説明

記録ヘッド基板、記録ヘッド、および記録装置

【課題】 インクジェット記録ヘッド基板の半導体特性が正常でない場合、能動素子センサが正しく機能できず、ヘッドが正常に動作していないことを検知できない。インクジェット記録ヘッド基板の温度検知を的確に判断し、インクジェット記録ヘッドの駆動制御を確実に行う手法を提案する。
【解決手段】 インクジェット記録ヘッド基板の温度を検出する素子に、原理の異なる2種類の素子(能動素子と受動素子)を適用する。受動素子で構成された温度素子には保護素子もしくは保護回路を付けず、さらに受動素子配線は他の配線と交差させないことで信頼性の高い温度検出素子とし、確実なインクジェット記録ヘッド駆動制御が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録ヘッド基板、記録ヘッド、および記録ヘッドを具備する記録装置に関するものである。特に、記録素子の数が数千個程度配置されたインクジェット方式で記録を行う記録ヘッド基板、及び記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、記録装置は印字品位の高精度化が求められている。例えばインクジェット記録ヘッド(以下記録ヘッドとも称する)は、温度とインクのドロップ径および吐出速度などとの間に密接な関係があり、これらが画像濃度に影響を与え、印字品位を左右するという特徴を有している。そのため基板温度の検出は重要な役割を占めている。
【0003】
インクジェット記録ヘッド基板(以下記録ヘッド基板とも称する)は複数のヒータを駆動する。そのため、基板温度を常に検出することで、インクの温度管理や温度状態に合わせたヒータ通電制御を行う。特許文献1のように温度特性を利用することで、記録ヘッドの吐出状態を検出することも可能である。
【0004】
また基板温度は、インクの吐出制御にフィードバックするだけでなく、記録ヘッド基板が正常動作しているか検出するためにも用いられる。例えば、規定以上の温度に達すると駆動を停止する等、温度を下げる制御に用いられる。また、記録ヘッド基板が印字開始前から温度が高い場合、その状態を検出することも必要である。
【0005】
このような記録ヘッド基板に設けられる基板温度検出素子としては、半導体製造技術によってシリコン基板上に形成できるものとして、ダイオード温度センサやアルミニウム温度センサが利用されている。ダイオード温度センサにおいては、半導体ダイオードの順方向電圧の温度特性に基づいて温度を検出し、またアルミニウム温度センサにおいては、温度変化による抵抗値の変化を基に温度を検出している。ここで、ダイオード温度センサとアルミニウム温度センサを比較すると、ダイオード温度センサの特性は製造プロセス上のばらつきなどを考慮しても安定している。それに対しアルミニウム温度センサは製造プロセス上のアルミニウム膜厚や線幅により抵抗値のばらつきが発生し、温度検出精度の観点ではダイオード温度センサのほうが優れている。また、アルミニウム温度センサの場合は抵抗を高くする必要があり、プロセスのばらつきを小さくするために線幅を太くし、アルミニウムの引き回しの距離を長く取り対応している。
【0006】
上記のようにダイオード、トランジスタのような能動素子を用いた温度センサは精度が高く、記録ヘッド基板において広く用いられている。特許文献2のように、アルミニウム温度センサとダイオード温度センサを用いた構成の事例も知られているが、双方とも端子保護の目的で半導体回路による保護素子が取り付けられているのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-178492号公報
【特許文献2】特開2009-262510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
印字品位の高精度化のために基板温度の検出は重要であると同時に、印字速度の高速化に伴い記録ヘッドの長尺化が求められてきている。記録ヘッドが長尺化すると、従来のように個々の基板複数ヵ所の温度測定ができるだけでなく、複数配置された基板が常に正常動作しているか検出できることが重要である。記録ヘッド全体の温度が低い場合でも、その中に複数配置されたうちの一つの記録ヘッド基板温度が上昇することも起こりうる。
【0009】
例えば、何らかの影響で記録ヘッド基板の半導体特性が正常とならない場合があると、ダイオード温度センサのような能動素子が正しく機能しない。さらに、半導体素子や回路が付加されたアルミニウム温度センサのような受動素子もまた正しく機能しなくなる。その結果ヘッドが正常に動作していないことを事前に検知できない場合がある。サーモスイッチのような別部品を使って温度検知することもできるが、記録ヘッド基板そのものの温度を検知するためには、インク吐出面に部品を配置する必要がある。しかし、インク吐出面に記録ヘッド基板が配置されている構成上、記録媒体と物理的に干渉するため、インク吐出面への部品設置が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成する本発明は、記録ヘッド基板において、基板の状態を検出する受動素子を具備し、この受動素子に半導体素子からなる保護素子、もしくは保護回路を持たない構成とする。
【0011】
また、受動素子の配線は、他の配線や半導体回路素子からの影響を受けにくくするため、これらと交差しない構成とする。
【0012】
さらに本構成の記録ヘッド基板を複数搭載したマルチチップ記録ヘッド構成において、基板単位で温度検知することができる構成とする。マルチチップ記録ヘッドの場合、温度センサの片側を共通接続とし、もう一方を個別温度検知素子端子として用いることで、端子数を最低限に抑えることができる。
