説明

計測を行う方法及び計測装置

【課題】計測の精度及び感度を向上する。
【解決手段】センサーチップの流路に蛍光標識液が満たされた状態において、センサーチップのプリズムの入射面に励起光が入射させられ、プリズムの反射面に共鳴角で励起光が入射させられる。流路に満たされる蛍光標識液に含まれる蛍光標識がエバネッセント波で励起される。センサーチップから出射する基準蛍光量が測定される。また、流路にバッファー液が満たされた状態において、入射面に励起光が入射させられ、反射面に共鳴角で励起光が入射させられ、センサーチップの抗原捕捉膜に捕捉された抗原に付加された蛍光標識がエバネッセント波で励起される。センサーチップから出射する蛍光量が測定される。基準蛍光量を用いて蛍光量が規格化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン励起蛍光分光法により計測を行う方法及び表面プラズモン励起蛍光分光法により計測を行う計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体媒体の内部を進行する励起光が金属膜と誘電体媒体との界面に全反射条件を満たして入射する場合は、界面からエバネッセント波がもれだし、金属膜の表面のプラズモンとエバネッセント波とが干渉する。界面への励起光の入射角が共鳴角に設定されプラズモンとエバネッセント波とが共鳴する場合にエバネッセント波の電場は著しく増強される。表面プラズモン励起蛍光分光法(SPFS)による計測においては、この増強された電場が用いられる。
【0003】
SPFSによる計測においては、金属膜の表面に抗原捕捉膜が形成され、抗原捕捉膜に抗原が捕捉され、捕捉された抗原に蛍光標識が付加される。増強された電場が蛍光標識を励起し、蛍光標識から蛍光が放射される。蛍光量が測定され、抗原の有無、抗原の濃度等が求められる。
【0004】
特許文献1及び2の発明は、SPFSによる計測の精度の向上を目的とする。特許文献1及び2の発明においては、散乱光量を用いて蛍光量が規格化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−216532号公報
【特許文献2】特開2009−244018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、エバネッセント波の強度は、センサーチップ及び計測装置のばらつき及び経時変化により変化する。また、蛍光量の測定の精度は、計測装置のばらつき及び経時変化により変化する。このため、抗原の捕捉量が同じ場合でも、蛍光量の測定結果が異なる場合がある。このことは、センサーチップ及び計測装置のばらつき及び経時変化により、計測の精度及び感度が低下することを意味する。
【0007】
本発明は、この問題を解決するためになされる。本発明の目的は、計測の精度及び感度を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1から第8までの局面は、表面プラズモン励起蛍光分光法により計測を行う方法に向けられる。
【0009】
本発明の第1の局面においては、計測用のセンサーチップ、抗原を含む試料液、既知の濃度の蛍光標識を含む蛍光標識液及び蛍光量測定用の液体が準備される。センサーチップは、誘電体媒体、導電体膜、抗原捕捉膜及び流路形成物を備える。誘電体媒体は、入射面、反射面及び出射面を備える。励起光が入射面に入射し反射面に反射され出射面から出射するように入射面、反射面及び出射面が配置される。導電体膜は、第1の主面及び第2の主面を備える。反射面は第1の主面に密着し、抗原捕捉膜は第2の主面に定着する。流路形成物には流路が形成される。抗原捕捉膜は流路の内部に露出する。
【0010】
計測用のセンサーチップの流路に試料液が満たされ、計測用のセンサーチップの抗原捕捉膜に抗原が捕捉させられる。
【0011】
また、計測用のセンサーチップの流路に蛍光標識液が満たされる。
【0012】
計測用のセンサーチップの流路に蛍光標識液が満たされた状態において、計測用のセンサーチップの入射面に励起光が入射させられ、計測用のセンサーチップの反射面に共鳴角で励起光が入射させられる。計測用のセンサーチップの流路に満たされる蛍光標識液に含まれる蛍光標識がエバネッセント波で励起される。計測用のセンサーチップから出射する基準蛍光量が測定される。
【0013】
基準蛍光量が測定された後に計測用のセンサーチップの抗原捕捉膜に捕捉された抗原に蛍光標識が付加される。
【0014】
蛍光標識が付加された後に計測用のセンサーチップの流路に蛍光量測定用の液体が満たされる。
【0015】
計測用のセンサーチップの流路に蛍光量測定用の液体が満たされた状態において、計測用のセンサーチップの入射面に励起光が入射させられ、計測用のセンサーチップの反射面に共鳴角で励起光が入射させられる。計測用のセンサーチップの抗原捕捉膜に捕捉された抗原に付加された蛍光標識がエバネッセント波で励起される。計測用のセンサーチップから出射する蛍光量が測定される。
【0016】
基準蛍光量を用いて蛍光量が規格化され、規格化された蛍光量が求められる。
【0017】
本発明の第2の局面は、本発明の第1の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第2の局面においては、抗原が捕捉された後に、蛍光標識液が満たされ、基準蛍光量が測定される。
【0018】
本発明の第3の局面は、本発明の第1又は第2の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第3の局面においては、規格化された蛍光量と試料液に含まれる抗原の濃度との対応を示す検量線が準備される。規格化された蛍光量に対応する試料液に含まれる抗原の濃度が検量線において求められる。
【0019】
本発明の第4の局面は、本発明の第1から第3までのいずれかの局面にさらなる事項を付加する。本発明の第4の局面においては、上述の蛍光標識液が第1の蛍光標識液であり、上述の既知の濃度が第1の既知の濃度であり、上述の基準蛍光量が第1の基準蛍光量である。
【0020】
事前評価用のセンサーチップ及び第2の既知の濃度の蛍光標識を含む第2の蛍光標識液が準備される。
【0021】
事前評価用のセンサーチップの流路に第2の蛍光標識液が満たされる。
【0022】
事前評価用のセンサーチップの流路に第2の蛍光標識液が満たされた状態において、事前評価用のセンサーチップの入射面に励起光が入射させられ、事前評価用のセンサーチップの反射面に共鳴角で励起光を入射させられる。事前評価用のセンサーチップの流路に満たされた第2の蛍光標識液に含まれる蛍光標識がエバネッセント波で励起される。事前評価用のセンサーチップから出射する第2の基準蛍光量が測定される。
【0023】
規格化された蛍光量が求められる場合は、第1の基準蛍光量を第2の基準蛍光量で除した商を因子として含む補正係数が求められる。蛍光量が補正係数で除される。
【0024】
本発明の第5の局面は、本発明の第4の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第5の局面においては、2個以上の事前評価用のセンサーチップが準備される。2個以上の事前評価用のセンサーチップの各々に対して第2の蛍光標識液が満たされ第2の基準蛍光量が測定される。2個以上の事前評価用のセンサーチップについての第2の基準蛍光量の代表値が求められる。第1の基準蛍光量を代表値で除した商を因子として含む補正係数が求められる。
【0025】
本発明の第6の局面は、本発明の第4又は第5の局面にさらなる事項を付加する。本発明の第6の局面においては、第1の基準蛍光量に含まれるノイズ成分及び第2の基準蛍光量に含まれるノイズ成分が測定される。第1の基準蛍光量から第1の基準蛍光量に含まれるノイズ成分を減ずる補正が行われ、第1の基準蛍光量の補正値が求められる。第2の基準蛍光量から第2の基準蛍光量に含まれるノイズ成分を減ずる補正が行われ、第2の基準蛍光量の補正値が求められる。第1の基準蛍光量の補正値を第2の基準蛍光量の補正値で除した商を因子として含む補正係数が求められる。
【0026】
本発明の第7の局面は、本発明の第4から第6までのいずれかの局面にさらなる事項を付加する。本発明の第7の局面においては、第1の既知の濃度と同じ第2の既知の濃度の蛍光標識を含む第2の蛍光標識液が準備される。
【0027】
本発明の第8の局面は、本発明の第1から第7までのいずれかの局面にさらなる事項を付加する。本発明の第8の局面においては、抗原と特異的に結合する抗体を含まない蛍光標識液が準備される。基準蛍光量が測定された後に、蛍光標識液に抗体が注入される。蛍光標識及び抗体の複合体である蛍光標識抗体が形成される。計測用のセンサーチップの抗原捕捉膜に捕捉された抗原に蛍光標識抗体が結合させられ、計測用のセンサーチップの抗原捕捉膜に捕捉された抗原に蛍光標識が付加される。
