説明

記録ヘッド

【課題】一走査の間にそれぞれのノズル列に生じる不均一な温度分布の差異に起因して生じる、記録された画像の濃度ムラを緩和する。
【解決手段】記録ヘッドは、基板1と、複数のノズル列2と、ノズル列2に沿った方向に延びた少なくとも1つの共通液室3と、を有する。ノズル列2は、液体を吐出する吐出口7と、吐出口7に連通する発泡室4と、発泡室4に設けられ液体を吐出するための熱を発する電気熱変換素子5とを有するノズルが複数配列されて成る。各々のノズル列2が、互いに隣接する共通液室3の間の基板1の領域もしくは共通液室3と基板1の端辺との間の基板1の領域によって規定されるいずれかの単位領域に配置されている。単位領域の熱容量が小さいほど、その単位領域に配置されたノズル列2の両端部のノズルの吐出口7の開口面積の、当該ノズル列2の中央部のノズルの吐出口7の開口面積に対する比が大きくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体の上を走査しつつ液体を吐出して記録を行う記録ヘッドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なインクジェット記録装置に用いられる記録ヘッドでは、インク滴を吐出させるための吐出エネルギーの発生源が異なる複数の方式がある。一つは、吐出エネルギーの発生源としてヒーター等の電気熱変換素子を用いるものである。他の一つは、吐出エネルギーの発生源としてピエゾ素子等の圧電素子を用いるものである。いずれの記録ヘッドにおいても、電気信号によって記録ヘッドからのインク滴の吐出を制御することができる。電気熱変換素子を用いる記録ヘッドは、電気熱変換素子に電圧を印加することにより、電気熱変換素子近傍のインクを瞬時に沸騰させ、沸騰時のインクの相変化により生じる発泡圧によってインク滴を吐出させる。一方、圧電素子を用いる記録ヘッドは、圧電素子に電圧を印加することにより、圧電素子を変位させ、この変位時に発生する圧力によってインク滴を吐出させる。
【0003】
記録ヘッドには、液体としてのインク滴を吐出するための複数のノズルが形成された基板を備えている。ノズルは、液体が吐出される開口である複数の吐出口と、吐出口と連通する発泡室と、発泡室に設けられた電気熱変換素子と、を有する。一般に、ノズルは、ある方向に沿って複数配列されて成るノズル列を構成している。記録ヘッドの基板には、このノズル列の方向に沿って長く延びた共通液室が形成されている。各々のノズルの発泡室は共通液室に連通している。通常、複数の共通液室が互いに略平行に形成されている。記録媒体にインク滴を吐出して記録を行う際、記録ヘッドは、ノズル列に沿った方向と直交する方向(主走査方向)に沿って記録媒体の上方を移動(走査)しつつインク滴を吐出する。主走査方向において記録媒体の一端から他端まで記録ヘッドによる1回の走査が終えると、記録媒体は主走査方向に直交する副走査方向に所定の距離だけ搬送され、それから記録ヘッドによる2回目の走査を開始する。この走査を繰り返し行うことで、記録ヘッドは、記録媒体全体に記録を行う。このとき、各々の走査の間に行われる記録媒体の搬送量をノズル列の長さよりも短くし、記録媒体上の同一の領域を記録ヘッドが複数回重複して走査しても良い。
【0004】
通常、普通紙などの低品位の記録媒体への記録においては、いわゆる低パス記録が行われ、光沢紙などの高品位の記録媒体への記録においては、いわゆる多パス記録が行われる。低パス記録とは、記録ヘッドが記録媒体の同一の領域を例えば1〜4回重複して走査を行って記録を完成させる記録方式である。つまり、記録ヘッドにおける一の走査とその次の走査との間に、記録媒体はノズル列の長さの1/4〜1倍だけ搬送される。一方、多パス記録とは、記録ヘッドが記録媒体の同一の領域を例えば5〜24回重複して走査して記録を完成させる記録方式である。多パス記録では、低パス記録に比べて、記録ヘッドが同一の領域を重複して走査する回数が多くなり、最終的に記録された画像では、記録ヘッドに起因して生じる記録のバラツキが軽減されて、画像品位が向上するとされている。
【0005】
しかし、近年では、フォトプリントの需要の拡大により、高品位な記録媒体に対する記録においても、記録速度の高速化が求められている。かかる状況の下、高品位な記録媒体に対する記録においても、記録速度が速い低パス記録方式の採用が求められている。
【0006】
しかしながら、吐出エネルギーの発生源として電気熱変換素子を用いた記録ヘッドに低パス記録方式を採用するにあたって、記録ヘッドの昇温による濃度ムラという課題が生じる。これまでも、記録ヘッドの昇温により濃度ムラが発生することは知られていた。例えば、複数回の走査を連続して行うと、徐々に記録ヘッドの中央部が高温になっていくことで、記録ヘッドの中央部から吐出されるインク滴の量が増して、記録された画像に濃度ムラが発生することがあった(特許文献1参照)。特許文献1では、この濃度ムラを解消するため、記録ヘッドに一方向に配列された複数の吐出口のうち、配列の中央に位置する吐出口の開口面積よりも配列の両端部に位置する吐出口の開口面積を大きくしている。これにより、ノズル列の中央の温度が上昇することによってノズル列中央のインクの粘度が小さくなったとしても、配列の両端部の吐出口から吐出されたインク滴と、中央部の吐出口から吐出されたインク滴の大きさとを同一にする。その結果、均一濃度の画像を形成することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4-211951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本件発明者らは鋭意研究の結果、上述した特許文献1に記載の技術では解消しない新たな課題を発見した。すなわち、複数のノズル列を有する記録ヘッドでは、ノズル列間において、ノズル列方向の温度分布の差異に起因して生じる画像の濃度ムラである。隣り合う共通液室の間の領域、もしくは共通液室と基板(以下、素子基板とも称す。)の端辺との間の領域の大きさ、より具体的には熱容量が異なると、記録ヘッドの1回の走査で各領域に生じる温度分布が異なる。つまり、1回の走査の間に、各ノズル列においてノズル列方向の中央の温度が高く、端部の温度が低くなるような温度分布を持つことになるが、その温度分布がそれぞれのノズル列が配置されている領域ごとに異なる。これにより、インク滴の吐出量の分布も、ノズル列ごとに異なる不均一な分布となり、その結果、記録媒体に記録された画像に濃度ムラが生じる。
【0009】
この課題について、従来の課題(特許文献1に記載の発明が解決しようとする課題)と比較しながら、その差異について説明する。従来の課題では、連続印字により記録ヘッドの中央が端部よりも高温になることで濃度ムラが発生していた。この際、主にノズルを有する素子基板ではなく、その下層に設けられた基板支持部材が連続印字によって高温になり、濃度ムラを発生させていた。この従来の現象に対し、本件の課題は、一走査中という短い時間に、熱伝導性が高い素子基板が液滴の吐出中に瞬間的に不均一な熱分布を持つことが原因で生じる濃度ムラに関する。ここで、1回の走査で素子基板に瞬間的に生じた不均一な熱分布は、熱伝導(放熱)の影響で、次回の走査との間の吐出休止時間内で大幅に緩和される。すなわち、次の走査の開始時には温度分布はほぼ均一となる。
