説明

記録ヘッド及び記録ヘッドの製造方法

【課題】記録素子基板側の電極端子とリード端子との間の結合部が一旦加熱されて冷却された際に応力が生じても、結合部での信頼性の低下が抑えられる記録ヘッドを提供すること。
【解決手段】本発明の記録ヘッドは、電極パッド106とインナーリード105とがスタッドバンプ107を介して接続されている。電極パッド106とスタッドバンプ107との間の接続は、電極パッド106とスタッドバンプ107とが接触した状態で超音波振動が接続部に第一の方向に印加されることで行われている。そして、インナーリード105とスタッドバンプ107との間の接続は、インナーリード105とスタッドバンプ107とが接触した状態で超音波振動が接続部に第一の方向に交差する第二の方向に印加されることで行われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録ヘッド及びその製造方法に関し、特に、記録素子基板の電極端子とそれに対応するリード端子とを接続する記録ヘッドの製造方法及びその製造方法によって製造される記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、記録ヘッドからインク滴を吐出して記録を行うインクジェット記録装置が急速に普及している。このようなインクジェット記録装置は小型化が容易であり、また比較的簡単にカラー記録を行うことができるなどの利点を有している。
【0003】
インクジェット記録装置に用いられる記録ヘッドの製造方法において、スタッドバンプを介して電極端子としての電極パッドとフレキシブルフィルム配線基板とを電気的に接続する方法が知られている。この方法では、電極パッド上に配置されたバンプを介して、電極パッドと、TABやFPC等のフレキシブルフィルム配線基板に形成されている配線とが電気的に接続される。
【0004】
図4は、このようなフレキシブルフィルム配線基板を用いたインクジェット記録ヘッドの一例を示す図である。図4(a)は平面図であり、図4(b)は図4(a)のB−B線に沿う断面図である。
【0005】
図4(a)、(b)において、101はシリコン等からなる記録素子基板であり、ウエハの状態から個別にダイシングにより切り出されたものである。102はその内部の電気配線パターンとなるリード端子としてのインナーリード105が形成されたフレキシブルフィルム配線基板である。これらの記録素子基板101及びフレキシブルフィルム配線基板102が支持部材110に高精度に位置決めされて配置されている。フレキシブルフィルム配線基板102には記録素子基板101を固定する長方形のデバイスホール103が形成されている。また、フレキシブルフィルム配線基板102の上面には、ポリイミド等の絶縁性の樹脂からなる平板状のベースフィルム104が形成されている。インナーリード105は、ベースフィルム104の下に銅箔等の導電性材料からなる金属箔を接着し、フォトリソグラフィ技術を用いて所望の形状をパターンニングする事で得られる。パターンニング後のインナーリード105の表面には金や錫やハンダ等のメッキ処理が行なわれ、更に金属面を露出したくない領域にはレジスト層108等により被覆保護される。このとき、配線電極や、本体接続用電極パッド等も形成される。
【0006】
インナーリード105は、フレキシブルフィルム配線基板102からデバイスホール103の開口内に延びて形成されている。記録素子基板101の表面には、複数の電極パッド106が形成されている。電極パッド106は、スタッドバンプ107を介して、デバイスホール103の開口内に延びて存在しているインナーリード105の先端部と電気的に接続されている。
【0007】
電極パッド106には、予め金属により形成されたスタッドバンプ107が配置されて接続される。スタッドバンプ107による端子との接続は、スタッドバンプ107の結合部が溶融され、その後スタッドバンプ107が端子に接触した状態でその結合部が固化して一体化することで行われる。
【0008】