【0028】
本発明の第9の局面は、表面プラズモン励起蛍光分光法により計測を行う計測装置に向けられる。
【0029】
本発明の第9の局面においては、センサーチップ、送液機構、照射機構、測定機構及びコントローラーが設けられる。
【0030】
センサーチップは、誘電体媒体、導電体膜、抗原捕捉膜及び流路形成物を備える。誘電体媒体は、入射面、反射面及び出射面を備える。励起光が入射面に入射し反射面に反射され出射面から出射するように入射面、反射面及び出射面が配置される。導電体膜は、第1の主面及び第2の主面を備える。反射面は第1の主面に密着し、抗原捕捉膜は第2の主面に定着する。流路形成物には流路が形成される。抗原捕捉膜は流路の内部に露出する。
【0031】
送液機構は、抗原を含む試料液、既知の濃度の蛍光標識を含む蛍光標識液及び蛍光量測定用の液体を流路に満たす。
【0032】
照射機構は、誘電体媒体に励起光を照射する。
【0033】
測定機構は、センサーチップから出射する光量を測定する。
【0034】
コントローラーは、送液機構、照射機構及び測定機構を制御する。コントローラーは、1次免疫反応進行部、蛍光標識液充填部、基準蛍光量測定部、液体充填部、蛍光量測定部及び演算部を備える。
【0035】
1次免疫反応進行部は、送液機構を制御し、試料液を流路に満たさせ、抗原捕捉膜に抗原を捕捉させる。
【0036】
蛍光標識液充填部は、送液機構を制御し、蛍光標識液を流路に満たさせる。
【0037】
基準蛍光量測定部は、照射機構を制御し、流路に蛍光標識液が満たされた状態であって抗原捕捉膜に捕捉された抗原に蛍光標識が付加される前に、入射面に励起光を入射させ、反射面に共鳴角で励起光を入射させる。流路に満たされた蛍光標識液に含まれる蛍光標識がエバネッセント波で励起される。基準蛍光量測定部は、測定機構を制御し、センサーチップから出射する基準蛍光量を測定する。
【0038】
液体充填部は、送液機構を制御し、抗原捕捉膜に捕捉された抗原に蛍光標識が付加された後に流路に蛍光量測定用の液体を満たさせる。
【0039】
蛍光量測定部は、流路に蛍光量測定用の液体が満たされた状態において、照射機構を制御し、入射面に励起光を入射させ、反射面に共鳴角で励起光を入射させる。抗原捕捉膜に捕捉された抗原に付加された蛍光標識がエバネッセント波で励起される。蛍光量測定部は、測定機構を制御し、センサーチップから出射する蛍光量を測定させる。演算部は、基準蛍光量及び蛍光量を測定機構から取得し、基準蛍光量を用いて蛍光量を規格化し、規格化された蛍光量を求める。
【発明の効果】
【0040】
本発明の第1及び第9の局面によれば、センサーチップの個体差の影響が抑制され、計測の精度及び感度が向上する。
【0041】
本発明の第2の局面によれば、抗原捕捉膜に抗原が捕捉された後に基準蛍光量及び蛍光量の両方が測定される。抗原捕捉膜への抗原の捕捉による共鳴角の変化が規格化に与える影響が抑制される。
【0042】
本発明の第3の局面によれば、正確な抗原の濃度が求められる。
【0043】
本発明の第4の局面によれば、第2の基準蛍光量が測定された時からの経時変化の影響が抑制され、計測の精度が向上する。
【0044】
本発明の第5の局面によれば、事前評価用のセンサーチップの個体差の影響が抑制され、計測の精度が向上する。
【0045】
本発明の第6の局面によれば、ノイズ成分の影響が抑制され、計測の精度が向上する。
【0046】
本発明の第7の局面によれば、第1の基準蛍光量及び第2の基準蛍光量を直接的に対比可能になり、規格化の処理が簡略化される。
【0047】
本発明の第8の局面によれば、基準蛍光量が測定される場合に抗原捕捉膜に捕捉された抗原に蛍光標識が付加されておらず、正確な基準蛍光量が測定され、計測の精度が向上する。
【0048】
これらの及びこれら以外の本発明の目的、特徴、局面及び利点は、添付図面とともに考慮されたときに下記の本発明の詳細な説明によってより明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】計測装置の模式図である。
【図2】センサーチップの斜視図である。
【図3】センサーチップの横断面図である。
【図4】センサーチップの縦断面図である。
【図5】センサーチップの抗原捕捉膜の近傍の断面図である。
【図6】センサーチップの抗原捕捉膜の近傍の断面図である。
【図7】センサーチップの抗原捕捉膜の近傍の断面図である。
【図8】センサーチップの抗原捕捉膜の近傍の断面図である。
【図9】センサーチップの抗原捕捉膜の近傍の断面図である。
【図10】センサーチップの抗原捕捉膜の近傍の断面図である。
【図11】コントローラーのブロック図である。
【図12】計測の流れを示すフローチャートである。
【図13】計測の流れを示すフローチャートである。
【図14】計測の流れを示すフローチャートである。
【図15】検量線を用いた抗原の濃度の演算を説明するグラフである。
【図16】ロットごとの検量線の補正を示すグラフである。
【図17】ロットごとの検量線及び個々のセンサーチップの正確な検量線を示すグラフである。
【図18】検量線の作成の流れを示すフローチャートである。
【図19】基準蛍光量から自家蛍光量を減ずる補正の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0050】
(概略)
この望ましい実施形態は、表面プラズモン励起蛍光分光法(SPFS)により計測を行う方法及びSPFSにより計測を行う計測装置に関する。
【0051】
図1の模式図は、計測装置を示す。図2から図4までの模式図は、センサーチップを示す。図2から図4までは、それぞれ、斜視図、横断面図及び縦断面図である。
【0052】
図1に示すように、計測装置1000は、本体1020、センサーチップ1022及び試薬チップ1024を備える。本体1020は、照射機構1040、測定機構1042、送液機構1044及びコントローラー1046を備える。
【0053】
照射機構1040は、レーザーダイオード1060、直線偏光板1062、ミラー1064及びミラー駆動機構1066を備える。
【0054】
測定機構1042は、光電子増倍管1080、バンドパスフィルター1082、バンドパスフィルター駆動機構1084及びフォトダイオード1086を備える。
【0055】
これらの構成物以外の構成物が計測装置1000に付加されてもよい。これらの構成物の一部が計測装置1000から省略されてもよい。
【0056】
図2から図4までに示すように、センサーチップ1022は、プリズム1100、金膜1102、抗原捕捉膜(図2には図示されていない。)1104及び流路形成物1106を備える。流路形成物1106は、流路形成シート1120及び流路形成蓋1122を備える。プリズム1100は、入射面1140、反射面1142及び出射面1144を備える。流路形成物1106には、流路1160が形成される。
【0057】
図5から図10までの模式図は、センサーチップの抗原捕捉膜の近傍の断面を示す。
【0058】
計測が行われる場合は、図5に示すように、計測される抗原1180を含む試料液1200が流路1160に満たされ、抗原捕捉膜1104に抗原1180が捕捉される。抗原捕捉膜1104への抗原1180の捕捉は、試料液1200に含まれる抗原1180と抗原捕捉膜1104に固定された抗体1320とを結合させる1次免疫反応(抗原−抗体反応)により行われる。
【0059】
抗原1180が捕捉された後に、図6に示すように、蛍光標識1220を含むが抗原1180と特異的に結合する抗体を含まない蛍光標識液1240が流路1160に満たされる。蛍光標識液1240が流路1160に満たされている状態において、基準蛍光量S1が測定される。
【0060】
基準蛍光量S1が測定された後に、図7に示すように、抗原1180と特異的に結合する抗体1242が蛍光標識液1240に注入される。これにより、図8に示すように、蛍光標識1220及び抗体1242が結合し、蛍光標識1220及び抗体1242の複合体である蛍光標識抗体1260が形成される。蛍光標識抗体1260は、図9に示すように、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180に結合する。これにより、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180に蛍光標識1220が付加される。抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180への蛍光標識1220の付加は、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180と蛍光標識液1240に含まれる抗体1242とを結合させる2次免疫反応により行われる。
