説明

記録テープカートリッジ

【課題】記録テープの走行時のPESを小さく抑えることができる記録テープカートリッジを得る。
【解決手段】記録テープカートリッジ10は、リールハブ32と、リールハブ32に巻き回された磁気テープTと、リールハブ32の軸方向両端に互いに対向して設けられた下フランジ38及び上フランジ40とを備えている。リールハブ32の磁気テープTが全量巻き回された状態で、磁気テープTは上フランジ40に片寄せられており、その最外周部の下端Todと下フランジ38とのエッジクリアランスCeの間隔Doが0.18mm以上0.46mm以下とされている。また、下フランジ38と上フランジ40とは、互いの対向間隔の拡大率が外周側へ向かうほど大とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体として記録テープを用いる記録テープカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
上下一対のリールフランジの対向間隔Hが、磁気テープのテープ幅に磁気テープの緩衝領域の幅寸法以下とされた余裕隙間Eを加えた値に設定されている磁気テープカートリッジが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、基準フランジと対向フランジとの対向間隔と磁気テープの幅寸法との差を規定した磁気テープカートリッジが知られている(例えば、特許文献2参照)。さらに、フランジの表面を、表面粗さRaが0.5μm以上2.0μm以下であるシボ面としたテープカートリッジが知られている(例えば、特許文献3参照)。またさらに、リールの鍔部の間隔を規定し、走行する磁気テープをドライブ側のガイドローラに確実に沿わせることで、PES(Position Error Signal)を小さくする技術が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−306714号公報
【特許文献2】特開2005−302256号公報
【特許文献3】特開2009−211743号公報
【特許文献4】特許第4679733号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、記録テープの走行時におけるドライブ装置のヘッドに対する幅方向の位置ずれの尺度であるPES(Position Error Signal)を小さく抑えるとの観点からは、一対のフランジの寸法形状について改善の余地がある。
【0005】
本発明は、記録テープの走行時のPESを小さく抑えることができる記録テープカートリッジを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明に係る記録テープカートリッジは、ハブと、前記ハブに巻き回された記録テープと、前記ハブの軸方向両端に互いに対向して設けられ、前記記録テープが前記ハブに対し全量巻き回された状態で該記録テープの最外周部との前記軸方向に沿った間隔が0.18mm以上0.46mm以下であり、かつ互いの対向間隔が内周側よりも外周側の方が拡大されると共に、外周側へ向かうほど互いの対向間隔の拡大率が大となる一対のフランジと、を備えている。
【0007】
請求項1記載の記録テープカートリッジでは、ハブに記録テープを全量巻き回した状態で、該記録テープの最外周部と一対のフランジとの間に形成される隙間(以下、「エッジクリアランス」という)の間隔が0.18mm以上0.46mm以下とされている。エッジクリアランスがハブの軸方向両側に形成される場合は、各エッジクリアランスの間隔の和が0.18mm以上0.46mm以下とされる。
【0008】
ここで、本出願人は、エッジクリアランスの間隔が小さいほど、記録テープの走行時におけるドライブ装置のヘッドに対する幅方向の位置ずれの尺度であるPES(Position Error Signal)が抑制されるとの新規の知見を得た。そして、本記録テープカートリッジでは、一対のフランジの対向間隔の拡大率が外周側ほど大とされている。このため、一対のフランジ間の対向間隔の拡大率が一定である構成と比べて、内周側のエッジクリアランスが小さくされる。換言すれば、エッジクリアランスの間隔の小さい範囲が外周側に向けて広げられる。これにより、本記録テープカートリッジでは、最外周側のエッジクリアランスの間隔が所定の範囲内に規制される構成において、内周側でのPESが小さく抑えられ、PESの平均値も低減される。
【0009】
このように、請求項1記載の記録テープカートリッジでは、記録テープの走行時のPESを小さく抑えることができる。
【0010】
請求項2記載の発明に係る記録テープカートリッジは、請求項1記載の記録テープカートリッジにおいて、前記軸方向に対し傾斜した噛み合い面においてドライブ装置側の駆動ギヤに回転伝達可能に噛み合わされることで、該ドライブ装置に対する前記ハブの軸方向の位置が決まるように、前記ハブ又は前記一対のフランジの一方に構成された被駆動ギヤをさらに備えている。
【0011】
請求項2記載の記録テープカートリッジでは、被駆動ギヤに噛み合わされたドライブ装置側の駆動ギヤが回転することでハブが回転され、記録テープがハブから巻き出され又は記録テープがハブに巻き取られる。このハブのドライブ装置に対する軸方向位置基準が駆動ギヤと被駆動ギヤとの噛み合い面であるため、PESが大きくなりやすい構成であるが、上記形状のフランジによってPESが小さく抑えられる。
【0012】
請求項3記載の発明に係る記録テープカートリッジは、請求項1又は請求項2記載の記録テープカートリッジにおいて、前記一対のフランジの少なくとも一方における前記記録テープ側の面の表面粗さが、中心線平均粗さで0.5μm以上でかつ2μm以下とされている。
【0013】
請求項3記載の記録テープカートリッジでは、フランジの表面粗さが上記の通りとされているので、該フランジと記録テープとの接触による記録テープの幅方向(ハブ軸方向)の位置変動が生じ難く、PESを小さく抑えることに寄与する。
【0014】
請求項4記載の発明に係る記録テープカートリッジは、請求項1〜請求項3の何れか1項記載の記録テープカートリッジにおいて、前記ハブ及び前記フランジは、繊維強化樹脂にて構成されている。
【0015】
請求項4記載の記録テープカートリッジでは、ハブ及びフランジが高弾性の繊維強化樹脂にて構成されているため、テープ巻き圧によるハブ及びフランジの変形(面振れ)が抑制され、PESを小さく抑えることに寄与する。
