説明

記録ディスク駆動装置およびその樹脂部品

【課題】難燃性に優れると共に、アウトガスが少ない、記録ディスク駆動装置の内部で使用される樹脂部品、および、該樹脂部品を使用した信頼性の高い記録ディスク駆動装置を提供する。
【解決手段】記録ディスク駆動装置1の内部で使用される樹脂部品であって、モータ2の引き出し線を回路基板に接続するときに該引き出し線を保護する絶縁ブッシュ9、記録ディスク7に対する情報の読み出しまたは書き込みを行なうために、ピックアップヘッド3aが先端に設けられたスイングアーム3を駆動させるコイルと一体成形されてスイングアーム3との重量バランスを持たせるためのキャリッジ4、または、ピックアップヘッド3aを記録ディスク停止時に退避させるためのランプ5であり、非結晶性樹脂、結晶性樹脂、または液晶性樹脂の樹脂成形体であり、該樹脂成形体は、所定の測定によるアウトガスが30ppm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ディスク駆動装置に関し、特に記録ディスク駆動装置の内部で使用される樹脂部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブなどの記録ディスク駆動装置は、記録密度が高まるにつれ、その内部は、埃はもちろん、各部品の材料から発生するアウトガスやイオンコンタミのない非常に厳しいクリーン度が要求されようになっている。また、内部の部品に要求される特性として、難燃性規格「UL94 V0」があり、この特性を満足するために従来はリン系難燃剤が配合されたポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)材料が使用されている。しかし、この難燃剤に起因となるアウトガスが発生するという問題がある。
【0003】
記録ディスク駆動装置のハウジングにポリイミド(以下、PIと略称する)、ポリアミドイミド(以下、PAIと略称する)、ポリエーテルエーテルケトン(以下、PEEKと略称する)、ポリフェニレンサルファイド(以下、PPSと略称する)、液晶性(以下、LCPと略称する)樹脂等の樹脂材料に炭素繊維と無機繊維のうち少なくとも何れか一方を充填材として配合された樹脂製ハウジングが知られている(特許文献1参照)。
【0004】
記録ディスク駆動装置内に組み込まれる絶縁ブッシュの構造として、モータのステータを固定する固定部材に形成された導出穴の内部をカバーする筒状部が設けられた絶縁ブッシュの構造が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
記録ディスク駆動装置におけるデータの読み書き手段として、ピックアップ磁気ヘッドを備えたスイングアームをディスク表面の半径方向に移動させ、任意のトラック位置でデータの読み書きを行なうスイング式のハードディスクキャリッジが知られている(特許文献3参照)。このハードディスクキャリッジは、環状のボイスコイルと、ボイスコイルおよびキャリッジ部品を一括封止する成形樹脂の所定の位置に凹部が設けられ、凹部に高比重の硬化した溶融材料が充填されて、バランサーとして機能するハードディスクキャリッジである。
【0006】
記録ディスク駆動装置用のピックアップ磁気ヘッドがディスク停止時に退避させる樹脂部品としてハードディスクドライブ用ランプがある。この樹脂部品として、ポリオキシメチレン樹脂に酸化亜鉛、酸化チタン、金属複合酸化物、酸化鉄、群青、コバルトブルー、焼成顔料、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラックからなる群から選ばれる無機顔料を配合して、アウトガスが20μg/g以下であり、アウトガス中の有害成分が0.3μg/g以下のポリオキシメチレン樹脂製ハードディスクドライブ用ランプが知られている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−46430号公報
【特許文献2】特開平7−322543号公報
【特許文献3】特開2009−211776号公報
【特許文献4】特開2011−74396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、難燃性規格を満たした上でアウトガスの発生が少ない樹脂材料の選定が困難であるという問題がある。例えば、リン系難燃添加剤を添加したPBT樹脂は難燃性規格「UL94 V−0」を満足するが、成形時の樹脂温度で適正な設定温度の幅が狭いため、アウトガスの発生が顕著に増加するという問題がある。
