説明

記憶の一部側面を増強するためのルテイン含有組成物の使用

本発明は、a)ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせの何れかの有効量と;b)適切な担体と、からなる組成物を投与することと、連合記憶、空間記憶又はストレス下における記憶の増強を観察することと、を含む、健常者において、連合記憶、空間記憶及びストレス下における記憶からなる群から選択される記憶の一部側面を増強する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、連合学習、連合記憶、ストレス下における学習及び記憶ならびに空間的(位置)学習など、一部のある種の記憶機能を改善するための、ルテイン及び/又はゼアキサンチンを含む新規栄養補助組成物又は食品組成物に関する。
【0002】
[背景技術]
高齢者及び若年者の両方において学習、記憶及び覚醒状態を改善するために使用することができる栄養補助組成物の開発に対する関心が高まっている。
【0003】
ルテインは、認知低下を改善することができるとして記載されている。例えば、ルテインが、抗酸化剤として作用する際に糖尿病マウスの海馬を保護し得ることを示唆している、米国特許出願公開第2006/0205826号明細書(Romero et al.)を参照のこと。
【0004】
国際公開第2006/116755号パンフレット(Trustees of Tufts College)は、長期処置(4ヶ月)後のルテイン吸収及び脳への輸送におけるドコサヘキサエン酸(DHA)の相乗効果を報告している。この組み合わせは、認知機能障害又は認知症を予防又は治療するために、及び言語流暢性、言語リスト及びMIR(Memory in Reality)アパートメントテスト(Apartment test)により判定されるような記憶障害を予防するために使用され得る。ルテイン単独投与の結果、言語流暢性検査において顕著な改善が見られ;行われた他の認知又は気分評価検査では何れも改善は見られなかった。
【0005】
カロテノイド又は認知増強物質の候補であるその他の天然産物の試験の殆どには、既に少なくとも認知症の第一段階にあるか(短期記憶障害など)又は後期(アルツハイマー病など)にある者の認知低下の予防が含まれる。ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせが、健常者集団における記憶のある一部側面を増強する能力についてはあまり分かっていない。
【0006】
[発明の詳細な説明]
本発明によると、単独の活性成分として又はゼアキサンチンとの組み合わせの何れかで投与されるルテインは、連合学習及び記憶、ストレス下における学習及び記憶ならびに空間的学習及び記憶など、記憶のある種の側面を強化し得ることが分かった。
【0007】
従って、本発明の一態様は、a)ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせの何れかの有効量と;b)適切な担体と、からなる組成物を投与することと、
連合記憶、空間記憶又はストレス下における記憶の増強を観察することと、
を含む、健常者において、連合記憶、空間記憶及びストレス下における記憶からなる群から選択される記憶の一部側面を増強する方法である。
【0008】
本発明の別の態様は、
a)ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせの何れかの、ストレス関連学習及び記憶を増強する有効量と、b)適切な担体と、からなる組成物を投与することと、
ストレス下における学習及び記憶の増強を観察することと、
を含む、ストレス下における学習及び記憶を増強する方法である。
【0009】
本発明の別の態様は、a)ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせの何れかの、空間関連学習及び記憶を増強する有効量と、b)適切な担体と、からなる組成物を投与することと、
空間的学習及び記憶の増強を観察することと、
を含む、空間的学習及び記憶を増強する方法である。
【0010】