【0016】
請求項5記載の発明に係る記録テープカートリッジは、請求項4記載の記録テープカートリッジにおいて、前記ハブは、軸方向の一端側が開口されると共に他端側が閉止された有底円筒状を成しており、前記一対のフランジのうち前記ハブの他端側に位置するフランジは、前記ハブを構成する材料と同等以上の弾性率を有する材料にて構成されると共に該ハブの他端部に一体化されている。
【0017】
請求項5記載の記録テープカートリッジでは、ハブの低剛性側である開口端部に高弾性のフランジが一体化されているため、特にテープ巻き圧によるハブの開口端側及び該開口端側のフランジの変形(面振れ)が抑制される。すなわち、PESを一層小さく抑えることに寄与する。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明に係る記録テープカートリッジは、記録テープの走行時のPESを小さく抑えることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る記録テープカートリッジを構成するリールの分解斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る記録テープカートリッジを構成するリールの側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る記録テープカートリッジを構成するリールの要部を拡大して示す側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る記録テープカートリッジを構成するリールのリールギヤを拡大して示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態に係る記録テープカートリッジを構成する磁気テープの一部を模式的に示す側面図である。
【図6】一対のフランジの対向間隔とPESとの関係を示す線図である。
【図7】本発明の実施形態に係る記録テープカートリッジの不使用時の側断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る記録テープカートリッジの使用時の側断面図である。
【図9】本発明の実施形態に係る記録テープカートリッジを示す図であって、(A)は情報から見た斜視図、(B)は下方から見た斜視図である。
【図10】本発明の実施形態に係る記録テープカートリッジのリールロック構造部の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係る記録テープカートリッジ10について、図1〜図10に基づいて説明する。先ず、記録テープカートリッジ10の概略全体構成を説明し、次いで、記録テープとしての磁気テープTを巻き回したリール11の要部構成について説明することとする。なお、説明の便宜上、記録テープカートリッジ10のドライブ装置への装填方向を矢印A示し、それを記録テープカートリッジ10の前方向(前側)とする。また、矢印Uにて示す方向を記録テープカートリッジ10の上方向(上側)とする。
【0021】
(記録テープカートリッジの概略全体構成)
図7〜図10に示される如く、この実施形態に係る記録テープカートリッジ10は、ケース12を備えている。ケース12は、上ケース14と下ケース16とを接合して構成されている。具体的には、上ケース14は、平面視略矩形状の天板14Aの外縁に沿って略枠状の周壁14Bが立設されて構成されており、下ケース16は、天板14Aに略対応した形状の底板16Aの外縁に沿って周壁16Bが立設されて構成されている。そして、ケース12は、周壁14Bの開口端と周壁16Bの開口端とを突き当てた状態で、超音波溶着やビス止め等によって上ケース14と下ケース16とが接合されて、略箱状に形成されている。
【0022】
このケース12には、ドライブ装置への装填方向先頭側の隅角部において、天板14A、周壁14B、底板16A、周壁16Bがそれぞれ切り欠かれて、その装填方向に対して傾斜した開口18が形成されている。また、底板16Aの略中央部には、底板16Aを貫通する円形状のギヤ開口20が設けられており、後述するリールギヤ42の露出用とされている。底板16Aにおけるギヤ開口20の縁部には、環状リブ22がケース12の内方へ向けて突設されており、後述するリール11の位置決め用及び防塵用とされている。
【0023】
このケース12内には、図7に示される如く、リール11が1つだけ回転可能に収容される。このリール11には、記録テープとしての磁気テープTが巻装されており、磁気テープTの先端にはリーダ部材としてのリーダブロック30が取り付けられている。リーダブロック30は、記録テープカートリッジ10の不使用時には、ケース12の開口18の内側に収容保持されている。そして、この状態で、リーダブロック30は、開口18を閉塞し、ケース12内への塵埃等の侵入を阻止している。
【0024】
このリーダブロック30は、ドライブ装置内で磁気テープTを引き出す際には、該ドライブ装置の引出手段によってケース12から抜き出されてドライブ装置の巻取リール(図示省略)に誘導されるようになっている。なお、リーダブロックに代えて、小軸状のリーダピンやテープ状のリーダテープをリーダ部材として採用しても良い。これらの場合、例えば、ケース12には開口18を開閉するためのドア部材が設けられる。また、開口18は、周壁14B、16Bに沿って(周壁14B、16Bのみを切り欠いて)形成しても良い。
【0025】
図1〜図3に示される如く、リール11は、その軸心部を構成するハブとしてのリールハブ32を備えている。リールハブ32は、外周面に磁気テープTが巻装される円筒部34と、円筒部34の下部を閉塞する底部36とを有する略有底円筒状に形成されている。また、リールハブ32の底部36側端部(下端部)の近傍には、該リールハブ32の径方向外側に張り出された下フランジ38が設けられている。一方、円筒部34の上端部には、該リールハブ32の径方向外側に張り出された上フランジ40が設けられている。リール11は、そのリールハブ32の円筒部34の外周面における下フランジ38と上フランジ40との対向面間に、磁気テープTが巻回されるようになっている。下フランジ38及び上フランジ40の寸法形状については後に詳述する。
【0026】