【0013】
また本発明の記録装置は、上述した本発明の記録ヘッドを用いて温度検知、および温度制御することができる構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
構成が異なるセンサを複数個配置しているため、思いがけない原因によりセンサの1つが測定不能に陥っても他の構成のセンサにより温度測定が可能である。
【0015】
特にマルチチップ記録ヘッド構成において、各記録ヘッド基板の状態を個別に温度検知することが可能なため、印字開始前など早期に記録ヘッドの動作を確認でき、記録装置の印字処置にフィードバックすることができる。
【0016】
さらに何らかの影響で記録ヘッド基板の半導体特性が正常とならない場合においても、保護素子を持たない受動素子によって温度測定ができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のアルミニウム温度センサとダイオード温度センサの配置図
【図2】本発明のアルミニウム温度センサパッド付近の模式断面図
【図3】本発明のダイオード温度センサ模式断面図
【図4】本発明のマルチチップ記録ヘッド上のアルミニウム温度センサ配線図
【図5】本発明を適用可能なマルチチップ記録ヘッドの構成例
【図6】本発明を適用可能なマルチチップ記録ヘッドの別の構成例
【図7】本発明を適用可能な記録装置の温度測定フローチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0019】
図1は、本発明で実施の一形態、記録ヘッド基板を示す平面図である。
【0020】
記録ヘッド基板1は、シリコン半導体基板などに半導体製造技術を用いて形成されるものであり、図示した物では略矩形状を有し、中央部に、長手方向に伸びる貫通孔としてインク供給口13が形成されている。また、インク供給口13付近には記録素子14、記録素子駆動回路15、配線部16が形成されている。さらに記録ヘッド基板1には、記録装置本体部側から電源と信号とを記録ヘッド基板1に供給するためのパッド部が設けられている。
【0021】
パッド部は、複数のパッド11、12を含んでおり、ワイヤーボンディングなど電気的接続手段を用いることにより基板外に配線を引き回し、インクジェットヘッド、インクジェット記録装置(以下記録装置とも称する)と電気的に接続させるための物である。そして、原理の異なる複数の温度検出素子であるアルミニウム温度センサ4とダイオード温度センサ206がそれぞれ設けられており、インクを吐出する際の基板温度を装置本体側から検知できるようにしている。
【0022】
アルミニウム温度センサ配線は、他の配線や半導体回路素子、パッド等を避けて配置することで、これらからの影響を受けにくい構成としている。
【0023】
図2は、アルミニウム温度センサのパッド付近の模式断面図である。
【0024】
シリコン基板1上に熱酸化膜2(SiO2)とBPSG膜3を有しており、その上層にアルミニウム温度センサ4を有し、さらにその上層はSiO膜7とSiN膜8で構成される。アルミニウム温度センサ4の上下には、素子、回路、または配線を配置しない構成とする。またパッド6からも離して配置する構成とすることで、素子、回路、または配線によって起こる電荷の移動、誘導起電力等の影響を最小限に抑えることが可能である。
【0025】
図3は、ダイオード温度センサの断面図である。
【0026】
能動素子であるダイオードを温度センサとして利用することで、高い温度検出精度で温度測定ができる。例えばラッチアップ等でダイオード温度センサに異常が発生した場合は、受動素子であるアルミニウム温度センサに切り換え温度測定を実施することで、印字処理を継続することができる。
【0027】
図4は、マルチチップ記録ヘッドにおけるパッドと各チップ間のアルミニウム温度センサ配線である。本実施例では記録ヘッド基板が8個千鳥配置されている例を示す。
【0028】
マルチチップ記録ヘッドを構成する際、アルミニウム温度センサの一方の端子を共通端子として共通接続する。もう一方の検知端子を個別に配線し、共通端子と個別検知端子をモニタする。
【0029】
例えば記録ヘッドの駆動に先立って行われる電源立上げシーケンスで、この個別検知端子を巡回、もしくは同時に検知することで、制御途中でも動作確認が可能である。本動作制御は、図7に示す記録装置の動作シーケンスによって任意に制御設定が可能である。
【0030】
記録ヘッド基板の半導体特性が正常でない場合でも、記録ヘッド基板の回路部分と分離したセンサ構成のため、その現象に左右されることなく記録ヘッド基板の温度検知ができるものである。
【0031】
図5は本発明を適用可能な記録ヘッドの両面フレキシブル基板構成を示す斜視図である。両面フレキシブル基板102は、インク吐出面に記録ヘッド基板101を8個千鳥配置して電気的接続される。手法としては、ワイヤーボンディングやテープのインナーリードをボンディングする方法がある。103は記録ヘッドが記録装置本体と電気的接続を行うコンタクト部である。図5の構成の場合、記録面からコンタクト部までを位置部品で構成できるため、煩雑化しないインクジェット記録ヘッド構成として最適である。
【0032】
