説明

記憶障害の処置における(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートの使用

本発明は、少なくとも1つのL型カルシウムチャンネルブロッカー、特に(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートの化合物を、少なくとも1つのコリンエステラーゼ阻害剤、特にドネペジルと組み合わせて含んで成る組成物、及び、処置方法におけるその使用、に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年11月21日に出願された出願番号第60/523,664号、及び2004年9月9日に出願された出願番号第60/608,116号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、化合物(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートの化合物を、単独の活性物質として、又は他の医薬物質と組み合わせて用いる処置方法に関する。
【背景技術】
【0003】
Meierら(米国特許第5,665,740号)(引用によりその全体の開示が本明細書に組み入れられる)は、(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートの化合物が、学習能力及び記憶力に対してプラス効果を有し、且つ抗うつに対する潜在能力を有することを開示している。
【0004】
記憶障害の症状は、新しい情報を学習する能力の障害及び/又は以前に学習した情報を思い出す能力の欠如を呈する。記憶障害は認知症の一次症状であり、そして種々の疾患及び症状、例えばアルツハイマー病又は年齢に関係する認識衰退と関連した症候であることもある。
【0005】
本発明は、(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートの使用であって、この化合物が示す医薬活性、特に記憶障害及び/又は認識障害の処置に関する医薬活性の有用なスペクトルに基づく使用に関する。
【0006】
本発明の要約
本発明は、軽度認識障害(MCI)に罹患している患者、特にヒトを処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法に関する。MCIは、認知症又は他の認識機能、例えばオリエンテーション、言語及び注意についての重大な機能障害を有さない軽度の近時記憶喪失を特徴とする症状である。MCIの特徴には、記憶についての不満(memory complaint)及び年齢の割に異常な記憶が含まれるが、正常な日常生活動作、正常な一般的認識機能を有し、且つ認知症ではない。
【0007】
前記化合物はまた、中枢神経系(CNS)の低酸素状態の結果としての、例えば冠動脈バイパスグラフト(GABG)、及び周生期低酸素症の結果としての神経損傷に罹患している患者、特にヒトを処置する方法、特にかかる神経損傷に起因する記憶障害及び/又は認識障害の処置方法であって、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法で使用することができる。
【0008】
本発明は、例えば、統合失調症、ハンチントン病、ピック病、クロイツフェルトヤコブ病、及び他の神経学的症状に起因する記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者、特にヒトを処置する方法であって、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法、を含む。
【0009】
本発明はまた、多発性硬化症、特にその結果としての記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者、特にヒトを処置する方法であって、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法、を含む。
【0010】
本発明の別の態様によると、癲癇に関連している記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者、特にヒトを処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法が提供される。
【0011】
更に、本発明によると、例えば、注意欠陥障害(ADD)及び注意欠陥多動性障害(ADHD)等を含む病状に起因する記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者、特にヒトを処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法が提供される。
【0012】
本発明の追加の観点によると、耳鳴及び/又は他の脳機能障害の症候に罹患している患者、特にヒトを処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法が提供される。
【0013】