また、リールハブ32の底部36の下面(外面)における外周近傍には、リール11と同軸的に形成された被駆動ギヤとしての環状のリールギヤ42が突設されている。リールギヤ42は、ドライブ装置の回転シャフト100の先端に設けられた駆動ギヤ102と噛合可能とされている。リール11は、そのリールギヤ42が駆動ギヤ102と噛み合わされることで、ドライブ装置に対し軸方向の位置が決まる構成とされている。具体的には、図4に示される如く、リールギヤ42の駆動ギヤ102との噛み合い面42Eは、軸方向に対し傾斜された傾斜面とされており、駆動ギヤ102の噛み合い面102E(図10参照)に対し、回転伝達可能でかつ軸方向の位置が決まるように噛み合う構成とされている。なお、この噛み合いを維持するための軸方向力が後述する圧縮コイルスプリング58の付勢力として噛み合い部に作用するようになっている。
【0027】
一方、図1及び図10に示される如く、リールハブ32の底部36の上面(内面)における外周近傍には、リール11と同軸的に形成された環状の係合ギヤ44が設けられている。係合ギヤ44は、底部36の内面より若干隆起した環状の台座部46上に形成されており、後述するブレーキ部材55の制動ギヤ部55Bと噛合可能とされている。
【0028】
さらに、リールハブ32の底部36における軸心部には、貫通孔50が設けられている。また、底部36の上面からは、貫通孔50の縁部に沿ってクラッチ用ボス部52が立設されている。このクラッチ用ボス部52については、後述するクラッチ部材60と共に説明する。
【0029】
リール11は、その主要部が後述する如く繊維強化樹脂の射出成形によって形成されている。このリールは、そのリールハブ32の底部36の下面(表面)におけるリールギヤ42の内側に固定された金属プレートとしての環状のリールプレート54を有する。リールプレート54は、磁性材料で円環状に形成されており、リールハブ32の底部36に同軸的に固定されている。環状のリールプレート54は、リールプレート54は、ドライブ装置の回転シャフト100のマグネット104による吸着保持用とされている。
【0030】
そして、以上説明したリール11は、ケース12に収容されて、不使用時には該ケース12の環状リブ22上に載置されるようになっている。具体的には、リール11は、底部36におけるリールギヤ42の径方向外側に連続するテーパ部43の外側部分(下フランジ38の内縁近傍)が環状リブ22の上端面に当接するようになっており、環状リブ22の上端内縁部がテーパ部43に対応したテーパ面22Aとされることで、径方向の変位が規制されている。
【0031】
この状態で、リール11は、全体としてケース12内に位置してリールギヤ42、リールプレート54をギヤ開口20から露出させている(図9(B)参照)。すなわち、リールギヤ42は、底板16Aの外面(下面)から突出することなく、ギヤ開口20からケース12外に臨んでいる。また、リールプレート54の軸心に形成された透孔54Aを通じて貫通孔50がギヤ開口20に臨んでいる。これにより、ケース12の外部よりリール11の操作、すなわちチャッキング(保持)及び回転駆動が可能とされている。
【0032】
また、記録テープカートリッジ10は、図7、図8、図10に示される如く、不使用時にリール11の回転を阻止するためのブレーキ部材55を備えている。ブレーキ部材55は、ケース12の天板14Aからと津切された十字リブ56を挿入させて該ケース12に対する相対回転が規制される回転規制部55Aと、回転規制部55Aの下端から径方向外側に延在しリール11の係合ギヤ44に係合可能な制動ギヤ部55Bとを主要部として構成されている。
【0033】
このブレーキ部材55は、ケース12内で不使用時にリール11の軸線方向に変位することで、制動ギヤ部55Bを係合ギヤ44に噛み合わせる制動位置と、制動ギヤ部55Bと係合ギヤ44との噛み合いが解除される回転許容位置とを選択的に取り得る構成とされている。ケース12の天板14Aとブレーキ部材55との間には、圧縮コイルスプリング58が圧縮状態で配設されている。ブレーキ部材55は、圧縮コイルスプリング58の付勢力によって制動位置に偏倚されるようになっている。
【0034】
また、記録テープカートリッジ10は、ブレーキ部材55によるリール11のロック状態を解除するときに外部から操作されるクラッチ部材60を備えている。このクラッチ部材60は、ドライブ装置の回転シャフト100の駆動ギヤ102がリールギヤ42に噛み合う際に該回転シャフト100に押圧されてブレーキ部材55を上方すなわち回転許容位置側に変位させるようになっている。
【0035】
具体的には、クラッチ部材60は、リール11の底部36とブレーキ部材55との間に配設されており、底部36を貫通したクラッチ本体62を有している。また、クラッチ本体62からは、それぞれ複数のガイドリブ64、ストッパリブ68が径方向外側に延設されている。ガイドリブ64は、リール11のクラッチ用ボス部52に形成された回転規制溝66に入り込まされることで、リール11に対するクラッチ部材60の相対回転規制機能とリール11の軸線方向にクラッチ部材60を案内する案内機能とを果たすようになっている。ストッパリブ68は、クラッチ用ボス部52に形成されたストッパ溝70の底面に当接することで、リール11に対するクラッチ部材60の軸線方向の位置決め機能(抜け止め機能を含む)を果たす構成とされている。
【0036】
以上により、記録テープカートリッジ10では、不使用時には、図7に示される如く、ブレーキ部材55が圧縮コイルスプリング58の付勢力により制動ギヤ部55Bをリールギヤ42に噛み合わせて、リール11のケース12に対する回転が防止される構成とされている。一方、図8に示される如くリール11のリールギヤ42がドライブ装置の回転シャフト100の駆動ギヤ102に噛み合わされる際には、回転シャフト100押圧されたクラッチ部材60がブレーキ部材55を回転許容位置に変位させることで、リール11のケース12に対する回転が許容されるようになっている。
【0037】
(リールの詳細構成)
図1に示される如く、この実施形態に係るリール11は、リールハブ32と下フランジ38とが一体に形成された下フランジ付ハブ部材72と、上フランジ40を主要部とするフランジ部材としての上フランジ部材74との2ピース構造とされている。下フランジ付ハブ部材72は、繊維強化樹脂としてのガラス繊維強化樹脂(GFRP)の射出成形によって、リールハブ32と下フランジ38とが一体に形成されている。また、この実施形態では、金属製のリールプレート54は、インサート成形により底部36に固定される構成とされている。