【0010】
ここで、図を用いながら上述した瞬間的に不均一な熱分布をもつことで起こる濃度ムラが発生するメカニズムについて説明する。図1(a)は、記録媒体70を裏面(記録が行われない方の面)側から見た透視図であり、記録ヘッド60の走査によって行われる低パス記録(図1(a)では2パス記録)の様子を示している。なお、図1(a)では、3走査目が終了した直後の記録ヘッド60も示されている。さらに、図1(b)は、図1(a)の領域1Bの拡大図であり、記録ヘッド60に形成されているノズルの配置の様子を示している。図1(b)に示すように、記録ヘッド60には、電気熱変換素子としてのヒーター61、発泡室62、流路63、吐出口64を有するノズルが形成されている。記録ヘッド60が記録媒体70の上方を複数回走査することで、重複して走査された領域であるバンド80を形成しながら記録が行われる。図1(a)では2パス記録であるため、各々のバンド80は、副走査方向Bに関して、記録ヘッド60に形成されたノズル列の長さの半分の長さの領域となる。
【0011】
図2(a)において、記録媒体70上の位置T1は、一走査の開始直後の記録ヘッドによって記録が行われた画像位置を示しており、主走査方向Aの上流側の位置を示している。記録媒体70上の位置T2は、一走査の終了直前の記録ヘッドによって記録が行われた画像位置を示しており、主走査方向Aの下流側の位置を示している。図2(b)は、記録ヘッドが走査開始直後、すなわち位置T1に相当する位置にある場合における、ノズル列方向の温度分布を示している。図2(c)は、記録ヘッドが走査終了直前、すなわち位置T2に相当する位置にある場合における、ノズル列方向の温度分布を示している。新たな発見は、図2(b)および(c)に示すように、一走査という短い時間で、ノズル列の中央の温度が高くなる不均一な温度分布が顕著に現れることである。これは、低パス記録を行うことで1回の走査で打ち込むインクドットのデューティ(Duty)が多パス記録のときと比べて多くなるためと考えられる。ここで、デューティとは、一走査においてインクドットの最大記録密度に対して何%の密度でインクドットを配置(吐出)したかという指標である。ノズル列方向(副走査方向B)における不均一な温度分布の結果、一走査中に、ノズル列中央のノズルからより多くのインクが吐出されて、ノズル列中央に対応する領域で画像の濃度が高くなるような濃度分布が現れる。また、複数の走査(図1では2回の走査)で形成されるバンド(図1(a)では1走査目と2走査目での重なり部)80の中で、副走査方向Bに対して濃度分布が発生する。これにより、各々のバンド80の境界で画像の濃度が薄くなる白ムラという現象が発生する。
【0012】
また、不均一な熱分布が生じる要因や、不均一な濃度分布の発生のメカニズムについてもう少し詳細に説明する。図2(d)に示すように、断熱層として機能する共通液室65(図1(b)も参照)同士の間に挟まれたノズル列の領域では、ノズル列の中央部S1から端部S2に向けて熱が拡散して放熱されていく。ノズル列は断熱層である共通液室に挟まれているため、ノズル列の中央S1では放熱が不十分となり高温になりやすい。図示はしていないが、放熱に関して、記録ヘッド60の表面に沿った方向だけでなく、深さ方向に対しても同じことが言える。この結果、ノズル列の中央の温度が相対的に高くなる。これに応じて高温のノズルから相対的に多くのインクが吐出されることになる。その結果、記録された画像の濃度も、ノズル列の中央に対応する部分において濃くなる。複数の走査を繰り返すと、各々のバンド80の境界でムラが発生することになる。
【0013】
一走査中に生じる不均一な熱分布によって引き起こされる濃度ムラの問題は、隣り合う共通液室の間、もしくは共通液室と素子基板の端辺の間の距離(熱容量)が小さくなるほど顕著であることも発見した。このことを、図3を用いて説明する。図3(a)は、図2(a)と同様の図であるため、説明を省略する。図3(f)は、複数のノズル列を有する記録ヘッドを示している。各々のノズル列は、隣り合う共通液室65の間、もしくは共通液室65と基板の端辺との間のいずれかの領域に配置されている。隣り合う共通液室65の間、もしくは共通液室65と基板の端辺との間の距離D1,D2が異なっている。図3(f)の例では、距離D1が距離D2よりも大きくなっている。図3(b)は、記録開始直後(位置T1)の記録ヘッドにおいて、相対的に大きい距離D1の領域でのノズル列方向の温度分布を示している。図3(c)は、記録終了直前(位置T2)の記録ヘッドにおいて、相対的に大きい距離D1の領域でのノズル列方向の温度分布を示している。図3(d)は、記録開始直後(位置T1)の記録ヘッドにおいて、相対的に小さい距離D2の領域でのノズル列方向の温度分布を示している。図3(e)は、記録終了直前(位置T2)の記録ヘッドにおいて、相対的に小さい距離D2の領域でのノズル列方向の温度分布を示している。図3(b)〜図3(d)に示すように、各ノズル列が配置されている領域の距離D1,D2の差異、より具体的には熱容量の大きさの差異に応じて、1回の走査の間に各領域に発生する熱分布が異なる。したがって、ノズル列から吐出されたインク滴によって記録された画像のノズル列方向の濃度分布がノズル列ごとにそれぞれ異なる。その結果、各ノズル列を用いて同時に記録するときに、上述した白ムラの現象のレベルが各ノズルで異なってしまう。このノズル列間での温度分布の差異に起因する濃度ムラの問題が、本件発明者が発見した新たな課題である。
【0014】
特許文献1は、1列のノズル列内での温度分布のみに言及しており、ノズル列間での温度分布の差異に関する事項およびその示唆は一切記載されていない。したがって、特許文献1に記載の技術を複数のノズル列を有する記録ヘッドに適用しようとすると、各々のノズル列を同様に形成することになると考えられる。この場合、隣り合う共通液室の間、もしくは共通液室と素子基板の端辺との間の距離(熱容量)が異なると、あるノズル列において温度分布が改善されたとしても他のノズル列に対して不均一な温度分布が改善されないことがある。したがって、異なった温度分布が生じる各ノズル列によって記録を行った結果、ノズル列間での程度の異なる濃度ムラ(白ムラ)が発生する。このように、引用文献1に記載の発明では、ノズル列間での温度分布の差異に起因する記録画像の濃淡ムラは解決できない。
【0015】
