説明

記憶媒体およびその製造方法

【課題】記憶媒体の表面で異なる表面粗さを低コストで実現することができる記憶媒体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】記憶媒体14の製造にあたって、データ領域31では磁性体32および非磁性体の配置に基づき第1パターンが確立される。その一方で、非データ領域35では磁性体および非磁性体の配置に基づき第1パターンと異なる第2パターンが確立される。その結果、データ領域31および非データ領域35に同一の条件で平坦化処理が施されると、データ領域31の表面が第1表面粗さに形成されると同時に、非データ領域35の表面が第1表面粗さより大きい第2表面粗さに形成される。こうして記憶媒体14の表面では1度の平坦化処理で異なる表面粗さが確立される。記憶媒体14の製造コストは低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばハードディスク駆動装置(HDD)といった記憶装置に組み込まれる記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばコンタクトスタートストップ(CSS)方式を採用するHDDでは、磁気ディスクの表面にいわゆるCSS領域が形成される。CSS領域はデータ領域の外側に規定される。磁気ディスクの静止時、ヘッドスライダはCSS領域に着地する。データ領域の表面では極限まで小さい表面粗さが要求される一方で、CSS領域の表面では比較的に大きな表面粗さが要求される。その結果、CSS領域の表面にヘッドスライダの吸着は防止される。
【特許文献1】特開平11−16158号公報
【特許文献2】国際公開第98/27548号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
こうした磁気ディスクの製造にあたって、基板の表面に記録磁性膜が形成される。形成後、記録磁性膜の表面の全面にわたって平坦化処理が実施される。こうしてデータ領域でできる限り小さい表面粗さが確立される。その後、CSS領域の表面は例えばレーザ加工処理に基づき荒らされる。こうしてCSS領域の表面で比較的に大きな表面粗さが確立される。こうした2度の処理には手間がかかる。磁気ディスクの製造コストは上昇してしまう。
【0004】
本発明は、上記実状に鑑みてなされたもので、記憶媒体の表面で異なる表面粗さを低コストで実現することができる記憶媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、記憶媒体は、基板と、前記基板の表面に沿って広がる複合膜とを備え、前記複合膜は、前記基板の表面に沿って広がる磁性体および非磁性体の配置に基づき第1パターンを確立する第1表面粗さのデータ領域と、前記基板の表面に沿って広がる磁性体および非磁性体の配置に基づき第1パターンと異なる第2パターンを確立する前記第1表面粗さより大きい第2表面粗さの非データ領域とを区画することを特徴とする。
【0006】
こうした記憶媒体の製造にあたって、データ領域では磁性体および非磁性体の配置に基づき第1パターンが確立される。その一方で、非データ領域では磁性体および非磁性体の配置に基づき第1パターンと異なる第2パターンが確立される。その結果、データ領域および非データ領域に同一の条件で平坦化処理が施されると、データ領域の表面が第1表面粗さに形成されると同時に、非データ領域の表面が第1表面粗さより大きい第2表面粗さに形成される。こうして記憶媒体の表面では1度の平坦化処理で異なる表面粗さが確立される。記憶媒体の製造コストは低減される。
【0007】
上記目的を達成するために、記憶媒体の製造方法は、基板の表面に沿って広がる磁性体および非磁性体で相互に異なるパターンを確立するデータ領域および非データ領域を形成する工程と、前記データ領域および前記非データ領域に同一の条件で平坦化処理を施す工程とを備えることを特徴とする。
【0008】
こうした製造方法によれば、基板の表面には相互に異なるパターンを確立するデータ領域および非データ領域が形成される。データ領域および非データ領域に同一の条件で平坦化処理が施されると、データ領域の表面が第1表面粗さに形成されると同時に、非データ領域の表面が第1表面粗さより大きい第2表面粗さに形成される。こうして記憶媒体の表面では1度の平坦化処理で異なる表面粗さが確立される。記憶媒体の製造コストは低減される。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、記憶媒体およびその製造方法は、記憶媒体の表面で異なる表面粗さを低コストで実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の一実施形態を説明する。