【0038】
下フランジ付ハブ部材72を構成するGFRPについて補足すると、このGFRPは、熱可塑性樹脂としてのポリカーボネイトに強化繊維としてのガラス繊維が略10質量%混入されたものである。このGFRPは、例えば、その曲げ弾性率が略3400[MPa]とされている。
【0039】
一方、上フランジ部材74は、円環状を成す上フランジ40の内縁部からリールハブ32の円筒部34の内周に嵌合する環状リブ76が突出されて構成されている。上フランジ部材74は、環状リブ76をリールハブ32の円筒部34の上側開口端に嵌合させた状態で、該環状リブ76の径方向外側部分(上フランジ40と環状リブ76との間の部分)が円筒部34の上端面34Aに、超音波溶着等によって固着される構成である。
【0040】
この上フランジ部材74は、その構成材料が下フランジ付ハブ部材72を構成する材料に対し、曲げ弾性率が高い構成とされている。具体的には、上フランジ部材74は、下フランジ付ハブ部材72を構成するポリカーボネイトと同種のポリカーボネイトに20〜30質量%のガラス繊維を含有させたGFRPにて構成されている。この実施形態では、上フランジ部材74を構成するGFRPは、その曲げ弾性率が略6600[MPa](ガラス繊維30質量%含有の場合)とされている。
【0041】
上記材料で構成されたリール11は、磁気テープTを巻き回した状態で受ける巻き圧によって、磁気テープTを巻き回していない状態に対し変形される。そして、記録テープカートリッジ10この変形後の状態における下フランジ38、上フランジ40と磁気テープTとの、該磁気テープTの幅方向(リール11の軸方向)における隙間であるエッジクリアランスCeの大きさ(スカラ量)である間隔Dが規定されている。以下、具体的に説明する。
【0042】
上記の通り上側が開口された円筒部34を備えたリールハブ32は、テープの巻き圧によって変形されると、一例として、図2に示される如く、磁気テープTが上フランジ40側に片寄せられて円筒部34に巻き回される。そして、エッジクリアランスCeの間隔Dのうち、図3に示される全量巻き回し状態の磁気テープTの最外周部の下端Todと下フランジ38との最短距離である外周側間隔Doが規定されている。この実施形態では、
0.18mm ≦ Do ≦ 0.46mm
とされている。なお、図2及び図3では、上下のフランジのテーパ形状を誇張して図示している。
【0043】
本実施形態における磁気テープTの幅Wは、公称で12.65mmとされている。したがって、磁気テープTの全量巻き回し状態における下フランジ38と上フランジ40との軸方向に沿った、磁気テープTの最外周部と一致する径方向位置においける最外周部の対向間隔Dfoは、
12.83mm ≦ Dfo ≦ 13.11mm
とされている。換言すれば、対向間隔Dfoは、寸法公差を0.14mmとして、
Dfo = 12.97mm ± 0.14mm
とあらわされる。
【0044】
一方、磁気テープTの全量巻き回し状態における下フランジ38と上フランジ40との軸方向に沿った、磁気テープTの最内周部と一致する径方向位置(円筒部34の外周面)における対向間隔Dfiは、
12.65mm ≦ Dfi ≦ 12.77mm
とされている。換言すれば、対向間隔Dfiは、寸法公差を0.06mmとして、
Dfi = 12.71mm ± 0.06mm
とあらわされる。
【0045】
上記した対向間隔Dfi、Dfoについて補足する。最内周部の対向間隔Dfiは、磁気テープTの幅W、及び、下フランジ38、上フランジ40のそれぞれの最内周部における製造公差(面振れ)Ai(図示略)を考慮して、
Dfi = W + |Ai| × 2 + Ai × 2
として決められる。この実施形態では、
Ai = ± 0.03mm
であり、上記の通り対向間隔Dfiが設定されている。
【0046】
また、最外周部の対向間隔Dfoは、下フランジ38、上フランジ40のそれぞれの最外周部における製造公差Ao、最内周側における製造公差Ai、及び、ドライブ装置の回転シャフト100の傾きなどを考慮した際に要求される最小限のフランジテーパ量(上下それぞれのフランジに必要)Dtminを考慮して、
Dfo = Dfi + |Ai| × 2 + Dtmin × 2
+ |Ao| × 2 + Ao × 2
として決められる。この実施形態では、
Ao = ± 0.07mm
Dtmin = 0.03mm
であり、上記の通り対向間隔Dfoが設定されている。
【0047】
そして、エッジクリアランスCeの間隔Dは、上下のフランジ38、40の対向間隔Dfと磁気テープTの幅Wとの差分であらわされる。すなわち、
D = Df − W
Do = Dfo − W
とされる。このように、本実施形態では、上下のフランジ38、40と磁気テープTとのエッジクリアランスCeの間隔Dは、製造(量産)上の要求及び使用(テープの巻き取り、巻き出し)上の要求を満たす最小限の間隔として設定されている。特に、エッジクリアランスCeの間隔Doの下限が、製造(量産)上及び使用上の要求の制約を受けて、上記の通り設定されている。
【0048】
ここで、上下のフランジ38、40の対向間隔Dfi、Dfoの実測方法(一例)について補足する。上下のフランジ38、40における対向間隔Dfi、Dfoの径方向位置となる最内周部、最外周部のそれぞれについて、周方向に複数の測定点を設定する。ここでは、上下のフランジ38、40の最内周部及び最外周部のそれぞれに30°毎に各12箇所(計48箇所)の測定点が設定され、下フランジ38と上フランジ40とで周方向の測定点の位置は一致させている。
そして、先ず、磁気テープTが全量巻き回されている状態で、下フランジ38の磁気テープT側とは反対側の面である下面における各測定点の軸方向位置を3次元測定器等にて測定する。さらに、測定結果に基づいて、各測定点の軸方向との直交面である所定の基準面からの最内周部及び最外周部の各平均高さHi38、Ho38を算出する。同様に、磁気テープTを全量巻き回した状態で、上フランジ40の磁気テープT側とは反対側の面である上面における各測定点の軸方向位置を3次元測定器等にて測定する。また、測定結果に基づいて、各測定点の上記基準面からの最内周部及び最外周部の各平均高さHi40、Ho40を算出する。