スタッドバンプは、記録素子基板がウエハの状態のときに、記録素子基板の電極パッド上に配置されて結合される。それから、直径数十ミクロンの金ワイヤに放電を行うことで金ワイヤの先端部分をボール状にし、そのボール状にした金ワイヤの先端部分を金ワイヤから離間させることで電極パッド上に配置する。このとき、金ボールにはバンプツールを介して超音波振動が加えられながらスタッドバンプが電極パッド上に配置される。このように、電極パッド上に金ボールが一つずつ形成されるシングルバンプ方式と呼ばれる方式がある。また、これとは別に、電極パッド上にスタッドバンプを形成する方法として、金メッキにより記録素子基板の全ての電極パッド上に一括でバンプを形成するギャングボンディング方式がある。これらの方式によって、スタッドバンプ107が電極パッド上に配置されると、スタッドバンプ107に対応した位置に、これから接続するインナーリード105を位置させる。そして、その状態で支持部材110にフレキシブルフィルム配線基板を接着固定する。その後にインナーリード105の上方よりボンディングツールを用いて、インナーリード105とスタッドバンプ107が接合される。これによりインナーリード105と電極パッド106とが電気的に接続される。通常このような接続方法はILB(Inner Lead Bonding)と呼ばれている。
【0009】
このように、ILBの方式としては、シングルポイントボンディング方式とギャングボンディング方式との二つの方式が良く知られている。これらのILBの方式は、どちらの方式においてもインナーリード105とスタッドバンプ107との少なくともいずれかが高温に加熱されて溶融された状態で両者の間の接続が行われる。これらの間の接続を、表面が金メッキされたインナーリード105と金のポールから形成されたスタッドバンプ107とを用いてギャングボンディング方式で行う場合には、ボンディングツールの温度は500℃前後まで加熱することが必要とされる。また、これらの間の接続を上述したようなシングルポイントボンディング方式によって行う場合には、ボンディングツールを200℃前後の温度に加熱することが必要とされる。
【0010】
そして、スタッドバンプとインナーリードが一旦加熱されて高温になった後に冷却されて常温に戻されると、高温となることによって一旦膨張した結合部分が冷却されて収縮する。ここで、結合する部材同士で熱膨張係数を比較すると、絶縁性有機樹脂を主体とするベースフィルム104や銅を主体とするインナーリード105の熱膨張係数は、シリコン等からなる記録素子基板101の熱膨張係数に比べてはるかに大きい。従って、加熱した状態で記録素子基板101の電極パッド106上に形成されたスタッドバンプ107とインナーリード105を接続し、その後常温まで冷却されると、冷却後に応力が生じ、その応力が接続部に作用する虞がある。
【0011】
この応力が電極パッド106とスタッドバンプ107との接合強度もしくは、スタッドバンプ107とインナーリード105との接合強度を上回った時には、接合部分に剥がれを生じさせる。すなわち、この応力によりインナーリード105と電極パッド106の接続部の信頼性が低下する虞がある。
【0012】
特に、インクジェット記録ヘッドのような高い位置精度を要求される装置における実装の場合には、記録素子基板101を支持部材110に精度良く固定されることが必要とされている。従って、前述のような残留応力が結合部に残った場合には、それぞれの部材の位置精度を高く保てない虞がある。
【0013】
このような課題を解決するために、特許文献1には、図5(a)、(b)、(c)に示されるように、インナーリードが変形し易い形状に形成されている記録ヘッドが提案されている。このようにインナーリードが変形し易いような形状に形成されることで、応力が生じたとしてもインナーリードが弾性変形することによってその応力を吸収している。これにより、結合部が加熱されて冷却された際に生じる応力によって結合部の信頼性を低下させ、また、部材の位置精度を低下させることを抑えることができる。
【0014】
【特許文献1】特開2005−101546号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に開示されている記録ヘッドは、変形を許容する形状とするために、インナーリードの幅を一部小さくし、インナーリードと電極パッドとの接合部以外の領域の断面積を小さくしている。インナーリードの幅を小さくすることでスタッドバンプと電極パッドの接合面以外の領域の断面積を小さくすると、その部分の電気的な抵抗が大きくなる。そのため、記録を行う際にインクジェット記録ヘッドにおける記録素子を駆動させるために通電を行うと、その度にその部分が加熱される。従って、記録が長期間継続して行われた場合、インナーリードに過度の熱が発生する可能性がある。また、加熱された状態でインナーリードが変形を繰り返すので、インナーリードの耐久性が低下する虞がある。このように、インナーリードが変形することにより電気的な接続部での応力が吸収されたとしても、インナーリード自体が変形を繰り返していることから、インナーリードの耐久性が低下する虞が生じる。また、インナーリードの形状が変形し易く複雑になることで、フレキシブルフィルム配線基板を実装する際の工程で、インナーリードを変形させてしまうことも考えられる。さらに、インナーリードの形状が複雑になることで、フレキシブルフィルム配線基板を製造するコストが上昇する虞がある。