【0011】
図1は本発明に係る記憶装置の一具体例すなわちハードディスク駆動装置(HDD)11の内部構造を概略的に示す。このHDD11は筐体すなわちハウジング12を備える。ハウジング12は箱形のベース13およびカバー(図示されず)から構成される。ベース13は例えば平たい直方体の内部空間すなわち収容空間を区画する。ベース13は例えばAl(アルミニウム)といった金属材料から鋳造に基づき成形されればよい。カバーはベース13の開口に結合される。カバーとベース13との間で収容空間は密閉される。カバーは例えばプレス加工に基づき1枚の板材から成形されればよい。
【0012】
収容空間には、記憶媒体としての1枚以上の磁気ディスク14が収容される。磁気ディスク14はスピンドルモータ15の回転軸に装着される。スピンドルモータ15は例えば5400rpmや7200rpm、10000rpm、15000rpmといった高速度で磁気ディスク14を回転させることができる。ここでは、例えば磁気ディスク14は垂直磁気記録ディスクに構成される。
【0013】
収容空間にはキャリッジ16がさらに収容される。キャリッジ16はキャリッジブロック17を備える。キャリッジブロック17は、垂直方向に延びる支軸18に回転自在に連結される。キャリッジブロック17には、支軸18から水平方向に延びる複数のキャリッジアーム19が区画される。キャリッジブロック17は例えば押し出し成型に基づきAl(アルミニウム)から成型されればよい。
【0014】
個々のキャリッジアーム19の先端にはヘッドサスペンション21が取り付けられる。ヘッドサスペンション21はキャリッジアーム19の先端から前方に延びる。ヘッドサスペンション21の先端にはフレキシャが張り合わせられる。フレキシャにはいわゆるジンバルばねが区画される。こうしたジンバルばねの働きで浮上ヘッドスライダ22はヘッドサスペンション21に対してその姿勢を変化させることができる。後述されるように、浮上ヘッドスライダ22にはヘッド素子すなわち電磁変換素子が搭載される。
【0015】
磁気ディスク14の回転に基づき磁気ディスク14の表面で気流が生成されると、気流の働きで浮上ヘッドスライダ22には正圧すなわち浮力および負圧が作用する。浮力および負圧とヘッドサスペンション21の押し付け力とが釣り合うことで磁気ディスク14の回転中に比較的に高い剛性で浮上ヘッドスライダ22は浮上し続けることができる。
【0016】
こういった浮上ヘッドスライダ22の浮上中にキャリッジ16が支軸18回りで回転すると、浮上ヘッドスライダ22は磁気ディスク14の半径線に沿って移動することができる。その結果、浮上ヘッドスライダ22上の電磁変換素子は最内周記録トラックと最外周記録トラックとの間でデータゾーンを横切ることができる。こうして浮上ヘッドスライダ22上の電磁変換素子は目標の記録トラック上に位置決めされる。
【0017】
キャリッジブロック17には例えばボイスコイルモータ(VCM)23といった動力源が接続される。このVCM23の働きでキャリッジブロック17は支軸18回りで回転することができる。こうしたキャリッジブロック17の回転に基づきキャリッジアーム19およびヘッドサスペンション21の揺動は実現される。
【0018】
図1から明らかなように、キャリッジブロック17上には、フレキシブルプリント基板ユニット25が配置される。フレキシブルプリント基板ユニット25は、フレキシブルプリント基板26に実装されるヘッドIC(集積回路)27を備える。ヘッドIC27は電磁変換素子の読み出し素子および書き込み素子に接続される。接続にあたってフレキシャ28が用いられる。フレキシャ28はフレキシブルプリント基板ユニット25に接続される。磁気情報すなわち2値情報の読み出し時には、このヘッドIC27から電磁変換素子の読み出し素子に向けてセンス電流が供給される。同様に、2値情報の書き込み時には、ヘッドIC27から電磁変換素子の書き込み素子に向けて書き込み電流が供給される。センス電流の電流値は特定の値に設定される。ヘッドIC27には、収容空間内に配置される小型の回路基板29や、ベース13の底板の裏側に取り付けられるプリント回路基板(図示されず)から電流が供給される。
【0019】
図2は本発明の第1実施形態に係る磁気ディスク14の構造を概略的に示す。この磁気ディスク14はディスクリートトラック媒体を構成する。磁気ディスク14の表裏面には環状のデータ領域31が規定される。データ領域31には磁気ディスク14の周方向すなわちダウントラック方向に沿って複数筋の記録トラック32、32…が延びる。記録トラック32は同心円状に延びる環状の磁性体から形成される。