【0009】
また、記録ディスク駆動装置の記録密度が高まるにつれ、記録ディスク駆動装置内での各部品の配置が密になるという問題がある。例えばステータコイルからの引き出し線を導く絶縁ブッシュは、その導出穴も引き出し線に対して狭くなるなど厳しい配置となる。
【0010】
ディスク内のアウトガスを抑えるために、ステータコイルの巻線は従来滑剤として使用されてきた表面パラフィンの塗布を行なわないパラフィンフリーのポリウレタン線などが使用されるようになっている。このポリウレタン線は線径が0.001〜0.5mm程度であり、極細線である。このため、特に絶縁ブッシュの樹脂材料は難燃性および低アウトガス性が求められると共に、上記ステータコイルからの引き出し線が絶縁ブッシュで傷つき易くなるという問題を解決する必要がある。
【0011】
また、ハードディスクキャリッジはボイスコイルと一体成形される。ボイスコイルは、成形条件やアウトガスの種類によっては表面に微小クラックなどの絶縁劣化が生じる場合がある。このため、記録ディスク駆動装置の記録密度が高まるにつれ、樹脂材料の選定にあたり、樹脂材料の絶縁特性と共に、記録ディスク駆動装置内の絶縁材料の絶縁性を維持することがより重要となる。
【0012】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、難燃性に優れると共に、アウトガスが少ない、記録ディスク駆動装置の内部で使用される樹脂部品、および、該樹脂部品を使用した信頼性の高い記録ディスク駆動装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の樹脂部品は、記録ディスク駆動装置の内部で使用されるものであり、(1)モータの引き出し線を回路基板に接続するときに上記引き出し線を保護する絶縁ブッシュ、(2)記録ディスクに対する情報の読み出しまたは書き込みを行なうために、ピックアップヘッドが先端に設けられたスイングアームを駆動させるコイルと一体成形されて該スイングアームとの重量バランスを持たせるためのキャリッジ、または、(3)上記ピックアップヘッドを記録ディスク停止時に退避させるためのランプである。この樹脂部品は、非結晶性樹脂、結晶性樹脂、またはLCP樹脂の樹脂成形体であり、該樹脂成形体は、容積20mlの密閉容器内に5gの上記樹脂成形体を空気中で封入して、温度120℃、時間20時間放置後の条件でヘッドスペースガスクロマトグラフ法を用いて測定した該樹脂成形体のアウトガスが30ppm以下であることを特徴とする。特に、上記樹脂部品が、絶縁ブッシュであることを特徴とする。
【0014】
また、上記樹脂成形体の二次転移点が85℃以上であることを特徴とする。ここで、二次転移点は示差走査熱量測定(DSC)法により測定される二次転移点である。
【0015】
また、上記非結晶性樹脂が、ポリカーボネート(以下、PCと略称する)樹脂であることを特徴とする。また、上記結晶性樹脂がPPS樹脂、ポリアミド(以下、PAと略称する)樹脂、PEEK樹脂、およびPI樹脂から選ばれた少なくとも1つの樹脂であることを特徴とする。また、上記LCP樹脂が芳香族ポリエステル樹脂であることを特徴とする。特に芳香族ポリエステル樹脂がp−ヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシビフェニル、およびベンゼンジカルボン酸由来の繰り返し単位を含む共重合体であることを特徴とする。
【0016】
また、樹脂成形体が、無機充填剤を配合してなる絶縁体であることを特徴とする。特に、無機充填剤が繊維状または燐片状充填剤であることを特徴とする。
【0017】
また、上記樹脂成形体の荷重たわみ温度(1.8MPa)が、120℃以上であることを特徴とする。また、上記樹脂成形体の樹脂材料は、ISO1133に準拠して300℃/1.2kg荷重で測定したメルトボリュームレートが5cm/10min.以上であることを特徴とする。
【0018】