本発明の別の態様は、a)連合学習及び記憶、b)ストレス下における学習及び記憶又はc)空間的学習及び記憶を増強するための、単独の活性化合物としての、ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせの使用である。本発明のさらに別の態様は、a)連合学習及び記憶、b)ストレス下における学習及び記憶又は及び/又はc)空間的学習及び記憶を増強する栄養補助又は機能食品を製造するための、記憶を増強することに関して活性である単独の活性化合物としての、ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせの使用である。
【0011】
本発明の別の態様は、自身の連合学習もしくは記憶、自身のストレス下における学習もしくは記憶又は自身の空間的学習もしくは記憶を増強させたい者による使用のためのキットである。本キットは、ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせの何れかの製剤及び場合によっては使用説明書を含む。さらに及び場合によっては、その他の活性成分の個別の製剤があり得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、グルタミン酸神経毒性のパラダイムにおけるルテインの神経保護効果を示すグラフである。
【図2】図2は、IntelliCage及びその機能的特色の概略図である。
【図3】図3は、位置誤り率(誤ったコーナーに行くパーセンテージ)を示す。この効果は、モジュール開始から観察され、最初の12時間(活動期)にわたり維持されており、このことから、ルテインでの処置の結果、注意レベルが高くなり、記憶力が改善することが明らかとなった。
【図4】図4は、サイド誤り率(正しいコーナーの誤ったサイドでノーズポークを行うパーセンテージ)を示す。ルテインにより、ビヒクル処置対照と比較して、%誤り率が顕著に低下した。
【図5】図5は、ルテイン処置マウスが、対照マウスよりも顕著に良好に、ストレス状態下で水を入手するために正しい場所を見出すという課題を解決したことを示す。
【図6】図6は、動物飼料へのルテイン補給の結果、マウスの、空間手掛かりを用いて水の場所を発見し記憶する方法の習得が顕著に改善したことを示す。
【0013】
[定義]
ルテインとは、植物抽出物又はオレオレジンとしての、ルテインの何らかの摂取可能形態を意味する。これは、オール−E及びZ異性体の両方を含む。好ましいものは、FloraGLO(登録商標)ルテインであり、これは、およそ98%ルテイン(オール−E及びZ−異性体)及び約2%のその他のカオテノイド(caotenoids)(そのうち約0.5−1.5%がゼアキサンチン)を含有するマリーゴールド抽出物である。ルテインは、様々な油(ベニバナ、トウモロコシ)中の縣濁液として使用することができるか又はActilease(登録商標)FloraGLO(登録商標)ルテインなどのバイオアベイラビリティーが高い微小ビーズ形態に製剤化することができる。
【0014】
ゼアキサンチンとは、ゼアキサンチン及び/又はオール−E及びZ−異性体ならびにSS’、SR(メソ−ゼアキサンチン)及びRR’立体異性体を含むその異性体を意味する。ゼアキサンチンは、様々な油(ベニバナ、トウモロコシ)中の縣濁液として使用することができるか又は、Actilease(登録商標)製剤化Optisharp(登録商標)などのバイオアベイラビリティーが高い微小ビーズ形態に製剤化することができる。
【0015】
ゼアキサンチンとは、ゼアキサンチン及び/又は、メソ−ゼアキサンチンなどの一般に使用されるゼアキサンチンの誘導体を意味する。
【0016】
「連合学習を改善/増強する」とは、記号、符号、規則の意味及び、訓練を受けている状況下で刺激にどのように反応するかの学習が改善することを意味する。
【0017】
「ストレス下での学習を改善/増強する」とは、日常生活/職務ストレスの一部として経験されるようなものなど、ストレス状態下で新しい課題が生じた際に、対象において、新しい技能又は新しい情報の学習が改善することを意味する。
【0018】
「ストレス下での記憶を改善/増強する」とは、ストレス環境を経験している間又は日常生活において、情報を想起する対象の能力が改善することを意味する。一例は、試験という状況下で解答を想起することである。
【0019】