次いで、リール11から磁気テープTを巻きほぐして取り除く。この状態で、下フランジ38の上下両面における各測定点の軸方向位置を3次元測定器等にてそれぞれ測定する。この測定結果に基づいて、下フランジ38の最内周部及び最外周部の平均厚みti38、to38を算出する。同様に、上フランジ40の上下両面における各測定点の軸方向位置を3次元測定器等にてそれぞれ測定する。この測定結果に基づいて、上フランジ40の最内周部及び最外周部の平均厚みti40、to40を算出する。
そして、上記した最内周部の平均高さHi38、Hi40、及び平均厚みti38、ti40に基づいて、磁気テープTが全量巻き回された状態での対向間隔Dfiが算出される。また、最外周部の平均高さHo38、Ho40、及び平均厚みTo38、To40に基づいて、磁気テープTが全量巻き回された状態での対向間隔Dfoが算出される。すなわち、
Dfi = Hi40 − Hi38 − ti38 − ti40
Dfo = Ho40 − Ho38 − to38 − to40
とされる。
【0049】
さらに、エッジクリアランスCeの各部の間隔D(すなわち、最大間隔である最外周部のDo)は、磁気テープTの幅方向外端部に設定されたエッジガードバンドTgの幅Wg(図4参照)以下とされている。したがって、エッジガードバンドTgの幅Wgが0.46mm以上である場合には、上記の通り
0.18mm ≦ Do ≦ 0.46mm
とされるが、エッジガードバンドTgの幅Wgが0.46mm未満の場合には、該幅WgがエッジクリアランスCeの最外周部の間隔Doの上限とされる。例えば、幅Wgが0.45mmとされた場合は、
0.18mm ≦ Do ≦ 0.45mm
とされる。
【0050】
エッジガードバンドTgについて補足すると、図5に示される如く、磁気テープTは、情報が記録されるデータ領域Tdの幅方向外側に隣接してサーボ信号が記録されたサーボバンドTsが設定されている。エッジガードバンドTgは、サーボバンドTsの幅方向外側に隣接して設定されている。図示は省略するが、サーボバンドTs及びエッジガードバンドTgは、磁気テープTの幅方向両側に設定されている。
【0051】
また、上記の内外の対向間隔Dfi、Dfoの設定により、下フランジ38、上フランジ40の間隔Dfは、内周側よりも外周側で広くなるテーパ形状とされている。この実施形態では、下フランジ38、上フランジ40の各磁気テープT側の面である上面38U、下面40Lのそれぞれがテーパ面とされている。この実施形態では、対向間隔Dfoは対向間隔Dfiに対しそれぞれの中心値の比較で0.28mmすなわち上下各0.14mmずつ広くされている。すなわち、下フランジ38の上面38Uと上フランジ40の下面40Lとは略上下対称のテーパ面とされている。
【0052】
そして、記録テープカートリッジ10では、下フランジ38の上面38U及び上フランジ40の下面40Lは、対向間隔Dfの拡大率が内周側から外周側に向かうほど大きくなるテーパ形状とされている。具体的には、下フランジ38、上フランジ40の径方向外側への単位移動量drあたりの対向間隔Dfの変化量dDfである対向間隔Dfの拡大率(dDf/dr)が、内周側よりも外周側で大きい、磁気テープT側に凸の凸曲面とされている。すなわち、下フランジ38の上面38U及び上フランジ40の下面40Lは、それぞれ図3に示される如く、軸方向及び径方向に沿った断面視で、それぞれの内外縁を直線状に結んだ仮想線IL(拡大率一定のテーパ形状)に対し、磁気テープT側に突出している。
【0053】
ここで、上下フランジ38、40の対向間隔Dfの拡大率(dDf/dr)の実測方法(一例)について補足する。下フランジ38の上面38U、上フランジ40の下面40Lのそれぞれについて、径方向に沿って複数の測定点が配置される測定点列を設定する。下フランジ38と上フランジ40とで各測定点列の周方向の位置は、一致させても異ならせても良い。測定点列には、最内周部から最外周部(近傍)まで所定間隔dr(例えば1mm)毎に測定点が配置される。下フランジ38の上面38U、上フランジ40の下面40Lのそれぞれについて、各測定点の軸方向位置を測定する。径方向に隣接する測定点の軸方向位置の差分(軸方向との直交面である所定の基準面からの隣接する測定点の高さの差分としても良い)を所定間隔drで除して、径方向の各位置での対向間隔Dfの拡大率(dDf/dr)を算出する。なお、対向間隔Dfの拡大率(dDf/dr)は、下フランジ38、上フランジ40の摺方向の複数箇所で測定しても良い。なお、以上説明した対向間隔Dfの拡大率(dDf/dr)の実測は、リール11から磁気テープTを巻き出して除去した状態で、3次元測定器等にて測定すれば良い。
【0054】
また、下フランジ38の上面38U及び上フランジ40の下面40Lのそれぞれは、中心線平均粗さRaで評価される表面粗さが0.5μm以上でかつ2μm以下(0.5μm≦Ra≦2μm)とされている。上記の通りGFRPにて構成された下フランジ38、上フランジ40は、射出成形後に機械加工等を施すことなく、上面38U、下面40Lの表面粗さRaが0.5μm≦Ra≦2μmとされている。
【0055】
次に、実施の形態の作用を説明する。
【0056】
上記構成の記録テープカートリッジ10では、図7に示すように、不使用時には、圧縮コイルスプリング58の付勢力によって、ブレーキ部材55が回転ロック位置に位置して制動ギヤ部55Bを係合ギヤ44に噛合させている。このため、リール11は、ケース12に対する回転が阻止されている。このとき、リール11のリールギヤ42がギヤ開口20から露出すると共に、クラッチ部材60のクラッチ本体62が貫通孔50に挿通されてギヤ開口20に臨んでいる。
【0057】
一方、磁気テープTを使用する際には、記録テープカートリッジ10を矢印A方向に沿ってドライブ装置のバケット(図示省略)へ装填する。そして、記録テープカートリッジ10がバケットに所定深さまで装填されると、バケットは下降し、ドライブ装置の回転シャフト100がケース12のギヤ開口20に向かって相対的に接近(上方へ移動)してリール11を保持する。具体的には、回転シャフト100は、マグネット104によって非接触でリールプレート54を吸着保持しつつ、その駆動ギヤ102をリールギヤ42と噛合させる。
【0058】
このリールギヤ42と駆動ギヤ102との噛合、即ちケース12に対する回転シャフト100の軸線方向近接側の相対移動に伴って、回転シャフト100の軸心部がクラッチ部材60のクラッチ本体62に当接し、圧縮コイルスプリング58の付勢力に抗してクラッチ部材60を上方に押し上げる。これにより、クラッチ部材60に当接しているブレーキ部材55も上方に移動し、ブレーキ部材55の制動ギヤ部55Bと係合ギヤ44との噛合が解除される。