本発明の記録ディスク駆動装置は、記録ディスクを回転させるモータと、このモータの引き出し線を回路基板に接続するときに上記引き出し線を保護する絶縁ブッシュと、上記記録ディスクに対する情報の読み出しまたは書き込みを行なうために、ピックアップヘッドが先端に設けられたスイングアームを駆動させるコイルと一体成形されて上記スイングアームとの重量バランスを持たせるためのキャリッジと、上記ピックアップヘッドを記録ディスク停止時に退避させるためのランプと、上記モータ、上記絶縁ブッシュ、上記キャリッジおよび上記ランプを収容するハウジングとを備えてなる記録ディスク駆動装置であって、上記絶縁ブッシュ、上記キャリッジ、および上記ランプの少なくとも1つが、本発明の樹脂部品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の記録ディスク駆動装置は、ハウジング内に配置される樹脂部品である絶縁ブッシュ、キャリッジ、およびランプの少なくとも1つが、非結晶性樹脂、結晶性樹脂、またはLCP樹脂の樹脂成形体であり、かつ、樹脂成形体のアウトガスが30ppm以下であるので、ますます高密度化が進む記録ディスク駆動装置の信頼性が向上する。また、上記樹脂成形体は、無機充填剤が配合されること等により、機械的強度の向上と共に難燃性規格「UL94 V−0」を満足する成形体として得られる。
【0020】
また、上記樹脂成形体の荷重たわみ温度(1.8MPa)が、120℃以上であるので、該成形体が絶縁ブッシュである場合に、エポキシ系接着剤による封止(加熱)時に、熱変形などを防止できる。
【0021】
また、上記樹脂成形体の樹脂材料は、メルトボリュームレートが5cm/10min.以上であるので、樹脂の流動性に優れ、ハイサイクル成形が可能となる。この結果、製品コストの低減が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】記録ディスク駆動装置の上面カバーを取り外した斜視図である。
【図2】モータ部分の拡大縦断面図である。
【図3】絶縁ブッシュの拡大平面図である。
【図4】スイングアームと一体成形されたキャリッジの拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の樹脂部品(樹脂成形体)は、記録ディスク駆動装置の内部で使用される、(1)絶縁ブッシュ、(2)キャリッジ、または、(3)ランプである。本発明の樹脂部品を用いた記録ディスク駆動装置を図1により説明する。図1は記録ディスク駆動装置の上面カバーを取り外した斜視図である。記録ディスク駆動装置1は、樹脂ハウジング6内に、モータ2に固定されているディスク7を回転させつつ、ディスク7からの情報の読み出しおよびディスク7への情報の書き込みをスイングアーム3の先端に設けられたピックアップヘッド3aを介して行なうディスク装置である。また、スイングアーム3を軸3bを中心に遥動させるためのコイル4aが一体成形されたキャリッジ4が、スイングアーム3との重量バランスを持たせるために設けられている。さらに、このピックアップヘッド3aをディスク7の停止時に退避させるためのランプ5が、樹脂ハウジング6内に設けられている。
【0024】
図2は流体動圧軸受を軸受として有するスピンドルモータ2部分の拡大縦断面図である。モータ2は、記録ディスク駆動装置1のハウジング6に固定されるベース2aと、ディスク7を装着して中心軸2bを中心として回転する回転部2cとを備えている。ベース2aにはステータコア2d、コイル2e、および回転軸2bを支える軸受部2fを有している。ステータコア2dおよびコイル2eは、駆動電流に応じて磁束を発生させる磁束発生部として機能し、モータ2を構成する。コイル2eは、ステータコア2dの周囲に巻回された巻線により構成され、コイル2eからの引き出し線8は、絶縁ブッシュ9に設けられた貫通孔9aを経てベース2aに設けられている回路基板10に接続されている。絶縁ブッシュ9は、アルミ製ブラケットに圧入されている。
【0025】
絶縁ブッシュ9の拡大平面図を図3に示す。絶縁ブッシュ9は、半円環平板9c上に円弧状に沿って貫通孔9aを有する4個の筒状部9bが樹脂の一体成形により形成されている。絶縁ブッシュ9は、ベース2aのコイル2eの下部分に2個設けられることにより、ステータコア2dの位置に対応する部分に、全周にわたって取り付けられている。コイル2eからの引き出し線8は、貫通孔9aの内側を通って導出され、回路基板10に接続される。
【0026】
絶縁ブッシュ9は、引き出し線8を電気的に保護するための絶縁体としての性質と、引き出し線8を取り回しするときの伸びを抑えるなど機械的に保護する性質とを有している。さらに、ステータコア2dの周囲に巻回されたウレタン線などの巻線および引き出し線8に加えられる機械的応力により、ウレタン線などの皮膜は微小クレーズの発生などの環境劣化を受けやすくなっている。その場合、樹脂成形体からのアウトガスが多くなると巻線などの絶縁劣化が促進されやすくなるため、絶縁ブッシュ9に使用される樹脂成形体はアウトガスの少ない樹脂成形体が求められている。
