計算機合成ホログラムの作製方法及びその方法により作製された計算機合成ホログラム
【課題】 観察しやすくセキュリティ性に優れた計算機合成ホログラムを作製する方法及びその方法により作製された計算機合成ホログラムを提供する。
【解決手段】 計算機を用いた演算により所定の記録面上に振幅情報と位相情報を記録してなる計算機合成ホログラム1の作製方法において、計算機合成ホログラム1は、第1方向Xと、第1方向Xに直交する第2方向Yに対して、第1方向Xのみの視差を有し、第2方向Yに所定の幅を有する各単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BMを有し、各単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BM内に、一方から他方へ徐々に変化し、第2方向Yに異なる凹凸パターンの空間周波数Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTの回折パターンが作製され、記録物体上に設定した線光源から第1方向Xに広がり、第2方向Yに一定の幅の物体光を用い、参照光として第2方向Yに関して単位領域ごとに定めた所定の位置に集束する参照光を用いて記録されることを特徴とする。
【解決手段】 計算機を用いた演算により所定の記録面上に振幅情報と位相情報を記録してなる計算機合成ホログラム1の作製方法において、計算機合成ホログラム1は、第1方向Xと、第1方向Xに直交する第2方向Yに対して、第1方向Xのみの視差を有し、第2方向Yに所定の幅を有する各単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BMを有し、各単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BM内に、一方から他方へ徐々に変化し、第2方向Yに異なる凹凸パターンの空間周波数Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTの回折パターンが作製され、記録物体上に設定した線光源から第1方向Xに広がり、第2方向Yに一定の幅の物体光を用い、参照光として第2方向Yに関して単位領域ごとに定めた所定の位置に集束する参照光を用いて記録されることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計算機合成ホログラムの作製方法及びその方法により作製された計算機合成ホログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、偽造防止のためホログラムを金券やクレジットカード等に設けるものが知られている。このホログラムとして、計算機を用いた演算により所定の記録面上に干渉縞を形成して作製する計算機合成ホログラム(CGH)がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−013858号公報
【特許文献2】特許3810917号公報
【特許文献3】特開2000−214750号公報
【特許文献4】特開2002−72837号公報
【特許文献5】特開2005−215570号公報
【特許文献6】特開2004−309709号公報
【特許文献7】特開2004−264839号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A. W. Lohmann and D. P. Paris: "Binary Fraunhofer Holograms, Generated by Computer",Appl. Opt., 6, 10, pp. 1739-1748(Oct. 1967)
【非特許文献2】Wai Hon Lee: "Sampled Fourier Transform Hologram Generated by Computer", Appl. Opt., 9, 3, pp. 639-643(Mar. 1970)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の計算機合成ホログラムは、計算負荷は小さいが、縦方向の視域が狭かった。例えば、図17及び図18は、従来の技術を示す図である。図17は、計算機合成ホログラム101に単色光からなる再生照明光102aを照射した場合の側面図を示す。図17に示すように、最上段の単位領域から発生する回折光103は視点Eの方向に回折されない。このため視点Eの位置では計算機合成ホログラム101の最上段部の再生像は観察できず、縦方向の視域は広がらない。また、図18は、計算機合成ホログラム101に白色光からなる再生照明光102bを照射した場合を示す。図18に示すように、白色光からなる再生照明光102bを照射したにも関わらず、各単位領域は単色にしか見えない。例えば最上段の単位領域から発生する回折光103の内、視点Eの方向に向かう光は、入射した白色光102bの内の青色成分Bである。このため、視点Eの位置では、計算機合成ホログラム101の最上段部の再生像は青色Bに観察される。また、中央部分は、緑色Gに、最下段部分は赤色Rに観察される(図示せず)。
【0006】
なお、原画像からの物体光の光源として点光源を用いることで、上下方向(縦方向)の視域を有する技術が特許文献2に開示されている。特許文献2に開示された技術では、物体光は原画像上の点光源から広がる球面波となり、上下方向の視域は広がる。しかしながら、ホログラム記録面での記録領域を上下方向で制限しているため、物体の奥行き位置によって上下方向の視域が変化してしまう。
【0007】
本発明は従来技術のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、観察しやすくセキュリティ性に優れた計算機合成ホログラムを作製する方法及びその方法により作製された計算機合成ホログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の計算機合成ホログラムを作製する方法は、計算機を用いた演算により所定の記録面上に振幅情報と位相情報を記録してなる計算機合成ホログラムの作製方法において、前記計算機合成ホログラムは、第1方向と、前記第1方向に直交する第2方向に対して、前記第1方向のみの視差を有し、前記第2方向に所定の幅を有する各単位領域を有し、前記各単位領域内に、一方から他方へ徐々に変化し、前記第2方向に異なる凹凸パターンの空間周波数の回折パターンが作製され、記録物体上に設定した線光源から前記第1方向に広がり、前記第2方向に一定の幅の物体光を用い、前記参照光として前記第2方向に関して前記単位領域ごとに定めた所定の位置に集束する参照光を用いて記録されることを特徴とする。