【0061】
蛍光標識1220が付加された後に、図10に示すように、バッファー液1280が流路1160に満たされる。バッファー液1280が流路1160に満たされた状態において、蛍光量S2が測定される。
【0062】
基準蛍光量S1が測定される場合及び蛍光量S2が測定される場合は、図6及び図10に示すように、励起光ELがプリズム1100に照射される。励起光ELは、図3に示すように、入射面1140に入射し、反射面1142に反射され、出射面1144から出射する。励起光ELが全反射条件を満たして反射面1142に入射する場合は、図6及び図10に示すように、プリズム1100と金膜1102との界面から金膜1102の側へエバネッセント波EWがもれだす。エバネッセント波EWと金膜1102の表面のプラズモンとは共鳴し、エバネッセント波EWの電場が増強される。基準蛍光量S1が測定される場合及び蛍光量S2が測定される場合は、望ましくは励起光ELが同じ条件でプリズム1100に照射される。
【0063】
基準蛍光量S1が測定される場合は、図6に示すように、流路1160に満たされる蛍光標識液1240に含まれる蛍光標識1220がエバネッセント波EWで励起される。このとき、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180には蛍光標識1220がまだ付加されていない。基準蛍光量S1は、主に、流路1160に満たされる蛍光標識液1240に含まれエバネッセント波EWで励起された蛍光標識1220から放射される蛍光FL1の強度である。基準蛍光量S1は、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180の量に依存せず、蛍光標識液1240に含まれる蛍光標識1220の濃度が既知である場合は、エバネッセント波EWの強度の指標になる。
【0064】
蛍光量S2が測定される場合は、図10に示すように、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180に付加された蛍光標識1220がエバネッセント波EWで励起される。蛍光量S2は、主に、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180に付加されエバネッセント波EWで励起された蛍光標識1220から放射される蛍光FL2の強度である。蛍光量S2は、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180の量の指標になるが、エバネッセント波EWの強度にも依存する。
【0065】
蛍光量S2のエバネッセント波EWの強度への依存性を解消するため、基準蛍光量S1を用いて蛍光量S2が規格化される。これにより、センサーチップ1022の個体差の影響が抑制され、計測の精度及び感度が向上する。「規格化」とは、基準蛍光量S1に対する蛍光量S2の相対的な関係を特定することをいう。
【0066】
(センサーチップ)
図2から図4までに示すように、反射面1142は金膜1102の一方の主面1300に密着させられ、抗原捕捉膜1104は金膜1102の他方の主面1302に定着させられる。流路形成物1106は、金膜1102及び抗原捕捉膜1104が形成されたプリズム1100に接合される。
【0067】
センサーチップ1022は、「検査チップ」「分析チップ」「バイオチップ」「試料セル」等とも呼ばれる。センサーチップ1022は、望ましくは各辺の長さが数mmから数cmまでの範囲内にある構造物であるが、より小型の又はより大型の構造物であってもよい。
【0068】
(プリズム)
図2から図4までに示すように、プリズム1100は、台形柱体である。プリズム1100は、望ましくは等脚台形柱体である。プリズム1100の一方の傾斜側面は入射面1140になる。プリズム1100の幅広の平行側面は反射面1142になる。プリズム1100の他方の傾斜側面は出射面1144になる。
【0069】
励起光ELが入射面1140へ入射し全反射条件を満たして反射面1142に入射し反射面1142に反射され出射面1144から出射するように入射面1140、反射面1142及び出射面1144が配置される。
【0070】
プリズム1100の形状は、励起光ELを共鳴角で反射面1142に入射させることができるように決められる。この条件が満たされる限り、プリズム1100が台形柱体以外でもよく、プリズム1100が「プリズム」とは呼びがたい形状物に置きかえられてもよい。例えば、プリズム1100が半円柱体であってもよく、プリズム1100が板に置きかえられてもよい。
【0071】
プリズム1100は、励起光ELに対して透明な誘電体からなる誘電体媒体である。プリズム1100の材質は、樹脂、ガラス等である。プリズム1100の材質が樹脂である場合は、プリズム1100は、望ましくは射出成型により作製される。
【0072】
(金膜)
金膜1102は、薄膜である。金膜1102の膜厚は、望ましくは100nm以下であり、さらに望ましくは40〜50nmである。ただし、金膜1102の膜厚がこの範囲外であってもよい。
【0073】
金膜1102が表面プラズモン共鳴を発生させる他の種類の導電体からなる導電体膜に置きかえられてもよい。例えば、金膜1102が銀、銅、アルミニウム等の金属又はこれらの金属を含む合金からなる導電体膜に置きかえられてもよい。
【0074】
金膜1102は、スパッタリング、蒸着、メッキ等により形成される。
【0075】
(抗原捕捉膜)
図5に示すように、抗原捕捉膜1104には計測される抗原1180と結合する抗体1320が固定される。試料液1200が抗原捕捉膜1104に接触した場合は、試料液1200に含まれる抗原1180が抗原捕捉膜1104に固定された抗体1320と結合し、試料液1200に含まれる抗原1180が抗原捕捉膜1104に捕捉される。
【0076】
図3及び図4に示すように、抗原捕捉膜1104は、流路1160の内部に露出する。試料液1200、蛍光標識液1240、バッファー液1280等の液体が流路1160に満たされた場合は、流路1160に満たされた液体が抗原捕捉膜1104に接触し、エバネッセント波が生じる空間が液体で埋められる。
【0077】
抗原捕捉膜1104は、非流動体からなる。したがって、液体が抗原捕捉膜1104に接触しても、抗原捕捉膜1104は移動しない。
【0078】
抗原捕捉膜1104は、ラバー製のアプリケーターによりパターニングされ、金膜1102の他方の主面1302の一部にのみ定着する。抗原捕捉膜1104が他の方法によりパターニングされてもよい。抗原捕捉膜1104の平面形状は、円形、多角形等である。抗原捕捉膜1104の径は、望ましくは数mmである。抗原捕捉膜1104の厚さは、望ましくは100nm以下であり、さらに望ましくは60nm以下である。
【0079】
抗原捕捉膜1104が形成される場合は、金膜1102の他方の主面1302に自己組織化(SAM)膜が形成され、自己組織化膜上に固相支持体層が形成され、固相支持体層に抗体1320が固定される。
【0080】
自己組織化膜が形成される場合は、自己組織化膜を構成する物質が溶解又は分散させられた液体に金膜1102が形成されたプリズム1100が浸漬される。例えば、11−アミノ−1−ウンデカンチオール等のアルカンチオール誘導体のエタノール溶液に金膜1102が形成されたプリズム1100が浸漬される。
【0081】
固相支持体層が形成される場合は、固相支持体層を構成する物質が溶解又は分散させられた液体に金膜1102が形成されたプリズム1100が浸漬される。例えば、カルボキシメチルデキストラン(CMD)が溶解させられたバッファー液に金膜1102が形成されたプリズム1100が浸漬される。バッファー液は、例えば、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)及び塩化ナトリウム(NaCl)の水溶液である。
【0082】
(流路形成物)
図4に示すように、流路1160は、一方の開口1340から流路形成物1106の内部を経由して他方の開口1342へ至る。流路1160の一部は、金膜1102及び抗原捕捉膜1104が形成されたプリズム1100に接合される面に露出する。
【0083】
流路形成シート1120には反応室1360が形成される。流路形成蓋1122には経路1362及び1364が形成される。反応室1360並びに経路1362及び1364により流路1160が構成される。
【0084】