【0027】
ピックアップヘッドが先端に設けられたスイングアームと一体成形されたキャリッジの拡大斜視図を図4に示す。キャリッジ4はスイングアーム3と一体成形されている。また、キャリッジ4にはボイスコイル4aが一体に設けられている。ボイスコイル4aはウレタン線などの巻線が巻回されている。そのため、キャリッジ4に用いられる樹脂成形体も、上記絶縁ブッシュ9に使用される樹脂成形体と同様に、アウトガスの少ない樹脂成形体が求められている。
【0028】
記録ディスク駆動装置1に用いられる樹脂成形体として、図1に示すように、ピックアップヘッド3aを記録ディスク7停止時に退避させるためのランプ5がある。この樹脂成形体は、記録ディスク7停止時にピックアップヘッド3aが退避するため、ピックアップヘッド3aを汚染させるアウトガスの少ない樹脂成形体が求められている。
【0029】
本発明の樹脂部品を構成する樹脂成形体は、ヘッドスペースガスクロマトグラフ法を用いて測定した該樹脂成形体のアウトガスが30ppm以下である。より好ましくは20ppm以下であり、さらに好ましくは15ppm以下である。アウトガスが30ppmをこえると、記録ディスク駆動装置としての耐久性が低下する。無機充填剤などの添加剤を配合する場合には、これらの添加剤が配合された樹脂組成物を成形した樹脂成形体として、上記アウトガス量を満たすものである。
【0030】
本発明の樹脂部品におけるアウトガスは、より詳細には、以下に示すヘッドスペース−GC/MSの方法で測定されるアウトガスの値である。材料となる樹脂組成物を、該樹脂組成物の最適成形温度で金型を用いて絶縁ブッシュ、キャリッジおよびランプの形状にそれぞれ成形する。内径20mm、高さ70mmのガラス容器(容積20ml)を準備する。この容器に納まるように得られた成形体5gを切断して、空気中で封入して、温度120℃、時間20時間放置する。試料とガラス容器上部の空間(ヘッドスペース)との間における揮発ガス成分の平衡または定常状態が達成された後、気相成分の一定量を採取して、GC/MSへ導入してアウトガス量を測定する。測定値はガラス容器に含まれる濃度として算出する。
【0031】
また、アウトガスとしては、シロキ酸、硫化物、硫黄、ハロゲン化物のガスが好ましくない。このため、シロキ酸系ガスを発生しやすいシリコーン系樹脂および配合剤は使用することが好ましくない。
【0032】
本発明の樹脂部品を構成する樹脂成形体は、アウトガスが30ppm以下であると共に、二次転移点が85℃以上であることが好ましい。二次転移点が85℃未満であると使用時の寸法安定性に劣る。
【0033】
本発明の樹脂部品である、絶縁ブッシュ9、キャリッジ4、またはランプ5に使用できる、非結晶性樹脂、結晶性樹脂、または液晶性樹脂の樹脂成形体について説明する。
【0034】
非結晶性樹脂としては、PC樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニルサルフォン樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの中でも、コスト面で有利であることから、PC樹脂を使用することが好ましい。
【0035】
PC樹脂は、ビスフェノールなどのジヒドロキシ化合物とホスゲンとの反応、ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとの反応により得られる。PC樹脂としては、芳香族PC樹脂が好ましく、特にビスフェノール型芳香族PC樹脂が好ましい。また、PC樹脂は、難燃剤として、リン系・ハロゲン系の難燃剤を配合せずに、例えば、有機アルカリ金属塩、有機アルカリ土類金属塩、PTFE樹脂などを配合し、難燃性を改良した難燃性PC樹脂を用いることが好ましい。難燃性PC樹脂の市販品としては、帝人化成社製の商品名「パンライト」MN4800シリーズなどが挙げられる。
【0036】
結晶性樹脂としては、PPS樹脂、PA樹脂、PEEK樹脂、および/またはPI樹脂が挙げられる。
【0037】
PPS樹脂は、分子構造により、架橋型、半架橋型、直鎖型、分岐型等などのタイプがあるが、本発明ではこれらの分子構造や分子量に限定されることなく使用できる。PPS樹脂の市販品としては、東ソー社製#160、DIC社製T4AGなどが挙げられる。
