説明

記憶保持力評価方法および記憶保持力評価システム

【課題】被験者の負担が少なく、評価者の技量等にかかわらず短時間で客観的な評価結果を得ることができるとともに、評価に際して多彩なパラメータを得ることができ、認知機能についての詳細な評価・解析を行うことが可能となる記憶保持力能評価方法を提供する。
【解決手段】被験者による描写が可能な表示入力画面5に、被験者に対する記憶用の課題として、楕円11等のモデル図形10を瞬間的に表示するステップと、瞬間的に表示されたモデル図形10が消失した後の表示入力画面5に、インターバル映像を、所定の時間の間表示するステップと、インターバル映像が消失した後の表示入力画面5に、表示入力画面5に対する描写によって被験者にモデル図形10を再現させるステップと、を含み、被験者によって表示入力画面5に描写された図形の、瞬間的に表示されたモデル図形10に対する、表示入力画面5におけるずれに基づいて、被験者の記憶保持力を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば認知症等のワーキングメモリの障害の検査等に用いられる記憶保持力評価方法および記憶保持力評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、認知症患者の増加が問題になっている。従来、認知機能の評価方法として、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)、ミニメンタルステート検査(MMSE)、アルツハイマー病評価スケール(ADAS)等がある。これらの方法は、医師等の検査を行う評価者が被験者(患者)に対して所定の質問を口述で行い、被験者の回答に基づいて点数化を図ることで、被験者の診断・評価を行う、いわゆる問診形式の方法である。
【0003】
こうした問診形式の方法によれば、被験者の回答が常に客観的に評価されるとも限らず、評価結果にバラツキが生じる場合がある。すなわち、従来の認知機能の評価方法は、問診形式であることから、例えば医師の技量によって患者の重症度が大きく異なる等、評価者の技量の差によって被験者の評価が左右され、評価結果の客観性に欠ける。また、問診形式の方法は、評価項目が多いため、被験者の負担が重く、評価を行うのに時間がかかる。
【0004】
そこで、例えば特許文献1に開示されているような技術がある。特許文献1の技術によれば、タッチパネル式の表示手段が用いられ、被験者が表示手段の画面から与えられた視覚的刺激を、記憶させられた後に、画面に対する入力操作によって再現させられる。そして、被験者による再現行為に基づいて、被験者の認知機能が評価される。
【0005】
確かに、特許文献1の技術によれば、比較的短時間で客観的な評価結果を得ることができると考えられる。しかし、特許文献1の技術については、被験者に与えられる記憶用の課題の内容から、次のような点で改善の余地がある。すなわち、特許文献1の技術においては、被験者に与えられる記憶用の課題である視覚的刺激として、タッチパネル式表示手段の画面上に形成される複数のセルについて、例えば対象セルを他のセルと異なる色にする等の刺激表示が用いられている。つまり、被験者は、複数のセルが存在する画面上において、特定のセルの位置を、例えば表示された順番通りに指定することで、記憶を再現させられる。
【0006】
したがって、被験者は、記憶を再現するに際し、画面上における複数のセルを連続的に選択するといういわばデジタル的な入力操作を行うこととなる。このため、被験者の認知機能についての評価に際して用いられるパラメータが、画面上に表示されるセルの数や刺激表示の表示順序や課題を行うのに要した時間等、比較的限られた内容になる。このように、評価に際して用いられるパラメータがある程度限られることから、被験者の症状に応じた評価等、認知機能についての詳細な評価・解析を行うことが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−137629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、被験者の負担が少なく、評価者の技量等にかかわらず短時間で客観的な評価結果を得ることができるとともに、評価に際して多彩なパラメータを得ることができ、認知機能についての詳細な評価・解析を行うことが可能となる記憶保持力能評価方法および記憶保持力評価システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
すなわち、請求項1においては、被験者の記憶保持力を評価するための記憶保持力評価方法であって、被験者による描写が可能な画面に、被験者に対する記憶用の課題として、形状を維持した状態で回転することによる傾きが認識可能であるとともに、楕円、長方形、またはこれらに類する比較的単純な図形であるモデル図形を瞬間的に表示する第一のステップと、該第一のステップにより瞬間的に表示された前記モデル図形が消失した後の前記画面に、前記モデル図形が前記画面に表示されている場合に前記モデル図形を形成する画像部分を他の画像部分と同化させる映像であるインターバル映像を、所定の時間の間表示する第二のステップと、該第二のステップにより前記所定の時間の間表示された前記インターバル映像が消失した後の前記画面に、該画面に対する描写によって被験者に前記モデル図形を再現させる第三のステップと、を含み、前記第三のステップにより被験者によって前記画面に描写された図形の、前記第一のステップにより前記画面に瞬間的に表示された前記モデル図形に対する、前記画面におけるずれに基づいて、被験者の記憶保持力を評価するものである。
【0011】
請求項2においては、前記インターバル映像を表示する前記所定の時間を変化させることにより、前記所定の時間の変化にともなう前記ずれの程度の変化を、被験者の記憶保持力の評価に用いるものである。
【0012】