反応室1360は、流路形成シート1120の両主面を貫通する孔である。一方の経路1362は、一方の開口1340から反応室1360の一端へ至る孔である。他方の経路1364は、反応室1360の他端から他方の開口1342へ至る孔である。
【0085】
流路形成シート1120は、ポリエチレンテレフタラート等からなる基材の両主面にアクリル系粘着剤等の粘着剤からなる層が形成された両面粘着シートであり、金膜1102及び抗原捕捉膜1104が形成されたプリズム1100と流路形成蓋1122とを接合する。
【0086】
流路形成蓋1122は、表面プラズモン励起蛍光(蛍光FL1及びFL2)に対して透明な材質からなる。流路形成蓋1122は、例えば、樹脂、ガラス等からなる。流路形成蓋1122が樹脂である場合は、流路形成蓋1122は、望ましくは射出成型により作製される。
【0087】
流路形成シート1120及び流路形成蓋1122が一体物であってもよい。
【0088】
(送液機構)
図1に示すように、送液機構1044は、液体をセンサーチップ1022へ供給し、液体をセンサーチップ1022から回収する。液体がセンサーチップ1022へ供給される場合は、一方の開口1340へ液体が供給され、流路1160が液体で満たされ、液体が抗原捕捉膜1104に接触する。液体が計測用のセンサーチップ1022から回収される場合は、一方の開口1340から液体が回収され、流路1160が空又は空に近い状態になる。
【0089】
送液機構1044は、例えば、ポンプにより送液元から液体を吸引し、送液元から送液先へポンプを搬送し、ポンプにより送液先へ液体を吐出する。送液元から送液先へ至る配管に液体が流されてもよい。
【0090】
(レーザーダイオード)
図1に示すように、レーザーダイオード1060は励起光ELを放射する。
【0091】
レーザーダイオード1060が他の形式の光源に置きかえられてもよい。例えば、レーザーダイオード1060が発光ダイオード、水銀灯、レーザーダイオード以外のレーザー等に置きかえられてもよい。
【0092】
光源から放射される光が平行光線でない場合は、レンズ、ミラー、スリット等により光が平行光線へ変換される。光が直線偏光でない場合は、直線偏光板等により光が直線偏光へ変換される。光が単色光でない場合は、回折格子等により光が単色光へ変換される。
【0093】
(直線偏光板)
図1に示すように、直線偏光板1062は、励起光ELの光路上に配置され、レーザーダイオード1060から放射された励起光ELを直線偏光へ変換する。励起光ELの偏光方向は、励起光ELがプリズム1100の反射面1142に対してp偏光になるように選択される。これにより、エバネッセント波EWのもれだしが増加し、表面プラズモン励起蛍光の光量が増加し、計測の精度及び感度が向上する。
【0094】
(ミラー及びミラー駆動機構)
図1に示すように、ミラー1064は、励起光ELの光路上に配置され、直線偏光板1062を通過した励起光ELを反射する。ミラー1064により反射された励起光ELは、プリズム1100に照射される。プリズム1100に照射された光は、図3に示すように、入射面1140へ入射し、反射面1142に反射され、出射面1144から出射する。反射面1142への励起光ELの入射角θは、全反射条件θc≦θを満たす(θc:臨界角)。
【0095】
ミラー駆動機構1066は、モーター、圧電アクチュエーター、電磁モーター等の駆動力源を備え、ミラー1064を回転させ、ミラー1064の姿勢を調整する。また、ミラー駆動機構1066は、リニアステッピングモーター等の駆動力源を備え、レーザーダイオード1060の光軸方向にミラー1064を移動させ、ミラー1064の位置を調整する。これにより、反射面1142における励起光ELの入射位置を抗原捕捉膜1104が定着する領域の裏側に維持したまま反射面1142への励起光ELの入射角θを調整できる。
【0096】
照射機構1040又はセンサーチップ1022の位置又は姿勢を調整することにより入射角θが調整されてもよい。
【0097】
(光電子増倍管)
図1に示すように、光電子増倍管1080は、センサーチップ1022から出射する蛍光FL1及びFL2の光路上に配置され、基準蛍光量S1及び蛍光量S2を測定する。光電子増倍管1080が他の形式の光量センサーに置きかえられてもよい。例えば、光電子増倍管1080が電荷結合素子(CCD)センサー等に置きかえられてもよい。
【0098】
(バンドパスフィルター)
図1に示すように、バンドパスフィルター1082は蛍光FL1及びFL2の光路上に配置される。バンドパスフィルター1082は、通過域に含まれる波長の光を透過し、阻止域に含まれる波長の光を減衰させる。通過域は蛍光FL1及びFL2の波長を含むように選択され、阻止域は励起光ELの波長を含むように選択される。
【0099】
散乱された励起光ELはバンドパスフィルター1082により減衰し、散乱された励起光EL(以下では「散乱光」という。)のごく一部が光電子増倍管1080に到達するが、蛍光FL1及びFL2はバンドパスフィルター1082を透過し、蛍光FL1及びFL2の大部分が光電子増倍管1080に到達する。これにより、相対的に小さい基準蛍光量S1及び蛍光量S2が測定される場合に散乱光の影響が抑制され、計測の精度が向上する。バンドパスフィルター1082がローパスフィルターに置きかえられてもよい。
【0100】
(バンドパスフィルター駆動機構)
図1に示すように、バンドパスフィルター駆動機構1084は、バンドパスフィルター1082が蛍光FL1及びFL2の光路上に配置された状態とバンドパスフィルター1082が蛍光FL1及びFL2の光路上に配置されない状態とを切り替える。
【0101】
(フォトダイオード)
図1に示すように、フォトダイオード1086は、プリズム1100と金膜1102との界面において反射された励起光EL(以下では「反射光」という)の光路上に配置され反射光量を測定する。フォトダイオード1086が他の形式の光量センサーに置きかえられてもよい。例えば、フォトダイオード1086がフォトトランジスター、フォトレジスター等に置きかえられてもよい。
【0102】
(コントローラー)
コントローラー1046は、制御プログラムを実行する組み込みコンピューターである。1個の組み込みコンピューターがコントローラー1046の機能を担ってもよいし、2個以上の組み込みコンピューターが分担してコントローラー1046の機能を担ってもよい。ソフトウエアを伴わないハードウエアがコントローラー1046の全部又は一部の機能を担ってもよい。ハードウエアは、例えば、オペアンプ、コンパレーター等の電子回路であるが、リンク機構等の機械的な機構がハードウエアに含まれてもよい。コントローラー1046による処理の全部又は一部が、手作業により実行されてもよく、計測装置1000の外部において実行されてもよい。
【0103】
図11のブロック図は、コントローラーを示す。コントローラー1046は、照射機構1040、測定機構1042及び送液機構1044を制御する。
【0104】
図11に示すように、コントローラー1046は、試料液準備部1400、1次免疫反応進行部1402、試料液排出部1404、第1の流路洗浄部1406、第1のバッファー液充填部1408、共鳴角検出部1410、自家蛍光量測定部1412、バッファー液排出部1414、蛍光標識液充填部1416、基準蛍光量測定部1418、2次免疫反応進行部1420、蛍光標識液排出部1422、第2の流路洗浄部1424、第2のバッファー液充填部1426、蛍光量測定部1428及び演算部1430を備える。これらのブロックによる制御、演算等の具体的内容は、計測の流れの欄において説明される。
【0105】
(計測の流れ)
図12から図14までのフローチャートは、計測の流れを示す。
【0106】
(本体、計測用のセンサーチップ及び試薬チップの準備)
図12から図14までに示すように、計測が行われる場合は、本体1020が準備され(ステップS101)、計測用のセンサーチップ1022が準備され(ステップS102)、試薬チップ1024が準備される(ステップS103)。
【0107】
コントローラー1046には、検量線及び検量線の作成時に測定された基準蛍光量S0が記憶されている。検量線及び基準蛍光量S0は、典型的には、センサーチップ1022の製造事業者によりンサーチップ1022の製造ロットごとに作成され、センサーチップ1022の使用者に提供される。検量線及び基準蛍光量S0がセンサーチップ1022の製造事業者以外により準備されてもよい。例えば、検量線及び基準蛍光量S0がセンサーチップ1022の使用者により準備されてもよい。検量線及び基準蛍光量S0が製造ロット以外の単位ごとに準備されてもよい。例えば、検量線及び基準蛍光量S0がセンサーチップ1022の品種ごとに準備されてもよい。検量線及び基準蛍光量S0は、光学ディスク、メモリーカード等の記録媒体に記録された状態で提供されてもよいし、ネットワーク等の電気通信回線を経由して提供されてもよいし、バーコード等の図形に担持された状態で提供されてもよい。検量線及び基準蛍光量S0は、センサーチップ1022の使用者により本体1020に記憶させられる。検量線及び基準蛍光量S0が電気通信回線を経由して提供される場合は、計測装置1000が電気通信回線を経由して直接的に検量線及び基準蛍光量S0を取得してもよい。