【0016】
さらに、近年ではインクジェット記録装置の小型化が進められている。そのため、記録素子基板の小型化や高集積化が行なわれている。その分電極パッドの大きさが小さくなり、電極パッド間のピッチも狭くなってきている。従って、インナーリードの幅もそれに伴い狭くなってきている。これにより、通電の際にインナーリードに生じる熱がさらに高まる虞がある。
【0017】
また、一方で、電極パッドの信頼性の低下について、インナーリードとフレキシブルフィルム配線基板の熱膨張差により発生している以外に、結合部に印加される超音波振動の方向が関係していることが分かっている。
【0018】
図6(a)には記録素子基板にスタッドバンプを配置して結合させる際に、ウエハ内に複数の記録素子基板が並べられた際のウエハについての平面図が示されている。また、図6(b)には、記録素子基板に形成された電極パッド及びその上に配置されたスタッドバンプの平面図が示されている。図6(c)には、記録素子基板上に配置されたスタッドバンプのC−C線に沿う断面図が示されている。また、図7(a)には、超音波振動の方向が示された記録素子基板の平面図が示されている。また図7(b)には、超音波振動によって上部が平滑化されたスタッドバンプ107のB−B線に沿う断面図が示されている。図8にはスタッドバンプとインナーリードをILBによって接合されている際の平面図が示されている。
【0019】
図6(b)に示されるように、ウエハ内に、パターニングによって複数配置されている記録素子基板の電極パッド106上に、シングルポイント方式でスタッドバンプ107が形成されて接合される。その際、記録素子基板101の長手方向に沿ってスタッドバンプ107に超音波振動が印加される。その後、スタッドバンプ107の頭頂部を平滑化するためのレベリングが行われる。その際にも、図7に示されるように、スタッドバンプ形成時と同様に記録素子基板の長手方向に沿ってスタッドバンプ107に超音波振動が印加される。その後インナーリード105とスタッドバンプ107がILBにより接合される。ILBによるスタッドバンプ107とインナーリード105との間の結合の際にも、図8に示されるように、記録素子基板の長手方向に超音波振動が印加される。
【0020】
これらの工程を経て、記録素子基板101とフレキシブルフィルム配線基板102が電気的に接続される。このときに電気的な接続に用いられる超音波振動は、一般に、全ての工程で記録素子基板101の長手方向に沿って同じ方向に行われる。従って、記録素子基板101に超音波振動による接合後の冷却時に生じる応力と前述の熱膨張差による結合部での応力とが相まって電極パッドに比較的大きな応力が生じる可能性がある。そのため、インナーリードの形状を変形し易い形状とし、これによって冷却時に残った応力を吸収することとしても、超音波振動による接続の後に生じる応力によって吸収可能な分の応力を上回り記録ヘッドの信頼性を低下させる虞がある。
【0021】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、記録素子基板側の電極端子とリード端子との間の結合部が一旦加熱されて冷却された際に応力が生じても、結合部での信頼性の低下が抑えられる記録ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の記録ヘッドによれば、吐出口から液体を吐出するために当該液体にエネルギーを付与する記録素子と、前記記録素子に電気エネルギーを伝送するために前記記録素子から延びている配線の端部に形成されている電極端子と、前記記録素子を駆動させるための駆動信号の伝送を行うために前記電極端子に対応して配置されたリード端子とを有する記録ヘッドにおいて、前記電極端子と前記リード端子とがバンプを介して接続されており、前記電極端子と前記バンプとの間の接続は、前記電極端子と前記バンプとが接触した状態で超音波振動が接続部に第一の方向に印加されることで行われ、前記リード端子と前記バンプとの間の接続は、前記リード端子と前記バンプとが接触した状態で超音波振動が接続部に前記第一の方向に交差する第二の方向に印加されることで行われることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の記録ヘッドの製造方法によれば、吐出口から液体を吐出するために当該液体にエネルギーを付与する記録素子と、前記記録素子に電気エネルギーを伝送するために前記記録素子から延びている配線の端部に形成されている電極端子と、前記記録素子を駆動させるための駆動信号の伝送を行うために前記電極端子に対応して配置されたリード端子とを有し、前記電極端子と前記リード端子とがバンプを介して接続された記録ヘッドを製造する記録ヘッドの製造方法において、前記電極端子と前記バンプとが接触した状態で超音波振動を接続部に第一の方向に印加して前記電極端子と前記バンプとの間の接続を行う電極端子接続工程と、前記リード端子と前記バンプとが接触した状態で超音波振動を接続部に前記第一の方向に交差する第二の方向に印加して前記リード端子と前記バンプとの間の接続を行うリード端子接続工程とを具えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、記録素子基板側の電極端子とリード端子との間の結合部での信頼性が向上されるので、結果的に信頼性の向上された記録ヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
【0026】
本実施形態の記録ヘッドは、インクジェット記録装置に適用され、記録媒体に対して液体としてのインクを吐出する。この記録ヘッドの構成について図1を参照して説明する。この記録ヘッドは、液室に貯留されるインクを吐出するためにインクにエネルギーを付与する記録素子203が設けられた記録素子基板101と、この記録素子基板101に接合されるオリフィスプレート201とを備えている。オリフィスプレート201は、インクとしての液滴を吐出する複数の吐出口202を有している。また、オリフィスプレート201が記録素子基板101に接合されることによって吐出口202が連通するエネルギー作用室として内部にインクを貯留可能な液室204及びこれに連通するインク流路等が形成される。液室204の内部空間を画成する壁のうち記録素子基板101の内部には、記録素子203が埋設されている。そして、記録素子203の駆動によって液室204の内部で気泡を発生させ、その発泡圧によって吐出口202から液室204に貯留されるインクが吐出される。また、記録素子基板101には、オリフィスプレート201に接する主面からその反対側の裏面にかけて記録素子基板101を貫通するようにインク供給口205が形成されている。
【0027】
図2に示されるように、記録素子基板101には、インクを吐出するための電気エネルギーを伝送するために記録素子203から延びている配線の端部に形成されている電極端子としての電極パッド106が形成されている。また、電極パッド106に対応した位置には、記録素子203を駆動させるための駆動信号の伝送を行うために配置されたリード端子としてのインナーリード105が形成されている。本実施形態では、電極パッド106とインナーリード105とがバンプとしてのスタッドバンプ107を介して接続されている。
【0028】
本実施形態の記録ヘッドの製造方法について図2(a)、(b)、(c)に基づいて説明する。図2(a)は本実施形態のスタッドバンプ107が電極パッド106に結合される際の記録素子基板101を示す平面図である。図2(b)は、スタッドバンプ107の頭頂部を平滑化するレベリングが行われた後の、スタッドバンプ107及び記録素子基板101を示す平面図である。図2(c)は、スタッドバンプ107とインナーリード105とをILBによって接合する際の電極パッド106とインナーリード105との接合部を示す平面図である。
【0029】