当業者は、化合物イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチルピリジン3,5−ジカルボキシラートが不斉炭素原子を持ち、そしてその結果、光学異性体の形態、並びにそれらのラセミ混合物又は非ラセミ混合物の形態で存在することができることを認識するであろう。ラセミ体、鏡像異性体の非ラセミ混合物、実質的に純水な鏡像異性体及び純粋な鏡像異性体を含むこれらの化合物全てが本発明の範囲内にある。実質的に純粋な鏡像異性体は、5%(w/w)未満の相当の逆の鏡像異性体を含み、好ましくは2%未満、最も好ましくは1%未満である。
【0014】
前記の光学異性体は、常用の方法に従うラセミ混合物の分割により、例えば光学的に活性の酸又は塩基を用いたジアステレオ異性体の形成又は共有結合ジアステレオマーの形成により得ることができる。適切な酸の例は、酒石酸、ジアセチル酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸及びカンファースルホン酸である。ジアステレオ異性体混合物は、それらの物理的差異及び/又は化学的差異に基づいて、当業者に知られている方法により、例えばクロマトグラフィー又は分別結晶により、それらの個々のジアステレオマーに分離することができる。光学活性の塩基又は酸は、続いて、分離したジアステレオマー塩から遊離する。光学異性体の異なる分離工程には、鏡像異性体の分離を最大化するために最適に選択した常用の誘導体化(derivation)を用いた、又は用いないキラルクロマトグラフィー(例えば、キラルHPLCカラム)の使用が包含される。適当なHPLCカラムは、Diacel、例えば、中でもChiracel OD及びChiracel OJにより製造されており、これら全てはルーチンに選択可能である。誘導体化を用いる又は用いない酵素的分離も有用である。本発明の光学活性化合物は、同様に、光学活性の出発材料を、キラル合成工程において、ラセミ化を引き起こさない反応条件下で利用することにより得ることができる。
【0015】
前記化合物は、単独の活性物質として、又は他の医薬物質、例えば認識障害及び/又は記憶喪失の処置に使用されている他の物質、例えばニコチン−7アゴニスト、PDE4阻害剤、カルシウムチャンネルブロッカー(例えば、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、ラシジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ニトレンジピン、及びニソルジピン)、ムスカリン性m1及びm2モジュレーター、アデノシン受容体モジュレーター、アンパカイン、NMDA−Rモジュレーター(例えば、メマンチン(Namenda(登録商標))、mGluRモジュレーター、ドーパミンモジュレーター、セロトニンモジュレーター、及びカンナビノイド(canabinoid)モジュレーターと組み合わせて投与することができる。かかる組み合わせにおいて、各活性成分は、それらの通常の用量域で、あるいはそれらの通常の用量域未満の投与量で投与することができる。
【0016】
例えば、本発明はアルツハイマー病に関連している記憶障害及び/又は認識障害を処置する方法であって、患者(例えばヒト)に対し、本発明の化合物及び、アカチノール、ネオトロピン、エルデプリル、エストロゲン、及びクリオキノールから選択されるアルツハイマー病の処置に使用される別の物質を同時に又は連続して投与することを含んで成る方法、を含む。同時投与を用いた方法においては、かかる物質は、一体の組成物中に存在してもよく、あるいは別々に投与することもできる。
【0017】
本発明はまた、統合失調症に関連している記憶障害及び/又は認識障害を処置する方法であって、患者(例えばヒト)に対し、有効量の本発明の化合物及び統合失調症の処置に使用されている別の物質、例えばクロザリル、ジプレキサ、リスペリドン、及びセロクエルを同時に又は連続して投与することを含んで成る方法、を含む。同時投与を用いた方法においては、かかる物質は、一体の組成物中に存在してもよく、あるいは別々に投与することもできる。
【0018】
本発明はまた、パーキンソン病に関連している記憶障害及び/又は認識障害を処置する方法であって、患者(例えばヒト)に対し、本発明の化合物及び統合失調症の処置に使用されている別の物質、例えばレボドパ、パーロデル、ペルマックス、ミラペックス、タスマー(Tasmar)、コムタン、ケマドリン(Kemadrin)、アーテン、及びコゲンチンを同時に又は連続して投与することを含んで成る方法、を含む。同時投与を用いた方法においては、かかる物質は、一体の組成物中に存在してもよく、あるいは別々に投与することもできる。
【0019】
尚、本発明は、ハンチントン病に関連している記憶障害及び/又は認識障害を処置する方法であって、患者(例えばヒト)に対し、本発明の化合物及びハンチントン病の処置に使用されている別の物質、例えばアミトリプチリン、イミプラミン、デスプラミン(Despiramine)、ノルトリプチリン、パロキセチン、フルオキセチン、セルトラリン、テトラベナジン、ハロペリドール、クロロプロマジン、チオリダジン、スルピリド(Sulpride)、クエチアピン、クロザピン、及びリスペリドンを同時に又は連続して投与することを含んで成る方法、を含む。同時投与を用いた方法においては、かかる物質は、一体の組成物中に存在してもよく、あるいは別々に投与することもできる。