【0108】
試薬チップ1024には、検体、蛍光標識液、バッファー液、希釈液、洗浄液等の計測に必要な液体が収容される。検体は、典型的には、血液等の人間からの採取物であるが、人間以外の生物からの採取物であってもよく、非生物からの採取物であってもよい。血液は、血漿、血清及び全血のいずれでもよい。バッファー液は、抗体1320、抗原1180及び蛍光標識抗体1260を失活させないpHを維持する緩衝能を持つ。抗体1320、抗原1180及び蛍光標識抗体1260を失活させず蛍光量S2の測定を阻害しない限り、バッファー液に代えて緩衝能を持たない蛍光量測定用の液体が用いられてもよい。
【0109】
(計測用のセンサーチップ及び試薬チップの取り付け)
本体1020、計測用のセンサーチップ1022及び試薬チップ1024が準備された後に、計測用のセンサーチップ1022及び試薬チップ1024が本体1020に取り付けられる(ステップS104)。
【0110】
(試料液の準備)
計測用のセンサーチップ1022及び試薬チップ1024が取り付けられた後に、試料液1200が準備される(ステップS105)。試料液1200が準備される場合は、送液機構1044が試料液準備部1400により制御され、送液機構1044により検体及び希釈液があらかじめ決められた希釈率で混合される。検体がそのまま試料液1200とされてもよい。試料液1200の調製が手作業で行われてもよい。試料液1200の調製が手作業で行われる場合は、当該手作業は計測装置1000の内部で行われてもよいし外部で行われてもよい。
【0111】
(1次免疫反応の進行)
試料液1200が準備された後に、1次免疫反応が進行させられる(ステップS106)。1次免疫反応が進行させられる場合は、送液機構1044が1次免疫反応進行部1402により制御され、送液機構1044により試料液1200が計測用のセンサーチップ1022へ供給され試料液1200が流路1160に満たされる。これにより、試料液1200が抗原捕捉膜1104に接触し、試料液1200に含まれる抗原1180が抗原捕捉膜1104に固定された抗体1320に結合し、試料液1200に含まれる抗原1180が抗原捕捉膜1104に捕捉される。抗原捕捉膜1104への抗原1180の捕捉が完了するまで試料液1200が流路1160に満たされた状態が維持される。試料液1200は、試料液1200が抗原捕捉膜1104に十分に接触する程度に流路1160に満たされればよい。すなわち、主に反応室1360が試料液1200で満たされればよく、流路1160の全体が試料液1200で満たされることは必ずしも必要がない。
【0112】
(試料液の排出)
抗原1180の捕捉が完了した後に、試料液1200が流路1160から排出される(ステップS107)。試料液1200が排出される場合は、送液機構1044が試料液排出部1404により制御され、送液機構1044により計測用のセンサーチップ1022から試料液1200が回収され、流路1160が空になる。
【0113】
(流路の洗浄)
試料液1200が排出された後に、流路1160が洗浄される(ステップS108)。流路1160が洗浄される場合は、送液機構1044が第1の流路洗浄部1406により制御され、送液機構1044により洗浄液が計測用のセンサーチップ1022へ供給され、送液機構1044により洗浄液が計測用のセンサーチップ1022から回収される。これにより、未反応の抗原1180、不要物等が流路1160から除去される。未反応の抗原1180、不要物の残存が無視できるほど少ない場合は、流路1160の洗浄が省略されてもよい。
【0114】
(バッファー液の充填)
流路1160が洗浄された後に、流路1160がバッファー液で満たされる(ステップS109)。流路1160がバッファー液で満たされる場合は、送液機構1044が第1のバッファー液充填部1408により制御され、送液機構1044によりバッファー液が計測用のセンサーチップ1022へ供給される。バッファー液は、エバネッセント波EWがもれだす空間を埋める程度に流路1160に満たされればよい。
【0115】
(共鳴角の検出)
流路1160がバッファー液で満たされた状態において、共鳴角が検出される(ステップS110)。共鳴角が検出される場合は、照射機構1040が共鳴角検出部1410により制御され、照射機構1040によりプリズム1100に励起光ELが照射される。励起光ELは、入射面1140に入射し、全反射条件を満たして反射面1142に入射し、反射面1142に反射され、反射光になって出射面1144から出射する。このとき、ミラー駆動機構1066により予想される共鳴角の付近において入射角θが走査される。入射角θが走査されている間に、共鳴角検出部1410により測定機構1042が制御され、反射光量がフォトダイオード1086により測定される。共鳴角検出部1410は、入射角θ及び反射光量を取得し、反射光量が極小になる入射角θを特定する。反射光量が極小になる入射角θ又はその補正値は、電場増強度が極大になる共鳴角であるとみなされる。反射光量が極小になる入射角θと電場増強度が極大になる入射角θとのずれを無視できない場合は、反射光量が極小になる入射角θに微小角を加算又は減算する補正が行われる。これ以外の方法により共鳴角が検出されてもよい。例えば、散乱光量が極大になる入射角θから共鳴角が検出されてもよい。大部分の場合は計測ごとに共鳴角が検出されるが、計測ごとの共鳴角の変動を無視できる場合は、バッファー液の供給及び共鳴角の検出が省略され、固定された共鳴角で反射面1142に励起光ELが入射させられてもよい。
【0116】
(自家蛍光量の測定)
共鳴角が検出された後に、流路1160がバッファー液で満たされた状態において、自家蛍光量S1aが測定される(ステップS111)。自家蛍光量S1aが測定される場合は、照射機構1040が自家蛍光量測定部1412により制御され、照射機構1040によりプリズム1100に励起光ELが照射される。このとき、入射角θは共鳴角に設定される。励起光ELは、入射面1140に入射し、共鳴角で反射面1142に入射し、反射面1142に反射され、出射面1144から出射する。励起光ELが照射されている間に、測定機構1042が自家蛍光量測定部1412により制御され、計測用のセンサーチップ1022から出射する自家蛍光量S1aが光電子増倍管1080により測定される。計測用のセンサーチップ1022から出射する蛍光は、主に、プリズム1100により放射される自家蛍光である。演算部1430は、光電子増倍管1080から自家蛍光量S1aを取得する。後述する自家蛍光量S1aを減ずる補正が省略される場合は、自家蛍光量S1aの測定が省略されてもよい。
【0117】
(バッファー液の排出)
自家蛍光量S1aが測定された後に、バッファー液が流路1160から排出される(ステップS112)。バッファー液が排出される場合は、送液機構1044がバッファー液排出部1414により制御され、送液機構1044によりバッファー液が計測用のセンサーチップ1022から回収される。
【0118】
(蛍光標識液の充填)
バッファー液が回収された後に、流路1160が蛍光標識液1240で満たされる(ステップS113)。流路1160が蛍光標識液1240で満たされる場合は、送液機構1044が蛍光標識液充填部1416により制御され、送液機構1044により蛍光標識液1240が計測用のセンサーチップ1022に供給される。
【0119】
(基準蛍光量の測定)
流路1160に蛍光標識液1240が満たされた状態において、基準蛍光量S1が測定される(ステップS114)。基準蛍光量S1が測定される場合は、照射機構1040が基準蛍光量測定部1418に制御され、照射機構1040によりプリズム1100に励起光ELが照射される。励起光ELは、入射面1140に入射し、共鳴角で反射面1142に入射し、反射面1142に反射され、出射面1144から出射する。励起光ELが照射されている間に、測定機構1042が基準蛍光量測定部1418により制御され、計測用のセンサーチップ1022から出射する基準蛍光量S1が光電子増倍管1080により測定される。演算部1430は、光電子増倍管1080から基準蛍光量S1を取得する。
【0120】