請求項3においては、被験者の記憶保持力を評価するための記憶保持力評価システムであって、図形および映像を含む画像情報の表示が可能であるとともに、被験者による描写が入力可能な画面を有する表示入力手段と、該表示入力手段に対して信号を出力することで前記画面に表示する前記画像情報を制御するとともに、前記画面に対する入力を受け付ける制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記画面に、被験者に対する記憶用の課題として、形状を維持した状態で回転することによる傾きが認識可能であるとともに、楕円、長方形、またはこれらに類する比較的単純な図形であるモデル図形を瞬間的に表示させるモデル図形表示指示部と、該モデル図形表示指示部により瞬間的に表示された前記モデル図形が消失した後の前記画面に、前記モデル図形が前記画面に表示されている場合に前記モデル図形を形成する画像部分を他の画像部分と同化させる映像であるインターバル映像を、所定の時間の間表示させるインターバル映像表示指示部と、前記画面に対する前記描写についての入力信号を検出する信号検出部と、該信号検出部により検出された前記入力信号に基づき、前記インターバル映像表示指示部により所定の時間の間表示された前記インターバル映像が消失した後の前記画面に、該画面に対する描写によって被験者が前記モデル図形を再現することにより得られた図形の、前記モデル図形表示指示部により前記画面に瞬間的に表示された前記モデル図形に対する、前記画面におけるずれに基づいて、被験者の記憶保持力の評価に用いられるパラメータを演算するパラメータ演算部と、を有するものである。
【0013】
請求項4においては、前記制御手段は、前記インターバル映像表示指示部による前記インターバル映像を表示する前記所定の時間を変化させるインターバル時間調整部をさらに有するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、被験者の負担が少なく、評価者の技量等にかかわらず短時間で客観的な評価結果を得ることができるとともに、評価に際して多彩なパラメータを得ることができ、認知機能についての詳細な評価・解析を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る記憶保持力評価システムの構成を示す図。
【図2】同じくブロック図。
【図3】本発明の一実施形態に係るモデル図形の一例を示す図。
【図4】本発明の一実施形態に係るインターバル映像の一例を示す図。
【図5】本発明の一実施形態に係る被験者により再現された図形の一例を示す図。
【図6】モデル図形の他の例を示す図。
【図7】インターバル映像を表示する時間による入力図形の変化の一例を示す図。
【図8】既存の診断方法のスコアと本発明に係る評価方法による評価結果との関係の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、所定の画面上において、例えば楕円等の比較的単純な図形を被験者に対して瞬間的に表示し、インターバルを置いた後、その図形を記憶に基づいて被験者に再現させることで、表示された図形と再現された図形との間のずれに基づいて、被験者の記憶保持力を評価しようとするものである。これにより、被験者の記憶保持力の評価に際して様々なパラメータが得られる。また、本発明は、瞬間的に図形を表示してからその図形を被験者に再現させるまでのインターバルの時間を変化させることで、そのインターバルの時間の変化にともなう被験者の応答性の変化を、被験者の記憶保持力の評価に用いようとするものである。以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0017】
本実施形態に係る記憶保持力評価システム(以下単に「評価システム」という。)は、例えば認知症等のワーキングメモリの障害の検査に際し、認知機能の評価等に用いられる。すなわち、本実施形態の評価システムは、患者等の被験者(評価システムにより評価される対象者)の記憶保持力を評価するために用いられるものであり、被験者に対して所定の記憶用の課題を与えることで得られる被験者の入力操作に基づいて、記憶保持力を評価する。
【0018】
図1および図2に示すように、本実施形態の評価システム1は、被験者により使用される入力パネル2と、被験者の評価に際して医師等の評価者に使用されるコンピュータ3とを備える。入力パネル2とコンピュータ3とは、接続ケーブル4を介して接続される。
【0019】
入力パネル2は、被験者が記憶用の課題に対する入力操作を行うための入力装置である。入力パネル2は、表示入力画面5を有する。表示入力画面5は、被験者に対する記憶用の課題である図形や映像等を表示するとともに、被験者からの入力操作を受け付けるための画面である。入力パネル2は、カラー液晶ディスプレイ一体型のデジタイザ(タブレット)である。ただし、入力パネル2の表示入力画面5における表示方式は、カラー表示方式に限らず、例えばモノクロ表示方式であってもよい。
【0020】
入力パネル2に対する入力には、スタイラスペン6が用いられる。スタイラスペン6は、入力パネル2に対して情報を入力するためのポインティングデバイスである。スタイラスペン6の先端部6aが表示入力画面5に接触することにより、入力パネル2に対する入力が行われる。つまり、被験者は、スタイラスペン6を使用し、その先端部6aを表示入力画面5に接触させることで、記憶用の課題に対する入力操作としての描写を行う。
【0021】
このように、本実施形態の評価システム1においては、入力パネル2が、図形および映像を含む画像情報の表示が可能であるとともに、被験者による描写が入力可能な画面である表示入力画面5を有する表示入力手段として機能する。
【0022】
スタイラスペン6による入力パネル2に対する入力操作によって得られた情報は、接続ケーブル4を介してコンピュータ3に送信される。具体的には、スタイラスペン6により入力パネル2の表示入力画面5に描かれた軌跡についての座標情報(X座標、Y座標)が、コンピュータ3に入力される。コンピュータ3に入力される座標情報は、例えば、0.05mmの精度で、25msecのサンプリング間隔で取得される。
【0023】
