説明

記憶/認知および不安障害の処置のためのCI−994およびジナリンの使用

本発明は、認知機能を促進する、ならびに/または認知機能の障害および欠陥を処置するための方法および組成物に関する。特に、方法は、対象にCI−994またはジナリンまたはそれらの薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を投与することにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2009年10月30日に提出された米国仮特許出願第61/256,927号および2009年12月1日に提出された米国仮特許出願第61/265,468号に対して、35U.S.C.§119(e)のもとに優先権を主張し、それらの全内容は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般的に、記憶喪失および認知機能障害と関連する疾患および状態を処置するための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
脳萎縮は、正常な老化中に発生し、欠陥のある認知機能や記憶喪失に関連する神経変性疾患の初期の特徴である。アルツハイマー病、ハンチントン病および他の関連する認知症は、多くの場合、認知機能の著しい損失を引き起こし、患者を病弱な状態にまで引き下げる。アルツハイマー病および関連認知症のための治療法は知られておらず、これらの疾患の原因はよく理解されていない。さらに、前臨床研究では、かなりのニューロンの損失後に、失われた記憶を回復するためのストラテジーを模索するに至っていない。
【0004】
真核細胞において、核DNAは、ヒストンH2A、H2B、H3、およびH4からなるタンパク質コアの周囲に巻き付いてクロマチンを形成し、ここでヒストンの塩基性アミノ酸はDNAの負に荷電したリン酸基と相互作用する。DNAの約146塩基対はヒストンコアの周囲に巻き付き、クロマチンの繰り返し構造モチーフであるヌクレオソーム粒子を構成する。ヒストンは、N末端リジン残基のα、ε−アミノ基の翻訳後アセチル化の対象となる。アセチル化反応は、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HATS)と呼ばれる酵素によって触媒される。アセチル化がリジン側鎖の正電荷を中和し、(例えば、転写因子がDNAへのアクセスを増加できるようにすることによって)転写を促進する方式で、クロマチン構造に影響を与えると考えられている。ヒストンデアセチラーゼ(HDACs)と呼ばれる酵素のファミリーは、ヒストンのアセチル化を逆行させることが報告されている。HDACファミリーのうち11個(HDAC1〜HDAC11と呼ばれる)が報告されており、3つの特徴的なクラスとして提起されている:HDAC1、2、3、および8を含むクラスI、HDAC4、5、6および7を含むクラスII、ならびにHDAC11を含むクラスIV。in vivoでは、クロマチンのアセチル化状態はHATsおよびHDACsの活動の間の動的バランスによって維持されると考えられている。ヒストンのアセチル化を調節することは、細胞増殖と分化を含む多くの生物学的プロセスに重要な役割を果たしているクロマチン変調および遺伝子調節の不可欠な側面である(Roth et al., 2001)。
【0005】
最近の報告では、神経分化、記憶形成、薬物中毒、およびうつ病などの中枢神経系機能におけるヒストンのアセチル化の重要性を詳述している(Citrome, 2003; Johannessen and Johannessen, 2003; Tsankova et al., 2006)。しかしながら、11個のヒストンデアセチラーゼのうちどれが観察される中枢神経系の効果に寄与しているかは不明である。例えば、HDAC1 Tgマウスが対照マウスに比べて学習行動において何ら違いを示していないのに対し、HDAC2 Tgマウスは、パブロフの恐怖条件付け試験およびモリスの水迷路試験によって、学習障害を有すると評価された。よって、HDAC2阻害剤は、記憶および学習を強化すると信じられている(米国特許出願公開公報第2008/0300205号)。HDAC1活性を増加させる剤は、神経保護性であると考えられ、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、虚血性脳損傷および脳外傷を含む神経障害の処置のための剤として作用し得る。(ACTIVATION OF HISTONE DEACETYLASE 1 (HDAC1) PROTECTS AGAINST DNA DAMAGE AND INCREASES NEURONAL SURVIVALと題した米国特許出願第12/508,481号)。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、一態様において、認知機能を促進するための、したがって、記憶喪失および認知機能障害/欠陥の処置のための方法および組成物の発見に関する。したがって、本発明の一側面は、それを必要とする対象における認知機能障害または欠陥を処置する方法を含む。方法には、4−(アセチルアミノ)−N−(2アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に許容される塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を対象に投与することが含まれる。本発明のいくつかの側面によると、認知機能障害または欠陥は、それを必要とする患者にジナリンまたはその薬学的に許容される塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を投与することで処置される。
【0007】
いくつかの態様では、CI−994およびジナリンを組み合わせて投与する。いくつかの態様では、対象は、組み合わせ行動療法をもまた受ける。CI−994および/またはジナリンを1日1回15mg/mより低い用量で、14日間連続して投与してもよい。CI−994および/またはジナリンを、1日1回少なくとも2日間連続で、1日おきに1回、または用量の間に少なくとも2日間あけて1日1回で投与してもよい。いくつかの態様では、CI−994および/またはジナリンを、0.001mg/kg〜50mg/kgの用量で少なくとも2日間連続して投与する。いくつかの態様では、CI−994および/またはジナリンを、0.4mg/kgまでの用量で少なくとも14日間連続して投与する。いくつかの態様では、CI−994および/またはジナリンを0.001mg/kg〜50mg/kgの用量で、少なくとも2、3、4、5、6、または7日間連続に投与する。
【0008】
本発明のいくつかの側面によると、認知機能障害または欠陥は、それを必要とする対象において、経口、経皮、静脈内、皮膚、皮下、経鼻、筋肉内、腹腔内、頭蓋内、または側脳室内に4−(アセチルアミノ)−N−(2アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)、ジナリンまたはその薬学的に許容される塩、エステルもしくはプロドラッグの有効量を投与することによって、処置される。認知機能障害/欠陥は、アルツハイマー病、ハンチントン病、発作誘発性記憶喪失、統合失調症、Rubinstein Taybi症候群、レット症候群、脆弱X、レビー小体型痴呆、血管性認知症、双極性障害、ならびに、自閉症、外傷性頭部外傷、または注意欠陥障害に関連する社会的、認知性および学習障害に関連付け得る。いくつかの態様では、認知機能障害/欠陥は不安障害、条件恐怖応答、パニック障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、恐怖症、社会不安障害、または物質依存回復に関連付けられる。いくつかの態様では、対象は、心理療法、行動暴露処理、仮想現実暴露(VRE)または認知浄化療法に曝されてもよい。
【0009】
本発明のいくつかの側面によれば、アルツハイマー病を処置する方法が提供されている。該方法は、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に許容される塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を対象に投与することを含み、ここで、CI−994を、累積効果的なCI−994血清濃度を維持するために効果的に低い用量で投与する。本発明のいくつかの側面によれば、対象におけるアルツハイマー病を、ジナリンまたはその薬学的に許容される塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を投与することによって処置し、ここで、ジナリンを、累積効果的なジナリン血清濃度を維持するために効果的に低い用量で投与する。いくつかの態様では、ジナリンを1日おきに1回投与する。
【0010】
本発明のいくつかの側面によると、ハンチントン病の処置方法が提供されている。該方法には、CI−994、ジナリンまたはその薬学的に許容される塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物の有効量を対象に投与することを含む。CI−994および/またはジナリンを、1日おきに1回投与してもよい。いくつかの態様では、CI−994および/またはジナリンを、経口、経皮、経鼻または腹腔内投与してもよい。処置方法を、病歴、家族歴または脳画像テストに基づいて選択してもよい。いくつかの態様では、処置方法は、ANXA1、AXOT、CAPZA1、HIF1A、JJAZ1、P2Y5、PCNP、ROCK1(p160ROCK)、SF3B1、SP3、TAF7およびYIPPEEからなる群から選択されるハンチントン病のバイオマーカー遺伝子の発現レベルに基づいて選択されていない。
【0011】
本発明のいくつかの側面によれば、健常の対象における認知機能を向上させる方法が提供される。該方法は、CI−994、ジナリンまたはその薬学的に許容される塩、エステル、プロドラッグ、もしくは代謝物の有効量を対象に投与することを含む。いくつかの態様では、CI−994またはジナリンを、14日間連続して1日1回15mg/mをより低い用量で投与する。いくつかの態様では、CI−994および/またはジナリンを、10日間連続して1日1回1mg/kgの用量で投与する。CI−994またはジナリンを、1日おきに1回、または用量の間に少なくとも2日間あけて1日1回で投与してもよい。CI−994またはジナリンを、対象に、経口、経皮、静脈内、皮膚、皮下、経鼻、筋肉内、腹腔内、頭蓋内、または側脳室内投与することができる。
【0012】
本発明のいくつかの態様によれば、対象に恐怖消去を促進する方法が提供されている。該方法は、CI−994、ジナリンまたはその薬学的に許容される塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物の有効量を対象に投与することを含む。CI−994またはジナリンを、1日おきに1回投与してもよい。投与経路には、経口、経皮、経鼻、および腹腔内が含まれる。
【0013】
本発明のいくつかの側面は、CI−994、ジナリンまたはその薬学的に許容される塩、エステル、プロドラッグまたは代謝物を含む組成物に関する。組成物は、経口、経皮、静脈内、皮膚、皮下、鼻腔内、筋肉内、腹腔内、頭蓋内、または側脳室内投与用に処方してもよい。組成物は、少なくとも2、3、4、5、6、または7日間連続の1日1回0.001mg/kg〜50mg/kgよりも少ない用量で処方された4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に許容される塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を含んでもよい。いくつかの態様では、CI−994および/またはジナリンを、0.001mg/kg〜15mg/kgの用量で少なくとも2日間連続で投与する。いくつかの態様では、CI−994および/またはジナリンを、少なくとも14日間連続して最大15mg/kgの用量で投与する。いくつかの態様では、CI−994および/またはジナリンを0.04mg/kgの用量で投与する。組成物を、15mg/mよりも低い用量で1日1回14日間連続のために処方してもよい。本発明のいくつかの側面は、認知機能を強化するため、および認知増強を必要とする対象にCI−994を投与するための指示のために、経口、経皮、静脈内、皮膚、皮下、経鼻、筋肉内、腹腔内、頭蓋内、または側脳室内用に処方された4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に許容される塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物の有効量を収納する容器を含むキットに関する。
【0014】
CI−994のHCl塩を含む組成物もまた本発明の範囲内であることが予期される。いくつかの態様では、CI−994の塩は、以下の化学構造を有する:
【化1】