【0020】
更に、本発明は、注意欠陥多動性障害(ADHD)に関連している記憶障害及び/又は認識障害を処置する方法であって、患者(例えばヒト)に対し、本発明の化合物及びADHDの処置に使用されている別の物質、例えばリタリン、デキセドリン、デクストロスタット(Dextrostat)、サイラート、及びアデラールを同時に又は連続して投与することを含んで成る方法、を含む。同時投与を用いた方法においては、かかる物質は、一体の組成物中に存在してもよく、あるいは別々に投与することもできる。
【0021】
本発明はまた、鬱病に関連している記憶障害及び/又は認識障害を処置する方法であって、患者(例えばヒト)に対し、本発明の化合物及び鬱病の処置に使用されている別の物質、例えばプロザック、ゾロフト、パキシル、レボキセチン、ウェルブトリン(Wellbutrin)、オランザピン、フルオキセチン、エラビル、トフラニル、パメロール、ナーディル、パルネート、デジレル、エフェクサー、デジレル、ビバクチル、サイネクアン、パルネート、ジプレクサ、トリプタノール、セルゾン、リスペリダル、ハルドール、ファベリン、セロザット、レメロン、及びノルトリレン(Nortrilene)を同時に又は連続して投与することを含んで成る方法、を含む。同時投与を用いた方法においては、かかる物質は、一体の組成物中に存在してもよく、あるいは別々に投与することもできる。
【0022】
本発明に更に含まれるものとしては、認知症に関連している記憶障害及び/又は認識障害を処置する方法であって、患者(例えばヒト)に対し、本発明の化合物及び認知症の処置に使用されている別の物質、例えばチオリダジン、ハロペリドール(Haloperidal)、及びリスペリドンを同時に又は連続して投与することを含んで成る方法、である。同時投与を用いた方法においては、かかる物質は、一体の組成物中に存在してもよく、あるいは別々に投与することもできる。
【0023】
本発明はまた、癲癇に関連している記憶障害及び/又は認識障害を処置する方法であって、患者(例えばヒト)に対し、本発明の化合物及び癲癇の処置に使用されている別の物質、例えばジランチン、ルミノール、テグレトール、デパコート、デパケン、ザロンチン、ニューロンチン、バルビタール(Barbita)、ソルフェトン(Solfeton)、及びフェルバトールを同時に又は連続して投与することを含んで成る方法、である。同時投与を用いた方法においては、かかる物質は、一体の組成物中に存在してもよく、あるいは別々に投与することもできる。
【0024】
また、本発明は、双極性障害に関連している記憶障害及び/又は認識障害を処置する方法であって、患者(例えばヒト)に対し、本発明の化合物及び鬱病の処置に使用されている別の物質、例えばリチウム、ジプレキサ、デパコート、及びジプレキサを同時に又は連続して投与することを含んで成る方法、である。同時投与を用いた方法においては、かかる物質は、一体の組成物中に存在してもよく、あるいは別々に投与することもできる。
【0025】
更に、本発明は、多発性硬化症に関連している記憶障害及び/又は認識障害を処置する方法であって、患者(例えばヒト)に対し、本発明の化合物及び多発性硬化症の処置に使用されている別の物質、例えばデトロール、ジトロパン(Ditropan)XL、オキシコンチン、ベタセロン、アボネックス、アザチオプリン(Azothioprine)、メトトレキサート、及びコパキソンを同時に又は連続して投与することを含んで成る方法、である。同時投与を用いた方法においては、かかる物質は、一体の組成物中に存在してもよく、あるいは別々に投与することもできる。
【0026】
本発明の化合物の用量は、種々の要因、例えば処置すべき特定の症候群、症候の重症度、投与経路、投与間隔の頻度、利用する特定の化合物、当該化合物の有効性、毒性プロファイル、薬物動態プロファイル、及びあらゆる有害な副作用の存在、に左右され、他の要因も考慮される。
【0027】
本発明の化合物は、単独で、又は製剤の活性成分として投与することができる。従って、本発明はまた、本発明の化合物の医薬組成物を含み、これは、例えば1若しくは複数の医薬として許容される担体及び/又は、1若しくは複数の活性成分を含む。
【0028】
L型カルシウムチャンネルに対するそれらの親和性を考慮すると、本発明は、L型カルシウムチャンネルのブロッキングを必要としているあらゆる者に対し投与することができる。投与は、患者のニーズに応じて、例えば経口、経鼻、非経口(皮下、静脈内、筋肉内、胸骨内及び注入)、経腸、経膣、局所及び経眼投与により達成することができる。
【0029】
種々の固形の経口剤形を使用して本発明の化合物を投与することができ、かかる固体には、錠剤、ジェルキャップ、カプセル、カプレット、顆粒、ロゼンジ(lozenge)及び原末が含まれる。本発明の化合物は、単独で、又は種々の医薬として許容される担体、希釈剤(例えばスクロース、マンニトール、ラクトース、デンプン)及び当業界で知られている賦形剤、例えば、限定しないが、懸濁剤、可溶化剤、緩衝剤、結合剤、崩壊剤、保存剤、着色剤、香味剤、滑剤等と組み合わせて投与することができる。時限放出カプセル、錠剤及びゲルも本発明の化合物を投与するのに有利である。
【0030】