コンピュータ3は、例えば、汎用型のパーソナルコンピュータである。コンピュータ3は、入力パネル2を用いた記憶保持力の評価についてのプログラム等を格納するものであり、その格納するプログラム等に基づいて、表示入力画面5に表示させる画像情報に係る信号を入力パネル2に対して出力する。コンピュータ3におけるプログラム等の格納部分としては、例えばRAM等のコンピュータ3に内蔵される記憶デバイスのほか、CD(Compact Disk)、FD(Flexible Disk )、MO(Magneto−Optical Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)、HD(Hard Disk)等の記憶デバイスが適宜用いられる。また、コンピュータ3は、キーボード、マウス、ボタン等の入力部と、液晶ディスプレイ等の表示部とを有する。
【0024】
このように、コンピュータ3は、スタイラスペン6による入力パネル2に対する入力操作によって得られた情報を受信するとともに、入力パネル2に対して信号を送ることで、入力パネル2に表示する画像情報を制御する。つまり、本実施形態の評価システム1においては、コンピュータ3が、入力パネル2に対して信号を出力することで表示入力画面5に表示する画像情報を制御するとともに、表示入力画面5に対する入力を受け付ける制御手段として機能する。
【0025】
また、コンピュータ3は、通信ケーブル8を介してインターネット(通信網)7と接続可能な通信機能を有する。また、コンピュータ3は、インターネット7を経由してサーバコンピュータ9と接続されている。コンピュータ3とサーバコンピュータ9とは、相互に通信可能となっている。このように、本実施形態の評価システム1は、インターネット7を通信媒体として利用したネットワークを構成している。なお、インターネット7に対しては、入力パネル2とコンピュータ3とを含む構成が、複数接続されてもよい。
【0026】
以上のような構成が用いられ、本実施形態に係る記憶保持力評価方法(以下単に「評価方法」という。)が行われる。本実施形態の評価方法は、被験者の記憶保持値を評価するためのものである。以下では、本実施形態の評価方法について、評価システム1が備える構成とともに説明する。
【0027】
本実施形態の評価方法は、入力パネル2の表示入力画面5上において、所定のモデル図形を被験者に対して瞬間的に表示し、インターバルを置いた後、そのモデル図形を記憶に基づいて被験者に再現させる。また、モデル図形が表示されてからのインターバル中においては、表示入力画面5に瞬間的に表示されたモデル図形の残像が消えるような映像(インターバル映像)が、所定時間の間表示入力画面5に表示される。そして、表示入力画面5に表示されたモデル図形と、被験者によって表示入力画面5に再現された図形との間のずれに基づいて、被験者の記憶保持力が評価される。
【0028】
ここで、モデル図形とは、形状を維持した状態で回転することによる傾きが認識可能であるとともに、楕円、長方形、またはこれらに類する比較的単純な図形である。すなわち、モデル図形としては、楕円や長方形等、表示入力画面5に略平行な面に沿って回転することでその傾きが認識でき、かつ、被験者が瞬間的な表示から記憶に基づいて再現できる程度に単純で、幾何学的特徴を有する図形が用いられる。なお、本実施形態の評価方法では、モデル図形として、長軸と短軸との比が約2:1の楕円が用いられる場合について説明する。
【0029】
本実施形態の評価方法に際しては、被験者に対して評価者等からまたは自動音声等により事前の説明が行われる。被験者に対する事前の説明の内容には、モデル図形についての後に記憶に基づいてスタイラスペン6を使って表示入力画面5に描写することで画面上にモデル図形を再現してもらうことのほか、モデル図形の形状・大きさ・傾き(傾角)、モデル図形が表示される位置、モデル図形が表示されるタイミング、インターバル映像の内容等が含まれる。
【0030】
ここで、モデル図形の再現に際しての描写速度等については、被験者に対して特に指示されることなく、被験者の意志にまかせられる。また、本実施形態の評価方法に際しては、被験者が表示入力画面5を見やすく、かつスタイラスペン6による表示入力画面5に対する描写がしやすいように、入力パネル2が設置される。入力パネル2は、例えば、表示入力画面5が水平面に対して50°程度の角度をなすように設置される。
【0031】
本実施形態の評価方法では、まず、入力パネル2の表示入力画面5に、被験者に対する記憶用の課題として、モデル図形が瞬間的に表示される。具体的には、図3に示すように、例えば表示入力画面5の中央部に、モデル図形10としての楕円11が、瞬間的に表示される。ここで、モデル図形10は、表示入力画面5において、例えば300ms(0.3秒)程度の時間の間表示される。なお、モデル図形10が表示される時間としては、被験者がモデル図形10を視認可能な程度の瞬間的な時間が、数マイクロ秒から数秒程度の範囲で適宜設定される。
【0032】
また、モデル図形10としての楕円11は、表示入力画面5において、複数箇所(例えば9箇所)にランダムに表示される。また、楕円11は、表示入力画面5における傾き(傾角)が変化させられる。例えば、楕円11の長軸が表示入力画面5における横軸(X軸)に平行な状態が楕円11の傾角が0°である場合、楕円11の長軸のX軸に対する角度(傾角)が30°、60°、120°、150°等と変化させられる。
【0033】
また、モデル図形10としての楕円11は、表示入力画面5において線図として表示される。つまり、楕円11により囲まれる部分(楕円11の内側の部分)の色は、表示入力画面5の背景画像5aの色(背景色)と同色である。そして、楕円11は、表示入力画面5の背景画像5aの部分に対して、輝度や配色によって、目立つように(被験者が容易に認識できるように)表示される。例えば、表示入力画面5の背景色として黒色が用いられる場合において、楕円11を表す線として、黄色や黄緑色の線が用いられる。ただし、表示入力画面5における背景色とモデル図形10を表す線の色とは、被験者がモデル図形10を容易に認識できる配色であれば特に限定されない。以上のようなモデル図形10についての情報は、入力パネル2を用いた記憶保持力の評価についてのプログラム等に含まれる。
【0034】
このように、入力パネル2の表示入力画面5に、被験者に対する記憶用の課題として、モデル図形10である楕円11を瞬間的に表示することが、本実施形態の評価方法における第一のステップに相当する。そして、本実施形態の評価システム1においては、入力パネル2の表示入力画面5に、被験者に対する記憶用の課題としてのモデル図形10を瞬間的に表示するため、コンピュータ3が、モデル図形表示指示部31を有する(図2参照)。