図6は図5で示した記録ヘッドの別の構成例である。マルチチップ記録ヘッド構成ということで、図5と同様8個の記録ヘッド基板を千鳥配置している。図5に示したフレキシブル基板102を使用しない本構成は、コンタクト部103を含む電気接続用の第2の基板105と吐出面の記録ヘッド基板8個を電気的接続する配線基板104を結合させて成る。図5の構成に比べて部品点数は増えるが、104の基板を多層化できるため、配線の自由度は高くなる。一方で記録ヘッドとした場合、インク接液性の面で配線基板104の素材を考慮しなければならないため、耐インク性のある高価な基板を用いることになる。
【0033】
図7は、本発明を適用可能な、記録装置の起動時から印字終了までの温度測定制御を示すフローチャートである。
【0034】
記録装置を起動すると装置立上げシーケンスを開始する(ステップS1)。この動作は記録装置を印字待機状態にするのに必要な処理であり、記録装置、および記録ヘッドのメンテナンスも含まれる。次に記録ヘッドの温度を測定し(ステップS2)、この値に基づき判断処理を行う(ステップS3)。すなわち、二種類の原理の異なる温度センサの測定値が略一致すれば、印字処理を開始し(ステップS4)、一致しなければユーザーに正常動作しなかったことを報知し(ステップS11)立下げシーケンスを行う(ステップS10)。
【0035】
印字処理中も適宜温度測定を実施し(ステップS5)、二種類の原理の異なる温度センサの測定値が略一致すれば印字処理を継続する(ステップS7)。もし一致しなければ(ステップS6)直ちにユーザーに正常印字動作しなかったことを報知し(ステップS12)印字処理を終了する(ステップS9)。
【0036】
印字処理の終了判別において(ステップS8)、印字処理継続と判断した場合は温度測定(ステップS5)の処理に戻り、以降これを繰り返す。印字処理終了と判断した場合は印字処理を終了し(ステップS9)、立下げシーケンス(ステップS10)の実施後記録装置の駆動を終了する。
【0037】
以上のように印字処理開始前だけでなく印字処理中にも適宜温度測定することで記録ヘッドの状態を検知可能であり、最適な駆動制御が達成できるものである。
【符号の説明】
【0038】
1 インクジェット記録ヘッド基板
2 熱酸化膜(SiO2)
3 BPSG膜
4 アルミニウム温度センサ
5 アルミニウム温度センサと同一層で作られる導電体層
6、11、12 入出力パッド
7 SiO膜
8 SiN膜
13 インク供給口
14 記録素子
15 記録素子駆動回路
16 配線領域
101 インクジェット記録ヘッド基板
102 両面フレキシブル基板
103 インクジェット記録ヘッドと記録装置本体との電気的コンタクト部
104 インクジェット記録ヘッド基板を電気的に接続する配線基板
105 コンタクト部103を含む電気接続用の第2の基板
201 p型半導体基板
202 p型領域
203 n型領域
204 n+領域
205 p+領域
206 ダイオード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録素子を備え、前記複数の記録素子を駆動することにより記録を行う記録ヘッド基板において、
能動素子(半導体素子)と受動素子からなる基板温度を測定する素子を備え、前記受動素子には保護素子がない構成であることを特徴とする記録ヘッド基板。
【請求項2】
複数の記録素子を備え、前記複数の記録素子を駆動することにより記録を行う記録ヘッド基板において、
能動素子(半導体素子)と受動素子からなる基板温度を測定する素子を備え、前記受動素子には保護回路がない構成であることを特徴とする記録ヘッド基板。
【請求項3】
前記能動素子および前記受動素子は、前記記録ヘッド基板の同一基板上に作り込まれていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の記録ヘッド基板。
【請求項4】
前記受動素子が構成される領域には、前記受動素子以外の素子、回路、または配線が存在しないことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の記録ヘッド基板。
【請求項5】
複数の記録素子を備え、前記複数の記録素子を駆動することにより記録を行う記録ヘッド基板を一つ、もしくは複数配置し、
前記記録ヘッド基板に能動素子(半導体素子)と受動素子からなる基板温度を測定する素子を備え、前記受動素子には保護素子がない構成であることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項6】
複数の記録素子を備え、前記複数の記録素子を駆動することにより記録を行う記録ヘッド基板を一つ、もしくは複数配置し、
前記記録ヘッド基板に能動素子(半導体素子)と受動素子からなる基板温度を測定する素子を備え、前記受動素子には保護回路がない構成であることを特徴とする記録ヘッド。
【請求項7】
複数の記録素子を備え、前記複数の記録素子を駆動することにより記録を行う記録ヘッド基板を一つ、もしくは複数配置した記録ヘッドにおいて、
前記記録ヘッド基板内に作りこまれている能動素子(半導体素子)と受動素子からなる基板温度を測定する素子の温度を巡回、もしくは同時に検知することで、前記記録ヘッドの駆動制御を行うことを特徴とする記録装置。
【請求項8】
前記記録ヘッド基板の前記能動素子と前記受動素子の基板温度測定値が大きく異なる場合、前記受動素子の温度測定値を参照して前記記録ヘッドの駆動制御を行うことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の記録装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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