本実施形態では、まず、複数の記録素子基板101がウエハ内に形成されている段階で電極パッド106とスタッドバンプ107との接続が行われる(電極端子接続工程)。本実施形態では、電極端子接続工程では、電極パッド106がウエハ内に形成されている。ウエハ内に複数パターニングにより配置された記録素子基板101の電極パッド106に、シングルポイント方式でスタッドバンプ107を形成し接続する。その際に、ウエハ内の全ての領域で図2(a)の矢印で示す通り、振動方向を記録素子基板101の長手方向に対し60度の角度を付けた状態で超音波振動を結合部に印加する。このように、電極端子接続工程としての電極パッド接続工程で、電極パッド106とスタッドバンプ107とが接触した状態で超音波振動を接続部へ第一の方向に印加して電極パッド106とスタッドバンプ107との間の接続を行う。
【0030】
本実施形態では、電極パッド接続工程でスタッドバンプ107が電極パッド106に接続されるのは、電極パッド106がウエハ内に形成されている段階である。そして、ウエハ内の全ての電極パッド106とスタッドバンプ107との間の接続部に対して超音波振動が第一の方向に印加される。本実施形態では、このようにウエハ内の全ての記録素子基板101について一括して電極パッド106とスタッドバンプ107との接続が行われるので、記録ヘッドの製造工程が短縮化される。
【0031】
次に、本実施形態では後述するバンプ形成工程が行われる。バンプ形成工程が行われている際のスタッドバンプ107と電極パッド106との結合部についての平面図を図2(b)に示す。
【0032】
その後、スタッドバンプ107が形成された記録素子基板101が、ダイシングにより個別に切り出される。そして取り出された記録素子基板101が、支持部材に対して高精度に位置決めが行われて配置される。
【0033】
そして次に、リード端子接続工程としてのインナーリード接続工程で、インナーリード105とスタッドバンプ107とが接触した状態で接続部に超音波振動を第二の方向に印加してインナーリード105とスタッドバンプ107との間の接続を行う。ここで、第二の方向は、第一の方向に交差する方向である。このとき、図2(c)に示されるように、インナーリード105の上方よりボンディングツールを用いて、インナーリード105とスタッドバンプ107をILBで接合させる。ILB時の超音波振動方向は、図2(c)の矢印で示す通り記録素子基板101の長手方向とする。このとき、フレキシブルフィルム配線基板102におけるインナーリード105の中心が記録素子基板101の電極パッド中心と重なるような位置で、フレキシブルフィルム配線基板102と記録素子基板101とが接合される。
【0034】
ここで、電極端子接続工程とインナーリード接続工程との間のバンプ形成工程について説明する。本実施形態では、電極端子接続工程でスタッドバンプ107が電極パッド106に接続された後にスタッドバンプ107の頭頂部を平滑化するために超音波振動と荷重をスタッドバンプ107に与えてレベリングを行なう。このように、スタッドバンプ107は、超音波振動が印加されて所定の形状に形成される。そして、スタッドバンプ107を所定の形状とするために印加される超音波振動は、第一の方向及び第二の方向に交差する第三の方向に印加される。このとき、ウエハ内の全ての領域で図2(b)の矢印で示す方向に、超音波振動が行われる。すなわち、本実施形態では、超音波振動は、記録素子基板101の長手方向に対し120度傾けた方向に行われる。これにより、ウエハ内の全ての領域で、スタッドバンプ107と電極パッド106との間の接続時における超音波振動と、レベリングの際の超音波振動の方向が交差する。このように、電極端子接続工程の後のバンプ形成工程で、電極パッド106に接続されたスタッドバンプ107に、第一の方向及び第二の方向に交差する第三の方向に超音波振動を印加してスタッドバンプ107を所定の形状に形成する。
【0035】
本実施形態では、記録素子基板101の長手方向に沿った方向を基準とすると、第一の方向は、基準とした記録素子基板101の長手方向から60度傾いた方向である(図2(a))。また、第三の方向は、第一の方向から基準の方向に対してさらに60度傾いた方向である(図2(b))。また、第二の方向は、第三の方向から基準の方向に対してさらに60度傾いた方向である(図2(c))。
【0036】
これにより、本実施形態では、スタッドバンプと電極パッドとの接続・スタッドバンプのレベリング・ILBと三回の超音波振動をスタッドバンプ107及び結合部に対して印加する。その際に、三回の超音波振動の方向はそれぞれ60°の角度を持って交差するので、応力の生じる方向が集中せずに交差する。従って、それぞれの工程で生じた応力の方向が分散される。それに伴い応力が集中することが抑えられて記録ヘッドの信頼性が向上する。