【0009】
また、前記回折パターンは、干渉縞からなることを特徴とする。
【0010】
また、前記回折パターンは、位相と振幅を変調するパターンからなることを特徴とする。
【0011】
さらに、計算機合成ホログラムが前記計算機合成ホログラムの作製方法により作製されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1方向のみの視差を有し、単位領域内の第2方向の回折パターンの空間周波数が異なるように計算機合成ホログラムを作製することにより、回折光の第2方向の拡散角度を変更するので、第2方向の視域を拡大した計算機合成ホログラムとすることができる。また、物体光の第2方向の広がりを物体の位置とは無関係に決めることができるので、物体の奥行き位置によって第2方向の視域が変化することがない。さらに、再生照明光として白色光を用いた場合、視域が拡大すると共に、再生像を白色で観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る計算機合成ホログラムの記録方法の概念を示す斜視図である。
【図2】図1の演算処理の概念に基づく具体例を示す図である。
【図3】図1の演算処理の概念を説明するための上面図である。
【図4】本実施形態のCGH原版の構成を示す図である。
【図5】本実施形態のCGH原版の具体的な構造を示す図である。
【図6】本実施形態の実施例1のCGH原版作製時の状態を示す図である。
【図7】本実施形態の実施例1のCGH原版作製時の状態を示す斜視図である。
【図8】実施例1のCGH原版に単色光からなる再生照明光を照射した場合を示す図である。
【図9】本実施形態の実施例2のCGH原版作製時の状態を示す図である。
【図10】Y方向の発散位置Fm1の他の例を示す図である。
【図11】Y方向の発散位置Fm1の他の例を示す図である。
【図12】Y方向の発散位置Fm1の他の例を示す図である。
【図13】Y方向の発散位置Fm1の他の例を示す図である。
【図14】実施例1のCGH原版に白色光からなる再生照明光を照射した場合を示す図である。
【図15】CGH原版が白色で観察可能となる条件を示す図である。
【図16】参照光Lを所定の集束位置Gに集束する光とし、物体光はY方向には広がらない光とした場合を示す図である。
【図17】従来の技術を示す図である。
【図18】従来の技術を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照にして本実施形態のホログラムの作製方法を説明する。
【0015】
本実施形態では、まず、計算機合成ホログラム1を作製する。図1〜図3は、計算機合成ホログラム1を作製する基本的な方法を示す。
【0016】
まず、本実施形態では、計算機合成ホログラムとして原画像上に設定した点光源から所定の一次元方向にのみ広がる物体光を用いて記録されたものを用いる。この作製方法は、特許文献1の記載に基づく方法である。すなわち、図1に示すように、原画像O上の任意の点光源Piから発せられた物体光Oiが、図示の通り本実施形態では水平方向(XZ平面に平行な平面内)にのみ広がると仮定する。すると、物体光Oiは、記録媒体1上の線状領域Bだけに到達することになり、記録媒体1の他の領域には、物体光Oiは一切届かないことになる。光学的な方法でホログラムを作製する場合、このように物体光の広がりを制限することは極めて困難であるが、計算機を用いてホログラムを作製する場合であれば、演算式を修正するだけで物体光を容易に制御することができる。そこで、原画像Oを構成する全ての点光源から発せられる物体光について、同様の限定(物体光はXZ平面に平行な平面内にのみ広がるという限定)を付すようにする。本実施形態で作製した計算機ホログラムは、水平方向の視差のみを有する計算機合成ホログラムとなる。
【0017】
図2は、上述した基本概念に基づく記録方法の具体例を示す斜視図である。この例では、原画像O及び記録媒体1(記録面)を、それぞれ多数の平行な平面によって水平方向に分割し、多数の線状の単位領域を定義している。すなわち、図示の通り、原画像Oは、合計M個の単位領域A1,A2,A3,…,Am,…AMに分割されており、記録媒体1は、同じく合計M個の単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BMに分割されている。原画像Oが立体画像の場合、各単位領域A1,A2,A3,…,Am,…AMは、この立体の表面部分を分割することによって得られる領域になる。ここで、原画像O上のM個の単位領域と記録媒体1上のM個の単位領域とは、それぞれが1対1の対応関係にある。例えば、原画像O上の第m番目の単位領域Amは、記録媒体1上の第m番目の単位領域Bmに対応している。
【0018】
なお、この図2に示す例では、各単位領域A1,A2,A3,…,Am,…AMの幅は、原画像O上に定義された点光源のY方向(本実施形態では鉛直方向)のピッチに等しく設定されており、個々の単位領域は、点光源が一列に並んだ線状の領域になっている。例えば、図示の例では、第m番目の単位領域Amには、N個の点光源Pm1〜PmNが一列に並んでいる。
【0019】
また、各単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BMの幅は、原画像O上に定義された点光源のY方向のピッチに等しく設定されており、個々の単位領域には、演算点が二次元に並んだ線状の領域になっている。図示の演算点Q(x,ym)は、第m番目の単位領域Bm内に位置する演算点を示しており、XY座標系において座標値(x,ym)で示される位置にある。
【0020】