以上を踏まえ、本発明の目的は、ノズル列間での温度分布の差異に起因して生じる、記録された画像の濃度ムラを緩和することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の記録ヘッドは、記録媒体の上を走査しつつ液体を吐出して記録を行う記録ヘッドに関する。記録ヘッドは、基板と、複数のノズル列と、少なくとも1つの共通液室と、を有する。複数のノズル列は、液体を吐出する吐出口と、吐出口に連通する発泡室と、発泡室に設けられ液体を吐出するための熱を発生する電気熱変換素子とを有するノズルが、複数配列されて成る。共通液室は、基板に形成され、ノズル列に沿った方向に延び、複数のノズルの発泡室と連通する。各々のノズル列が、互いに隣接する共通液室の間の基板の領域もしくは共通液室と基板の端辺との間の基板の領域によって規定されるいずれかの単位領域に配置されている。
【0017】
一態様における記録ヘッドでは、前記単位領域の熱容量が小さいほど、該単位領域に配置された前記ノズル列の両端部の前記ノズルの前記吐出口の開口面積の、該ノズル列の中央部の前記ノズルの前記吐出口の開口面積に対する比が大きくなっている。
【0018】
別の態様における記録ヘッドでは、各々の前記ノズル列を構成している前記ノズルの前記吐出口の開口面積は一定であり、前記単位領域の熱容量が小さいほど、該単位領域に配置された前記ノズル列の両端部の前記ノズルの前記電気熱変換素子の発熱面積の、該ノズル列の中央部の前記ノズルの前記電気熱変換素子の発熱面積に対する比が大きくなっている。
【0019】
別の態様における記録ヘッドでは、各々の前記ノズル列の両端部近傍に、前記基板の前記単位領域を局所的に加熱する他の電気熱変換素子が設けられており、各々の前記ノズル列を構成している前記ノズルの前記吐出口の開口面積は一定であり、前記単位領域の熱容量が小さいほど、該単位領域に配置された前記他の電気熱変換素子の発熱量が大きくなっている。
【0020】
別の態様における記録ヘッドでは、各々の前記ノズル列を構成している前記ノズルの前記吐出口の開口面積は一定であり、前記単位領域の熱容量が小さいほど、該単位領域に配置された前記ノズル列の両端部の前記ノズルの前記電気熱変換素子に印加する駆動電力の、前記ノズル列の中央部の前記ノズルの前記電気熱変換素子に印加する駆動電力に対する比が大きくなっている。
【0021】
さらに別の態様における記録ヘッドでは、各々の前記ノズル列を構成している前記ノズルの前記吐出口の開口面積は一定であり、前記単位領域の熱容量が小さいほど、該単位領域に配置された前記ノズル列の両端部の前記ノズルの打ち込みドット数の、該ノズル列の中央部の前記ノズルの打ち込みドット数に対する比が大きくなっている。
【発明の効果】
【0022】
以上の構成によれば、互いに隣接する共通液室の間、もしくは共通液室と素子基板の端辺との間の単位領域の熱容量にかかわらず、各々の単位領域に配置されたノズル列から吐出される液体のノズル列方向の吐出量分布をノズル列間で均一化することができる。その結果、各ノズル列によって記録された画像の濃度ムラが改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】記録ヘッドおよび当該記録ヘッドによって行われる低パス記録の様子を示す図である。
【図2】記録ヘッドの発熱および放熱メカニズムと一走査中の記録ヘッドの温度分布を示す図である。
【図3】隣り合う共通液室の間の素子基板の領域の体積(熱容量)が異なる場合に、それぞれの領域での発熱および放熱メカニズムと、一走査中における各領域での温度分布を示す図である。
【図4】本発明に係る記録ヘッドを適用可能な記録装置の一例を示す斜視図である。
【図5】実施形態1に係る記録ヘッドの構成と、該記録ヘッドの走査開始時の画像の濃度分布と、走査終了直前の画像の濃度分布とを示す図である。
【図6】実施形態2に係る記録ヘッドの構成と、該記録ヘッドの走査開始時の画像の濃度分布と、走査終了直前の画像の濃度分布とを示す図である。
【図7】実施形態3に係る記録ヘッドの構成と、該記録ヘッドの走査開始時の画像の濃度分布と、走査終了直前の画像の濃度分布とを示す図である。
【図8】実施形態4及び5に係る記録ヘッドの構成と、該記録ヘッドの走査開始時の画像の濃度分布と、走査終了直前の画像の濃度分布とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態の例について詳しく説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。以下では、インクを吐出するインクジェット記録ヘッドを例に挙げて説明するが、本発明は、液体を吐出する記録ヘッド全般に適用できる。
【0025】
図3は、本発明のインクジェット記録ヘッド(以下「記録ヘッド」とも称する。)を備えた記録装置の一例を示す概略図である。図示されている記録装置50は、シリアルスキャン方式の記録装置である。記録ヘッド51と、その記録ヘッド51に液体としてのインクを供給するインクタンク(不図示)と、が搭載されるキャリッジ52は、軸53、54に沿って矢印Aの方向(主走査方向)に往復移動する。なお、記録ヘッド51とインクタンクは、一体として交換可能なインクジェットカートリッジを構成するものであってもよい。キャリッジ52は、キャリッジモータおよびその駆動力を伝達するベルト等の駆動力伝達機構(不図示)により、主走査方向Aに往復移動される。
【0026】
記録媒体としての用紙Pは、記録装置50の前端部に設けられた挿入口55から挿入された後、用紙Pの搬送方向が反転されてから、送りローラ56によって矢印Bの方向(副走査方向)に搬送される。記録装置50は、記録ヘッド51を主走査方向Aに移動させつつ、プラテン上の用紙Pに向かってインク滴を吐出させる記録動作と、所定の距離だけ用紙Pを副走査方向Bに搬送する搬送動作と、を繰り返す。この記録動作と搬送動作の繰り返しによって、用紙P上に順次画像が記録される。
【0027】
キャリッジ52の移動範囲の一方の端部(図4では紙面左側の端部)には、キャリッジ52に搭載された記録ヘッド51の吐出口形成面(吐出口が形成されている面)と対向する位置に、回復系ユニット(回復処理手段)58が設けられている。回復系ユニット58には、記録ヘッド51の吐出口のキャッピングが可能なキャップ(不図示)と、そのキャップ内を負圧状態にするための吸引ポンプ(不図示)などが備えられている。回復系ユニット58は、吐出口を覆ったキャップ内を負圧状態にすることにより、吐出口からインクを強制的に吸引排出させて、記録ヘッド51の良好なインク吐出状態を維持すべく回復処理を行う。また、キャップ内に向かって、吐出口からインクを吐出させることによって、記録ヘッド51の良好なインク吐出状態を維持すべく回復処理を行うこともできる。
【0028】
以下、上記構造を有する記録装置50に適用可能な本発明の記録ヘッドの実施形態についてさらに詳しく説明する。
【0029】
(第1の実施形態)