種々の液体の経口剤形を使用して本発明の化合物を投与することができ、かかる液体には水溶液及び非水溶液、乳濁液、懸濁液、シロップ及びエリキシルが含まれる。かかる剤形は、当業界で知られている適当な不活性の希釈剤、例えば水及び当業界で知られている適当な賦形剤、例えば保存剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、並びに本発明の化合物の乳化剤及び/又は懸濁剤を含むこともできる。本発明の化合物は、例えば、静脈内から、等張の滅菌溶液の形態で注射することができる。他の調製品も可能である。
【0031】
本発明の化合物の直腸投与用の座薬は、当該化合物を適当な賦形剤、例えばカカオバター、サリチル酸塩及びポリエチレングリコールと混合することで調製することができる。膣内投与用の製剤は、ペッサリー、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム、又はスプレー製剤の形態であって、活性成分に加え、当業界で知られているような適当な担体を含む形態であってもよい。
【0032】
局所投与の場合、前記医薬組成物は、皮膚、眼、耳又は鼻に対する投与に適したクリーム、軟膏、塗布薬、ローション、乳濁液、懸濁液、ゲル、溶液、ペースト、粉末、スプレー、及びドロップの形態であってもよい。局所投与には、また、例えば経皮貼付を介した経皮投与が包含されることもある。
【0033】
本発明の化合物の用量は、種々の要因、例えば処置すべき特定の症候群、症候の重症度、投与経路、投与間隔の頻度、利用する特定の化合物、当該化合物の有効性、毒性プロファイル、薬物動態プロファイル、及びあらゆる有害な副作用の存在、に左右され、他の要因も考慮される。
【0034】
前記の活性化合物は、これらの調製品中に、全混合物の重量当たり0.1〜99.5%。好ましくは0.5〜95%の濃度で存在するべきである。概して、総量で約0.01〜約50mg/kg体重、好ましくは総量で約0.1mg/kg〜10mg/kg体重の当該活性化合物を24時間置きに、適切な場合には複数の個別の剤形で投与して、所望の結果を達成するのが有利であることが証明されている。
【0035】
前記のラセミ化合物は、種々の手順、例えば米国特許第5,665,740号に記載の通りに合成することができる。例えば、2−クロロ−3−シアノベンズアルデヒドは、2−メトキシエチルアセトアセテートと反応させて2−メトキシエチル2−アセチル−3−(2−クロロ−3−シアノ)2−プロペノエートを得ることができる。この化合物を更にイソプロピルアミノ−2−ブテノエートと反応させることでラセミ体のイソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチルピリジン3,5−ジカルボキシラートが得られる(米国特許第5,665,740号の実施例I及び1を参照のこと)。(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートは、かかるラセミ体をキラルクロマトグラフィーにかけることで得ることができる(米国特許第5,665,740号の実施例2を参照のこと)。
【0036】
前記の光学異性体は、常用の方法に従うラセミ混合物の分割により、例えば光学的に活性の酸又は塩基を用いたジアステレオ異性体の形成又は共有結合ジアステレオマーの形成により得ることができる。適切な酸の例は、酒石酸、ジアセチル酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸及びカンファースルホン酸である。ジアステレオ異性体混合物は、それらの物理的差異及び/又は化学的差異に基づいて、当業者に知られている方法により、例えばクロマトグラフィー又は分別結晶により、それらの個々のジアステレオマーに分離することができる。光学活性の塩基又は酸は、続いて、分離したジアステレオマー塩から遊離する。光学異性体の異なる分離工程には、鏡像異性体の分離を最大化するために最適に選択した常用の誘導体化(derivation)を用いた、又は用いないキラルクロマトグラフィー(例えば、キラルHPLCカラム)の使用が包含される。適当なHPLCカラムは、Diacel、例えば、中でもChiracel OD及びChiracel OJにより製造されており、これら全てはルーチンに選択可能である。本発明の光学活性化合物は、同様に、光学活性の出発材料を、キラル合成工程において、ラセミ化を引き起こさない反応条件下で利用することにより得ることができる。
【0037】
また、L型カルシウムチャンネルに対するそれらの親和性に起因して、本発明の化合物の標識誘導体(例えば、C11又はF18標識誘導体)は、受容体、例えば、脳内での受容体の神経画像処理に使用することができる。従って、受容体のin vivo画像処理におけるかかる標識物質の使用は、例えば、PETイメージングにおいて実施することができる。
【0038】
尚、当業者は、前記化合物が、異なる濃縮同位元素形態で、例えば2H、3H、11C、13C及び/又は14Cの含有量を濃縮して、使用することができることを認識するであろう。1つの特定の態様において、前記化合物は重水素化されている。かかる重水素化の形態は、米国特許第5,846,514号及び第6,334,997号に記載の手順により生成することができ、これらは引用により本明細書に組み入れられる。米国特許第5,846,514号及び第6,334,997号に記載されている通り、重水素化は薬物の有効性を向上させることができ、そして薬物の作用期間を増大させることができる。