この例の場合、演算点Q(x,ym)についての干渉波強度は、次のようにして求められる。まず、この演算点Q(x,ym)が所属する単位領域Bmに対応する原画像O上の単位領域Amを演算対象単位領域として定める。そして、この演算対象単位領域Am内の点光源Pm1〜PmNから発せられた物体光Om1〜OmNと、参照光Lθmとによって形成される干渉波についての演算点Q(x,ym)の位置における振幅強度を求めれば、この振幅強度が、目的とする演算点Q(x,ym)についての干渉波強度である。ここで、参照光Lθmは、例えばYZ平面に平行な単色平行光線であり、何れの位置でも同じ角度で記録媒体1上に入射する。あるいは、参照光Lθmの入射角度θmは、観察環境を仮定した仮想照明及び仮想視点の設定に基づいて定められ、例えば、観察時に上方からの点光源を想定する場合には、上端の単位領域B1についての参照光Lθ1の記録媒体の法線方向からの入射角度θ1は小さな角度δとなり、下端の単位領域BMについての参照光LθMの入射角度θMは大きな角度βとなるように設定してもよい。
【0021】
図3は、このような演算処理の概念を説明するための上面図であり、図2に示す原画像O及びCGH原版用記録媒体1を、図の上方から見た状態を示している。図示の通り、演算点Q(x,ym)における干渉波強度を求めるのに必要な物体光は、演算対象単位領域Am内のN個の点光源Pm1,…,Pmi,…,PmNから発せられた物体光Om1,…,Omi,…,OmNのみに限定され、原画像Oを構成する全点光源からの物体光を考慮する必要はない。こうして、CGH原版用記録媒体1上に定義した全ての演算点Q(x,ym)について、それぞれ所定の干渉波強度を求めれば、CGH原版用記録媒体1上に記録すべき干渉波の強度分布が得られ、得られた干渉波の強度分布を何らかの方法で物理的に記録すればCGH原版1となる。具体的には、特許文献3に記載のように、演算点に対応した位置に干渉波の強度に応じた占有率の矩形を記録することでCGH原版1を作製することができる。
【0022】
以上、図1〜図3を参照しながら、原画像O上に定義された第m番目の単位領域Am上の光源の情報を、CGH原版用記録媒体1上に定義された第m番目の単位領域Bm上に記録する手法を述べた。この手法で述べたモデルでは、単位領域Am及びBmは、何れも細長い短冊状の領域であり、点光源は一次元的に、演算点は二次元的に並んでいる。
【0023】
なお、以上の方法において、分割領域上の演算点Qでの物体光の振幅と位相の記録には、上記で説明したような参照光との干渉による干渉縞で記録する方法以外に、特許文献4、5に記載されているように1面に溝を持った3次元セルの溝の深さで位相を、溝の幅で振幅を記録する方法でもよい。
【0024】
あるいは、非特許文献1に記載されたA.W.Lohmannの方法、非特許文献2に記載されたLeeの方法等で振幅と位相を記録するようにしてもよい。
【0025】
図4は、本実施形態のCGH原版1の構成を示す図である。図4(a)は、図2に示した系をX方向から観察した図、図4(b)は、X方向から観察したCGH原版1の拡大図である。
【0026】
本実施形態のCGH原版1は、図4(a)に示す単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BM内に、Y方向のピッチ間隔(空間周波数)をそれぞれ異ならせるように回折パターンとしての干渉縞を作製することで、Y方向の視域を変更するものである。例えば、CGH原版1の単位領域BmのY方向の干渉縞間隔Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTは、図4(b)に示すように、様々なパターンで作製することができる。図4(b)には概念図としてY方向の干渉縞間隔Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTを図示したが、多くの場合、物理的な干渉縞パターンはCGH原版1の表面の凹凸として形成する。この場合、図5に示すように、凹凸の断面が矩形(図5(a))、曲線(図5(b))など種々の方法がある。また、断面の変化ではなく2次元パターンがY方向に周期的に変化することで干渉縞間隔を定めることもできる。なお、図5では、第Y方向に異なる干渉縞間隔は、単位領域内で一方から他方へ徐々に変化しているが、これに限らず、様々なパターンで作製することができる。
【0027】
図6は、本実施形態の実施例1のCGH原版1作製時の状態を示す図である。本実施例1では、物体光Omの光源のY方向の発散位置を、CGH原版1の観察者と反対側の発散位置Fm1に設定する。したがって、図7に示すように、物体光Omは、X方向に関しては、点光源P1…Pm…PMから広がり、Y方向には広がることなく発せられ、Y方向に関しては、発散位置F11…Fm1…FM1から発せられ広がるように設定される。このため、多少の非点収差が発生するが、原画像OとCGH原版1との間の距離が極めて短いので、ほとんど影響はない。
【0028】
このように光源を設定し、所定の入射角で参照光Lを照射し、物体光Omと参照光Lが干渉するように設定すると、図6に示すCGH原版1の単位領域Bm内に干渉縞間隔Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTの干渉縞が現れる。本実施例1では、干渉縞間隔は紙面に対して上から下に広がっていくように現れる。すなわち、CGH原版1は、干渉縞間隔Cm1側の空間周波数が高く、干渉縞間隔CmT側の空間周波数が低くなるように、作製される。
【0029】
図8は、図6及び図7に示した実施例1のように作製されたCGH原版1に単色光からなる再生照明光2を照射した場合を示す図である。図6及び図7に示したCGH原版1に対して、単色光の再生照明光2を照射した場合、図8に示すように、CGH原版1で回折した回折光3は、側面から見ると円弧状に広がり、Y方向に視域を拡大しながら進行する。
【0030】
図9は、本実施形態の実施例2のCGH原版1作製時の状態を示す図である。本実施例2では、物体光OmのY方向の集束位置をCGH原版に対して観察者側の集束位置Fm2に設定する。したがって、物体光Omは、紙面に垂直なX方向に関しては、点光源P1…Pm…PMからY方向に広がることなく発せられ、Y方向に関しては、集束位置F12…Fm2…FM2から発せられるように設定される。このため、多少の非点収差が発生するが、原画像OとCGH原版1との間の距離が極めて短いので、ほとんど影響はない。
【0031】
このように光源を設定し、所定の入射角で参照光Lを照射し、物体光Omと参照光Lが干渉するように設定すると、図9に示すCGH原版1の単位領域Bm内に干渉縞間隔Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTの干渉縞が現れる。本実施例2では、干渉縞間隔は紙面に対して上から下に狭まっていくように現れる。すなわち、CGH原版1は、干渉縞間隔Cm1側の空間周波数が低く、干渉縞間隔CmT側の空間周波数が高くなるように、作製される。