【0015】
本発明のいくつかの側面によれば、結晶形を有する4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)の塩が提供される。
本発明のいくつかの側面によれば、処方物における4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)を含む組成物が提供される。該処方物は、a)DMA、NMP、エタノールおよびDMSOからなる群から選ばれる化合物の5〜15%;b)PEG400、クレモホールおよびHP−βからなる群から選ばれる化合物の25−50%;c)生理食塩水、水およびD5Wからなる群から選ばれる化合物の0〜70%を含んでもよい。処方物の別の態様には、:10%DMA、45%PEG400、および45%食塩水またはD5W;10%DMA、45%PEG400、および45%生理食塩水または水またはD5W;10%エタノール、45%PEG400、および45%生理食塩水またはD5W;10%DMA、30%クレモホール、および60%生理食塩水またはD5W;10%DMSO、30%クレモホール、および60%生理食塩水または水またはD5W;5%DMA、30%クレモホール、および65%生理食塩水または水またはD5W;10%DMA、20%クレモホール、および70%生理食塩水または水またはD5W;10%DMAおよび90%HP−β−CD水溶液および10%DMSO、40%PG、および50 %生理食塩水または水またはD5Wが含まれる。
【0016】
本発明のいくつかの側面によれば、それを必要とする対象における認知機能障害または欠陥を処置する方法が提供される。該方法は、0.1〜1.0mg/kgの用量での4−(アセチルアミノ)−N−(2アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に許容される塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を対象に投与することを含む。いくつかの態様では、CI−994を、1日1回0.1〜1.0mg/kgの用量で少なくとも10日間連続して投与する。
【0017】
本発明のいくつかの側面によれば、それを必要とする対象における認知機能障害または欠陥を処置する方法が提供されている。該方法は、0.001〜50.0mg/kgの用量の4−(アセチルアミノ)−N−(2アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)または薬学的に許容される塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を対象に投与することを含む。いくつかの態様では、CI−994および/またはジナリンを、0.001mg/kg〜15mg/kgの用量で少なくとも2日間連続して投与する。いくつかの態様では、CI−994および/またはジナリンを、最大15mg/kgの用量で少なくとも14日間連続して投与される。いくつかの態様では、CI−994および/またはジナリンを0.04mg/kgの用量で投与する。いくつかの態様では、CI−994を、1日あたり1回0.1〜1.0mg/kgの用量で少なくとも10日間連続して投与する。いくつかの態様では、CI−994を、1日あたり1回少なくとも2、3、4、5、6、または7日間連続して投与する。
【0018】
本発明の限定の各々は、本発明の様々な態様を包含することができる。したがって、任意の1つの要素または複数の要素の組み合わせを含む本発明の限定のそれぞれが、本発明の各側面に含まれることが予想される。本発明は、以下の記載または図面に示す構成要素の構造およびアレンジメントの詳細の応用に限定されるものではない。本発明は、他の態様でもありえ、様々な方法で実勢または実施されることが可能である。また、本明細書で用いられる表現および用語は記載の目的のためのものであり、限定的にみなすべきではない。明細書における「含む(including)」、「含む(comprising)」または「有する(having)」、「含む(containing)」「含む(involving)」およびこれらのバリエーションは、その後表示される項目およびその等価物、そして追加項目を包含することを意味している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図は図示するためのみのものであり、本明細書に開示される発明の実施可能性のために要求されるものではない。
【0020】
【図1】図1は、CI−994およびジナリンの酵素阻害活性を示す。両化合物は、主にクラスI HDAC阻害剤である。
【図1A】図1Aは、CI−994およびジナリンの時間依存性酵素阻害活性を示す。両化合物は、主にクラスI HDAC阻害剤である。
【0021】
【図2A−C】図2は、Rubinstein Taybi CBP+/−マウスにおけるヒストンアセチル化マークで減少を示す。抗体を用いたRubinstein Taybi CBP+/−マウスの脳矢状切片の免疫染色は、海馬ニューロンにおけるAcH2Bレベルの減少を示した(図2A)。 CBP+/−およびWTマウスからの海馬タンパク質抽出物のβ−アクチン、H2B(非アセチル化)、AcH2A、AcH3およびAcH4を用いたウェスタンブロット分析は、同様のAcH2Bレベルの減少を示した(図2B)。ウェスタンブロット分析の定量化は、β−アクチン、総H2B、AcH2A、AcH3のレベルにおいて差がなかったものの、AcH2Bレベルでは有意差を示した。別のAcH2B抗体を用いて、H2Bアセチル化において同様の低減もまた観察された(図2C)。
【0022】
【図3】図3は、マウスの脳内におけるHDAC2ノックアウトに関連付けられるヒストンアセチル化マーク(H4K5、H4K12およびH2B)の増加を示す。HDAC2ノックアウトマウスに関連付けられるヒストンアセチル化のマークを、ウェスタンブロット法を用いて分析した。
【0023】
【図4】図4は、マウスの脳でHDAC2過剰発現に関連付けられるヒストンのアセチル化マーク(H4K12)の減少を示す。H4K12はHDAC2の機能に関連付けられた重要なヒストンマークである。HDAC2過剰発現マウスと関連付けられているヒストンアセチル化のマークを、ウェスタンブロットを用いて分析した。
【0024】
【図5】図5は、HEK293細胞内のヒストンアセチル化マークにおけるHDAC阻害剤の効果を示す。SAHAおよびCI−994を含む一連の化合物を、6時間の期間、10μMでHEK293細胞全体とともにインキュベートした。ウェスタンブロット分析は、ルミノールベースの基質と一緒に抗アセチルH4K12抗体および西洋ワサビペルオキシダーゼ抱合二次抗体を用いて、DMSO対照よりも増加したアセチル化レベルを示した。これは、CI−994の細胞HDAC活性および特定のマーク(H4K12)のアセチル化の増加を示す。
【0025】
【図6】図6は、図5に示したウェスタンの生データの定量化である。DMSO対照と比較して、CI−994はH4K12アセチル化レベルを50倍以上させる。これは、細胞全体におけるCI−994の強力なHDACの活性および特定のヒストンローカス(H4K12)におけるCI−994の影響を実証する。
【0026】
【図7】図7は、HeLa細胞溶解物中のヒストンアセチル化マークにおけるHDAC阻害剤の効果を測定するために使用された生のウェスタンブロットの定量化である。一連の化合物をプロファイリングし、CI−994およびSAHAをハイライトした。DMSO対照と比較して、CI−994はH4K12アセチル化レベルを10倍以上増加させた。このヒストグラムは、細胞全体におけるCI−994の強力なHDACの活性および特定のヒストンローカス(H4K12)におけるCI−994の効果を示す。
【0027】
【図8A】図8は、マウス初代線条体細胞においてH4K12アセチル化のマークの増加を示す。A.HDAC阻害剤で治療されている、マウスの脳から単離された初代線条体細胞のウェスタンブロット。セットごとに3つの独立したサンプルが2セットが示されている。
【図8B】図8は、マウス初代線条体細胞においてH4K12アセチル化のマークの増加を示す。B.ヒストグラムは、図8Aに示したウェスタンの定量化を表す。DMSO対照と比較して、CI−994は、ヒストンローカスH4K12のアセチル化レベルに有意な影響を有する。CI−994処置は、1および10μMで5倍の増加をもたらす。
【0028】
【図9】図9は、CI−994での神経細胞の処置が、in vitroでのH4およびH2Bヒストンのアセチル化を増強することを示す。ヒストグラムは、初代線条体細胞における追加のアセチル化のマークを調べるウェスタンゲル分析の定量化を表す。CI−994とSAHAを含む3つの化合物をテストした。DMSO対照と比較して、CI−994は有意に増加したテトラアセチル化H4およびテトラアセチルH2Bを有する。CI−994処置は、1および10μMでの両方のマークにおける2〜5倍の増加をもたらす。
【0029】
【図10A】図10は、in vitroでのCI−994での神経細胞の処置がH4K12アセチル化を増加させることを示す。A.顕微鏡写真は、6時間インキュベーション後、DMSOまたは1μMのCI−994で処理した後の初代神経細胞における増加した蛍光を示す。増加した緑色の蛍光がH4K12アセチル化レベルの増加に対応する。
【図10BC】図10は、in vitroでのCI−994での神経細胞の処置がH4K12アセチル化を増加させることを示す。B.1およびの10μMでのCI−994は、6時間インキュベーション後の脳領域特異的初代培養(大脳皮質および線条体)における全細胞数の増加も減少も引き起こさないことを実証している対照。C.1および10μMでのCI−994が6時間のインキュベーション後に脳領域特異的初代培養(大脳皮質および線条体)においてH4K12アセチル化の増加を引き起こすことを示しているヒストグラム。
【0030】
【図11A】図11は、CI−994での神経細胞の処理が、in vitroでのH2Bアセチル化を増加させることを示す。A.顕微鏡写真は、6時間のインキュベーション後、DMSOまたは10μMのCI−994で処理した後の初代神経細胞の増加蛍光を示す。増加したマゼンタ蛍光はH2Bテトラアセチル化レベルの増加に対応する。
【図11B】図11は、CI−994での神経細胞の処理が、in vitroでのH2Bアセチル化を増加させることを示す。B.1および10μMでのCI−994は、脳領域特異的初代培養(線条体)における6時間インキュベーション後の全細胞数の増加も減少も引き起こさないことを実証している対照。
【図11C】図11は、CI−994での神経細胞の処理が、in vitroでのH2Bアセチル化を増加させることを示す。C.1および10μMでのCI−994が6時間のインキュベーション後に脳領域特異的初代培養(大脳皮質および線条体)においてH2Bテトラアセチル化の増加を引き起こすことを示しているヒストグラム。
【0031】
【図12】図12は、マウス前脳からの初代培養細胞におけるCI−994の用量応答を示す。データは、H4K12アセチル化のレベルにおけるCI−994増加用量の効果を実証する。CI−994は、相対的な低用量でHDAC酵素を機能的に阻害することができ、増加用量において機能的応答の増加を引き起こす。
【0032】
【図13A】図13は、CI−994が、特定の細胞型および脳領域におけるH4K12アセチル化を用量依存的に増加させることを示す。A.顕微鏡写真は、DMSOまたは10μMのCI−994(6時間)で処理した後の初代神経細胞培養物における特定の細胞型への効果を実証する。増加したH4K12免疫蛍光(緑)はニューロン(MAP2+染色)、グリア(GFAP+染色)および大細胞型と共局在した。
【図13B】図13は、CI−994が、特定の細胞型および脳領域におけるH4K12アセチル化を用量依存的に増加させることを示す。B.特定の細胞型および特定の脳領域細胞培養物におけるH4K12アセチル化に関連付けられる増加蛍光の定量化。
【0033】
【図14AB】グラフは、CI−994処置が、〜7μMのEC50を有するヒト神経前駆細胞におけるTCF/LEFルシフェラーゼレポーター遺伝子を活性化することを実証する。CI−994は、同じEC50を有するWnt条件培地と組み合わせたときに、TCF/LEFレポーターにおいて強力な相乗効果を示したが、有意により高いレベルでの活性を示した。これらの効力は、ヒストンのアセチル化について観察された効力と一致する。
【0034】
【図15】図15は、単一用量30mg/kgのCI−994を腹腔内注射により全身投与した後の薬物動態学的データの要約である。C−57マウスの血漿中および脳内のCI−994の5分〜24時間の濃度時間曲線が示されている。このデータは、脳内および血漿中で到達したCI−994の高い濃度を実証する。脳のCmax(12.3μM)およびAUC(38.1μM)レベルは、in vitroでの濃度よりもはるかに有効である。CI−994は速やかに血液脳関門を通過する。
【0035】
【図16】図16は、単一用量10mg/kgのCI−994を腹腔内注射により全身投与した後の薬物動態学的データの要約である。C−57マウスの血漿中および脳内のCI−994の5分〜24時間の濃度時間曲線が示されている。このデータは、脳内および血漿中で到達したCI−994の高い濃度を実証する。脳のCmax(4.8μM)およびAUC(11μM)レベルは、in vitroでの濃度よりもはるかに有効である。CI−994は速やかに血液脳関門を通過する。
【0036】
【図17】図17は、単一用量1mg/kgのCI−994を腹腔内注射により全身投与した後の薬物動態学的データの要約である。C−57マウスの血漿中および脳内のCI−994の5分〜8時間の濃度時間曲線が示されている。このデータは、低用量で全身投与したときでさえ、脳および血漿中に有意なレベルのCI−994が存在することを実証する。脳のCmax(0.45μM)およびAUC(1.2μM)のレベルは、in vitroでの濃度でほぼ有効である。向上した記憶に関連付けられる行動の表現型と相関するであろう脳内での必要な露出の要件が何であるか明白ではない。これはCI−994の低用量および露出は20〜30倍高い用量および露出と同様に有効であることを実証する。
【0037】
【図18】図18は、単一用量20、10および1mg/kgのCI−994を腹腔内注射により全身投与した後のマウス脳内の薬物動態学的データの要約である。脳の露出は、これらの用量レベル間において用量比例的である。すべての3つの露出プロファイルは、その後の記憶のin vivoモデルにおいて効果的であることが示されている。このデータは、我々が知る限り、以前報告されていなかったCNS関連の指標における効果のために必要な最適および最小限の露出を定義する。
【0038】
【図19AB】図19は、CI−994での急性処置が、脳全体におけるH4K5ヒストンアセチル化を増加させることを示す。A.CI−994をいくつかの異なる賦形剤の組み合わせで処方し、腹腔内注射を介して30mg/kgで投薬した。投与1時間後に、全体の脳を固定し、ウェスタンブロット分析を介してH4K5アセチル化における効果について分析した。B.定量化されたヒストグラムは、CI−994は5%DMSO/30%クレモホール/65%生理食塩水または10%DMA/30%クレモホール/60%生理食塩水のいずれかで処方したときに、脳ヒストンのアセチル化レベルの変化を引き起こすことを実証する。DMSO−ジメチルスルホキシド、DMA−ジメチルアセトアミド。
【0039】
【図20AB】図20は、CI−994での急性処置が、脳全体におけるヒストンアセチル化を増加させることを示す。A.CI−994をいくつかの異なる賦形剤の組み合わせで処方し、腹腔内注射を介して30mg/kgで投薬した。投与1時間後に、脳を固定し、ウェスタンブロット分析を介してH4K5アセチル化における効果について分析した。B.定量化されたヒストグラムは、CI−994は5%DMA/45%PEG400/50%生理食塩水または5%NMP/30% 45%PEG400/60%生理食塩水のいずれかで処方したときに、脳ヒストンのアセチル化レベルの変化を引き起こすことを実証する。PEG−ポリエチレングリコール;DMA−ジメチルアセトアミド;NMP−N−メチルピロリジノン。
【0040】
【図21】図21は、CI−994での急性処置のための実験プロトコルおよび、その対応する、成体雄C57BL/6Jマウスの脳特異的領域におけるヒストンアセチル化に対する効果を示す。異なる化合物によりもたらされるヒストンアセチル化の変化を調べるための、図に示されたようなプロトコル(急性投与、全身投与、そしてこれに続く特異的脳領域切開および固定)に従って投与した一連のHDAC阻害剤を用いて実験を行った。ヒストンアセチル化レベルの変化は、HDAC阻害剤の機能的活性と一致するであろう。したがって、これらの実験は、CI−994が脳、および学習と記憶に関連付けられる特定の脳領域に位置する細胞の核に入ったことを実証するのに役立つ。さらにCI−994は、学習および記憶効果にも関連付けられる特定のアセチル化マークの増加を引き起こす。
【0041】
【図22AB】図22は、CI−994での急性処置が、マウスの大脳皮質におけるテトラアセチル化されたH4およびH2Bのレベルの有意な増加を引き起こすことを実証する。パネルAに表すヒストグラムは、パネルBに示されたウェスタンゲルデータの定量化である。該データをヒストンH3レベルのレベルまで正規化する。CI−994は、大脳皮質でこれらマークの両方についての2倍の増加をもたらした。これは、CI−994は、大脳皮質におけるHDACの機能阻害剤であることを実証する。
【0042】
【図23AB】図23は、CI−994での急性処置がH4K12およびH2B5のアセチル化レベルを増加させることを実証する。大脳皮質で1時間後、CI−994は、H4K12およびH2BK5についてのアセチル化レベルにおいて2〜3倍の増加をもたらした。H4K12の場合、この効果はこれらの条件下でCI−994に固有のものである。
【0043】
【図24】図24は、CI−994での急性処置が、成体雄マウスの海馬でのテトラアセチル化されたH4のアセチル化レベルの増加を引き起こしたことを実証する。海馬では、CI−994の投与1時間後、テトラアセチル化H4のアセチル化レベルにおいて2〜3倍の増加があった。本実験では、海馬でのテトラアセチル化されたH2Bのレベルにおける効果はなかった。
【0044】
【図25】図25は、CI−994の慢性投与は、脳全体のヒストンアセチル化を促進することを示す。ウェスタンゲル分析は、CI−994の慢性投与(毎日10日間)した後でさえも、CI−994がなお発揮でき、マウスの脳におけるアセチル化レベルに影響を及ぼすことを実証する。ウェスタンブロットは、ビヒクル対照と比較して、テトラアセチル化されたH2Bおよびアセチル化されたH4K5の増加を示す。
【0045】
【図26】図26は、HDAC阻害剤のいくつかの化学クラスは、文脈的恐怖条件付けパラダイムにおける%すくみによって測定されたマウスの記憶を増加させることについては効果がないことを示す。
【0046】
【図27】図27は、10日間毎日与えられたCI−994の30mg/kgの用量が、%時間すくみによって測定された文脈的恐怖条件付けパラダイムにおけるマウスの記憶を向上させることを実証する。
【0047】
【図28】図28は、同じ30mg/kgの用量で隔日投与スケジュールを使用したこの記憶モデルにおいて、CI−994が同等に有効であることを示す。効果的な全投与量は50%減少し、そして効果は保持された。
【0048】
【図29】図29は、同様の毎日10日間投与スケジュールの後の、CI−994のより低い用量を調べる用量応答試験を示す。ヒストグラムは、CI−994が全用量;10、5、および1mg/kgで、記憶促進剤として効果的であることを実証する。
【0049】
【図30】図30は、CI−994が、Rubinstein-Taybi症候群のCBP+/−マウスモデルにおいて見られる誘発された認知欠損を治癒することができたことを示す。10日間毎日投与する1mg/kgの低用量では、CI−994はこれらのマウスにおける記憶を野生型同腹仔に見られるものと同等のレベルまで復元する。
【0050】
【図31】図31は、CI−994が、アルツハイマー病のマウスモデルにおいてp25/CK誘発認知欠損を治癒することを示す。10日間毎日投与する1mg/kgの低用量では、CI−994は、このアルツハイマー病のマウスモデルにおける認知欠損を治癒することができる。各コラムの数字は、各コホートのマウスの数を表す。p25ビヒクル群は、非誘発ビヒクルで処置したマウスを表し、p25/CKビヒクル群は、誘発未処理マウスを表す。対照群は、p25を発現せず、通常の食事を与えたtetO−P25 Tgマウスから成っていた。
【0051】
【図32AB】図32は、HDAC2過剰発現マウスが、WT対照マウスと比較して、恐怖記憶の消去において欠陥があることを実証する。A.グラフは、HDAC1を過剰発現するマウスが、正常の消去を示す。B.HDAC2過剰発現マウスは条件付恐怖応答を消去することができない。
【0052】
【図33AB】図33は、CI−994が急性投与パラダイムとともに、記憶形成および恐怖消去を促進することを実証する。A.野生型マウスでは、CI−994処置vs未処置の間にほとんど差がなかった。B.CI−994の2回投与(急性処置パラダイム)で処置したHDAC2過剰発現マウスは、記憶形成および恐怖消去を向上したこと実証する。未処置のHDAC2過剰発現マウスに比べて有意な向上が見られた。
【0053】
【図34】図34は、恐怖記憶消去トライアルの後、ホームケージで一定期間休んだ後に恐怖記憶が自発的に回復することを実証する。
【0054】
【図35】図35は、1ヵ月の自発的な回復後、CI−994処置が、ビヒクルで処置したマウスと比べてHDAC2過剰発現マウスのすくみレベルを有意に低減させたことを示す。
【0055】
【図36】図36は、CI−994のHPLC方法開発を示す。A.クロマトグラムは6.25μg/mlでの定量限界(LOQ)でのシグナルを表す。B.クロマトグラムは、シグナル強度の10倍のシグナルを示す。両方のクロマトグラムは、>95%の化学的純度を表す。
【0056】
【図37】図37は、CI−994の溶解プロトコルを示す。
【図38】図38は、様々な賦形剤の組み合わせにおけるCI−994のための組み合わせ処方の結果を示す。
【図39】図39は、CI−994HCl塩溶液の画像を示す。
【0057】
【図40】図40は、HDAC2ノックアウトマウス(n=8、雄)が、wt対照(n=7、雄)、に比べて速い文脈的恐怖消去を実証した(**P=0.0043、Two−way−ANOVA)。
【0058】
【図41A】図41は、CI−994が、恐怖記憶消去を促進することを実証する。A.恐怖記憶消去におけるCI−994の効果をテストするために用いるプロトコル。
【図41B】図41は、CI−994が、恐怖記憶消去を促進することを実証する。B.毎日の最初の3分間の露出の間、恐怖記憶の消去は、ビヒクル処置群よりCI−994処置群においてはるかに高速だった。3日目に、CI−994群は、対照群よりも有意に低いすくみ時間を示した。各群ではN=8であり、P<0.05。
【図41C】図41は、CI−994が、恐怖記憶消去を促進することを実証する。C.CI−994群は、消去1日目に、注射の前および後で、2つの文脈的露出トレーニングにおいて、すくみ時間のより速い減衰を示した。
【図41D】図41は、CI−994が、恐怖記憶消去を促進することを実証する。D.CI−994群は、消去2日目に、注射の前および後で、2つの文脈的露出トレーニングにおいて、すくみ時間のより速い減衰を示した。
【図41E】図41は、CI−994が、恐怖記憶消去を促進することを実証する。E.I−994群および対照群の間には有意差が観察されず、いずれの群もリマインダーショックの24時間後に高いすくみのレベルを示した。
【0059】