「空間的学習又は記憶を改善/増強する」とは、周囲環境の他の部分と関連して物体の位置を学習する対象の能力が増強されることを意味する。例えば、ショッピングセンター周囲の地理をより容易に学習し得るようになる。別の例は、自動車をどこに駐車したか又は鍵をどこに置いたかを良好に記憶するようになることである。
【0020】
「単独の学習増強化合物」とは、認知補助物質である他の成分が組成物中に含まれないことを意味する。具体的に排除される成分の例としては、イチョウ(抽出物又は個々の活性成分)、アセチル−L−カルニチン、ビタミンC及びE、B−ビタミン、シチコリン、CoQ10(コエンザイム−Q10)、チョウセンニンジン、フペルジンA、DHA/EPAなどのオメガ−3脂肪酸、ホスファチジルセリン、松樹皮抽出物(ピクノジェノール)又はオトメアゼナ(Bacopa monieri)植物抽出物が挙げられる。
【0021】
認知的側面の増強を「観察する」とは、観察者が、対象において改善があったことに気付くか、又は対象自身が、対象において改善があったことに気付くことの何れかを意味する。これらの改善は、標準化された測定を用いて定量化され得るが、これは主観的感覚又は経験にのみ基づく必要はなく、主観的感覚又は経験にのみ基づくこともある。
【0022】
「治療(処置)」は、同時治療(処置)ならびに予防も包含する。「予防」は、将来における症状の完全な欠如に限定されないが、個体又は集団が症状を呈するリスクの低下、特定の状態と関連する症状の軽減、特定の状態の発現時間の短縮、状態の重症度の軽減及び無症状の個体が将来的に症状を示す可能性の低下を含むものとする。
【0023】
これらの改善を達成するために、数日(例えば少なくとも6日又は10日間)にわたる投与が推奨され、一般には数週間にわたり毎日投与することが好ましい。
【0024】
好ましい実施態様において、ルテイン又はルテイン+ゼアキサンチンは、健常対象により摂取される。「健常」とは、対象が、自身の精神的健康を害する何れの状態でもない、即ち、認知症、アルツハイマー病などの記憶力の低下、うつ又は、統合失調症などの記憶及び学習に影響を及ぼすその他の精神病的状態を特徴とする状態ではないことを意味する。
【0025】
従って、本発明の別の態様は、連合記憶を改善するための、ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの使用である。
【0026】
本発明の別の態様は、対象がストレス下にある際の記憶を改善するためのルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの使用である。ストレス下における記憶が改善した対象は、次のうち少なくとも1つを認める:
・作業時に割り当てられた仕事の遂行を忘れないこと(いくつかの課題が未解決である場合)
・人前で話す際に事実などを覚えていること
・試験という状況下又は迅速な想起が必要とされる状況下でのより良好な成績。
【0027】
本発明の別の態様は、空間記憶を改善するための、ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの使用である。空間記憶が改善した対象は、次のうち少なくとも1つを認める。
・鍵、眼鏡、携帯電話又はTVリモートコントローラーなどの物品の置き忘れが少なくなる。
・家の中などの周辺環境において、運転中又は大規模な駐車場で自動車を駐車した場所を単純に思い出す際に、容易に自分の位置を確認する能力。
【0028】
ヒトに対する適用以外に、本発明の組成物は、獣医学の分野においてさらなる用途がある。動物が利益を得る状態は、特に、例えば猟犬、盲導犬、警察犬など又は映画産業で使用される動物に対する具体的な目的のための訓練手順及び教育である。認知機能の増強から利益を得ることができる動物には、ストレス状態に晒される動物が含まれる。このような状態は、例えば捕獲もしくは輸送後に起こるか又は、飼育条件(飼育場所又は飼い主の変更など)の理由によるものであり得るか、動物が類似障害を発現し、苦痛を感じているかもしくは攻撃的であるか、又は常同行為もしくは不安及び強迫神経症の行動を示す場合であり得る。ストレスに晒されている動物としてはまた、競争用の動物(例えばイヌ、ウマ、ラクダ)であるか又は様々なスポーツで使用される動物、芸を仕込まれる動物(サーカス動物及び舞台、テレビ又は映画に出演するものなど)及び馬場馬術及びその他の高度に訓練された一連の動作を行うウマも挙げられる。