【0035】
つまり、図2に示すように、モデル図形表示指示部31は、入力パネル2に対して信号を送ることで、表示入力画面5に、被験者に対する記憶用の課題として、モデル図形10としての楕円11を瞬間的に表示させる。モデル図形表示指示部31から入力パネル2に対して送られる信号には、モデル図形10の内容(本実施形態では楕円11の形状、大きさ、傾角等)、表示入力画面5にモデル図形10を表示する時間等が含まれる。
【0036】
次に、本実施形態の評価方法では、瞬間的に表示されたモデル図形10が消失した後の表示入力画面5に、インターバル映像が、所定の時間の間表示される。ここで、インターバル映像とは、モデル図形10が表示入力画面5に表示されている場合にモデル図形10を形成する画像部分を他の画像部分と同化させる映像である。
【0037】
つまり、インターバル映像は、表示入力画面5においてモデル図形10と同時に表示されることで、モデル図形10である楕円11を形成する線状の画像部分が、表示入力画面5の背景画像5aの部分と同化して消失するような映像である。言い換えると、インターバル映像は、表示入力画面5に表示されることで、モデル図形10を形成する画像部分が他の画像部分と区別ができなくなるような映像である。したがって、インターバル映像には、瞬間的に表示されたモデル図形10の後に表示入力画面5に表示され、被験者によって見られることで、被験者が表示入力画面5において有するモデル図形10の残像が払拭されるような機能が含まれる。
【0038】
図4を用いて、本実施形態に係るインターバル映像の一例について説明する。本実施形態では、インターバル映像として、表示入力画面5において縦方向(Y軸方向)および横方向(X軸方向)に順にシャッターが閉じるように画面を覆う(スイープするように流れる)画像が用いられる。
【0039】
すなわち、本実施形態のインターバル映像によれば、図4(a)に示すように、表示入力画面5において、瞬間的に表示されたモデル図形10が消失した後の無表示の状態(背景画像5aのみの状態)から、同図(b)に示すように、表示入力画面5のY軸方向の一端側(図において上側)から他端側(図において下側)に向けて、表示入力画面5の背景画像5aを侵食するように表示される被覆画像部分12が流れる(矢印A1参照)。図4(b)、(c)に示すように、被覆画像部分12は、背景画像5aに対してX軸方向に平行な境界を保ちながら、背景画像5aの全体を一旦覆う状態となるまで流される。
【0040】
続いて、図4(d)に示すように、表示入力画面5のX軸方向の一端側(図において左側)から他端側(図において右側)に向けて、表示入力画面5の背景画像5aを侵食するように表示される被覆画像部分13が流れる(矢印A2参照)。図4(d)、(e)に示すように、被覆画像部分13は、被覆画像部分12と同様に、背景画像5aに対してY軸方向に平行な境界を保ちながら、背景画像5aの全体を一旦覆う状態となるまで流される。
【0041】
インターバル映像は、表示入力画面5において、例えば30秒程度の時間の間表示される。つまり、本実施形態においては、表示入力画面5において、モデル図形10が瞬間的に表示された直後から、図4に示すような被覆画像部分12および被覆画像部分13が、30秒程度の時間をかけて順に流れる。インターバル映像を構成する被覆画像部分12および被覆画像部分13の色としては、例えばモデル図形10と同じ色が用いられる。ただし、インターバル映像を構成する被覆画像部分12および被覆画像部分13の色は、特に限定されるものではなく、例えば、モデル図形10と異なる色であったり、Y軸方向に流れる被覆画像部分12とX軸方向に流れる被覆画像部分13とが異なる色であったりしてもよい。
【0042】
このようなインターバル映像がモデル図形10が表示された後に被験者に提示されることで、インターバル映像が流れている間に、被験者のモデル図形10についての記憶が薄れる効果が得られる。以上のようなインターバル映像についての情報は、入力パネル2を用いた記憶保持力の評価についてのプログラム等に含まれる。
【0043】
このように、第一のステップにより瞬間的に表示されたモデル図形10が消失した表示入力画面5に、インターバル映像を所定の時間の間表示することが、本実施形態の評価方法における第二のステップに相当する。そして、本実施形態の評価システム1においては、モデル図形10が消失した表示入力画面5に、インターバル映像を所定の時間の間表示するため、コンピュータ3が、インターバル映像表示指示部32を有する(図2参照)。
【0044】
つまり、図2に示すように、インターバル映像表示指示部32は、入力パネル2に対して信号を送ることで、モデル図形表示指示部31により瞬間的に表示されたモデル図形10が消失した後の表示入力画面5に、インターバル映像を、所定の時間の間表示させる。インターバル映像表示指示部32から入力パネル2に対して送られる信号には、インターバル映像の内容、表示入力画面5にインターバル映像を表示する時間等が含まれる。
【0045】
続いて、本実施形態の評価方法では、所定の時間の間表示されたインターバル映像が消失した後の表示入力画面5に、表示入力画面5に対する描写によって被験者にモデル図形10を再現させることが行われる。つまり、ここでは、被験者により、インターバル映像を見ることによって薄れたモデル図形10についての記憶に基づいて、表示入力画面5上にモデル図形10が再現される。
【0046】
すなわち、図5に示すように、被験者は、スタイラスペン6を使用することにより、表示入力画面5に瞬間的に表示されたモデル図形10を再現する。被験者が表示入力画面5上にモデル図形10を再現することにより得られた図形(以下「入力図形」という。)20は、スタイラスペン6の先端部6aの表示入力画面5に対する接触部分の軌跡21として描写される。このように、被験者によるスタイラスペン6を用いた入力パネル2に対する入力操作により、入力図形20についての情報が得られる。
【0047】