【図42A】図42は、p25マウスの大脳皮質におけるHDAC1およびHDAC2の発現を示す。A.皮質ニューロンにおけるHDAC2免疫応答性強度の定量化。(3匹から>600ニューロンを定量した。)
【図42B】図42は、p25マウスの大脳皮質におけるHDAC1およびHDAC2の発現を示す。B.皮質ニューロンにおけるHDAC1−IRの強度の定量化。(3匹から>500ニューロンを定量化した。)
【0060】
【図43】図43は、CI−994処置(1mg/kg体重、i.p.)が、CK−p25マウスにおけるシナプトフィジン(SVP)の発現を増加させたことを実証する。
【0061】
【図44A】図44Aおよび44Bは、5XFADマウス(5つの知られたアルツハイマー病の変異遺伝子)の皮質ニューロンにおける増加したHDAC2の発現および低減したAcH4K12を示す。A.AcH4K12免疫応答性の定量化。
【0062】
【図44B】図44Aおよび44Bは、5XFADマウス(5つの知られたアルツハイマー病の変異遺伝子)の皮質ニューロンにおける増加したHDAC2の発現および低減したAcH4K12を示す。B.HDAC2免疫応答性の定量化。
【0063】
【図44C】図44C〜Eは、ヒトアルツハイマーの脳が、増加したヒストンデアセチラーゼHDAC2のレベルによって特徴付けられていることを実証する。 図44Cは、対照脳および軽度のアルツハイマー病(BraakおよびBraak(B&B)ステージIII−IV)および重度のアルツハイマー病(B&BのステージV−VI)の海馬領域CA1および嗅内皮質のパラフィン包埋切片におけるHDAC2の代表的な免疫組織化学画像を示す。上部のパネルのスケールバーは0.7mmであり、下部パネルは0.35mmである。
【0064】
【図44D】図44C〜Eは、ヒトアルツハイマーの脳が、増加したヒストンデアセチラーゼHDAC2のレベルによって特徴付けられていることを実証する。D.対照(n=4)、B&B、III−IV(n=3)およびB&B V−VI(n=4)脳の領域CA1でのHDAC2のレベルの定量化、F2、8=4.495、P<0.05。
【0065】
【図44E】図44C〜Eは、ヒトアルツハイマーの脳が、増加したヒストンデアセチラーゼHDAC2のレベルによって特徴付けられていることを実証する。E.対照(n=4)、B&B III−IV(n=3)およびB&B V−VI(n=4)脳の嗅内皮質(EC)におけるHDAC2レベルの定量化、F2、8=4.988、p<0.05。
【0066】
【図44F】F.症例の詳細−BBステージIII−IVは、軽度から進行性の記憶喪失および認知機能の顕著な減少によって特徴付けられる、いわゆる「軽度の」アルツハイマー病を有する患者を表している;BBステージV−VIは、重度の記憶喪失および認知症、運動能力喪失ならびに妄想状態によって特徴付けられる、いわゆる「重度の」アルツハイマー病を有する患者を表す。
【0067】
【図45A】図45Aは、CI−994の多様の用量で毎日および隔日投与するスケジュールは、野生型(WT)マウスの記憶形成を高めることを示す。
【図45B】図45Bは、アリセプト(コリンエステラーゼ阻害剤)ではなく、CI−994が、WTマウスの記憶形成を増加させることを示す。
【0068】
【図46A】図46Aは、アリセプト処置ではなく、慢性的なCI−994が、CK−p25マウスにおける記憶障害を快復させたことを示す。
【図46B】図46Bは、慢性的なCI−994処置が、CK−p25マウスにおいて空間記憶欠損を回復させたことを示す。
【図46C】図46Cは、CI−994処置が、CK−p25マウスにおいて記憶想起欠損を回復させたことを示す。
【0069】
【図47A】図47は、脳の振動におけるCI−994の長期持続的な効果を実証する。A.シータ帯域内のLFPパワー。
【図47B】図47は、脳の振動におけるCI−994の長期持続的な効果を実証する。B.ガンマ帯域におけるLFPパワー。
【0070】
【図48A】図48Aは、CI−994およびD−サイクロセリン(DCS)が、通常の消去パラダイムの下で恐怖消去を促進したことを示している。
【図48B】図48Bは、一方で、D−サイクロセリン処置ではなく、CI−994が再固定パラダイムの下で恐怖の消去を促進したことを実証する。
【図48C】図48Cは、特定の状況下でCI−994が恐怖記憶の消去を促進することを示す。
【0071】
【図49A】図49A−Hは、CI−994が、外傷性の長期記憶を効率的かつ持続的に消去させることを示す。
【図49BC】図49A−Hは、CI−994が、外傷性の長期記憶を効率的かつ持続的に消去させることを示す。
【図49D】図49A−Hは、CI−994が、外傷性の長期記憶を効率的かつ持続的に消去させることを示す。
【図49EF】図49A−Hは、CI−994が、外傷性の長期記憶を効率的かつ持続的に消去させることを示す。
【図49GH】図49A−Hは、CI−994が、外傷性の長期記憶を効率的かつ持続的に消去させることを示す。
【0072】
【図50】図50は、腹腔内注射を介して全身投与したCI−994の0.1mg/kg単一用量後の薬物動態学的データの要約である。該データは、CI−994が血液脳関門を速やかに通過し、低用量投与後にも存在していることを実証する。
【0073】
【図51】図51は、慢性的なCI−994処置が、0.1mg/kgで、CK−p25マウスにおける記憶障害を回復したことを示す。
【0074】
[発明の詳細な説明]
本発明は、一側面では、認知機能を促進するため、よって記憶喪失と認知機能障害/欠陥の処置のための方法および組成物の発見に関する。したがって、本発明の一側面は、そのHDAC阻害剤、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)、その代謝物であるジナリンまたはその薬学的に許容される塩、エステル、もしくはプロドラッグの有効量を、それを必要とする対象に投与することによって、認知機能障害/欠陥の処置する方法を含む。驚くべきことに、本発明によると、CI−994およびその代謝物は、in vivoでの認知機能を向上するが、他のHDAC阻害剤、同様の構造を有するものでさえも、in vivoでこのように機能しないことが発見されている。in vitroでのアッセイにおいてより有望にみえる他のHDAC阻害剤が、認知機能で同じ結果に到達しなかったところ、CI−994が劇的なin vivo有効性を実証したことはかなり予想外であった。
【0075】
以下の実施例に示すように、10の組換えヒトHDACの異性体(選択性と効力)に酵素結合アッセイを使用して、本発明によって有用とされている化合物は主にクラスIのHDAC阻害剤であることが発見されている。しかし、結合プロファイル単独では、化合物がin vivoで認知機能の改善を示すかどうかを判断するには不十分であることもまた発見された。例えば、HDAC I阻害剤であるいくつかの化合物は、in vivoで向上した記憶アッセイをもたらさないことが判明した。例えば、MS−275、MGC−D0103、およびアピシジンは、向上した認知をもたらさなかった。データは、HDAC阻害剤のいくつかの化学クラスは、文脈的恐怖条件付けパラダイムにおける%すくみによって測定されたマウスの記憶を増やすことについては無効であることを実証する。HDAC酵素をin vitroでの阻害能に基づいても、どの化合物が効果的であるかは不明であった。より重要であるのは、このデータは、CI−994と同じベンズアミドの化学クラスからの化合物(MS−275とMGCD0103)が、これらの条件下で本モデルにおいて効果的ではなかったことを示す。これらの他の分子とは対照的に、10日間毎日与えられたCI−994の1〜30mg/kgの範囲の用量は、%時間で測定される文脈的恐怖条件付けパラダイムにおけるマウスの記憶を向上させる。前頁に表示されたデータに基づいても、この化合物またはこのクラスが効果的であることは不明であった。
【0076】
CI−994は、毎日10日間投与パラダイムを用いるこの記憶のモデルにおいて効果的であるだけでなく、それは1mg/kgおよび30mg/kgの用量で投与量で隔日投与スケジュールを用いても、同様に効果的である。データに示されているように、効果的な総用量は50%低下され、有効性が保持されていた。また、さらに、全身投与する低用量においてさえ、脳および血漿中において、in vivo効果を生むために有意なレベルでCI−994が存在することが発見された。腹腔内注射を介して全身投与されたCI−994の1mg/kg単一用量は、効果的な濃度を生んだ。向上した記憶に関連付けられる行動の表現型と相関する、脳における必要な露出要件が何であるか明らかではなかった。かなり驚くべきことに、低用量および露出でのCI−994が、20〜30倍高い用量および露出と全く同様に有効であることが、本明細書において実証されている。
【0077】
実施例に示すように、腹腔内注射を介して全身投与されたCI−994の30、10および1および0.1mg/kg単回投与後のマウスの脳における濃度時間曲線を作成した。脳の露出は、これらの用量レベルにわたって用量比例的である。すべての4つの露出プロファイルは、後続の記憶のin vivoモデルにおいて効果的であることが示された。この投与パラダイムが有効であるか、および、何が最適な投与スケジュールであるかは明らかではなかった。効果的なCI−994または任意の他のHDAC阻害剤を伴う隔日投与スケジュールは報告されていないと信じられている。この投与スケジュールがCI−994で動作するであろうこと、このスケジュールがHDAC阻害剤のこの化学クラスの他のメンバー、またはHDAC阻害剤の他の化学クラスにも拡張できることは明らかではなかった。
【0078】
CI−994が、脳、そして、学習および記憶に関連付けられる特定の脳領域に位置する細胞の核に入ったことについても、実験的に実証されている。さらに、CI−994は、学習および記憶の効果にも関連付けられる特定のアセチル化マークの増加を引き起こす。
【0079】
本発明によると、CI−994を溶解性に劇的な効果を有する塩の形態に改変できることが発見された。以下の実施例に示すように、CI−994のHCl塩の形態は、水溶液中でCI−994に比べて35倍以上の溶解性を有している。HPLC分析は、最低2時間の間のCI−994のHCl塩の形態の化学的および溶液安定性を確認した。この塩処方物は、他の賦形剤を使用しないCI−994の運搬における使用に適している。かかる知見はかなり予想外であった。
【0080】
さらに、本発明によると、CI−994の溶解性を向上することができたいくつかの処方物が発見された。特許請求の範囲に係る処方物は、安定した(化学物質および溶液)5mg/mlの溶液処方物であり、これには有機溶媒および薬学的に許容される賦形剤の広範囲のものが含まれている。いくつかの例におけるこれらの処方物は、生理食塩水単独におけるCI−994遊離塩基の2時間溶解度に対して62倍以上の向上を示した。
【0081】
いくつかの態様では、アルツハイマー病を処置する方法が提供されている。例えば、本明細書に示されているデータは、10日間毎日投与される0.1mg/kgの低用量では、CI−994は、このアルツハイマー病のマウスモデルにおける認知欠損を救出することができることを実証する。かかる低用量がこのモデルに有効であることはかなり予想外であった。いくつかの態様では、欠損した認知機能および実質的なニューロンの損失を有する対象を処置する。本発明のいくつかの側面は、健常な対象の認知機能を向上する方法に関する。それはまた驚くべきことに、本発明によると、本明細書に記載の化合物が恐怖の消去に有用であることが発見されている。恐怖の消去とは、条件刺激(CS)を嫌悪無条件刺激(US)の不在下で繰り返し提示したときに通常発生する条件付恐怖応答の減少である。
【0082】
消去は、初期のCS−USの連関を消さないが、新しい記憶を形成すると考えられている。恐怖消去における欠損は、外傷後ストレス障害(PTSD)、恐怖症、不安障害等に寄与すると考えられる。恐怖消去行動パラダイムは、ヒトのストレス障害および恐怖症のモデルとして認識されている。重要なことは、消滅は単に忘れることではなく、新たな阻害的な学習を含むものである(MyersおよびDavis,2002)。以下に示すデータは、HDAC1を過剰発現するマウスが正常の消去を示すことを実証する。HDAC2過剰発現は、条件付恐怖応答を消去することができない。逆に、恐怖消去は、HDAC2機能損失マウスにおいて促進される。HDAC2は、ヒトのストレスおよび外傷後ストレス障害(PTSD)などの感情障害に対する新たな治療的介入を開発するための良い標的である。HDAC1、2および3を阻害する化学物質であるCI994は、マウス内に投与されると、恐怖記憶の消去を促進する。野生型マウスでは、CI−994処置されたものと未処置のものとの間にほとんど差がない。しかし、CI−994の2用量(急性処置パラダイム)で処置したHDAC2 OEマウスは、記憶形成および恐怖消去を向上したことを実証した。結果は、有意でかつ驚くべきものである。このデータは、CI−994が記憶形成というもう一つの特徴的な形態において有効であることを実証している。さらに、CI−994は、急性投与の設定において有効である。HDAC2 OEの治癒が、5日間にわたってCI−994の二用量で達成された。
【0083】
本明細書で用いる「記憶」は過去の出来事または知識についての情報を回復する能力を指す。記憶喪失を有する対象は、1つまたは2つ以上の記憶を思い起こすことができない対象である。記憶には、短期記憶(作業または近時記憶とも呼ばれる)および長期記憶が含まれる。短期記憶は最近の出来事を含み、長期記憶はより遠い過去の出来事の思い起こしに関する。記憶を思い起こす能力を評価する方法は、当業者に知られており、ルーチンの認知テストを含み得る。
【0084】
「認知機能」は、情報収集および/またはプロセシング;理解、理由付け、および/または情報および/またはアイデアの応用化;および/または情報の抽象化または特定化;創造性の行為、問題解決、および可能性として直感;ならびにアイデアおよび/または情報の学習、認識、および/または意識などの精神的なプロセスに関する、動物またはヒト対象の精神的なプロセスを指す。精神的なプロセスは、信念、願望などのものとは別異のものである。いくつかの態様では、認知機能は、認知機能についての1つまたは2つ以上のテストまたはアッセイを介して評価されてもよく、そして随意に定義されてもよい。認知機能のテストまたはアッセイの非限定的な例には、CANTAB(例えば、Fray et al. "CANTAB battery: proposed utility in neurotoxicology." Neurotoxicol Teratol. 1996; 18(4):499-504を参照のこと)、ストループテスト、トレイルメイキング、ウェクスラーデジットスパン、またはCogStateコンピュータ化認知テストが含まれる(Dehaene et al. "Reward-dependent learning in neuronal networks for planning and decision making. Brain Res. 2000;126:21729; Iverson et al. "Interpreting change on the WAIS-III/ WMS-III in clinical samples." Arch Clin Neuropsychol. 2001;16(2):183-91; およびWeaver et al. "Mild memory impairment in healthy older adults is distinct from normal aging." Cogn. 2006;60(2):146-55もまた参照のこと)。
【0085】
本発明の方法は、健常な対象の認知機能を促進するために、または認知機能障害を有する対象を処置するために用いて用いてもよい。本明細書中で用いる健常な対象は、障害の認知機能に関連付けられる障害と診断されていない対象である。
【0086】
欠陥のある認知機能の障害は、年齢をマッチさせた健常な対象で観察されているものほど強固ではなく、認知機能が低減している状態を含む認知機能を指す。いくつかのケースでは、認知機能は、年齢をマッチさせた健常な対象で測定された認知機能と比較して約5%、約10%、約30%またはそれ以上低減される。認知機能は、任意の検出可能な程度に促進されるかもしれないが、ヒトにおいては好ましくは、欠陥のある対象に正常な生活の日常活動を行うのを許すために十分に促進される。
【0087】
いくつかの態様では、認知機能障害または欠陥を処置するための方法が提供されている。該方法は、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその代謝物であるジナリンの有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む。CI−994またはジナリンを、有効な累積CI−994血清濃度を維持するために対象に低用量で効果的に投与してもよい。CI−994またはジナリンを、1日おきに1回投与してもよい。いくつかの態様では、CI−994またはジナリンを1日、および/または2日、3日、4日、6日、6日、7日等に1回、2回、3回、4回、または5回投与してもよい。CI−994またはジナリンを少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13,14、15、16、17、18、19、または20日目に投与してもよい。CI−994またはジナリンを、経口、経皮、静脈内、皮膚性、皮下、経鼻、筋肉内、腹腔内、頭蓋内、または側脳室内に投与することができる。
【0088】
いくつかの態様では、認知機能障害または欠陥は、これらに限定されないが、アルツハイマー病、ハンチントン病、発作誘発性記憶喪失、統合失調症、Rubinstein Taybi症候群、レット症候群、脆弱X、レビー小体型痴呆、血管性認知症、双極性障害、注意欠陥障害に関連する社会的、認知性および学習障害、ADHD、失読症、学習障害、外傷性頭部外傷、脳卒中誘発認知および運動欠陥、外傷性脳損傷、認知欠陥に媒介される神経変性およびニューロンの損失、ならびに注意欠陥障害に関連付けられる。いくつかの態様では、認知機能障害または欠陥は、これらに限定されないが、不安障害、恐怖条件付応答、パニック障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害、恐怖症、社会不安障害、物質依存回復または年齢に関連する記憶障害(AAMI)、および年齢に関連する認知低下(ARCD)に関連付けられる。当業者は、本発明の方法を、認知機能障害または欠陥に関連付けられた任意の条件を処置するために用いることができることを理解するだろう。
【0089】
アルツハイマー病は、および非認知精神神経症状によって特徴付けられる退行性脳疾患であり、65歳以上の患者における認知症の全症例の約60%を占める。アルツハイマー病では、記憶を制御する認知システムが破損されている。短期記憶は失われる一方で長期記憶はしばしば保持され、逆に記憶が混乱し得、見慣れたはずの人や場所を認識するにあたり間違いとなる結果となる。精神症状は、アルツハイマー病に共通し、多くの患者に精神病(幻覚および妄想)をもたらす。アルツハイマー病の精神病症状が、ドーパミンまたはアセチルコリンの濃度の変化を含み、これはドーパミン作動性/コリン作動性のバランスを増大し得る可能性があり、これにより精神病的行動が生じる。例えば、増加したドーパミン放出は、統合失調症の陽性症状に寄与し得ることが提案されている。これは、ドーパミン作動性/コリン作動性のバランスの肯定的な混乱をもたらし得る。アルツハイマー病では、コリン作動性ニューロンの低減が、アセチルコリン放出を効果的に低減し、ドーパミン作動性/コリン作動性のバランスの負の中断をもたらす。事実、統合失調症の精神病を和らげるために使用されている抗精神病剤は、アルツハイマー患者の精神病を軽減するのにもまた有用であり、本発明の方法における使用のために、本明細書に記載の組成物と組み合わせることができる。
【0090】
CI−994またはジナリンまたは本発明の他の関連化合物を投与することによって、アルツハイマー病を有する対象の記憶を取り戻すための方法もまた、本発明により提供されている。かかる方法は、随意に阻害剤を投与すること、および、以前失われた記憶の取り戻しを同定するために対象をモニターすることを含む。対象を、当技術分野で知られているルーチンテストによってモニターし得る。例えば、いくつかは、上記に記載したDSMまたは医学文献などの書籍に記載されている。
【0091】
他の態様では、アルツハイマー病患者は、後期アルツハイマー病を有する患者である。アルツハイマー病を処置するために提案される薬物の多くは、プラークの蓄積を防止することにより、病気の初期段階を処置するために設計されている。本発明の化合物は、実際はプラークのみを蓄積を防止するよりも、記憶および認知を向上させるので、認知症の初期段階および後期段階の両方を処置するのに有用である。
【0092】
「多発梗塞性認知症」とも呼ばれる血管性認知症は、全て脳内の血管病変をもたらす異なるメカニズムによって引き起こされる症候群の群を指す。血管性認知症の主なサブタイプは、例えば、血管の軽度認知欠陥、多発脳梗塞性痴呆、戦略的な単一梗塞(視床、前大脳動脈、頭頂葉または帯状回に影響を与えるもの)により、出血性病変による血管性認知症、小血管疾患(例えば、ラクナ病変およびビンスワンガー病による血管性認知症を含む)、ならびに血管性認知症を有する混合アルツハイマー病である。
【0093】
心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、重大な身体的危害が発生したか脅かされた恐ろしい出来事や試練への暴露の後に発達することができる不安障害である。PTSDを引き起こし得る外傷性の出来事には、暴力的な個人攻撃、自然または人為的災害、事故、または軍の戦闘が含まれる。一般的には、欠陥のある恐怖記憶消去を伴う疾患である。恐怖消去は、条件刺激(CS)が嫌悪無条件刺激(US)の不在下で繰り返して提示されたときに通常発生する、恐怖条件付け応答の減少である。消去は、初期のCS−USの連関を消さないが、新しい記憶を形成すると考えられている。恐怖消去における欠損は、外傷後ストレス障害(PTSD)、恐怖症、不安障害等に寄与すると考えられる。興味深いことに、我々は、HDAC2ノックアウトマウスが、野生型対照より速い文脈的恐怖消去を示した(図40)一方で、HDAC2過剰発現マウスは、WT対照マウスと比較して、恐怖記憶の消去に欠陥があったことがわかった(図32)。
【0094】
いくつかの態様では、対象は、CI−994またはジナリンに加えて、障害を処置するための追加の治療を受けてもよい。併用療法は、特定の疾患を処置するために適切な任意の治療型であってよい。例えば、併用療法は行動療法または医薬でもよい。行動療法には、電撃けいれん療法、運動、集団療法、トークセラピー、またはコンディショニングが含まれるが、これらに限定されない、。別の態様では、行動療法は、認知行動療法である。継続的な方法で使用し得る行動療法の例としては、例えば、Cognitive-Behavioral Therapies by K. Dobson, ed., Guilford Publications, Inc., 2002; The new Handbook of Cognitive Therapy Techniques by Rian E. McMullin; Norton, W. W. & Company, Inc., 2000; and Cognitive Therapy: Basics and Beyond by Judith S. S. Beck, Guilford Publications, Inc., 1995に記載されており、これらは、本明細書にその全体が参照により組み込まれる。
【0095】
HDAC阻害剤CI−994は、次の式で表される:
【化2】