【0020】
データ領域31には磁気ディスク14の半径方向すなわちクロストラック方向に沿って延びる複数筋のサーボセクタ領域33が規定される。サーボセクタ領域33にはサーボパターンが確立される。サーボパターンは磁性体から形成される。隣接するサーボセクタ領域33の間にはデータセクタ領域34が確保される。データセクタ領域34内で記録トラック32に2値情報が格納される。サーボセクタ領域33およびデータセクタ領域34でデータ領域31が確立される。
【0021】
磁気ディスク14の表裏面にはデータ領域31に隣接する環状の非データ領域35が規定される。この磁気ディスク14では非データ領域35は磁気ディスク14の最内周記録トラック32より内周側に規定される。ここでは、非データ領域35はコンタクトスタートストップ(CSS)領域を構成する。磁気ディスク14の静止時、浮上ヘッドスライダ22は非データ領域35で磁気ディスク14の表面に受け止められる。すなわち、HDD11はCSS方式を採用する。
【0022】
図3に示されるように、データ領域31のデータセクタ領域34では、隣接する記録トラック32、32同士が環状の非磁性体すなわち分離トラック36で隔てられる。分離トラック36は、記録トラック32と同様に、磁気ディスク14のダウントラック方向に沿って同心円状に延びる。こうしてデータ領域31では記録トラック32および分離トラック36の配置に基づき磁気ディスク14の表面に第1パターンを確立する。第1パターンでは記録トラック32、32同士のピッチP1および分離トラック36のトラック幅W1が規定される。
【0023】
図4に示されるように、磁気ディスク14は基板41を備える。基板41には例えばガラス基板が用いられる。基板41の表面には軟磁性の裏打ち層42が広がる。裏打ち層42では、基板41の表面に平行に規定される面内方向に磁化容易軸が確立される。裏打ち層42の表面には複合膜43が広がる。複合膜43では記録トラック32および分離トラック36が交互に配置される。記録トラック32では、基板41の表面に直交する垂直方向に磁化容易軸が確立される。
【0024】
記録トラック32の表面および分離トラック36の表面で第1表面44が規定される。後述のように、第1表面44では所定の表面粗さが確立される。ここでは、第1表面44の表面粗さは著しく小さく規定される。こうして第1表面44は平坦面で規定される。第1表面44は、例えばダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜といった保護膜45、および、例えばパーフルオロポリエーテル(PFPE)膜といった潤滑膜46で被覆されればよい。
【0025】
図5に示されるように、非データ領域35には、データ領域31と同様に、磁気ディスク14の周方向すなわちダウントラック方向に沿って複数筋の環状の磁性体47、47…が延びる。磁性体47は同心円状に形成される。隣接する磁性体47、47同士は環状の非磁性体48で隔てられる。非磁性体48は、磁性体47と同様に、磁気ディスク14のダウントラック方向に沿って同心円状に延びる。こうして非データ領域35では、磁性体47および非磁性体48の配置に基づき磁気ディスク14の表面に第2パターンが確立される。
【0026】
図6に示されるように、非データ領域35では、前述と同様に、基板41の表面に裏打ち層42が広がる。裏打ち層42の表面に前述の複合膜43が形成される。複合膜43では環状の磁性体47および環状の非磁性体48が交互に配置される。ただし、磁性体47には2値情報は格納されない。磁性体47の表面および非磁性体48の表面には第2表面49が規定される。第2表面49では所定の表面粗さが確立される。第2表面49は前述の保護膜45および潤滑膜46で被覆される。
【0027】
第2パターンでは磁性体47、47同士のピッチP2および非磁性体48のトラック幅W2が規定される。ピッチP2は前述のピッチP1よりも大きく設定される。ここでは、ピッチP2はピッチP1の2倍より大きく設定されることが望ましい。同時に、トラック幅W2は前述のトラック幅W1よりも大きく設定される。こうして非データ領域35の第2パターンはデータ領域31の第1パターンと異なる。非データ領域35の第2表面49の表面粗さはデータ領域31の第1表面44の表面粗さより大きく設定される。
【0028】