図5(a)は、本実施形態に係る記録ヘッドの吐出口が形成された一面を示している。図5(a)の中央図は、吐出口が形成された素子基板(単に基板と呼ぶこともある。)1の一面が記載されている。図5(a)の左側図および右側図は、それぞれ中央図の該当箇所の拡大図である。記録ヘッドは、図5(a)に示すように、素子基板1、複数のノズル列2、少なくとも1つの共通液室3、発泡室4、電気熱変換素子としてのヒーター5および流路6を有する。共通液室3は、素子基板1に形成されており、副走査方向B(第1の方向)に沿って長く延びている。基板1は、少なくとも1つの共通液室3によって、少なくとも2つの領域(以下、単位領域と呼ぶことがある。)に区分けされる。各々のノズル列2は、共通液室に沿った方向に沿って複数配列されたノズルから成る。各々のノズル列2は、共通液室3どうしの間、もしくは共通液室3と基板1の端辺との間の領域によって規定されるいずれかの単位領域に配置されている。ノズル列2を構成する各々のノズルは、吐出口7、発泡室4およびヒーター5を有する。発泡室4は吐出口7に連通している。発泡室4は流路6を介して吐出口7に連通している。共通液室3およびヒーター5は発泡室4に設けられている。
【0030】
1つのノズル列2を構成する複数のノズルは、同一の共通液室3に連通している。これにより、1つのノズル列2を構成する複数のノズルは同種のインクを吐出することになる。別々の共通液室には、種類の異なるインクが充填されていても良く、同種のインクが充填されていても良い。なお、共通液室3、発泡室4、ヒーター5および流路6は、基板1の内部に形成されているものではあるが、図5(a)〜図5(c)ではそれらの配置を明確にするために図示されている。ただし、図5(a)では、基板1に形成された共通液室3のみを示している。これらのことは、後述する図6〜図8においても同様である。
【0031】
本実施形態では、単位領域の熱容量が小さいほど、その単位領域に設けられているノズル列2の両端部のノズルの吐出口7の開口面積(OSEn)の、当該ノズル列2の中央部のノズルの吐出口の開口面積(OSC)に対する比が大きくなっている。以下では、この比を、開口面積比(OSEn/OSC)と呼ぶことがある。ここでは、各々の単位領域の熱容量について言及したが、素子基板1が1つの部材で構成される場合には「熱容量」を「体積」と読み換えることができる。この場合、熱容量の大小は、共通液室間の距離、もしくは共通液室と基板1の端辺との間の距離の大小に対応する。図5(b)は、共通液室間の距離が大きい、つまり熱容量が大きい単位領域1bを拡大して示しており、図5(c)は、共通液室間の距離が小さい、つまり熱容量が小さい単位領域1aを拡大して示している。
【0032】
図5(b)の左側2つのグラフは、図5(c)の記録媒体P上の領域T1における、各単位領域1a,1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の副走査方向Bの濃度分布を示している。つまり、記録ヘッドの一走査の開始直後に記録された画像の濃度分布に対応する。一番左のグラフは、単位領域1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布であり、左から2番目のグラフは、単位領域1aに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布である。図5(b)の右側2つのグラフは、図5(c)の記録媒体P上の領域T2における、各単位領域1a,1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の副走査方向Bの濃度分布を示している。つまり、記録ヘッドの一走査の終了直前に記録された画像の濃度分布に対応する。右から2番目のグラフは、単位領域1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布であり、一番右のグラフは、単位領域1aに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布である。図5(b)において、本実施形態の記録ヘッドにおける濃度分布を実線で、従来の形態の記録ヘッドにおける濃度分布を破線で示している。
【0033】
本実施形態において、ノズル列2の両端部のノズルの吐出口7とは、液体を吐出して画像の記録に使用されるノズルの吐出口を指している。したがって、インクのリフレッシング(いわゆる予備吐)の時しか使用しない予備ノズル(いわゆるダミーノズル)の吐出口を指すものではない。つまり、本明細書において、ノズル列2とは、記録に寄与するノズルのみによって構成されたものであり、その中にダミーノズルを含んでいない。このようなダミーノズルは、ノズル列2の端部から更に外側に向かって1つまたは複数設けられていることがある。なお、これは以下の実施形態についても同様である。
【0034】
図5(a)では、互いに隣接する共通液室3の間の単位領域、もしくは共通液室3と素子基板の端辺の間の単位領域のうち、1箇所の単位領域1aだけが狭くなっている場合、すなわち1箇所の単位領域1aだけ熱容量が小さくなっている場合を示している。したがって、熱容量が小さい単位領域1aに配列されたノズル列2だけが、他の単位領域1bに配置されたノズル列2よりも、開口面積比(OSEn/OSC)が大きくなっている。このように、単位領域1a,1bの熱容量に応じて、ノズル列2ごとに開口面積比を調整することで、一走査中に生じるノズル列2ごとの温度分布の差異に起因する画像の濃度分布の差異を緩和することができる。
【0035】
上記例では、一箇所の単位領域1aのみが相対的に小さい熱容量を有する場合について説明したが、複数の単位領域1aが相対的に小さい熱容量を有する場合にも、単位領域の熱容量に応じてノズル列ごとに開口面積比を調節すれば良い。熱容量が互いに異なる複数の単位領域が存在する場合も同様に、単位領域の熱容量が小さいほど、その単位領域に設けられているノズル列2における開口面積比が大きくすれば良い。
【0036】
また、各ノズル列2において、ノズル列2の中央部のノズルの吐出口7よりもノズル列2の両端部のノズルの吐出口7の開口面積が大きいことが好ましい。また、ノズル列2の端部付近の複数個のノズルにおいて、ノズルの端部に向かうにつれて吐出口7の開口面積が徐々に大きくなっていることがより好ましい。
【0037】
一走査の終了直前に、ノズル列2の中央部の温度が高くなっても、単位領域の熱容量が小さいときほど当該単位領域に設けられたノズル列2の端部のノズルの吐出口の開口面積を大きくすることで端部のノズルからの液体の吐出量を増大することができる。これにより、ノズル列2ごとに記録された画像の濃度分布の差異を緩和し、1回の走査の間に、各ノズル列に起因する程度の異なる白ムラおよび濃度ムラを解消することができる。
【0038】
(第2の実施形態)
以下、本発明の記録ヘッドの他の実施形態について説明する。もっとも、本実施形態に係る記録ヘッドの基本構成は、第1の実施形態に係る記録ヘッドと概ね共通であるため、重複する説明は極力省略し、主に、第1の実施形態に係る記録ヘッドとの相違点について説明する。
【0039】