【0038】
PA樹脂としては、芳香族PA樹脂が好ましく、PA9T樹脂、PA6T樹脂、ポリアミドMXD−6樹脂などが挙げられる。
【0039】
PEEK樹脂は、ベンゼン環がパラの位置で、カルボニル基とエーテル結合によって連結された化学構造を持つ結晶性の熱可塑性樹脂である。PEEK樹脂の市販品としては、例えば、ビクトレックス社製PEEK(90P、150P、380P、450Pなど)、ソルベイアドバンストポリマーズ社製キータスパイア(KT−820P、KT−880Pなど)、ダイセルデグザ社製VESTAKEEP(1000G、2000G、3000G、4000Gなど)などが挙げられる。
【0040】
PI樹脂は、分子構造の繰り返し単位中に、熱的特性、機械的強度等に優れたイミド基が芳香族基を取り囲みながらも、熱などのエネルギーが加えられることにより適度な溶融特性を示すエーテル結合部分を複数個有する構造の熱可塑性ポリイミド樹脂が好ましい。そのようなPI樹脂の市販品としては、三井化学社製の商品名「オーラム(AURUM)」などが挙げられる。
【0041】
LCP樹脂としては、芳香族ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステルイミド樹脂、または芳香族ポリエステルアミド樹脂が挙げられる。この中でも、芳香族ポリエステル樹脂が好ましく、特にp−ヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシビフェニル、およびベンゼンジカルボン酸由来の繰り返し単位を含む共重合体が好ましい。このようなLCP樹脂としては、住友化学工業社製の商品名「スミカスーパーLCP」E4000、E5000、E6000シリーズなどが挙げられる。
【0042】
また、LCP樹脂として、以下の方法で製造されるパウダー状LCPを好適に使用することができる。攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸 994.5g(7.2モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニル 446.9g(2.4モル)、テレフタル酸 299.0g(1.8モル)、イソフタル酸 99.7g(0.6モル)および無水酢酸 1347.6g(13.2モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で30分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。その後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から280℃まで5時間かけて昇温し、280℃で3時間保持し、固相で重合反応を進めた。これにより、流動開始温度が327℃のパウダー状LCPが得られる。
【0043】
樹脂成形体は、樹脂単体ではなく、無機充填剤を配合した樹脂成形体であることが好ましく、特に無機充填剤を配合した絶縁体であることが好ましい。無機充填剤は、アウトガスの発生を抑えることができるため好ましい。
【0044】
無機充填剤としては、繊維状または燐片状充填剤が、成形性に優れるため好ましい。繊維状充填剤としては、ガラス繊維、ウィスカなどが挙げられる。これらの繊維状充填剤は、単独で使用しても複数種類を併用してもよい。
【0045】
ガラス繊維の市販品としては、例えば、旭ファイバーグラス社製ミルドファイバー(MF06JB1−20、20JJH1−20、06MW2−20、20MH2−20他)、セントラルガラス社製ミルドファイバー(EFH75−01、EFH100−31、EFH150−01、EFH150−31、EFDE50−01他)などが挙げられる。
【0046】
ウィスカとしては、ウォラストナイトウィスカ、硫酸カルシウムウィスカ、炭酸カルシウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカ、ホウ酸アルミニウムウィスカ、ホウ酸マグネシウムウィスカ、酸化チタンウィスカ、窒化ケイ素ウィスカ、炭化ケイ素ウィスカ、アルミナウィスカ、火成岩を溶融し加工精製した鉱物繊維などが挙げられる。
【0047】
燐片状充填剤としては、ガラスフレーク、窒化ホウ素などが挙げられる。これらの燐片状充填剤は、単独で使用しても複数種類を併用してもよい。また、無機充填剤として、繊維状充填剤と燐片状充填剤とを併用してもよい。
【0048】