磁気ディスク14の静止中、浮上ヘッドスライダ22は非データ領域35の第2表面49に受け止められる。磁気ディスク14が回転し始めると、浮上ヘッドスライダ22は第2表面49を摺動する。浮上ヘッドスライダ22には磁気ディスク14の回転に基づき気流が作用する。浮上ヘッドスライダ22は第2表面49から浮上する。キャリッジアーム19が磁気ディスク14の外周に向かって支軸18回りで揺動する。浮上ヘッドスライダ22は第1表面44から浮上し続ける。電磁変換素子はデータ領域31上で目標の記録トラック32に対して位置決めされる。2値情報の書き込みや読み出しは実施される。
【0029】
2値情報の書き込みや読み出しが完了すると、キャリッジアーム19は磁気ディスク14の内周に向かって支軸18回りで揺動する。こうした揺動に基づき、浮上ヘッドスライダ22は非データ領域35上に位置決めされる。磁気ディスク14の回転数が低下すると、浮上ヘッドスライダ22への気流の作用は低下する。浮上ヘッドスライダ22は第2表面49に接触する。浮上ヘッドスライダ22は第2表面49を摺動する。磁気ディスク14の回転が停止する。浮上ヘッドスライダ22は第2表面49で非データ領域35上に受け止められる。
【0030】
以上のようなHDD11では、後述の製造方法に基づきデータ領域31の第1表面44および非データ領域35の第2表面49の間で異なる表面粗さが容易に実現される。第1表面44では極めて小さな表面粗さが確立される。第1表面44で平坦面が確立される。その結果、データ領域31上で浮上ヘッドスライダ22は安定的に浮上することができる。その一方で、第2表面49では比較的に大きな表面粗さが確立される。その結果、浮上ヘッドスライダ22が第2表面49を摺動しても、摩擦力の生成は緩和される。同時に、第2表面49に浮上ヘッドスライダ22の吸着は回避される。こうした磁気ディスク14はこれまでに比べて低コストで製造される。磁気ディスク14はHDD11の低コスト化に貢献する。
【0031】
次に、磁気ディスク14の製造方法を説明する。まず、基板41が用意される。基板41はスパッタリング装置に装着される。スパッタリング装置のチャンバ内には真空環境が確立される。チャンバ内で基板41の表面には裏打ち層42が形成される。形成にあたってチャンバ内には所定のターゲットがセットされる。裏打ち層42はデータ領域31および非データ領域35の両方に広がる。その後、図7に示されるように、裏打ち層42の表面には磁性連続膜51が形成される。形成にあたってチャンバ内には所定のターゲットがセットされる。
【0032】
その後、磁性連続膜51の表面には所定のパターンでレジスト膜52が形成される。レジスト膜52は前述の記録トラック32および磁性体47に相当する領域を覆い隠す。レジスト膜52の形成にあたって例えばナノインプリント技術が利用される。例えば磁性連続膜51の表面に塗布されるレジスト樹脂にマスタ媒体が重ね合わせられる。マスタ媒体には所定の凹凸パターンが形成される。マスタ媒体の凹凸パターンの形成にあたって例えばフォトリソグラフィー技術が利用される。こうしたマスタ媒体の凹凸パターンがレジスト樹脂に転写される。
【0033】
磁性連続膜51にはドライエッチング処理が実施される。その結果、図8に示されるように、レジスト膜52の周囲で磁性連続膜51には溝53が形成される。同時に、レジスト膜52直下で記録トラック32および磁性体47が形成される。溝53内で裏打ち層42の表面は露出する。その後、図9に示されるように、溝53内には非磁性材料54が充填される。ここでは、非磁性材料54は溝53から溢れ出る。充填後、記録トラック32および磁性体47上からレジスト膜52は除去される。こうして第1パターンのデータ領域31および第2パターンの非データ領域35が同時に確立される。
【0034】
データ領域31の表面および非データ領域35の表面に同時に平坦化処理が施される。平坦化処理にあたってガスクラスターイオンビーム(GCIB)技術が利用される。図10に示されるように、イオン化されたガスクラスターがデータ領域31の表面および非データ領域35の表面に照射される。このとき、ガス種やガスクラスターの速度、ガスクラスターの照射量といった平坦化処理の条件はデータ領域31の表面の平坦化に最適な条件に設定される。その結果、データ領域31では記録トラック32の表面および分離トラック36の表面は極限まで揃えられる。こうしてデータ領域31の第1表面44では平坦面が規定される。
【0035】
その一方で、第2パターンでは、第1パターンのピッチP1よりも大きなピッチP2および第1パターンのトラック幅W1よりも大きなトラック幅W2が規定される。しかも、平坦化処理の条件は非データ領域35の表面の平坦化に最適な条件に設定されない。その結果、平坦化処理が実施されると、非データ領域35の表面では磁性体47の表面および非磁性体48の表面の間に所定の段差が残存する。こうした段差に基づき非データ領域35の第2表面49では第1表面44の表面粗さよりも大きな表面粗さが確立される。こうして複合膜43が形成される。