【0032】
図10乃至図13は、Y方向に関する物体光の発散位置Fm1又は集束位置Fm2の他の例を示す図である。図10は、発散位置Fm1をCGH原版1の近くに配置した場合を示す図である。この場合、Y方向の視域の広がりが大きくなる。図11は、発散位置Fm1をCGH原版1から遠く離れて配置した場合を示す図である。この場合、Y方向の視域の広がりが小さくなる。図12は、すべての単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BMに対してCGH原版1と発散位置Fm1との位置関係が一定の場合を示す図である。この場合、設計が容易となり、計算負荷が小さくて済む。図13は、単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BM毎にCGH原版1と発散位置Fm1との位置関係が異なる場合を示す図である。この場合、単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BM毎にY方向の視域を変更することができる。図13に示す例では、上端や下端の単位領域から観察者に向かう再生光が同時に見える範囲が広くなっている。
【0033】
図14は、図6に示した実施例1のように作製されたCGH原版1に白色光からなる再生照明光2を照射した場合を示す図である。図6に示したCGH原版1に対して、白色光の再生照明光2を照射した場合、図14に示すように、CGH原版1から光の波長毎に異なる回折光3が発生する。本実施形態では、RGBに対応するそれぞれの回折光3は、図14に示すように、異なる方向に進行するが、回折光3のRGBすべてを含む領域Sで白色に見えるようになる。
【0034】
ここで、CGH原版1が白色で観察可能となる条件について、詳細に説明する。図15は、CGH原版が白色で観察可能となる条件を示す図である。
【0035】
CGH原版1の各単位領域Bm内において、Y方向の最高空間周波数(fmax)の場所に入射する再生照明光2のうち、使用したい最短波長λB(例えば380nm)の光が回折する方向をθBmax(ZY平面内で、Z方向を0度として、反時計回りに正の角度とする)、また、Y方向の最低空間周波数(fmin)の場所に入射する再生照明光2のうち、使用したい最長波長λR(例えば780nm)の光が回折する方向をθRminとした時、以下の条件式(1)の関係を満足すれば、CGH原版1の各単位領域Bmを白色で観察可能な位置が存在することになる。
θRmin<θBmax ・・・(1)
ここで、回折角などの角度θは、ZY平面内でZ方向を0度として、反時計回りに正の角度とし、その取りうる範囲は−π/2<θ<π/2とする。
【0036】
また、回折の式
1/f=λ/(sinθout−sinθin)
f:CGHのY方向の空間周波数
λ:波長
θin:入射光の入射角度
θout:回折光の出射角度
を用いると、入射光の入射角度をθLとして、
θRmin=sin-1(fmin・λR+sinθL)
θBmax=sin-1(fmax・λB+sinθL)
となるため、CGH原版1の各単位領域Bmを白色で観察可能な位置が存在するには、θRminとθBmaxを条件式(1)に代入し、以下の条件式(2)を満足させ、さらに、観察位置でCGH原版1の各単位領域Bmを白色で観察するためには、θBmaxを与える矢印とθRminを与える矢印を延長した交点をWとし、交点Wから目Eに向かう角度をθEとしたとき、以下の条件式(3)を満足すればよい。
fmin・λR<fmax・λB ・・・(2)
θRmin<θE<θBmax ・・・(3)
【0037】
したがって、CGH原版1のすべての単位領域Bm毎に、条件式(2)及び条件式(3)を満足すれば、観察位置においてCGH全体を白色で観察することができる。
【0038】
図16は、参照光Lは単位領域毎に所定の集束位置Gに集束し、物体光はY方向には広がらない場合を示す図である。図16に示すように、参照光Lは単位領域BmごとにY方向の所定の集束位置Gに集束し、物体光OmはY方向には広がらない線光源として設定した場合、CGH原版1の単位領域Bm内の干渉縞は、Y方向の干渉縞間隔Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTが紙面に対して上から下に広がっていくように現れる。すなわち、CGH原版1は、干渉縞間隔Cm1側の空間周波数が高く、干渉縞間隔CmT側の空間周波数が低くなるように、作製される。また、Y方向の集束位置Gは、ホログラムの観察者と反対側でもよく、この場合、Y方向の間隔はCm1側の空間周波数が高く、CmT側の空間周波数が低くなるように、作製される。
【0039】
このように、単位領域内のY方向の干渉縞間隔Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTが異なるようにCGH原版1を作製することにより、回折光3のY方向の拡散角度を変更するので、Y方向の視域を拡大したCGH原版1とすることができる。さらに、再生照明光2として白色光を用いた場合、Y方向の視域が拡大すると共に、白色で観察することができる。
【0040】
以上、本発明の計算機合成ホログラムの作製方法及びその方法により作製された計算機合成ホログラムを実施形態に基づいて説明してきたが、本発明はこれら実施形態に限定されず種々の変形が可能である。例えば、本発明に係る計算機合成ホログラムは、特許文献6及び特許文献7に提示されたような計算機合成ホログラフィックステレオグラムの技術を適用してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1…CGH原版(CGH原版用記録媒体)
2…再生照明光
3…回折光
【技術分野】
【0001】
本発明は、計算機合成ホログラムの作製方法及びその方法により作製された計算機合成ホログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、偽造防止のためホログラムを金券やクレジットカード等に設けるものが知られている。このホログラムとして、計算機を用いた演算により所定の記録面上に干渉縞を形成して作製する計算機合成ホログラム(CGH)がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−013858号公報