【0096】
いくつかの態様では、CI−994の薬学的に許容される塩を投与する。いくつかの態様において、薬学的に許容される塩は、次の式で表される:
【化3】

【0097】
いくつかの態様では、CI−994の代謝物であるジナリンを投与する。ジナリンは、次の式で表される:
【化4】

【0098】
本発明のいくつかの側面によれば、CI−994またはジナリンまたはその薬学的に許容される塩を、単独で投与する。いくつかの態様では、CI−994およびジナリンを組み合わせて投与する。CI−994をジナリン投与と同時に、またはジナリンの投与の前に投与してもよい。いくつかの側面において、CI−994をジナリンの使用後に投与する。
【0099】
さらに、上述の態様のすべての可能な組み合わせもまた、本発明の一部を形成する。いくつかの側面において、本発明は、CI−994、ジナリンおよびその薬学的に許容される塩の代謝物、塩、溶媒和物およびプロドラッグもまた提供する。したがって、本発明の化合物は、酸付加塩を形成し得る。薬学的に許容される塩の例には、とりわけ、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素、硝酸、過塩素酸、硫酸およびリン酸などの無機酸付加塩、同様に、酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン産、マンデル酸、シュウ酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、およびマレイン酸などの無機酸付加塩が含まれる。同様に、本発明の化合物は、1つまたは2つ以上の酸性プロトンを含むことができ、したがって、これは酸付加塩を形成し得、これはまた本発明の一部を形成する。これらの塩の例には、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンやアルミニウムイオンなどの金属カチオン;または、これは有機、有機または無機とで調和してもよい。許容可能な有機塩基は、とりわけ、ジエチルアミンおよびトリエチルアミンを含む。許容される無機塩基には、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、および水酸化ナトリウムが含まれる。電荷を伴う官能基の数ならびに陽イオンおよび陰イオンの原子価に応じて、1つ以上の陽イオンまたは陰イオンがあり得る。
【0100】
薬学的に許容される有機無毒塩基由来の塩には、一級、二級、および三級アミンの塩基、天然に存在する置換アミン、環状アミンを含む置換アミン、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N−ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N−エチルモルホリン、エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどの基本的なイオン交換樹脂を含む。
【0101】
治療目的で用いる場合にこれらが薬学的に許容であるときに限り、使用可能な塩の種類に制限はない。塩は、従来の化学的方法により、塩基性または酸性部分を含む親化合物から合成することができる。一般に、かかる塩は、これらの化合物の遊離酸又は塩基形態を水又は有機溶媒中(エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、またはアセトニトリルまたは二つの混合物など)で適切な塩基または酸の化学量論量的な量と反応させることにより調製することができる。
【0102】
本発明の化合物のいくつかは、例えば水和物などの溶媒和形態に加え、非溶媒和形態で存在し得る。本発明は、薬学的に活性である上記形態の全てを包含する。
【0103】
本発明の化合物は、少なくとも1つのキラル中心を含んでもよい。本発明には、可能な立体異性体およびそれの混合物、特にそのラセミ混合物の一が含まれている。単一のエナンチオマーを、一般的に使用される任意のプロセスによって調製してもよい:例えば、固定キラル相上でのラセミ混合物のクロマトグラフ分離によって、そのジアステレオマー塩の分別結晶化技術によるラセミ混合物の分割により、キラル合成によって、酵素分割によって、または生体内分解による。この分割を、任意のキラル合成中間体またはCI−994またはジナリン上で行うことができる。代替的に、任意の鏡像異性体を、既知の構造の光学的に純粋な出発物質または試薬を用いてエナンチオ特異的合成によって得てもよい。
【0104】
本発明の化合物のいくつかは、クロマトグラフィーまたは分別結晶化などの従来技術によって分離してもよいいくつかのジアステレオマーとして存在し得る。本発明のいくつかの化合物はシス/トランス異性体を示し得る。本発明には、幾何学的な異性体およびその混合物の各々をが含まれている。本発明は、合成によっておよびそれらを物理的に混合することによって得られるかに拘らず、全ての異性体およびそれらの混合物(例えばラセミ混合物)をカバーする。本発明は、上記の新規化合物の製造方法、これらの誘導体、これらの類似体、これらの互変異性体、これらの立体異性体、またはこれらの医薬的に許容される塩および溶媒和物に関する。
【0105】
本明細書中で用いるヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、ヒストンデアセチラーゼの活性を阻害し、低減させ、あるいは調節する化合物である。様々な態様では、本明細書で提供する方法によるCI−994またはジナリンの投与は、CI−994またはジナリンの有無と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約15%、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約90%、少なくとも約100%以上ヒストンデアセチラーゼ活性を減少させる。さらなる態様では、ヒストンデアセチラーゼ活性は、少なくとも約95%または少なくとも約99%以上低減される。ヒストンデアセチラーゼ活性を評価するための方法は、当該技術分野で知られており、例えばでMol Genet Metab., 80(1-2): 138-47 (2003)、米国特許第6,110,697号、および米国特許出願公開公報第20050227300号、第20050118596号、第20030161830号、第20030224473号、第20030082668号、第20030013176号、および第20040091951号に記載されており、その全てはそれらの全体が参照により本明細書に援用されている。ヒト患者においてヒストンデアセチラーゼ活性を評価するための方法もまた当技術分野で知られており、例えば米国特許出願公開第20050288227号に記載されており、その全体が参照により本明細書中に組み込まれている。
【0106】
本発明は、CI−994、ジナリンまたはその薬学的に許容される塩、エステルまたはプロドラッグを投与するすることによりアルツハイマー病を処置するための方法もまた提供する。アルツハイマー病とは、記憶を制御する認知システムが破損している疾患である。短期記憶は失われる一方で長期記憶はしばしば保持され、逆に記憶が混乱し得、見慣れたはずの人や場所を認識するにあたり間違いとなる結果となる。
【0107】
CI−994またはジナリンを、例えば1または2以上の用量で毎日、毎週、または毎月などと、定期的に投与してもよい。代替的に、それを非定期的に、例えば症状が始まるときに、投与することができる。
【0108】
CI−994またはジナリンを、経口、経皮、静脈内、皮膚性、皮下、経鼻、筋肉内、腹腔内、頭蓋内、または側脳室内投与することができる。
【0109】
本発明は、CI−994またはジナリンの有効量を投与することにより、ハンチントン病を処置するための方法もまた提供する。ハンチントン病は、死への容赦ない進行に関連する認知低下をもたらす神経疾患である。ハンチントン病に関連する認知症状には、知的速度、注意、および短期記憶の損失ならびに/または行動上の症状が含まれる。CI−994またはジナリンを、1日おきに1回投与してもよい。CI−994またはジナリンを、経口、経皮、静脈内、皮膚性、皮下、経鼻、筋肉内、腹腔内、頭蓋内、または側脳室内投与してもよい。いくつかの態様では、処置の方法は、ANXA1、AXOT、CAPZA1、HIF1A、JJAZ1、P2Y5、PCNP、ROCK1(p160ROCK)、SF3B1、SP3、TAF7およびYIPEEからなる群から選択されるハンチントン病のバイオマーカー遺伝子の発現レベルに基づいて選択されているわけではない。いくつかの態様では、診断および処置方法は、米国特許出願番号第2007/0015183号に開示されたハンチントン病のバイオマーカー遺伝子の発現レベルに基づいて選択されているわけではない。いくつかの態様では、診断および処置方法を、病歴、家族歴または脳の画像検査に基づいて選択される。
【0110】
本明細書で用いる、状態または患者を処置するとは、臨床結果を含む有益なまたは所望の結果を得るために手順を踏むことを指す。有益なまたは所望の臨床結果には、認知機能障害を含む障害に関連する1つまたは2つ以上の症状の緩和または回復、疾患の程度の縮小、疾患進行の遅延または緩徐、疾患状態の回復、寛解または安定化、および、認知機能の向上または認知機能低下の低減率などの他の有益な結果が含まれるが、これらに限定されない。
【0111】
本発明は、CI−994またはジナリンの有効量を投与することによって、健常な対象の認知機能を改善することにも関する。認知機能を改善することには、対象の認知機能を促進することが含まれるので、これは年齢的に対応する健常な未障害対象の機能により類似してまたはこれを超える。健常な対象とは、欠陥のある認知機能に関連する如何なる障害または状態であると診断されていない対象である。対象の認知能力は様々な要因によって影響されており、本発明の方法を、任意の要因、例えば、断眠、精神的疲労、肉体疲労または過度の努力を相殺するために実施することができる。
【0112】
対象とは、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、七面鳥、チキン、および霊長類(例えばサル)を含むヒトまたは脊椎動物または哺乳動物を意味するが、これらに限定されない。いくつかの態様において、対象は、その他の点ではHDAC阻害剤を必要としないものである。ヒト対象が好ましい。
【0113】
本発明の治療用化合物の有効量なる用語は、所望の生物学的効果を実現するために必要または十分な量を指す。例えば、本発明の治療用化合物の有効量は、記憶へのアクセスを再樹立するのに十分な量である。本明細書で提供される教示と組み合わせると、種々の活性化合物および秤量要因(効力、相対的なバイオアベイラビリティ、患者の体重、有害な副作用の重症度および好ましい投与モードなど)の選択によって、効果的な予防または治療処置レジメンを計画することができ、これは実質的な毒性を引き起こさないが、特定の対象を処置するのに完全に有効ではない。任意の特定適用のための有効量は、処置される疾患または状態、投与している特定の治療用化合物、対象の大きさ、あるいは疾患または状態の重症度などの要因に依存して変動できる。当業者は、経験的に過度の実験を必要とすることなく、本発明の特定の治療用化合物の有効量を決定することができる。本発明の組成物には、本明細書に記載される化合物またはその薬学的に許容される塩もしくは水和物が含まれる。
【0114】
本明細書に記載の送達用化合物の対象用量は通常、14日連続で1日1回15mg/m未満であり得、これを適用によっては、毎日、毎週、または毎月およびこの間の任意の期間で与えることができる。いくつかの態様では、CI−994および/またはその代謝物を、14日間連続して1日1回15mg/mより低い用量で投与する。一態様において、組成物を少なくとも2日間連続して1日1回投与する。別の態様において、治療用化合物を、1日おきに1回、または用量の間に少なくとも2日間あけて1日1回で投与する。さらに他の態様では、用量は1日おきに30mg/mであってもよく、あるいは80mg/mの急性用量でさえも許容され得る。与えられた用量でのヒトにおけるいくつかの差異があることから、用量をいくつか場合ではパーソナライズし得る。かかる操作は、本明細書で見出される教示を考慮すると、当業者の技術の範囲内である。1日1回15mg/m未満の経口投与レベルに関連する血清レベルは、括弧内の関連分散および平均として以下に示す(分散は平均値のパーセンテージとして表される)。CmaxおよびAUCなる、濃度について2つの測定値がある。
Cmax(ng/mL)=570(25.1%)
AUC(ng.hr/mL)=9500(62.7%)
【0115】
いくつかの態様では、CI−994および/またはその代謝物を、0.01mg/kg、0.05mg/kg、0.1mg/kg、0.5mg/kg、1mg/kg、5mg/kg、10mg/kg、20mg/kg、30mg/kg、50mg/kg、75mg/kgまたは100mg/kgの用量で投与する。いくつかの態様では、CI−994および/またはその代謝物を15mg/kg未満の用量で投与する。いくつかの態様では、CI−994および/またはその代謝物を、10日間連続して1日1回に1mg/kgの用量で投与する。
【0116】
本発明の処方物を薬学的に許容される溶液で投与し、これには、塩の薬学的に許容される濃度、緩衝剤、防腐剤、互換性のあるキャリア、および随意に他の治療成分が日常的に含まれ得る。
【0117】
治療で用いるために、本発明の治療用化合物の有効量を、治療剤または化合物を所望の表面に送達する任意のモード(例えば、粘膜、全身)で対象に投与することができる。本発明の医薬組成物を投与することは、当業者に既知の任意の手段によって達成し得る。いくつかの態様では、投与経路には、経口、経皮、非経口、静脈内、皮膚性、皮下、筋肉内、経鼻、腹腔内、舌下、気管内、吸入、眼、膣、直腸、頭蓋内および側脳室内が含まれるが、これらに限定されない。好ましい投与経路には、経口、経皮、経鼻、および腹腔内が含まれる。
【0118】
経口投与のために、本発明の治療用化合物を、当該技術分野で知られる薬学的に許容されるキャリアと活性化合物(複数または単数)を組み合わせることにより、容易に処方することができる。かかるキャリアは、本発明の化合物を、処置すべき対象による経口摂取のために、錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤などとして配合することを可能にする。経口用の医薬製剤は、所望に応じて、錠剤または糖衣錠のコアを得るために、適切な助剤を添加した後、随意に混合物を粉砕し、顆粒の混合物をプロセシングすることによって、固体賦形剤として得ることができる。適切な賦形剤は、具体的には、ラクトース、スクロース、マンニトール、またはソルビトールを含む糖などの充填剤;例えば、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および/またはポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース製剤である。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸またはその塩(アルギン酸ナトリウムなど)などの崩壊剤を追加してもよい。随意に、経口処方物をまた、内部の酸性条件を中和するために生理食塩水または緩衝液、すなわちEDTAで処方してもよく、あるいは如何なるキャリアも伴わずに投与してもよい。
【0119】
また、特に意図されているのは、上記の成分(単数または複数)の経口剤形である。成分(単数または複数)を、誘導体の経口送達が効果的であるように、化学的に修飾してもよい。一般的に、意図されている化学修飾は、成分分子自体の少なくとも一部分の付着であり、ここで、前記部分は(a)タンパク質分解の阻害;および(b)胃または腸から血液への取り込みを許可する。また所望されているのは、成分(単数または複数)の全体的な安定性の増加および体内の循環時間の増加である。かかる部分の例には、ポリエチレングリコール、エチレングリコールおよびプロピレングリコールの共重合体、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリプロリンが含まれる。AbuchowskiおよびDavis, 1981, "Soluble Polymer-Enzyme Adducts" 、Enzymes as Drugs, Hocenberg and Roberts, eds., Wiley-Interscience, New York, NY, pp. 367-383; Newmark, et al., 1982, J. Appl. Biochem. 4:185-189。使用することができる他のポリマーは、ポリ−1,3−ジオキソランおよびポリ−1,3,6−チオキソカン(tioxocane)である。上述のとおり、医薬用ととして好ましいのは、ポリエチレングリコール部分である。
【0120】
放出の場所は、胃、小腸(十二指腸、空腸、または回腸)、もしくは大腸であり得る。当業者は、胃で溶解しないが、物質を十二指腸内または腸内のどこかで放出する入手可能な処方物を有する。好ましくは、該放出は、治療剤の保護、または胃環境の後(腸内などの)での生物学的活性物質の放出のいずれかによって、胃環境の悪影響を避けるものである。
【0121】
完全な胃耐性を確保するためには、少なくともpH5.0に不浸透性のコーティングが重要である。腸溶性コーティングとして用いる、より一般的な不活性成分の例としては、セルロースアセテートトリメリテート(CAT)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、HPMCP 50、HPMCP55、ポリビニルアセテートフタレート(PVAP)、オイドラギットL30D、Aquateric、セルロースアセテートフタレート(CAP)、オイドラギットL、オイドラギットS、およびShellacがある。これらのコーティングを混合フィルムとして用いてもよい。
【0122】
コーティングまたはコーティングの混合物は、胃に対する保護のために意図されていない錠剤においてもまた用いることができる。これは、砂糖のコーティング、または錠剤の飲み込みを容易にさせるコーティングを含むことができる。カプセルは、乾燥治療薬、すなわち粉末の送達のためのハードシェル(ゼラチンなど)で構成されてもよく;液体形態では、ソフトゼラチンシェルを用いてもよい。カシェ剤のシェル材料は、厚いデンプンまたは他の食用紙である可能性がある。丸薬、ロゼンジ剤、成型錠剤またはすりこみ錠剤錠剤については、湿式マッシング技術(moist massing techniques)を用いることができる。
【0123】
治療薬を、約1mmの粒径の顆粒またはペレットの形態での微細な多微粒子として処方物に含ませることができる。カプセル投与のための材料の処方物は、粉末として、軽く圧縮されたプラグ、または錠剤としてでさえある可能性がある。治療薬を、圧縮によって調製することができる。
【0124】
着色剤および香味剤がすべて含まれてもよい。例えば、治療剤を処方してもよく(例えば、リポソームまたはマイクロスフィアカプセル化などにより)、さらに、着色剤および香味剤を含有する冷蔵飲料などの、食用製品内に含まれていてもよい。
【0125】
治療薬の容量を不活性物質で希釈または増加してもよい。これらの希釈剤としては炭水化物、特にマンニトール、a−ラクトース、無水ラクトース、セルロース、スクロース、修飾されたデキストランおよびデンプンを含むことができる。特定の無機塩を、カルシウムトリホスフェート、マグネシウムカーボネートおよび塩化ナトリウムを含む充填剤としても用いてもよい。いくつかの市販の希釈剤としては、Fast−Flo、Emdex、STA−RX1500、EmcompressおよびAvicellがある。
【0126】
崩壊剤を固体剤形にして、治療薬の処方物に含めてもよい。崩壊剤として用いる材料には、デンプンに基づいた商用崩壊剤であるExplotabを含むデンプンを含むが、これらに限定されない。デンプングリコール酸ナトリウム、Amberlite、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ウルトラマイロペクチン(ultramylopectin)、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、オレンジピール、酸性カルボキシメチルセルロース、天然スポンジおよびベントナイトはすべて用いてもよい。崩壊剤の別の形態は、不溶性の陽イオン交換樹脂である。粉末ガムは崩壊剤としておよびバインダーとして用いてもよく、これらは、寒天、Karayaまたはトラガカントなどの粉末ガムを含むことができる。アルギン酸およびそのナトリウム塩はまた、崩壊剤として有用である。ハードな錠剤を形成し、アカシア、トラガカント、デンプンおよびゼラチンなどの天然物からの材料を含むために、治療剤を共に保持すべくバインダーを用いてもよい。他には、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)が含まれる。ポリビニルピロリドン(PVP)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の両方を、治療薬を顆粒化するためにアルコール溶液にて用いることができる。
【0127】
抗摩擦剤を、処方の過程における付着を防ぐために、治療薬の処方物に含めてもよい。潤滑剤を、治療薬と型壁(die wall)との間の層として用いてもよく、これらには、そのマグネシウムおよびカルシウム塩、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、液体パラフィン、植物油およびワックスを含むステアリン酸を含むことができるが、これらに限定されない。水溶性の潤滑剤を、様々な分子量のラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、Carbowax4000および6000として用いてもよい。
【0128】
処方物中の薬物の流動特性を改善し得る、圧縮中の再構成(rearrangment)を補助するための、流動促進剤を添加してもよい。流動促進剤として、デンプン、タルク、焼成シリカおよび水和シリコアルミン酸が挙げられる。
【0129】
治療剤の水性環境中への溶解を補助するために、界面活性剤を湿潤剤として添加してもよい。界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ナトリウムジオクチルおよびスルホン酸ナトリウムジオクチルなどのアニオン性洗剤が挙げられる。カチオン性洗剤を用いてもよく、これらとしては塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゼトミウムが挙げられる。処方物中に界面活性剤として含んでもよい用い得る非イオン性洗剤のリストは、ラウロマクロゴール(lauromacrogol)400、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン水素化ヒマシ油10、50および60、モノステアリン酸グリセロール、ポリソルベート40、60、65および80、スクロース脂肪酸エステル、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースである。これらの界面活性剤は、治療剤の処方物中に、単独で存在しても、異なる比率における混合物として存在してもよい。
【0130】
経口で用いることができる医薬処方物として、ゼラチン製の押し込み式カプセル、ならびにゼラチンとグリセロールまたはソルビトールなどの可塑化剤とから作られた軟性の密封カプセルが挙げられる。押し込み式カプセルは、活性剤を、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/またはタルクもしくはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および随意に安定化剤との混合物中に含んでもよい。ソフトカプセルにおいて、活性化合物は、油脂、流動パラフィンまたは液体ポリエチレングリコールなどの好適な液体中に溶解または懸濁していてもよい。さらに、安定化剤が含まれていてもよい。経口投与のために処方されたマイクロスフェアを用いてもよい。かかるマイクロスフェアは、当該分野においてよく定義されている。経口投与のための全ての処方物は、かかる投与のために好適な投与形態であるべきである。
口腔内投与のために、組成物は、従来の様式において処方された錠剤またはロゼンジの形態をとってもよい。
【0131】
吸入による投与のために、本発明による使用のための化合物は、好適な噴霧剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の好適なガスを用いて、圧縮パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレー型の形態において便利に送達することができる。圧縮エアロゾルの場合、投与単位は、定量を送達するバルブを具備させることにより決定することができる。噴霧式吸入器(inhaler)または吸入器(insufflator)において用いるための、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、化合物の粉末混合物とラクトースまたはデンプンなどの好適な粉末基剤とを含んで処方されていてもよい。
【0132】
本発明の実施において用いることを企図されるものは、治療剤製品の肺送達のために設計された広範な機械的デバイスであり、ネブライザー、定量噴霧式吸入器および粉末噴霧式吸入器を含むがこれらに限定されず、これらの全ては当業者によく知られたものである。
【0133】
本発明の実施のために好適な市販のデバイスのいくつかの具体例は、Ultraventネブライザー(Mallinckrodt, Inc.(St. Louis, Missouri)製);Acorn IIネブライザー(Marquest Medical Products(Englewood, Colorado)製);Ventolin定量噴霧式吸入器(Glaxo Inc.(Research Triangle Park, North Carolina)製);およびSpinhaler粉末噴霧式吸入器(Fisons Corp.(Bedford, Massachusetts)製)である。
【0134】
全てのかかるデバイスは、治療剤の分配のために好適な処方物の使用を必要とする。代表的には、各々の処方物は、使用されるデバイスの型に特異的であり、治療に有用な通常の希釈剤および/またはキャリアに加えて、適切な噴霧材料の使用を伴ってもよい。また、リポソーム、マイクロカプセルまたはマイクロスフェア、包接体(inclusion complex)、または他の型のキャリアの使用が企図される。化学修飾された治療剤もまた、化学修飾の型または使用されるデバイスの型に依存して、異なる処方物において調製することができる。
【0135】
ネブライザーの使用のために好適な処方物は、ジェット式または超音波式のいずれについても、代表的には、水中に溶解した治療剤を含む。処方物はまた、緩衝化剤および単糖を(例えば、安定化および浸透圧の調節のために)含んでもよい。ネブライザー処方物はまた、溶液の噴霧によりエアロゾルの形成において引き起こされる化合物の界面誘導凝集を低減するかまたは防ぐために、界面活性剤を含んでもよい。
【0136】
定量噴霧式吸入器デバイスによる使用のための処方物は、一般に、界面活性剤の補助により噴霧剤中に懸濁された治療剤を含む、微細に分割された粉末を含む。噴霧剤は、この目的のために使用される任意の従来の材料、例えば、クロロフルオロ炭素、ヒドロクロロフルオロ炭素、ヒドロフルオロ炭素、またはトリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタノールおよび1,1,1,2−テトラフルオロエタンを含む炭化水素、またはこれらの組み合わせであってよい。好適な界面活性剤として、ソルビタントリオレアートおよび大豆レシチンが挙げられる。オレイン酸もまた界面活性剤として有用であり得る。
【0137】
粉末噴霧式吸入器デバイスから分配されるための処方物は、治療剤を含む微細に分割された乾燥粉末を含み、また、ラクトース、ソルビトール、スクロースまたはマンニトールなどの増量剤を、デバイスからの粉末の分散を促進する量において、例えば処方物の50〜90重量%で、含んでもよい。治療剤は、遠位の肺への最も効果的な送達のために、10mm(またはミクロン)未満、最も好ましくは0.5〜5mmの平均粒子サイズを有する特定の形態において最も有利に調製されるべきである。
【0138】
本発明の医薬組成物の鼻送達もまた企図される。鼻送達は、製品を肺中へ沈着させることを必要とせずに、医薬製品を鼻へ投与した後直接的に本発明の医薬組成物が血流へ通過することを可能にする。鼻送達のための処方物として、デキストランまたはシクロデキストランを用いたものが挙げられる。
【0139】
鼻投与に関して、有用なデバイスは、小さな、硬質のボトルであって、定量散布器が付属するものである。一態様において、本発明の医薬組成物の溶液を規定の容量のチャンバー中へ引き出し、当該チャンバーが、チャンバー中の液体が圧縮された場合にスプレーを形成することによりエアロゾル処方物をエアロゾル化するように設計された開口部を有することにより、一定量が送達される。チャンバーは圧縮されて、本発明の医薬組成物を投与する。特定の態様において、チャンバーはピストンの配置である。かかるデバイスは市販されている。
【0140】
あるいは、プラスチックのスクイーズボトルであって、圧搾された場合にスプレーを形成することによりエアロゾル処方物をエアロゾル化するように設計された開口部または孔を有するものが用いられる。孔は通常ボトルの頂部において見出され、頂部は一般に、エアロゾル処方物の効率的な投与のために鼻腔に部分的にフィットするように先細になっている。好ましくは、鼻内噴霧式吸入器は、測定された用量の薬物の投与のために、エアロゾル処方物の一定量を提供する。
【0141】
化合物は、それらを全身に送達することが望ましい場合、注射、例えばボーラス注射または持続注入による非経口投与のために処方されてもよい。注射のための処方物は、単位投与形態において、例えばアンプルまたは複数用量容器において、保存剤を添加して、提示することができる。組成物は、油性または水性のビヒクル中の懸濁液、溶液または乳液などの形態をとることができ、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの処方のための薬剤を含んでもよい。
【0142】
非経口投与のための医薬処方物として、水溶性形態における活性化合物の水溶液が挙げられる。さらに、活性化合物の懸濁剤を、適切な油性注射用懸濁液として調製することができる。好適な親油性溶媒またはビヒクルとして、ゴマ油などの油脂、またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームが挙げられる。水性注射用懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランなどの、懸濁液の粘性を増大させる物質を含んでもよい。随意に、懸濁液はまた、好適な安定化剤、または、高濃縮された溶液の調製を可能にするために化合物の可溶性を増大させる剤を含んでもよい。
【0143】
あるいは、活性化合物は、使用の前に好適なビヒクル、例えば滅菌のパイロジェンフリー水により構成するための粉末の形態におけるものであってもよい。
先に記載された処方物に加えて、化合物はまた、デポー処方物として処方してもよい。かかる長期作用型処方物は、好適なポリマー性もしくは疎水性材料(例えば受容可能な油中の乳液として)もしくはイオン交換樹脂を用いて、または弱溶性の誘導体として、例えば弱溶性の塩として、処方することができる。
【0144】
医薬組成物はまた、好適な固相またはゲル相のキャリアまたは賦形剤を含んでもよい。かかるキャリアまたは賦形剤の例として、限定されないが、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、多様な糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチンおよびポリエチレングリコールなどのポリマーが挙げられる。
【0145】
好適な液体または固体の医薬処方物の形態は、例えば、吸入のための水溶液または生理食塩水溶液、マイクロカプセル化されたもの、渦巻状化されたもの(encochleated)、微視的な金粒子上へコートされたもの、リポソーム中に含有されたもの、噴霧されたもの、エアロゾル、皮膚移植用ペレット、または皮膚中へ掻爬されるための鋭利な物体上で乾燥されたものである。医薬組成物はまた、顆粒、散剤、錠剤、被覆錠剤、(マイクロ)カプセル、坐剤、シロップ、乳液、懸濁液、クリーム、滴下剤、または活性化合物の遅延放出を伴う製剤を含み、当該製剤において、賦形剤および添加物および/または崩壊剤、結合剤、コーティング剤、膨潤剤、潤滑剤、香味剤、甘味剤、または可溶化剤などの助剤は、上記のように慣例的に使用される。医薬組成物は、多様な医薬送達系における使用に好適である。薬物送達のための方法の簡略な概論については、Langer, Science 249:1527-1533, 1990(参考として本明細書において組み込まれる)を参照のこと。
【0146】
本発明の治療用化合物および随意に他の治療剤は、それ自体で(混ぜ物をせず)、または薬学的に受容可能な塩の形態において、投与してよい。医薬において用いられる場合、塩は薬学的に受容可能なものであるべきだが、薬学的に受容可能でない塩を、その薬学的に受容可能な塩を調製するために便利に用いることができる。かかる塩として、限定されないが、以下の酸から調製されるものが挙げられる:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン−2−スルホン酸およびベンゼンスルホン酸など。また、かかる塩は、カルボン酸基のナトリウム、カリウムまたはカルシウム塩などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩としても調製することができる。
【0147】
好適な緩衝化剤として以下が挙げられる:酢酸および塩(1〜2%w/v);クエン酸および塩(1〜3%w/v);ホウ酸および塩(0.5〜2.5%w/v);ならびにリン酸および塩(0.8〜2%w/v)。好適な保存剤として、塩化ベンザルコニウム(0.003〜0.03%w/v);クロロブタノール(0.3〜0.9%w/v);パラベン(0.01〜0.25%w/v)およびチメロサール(0.004〜0.02%w/v)が挙げられる。
【0148】
本発明の医薬組成物は、随意に薬学的に受容可能なキャリア中に含まれる本発明の治療用化合物の有効量を含む。用語「薬学的に受容可能なキャリア」とは、1または2以上の適合性の固体または液体の充填剤、希釈剤またはカプセル化物質であって、ヒトまたは他の脊椎動物への投与のために好適であるものを意味する。用語「キャリア」は、有機または無機の天然または合成の成分であって、適用を促進するように活性成分と組み合わされるものを示す。医薬組成物の成分はまた、本発明の化合物と、および互いに、所望の薬学的有効性を実質的に損なうであろう相互作用をもたらさない様式において混合されることができる。
【0149】
治療剤は、血液脳関門を超えて治療剤を送達することができる処方物を用いて、脳へ送達することができる。治療薬を脳へ送達するための一障害は、脳の生理学および構造である。血液脳関門は、内皮細胞の単層により裏打ちされた特化した毛細管からできている。細胞間の領域は、タイトジャンクションにより密封され、したがって、血液から脳への唯一のアクセスは、内皮細胞を通るものである。バリアは、親油性分子などの特定の物質しか通さず、他の有害な化合物およびパイロジェンを締め出す。したがって、非親油性化合物を脳へ送達するためには、親油性のキャリアが有用である。例えば、ヒトの脳において天然に存在する脂肪酸であるDHAは、それに共有結合した薬物を脳へ送達するために有用であることが見出されている(米国特許第6407137号において記載されるものなど)。米国特許第5,525,727号は、脳への薬物種の特異的及び持続的送達のための、ジヒドロピリジンピリジニウム塩キャリアの酸化還元系を記載する。米国特許第5,618,803号は、ホスホネート誘導体による標的化された薬物送達を記載する。米国特許第7119074号は、化合物を血液脳関門を超えて送達するための、治療用化合物がPEG−オリゴマー/ポリマーに抱合した両親媒性のプロドラッグを記載する。本明細書において記載される化合物を、親油性キャリアへの共有結合、または親油性キャリアとの共処方により修飾してもよい。他のものは、当業者に公知である。
【0150】
本発明の治療剤は、記憶想起を増強するための、または記憶喪失に関連する障害の症状または原因を処置するための、他の治療と共に送達してもよい。例えば、環境強化(environmental enrichment:EE)は、記憶を増強するために用いられてきた。EEは、対象の周囲に刺激的な環境を創出することを伴う。他の治療もまた、基礎障害を処置するため、または記憶の想起を増強するために、組み合わせることができる。
【0151】
本発明の化合物と他の薬物との組合せの例として、単位投与またはキットの形態のいずれかにおいて、以下のものとの組合せが挙げられる:抗アルツハイマー剤、ベータ−セクレターゼ阻害剤、ガンマ−セクレターゼ阻害剤、HMG-CoAレダクターゼ阻害剤、イブプロフェンを含むNSAID類、メマンチンなどのN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニスト、ガランタミン、リバスチグミン、ドネペジルおよびタクリンなどのコリンエステラーゼ阻害剤、ビタミンE、CB−1受容体アンタゴニストもしくはCB−1受容体インバースアゴニスト、ドキシサイクリンおよびリファンビンなどの抗生物質、抗アミロイド抗体、または本発明の化合物の効力、安全性、利便性を増大させるか、または本発明の化合物の望ましくない副作用もしくは毒性を低減する受容体または酵素に影響を及ぼす他の薬物。前述のリストの組み合わせは、単に説明するものであり、決して限定することを意図しない。
【0152】
本発明はまた、物品を含み、これは、成分の集合のいずれか一つを指す。一部の態様において、物品はキットである。物品は、医薬または診断グレードの本発明の化合物を1または2以上の容器中に含む。物品はまた、本発明の化合物の使用を促進するかまたは記載する説明(instruction)またはラベルを含んでもよい。
【0153】
本明細書において用いられる場合、「促進する」とは、営業行為の全ての方法を含み、教育、病院および他の臨床的説明、医薬の販売ならびにあらゆる広告またはあらゆる形態の記述的、口述的および電子的通信を含む他の促進的活動を含む製薬産業の活動の方法であって、アルツハイマー病などの認知障害の処置との関連における本発明の組成物と関連するものを含む。
【0154】
「説明(instructions)」は、促進の一成分を定義することができ、代表的には、本発明の組成物のパッケージ上またはパッケージに付随する記述的説明を含む。説明はまた、任意の様式において提供される任意の口述的または電子的説明を含んでもよい。
【0155】
したがって、本明細書において記載される剤は、一部の態様において、治療、診断または研究の適用におけるそれらの使用を容易にするために、医薬または診断または研究用キットへと集合されてもよい。キットは、本発明の成分および使用のための説明を収容する1または2以上の容器を含んでもよい。具体的には、かかるキットは、本明細書において記載される1または2以上の剤を、それらの剤の意図される治療的適用および正しい投与を記載する説明と共に含んでもよい。特定の態様において、キット中の剤は、特定の適用のために、および剤の投与の方法のために好適な医薬処方物および投与形態であってもよい。
【0156】
キットは、本明細書において記載される方法の医師による使用を容易にするように設計してもよく、多くの形態をとり得る。キットの組成の各々は、当てはまる場合は、液体の形態において(例えば溶液中で)、または固体の形態(例えば乾燥粉末)において、提供することができる。ある場合においては、組成の一部は、例えばキットと共に提供されるかまたは提供されない好適な溶媒または他の種(例えば水または細胞培養培地)の添加により、構成可能(constitutable)または他に加工可能なもの(例えば活性形態へ)であってもよい。本明細書において記載される場合、「説明」は、説明および/または促進の一成分を定義することができ、代表的には、本発明のパッケージ上またはパッケージに付随する記述的説明を含む。説明はまた、当該説明がキットと関連していることを使用者が明確に認識するであろう任意の様式、例えば視聴覚(例えばビデオテープ、DVDなど)、インターネット、および/またはウェブベースの通信などにおいて提供される任意の口述的または電子的説明を含んでもよい。記述的説明は、医薬または生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府の機関により定められた形態におけるものであってよく、当該説明はまた、ヒトへの投与のための製造、使用または販売の当該機関による承認を反映してもよい。
【0157】
キットは、本明細書において記載される成分の任意の1または2以上を、1または2以上の容器中に含んでもよい。例として、一態様において、キットは、キットの1または2以上の成分を混合するための、および/またはサンプルを単離および混合して対象に適用するための説明を含んでもよい。キットは、本明細書において記載される剤を収容する容器を含んでもよい。剤は、無菌で調製し、シリンジ中にパッケージし、冷蔵で出荷することができる。あるいは、それはバイアルまたは保存のための他の容器中に収容してもよい。第2の容器は、無菌で調製された他の剤を有していてもよい。あるいは、キットは、予め混合された活性剤を含み、シリンジ、バイアル、チューブまたは他の容器中で出荷してもよい。
【0158】
キットは、ブリスターパウチ、収縮包装されたパウチ、真空密封されたパウチ、密封可能な熱成形トレイ、または類似のパウチもしくはトレイの形態などの多様な形態をとってよく、パウチ内に緩く包装された付属品、1または2以上のチューブ、容器、箱またはバッグを伴ってよい。キットは、付属品が付加された後に滅菌することができ、それにより容器中の個々の付属品を別に開封することが可能となる。キットは、放射線滅菌、熱滅菌または当該分野において公知の他の滅菌方法などの、任意の適切な滅菌技術を用いて滅菌してよい。キットはまた、特定の適用に依存して、他の成分、例えば、容器、細胞培地、塩、バッファー、試薬、シリンジ、針、消毒剤を適用または除去するためのガーゼなどのファブリック、使い捨てのグローブ、投与の前の剤のための支持体などを含んでもよい。
【0159】
キットの組成物は、任意の好適な形態として、例えば溶液または乾燥粉末として提供してよい。提供される組成物が乾燥粉末である場合、粉末は好適な溶媒の添加により再構成してもよく、溶媒もまた提供されてもよい。液体の形態の組成物が用いられる態様において、液体の形態は濃縮されていても、使用準備済であってもよい。溶媒は、化合物および使用または投与の様式に依存する。薬物組成物のための好適な溶媒は周知であり、文献において入手可能である。溶媒は、化合物および使用または投与の様式に依存する。
【0160】
キットは、一セットの態様において、バイアル、チューブなどの1または2以上の容器手段を近接して閉じ込めて受容するための区分化されたキャリア手段を含んでもよい。ここで、容器手段の各々は、方法において用いられるべき別々の要素の一つを含む。例えば、容器のうちの一つは、アッセイのための陽性対照を含む。さらに、キットは、他の成分、例えばアッセイにおいて有用なバッファーのための容器を含んでもよい。
【0161】
本発明はまた、完成し、包装されラベルされた医薬製品を包含する。この製品は、適切な単位投与形態を、ガラスバイアルまたは他の気密的に密封される容器などの、適切な容器(vessel)または容器(container)中に含む。非経口投与のために好適な投与形態の場合において、活性成分は無菌であり、粒子フリー溶液としての投与のために好適である。言い換えると、本発明は、非経口用溶液および凍結乾燥粉末の両方を包含し、これらは各々が無菌であって、後者は注射の前の再構成のために好適である。あるいは、単位投与形態は、経口、経皮、局所または粘膜送達のために好適な固体であってもよい。
【0162】
別の態様において、本発明の組成物は、レシチン、タウロコール酸およびコレステロールを含むがこれらに限定されない生適合性の洗剤;またはガンマグロブリンおよび血清アルブミンを含むがこれらに限定されない他のタンパク質と共に、容器中に保存される。より好ましくは、本発明の組成物は、ヒトでの使用のためにはヒト血清アルブミンと共に保存され、獣医学的使用のためにはウシ血清アルブミンと共に保存される。
【0163】
任意の医薬製品についてと同様に、包装材料および容器は、保存および出荷の間の製品の安定性を保護するように設計される。さらに、本発明の製品は、使用のための説明、または問題の疾患または障害を適切に予防または処置する方法について医師、技師または患者に助言する他の情報材料を含む。言い換えると、製品は、実際の用量、モニタリングの手順および他のモニタリング情報を含むがこれらに限定されない投与レジメンを示すかまたは示唆する説明手段を含む。
【0164】
より具体的には、本発明は、箱、ボトル、チューブ、バイアル、容器、散布器、噴霧器、静脈内(i.v.)バッグ、エンベロープなどの包装材料;ならびに前記包装材料中に含まれた薬剤の少なくとも1つの単位投与形態を含む製品を提供する。本発明はまた、箱、ボトル、チューブ、バイアル、容器、散布器、噴霧器、静脈内(i.v.)バッグ、エンベロープなどの包装材料;ならびに前記包装材料中に含まれた各薬剤の少なくとも1つの単位投与形態を含む製品を提供する。本発明はまた、箱、ボトル、チューブ、バイアル、容器、散布器、噴霧器、静脈内(i.v.)バッグ、エンベロープなどの包装材料;ならびに前記包装材料中に含まれた各薬剤の少なくとも1つの単位投与形態を含む製品を提供する。本発明はさらに、処方物の注射のために、好ましくは無菌の形態において包装された針またはシリンジ、および/または包装されたアルコールパッドを含む製品を提供する。
【0165】
特定の態様において、製品は、包装材料および薬剤および前記包装材料中に含まれた説明を含み、ここで前記薬剤は、CI−994またはジナリンおよび薬学的に受容可能なキャリアであって、前記説明は、アルツハイマー病などの認知障害を有する対象を予防、処置または管理するための投与レジメンを示す。
【0166】
治療モニタリング:選択された処置のパラメーター、例えば用量、スケジュール、アジュバントの選択などの妥当性は、記憶をモニタリングするための従来の方法により決定される。さらに、所望の効果、例えば認知機能の増強について、患者の臨床的状態をモニタリングすることができる。妥当でない効果が達成された場合、患者にさらなる処置を追加することができ、本発明の組成物および/または他の活性剤の量を増大するか、投与の経路を変化させるなどの、処置のパラメーターを調節することができる。
【0167】
本発明はさらに、以下の例により説明されるが、これは決してさらに限定するものとして解釈されるべきではない。この出願全体を通して引用される参考文献(学術文献、発行された特許、公開された特許出願、および同時継続中の特許出願)の全ての全内容は、本明細書により参考として明示的に組み込まれる。
【0168】