【0036】
ここで、平坦化の条件が、例えば10nm〜100nm程度のピッチやトラック幅を有する領域に対して最適な条件に設定されると、その領域では平坦化が実現される。その一方で、前述と同一の条件で、例えば100nmを超えるピッチやトラック幅を有する領域に対して平坦化処理が実施されると、ピッチやトラック幅が増大するにつれて平坦化の程度は軽減される。さらに、前述と同一の条件で、例えば1μm以上のピッチやトラック幅を有する領域に対して平坦化処理が実施されると、平坦化はほとんど実現されない。すなわち、平坦化の度合いはパターンの寸法に依存する。したがって、平坦化処理の条件およびパターンの寸法の調整に基づき表面粗さが調整されることができる。
【0037】
その後、複合膜43の表面には保護膜45が形成される。形成にあたって例えばCVD法(化学的気相蒸着法)が用いられる。保護膜45の形成後、保護膜45の表面には潤滑膜46が塗布される。塗布にあたって例えばディップ法が用いられる。ディップ法では基板41は例えばパーフルオロポリエーテルを含む溶液に浸される。こうして磁気ディスク14は製造される。
【0038】
以上のような製造方法によれば、データ領域31および非データ領域35で異なるパターンが確立される。データ領域31の第1表面44の表面粗さおよび非データ領域35の第2表面49の表面粗さの相違はパターンの相違に依存する。ここでは、第2パターンで、第1パターンのピッチP1よりも大きなピッチP2および第1パターンのトラック幅W1よりも大きなトラック幅W2が規定される。その結果、1度の平坦化処理に基づき非データ領域35の第2表面49でデータ領域31の第1表面44よりも大きな表面粗さが確立される。こうして磁気ディスク14の表面で低コストで容易に異なる表面粗さが確立される。
【0039】
なお、平坦化処理にあたって、ガスクラスターイオンビーム技術に代えて、化学機械研磨法(CMP)が利用されてもよい。このとき、平坦化処理の条件には例えば研磨時の圧力、スラリパッドおよび磁気ディスクの間の相対速度、研磨時の温度、スラリの種類、スラリパッドの種類といった条件が含まれる。こうした平坦化処理の条件がデータ領域31の表面の平坦化に最適な条件に設定されればよい。こうした化学機械研磨法によってもデータ領域31の表面および非データ領域35の表面で異なる表面粗さが容易に確立されることができる。
【0040】
図11に示されるように、非データ領域35では、磁性体47および非磁性体48は、ダウントラック方向55に対して所定の交差角αで交差する方向56に沿って延びてもよい。交差角αは、ダウントラック方向55に対して時計回りおよび反時計回りに0度より大きく90度以下の角度に設定されればよい。データ領域31は前述と同様に構成される。ピッチP2およびトラック幅W2は前述と同様に設定される。こうしてデータ領域31および非データ領域35の間で異なるパターンが確立される。その他、前述と均等な構成や構造には同一の参照符号が付される。こうした磁気ディスク14は前述と同様に製造される。こういった磁気ディスク14では前述と同様の作用効果が実現される。
【0041】
図12に示されるように、非データ領域35では磁性体47内に例えば円柱状の非磁性体48が埋め込まれる。非磁性体48は基板41の表面に沿って所定の間隔で配置されればよい。磁性体47および非磁性体48の間に所定の段差が形成される。データ領域31は前述と同様に構成される。ここでは、非磁性体48の直径D1はデータ領域31のピッチP1より大きく設定される。こうしてデータ領域31および非データ領域35の間で異なるパターンが確立される。その他、前述と均等な構成や構造には同一の参照符号が付される。こうした磁気ディスク14は前述と同様に製造される。こういった磁気ディスク14では前述と同様の作用効果が実現される。
【0042】
図13に示されるように、磁気ディスク14はビットパターンド媒体を構成してもよい。データ領域31では、記録トラック32は複数の磁性体61で確立される。磁性体61はダウントラック方向に等間隔に配列される。磁性体61同士は非磁性体62で相互に隔てられる。磁性体61同士は非磁性体62で磁気的に分離される。磁性体61の表面および非磁性体62の表面で第1表面44が規定される。各磁性体61は磁性ドットを構成する。各磁性体61に2値情報は記録される。ここでは、相互に隣接する記録トラック32同士の間でダウントラック方向に磁性体61の位置は揃えられる。相互に隣接する磁性体61同士の間にはクロストラック方向に間隔P3およびダウントラック方向に間隔P4が規定される。