【特許文献2】特許3810917号公報
【特許文献3】特開2000−214750号公報
【特許文献4】特開2002−72837号公報
【特許文献5】特開2005−215570号公報
【特許文献6】特開2004−309709号公報
【特許文献7】特開2004−264839号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A. W. Lohmann and D. P. Paris: "Binary Fraunhofer Holograms, Generated by Computer",Appl. Opt., 6, 10, pp. 1739-1748(Oct. 1967)
【非特許文献2】Wai Hon Lee: "Sampled Fourier Transform Hologram Generated by Computer", Appl. Opt., 9, 3, pp. 639-643(Mar. 1970)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の計算機合成ホログラムは、計算負荷は小さいが、縦方向の視域が狭かった。例えば、図17及び図18は、従来の技術を示す図である。図17は、計算機合成ホログラム101に単色光からなる再生照明光102aを照射した場合の側面図を示す。図17に示すように、最上段の単位領域から発生する回折光103は視点Eの方向に回折されない。このため視点Eの位置では計算機合成ホログラム101の最上段部の再生像は観察できず、縦方向の視域は広がらない。また、図18は、計算機合成ホログラム101に白色光からなる再生照明光102bを照射した場合を示す。図18に示すように、白色光からなる再生照明光102bを照射したにも関わらず、各単位領域は単色にしか見えない。例えば最上段の単位領域から発生する回折光103の内、視点Eの方向に向かう光は、入射した白色光102bの内の青色成分Bである。このため、視点Eの位置では、計算機合成ホログラム101の最上段部の再生像は青色Bに観察される。また、中央部分は、緑色Gに、最下段部分は赤色Rに観察される(図示せず)。
【0006】
なお、原画像からの物体光の光源として点光源を用いることで、上下方向(縦方向)の視域を有する技術が特許文献2に開示されている。特許文献2に開示された技術では、物体光は原画像上の点光源から広がる球面波となり、上下方向の視域は広がる。しかしながら、ホログラム記録面での記録領域を上下方向で制限しているため、物体の奥行き位置によって上下方向の視域が変化してしまう。
【0007】
本発明は従来技術のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、観察しやすくセキュリティ性に優れた計算機合成ホログラムを作製する方法及びその方法により作製された計算機合成ホログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の計算機合成ホログラムを作製する方法は、計算機を用いた演算により所定の記録面上に振幅情報と位相情報を記録してなる計算機合成ホログラムの作製方法において、前記計算機合成ホログラムは、第1方向と、前記第1方向に直交する第2方向に対して、前記第1方向のみの視差を有し、前記第2方向に所定の幅を有する各単位領域を有し、前記各単位領域内に、一方から他方へ徐々に変化し、前記第2方向に異なる凹凸パターンの空間周波数の回折パターンが作製され、記録物体上に設定した線光源から前記第1方向に広がり、前記第2方向に一定の幅の物体光を用い、前記参照光として前記第2方向に関して前記単位領域ごとに定めた所定の位置に集束する参照光を用いて記録されることを特徴とする。
【0009】
また、前記回折パターンは、干渉縞からなることを特徴とする。
【0010】
また、前記回折パターンは、位相と振幅を変調するパターンからなることを特徴とする。
【0011】
さらに、計算機合成ホログラムが前記計算機合成ホログラムの作製方法により作製されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1方向のみの視差を有し、単位領域内の第2方向の回折パターンの空間周波数が異なるように計算機合成ホログラムを作製することにより、回折光の第2方向の拡散角度を変更するので、第2方向の視域を拡大した計算機合成ホログラムとすることができる。また、物体光の第2方向の広がりを物体の位置とは無関係に決めることができるので、物体の奥行き位置によって第2方向の視域が変化することがない。さらに、再生照明光として白色光を用いた場合、視域が拡大すると共に、再生像を白色で観察することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る計算機合成ホログラムの記録方法の概念を示す斜視図である。
【図2】図1の演算処理の概念に基づく具体例を示す図である。
【図3】図1の演算処理の概念を説明するための上面図である。
【図4】本実施形態のCGH原版の構成を示す図である。
【図5】本実施形態のCGH原版の具体的な構造を示す図である。
【図6】本実施形態の実施例1のCGH原版作製時の状態を示す図である。
【図7】本実施形態の実施例1のCGH原版作製時の状態を示す斜視図である。
【図8】実施例1のCGH原版に単色光からなる再生照明光を照射した場合を示す図である。
【図9】本実施形態の実施例2のCGH原版作製時の状態を示す図である。
【図10】Y方向の発散位置Fm1の他の例を示す図である。
【図11】Y方向の発散位置Fm1の他の例を示す図である。
【図12】Y方向の発散位置Fm1の他の例を示す図である。
【図13】Y方向の発散位置Fm1の他の例を示す図である。
【図14】実施例1のCGH原版に白色光からなる再生照明光を照射した場合を示す図である。
【図15】CGH原版が白色で観察可能となる条件を示す図である。
【図16】参照光Lを所定の集束位置Gに集束する光とし、物体光はY方向には広がらない光とした場合を示す図である。
【図17】従来の技術を示す図である。
【図18】従来の技術を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照にして本実施形態のホログラムの作製方法を説明する。
【0015】
本実施形態では、まず、計算機合成ホログラム1を作製する。図1〜図3は、計算機合成ホログラム1を作製する基本的な方法を示す。
【0016】
まず、本実施形態では、計算機合成ホログラムとして原画像上に設定した点光源から所定の一次元方向にのみ広がる物体光を用いて記録されたものを用いる。この作製方法は、特許文献1の記載に基づく方法である。すなわち、図1に示すように、原画像O上の任意の点光源Piから発せられた物体光Oiが、図示の通り本実施形態では水平方向(XZ平面に平行な平面内)にのみ広がると仮定する。すると、物体光Oiは、記録媒体1上の線状領域Bだけに到達することになり、記録媒体1の他の領域には、物体光Oiは一切届かないことになる。光学的な方法でホログラムを作製する場合、このように物体光の広がりを制限することは極めて困難であるが、計算機を用いてホログラムを作製する場合であれば、演算式を修正するだけで物体光を容易に制御することができる。そこで、原画像Oを構成する全ての点光源から発せられる物体光について、同様の限定(物体光はXZ平面に平行な平面内にのみ広がるという限定)を付すようにする。本実施形態で作製した計算機ホログラムは、水平方向の視差のみを有する計算機合成ホログラムとなる。
【0017】
図2は、上述した基本概念に基づく記録方法の具体例を示す斜視図である。この例では、原画像O及び記録媒体1(記録面)を、それぞれ多数の平行な平面によって水平方向に分割し、多数の線状の単位領域を定義している。すなわち、図示の通り、原画像Oは、合計M個の単位領域A1,A2,A3,…,Am,…AMに分割されており、記録媒体1は、同じく合計M個の単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BMに分割されている。原画像Oが立体画像の場合、各単位領域A1,A2,A3,…,Am,…AMは、この立体の表面部分を分割することによって得られる領域になる。ここで、原画像O上のM個の単位領域と記録媒体1上のM個の単位領域とは、それぞれが1対1の対応関係にある。例えば、原画像O上の第m番目の単位領域Amは、記録媒体1上の第m番目の単位領域Bmに対応している。
【0018】
なお、この図2に示す例では、各単位領域A1,A2,A3,…,Am,…AMの幅は、原画像O上に定義された点光源のY方向(本実施形態では鉛直方向)のピッチに等しく設定されており、個々の単位領域は、点光源が一列に並んだ線状の領域になっている。例えば、図示の例では、第m番目の単位領域Amには、N個の点光源Pm1〜PmNが一列に並んでいる。
【0019】
また、各単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BMの幅は、原画像O上に定義された点光源のY方向のピッチに等しく設定されており、個々の単位領域には、演算点が二次元に並んだ線状の領域になっている。図示の演算点Q(x,ym)は、第m番目の単位領域Bm内に位置する演算点を示しており、XY座標系において座標値(x,ym)で示される位置にある。
【0020】
この例の場合、演算点Q(x,ym)についての干渉波強度は、次のようにして求められる。まず、この演算点Q(x,ym)が所属する単位領域Bmに対応する原画像O上の単位領域Amを演算対象単位領域として定める。そして、この演算対象単位領域Am内の点光源Pm1〜PmNから発せられた物体光Om1〜OmNと、参照光Lθmとによって形成される干渉波についての演算点Q(x,ym)の位置における振幅強度を求めれば、この振幅強度が、目的とする演算点Q(x,ym)についての干渉波強度である。ここで、参照光Lθmは、例えばYZ平面に平行な単色平行光線であり、何れの位置でも同じ角度で記録媒体1上に入射する。あるいは、参照光Lθmの入射角度θmは、観察環境を仮定した仮想照明及び仮想視点の設定に基づいて定められ、例えば、観察時に上方からの点光源を想定する場合には、上端の単位領域B1についての参照光Lθ1の記録媒体の法線方向からの入射角度θ1は小さな角度δとなり、下端の単位領域BMについての参照光LθMの入射角度θMは大きな角度βとなるように設定してもよい。
【0021】
図3は、このような演算処理の概念を説明するための上面図であり、図2に示す原画像O及びCGH原版用記録媒体1を、図の上方から見た状態を示している。図示の通り、演算点Q(x,ym)における干渉波強度を求めるのに必要な物体光は、演算対象単位領域Am内のN個の点光源Pm1,…,Pmi,…,PmNから発せられた物体光Om1,…,Omi,…,OmNのみに限定され、原画像Oを構成する全点光源からの物体光を考慮する必要はない。こうして、CGH原版用記録媒体1上に定義した全ての演算点Q(x,ym)について、それぞれ所定の干渉波強度を求めれば、CGH原版用記録媒体1上に記録すべき干渉波の強度分布が得られ、得られた干渉波の強度分布を何らかの方法で物理的に記録すればCGH原版1となる。具体的には、特許文献3に記載のように、演算点に対応した位置に干渉波の強度に応じた占有率の矩形を記録することでCGH原版1を作製することができる。
【0022】
以上、図1〜図3を参照しながら、原画像O上に定義された第m番目の単位領域Am上の光源の情報を、CGH原版用記録媒体1上に定義された第m番目の単位領域Bm上に記録する手法を述べた。この手法で述べたモデルでは、単位領域Am及びBmは、何れも細長い短冊状の領域であり、点光源は一次元的に、演算点は二次元的に並んでいる。
【0023】
なお、以上の方法において、分割領域上の演算点Qでの物体光の振幅と位相の記録には、上記で説明したような参照光との干渉による干渉縞で記録する方法以外に、特許文献4、5に記載されているように1面に溝を持った3次元セルの溝の深さで位相を、溝の幅で振幅を記録する方法でもよい。
【0024】
あるいは、非特許文献1に記載されたA.W.Lohmannの方法、非特許文献2に記載されたLeeの方法等で振幅と位相を記録するようにしてもよい。
【0025】
図4は、本実施形態のCGH原版1の構成を示す図である。図4(a)は、図2に示した系をX方向から観察した図、図4(b)は、X方向から観察したCGH原版1の拡大図である。
【0026】