第2の実施形態では、図6(a)に示すように、各々のノズル列2を構成しているノズルの吐出口7の開口面積は一定である。互いに隣接する共通液室3の間、もしくは共通液室3と素子基板1の端辺との間の単位領域1a,1bの熱容量が異なっている。単位領域の熱容量が小さいほど、ノズル列2の両端部のノズルのヒーター5の発熱面積(HSEn)の、ノズル列2の中央部のノズルのヒーター5の発熱面積(HSC)に対する比が大きくなっている。以下では、この比(HSEn/HSC)を発熱面積比と呼ぶことがある。なお、図6(a)に示す例では、互いに隣接する共通液室3の間、もしくは共通液室3と素子基板1の端辺との間の単位領域うち、1箇所の単位領域1aだけが狭くなっている場合、つまり熱容量が小さくなっている場合を示している。したがって、熱容量の小さい単位領域1aに配置されたノズル列2だけが、他の単位領域1bに配置されたノズル列と比べて、発熱面積比が大きい。
【0040】
上記例では、一箇所の単位領域1aのみが相対的に小さい熱容量を有する場合について説明したが、第1の実施形態と同様に、複数の単位領域が相対的に小さい熱容量を有する場合、もしくは熱容量が互いに異なる複数の単位領域がある場合も同様に考えられる。
【0041】
また、各ノズル列2において、ノズル列2の中央部のノズルのヒーター5の発熱面積よりも、ノズル列2の両端部のノズルのヒーター5の発熱面積が大きいことが好ましい。また、ノズル列2の端部付近の複数個のノズルにおいて、ノズル列の端部に向かうにつれてヒーター5の発熱面積が徐々に大きくなっていることがより好ましい。
【0042】
図6(b)の左側2つのグラフは、図6(c)の記録媒体P上の領域T1における、各単位領域1a,1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の副走査方向Bの濃度分布を示している。一番左のグラフは、単位領域1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布であり、左から2番目のグラフは、単位領域1aに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布である。図6(b)の右側2つのグラフは、図6(c)の記録媒体P上の領域T2における、各単位領域1a,1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の副走査方向Bの濃度分布を示している。右から2番目のグラフは、単位領域1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布であり、一番右のグラフは、単位領域1aに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布である。図6(b)において、本実施形態の記録ヘッドにおける濃度分布を実線で示している。
【0043】
上記のように、単位領域の熱容量が小さいときほど、ノズル列の両端部のヒーター5を大きくしてインクの吐出量を大きくする。これにより、不均一な温度分布に起因する画像の濃度分布をノズル列ごとに緩和し、1回の走査の間に各ノズル列で程度の異なった白ムラまたは濃度ムラを解消することができる。
【0044】
また図示はしていないが、ノズル列2の端部のノズルをノズル列2の中央部のノズルと同じ形状とし、ヒーター5のサイズ(発熱面積)のみを大きくすると、インクの吐出速度がノズル毎に異なってしまう。ヒーター5の発熱面積の大きいノズルでは、吐出速度が大きくなり、インクの着弾位置がずれることがある。その対策として、ヒーター5の発熱面積が大きいほど、ノズルの吐出効率を下げることが好ましい。ノズルの吐出口率を下げる具体的な一例として、ノズルの発泡室4内のヒーター5の位置から吐出口7までの流抵抗(R1)の、発泡室4内のヒーター5の位置から共通液室3までの流抵抗(R2)に対する比(R1/R2)を大きくする。これにより、発熱面積の大きいヒーター5を有するノズルから吐出されるインクの吐出速度の増大を抑制することができ、インクの着弾位置の精度を維持することができる。なお、流抵抗は、液体と接する壁面の材質や流路の長さや幅などによって容易に調節可能である。
【0045】
第2の実施形態では、ノズル列2の両端部のヒーター5を大きくしているため、一走査終了時または走査終了直前の温度分布をも改善し得る。すなわち、ノズル列の両端部では中央部よりも発熱量が高いため、ノズル列2の端部と中央部との間での温度差を小さくし得る。そのため、濃度ムラを引き起こす要因である温度分布の不均一性自体を改善することができるという特長がある。
【0046】
(第3の実施形態)
第3の実施形態についても、主に、第1の実施形態に係る記録ヘッドとの相違点について説明する。図7(a)は第3の実施形態の記録ヘッドの構成を示している。第3の実施形態では、各々のノズル列2を構成しているノズルの吐出口の開口面積は一定である。そして、各々のノズル列2の両端部近傍に、素子基板1の単位領域を局所的に加熱する他の電気熱変換素子(ダミーヒーター)11,12が設けられている。第3の実施形態では、互いに隣接する共通液室3の間、もしくは共通液室3と素子基板1の端辺との間の単位領域1a,1bの熱容量が小さいときほど、ダミーヒーター11,12の発熱量は大きくなっている。なお、図7(a)では、互いに隣接する共通液室3の間、もしくは共通液室3と素子基板1の端辺との間の単位領域うち、1箇所の単位領域1aだけが熱容量(体積)が小さくなっている。熱容量が小さい単位領域1aに配列されたノズル列2近傍のダミーヒーター11だけが、他の単位領域1bに配置されたノズル列2近傍のダミーヒーター12よりも、発熱量が大きい。また、各単位領域1a,1bにおいて、ダミーヒーター11,12は、ノズル列2の中央部から端部へ向かうにつれて、発熱量が大きくなるように並んでいることがより好ましい。
【0047】
図7(b)の左側2つのグラフは、図7(c)の記録媒体P上の領域T1における、各単位領域1a,1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の副走査方向Bの濃度分布を示している。一番左のグラフは、単位領域1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布であり、左から2番目のグラフは、単位領域1aに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布である。図7(b)の右側2つのグラフは、図7(c)の記録媒体P上の領域T2における、各単位領域1a,1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の副走査方向Bの濃度分布を示している。右から2番目のグラフは、単位領域1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布であり、一番右のグラフは、単位領域1aに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布である。図7(b)において、本実施形態の記録ヘッドにおける濃度分布を実線で示している。