【0043】
図14に示されるように、非データ領域35では磁性体63内に例えば円柱状の非磁性体64が埋め込まれる。こうした非磁性体64は基板41の表面に沿って所定の間隔で配置される。磁性体63および非磁性体64の間に所定の段差が形成される。ここでは、非磁性体64の直径D2はデータ領域31のピッチP3およびピッチP4のそれぞれより大きく設定される。こうしてデータ領域31および非データ領域35の間で異なるパターンが確立される。その他、前述と均等な構成や構造には同一の参照符号が付される。こうした磁気ディスク14は前述と同様に製造される。こういった磁気ディスク14では前述と同様の作用効果が実現される。
【0044】
図15は本発明の第2実施形態に係る磁気ディスク14aを示す。この磁気ディスク14aでは、非データ領域35は例えば最外周記録トラック32および最内周記録トラック32の間に規定される。非データ領域35はデータ領域31を2つに分断する。この非データ領域35は例えばゼロキャリブレーション時に利用される。データ領域31および非データ領域35ではそれぞれ前述のいずれかのパターンが確立されればよい。その他、前述の磁気ディスク14と均等な構成や構造には同一の参照符号が付される。
【0045】
浮上ヘッドスライダ22の素子内蔵膜には例えば電磁変換素子に隣接してヒータが組み込まれる。ヒータは例えば電熱線から形成される。ヒータに電力が供給されると、ヒータは発熱する。ヒータの熱でヒータとともに電磁変換素子や素子内蔵膜は熱膨張する。その結果、いわゆる突き出しが形成される。電磁変換素子は磁気ディスク14aに向かって変位する。突き出しの突き出し量の設定にあたってゼロキャリブレーションが実施される。ゼロキャリブレーションでは、突き出しが非データ領域35の第2表面49に接触する際に突き出しの突き出し量が測定される。こうした接触時の突き出し量に基づき読み出し時や書き込み時の突き出しの突き出し量は設定される。こうして読み出し時や書き込み時に突き出しの突き出し量が設定されると、電磁変換素子は予め決められた浮上量で磁気ディスク14aの表面から浮上することができる。
【0046】
こうしたHDD11では、ゼロキャリブレーション時に浮上ヘッドスライダ22の突き出しは非データ領域35の第2表面49に接触する。前述のように、第2表面49ではデータ領域31の第1表面44より大きい表面粗さが確立されることから、データ領域31の第1表面44との接触時に比べて突き出しおよび第2表面49の間で摩擦力は低減される。その他、非データ領域35は、浮上ヘッドスライダ22の浮上中、浮上ヘッドスライダ22の退避領域として利用されてもよい。浮上ヘッドスライダ22が磁気ディスク14aに接触しても、摩擦力の低減に基づき浮上ヘッドスライダ22や磁気ディスク14aの損傷はできる限り回避される。
【0047】
図16は本発明の第3実施形態に係る磁気ディスク14bを示す。この磁気ディスク14bでは非データ領域35は最外周記録トラック32より外周側に配置される。データ領域31および非データ領域35ではそれぞれ前述のいずれかのパターンが確立されればよい。この磁気ディスク14bは、図17に示されるように、ロードアンロード方式を採用するHDD11aに組み込まれる。HDD11aでは、ヘッドサスペンション21の先端にヘッドサスペンション21の先端から前方に延びるロードタブ65が区画される。ロードタブ65はキャリッジアーム19の揺動に基づきクロストラック方向に移動することができる。ロードタブ65の移動経路上には磁気ディスク14の外側でランプ部材66が配置される。ランプ部材66はベース13に固定される。ロードタブ65はランプ部材66に受け止められる。ランプ部材66にはロードタブ65の移動経路に沿って延びるランプ66aが形成される。このランプ66aは磁気ディスク14の回転軸から遠ざかるにつれて磁気ディスク14の表面を含む仮想平面から遠ざかる。その他、前述と均等な構成や構造には同一の参照符号が付される。
【0048】
浮上ヘッドスライダ22のアンロード時、キャリッジアーム19が支軸18回りで磁気ディスク14の回転軸から遠ざかると、ロードタブ65はランプ66aを上っていく。こうして浮上ヘッドスライダ22は磁気ディスク14の表面から引き剥がされる。浮上ヘッドスライダ22はアンロードされる。こうしたアンロードは非データ領域35上で実施される。その後、浮上ヘッドスライダ22は磁気ディスク14から外側に待避する。反対に、キャリッジアーム19が支軸18回りに磁気ディスク14の回転軸に向かって揺動すると、ロードタブ65はランプ66aを下っていく。回転中の磁気ディスク14から浮上ヘッドスライダ22には浮力が作用する。浮上ヘッドスライダ22はロードされる。こうした浮上ヘッドスライダ22のロードは非データ領域35上で実施される。