本実施形態のCGH原版1は、図4(a)に示す単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BM内に、Y方向のピッチ間隔(空間周波数)をそれぞれ異ならせるように回折パターンとしての干渉縞を作製することで、Y方向の視域を変更するものである。例えば、CGH原版1の単位領域BmのY方向の干渉縞間隔Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTは、図4(b)に示すように、様々なパターンで作製することができる。図4(b)には概念図としてY方向の干渉縞間隔Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTを図示したが、多くの場合、物理的な干渉縞パターンはCGH原版1の表面の凹凸として形成する。この場合、図5に示すように、凹凸の断面が矩形(図5(a))、曲線(図5(b))など種々の方法がある。また、断面の変化ではなく2次元パターンがY方向に周期的に変化することで干渉縞間隔を定めることもできる。なお、図5では、第Y方向に異なる干渉縞間隔は、単位領域内で一方から他方へ徐々に変化しているが、これに限らず、様々なパターンで作製することができる。
【0027】
図6は、本実施形態の実施例1のCGH原版1作製時の状態を示す図である。本実施例1では、物体光Omの光源のY方向の発散位置を、CGH原版1の観察者と反対側の発散位置Fm1に設定する。したがって、図7に示すように、物体光Omは、X方向に関しては、点光源P1…Pm…PMから広がり、Y方向には広がることなく発せられ、Y方向に関しては、発散位置F11…Fm1…FM1から発せられ広がるように設定される。このため、多少の非点収差が発生するが、原画像OとCGH原版1との間の距離が極めて短いので、ほとんど影響はない。
【0028】
このように光源を設定し、所定の入射角で参照光Lを照射し、物体光Omと参照光Lが干渉するように設定すると、図6に示すCGH原版1の単位領域Bm内に干渉縞間隔Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTの干渉縞が現れる。本実施例1では、干渉縞間隔は紙面に対して上から下に広がっていくように現れる。すなわち、CGH原版1は、干渉縞間隔Cm1側の空間周波数が高く、干渉縞間隔CmT側の空間周波数が低くなるように、作製される。
【0029】
図8は、図6及び図7に示した実施例1のように作製されたCGH原版1に単色光からなる再生照明光2を照射した場合を示す図である。図6及び図7に示したCGH原版1に対して、単色光の再生照明光2を照射した場合、図8に示すように、CGH原版1で回折した回折光3は、側面から見ると円弧状に広がり、Y方向に視域を拡大しながら進行する。
【0030】
図9は、本実施形態の実施例2のCGH原版1作製時の状態を示す図である。本実施例2では、物体光OmのY方向の集束位置をCGH原版に対して観察者側の集束位置Fm2に設定する。したがって、物体光Omは、紙面に垂直なX方向に関しては、点光源P1…Pm…PMからY方向に広がることなく発せられ、Y方向に関しては、集束位置F12…Fm2…FM2から発せられるように設定される。このため、多少の非点収差が発生するが、原画像OとCGH原版1との間の距離が極めて短いので、ほとんど影響はない。
【0031】
このように光源を設定し、所定の入射角で参照光Lを照射し、物体光Omと参照光Lが干渉するように設定すると、図9に示すCGH原版1の単位領域Bm内に干渉縞間隔Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTの干渉縞が現れる。本実施例2では、干渉縞間隔は紙面に対して上から下に狭まっていくように現れる。すなわち、CGH原版1は、干渉縞間隔Cm1側の空間周波数が低く、干渉縞間隔CmT側の空間周波数が高くなるように、作製される。
【0032】
図10乃至図13は、Y方向に関する物体光の発散位置Fm1又は集束位置Fm2の他の例を示す図である。図10は、発散位置Fm1をCGH原版1の近くに配置した場合を示す図である。この場合、Y方向の視域の広がりが大きくなる。図11は、発散位置Fm1をCGH原版1から遠く離れて配置した場合を示す図である。この場合、Y方向の視域の広がりが小さくなる。図12は、すべての単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BMに対してCGH原版1と発散位置Fm1との位置関係が一定の場合を示す図である。この場合、設計が容易となり、計算負荷が小さくて済む。図13は、単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BM毎にCGH原版1と発散位置Fm1との位置関係が異なる場合を示す図である。この場合、単位領域B1,B2,B3,…,Bm,…BM毎にY方向の視域を変更することができる。図13に示す例では、上端や下端の単位領域から観察者に向かう再生光が同時に見える範囲が広くなっている。
【0033】
図14は、図6に示した実施例1のように作製されたCGH原版1に白色光からなる再生照明光2を照射した場合を示す図である。図6に示したCGH原版1に対して、白色光の再生照明光2を照射した場合、図14に示すように、CGH原版1から光の波長毎に異なる回折光3が発生する。本実施形態では、RGBに対応するそれぞれの回折光3は、図14に示すように、異なる方向に進行するが、回折光3のRGBすべてを含む領域Sで白色に見えるようになる。
【0034】
ここで、CGH原版1が白色で観察可能となる条件について、詳細に説明する。図15は、CGH原版が白色で観察可能となる条件を示す図である。
【0035】
CGH原版1の各単位領域Bm内において、Y方向の最高空間周波数(fmax)の場所に入射する再生照明光2のうち、使用したい最短波長λB(例えば380nm)の光が回折する方向をθBmax(ZY平面内で、Z方向を0度として、反時計回りに正の角度とする)、また、Y方向の最低空間周波数(fmin)の場所に入射する再生照明光2のうち、使用したい最長波長λR(例えば780nm)の光が回折する方向をθRminとした時、以下の条件式(1)の関係を満足すれば、CGH原版1の各単位領域Bmを白色で観察可能な位置が存在することになる。
θRmin<θBmax ・・・(1)
ここで、回折角などの角度θは、ZY平面内でZ方向を0度として、反時計回りに正の角度とし、その取りうる範囲は−π/2<θ<π/2とする。