(2次免疫反応の進行)
基準蛍光量S1が測定された後に、2次免疫反応が進行させられる(ステップS115)。2次免疫反応が進行させられる場合は、送液機構1044が2次免疫反応進行部1420により制御され、送液機構1044により抗体1242が蛍光標識液1240に注入される。抗体1242は、計測される抗原1180と特異的に結合する。注入された抗体1242と蛍光標識液1240に含まれる蛍光標識1220とは結合し、抗体1242と蛍光標識1220との複合体である蛍光標識抗体1260が形成される。蛍光標識抗体1260は、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180に結合する。これにより、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180に蛍光標識1220が付加される。付加される蛍光標識1220の数は、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180の数に比例する。
【0121】
基準蛍光量S1が測定された後に蛍光標識液1240に抗体1242が注入される場合は、基準蛍光量S1が測定されるときに抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180に蛍光標識1220が付加されていない。このため、正確な基準蛍光量S1が測定され、計測の精度が向上する。
【0122】
基準蛍光量S1が測定された後に代えて基準蛍光量S1が測定される前に抗体1242が蛍光標識液1240に注入されてもよい。計測される抗原1180と特異的に結合する抗体1242を含まない蛍光標識液1240に代えて蛍光標識抗体1260が既に形成された蛍光標識液1240で流路1160が満たされてもよい。これらの場合は、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180に蛍光標識1220が付加される前に基準蛍光量S1が測定され、基準蛍光量S1が測定された後には抗体1242は注入されない。抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180に蛍光標識1220が付加されるまでには多くの場合は数分の時間を要するので、抗体1242が蛍光標識液1240に注入されてから、又は、蛍光標識抗体1260が既に形成された蛍光標識液1240で流路1160が満たされてから、数十秒以内に基準蛍光量S1の測定が完了した場合には、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180に蛍光標識1220が付加される前に基準蛍光量S1の測定が完了する。
【0123】
試料液1200に含まれる抗原1180の濃度が高い場合は、抗原捕捉膜1104に捕捉される抗原1180の量も多いため、2次免疫反応が進行すると抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180に多くの蛍光標識1220が付加される。したがって、試料液1200に含まれる抗原1180の濃度が高い場合に2次免疫反応が十分に進行した後に基準蛍光量S1が測定されたときは、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180に捕捉された蛍光標識1220から放射される蛍光量が大きくなり、基準蛍光量S1が正確に測定されない。
【0124】
(蛍光標識液の排出)
蛍光標識1220の付加が完了した後に、蛍光標識液1240が流路1160から排出される(ステップS116)。蛍光標識液1240が排出される場合は、送液機構1044が蛍光標識液排出部1422により制御され、送液機構1044により蛍光標識液1240が計測用のセンサーチップ1022から回収される。
【0125】
(流路の洗浄)
蛍光標識液1240が排出された後に、流路1160が洗浄される(ステップS117)。流路1160が洗浄される場合は、送液機構1044が第2の流路洗浄部1424により制御され、洗浄液が計測用のセンサーチップ1022へ供給され、洗浄液が計測用のセンサーチップ1022から回収される。これにより、未反応の蛍光標識抗体1260等が流路1160から除去される。未反応の蛍光標識抗体1260等の残存が無視できるほど少ない場合は、流路1160の洗浄が省略されてもよい。
【0126】
(バッファー液の充填)
流路1160が洗浄された後に、流路1160がバッファー液1280で満たされる(ステップS118)。流路1160がバッファー液1280で満たされる場合は、送液機構1044が第2のバッファー液充填部1426により制御され、送液機構1044によりバッファー液1280が計測用のセンサーチップ1022へ供給される。バッファー液は、エバネッセント波EWがもれだす空間を埋める程度に流路1160に満たされればよい。
【0127】
(蛍光量の測定)
流路1160がバッファー液1280に満たされた状態において、蛍光量S2が測定される(ステップS119)。蛍光量S2が測定される場合は、照射機構1040が蛍光量測定部1428により制御され、照射機構1040によりプリズム1100に励起光ELが照射される。励起光ELは、入射面1140に入射し、共鳴角で反射面1142に入射し、反射面1142に反射され、出射面1144から出射する。励起光ELが照射されている間に、測定機構1042が蛍光量測定部1428により制御され、計測用のセンサーチップ1022から出射する蛍光量S2が光電子増倍管1080により測定される。演算部1430は、光電子増倍管1080から蛍光量S2を取得する。
【0128】
(規格化された蛍光量の演算)
蛍光量S2が測定された後に、規格化された蛍光量S3が求められる(ステップS120)。規格化された蛍光量S3が求められる場合は、基準蛍光量S1を基準蛍光量S0で除した商S1/S0を因子として含む補正係数K=S1/S0が求められる。蛍光量S2が補正係数Kで除され、規格化された蛍光量S3=S2/Kが求められる。これにより、検量線が作成された時からの経時変化の影響が抑制され、計測の精度が向上する。
【0129】
計測時に準備された蛍光標識液1240に含まれる蛍光標識1220の濃度M1と検量線作成時に準備された蛍光標識液1240に含まれる蛍光標識1220の濃度M0とが同じ(M1=M0)場合は、基準蛍光量S1と蛍光量S0とを直接的に対比可能になる。このため、基準蛍光量S1を基準蛍光量S0で除した商S1/S0がそのまま補正係数Kになり、規格化の処理が簡略化される。ただし、濃度M1と濃度M0とが異なる(M1≠M0)場合も規格化は可能である。この場合は、補正係数K=(S1/M1)/(S0/M0)が用いられる。
【0130】
(抗原の濃度の演算)
規格化された蛍光量S3が求められた後に、抗原1180の濃度D1が求められる(ステップS121)。
【0131】
図15のグラフは、検量線を用いた抗原の濃度の演算を説明する。図15に示される検量線は、蛍光量(縦軸)と試料液に含まれる抗原の濃度(横軸)との対応を示す。図15には、コントローラー1046に実際に記憶されている規格化された蛍光量と試料液1200に含まれる抗原1180の濃度との対応を示す製造ロットごとの検量線LA及び蛍光量と試料液1200に含まれる抗原1180の濃度との正確な対応を示す検量線LBが描かれている。図15に示すように、演算部1430は、検量線LAを参照し、規格化された蛍光量S3に対応する抗原1180の濃度D1を検量線LAにおいて求める。これにより、検量線LBにおいて蛍光量S2に対応する抗原1180の濃度が求められた場合に近い正確な抗原1180の濃度D1が求められる。
【0132】
(基準蛍光量の測定のタイミング)
蛍光標識液1240の充填(ステップS113)及び基準蛍光量S1の測定(ステップS114)は、望ましくは1次免疫反応の進行(ステップS106)の後に実行される。これにより、抗原捕捉膜1104に抗原1180が捕捉された後に基準蛍光量S1及び蛍光量S2の両方が測定され、抗原捕捉膜1104への抗原1180の捕捉による共鳴角の変化の影響が抑制される。ただし、計測の精度がやや低下することが許される場合又は共鳴角の検出が2回以上行われることが許される場合は、蛍光標識液1240の充填及び基準蛍光量S1の測定が1次免疫反応の進行の前に実行されてもよい。
【0133】
(測定される蛍光量を左右する因子)
測定される蛍光量は、反射面1142に入射する励起光ELの光量、電場増強度、抗原捕捉膜1104に捕捉された抗原1180の量及び測定機構1042の感度等に依存する。
【0134】