【0049】
以上のようなHDD11aでは、浮上ヘッドスライダ22のロードおよびアンロードは非データ領域35上で実施される。したがって、浮上ヘッドスライダ22のロード時およびアンロード時に浮上ヘッドスライダ22が第2表面49に接触しても、浮上ヘッドスライダ22および第2表面49の間で摩擦力は低減される。その結果、浮上ヘッドスライダ22や磁気ディスク14bの損傷はできる限り回避される。
【0050】
図18は本発明の第4実施形態に係る磁気ディスク14cを示す。この磁気ディスク14cでは、前述の磁気ディスク14bで非データ領域35はダウントラック方向に途切れる。ここでは、非データ領域35は最外周記録トラック32より外周側で例えば磁気ディスク14cの半周にわたって延びる。この磁気ディスク14cは前述のHDD11aに組み込まれる。磁気ディスク14cの回転中、非データ領域35上で浮上ヘッドスライダ22のロードが実施される。反対に、データ領域31上で浮上ヘッドスライダ22のアンロードが実施される。ロードおよびアンロードのタイミングは磁気ディスク14cの回転周期に基づき決定されればよい。その他、前述と均等な構成や構造には同一の参照符号が付される。
【0051】
浮上ヘッドスライダ22のロードは非データ領域35上で実施される。ロード時に浮上ヘッドスライダ22が第2表面49に接触しても、浮上ヘッドスライダ22および第2表面49の間で摩擦力は低減される。浮上ヘッドスライダ22および磁気ディスク14cの損傷はできる限り回避される。反対に、浮上ヘッドスライダ22のアンロードはデータ領域31上で実施される。データ領域31の第1表面44は平坦面で規定される。平坦面の第1表面44から浮上ヘッドスライダ22の浮上量は十分に確保される。浮上ヘッドスライダ22のアンロードは安定的に実施される。浮上ヘッドスライダ22および磁気ディスク14cの接触は抑制される。
【0052】
図19は本発明の第5実施形態に係る磁気ディスク14dを示す。この磁気ディスク14dでは非データ領域35で磁性体47の表面および非磁性体48の表面を相互に接続する段差71が形成される。段差71は、磁性体47の厚みおよび非磁性体48の厚みの相違に基づき形成される。ここでは、平坦化処理に基づき非磁性体48の厚みは磁性体47の厚みより大きく設定される。潤滑膜46は流動性を有することから、段差71は潤滑膜46で覆われる。その結果、潤滑膜46の膜厚は段差71で増大する。段差71で潤滑膜46は多量に保持される。なお、データ領域31および非データ領域35ではそれぞれ前述のいずれかのパターンが確立されればよい。非データ領域35は前述の磁気ディスク14〜14cのうちのいずれかの位置に配置されればよい。その他、前述と均等な構成や構造には同一の参照符号が付される。
【0053】
こうした磁気ディスク14dによれば、非データ領域35上を浮上ヘッドスライダ22が浮上する。段差71には多量の潤滑膜46が保持されることから、蒸発に基づき浮上ヘッドスライダ22に潤滑膜46が比較的に多量に付着する。浮上ヘッドスライダ22はデータ領域31上を浮上する。このとき、浮上ヘッドスライダ22に付着した潤滑膜46は蒸発する。蒸発した潤滑膜46はデータ領域31の第1表面44に付着する。こうして潤滑膜46は非データ領域35からデータ領域31に移動する。データ領域31の第1表面44では潤滑膜46の膜厚はできる限り均一に設定される。なお、段差71の大きさが大きすぎると、浮上ヘッドスライダ22と非データ領域35の第2表面49との接触の可能性が増大する。したがって、段差71の大きさは浮上ヘッドスライダ22の浮上量との関係で決定されればよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一具体例に係る記憶装置すなわちハードディスク駆動装置(HDD)の内部構造を概略的に示す平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る記憶媒体すなわち磁気ディスクの構造を概略的に示す平面図である。
【図3】一具体例に係るデータ領域の構造を示す磁気ディスクの部分拡大平面図である。
【図4】図3の4−4線に沿った垂直断面図である。
【図5】一具体例に係る非データ領域の構造を示す磁気ディスクの部分拡大平面図である。
【図6】図5の6−6線に沿った垂直断面図である。
【図7】磁性連続膜にエッチング処理を施す工程を概略的に示す垂直断面図である。