また、無機系の固体潤滑剤として二硫化モリブデンを、あるいは有機系の固体潤滑剤としてPTFE樹脂などを含んでもよい。これらの固体潤滑剤を配合することで、成形時の流動性が向上し、また、絶縁ブッシュとして用いるときに、引き出し線の取り回し性が向上する。
【0049】
無機充填剤の配合割合は、樹脂組成物体全体に対して、15〜50重量%であることが好ましい。より好ましくは、15〜35重量%である。15重量%未満では樹脂成形体の寸法安定効果や補強効果が十分でなく、50重量%をこえると成形時の樹脂材料の流動性が十分に確保できない。
【0050】
本発明の樹脂部品は、特に絶縁ブッシュを対象としている。絶縁ブッシュとする場合、難燃性PC樹脂(ガラス繊維含まない)またはLCP樹脂(ガラス繊維含む)の樹脂成形体であることが好ましい。ここで、絶縁ブッシュをアルミ製ブラケットに圧入する際、LCP樹脂において、ガラス繊維が樹脂組成物体全体に対して35重量%をこえて含まれる場合、靱性が不足し、圧入時に折損が発生するおそれがある。また、ガラス繊維の量が少なくなると、圧入時に圧入バリが発生しやすくなる。一方、上記PC樹脂は、靱性を有し、圧入時にもバリが発生しにくく、圧入時の折損も発生しない。このため、アルミ製ブラケットの精度が悪い場合等には、特に上記PC樹脂を採用することが好ましい。
【0051】
また、絶縁ブッシュは、アルミ製ブラケットに装着された後にエポキシ系接着剤で封止する。この際、120℃に加熱される。加熱時において熱変形、熱収縮を防止するため、樹脂成形体の荷重たわみ温度(1.8MPa)は120℃以上であることが好ましい。なお、荷重たわみ温度(1.8MPa)は、ASTM D−648に準拠し1.8MPa荷重において測定したもの、または、ISO75−1およびISO75−2に準拠し1.8MPa荷重において測定したものである。
【0052】
本発明の樹脂部品は、製品コストを下げるため、成形サイクルの短縮化を図るべく、その樹脂成形体の樹脂材料について、ISO1133に準拠して300℃/1.2kg荷重で測定したメルトボリュームレート(MVR)が5cm/10min.以上であることが好ましい。MVRが上記未満であると、樹脂材料の流動性を十分に確保できず、成形サイクルの短縮化が図れないおそれがある。
【0053】
LCP樹脂にガラス繊維を、樹脂組成物全体に対して40重量%配合した樹脂組成物(住友化学工業社製の商品名「スミカスーパーLCP E6800MR」)を用いて、図3に示す形状の絶縁ブッシュを得た。この樹脂成形体について上記測定方法(120℃、20時間)でアウトガスを測定したところ30ppm以下であった。なお、80℃、3時間では、0.5ppm程度であった。樹脂成形体の二次転移点は120〜150℃であり、荷重たわみ温度は250℃以上であった。得られた絶縁ブッシュを用いた記録ディスク駆動装置は、コイルの絶縁劣化、および情報の読み出しまたは書き込み精度に経時的変化がみられず安定していた。また、この絶縁ブッシュは、難燃性規格「UL94 V−0」を満足した。
【0054】
難燃性PC樹脂(帝人化成社製の商品名「パンライト MN4800」)を用いて、図3に示す形状の絶縁ブッシュを得た。この樹脂成形体について上記測定方法(120℃、20時間)でアウトガスを測定したところ30ppm以下であった。なお、80℃、3時間では、0.4〜0.5ppm程度であった。樹脂成形体の二次転移点は145〜150℃であり、荷重たわみ温度は122℃であった。MVRは7cm/10min.である。得られた絶縁ブッシュを用いた記録ディスク駆動装置は、コイルの絶縁劣化、および情報の読み出しまたは書き込み精度に経時的変化がみられず安定していた。また、この絶縁ブッシュは、難燃性規格「UL94 V−0」を満足した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の記録ディスク駆動装置は、アウトガスが少なく信頼性が向上するので、ますます高密度化が進む記録ディスク駆動装置に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 記録ディスク駆動装置
2 モータ
3 スイングアーム
4 キャリッジ
5 ランプ
6 樹脂ハウジング
7 ディスク
8 引き出し線
9 絶縁ブッシュ
10 回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録ディスク駆動装置の内部で使用される樹脂部品であって、