【0039】
重水素置換化合物は、種々の方法、例えば、Dean, Dennis C.; Editor. Recent Advances in the Synthesis and Applications of Radiolabeled Compounds for Drug Discovery and Development. [In: Curr. , Pharm. Des. , 2000; 6 (10) ] (2000), 110 pp. CAN 133: 68895 AN 2000: 473538 CAPLUS; Kabalka, George W.; Varma, Rajender S. The synthesis of radiolabeled compounds VIA organometallic intermediates. Tetrahedron (1989), 45 (21), 6601-21, CODEN: TETRAB ISSN: 0040-4020. CAN 112: 20527 AN 1990: 20527 CAPLUS; 及びEvans, E. Anthony. Synthesis of radiolabeled compounds, J. Radioanal. Chem. (1981), 64 (1-2), 9-32. CODEN: JRACBN ISSN: 0022-4081, CAN 95 : 76229AN 1981 : 476229 CAPLUSに記載のものを用いて合成することができ、これらは引用により本明細書に組み入れられる。
【0040】
前述及び後述の例において、全ての温度は摂氏度で訂正されずに記載されており、そして特に断らない限り、全ての比率及びパーセンテージは重量当たりのものである。
【0041】
前述の記載から、当業者であれば、本発明の本質的な特徴を容易に確認することができ、そして、本発明の精神及び本発明の範囲を逸脱することなく、種々の利用及び条件に適合するよう種々の変更及び修飾を行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽度認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法。
【請求項2】
中枢神経系(CNS)の低酸素状態の結果としての神経損傷に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法。
【請求項3】
前記神経損傷が冠動脈バイパスグラフト(GABG)又は周生期低酸素症の結果である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記患者が前記神経損傷に起因する記憶障害及び/又は認識障害について処置される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
統合失調症、ハンチントン病、ピック病、クロイツフェルトヤコブ病、及び他の神経学的症状に起因する記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法。
【請求項6】
多発性硬化症に起因する記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法。
【請求項7】
癲癇に関連している記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法。
【請求項8】
注意欠陥障害(ADD)及び注意欠陥多動性障害(ADHD)から選択される病状に起因する記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法。
【請求項9】
耳鳴及び/又は他の脳機能障害の症候に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラートを投与することを含んで成る方法。
【請求項10】
前記患者に対し、ニコチン−7アゴニスト、PDE4阻害剤、カルシウムチャンネルブロッカー、ムスカリン性m1及びm2モジュレーター、アデノシン受容体モジュレーター、アンパカイン、NMDA−Rモジュレーター、mGluRモジュレーター、ドーパミンモジュレーター、セロトニンモジュレーター、及びカンナビノイド(canabinoid)モジュレーターから選択される、認識障害及び/又は記憶喪失の処置のための追加の医薬物質を投与することを更に含んで成る、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記の追加の医薬物質が、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、ラシジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ニトレンジピン、ニソルジピン、及びメマンチンから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項5に記載の統合失調症に関連している記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、前記患者に対し、有効量のクロザリル、ジプレキサ、リスペリドン、又はセロクエルを投与することを更に含んで成る方法。