【0059】
すなわち、ブレーキ部材55は、リール11に対する相対的な回転許容位置へ達する。回転シャフト100がさらに上方に移動すると、リール11は、クラッチ部材60、ブレーキ部材55と共に(相対位置を変化させないまま)圧縮コイルスプリング58の付勢力に抗して上方に持ち上げられる。これにより、記録テープカートリッジ10では、ブレーキ部材55が絶対的な(ケース12に対する)回転許容位置へ達すると共に、下フランジ38が環状リブ22から離間する。以上により、図8に示される如く、リール11は、ケース12内で浮上して、ケース12の内面と非接触状態で回転可能となる。また、詳細説明は省略するが、バケット、即ち記録テープカートリッジ10のドライブ装置内での下降によって、記録テープカートリッジ10は、ドライブ装置に対し水平方向及び鉛直方向に位置決めされる。
【0060】
すると、ドライブ装置の引出手段が、その引出ピン(図示省略)をリーダブロック30に係合させつつ、該リーダブロック30をケース12から抜き出してドライブ装置の巻取リールに誘導する。そしてさらに、リーダブロック30は、巻取リールに嵌入されて、磁気テープTを巻き取る巻取面の一部を構成する。この状態で、リーダブロック30が巻取リールと一体に回転すると、磁気テープTが巻取リールのリールハブに巻き取られつつ開口18を通じてケース12から引き出される。
【0061】
このとき、記録テープカートリッジ10のリール11は、リールギヤ42に噛合する駆動ギヤ102によって伝達される回転シャフト100の回転力によって、巻取リールと同期して回転する。そして、ドライブ装置の所定のテープ経路に沿って配設された記録再生ヘッドによって、磁気テープTへの情報の記録、又は磁気テープTに記録された情報の再生がなされる。このとき、ケース12に対して回転不能であるブレーキ部材55は、リール11と共にケース12に対して回転するクラッチ部材60と摺接している。
【0062】
一方、磁気テープTがリール11に巻き戻されてリーダブロック30がケース12の開口18近傍に保持されると、記録テープカートリッジ10が装填されたバケットを上昇させる。すると、リールギヤ42と駆動ギヤ102との噛合が解除されると共に、回転シャフト100とクラッチ部材60との当接が解除され、クラッチ部材60が圧縮コイルスプリング58の付勢力によってブレーキ部材55と共に(当接状態を維持しつつ)下方へ移動する。
【0063】
これにより、クラッチ部材60の各ストッパリブ68がストッパ溝70の底面に当接すると共に、ブレーキ部材55の制動ギヤ部55Bが係合ギヤ44と噛合する。すなわち、ブレーキ部材55がケース12に対してリール11の回転を阻止する回転ロック位置へ復帰する。また、ブレーキ部材55とクラッチ部材60とが圧縮コイルスプリング58の付勢力によって移動する動作に伴って、リール11も下方へ移動して、その下フランジ38を環状リブ22に当接させつつリールギヤ42をギヤ開口20から露出させる初期状態に復帰する。この状態で、記録テープカートリッジ10は、バケットから排出される。
【0064】
ところで、上記の通りリールギヤ42に噛み合わされた駆動ギヤ102によって回転駆動されるリール11には、トルクの一部が軸方向に対し傾斜された噛み合い面42E、102Eにおいて軸方向の力(スラスト力)に変換される。すなわち、リール11には、回転シャフト100側に向けて作用する圧縮コイルスプリング58の付勢力と、該付勢力に抗するトルク伝達に伴うスラスト力とが作用することなり、リールは軸方向の変動を生じつつ回転することとなる。
【0065】
このため、磁気テープTは、幅方向に変動しつつ走行することとなる。この変動のうち、所定の周期以上の変動についてはドライブ装置のヘッドがサーボバンドTsのサーボ信号に基づいて追従(位置補正)するために、情報の記録又は再生に影響はない。一方、磁気テープTの幅方向の変動のうち、ヘッドが追従できない成分がPES(Position Error Signal)とされる。したがって、PES(ヘッドが追従できない変動の振幅)は小さいことが望まれる。従来、PESはフランジと磁気テープTとの接触に起因して悪化するものであり、PES対策としてはエッジクリアランスCeの間隔Dを広げることが考えられていた。
【0066】
これに対して、本出願人は、エッジクリアランスが小さいほど、PESを抑制することができるとの新規の知見を得た。この点について、PESの測定結果を示す図6を参照しつつ説明する。図6は、本発明には含まれない2種類のテスト用リールTR1、TR2を用いて、PESを実測した結果を示している。横軸は、上下一対のフランジ間隔(磁気テープTを巻き回さない状態での間隔)とされ、縦軸はPES実測値とされている。
【0067】
テスト用リールTR1は、磁気テープTを巻き回さない状態で
Dfi = 12.985mm 、 Dfo = 13.318mm
とされている。また、テスト用リールTR2は、磁気テープTを巻き回さない状態で
Dfi = 12.783mm 、 Dfo = 13.081mm
とされている。これらテスト用リールTR1、TR2の上下フランジの対向面は、互いの対向間隔の拡大率が一定のテーパ形状とされている。なお、TR1、TR2は、上記した上下のフランジに係る寸法形状を除き、リール11と同様に構成されている。
【0068】
したがって、図6は、上下フランジの対向間隔Dfが12.783〜13.081の範囲でテスト用リールTR2のPESの実測値を示し、対向間隔Dfが12.985〜13.138の範囲でテスト用リールTR1のPESの実測値を示す。より具体的には、その対向間隔Dfの部分に巻かれていた磁気テープTの部分がPES測定用のセンサを通過する位置(ヘッドの近傍)際のPESが示されている。
【0069】