【0048】
上記のように、互いに隣接する共通液室3の間、もしくは共通液室3と素子基板1の端辺との間の単位領域の熱容量が小さいほど、ノズル列2の端部近傍に発熱量の大きいダミーヒーターが設けられている。このダミーヒーターで加熱してノズル列2の端部のインク吐出量を大きくする。これにより、ノズル列ごとにノズル列方向におけるインクの吐出量分布を改善し、画像の濃度分布を緩和して、1回の走査の間に各ノズル列の間で程度の異なる白ムラおよび濃度ムラを解消することができる。
【0049】
また、第3の実施形態では、ノズル列2の端部にダミーヒーターを設けているため、一走査の終了時または終了直前の温度分布をも改善し得る。すなわち、ノズル列の端部での発熱量が増大するので、単位領域1a,1bのノズル列方向に生じる温度分布のレンジが小さくなり得る。このように、ノズル列2ごとにノズル列方向の温度分布を改善することができ、第1の実施形態に比べ、温度分布の補正制御幅が広いという特長がある。
【0050】
ダミーヒーター11,12は、走査中に生じ得るノズル列2内での温度差を抑制するように、走査中に加熱量を制御しても良い。つまり、走査開始時には、ダミーヒーター11,12による加熱を行わず、走査が進むにつれて徐々に発熱量を増大させる。ダミーヒーター11,12が無い場合には、徐々にノズル列2に沿った方向の温度差が拡大していく。しかしながら、ダミーヒーター11,12を除々に加熱することで、ノズル列2に沿った方向の温度分布を一走査の開始から終了まで均一に保つことができる。このように、走査中にダミーヒーター11,12を適切に制御することで、第1および第2の実施形態よりも画像の濃度分布の更なる改善を行うことができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、図示はしていないが、記録ヘッドが温度検知センサーを備えているとさらに好ましい。温度検知センサーによってノズル列2に沿った方向の温度分布を検知することで、記録された画像の濃度分布を予測することができる。この予測した濃度分布に基づいて、ダミーヒーター11,12へ投入するエネルギー量を調節することで、より高精度に画像の濃度分布を均一化することができるからである。なお、図示はしていないが、記録ヘッドは、温度検知センサーでなく、各列の記録(印字)されるデューティに応じて温度分布を予測するテーブルを有していても良い。この場合であっても、デューティを検知して、検知したデューティから温度分布を予測し、当該予測した温度分布に基づいてダミーヒーター11,12に投入するエネルギー量を調整することで、同様の効果が得られる。
【0052】
(実施形態4)
第4の実施形態の記録ヘッドについても、主に第1の実施形態に係る記録ヘッドとの相違点を説明する。図8(a)に示すように、各々のノズル列2を構成しているノズルの吐出口の開口面積は一定である。
【0053】
第4の実施形態では、互いに隣接する共通液室3の間、もしくは共通液室3と素子基板1の端辺との間の単位領域1a,1bの熱容量が異なっている。単位領域1a,1bの熱容量が小さいときほど、その単位領域に配置されたノズル列2の両端部のノズルのヒーター5に、エネルギーの高い駆動電力を投入する。たとえば、ノズル列の端部ほどノズル列の中央部に比して、低めの電圧でヒーターの通電時間を長くすることでヒーターの熱流束を低くする。そうすると、安定的にインクを発泡するのに必要な電力が多くなる。つまり、単位領域の熱容量が小さいほど、その単位領域に配置されたノズル列2の両端部のノズルのヒーター5に印加する駆動電力(EEn)の、ノズル列2の中央部のノズルのヒーター5に印加する駆動電力(EC)に対する比が大きくなっている。以下では、この比(EEn/EC)を、駆動電力比と呼ぶことがある。
【0054】
図8(a)では、互いに隣接する共通液室3の間、もしくは共通液室3と素子基板1の端辺との間の単位領域1a,1bのうち、1箇所の単位領域1aだけが熱容量が小さくなっている場合を示している。この熱容量の小さい単位領域1aに配列されたノズル列2だけ、他の単位領域1bに配置されたノズル列2に比べて、ノズル列2の両端部のノズルのヒーター5にエネルギーの高い駆動パルス(駆動電力)を印加する。上記例では、一箇所の単位領域1aのみが相対的に小さい熱容量を有する場合について説明したが、第1の実施形態と同様に、複数の単位領域が相対的に小さい熱容量を有する場合、もしくは熱容量が互いに異なる複数の単位領域がある場合も同様に考えられる。
【0055】
各ノズル列2において、駆動パルスは、ノズル列2の中央部よりもノズル列の端部の方が大きいことが好ましい。また、各ノズル列2において、駆動パルスは、ノズル列2の端部のノズルになるほど徐々に大きいことがより好ましい。具体的には、ノズル列2の端部のヒーター5には、通電時間の長いパルスを投入することが好ましい。もしくは、インクの吐出のための駆動パルスと、プレヒートと呼ばれる吐出に寄与しない短時間のパルスとを、2度以上にわたって分けてヒーターに印加する、いわゆるダブルパルスを行うことが好ましい。ここで、通電時間の長いパルスをノズル列2の端部のノズルのヒーター5に投入する際に、ノズル列2の中央部のノズルと投入電圧が同じであると、過剰エネルギーとなってしまい、ヒーター5にダメージを与えることもある。そこで、ヒーター5上でインクの膜沸騰が適正に行なわれる程度に投入電圧を下げることがより好ましい。
【0056】
図8(b)の左側2つのグラフは、図8(c)の記録媒体P上の領域T1における、各単位領域1a,1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の副走査方向Bの濃度分布を示している。一番左のグラフは、単位領域1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布であり、左から2番目のグラフは、単位領域1aに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布である。図8(b)の右側2つのグラフは、図8(c)の記録媒体P上の領域T2における、各単位領域1a,1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の副走査方向Bの濃度分布を示している。右から2番目のグラフは、単位領域1bに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布であり、一番右のグラフは、単位領域1aに配置されたノズル列2によって記録された画像の濃度分布である。図8(b)において、本実施形態の記録ヘッドにおける濃度分布を実線で示している。
【0057】