【請求項13】
請求項5に記載のハンチントン病に関連している記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、前記患者に対し、有効量のアミトリプチリン、イミプラミン、デスプラミン(Despramine)、ノルトリプチリン、パロキセチン、フルオキセチン、セルトラリン、テトラベナジン、ハロペリドール、クロロプロマジン、チオリダジン、スルピリド(Sulpride)、クエチアピン、クロザピン、又はリスペリドンを投与することを更に含んで成る方法。
【請求項14】
請求項8に記載の注意欠陥多動性障害(ADHD)に関連している記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、前記患者に対し、有効量のリタリン、デキセドリン、デクストロスタット(Dextrostat)、サイラート、又はアデラールを投与することを更に含んで成る方法。
【請求項15】
請求項8に記載の多発性硬化症に関連している記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量のデトロール、ジトロパン(Ditropan)XL、オキシコンチン、ベタセロン、アボネックス、アザチオプリン(Azothioprine)、メトトレキサート、又はコパキソンを投与することを更に含んで成る方法。
【請求項16】
アルツハイマー病に関連している記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラート及び有効量のアカチノール、ネオトロピン、エルデプリル、エストロゲン、又はクリオキノールを投与することを含んで成る方法。
【請求項17】
パーキンソン病に関連している記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラート及び有効量のレボドパ、パーロデル、ペルマックス、ミラペックス、タスマー(Tasmar)、コムタン、ケマドリン(Kemadrin)、アーテン、又はコゲンチンを投与することを含んで成る方法。
【請求項18】
鬱病に関連している記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラート及び有効量のプロザック、ゾロフト、パキシル、レボキセチン、ウェルブトリン(Wellbutrin)、オランザピン、フルオキセチン、エラビル、トフラニル、パメロール、ナーディル、パルネート、デジレル、エフェクサー、デジレル、ビバクチル、サイネクアン、パルネート、ジプレクサ、トリプタノール、セルゾン、リスペリダル、ハルドール、ファベリン、セロザット、レメロン、又はノルトリレン(Nortrilene)を投与することを含んで成る方法。
【請求項19】
認知症に関連している記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラート及び有効量のチオリダジン、ハロペリドール(Haloperidal)、リスペリドンを投与することを含んで成る方法。
【請求項20】
癲癇に関連している記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラート及び有効量のジランチン、ルミノール、テグレトール、デパコート、デパケン、ザロンチン、ニューロンチン、バルビタール(Barbita)、ソルフェトン(Solfeton)、又はフェルバトールを投与することを含んで成る方法。
【請求項21】
双極性障害に関連している記憶障害及び/又は認識障害に罹患している患者を処置する方法であって、当該患者に対し、有効量の(+)−イソプロピル2−メトキシエチル4−(2−クロロ−3−シアノ−フェニル)−1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−ピリジン−3,5−ジカルボキシラート並びに有効量のリチウム、ジプレキサ、デパコート、及びジプレキサを投与することを含んで成る方法。
【請求項22】
前記患者がヒトである、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−512339(P2007−512339A)
【公表日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541355(P2006−541355)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/038624
【国際公開番号】WO2005/051389
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(501494104)メモリー・ファーマシューティカルズ・コーポレイション (25)
【氏名又は名称原語表記】MEMORY PHARMACEUTICALS CORPORATION
【Fターム(参考)】