反射面1142に入射する励起光ELの光量は、レーザーダイオード1060が放射する光の光量、レーザーダイオード1060が放射する光においてp偏光成分が占める比率、プリズム1100の透過率、プリズム1100のp偏光成分の維持率等に依存する。
【0135】
電場増強度は、金膜1102の膜厚、金膜1102の屈折率、プリズム1100の屈折率、抗原捕捉膜1104の膜厚、抗原捕捉膜1104の屈折率、反射面1142への励起光ELの入射角θ等に依存する。
【0136】
抗原捕捉膜1104に捕捉される抗原1180の量は、抗原捕捉膜1104に固定されている抗体1320の密度、抗原捕捉膜1104において抗体1320が固定されている範囲の面積、1次免疫反応を進行させる時間、抗原捕捉膜1104に固定された抗体1320の活性度、蛍光標識1220による標識率、蛍光標識1220の活性度、試料液1200に含まれる抗原1180の濃度等に依存する。
【0137】
測定機構1042の感度は、集光レンズの透過率、バンドバスフィルター1082の透過率、光電子増倍管1080の感度等に依存する。
【0138】
このように、測定される蛍光量は、試料液1200に含まれる抗原1180の濃度以外の多数の因子に依存し、本体1020、センサーチップ1022及び蛍光標識液1240の個体差及び経時変化に左右される。
【0139】
(ロットごとの検量線の補正)
図16のグラフは、ロットごとの検量線の補正を示す。図17のグラフは、ロットごとの検量線及び個々のセンサーチップの正確な検量線を示す。
【0140】
図16に示すように、ロットごとの検量線LCが提供される場合は、提供された検量線LCに対して本体1020、センサーチップ1022及び試薬チップ1024の経時変化を考慮した補正が行われ、補正された検量線LDが用いられる。
【0141】
しかし、図17に示すように、個々のセンサーチップ1022の正確な検量線LE及びLFは、ロットごとの検量線LDと必ずしも同じではなく、一方のセンサーチップ1022の検量線LEと他方のセンサーチップ1022の検量線LFとは必ずしも同じではないこのため、補正された検量線LDが用いられても、センサーチップ1022の個体差の影響により計測の精度が低下する。
【0142】
しかし、基準蛍光量S1を用いて蛍光量S2が規格され、センサーチップ1022ごとに補正が行われた場合は、多数の因子の影響を個別に考慮しなくても、多数の因子の影響がまとめて抑制され、センサーチップ1022の個体差の影響が抑制される。これにより、計測の精度及び感度が向上し、検出下限の抗原1180の濃度が低くなる。
【0143】
(検量線の作成)
図18のフローチャートは、検量線の作成の流れを示す。
【0144】
図18に示すように、検量線が作成される場合は、2個以上の検量線作成用のセンサーチップ1022が準備され(ステップS151)、蛍光標識液1240が準備される(ステップS152)。準備される検量線作成用のセンサーチップ1022の数が1個であってもよい。この場合は、後述する基準蛍光量S0の代表値S0’の演算(ステップS159)が省略される。検量線作成用のセンサーチップ1022は、基準蛍光量S0の事前評価用のセンサーチップ1022を兼ねる。検量線作成用のセンサーチップ1022と基準蛍光量S0の事前評価用のセンサーチップ1022とが別個であってもよい。検量線作成用のセンサーチップ1022及び計測用のセンサーチップ1022は、同じ製造ロットのセンサーチップ1022から選択される。検量線及び基準蛍光量S0が製造ロット以外の単位ごとに準備される場合は、検量線及び基準蛍光量S0が準備される単位となるセンサーチップ1022の集団から検量線作成用のセンサーチップ1022及び計測用のセンサーチップ1022が選択される。望ましくは、基準蛍光量S0が測定される場合に使用される蛍光標識液1240に含まれる蛍光標識1220の濃度M0は、基準蛍光量S1が測定される場合に使用される蛍光標識1220に含まれる蛍光標識1220の濃度M1と同じ既知の濃度である。
【0145】
検量線作成用のセンサーチップ1022及び蛍光標識液1240が準備された後に、計測時と同じように、流路1160がバッファー液で満たされ(ステップS153)、共鳴角が検出され(ステップS154)、自家蛍光量S0aが測定され(ステップS155)、バッファー液が排出される(ステップS156)。また、流路1160が蛍光標識液1240で満たされ(ステップS157)、基準蛍光量S0が測定される(ステップS158)。ステップS153からステップS158までは、2個以上の検量線作成用のセンサーチップ1022の各々に対して実行される。
【0146】
基準蛍光量S0が測定された後に、2個以上の検量線作成用のセンサーチップ1022についての基準蛍光量S0の代表値S0’が求められる(ステップS159)。代表値S0’は、2個以上の検量線作成用のセンサーチップ1022についての基準蛍光量S0を統計的に処理することにより求められる。代表値S0’は、平均値、中間値、最頻値等である。
【0147】
基準蛍光量S0の代表値S0’が求められた場合は、基準蛍光量S1を基準蛍光量S0の代表値S0’で除した商S1/S0’を因子として含む補正係数K=S1/S0’が計測時に用いられる。これにより、検量線作成用のセンサーチップ1022の個体差の影響が抑制され、計測の精度が向上する。
【0148】
基準蛍光量S0の測定とは別に、又は、基準蛍光量S0の測定結果を一部に利用して、検量線が作成される(ステップS160)。
【0149】
(自家蛍光量を減じる補正)
図19のフローチャートは、望ましくは行われる、自家蛍光量を減ずる補正の流れを示す。
【0150】
自家蛍光量を減ずる補正が行われる場合は、計測時の基準蛍光量S1から計測時の自家蛍光量S1aを減ずる補正が行われ、基準蛍光量S1の補正値S1−S1aが求められる(ステップS181)。また、検量線作成時の基準蛍光量S0から検量線作成時の自家蛍光量S0aを減ずる補正が行われ、基準蛍光量S0の補正値S0−S0aが求められる(ステップS182)。自家蛍光量を減ずる補正が行われた場合は、基準蛍光量S1の補正値S1−S1aを基準蛍光量S0の補正値S0−S0aで除した商(S1−S1a)/(S0−S0a)を因子として含む補正係数K=(S1−S1a)/(S0−S0a)が求められる。
【0151】
これにより、プリズム1100が放射する自家蛍光の影響が抑制され、計測の精度が向上する。
【0152】
一般的にいって、計測時の基準蛍光量S1及び検量線作成時の基準蛍光量S0は、蛍光標識液1240に含まれエバネッセント波EWで励起される蛍光標識1220から放射される蛍光量とそれ以外のノイズ成分の蛍光量との和である。前者の蛍光量は、エバネッセント波EWにより励起されることにより生じ、表面プラズモン共鳴による電場増強度を反映する。後者の蛍光量は、エバネッセント波EW以外により励起されることにより生じ、表面プラズモン共鳴による電場増強度を反映しない。ノイズ成分の蛍光の代表は、プリズム1100が放射する自家蛍光である。このため、望ましくは、基準蛍光量から自家蛍光量を減ずる補正が行われる。ただし、自家蛍光量に代えて又は自家蛍光量に加えて自家蛍光量以外のノイズ成分の蛍光量を基準蛍光量から減ずる補正が行われてもよい。例えば、金膜1102を透過する励起光ELによって励起される界面から離れた位置を浮遊する蛍光標識1220から放射される蛍光量を基準蛍光量から減ずる補正が行われてもよい。
【0153】
この発明は詳細に説明されたが、上記の説明は、すべての局面において例示であり、この発明は上記の説明に限定されない。例示されない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定されうる。
【符号の説明】
【0154】
1022 センサーチップ
1040 照射機構
1042 測定機構
1044 送液機構
1046 コントローラー
1100 プリズム
1102 金膜
1104 抗原捕捉膜
1106 流路形成物
1160 流路
1180 抗原
1200 試料液
1220 蛍光標識
1240 蛍光標識液
1242 抗体
1260 蛍光標識抗体
1280 バッファー液
EL 励起光
EW エバネッセント波

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン励起蛍光分光法により計測を行う方法であって、
(a) 誘電体媒体、導電体膜、抗原捕捉膜及び流路形成物を備え、前記誘電体媒体が入射面、反射面及び出射面を備え、励起光が前記入射面に入射し前記反射面に反射され前記出射面から出射するように前記入射面、前記反射面及び前記出射面が配置され、前記導電体膜が第1の主面及び第2の主面を備え、前記反射面が前記第1の主面に密着し、前記抗原捕捉膜が前記第2の主面に定着し、前記流路形成物に流路が形成され、前記抗原捕捉膜が前記流路の内部に露出するセンサーチップから選択された計測用のセンサーチップを準備する工程と、