【0029】
好ましい「動物」は、ペット又はコンパニオン動物及び家畜である。ペットの例は、イヌ、ネコ、トリ、観賞魚、モルモット、(ジャック)ウサギ、野ウサギ及びフェレットである。家畜の例は、水産養殖魚、ブタ、ウマ、反芻動物(ウシ、ヒツジ及びヤギ)及び家禽である。
【0030】
[栄養補助的な用途/処方/投与量]
「栄養補助」という用語は、本明細書中で使用される場合、栄養学的及び製薬学的適用分野の両方における有用性を意味する。従って、新規栄養補助組成物は、食品/飼料及び飲料への補助物質として、及びカプセル剤もしくは錠剤などの固形製剤又は溶液もしくは縣濁液などの液体製剤であり得る腸内又は非経口適用のための製剤処方として、使用することができる。
【0031】
本発明による栄養補助組成物は、保護親水コロイド(ゴム、タンパク質、加工デンプンなど)、結合剤、被膜形成剤、封入剤/材料、壁/シェル材料、マトリクス化合物、コーティング、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤(油、脂肪、ワックス、レシチンなど)、吸着剤、担体、充填剤、補助化合物(co−compound)、分散剤、湿潤剤、助剤(溶媒)、流動化剤、矯味剤、増量剤、ゼリー化剤、ゲル形成剤、抗酸化剤及び抗菌剤をさらに含有し得る。
【0032】
さらに、食生活によっては欠如することがある適正量の必須栄養素を得るために、本発明の栄養補助組成物にマルチビタミン及びミネラルサプリメントを添加し得る。このマルチビタミン及びミネラルサプリメントは、疾病予防及び生活スタイルパターンによる栄養損失及び欠乏を防ぐためにも有用であり得る。
【0033】
本発明による栄養補助組成物は、身体への投与に適切である従来の担体材料を含有する何らかのガレヌス製剤形態、特に、経口投与に対して一般的である何らかの形態、例えば、食品又は飼料(に対する添加剤/サプリメント)、食品又は飼料プレミックス、強化食品又は飼料、錠剤、丸剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤及び発泡性製剤、例えば粉剤及び錠剤などの固体形態、又は溶液、乳剤もしくは縣濁液、例えば飲料、ペースト及び油性縣濁液などの液体形態であり得る。ペーストは、硬又は軟シェルカプセル剤に組み込むことができ、カプセル剤は、例えば(魚、ブタ、家禽、ウシ)ゼラチン、植物性タンパク質又はリグニンスルホネートのマトリクスを特徴とする。その他の適用形態に対する例は、経皮、非経口又は注射投与に対するものである。食餌及び医薬組成物は、制御(遅延)放出製剤の形態であり得る。
【0034】
食品の例は、例えば、マーガリン、スプレッド、バター、チーズ、ヨーグルト又は乳飲料を含む乳製品である。
【0035】
強化食品の例は、パン、シリアルバー、焼き菓子類、例えばケーキ及びクッキーなど、及びポテトチップス又はクリスプスである。
【0036】
ペットフードの例は、缶入りウェットフード、おやつ及びペレットである。
【0037】
飲料には、ノンアルコール及びアルコール飲料ならびに飲料水及び液体食品に添加されるものである液体調製品が包含される。ノンアルコール飲料は、例えば清涼飲料、スポーツ飲料、果汁、レモネード、茶及びミルク添加飲料である。液体食品は、例えばスープ及び乳製品である。ルテイン又はルテイン+ゼアキサンチンを含有する栄養補助組成物は、成人が1日あたり最大2mg/kg体重を摂取するように、清涼飲料、エネルギーバー又はキャンディーに添加され得る。
【0038】
栄養補助組成物が製剤処方である場合、本組成物は、医薬的に許容可能な賦形剤、希釈剤又はアジュバントをさらに含有する。それらの処方のために、例えばRemington’s Pharmaceutical Science,20th edition Williams & Wilkins,PA,USAで開示されるような標準的技術を使用することができる。経口投与の場合、適切な結合剤、例えばゼラチン又はポリビニルピロリドン、適切な充填剤、例えばラクトース又はデンプン、適切な滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム及び場合によってはさらなる添加剤を含有する、錠剤及びカプセル剤が好ましくは使用される。