この図6から、上下のフランジ対向間隔Dfが相対的に小さいテスト用リールTR2のPESがテスト用リールTR1のPESよりも小さく抑えられていることが分かる。また、同じテスト用リールTR1、TR2においても、上下のフランジ対向間隔Dfが相対的に小さい内周側で外周側よりもPESが抑えられていることが分かる。以上説明した知見は、特許文献1〜4の何れにも開示されていない。特許文献4について補足すると、この文献の構成では、リールの鍔部の間隔を規定し、走行する磁気テープをドライブ側のガイドローラのフランジに確実に沿わせることで、PESを小さくしている。一方、本出願人が得た知見によれば、ドライブ装置側のガイドローラにフランジがある場合、及び該フランジがない場合の何れにおいても、図6に示される如く対向間隔Dfが相対的に小さいほどPESが小さく抑えられる。この点は実験的に確かめられている。
【0070】
そして、記録テープカートリッジ10では、上記した通り、エッジクリアランスCeの間隔Dは製造上及び使用上要求される最小限(に近い)値として設定されている。このため、記録テープカートリッジ10では、磁気テープTの走行(リール11の回転)に伴って生じるPESが小さく抑えられる。
【0071】
しかも、記録テープカートリッジ10では、下フランジ38の上面38U、上フランジ40の下面40Lは、対向間隔Dfの拡大率が内周側から外周側へ向かうほど大きくなるテーパ形状とされ、仮想線ILに対し磁気テープT側に突出している。この特有の構成によって、仮想線ILに沿った拡大率一定とされたテーパ形状の一対のフランジを備えた比較例と比較して、下フランジ38の上面38U、上フランジ40の下面40Lと磁気テープTとのエッジクリアランスCeの間隔Dを小さくすることができる。換言すれば、製造(量産)上の要求及び使用(テープの巻き取り、巻き出し)上の要求により最外周部の間隔Doの下限に制約を受ける構成において、エッジクリアランスCeの間隔Dが小さい部分が上下のフランジ38、40の外周側に広げられている。
【0072】
これにより、記録テープカートリッジ10は、径方向の広い範囲でエッジクリアランスCeの間隔Dが小さくなり、PESが小さく抑えられる。また、磁気テープTの全長に亘るPESの平均値も小さく抑えられることとなり、記録テープカートリッジ10の信頼性の向上に寄与する。
【0073】
特に、磁気テープTにおける相対的に内周側に巻かれていた部分については、リール11からの巻き出しに伴う巻き圧の低下によって、全量巻き回し状態に対して上下のフランジの対向間隔Dfが広がるために、実走行時のエッジクリアランスCeの間隔Dが大きくなる。この場合でも、下フランジ38の上面38U、上フランジ40の下面40Lが上記形状とされているため、上下のフランジの対向間隔Dfが広がった後のエッジクリアランスCeの間隔Dが小さく、PESが小さく抑えられる。
【0074】
このように、本実施形態に係る記録テープカートリッジ10では、磁気テープTの走行時のPESを小さく抑えることができる。
【0075】
また、記録テープカートリッジ10では、下フランジ38の上面38U及び上フランジ40の下面40Lの表面粗さが0.5μm≦Ra≦2μmとされている。これにより、磁気テープTの走行時のPESをさらに小さく抑えることができる。すなわち、上記の通りエッジクリアランスCeの間隔Dを小さくした構成では、磁気テープTは下フランジ38の上面38U及び上フランジ40の下面40Lと接触(摺動)しながら走行する。ここで、上記表面粗さを0.5μm以上とすることで、磁気テープTと下フランジ38、40との摩擦を低減することができ、磁気テープTのPESが小さく抑えられる。一方、上記表面粗さを2.0μm以下とすることで、上面38U、下面40Lの表面粗さ(凸凹)に起因するPESの悪化を抑制することができる。
【0076】
さらに、リール11は、高弾性材料であるGFRPにて下フランジ付ハブ部材72、上フランジ部材74が構成されているので、磁気テープTの巻き圧によるリールハブ32、下フランジ38、上フランジ40自体の変形が抑制される。このため、磁気テープTの全量巻き回し状態で上記外周側間隔Do、Dfo、Dfiを精度良く得ることができ、上記の通りPESを小さく押さえることに寄与する。
【0077】
特に、円筒部34の一端に底部36が設けられると共に他端が開口端とされたリールハブ32は、該開口端側の剛性が底部36側に対し不足しやすいが、リールハブ32の構成材料よりも高弾性の材料にて構成された上フランジ40が円筒部34の開口端に固着されている。このため、円筒部34の開口端側が上フランジ40にて補強され、リールハブ32、下フランジ38、上フランジ40自体の変形が一層効果的に抑制される。また、軸方向の両側で変形の程度の差が小さくなる。これらにより、円筒部34への磁気テープTの巻き姿が安定し、これによってPESを一層小さく押さえることに寄与する。
【0078】
さらに、上記した通り記録テープカートリッジ10では、エッジクリアランスCeの間隔Dが磁気テープTにおけるエッジガードバンドTgの幅Wg以下とされている。このため、磁気テープTの巻き乱れ等により図2に示される如く磁気テープTの一枚飛び出しTzが生じた場合において、磁気テープTのサーボバンドTsに折れが生じることが防止又は効果的に抑制される。すなわち、記録テープカートリッジ10の運搬や落下により一枚飛び出しTzの周囲の部分が下フランジ38に当たると、一枚飛び出しTzには折れが生じる。ここで、エッジクリアランスCeの間隔Dが磁気テープTにおけるエッジガードバンドTgの幅Wg以下とされているため、一枚飛び出しTzはエッジガードバンドTgの範囲内とされ、折れが生じる部位もエッジガードバンドTgの範囲内とされる。このため、ドライブ装置のヘッドによるサーボ信号の読み取り不良であるサーボエラーの発生が抑制される。
【0079】
特に、記録テープカートリッジ10では、上の通り下フランジ38の上面38U、上フランジ40の下面40Lが仮想線ILに対し磁気テープT側に突出するテーパ形状を有する。すなわち、エッジクリアランスCeの間隔DがエッジガードバンドTgの幅Wgに対し十分に小さい範囲がリール11の径方向に広く設定されている。このため、エッジガードバンドTgに生じる折れが生じる場合であっても、該折れは、サーボバンドTsから磁気テープTの幅方向に離れた部位に生じることとなる。これにより、エッジガードバンドTgの折れがヘッドに対するサーボバンドTsの接触状態に影響を与えにくくなり、サーボエラーの発生が一層効果的に抑制される。
【0080】
なお、上記した実施形態では、上記した各実施形態では、リールハブ32に下フランジ38が一体に成形された下フランジ付ハブ部材72に上フランジ部材74を接合する例(所謂2ピース構造)を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、リールハブ32の開口端側に上フランジ40が一体に形成されると共に他端側に別部材とされた下フランジ38が接合される構成としても良い。また例えば、有底円筒状のリールハブ32に上フランジ部材74及び下フランジ38(を含む部材)を接合する構成(所謂3ピース構造)としても良い。
