れ表面が観察された。
【0155】
実施例6:
チタン上でのTiO−RuO−SnO−SbO四元混合酸化物の製造
チタン電極(直径15mmおよび厚さ2mmを有する板)の前処理を、実施例1に記載したように実施した。
【0156】
析出浴は、イソプロパノール(i−PrOH)および水(体積比9:1)、56mmol/Lの塩化チタン(IV)(56mM/LのTiCl)、13mmol/Lの塩化ルテニウム(III)(13mM/LのRuCl)、2mmol/Lの塩化アンチモン(III)(2mM/LのSbCl)、6.6mmol/Lの塩化スズ(IV)(6.6mM/LのSnCl)、20mmol/Lの塩酸(20mM/LのHCl)、および11mmol/Lの塩化ナトリウム(11mM/LのNaCl)を含んでいた。(実施例において示したアルコール/水の比は、塩および酸の全てを添加した後に得られた最終的な比である。)
【0157】
実施例1に記載したものと同じ装置を用い、各析出時間20分間の二工程で、−29mA/cmの一定カソード電流密度および5℃で、穏やかに撹拌しながら電着を実施した。1.7mgのロード量が析出した。
【0158】
析出層を結晶性酸化物に転化するための熱処理を、実施例2のように実施した。被膜組成の浴組成への依存を表12に示す。
【0159】
【表12】

【0160】
電気化学的に製造したTiO−RuO−SnO−SbO試料の表面形態を、図13に、走査型電子顕微鏡写真で示す。この場合も、実施例1a(図1)と同様に、球状構造物と組み合わさった亀甲割れ表面が観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ルテニウムおよび酸化チタンに基づく電気触媒活性成分および任意に1種以上のドーピング金属元素を含んでなる触媒被膜であって、酸化ルテニウムおよび酸化チタンがルチル型のRuOおよびTiOとして主に存在し、RuOおよびTiOが混合酸化物相として主に存在している触媒被膜。
【請求項2】
1種以上のドーピング金属元素がイリジウム、スズ、アンチモンおよびマンガンからなる群から選択される、請求項1に記載の触媒被膜。
【請求項3】
ルテニウムが、触媒活性成分中の金属の総量に基づいて10〜21mol%の量で存在する、請求項1に記載の触媒被膜。
【請求項4】
RuOおよびTiOの少なくとも75重量%が混合酸化物相として存在する、請求項1に記載の触媒被膜。
【請求項5】
触媒被膜を層として導電性支持材料に適用する工程を含む、酸化ルテニウムおよび酸化チタンに基づく電気触媒活性成分および任意に1種以上のドーピング金属元素を含んでなる触媒被膜の電気化学的製造方法であって、
a)少なくともルテニウム塩およびチタン塩を含有する酸性水溶液からRuおよびTiをヒドロキソ前駆体として析出させることによる、支持体を陰極として接続した電気化学的方法によって、層を支持体に適用し、
b)次いで、ヒドロキソ化合物を含んでなる形成層を少なくとも300℃の温度で熱処理に付して、触媒被膜を形成する方法。
【請求項6】
支持体が金属チタンまたはタンタルに基づいている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程a)における塩溶液が3.5以下のpHを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
工程a)における塩溶液を希塩酸によって酸性に維持する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
水と低級アルコールとの混合物を、工程a)における塩溶液のための溶媒として使用する、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
工程a)における析出中、少なくとも30mA/cmの電流密度(絶対値)を維持する、請求項5に記載の方法。
【請求項11】
工程a)における塩溶液を20℃以下の温度で維持する、請求項5に記載の方法。
【請求項12】
金属酸化物のヒドロキソ前駆体の析出が、電極表面での局所的な塩基形成によって起こる、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
工程b)における熱処理を少なくとも10分間実施する、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の触媒被膜を含んでなる電極。
【請求項15】
混合酸化物相が、X線回折反射において、少なくとも27.54°の角度への、27.477°(CuKα回折スペクトルにおける純TiOルチル相の2θ値)のシフトによって認識できる、請求項1に記載の触媒被膜。
【請求項16】
1種以上のドーピング金属元素がイリジウムである、請求項2に記載の触媒被膜。
【請求項17】
1種以上のドーピング金属元素が20mol%までの量で存在する、請求項2に記載の触媒被膜。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8a】
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【図8b】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−81942(P2013−81942A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−224905(P2012−224905)
【出願日】平成24年10月10日(2012.10.10)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】