【0039】
ヒトを含む動物の場合、本発明の目的に対するルテイン又はルテイン+ゼアキサンチンの適切な1日投与量は、1日あたり0.15mg/kg体重から約10mg/kg体重の範囲内であり得る。
【0040】
次の非限定的な実施例は、本発明をより詳細に例示するために提供するものである。
【0041】
[実施例1]
[インビトロ神経毒性モデルにおけるルテインの効果]
グルタミン酸は、中枢神経系における主要な興奮性アミノ酸の1つであり、正常な生理機能において重要な役割を果たす。グルタミン酸機能の正常な制御機構におけるゆらぎにより、脳におけるグルタミン酸受容体の過剰な神経毒性活性化が起こり得、これは正常及び加齢脳における学習及び記憶機能に悪影響を及ぼし得る。ニューロンの初代培養を用いて、グルタミン酸中毒化によってこれらの状態を再現することができる。ニューロンの神経フィラメント細胞骨格ネットワークにおける形態学的変化により、培養ニューロンに対する影響が示された。
【0042】
成熟ニューロン神経突起に特異的な抗神経フィラメント抗体(重鎖200kD)による標識化を用いてネットワーク密度を分析することによって、単一化合物及び化合物の組み合わせの神経保護効果を評価した。
【0043】
グルタミン酸の神経毒性効果を中和し、その結果神経突起の伸長をもたらす阻害化合物として、リルゾール(薬理学的神経保護物質)及びMK801を使用した。阻害剤MK801(NMDA型グルタミン酸受容体の完全阻害物質)は強力であり、中毒化後100%の回復をもたらした。
【0044】
下記で示すスケジュールを用いてルテインの神経保護機能について試験した。
【0045】
【表1】



【0046】
第5日に、対照培地又はルテイン(生理学的範囲内の3種類の濃度)1濃度あたりn=6)を含有する培地により培地交換した。培地の半分を2−3日ごとに交換した。第12日に、250μΜのグルタミン酸で6時間、細胞を中毒化状態にした。
【0047】
対照培養物(さらなる化合物を用いずにグルタミン酸中毒化)の神経突起長を100%とした。これらの実験から、ルテインによる前処理(使用した全濃度、p<0.05及び<0.01)によって、興奮毒性グルタミン酸神経毒性からニューロンが有意に保護されたことが示された(図1参照)。
【0048】
[実施例2]
[新しい完全自動化の学習及び記憶のげっ歯類モデルにおけるルテイン及び/又はゼアキサンチンの効果]
ホームケージ様の環境でのマウスの自発及び学習行動の自動監視を可能にするシステムであるIntelliCage(登録商標)において、ルテイン及び/又はゼアキサンチンで処置したマウスの認知能力をビヒクル処置した週齢適合対照と比較した(New Behavior AG,Zuerich,Switzerland,www.newbehavior.com;Galsworthy et al.2005,Behav Brain Res 157:211−217;Onishchenko et al.2007,Toxicol Sci 97:428−437,Mechan et al.2009,J.Neurosci.Methods,180:43−51)。マウス頸部の首筋に埋め込まれているトランスポンダー(参照識別タグ)を読み取るIntelliCageのコーナーのセンサーにより個々のマウスが認識される。
【0049】
各IntelliCage(登録商標)は、基本的に大型ケージ(37.5x55x20.5cm)であり、これには金属枠が設置されており、4個の記録(オペラント)チャンバーが含まれている。記録チャンバーがケージのコーナーに嵌めこまれ、それぞれ床面のl5×l5×21cmの直角三角形の領域を覆う。ケージ内アンテナにより、それぞれ個々のマウスのコーナーへの立ち寄りを自動的に監視できるようになっており、各コーナー内の光ビームにより、個々のノーズポーク及び水ボトルの吐水口のリッキングを自動的に記録できる。4個の三角形のマウスシェルターがケージ中央に設置されており、その上に給餌ホッパーがあり、飼料を自由に摂取できるようになっている。
【0050】