【0081】
また、上記した実施形態では、リールハブ32、下フランジ38、上フランジ40を構成する材料としてガラス繊維を含有するポリカーボネイトを用いた例を示したが、本発明はこれに限定さない。例えば炭素繊維強化樹脂(CFRP)等の各種材料を用いることができることは言うまでもない。
【0082】
さらに、上記した実施形態では、上フランジ部材74が下フランジ付ハブ部材72よりも高弾性の材料にて構成された例を示したが、本発明はこれに限定さない。例えば、上フランジ部材74が下フランジ付ハブ部材72と同等の弾性率を有する材料にて構成されても良い。また例えば、上フランジ部材74が下フランジ付ハブ部材72よりも低弾性の材料にて構成されても良い。この場合、例えば円筒部34の開口端側を金属リング等の補強部材にて補強する構造とすることが好ましい。
【0083】
またさらに、上記した実施形態では、リールギヤ42が軸方向に対し傾斜された噛み合い面42Eを有し、該リールギヤ42と駆動ギヤ102との噛み合いによりリール11のドライブ装置に対する軸方向位置が決まる例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、リール11が、リールギヤ42以外の部分に、回転シャフト100の位置決め部と当たってライブ装置に対する軸方向位置基準となる基準部を有する構成としても良い。
【0084】
また、上記した実施形態では、エッジクリアランスCeの間隔DがエッジガードバンドTgの幅Wg以下である例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、エッジクリアランスCeの間隔DがエッジガードバンドTgの幅Wgを上回る構成であっても良い。さらに、エッジガードバンドTgが磁気テープTの幅方向両側に設定された構成には限定されず、例えば巻き回し状態で磁気テープTが片寄せられる側にはエッジガードバンドTgを設定しない構成としても良い。
【0085】
さらに、上記した実施形態では、下フランジ38の上面38Uと上フランジ40の下面40Lとが上下対称に形成された例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、下フランジ38の上面38Uと上フランジ40の下面40Lとが非対称形状とされた構成としても良い。この場合、下フランジ38の上面38U及び上フランジ40の下面40Lの何れか一方が軸方向に対する直交面に沿った形状(テーパなし形状)とされても良い。また、下フランジ38の上面38U及び上フランジ40の下面40Lの何れか一方が、径方向及び軸方向に沿った断面視で内外縁を直線状に結んだ(テーパレート一定の)テーパ形状とされても良い。
【0086】
またさらに、本発明における上下のフランジは、互いの対向間隔Dfの拡大率が最内周側から最外周側に向けて連続的に大となる構成には限られない。例えば、下フランジ38の上面38U、上フランジ40の下面40Lの少なくとも一方について、対向間隔Dfの拡大率Aが一定の円錐面とされた部分の径方向外側に、拡大率B(>A)が一定の円錐面とされた部分が配置される構成(2つの複合円錐面)としても良い。また、下フランジ38の上面38U、上フランジ40の下面40Lの少なくとも一方が3つ以上の円錐面からなる複合円錐面として構成されても良い。
【0087】
その他、本発明は、その用紙を逸脱しない範囲で各種変形して実施可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0088】
10 記録テープカートリッジ
11 リール
32 リールハブ
38 下フランジ(一対のフランジの一方又は他方)
40 上フランジ(一対のフランジの他方又は一方)
42 リールギヤ(被駆動ギヤ)
102 駆動ギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハブと、
前記ハブに巻き回された記録テープと、
前記ハブの軸方向両端に互いに対向して設けられ、前記記録テープが前記ハブに対し全量巻き回された状態で該記録テープの最外周部との前記軸方向に沿った間隔が0.18mm以上0.46mm以下であり、かつ互いの対向間隔が内周側よりも外周側の方が拡大されると共に、外周側へ向かうほど互いの対向間隔の拡大率が大となる一対のフランジと、
を備えた記録テープカートリッジ。
【請求項2】
前記軸方向に対し傾斜した噛み合い面においてドライブ装置側の駆動ギヤに回転伝達可能に噛み合わされることで、該ドライブ装置に対する前記ハブの軸方向の位置が決まるように、前記ハブ又は前記一対のフランジの一方に構成された被駆動ギヤをさらに備えた請求項1記載の記録テープカートリッジ。
【請求項3】
前記一対のフランジの少なくとも一方における前記記録テープ側の面の表面粗さが、中心線平均粗さで0.5μm以上でかつ2μm以下とされている請求項1又は請求項2記載の記録テープカートリッジ。
【請求項4】
前記ハブ及び前記フランジは、繊維強化樹脂にて構成されている請求項1〜請求項3の何れか1項記載の記録テープカートリッジ。
【請求項5】
前記ハブは、軸方向の一端側が開口されると共に他端側が閉止された有底円筒状を成しており、
前記一対のフランジのうち前記ハブの他端側に位置するフランジは、前記ハブを構成する材料と同等以上の弾性率を有する材料にて構成されると共に該ハブの他端部に一体化されている請求項4記載の記録テープカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−248253(P2012−248253A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120683(P2011−120683)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【特許番号】特許第4964343号(P4964343)
【特許公報発行日】平成24年6月27日(2012.6.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)