例1:CI−994およびジナリンのHDAC阻害剤としての特徴づけ
in vitro結合データ:公知のHDACアイソフォームのいくつかに対するCI−994およびジナリンの酵素阻害活性をアッセイした。これら二つの化合物の酵素阻害プロフィールを図2において示す。他の公知の記憶増強剤およびそれらが同じHDAC酵素を阻害する能力との比較も行った。両方の化合物は主にクラスIのHDAC阻害剤である。
【0169】
例1A:CI−994およびジナリンの時間依存性HDAC阻害剤としての特徴づけ
in vitro結合データ:公知のHDACアイソフォームのいくつかに対するCI−994およびジナリンの酵素阻害活性を、1〜3時間のプレインキュベーションによりアッセイした。これら二つの化合物の酵素阻害プロフィールを図1Aにおいて示す。他の公知の記憶増強剤およびそれらが同じHDAC酵素を阻害する能力との比較も行った。両方の化合物は主にクラスIのHDAC阻害剤である。
【0170】
例2:Rubinstein Taybi CBP+/−マウスにおけるアセチル化標識
この例のデータは、先に公開されているが、脳においてCI−994により誘発される特異的アセチル化標識(H2B)の妥当性、およびこれがどのようにRubinstein Taybiの処置に関連するかを示すために、本明細書において示す。例2のデータは本発明の一部ではない。
【0171】
抗体を用いたRubinstein Taybi CBP+/−マウスの矢状脳切片の免疫染色により、海馬ニューロン(図2A)におけるAcH2Bのレベルの低下が明らかとなった。CBP+/−およびWTマウスからの海馬タンパク質抽出物のタンパク質の、β−アクチン、H2B(アセチル化されていない)、AcH2A、AcH3およびAcH4に対する抗体を用いたウェスタンブロット分析により、AcH2Bレベルの同様の低下が明らかとなった(図2B)。ウェスタンブロット分析の定量化により、β−アクチン、全H2B、AcH2A、AcH3のレベルには差異がないが、AcH2Bのレベルには有意差があることが示された。H2Bのアセチル化の同様の低下もまた、別のAcH2B抗体を用いて観察された(図2C)。
【0172】
例3:ニューロン細胞株におけるCI−994によるin vitroデータ
CI−994の細胞HDAC活性の機能的測定(免疫蛍光分析)
材料と方法:
培養ニューロンにおけるヒストンアセチル化レベルの変化の免疫蛍光検出を、以下の通り行った:
第1日:
1)化合物を384ウェルのプレート(Abgene)から、185nlのピンツールを用いて、底面と接触させない(no touch bottom)プロトコルを用いて、ピン移動した。
【0173】
第2日:〜24時間の化合物処置の後
1)〜5ulの残りの容量を残し、プレート洗浄器(Tecan)プロトコルを用いて、プレートの底部と接触させずに培地を吸引した;または代替的には、ウェルを12チャネルのアスピレーター棒でそっと吸引して培地を除去した。
2)マルチチャネルのピペットまたは液体を取り扱うシステム(例えばCombi、標準管;低速)を使用して、75ulのホルムアルデヒド(PBS中4%)を添加し、ウェルを10分間室温でインキュベートした。
3)ホルムアルデヒドを吸引し、細胞を100ulのPBSで3回リンスした;
4)PBSを吸引し、100ulのブロッキング/透過処理バッファー(PBS中0.1%のTriton-X100、2%のBSA)を添加し、ウェルを1時間室温でインキュベートした。
5)ブロッキングバッファーを吸引し、ブロッキングバッファー中で1:500に希釈した50ulの一次抗体を添加し、ウェルを一晩4℃でインキュベートした。
【0174】
第3日:
1)一次抗体を吸引し、ウェルを100ulのブロッキングバッファーで3回リンスした。
2)50ulの1:500希釈の二次抗体およびHoeschst(10mg/mL(16mM)ストックから1:1000)を添加し、ウェルを1.5時間室温で、光脱色を防ぐためにアルミホイル中に覆ってインキュベートした。
3)ウェルを100ulのPBSで3回リンスし、100ulのPBSを添加し、プレートを密閉した。
4)プレートを次いでAcumen/IX Microで読んだ。
5)プレートを4℃で保存した。
【0175】
結果:1および10uMでのCI−994は、脳領域特異的初代培養物(皮質および線条体)中での6時間のインキュベーションの後で、H4K12のアセチル化およびH2Bのテトラアセチル化の増大を引き起こした。CI−994は比較的低い用量においてHDAC酵素を機能的に阻害することができ、より高い用量において機能的応答の増大を引き起こした(図10、11および12)。
【0176】
例4:急性投与の後での学習および記憶に関連する脳特異的領域におけるアセチル化標識の増大
材料と方法:
CI-994による急性処置のための実験プロトコル、および成体マウスの脳特異的領域におけるヒストンアセチル化に対する対応する効果を、図21において示す。特異的脳切片のウェスタンブロット分析のための粗タンパク質分解物を、以下の通り調製した:
1.解剖され、凍結された脳組織について:
a.氷上で、凍結組織を解凍し、ただちに250uLの氷冷懸濁バッファー中で注意深くホモジェナイズする。
(100uLを組織約2〜3mmに対して用いた:必要に応じて調整する)
1.5mLの使い捨て内筒(Fisherカタログ#03-392-100)
b.可能な限りただちに、等容量の2×SDSゲルローディングバッファーを添加し、上下にピペッティングして混合する。
2.サンプルを95℃に5分間置く。
3.23〜25ゲージの皮下針(2〜3×)を滑らかに通すことにより、または短時間超音波処理することにより、粘性の染色体DNAを剪断する(全て針の方法を用い、それは良好に機能した)。起沫/気泡を避ける。
4.サンプルを10,000gで10分間室温で遠心分離し、上清を新しいチューブへ移す。
5.サンプルを必要に応じてタンパク質濃度に基づいて分注する。
【0177】
懸濁バッファー:
0.1MのNaCl、0.01MのTrisCl(pH7.6)、0.001MのEDTA(pH8.0)(この時点におけるバッファーは前もって調製し、室温で保存することができる)。使用の直前に、1×ホスファターゼ/プロテアーゼ阻害剤カクテル(例えば、ThermoFisher「HALT」カタログ#78440)、5mM酪酸ナトリウム(HDAC阻害剤)を添加する。
【0178】
2×SDSゲルローディングバッファー
100mMのTrisCl(pH6.8)、4%SDS、20%グリセロール(この時点におけるバッファーは前もって調製し、室温で保存することができる)。使用の直前に200mMのジチオトレイトール(1Mのストックから)、5mMの酪酸ナトリウム(HDAC阻害剤)を添加する。
【0179】
結果:CI−994による急性処置は、成体マウスの皮質において、H4およびH2B(テトラ)のヒストンアセチル化のレベルの有意な増大を引き起こした。他の既知のHDAC阻害剤はこの脳領域においてこれらの特異的標識についてこれらの条件下において効果をもたらすことができなかったので、これはCI−994に特有である(図22)。CI−994はまた、皮質における特異的な単一のヒストンのローカスにおけるアセチル化を増大する(H4K12およびH2BK5)。H4K12の場合、これらの条件下において、効果はCI−994に特有である(図23)。
【0180】
CI−994による急性処置はまた、成体オスマウスの海馬におけるテトラアセチル化されたH4のアセチル化レベルの増大を引き起こした。海馬においてテトラアセチル化されたH2Bのレベルについては何らの効果も観察されなかった(図24)。
【0181】
例5:マウスにおける行動データ−記憶および認識の改善に対応する表現型
材料と方法:
C57/BL6 WTマウスに、ビヒクルまたはHDAC阻害剤を10日間注射した。第11日において、マウスを、文脈的恐怖条件付けパラダイムにおいてトレーニングした(トレーニングは、マウスを条件付け箱に3分間暴露すること(文脈、TSE)と、その後の足蹠ショック(2秒間、0.8mA、定流)とからなった)。処置の1時間後、マウスにHDAC阻害剤またはビヒクルを注射した。第12日において、マウスをトレーニング箱へ戻し、すくみ行動をモニタリングおよび記録した。
【0182】
結果:HDAC阻害剤の幾つかの化学物質クラスは、文脈的恐怖条件付けパラダイムにおけるすくみの%により測定されるマウスの記憶を増大する上で無効である。HDAC酵素をin vitroで阻害する能力に基づいてでは、いずれの化合物が有効であるかは自明ではない。より重要なことには、このデータは、CI−994と同じベンズアミド化学物質クラスを形成する他の化合物(MS−275およびMGCD0103)が、このモデルにおいてこれらの条件下において有効ではないことを示す(図26)。
【0183】
図27は、30mg/kgの用量のCI−994を毎日10日間投与することが、文脈的恐怖条件付けパラダイムにおいて、すくみの時間の%により測定されるマウスの記憶を改善することを示す。それは、その効力が報告されているSAHAと同じくらい効果的である。本発明者らの知る限り、この効果は、CI−994について、またはこのクラスの化合物について、如何なる条件下においても、先に報告されていない。この化合物またはこのクラスが有効であろうことは、図26に示すデータに基づいては自明ではない。
【0184】
CI−994はまた、同じ30mg/kgの用量で一日おきの投与スケジュールを用いるこの記憶のモデルにおいても同等に効果的である(図28)。CI−994はまた、1mg/kgの低用量において毎日および一日おきの投与スケジュールを用いるこのモデルにおいても同等に有効である。本発明者らは、有効な全用量を50%低減し、効力を保持した。この投与パラダイムが効果的であろうこと、または何が最適な投与スケジュールであるかということは、自明ではなかった。CI−994または任意の他のHDAC阻害剤による有効な一日おきの投与スケジュールは、本発明者らの知る限り、報告されていない。この投与スケジュールがCI−994について機能するであろうこと、このスケジュールがHDAC阻害剤のこの化学物質クラスの他のメンバーまたはHDAC阻害剤の他の化学物質クラスにも適用できることは、自明ではない/なかった。
【0185】
同じ毎日10日間の投与スケジュールに従う、より低い用量のCI−994を試験する用量応答の研究により、CI−994は、全ての用量;10、5および1mg/kgにおいて、記憶増強剤として有効であることが示された。1mg/kgの低用量において、10日間の投与期間にわたって必要な全用量は、10mg/kgである(図29)。かかる低用量において、CI−994または如何なる他のHDAC阻害剤についても、このことを記載する報告は存在しなかった。
【0186】
例6:CI−994は、Rubinstein Taybiマウスモデルにおける認識欠損をレスキューする。
材料と方法:
CBP変異マウス(B6.Cg-Tg(Camk2a-Crebbp*)1364Tabe/J)を、Jacksonラボから入手した。このFLAGエピトープでタグされたCREB−結合タンパク質のドミナントネガティブトランケーション(FLAG-CBPΔ1、アミノ酸1084〜2441についてのコード配列を欠失する)の発現は、空間的には前脳(海馬、扁桃体、線条体および皮質)におけるニューロンに方向づけられており、時間的にはCaMKIIαプロモーターにより生後の発達に方向づけられている。このCBPのドミナントネガティブ変異形態(標的遺伝子の発現のためにCBPをコアクチベーターとして利用する転写因子を妨害するように設計されている)は、海馬においては内因性CBPレベルの95%で、皮質においては内因性CBPレベルの84%で、導入遺伝子から発現する。ヘミ接合性マウスは、海馬依存的記憶欠損(長期増強の低下、空間学習の欠損、および文脈的恐怖条件付けの障害など)を示し、CBP欠損変異モデルにおいては、発達学的障害のいずれも観察されなかった。本発明者らは、CBP変異ヘミ接合性マウスおよびその対照同腹仔に、ビヒクルまたはCI−994を10日間注射した。第11日において、マウスを、文脈的恐怖条件付けパラダイムにおいてトレーニングした(トレーニングは、マウスを条件付け箱に3分間暴露すること(文脈、TSE)と、その後の足蹠ショック(2秒間、0.8mA、定流)とからなった)。処置の1時間後、マウスにCI−994またはビヒクルを注射した。第12日において、マウスをトレーニング箱へ戻し、すくみ行動をモニタリングおよび記録した。
【0187】
参考文献:
Learn Mem. 2005 Mar-Apr;12(2):111-9. Transgenic mice expressing a truncated form of CREB-binding protein (CBP) exhibit deficits in hippocampal synaptic plasticity and memory storage. Wood MA, Kaplan MP, Park A, Blanchard EJ, Oliveira AM, Lombardi TL, Abel T
【0188】
結果:CBP(+/−)ヘテロ接合体マウスは、ヒト疾患のRubinstein Taybi症候群のモデルを表わす。これは、ヒトにおいて原因であると考えられるものと同じ遺伝子変異である。この症候群を罹患する人々は、記憶/認識および発達の欠損を有する。本発明者らの標準的な投与パラダイム(1mg/kg、QD、10日間)を用いると、CI−994は、これらのマウスの記憶を、野生型同腹仔において見出されるものと同等のレベルまで回復させる。CI−994の効果は、この1mg/kgの低用量において、高い有意性を有した(図30)。
【0189】
例7:CI−994は、アルツハイマー病マウスモデルにおいてp25/CK誘導性認識欠損をレスキューする。
材料と方法:
CK/p25マウスは、誘導可能な神経変性疾患マウスモデルである。CamK2a−tTAとtetO−p25 Tgとのマウス系統を交配することにより、二重トランスジェニックマウスを作出した。ドキシサイクリンの存在下において、p25の発現が抑制される。ドキシサイクリンを除去すると、前脳においてp25の発現が強く誘導される。6週間のp25の誘導は、大規模なニューロンの喪失、ベータアミロイドペプチド産生の増大、タウ関連症状、ならびに学習および記憶の障害を引き起こす。これらの実験について、ドキシサイクリンを、3ヵ月齢のCK/p25マウスおよび対照同腹仔から6週間除去した。マウスに、その後、CI−994またはビヒクルを10日間注射した。第11日において、マウスを、文脈的恐怖条件付けパラダイムにおいてトレーニングした(トレーニングは、マウスを条件付け箱に3分間暴露すること(文脈、TSE)と、その後の足蹠ショック(2秒間、0.8mA、定流)とからなった)。処置の1時間後、マウスにCI−994またはビヒクルを注射した。第12日において、マウスをトレーニング箱へ戻し、すくみ行動をモニタリングおよび記録した。
【0190】
参考文献:
Cruz JC, Tseng H-C, Goldman JA, Shih H, Tsai L-H. Aberrant Cdk5 activation by p25 triggers pathological events leading to neurodegeneration and neurofibrillary tangles. Neuron 2003, 40:471-483.
Fischer A, Sananbenesi F, Pang PT, Lu B, Tsai L-H. Opposing roles of
transient and prolonged expression of p25 in synaptic plasticity and hippocampus-dependent memory. Neuron, 2005, 48: 825-838.
Fischer A, Sananbenesi F, Wang X, Dobbin M, Tsai, L-H. Recovery of learning and memory is associated with chromatin remodeling. Nature 2007, 447: 178-182.
【0191】
結果:1mg/kgの低用量において毎日10日間投与されたCI−994は、このアルツハイマー病のマウスモデルにおける認識欠損をレスキューすることができた(図31)。p25ビヒクル群は、誘導されないビヒクル処置マウスを表わし、p25/CKビヒクル群は、誘導された未処置のマウスを表わす。対照群は、通常の餌を与えられたtetO−p25 Tgマウスからなり、これはp25を発現しなかった。
【0192】
大規模なニューロンの喪失の後であってすら、1mg/kgのCI−994処置が文脈的恐怖条件付け学習を回復させることができたことは注目すべきである。p25の脳症状は、神経変性および記憶障害を有するヒト患者に類似する。したがって、CK/p25モデルにおけるCI−994の有益な効果は、ヒト患者(アルツハイマー病および他の認知症を有する)をCI−994により処置することにより、その認知機能を改善する見込みをもたらす。
【0193】
例8:CI−994は、記憶の形成および恐怖の消去を促進する。
材料と方法:
マウスを、第0日において、文脈的恐怖条件付けパラダイムを用いてトレーニングした(トレーニングは、マウスを条件付け箱に3分間暴露すること(文脈、TSE)と、その後の足蹠ショック(2秒間、0.8mA、15秒間の間隔を有する定流)とからなった)。第1日から、マウスを消去トライアルにおいてトレーニングした。各々のトレーニング日について、マウスを、条件付け箱に3分間、足蹠ショックなしで、2回暴露した(2回の消去トライアル/日)。1回目のトライアルの1時間後、マウスにCI−994(30mg/kg、i.p.)を注射した。注射の1時間後、2回目の消去トライアルを行った。各個のトライアルにおいてすくみ時間を測定した。
【0194】
記憶再強化パラダイムのために、上記の恐怖消去トライアルの後で、マウスをホームケージに1ヵ月間収容した。マウスをその後、条件付け箱に3分間再度暴露し、そのすくみ行動を測定した。恐怖記憶消去トライアルの後で、ホームケージ中での一定期間の休息の後で恐怖記憶が自発的に回復することはよく確立されている(図34)。恐怖の消去についての推測される機序は、新しい記憶の形成を誘発することが、恐怖記憶と競合し、その代わりに恐怖応答を低減するというものである。逆に、低減した恐怖応答が自発的に回復しないように、活性化された恐怖記憶を直接調節するという、再強化に基づく恐怖記憶の消去パラダイムが提案されている(Extinction-reconsolidation boundaries: key to persistent attenuation of fear memories. Monfils MH, Cowansage KK, Klann E, LeDoux JE. cience. 2009 May 15;324(5929):951-5. Epub 2009 Apr 2)。
【0195】
結果:興味深いことに、CI−994処置を受けたWTマウスは、ビヒクル処置群よりも有意により速く消去した。重要なことに、CI−994処置は、HDAC2過剰発現マウスにおいて、恐怖記憶の消去の障害を緩和した。5回の消去トライアルの後で、CI−994処置されたHDAC2OEマウスのすくみレベルは、30%まで低下したが、ビヒクル処置されたHDAC2過剰発現マウスは、高レベルのすくみ行動を示し続けた(70%)。したがって、CI−994は、別の区別し得る形態の記憶形成において有効であった。さらに、CI−994は、急性投与の設定において有効であった。30mg/kgでの5日間の経過にわたるCI−994の2回の用量により、HDAC2過剰発現マウスのレスキューが達成される(図33)。
【0196】
本発明者らは、ここで、複数の疾患状態において、頻度および用量に関する幾つかの投与パラダイムを示した。これらの実験は、CI−994処置が、忌避記憶の消去のために有益であることを示唆する。したがって、この処置は、恐怖症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を含むストレス障害、および情緒障害を処置する見込みを有する。
【0197】
記憶再強化パラダイムについて、CI−994処置は、1ヵ月間の自発回復の後で、HDAC2過剰発現マウスのすくみレベルをビヒクルで処置されたマウスと比較して有意に低下させた(図35)。これらの発見は、ヒトにおいてPTSDをCI−994で処置する可能性を強調する。データはまた、CI−994処置と組み合わせた正しいトレーニングパラダイムにより、恐怖記憶の永続的な消去をもたらすことができることを示唆する。
【0198】
例9:CI−994およびジナリンの合成、特徴づけ、および処方
【化5】