前記樹脂部品が、モータの引き出し線を回路基板に接続するときに前記引き出し線を保護する絶縁ブッシュ、記録ディスクに対する情報の読み出しまたは書き込みを行なうために、ピックアップヘッドが先端に設けられたスイングアームを駆動させるコイルと一体成形されて前記スイングアームとの重量バランスを持たせるためのキャリッジ、または、前記ピックアップヘッドを記録ディスク停止時に退避させるためのランプであり、
非結晶性樹脂、結晶性樹脂、または液晶性樹脂の樹脂成形体であり、
前記樹脂成形体は、容積20mlの密閉容器内に5gの前記樹脂成形体を空気中で封入して、温度120℃、時間20時間放置後の条件でヘッドスペースガスクロマトグラフ法を用いて測定した該樹脂成形体のアウトガスが30ppm以下であることを特徴とする記録ディスク駆動装置の樹脂部品。
【請求項2】
前記樹脂成形体の二次転移点が、85℃以上であることを特徴とする請求項1記載の記録ディスク駆動装置の樹脂部品。
【請求項3】
前記樹脂部品が、前記絶縁ブッシュであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の記録ディスク駆動装置の樹脂部品。
【請求項4】
前記非結晶性樹脂が、ポリカーボネート樹脂であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の記録ディスク駆動装置の樹脂部品。
【請求項5】
前記液晶性樹脂が、芳香族ポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の記録ディスク駆動装置の樹脂部品。
【請求項6】
前記芳香族ポリエステル樹脂が、p−ヒドロキシ安息香酸、ジヒドロキシビフェニル、およびベンゼンジカルボン酸由来の繰り返し単位を含む共重合体であることを特徴とする請求項5記載の記録ディスク駆動装置の樹脂部品。
【請求項7】
前記結晶性樹脂が、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、およびポリイミド樹脂から選ばれた少なくとも1つの樹脂であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の記録ディスク駆動装置の樹脂部品。
【請求項8】
前記樹脂成形体が、無機充填剤を配合してなる絶縁体であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項記載の記録ディスク駆動装置の樹脂部品。
【請求項9】
前記無機充填剤が、繊維状または燐片状充填剤であることを特徴とする請求項8記載の記録ディスク駆動装置の樹脂部品。
【請求項10】
前記樹脂成形体の荷重たわみ温度(1.8MPa)が、120℃以上であることを特徴とする請求項3ないし請求項9のいずれか1項記載の記録ディスク駆動装置の樹脂部品。
【請求項11】
前記樹脂成形体の樹脂材料は、ISO1133に準拠して300℃/1.2kg荷重で測定したメルトボリュームレートが5cm/10min.以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項記載の記録ディスク駆動装置の樹脂部品。
【請求項12】
記録ディスクを回転させるモータと、このモータの引き出し線を回路基板に接続するときに前記引き出し線を保護する絶縁ブッシュと、前記記録ディスクに対する情報の読み出しまたは書き込みを行なうために、ピックアップヘッドが先端に設けられたスイングアームを駆動させるコイルと一体成形されて前記スイングアームとの重量バランスを持たせるためのキャリッジと、前記ピックアップヘッドを記録ディスク停止時に退避させるためのランプと、前記モータ、前記絶縁ブッシュ、前記キャリッジおよび前記ランプを収容するハウジングとを備えてなる記録ディスク駆動装置であって、
前記絶縁ブッシュ、前記キャリッジ、および前記ランプの少なくとも1つが、請求項1記載の樹脂部品であることを特徴とする記録ディスク駆動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−33577(P2013−33577A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−107754(P2012−107754)
【出願日】平成24年5月9日(2012.5.9)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】