各記録チャンバーには、(1)チャンバーへの入り口となり、コーナーへの立ち寄りを記録する円形アンテナを収容するプラスチックリング(30mm内径);(2)マウスがチャンバーに入ると乗るグリッド床;(3)水ボトルの吐水口に接近可能にする2ヶ所の円形開口部(13mm直径);各開口部はノーズポークを記録する光ビームが交差;(4)水ボトルの吐水口への接近を許可(開扉)又は禁止(閉扉)する2ヶ所の電動扉;(5)2本の水ボトル;(6)嫌悪刺激としてエアパフを送達可能なチューブ系;(7)条件付け実験に対して使用できる様々な色の光ダイオード(Mechan et al.2009 J Neurosci Methods 180:43−51)が含まれる。図2を参照のこと。
【0051】
[実験段階:]
この試験には、2つの試験群(1群あたりn=12−14):ビヒクル(対照)、ルテイン(9mg/kg BW)(FloraGLO(登録商標)ルテイン、約98%ルテイン(オール−E及びZ−異性体)及びその他のカテノイド約2%(うち約1−1.5%ゼアキサンチン)含有マリーゴールド抽出物が含まれた。
【0052】
標準動物固形飼料にはルテインが含まれた。IntelliCage試験の12日前から、4週間の試験期間にわたり、全マウスに飼料中で試験物質又はプラセボを投与した(50mg/kg飼料)。
【0053】
最初の適応期間(9日間)の間、マウスを全コーナー、水及び飼料に自由に接近させ、ケージ内を自由に探索できるようにした。続いて、マウスは、ノーズポークを利用することを学習しなければならず(ノーズポーク適応モジュール、2日間);全扉は最初、閉められており(水への接近禁止)、マウスは扉を開け、水ボトル吐水口に到達するためにノーズポークを行わなければならなかった。回収データには、次のモジュールをプログラム化するために記録した、個々のマウスが最も好まないコーナーなどのいくつかのパラメーターが含まれた。
【0054】
ノーズポーク適応後、次の課題を行った:
サイド識別パラダイム:連合学習及び記憶ならびに記憶及び注意の検査
連合記憶パラダイム:負の強化(ストレス)による連合学習及び記憶の検査
位置学習パラダイム:空間的学習及び記憶ならびに方向付けの検査。
【0055】
[サイド識別パラダイム]
このモジュールは、注意及び連合記憶を試験するために計画した。正しいコーナーを1ヶ所、各マウスに割り当てた。このコーナーにおいて、(2つのうち)片側のみを正しいものとし、緑色のLEDにより動物に示した。正しいサイドにおいて、動物はノーズポークを行い、続いて水ボトルから飲むことができた。このモジュールの間、位置の誤り(即ち正しくないコーナーに行ったパーセンテージ)及びサイドの誤り(即ち正しいコーナーの誤ったサイドでのノーズポークの%)を記録した。
【0056】
試験の活動期中、位置誤り率(図3)及びサイド誤り率(図4)の両方がビヒクル群よりも有意に低かったので、これらのデータから、ルテイン長期投与後、注意の改善が示される。
【0057】
まとめると、自動化IntelliCage(登録商標)試験からの結果により、ルテインによる処置の結果、ビヒクル処置した同腹仔と比較した場合、水に接近するために、正しいコーナー及びそのコーナーの正しいサイドと短時間(2秒間)の光シグナルの存在を関連させるためのマウスの学習及び記憶の顕著な改善が得られる。
【0058】
[連合記憶パラダイム]
このモジュールにおいて、正しいコーナーを各マウスに割り当て、光を3秒間点灯させることにより示した。従って、正しいコーナーでのノーズポークにより扉が開き、マウスはその特定のコーナー内の水に接近し、一方、各マウスが正しくないコーナーの何れかへ行った場合は、罰としてエアパフが与えられた(ストレス)。結果を図5で示すが、これは、ビヒクル処置同腹仔と比較して、ルテイン処置マウスが、水を得る(及びその結果罰を回避する)ための位置を学習し、記憶する能力が顕著に高くなったことを示す。
【0059】
[位置学習パラダイム]
この学習課題において、マウスは、水に接近するために、正しいコーナーに入り、そのコーナーの何れかの側でノーズポークを行わなければならなかった。先のノーズポーク適用モジュールの間の動物の立ち寄り行動に従い、コーナーを割り当て、該当する場合、最も好まないコーナーを各マウスに対して正しいコーナーとして割り当てた。さらなるシグナル(光など)は与えず、従って、マウスがそれらの周囲及び/又はケージにおける空間手掛かりに基づき水に接近するためにコーナーの位置を記憶するよう学習しようとさせた。図6は、この試験の結果をまとめるが、これは、ルテイン処置マウスがプラセボを与えられた同腹仔よりも顕著に優れた成績を収めることを示す。