2−ニトロアニリン1(25g、182.4mmol、1.0当量)を、乾燥DMF(400mL)中に溶解し、0℃まで冷却した。60%のNaH(7.7g、200.7mmol、1.1当量)を、アルゴン雰囲気下において、反応混合物にゆっくりと添加した。30分後、乾燥DMF(100mL)中に溶解した(Boc)O(47mL、218.8mmol、1.2当量)を反応混合物中にその温度においてゆっくりと添加した。反応混合物を、ゆっくりと23℃まで加熱し、さらに5時間撹拌した。反応の完了の後で、反応混合物を、氷冷水中に注入し、沈殿した固体を濾過し、水で洗浄し(3×100mL)、乾燥した。物質をシリカゲルカラムの短いパッドに通過させて、tert−ブチル−2−ニトロフェニルカルバメート2を、淡黄色固体として得た。
【0199】
収率=24g(55%)。
TLC/Rf=0.6(ヘキサミン中20%のEtOAC)
1H NMR (DMSO-d6, 500 MHz) δ 9.58 (s, 1H), 7.95 (d, 1H, J=8.5 Hz), 7.67 (d, 2H, J=4 Hz), 7.30-7.26 (m, 1H), 1.45 (s, 9H).
【0200】
【化6】

tert−ブチル−2−ニトロフェニルカルバメート2(24g、100mmol、1当量)、FeCl(1g、5.57mmol、0.06当量)、ヒドラジン一水和物(150mL)およびMeOH(440mL)を組み合わせ、90℃まで加熱した。2〜3時間激しく撹拌した後で、反応混合物をセライトを通して加熱濾過し、EtOAcで洗浄した。濾過物を真空化において濃縮し、EtOAc−MeOHを除去した。この粗残渣を冷水で希釈し、生じた固体を濾過し、ヘキサンで洗浄して、tert−ブチル2−アミノフェニルカルバメート3をオフホワイトの固体として得た。
【0201】
収率3:(19g、91%収率)。
TLC:O.K、Rf=0.4(ヘキサミン中30%のEA)。
1H NMR (DMSO-d6, 500 MHz) δ 8.25 (br s, 1H), 7.17 (d, 1H, J=7.5 Hz), 6.82 (t, 1H, J=7.5 Hz), 6.67 (d, 1H, J=8.0 Hz), 6.51 (t, 1H, J=7.5 Hz), 4.80 (s, 2H), 1.45 (s, 9H). MS: 109[M-Boc+H]+.
【0202】
【化7】

tert−ブチル2−アミノフェニルカルバメート3(19g、91.7mmol、1当量)、4−アセトアミド安息香酸4(18g、100mmol、1.1当量)、およびBOP(48.2g、109mmol、1.2当量)を、ピリミジン(100mL)中に溶解した。23℃で48時間撹拌した後、反応混合物を水へ添加し、撹拌して、生じた沈殿固体を濾過し、水、エーテルで洗浄し、真空化において乾燥して、ベンズアミド5を得た。
【0203】
収率=30g(90%)。
TLC/Rf=0.5(100%EtOAC)
1H NMR (DMSO-d6, 500 MHz) δ 10.23(s, 1H), 9.73 (s, 1H), 8.66 (s, 1H), 7.90 (d, 2H, J=8.0 Hz), 7.72 (d, 2H, J=9.0 Hz), 7.53 (t, 2H, J=8.5 Hz), 7.19-7.14 (m, 2H), 2.09 (s, 3H), 1.45 (s, 9H); MS: 270[M-Boc+H]+;HPLC:210nmにおいて98.80%。
【0204】
【化8】