入力図形20を形成する軌跡21は、表示入力画面5において例えばモデル図形10と同じ色により表示される。ただし、入力図形20を形成する軌跡21の色は、特に限定されるものではなく、モデル図形10と異なる色であってもよい。
【0048】
このように、第二のステップにより所定の時間の間表示されたインターバル映像が消失した後の表示入力画面5に、表示入力画面5に対する描写によって被験者にモデル図形10を再現させることが、本実施形態の評価方法における第三のステップに相当する。そして、本実施形態の評価システム1においては、被験者によって描写された入力図形20についての情報を含む信号を検出するため、コンピュータ3が、信号検出部33を有する(図2参照)。
【0049】
つまり、図2に示すように、信号検出部33は、スタイラスペン6によって表示入力画面5に入力された信号を、入力パネル2から受けることで、表示入力画面5に対する描写についての入力信号を検出する。信号検出部33によって検出される信号には、スタイラスペン6により入力パネル2の表示入力画面5に描かれた入力図形20(軌跡21)についての座標情報(X座標、Y座標)が含まれる。ここで、信号検出部33は、入力図形20(軌跡21)についての座標情報を、例えば、0.05mmの精度で、25msecのサンプリング間隔で取得する。
【0050】
そして、本実施形態の評価方法では、被験者によって表示入力画面5に描写された図形(入力図形20)の、表示入力画面5に瞬間的に表示されたモデル図形10(以下「提示楕円」ともいう。)に対する、表示入力画面5におけるずれに基づいて、被験者の記憶保持力が評価される。
【0051】
すなわち、図5に示すように、被験者によって描写される入力図形20は、提示楕円を見た被験者がその記憶に基づいて描いたものであることや、被験者の記憶は提示楕円の後のインターバル映像の影響を受けて薄れること等から、提示楕円からずれた軌跡21により形成される。このような入力図形20の提示楕円に対するずれ具合は、記憶の薄れ度合、言い換えると記憶力の保持度合の影響を受ける。
【0052】
そこで、提示楕円と入力図形20とのずれに基づいて、被験者の記憶保持力の評価が行われる。被験者の記憶保持力の評価は、提示楕円と入力図形20とのずれを表すパラメータが用いられて行われる。こうした被験者の記憶保持力の評価に用いられるパラメータ(以下「評価パラメータ」という。)の演算に際しては、提示楕円の比較対象として、入力図形20が楕円として近似された図形(以下「近似楕円」という。)が用いられる。近似楕円は、例えば、最小二乗法が用いられ、入力図形20の最近似楕円が割り出されることにより求められる。
【0053】
評価パラメータとしては、モデル図形10の特徴を表すものとして、「始点終点間距離」、「始点のずれ」、「中心位置X方向ずれ」、「中心位置Y方向ずれ」、「中心位置ずれ」、「傾角」、「傾角の差」、「長径の差」、「短径の差」、「楕円率の差」、「面積」、「面積の差」が用いられる。そのほか、評価パラメータとして、「遅延時間」が挙げられる。以下、各評価パラメータについて説明する。
【0054】
「始点終点間距離」は、入力図形20として被験者に描かれた軌跡21についての始点と終点との間の距離である。つまり、この評価パラメータは、被験者が入力パネル2の表示入力画面5上で入力図形20の描写を開始した地点の座標と、描写を終了した地点の座標との最短距離である。この評価パラメータは、入力図形20を形成する軌跡21の最初の位置と最後の位置の正確さをみるためのパラメータである。つまり、被験者は、提示楕円が表示された時に自分が注目していた地点にスタイラスペン6を置き、モデル図形10としての楕円11にならって楕円を描いた後に、スタイラスペン6を離すと考えられる。このため、本評価パラメータは、表示入力画面5上における位置の把握の正確さを表す。
【0055】
「始点のずれ」は、入力図形20として被験者に描かれた軌跡21についての始点と提示楕円とのずれである。つまり、この評価パラメータは、被験者が入力パネル2の表示入力画面5上で入力図形20の描写を開始した地点の座標と、モデル図形10としての楕円11との最短距離である。この評価パラメータは、入力図形20を形成する軌跡21の最初の位置の正確さをみるためのパラメータである。このため、本評価パラメータは、「始点終点間距離」と同様に、表示入力画面5上における位置の把握の正確さを表す。
【0056】
「中心位置X方向ずれ」は、提示楕円と近似楕円との間における、中心の位置同士のX方向の距離である。つまり、この評価パラメータは、提示楕円の中心座標が(Xa、Ya)、金治楕円の中心座標が(Xb、Yb)である場合、|Xa−Xb|で表わされる。同様にして、「中心位置Y方向ずれ」は、提示楕円と近似楕円との間における、中心の位置同士のY方向の距離であり、この評価パラメータは、|Ya−Yb|で表わされる。また、「中心位置ずれ」は、提示楕円と近似楕円との間における、中心の位置同士の距離であり、この評価パラメータは、{(Xa−Xb)+(Ya−Yb)1/2で表わされる。これらの評価パラメータとしての「中心位置X方向ずれ」、「中心位置Y方向ずれ」、「中心位置ずれ」は、被験者が描いた入力図形20の位置の正確さをみるためのパラメータである。
【0057】
「傾角」は、近似楕円の傾きの角度である。つまり、この評価パラメータは、例えば、近似楕円の長軸が表示入力画面5における横軸(X軸)に平行な状態が近似楕円の傾角が0°である場合、近似楕円の長軸のX軸に対する角度である。「傾角の差」は、提示楕円と近似楕円との間の傾角の差である。つまり、この評価パラメータは、提示楕円と近似楕円の長軸同士または短軸同士がなす角度である。これらの評価パラメータとしての「傾角」、「傾角の差」は、被験者が描いた入力図形20の角度(傾角)の正確さをみるためのパラメータである。
【0058】
「長径の差」は、提示楕円と近似楕円との長径の差である。同様に、「短径の差」は、提示楕円と近似楕円との短径の差である。また、「楕円率の差」は、提示楕円と近似楕円との楕円率(縦横比)の差の大きさである。楕円率(縦横比)は、(短軸の長さ/長軸の長さ)で表わされる。楕円率(縦横比)の差の大きさが小さいほど、入力図形20の形状がモデル図形10の形状に近いことになる。これらの評価パラメータとしての「長径の差」、「短径の差」、「楕円率の差」は、被験者が描いた入力図形20の形状の正確さ(正しく図形の形状を把握しているか)をみるためのパラメータである。