【0060】
まとめると、自動化IntelliCage(登録商標)試験からの結果により、ビヒクル処置同腹仔と比較した場合、数週間ルテインで処置すると、その結果、マウスにおいて様々なタイプの学習及び記憶が顕著に改善することが確認される。
【0061】
第二のセットの実験において、上述の学習及び記憶パラダイムで、様々な用量のルテイン(8mg/kg/d、16mg/kg/d及び30mg/kg/d)又はルテイン及びゼアキサンチンの組み合わせ(それぞれ15及び16mg/kg/d)を試験した。中程度のルテイン用量を与えられた動物は、位置の誤り及びサイドの誤りの両方に関して、対照群と比較して、連合記憶課題における顕著な成績向上を示した。さらに、ルテイン及びゼアキサンチンを与えられた動物は、サイドの誤りに関して優れた成績を収めた。
【0062】
第一の実験セットよりも2−3ヶ月若い動物において、これらの実験を行い、この実験から、有益なルテインの効果が、使用した週齢及び認知パラダイムに従い様々であり得ることが示唆された。
【0063】
[実施例3]
[軟ゼラチンカプセルの調製]
軟ゼラチンカプセルは、次の成分を含むように調製され得る:
【0064】
【表2】



【0065】
3ヶ月にわたり1日2個のカプセル剤を成人に投与し得る。
【0066】
[実施例4]
[即席風味付け清涼飲料の調製]
【0067】
【表3】



【0068】
全成分を混ぜ合わせ、500μm篩にかける。得られた粉末を適切な容器に入れ、少なくとも20分間、管状のブレンダー中で混合する。飲料を調製するために、得られた混合粉末840gを十分な水と混合して1Lの飲料を生成させる。
レディ・トゥ・ドリンク(ready−to−drink)清涼飲料は、1杯(250ml)あたりおよそ12mgのルテインを含有する。強化物質として及び一般的な健康のために、1日1杯(250ml)が飲まれ得る。ストレス下における記憶の改善が見られる。
【0069】
[実施例5]
[栄養分強化ノンベイクシリアルバーの調製]
【0070】
【表4】



【0071】
ルテイン及びゼアキサンチンを脱脂粉乳と予め混合し、遊星型ボウルミキサーに入れる。コーンフレーク及びライスクリスピーを添加し、全体を穏やかに混合する。次いで乾燥カットリンゴを添加する。1つの調理鍋で、水及び塩を上記で与えられる量で混合する(溶液1)。第二の調理鍋において、グルコース、転化糖−及びソルビトールシロップを上記で与えられる量で混合する(溶液2)。脂肪相は、ベーキング油脂、パーム核油、レシチン及び乳化剤の混合物からなる。溶液1を110℃に加熱する。溶液2を113℃に加熱し、次いで冷水浴中で冷却する。続いて、溶液1及び2を合わせる。脂肪相を水浴中、75℃で融解させ、次いで溶液1及び2を合わせた混合液に添加する。アップル香料及びクエン酸を液状糖/脂肪混合物に添加する。液体を乾燥成分に添加し、遊星型ボウルミキサー中でよく混合する。塊を大理石プレート上に置き、望ましい厚さに圧延する。この塊を室温まで冷却し、小片になるように切断する。ノンベイクシリアルバーは、1食(20g)あたりおよそ10mgのルテイン及び2mgのゼアキサンチンを含有する。
【0072】
[実施例6]
[ルテインを含有するドライタイプのドッグフード]
市販のイヌ用基礎食(例えばMera Dog”Brocken”、MERA−Tiernahrung GmbH,Marienstrasse 80−84,D−47625 Kevelaer−Wetten,Germany)に、ビタミンC(例えばROVIMIX(登録商標)C−EC、DSM Nutritional Products Ltd,Kaiseraugst,Switzerland)又はその誘導体、即ち一リン酸アスコルビルナトリウム(例えばSTAY−C(登録商標)50、DSM Nutritional Products Ltd,Kaiseraugst,Switzerland)又はL−アスコルビン酸ナトリウム/カルシウムの三リン酸、二リン酸及び一リン酸エステルの混合物(例えばROVIMIX(登録商標)STAY−C(登録商標)35、DSM Nutritional Products Ltd,Kaiseraugst,Switzerland)などの抗酸化剤とともに、ドッグフード1kgあたりおよそ5mgのルテインを与えるのに十分な量の、ルテインの溶液、ルテイン、例えば、FloraGLO(登録商標)ルテイン5%トウモロコシ油を噴霧する。より体重が重い犬の場合、適宜に混合飼料を調製する。