乾燥DCM(250mL)中のBoc保護されたベンズアミド5(18g、48.7mmol)の0℃の溶液に、TFA(100mL)を少しずつ添加した。混合物を23℃までゆっくりと温まらせた。2時間の撹拌の後で、TLCは、反応が完了したことを示した。TFAを真空中で取り除き、反応混合物を水で希釈し、pHを飽和NaHCOで約8に調整した。生じた沈殿を濾過し、水、エーテルで洗浄し、真空化において乾燥して、4−アセトアミド−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド6をオフホワイトの固体として得た。
【0205】
収率:(11.5g、84%)。
TLC:良好、Rf=0.3(DCM中10%のMeOH)
1H NMR (DMSO-d6, 500 MHz) δ 10.18(s, 1H), 9.54 (s, 1H), 7.93 (d, 2H, J=9.0 Hz), 7.69 (d, 2H, J=8.0 Hz), 7.15 (d, 1H, J=7.5 Hz), 6.96 (t, 1H, J=8.0 Hz), 6.78 (d, 1H, J=8.0 Hz), 6.59 (t, 1H, J=7.5 Hz), 4.87 (br s, 2H), 2.08 (s, 3H);
MS: 270[M+1]+;HPLC:210nmにおいて97.71%.
【0206】
【化9】

アセトン(6mL)中の4−アセトアミド−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド6(520mg、1当量)の0℃の溶液に、ジオキサン中1MのHCl(6mL)を添加した。氷槽を取り除き、反応混合物をゆっくりと23℃まで温まらせた。2時間の撹拌の後で、溶媒を真空化において取り除き、粗残渣をエーテルで洗浄し、真空化において乾燥させて、一塩酸塩をオフホワイトの固体7として得た。
収率:(520mg、87%)。
TLC:Rf=0.3(DCM中10%のMeOH)
【0207】
CI−994の遊離塩基の処方および特徴づけ:
HPLC方法の開発
カラム:Luna C18、5μm(150*4.6mm);
移動相(Isocratic):0.01%TFA:メタノール=5:95
注入容積:10μl
波長:254nm
【0208】
パラメーター
LOQ=6.25μg/ml
標準曲線:6.25〜200μg/ml、y=32.279x+28.856、r=1
標準曲線は、溶液中のCI-994のレベルを定量するために、上で概略したHPLC条件を用いて確立した(図36)。
【0209】
上で概説したプロトコルを用いて幾つかの溶媒中でのCI−994遊離塩基の最大溶解度を決定した。CI−994の遊離塩基は、生理食塩水(0.9%NaCl)中において少なくとも2時間にわたり、0.08mg/mLの最大溶解度を有した。CI−994遊離塩基の溶液および化学物質の安定性を2時間の時点において、HPLCによりモニタリングした。
DMSO−ジメチルスルホキシド;DMA−ジメチルアセトアミド;NMP−N−メチルピロリドン;EtOH−エタノール;生理食塩水−0.9%NaCl溶液。
【0210】
【表1】

【0211】
処方物
生理食塩水中でのCI−994遊離塩基の溶解度を改善するために、多様な賦形剤を用いて、一連の処方を試験した(図38)。全ての処方は、4種の有機溶媒および広範な薬学的に受容可能な賦形剤を用いて、2時間以上にわたり安定な(化学物質および溶液)5mg/mlの溶液処方物を標的とした。これは、生理食塩水単独中でのCI−994遊離塩基の2時間の溶解度の62×の改善を表わす。
【0212】
プロトコル:
1) 遊離塩基を計量し、有機溶媒(DMSO、DMA、NMP、EtOH)中に溶解する。
2) 賦形剤を添加し、混合(必要に応じて、ボルテックス、超音波処理および/または加熱)し、視覚的に溶解度および均一性をモニタリングする。
3) 生理食塩水を添加し、混合(必要に応じて、ボルテックス、超音波処理および/または加熱)し、視覚的に溶解度および均一性をモニタリングする。
4) 少なくとも2時間にわたり視覚的に安定性をもたらした組み合わせを、さらに溶液の濃度を定量化するためにHPLCにより分析した。
【0213】
【表2】

【0214】
本発明者らの標準処方および分析プロトコルを用いて、本発明者らは、成功した組み合わせの濃度をHPLC分析を用いて確認した。12全ての処方物は、最短で2時間にわたり安定な溶液(標的の+/−15%)をもたらした。10%DMSO+30%クレモホール+60%の生理食塩水を、本明細書において報告する研究のために用いた。
【0215】
CI−994のHCl塩の処方および特徴づけ:
HPLCによるCI−994のHCl塩(BROAD−SAI−140)の直線性
標準ストック溶液の調製:
1. 1.166mgのCI−994のHCl塩(BROAD−SAI−140)を、0.025%の含水トリフルオロ酢酸とアセトニトリルとの1:1の組み合わせ1ml中に溶解した。
【0216】
観察:化合物は完全に溶解し、透明な無色の溶液を観察した(図39、画像1)。面積カウントに基づく溶液中のCI−994のHCl塩の決定のための強力なHPLC法の開発のために、標準ストック溶液を調製した。
【0217】
直線性
直線性溶液調製:
【表3】

【0218】
【表4】

【0219】
生理食塩水(0.9%NaCl)中5mg/mLの標的濃度におけるCI−994のHCl塩(BROAD−SAI−140)の溶解度の研究
手順:
1. 容積1.5mLのエッペンドルフチューブ中に2.501mgのCI−994のHCl塩を計量した。
2. 500μlの0.9%生理食塩水溶液をマイクロピペットを用いて添加した。
3. チューブを手動で振盪した。
観察:溶液が濁った。
4. 上記のステップ3の溶液を5分間超音波処理した。
観察:0.9%生理食塩水溶液を添加すると、溶液が白色の濁った溶液となった。沈殿は、均一に分散して見出された(図39、画像2)。
5. 上記の溶液を15分間遠心分離した。
観察:化合物がチューブの底部に沈殿し、上清溶液は透明であった(図39、画像3)。
6. ステップ5の上清の透明な溶液を分析に用いた。
【0220】
【表5】