【0059】
「面積」は、近似楕円の面積である。「面積の差」は、提示楕円の面積と近似楕円の面積との差の大きさである。これらの評価パラメータとしての「面積」、「面積の差」は、被験者が描いた入力図形20の大きさの正確さ(正しく図形の大きさを把握しているか)をみるためのパラメータである。
【0060】
また、「遅延時間」は、被験者が入力図形20を描き始めるまでの時間である。つまり、この評価パラメータは、表示入力画面5において提示楕円が瞬間的に表示された後に表示されるインターバル映像が終了した時点から、被験者によって使用されるスタイラスペン6の先端部6aが表示入力画面5に接触した時点までの時間である。この評価パラメータとしての「遅延時間」は、被験者の俊敏さ(反応性)をみるためのパラメータである。
【0061】
このように、本実施形態の評価方法においては、第三のステップにより得られた入力図形20の、第一のステップにおいて表示された提示楕円に対する、表示入力画面5におけるずれに基づいて、被験者の記憶保持力が評価される。そして、本実施形態の評価システム1においては、入力図形20と提示楕円とのずれに基づいて被験者の記憶保持力の評価を行うため、コンピュータ3が、パラメータ演算部34を有する(図2参照)。
【0062】
つまり、図2に示すように、パラメータ演算部34は、信号検出部33により検出された入力信号に基づき、インターバル映像表示指示部32により所定の時間の間表示されたインターバル映像が消失した後の表示入力画面5に、表示入力画面5に対する描写によって被験者がモデル図形10を再現することにより得られた図形(入力図形20)の、モデル図形表示指示部31による提示楕円に対する、表示入力画面5におけるずれに基づいて、評価パラメータを演算する。ここで、パラメータ演算部34に対しては、モデル図形表示指示部31から入力パネル2に対して送られたモデル図形10(提示楕円)についての情報が入力される。
【0063】
また、本実施形態の評価方法においては、インターバル映像を表示する所定の時間が変化させられることにより、その所定の時間の変化にともなう入力図形20の提示楕円に対する表示入力画面5におけるずれの程度の変化が、被験者の記憶保持力の評価に用いられる。
【0064】
すなわち、インターバル映像は、提示楕円が表示されてから被験者が入力図形20の描写を開始するまでの間に表示されるものであり、前述したように被験者の提示楕円についての記憶が薄れる効果を得ようとするものである。このため、インターバル映像が表示される時間が長くなるほど、被験者の記憶保持の程度(記憶の薄れさせ具合)が小さくなり、インターバル映像が表示される時間が短くなるほど、被験者の記憶保持の程度が大きくなる。
【0065】
つまり、インターバル映像が表示される時間を調整することで、被験者の記憶保持の程度を調整することが可能となる。そして、被験者の記憶保持の程度の変化により、入力図形20の提示楕円に対する表示入力画面5におけるずれの程度が変化する。被験者の記憶保持の程度が大きくなると、入力図形20と提示楕円とのずれの程度は小さくなり(入力図形20が提示楕円に一致する側に変形し)、被験者の記憶保持の程度が小さくなると、入力図形20と提示楕円とのずれの程度は大きくなる(入力図形20が提示楕円から離れる側に変形する)。
【0066】
そこで、本実施形態の評価方法においては、インターバル映像を表示する時間(以下「インターバル時間」という。)の変化にともなう入力図形20と提示楕円とのずれ量の変化が、被験者の記憶保持力の評価に用いられる。インターバル時間は、例えば、10秒、30秒、60秒等として変化させられる。このように、インターバル時間の長さが変化させられ、その時間の変化にともなう入力図形20と提示楕円とのずれの程度の変化が、被験者の記憶保持力の評価指標として用いられることで、被験者の症状に応じた評価等、記憶保持力についてのより詳細な評価・解析を行うことが可能となる。
【0067】
そして、インターバル時間を調整するため、本実施形態の評価システム1においては、コンピュータ3が、インターバル調整部35を有する(図2参照)。つまり、図2に示すように、インターバル調整部35は、入力パネル2に対して信号を送ることで、インターバル映像表示指示部32によるインターバル映像を表示する所定の時間を変化させる。
【0068】
したがって、インターバル調整部35は、インターバル映像表示指示部32から入力パネル2に対して送られる信号とともに、インターバル時間についての情報を含む信号を、入力パネル2に対して送信する。本実施形態では、図2に示すように、インターバル調整部35は、インターバル映像表示指示部32と別の部分として構成されているが、インターバル調整部35は、インターバル映像表示指示部32に含まれる構成であってもよい。
【0069】
また、本実施形態の評価システム1においては、図2に示すように、コンピュータ3は、記憶部36と通信部37とを有する。記憶部36は、例えば、パラメータ演算部34による評価パラメータについての演算結果等を記憶するためのものである。記憶部36としては、例えば、前述したようにコンピュータ3において入力パネル2を用いた記憶保持力の評価についてのプログラム等が格納される記憶デバイスが用いられる。また、記憶部36には、例えば、被験者による記憶保持力の評価結果(評価パラメータの演算結果等)に対する比較対象として、健常者についての記憶保持力の評価結果等が記憶される。
【0070】
通信部37は、パラメータ演算部34が評価結果のデータを含む情報を外部と送受信する際に、必要に応じて、パラメータ演算部34を外部と通信可能にするものである。
【0071】
また、図2に示すように、本実施形態の評価システム1に備えられるサーバコンピュータ9は、データ収集部91と、データ記憶部92と、通信部93とを有する。データ収集部91は、コンピュータ3から評価結果のデータを収集して蓄積することにより、評価結果のデータに基づくデータベースを構築する。データ収集部91により構築されたデータベースの内容は、例えば、コンピュータ3において随時閲覧可能とされる。