【図8】磁性連続膜に溝を形成する工程を概略的に示す垂直断面図である。
【図9】溝内に非磁性材料を充填する工程を概略的に示す垂直断面図である。
【図10】データ領域および非データ領域に同一の条件で平坦化処理を施す工程を概略的に示す垂直断面図である。
【図11】他の具体例に係る非データ領域の構造を概略的に示す磁気ディスクの部分拡大平面図である。
【図12】さらに他の具体例に係る非データ領域の構造を概略的に示す磁気ディスクの部分拡大平面図である。
【図13】他の具体例に係るデータ領域の構造を概略的に示す磁気ディスクの部分拡大平面図である。
【図14】さらに他の具体例に係る非データ領域の構造を概略的に示す磁気ディスクの部分拡大平面図である。
【図15】本発明の第2実施形態に係る記憶媒体すなわち磁気ディスクの構造を概略的に示す平面図である。
【図16】本発明の第3実施形態に係る記憶媒体すなわち磁気ディスクの構造を概略的に示す平面図である。
【図17】本発明の他の具体例に係るハードディスク駆動装置(HDD)の内部構造を概略的に示す平面図である。
【図18】本発明の第4実施形態に係る記憶媒体すなわち磁気ディスクの構造を概略的に示す平面図である。
【図19】本発明の第5実施形態に係る記憶媒体すなわち磁気ディスクの構造を概略的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0055】
11 記憶装置(ハードディスク駆動装置)、14〜14d 記憶媒体(磁気ディスク)、22 ヘッドスライダ(浮上ヘッドスライダ)、31 データ領域、32 磁性体(記録トラック)、35 非データ領域、36 非磁性体(分離トラック)、41 基板、43 複合膜、46 潤滑膜、47 磁性体、48 非磁性体、71 段差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面に沿って広がる複合膜とを備え、
前記複合膜は、
前記基板の表面に沿って広がる磁性体および非磁性体の配置に基づき第1パターンを確立する第1表面粗さのデータ領域と、
前記基板の表面に沿って広がる磁性体および非磁性体の配置に基づき第1パターンと異なる第2パターンを確立する前記第1表面粗さより大きい第2表面粗さの非データ領域とを区画することを特徴とする記憶媒体。
【請求項2】
請求項1に記載の記憶媒体において、前記非データ領域で前記磁性体の表面および前記非磁性体の表面を相互に接続する段差と、前記データ領域の表面および前記非データ領域の表面に沿って広がる潤滑膜とをさらに備えることを特徴とする記憶媒体。
【請求項3】
記憶媒体と、
前記記憶媒体に向き合わせられるヘッドスライダとを備え、
前記記憶媒体は、基板と、前記基板の表面に沿って広がる複合膜とを備え、
前記複合膜は、前記基板の表面に沿って広がる磁性体および非磁性体の配置に基づき第1パターンを確立する第1表面粗さのデータ領域と、前記基板の表面に沿って広がる磁性体および非磁性体の配置に基づき第1パターンと異なる第2パターンを確立する前記第1表面粗さより大きい第2表面粗さの非データ領域とを区画することを特徴とする記憶装置。
【請求項4】
請求項3に記載の記憶装置において、前記非データ領域で前記磁性体の表面および前記非磁性体の表面を相互に接続する段差と、前記データ領域の表面および前記非データ領域の表面に沿って広がる潤滑膜とをさらに備えることを特徴とする記憶装置。
【請求項5】
基板の表面に沿って広がる磁性体および非磁性体で相互に異なるパターンを確立するデータ領域および非データ領域を形成する工程と、
前記データ領域および前記非データ領域に同一の条件で平坦化処理を施す工程とを備えることを特徴とする記憶媒体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の記憶媒体の製造方法において、前記平坦化処理はガスクラスターイオンビーム研磨処理であることを特徴とする記憶媒体の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の記憶媒体の製造方法において、前記平坦化処理は化学機械研磨処理であることを特徴とする記憶媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−108534(P2010−108534A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276568(P2008−276568)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】