【0221】
CI−994のHCl塩形態を利用することにより、本発明者らは、水溶液中でのCI−994の溶解度の35×の改善を示すことができた。HPLC分析により、CI−994のHCl塩形態の最短で2時間にわたる化合物および溶液の安定性を確認した。この処方物は、他の賦形剤を用いないCI−994の送達において用いるために好適である。
【0222】
例10:HDAC阻害剤であるCI−994は、恐怖記憶の消去を促進する。
材料と方法:
2群のマウスを、文脈的恐怖条件付けにおいて2回にわたりトレーニングし、その後3日間の消去トライアルを行った。各々の消去の日において、マウスを、何らのショックを与えることなく3分間にわたりトレーニング箱に暴露し、そのホームケージに戻した。暴露の1時間後に、マウスにCI−994(25mg/kg)またはビヒクルのいずれかを注射し、ホームケージに戻し、1時間後に2回目の3分間の暴露を行った。トレーニングケージ中の各マウスのすくみ行動をモニタリングした。恐怖記憶の回復を試験するために、最後の消去トライアルの1時間後にリマインダーショック(reminder shock)を与えた。リマインダーショックの24時間後にすくみ時間を定量化した。
【0223】
結果:各々の日における1回目の3分間暴露の間のマウスのすくみレベルを測定してプロットした。恐怖記憶の消去は、CI−994処置群においてビヒクル処置群よりもはるかに速かった。3日目において、CI−994群は、対照群よりも有意により短いすくみ時間を示した。各群についてN=8、*p<0.05(図41、パネルB)。注射の前後の、消去第2日の間の、2回の文脈的暴露トレーニングにおけるマウスのすくみレベルを、定量化してプロットした。CI−994群は、すくみ時間のより速やかな減衰を示した(図41、パネルC)。注射の前後の、消去第1日の間の、2回の文脈的暴露トレーニングにおけるマウスのすくみレベルを、定量化してプロットした。CI−994群は、すくみ時間のより速やかな減衰を示した(図41、パネルD)。リマインダーショックの24時間後に、各群のすくみレベルを、トレーニングの文脈下において測定した。CI−994群と対照群との間に有意差は観察されず、これらの両方が、高レベルのすくみを示した(図41、パネルE)。
【0224】
例11:p25マウスの皮質におけるHDAC1およびHDAC2の発現
p25マウスの皮質において、HDAC1およびHDAC2の発現を測定した。HDAC2の発現は、p25−CKマウスにおいて、対照マウスにおけるものより有意により高いことが見出された(図42A)。対照的に、HDAC1の発現は変わらなかった(図42B)。
【0225】
HDAC2の発現は、p25−CKマウスにおいて、対照マウスにおけるものより有意により高かった。対照的に、ヒストン4リジン12(AcH4K12)のアセチル化の強度は、CK−p25マウスにおいて低下した。10日間(p25の注射の6週間後に開始する)にわたる慢性CI−994処置(1mg/kg、i.p.)は、H4K12におけるアセチル化を増大させた。6週間の間CK−p25マウスにおいてp25−GFPを誘導した。CK−p25マウスはまた、皮質ニューロンにおいて、hdac2の発現の増大およびAcH4K12の減少を示した。10日間(p25の注射の6週間後に開始する)にわたる慢性CI−994処置(1mg/kg、i.p.)は、H4K12におけるアセチル化を増大させた。6週間の間CK−p25マウスにおいてp25−GFPを誘導した。
【0226】
例12:CI−994処置は、CK−p25マウスにおいてシナプトフィジン(SVP)の発現を増大させた。
6週間の間CK−p25マウスにおいてp25−GFPを誘導した。その後、マウスは、慢性CI−994処置(1mg/kg、i.p.)を10日間にわたり受けた。海馬を単離し、ウェスタンブロット分析によるタンパク質定量に供した。6週間のp25の発現は、SVPの著しい低下をもたらした。慢性CI−994処置は、CK−p25マウスにおいてSVPの発現をレスキューした。さらに、反応性アストロサイトのマーカーであるGFAPは、CK−p25マウスにおいて増大し、CI−994により処置された群において低下した(図43)。これらの結果は、CI−994処置が、CK−p25マウスにおいて、神経変性の後で、活性なシナプス形成を誘導することを示し、これは、認知機能および記憶の改善と一致する効果である。
【0227】
CI−994処置はまた、CK−p25マウスにおけるMAP2陽性の樹状突起を上方調節する。6週間の間p25−GFPを誘導した。マウスは、次いで、慢性CI−994処置(1mg/kg、i.p.)を10日間にわたり受けた。マウスを固定し、樹状突起についてのマーカーであるMAP−2抗体で染色した。6週間誘導されたCK−p25の脳において、MAP−2染色の強度は著しく低下した。慢性CI−994処置は、CK−P25マウスにおけるMAP−2染色の強度を増大させた。これらの結果は、CI−994が、神経変性の後で、活性な樹状突起の成長を誘導したことを示す。
【0228】
例13:5XFADマウス(5個の家族性アルツハイマー病の変異遺伝子を担持するトランスジェニックマウス)の皮質ニューロンにおけるHDAC2の発現の増大およびAcH4K12の低下。
5XFADマウスおよびその対照同腹仔は、10ヵ月齢であった。HDAC2の発現は、5XFADマウスにおいて対照マウスにおけるものより有意に高いことが見出された(図44B)。対照的に、AcH4K12の強度は、5XFADマウスにおいて有意に低下した(図44A)。
【0229】
5XFADマウスにおける海馬CA1ニューロンにおけるHDAC2の発現もまた、その対照同腹仔と比較して増大した。対照的に、HDAC1の強度は、5XFADマウスおよび対照同腹仔において同様であった(10ヵ月齢)。
ヒトのアルツハイマーの脳は、ヒストンデアセチラーゼHDAC2のレベルの増大にいより特徴づけられる。対照脳、軽症のアルツハイマー病(Braak and Braak(B&B)ステージIII〜IV)を有する症例、および重篤なアルツハイマー病(B&BステージV〜VI)を有する症例の海馬領域CA1および嗅内皮質のパラフィン包埋切片におけるHDAC2の代表的な免疫化学画像を、図44Cにおいて示す。スケールバーは、上のパネルについては=0.7mm、下のパネルについては0.35mm。症例の詳細は図44Fにおいて示す。
【0230】
例14:CI−994と記憶の形成
CI−994は、野生型(WT)マウスにおいて記憶の形成を増強する。野生型C57/BL6マウスを、10日間CI−994で処置した。図45Aにおいて示すように、異なる用量を投与した。各群のマウスの全数は、図45Aの各カラムの底部に示す。マウスを、次いで、文脈的恐怖条件付けパラダイムでトレーニングし、トレーニングの24時間後に試験した。図45Aの最後の2つのカラムは、CI−994を1日おきに10日間(全5用量)注射した2群のマウスを示す。たった1mg/kgの用量のCI−994が、マウスにおける記憶の形成を増強することができた。対照的に、アリセプト(コリンエステラーゼ阻害剤)は、WTマウスにおける記憶の形成に対して何ら効果を有しない。野生型C57/BL6マウスを、CI−994(1mg/kg、i.p.)またはアリセプト(1mg/kg)で10日間処置した。各群についてn=20。10日間の投与の後で、マウスを文脈的恐怖条件付けパラダイムでトレーニングし、トレーニングの24時間後に試験した。CI−994処置は、WTマウスにおける記憶の形成を有意に増大したが、一方、アリセプト処置は、記憶形成において何らの効果も示さなかった(図45B)。
【0231】
例15:CI−994と記憶障害
慢性CI−994はCK−p25マウスにおける記憶障害を緩和したが、アリセプトはしなかった。6週間の間CK−p25マウスにおいてp25−GFPを誘導した。マウスに、次いで、慢性CI−994(1mg/kg、i.p.)、アリセプト(1mg/kg)またはビヒクルを10日間与えた。全ての群のマウスを、文脈的恐怖条件付けパラダイムにおいてトレーニングし、24時間後に試験した。慢性CI−994処置はCK−p25マウスにおける記憶障害をレスキューしたが、アリセプト処置はしなかった(図46A)。すくみは、ショックを与える前の基底のすくみレベルを引いた、トレーニング文脈への3分間の暴露の間のすくみ時間のパーセンテージを表わす。
【0232】
慢性CI−994処置はまた、CK−p25マウスにおける空間記憶欠損をも緩和した。6週間の間CK−p25マウスにおいてp25−GFPを誘導した。マウスに、次いで、慢性CI−994(1mg/kg、i.p.)またはビヒクルを10日間与えた(図46B)。全ての3群のマウスを、標準的なモリス水迷路パラダイムで6日間トレーニングした。各トライアルにおいて、マウスをスイミングプール中に60秒間置き、隠されたプラットフォームを探させた。各々の日において、5分間のトライアル間隔をおいて、全3回のトライアルを行った。水迷路のセットアップの図を、図46Bにおいて示す。各群のマウスがプラットフォームを見つけるために必要とした平均時間をプロットする(遊泳時間(escape latency))。CI−994で処置されたCK−p25マウスは対照マウスと類似する学習曲線を示したが、一方、ビヒクルで処置されたCK−p25マウスは、隠されたプラットフォームの位置を発見するのが著しく遅かった。これらの効果は、最後の投与の7日後においてすら観察され、これは極めて驚くべきことであった。
【0233】
CI−994処置は、CK−p25マウスにおいて記憶想起欠損を緩和した。6週間の間CK−p25マウスにおいてp25−GFPを誘導した。マウスに、次いで、慢性CI−994(1mg/kg、i.p.)またはビヒクルを10日間与えた。2群のマウスを、上記のとおりモリス水迷路のパラダイムにおいて7日間トレーニングした。第8日において、プラットフォームを取り除き、マウスを記憶想起について試験した。各群のマウスが標的四半球において過ごした平均時間をプロットした。第8日において、CI−994で処置されたCK−p25マウスは、標的四半球において過ごした時間がトレーニング7日目に匹敵することを示し、有能な記憶想起を示唆する。対照的に、第8日において、ビヒクルで処置されたCK−p25マウスは、トレーニングの日(第7日)の間よりも有意により短い時間を標的四半球において過ごした。したがって、CK−p25マウスは空間記憶想起が損なわれていたが、CI−994処置は記憶想起障害をレスキューした。
【0234】
例16:脳のオシレーションにおけるCI−994の長期持続効果
6週間の間CK−p25マウスにおいてp25−GFPを誘導した。マウスに、次いで、慢性CI−994処置(1mg/kg、i.p.)またはビヒクルを10日間与えた。CI−994処置の10日後、マウスを2%イソフルリン下において麻酔し、海馬CA1領域においてガラス電極を用いて同期発火を測定した。局所フィールド電位(LFP)を各動物について5分間記録した。ビヒクル処置したCK−p25マウスについてはn=5、CI−994処置したCK−p25マウスについてはn=4。CK−p25マウスは、対照動物と比較して、有意なオシレーションパワーの低下を示した(10倍を超える低下)。CI−994処置は、CK−p25マウスの領域CA1においてオシレーションパワーを有意に増大した(図47A−LFPパワーはシータバンドにおけるもの;図47B−LFPパワーはガンマバンドにおけるものである)。
【0235】
例17:CI−994と恐怖の消去
CI−994およびD−シクロセリン(DCS)は、通常の消去パラダイム下において恐怖の消去を促進した。野生型C57/BL6マウスを、文脈的恐怖条件付けパラダイムでトレーニングした。トレーニングの5日後、マウスにDCS(15mg/kg)またはCI−994(30mg/kg)を注射し、その後、ショックなしでのトレーニングの文脈においての21分間の消去トライアルに供した。消去トライアルの初めの3分間、および消去トライアルの24時間後の試験トライアルにおけるすくみ時間を測定した。DCSとCI−994との両方が、消去トライアルの24時間後において、すくみの有意な低減を示した(図48A)。
【0236】
CI−994処置は再強化パラダイム下において記憶の消去を促進したが、D−シクロセリン処置はそうしなかった。マウスを、2回のショックによる文脈的恐怖条件付けパラダイムにおいてトレーニングした。マウスは、次いで、その後の4日間の間、再強化トレーニングを受けた。各々の日において、先に得られた恐怖記憶を再活性化するために、マウスを3分間文脈に暴露し、その後、CI−994、DCSまたはビヒクルを、示したとおり注射した。注射の1時間後、マウスを同じ文脈に3分間戻した。各日における最初のトライアルのすくみ時間を測定してプロットした。このパラダイムにおいて、CI−994は恐怖の消去を有意に促進したが、DCSはそうしなかった(トレーニング第2〜4日の2元配置ANOVA、各群についてn=20;図48B)。
【0237】
最初の恐怖記憶トレーニングの1ヵ月後に、恐怖記憶の自発的回復を試験した。CI−994処置群は、ビヒクル群よりも有意に低いすくみレベルを示したが、一方、DCS処置群は、ビヒクル群と比較して何ら有意差を示さなかった(スチューデントのt検定)。
【0238】
CI−994はまた、特定の文脈下において恐怖記憶の消去を促進する。マウスを、新たなトレーニング箱中に3分間置き、トーンを30秒間聴かせ、その後電気ショックを与えた。第2のトレーニングを24時間後に行った。第2の恐怖条件付けトレーニングの24時間後、文脈依存的記憶を想起させるために、マウスをトレーニングチャンバー(文脈のみ)に暴露した。想起の1時間後にCI−994(30mg/kg)を注射した。注射の1時間後、消去トレーニングのために、マウスをチャンバー中に3分間戻した。再活性化−消去トライアルを各々の日において1回ずつ3日間行い、最後のトレーニングの5日後にすくみレベルを測定した(各群についてn=10)。CI−994処置は、特定の文脈下において、恐怖記憶の消去を増強した(図48C)。
【0239】
例18:CI−994は、心的外傷的長期記憶を効果的かつ持続的に消失させる。
HDAC阻害剤CI−994(5mg/kg)が心的外傷的長期記憶を消失させる効力を探索するために用いた実験デザインの模式的説明を、図49Aにおいて示す。トレーニングの30日後、マウスを、トレーニングされたものと同じ文脈において、1日あたり2回の3分間の消去セッションに暴露した。CI−994は、動物のすくみレベルを有意に低下させ、これは条件づけされた恐怖の消去を示す(日の効果についてp<0.001;ビヒクル処置された動物についてはn=10、CI−994処置された動物についてはn=11;図49B)。最後の消去トライアルの30日後に再び試験されたとき、CI−994処置された動物はなお、ビヒクル処置されたものと比較して低下したすくみレベルを示し、このことは、消去の長期持続を示す(t13=4.402、p<0.001;図49C)。CI−994(5mg/kg)による記憶消去の特異性を探索するために用いた実験デザインの模式的説明を、図49Dにおいて示す。文脈(文脈A)およびキュー(3×トーンと組み合わされた2秒間の0.8mAのショック)の両方に対する恐怖条件付けの30日後、マウスを、初めに、トレーニングが行われたもの(文脈A)とは異なる文脈(文脈B)において、キュー単独に対して暴露し、その後、トレーニングされたもの(文脈A)と同じ文脈において、1日当たり2回の3分間の消去セッションに暴露した。この消去セッションの最後において、マウスを再び文脈Bに暴露し、その記憶を試験した。CI−994は、消去の文脈とは異なる文脈において形成された記憶には影響を及ぼさなかった(処置および時間の効果についてn.s.;各群についてn=10マウス;図49E)が、もっぱら、消去が起こった文脈において、動物のすくみレベルを低減した(日の効果についてp<0.05;各群についてn=10マウス;図49F)。最後の消去トライアルの30日後に再び試験したとき、CI−994処置された動物はなお、消失した文脈において、ビヒクル処置されたものと比較して低減したすくみレベルを示す(t8=2.955、p<0.05;図49G)が、異なる文脈においてはそうではなく(処置の効果についてn.s.;各群についてn=5;図49H)、このことは、記憶消失の文脈特異的な長期持続を示す。
【0240】
例19:マウスにおける単回の0.1mg/kgのi.p.投与の後での血漿および脳におけるCI−994の濃度−時間曲線
腹腔内注射を介して全身投与された単回用量の0.1mg/kgのCI−994の薬物動態学的データの要約を図50において示す。C−57マウスの血漿および脳における5分〜8時間のCI−994についての濃度時間曲線を、図において示す。データは、脳および血漿において達成されたCI−994の濃度を示す。CI−994は血液脳関門を容易に超え、低用量の投与の後でも存在する。
【0241】
例20:CI−994は、1.0および0.1mg/kgにおいて、CK−p25マウスにおける認識障害を緩和する。
6週間の間CK−p25マウスにおいてp25−GFPを誘導した。マウスに、次いで、慢性CI−994(0.1mg/kgまたは1mg/kg、i.p.)またはビヒクルを10日間与えた。全ての群のマウスを、文脈的恐怖条件付けパラダイムにおいてトレーニングし、24時間後に試験した。慢性CI−994処置は、CK−p25マウスにおける記憶障害をレスキューした(図51)。
【0242】
例21:CI−994処置は、CK−p25マウスの皮質ニューロンにおけるH4K12のアセチル化および樹状突起の密度を回復させる。
CK−p25マウスは、皮質ニューロンにおけるAcH4K12の減少を示す。10日間(p25の誘導の6週間後から始まる)の慢性CI−994処置(0.1mg/kg、i.p.)は、H4K12に対するアセチル化を増大させた。CK−p25マウスにおいて6週間の間p25−GFPを誘導した。
【0243】
CI−994処置は、CK−p25マウスにおいてMAP2陽性樹状突起を上方調節する。p25−GFPを6週間誘導した。マウスに、次いで、慢性CI−994処置(0.1mg/kg、i.p.)を10日間与えた。マウスを固定し、樹状突起のマーカーであるMAP−2抗体で染色した。6週間誘導されたCK−p25の脳において、MAP−2染色強度は著しく低下した。慢性CI−994処置は、CK−P25マウスにおいてMAP2染色強度を増大させた。これらの結果は、CI−994が神経変性の後で活性な樹状突起の成長を誘導したことを示した。
【0244】
前述の記述された明細書は、当業者が本発明を実施することができるために十分であると考えられる。本発明は、提供された例によりその範囲において限定されるべきではない。なぜならば、例は、本発明の一つの局面の単一の説明として意図され、他の機能的に等価な態様が本発明の範囲内であるからである。本明細書において示され記載されたものに加えて、本発明の多様な改変が、前述の記載から当業者には明らかとなり、それらは添付の請求の範囲の範囲内に該当するであろう。本発明の利点は、本発明の各態様により必ずしも包含されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その必要を有する対象において認知機能の障害または欠陥を処置する方法であって、
対象に4−(アセチルアミノ)−N−(2アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項2】
その必要を有する対象において認知機能の障害または欠陥を処置する方法であって、
対象にジナリンまたはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項3】
対象がCI−994とジナリンとの組合せを投与される、請求項1または2の方法。
【請求項4】
対象がまた障害を処置するさらなる治療を経験する、請求項1または2の方法。
【請求項5】
CI−994および/またはジナリンが、15mg/m未満の投与量で、1日1回、14の連続した日の間投与される、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項6】
CI−994および/またはジナリンが、1日1回、少なくとも2の連続した日の間投与される、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項7】
CI−994および/またはジナリンが、0.001mg/kg〜50mg/kgの用量において、少なくとも2の連続した日の間投与される、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項8】
CI−994および/またはジナリンが、0.4mg/kgまでの用量において、少なくとも14の連続した日の間投与される、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項9】
CI−994および/またはジナリンが、0.001mg/kg〜50mg/kgの用量において、少なくとも2、3、4、5、6または7の連続した日の間投与される、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項10】
CI−994および/またはジナリンが、1日1回、1日おきに投与される、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項11】
CI−994および/またはジナリンが、1日1回、投与の間に少なくとも2日間を開けて投与される、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項12】
その必要を有する対象において認知機能の障害または欠陥を処置する方法であって、
対象に、4−(アセチルアミノ)−N−(2アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)、ジナリンまたはそれらの薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグの有効量を投与すること、ここで、CI−994またはジナリンが、経口、経皮、静脈内、皮膚、皮下、鼻、筋肉内、腹腔内、脳内、または脳室内で投与される、
を含む、前記方法。
【請求項13】
認知機能障害/欠陥が、アルツハイマー病、ハンチントン病、発作により誘導される記憶喪失、統合失調症、Rubinstein Taybi症候群、レット症候群、脆弱X、レビー小体型認知症、血管性認知症、ADHD、失読症、双極性障害、ならびに自閉症と関連する社会性、認知および学習の障害、外傷性頭部傷害、または注意欠陥障害と関連する、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項14】
認知機能障害/欠陥が、不安障害、条件づけられた恐怖応答、パニック障害、強迫性障害、外傷後ストレス障害、恐怖症、社会不安障害、または物質依存症の回復と関連する、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項15】
対象を、認知行動治療(CBT)、精神療法、行動暴露処置、仮想現実暴露(VRE)、または認知治療に暴露することをさらに含む、請求項1〜4のいずれか1項の方法。
【請求項16】
その必要を有する対象においてアルツハイマー病を処置する方法であって、
対象に、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を投与すること、ここで、CI−994が、1日あたり15mg/m未満の投与量で投与される、
を含む、前記方法。
【請求項17】
その必要を有する対象においてアルツハイマー病を処置する方法であって、
対象に、ジナリンまたはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を投与すること、ここで、ジナリンが、1日あたり15mg/m未満の投与量で投与される、
を含む、前記方法。
【請求項18】
その必要を有する対象においてアルツハイマー病を処置する方法であって、
対象に、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物の有効量を投与すること、ここで、CI−994が、1日1回、1日おきに投与される、
を含む、前記方法。
【請求項19】
その必要を有する対象においてハンチントン病を処置する方法であって、
対象に、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物の有効量を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項20】
その必要を有する対象においてハンチントン病を処置する方法であって、
対象に、ジナリンまたはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物の有効量を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項21】
CI−994および/またはジナリンが、1日1回、1日おきに投与される、請求項19または20の方法
【請求項22】
CI−994および/またはジナリンが、経口、経皮、鼻または腹腔内で投与される、請求項19または20の方法。
【請求項23】
その必要を有する対象においてハンチントン病を処置する方法であって、
対象に、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物の有効量を投与すること、ここで、前記処置の方法が、病歴、家族歴または脳画像検査に基づいて選択される、
を含む、前記方法。
【請求項24】
その必要を有する対象においてハンチントン病を処置する方法であって、
対象に、ジナリンまたはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物の有効量を投与すること、ここで、前記処置の方法が、病歴、家族歴または脳画像検査に基づいて選択される、
を含む、前記方法。
【請求項25】
処置の方法が、ANXA1、AXOT、CAPZA1、HIF1A、JJAZ1、P2Y5、PCNP、ROCK1(p160ROCK)、SF3B1、SP3、TAF7およびYIPPEEからなる群より選択されるハンチントン病バイオマーカー遺伝子の発現レベルに基づいて選択されない、請求項23または24の方法。
【請求項26】
正常な対象において認知機能を改善する方法であって、
対象に、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物の有効量を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項27】
正常な対象において認知機能を改善する方法であって、
対象に、ジナリンまたはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物の有効量を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項28】
CI−994またはジナリンが、15mg/m未満の投与量で、1日1回、14の連続した日の間投与される、請求項26または27の方法。
【請求項29】
CI−994またはジナリンが、1日1回、1日おきに投与される、請求項26または27の方法。
【請求項30】
CI−994またはジナリンが、1日1回、投与の間に少なくとも2日間を開けて投与される、請求項26または27の方法。
【請求項31】
CI−994またはジナリンが、経口、経皮、静脈内、皮膚、皮下、鼻、筋肉内、腹腔内、脳内、または脳室内で投与される、請求項26または27の方法。
【請求項32】
対象において恐怖の消去を促進するための方法であって、
対象に、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を、恐怖の消去を促進するための有効量において投与すること
を含む、前記方法。
【請求項33】
対象において恐怖の消去を促進するための方法であって、
対象に、ジナリンまたはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を、恐怖の消去を促進するための有効量において投与すること
を含む、前記方法。
【請求項34】
CI−994またはジナリンが、1日1回、1日おきに投与される、請求項32または33の方法。
【請求項35】
CI−994またはジナリンが、経口、経皮、静脈内、皮膚、皮下、鼻、筋肉内、腹腔内、脳内、または脳室内経路により投与される、請求項32または33の方法。
【請求項36】
経口、経皮、静脈内、皮膚、皮下、鼻、筋肉内、腹腔内、脳内、または脳室内投与のために処方された、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を含む組成物。
【請求項37】
1日1回、少なくとも2、3、4、5、6、または7の連続した日のための0.001mg/kg未満〜50mg/kgの投与量において処方された、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を含む組成物。
【請求項38】
CI−994および/またはジナリンが、0.001mg/kg〜15mg/kgの用量において少なくとも2の連続した日の間投与される、請求項37の方法。
【請求項39】
CI−994および/またはジナリンが、15mg/kgまでの用量において少なくとも14の連続した日の間投与される、請求項37の方法。
【請求項40】
CI−994および/またはジナリンが、0.04mg/kgの用量において投与される、請求項37の方法。
【請求項41】
経口、経皮、静脈内、皮膚、皮下、鼻、筋肉内、腹腔内、脳内、または脳室内投与のために処方された、ジナリンまたはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を含む、組成物。
【請求項42】
1日1回、14の連続した日のための15mg/m未満の投与量において処方された、ジナリンまたはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を含む、組成物。
【請求項43】
認知機能を増強するために、経口、経皮、静脈内、皮膚、皮下、鼻、筋肉内、腹腔内、脳内、または脳室内のために処方された、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物の有効量を収容する容器、および
認知増強の必要を有する対象にCI−994を投与するための説明
を含む、キット。
【請求項44】
結晶の形態を有する4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)の塩。
【請求項45】
4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)のHCl塩を含む、組成物。
【請求項46】
CI−994のHCl塩が以下の化学構造:
【化1】

を有する、請求項45の組成物。
【請求項47】
以下:
a)DMA、NMP、EtOHおよびDMSOからなる群より選択される5〜15%の化合物:
b)PEG400、クレモホールおよびHP−βからなる群より選択される25〜50%の化合物:ならびに
c)生理食塩水、水およびDW5からなる群より選択される0〜70%の化合物
を含む処方物中に、4−(アセチルアミノ)−N−(2−アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)を含む、組成物。
【請求項48】
処方物が、10%のDMA、45%のPEG400、および45%の生理食塩水または水またはD5Wである、請求項47の組成物。
【請求項49】
処方物が、10%のDMA、45%のPEG400、および45%の生理食塩水または水またはD5Wである、請求項47の組成物。
【請求項50】
処方物が、10%のEtOH、45%のPEG400、および45%の生理食塩水または水またはD5Wである、請求項47の組成物。
【請求項51】
処方物が、10%のDMA、30%のクレモホール、および60%の生理食塩水または水またはD5Wである、請求項47の組成物。
【請求項52】
処方物が、10%のDMSO、30%のクレモホール、および60%の生理食塩水または水またはD5Wである、請求項47の組成物。
【請求項53】
処方物が、5%のDMA、30%のクレモホール、および65%の生理食塩水または水またはD5Wである、請求項47の組成物。
【請求項54】
処方物が、10%のDMA、20%のクレモホール、および70%の生理食塩水または水またはD5Wである、請求項47の組成物。
【請求項55】
処方物が、10%のDMAおよび90%のHP−b−CD水溶液である、請求項47の組成物。
【請求項56】
処方物が、10%のDMSO、40%のPGおよび50%の生理食塩水または水またはD5Wである、請求項47の組成物。
【請求項57】
その必要を有する対象において認知機能の障害または欠陥を処置する方法であって、
対象に、0.001〜50.0mg/kgの用量において、4−(アセチルアミノ)−N−(2アミノフェニル)ベンズアミド(CI−994)またはその薬学的に受容可能な塩、エステル、プロドラッグもしくは代謝物を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項58】
CI−994および/またはジナリンが、0.001mg/kg〜15mg/kgの用量において少なくとも2の連続した日の間投与される、請求項57の方法。
【請求項59】
CI−994および/またはジナリンが、15mg/kgまでの用量において少なくとも14の連続した日の間投与される、請求項57の方法。
【請求項60】
CI−994および/またはジナリンが、0.04mg/kgの用量において投与される、請求項57の方法。
【請求項61】
CI−994が、0.1〜1.0mg/kgの用量で、1日1回、少なくとも10の連続した日の間投与される、請求項57の方法。
【請求項62】
CI−994が、1日1回、少なくとも2、3、4、5、6、または7の連続した日の間投与される、請求項57の方法。
【請求項63】
CI−994が、1日1回、1日おきに、3日おきに、4日おきに、5日おきに、6日おきに、または7日おきに投与される、請求項57の方法。

【図1】
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【図1A】
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【図2A−C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【図10A】
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【図10BC】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14AB】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19AB】
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【図20AB】
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【図21】
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【図22AB】
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【図23AB】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32AB】
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【図33AB】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41A】
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【図41B】
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【図41C】
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【図41D】
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【図41E】
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【図42A】
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【図42B】
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【図43】
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【図44A】
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【図44B】
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【図44C】
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【図44D】
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【図44E】
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【図44F】
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【図45A】
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【図45B】
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【図46A】
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【図46B】
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【図46C】
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【図47A】
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【図47B】
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【図48A】
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【図48B】
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【図48C】
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【図49A】
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【図49BC】
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【図49D】
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【図49EF】
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【図49GH】
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【図50】
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【図51】
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【公表番号】特表2013−509441(P2013−509441A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537154(P2012−537154)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2010/054872
【国際公開番号】WO2011/053876
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【出願人】(506321023)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレーション ディー/ビー/エイ マサチューセッツ ジェネラル ホスピタル (3)
【出願人】(512112068)ザ ブロード インスティテュート,インコーポレーテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】THE BROAD INSTITUTE, INC.
【住所又は居所原語表記】7 Cambridge Center, Cambridge, MA 02142 United States of America
【Fターム(参考)】