【0072】
データ記憶部92は、データ収集部91により収集された評価結果のデータ等の情報を記憶するためのものである。データ記憶部92は、例えば、コンピュータ3が有する記憶部36と同様の記憶デバイスにより構成される。通信部93は、主にデータ収集部91による評価結果のデータの収集時に、データ収集部91をコンピュータ3と通信可能にするためのものである。また、サーバコンピュータ9は、前述のような評価結果のデータの収集機能やデータベースの構築機能と共に、例えば、データベースを利用して過去の評価項目データに基づく新規な基準評価項目データを算出すると、その新規な基準評価項目データをコンピュータ3に送信する機能等も備える。
【0073】
以上のような本実施形態の評価システム1および評価方法によれば、被験者の負担が少なく、評価者の技量等にかかわらず短時間で客観的な評価結果を得ることができるとともに、評価に際して多彩なパラメータを得ることができ、認知機能についての詳細な評価・解析を行うことが可能となる。
【0074】
また、本実施形態の評価システム1および評価方法によれば、例えば、評価パラメータの演算結果と、従来の長谷川式簡易知能評価スケール等の問診形式による評価結果(点数)との対応関係を構築することができる。これにより、評価パラメータの演算結果から、認知機能の評価等、被験者の記憶保持力に関する評価を容易に行うことができる。
【0075】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0076】
すなわち、本実施形態の評価システム1においては、表示入力手段としての入力パネル2が、カラー液晶ディスプレイ一体型のデジタイザであるが、表示入力手段としては、所定の画像情報を表示することができるとともに被験者による指やペン等の道具やマウス等による描写を入力することができる表示入力画面を有するものであればよい。したがって、表示手段としては、タッチパネル(タッチスクリーン)式のディスプレイであってもよく、また、CRTディスプレイであってもよい。また、表示入力手段においては、液晶ディスプレイやCRTディスプレイ等の表示部分と、デジタイザやタッチパネル等の入力部分とが、別体として構成されるものであってもよい。
【0077】
また、本実施形態の評価システム1においては、制御手段としてのコンピュータ3が、入力パネル2と別体に構成されているが、これらの装置は、例えばコンピュータ内蔵型のデジタイザ等として一体的に構成されてもよい。
【0078】
また、本実施形態では、被験者に対する記憶用の課題として与えられるモデル図形10が楕円11であるが(図3参照)、モデル図形10としては、例えば、図6(a)に示すような長方形16や、同図(b)に示すようなひし形17等が用いられる。このように、モデル図形10として長方形16やひし形17が用いられる場合、前述したような評価パラメータの演算に用いられる、被験者に提示されたモデル図形10の比較対象とされる近似図形(近似楕円参照)としては、被験者による入力図形に対して外接する長方形またはひし形が用いられる。
【0079】
また、本実施形態では、インターバル映像として、表示入力画面5において縦方向(Y軸方向)および横方向(X軸方向)に順にシャッターが閉じるように画面を覆う(スイープするように流れる)画像が用いられているが(図4参照)、インターバル映像としては、前記のとおり被験者が表示入力画面5において有するモデル図形10の残像を払拭するような機能を含むあらゆる映像が用いられ得る。したがって、インターバル映像としては、例えばアニメーション等であってもよい。また、インターバル映像は、動画に限らず、静止画であってもよい。
【0080】
本発明の実施例について説明する。図7は、インターバル時間による入力図形の変化の一例を示す図である。本実施例は、既存の診断方法(長谷川式簡易知能評価スケール等)による評価で比較的スコアの低い4名の高齢者(65歳、71歳、72歳、74歳)を被験者とした場合のデータである。また、本実施例では、モデル図形10として楕円を用い、インターバル時間を0秒、10秒、30秒、60秒と変化させた。図7(a)は被験者1(65歳)のデータ、同図(b)は被験者2(71歳)のデータ、同図(c)は被験者3(72歳)のデータ、同図(d)は被験者4(74歳)のデータである。
【0081】
図7(a)〜(d)からわかるように、各被験者による入力図形20の基本的な形状は、インターバル時間にかかわらずほぼ同じであるが、インターバル時間の変化とともに、入力図形20の描写位置(楕円の中心の位置)、傾角、楕円率(縦横比)、面積等が変化している。そして、インターバル時間が10秒、30秒、60秒と長くなるにつれて、モデル図形10と入力図形20とのずれが大きくなっている。
【0082】
このようなインターバル時間が長くなることによる入力図形20のモデル図形10に対するずれの変化は、既存の診断方法による得点が低い者ほど大きくなる傾向がある。本実施例により、本発明に係る記憶保持力評価方法による診断方法(以下「本診断方法」という。)と既存の診断方法との間に相関があることがわかる。
【0083】
また、本発明の実施例として、既存の診断方法と本診断方法との関連性を調べた。図8は、既存の診断方法のスコアと本診断方法による評価結果との関係の一例を示すグラフである。本実施例は、若者学生46名、高齢者(平均年齢65歳)41名の計87名の被験者についてのデータである。図8(a)は、インターバル時間が0秒の場合のデータであり、同図(b)は、インターバル時間が10秒の場合のデータである。また、本実施例では、既存の診断方法として、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS−R)とミニメンタルステート検査(MMSE)とを用い、本診断方法における評価パラメータとして、中心位置ずれ(cm)を用いた。
【0084】
本実施例では、既存の診断方法のスコアにばらつきがあるものの、既存の診断方法のスコアと本診断方法による評価結果(中心位置ずれの値)との間の相関係数として、−0.76〜−0.72という値が得られた。また、既存の診断方法のスコアについて平均をとると、インターバル時間が0秒の場合(図8(a)参照)、相関係数は−0.94という値となり、本診断方法による評価結果との相関はさらに高くなった。