上記のように、素子基板1の単位領域1a,1bの熱容量によらず、熱容量が小さい単位領域1aほど、ノズル列2の両端部に位置するノズルのヒーター5に、エネルギーの高い駆動パルスを印加する。これにより、ノズル列2の端部のノズルからのインクの吐出量を大きくすることで、ノズル列ごとに、記録された画像の濃度分布を緩和することができる。これにより、1回の走査の間に、各列で程度の異なる白ムラを良化し、濃度ムラを解消することができる。
【0058】
また、第4の実施形態では、ノズル列2の端部のノズルにエネルギーの高い駆動パルスを印加しているため、走査終了時または走査終了直前の温度分布をも改善し得る。すなわち、ノズル列2の端部付近の発熱量が高くなるため、走査終了時または走査終了直前に温度分布のレンジが小さくなり得る。そのため、一走査中に生じる温度分布が均一な分布に近づくため、第1の実施形態に比べ、温度分布の補正制御幅が広いという特長がある。また、第3の実施形態と同様に、記録ヘッドの走査中に生じ得るノズル列2内での温度差を抑制するように、走査中に駆動電力を制御しても良い。
【0059】
また、本実施形態では、走査開始時には、ノズル列2の端部の濃度を上げるような補正がなく、すなわち走査開始時にノズル列の端部のノズルに対応する部分の画像の濃度が高くなることはなく、走査終了に向かって徐々に補正が強くなるという利点がある。
【0060】
さらに、本実施形態では、図示はしていないが、記録ヘッドは温度検知センサーを備えているとさらに好ましい。温度検知センサーにより温度分布を検知することで、記録される画像の濃度分布を予測することができ、予測した分布に合わせてヒーター5への投入エネルギーを調節し、より高度な補正をすることができるからである。なお、図示はしていないが、温度検知センサーでなくても、各列の印字されるデューティに応じた、温度分布を予測するテーブルを持っていれば、デューティを検知することで、上記と同様の効果が得られる。
【0061】
(第5の実施形態)
第5の実施形態についても、主に、第1の実施形態に係る記録ヘッドとの相違点について説明する。本実施形態では、図8(a)〜図8(c)に示すように、第4の実施形態の記録ヘッドと機械的な構造は同様である。各々のノズル列2を構成しているノズルの吐出口の開口面積は一定である。
【0062】
第5の実施形態では、熱容量が小さい単位領域1aほど、ノズル列2の両端部のノズルの打ち込みドット数(DEn)の、ノズル列2の中央部のノズルの打ち込みドット数(DC)に対する比(DEn/DC)が大きくなっている。以下では、この比(DEn/DC)を、単に、打ち込みドット数比と呼ぶことがある。
【0063】
ここで、打ち込みドット数とは、ベタパターンの画像に対して1つの画素に打ち込むインクドットの平均数のことをいう。つまり、ノズル列の端部のノズルで、例えば、600dpiのマスに1発のインクを打つべき画素が連続して並ぶ画像を形成する場合に、600dpiマスに1発のインクを打ち込む画素と、2発のインクを打ち込む画素とを混在させる。これにより、例えば600dpiのマスあたりに平均1.1発のインクを打ちこむようにする。このような打ち込みドット数の調節は、記録すべき画像データの変更によって行うことができる。打ち込みドット数を増やしたノズルでは、一走査における発熱量が増大することになる。
【0064】
図8(a)に示す例では、互いに隣接する共通液室3の間、もしくは共通液室3と素子基板1の端辺との間の単位領域のうち、1箇所の単位領域1aだけが熱容量が小さくなっている。熱容量が小さい単位領域1aに配列されたノズル列2だけ、他の単位領域1bに配置されたノズル列2に比べ、打ち込みドット数比(DEn/DC)が大きい。
【0065】
各々のノズル列2において、ノズル列2の中央部のノズルの打ち込みドット数よりも、ノズル列2の両端部のノズルの打ち込みドット数が大きいことが好ましい。また、各ノズル列2において、ノズル列2の中央部から端部のノズルになるほど徐々に打ち込みドット数が大きくなっていることがより好ましい。
【0066】
熱容量が小さい単位領域1aときほどノズル列2の端部の打ち込みドット数を多くして、ノズル列内で記録される画像の濃度差を少なくするとともに、ノズル列ごとに記録した画像の濃度分布の差異を緩和する。これにより、1回の走査の間に、各列で程度の異なる白ムラを良化し、濃度ムラを解消することができる。
【0067】
また、第5の実施形態では、ノズル列2の端部のノズルの打ち込みドット数を多くするため、一走査の終了時および終了直前のノズル列方向の温度分布をも改善し得る。すなわち、ノズル列の中央部よりも端部での発熱量が大きいので、温度分布のレンジを小さくし得る。そのため、ノズル列2ごとにノズル列方向の温度分布を改善することができるため、第1の実施形態に比べ、記録された画像の濃度分布をより精度よく改善することができるという特長がある。
【0068】
第1及び第2の実施形態では、ノズル列の端部のノズルの吐出口の大きさやヒーターのサイズを変えている。そのため、一走査終了直前において記録される画像の副走査方向の濃度分布を改善しようとすると、実質的に均一の温度分布を有する走査開始時であっても濃度分布が不均一になることがある。つまり、場合によっては、均一の温度分布を有する走査開始時に記録された画像と、不均一の温度分布を有する走査終了直前に記録された画像との間で、濃度分布のバランスをとるように、吐出口やヒーターのサイズを調整する必要が生じる。それに対し、本実施形態では、走査開始時には、ノズル列2の端部に対応する画像の濃度を上げる補正がなく、走査終了に向かって徐々に補正が強くなるため、第1及び第2の実施形態よりもさらに高精度に濃度分布の改善を行うことができるといえる。
【0069】
さらに、本実施形態は、図示はしていないが、記録ヘッドに温度検知センサーが設けられているとさらに好ましい。ノズル列方向の温度分布を検知することで、濃度分布を予測することができ、予測された分布に基づいて、ノズル列の端部のドット補正を調節し、より高度な濃度分布の補正が可能になるからである。なお、図示はしていないが、温度検知センサーでなくても、各列の印字されるデューティに応じた、温度分布を予測するテーブルを持っていれば、デューティを検知することで、上記と同様の効果が得られる。
【0070】
以上で述べた全ての実施形態について、発明者は以下の事項を発見した。それは、互いに隣接する共通液室の間、もしくは共通液室と素子基板の端辺との間の距離が0.2mm以下、ノズル列の長さが0.5mm以上、ノズル列の解像度が300dpi以上のとき、一走査における不均一な濃度分布による白ムラが際立つという事である。よって、これまでに述べた第1〜第5の実施形態において、記録ヘッドが上記の寸法を有するとき、最も効果が大きくなるといえる。
【符号の説明】
【0071】
1 素子基板
2 ノズル列
3 共通液室
4 発泡室
5 ヒーター(電気熱変換素子)
7 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体の上を走査しつつ液体を吐出して記録を行う記録ヘッドであって、