【0037】
本実施形態における記録ヘッドは、上記のように記録素子基板101の電極パッド106とフレキシブルフィルム配線基板102のインナーリード105とが接続されて製造される。従って、本実施形態の記録ヘッドは、電極パッド106とインナーリード105とがスタッドバンプ107を介して接続されている。そして、電極パッド106とスタッドバンプ107との間の接続は、電極パッド106とスタッドバンプ107とが接触した状態で超音波振動が接続部に第一の方向に印加されることで行われている。そして、インナーリード105とスタッドバンプ107との間の接続は、インナーリード105とスタッドバンプ107とが接触した状態で超音波振動が接続部に第一の方向に交差する第二の方向に印加されることで行われている。
【0038】
また、記録ヘッドの製造の際には、スタッドバンプ107は、超音波振動が印加されて所定の形状に形成される。そして、スタッドバンプ107を所定の形状とするために印加される超音波振動は、第一の方向及び第二の方向に交差する第三の方向に印加されて行われている。
【0039】
図3は、通常用いられている超音波出力よりも高い値の設定による超音波出力で超音波振動が印加されてILBを行なった後に、インナーリードを引っ張り上げ、クレタリングの発生率を確認した際の比較結果である。ここで、クレタリングは、電極パッドとインナーリードとの間で電気的な接続が行われている部分で生じる破壊のことをいうものとする。この試験は、無負荷の状態からインナーリードを引っ張り上げる力を徐々に増加させ、電極パッドとインナーリードとの間の電気的な接続が分断されるまで行われる。そして、そのときに電極パッド、スタッドバンプ及びインナーリードの間の接続部分が破壊されている場合にはクレタリングが発生したものとする。これに対して、これらの間の接続部分以外の部分が破壊されたとき、例えば、インナーリードにおける接続部分以外の部分等が破壊されている場合には、クレタリングは発生していないものとする。図3のテーブルでは、本実施形態における電極パッドとインナーリードとの電気的な接続が行われた場合と、従来方式による接続が行われた場合とで、プル試験が行われた際のクレタリングの発生率を比較している。
【0040】
通常よりも強い超音波出力でILBが行われた場合、通常の超音波振動が印加される場合よりも大きな応力が残ると考えられるが、本実施形態のように超音波振動を印加する方向を一回ごとに変えることで、応力のかかる方向が分散される。従って、本実施形態の記録ヘッドでは、通常よりも強い超音波出力でILBが行われた場合であっても、この条件では、従来の方式の記録ヘッドと比較して約半分のクレタリングの発生率に抑えることが可能となっている。
【0041】
なお、本発明の記録ヘッドは、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に搭載可能である。そして、この記録ヘッドを用いることによって、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど種々の記録媒体に記録を行うことができる。なお、本明細書内で用いられる「記録」とは、文字や図形などの意味を持つ画像を記録媒体に対して付与することだけでなく、パターンなどの意味を持たない画像を付与することも意味することとする。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の一実施形態に係る記録ヘッドに適用される記録素子基板及びオリフィスプレートの一部を破断した斜視図である。
【図2】(a)〜(c)は、図1の記録素子基板がフレキシブル配線フィルムに電気的に接続されて記録ヘッドが製造される際の工程を説明する説明図である。
【図3】図2で記録素子基板とフレキシブル配線フィルムとが電気的に接続されて製造される記録ヘッドの接続部において、プル試験が行われた際のクレタリング率を従来の接続方法と比較して示したテーブルである。
【図4】(a)は、従来の方法によって記録素子基板がフレキシブル配線フィルムに電気的に接続された記録ヘッドの平面図であり、(b)は、(a)のB−B線に沿う断面図である。
【図5】(a)〜(c)は、従来の別の形態によって記録素子基板とフレキシブル配線フィルムとが電気的に接続される接続部の平面図である。