【0085】
また、本実施例において、既存の診断方法のスコアについて26点以下を比較的低得点者、27点以上を比較高得点者と区別した条件のもとでは、インターバル時間が0秒で(図8(a)参照)、本診断方法による評価結果のカットオフ値を1.40とした場合、感度75%、特異度100%となり、カットオフ値を1.00とした場合、感度100%、特異度93%となった。また、同条件のもと、インターバル時間が10秒で(図8(b)参照)、本診断方法による評価結果のカットオフ値を2.00とした場合、感度100%、特異度95%となり、カットオフ値を2.25とした場合、感度50%、特異度98%となった。
【0086】
以上のような結果例から、本診断方法は、既存の診断方法と高い相関を有し、脳の記憶機能の評価を高い信頼性で行うに十分な可能性があるといえる。そして、本診断方法においては、今後のサンプル数の増加とカットオフ値の検証を進めることで、評価の信頼性がさらに高まるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、例えば認知症の検査に用いられた場合、検査時間が1〜2分程度であり、なおかつ認知症の程度もある程度判定できるものとなるので、医療福祉機器としての市場のニーズは高く、産業上有用である。また、本発明は、被験者に物事を一瞬認識させ、それを一定時間後に再現させることで、脳の機能としての記憶保持力を評価するためのものであるため、認知症のほか認知障害が主な症状に含まれる病状(例えば正常圧水頭症等)の検査や、単純な記憶保持力の検査等にも広く適用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 評価システム(記憶保持値評価システム)
2 入力パネル(表示入力手段)
3 コンピュータ(制御手段)
5 表示入力画面(画面)
6 スタイラスペン
10 モデル図形
11 楕円
31 モデル図形表示指示部
32 インターバル映像表示部
33 信号検出部
34 パラメータ演算部
35 インターバル時間調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の記憶保持力を評価するための記憶保持力評価方法であって、
被験者による描写が可能な画面に、被験者に対する記憶用の課題として、形状を維持した状態で回転することによる傾きが認識可能であるとともに、楕円、長方形、またはこれらに類する比較的単純な図形であるモデル図形を瞬間的に表示する第一のステップと、
該第一のステップにより瞬間的に表示された前記モデル図形が消失した後の前記画面に、前記モデル図形が前記画面に表示されている場合に前記モデル図形を形成する画像部分を他の画像部分と同化させる映像であるインターバル映像を、所定の時間の間表示する第二のステップと、
該第二のステップにより前記所定の時間の間表示された前記インターバル映像が消失した後の前記画面に、該画面に対する描写によって被験者に前記モデル図形を再現させる第三のステップと、を含み、
前記第三のステップにより被験者によって前記画面に描写された図形の、前記第一のステップにより前記画面に瞬間的に表示された前記モデル図形に対する、前記画面におけるずれに基づいて、被験者の記憶保持力を評価することを特徴とする記憶保持力評価方法。
【請求項2】
前記インターバル映像を表示する前記所定の時間を変化させることにより、前記所定の時間の変化にともなう前記ずれの程度の変化を、被験者の記憶保持力の評価に用いることを特徴とする請求項1に記載の記憶保持力評価方法。
【請求項3】
被験者の記憶保持力を評価するための記憶保持力評価システムであって、
図形および映像を含む画像情報の表示が可能であるとともに、被験者による描写が入力可能な画面を有する表示入力手段と、
該表示入力手段に対して信号を出力することで前記画面に表示する前記画像情報を制御するとともに、前記画面に対する入力を受け付ける制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記画面に、被験者に対する記憶用の課題として、形状を維持した状態で回転することによる傾きが認識可能であるとともに、楕円、長方形、またはこれらに類する比較的単純な図形であるモデル図形を瞬間的に表示させるモデル図形表示指示部と、
該モデル図形表示指示部により瞬間的に表示された前記モデル図形が消失した後の前記画面に、前記モデル図形が前記画面に表示されている場合に前記モデル図形を形成する画像部分を他の画像部分と同化させる映像であるインターバル映像を、所定の時間の間表示させるインターバル映像表示指示部と、
前記画面に対する前記描写についての入力信号を検出する信号検出部と、
該信号検出部により検出された前記入力信号に基づき、前記インターバル映像表示指示部により所定の時間の間表示された前記インターバル映像が消失した後の前記画面に、該画面に対する描写によって被験者が前記モデル図形を再現することにより得られた図形の、前記モデル図形表示指示部により前記画面に瞬間的に表示された前記モデル図形に対する、前記画面におけるずれに基づいて、被験者の記憶保持力の評価に用いられるパラメータを演算するパラメータ演算部と、を有する、
ことを特徴とする記憶保持力評価システム。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記インターバル映像表示指示部による前記インターバル映像を表示する前記所定の時間を変化させるインターバル時間調整部をさらに有する、
ことを特徴とする請求項3に記載の記憶保持力評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−217797(P2012−217797A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90017(P2011−90017)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)