(b) 抗原を含む試料液、既知の濃度の蛍光標識を含む蛍光標識液及び蛍光量測定用の液体を準備する工程と、
(c) 前記計測用のセンサーチップの前記流路に前記試料液を満たし、前記計測用のセンサーチップの前記抗原捕捉膜に前記抗原を捕捉させる工程と、
(d) 前記計測用のセンサーチップの前記流路に前記蛍光標識液を満たす工程と、
(e) 前記計測用のセンサーチップの前記流路に前記蛍光標識液が満たされた状態において、前記計測用のセンサーチップの前記入射面に励起光を入射させ、前記計測用のセンサーチップの前記反射面に共鳴角で励起光を入射させ、前記計測用のセンサーチップの前記流路に満たされる前記蛍光標識液に含まれる前記蛍光標識をエバネッセント波で励起し、前記計測用のセンサーチップから出射する基準蛍光量を測定する工程と、
(f) 前記基準蛍光量が測定された後に前記計測用のセンサーチップの前記抗原捕捉膜に捕捉された前記抗原に前記蛍光標識を付加する工程と、
(g) 前記蛍光標識が付加された後に前記計測用のセンサーチップの前記流路に前記蛍光量測定用の液体を満たす工程と、
(h) 前記計測用のセンサーチップの前記流路に前記蛍光量測定用の液体が満たされた状態において、前記計測用のセンサーチップの前記入射面に励起光を入射させ、前記計測用のセンサーチップの前記反射面に共鳴角で励起光を入射させ、前記計測用のセンサーチップの前記抗原捕捉膜に捕捉された前記抗原に付加された前記蛍光標識をエバネッセント波で励起し、前記計測用のセンサーチップから出射する蛍光量を測定する工程と、
(i) 前記基準蛍光量を用いて前記蛍光量を規格化し、規格化された蛍光量を求める工程と、
を備える計測を行う方法。
【請求項2】
請求項1の計測を行う方法において、
前記工程(d)及び前記工程(e)が前記工程(c)の後に実行される
計測を行う方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2の計測を行う方法において、
(j) 前記規格化された蛍光量と前記試料液に含まれる前記抗原の濃度との対応を示す検量線を準備する工程と、
(k) 前記規格化された蛍光量に対応する前記試料液に含まれる前記抗原の濃度を前記検量線において求める工程と、
をさらに備える計測を行う方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかの計測を行う方法において、
前記蛍光標識液が第1の蛍光標識液であり、
前記既知の濃度が第1の既知の濃度であり、
前記基準蛍光量が第1の基準蛍光量であり、
前記計測を行う方法は、
(l) 前記センサーチップから選択された事前評価用のセンサーチップを準備する工程と、
(m) 第2の既知の濃度の前記蛍光標識を含む第2の蛍光標識液を準備する工程と、
(n) 前記事前評価用のセンサーチップの前記流路に前記第2の蛍光標識液を満たす工程と、
(o) 前記事前評価用のセンサーチップの前記流路に前記第2の蛍光標識液が満たされた状態において、前記事前評価用のセンサーチップの前記入射面に励起光を入射させ、前記事前評価用のセンサーチップの前記反射面に共鳴角で励起光を入射させ、前記事前評価用のセンサーチップの前記流路に満たされた前記第2の蛍光標識液に含まれる前記蛍光標識をエバネッセント波で励起し、前記事前評価用のセンサーチップから出射する第2の基準蛍光量を測定する工程と、
をさらに備え、
工程(i)は、前記第1の基準蛍光量を前記第2の基準蛍光量で除した商を因子として含む補正係数を求め、前記蛍光量を前記補正係数で除し、前記規格化された蛍光量を求める
計測を行う方法。
【請求項5】
請求項4の計測を行う方法において、
工程(l)は、2個以上の前記事前評価用のセンサーチップを準備し、
工程(n)及び工程(o)が2個以上の前記事前評価用のセンサーチップの各々に対して実行され、
前記計測を行う方法は、
(p) 2個以上の前記事前評価用のセンサーチップについての前記第2の基準蛍光量の代表値を求める工程、
をさらに備え、
工程(i)は、
前記第1の基準蛍光量を前記代表値で除した商を因子として含む前記補正係数を求める
計測を行う方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5の計測を行う方法において、
(q) 前記第1の基準蛍光量に含まれるノイズ成分を測定する工程と、
(r) 前記第2の基準蛍光量に含まれるノイズ成分を測定する工程と、
(s) 前記第1の基準蛍光量から前記第1の基準蛍光量に含まれるノイズ成分を減ずる補正を行い、前記第1の基準蛍光量の補正値を求める工程と、
(t) 前記第2の基準蛍光量から前記第2の基準蛍光量に含まれるノイズ成分を減ずる補正を行い、前記第2の基準蛍光量の補正値を求める工程と、
をさらに備え、
工程(i)は、
前記第1の基準蛍光量の補正値を前記第2の基準蛍光量の補正値で除した商を因子として含む前記補正係数を求める
計測を行う方法。
【請求項7】
請求項4から請求項6までのいずれかの計測を行う方法において、
工程(m)は、前記第1の既知の濃度と同じ前記第2の既知の濃度の前記蛍光標識を含む前記第2の蛍光標識液を準備する
計測を行う方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれかの計測を行う方法において、
工程(b)は、前記抗原と特異的に結合する抗体を含まない前記蛍光標識液を準備し、
工程(f)は、前記基準蛍光量が測定された後に、前記蛍光標識液に前記抗体を注入し、前記蛍光標識及び前記抗体の複合体である蛍光標識抗体を形成し、前記計測用のセンサーチップの前記抗原捕捉膜に捕捉された前記抗原に前記蛍光標識抗体を結合させ、前記計測用のセンサーチップの前記抗原捕捉膜に捕捉された前記抗原に前記蛍光標識を付加する
計測を行う方法。
【請求項9】
表面プラズモン励起蛍光分光法により計測を行う計測装置であって、
誘電体媒体、導電体膜、抗原捕捉膜及び流路形成物を備え、前記誘電体媒体が入射面、反射面及び出射面を備え、励起光が前記入射面に入射し前記反射面に反射され前記出射面から出射するように前記入射面、前記反射面及び前記出射面が配置され、前記導電体膜が第1の主面及び第2の主面を備え、前記反射面が前記第1の主面に密着し、前記抗原捕捉膜が前記第2の主面に定着し、前記流路形成物に流路が形成され、前記抗原捕捉膜が前記流路の内部に露出するセンサーチップと、
抗原を含む試料液、既知の濃度の蛍光標識を含む蛍光標識液及び蛍光量測定用の液体を前記流路に満たす送液機構と、
前記誘電体媒体に励起光を照射する照射機構と、
前記センサーチップから出射する光量を測定する測定機構と、
前記照射機構、前記測定機構及び前記送液機構を制御するコントローラーと、
を備え、
前記コントローラーは、
前記送液機構を制御し、前記試料液を前記流路に満たさせ、前記抗原捕捉膜に前記抗原を捕捉させる1次免疫反応進行部と、
前記送液機構を制御し、前記蛍光標識液を前記流路に満たさせる蛍光標識液充填部と、
前記照射機構を制御し、前記流路に前記蛍光標識液が満たされた状態であって前記抗原捕捉膜に捕捉された前記抗原に前記蛍光標識が付加される前に、前記入射面に励起光を入射させ、前記反射面に共鳴角で励起光を入射させ、前記流路に満たされた前記蛍光標識液に含まれる前記蛍光標識をエバネッセント波で励起させ、前記測定機構を制御し、前記センサーチップから出射する基準蛍光量を測定させる基準蛍光量測定部と、
前記送液機構を制御し、前記抗原捕捉膜に捕捉された前記抗原に前記蛍光標識が付加された後に前記流路に前記蛍光量測定用の液体を満たさせる液体充填部と、
前記流路に前記蛍光量測定用の液体が満たされた状態において、前記照射機構を制御し、前記入射面に励起光を入射させ、前記反射面に共鳴角で励起光を入射させ、前記抗原捕捉膜に捕捉された前記抗原に付加された前記蛍光標識をエバネッセント波で励起させ、前記測定機構を制御し、前記センサーチップから出射する蛍光量を測定させる蛍光量測定部と、
前記基準蛍光量及び前記蛍光量を前記測定機構から取得し、前記基準蛍光量を用いて前記蛍光量を規格化し、規格化された蛍光量を求める演算部と、
を備える計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2013−88221(P2013−88221A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227728(P2011−227728)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】