【図6】(a)〜(c)は、従来の方法によって記録素子基板上にスタッドバンプを配置する際の工程を説明する説明図である。
【図7】(a)は、従来の方法における電極パッドとスタッドバンプとを接続する際に、接続部へ印加する超音波振動の方向を示した平面図であり、(b)は、スタッドバンプの上部が平滑化された際の接合部のB−B線に沿う断面図である。
【図8】従来の方法におけるインナーリードとスタッドバンプとを接続する際に、接続部へ印加する超音波振動の方向を示した平面図である。
【符号の説明】
【0043】
101 記録素子基板
105 インナーリード
106 電極パッド
107 スタッドバンプ
202 吐出口
203 記録素子
204 液室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出口から液体を吐出するために当該液体にエネルギーを付与する記録素子と、
前記記録素子に電気エネルギーを伝送するために前記記録素子から延びている配線の端部に形成されている電極端子と、
前記記録素子を駆動させるための駆動信号の伝送を行うために前記電極端子に対応して配置されたリード端子と
を有する記録ヘッドにおいて、
前記電極端子と前記リード端子とがバンプを介して接続されており、
前記電極端子と前記バンプとの間の接続は、前記電極端子と前記バンプとが接触した状態で超音波振動が接続部に第一の方向に印加されることで行われ、
前記リード端子と前記バンプとの間の接続は、前記リード端子と前記バンプとが接触した状態で超音波振動が接続部に前記第一の方向に交差する第二の方向に印加されることで行われることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項2】
前記バンプは、超音波振動が印加されて所定の形状に形成され、
前記バンプを所定の形状とするために印加される超音波振動は、前記第一の方向及び前記第二の方向に交差する第三の方向に印加されることで行われることを特徴とする請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】
吐出口から液体を吐出するために当該液体にエネルギーを付与する記録素子と、
前記記録素子に電気エネルギーを伝送するために前記記録素子から延びている配線の端部に形成されている電極端子と、
前記記録素子を駆動させるための駆動信号の伝送を行うために前記電極端子に対応して配置されたリード端子とを有し、
前記電極端子と前記リード端子とがバンプを介して接続された記録ヘッドを製造する記録ヘッドの製造方法において、
前記電極端子と前記バンプとが接触した状態で超音波振動を接続部に第一の方向に印加して前記電極端子と前記バンプとの間の接続を行う電極端子接続工程と、
前記リード端子と前記バンプとが接触した状態で超音波振動を接続部に前記第一の方向に交差する第二の方向に印加して前記リード端子と前記バンプとの間の接続を行うリード端子接続工程と
を具えることを特徴とする記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記電極端子接続工程の後に、前記電極端子に接続された前記バンプに、前記第一の方向及び第二の方向に交差する第三の方向に超音波振動を印加して前記バンプを所定の形状に形成するバンプ形成工程を具え、
所定の形状に形成されたバンプが前記リード端子接続工程で前記リード端子に接続されることを特徴とする請求項3に記載の記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記電極端子接続工程では前記電極端子がウエハ内に形成されており、
前記バンプが前記電極端子に接続されるのは、前記電極端子がウエハ内に形成されている段階であり、
前記ウエハ内の全ての前記電極端子と前記バンプとの間の接続部に対して超音波振動が第一の方向に印加されることを特徴とする請求項3または4に記載の記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−704(P2010−704A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161810(P2008−161810)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】