【0073】
[実施例7]
[ルテインを含有するウェットタイプのキャットフード]
市販のネコ用基礎食(例えばHappy Cat“Adult”、Tierfeinnahrung,Suedliche Hauptstrasse 38,D−86517 Wehringen,Germany)を、水中で、ビタミンC(例えばROVIMIX(登録商標)C−EC、DSM Nutritional Products Ltd,Kaiseraugst,Switzerland)又はその誘導体、即ち一リン酸アスコルビルナトリウム(例えばSTAY−C(登録商標)50、DSM Nutritional Products Ltd,Kaiseraugst,Switzerland)又はL−アスコルビン酸ナトリウム/カルシウムの三リン酸、二リン酸及び一リン酸エステルの混合物(例えばROVIMIX(登録商標)STAY−C(登録商標)35、DSM Nutritional Products Ltd,Kaiseraugst,Switzerland)などの抗酸化剤とともに、キャットフード1kgあたり3mgの1日用量のルテインをネコに与えるのに十分な量のルテインの溶液、例えば、FloraGLO(登録商標)ルテイン5%トウモロコシ油と混合する。約90重量%の乾燥物を含有するように食品組成物を乾燥させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせの何れかの有効量と;b)適切な担体と、からなる組成物を投与することと、
連合記憶、空間記憶又はストレス下における記憶の増強を観察することと、
を含む、健常者において、連合記憶、空間記憶及びストレス下における記憶からなる群から選択される記憶の一部側面を増強する方法。
【請求項2】
a)ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせの何れかの、ストレス関連学習及び記憶を増強する有効量と、b)適切な担体と、からなる組成物を投与することと、
ストレス下における学習及び記憶の増強を観察することと、
を含む、ストレス下における学習及び記憶を増強する方法。
【請求項3】
a)ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせの何れかの、空間関連学習及び記憶を増強する有効量と、b)適切な担体と、からなる組成物を投与することと、
空間的学習及び記憶の増強を観察することと、
を含む、空間的学習及び記憶を増強する方法。
【請求項4】
a)連合学習及び記憶、b)ストレス下における学習及び記憶又はc)空間的学習及び記憶を増強するための単独の活性化合物としてのルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせの使用。
【請求項5】
a)連合学習及び記憶、b)ストレス下における学習及び記憶又は及び/又はc)空間的学習及び記憶を増強する栄養補助又は機能食品を製造するための、記憶増強に関して活性である単独の活性化合物としての、ルテイン又はルテインとゼアキサンチンとの組み合わせの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−510129(P2013−510129A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537412(P2012−537412)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066949
【国際公開番号】WO2011/054944
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】