【0036】
また、回折の式
1/f=λ/(sinθout−sinθin)
f:CGHのY方向の空間周波数
λ:波長
θin:入射光の入射角度
θout:回折光の出射角度
を用いると、入射光の入射角度をθLとして、
θRmin=sin-1(fmin・λR+sinθL)
θBmax=sin-1(fmax・λB+sinθL)
となるため、CGH原版1の各単位領域Bmを白色で観察可能な位置が存在するには、θRminとθBmaxを条件式(1)に代入し、以下の条件式(2)を満足させ、さらに、観察位置でCGH原版1の各単位領域Bmを白色で観察するためには、θBmaxを与える矢印とθRminを与える矢印を延長した交点をWとし、交点Wから目Eに向かう角度をθEとしたとき、以下の条件式(3)を満足すればよい。
fmin・λR<fmax・λB ・・・(2)
θRmin<θE<θBmax ・・・(3)
【0037】
したがって、CGH原版1のすべての単位領域Bm毎に、条件式(2)及び条件式(3)を満足すれば、観察位置においてCGH全体を白色で観察することができる。
【0038】
図16は、参照光Lは単位領域毎に所定の集束位置Gに集束し、物体光はY方向には広がらない場合を示す図である。図16に示すように、参照光Lは単位領域BmごとにY方向の所定の集束位置Gに集束し、物体光OmはY方向には広がらない線光源として設定した場合、CGH原版1の単位領域Bm内の干渉縞は、Y方向の干渉縞間隔Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTが紙面に対して上から下に広がっていくように現れる。すなわち、CGH原版1は、干渉縞間隔Cm1側の空間周波数が高く、干渉縞間隔CmT側の空間周波数が低くなるように、作製される。また、Y方向の集束位置Gは、ホログラムの観察者と反対側でもよく、この場合、Y方向の間隔はCm1側の空間周波数が高く、CmT側の空間周波数が低くなるように、作製される。
【0039】
このように、単位領域内のY方向の干渉縞間隔Cm1,Cm2,Cm3,…,Cmt,…CmTが異なるようにCGH原版1を作製することにより、回折光3のY方向の拡散角度を変更するので、Y方向の視域を拡大したCGH原版1とすることができる。さらに、再生照明光2として白色光を用いた場合、Y方向の視域が拡大すると共に、白色で観察することができる。
【0040】
以上、本発明の計算機合成ホログラムの作製方法及びその方法により作製された計算機合成ホログラムを実施形態に基づいて説明してきたが、本発明はこれら実施形態に限定されず種々の変形が可能である。例えば、本発明に係る計算機合成ホログラムは、特許文献6及び特許文献7に提示されたような計算機合成ホログラフィックステレオグラムの技術を適用してもよい。
【符号の説明】
【0041】
1…CGH原版(CGH原版用記録媒体)
2…再生照明光
3…回折光
【特許請求の範囲】
【請求項1】
計算機を用いた演算により所定の記録面上に振幅情報と位相情報を記録してなる計算機合成ホログラムの作製方法において、
前記計算機合成ホログラムは、
第1方向と、前記第1方向に直交する第2方向に対して、
前記第1方向のみの視差を有し、
前記第2方向に所定の幅を有する各単位領域を有し、
前記各単位領域内に、一方から他方へ徐々に変化し、前記第2方向に異なる凹凸パターンの空間周波数の回折パターンが作製され、
記録物体上に設定した線光源から前記第1方向に広がり、
前記第2方向に一定の幅の物体光を用い、
前記参照光として前記第2方向に関して前記単位領域ごとに定めた所定の位置に集束する参照光を用いて記録される
ことを特徴とする計算機合成ホログラムの作製方法。
【請求項2】
前記回折パターンは、干渉縞からなることを特徴とする請求項1に記載の計算機合成ホログラムの作製方法。
【請求項3】
前記回折パターンは、位相と振幅を変調するパターンからなることを特徴とする請求項1に記載の計算機合成ホログラムの作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の計算機合成ホログラムの作製方法によって作製された計算機合成ホログラム。
【請求項1】
計算機を用いた演算により所定の記録面上に振幅情報と位相情報を記録してなる計算機合成ホログラムの作製方法において、
前記計算機合成ホログラムは、
第1方向と、前記第1方向に直交する第2方向に対して、
前記第1方向のみの視差を有し、
前記第2方向に所定の幅を有する各単位領域を有し、
前記各単位領域内に、一方から他方へ徐々に変化し、前記第2方向に異なる凹凸パターンの空間周波数の回折パターンが作製され、
記録物体上に設定した線光源から前記第1方向に広がり、
前記第2方向に一定の幅の物体光を用い、
前記参照光として前記第2方向に関して前記単位領域ごとに定めた所定の位置に集束する参照光を用いて記録される
ことを特徴とする計算機合成ホログラムの作製方法。
【請求項2】
前記回折パターンは、干渉縞からなることを特徴とする請求項1に記載の計算機合成ホログラムの作製方法。
【請求項3】
前記回折パターンは、位相と振幅を変調するパターンからなることを特徴とする請求項1に記載の計算機合成ホログラムの作製方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の計算機合成ホログラムの作製方法によって作製された計算機合成ホログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−212183(P2012−212183A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−166111(P2012−166111)
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【分割の表示】特願2008−287309(P2008−287309)の分割
【原出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【分割の表示】特願2008−287309(P2008−287309)の分割
【原出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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