基板と、
液体を吐出する吐出口と、前記吐出口に連通する発泡室と、前記発泡室に設けられ前記液体を吐出するための熱を発する電気熱変換素子とを有するノズルが、複数配列されて成る複数のノズル列と、
前記基板に形成され、前記ノズル列に沿った方向に延び、複数の前記ノズルの前記発泡室と連通する少なくとも1つの共通液室と、を有し、
各々の前記ノズル列が、互いに隣接する前記共通液室の間の前記基板の領域もしくは前記共通液室と前記基板の端辺との間の前記基板の領域によって規定されるいずれかの単位領域に配置されており、
前記単位領域の熱容量が小さいほど、該単位領域に配置された前記ノズル列の両端部の前記ノズルの前記吐出口の開口面積の、該ノズル列の中央部の前記ノズルの前記吐出口の開口面積に対する比が大きくなっている、記録ヘッド。
【請求項2】
各々の前記ノズル列において、前記ノズル列の中央部の前記ノズルの前記吐出口の開口面積よりも、前記ノズル列の両端部の前記ノズルの前記吐出口の開口面積が大きい、請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】
記録媒体の上を走査しつつ液体を吐出して記録を行う記録ヘッドであって、
基板と、
液体を吐出する吐出口と、前記吐出口に連通する発泡室と、前記発泡室に設けられ前記液体を吐出するための熱を発する電気熱変換素子とを有するノズルが、複数配列されて成る複数のノズル列と、
前記基板に形成され、前記ノズル列に沿った方向に延び、複数の前記ノズルの前記発泡室と連通する少なくとも1つの共通液室と、を有し、
各々の前記ノズル列が、互いに隣接する前記共通液室の間の前記基板の領域もしくは前記共通液室と前記基板の端辺との間の前記基板の領域によって規定されるいずれかの単位領域に配置されており、
各々の前記ノズル列を構成している前記ノズルの前記吐出口の開口面積は一定であり、
前記単位領域の熱容量が小さいほど、該単位領域に配置された前記ノズル列の両端部の前記ノズルの前記電気熱変換素子の発熱面積の、該ノズル列の中央部の前記ノズルの前記電気熱変換素子の発熱面積に対する比が大きくなっている、記録ヘッド。
【請求項4】
各々の前記ノズル列において、前記ノズル列の中央部の前記ノズルの前記電気熱変換素子の発熱面積よりも、前記ノズル列の両端部の前記ノズルの前記電気熱変換素子の発熱面積が大きい、請求項3に記載の記録ヘッド。
【請求項5】
前記電気熱変換素子の発熱面積が大きい前記ノズルほど、前記発泡室の前記電気熱変換素子の位置から前記吐出口までの流抵抗の、前記共通液室から前記発泡室の前記電気熱変換素子の位置までの流抵抗に対する比が大きくなっている、請求項3または4に記載の記録ヘッド。
【請求項6】
記録媒体の上を走査しつつ液体を吐出して記録を行う記録ヘッドであって、
基板と、
液体を吐出する吐出口と、前記吐出口に連通する発泡室と、前記発泡室に設けられ前記液体を吐出するための熱を発する電気熱変換素子とを有するノズルが、複数配列されて成る複数のノズル列と、
前記基板に形成され、前記ノズル列に沿った方向に延び、複数の前記ノズルの前記発泡室と連通する少なくとも1つの共通液室と、を有し、
各々の前記ノズル列が、互いに隣接する前記共通液室の間の前記基板の領域もしくは前記共通液室と前記基板の端辺との間の前記基板の領域によって規定されるいずれかの単位領域に配置されており、
各々の前記ノズル列の両端部近傍に、前記基板の前記単位領域を局所的に加熱する他の電気熱変換素子が設けられており、
各々の前記ノズル列を構成している前記ノズルの前記吐出口の開口面積は一定であり、
前記単位領域の熱容量が小さいほど、該単位領域に配置された前記他の電気熱変換素子の発熱量が大きくなっている、記録ヘッド。
【請求項7】
前記他の電気熱変換素子は各々の前記ノズル列の方向に沿って複数並んでおり、
各々の前記ノズル列において、前記ノズル列の中央部から両端部に向かうにつれて前記他の電気熱変換素子の発熱量が大きくなっている、請求項6に記載の記録ヘッド。
【請求項8】
記録媒体の上を走査しつつ液体を吐出して記録を行う記録ヘッドであって、
基板と、
液体を吐出する吐出口と、前記吐出口に連通する発泡室と、前記発泡室に設けられ前記液体を吐出するための熱を発する電気熱変換素子とを有するノズルが、複数配列されて成る複数のノズル列と、
前記基板に形成され、前記ノズル列に沿った方向に延び、複数の前記ノズルの前記発泡室と連通する少なくとも1つの共通液室と、を有し、
各々の前記ノズル列が、互いに隣接する前記共通液室の間の前記基板の領域もしくは前記共通液室と前記基板の端辺との間の前記基板の領域によって規定されるいずれかの単位領域に配置されており、
各々の前記ノズル列を構成している前記ノズルの前記吐出口の開口面積は一定であり、
前記単位領域の熱容量が小さいほど、該単位領域に配置された前記ノズル列の両端部の前記ノズルの前記電気熱変換素子に印加する駆動電力の、前記ノズル列の中央部の前記ノズルの前記電気熱変換素子に印加する駆動電力に対する比が大きくなっている、記録ヘッド。
【請求項9】
各々の前記ノズル列において、前記ノズル列の中央部の前記ノズルの前記電気熱変換素子に印加する駆動電力よりも、前記ノズル列の端部の前記ノズルの前記電気熱変換素子に印加する駆動電力が大きい、請求項8に記載の記録ヘッド。
【請求項10】
記録媒体の上を走査しつつ液体を吐出して記録を行う記録ヘッドであって、
基板と、
液体を吐出する吐出口と、前記吐出口に連通する発泡室と、前記発泡室に設けられ前記液体を吐出するための熱を発する電気熱変換素子とを有するノズルが、複数配列されて成る複数のノズル列と、
前記基板に形成され、前記ノズル列に沿った方向に延び、複数の前記ノズルの前記発泡室と連通する少なくとも1つの共通液室と、を有し、
各々の前記ノズル列が、互いに隣接する前記共通液室の間の前記基板の領域もしくは前記共通液室と前記基板の端辺との間の前記基板の領域によって規定されるいずれかの単位領域に配置されており、
各々の前記ノズル列を構成している前記ノズルの前記吐出口の開口面積は一定であり、
前記単位領域の熱容量が小さいほど、該単位領域に配置された前記ノズル列の両端部の前記ノズルの打ち込みドット数の、該ノズル列の中央部の前記ノズルの打ち込みドット数に対する比が大きくなっている、記録ヘッド。
【請求項11】
各々の前記ノズル列において、前記ノズル列の中央部の前記ノズルの打ち込みドット数よりも、前記ノズル列の両端部の前記ノズルの打ち込みドット数が大きい、請求項10に記載の記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−22783(P2013−22783A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157745(P2011−157745)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】